《原著》あたらしい眼科35(6):829.831,2018c眼瞼下垂手術前後における涙液クリアランスの変化の検討森本佐恵*1,2渡辺彰英*1後藤田遼介*1横井則彦*1山中行人*1中山知倫*1小泉範子*1,2外園千恵*1*1京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学*2同志社大学生命医科学CInvestigationofChangesinTearClearanceafterBlepharoptosisSurgerySaeMorimoto1,2)C,AkihideWatanabe1),RyousukeGotouda1),NorihikoYokoi1),YukitoYamanaka1),TomonoriNakayama1),NorikoKoizumi1,2)CandChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmologyKyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)GraduateSchoolofLifeMedicalSciences,DoshishaUniversity目的:眼瞼下垂に対する挙筋短縮術前後の涙液クリアランスの変化について検討する.方法:挙筋短縮術を施行したC15例C19眼(平均年齢C79.8歳)を対象に,涙液メニスカス曲率半径(R),MarginRe.exDistance-1(MRD-1)の計測と,BSS点眼後C6分まで計C6回,涙液メニスカスの曲率半径(R)を測定する涙液クリアランステストを術前および術後1,3カ月の時点で施行した.結果:術後C1カ月での点眼2,3,4,5分後,術後C3カ月での点眼2,3,4,5,6分後におけるCclearancerateは,術前より有意に減少した(p<0.05).結論:眼瞼下垂手術によって涙液クリアランスは改善することが示唆された.CPurpose:Toassesschangesintearclearanceafterblepharoptosissurgery.Methods:19eyesof15patientswithacquiredblepharoptosiswereexamined.Allthepatientsunderwentlevatoradvancement.Tearclearancetestwasconductedusing20CμlCBSSophthalmicsolutionbymeasuringtearmeniscusradius(R)everyminuteuntil10minutesatpreoperativeandpostoperative1,3months.Results:Tearclearanceratesweresigni.cantlydecreased(p<0.05)C.Conclusion:Tearclearanceimprovedafterblepharoptosissurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(6):829.831,C2018〕Keywords:眼瞼下垂,挙筋短縮術,涙液クリアランス,ビデオメニスコメトリー,涙液メニスカス.blepharopto-sis,levatoradvancement,tearclearance,videomeniscometry,tearmeniscus.Cはじめに涙液に対する眼瞼の役割には,動的役割といえる瞬目による涙液の分配・クリアランスと,静的役割といえる瞼縁の涙液メニスカスによる涙液の保持がある.涙液クリアランスは涙液の動態を反映する重要なパラメータであり,クリアランスが高い場合,涙液は速やかに涙道内に排出される.涙液クリアランスが低い状態では涙液の流れが悪く,涙液の質的異常が起こりうる.涙液クリアランスが低下するとサイトカインの炎症性メディエーターが排出されず,また点眼液に含まれる防腐剤などの上皮障害性物質の影響を強く受け,角膜上皮障害が生じる1).眼瞼下垂術後の涙液クリアランスの変化を検討した報告はこれまでないが,加齢性下眼瞼内反症手術におけるCWheeler変法久冨法併用術後にCSchirmerテストを行い,涙液クリアランスがC67%で改善したとの報告がある2).この検討ではCSchirmer試験紙の交換頻度でクリアランスを検討し,定量的な検討ではなかった.以前,筆者らは後天性眼瞼下垂における眼瞼挙筋短縮術後6カ月までの涙液貯留量の評価を行い,術後に涙液貯留量は減少し,また長期にわたってその低下が持続することを示した3,4).眼瞼下垂手術による涙液減少の効果は,術前の涙液貯留量が多いほど減少しやすいが,その原因が涙小管のポンプ機能,つまり涙液クリアランスの増強によるものかは,過去に眼瞼下垂術後の涙液クリアランスについての報告はなく,いまだ明らかではない.そこで今回筆者らは,眼瞼下垂手術施行症例に対してCBSS点眼液により一時的に涙液貯留量を増やし,点眼後の涙液量〔別刷請求先〕渡辺彰英:〒602-8566京都市上京区梶井町C465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学Reprintrequests:AkihideWatanabe,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine.465Kajii-cho,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(121)C829の時間経過割合をCclearanceCrate1)とし,涙液クリアランスの評価の指標とした.