———————————————————————-Page1(121)5530910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(4):553556,2009cはじめに臨床の場においてはコンタクトレンズ(CL)を装用したまま点眼薬を使用することを希望する症例が少なからず認められ,特にアレルギー性結膜炎やドライアイなどの患者で多く認められる1).しかし,CL装用中に防腐剤を含有する点眼薬を使用した場合,CLに防腐剤が吸着,蓄積されることによって,CLの変性をきたしたり2),吸着された防腐剤が角結膜に障害を与える可能性があるため,CLを装用したまま点眼することは原則として避けるよう指導されている3).点眼薬の防腐剤として最も繁用されているものは塩化ベンザルコニウム(BAC)であるが,一方で角膜上皮障害や接触性皮膚炎などの副作用が問題視されている46).筆者は過去に〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121城陽市寺田水度坂15-459小玉眼科医院Reprintrequests:YujiKodama,M.D.,KodamaEyeClinic,15-459Mitosaka,Terada,Joyo610-0121,JAPANシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリンR点眼液)の安全性小玉裕司小玉眼科医院SafetyStudyofAcitazanolastHydrateOphthalmicSolution(ZEPELINROphthalmicSolution)forSiliconeHydrogelContactLensWearersYujiKodamaKodamaEyeClinic抗アレルギー点眼薬のアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリンR点眼液)は防腐剤にクロロブタノール,パラベン類が使用されており,角結膜やコンタクトレンズ(CL)に対する影響が塩化ベンザルコニウムを防腐剤に使用している点眼薬よりも少ない可能性が考えられる.今回,アレルギー性結膜炎患者を対象として2種類のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(アキュビューRオアシスTM,O2オプティクス)装用中にゼペリンR点眼液を点眼した場合の安全性およびCLへの主成分ならびに防腐剤の吸着について検討を行った.その結果,各CL中に主成分またはクロロブタノールが検出されたが,検出量はいずれも微量であり,フィッティングの変化も認められなかった.また,ゼペリンR点眼液による角結膜の障害や副作用は認められなかった.医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上においてゼペリンR点眼液を使用しても,問題はないものと考えられた.Theanti-allergicagentacitazanolasthydrateophthalmicsolution(ZEPELINRophthalmicsolution)containschlorobutanolandp-aminobenzoicacidsaspreservatives.Therefore,itsinuenceonthekeratoconjunctivaandcontactlens(CL)maybelessthanthatofophthalmicsolutionsthatusebenzalkoniumchlorideasapreservative.AllergicconjunctivitispatientswereincludedinthisstudytoinvestigatethesafetyandCLabsorptionofactiveingredientandpreservativesinZEPELINRophthalmicsolution,instilledinwearesof2typesofsiliconehydrogelcontactlenses(ACUVUEROASISTM,O2OPTIX).Resultsshowedthattheactiveingredientorchlorobutanol,wasdetectedineachCL;however,thelevelsdetectedwereverylowandnochangewasobservedinthetting.Fur-thermore,nokeratoconjunctivaldisordersorotheradverseeectswereobserved.Withsucientperiodicinspec-tionsunderadoctor’ssupervision,theuseofZEPELINRophthalmicsolutioninthepresenceofcontactlensesisconsideredsafe.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(4):553556,2009〕Keywords:アシタザノラスト水和物点眼液,防腐剤,クロロブタノール,パラベン類,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ,角結膜障害,吸着.acitazanolasthydrateophthalmicsolution,preservatives,siliconehydrogelcontactlens,adverseeectsonthekeratoconjunctiva,absorption.———————————————————————-Page2554あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(122)BAC以外の防腐剤のクロロブタノールとパラベン類(パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピル)を使用した抗アレルギー点眼薬であるアシタザノラスト水和物点眼液(以下,ゼペリンR点眼液)の酸素透過性ハードコンタクトレンズ,1日使い捨てソフトコンタクトレンズおよび2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ装用上点眼における安全性について検討を行い,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば問題がないことを報告した7).しかし,その後日本におけるCLの市場はシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの普及が進み,今後もシェアの拡大傾向が予想される.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは従来型CLと材質や表面処理,含水率などが異なるため,主成分や防腐剤のCLへの吸着が異なる可能性が考えられる.