《原著》あたらしい眼科31(7):1053.1058,2014cヒト水晶体上皮細胞の密度,細胞核/細胞質比に関する検索馬嶋清如*1内藤尚久*2山本直樹*3加賀達志*4市川一夫*4*1眼科明眼院*2中京眼科*3藤田保健衛生大学共利研*4社会保険中京病院眼科StudyofHumanLensEpithelialCellDensityandNucleocytoplasmicRatioKiyoyukiMajima1),NaohisaNaitou2),NaokiYamamoto3),TatusiKaga4)andKazuoIchikawa4)1)EyeClinicMyouganin,2)ChukyoEyeClinic,3)FujitaHealthUniversityJointResearchLaboratory,4)DepartmentofOpthalmology,SocialInsuranceChukyoHospital目的:中央部から増殖帯近傍に至る水晶体上皮細胞の密度と細胞核/細胞質比を調査する.対象および方法:糖尿病がない45.93歳までの白内障症例,293例293眼を対象とした.前.切開で得た上皮細胞の付着した前.片を伸展標本にし,中央部から増殖帯近傍に向け10区画に分け,中央部を区画1,増殖帯近傍を区画10とし,各区画間の細胞数と細胞核/細胞質比を計測した.結果:65歳以上74歳以下の症例では,区画1と区画10の細胞数が中間領域の区画4.8に比して有意に多かったが,64歳以下,また75歳以上の症例では,各区画間で有意差はなかった.一方,細胞核/細胞質比は,年齢層,各区画間で有意差はなかった.結論:水晶体上皮細胞の密度は,領域別で異なる年齢層があり,細胞核/細胞質比は,年齢層,領域別で違いがないことから,密度が高い場合は細胞質,核ともに面積が小さく,低い場合は,その逆になることが示唆された.Purpose:Thedensityandnucleocytoplasmicratiooflensepithelialcellswerestudied,fromthecentralportiontotheproliferativezoneofthelens.Subjectsandmethods:Thesubjectswere293cataractouseyesof293patientswithoutdiabetes,whorangedinagefrom45to93years.Extensionspecimensweremadeofanteriorcapsulefragmentswithadherentepithelialcells,obtainedfromanteriorcapsulotomy.Thespecimensweredividedinto10equalsections,fromthecenterportiontotheproliferativezone.Cellnumberandnucleocytoplasmicratioweremeasuredineachsection.Results:Inthepatients65to74yearsofage,thecellnumbersinSections1and10weresignificantlyhigherthaninSections4to8,inthemiddlelensregion.However,inpatients64yearsoryounger,or75yearsorolder,therewerenosignificantdifferencesbetweenthesections.Therewerenosignificantdifferencesinnucleocytoplasmicratiobetweenagegroupsorsections.Conclusion:Insomeagegroups,lensepithelialcelldensitydiffereddependingonthelensregion.However,thenucleocytoplasmicratiodidnotdiffereitherbyagegrouporlensregion.Thissuggeststhatwhencelldensityishigh,theareaofbothcytoplasmandnucleusissmall,whereaswhendensityislow,theoppositeistrue.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(7):1053.1058,2014〕Keywords:ヒト水晶体,上皮細胞,白内障,密度,細胞核/細胞質比.humanlens,epithelialcell,cataract,density,nucleoplasmicratio.はじめに水晶体は,カプセル,上皮細胞(lensepithelialcell:以下LECと略す),線維細胞の3つから構成されている無血管の組織である.そのなかで最も高い生理活性を有しているのはLECであり,多くの物質を水晶体内へ輸送するとともに,増殖帯部で増殖し,前極に向けて細胞を供給する一方,赤道部では線維細胞へと分化し水晶体線維の形成を行うという,水晶体にとって最も重要な役割を果たしている.