点眼直後の涙液量を計測するとメニスカスが凸面になるなど計測が困難であるため,点眼後C1分後の涙液貯留量を起点とした.眼瞼下垂手術による涙液クリアランスの変化について若干の知見を得たので報告する.CI対象および方法対象は,2015年4月25日.2016年12月31日に京都府立医科大学附属病院眼科にて,後天性眼瞼下垂に対して眼瞼挙筋短縮術を施行したC15例19眼(男性C1例,女性C14例,平均年齢C79.8C±10.5歳)である.眼瞼下垂の他に眼瞼疾患がなく,涙道通過障害のない症例のみを対象とした.眼瞼挙筋短縮術は,全例で皮膚切開からの挙筋腱膜単独の短縮術または挙筋腱膜とCMuller筋の短縮術を施行した.また,対象の患者には京都府立医科大学医学倫理審査委員会の承認を得たうえでインフォームド・コンセントを行い,同意を得て測定を行った.眼瞼下垂手術前後の開瞼程度は,瞳孔中央から上眼瞼縁までの距離であるCmarginCre.exCdistance-1(MRD-1)をCOPH-THALMIC-MEASURE(Inami製)により測定した.涙液貯留量は涙液メニスカスの曲率半径(R)をビデオメニスコメトリー法により測定したものを指標とした5).Rは涙液貯留量と正の相関を示すため4),Rを涙液貯留量の指標とした.涙液クリアランスはCBSS点眼液をC20Cμl点眼し,1分ごとに計C6回,涙液メニスカスの曲率半径(R)をビデオメニスコメトリー法により測定したものを指標とした4).また,点眼後Cn分後の涙液メニスカスの曲率半径をCRCnとした.また,n分後の涙液クリアランスの指標となるCclearancerate(CRCn)を以下に示す.CR1.RnCRn=R1C×100(%)(Cn=2.6)*0.5*0.4点眼直後の涙液貯留量CRはメニスカスが凸面になり計測しづらいことから,点眼C1分後を起点として検討した.涙液クリアランスを術前および術後C1カ月,術後C3カ月の時点で計測し,術前をコントロール群としたCSteel-Dwass法を用いて検討した.また,クリアランス試験時の瞬目回数は検討しなかった.CII結果眼瞼下垂手術前後のCRはそれぞれ術前においてC0.29C±0.15mm,術後C1カ月においてC0.23C±0.07Cmm,術後C3カ月においてC0.22C±0.14mmであった.術前と術後C1カ月,術後C3カ月においてCRは有意に減少した(p<0.05)(図1).平均MRD-1はそれぞれ術前においてC.0.63±1.01Cmm,術後C1カ月においてC3.34C±1.16Cmm,術後C3カ月においてC3.84C±1.04Cmmであった.術前と術後C1カ月,術後C3カ月においてRは有意に改善した(p<0.01)(図2).術前のCCRC2の平均値はC12.0(%),CRC3の平均値はC17.4(%),CRC4の平均値は24.5(%),CRC5の平均値はC28.3(%),CRC6の平均値はC31.8(%)であった.術後C1カ月時点でのCCRC2の平均値はC25.0(%),CRC3の平均値はC33.2(%),CRC4の平均値はC35.5(%)CR5の平均値はC40.8(%),CRC6の平均値は40.8(%)であっ,た.術後C3カ月時点でのCCRC2の平均値はC32.7(%),CRC3の平均値はC38.5(%),CRC4の平均値はC42.7(%),CRC5の平均値はC44.8(%),CRC6の平均値はC47.8(%)であった.術前と術後C1カ月時点を比較して術後C1カ月でのCCRC2,CRC3,CRC4,CCR5が有意に増加した.また,術前と術後C3カ月時点と比較して術後C3カ月でのCCRC2,CR3,CR4,CR5,CR6が有意に増加した(p<0.05)(図3).****54R(mm)0.30.2MRD-1(mm)32100.1-10-2図1Rの推移図2MRD.1の推移Rは術後C1カ月,術後C3カ月時点において有意にMRDは術後C1カ月,術後C3カ月時点において有減少した(*:p<0.05,Holm法).C意に改善した(**:p<0.01,Holm法).C術前術後1カ月術後3カ月術前術後1カ月術後3カ月830あたらしい眼科Vol.35,No.6,2018(122)60**********50******403020100■術前■術後1カ月■術後3カ月図3Clearancerateの推移Clearancerateは術後C1カ月時点での点眼C2分後,3分後,4分後,5分後,術後C3カ月時点での点眼C2分後,3分後,4分後,5分後,6分後において有意に増加した(*:p<0.05,**:p<0.01,Holm法).CIII考按涙液クリアランスの測定方法には,従来,Jones法,Fluo-rophotometry法,フルオレセンクリアランス試験などがあるが6.8),偽陽性率が高い,時間がかかる,測定が半定量であり比較的侵襲性があるなどの問題点があった1).