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酸化ストレスによる角膜上皮バリアの障害に対するレバミピドの効果

2012年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科29(9):1265.1269,2012c酸化ストレスによる角膜上皮バリアの障害に対するレバミピドの効果竹治康広田中直美篠原久司大塚製薬株式会社赤穂研究所ProtectiveEffectofRebamipideonOxidativeStress-inducedDisruptionofBarrierFunctioninHumanCornealEpithelialCellsYasuhiroTakeji,NaomiTanakaandHisashiShinoharaAkoResearchInstitute,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.酸化ストレスは,さまざまな前眼部疾患の発症・増悪に関与しており,ドライアイもその一つであると考えられている.レバミピドは,角膜および結膜においてムチン産生促進作用を有するドライアイに対する治療薬であり,またフリーラジカル消去作用をもつことが報告されている.今回,酸化ストレスによる角膜バリアの障害に対するレバミピドの効果について,培養ヒト角膜上皮細胞を用いて検討した.バリアの機能について経上皮電気抵抗(TER)を,バリアの構造についてタイトジャンクションの構成蛋白を指標とし,酸化ストレスの負荷方法として過酸化水素を用いた.その結果,過酸化水素を角膜上皮細胞に処理すると,TERは用量依存的に低下するが,そのTERの低下はレバミピドの前処置により抑制された.さらに,レバミピドは過酸化水素によるタイトジャンクションの構成蛋白であるZonulaoccludens-1の障害に対して保護作用を示した.以上より,レバミピドは,培養角膜上皮細胞において,酸化ストレスによるバリア機能およびタイトジャンクションの障害に対して保護作用を示すことが明らかになった.Oxidativestressisthoughttobeinvolvedintheonsetandexacerbationofvariousanterioreyediseases,suchasdryeye.Rebamipide,atherapeuticagentfordryeyethatpromotestheproductionofmucinincorneaandconjunctiva,reportedlyhasafreeradicalscavengingaction.Inthepresentstudy,weinvestigatedtheeffectivenessofrebamipideagainstcornealbarrierdisruptioncausedbyoxidativestress,usingculturedhumancornealepithelialcells.Transepithelialelectricalresistance(TER)wasevaluatedasanindicatorofbarrierfunction,andtightjunctionproteinsasanindicatorofbarrierstructure.Hydrogenperoxidewasusedforoxidativestresschallenge.TreatmentwithhydrogenperoxideinducedTERdecreaseinadose-dependentmanner,butthedecreasewassuppressedbypretreatmentwithrebamipide.Inaddition,rebamipideexhibitedaprotectiveactionagainsthydrogenperoxideimpairmentofZonulaoccludens-1,atightjunctionprotein.Rebamipidewasthusshowntohaveaprotectiveactionagainstoxidativestress-inducedbarrierfunctionandtightjunctionimpairmentinthecornealepithelialcell.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(9):1265.1269,2012〕Keywords:レバミピド,ヒト角膜上皮細胞,酸化ストレス,バリア機能,タイトジャンクション.rebamipide,humancornealepithelialcell,oxidativestress,barrierfunction,tightjunction.はじめに眼領域において,ドライアイ,白内障,ぶどう膜炎など多くの疾患の発症・増悪に酸化ストレスは関与している.酸化ストレスは,眼表面における活性酸素の産生亢進と,生体内の活性酸素に対する防御機構とのバランスにより調節されている1).涙液中にはスーパーオキシドジスムターゼやラクトフェリンなどの抗酸化作用を含む物質が含まれており,防御機構の役割を果たしている.