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神経線維腫症1型を伴う発達緑内障にBaerveldt緑内障インプラントを挿入した乳児の2例

2017年10月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(10):1455~1458,2017神経線維腫症1型を伴う発達緑内障にBaerveldt緑内障インプラントを挿入した乳児の2例小松香織*1望月英毅*2,3宮城秀考*3中倉俊祐*4木内良明*3*1県立広島病院眼科*2草津眼科クリニック*3広島大学大学院医歯薬保健学研究院総合健康科学部門視覚病態学*4ツカザキ病院眼科CTwoCasesofCongenitalGlaucomaAssociatedwithNeuro.bromatosisType1RequiringBaerveldtGlaucomaImplantKaoriKomatsu1),HidekiMochizuki2,3)C,HidetakaMiyagi3),SyunsukeNakakura4)andYoshiakiKiuchi3)1)DepartmentofOphthalmology,PrefecturalHiroshimaHospital,2)KusatsuEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity,4)DepartmentofOphthalmology,TukazakiHospital神経線維腫症C1型(NF1)に伴う発達緑内障で線維柱帯切開術(TLO)が無効であった乳児C2例C2眼に,Baerveldt緑内障インプラント(BGI)挿入術を行ったので報告する.症例C1は生後C10カ月の男児.NF1であり,それに伴う左眼発達緑内障と診断され,TLOをC2回行ったが眼圧下降が得られなかったためCBGIを挿入し,その後再手術をC3回施行した.眼圧は点眼下でC17CmmHgである.症例C2は生後C5カ月の女児.左眼のCNF1に伴う発達緑内障に対してCTLOをC2回施行されたが眼圧下降せず,BGI挿入を行った.1度再手術を施行し,眼圧はC25CmmHgである.両症例ともBGIにて眼圧下降がみられたが,チューブの設置位置が変化し,複数回チューブの差し替えを行った.TLOが無効なNF1に伴う発達緑内障に対して,BGIは効果的な術式といえるが,チューブの位置変化が課題である.WeCreportCtwoCcasesCofCrefractoryCcongenitalCglaucomaCassociatedCwithCneuro.bromatosisC1(NF1)thatrequiredBaerveldtglaucomaimplant(BGI).Thesecaseshadnotachievedgoodintraocularpressure(IOP)controlwithtrabeculotomy(TLO).Case1:A10-month-oldmalewasdiagnosedwithcongenitalglaucomaincombinationwithCNF1CinChisCleftCeye.CFollowingCtwoCfailedCTLO,CweCperformedCBGICsurgery.CAfterC3Creoperations,CIOPCwas17CmmHgCwithCinstillation.CCaseC2:AC5-month-oldCfemaleCwithCcongenitalCglaucomaCinCcombinationCwithCNF1CinCherCleftCeyeCunderwentCBGICsurgeryCsubsequentCtoCtwoCunsuccessfulCTLO.CAfterConeCreoperation,CIOPCwasC25CmmHg.CTheseCcasesCexhibitedCgoodCIOPCcontrolCwithCBGI,CbutCrequiredCadditionalCsurgicalCproceduresCdueCtoCtubemalposition.BGIsurgeryisane.ectiveoptionforrefractorycongenitalglaucomaassociatedwithNF1follow.ingfailedTLO,buttubemalpositionisoneofthemostimportantproblems.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(10):1455~1458,C2017〕Keywords:発達緑内障,バルベルト緑内障インプラント,神経線維腫症C1型.congenitalglaucoma,Baerveldtglaucomaimplant,neuro.bromatosis1.Cはじめに神経線維腫症C1型(neuro.bromatosisC1:NF1)は,常染色体優性遺伝でカフェオレ斑や神経線維腫を主徴とし,骨病変や眼病変などの多彩な症候を示す全身性母斑症である.眼科領域では虹彩結節,視神経膠腫,眼瞼蔓状神経線維腫,緑内障などを合併症する1).NF1は出生約C3,000人にC1人の割合で起こり2),そのうち2~4%に発達緑内障を合併する1,3).したがって,NF1を伴う発達緑内障は出生C10万人にC1人程度の非常にまれな疾患であると推定される.治療は手術療法が主体となるが,NF1のような全身の先天異常を伴う続発性発達緑内障は隅角形成異常が高度のことが多く,手術を行っても眼圧コントロール〔別刷請求先〕小松香織:〒734-0037広島県広島市南区霞C1丁目C2-3広島大学大学院医歯薬保健学研究院総合健康科学部門視覚病態学Reprintrequests:KaoriKomatsu,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,HiroshimaUniversityGraduateSchoolofBiomedicalSciences,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima734-8551,JAPANが不良である場合が多い4,5).わが国においては,難治緑内障に対してC2012年にようやくチューブシャント手術が認可されたところであり,NF1を伴う発達緑内障に対してのチューブシャント手術の報告は,国内からはまだない.今回筆者らは,NF1を伴う発達緑内障で線維柱帯切開術が無効であった乳児C2例C2眼に,Baerveldt緑内障インプラント(以下,BGI)挿入術を行い,眼圧コントロールが安定した症例を経験したので報告する.CI症例〔症例1〕生後C10カ月,男児.主訴:左眼の角膜混濁と角膜径拡大.家族歴:特記事項はない.現病歴:生後すぐに左眼の角膜径拡大を指摘されて近医眼科を受診した.眼圧が左眼C41CmmHg,全周性に虹彩高位付着があったため左眼発達緑内障と診断された.また,生後数カ月で左顔面優位にC6カ所以上のカフェオレ斑と神経線維腫が出現したため,NF1と診断された.生後C3カ月およびC9カ月の時点で左眼線維柱帯切開術を受けたが眼圧が下降しなかったため,広島大学附属病院眼科に紹介され受診した.初診時所見:外眼部は左眼瞼に蔓状神経線維腫と頬部にかけてカフェオレ斑が多数あった.前眼部では右眼と比較して左眼の角膜径の拡大があった(図1).全身麻酔下で精査を行い,眼圧はトノペンで右眼C14CmmHg,左眼C28CmmHg,アイケアで右眼C8CmmHg,左眼C37CmmHgで左眼の眼圧が高かった.角膜径は右眼C11Cmm,左眼C15Cmmで,左眼は角膜浮腫があった(図2).眼底は右眼には特記所見はなく,左眼は角膜浮腫のため透見は困難であった.眼軸長は右眼C20.93mm,左眼C29.54Cmmと左眼が延長しており,超音波生体顕微鏡(UBM)では左眼に虹彩前癒着がみられたが,毛様体の腫大はなかった.経過:初診からC1カ月後(生後C11カ月)にCBGI挿入術を行った.輪部結膜を切開し,BG-250を耳上側に上・外直筋下に収まるように設置し,直筋付着部よりC1Cmm後方にC7-0シルク糸で固定した(図3).チューブは前医での手術時に上方に作製された強膜弁下から前房内に挿入した(図4).眼圧は術後C4カ月にアイケアC.でC12CmmHgと安定していたが,チューブ先端が角膜内皮に接触しており,同部位の角膜が混濁するようになった.下眼瞼内反症による角膜上皮障害もあったため,1歳C3カ月時に全身麻酔下で内反症手術とCBGIのチューブのC1回目の挿入しなおしを行った.プレート部はそのままで,前回利用した自己強膜弁の耳側の角膜輪部からチューブを後房に挿入し,保存強角膜でチューブ部分を被覆した.1回目の挿入しなおしからC2カ月後に眼圧はアイケアでC35CmmHgになった.