近年,前眼部COCTを用いた涙液クリアランステストが報告されており,高橋らは,生理食塩水C5Cμl点眼後からC30秒間における涙液メニスカスの変動を前眼部COCTで計測し,涙液クリアランス率を算出した9).前眼部COCTを用いた涙液クリアランステストは,ある程度定量的で客観的な測定が行える利点がある.今回筆者らは,前眼部COCTと同様に,非侵襲で客観的な測定が可能であり,眼表面の涙液量と一次相関するパラメータであるビデオメニスコメトリー法5)を用いて,涙液クリアランスを定量的に評価した.これまでの筆者らの研究から,眼瞼下垂術後に涙液量が減少する理由として,瞬目時の開閉瞼程度が大きくなることで涙液ポンプ機能が増強し,涙液クリアランスが増加すると推測していた3,4,10).涙液ポンプ作用以外の涙液クリアランスの改善の要因として,眼瞼下垂症の手術後に角膜の露出面積が大きくなるため,角膜露出面積の増加に伴う涙液分布面積の増加や涙液の蒸発が考えられるが,涙液貯留量の減少と術後のCMRD-1値,また術前後のCMRD-1の増加量に有意な相関関係はみられなかった3).今回の検討結果で,挙筋短縮術術後に有意に涙液貯留量は減少し,clearancerateが増加したことから,挙筋短縮術により涙液の蒸発亢進よりも涙液ポンプ機能のほうが涙液量の減少に関与すると考えられる.導涙のメカニズムについて考えると,涙液排出量は開瞼時の眼輪筋の弛緩により涙小管に涙液を排出し,閉瞼時には眼輪筋の収縮により「瞬目時に涙道系に発生する陰圧CΔP」と「上下の涙液メニスカスにおける陰圧CΔp」の差に比例する11).(123)CClearanrerate(%)2分後3分後4分後5分後6分後閉瞼時には眼輪筋,Horner筋が収縮し,涙.上部は膨張し,涙小管が圧平することで涙小管内の涙液が涙.へ流れ込み,開瞼時には眼輪筋,Horner筋が弛緩し涙.上部が収縮,涙小管が拡張し,涙点から涙液を吸引する.以前,筆者らは挙筋短縮術と余剰皮膚切除術が涙液量に与える影響を検討した.挙筋短縮術によって涙液貯留量が術後有意に減少したことに対して,余剰皮膚切除術では涙液貯留量が有意に減少しなかったこと4)から,挙筋短縮術後は上眼瞼挙筋の収縮および伸展が改善されるため,瞬目時の開瞼程度および閉瞼程度も大きくなり,開瞼時のCΔPの増加により涙液がより涙小管へ流れやすくなり涙液クリアランスが改善されると考えられる.今回の検討で,眼瞼下垂の治療法である挙筋短縮術によって,涙液クリアランスは改善することが示唆された.しかし,術後経過観察期間はC3カ月という短い期間であったため,長期にわたり涙液クリアランスの改善が維持されるかは不明である.今後症例数および経過観察期間を増やして検討することが必要であると考えられる.文献1)鄭暁東,小野眞史:前眼部COCT点眼負荷涙液クリアランス試験.あたらしい眼科31:1645-1646,C20142)西本浩之,向野和雄,春日井紘子ほか:加齢性下眼瞼内反症手術における視機能への影響について.眼科手術C20:C423-426,C20073)岡雄太郎,渡辺彰英,脇舛耕一ほか:眼瞼下垂手術後における涙液貯留量の変化.眼科手術28:624-628,C20154)WatanabeCA,CSelvaCD,CKakizakiCHCetCal:Long-termCtearCvolumeCchangesCafterCblepharoptosisCsurgeryCandCblepha-roplasty.InvestOphthalmolVisSciC56:54-58,C20155)横井則彦,濱野孝:メニスコメトリーとビデオメニスコメーター.あたらしい眼科17:65-66,C20006)JonesLT:Thecureofepiphoraduetocanaliculardisor-ders,traumaandsurgicalfailuresonthelacrimalpassag-es.TransAmAcadOphthalmolC66:506-524,C19627)WebberWR,JonesDP,WrightP:Fluorophotometricmea-surementsCofCtearCturnovcrCrateCinCnormalChealthyCper-sons:evidenceCforCaCcircadianCrhythm.CEye(Lond)C1:C615-620,C19878)XuKP,TsubotaK:Correlationoftearclearancerateand.uorophotometricassessmentoftearturnover.BrJOph-thalmolC79:1042-1045,C19959)高橋直巳,鄭暁東,鎌尾知行ほか:細隙灯顕微鏡による涙点関連所見と涙液クリアランスとの関係.あたらしい眼科32:876-882,C201510)WatanabeA,KakizakiH,SelvaDetal:Short-termchang-esCintearvolumeafterblepharoptosisrepair.Cornea33:C14-17,C201411)McDonaldCJE,CBrubakerCS:Meniscus-inducedCthinningCtear.lms.AmJOphthalmolC72:139-146,C1971あたらしい眼科Vol.35,No.6,2018C831