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ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬とラタノプロスト点眼薬併用症例におけるラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への切り替え効果

2014年10月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(10):1531.1534,2014cドルゾラミド/チモロール配合点眼薬とラタノプロスト点眼薬併用症例におけるラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への切り替え効果井上賢治*1方倉聖基*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科EfficacyofChangingfromLatanoprosttoBimatoprostEyedrops,inPatientsConcomitantlyUsingDorzolamide/TimololFixed-CombinationEyedropsandLatanoprostKenjiInoue1),SeikiKatakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ラタノプロストとドルゾラミド/チモロール配合剤(DTFC)を併用中でラタノプロストを変更することでさらなる眼圧下降が期待され,今回検討した.対象および方法:ラタノプロストとDTFCを併用中で,眼圧下降が不十分な開放隅角緑内障32例32眼を対象とした.ラタノプロストを中止し,ビマトプロストに切り替えた.DTFCは継続とした.眼圧を変更前,変更1,3カ月後に測定し,比較した.変更後の副作用を来院ごとに調査した.結果:眼圧は変更1カ月後16.9±3.5mmHg,3カ月後16.3±3.2mmHgで,変更前17.6±2.5mmHgに比べて有意に下降した(p<0.05).脱落例は3例(9.4%)で,副作用(下眼瞼腫脹),緑内障手術施行,転医の各1例だった.結論:ラタノプロストとDTFC併用患者において,ラタノプロストをビマトプロストへ変更することで眼圧下降が得られ,安全性も良好だった.Purpose:Inpatientsusingdorzolamide/timololfixed-combinationeyedrops(DTFC)andlatanoprost,furtherdecreaseinintraocularpressure(IOP)isexpectedwithchangeoflatanoprost.Subjectsandmethods:Subjectswere32open-angleglaucomapatientsconcomitantlyusingDTFCandlatanoprost,inwhomIOP-decreasingefficacywasinsufficient.Thelatanoprostwaschangedtobimatoprost;DTFCwascontinued.IOPbeforeandat1and3monthsafterthechangewerecompared;adversereactionswereexamined.Results:IOPat1month(16.9±3.5mmHg)and3months(16.3±3.2mmHg)afterthechangeshowedsignificantdecreasefromthepre-changelevel(17.6±2.5mmHg).Threecases(9.4%)werediscontinuedduerespectivelytoadversereaction(swellingoflowereyelid),glaucomasurgeryandchangeofphysician.Conclusion:InpatientsconcomitantlyusingDTFCandlatanoprostwhochangefromlatanoprosttobimatoprost,IOPdecreaseandsafetyaresatisfactory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1531.1534,2014〕Keywords:ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬,ラタノプロスト点眼薬,ビマトプロスト点眼薬,切り替え,眼圧,副作用.dorzolamide/timololfixedcombinationeyedrops,latanoprosteyedrops,bimatoprosteyedrops,change,intraocularpressure,adversereactions.はじめに緑内障患者において視野維持効果が高いエビデンスで示されているのは眼圧下降療法のみである1,2).眼圧下降のために通常点眼薬治療が第一選択である.点眼薬治療は単剤から行うが,眼圧下降効果が不十分な場合は点眼薬の変更や追加が推奨されている3).これを繰り返すと多剤併用となる.しかし,点眼回数が増える多剤併用症例ではアドヒアランスの低下が問題となり4),アドヒアランス向上を目的として配合点眼薬が開発された.日本ではラタノプロスト点眼薬あるいはトラボプロスト点眼薬とマレイン酸チモロール点眼薬の配〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(109)1531 合点眼薬,ドルゾラミド点眼薬あるいはブリンゾラミド点眼薬とマレイン酸チモロール点眼薬の配合点眼薬が使用可能である.臨床現場では,プロスタグランジン/チモロール配合点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬,プロスタグランジン点眼薬+炭酸脱水酵素阻害薬/チモロール配合点眼薬の組み合わせが多く使用されている.