前房内にチューブの先端が確認できなかったため,眼球運動によりチューブが抜けたと考えた.1歳C6カ月時にC2回目の挿入しなおしを行った.前回より上方寄りの角膜輪部から前房内へチューブを挿入しなおし,チューブの被覆には前回の保存強角膜片をそのまま用いた.術後はタフルプロスト左眼C1回/日を点眼しながら左眼眼圧がアイケアでC21CmmHg前後で経過していた.その後,左眼白内障の進行と下眼瞼内反症の再発があり,2歳C7カ月で内反症手術と白内障手術を施行した.このときチューブの先端が角膜に近かったため,チューブ挿入しなおしも同時に行った.チューブは前回挿入部よりやや耳側から後房内に挿入し,前回の保存強角膜片でそのまま被覆した.2歳C11カ月時の受診では,ドルゾラミド・チモロール配合剤を左眼C2回/日点眼下で左眼眼圧はアイケアでC17CmmHgだった.〔症例2〕生後C5カ月,女児.主訴:左角膜径拡大.家族歴:両親ともカフェオレ斑が数カ所ある.現病歴:生下時から左眼角膜径の拡大を指摘され,近医眼科を受診したところ眼圧が右眼C8CmmHg,左眼C49CmmHgで左眼発達緑内障と診断された.小児科では右大脳萎縮と体幹部に多数のカフェオレ斑があることから,NF1と診断された.前医で生後C20日および生後C1カ月で左眼線維柱帯切開術をうけたが,眼圧を制御できなかったため,広島大学附属病院眼科を紹介され受診した.初診時所見:眼瞼や顔面にカフェオレ斑や神経線維腫はなかった.左下眼瞼には内反症があった.左眼は角膜径が拡大し,角膜混濁,ぶどう膜外反,中等度の散瞳があった.全身麻酔下で眼圧はトノペンで右眼C15CmmHg,左眼C31CmmHg,アイケアで右眼C8CmmHg,左眼C37CmmHgで左眼は高く,角膜径は右眼C11.5Cmm,左眼C16Cmmだった.眼底は右眼には特記所見はなかったが,左眼は傾斜乳頭でCC/D比はC0.9程度であった.眼軸長は右眼C20.1Cmm,左眼C28.87Cmmと左眼が延長していた.UBMでは左眼に虹彩前癒着がみられたが,毛様体の腫大はなかった.経過:初診からC8日後に左眼CBGI手術を行った.輪部結膜を切開し,BG-250を耳上側に上・外直筋下に収まるように設置し,直筋付着部よりC1Cmm後方にC7-0シルク糸で固定した.自己強膜弁は作製せず,上方やや耳側寄りの角膜輪部から前房内にチューブを挿入し,保存強膜片でチューブを被覆した.術後C3カ月の眼圧はアイケアで右眼C12CmmHg,左眼C16CmmHgであり,チューブの角膜への接触はなかった.経過に問題がないため,術後C3カ月より前医で経過をみていた.術後C1年C8カ月の眼圧はアイケアCPROで左眼C18CmmHgと眼圧は落ち着いていたが,チューブ先端が角膜に近く(図5),下眼瞼内反症もあるため,初回術後C2年C3カ月(2歳C9カ月)で前医にて内反症手術とチューブの挿入しなおしを行った.チューブは前回挿入部より耳側から前房に挿入し,保存強角膜片でチューブを被覆した.術後眼圧は無点眼下にて図1症例1:左頬部のカフェオレ斑と左眼瞼蔓状神経線維腫(矢印)図3症例1:プレート設置位置図4症例1:初回BGI手術時の術中写真アイケアCPROで左眼C25CmmHgであった.チューブの先端は次第に角膜に近づいており,白内障も進行している.CII考按今回筆者らは,NF1に併発する発達緑内障で線維柱帯切除術施行後も眼圧が下降しなかった症例に対してCBGI手術図2症例1:前眼部写真(上:右眼,下:左眼)図5症例2:チューブ先端が角膜に接近しているを行い,良好な眼圧下降を得た.しかし,チューブの先端部の移動に伴う合併症も多く,位置修正のために複数回の手術を要した.NF1の眼合併症は,虹彩結節がC64%と最多で,そのほかに視神経膠腫がC9%,眼瞼蔓状神経線維腫がC6%,発達緑内障をC2~4%の割合で併発するとの報告がある1,3).なお,NF1に続発した緑内障では同側の眼瞼蔓状神経線維腫(神経に沿って蔓状に増殖する腫瘍の塊)を合併することが多い1).今回の症例では,併発する頻度の高い虹彩結節や視神経膠腫はなかった.眼瞼蔓状神経線維腫はC1例目では緑内障眼と同側にあり,2例目ではなかった.NF1での緑内障の発生機序は,隅角形成異常もしくは神経線維腫が二次的に隅角を閉塞させるためと考えられているが3,6),そのほかに角膜内皮細胞の隅角への増殖が隅角閉塞を引き起こしている,との報告もある4).今回はC2症例とも線維柱帯切開術が有効ではなかった.その理由の一つとして,発達緑内障にみられる隅角形成異常が眼圧上昇の原因ではなく,神経線維腫がCSchlemm管を閉塞したために線維柱帯切開術の効果がなかったということが考えられる.また,両症例とも患眼の角膜径はC15Cmm以上である.角膜径が大きいほど線維柱帯切開術の効果が少ないと報告されている7).よって二つ目の理由として,角膜径が大きく重症であったために線維柱帯切開術が奏効しなかった可能性もある.小児発達緑内障に対する治療は,線維柱帯切開術を行い,効果がなければわが国においてはマイトマイシン併用の線維柱帯切除術を行うことが多かった8).線維柱帯切除術の問題点として,・小児は代謝がよく創部が閉じやすい,・マイトマイシンCC(MMC)が長期的にどう影響がでるか不明である,・術後の濾過胞管理がむずかしい,などがあげられる.これらの問題点を克服できるのがチューブシャント手術である.Beckらの報告9)では,2歳以下での発達緑内障治療の成績を比較すると,術後C12カ月地点で眼圧がC23CmmHg以下に抑えられている状態の割合は,MMC併用の線維柱帯切除術がC36.0C±8.0%,BGIではC87.0C±5.0%であり,72カ月後でも前者はC19.0C±7.0%,後者はC53.0C±12%とされており,BGIの術後成績が線維柱帯切除術より良好である.近年ではわが国においても線維柱帯切除術に代わって,もしくはその難治例に対してチューブシャント手術が行われた症例が報告されるようになった10).NF1のように全身疾患を併発した発達緑内障は前眼部の形成異常を伴うことが多く,難治例が多いためである5).しかし,BGIにも以下のような物理的な問題点がある.・チューブ先端が角膜へ接触することがあり,長期的な接触で角膜内皮障害が起こる可能性がある.・無水晶体の場合は硝子体でチューブが閉塞することがある.今回の症例でもチューブ先端の角膜への接触やチューブのずれが生じたために,チューブの位置を修正するための再手術を複数回行っている.Beckらの報告9)でもチューブの位置変更などで再手術をした割合がCBGIの場合C45.7%であり,線維柱帯切除術の12.5%に比べ高頻度であることが示されている.この理由として小児の場合,成人と比べて眼組織の柔軟性が高いことや運動量が活発であること,眼部の擦過が多いことが影響してチューブの位置不良を起こしやすいと考えられており,1年以内に修正手術が行われる場合が多い11,12).初回手術の時点で症例C1の眼軸長はC29.54Cmmで,症例C2の眼軸長はC28.87mmであった.そのため,眼球の成長がプレートおよびチューブの変位に影響を及ぼしたとは考えにくい.プレートやチューブ変位の予防策として直筋下にプレートを固定すること,保存強膜で挿入部を補強することや,角膜輪部に対し斜めにチューブを挿入することなどが奨励されている13).筆者らの症例でも直筋の下にプレートを固定し,全層の強膜を通してチューブを挿入しているが,それでも変位が生じた.今回筆者らはCNF1を伴う発達緑内障の生後C11カ月およびC5カ月の乳児C2例C2眼に,BGI挿入術を行った.隅角に異形成を伴う発達緑内障に対して,BGIは線維柱帯切除術と同等もしくはそれ以上に効果的な術式と考える.しかし,角膜への接触などチューブシャント手術特有の術後合併症を起こす可能性がある.文献1)石戸岳仁,松村望他,平田菜穂子ほか:神経線維腫症C1型における眼合併症と頻度.臨眼C66:629-632,C20122)神経線維腫症C1型の診断基準・治療ガイドライン作成委員会:神経線維腫症C1型(レックリングハウゼン病)の診断基準および治療ガイドライン.日皮会誌118:165-1666,C20083)有井潤子,田辺雄三:小児の神経線維腫C1型における合併症診断と全身管理.日児誌C104:346-350,C20004)EdwardCDP,CMoralesCJ,CBouhenniCRACetCal:CongenitalCectropionuveaandmechanismsofglacomainneuro.bro.matosistype1.OphthalmologyC119:1485-1494,C20125)BudenzDL,GeddeSJ,BrandtJDetal:Baerveldtglauco.maCimplantCinCtheCmanagementCofCrefractoryCchildhoodCglaucomas.OphthalmologyC111:2204-2210,C20046)福村美帆,山田裕子,金森章秦ほか:神経線維腫症に合併した先天緑内障のC1例.