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ハイドロビュー邃「 眼内レンズにおける混濁形態とカルシウム沈着の組織学的検討

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page1(117)???0910-181008\100頁JCLS《第47回日本白内障学会原著》あたらしい眼科25(4):539~544,2008?はじめにハイドロビューTM眼内レンズ(ボシュロム・ジャパン,以下ハイドロビューレンズ)は小切開対応のフォールダブル眼内レンズであるが,1999年より挿入後数カ月から数年後で眼内レンズ表面に細かい顆粒状の混濁がみられるという報告が散見されるようになった1,2).わが国でも2003年よりハイドロビューレンズの混濁例が報告されている3~5).1992年11月から2001年10月までの間に出荷された旧シリコーン製ガスケット容器入り製品のうち,全世界では2007年3月末日までに5,136眼のカルシウム沈着の報告があり,うち4,291眼で摘出または摘出手術予定となっている.わが国でも2007年6月末日までに1,508眼のカルシウム沈着の報告〔別刷請求先〕石川明邦:〒790-8524松山市文京町1松山赤十字病院眼科Reprintrequests:????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????-?????????????????????????-???????????ハイドロビューTM眼内レンズにおける混濁形態とカルシウム沈着の組織学的検討石川明邦*1児玉俊夫*1首藤政親*2*1松山赤十字病院眼科*2愛媛大学総合科学研究支援センター重信ステーションHistologicalStudiesofOpaci?cationandCalci?edDepositiononHydroviewTMIntraocularLensesHarukuniIshikawa1),ToshioKodama1)andMasachikaShudo2)?)????????????????????????????????????????????????????????????)???????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????目的:混濁や偏位のために摘出したハイドロビューTM眼内レンズの混濁の形態を比較,検討する.対象および方法:挿入後55カ月から71カ月で摘出した混濁あるいは透明なハイドロビューTM眼内レンズに対して走査型および透過型電子顕微鏡による混濁部の観察とカルシウム染色による構成成分の同定を行った.結果:走査型電子顕微鏡で透明レンズ表面は平滑であったが,混濁レンズでは顆粒状の隆起が多数認められた.透過型電子顕微鏡では混濁レンズの表層は四酸化オスミウムに親和性があり脂質の沈着が示唆され,それに一致して針状の結晶が多数認められたが,透明レンズでも微細な顆粒がみられた.眼内レンズの混濁は脂肪酸カルシウムを含んだカルシウム塩の沈着と考えられた.結論:ハイドロビューTM眼内レンズの表層は脂質の沈着があり,カルシウム沈着による混濁形成に関与している可能性がある.WereportonhistochemicalandultrastructuralanalysesofHydroviewTMintraocularlensesexplantedfrompatientswhohadvisualdisturbancedueeithertopostoperativeopaci?cationorlensopticdislocation.Opaqueandclearlensesat55~71monthspost-surgerywereexaminedusingscanningandtransmissionelectronmicroscopy(SEMandTEM);calciumdepositionwasdemonstratedhistochemically.SEManalysisrevealedthatopaquelenseshadirregulargranularsurfaces,whilethesurfaceoftheclearlenswassmooth.InTEM,thesuper?cialpartofopaquelenshadana?nityforosmiumtetrahydroxide,suggestinglipiddeposition.Electron-densedeposits,includ-ingneedle-shapedcrystals,werefoundinthesuper?cialpartsofcloudylenses,andnumerousgranuleswereseenbeneaththesurfaceintheclearlens.Histochemicalstudiesdisclosedmultiplegranulesthatstainedpositivelyforcalciumsaltoffattyacids.Wespeculatethatthedistributionoflipidsinthesuper?cialpartoflensopticmaycon-tributethecrystallinedepositionofcalciumontheHydroviewTMintraocularlens.