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対糖尿病網膜症汎網膜光凝固術における従来法とパターンレーザーの比較

2013年10月31日 木曜日

《第18回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科30(10):1457.1460,2013c対糖尿病網膜症汎網膜光凝固術における従来法とパターンレーザーの比較大久保安希子森下清太家久耒啓吾鈴木浩之佐藤孝樹石崎英介喜田照代植木麻理池田恒彦大阪医科大学眼科学教室ComparisonbetweenConventionalPanretinalPhotocoagulationandPatternScanLaserPhotocoagulationforTreatingDiabeticRetinopathyAkikoOkubo,SeitaMorishita,KeigoKakurai,HiroyukiSuzuki,TakakiSato,EisukeIshizaki,TeruyoKida,MariUekiandTsunehikoIkedaDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege目的:糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固(PRP)を従来法で行った群(以下,従来群)と,パターンレーザーを用いた群(以下,パターン群)で,視力の変動および中心窩網膜厚の変化量を比較検討する.方法:対象は糖尿病網膜症でPRPの適応となった12例21眼(従来群11眼,パターン群10眼).光凝固はNIDEK社のMC-500Vixiを用いた.術前と術後1カ月のlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力の変化量および術後1カ月に撮影した光干渉断層計(OCT)で中心窩網膜厚の変化量を測定し,比較検討した.結果:従来群,パターン群ともに,logMAR視力・中心窩網膜厚は術前後で有意差は認めなかった.従来群とパターン群を比較しても,視力の変化・中心窩網膜厚の変化量ともに有意な差異はなかった.結論:糖尿病網膜症に対するPRPを従来法とパターンレーザーで行っても,術後早期においては特に差異はないと考えられた.Purpose:Tocomparechangesinvisualacuity(VA)andcentralmacularthicknessfollowingconventionalpanretinalphotocoagulation(PRP)orpatternscanlaserPRPforthetreatmentofdiabeticretinopathy(DR).Methods:Thisprospectivestudyinvolved21eyesof12patientswithDRtreatedbyPRP.Ofthe21eyes,11weretreatedusingconventionalPRPand10weretreatedusingpatternscanlaserPRP.Inallcases,amulticolorscanlaserphotocoagulator(MC-500Vixi;NIDEKCo.,Ltd.,Gamagori,Japan)wasusedtoperformtheoperation.Eachpatient’sVAinlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)unitsandcentralmacularthickness,asmeasuredbyopticalcoherencetomography,wereevaluatedpreoperativelyandat1monthpostoperatively.Results:Nopatientsshowedanysigni.cantchangeinVAorcentralmacularthicknessfollowingeitherconven-tionalPRPorpatternscanlaserPRP.Conclusion:The.ndingsofthisstudysuggestthatthesetwoPRPmethodsareequallye.ectivefortreatingDR.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(10):1457.1460,2013〕Keywords:糖尿病網膜症,汎網膜光凝固術,パターンスキャンレーザー,中心窩網膜厚.diabeticretinopathy,panretinalphotocoagulation,patternscanlaser,centralmacularthickness.はじめに汎網膜光凝固術(panretinalphotocoagulation:PRP)は網膜無灌流域を有する増殖前糖尿病網膜症,増殖糖尿病網膜症において確立された治療法である.その一方で,黄斑浮腫による視力低下や視野異常などの合併症,治療時の疼痛などが臨床上問題となる.PRPの方法として高出力短時間照射のパターンスキャンレーザーが開発され,2005年に米国FDA(食品医薬品局)で認可された後,日本でも2008年から使用可能となった.