眼臨C98:31-34,C20047)久保田敏昭,高田陽介,猪俣孟:隅角発育異常緑内障の手術成績.臨眼C54:75-78,C20008)根木昭:小児緑内障の診断と治療.あたらしい眼科C27:C1387-1401,C20109)BeckAD,FreedmanSF,KammerJetal:AqueousshuntdevicescomparedwithtrabeculectomywithMitomycin-CforCchildrenCinCtheC.rstCtwoCyearsCofClife.CAmCJCOphthal.molC136:994-1000,C200310)田口万蔵,中村友美,小林隆幸ほか:チューブシャント手術を行った発達緑内障のC2例.あたらしい眼科C29:1411.1414,C201211)MakiCJL,CNestiCHA,CShettyCRKCetCal:TranscornealCtubeCextrusionCinCaCchildCwithCaCBaervertCglaucomaCdrainageCdeveice.JAAPOSC11:395-397,C200712)DonahueCSP,CKeechCRV,CMundenCPCetCal:BaerveldtCImplantCSurgeryCinCtheCTreatmentCofCAdvancedCChild.hoodGlaucoma.JAAPOSC1:41-45,C199713)WeinrebCR,CGrajewskiCA,CPapadopoulousCMCetCal:Child.hoodCGlaucomaCConsensusCSeries-9,CKuglerCPublications,CAmsterdam,TheNetherlands,2013***

バルベルト緑内障インプラントにおけるチューブのよじれを整復した1例

2017年6月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科34(6):899.902,2017cバルベルト緑内障インプラントにおけるチューブのよじれを整復した1例朝岡聖子本田理峰山口昌大舟木俊成村上晶松田彰順天堂大学医学部眼科学教室ACaseofBearveldtImplantTubeObstructionDuetoKinkingSatokoAsaoka,RioHonda,MasahiroYamaguchi,ToshinariFunaki,AkiraMurakamiandAkiraMatsudaDepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversitySchoolofMedicineバルベルト緑内障インプラント挿入術後合併症にはチューブ閉塞や露出などチューブに関連した合併症がある.今回,チューブのよじれ(kinking)を生じた1例を経験した.血管新生緑内障に対して緑内障インプラント手術を施行後,持続する術後高眼圧の原因検索のため,anteriorsegment-opticalcoherencetomography(AS-OCT)を用いて検査した結果,チューブのよじれによるものと診断した.チューブのよじれに対して観血的整復術を施行し,その後眼圧下降効果を得ることができた.Obstructionsandexposureshavebeenreportedastube-relatedcomplicationsofBearveldtglaucomaimplantsurgeryprocedures.HerewereportacaseofBearveldtimplanttubeobstructionduetokinking.Bearveldtimplantsurgeryhadbeencarriedoutona52-year-oldmaleduetoneovascularglaucoma.Toexaminethecauseofapro-longedpost-surgicalhypertensivephase,weperformedanteriorsegmentOCTandfoundtubekinking.Aftersur-gicalrepositioningofthetube,intraocularpressureiswellcontrolled.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(6):899.902,2017〕Keywords:バルベルト緑内障インプラント,チューブのよじれ,前眼部OCT.Bearveldtglaucomaimplant,kinking,AS-OCT.はじめにバルベルト緑内障インプラント(BearveldtGlaucomaImplant:BGI)は眼外への房水流出を増加させる目的で眼内に挿入する緑内障インプラントの一つである.緑内障インプラントは1969年にMoltenoによって臨床応用が開始され1),2012年に発表された緑内障インプラント手術とマイトマイシンC併用線維柱帯切除術との前向き比較試験(TVT試験)では,両者において同程度の眼圧下降効果が得られこと,また術後5年の手術成功率はインプラント手術のほうが有意に高いことが報告され2),同年より日本においても緑内障インプラントが保険診療で使用できるようになった3,4).BGI手術の合併症として過剰濾過による低眼圧,チューブ閉塞やプレート周囲の瘢痕形成による眼圧上昇,チューブやプレートの露出,チューブの偏位,角膜内皮障害,複視などが起こることが報告されている5).今回,BGI挿入後のチューブのよじれ(kinking)による術後高眼圧に対して観血的に整復し,眼圧が改善した1例を経験したので報告する.I症例患者:52歳,男性.主訴:高眼圧.既往歴:2002年から糖尿病.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:2012年4月両眼増殖糖尿病網膜症,右眼網膜前出血のため当院紹介受診し,2013年7月両眼硝子体手術が施行された.2014年3月(硝子体術後8カ月)より左眼眼圧が20mmHg以上となり,血管新生緑内障と診断した.硝子体術後10カ月の時点で眼圧降下薬点眼が開始された.2014〔別刷請求先〕朝岡聖子:〒113-8431東京都文京区本郷3-1-3順天堂大学医学部眼科学教室Reprintrequests:SatokoAsaoka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversitySchoolofMedicine,3-1-3Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8431,JAPAN年6月(術後11カ月)に眼圧54mmHgまで上昇を認めたため,左眼BGI挿入術(毛様体扁平部挿入術)を施行した.BGI術前所見:矯正視力VD=(0.7p×sph+0.75D(cyl.1.75DAx100°)VS=(0.6×sph+0.25D(cyl.1.75DAx80°)眼圧Tod=15mmHgTos=54mmHg前眼部右眼特記すべき所見なし.左眼虹彩前面・隅角全周に新生血管の出現,広汎なPASの形成を認めた.視野右眼湖崎分類IIIb左眼湖崎分類IIIbBGI手術所見:チューブは8-0バイクリル糸で2カ所結紮し,シャーウッドスリットを近位側に2カ所作製した.角膜輪部より8mmの2時の方向にプレートを置き,8-0ナイロン糸で固定した.ホフマンエルボーは角膜輪部より3.5mmの位置に8-0ナイロン糸で固定した.チューブは強膜上には直接固定せず,ホフマンエルボーとともに保存強角膜片で被覆し,強角膜片は10-0ナイロン糸で固定した.図1前眼部OCTよじれ(kinking)を認めた.臨床経過:BGI挿入術翌日は眼圧20mmHgであったが,8日目に35mmHgまで上昇し,アセタゾラミド内服を開始するも眼圧の改善を認めず,9日目に前房穿刺を施行した.その後眼圧9mmHgまで低下したため11日目に退院した.しかし外来経過観察時には30mmHgまで再上昇を認め,BGI挿入術後2カ月経過しても眼圧30mmHgと高値が継続したため,AS-OCTでチューブの走行部位を精査したところ,チューブが鋭角に屈曲しよじれのために内腔が閉塞している可能性が疑われた(図1).細隙灯顕微鏡下でブルメンタールレンズを用いてチューブ位置の確認を試みた際にチューブの位置を修正し,一時的な低下を得たが,平成26年11月(BGI術後5カ月)に67mmHgとさらなる眼圧上昇を認めたため,観血的チューブ整復術を施行した(図2).II手.術.方.法手術は,フルオレセインを用いてBGIチューブの閉塞部位の確認をしながら屈曲部位のブ整復を行った.①AS-OCTにてよじれが予想された部位の結膜を切開し,チューブを露出させた.②屈曲部位より遠位側でチューブに30G針で穿刺し,フルオレセインを眼内に向かって注入し(図3a),前房内にフルオレセインが広がらないことを確認した(図3b).