正常な状態であれば紫外線などさまざまな要因により発生した活性酸素は速やかに消去されるが,〔別刷請求先〕竹治康広:〒678-0207兵庫県赤穂市西浜北町1122-73大塚製薬株式会社赤穂研究所Reprintrequests:YasuhiroTakeji,AkoResearchInstitute,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,1122-73Nishihamakita-cho,Ako-shi,Hyogo678-0207,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(89)1265 涙液量が低下しているドライアイでは,発生した活性酸素を十分に消去できなくなる.増加した活性酸素は,角膜に障害を与えドライアイの増悪の原因の一つになっているのではないかと考えられている2).角膜上皮は,病原微生物の感染,粉塵,外傷など外界からの直接的な侵襲から角膜を保護しており,隣接する角膜上皮細胞間に存在する接着構造がバリアとして重要な働きを担っている.数種の接着構造が角膜上皮には存在し,そのなかでも最も表層に存在するタイトジャンクションが外界からの刺激を受けやすい.培養角膜上皮細胞に炎症性サイトカインや低酸素などの刺激を与えると,タイトジャンクションが障害を受ける3).さらに,タイトジャンクションは,活性酸素による酸化ストレスによっても障害を受けることが報告されている4).レバミピドは,角膜および結膜においてムチン産生促進作用を有するドライアイに対する治療薬である一方,ヒドロキシラジカル消去作用を有する抗酸化物質の一面をもつことが報告されている5).今回,培養角膜上皮細胞における酸化ストレスによるバリア障害に対するレバミピドの作用を,バリア機能および,タイトジャンクション蛋白の両面から検討した.I実験方法1.細胞培養ヒト角膜上皮細胞(SV40不死化ヒト角膜上皮細胞,RCBNo.2280:理化学研究所)を10%FBS(fetalbovineserum)(ATCC:AmericanTypeCultureCollection)を含むDulbecco’sModifiedEagleMedium/F-12(DMEM/F-12)(Invitrogen)を用いて37℃,5%CO2インキュベーター内で培養し継代維持した.経上皮電気抵抗(transepithelialelectricresistance:TER)測定の試験において,細胞懸濁液を24穴のトランスウェルプレート(ミリポア)に5×104cells/wellで添加し,blankwellには細胞を含まない培地を添加した.細胞播種4日後,FBSを含まないDMEM/F-12に交換した.免疫染色およびWesternblottingの試験において,細胞懸濁液を24ウェルプレートに5×104cells/wellで播種した.細胞がコンフレントになった後,10%FBSを含まないDMEM/F-12に交換した.2.薬物の投与レバミピド(大塚製薬)およびジクアホソルナトリウム(大塚製薬)ともFBSを含まないDMEM/F-12に溶解させて使用した.TERに対する過酸化水素の用量反応性の検討について,FBSを含まないDMEM/F-12に交換した翌日,新たな培地に交換した.その1時間後,過酸化水素(和光純薬)を添加1266あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012し,37℃,5%CO2インキュベーター内で静置した.TER測定,免疫染色およびWesternblottingの各試験でのドライアイ治療薬の検討について,FBSを含まないDMEM/F-12に交換した翌日,コントロール(培地のみ),レバミピドおよびジクアホソルナトリウムを溶解させた培地に交換した.薬物添加1時間後,過酸化水素を添加し,37℃,5%CO2インキュベーター内で静置した.正常群には,過酸化水素ではなく培地を添加した.3.経上皮電気抵抗(TER)の測定過酸化水素添加24時間後に,電気抵抗値測定システム(ミリセルERS-2,ミリポア)を用いて各wellのTERを測定した.TERは以下の式により算出した.TER(W・cm2)=(薬物添加wellの電気抵抗.blankwellの電気抵抗)×培養面積(cm2)4.Zonulaoccludens.1(ZO.1)の免疫染色過酸化水素添加24時間後にZO-1の免疫染色を実施した.細胞を100%メタノールで20分間固定した後,0.1%Triton-Xを含むPBS(phosphatebufferedsaline)で30分間透過処理した.1%BSA(bovineserumalbumin)/PBSを1時間室温処置でブロッキングを実施した後,一次抗体のZO-1抗体(1:100,Invitrogen)で1時間室温インキュベートした.PBSで洗浄後,AlexaFluor488-conjugate二次抗体(1:1,000,Invitrogen)で室温1時間,さらに0.5μMDAPI(4¢,6-diamidino-2-phenylindol)(Polyscience)を室温30分間インキュベートし,核染色を行った.洗浄後,蛍光顕微鏡(BZ-9000,Keyence)を用いて観察した.5.ZO.1蛋白の発現過酸化水素添加24時間後にZO-1蛋白の発現をWesternblottingにて実施した.Proteaseinhibitorcocktail含有RIPAbufferにて蛋白を抽出し,BCAProteinAssayKit(ThermoSCIENTIFIC)を用いて蛋白濃度測定を行った.蛋白抽出液を電気泳動し,メンブレンに転写した後,ブロッキング処理を施した.