疼痛が従来よりも軽度で,凝固斑も均一に多数照射することができ,短時間で照射を行えることから,〔別刷請求先〕大久保安希子:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:AkikoOkubo,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-cho,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(113)1457PRPの負担軽減につながる装置としてここ数年で急激に広がりをみせている1.3).レーザー照射による網膜内層への組織障害も少ないといわれている4,5).パターンレーザーの有効性はTOPCON社のPASCALを用いての報告は散見されるが,その他の機械を用いての評価の報告はまだ少数である.今回筆者らはNIDEK社のMC-500Vixiを用いて,PRPを従来の単照射で行った群(以下,従来群)とパターンスキャンレーザーを用いて行った群(以下,パターン群)で,視力の変動および中心窩網膜厚の変化量を比較検討し,合併症の差異を検討したので報告する.I対象および方法大阪医科大学附属病院において,増殖前糖尿病網膜症(preproliferativediabeticretinopathy:PPDR)でPRPの適応となった13例21眼(従来群11眼,パターン群10眼)を対象として診療録に基づいて後ろ向きに比較検討した.平均年齢は57歳(48.73歳)で,女性8名12眼,男性5例9眼であった.白内障と屈折異常を除く眼科疾患を有する例,観察期間中にトリアムシノロンTenon.下注射を施行した例,6カ月以内の内眼手術の既往がある例,緑内障・ぶどう膜炎の既往のある例は除外した.PRPにはNIDEK社のMC-500Vixiを用いた.従来群は出力160.280mW,照射時間0.3秒,全照射数880.1,890発で,波長はすべてyellowを用い,全例4回の照射で行った.パターン群は,出力300.480mW,照射時間0.02秒,全照射数は1,349.2,582発で,波長はすべてyellowを用い,平均2回で照射を行った(表1).PRPを施行した術者は複数である.検討項目は,術前術後1カ月のlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)により計測した中心窩網膜厚の2項目で比較検討を行った.検定にはpaired-ttestを用いた.II結果従来群ではlogMAR視力は術前0.3±0.32,術後0.22±0.35で,術前後1カ月間で有意差は認めなかった(p=0.54).OCTにより測定した中心窩網膜厚は術前277±229.8μm,術後301±176.0μmで,こちらも同様に術前後で有意な変化は認めなかった(p=0.94)(図1).パターン群においても,logMAR視力は術前0.025±0.26,術後0±0.33で,術前後表1対象従来群パターン群症例照射数出力(mW)照射回数症例照射数出力(mW)照射回数64歳女性,右眼1,142250.280448歳男性,右眼2,240350.3902左眼1,127260.2804左眼2,073350.360246歳女性,右眼1,562220.260448歳男性,右眼1,8214502左眼1,070180.2204左眼1,349450.480158歳女性,右眼1,312160.200455歳女性,右眼2,067350258歳女性,左眼880160.200458歳女性,左眼2,330350273歳男性,右眼1,105160.180464歳女性,右眼1,718300.3802左眼1,066160.1804左眼2,148340.380370歳男性,右眼1,856160.230470歳女性,右眼2,5823002左眼1,890160.2004左眼1,989350272歳男性,左眼1,011160.2004従来群とパターン群の属性を表に示す.従来群は,出力160.280mW,照射時間0.3秒,照射数880.1,890発で全例照射回数は4回行った.パターン群は,出力300.480mW,照射時間0.02秒,照射数は1,349.2,582発で,照射回数の平均は2回で行った.従来群パターン群1.4PRP前PRP後1.4PRP前PRP後図1PRP前後のlogMAR視力の変化量PRP前後でlogMAR視力の変化量を比較した.従来群は術前0.3±0.32,術後0.22±0.35で0.90.9logMAR視力logMAR視力PRP前後で有意差を認めず(p=0.54),パタ0.40.4-0.1-0.1ーン群でも術前0.025±0.26,術後0±0.33と有意差を認めなかった(p=0.52).