続いて屈曲部位より近位側で眼内に向かってフルオレセインを注入した(図3c)ところ前房内にフルオレセイン流入が確認され(図3d),鋭角なチューブ屈曲部位でチューブが閉塞していることを確認した.③結膜切開をプレート近くまで広げ,チューブの屈曲が鈍角になるようにチューブを動かし,10-0ナイロン糸で強膜上に固定した.④結膜縫合し,チューブ整復術を終了した.左眼眼圧(mmHg)80706050403020100POD1POD2POD3POD4POD5POD6POD7POD8POD9POD10POD111M2M3M4M5M図2術後眼圧図3閉塞部位の術中確認III結果再手術後の経過であるが,術後3週目の矯正視力はVD=(0.8p×sph+1.5D(cyl.2.25DAx95°),VS=手動弁で,眼圧は右眼20mmHg,左眼17mmHgであった.前眼部には左眼耳側上方結膜下にホフマンエルボーを認め,前眼部OCTで確認したところチューブのよじれは解消した(図4).術後1年以上が経過した2016年現在まで,眼圧は再上昇することなく10mmHg台を推移しており,左眼視野は湖崎分類Vbである.IV考按緑内障インプラント手術におけるチューブのよじれについては,これまでに2報の報告がある.Rothmanらはultra-soundbiomicroscopy(UBM)を用いて3例のチューブ閉塞を診断し,1例はチューブの走行を整復することで,2例はチューブを新しい位置に再挿入することで,眼圧下降効果を得たとしている6).Netlandらはチューブインプラント挿入後の高眼圧に対する再手術中にチューブのよじれを認め,チューブ抜去および再挿入によって眼圧下降効果を得られたと報告している7).BGI手術ではチューブを結紮するために,術後早期には眼圧の下降が得られにくい.本症例のように8.0バイクリル糸で2カ所チューブ結紮した場合には,通常1本で結紮した場合の術後4週ごろ8)と比較し,やや遅れてチューブが開放すると考えられる.本症例では術後8週を過ぎてもチューブ開放に伴う眼圧の下降が観察されなかったため,チューブ先端への硝子体の嵌頓とチューブのよじれの可能性を考え,最初に非観血的に前眼部OCTを用いてチューブのよじれを診断した.術後高眼圧の原因として,チューブ開放後のプレート周囲の線維化による高眼圧期も報告されているが,その場左前眼部OCTのシェーマ図4整復後の前眼部OCT矢印部分が鈍角になっている.合にはチューブ開放後の眼圧の低下が確認できることが多いはずであり,本症例のように通常のチューブ開放時期を過ぎての高眼圧持続例では,まずはチューブ閉塞・よじれの可能性を考えるべきである.一方,よじれの診断から観血的な整復までに約2カ月が経過しており,その間に視機能が低下してしまったことが反省点である.ブルメンタールレンズを用いた用手的なチューブ位置の整復は簡便であるが,その効果は一時的なものであり,よじれの診断後速やかに観血的な整復を施行すべきであったと考えられた.また,今回,よじれを生じた要因として,チューブの長さがプレートとホフマンエルボーの距離に比べて長く,チューブ屈曲の一因となったと推測された.プレート固定の適正な位置は角膜輪部から8.10mmとされており9),本症例では輪部から8mmの位置にプレートを固定した.プレートとチューブの接合部からホフマンエルボー先端部までは10mmの長さがあるため,角膜輪部8mmの部位にプレートを固定した場合にはチューブの長さに余剰が出ることから,本症例ではより後方(10mm程度)にプレートを設置するか,適切なカーブをするためにチューブを強膜上に複数箇所固定すべきであったと考えられる.文献1)MoltenoAC:Newimplantforgraucoma.Clinicaltrial.BrJOphthalmol53:606-615,19692)GeddeSJ,Schi.manJC,FeuerWJ:TreatmentoutcomesintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)studyafterfiveyearsoffollow-up.AmJOphthalmol153:789-803,20123)緑内障診療ガイドライン(第3版)補遺緑内障チューブシャント手術に関するガイドライン.日眼会誌116:388-393,20124)杉本洋輔,木内義明:バルベルトR緑内障インプラント手術.臨眼68:1692-1699,20145)千原悦夫:緑内障チューブシャント手術のすべて.メジカルビュー社,p54-61,20136)RothmanRF,SidotiPA,GentileRCetal:Glaucomadrainagetubekinkafterparsplanainsertion.AmJOph-thalmol132:413-414,20017)NetlandPA,SchumanS:Managementofglaucomadrain-ageimplanttubekinkandobstructionwithparsplanaclip.OphthalmicSurg36:167-168,20058)HongCH,ArosemenaA,ZurakowskiDetal:Glaucomadrainagedevices.SurvOphthalmol50:48-60,20059)MincklerD:Operativetechniquesandpotentialmodi.ca-tions.Glaucoma2ndedition(editedbyShaarawyTM,SherwoodMB,HitchingsRA,CrowstonJG),Vol2,p1069,Saunders,London,2015***

経毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラントの手術成績と合併症

2016年8月31日 水曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(8):1183?1186,2016c経毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラントの手術成績と合併症宮城清弦藤川亜月茶北岡隆長崎大学大学院医歯薬学総合研究科眼科・視覚科学教室Short-TermClinicalOutcomesofBaerveldtGlaucomaImplantSurgeryviatheParsPlanaandPostoperativeComplicationsSugaoMiyagi,AzusaFujikawaandTakashiKitaokaDepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,NagasakiUniversity目的:経毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラントの短期成績を報告する.対象および方法:対象は2012年8月?2015年4月に長崎大学附属病院眼科にて経毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラント手術を施行した14例15眼で,眼圧・視力・点眼スコアの術後1,3,6,9,12,18,24カ月での値を後向きに調査した.また,術後合併症について調査した.手術の成功基準は,術後3カ月以上の経過で眼圧が5?21mmHg,術後視力が光覚弁以上,追加の緑内障手術のないこととした.結果:平均観察期間は16.6カ月(6?24カ月)だった.術後眼圧,点眼スコアは有意に低下した.視力は有意な変化は認めなかった.手術室での処置を必要とした合併症が3例にみられた.術後2年の成功率は93.3%だった.