点眼薬の変更に関しては,プロスタグランジン点眼薬を他のプロスタグランジン点眼薬へ変更することで眼圧が下降するという報告5.16)が多くみられるが,配合点眼薬との併用症例におけるプロスタグランジン点眼薬の変更を検討した報告はない.今回,ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬とラタノプロスト点眼薬を併用中の患者を対象にして,ラタノプロスト点眼薬をビマトプロスト点眼薬に変更した際の眼圧下降効果と安全性を検討した.I対象および方法2011年7月から2012年9月までの間に井上眼科病院に通院中で,ラタノプロスト点眼薬とドルゾラミド/チモロール配合点眼薬のみを使用中で,眼圧下降効果が不十分な開放隅角緑内障32例32眼(男性13例13眼,女性19例19眼)を対象とし,前向きに研究を行った.平均年齢は73.0±6.9歳(平均±標準偏差)(60.85歳)であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障(狭義)30例,落屑緑内障2例であった.Humphrey視野のmeandeviation(MD)値は.10.3±6.2dB(.23.11.0.63dB)であった.ビマトプロスト点眼薬へ変更前の眼圧は17.6±2.5mmHg(12.23mmHg)であった.両眼該当例では眼圧の高い眼を,眼圧が同値の場合は右眼を,片眼症例では該当眼を解析対象とした.使用中のラタノプロスト点眼薬を中止し,washout期間なしでビマトプロスト点眼薬(1日1回夜点眼)に変更した.ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬は継続使用とした.点眼変更前と変更1,3カ月後に患者ごとにほぼ同時刻に眼圧(mmHg)22.0**20.018.016.014.012.010.08.06.04.0*p<0.052.00.0変更前変更1カ月後変更3カ月後図1点眼薬変更前後の眼圧(ANOVAおよびBonfferoni/Dunn検定,*p<0.05)Goldmann圧平眼圧計で同一の検者が眼圧を測定し,比較した(ANOVAおよびBonferroni/Dunn検定).変更1,3カ月後の変更前と比べた眼圧下降幅を調査した.変更1,3カ月後の変更前と比べた眼圧下降率を算出し,比較した(Friedman検定).変更後に来院時ごとに副作用を調査した.有意水準はいずれも,p<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理委員会で承認され,研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を得た後に行った.II結果眼圧は変更1カ月後16.9±3.5mmHg,3カ月後16.3±3.2mmHgで,変更前17.6±2.5mmHgと比べて有意に下降した(p<0.05)(図1).眼圧下降幅は変更1カ月後では2mmHg以上下降した症例は11例(35.5%),±1mmHg以内の症例は17例(54.8%),2mmHg以上上昇した症例は3例(9.7%)だった(図2).変更3カ月後では2mmHg以上下降した症例は14例(48.3%),±1mmHg以内の症例は12例(41.4%),2mmHg以上上昇した症例は3例(10.3%)だった.眼圧下降率は,変更1カ月後4.1±10.8%,3カ月後6.7±10.8%で同等だった(p=0.4521).変更3カ月後までの脱落例は3例(9.4%)だった.内訳は変更1カ月後に下眼瞼腫脹が出現した1例,変更2カ月後に眼圧が上昇したために緑内障手術を施行した1例,変更2カ月後に転居に伴い転医した1例だった.下眼瞼腫脹が出現した症例ではビマトプロスト点眼薬をラタノプロスト点眼薬に戻したところ症状は消失した.III考按プロスタグランジン点眼薬の変更による眼圧下降効果の報告のなかでラタノプロスト点眼薬をビマトプロスト点眼薬に変更した報告5.16)が多い.ラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への変更では眼圧は有意に下降し,その眼圧下降幅は0.51.6.0mmHg,眼圧下降率は3.0.24.9%であ2mmHg以上2mmHg以上上昇上昇3例,9.7%3例,10.3%2mmHg以上下降11例,35.5%±1mmHg以内17例,54.8%2mmHg以上下降14例,48.3%±1mmHg以内12例,41.4%変更1カ月後変更3カ月後図2点眼薬変更1,3カ月後の眼圧下降幅1532あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(110) る5.16).プロスタグランジン点眼薬の変更により眼圧が下降する理由として,プロスタグランジン点眼薬に対するノンレスポンダーの存在があげられる.ノンレスポンダーのプロスタグランジン点眼薬を他のプロスタグランジン点眼薬に変更することで眼圧が下降するのは妥当で,ラタノプロスト点眼薬に対するノンレスポンダー症例でビマトプロスト点眼薬に変更したところ眼圧が下降したと報告されている5.8).さらに,その眼圧下降幅は1.9.6.0mmHg,眼圧下降率は11.9.24.9%と良好である.しかし,ノンレスポンダーの定義は定まっておらず,ラタノプロスト点眼薬単剤2カ月間投与で眼圧下降率が10%未満の症例5),ラタノプロスト点眼薬単剤8週間投与で眼圧下降幅が3mmHg以下の症例6),ラタノプロスト点眼薬単剤12週間投与で眼圧下降率が20%以下の症例7),ラタノプロスト点眼薬を含む治療を4週間以上行い眼圧下降率が20%未満の症例8)と報告により異なる.その他にプロスタグランジン点眼薬の変更により眼圧が下降する理由として,アドヒアランスの向上があげられる.変更により眼圧下降の必要性を再認識した症例や副作用が軽減する症例が考えられる.変更後のプロスタグランジン点眼薬のほうが変更前のプロスタグランジン点眼薬よりも眼圧下降効果が強力である可能性もある.プロスタグランジン点眼薬の化学構造は各薬剤で異なり,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストはイソプロピルエステル型で,ビマトプロストはエチルアミド型である.