《第18回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科30(10):1457.1460,2013c対糖尿病網膜症汎網膜光凝固術における従来法とパターンレーザーの比較大久保安希子森下清太家久耒啓吾鈴木浩之佐藤孝樹石崎英介喜田照代植木麻理池田恒彦大阪医科大学眼科学教室ComparisonbetweenConventionalPanretinalPhotocoagulationandPatternScanLaserPhotocoagulationforTreatingDiabeticRetinopathyAkikoOkubo,SeitaMorishita,KeigoKakurai,HiroyukiSuzuki,TakakiSato,EisukeIshizaki,TeruyoKida,MariUekiandTsunehikoIkedaDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege目的:糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固(PRP)を従来法で行った群(以下,従来群)と,パターンレーザーを用いた群(以下,パターン群)で,視力の変動および中心窩網膜厚の変化量を比較検討する.方法:対象は糖尿病網膜症でPRPの適応となった12例21眼(従来群11眼,パターン群10眼).光凝固はNIDEK社のMC-500Vixiを用いた.術前と術後1カ月のlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力の変化量および術後1カ月に撮影した光干渉断層計(OCT)で中心窩網膜厚の変化量を測定し,比較検討した.結果:従来群,パターン群ともに,logMAR視力・中心窩網膜厚は術前後で有意差は認めなかった.従来群とパターン群を比較しても,視力の変化・中心窩網膜厚の変化量ともに有意な差異はなかった.結論:糖尿病網膜症に対するPRPを従来法とパターンレーザーで行っても,術後早期においては特に差異はないと考えられた.Purpose:Tocomparechangesinvisualacuity(VA)andcentralmacularthicknessfollowingconventionalpanretinalphotocoagulation(PRP)orpatternscanlaserPRPforthetreatmentofdiabeticretinopathy(DR).Methods:Thisprospectivestudyinvolved21eyesof12patientswithDRtreatedbyPRP.Ofthe21eyes,11weretreatedusingconventionalPRPand10weretreatedusingpatternscanlaserPRP.Inallcases,amulticolorscanlaserphotocoagulator(MC-500Vixi;NIDEKCo.,Ltd.,Gamagori,Japan)wasusedtoperformtheoperation.Eachpatient’sVAinlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)unitsandcentralmacularthickness,asmeasuredbyopticalcoherencetomography,wereevaluatedpreoperativelyandat1monthpostoperatively.Results:Nopatientsshowedanysigni.cantchangeinVAorcentralmacularthicknessfollowingeitherconven-tionalPRPorpatternscanlaserPRP.Conclusion:The.ndingsofthisstudysuggestthatthesetwoPRPmethodsareequallye.ectivefortreatingDR.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(10):1457.1460,2013〕Keywords:糖尿病網膜症,汎網膜光凝固術,パターンスキャンレーザー,中心窩網膜厚.diabeticretinopathy,panretinalphotocoagulation,patternscanlaser,centralmacularthickness.はじめに汎網膜光凝固術(panretinalphotocoagulation:PRP)は網膜無灌流域を有する増殖前糖尿病網膜症,増殖糖尿病網膜症において確立された治療法である.その一方で,黄斑浮腫による視力低下や視野異常などの合併症,治療時の疼痛などが臨床上問題となる.PRPの方法として高出力短時間照射のパターンスキャンレーザーが開発され,2005年に米国FDA(食品医薬品局)で認可された後,日本でも2008年から使用可能となった.疼痛が従来よりも軽度で,凝固斑も均一に多数照射することができ,短時間で照射を行えることから,〔別刷請求先〕大久保安希子:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:AkikoOkubo,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-cho,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(113)1457PRPの負担軽減につながる装置としてここ数年で急激に広がりをみせている1.3).レーザー照射による網膜内層への組織障害も少ないといわれている4,5).パターンレーザーの有効性はTOPCON社のPASCALを用いての報告は散見されるが,その他の機械を用いての評価の報告はまだ少数である.