結論:経毛様体扁平部挿入型バルベルト緑内障インプラント手術は難治緑内障に対し有用と思われた.Purpose:Toreporttheshort-termfollow-upresultofBaerveldtGlaucomaImplant(BGI)surgeryviatheparsplanaforthetreatmentofglaucoma.PatientsandMethod:Thisstudyincluded15eyesof14patientswhounderwentBGIsurgeryviatheparsplanaatNagasakiUniversityHospital,Japan,betweenAugust2012andApril2015.Allpatientswereretrospectivelyinvestigatedastopreoperativeand1,3,6,9,12and24months’postoperativeintraocularpressure(IOP),visualacuity,numberofhypotensivemedicationsandpostoperativecomplications.Successfulcriteriawere:1)visionofmorethanlightperception,2)IOP≧5mmHgandIOP≦21,and3)noadditionalglaucomaoperations.Results:Meanfollow-upperiodwas16.6months(from6to24months).PostoperativeIOPandnumberofhypotensivemedicationsweresignificantlyreduced.Visualacuitywasnotchangedsignificantly.Threepatientsrequiredadditionalsurgerybecauseofcomplications.The2-yearsuccessratewas93.3%.Conclusion:BGIsurgeryviatheparsplanaisausefulmethodforrefractoryglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1183?1186,2016〕Keywords:バルベルト緑内障インプラント,経毛様体扁平部,チューブシャント手術,難治緑内障.baerveldtglaucomaimplant,parsplana,tubeshuntsurgery,refractoryglaucoma.はじめに2012年にわが国でもバルベルト緑内障インプラント(Baerveldtglaucomaimplant:BGI)を用いたチューブシャント手術が認可され,国内での手術成績の報告例もみられるようになった.BGIは濾過胞感染などトラベクレクトミーにおける問題点のいくつかを解決してくれるものと期待されており,血管新生緑内障などの難治緑内障や結膜瘢痕の広範な手術既往眼,濾過胞管理の困難な小児例などでトラベクレクトミーに代わる術式として注目されている.一方で,統一された手術適応基準がいまだなく,また特有の術後管理の必要性や重篤な合併症の存在もあり,個々の施設で慎重に適応が検討されているのが現状である.今回,長崎大学病院眼科(以下,当科)における経毛様体扁平部挿入型BGI手術の手術成績と合併症を検討したので報告する.I対象および方法1.対象対象は2012年8月?2015年4月に当科にて経毛様体扁平部挿入型BGI手術を施行した14例15眼である.手術時年齢は44.3±21.0歳(平均±標準偏差),術前眼圧は32.5±8.2mmHg,術前logMAR視力は1.5±1.0,術前点眼スコアの中央値(四分位範囲)は5点(4?6)であった.病型の内訳は,血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)7例8眼(増殖糖尿病網膜症6眼,網膜中心静脈閉塞症2眼),その他の続発緑内障3例3眼(外傷2眼,ぶどう膜炎1眼),先天緑内障3例3眼,原発開放隅角緑内障1例1眼であった(表1).2.当科における基本術式Tenon?下麻酔を施行し上耳側で結膜を切開.6×8mmの自己強膜半層弁を作製.8-0バイクリル糸でチューブを結紮し閉塞を確認.20GのVランスで輪部から3.5mmの位置で強膜穿刺.Hoffmanelbowを挿入し9.0ナイロン糸で強膜弁下に固定.強膜弁を9.0ナイロン糸で縫合.プレート本体を5.0ダクロンで強膜固定し,チューブの部分を立ち上がらないように9.0ナイロン糸で固定.8-0バイクリル針でSherwoodslitを1カ所作製し,結膜を縫合して終了.全例において経毛様体扁平部挿入型BGI(102-350)を使用し,有硝子体眼の場合は硝子体手術を併用した.3.評価手術の成功基準は,術後3カ月以上の経過で眼圧が5?21mmHg,術後視力が光覚弁以上,追加の緑内障手術のないこととした.また眼圧・点眼スコアの術後1,3,6,9,12,18,24カ月での値を後向きに比較検討した.視力について,logMAR視力で0.3以上の変化を有意として,術前後で比較検討した.また,術後合併症について調査した.眼圧値はGoldmann圧平眼圧計で測定し,測定の困難な小児についてはアイケア手持眼圧計を用いた.点眼スコアは点眼を1点,配合剤および炭酸脱水酵素阻害薬内服を2点とした.統計学的検討にDunnett’stest,pairedt-test,Wilcoxonsignedranktest,Fisher’sexacttestを用いた.また手術成功率についてKaplan-Meier法を用いて生存曲線を作成し分析した.II結果平均観察期間は16.6カ月(範囲6?24カ月)であった.眼圧は術前32.5±8.2mmHg(平均±標準偏差)に対し術後1,3,6,9,12,18,24カ月の値がそれぞれ15.0±8.5,14.2±4.4,12.1±3.2,12.2±3.3,12.4±3.4,12.0±4.7,10.2±4.4mmHgで,いずれの時点でも術前に比べ有意に低下した(図1).また,最終受診時の点眼スコアも中央値(四分位範囲)が2点(0.5?3.5)と術前に比べ有意に低下した(Wilcoxonsigned-ranktest,p<0.01).平均logMAR視力は術前1.5±1.0に対し,最終受診時が1.4±1.0と,術前と比べ有意な変化はなかった(pairedt-test,p=0.41).またlogMAR視力で0.3以上の変化を有意とすると,最終受診時で視力改善みられた症例が7眼(47%),不変が3眼(20%),低下が5眼(33%)であった.術前の中間透光体混濁の有無と視力改善に有意な相関はみられなかった(Fisher’sexacttest,p=0.35).手術成功率はKaplan-Meierの生存曲線で術後2年において93.3%であった(図2).合併症について,手術室での処置を必要とした症例が3眼(20%)で,硝子体出血,持続する低眼圧・脈絡?離,低眼圧黄斑症,漿液性網膜?離がみられた.自然経過で改善した症例が4眼(27%)で,一過性の低眼圧・脈絡膜?離,術直後の前房出血・硝子体出血がみられた.術後12カ月で前房出血をきたした症例が1眼あったが,他はすべて術後1カ月以内に改善した.明らかな合併症を認めなかった症例は8眼(53%)であった.手術室での処置を必要とした症例において,術後12カ月で硝子体出血をきたし硝子体洗浄行ったものの徐々に眼球癆となった症例が1眼,術後低眼圧持続しチューブ再結紮を行った症例が1眼,著明な脈絡膜?離に対し強膜tapを施行した症例が1眼あった.プレート露出などの晩期合併症はみられなかった.III考按本報告では全例に経毛様体扁平部挿入型BGI(102-350)を使用した.国内では経毛様体扁平部型が多く用いられているが,海外の報告では前房挿入型が多く,TheTubeVersusTrabeculectomyStudy1)やAhmedBaerveldtComparisonStudy2)などの大規模スタディでも前房挿入型が用いられている.トラベクロトミーなど従来の緑内障手術と経毛様体扁平部挿入型BGIを直接比較したスタディはいまだないものの,前房挿入型と経毛様体扁平部の両者を比較した後向き研究がなされており,術後2年の成功率は同等で,合併症に関しては前房型に多いと報告されている3).欧米人と比較した日本人の前房深度などを考慮すると,合併症を避ける点で経毛様体扁平部挿入型は有用と思われる.当科の手術症例で2年成功率は93.3%であった.経毛様体扁平部型BGIを使用した過去の症例報告と比較しても同等の結果が得られている(表2).成功基準や観察期間が統一されておらず,対象症例もNVGの有無を含めさまざまであり直接の比較はできないものの,およそ術後1?3年で85%,術後5年以上で70%程度の成績が報告されている.また,Kolomeyerらの報告12)ではNVG症例では非NVG症例に比較し成功率が低下する結果となっているが,本報告ではNVG症例とそれ以外で成功率に差はみられず(Fisher’sexacttest,p=0.31),国内の2報告でも言及されていない.しかし,症例数が大きく異なりこともあり,今後の研究報告が待たれる.当科における経毛様体扁平部挿入型BGIの手術成績を検討報告した.