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Amsler チャートによる緑内障性傍中心視野障害検出の検討

2023年1月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科40(1):118.121,2023cAmslerチャートによる緑内障性傍中心視野障害検出の検討松岡孝典佐藤大樹西垣誠士部坂優子雲井美帆辻野知栄子松田理大鳥安正独立行政法人国立病院機構大阪医療センター眼科CExaminationofParacentralVisualFieldDefectsinGlaucomabyAmslerChartTakanoriMatsuoka,HirokiSatou,SeijiNishigaki,YukoHesaka,MihoKumoi,ChiekoTsujino,SatoshiMatsudaandYasumasaOtoriCDepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationOsakaNationalHospitalC目的:緑内障の傍中心視野障害検出に対するCAmslerチャートの有用性を検討すること.対象および方法:大阪医療センター眼科を受診し,HumphreyCFieldCAnalyzerCSITA-FAST10-2(以下,HFA10-2)とCAmslerチャート(Whiteonblack)を施行したC22例C22眼を対象とした.Amslerチャートによる傍中心視野障害の検出率をCHFA10-2と比較し,感度・特異度・陽性的中率・陰性的中率を検討した.両眼とも緑内障の場合は,MD値が低値である眼を選択した.患者背景は,平均年齢C61.1±12.3歳,平均CMD値(HFA10-2).13.5±7.4CdB,中心窩閾値C31.3±8.1CdB.それぞれの検査における異常ありの定義は,Amslerチャート:暗点あり,HFA10-2:パターン偏差で連続するC3点に危険率C5%以下の感度低下があり,そのうちのC1点が危険率C1%以下であるものとした.結果:Amslerチャートの傍中心視野障害の検出率は,感度C85%(17/20),特異度C100%(2/2),陽性的中率C100%(17/17),陰性的中率C40%(2/5)であった.Amslerチャートで認めた暗点は,すべてCHFA10-2の視野障害の部位と一致した.結論:Amslerチャートは,緑内障における傍中心視野障害のスクリーニング方法として用いることが可能である.CPurpose:ToexaminetheusefulnessoftheAmslerchartfordetectingparacentralvisual.elddefectsinglau-coma.CMethods:ThisCstudyCinvolvedC22CeyesCofC22CpatientsCwhoCunderwentCHumphreyCFieldCAnalyzerCSITA-FAST10-2(HFA10-2)andAmslerchart(whiteonblack)visual.eldtests.Ifbotheyeshadglaucoma,theeyewiththelowermeandeviation(MD)valuewasincluded.Patientbackgroundwasasfollows:ameanageof61.1C±12.3years,andameanMDof.13.5±7.4CdB.Thede.nitionofabnormalineachexaminationwasasfollows:CAmslerchart:darkspotspresent,andHFA10-2:threeconsecutivepoints(asensitivityreductionof5%orless),withoneofwhichhavingariskof1%orlessinpatterndeviation.Results:TheAmslercharthadasensitivityof85%,speci.cityof100%,positivepredictivevalueof100%,andnegativepredictivevalueof40%.Conclusions:CTheAmslerchartcanbeusedasascreeningtoolforparacentralvisual.elddefectsinglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(1):118.121,C2023〕Keywords:Amslerチャート,ハンフリー視野検査,緑内障,傍中心視野障害,スクリーニング.AmslerCchart,CHumphreyvisual.eldtest,glaucoma,paracentralvisual.elddefects,screening.Cはじめに緑内障における傍中心視野障害は,患者のCqualityCofClifeの低下をきたすため1),緑内障の重症度分類であるCAnder-son分類でも重視されており2),出現時は治療強化のタイミングとなる.しかし,緑内障の静的視野検査として多く用いられているCHumphreyCFieldCAnalyzerCSwedishCinteractiveCthresholdalgorithm(以下,HFASITA)30-2あるいは24-2プログラムは,HFASITA10-2プログラムと比較すると,傍中心視野障害検出は劣ると報告されている3).