今回,ゼペリンR点眼液のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上点眼における安全性およびCLへの主成分ならびに防腐剤の吸着について検討を行ったので,その結果について報告する.I対象および方法1.対象当院を受診したアレルギー性結膜炎患者でCLの継続使用を希望し,かつ使用可能な患者5名(年齢2142歳,平均31.4歳,女性5名)を対象とした.2.使用レンズ2週間交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ:アキュビューRオアシスTM〔FDA(米国食品・医薬品局)分類:グループI,酸素透過係数(Dk値:103[×1011(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)]),含水率:38%,中心厚:0.07mm(3.00D),直径:14.0mm〕.1カ月交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ:O2オプティクス〔FDA分類:グループI,酸素透過係数(Dk値:140[×1011(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)]),含水率:24%,中心厚:0.08mm(3.00D),直径:13.8mm〕.3.方法試験開始前に試験の趣旨と内容を説明し,患者の同意を得た.ゼペリンR点眼液を1回2滴,1日4回(朝,昼,夕および就寝前),両眼に4週間点眼した.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズはアキュビューRオアシスTM,O2オプティクスともに両眼に終日装用で4週間使用させ,アキュビューRオアシスTMは2週間ごとに交換し,点眼開始2週間目に交換したCLを回収した.O2オプティクスは4週間装用し,点眼開始4週間目にCLを回収した.回収したCLの1枚は主成分のアシタザノラスト定量用とし,他方1枚は防腐剤のクロロブタノールおよびパラベン類定量用とした.4.CLに吸着した主成分および防腐剤の定量a.主成分の定量被験者から装脱・回収したCLを1枚ずつpH7.0リン酸緩衝液2mlが入ったバイアルに入れ,20分間2回超音波処理した後,CLを取り出し,得られた抽出液について液体クロマトグラフ法によりCLに吸着していたアシタザノラストを定量した.b.防腐剤の定量被験者から装脱・回収したCLを1枚ずつアセトニトリル2mlが入ったバイアルに入れ,20分間2回超音波処理した後,CLを取り出し,得られた抽出液についてガスクロマトグラフ法によりCLに吸着していたクロロブタノールおよびパラベン類を定量した.5.自覚症状試験開始前,試験開始2週,4週目に掻痒感,異物感,眼脂について問診した.6.細隙灯顕微鏡検査試験開始前,試験開始2週,4週目にフルオレセイン染色による角結膜の観察と眼瞼結膜および眼球結膜の充血,浮腫,乳頭の観察と試験開始時,CL装脱直前に角結膜の観察およびCLフィッティング状態の判定を行った.7.副作用投与期間中に発現した症状のうち,試験薬との因果関係が否定できないものを副作用とした.II結果A.アキュビューRオアシスTM(2週間交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ)1.CLから検出された主成分および防腐剤量結果を表1に示す.主成分のアシタザノラストは5検体すべてから検出され,平均検出量は2.44±1.43μg/CLであっNNNHNH2ONHCOCOOH有効成分のアシタザノラスト水和物有効成分の含量:1.08mg/ml添加物:モノエタノールアミン,イプシロン-アミノカプロン酸,パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピル,クロロブタノール,プロピレングリコール,ポリソルベート80pH:4.56.0浸透圧比:約1(生理食塩液に対する比)図1ゼペリンR点眼液の概要———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009555(123)た.クロロブタノールは1検体のみから検出され,検出量は10μg/CLであった.パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピルは5検体すべて検出限界以下であった.2.自覚症状試験開始前に比べ試験開始2週および4週間目において症状が悪化した症例は認められなかった.3.細隙灯顕微鏡検査試験開始前に比べ試験開始2週および4週間目において症状が悪化した症例は認められず,すべての症例において試験開始時,CL装脱直前の角結膜に異常は認められず,CLフィッティング状態も良好であった.4.副作用すべての症例において副作用は認められなかった.B.O2オプティクス(1カ月交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ)1.CLから検出された主成分および防腐剤量結果を表2に示す.主成分のアシタザノラストは4検体から検出され,平均検出量は0.40±0.45μg/CLであった.クロロブタノールは3検体から検出され,平均検出量は2.58±2.78μg/CLであった.パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピルは5検体すべて検出限界以下であった.2.自覚症状試験開始前に比べ試験開始2週および4週間目において症状が悪化した症例は認められなかった.3.細隙灯顕微鏡検査試験開始前に比べ試験開始2週および4週間目において症状が悪化した症例は認められなかった.また,すべての症例において試験開始時,CL装脱直前の角結膜に異常は認められず,CLフィッティング状態も良好であった.4.副作用すべての症例において副作用は認められなかった.III考按現在市販されているほとんどの点眼薬には防腐剤としてBAC,パラベン類,クロロブタノールなどが含有されてお表2O2オプティクス(1カ月交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ)から検出された主成分および防腐剤量検出量(μg/CL)アシタザノラストクロロブタノールパラオキシ安息香酸メチルパラオキシ安息香酸プロピル0.753.4NDND0.075NDNDNDNDNDNDND0.152.8NDND1.06.7NDND平均値±SD0.40±0.452.58±2.78検出限界(μg/CL)0.0110.840.400.56ND:検出限界以下.