良好な手術成功率が得られ,難治緑内障に対して有用な術式と思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GeddeSJ,HerndonLW,BrandtJDetal:PostoperativecomplicationsintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)studyduringfiveyearsoffollow-up.AmJOphthalmol153:804-814,20122)BudenzDL,BartonK,GeddeSJetal:Five-yeartreatmentoutcomesintheAhmedBaerveldtcomparisonstudy.Ophthalmology122:308-316,20153)RososinskiA,WechslerD,GriggJ:RetrospectivereviewofparsplanaversusanteriorchamberplacementofBaerveldtglaucomadrainagedevice.JGlaucoma24:95-99,20154)VarmaR,HeuerDK,LundyDCetal:ParsplanaBaerveldttubeinsertionwithvitrectomyinglaucomasassociatedwithpseudophakiaandaphakia.AmJOphthalmol119:401-407,19955)LuttrullJK,AveryRL,BaerveldtGetal:Initialexperiencewithpneumaticallystentedbaerveldtimplantmodifiedforparsplanainsertionforcomplicatedglaucoma.Ophthalmology107:143-149,20006)ChalamKV,GandhamS,GuptaSetal:ParsplanamodifiedBaerveldtimplantversusneodymium:YAGcyclophotocoagulationinthemanagementofneovascularglaucoma.OphthalmicSurgLasers33:383-393,20027)BanittMR,SidotiPA,GentileRCetal:ParsplanaBaerveldtimplantationforrefractorychildhoodglaucomas.JGlaucoma18:412-417,20098)TarantolaRM,AgarwalA,LuPetal:Long-termresultsofcombinedendoscope-assistedparsplanavitrectomyandglaucomatubeshuntsurgery.Retina31:275-283,20119)植田俊彦,平松類,禅野誠ほか:経毛様体扁平部Baerveldt緑内障インプラントの長期成績.日眼会誌115:581-588,201110)KolomeyerAM,KimHJ,KhouriASetal:ParsplanaBaerveldttubeinsertionwithparsplanavitrectomyforrefractoryglaucoma.OmanJOphthalmol5:19-27,201211)三木美智子,植木麻理,小嶌祥太ほか:バルベルト緑内障インプラントによる経毛様体扁平部挿入チューブシャント術の短期成績.眼科手術28:428-432,201512)KolomeyerAM,SeeryCW,Emami-NaeimiPetal:CombinedparsplanavitrectomyandparsplanaBaerveldttubeplacementineyeswithneovascularglaucoma.Retina35:17-28,2015〔別刷請求先〕宮城清弦:〒852-8501長崎市坂本1丁目7番1号長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻展開医療科学講座眼科・視覚科学教室Reprintrequests:SugaoMiyagi,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,NagasakiUniversity,1-7-2,Sakamoto,NagasakiCity,Nagasaki852-8501,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY表1患者背景症例性別年齢緑内障型術前mediaopacity手術歴硝子体手術併用白内障手術眼庄点眼スコア少数視力併用1男60SGL4610.01ありICCE,Vit,TLEなしなし2男70NVG2750.01なしなしありあり3男68NVG334光覚弁ありなしありあり4女45NVG36650cm/指数弁ありなしありあり5女45NVG30650cm/指数弁ありなしありあり6男30SGL2510.3なしiridencleisis,TLO,TLE(2)ありあり7男62NVG3630.4なしPEA+IOL,Vit(2)なしなし8男52NVG3040.2なしPEA+IOL,TLEありなし9男37POAG1860.3なしPEA+IOL,Vit,TLO,ExPRESS,TLEなしなし10男58SGL4840.02ありなしありあり11女10CGL336光覚弁ありlensectomy,Vit,TLO,TLE,Baetveldtなしなし12男42NVG3140.1なしTLO,TLE(2)ありあり13男64NVG2360.5なしPEA+IOL,Vitなしなし14女15SGL4261.2なしPEA+IOLありなし15女6CGL2960.01ありTLO(2),TLE(1)ありありPOAG:原発開放隅角緑内障,NVG:血管新生緑内障,SGL:続発緑内障,CGL:先天緑内障,PEA:水晶体超音波乳化吸引術,IOL:眼内レンズ,Vit:硝子体切除術,ICCE:水晶体?内摘出術,TLO:線維柱帯切開術,TLE:線維柱帯切除術,ExPRESS:ExPRESS挿入術,Baerveldt:Baerveldt緑内障インプラント挿入術,iriddenclesis:虹彩嵌頓術.(102)図1平均眼圧の推移平均眼圧は術前31.3±8.3mmHg(平均±標準偏差)が,術後1,3,6,12,18,24カ月でそれぞれ15.0±8.5,14.2±4.4,12.1±3.2,12.4±3.4,12.0±4.7,10.2±4.4と,いずれの時点でも術前に比べ有意に低下した.図2Kaplan?Meierの生存曲線成功基準を術後眼圧が5?21mmHg,視力が光覚弁以上とした際の生存曲線を示す.実線が生存率,破線が95%信頼区間を表す.術後2年での成功率は93.3%,標準誤差は10%であった.表2経扁平部挿入型BGIの報告例報告者発表年症例数観察期間(平均)成功率判定成功基準VarmaRetal4)199513例13眼18カ月85%最終受診時IOP≦15mmHgLuttrullJKetal5)200048例50眼18カ月80%18カ月Kaplan-MeierIOP≦21mmHg,光覚弁以上,追加手術なしChalamKVetal6)200218例18眼6カ月94%術後6カ月6mmHg<IOP≦21mmHg,光覚弁以上,追加手術なしBanittMRetal7)200930例30眼30カ月72%3年,Kaplan-Meier5mmHg<IOP≦21mmHg,光覚弁以上,追加手術なしTarantolaRMetal8)201118例19眼62カ月74%最終受診時IOP≦21mmHg,光党弁以上,追加手術なし植田ら9)201116例16眼83カ月73%10年,Kaplan-Meier,etal5mmHg≦IOP<22mmHg,光覚弁以上,追加手術なしKolomeyerAMetal10)201238例39眼34カ月82%最終受診時5mmHg<IOP<22mmHg,光覚弁以上,追加手術なし三木ら11)201517例17眼10カ月94%術後6カ月6mmHg≦IOP≦21mmHg,光覚弁以上KolomeyerAMetal12)201579例89眼20カ月67%最終受診時6mmHg≦IOP≦21mmHg,光覚弁以上,追加手術なし本報告201614例15眼17カ月93%2年,Kaplan-Meier5mmHg≦IOP<22mmHg,光覚弁以上,追加手術なし本報告でも,過去の報告と比較して同等の手術成績が得られた.原著図表から直接算出した値を一部含む.(103)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611851186あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(104)

チューブシャント手術を行った発達緑内障の2 例