一次抗体であるantiZO-1ポリクローナル抗体(1:300,Invitrogen)およびantib-actin抗体(AC-15)(1:10,000,Abcam)で4℃オーバーナイト,およびhorseradishperoxidase-conjugated二次抗体(GEHealthcare)で室温1時間処理し,標的蛋白を検出した.検出したバンドはImageQuantTL(GEHealthcare)を用いて,シグナル強度を数値化した.ZO-1蛋白のシグナル強度をb-actinシグナル強度で補正し,ZO-1蛋白の発現量を算出した.6.統計解析統計解析をSAS(Release9.1,SASInstituteJapan,Ltd)を用いて実施した.(90) TERに対する過酸化水素の用量反応性について,0μMと500各濃度(250,500および750μM)の過酸化水素でDunnett500各濃度(250,500および750μM)の過酸化水素でDunnett400検定(両側)を行った.TERに対するドライアイ治療薬の効果の検討については,正常とコントロールで対応のないt-検定(両側)を行った.レバミピドの用量反応性については,直線回帰分析による単調増加性が確認されたため,コントロールとレバミピドの各群でWilliams検定(上側)を行った.ジクアホソルナトリウムの効果については,コントロールとの間で対応のないt検定(両側)を実施した.ZO-1発現の検討については,正常とコントロールで対応のないt-検定(両側)を行い,コントロールとレバミピドおよびジクアホソルナトリウムの各群でDunnett検定(両側)を行った.いずれの検定も5%を有意水準として解析した.II結果****TER(W・cm2)3002001000過酸化水素(μM)図1角膜上皮細胞におけるバリア機能に及ぼす過酸化水素の影響値は平均値±標準誤差を示す(n=4).TERは過酸化水素添加24時間後に測定.**:p<0.01vs0mM〔Dunnetttest(両側)〕.02505007501.TERに対する過酸化水素の用量反応性500角膜上皮細胞に過酸化水素を添加し,24時間後のTERの結果を図1に示す.過酸化水素の用量に依存して,TERは400###**低下した.250μM過酸化水素添加時のTER(420±18W・cm2;平均値±標準誤差)は,0μM(382±20W・cm2)に対してほとんど変化を示さないのに対し,500μMでは279±13W・cm2に,750μMでは127±4W・cm2に有意に低下した.TER(W・cm2)3002001002.TERに対するドライアイ治療薬の効果角膜上皮細胞におけるTERに対するドライアイ治療薬(レバミピドおよびジクアホソルナトリウム)の効果を検討した(図2).過酸化水素の濃度は,TERが約7割に低下する500μMを用いた.その結果,レバミピドの前処置により,過酸化水素によるTERの低下は用量依存性に抑制された.300μMおよび1,000μMでレバミピドは,コントロールに対して有意な差を示した.一方,ジクアホソルナトリウムはコントロールに対して変化を示さなかった.3.タイトジャンクション蛋白に対するドライアイ治療薬の効果タイトジャンクションの構成蛋白の一つであり,角膜を含めさまざまな組織でタイトジャンクションのマーカーとして利用されているZO-1に対するレバミピドの作用を免疫染色およびWesternblottingにより検討した.免疫染色の結果(図3),正常群では,ZO-1は,細胞-細胞間つまりタイトジャンクションに局在していることが観察された.500μM過酸化水素を添加すると,部分的にZO-1のタイトジャンクションへの局在が阻害されていることが観察された.1,000μMレバミピドを前処置しておくと,過酸化水素により生じたZO-1の変化は抑制されたが,1,000μMジクアホソルナトリウムはZO-1の変化に対して作用を示さ(91)0正常ジクアホソルレバミピド(μM)ナトリウム500μM過酸化水素図2酸化ストレスによるバリア機能の低下に対するドライアイ治療薬の効果値は平均値±標準誤差を示す(n=4).TERは過酸化水素添加24時間後に測定.**:p<0.01vs正常〔対応のないt-検定(両側)〕.#:p<0.05,##:p<0.01vsコントロール〔Williams検定(上側)〕.なかった.ZO-1蛋白発現に対するレバミピドの作用をWesternblottingにより検討した(図4).正常群に比べ500μM過酸化水素を添加すると,ZO-1蛋白発現の低下が観察された.1,000μMレバミピドを前処置しておくと,過酸化水素により生じたZO-1蛋白発現低下は抑制された.III考按ドライアイの発症・増悪には,涙液の異常以外にも多くの要因が関与しており,外的もしくは内的要因により生じた活性酸素の増加がその一つとして報告されている2).角膜上皮あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121267コントロール1003001,0001,000μM 正常過酸化水素(コントロール)過酸化水素(レバミピド処置)過酸化水素(ジクアホソルナトリウム処置)図3酸化ストレスによるZO.1の変化に対するドライアイ治療薬の効果培地(コントロール),レバミピドおよびジクアホソルナトリウムを添加し,1時間後に500μMの過酸化水素を添加した.免疫染色は,過酸化水素添加24時間後に実施した.過酸化水素により,ZO-1のタイトジャンクションへの局在が阻害された(矢印).