また,傍中心視野障害のある患者では,HFASITA24-2よりもCHFASITA10-2のほうが視野障害の進行をより鋭敏に捉えることができるとの報告もある4).このように重症度および進行速度の把握に重要となる傍中心視野障害の早期発見のためには,HFACSITA-Faster24-2Cといった新たなプログ〔別刷請求先〕松岡孝典:〒540-0006大阪府大阪市中央区法円坂C2-1-14独立行政法人国立病院機構大阪医療センター眼科Reprintrequests:TakanoriMatsuoka,DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationOsakaNationalHospital,2-1-14Hoenzaka,Chuoku,Osakashi,Osaka540-0006,JAPANC118(118)ラムの導入や,HFASITA10-2を追加で行うことなどが必要である.しかし,緑内障と診断されたすべての患者にCHFASITA10-2を行うことは現実的ではなく,傍中心暗点検出のために簡便で短時間に行うことのできるスクリーニング検査が求められる.AmslerチャートはCMarkAmslerによって考案され,十分近方矯正したうえで眼前C30Ccmにかざすと,固視点から10°の視野が検査可能となる.白地に黒線のCblackonwhite(以下,BOW)のものと,黒字に白線のCwhiteonblack(以下,WOB)がある5).Amslerチャートは,網膜前膜や中心性漿液性脈絡網膜症といった網膜疾患のスクリーニングとして用いられることが多い6).緑内障に対してのCAmslerチャートの有用性の検討としては,Suらの報告がある7)が,わが国からの報告はない.そこで筆者らは日本人における緑内障性傍中心視野障害検出に対してのCAmslerチャートの有用性を検討した.CI対象および方法大阪医療センター緑内障外来を受診し,HFASITA-Fast10-2(CarlZeiss以下,HFA10-2)とCAmslerチャート(半田屋商店)を施行したC22例C22眼(男性C13例C13眼,女性C9例C9眼)を対象とした.両眼とも緑内障である場合は,検査眼はCHFA10-2のCmeandeviation(以下,MD)値がより低値であるものを選択した.対象の平均年齢は,61.1±12.3(31.77)(平均値±標準偏差(範囲)歳であった.病型は,原発開放隅角緑内障(狭義)14例,正常眼圧緑内障C6例,続発緑内障C1例,落屑緑内障C1例であった.平均矯正視力は0.8(0.2-1.5),HFA10-2での平均CMD値は.13.5±7.4(.28.27.0.34)dB,中心窩閾値C31.3±8.1(o..39)dBであった.AmslerチャートはCWOB(図1)のものを使用し,視能訓練士が眼前C30Ccmにかざし,明室で暗点の部位を問診し,暗点の自覚部位を記載した.その後にCHFA10-2を行い,検査結果を比較した.異常ありの定義として,Amslerチャート:暗点あり,HFA10-2:パターン偏差で連続するC3点が危険率C5%以下であり,そのうち一点が危険率C1%以下のものとした.Amslerチャートにおける中心視野障害の検出率をCHFA10-2と比較して感度・特異度・陽性的中率・陰性的中率を比較検討した.また,EZRを用いて,l係数算出およびCMann-WhitneyUtestでの有意差検定を行った8).本研究は後ろ向き研究であり,診療録から年齢,性別,病型,HFA10-2,Amslerチャートを抽出した.また,ヘルシンキ宣言に準じており,当院の臨床研究審査委員会の承認のもとで行った(承認番号C20083).図1本研究で使用したAmslerチャート第C1表whiteonblackを用いた.II結果HFA10-2では,異常ありC20眼,異常なしC2眼であった.Amslerチャートの検査では,異常ありC17眼,異常なしC5眼であった.両検査とも異常ありはC17眼.HFA10-2異常ありだが,Amslerチャートで異常なしと判断されたものはC3眼あった.HFA10-2で異常なしの症例では,全例CAmslerチャートでは異常なしであった.Amslerチャートでの中心視野障害の検出は,感度C85%(17/20),特異度C100%(2/2),陽性的中率C100%(17/17),陰性的中率C40%(2/5)であった.l係数はC0.51であった.HFA10-2で異常ありだが,Amslerチャートで異常なしであったC3例は,全員男性で,矯正視力は,(0.5),(1.5),(1.5)であり,平均CMD値は.9.8±1.4CdB,平均中心窩閾値はC31.7±2.2CdBであった.両検査で異常ありの症例群の平均MD値.15.7±6.6CdB,中心窩閾値C32.7±4.7CdBと比較して有意差はなかった.(p=0.146,p=0.669)図2にCHFA10-2とCAmslerチャートの視野障害の比較を示す.症例C1は,75歳の正常眼圧緑内障の女性.矯正視力は(0.9),MD値は.17.23CdB,中心窩閾値はC33CdB.HFA10-2で上および下鼻側に視野障害があり,Amslerチャートでも同様の位置に視野異常を認めた.症例C2は,40歳の原発開放隅角緑内障の男性.矯正視力は(1.5),MD値は.6.14dB,中心窩閾値はC34CdB.HFA10-2で上鼻側に視野障害があり,Amslerチャートで同様の部位に視野異常があった.症例C3はC64歳の原発開放隅角緑内障の男性.