-0.6-0.61458あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(114)従来群パターン群900PRP前PRP後900PRP前PRP後800中心窩網膜厚(μm)中心窩網膜厚(μm)400300200700300200群は術前277±229.8μm,術後301±176.0μmでPRP前後で有意差を認めず(p=0.94),パターン群でも術前220±151.3μm,術後227±178.5μmと有意差を認めなかった(p=0.35).100100000.2従来群パターン群100従来群パターン群0.10-100-200中心窩網膜厚(μm)図3logMAR視力と中心窩網膜厚の変化量の比較0logMAR視力従来群とパターン群間で視力の変化量と中心窩網膜厚の変化量をそれぞれ比較した.logMAR視力の変化量はp=-0.10.29,中心窩網膜厚の変化量はp=0.69で有意差はみられ-0.2-300なかった.-0.3-0.4で有意差は認めず(p=0.52),中心窩網膜厚は術前220±151.3μm,術後227±178.5μmで,同様に術前後で有意差は認めなかった(p=0.35)(図2).従来群とパターン群の視力の変化量と中心窩網膜厚の変化量を比較検討したが,どちらも視力変化(p=0.29),中心窩網膜厚の変化量(p=0.69)とも有意差は認めなかった(図3).III考按本報告は,PPDR症例に対してのPRPをMC-500Vixiを用いて,従来法とパターン法で行い,視力と中心窩網膜厚の変化を後ろ向きに比較検討したものである.PRP終了後1カ月の時点における比較ではあるが,2項目とも有意な差異は認めなかった.パターンスキャンレーザーの特徴は,従来法と異なり,1ショット当たりの基本設定が高出力かつ短照射時間で,複数のショットを一度にパターン照射することができるところである.1ショット当たりの照射エネルギーが少ないことで,患者への疼痛が軽減され,また網膜への組織障害も少ないとされる.合計で要する照射時間も短時間で済み,PRP完成に要する回数も少なく,総時間も短くなる3).PASCALを用いた過去の報告では,光凝固の効果も同等であるとされている6.8).組織障害については,ウサギ眼において,0.005秒から0.1秒の照射を行い,網膜の組織変化を4カ月間観察した実験(115)-400-500で,照射時間が短いほど網膜組織の障害が少ないことが示されている9).実際に臨床的にも,術前と術1カ月後のOCT画像を比較すると,従来法では網膜内層まで波及していた高輝度反射が,パターン法では網膜色素上皮周囲のみに限局していたとの報告もある5).また,黄斑浮腫などの網膜組織障害に起因する合併症が,パターン法において従来法よりも軽減されている可能性が示唆されている10).また,今回は全例PPDRの症例に対しての照射を検討したが,従来法で施行するか,パターン法を用いるかの選択は術者の主観的基準で選ばれた.パターン法は網膜内層への組織障害が少ないとされる反面,網膜内層の虚血に対する有効性は低いとも考えられる.PDR症例の鎮静化という観点では照射設定によっては不十分であったという報告もある11).短期では糖尿病網膜症の治療効果としてパターン法は従来法と遜色ないことが報告されている6.8)が,長期成績についてはいまだ不明で,今後特に増殖性変化の抑制効果などについては多数例での検討が必要である.どのような症例に対してパターン法を選択するのが適切であるか,また,より低侵襲でかつ治療効果の得られる照射条件はどのようなものであるかなど,さらなる検討が必要であると考える.従来法とパターン法の比較に関しては,PASCALを用いての報告が過去にいくつかなされているが,疼痛の軽減,照射時間の短縮,照射回数の減少などが共通した利点としてあげられている.本報告では疼痛に関しては検討しなかったが,実際PASCALを用いて従来法と比較した臨床試験では,あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131459痛みの自覚が有意に少なかったと報告されている12,13).これは,疼痛のおもな原因は光凝固による脈絡膜への熱拡散とされており,パターン法では障害が網膜色素上皮周囲に限局することと矛盾しない.また,PRP完成にかかる術回数は通常,従来法で平均4回,パターン法では平均2回と短期間で終了できるため,患者,術者ともに負担軽減になることは確かである.治療効果,合併症に長期予後の差異がないとすれば,疼痛や所要時間を考慮すると,パターン法のほうが有利かつ効率的であると考える.いずれにせよ,長期予後に関してはさらなる検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)福田恒輝:マルチカラーパターンスキャンレーザー光凝固装置.眼科手術25:239-243,20122)野崎実穂:PASCAL.眼科手術21:459-462,20083)加藤聡:パターンスキャンレーザー.眼科54:63-67,20124)JainA,BlumenkranzMS,PaulusYetal:E.ectofpulsedurationonsizeandcharacteroflesioninretinalphotoco-agulation.ArchOphthalmol126:75-85,20085)植田次郎,野崎実穂,小椋祐一郎ほか:網膜光凝固後の組織反応の光干渉断層計による評価─PASCALと従来レーザーとの比較.臨眼64:1111-1115,20106)須藤史子,志村雅彦,堀貞夫ほか:糖尿病網膜症における汎網膜光凝固術─従来法とパターン高出力短照射時間法との比較.