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(4):539~544,2008〕Keywords:ハイドロビューTM眼内レンズ,カルシウム沈着,脂質沈着,電子顕微鏡,組織化学.HydroviewTMin-traocularlens,calci?cationlipiddeposition,electronmicroscopy,histochemistry.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(118)病および高脂血症などの全身合併症は認めていない.〔症例2〕75歳,男性.現病歴:2001年11月20日,当科にて左眼の黄斑円孔に対して硝子体茎顕微鏡下離断術とハイドロビューレンズの挿入術を含んだ白内障手術が施行された.2005年5月頃より左眼霧視を自覚したために当科を受診した.初診時所見として左眼矯正視力は0.5で,ハイドロビューレンズの混濁のため眼底は透見できなかった.2006年10月12日にハイドロビューレンズを摘出した(図2a).1995年胃癌の手術が行われた以外,糖尿病や高脂血症などの全身合併症は認めていない.〔症例3〕77歳,男性.現病歴:2000年8月31日当科にて,左眼網膜?離術後の無水晶体眼に対してハイドロビューレンズの縫着手術が施行された.術後からハイドロビューレンズの下方偏位を認めていたが,次第に増強してきたために2006年7月13日肉眼で透明なハイドロビューレンズを摘出した(図2b).術前の矯正視力は0.6で眼底は透見良好であった.2006年から尿管結石で通院しているほかには糖尿病や高脂血症などの全身合併症は認めていない.摘出したハイドロビューレンズの微細構造は,以下の操作を行って電子顕微鏡で観察した.ハイドロビューレンズの表面構造はそれぞれ分割したものを3%グルタールアルデヒド/リン酸緩衝液で固定後,臨界点乾燥と白金蒸着を行って走査型電子顕微鏡で観察した.ハイドロビューレンズの内部構造は同様に3%グルタールアルデヒド固定後,2%四酸化オスミウム後固定,エポン包埋を行って60nmの超薄切切片を作製し,透過型電子顕微鏡で観察した.さらに組織化学的検討では,レンズの分割したものをホルマリン固定した後,リン酸緩衝液に置換して乾燥後,ブロックの上に接着剤で固があり,うち1,367眼で摘出または摘出術予定となっている(ボシュロム・ジャパンホームページ:旧包装ハイドロヴューIOLにおけるカルシウム沈着).眼内レンズの混濁の原因であるが,透過型電子顕微鏡では眼内レンズの表面直下に針状結晶を伴った塊状物質がみられ,元素分析によりこの物質はカルシウムとリンを主成分としたハイドロキシアパタイトと同定されている1,2,5).しかし,カルシウム結晶の詳細な生成のメカニズムはいまだ明らかではないが,ハイドロビューレンズの容器の保存液に漏出した低分子シリコーンがレンズの光学部表面に付着し,さらに前房水中の遊離脂肪酸が結合した結果,リン酸カルシウムを凝集して混濁を形成するという仮説が報告されている6,7).しかし,眼内レンズの表層に脂質の沈着を証明できた報告は現在のところ知られていない.今回,松山赤十字病院眼科(以下,当科)にて挿入したハイドロビューレンズが混濁あるいは透明ではあったが偏位を生じて視力低下をきたしたために摘出し,混濁レンズと透明レンズで混濁形態を電子顕微鏡で,脂質の局在は組織化学的に比較,検討したので報告する.I対象および方法〔症例1〕77歳,男性.現病歴:2001年11月8日,当科にて右眼の黄斑上膜に対して硝子体茎顕微鏡下離断術とハイドロビューレンズの挿入術を含んだ白内障手術が施行された.次第に視力が低下してきたため,他院を受診したところハイドロビューレンズが混濁していたために当科を紹介された.初診時に右眼矯正視力は0.6で,ハイドロビューレンズはびまん性に混濁していたため眼底は不明瞭にしか透見できなかった(図1).2006年6月29日にハイドロビューレンズの摘出術を行った.糖尿図1症例1の術前の細隙灯顕微鏡写真眼内レンズ表面が白く混濁している.図2症例2(a)および症例3(b)の摘出眼内レンズ症例2では光学部がびまん性に混濁しているが,症例3では肉眼的に透明である.———————————————————————-Page3———————————————————————-Page4———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(121)走査型電子顕微鏡の結果として混濁レンズの表層にはいずれも1~5?mの顆粒を認めたが,透明なレンズでも平滑な表層にわずかに顆粒形成がみられた.さらに透過型電子顕微鏡による観察では,肉眼的に透明なレンズであっても表面直下に微細な点状の沈着物を認めており,混濁として識別できないもののカルシウム結晶は生成されることが明らかとなった.このことより旧ガスケットで保存されたハイドロビューレンズでは,眼内に挿入して数年が経過するとカルシウム結晶が形成されることを意味する.ただし,症例1ではレンズ表面は顆粒も含め平滑であるのに対して,症例2ではレンズ表面全体が粗雑で微小な顆粒が無数に分布していた.レンズ表層の顆粒形成の程度により肉眼的所見であるYuらの混濁の程度分類9)が異なってくると考えられる.なお,本報告では3症例とも糖尿病あるいは高脂血症などの全身合併症はなく,なぜ混濁を生じた症例と透明であった症例が存在するのか,その原因は不明である.ただし,網膜?離手術の際に水晶体?も摘出した症例3ではレンズの混濁が生じなかったことより,カルシウム沈着には脂肪酸の前房水濃度が一定に保たれることが必要かもしれない.