このLECの密度に関しては,これまでにいくつか報告されているが1.4),水晶体の中央部,増殖帯近傍,そしてその中間領域というように,領域別で細胞密度を比較,検討した報告はまだない.今回,白内障手術の際の前.切開で得られた,前.に付着したヒトLECを材料とし,水晶体の前.中央部,増殖帯近傍,そして両者の中間という3つの領域において,一定面積内の細胞数と細胞核/細胞質比(nucleoplasmicratio:以下〔別刷請求先〕馬嶋清如:〒454-0843名古屋市中川区大畑町2-14-1コーポ奈津1階眼科明眼院Reprintrequests:KiyoyukiMajima,M.D,EyeClinicMyouganin,2-14-1,Oohata-cho-Nakagawa-ku,Nagoya454-0843,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(127)1053N/Cと略す)を測定後,各領域で細胞数,N/Cに違いがあるのか否かついて調査を行い,また加齢に伴う細胞数,N/Cの変化についての検討も加え,若干の知見を得たので報告する.I対象および方法1.第I群の対象は,糖尿病がなく,白内障以外に内眼疾患のない59.79歳までの白内障患者31例31眼で,過熟白内障の症例は除外してある.同一術者による,白内障手術の際の連続円形切開で得られた,直径約6.0mmの前.片に付着したLECsを,ただちに難浸透性組織固定液(SUPERFIX,KURABO)にて固定後,伸展標本を作製した.その後,ヘマトキシリンによる単染色を行い,アルコールで脱水後,キシレンで透徹し,カバーガラスに封入した.前.切開の際に得られた材料のため,前.に亀裂が入っている領域もあることから,前.の中央部から切開縁までの経線上で亀裂のない領域を選別した後,中心部から周辺部までを10区画に分け,これを1レーンとし,120°の間隔で3レーンを選別後,1区画,216μm×216μm内のLEC数を測定した(図1).この測定には,LUZEX-SF社製の全自動画像解析装置を使用して,細胞核の数を計測し細胞数とした.なお,測定においては,細胞核の分裂像を含まない区画を測定区画した.また,N/Cの計測は,前述した機器を使用し,細胞核と細胞質の染色態度が異なることから,ピクセル単位で色の違いを全自動画像解析装置で判別させた後,N/Cを計測した.つぎに10区画ごとの細胞数とN/Cが,レーン間で違うのか否か,レーンごとで各区画の細胞数とN/Cの平均値を算出後,ノンパラメトリック法のFriedman検定で解析をした.図1水晶体上皮細胞の解析部位中央部を区画1,周辺部を区画10とし,各区画内の細胞数を測定する.枠内は伸展標本におけるLECsを示す.Bar=50μm.2.第II群の対象は,糖尿病がなく,白内障以外に内眼疾患のない45.93歳までの白内障患者,293例,293眼(男性:133眼,女性160眼)であり,過熟白内障の症例は除外してある.第I群と同様の方法で,1レーン内の10区画における細胞数を測定した.また,前述した293眼のなかから,45.91歳の151眼を無作為に選び,N/Cについても測定を行った.つぎに解析を行う統計の手法については,1.10の各区画の細胞数とN/Cに有意差があるのか否かについて,帰無仮説を各区画の母平均は等しい,また対立仮説を各区画の母平均は等しくないとし,一元配置分散分析を行った.なお,年齢を①64歳以下,②65歳以上74歳以下,③75歳以上と,3つの年齢層に分類し,各年齢層で,1.10の各区画の細胞数とN/Cに有意差があるのか否かについて,帰無仮説,対立仮説を設定し,一元配置分散分析を行い調査した.そして前記した2つの統計解析の結果,母平均に有意差があった場合,さらにt検定を行い,各区画間での有意差を再解析した.II結果1.第I群の統計解析結果a.細胞数に関して行を1,2,3のレーン,列を症例とし,31症例の1.10の各区画の細胞数を列記後,3レーン間における細胞数の平均値の比較を行った.その結果,10区画の細胞数の平均値±標準偏差は,175.39±23.78(細胞密度:3,758.61±509.61mm2)であり,Friedman検定の結果を表に示す(表1).なお1.10区画は,独立しているのではなく,連続しているため,10回,同様な施行を繰り返したとして多重比較を考慮すると,p<0.005を有意差ありと判定するが,その結果,レーン間で有意差があるのは6の区画のみであった.b.N/Cに関して細胞数の比較と同様,行を各レーン,列を症例とし,31症例の1.10の各区画のN/Cを列記後,3レーン間におけるN/Cの平均値の比較を行った.その結果,10区画のN/Cの平均値±標準偏差は0.36±0.01で,Friedman検定の結果,前述した有意水準ではレーン間での有意差はなかった(表2).2.第II群の統計解析結果a.細胞数に関して10区画の細胞数の平均値±標準偏差は184.27±28.25(細胞密度:3,948.91±605.40mm2)であり,年齢を加味することなく,各区画間で細胞数に有意差があるのか否か,一元配置分散で検定したところ,p値は0.022であり,p<0.05のため帰無仮説は棄却され,各区画間で有意差があるという結果になった.