臨眼65:693-698,20117)MuqitMM,MarcellinGR,StangaPEetal:Single-sessionvsmultiple-sessionpatternscanninglaserpanretinalpho-tocoagulationinproliferativediabeticretinopathy.ArchOphthalmol128:525-533,20108)MuqitMM,MarcellinoGR,StangaPEetal:PASCALpanretinalablationandregressionanalysisinproliferativediabeticretinopathy:ManchesterPascalStudyReport4.Eye25:1447-1456,20119)PaulusYM,JainA,MarmorMetal:Healingofretinalphotocoagulationlesions.InvestOphthalmolVisSci49;5540-5545,200810)MuqitMM,MarcellinoGR,StangaPEetal:Randomizedclinicaltrialtoevaluatethee.ectsofPASCALpanretinalphotocoagulationonmacularnerve.berlayer:Man-chesterPascalStudyReport3.Retina31:1699-1707,201111)ChappelowAV,TanK,KaiserPKetal:Panretinalpho-tocoagulationforproliferativediabeticretinopathy:Pat-ternscanlaserversusargonlaser.AmJOphthalmol153:137-142,201212)Al-HussainyS,DodsonPM,GibsonJM:Painresponseandfollow-upofpatientsundergoingpanretinallaserpho-tocoagulationwithreducedexposuretimes.Eye22:96-99,200813)MuqitMMK,MarcellinGR,StangaPEetal:PainresponsesofPASCAL20msmulti-spotand100mssin-gle-spotpanretinalphotocoagulation:ManchesterPascalStudyReport2.BrJOphthalmol94:1493-1498,2010***1460あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(116)

パターンスキャンレーザーを用いた網膜光凝固部位のSD-OCT による経時的評価

2013年10月31日 木曜日

《第18回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科30(10):1435.1439,2013cパターンスキャンレーザーを用いた網膜光凝固部位のSD-OCTによる経時的評価平野隆雄赤羽圭太鳥山佑一家里康弘村田敏規信州大学医学部眼科学教室EvaluationofTime-dependentMorphologicChangesCausedbyPhotocoagulationwithPatternScanLaserTakaoHirano,KeitaAkahane,YuuichiToriyama,YasuhiroIesatoandToshinoriMurataDepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicine目的:パターンスキャンレーザーと従来条件で光凝固を行い,凝固斑の形態変化をスペクトラルドメイン光干渉断層計(spectraldomainopticalcoherencetomography:SD-OCT)で経時的に比較検討する.対象および方法:対象は未治療の増殖前・増殖糖尿病網膜症患者7例10眼.パターン照射と従来照射で5眼ずつ汎網膜光凝固を施行.各症例で3カ所の凝固部位をSD-OCTで1分・20分・1週間後に測定.横径・縦径・網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)厚を比較検討した.結果:パターン照射群では凝固斑横径が1分後に比し20分後に拡大し,1週間後に縮小を認めた(各373±46μm,407±36μm,283±33μm).GCC厚は従来照射群で1分後に比し20分後に増加し1週間後に減少したが(各71±10μm,87±20μm,53±17μm),パターン照射群では観察期間に有意な変化を認めなかった(各55±11μm,54±8μm,59±8μm).結論:パターン照射では従来照射と異なり,照射20分後に横径は拡大し,1週間後には縮小した.