今回筆者らはNIDEK社のMC-500Vixiを用いて,PRPを従来の単照射で行った群(以下,従来群)とパターンスキャンレーザーを用いて行った群(以下,パターン群)で,視力の変動および中心窩網膜厚の変化量を比較検討し,合併症の差異を検討したので報告する.I対象および方法大阪医科大学附属病院において,増殖前糖尿病網膜症(preproliferativediabeticretinopathy:PPDR)でPRPの適応となった13例21眼(従来群11眼,パターン群10眼)を対象として診療録に基づいて後ろ向きに比較検討した.平均年齢は57歳(48.73歳)で,女性8名12眼,男性5例9眼であった.白内障と屈折異常を除く眼科疾患を有する例,観察期間中にトリアムシノロンTenon.下注射を施行した例,6カ月以内の内眼手術の既往がある例,緑内障・ぶどう膜炎の既往のある例は除外した.PRPにはNIDEK社のMC-500Vixiを用いた.従来群は出力160.280mW,照射時間0.3秒,全照射数880.1,890発で,波長はすべてyellowを用い,全例4回の照射で行った.パターン群は,出力300.480mW,照射時間0.02秒,全照射数は1,349.2,582発で,波長はすべてyellowを用い,平均2回で照射を行った(表1).PRPを施行した術者は複数である.検討項目は,術前術後1カ月のlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)により計測した中心窩網膜厚の2項目で比較検討を行った.検定にはpaired-ttestを用いた.II結果従来群ではlogMAR視力は術前0.3±0.32,術後0.22±0.35で,術前後1カ月間で有意差は認めなかった(p=0.54).OCTにより測定した中心窩網膜厚は術前277±229.8μm,術後301±176.0μmで,こちらも同様に術前後で有意な変化は認めなかった(p=0.94)(図1).パターン群においても,logMAR視力は術前0.025±0.26,術後0±0.33で,術前後表1対象従来群パターン群症例照射数出力(mW)照射回数症例照射数出力(mW)照射回数64歳女性,右眼1,142250.280448歳男性,右眼2,240350.3902左眼1,127260.2804左眼2,073350.360246歳女性,右眼1,562220.260448歳男性,右眼1,8214502左眼1,070180.2204左眼1,349450.480158歳女性,右眼1,312160.200455歳女性,右眼2,067350258歳女性,左眼880160.200458歳女性,左眼2,330350273歳男性,右眼1,105160.180464歳女性,右眼1,718300.3802左眼1,066160.1804左眼2,148340.380370歳男性,右眼1,856160.230470歳女性,右眼2,5823002左眼1,890160.2004左眼1,989350272歳男性,左眼1,011160.2004従来群とパターン群の属性を表に示す.従来群は,出力160.280mW,照射時間0.3秒,照射数880.1,890発で全例照射回数は4回行った.パターン群は,出力300.480mW,照射時間0.02秒,照射数は1,349.2,582発で,照射回数の平均は2回で行った.従来群パターン群1.4PRP前PRP後1.4PRP前PRP後図1PRP前後のlogMAR視力の変化量PRP前後でlogMAR視力の変化量を比較した.従来群は術前0.3±0.32,術後0.22±0.35で0.90.9logMAR視力logMAR視力PRP前後で有意差を認めず(p=0.54),パタ0.40.4-0.1-0.1ーン群でも術前0.025±0.26,術後0±0.33と有意差を認めなかった(p=0.52).-0.6-0.61458あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(114)従来群パターン群900PRP前PRP後900PRP前PRP後800中心窩網膜厚(μm)中心窩網膜厚(μm)400300200700300200群は術前277±229.8μm,術後301±176.0μmでPRP前後で有意差を認めず(p=0.94),パターン群でも術前220±151.3μm,術後227±178.5μmと有意差を認めなかった(p=0.35).100100000.2従来群パターン群100従来群パターン群0.10-100-200中心窩網膜厚(μm)図3logMAR視力と中心窩網膜厚の変化量の比較0logMAR視力従来群とパターン群間で視力の変化量と中心窩網膜厚の変化量をそれぞれ比較した.logMAR視力の変化量はp=-0.10.29,中心窩網膜厚の変化量はp=0.69で有意差はみられ-0.2-300なかった.-0.3-0.4で有意差は認めず(p=0.52),中心窩網膜厚は術前220±151.3μm,術後227±178.5μmで,同様に術前後で有意差は認めなかった(p=0.35)(図2).従来群とパターン群の視力の変化量と中心窩網膜厚の変化量を比較検討したが,どちらも視力変化(p=0.29),中心窩網膜厚の変化量(p=0.69)とも有意差は認めなかった(図3).III考按本報告は,PPDR症例に対してのPRPをMC-500Vixiを用いて,従来法とパターン法で行い,視力と中心窩網膜厚の変化を後ろ向きに比較検討したものである.PRP終了後1カ月の時点における比較ではあるが,2項目とも有意な差異は認めなかった.パターンスキャンレーザーの特徴は,従来法と異なり,1ショット当たりの基本設定が高出力かつ短照射時間で,複数のショットを一度にパターン照射することができるところである.1ショット当たりの照射エネルギーが少ないことで,患者への疼痛が軽減され,また網膜への組織障害も少ないとされる.合計で要する照射時間も短時間で済み,PRP完成に要する回数も少なく,総時間も短くなる3).PASCALを用いた過去の報告では,光凝固の効果も同等であるとされている6.8).組織障害については,ウサギ眼において,0.005秒から0.1秒の照射を行い,網膜の組織変化を4カ月間観察した実験(115)-400-500で,照射時間が短いほど網膜組織の障害が少ないことが示されている9).