その阻害は,レバミピドの前処置により抑制された.ZO-1b-actinジクアホソル正常コントロールレバミピドナトリウム500μM過酸化水素0.10**0.080.060.040.020.00正常コントロールレバミピドジクアホソルナトリウム#ZO-1/b-actin500μM過酸化水素図4酸化ストレスによるZO.1の変化に対するドライアイ治療薬の効果値は平均値±標準誤差を示す(n=6).**:p<0.01vs正常〔対応のないt-検定(両側)〕.#:p<0.05vsコントロール〔Dunnett検定(両側)〕.および涙液中には,活性酸素を消去する物質が存在しているため,眼表面で発生した活性酸素は速やかに消去されるが,涙液分泌の異常に伴う抗酸化物質の減少,炎症を伴う病態および紫外線などの影響を受けた場合,活性酸素が上昇する.増加した活性酸素は,直接的に角膜障害を起こしたり,また炎症反応を介してドライアイの発症・増悪をひき起こしていると考えられている.ドライアイ患者の涙液において,過酸化脂質が高いことからも,ドライアイの発症・増悪には酸化ストレスが関与していることが示唆されている6).角膜上皮において,バリア機能が障害された所見の一つとして点状表層角膜症がある.この所見は,ドライアイ,アトピー性角膜炎,春季カタル,薬剤性角膜上皮障害などでみられ,上皮の表層細胞が欠損しており,その部位でタイトジャンクションの障害が生じている7).レバミピドは,培養胃上皮細胞において酸化ストレスによるバリア機能低下を抑制し,その効果はタイトジャンクションの障害に対する保護作用によることが報告されている8).今回,角膜上皮細胞における酸化ストレスによるバリア障害に対するレバミピドの効果を検討した.酸化ストレスを負荷する方法として,活性酸素の一つであるヒドロキシラジカルを生じる過酸化水素を用いた.生体内で過酸化水素より産生されるヒドロキシラジカルは,分解する酵素がないうえに,非常に高い細胞障害性をもつ物質である.1268あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(92) 角膜バリア機能の指標となるTERにおいて,レバミピドは過酸化水素によるTER低下に対して保護作用を示した.また,角膜バリアの役割を担うタイトジャンクションの構成蛋白の一つであるZO-1の障害に対しても保護作用を示した.以前の報告で,レバミピドはelectronspinresponse法を用いた検討において,ヒドロキシラジカルを消去する作用を有することが確認されており5),またラットのUVB(ultraviolet-B)誘導による角膜障害および酸化ストレスマーカーである8-OHdG(8-hydroxydeoxyguanosine)の増加に対して抑制作用を示し,その作用はヒドロキシラジカルを消去したためであることが報告されている9).そこで今回のレバミピドの過酸化水素に対する保護作用は,この活性酸素をトラップしたためであると推測される.以上より,レバミピドは,培養角膜上皮細胞において,酸化ストレスによるバリア機能およびタイトジャンクションの障害に対して保護作用を示すことが明らかになった.文献1)WakamatsuTH,DogruM,TsubotaK:Tearfulrelations:oxidativestress,inflammationandeyediseases.ArqBrasOftalmol71:72-79,20082)樋口明弘,坪田一男:ドライアイ活性酸素仮説.あたらしい眼科25:1639-1645,20083)木村和博:炎症性サイトカインtumornecrosisfactor-aによる培養角膜上皮バリアー破綻の機序.日眼会誌114:935-943,20104)BasuroyS,SethA,EliasBetal:MAPKinteractswithoccludinandmediatesEGF-inducedpreventionoftightjunctiondisruptionbyhydrogenperoxide.BiochemJ393:69-77,20065)YoshikawaT,NaitoY,TanigawaTetal:Freeradicalscavengingactivityofthenovelanti-ulceragentrebamipidestudiedbyelectronspinresonance.Arzneimittelforschung43:363-366,19936)AugustinAJ,SpitznasM,KavianiNetal:Oxidativereactionsinthetearfluidofpatientssufferingfromdryeyes.GraefesArchClinExpOphthalmol233:694-698,19957)横井則彦:眼表面上皮のバリアー機能と疾患への応用.眼科NewInsight10:14-29,19978)HashimotoK,OshimaT,TomitaTetal:Oxidativestressinducesgastricepithelialpermeabilitythroughclaudin-3.BiochemBiophysResCommun376:154-157,20089)TanitoM,TakanashiT,KaidzuSetal:CytoprotectiveeffectsofrebamipideandcarteololhydrochlorideagainstultravioletB-inducedcornealdamageinmice.InvestOphthalmolVisSci44:2980-2985,2003***(93)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121269