また,GCC厚の経時的変化が少ないことからパターンスキャンレーザーによる光凝固では従来条件に比し網膜内層への障害が少ないと考えられた.Purpose:Usingspectraldomainopticalcoherencetomography(SD-OCT),tocomparetime-dependentmor-phologicchangesinretinallaserlesionsmadebypatternscanlaserwiththosemadebyconventionallaserphoto-coagulation.Methods:Studieswere10eyesof7patientswithtreatment-naiveproliferativeorpreproliferativediabeticretinopathy;5eyesweretreatedwithpatternscanlaserand5weretreatedwithconventionallaserpho-tocoagulation.Inalleyes,SD-OCTwasperformedat1minute,20minutesand1weekafterphotocoagulation,toevaluatethetransversediameter,longitudinaldiameterandganglioncellcomplex(GCC)thicknessofburnlesions.Results:Themeantransversediameterofthepatternscanlaserburnswasgreaterat20minutesthanat1min-ute,butsmaller1weekpostoperatively(373±46μm,407±36μm,and283±33μm,respectively).Inburnscreatedbypatternscanlaser,GCCthicknessremainedstableateachtimepoint(55±11μm,54±8μmand59±8μm,respectively),whereasinburnscreatedbyconventionallaserphotocoagulation,GCCshowedaneventualdecrease(71±10μm,87±20μmand53±17μm,respectively).Conclusions:Burnsmadebypatternscanlaserexpandoverthe.rst20minutesandlaterreduceinsize.ThestabilityofGCCthicknessfollowingpatternscanburnssug-geststhatthistypeoflasercausesconsiderablylessdamagetotheinnerretina.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(10):1435.1439,2013〕Keywords:糖尿病網膜症,汎網膜光凝固,網膜神経節細胞複合体,パターンスキャンレーザー,スペクトラルドメイン光干渉断層計.diabeticretinopathy,panretinalphotocoagulation,ganglioncellcomplex,patternscanlaser,spectraldomainopticalcoherencetomography.〔別刷請求先〕平野隆雄:〒390-8621松本市旭3-1-1信州大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TakaoHirano,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicine,3-1-1Asahi,Matsumoto390-8621,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(91)1435はじめにDiabeticRetinopathyStudyが糖尿病網膜症に対する有効性を報告して以降1),汎網膜光凝固術(panretinalphotoco-agulation:PRP)は,糖尿病網膜症治療のスタンダードとして広く臨床の場で用いられている.しかし,PRPの問題点として凝固時の疼痛や手術時間の長さなどが依然としてあげられる.そんななか,ショートパルス・高出力のパターン照射を特徴としたパターンスキャンレーザーのPASCALR(TOPCON社)登場以降,多くのパターンスキャンレーザーが市場に出てPRPのそれらの問題点は解決されつつある2.3).従来条件による凝固斑が経時的に拡大してatrophiccreepなどの問題を起こすのに対して,パターンスキャンレーザーによる凝固斑は月・年単位で縮小することが報告されている4).このため従来条件によるPRPでは凝固斑間隔が1.0.2.0凝固斑に設定されるが,パターンスキャンレーザーでは0.5.1.0凝固斑が推奨されている.ところが,実際の臨床の場では0.5凝固斑間隔でパターンスキャンレーザーによる照射を行うと照射後すぐの眼底検査で凝固斑が拡大することを経験し凝固間隔の設定にとまどうことがある.パターンスキャンレーザーによる凝固斑のOCTを用いた日・週単位での経時変化の報告はあるが,分単位での報告は筆者らの確認したところなされていない.