矯正視力は(0.5),MD値は.9.62CdB,中心窩閾値はC33CdB.HFA10-2では上鼻側に視野障害があったが,Amslerチャートでは視野異常を自覚しなかった.症例C1と症例C2のようにCAmslerチャートで検出される暗点は,HFA10-2のパターン偏差と比べて視野障害の位置は一致するが,面積は小さい傾向にあった.図2HumphreyFieldAnalyzer10-2(HFA10-2)とAmslerチャートの視野障害の比較症例1:75歳,女性.正常眼圧緑内障.矯正視力(0.9),MD値.17.23CdB,中心窩閾値C33CdB.HFA10-2のパターン偏差とCAmslerチャートの視野異常が一致している.症例2:40歳,男性.原発開放隅角緑内障.矯正視力(1.5)MD値C.6.14CdB,中心窩閾値C34CdB.HFA10-2のパターン偏,差とCAmslerチャートの視野異常の部位は一致しているが,Amslerチャートの視野異常の面積が小さい.症例3:64歳,男性.原発開放隅角緑内障.矯正視力(0.5)MD値C.9.62CdB,中心窩閾値C33CdB.HFA10-2のパターン偏,差では上鼻側に感度低下があるが,Amslerチャートでは視野異常が検出できなかった.MD:meandeviation.III考按Amslerチャートによる緑内障性傍中心視野障害の検出を検討したところ,感度は低いが特異度が高い結果となった.また,Cl係数はC0.51であり,AmslerチャートとCHFA10-2の検査結果は一致していた.緑内障性傍中心視野障害に対してのCAmslerチャートの感度・特異度の既報としては,Suらは感度C68%,特異度C92%(WOB,平均年齢C60.9歳,平均CMD値C.8.21CdB)7),Gesse-sseらは感度C71.7%,特異度C95.4%(WOB,平均年齢C59.8歳,平均CMD値C.19.94dB),感度C80.4%,特異度C95.4%(BOW,同一症例)9)と報告している.今回の報告は,既報と同様に特異度が高く感度が低い結果であった.SuらはMD値によるCAmslerチャートの感度比較を行っており,MD値が低値であるほど,感度が高くなると報告している7).今回の検討では既報より感度・特異度ともに高値であるが,MD値がC.12CdB以下がC12例と中期以降の症例が多かったため,既報よりも感度が高い結果となった.Amslerチャートは,網膜疾患のスクリーニングで用いられることが多いが,感度は高くなく,感度C20.60%,特異度C88.95%と報告されている10).網膜疾患での検討では,病変の大きさにより感度は変化するとされ,直径C6°以内の暗点は約C80%判別できないと報告されている6).緑内障性視野障害の検出も暗点の面積によって異なると考えられるが,網膜疾患と異なり,中心視野の異常でないため,さらに大きな暗点でなければ検出できない可能性がある.今回の研究では,Amslerチャートの記載を視能訓練士が行った.患者ごとに異なる視能訓練士が検査および記載を行ったため,Amslerチャートの暗点の面積と視野障害の検出率を比較することができていない.暗点の面積とスクリーニングの有用性については,今後の検討課題としたい.今回の検討では,HFA10-2で異常ありだが,Amslerチャートで異常なしとなった偽陰性の症例はC3例あった.3症例とも男性であったが,平均CMD値や平均中心窩閾値は両検査で異常ありの症例と有意差はなかった.矯正視力は(1.5)と良好な症例もあったが,症例C3で示したような不良例もあった.症例C3は唯一眼であり,矯正視力も不良でありながら,自覚症状がないため,緑内障の治療強化に消極的であった症例である.偽陰性となる症例の特徴の検討は既報でもなされておらず7,9),病気への向き合い方や性格もCAmslerチャートにおける暗点の検出率に関与しており,HFA10-2の測定値のみでは推測できない可能性がある.網膜前膜と緑内障が合併している眼は,網膜前膜を合併していないもう片眼と比べて視野障害が進行しているという報告もある10).Amslerチャートを用いて傍中心暗点とともに歪視の有無をみることで黄斑部疾患の有無も同時にスクリーニングできることは意義深い.緑内障のスクリーニングとしては,従来クロックチャートが用いられ,早期緑内障の検出として有用であると報告されている11).しかし,クロックチャートは,中心視野障害検出はやや乏しいことと,大きさが新聞と同じであるためスマートホンを用いたスクリーニングとしては使用できないことが問題点である.近年はスマートホンが普及しており,今回の検討からもスマートホンでCAmslerチャートを表示してのセルフチェックは有用である可能性がある.今回の検討では,視能訓練士によってCAmslerチャート検査が行われたが,当院の実際の日常診療では医師自身が行っている.Amslerチャートを患者に片眼ごとに提示して格子の見え方の異常の有無を問い,異常があるようなら,HFA10-2などの精査を行う.OCTでの神経線維層欠損の位置から中心視野障害の位置を予想し,再度問診すると,視野障害の部位の格子の見え方に異常を自覚することが多い.Crabbらは,緑内障性視野障害の部位の見え方を検討しており,blurredpartsやCmissingpartsの見え方が多いと報告している12).Fujitaniらは,Amslerチャートでの緑内障性視野障害の部位の見え方の検討で,missing/white31%,Cblurry/gray24%,black21%と報告している13).