そこで細胞数に関して,さらにt検定を施行し,区画ごとに比較をすると,区画1と区画4.6,区画6と区1054あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(128)表1各区画の細胞数に関する3レーン間での表2各区画のN/Cに関する3レーン間での有有意差検定意差検定区画3レーン10.53320.19630.73340.00750.01260.00370.01980.22690.692100.491区画3レーン10.64820.79230.15040.67050.02460.53170.67080.79291.000100.497行を1,2,3の各レーン,列を各症例の細胞行を1,2,3の各レーン,列を各症例のN/C数とし,各区画の細胞数が3レーン間で有意とし,各区画のN/Cが3レーン間で有意差が差があるのか否か統計解析を行う.右欄はpあるのか否か統計解析を行う.右欄はp値を値を示す.示す.表3区画対区画における細胞数の有意差検定区画_123456789区画_10区画_10.5240.239*0.040*0.039*0.0280.0520.1390.8300.42320.5240.5890.1570.1540.1190.1920.3990.6730.15030.2390.5890.3810.3760.3070.4440.7610.336*0.0484*0.0400.1570.3810.9920.8850.9130.5670.066*0.0045*0.0390.1540.3760.9920.8930.9050.5610.065*0.0046*0.0280.1190.3070.8850.8930.7990.474*0.047*0.00370.0520.1920.4440.9130.9050.7990.6440.084*0.00680.1390.3990.7610.5670.5610.4740.6440.205*0.02390.8300.6730.3360.0660.065*0.0470.0840.2050.309区画_100.4230.150*0.048*0.004*0.004*0.003*0.006*0.0230.309枠内はt検定による有意水準を示す.*:p<0.05で各区画間に有意差があることを示している.画9,そして区画3.8と区画10の間で有意差があり,区画1である中央部と,区画9,10である前.切開縁,すなわち増殖帯近傍の領域では,その中間領域の細胞数に比して有意に多いことが示された(表3).なお,この結果を理解しやすいように,区画と各区画の細胞数との関係を信頼度95%のエラーバーを用い表記した(図2).また年齢を,①64歳以下,②65歳以上74歳以下,③75歳以上の3つの年齢層に分け,各年齢層において,1.10の区画で細胞数に有意差があるのか否かの解析を,一元配置分散分析で行った.その結果,p値は①64歳以下:0.894,②65歳以上74歳以下:0.034,③75歳以上:0.529となり,65歳以上74歳以下の年齢層においてのみp<0.05であり,区画別の細胞数に有意差があった.そこで,この年齢層においてt検定を行い再調査したところ,区画1と区画4.6が,また区画4.8と区画10との間で有意差があり,前述した年齢を加味しない293症例の調査結果は,65歳以上74歳以下の年齢層の結果が大きく反映されているものと考えた(表4).なお,この結果も理解しやすいよう,区画と各区画の細胞数との関係を信頼度95%のエラーバーを用い表記した(図3).また,①,②,③の年齢層間で,10区画の細胞数の平均値に有意差があるのか否かをt検定で解析すると,①と②,①と③の間のp値はそれぞれ,3.86×10.7,1.41×10.5であり,p<0.05のため有意差があった.一方,②と③の間にはp値は0.12で有意差がなく,64歳以下の年齢層では細胞数が有意に多いという結果になった(図4).(129)あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141055表465歳以上74歳以下の症例における,区画対区画での細胞数の有意差検定区画_123456789区画_10区画_10.4110.199*0.028*0.040*0.0220.0730.1120.6610.50520.4110.6430.1690.2170.1390.3300.4410.7020.13730.1990.6430.3620.4410.3090.6090.7580.3980.0514*0.0280.1690.3620.8870.9170.6880.5450.079*0.0045*0.0400.2170.4410.8870.8060.7950.6430.106*0.0076*0.0220.1390.3090.9170.8060.6130.4780.063*0.00370.0730.3300.6090.6880.7950.6130.8390.175*0.01480.1120.4410.7580.5450.6430.4780.8390.249*0.02490.6610.7020.3980.0790.1060.0630.1750.2490.269区画_100.5050.1370.051*0.004*0.007*0.003*0.014*0.0240.269枠内はt検定による有意水準を示す.*:p<0.05で各区画間に有意差があることを示している.