また,動物実験でショートパルス・高出力照射は従来の照射条件に比し網膜神経線維層などの網膜内層への障害が少ないことが報告され5),タイムドメイン光干渉断層計を用いた糖尿病網膜症に対するPRPの凝固斑の検討においても同様の結果が報告されている6).本研究ではトラッキング機能を用いることにより,撮影時間が異なっても正確に網膜同一部位のより詳細な撮影が可能となったスペクトラルドメイン光干渉断層計(spectraldomainopticalcoherencetomography:SD-OCT)を用いてパターンスキャンレーザーと従来条件による凝固斑の形態的変化を凝固直後より経時的に比較検討したので報告する.I対象および方法本研究は,信州大学附属病院倫理委員会の承認を得て行った.対象は2012年6月から10月に信州大学附属病院でPRPが必要と判断された未治療の増殖前糖尿病網膜症・増殖糖尿病網膜症7例10眼(平均年齢:58.6±10.6歳,性別:男性4例,女性3例).光凝固装置は全例でパターンスキャンレーザーを搭載したVixiR(NIDEK社)を使用し,凝固条件はパターンスキャンレーザーと従来条件によるPRPについて比較検討した既報と同条件に設定した7).5眼をパターン照射群とし比較検討を行う部位の凝固条件は凝固出力400mW,凝固時間0.02秒,3×3のパターンを用い,凝固間隔は0.5凝固斑間隔とした.対照として5眼を従来照射群とし凝固条件は凝固出力1436あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013図1SD-OCTにおける凝固斑横径,凝固斑縦径,GCC厚の評価(図3fと同じ従来照射群20分後のSD-OCT画像)内境界膜(赤色),内網状層/内顆粒層(黄色),網膜色素上皮/Bruch膜(紫色)で層別化.凝固斑横径として網膜色素上皮高輝度反射領域(A),凝固斑縦径として凝固斑中央部の内境界膜・網膜色素上皮/Bruch膜(B),GCC厚として内境界膜・内網状層/内顆粒層(C)を測定した.200mW,凝固時間0.2秒,凝固間隔は1.0凝固斑間隔とした.2群とも接触レンズはMainsterPRP165R(Ocular社)を用い,波長(577nm)と設定照射サイズ(200μm)は同条件とした.各症例において照射直後(1分後)に上方網膜アーケード血管直上の連続する3カ所の照射部位でSD-OCT(RS-3000R,NIDEK社)を用いて120枚のトレーシング加算画像を撮影(図2c,3c).撮影部位をベースラインとしてフォローアップ機能を用い20分後(実際の臨床の場で光凝固施行後,倒像鏡で凝固状況を確認するタイミングとして照射20分後を設定した),1週間後に同部位を撮影.取得した画像において1分後・20分後は網膜色素上皮において網膜外層における高輝度領域と連続した範囲,1週間後は網膜色素上皮における高輝度反射領域を計測し凝固斑横径とした.また,取得した画像を内境界膜,内網状層/内顆粒層,網膜色素上皮/Bruch膜で層別化し,凝固斑中央部で測定した内境界膜・網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)/Bruch膜間のカリキュレーターによる測定値を凝固斑縦径,内境界膜・内網状層/内顆粒層間の測定値を網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)厚とした.凝固斑横径,縦径そして中央網膜厚,網膜内層への影響を検討するためにGCC厚についてパターン照射群・従来照射群それぞれについて検討した(図1).統計処理はWilcoxon符号順位和検定(Wilcoxonsignedrankstest)を用いたノンパラメトリック検定で行い危険率5%以下(p<0.05)をもって有意差ありとした.II結果パターン照射群では照射1分後に灰白色の凝固斑が,20分経過後にはより鮮明な白色調となり拡大傾向を認めた.1週間後には凝固部位で色素沈着を認め,径は照射20分後に比し縮小傾向を認めた(図2a,b,d,e,g,h).従来照射群で(92)図2パターンスキャン群の眼底所見とSD-OCT画像a,b,c:照射直後(1分後),d,e,f:20分後,g,h,i:1週間後.a,d,g:カラー眼底写真.b,e,h:a,d,gの黒破線部位を拡大したもの.c,f,i図中の赤矢印は各凝固斑において計測した横径の両端を示す.照射1分後に灰白色の凝固斑が20分後にはより鮮明な白色調となり拡大傾向を示す.1週間後には凝固部位で色素沈着を認め,径は20分後に比し縮小傾向を示す.c,f,i:b,e,hの白線部位におけるSD-OCT画像.眼底所見と同様の経時的変化を認める.は照射1分後からパターン照射群より鮮明な白色調の凝固斑を認め,20分後の径の拡大は認められなかった.1週間後には凝固部位で色素沈着がみられたが,照射20分後と比し径の変化は認められなかった(図3a,b,d,e,g,h).SD-OCTの結果では,パターン照射群で凝固斑横径の平均値(標準偏差)は1分後373±46μm,20分後407±36μm,1週間後283±33μmで20分後は1分後に比し有意に拡大し,1週間後には有意な縮小を認めた(各p=0.0006,0.0007<0.01)(図2c,f,i,図4).