2012年10月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(10):1411.1414,2012cチューブシャント手術を行った発達緑内障の2例田口万藏*1中村友美*2小林隆幸*2竹中丈二*3木内良明*3*1済生会呉病院眼科*2市立三次中央病院眼科*3広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学(眼科学)TubeShuntOperationsinTwoCasestoRemedyDevelopmentalGlaucomaManzoTaguchi1),TomomiNakamura2),TakayukiKobayashi2),JojiTakenaka3)andYoshiakiKiuchi3)1)DepartmentofOphthalmology,SaiseikaiKureHospital,2)DepartmentofOphthalmology,MiyoshiCentralHospital,3)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity複数回の線維柱帯切開術(TLO)や線維柱帯切除術(TLE)を行ったが,良好な眼圧コントロールが得られずチューブシャント手術を行った発達緑内障を2例経験したので報告する.症例1は0歳,女児.両眼Peters’anomaly,発達緑内障と診断し,TLOとTLEを2回ずつ行ったが眼圧コントロールが不良のためにチューブシャント手術を行った.症例2は0歳,女児.両眼先天無虹彩症,発達緑内障に対してTLOを2回とTLEを1回行ったが眼圧コントロールが不良でありチューブシャント手術を行った.計4眼のうち3眼は最終手術から1年以上22mmHg未満の眼圧を維持している.1眼は白内障術後に眼内炎を生じて眼球癆になった.チューブシャント手術は難治性の小児緑内障に対して適した術式の一つになりうる.Wereporttubeshuntoperationsthatwereperformedtocorrecttwocasesofdevelopmentalglaucoma,becausegoodintraocularpressurecontrolwasnotprovidedbyrepeatedtrabeculotomy(TLO)andtrabeculectomy(TLE).Case1,afemale(age:0years),wediagnosedasbilateralPerters’anomalyanddevelopmentalglaucoma.SheunderwentTLOandTLEtwiceeach,butgoodintraocularpressurecontrolwasnotachieved.Wethereforeperformedtubeshuntoperations.Case2,afemale(age:0years),wediagnosedasbilateralaniridiaanddevelopmentalglaucoma.SheunderwentTLOtwiceandTLEonce,butgoodintraocularpressurecontrolwasnotachieved.Wethereforeperformedtubeshuntoperations.Intraocularpressurewasmaintainedatlessthan22mmHgin3of4eyesforover12monthssincethelastoperation.Theremainingeyesufferedendophthalmitisaftercataractsurgery;phthisisbulbiresulted.Tubeshuntoperationcanbeoneofthesuitabletreatmentforrefractoryinfantiledevelopmentalglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(10):1411.1414,2012〕Keywords:発達緑内障,チューブシャント手術,アーメド緑内障バルブ,バルベルト緑内障インプラント.developmentalglaucoma,tubeshuntoperation,AhmedTMGlaucomaValve,BaerveldtRGlaucomaImplant.はじめに発達緑内障は隅角の発達異常のために房水流出が障害されて眼圧が上昇する.本疾患の発生頻度は出産10,000.12,500に1人で,平均的な眼科医が経験する率は5.10年に1例といわれているまれな疾患である1).その発症が視力発達の時期と重なるため,現在でもなお主要な小児の失明原因の一つであり,わが国の盲学校の失明者のうち4.1%が本症によると報告されている2).本症の治療は手術療法が主体であり,房水流出抵抗の最も高い傍Schlemm管結合組織の抵抗を解除する目的で,線維柱帯切開術や隅角切開術が第一選択とされる.しかし,複数回の手術を行っても眼圧のコントロールが不良な場合も少なくない.欧米において難治性緑内障に対してはチューブシャント手術を行うことが一つの選択肢とされる.今回,複数回の線維柱帯切開術や線維柱帯切除術を行ったが,良好な眼圧コントロールが得られなかったためにチューブシャント手術を行った難治性の発達緑内障の2例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕0歳,女児.〔別刷請求先〕田口万藏:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学Reprintrequests:ManzoTaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima734-8551,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(95)1411 abab図1症例1の初回手術時の前眼部写真a:右眼,b:左眼.両眼とも高度の角膜混濁がある.主訴:両眼角膜混濁.既往歴:ラトケ(Rathke).胞.家族歴:特記事項なし.現病歴:2008年4月1日帝王切開(在胎40週,2,812g)で出生した.出生時から両眼の角膜混濁があるため4月9日(生後8日目)広島大学病院眼科に紹介されて受診した.初回手術時検査所見:角膜は両眼とも中央部は混濁し,輪部からの血管侵入があり,混濁は左眼のほうが強かった(図1).超音波生体顕微鏡では角膜中央部が周辺部よりも薄く,両眼とも瞳孔縁と角膜後面の癒着はなかった.網膜徹照は良好であったが,角膜混濁のため眼底は透見不良であった.超音波Bモード上,眼内に異常はなかった.眼圧はSchotz眼圧計で右眼24.4mmHg,左眼37.2mmHg,Tonopen眼圧計で右眼19.0mmHg,左眼32.0mmHgであった.角膜横径は右眼12.0mm,左眼12.0mmであった.経過:両眼Peters’anomalyあるいは前眼部形成不全に続発した緑内障と診断し,2008年4月11日に両眼とも上方から線維柱帯切開術を行った.5月9日に右眼は耳下側から,左眼は鼻下側から線維柱帯切開術を行い,6月6日に両眼と1412あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012図2症例1の初回チューブシャント手術時の術中写真右眼.GDDを挿入しているところ.も上方からマイトマイシンC併用線維柱帯切除術,8月26日に両眼濾過胞再建術を追加した.しかし,良好な眼圧コントロールが得られなかったため,12月12日に両眼とも耳下側からglaucomadrainagedevices(GDD)(AhmedTMGlaucomaValveFP8)を挿入した(図2).GDD周囲に線維膜増殖が生じて眼圧が上昇してきたために2009年3月6日と6月19日に両眼GDD周囲の癒着を.離した.7月15日,左眼の眼脂が急に増えGDD周囲から上下眼瞼結膜に強い充血を伴っていた.結膜創が解離してGDDを含んだ領域が感染症を生じていたために7月17日に左眼GDDを除去した.炎症がおさまると再度眼圧が高くなったために8月21日に再び左眼の耳上側からGDD(AhmedTMGlaucomaValveFP8)を挿入した.9月29日に左眼,2010年2月5日に両眼のGDD周囲の癒着を.離した.8月27日に右眼のGDD周囲の癒着を.離し,左眼に対し耳下側から2個目のGDD(BaerveldtRGlaucomaImplant250)を挿入した.2011年1月14日に右眼に対しても耳上側から2個目のGDD(BaerveldtRGlaucomaImplant250)を挿入した.左眼の眼圧コントロールは良好であったが超音波生体顕微鏡上,水晶体の著明な膨隆があったため,2月4日に内視鏡下で左眼の白内障手術を行った.経角膜的に23ゲージ硝子体カッターで混濁した水晶体物質を吸引するとともに,水晶体.と前部硝子体の切除を行った.しかし,術後に眼内炎を生じ,3月2日に左眼硝子体手術を行ったが,網膜.離を生じ眼球癆となった.右眼はチューブシャント最終手術後の眼圧は経過良好である.〔症例2〕0歳,女児.主訴:両眼角膜混濁.既往歴:眼以外に異常を指摘されていない.家族歴:特記事項なし.現病歴:2010年9月24日に出生した.出生時から両眼の角膜混濁があり,9月29日(生後5日目)に広島大学病院眼科に紹介されて受診した.(96) aaaab図3症例2の初回手術時の前眼部写真a:右眼,b:左眼.両眼とも角膜混濁がある.初回手術時検査所見:角膜は両眼とも中央部の混濁,肥厚化および輪部からの血管侵入があった(図3).