*************195190185180175細胞数*****細胞数19519018518017512345678910区画12345678910図2区画間での細胞数の比較区画X軸は区画,Y軸は各区画内の細胞数を表す.エラーバー図3区画間の細胞数の比較は95%信頼区間を表しており,バー中央の点は平均値をX軸は区画,Y軸は各区画内の細胞数を表す.エラーバー示す.また*は有意差があった区画間である(p<0.05).は95%信頼区間を表しており,バー中央の点は平均値を示す.また*は有意差があった区画間である(p<0.05).200(64歳以下)(65歳以上74歳以下)(75歳以上)であり,年齢を加味することなく,各区画でN/Cに有意差があるのか否かについて,一元配置分散分析を行った.b.N/Cに関して10カ所におけるN/Cの平均値±標準偏差は0.38±0.06細胞数の平均値190その結果,p値が0.31でp<0.05ではないため,各箇所間での有意差はなかった.つぎに,年齢を前述した細胞数の解析時と同様,①.③の3つの年齢層に分け,N/Cが各年齢層間で有意差があるのか否か,一元配置分散分析を行った12345678910ところ,p値は,①64歳以下:0.71,②65歳以上74歳以区画図4各区画における平均細胞数の年齢層間での比較下:0.084,③75歳以上:0.63となり,いずれの年齢層でも64歳以下の症例では65歳以上の症例に比して,10区画各区画間での有意差はなかった.の細胞数の平均値が有意に多い.1056あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(130)III考按水晶体上皮は,前.下に単層として並んでいるLECから構成されており,活発なエネルギー代謝を営み,水晶体の透明性維持に役立っている.そして増殖帯には,幹細胞というべきLECsが存在しており,皮質内への移動を示す他に,水晶体中央部へも移動するという挙動を示した後,その多くがアポトーシスではなく,ネクローシスによる細胞死が生じることが報告されている5,6).こうした生理的動態を考えると,水晶体の中央部から増殖帯までLECの密度が同じであるとは考えにくい.そこで今回,LECの密度が水晶体の領域別で違いがあるのか否かについての調査を行った.ただし今回の調査は,白内障の水晶体を対象とし,そのLECを材料としているので,まず以下の点に配慮する必要がある.第一は,白内障の水晶体では,日常の臨床でも経験するように,一つの症例を考えてみても,中央部から増殖帯近傍までの領域において,前.下に観察される皮質混濁の有無,程度に違いがあり,それが密度に影響を与える可能性があることである.また第二は,術者がカプセル鑷子で数回にわたり前.を把持した後に得られた前.片に付着したLECを材料としているため,そうした操作が密度に影響を与える可能性があるということである.それゆえ増殖帯近傍から中央部までの一連の領域を1レーンとし,その中を10区画に分け,さらに3レーンを選別後,各レーン間において,各区画の細胞数,N/Cに有意差がないのか否か,まず調査をした.なお,前.片には,術中の操作を原因とする亀裂がいくつかの領域で存在している場合が多く,増殖帯近傍から中央部までの一連の領域に存在するLECsを観察できるのは,多くの症例で3レーンが限界であった.そうした条件の下で,まず第I群として3レーン間での比較を行うと,細胞数については,区画6でのみ有意差があるが,それ以外の区画では有意差がなく,またN/Cについては,3レーン間における有意差は,10区画のすべてにおいてなかった.それゆえ細胞数とN/Cに関して,1レーンの調査結果でも,3レーンの結果を十分に反映しうると判断した.つぎに第II群として,293症例を対象として,水晶体中央部から増殖帯近傍までの範囲に存在するLECの細胞数を一定面積内で計測後,前述した領域における細胞数に違いがあるのか否かを調査した.その結果,水晶体中央部と増殖帯近傍の密度が有意に高いことが示された.そして年齢という因子を加味して,さらに詳細な統計解析を行うと,前述した2領域でLECの密度が高いという結果は,65歳以上74歳以下の症例の結果を反映していることがわかり,64歳以下,または75歳以上の症例では,どの領域間でも細胞数の有意差はないという結果になった.そしてこの事象から,LECの挙動に関してつぎのような仮説を考えた.(131)①64歳以下では,増殖帯部に存在するLECが,中央部へと十分にLECを送り出すことができるため,増殖帯近傍と中央部,そしてその中間領域での細胞数に有意差がない.②65歳以上74歳以下の症例では,増殖帯部のLECの増殖能が低下し始めるため,中央部へ供給する能力が低下し,中央部の細胞密度は何とか保たれるが,その中間領域で密度が低下するため有意差ができる.③75歳以上の症例では,増殖帯部のLECの増殖能がさらに低下するため,増殖帯部,中央部,そしてその中間領域で有意差がない.以上が本研究の,各年齢層におけるLECの挙動に関する推察である.これまでに,ヒト白内障水晶体を材料とし,LECの密度と加齢とは関係ないとする報告もあるが4),この報告では白内障手術時に得られた前.片24眼と角膜移植の際に得られた前.片16眼を対象としており,本報告のように同じ条件で得られた,多数の症例を対象にしているわけではないので,今回の10区画の細胞数の平均値を比較すると,64歳以下の症例では,65歳以上の症例に比して有意に高いという結果は,やはり意義あるものと考えた.