一方,従来照射群において凝固斑横径は1分後481±47μm,20分後488±49μm,1週間後472±58μmで,経過中に有意な変化は認められなかった(図3c,f,i,図4).凝固斑縦径はパターン照射群で1分後233±13μm,20分後246±8μm,1週間後217±12μm,従来照射群は1分後268±33μm,20分後292±31μm,1週間後226±35μmで両群ともに20分後は1分後に比し有意に増加し(各p=0.0007,0.0008<0.01),1週間後には有意な減少を認めた(各p=0.0015,0.0007<0.01).GCC厚はパターン照射群において1分後55±11μm,20分後54±8μm,1週間後59±8μmで観察期間中には有意な変化は認められなかったが,従来照射群では1分後71±10μm,20分後87±20μm,1週間53±17μmで凝固斑縦径と同様に,20分後は1分後に比し有意に増加し1週間後には有意な減少を認めた(各p=0.007,0.0095<0.01)(図5).III考按パターンスキャンレーザーのパイオニアであるPASCALRは動物実験において同等の凝固斑を得るために必要な凝固出力と凝固時間を比較したところ,ショートパルス・高出力設定のほうが結果的に総エネルギーを少なくでき,凝固時の熱拡散を抑制するという結果をもとにBlumenkranzらによって開発された2).パターンスキャンレーザーの特長である1回の照射で複数の凝固斑を得ることができるパターン照射はPRPの問題点である長い手術時間と手術回数を減少させ,(93)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131437図3従来照射群の眼底所見とSD-OCT画像a,b,c:照射直後(1分後),d,e,f:20分後,g,h,i:1週間後.a,d,g:カラー眼底写真.b,e,h:a,d,gの黒破線部位を拡大したもの.c,f,i図中の赤矢印は各凝固斑において計測した横径の両端を示す.照射1分後(a)からパターン照射群より鮮明な凝固斑を認め,20分後(d)にも径の拡大は認めない.1週間後(g)には凝固部位で色素沈着を認めるが20分後(d)と比し径の変化は認められない.c,f,i:b,e,hの白線部位におけるSD-OCT画像.眼底所見と同様の経時的変化を認める.凝固斑横径(μm)600550500481472488450407400373350:凝固斑横径3002832502001分20分1週1分20分1週照射からの経過時間図4SD-OCTにおける凝固斑横径の経時的変化凝固斑横径はパターン照射群で,照射1分後に比し20分後に有意に拡大し1週間後に有意な縮小を認める(各p=0.0006,0.0007<0.01).従来照射群では経過中,有意な変化は認められなかった.ショートパルス・高出力設定による凝固時の熱拡散抑制は同じくPRPの問題点としてあげられる施行時の疼痛を有意に減少させた8).しかし,従来条件による凝固斑が拡大傾向を示す9)のに対し,パターンスキャンレーザーによる凝固斑は1週間,4週間と経時的に縮小することからパターンスキャンレーザーでPRPを行う際には凝固間隔を従来条件より小さくすることが推奨されている.ところが,実際の臨床の場では分単位でパターンスキャンレーザーによる凝固斑が拡大することを経験し凝固間隔の設定にとまどうことがある.今回のSD-OCTによる観察では,臨床の場での印象のとおりパターンスキャンレーザーによる凝固斑横径は1分後に比し,筆者らがレーザー後,倒像鏡で眼底を観察する時間帯として設定した20分後で有意に拡大し,1週間後には凝固斑横径が既報のとおり有意に縮小することが確認された.この結果からパターンスキャンレーザーを用いたPRPを行う際には凝固後数分の凝固径の拡大にとらわれず,凝固間隔を従来条件(1.0.2.0凝固斑)より小さくする(0.5.1.0凝固斑)1438あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(94)凝固斑縦径とGCC厚(μm)3503002502001501005001分20分1週1分20分1週照射からの経過時間図5SD-OCTにおける凝固斑縦径とGCC厚の経時的変化凝固斑縦径はパターン照射群,従来照射群ともに20分後で1分後に比し有意に増加し(各p=0.0007,0.0008<0.01),1週間後には有意な減少を認めた(各p=0.0015,0.0007<0.01).GCC厚はパターン照射群で経過中,有意な変化は認められなかったが,従来照射群では中央網膜厚と同様に,20分後は1分後に比し有意に増加し1週間後には有意な減少を認めた(各p=0.007,0.0095<0.01).ことが効果的な治療を行うために重要であることが示唆された.GCC厚が緑内障の視野障害と相関するという報告は多く,GCC厚は神経線維層・神経節細胞層障害の指標として用いられている10).PRPの標的は酸素需要の高い網膜色素上皮と視細胞であり,網膜内層,特に神経線維層・神経節細胞層への障害はより少ないことが望まれる.