虹彩は両眼とも根部を残し欠損していた(図4).網膜の徹照は良好であったが,角膜混濁のため眼底は透見不良であった.超音波Bモード上,眼内に異常はなかった.眼圧はSchotz眼圧計で右眼22.8mmHg,左眼22.8mmHg,Tonopen眼圧計で右眼47.3mmHg,左眼52.7mmHgであった.角膜横径は右眼11.6mm,左眼11.0mmであった.経過:小児科で行った腹部エコーで左腎に低エコー領域があったが,病的意義はなく両腎に明らかな腫瘤はなかった.両眼先天無虹彩症,続発発達緑内障と診断し,2010年10月12日に両眼とも上方から線維柱帯切開術を行った.眼圧が下降しても角膜の混濁は改善せず,角膜中央部の角膜厚も周辺部と比べて厚いままであった.そのため先天角膜内皮欠損を伴っていると判断した.眼圧が再度上昇したため11月30日に両眼の耳下側から線維柱帯切開術を施行した.さらには2011年1月11日に両眼の上方からマイトマイシンC併用線維柱帯切除術を行った.しかし良好な眼圧コントロールが得られなかったため,2011年2月15日に両眼の耳上側からGDD(AhmedTMGlaucomaValveFP8)を挿入した(図5).6月3日に両眼のGDD周囲の癒着.離を必要としたが,両眼とも術後1年間の眼圧経過は良好であった.(97)b図4症例2の初回手術時の超音波生体顕微鏡画像a:右眼,b:左眼.両眼とも角膜中央部は肥厚しており虹彩は短く写っている.図5症例2の初回チューブシャント手術時の術中写真左眼.矢印が指す方向にチューブの先端がある.II考察今回,度重なる線維柱帯切開術や線維柱帯切除術にても眼圧コントロールが不良な難治性の発達緑内障2症例4眼に対し,チューブシャント手術を行うことによって,4眼中3眼は最終手術後良好な眼圧コントロールが得られた.1眼は白内障手術後に眼内炎となった後に網膜.離を生じて,眼球癆になった.発達緑内障の治療は線維柱帯切開術または隅角切開術が第一選択とされている.複数回手術を要する難治症例にはマイあたらしい眼科Vol.29,No.10,20121413 トマイシンC併用線維柱帯切除術を行う.線維柱帯切開術による治療成績は過去の報告によると目標眼圧を20mmHgとした場合,原発性の発達緑内障では65.85%がコントロール良好であったのに対し,他の先天異常を伴う発達緑内障では30.80%と隅角発達異常のみの症例に比べ,手術成績は劣るとの報告がある3).今回は2例とも隅角の発達異常以外の合併症をもっていた.また,早期に発見される先天緑内障は予後不良といわれている4)が,今回の2症例とも出生直後から緑内障と診断されている.線維柱帯切開術の予後が不良であり,複数回の手術を要したことは過去の報告と矛盾しない.度重なる線維柱帯切除術でもコントロール不良となった難治性緑内障への対応は困難である.つぎの選択肢としては毛様体光凝固術,毛様体冷凍凝固術などとともにチューブシャント手術があげられる.毛様体破壊術の侵襲性や合併症を考慮すると,毛様体破壊術の前にチューブシャント手術を行うという選択肢もありうる.症例はいずれも乳児であり,眼球の発育や正常機能を抑制してしまうという点でも,毛様体破壊術はやはり最後に選択されるべきである5).足立ら6)は数回の毛様体破壊術を行ったが,眼圧の改善がなかった発達緑内障の1症例に対し,チューブシャント手術を行ったところ,良好な眼圧コントロールが得られたことも報告している.チューブシャント手術はGDDを設置して房水を眼外に導出させる手術であり,1906年のRolletらの報告に始まり,100年以上にわたり素材や形状の改良を受け今日に至る術式である7).従来,チューブシャント手術は難治性緑内障に対してのみ行われてきたが,前房にGDDを挿入したBaerveldtRGlaucomaImplantとマイトマイシンC併用線維柱帯切除術との前向き比較試験であるTheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)Study8)にて,比較的軽症な緑内障症例でもマイトマイシンC併用線維柱帯切除術群よりもチューブシャント手術群の眼圧成績が良く,合併症も少ないという報告があった.その結果を受け,米国では従来よりも早い段階からチューブシャント手術を導入する傾向がある9,10).国内において前房留置型チューブシャント手術の成績は必ずしも良いものではない.その理由として,対象が難治性の緑内障であることの他に,人種が異なる影響も示唆されている11).一方で,同じ黄色人種である中国人ではチューブシャント手術の結果は白色人種と変わらないという報告もある12).今回の2例は難治性の発達緑内障であるが,4眼中3眼は最終手術から12カ月以上良好な眼圧が維持できた.症例1はAhmedTMGlaucomaValve挿入時には繰り返しGDD周囲の線維膜の.離が必要であったが,BaerveldtRGlaucomaValve手術後の眼圧は良好に保たれている.TheAhmedBaerveldtComparison(ABC)Study13)においては,1年後の目標眼圧を14mmHg以下とすると眼圧下降率がBaerveldtRGlaucomaImplantのほうが良好であるが,重篤な合併症はAhmedTMGlaucomaValveのほうが少ないと報1414あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012告されている.一方で眼圧下降率や合併症などは両者に差はないとする報告がある14).AhmedTMGlaucomaValveの最大の特徴は内圧が8mmHgで開放する弁を有していることである.素材は従来はポリプロピレンであったが,最近はシリコーン製であり,プレート面積は184mm2と96mm2の製品があるが,今回は小児用のサイズの小さいAhmedTMGlaucomaValveFP8を挿入した.BaerveldtRGlaucomaImplantは弁を有していない.素材はシリコーン製であり,プレート面積は350mm2と250mm2の製品があるが,今回は250mm2のサイズのものを挿入している.それらの要因が今回の結果に影響を与えていることが推測される.小児では,レーザー切糸術を含めて術後のケアを十分に行うことは困難である.したがって合併症がより少なく,術後の処置が少ない術式を選択したい.現時点で,チューブシャント手術は小児の難治性の緑内障に対して適した術式の一つになりうると思われる.文献1)前田秀高,根木昭:小児緑内障.眼科43:895-902,20012)山本節,溝上國義,勝盛紀夫ほか:先天緑内障の長期予後.あたらしい眼科4:1503-1508,19873)原田陽介,望月英毅,高松倫也ほか:発達緑内障における線維柱帯切開術の手術成績.眼科手術23:469-472,20104)根木昭:小児緑内障の診断と治療.あたらしい眼科27:1387-1401,20105)福地健郎:毛様体破壊術に踏み切るとき.あたらしい眼科19:1441-1446,20026)足立初冬,高橋宏和,庄司拓平ほか:経毛様体扁平部挿入型インプラントで治療した難治性緑内障.日眼会誌112:511-518,20087)RolletM,MoreauM:Traitementdelehypopyonparledrainagecapillariedelachamberanterieure.RevGenOphthalmol25:481-489,19068)GeddeSJ,SchiffmanJC,FeuerWJetal:Three-yearfollow-upoftheTubeVersusTrabeculectomyStudy.AmJOphthalmol148:670-684,20099)石田恭子:インプラント手術の可能性.あたらしい眼科27:1089-1090,201010)石田恭子:インプラント手術.臨眼65(増刊号):228-232,201111)高本紀子,林康司,前田利根ほか:AhmedTMGlaucomaValveの手術成績.あたらしい眼科17:281-285,200012)LaiJS,PoonAS,ChuaJKetal:EfficacyandsafetyoftheAhmedglaucomavalveimplantinChineseeyeswithcomplicatedglaucoma.BrJOphthalmol84:718-721,200013)BudenzDL,BartonK,FeuerWJetal:TreatmentoutcomesintheAhmedBaerveldtComparisonStudyafter1yearoffollow-up.Ophthalmology118:443-452,201114)SyedHM,LawSK,NamSHetal:Baerveldt-350implantversusAhmedvalveforrefractoryglaucoma:acase-controlledcomparison.JGlaucoma13:38-45,2004(98)