表1アキュビューRオアシスTM(2週間交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ)から検出された主成分および防腐剤量検出量(μg/CL)アシタザノラストクロロブタノールパラオキシ安息香酸メチルパラオキシ安息香酸プロピル0.60NDNDND1.9NDNDND2.1NDNDND4.4NDNDND3.210NDND平均値±SD2.44±1.432.00±4.47検出限界(μg/CL)0.0100.880.440.60ND:検出限界以下.———————————————————————-Page4556あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(124)り,これらの防腐剤が角膜上皮に障害をもたらすことは基礎および臨床の面から多くの報告がなされている814).また,防腐剤はCLに吸着することが報告されている2,1518).筆者はBACよりも角膜上皮に対する影響が少ないクロロブタノールとパラベン類を防腐剤に使用したゼペリンR点眼液の従来型CL装用上点眼における安全性について検討を行い,問題がないことを報告した7)が,日本におけるCLの市場は2004年にわが国で初めてのシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズであるO2オプティクス(チバビジョン)が発売されて以降,普及が進み,現在ではこのレンズを含め同タイプのレンズは5種類7製品が販売されている.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは従来型素材のハイドロゲルコンタクトレンズの欠点である酸素透過性を改善するため,酸素透過性に優れたシリコーンを含む含水性の素材,シリコーンハイドロゲルを用いることにより,低含水性でありながら高酸素透過性を実現したCLである.これにより,従来型ハイドロゲルコンタクトレンズで問題となっていた慢性的な酸素不足による角膜障害や眼の乾燥感を軽減することが可能となった.しかし,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは従来型ハイドロゲルコンタクトレンズと素材や表面処理,含水率などが異なるため,点眼薬の主成分や防腐剤のCLへの吸着が異なる可能性が考えられる.今回,ゼペリンR点眼液を用いて,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上点眼における安全性およびCLへの主成分ならびに防腐剤の吸着について検討を行った.その結果,CLの種類により,主成分のCLへの吸着量に差が認められたが,防腐剤の吸着量は差が認められなかった.主成分についてはO2オプティクスと比較し,アキュビューRオアシスTMからの検出量が有意に多く(p<0.05:Student’st-test),CLへの主成分の吸着は使用期間よりもCLの素材と主成分の相互作用やCLの表面処理および含水率の違いにより,CL中に取り込まれる点眼液の量が影響している可能性が示唆された.また,検出量は通常の1日投与量に対して約1/4,2671/73と非常に少ない量であった.防腐剤については,クロロブタノールのみが検出され,アキュビューRオアシスTMとO2オプティクスで検出量に差は認められず,検出量は通常の1日投与量に対して約1/2861/80と非常に少ない量であった.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用中の点眼使用による症状の悪化やCLフィッティング状態に異常は認められず,副作用も認められなかった.以上の結果より,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上においてゼペリンR点眼液を使用しても,問題はほとんどないものと考えられた.文献1)小玉裕司,北浦孝一:コンタクトレンズ装用上における点眼使用の安全性について.あたらしい眼科17:267-271,20002)岩本英尋,山田美由紀,萩野昭彦ほか:塩化ベンザルコニウム(BAK)による酸素透過性ハードコンタクトレンズ表面の変質について.日コレ誌35:219-225,19933)上田倫子:眼科病棟の服薬指導4.月刊薬事36:1387-1397,19944)高橋信夫,佐々木一之:防腐剤とその眼に与える影響.眼科31:43-48,19895)平塚義宗,木村泰朗,藤田邦彦ほか:点眼薬防腐剤によると思われる不可逆的角膜上皮障害.臨眼48:1099-1102,19946)山田利律子,山田誠一,安室洋子ほか:保存剤塩化ベンザルコニウムによるアレルギー性結膜炎─第2報─.アレルギーの臨床7:1029-1031,19877)小玉裕司:コンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリンR点眼液)の安全性.あたらしい眼科20:373-377,20038)GassetAR:Benzalkoniumchloridetoxicitytothehumancornea.AmJOphthalmol84:169-171,19779)PsterRR,BursteinN:Theeectofophthalmicdrugs,vehiclesandpreservativesoncornealepithelium:Ascan-ningelectronmicroscopestudy.InvestOphthalmol15:246-259,197610)BursteinNL:Cornealcytotoxicityoftopicallyapplidedrugs,vehiclesandpreservatives.SurvOphthalmol25:15-30,198011)高橋信夫,向井佳子:点眼剤用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討─.日本の眼科58:945-950,198712)島﨑潤:点眼剤の防腐剤とその副作用.眼科33:533-538,199113)濱野孝,坪田一男,今安正樹:点眼薬中の防腐剤が角膜上皮に及ぼす影響─涙液中LDH活性を指標として─.眼紀42:780-783,199114)中村雅胤,山下哲司,西田輝夫ほか:塩化ベンザルコニウムの家兎角膜上皮に対する影響.日コレ誌35:238-241,199315)水谷聡,伊藤康雄,白木美香ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第1報)─取り込みと放出─.日コレ誌34:267-276,199216)河野素子,伊藤孝雄,水谷潤ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第2報)─RGPCL素材におけるBAKの研究─.日コレ誌34:277-282,199217)﨑元卓:治療用コンタクトレンズへの防腐剤の吸着.日コレ誌35:177-182,199318)植田喜一,柳井亮二:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとマルチパーパスソリュージョン,点眼薬.あたらしい眼科25:923-930,2008***