従来条件のPRPが網膜内層を障害すること11)やパターンスキャンレーザーによる照射は網膜内層への障害が少ないという報告6)は散見されるが,従来条件とパターンスキャンレーザーによる照射のGCC厚への影響についてSD-OCTを用いて検討した報告はいまだなされていない.今回筆者らは網膜内層への影響を比較するためにGCC厚についても検討を行った.従来照射では凝固斑縦径・GCC厚ともに1分後に比し20分後に有意に増加し1週間後に減少したのに対し,パターン照射では凝固斑縦径が同様の変化を示したが,GCC厚は経過中に著明な変化は認められなかった.この結果からパターンスキャンによる光凝固のほうが従来条件に比し神経線維層・神経節細胞層への障害が少ないことが示唆された.今回,筆者らが用いた凝固条件は過去の報告7)を踏まえて設定した.総エネルギーはパターン照射群で20ms,400mW(95)で8mJ,従来照射群で200ms,200mWで40mJとなる.この総エネルギーの差が凝固斑の経時的な形態変化と網膜内層への障害の差の要因の一つと考えられる.パターンスキャンレーザーを用いた反網膜光凝固を行う際にはこれらの従来条件との違いを踏まえることが効果的な治療のために重要と思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TheDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Prelim-inaryreportone.ectsofphotocoagulationtherapy.AmJOphthalmol81:383-396,19762)BlumenkranzMS,YellachichD,AndersenDEetal:Semiautomatedpatternedscanninglaserforretinalphoto-coagulation.Retina26:370-376,20063)Al-HussainyS,DodsonPM,GibsonJM:Painresponseandfollow-upofpatientsundergoingpanretinallaserpho-tocoagulationwithreducedexposuretimes.Eye22:96-99,20084)MuqitMM,GrayJC,MarcellinoGRetal:Invivolaser-tissueinteractionsandhealingresponsesfrom20-vs100-millisecondpulsePascalphotocoagulationburns.ArchOphthalmol128:448-455,20105)JainA,BlumenkranzMS,PaulusYetal:E.ectofpulsedurationonsizeandcharacterofthelesioninretinalpho-tocoagulation.ArchOphthalmol126:78-85,20086)植田次郎,野崎実穂,吉田宗徳ほか:網膜光凝固後の組織反応の光干渉断層計による評価─PASCALRと従来レーザーとの比較.臨眼64:1111-1115,20107)NagpalM,MarlechaS,NagpalK:Comparisonoflaserphotocoagulationfordiabeticretinopathyusing532-nmstandardlaserversusmultispotpatternscanlaser.Retina30:452-458,20108)MuqitMM,MarcellinoGR,GrayJCetal:PainresponsesofPascal20msmulti-spotand100mssingle-spotpanreti-nalphotocoagulation:ManchesterPascalStudy,MAPASSreport2.BrJOphthalmol94:1493-1498,20109)MaeshimaK,Utsugi-SutohN,OtaniTetal:Progressiveenlargementofscatteredphotocoagulationscarsindiabet-icretinopathy.Retina24:507-511,200410)RolleT,BriamonteC,CurtoDetal:Ganglioncellcom-plexandretinalnerve.berlayermeasuredbyfourier-domainopticalcoherencetomographyforearlydetectionofstructuraldamageinpatientswithpreperimetricglau-coma.ClinOphthalmol5:961-969,201111)LimMC,TanimotoSA,FurlaniBAetal:E.ectofdiabet-icretinopathyandpanretinalphotocoagulationonretinalnerve.berlayerandopticnerveappearance.ArchOph-thalmol127:857-862,2009あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131439