つぎに,本研究では年齢層を3群に分けたが,なぜ64歳以下,65歳以上74歳以下,75歳以上の3群に分けたのかを述べなければいけない.まず第II群の細胞数の計測に関しては,症例の年齢が45.93歳までなので,45.54歳(12眼),55.64歳(60眼),65.74歳(124眼),75.84歳(85眼),85.94歳(12眼)というように,10歳ごとに分類することを目標にしたが,65.74歳の症例数がきわめて多数であったため,統計解析を行う際になるべくこの症例数を合わせるように配慮し,64歳以下の症例をまとめて,また75歳以上の症例をまとめて調査対象とした.またN/Cに関しても,64歳以下が57眼,65歳以上74歳以下が52眼,75歳以上が42眼であり,各年齢層の症例数が均衡していたため,前述した細胞数計測の年齢分けに準じて調査を行った.こうした解析からN/Cが各区画間,また年齢層の違いで有意差はなかったことから,一定面積内の細胞数が多くなる,すなわち細胞密度が高くなると,細胞核,細胞質ともに面積が小さくなり,逆に細胞密度が低くなると,先の両者が大きくなるわけであり,細胞核と細胞質の面積は同期しているものと考えた.これまでにヒトのLECを材料とし,年齢層も加味して,密度,N/Cの領域別での違いを述べてきたが,白内障の発症原因を探るためには,やはり正常水晶体の上皮についても,同様の調査を行い,比較,検討することが重要となる.おそらく,正常水晶体の上皮では,白内障水晶体の上皮に比して,増殖帯に存在するLECsの増殖能が高いため,赤道部から中央部までに存在するLECの密度が高くなると推察すあたらしい眼科Vol.31,No.7,20141057るが,ヒトの細胞を材料とする限り,正常水晶体のLECを使用することは困難であり,また40歳を過ぎるころから水晶体に混濁が出現することから,厳密には,ほぼ同年齢で正常水晶体と白内障水晶体のLEC密度の比較をすることは,ほとんど不可能といえる.また今後に行うべき検討として,白内障の混濁進行程度,水晶体の混濁部位,領域とLECの密度との関係を調査する必要がある.白内障の混濁進行程度,水晶体の混濁部位とLEC密度との関係はない4),逆に関係があるとの報告もみられるが3),今回のように10区画ごとのの密度を調査しているわけではないので,これは再検討すべき項目である.付け加えて,性差による密度の違いも報告されていることから1,3),さらなる調査が必要と考えている.現在,角膜,網膜の分野では,再生医療を取り入れた治療も現実となってきており7.9),いずれ水晶体の分野でも,白内障術後に,眼内レンズではなく,再生医療で作製された水晶体が使用される日が訪れることにもありうるため,その際に,今回のヒトLECの密度とN/Cに関する詳細な調査結果は,有用な情報になるものと考えた.稿を終えるにあたり,この調査にご協力をいただいた,わかもと製薬株式会社ヘルスケア研究室,木村基主任,また故白澤栄一博士に深謝いたします.文献1)KonofskyK,NaumannGOH,Guggenmoos-HolzmannI:Celldensityandsexchromatininlensepitheliumofhumancataracts.Ophthalmology94:875-880,19872)ArgentoC,ZarateJ:Studyoflensepithelialcelldensityincataractouseyesoperatedonwithextracapsularandintercapsulartechniques.JCataractRefractSurg16:207210,19903)VarsavaAR,CherianM,YadavSetal:Lensepithelialcelldensityandhistomorphologicalstudyincataractouslenses.JCataractRefractSurg17:798-804,19914)HarocoposGJ,AlvaresKM,KolkerAEetal:Humanage-relatedcataractandlensepithelialcelldeath.InvestOphthalmolVisSci39:2696-2706,19985)YamamotoN,MajimaK,MarunouchiT:Astudyoftheproliferatingactivityinlensepitheliumandtheidentificationoftissue-typestemcell.MedMolMorphol41:83-91,20086)広島由佳子,臼井正彦,矢那瀬紀子ほか:ヒト白内障水晶体上皮細胞の細胞変性とアポトーシス.あたらしい眼科15:707-711,19987)大家義則:角膜上皮の再生医療.眼科手術26:553-558,20138)稲垣絵海,榛原重人:角膜実質の再生医療.眼科手術26:559-565,20139)井上裕治,玉置泰裕:網膜移植再生療法.あらたしい眼科24(臨増):233-238,2007***1058あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(132)