今回の研究では,見え方の検討は行っていないが,日常診療の印象としては,やはりCmissing/whiteかCblurry/grayのように見えているようである.また,同論文では,Amslerチャートを行うことで,緑内障性視野障害を自覚し,点眼アドヒアランスの向上が期待できるとも報告している14).当院でもAmslerチャートで視野障害を自覚した症例のなかには,緑内障手術を含めた治療強化に積極的になる者もあった.本研究の限界として,対象症例が少ないこと,緑内障の病期が進行した例が多いこと,患者自身が大病院に紹介となった時点で通常より検査に積極的になった可能性があることがあげられる.自覚を問う検査であり,検査を行う環境や患者自身の心理面も重要であるため,通常よりも感度,特異度が高く出ている可能性がある.軽症例やクリニックでの感度,特異度も検討することが今後の課題である.また,今回の検討ではCWOBのCAmslerチャートのみを使用して検討したが,視野異常の検出感度はCBOWを用いたほうが高いとの報告もある9)ことから,BOWを用いての検査も今後の検討としたい.以上,Amslerチャートは緑内障による傍中心視野障害のスクリーニングとして有用であることが明らかになった.本研究の内容の一部は第C32回日本緑内障学会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SumiCI,CShiratoCS,CMatsumotoCSCetal:TheCrelationshipCbetweenCvisualCdisabilityCandCvisualC.eldCinCpatientsCwithCglaucoma.OphthalmologyC110:332-339,C20032)AndersonCDR,CPatellaVM:AutomatedCstaticCperimetry,CCVMosby,St.Louis,19993)Sullivan-MeeCM,CKarinCTranCMT,CPensylCDCetal:Preva-lence,Cfeatures,CandCseverityCofCglaucomatousCvisualC.eldClossCmeasuredCwithCtheC10-2CachromaticCthresholdCvisualC.eldTest.AmJOphthalmolC168:40-51,C20164)KungY,SuD,SimonsonJLetal:ParafovealscotomainprogressioninglaucomaHumprey10-2versus24-2visu-al.eldanalysis.OphthalmologyC120:1546-1550,C20135)AmslerM:Methodofusingthetestchartofquantitativevision.アムスラーチャート付属説明書6)SchuchardRA:ValidityCandCinterpretationCofCAmslerCgridreports.ArchOphthalmolC111:776-780,C19937)SuCD,CGreenbergCA,CSimonsonCJLCetal:E.cacyCofCtheCAmslergridtestinevaluatingglaucomatouscentralvisualC.elddefects.OphthalmologyC123:737-743,C20168)KandaY:InvestigationCofCtheCfreelyCavailableCeasy-to-useCsoftware“EZR”(EasyR)forCmedicalCstatistics.CBoneCMarrowTransplantC48:452-458,C20139)GessesseGW,TamratL,DamjiKF:AmslergridtestfordetectionCofCadvancedCglaucomaCinCEthiopia.CPLoSCOneC15:e0230017,C202010)SakimotoCS,COkazakiCT,CUsuiCSCetal:Cross-sectionalCimagingCanalysisCofCepiretinalCmembraneCinvolvementCinCunilateralCopen-angleCglaucomaCseverity.CInvestCOphthal-molVisSciC59:5745-5751,C201811)MatsumotoCC,CEuraCM,COkuyamaCSCetal:CLOCKCHART(CR):aCnovelCmulti-stimulusCself-checkCvisualC.eldscreener.JpnJOphthalmolC59:187-193,C201512)CrabbDP,SmithND,GlenFCetal:Howdoesglaucomalook?patientperceptionofvisual.eldloss.Ophthalmolo-gyC120:1120-1126,C201313)FujitaniCK,CSuCD,CGhassibiCMPCetal:AssessmentCofCpatientperceptionofglaucomatousvisual.eldlossanditsassociationwithdiseaseseverityusingAmslergrid.PLoSOneC12:e0184230,C2017***