今回筆者らは混濁あるいは,透明ではあったが偏位のために視力低下をきたした症例よりハイドロビューレンズを摘出し,混濁レンズと透明レンズで混濁形態と脂質の局在について比較,検討した.混濁の原因は脂肪酸カルシウムを含めたカルシウム塩の沈着と考えられたが,透明レンズでも電子顕微鏡レベルで表面に微細な結晶を認めたことは,旧ガスケットに保存されていたハイドロビューレンズを眼内に挿入すると,程度の差はあるもののレンズ表面にカルシウムの結晶を生成しうる可能性が考えられた.文献1)FernandoGT,CrayfordBB:Visuallysigni?cantcalci?-cationofhydrogelintraocularlensesnecessitatingexplan-tation.???????????????????28:280-286,20002)YuAKF,ShekTWH:Hydroxyapatiteformationonimplantedhydrogelintraocularlenses.???????????????119:611-614,20013)小早川信一郎,大井真愛,丸山貴大ほか:白色混濁を呈したハイドロジェル眼内レンズ.眼科手術16:419-426,20034)永本敏之,川真田悦子:摘出交換を要したハイドロビューTM眼内レンズ混濁.日眼会誌109:126-133,20055)荻野哲男,竹田宗泰,宮野良子ほか:ハイドロビュー眼内レンズ混濁の発生機序の検討.あたらしい眼科23:405-410,20066)DoreyMW,BrownsteinS,HillVEetal:Proposedpatho-genesisforthedelayedpostoperativeopaci?cationoftheHydroviewhydrogelintraocularlens.????????????????135:591-598,20037)WernerL,HunterB,StevensSetal:Roleofsiliconeールを通すと試料中の脂質が溶出するために未固定で凍結切片を作製する必要がある.筆者らはハイドロビューレンズを凍結させて切片作製を試みたが,合成樹脂が硬化したためクライオトームを用いて切片を作製することはできなかった.本報告では摘出した眼内レンズをホルマリン固定後,その細片をそのままブロックの上に接着剤で固定して電子顕微鏡用ガラスナイフで薄切切片を作製し,カルシウム染色法であるvonKossa染色とFischler染色を行った.Fischler法とは脂肪酸カルシウムの染色法であるが,その原理は脂肪酸が飽和酢酸銅と反応し,カルシウムと銅が置換して不溶性の脂肪酸銅を沈着させ,さらにヘマトキシリン染色を用いて銅キレートを形成することによりいっそう発色を明瞭にしたものである8,11).vonKossa染色では混濁したレンズの表層に黒褐色の顆粒が多数みられ,Fischler法でも同様にレンズ表層に暗紫色に染まった顆粒がみられた.以上より沈着物の構成成分として脂肪酸カルシウムの沈着が考えられた.透過型電子顕微鏡において超薄切切片の作製時にコントラストを増強させるために四酸化オスミウム処理を行ったが,表層から1.2?mの深さまで四酸化オスミウムに親和性をもつ層が認められ,この層に一致して針状の結晶が多数存在していた.四酸化オスミウムは組織に対して電子染色剤として作用するが,リン酸脂質をはじめ脂質と反応すると黒色の反応物を生成する12).このことより透過型電子顕微鏡でレンズの表層に脂質の存在が示唆された.なお,電子顕微鏡レベルで脂質沈着が最表層で認められても,光学顕微鏡レベルでは脂肪染色で生成される反応産物の有無の判定は困難と思われる.以上の結果は混濁の成因についての仮説,すなわち低分子シリコーンの介在により眼内レンズ表面にリン酸カルシウムを凝集させるには脂質が必要という機序を証明しうると考える.つぎに,ハイドロビューレンズにおけるリン酸カルシウムの沈着部位について考察する.走査型電子顕微鏡による検討ではレンズの表面上に結晶構造がみられるという報告1~5,10)が多いが,カルシウム染色を用いた光学顕微鏡レベルの観察5,6,10)や透過型電子顕微鏡による報告2,6)———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(122)tiveopaci?cationofahydrophilicacrylic(Hydrogel)intraocularlens.Aclinicopathologicalanalysisof106explants.?????????????111:2094-2101,200411)佐野豊:脂肪の特殊染色.組織学研究法理論と術式,p490-504,南山堂,197912)堀田康明:透過型電子顕微鏡の試料作成法.よくわかる電子顕微鏡技術(医学・生物学電子顕微鏡技術研究会編),p1-19,朝倉書店,1992contaminationoncalci?caionofhydrophilicacrylicintraocularlenses.???????????????141:35-43,20068)慶応義塾大学医学部病理学教室:カルシウム(石灰)の染色.病理組織標本の作り方(松山春郎,坂口弘,清水興一ほか編),p235-240,医学書院,19849)YuAKF,KwanKYW,ChanDHYetal:Clinicalfeaturesof46eyeswithcalci?edhydrogelintraocularlenses.???????????????????????27:1596-1606,200110)NeuhannIM,WernerL,IzakAMet