実際に臨床的にも,術前と術1カ月後のOCT画像を比較すると,従来法では網膜内層まで波及していた高輝度反射が,パターン法では網膜色素上皮周囲のみに限局していたとの報告もある5).また,黄斑浮腫などの網膜組織障害に起因する合併症が,パターン法において従来法よりも軽減されている可能性が示唆されている10).また,今回は全例PPDRの症例に対しての照射を検討したが,従来法で施行するか,パターン法を用いるかの選択は術者の主観的基準で選ばれた.パターン法は網膜内層への組織障害が少ないとされる反面,網膜内層の虚血に対する有効性は低いとも考えられる.PDR症例の鎮静化という観点では照射設定によっては不十分であったという報告もある11).短期では糖尿病網膜症の治療効果としてパターン法は従来法と遜色ないことが報告されている6.8)が,長期成績についてはいまだ不明で,今後特に増殖性変化の抑制効果などについては多数例での検討が必要である.どのような症例に対してパターン法を選択するのが適切であるか,また,より低侵襲でかつ治療効果の得られる照射条件はどのようなものであるかなど,さらなる検討が必要であると考える.従来法とパターン法の比較に関しては,PASCALを用いての報告が過去にいくつかなされているが,疼痛の軽減,照射時間の短縮,照射回数の減少などが共通した利点としてあげられている.本報告では疼痛に関しては検討しなかったが,実際PASCALを用いて従来法と比較した臨床試験では,あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131459痛みの自覚が有意に少なかったと報告されている12,13).これは,疼痛のおもな原因は光凝固による脈絡膜への熱拡散とされており,パターン法では障害が網膜色素上皮周囲に限局することと矛盾しない.また,PRP完成にかかる術回数は通常,従来法で平均4回,パターン法では平均2回と短期間で終了できるため,患者,術者ともに負担軽減になることは確かである.治療効果,合併症に長期予後の差異がないとすれば,疼痛や所要時間を考慮すると,パターン法のほうが有利かつ効率的であると考える.いずれにせよ,長期予後に関してはさらなる検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)福田恒輝:マルチカラーパターンスキャンレーザー光凝固装置.眼科手術25:239-243,20122)野崎実穂:PASCAL.眼科手術21:459-462,20083)加藤聡:パターンスキャンレーザー.眼科54:63-67,20124)JainA,BlumenkranzMS,PaulusYetal:E.ectofpulsedurationonsizeandcharacteroflesioninretinalphotoco-agulation.ArchOphthalmol126:75-85,20085)植田次郎,野崎実穂,小椋祐一郎ほか:網膜光凝固後の組織反応の光干渉断層計による評価─PASCALと従来レーザーとの比較.臨眼64:1111-1115,20106)須藤史子,志村雅彦,堀貞夫ほか:糖尿病網膜症における汎網膜光凝固術─従来法とパターン高出力短照射時間法との比較.臨眼65:693-698,20117)MuqitMM,MarcellinGR,StangaPEetal:Single-sessionvsmultiple-sessionpatternscanninglaserpanretinalpho-tocoagulationinproliferativediabeticretinopathy.ArchOphthalmol128:525-533,20108)MuqitMM,MarcellinoGR,StangaPEetal:PASCALpanretinalablationandregressionanalysisinproliferativediabeticretinopathy:ManchesterPascalStudyReport4.Eye25:1447-1456,20119)PaulusYM,JainA,MarmorMetal:Healingofretinalphotocoagulationlesions.InvestOphthalmolVisSci49;5540-5545,200810)MuqitMM,MarcellinoGR,StangaPEetal:Randomizedclinicaltrialtoevaluatethee.ectsofPASCALpanretinalphotocoagulationonmacularnerve.berlayer:Man-chesterPascalStudyReport3.Retina31:1699-1707,201111)ChappelowAV,TanK,KaiserPKetal:Panretinalpho-tocoagulationforproliferativediabeticretinopathy:Pat-ternscanlaserversusargonlaser.AmJOphthalmol153:137-142,201212)Al-HussainyS,DodsonPM,GibsonJM:Painresponseandfollow-upofpatientsundergoingpanretinallaserpho-tocoagulationwithreducedexposuretimes.Eye22:96-99,200813)MuqitMMK,MarcellinGR,StangaPEetal:PainresponsesofPASCAL20msmulti-spotand100mssin-gle-spotpanretinalphotocoagulation:ManchesterPascalStudyReport2.BrJOphthalmol94:1493-1498,2010***1460あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(116)