エチルアミド型では加水分解されて酸型となると他の3剤と同様にプロスタノイド受容体に結合する.Liangら17)は,ビマトプロストはエチルアミド型でもプロスタノイド受容体とそのスプライスバリアントの複合体に直接結合することができ,眼圧下降機序が他のプロスタグランジン点眼薬と異なると報告した.今回は変更1,3カ月後に眼圧は有意に下降した.対象のなかにラタノプロスト点眼薬のノンレスポンダーが含まれていた可能性はあるが,ラタノプロスト点眼薬投与前の眼圧がわからないので詳細は不明である.また,眼圧下降効果が不十分な症例を対象としたため,点眼薬変更によりアドヒアランスが向上した可能性も考えられる.一方,ラタノプロスト点眼薬の副作用が出現したためにビマトプロスト点眼薬へ変更した症例はなく,副作用の軽減によるアドヒアランスの向上は今回の症例では考えづらい.しかし,変更後に眼圧が2mmHg以上上昇した症例が,変更1カ月後に9.7%,変更3カ月後には10.3%存在し,さらに変更2カ月後に眼圧が上昇したために緑内障手術を施行した症例もあり,それらの症例はビマトプロスト点眼薬に対するノンレスポンダーの可能性がある.ラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬へ変更した報告において,ラタノプロスト点眼薬単剤症例での変更5.15),ラタノプロスト点眼薬を含む多剤併用症例での変更8.12,16)がある.Lawら9)は,多剤併用症例では変更により(111)眼圧が変化なかったと報告した.広田ら10)は,ラタノプロスト点眼薬とb遮断点眼薬併用症例では眼圧は変更2週間後には差がなかったが,変更4.24週間後には有意に下降したと報告した.南野ら11)は,ラタノプロスト点眼薬あるいはトラボプロスト点眼薬を含む多剤併用症例では変更後に眼圧は有意に下降し,その眼圧下降率は変更4.24週間後で13.3.19.7%だったと報告した.仲ら16)は,プロスタグランジン点眼薬およびb遮断薬点眼薬を含む2種類以上の点眼薬併用症例では眼圧は変更3カ月後に有意に下降し,眼圧下降率は10%だったと報告した.今回は全症例がラタノプロスト点眼薬とドルゾラミド/チモロール配合点眼薬併用症例であり,多剤併用症例においても過去の報告10,11,16)と同様にビマトプロスト点眼薬への変更により眼圧が有意に下降する可能性がある.ラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への変更による副作用の頻度は0.9.5%と報告されている5.16).その内訳は結膜充血,点状表層角膜炎,アレルギー性結膜炎,眼痛,掻痒感,刺激感,霧視,異物感,眼瞼色素沈着,睫毛延長である.今回は副作用は3.1%で出現し,下眼瞼腫脹1例だった.ラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への変更による安全性は良好である.結論としてラタノプロスト点眼薬とドルゾラミド/チモロール配合点眼薬を併用中の開放隅角緑内障症例において,ラタノプロスト点眼薬をビマトプロスト点眼薬へ変更することで,3カ月間にわたり眼圧は下降し,安全性も良好だった.配合点眼薬との併用症例においてもプロスタグランジン点眼薬の変更は眼圧下降治療における選択肢となりうる.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19982)TheAGISInvestigators.TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS):7.Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20003)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:3-46,20124)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-242,20095)GandolfiSA,CiminoL:Effectofbimatoprostonpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhoarenonresponderstolatanoprost.Ophthalmology110:609-614,20036)WilliamsRD:Efficacyofbimatoprostinglaucomaandocularhypertensionunresponsivetolatanoprost.Advあたらしい眼科Vol.31,No.10,20141533 Ther19:275-281,20027)SatoS,HirookaK,BabaTetal:Efficacyandsafetyofswitchingfromtopicallatanoprosttobimatoprostinpatientswithnormal-tensionglaucoma.JOculPharmacolTher27:499-502,20118)SontyS,DonthamsettiV,VangipuramGetal:LongtermIOPloweringwithbimatoprostinopen-angleglaucomapatientspoorlyresponsivetolatanoprost.JOculPharmacolTher24:517-520,20089)LawSK,SongBJ,FangEetal:Feasibilityandefficacyofamassswitchfromlatanoprosttobimatoprostinglaucomapatientsinaprepaidhealthmaintenanceorganization.Ophthalmology112:2123-2130,200510)広田篤,井上康,永山幹夫ほか:ラタノプロスト効果不十分例の点眼をビマトプロストに切替えたときの眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科29:259-265,201211)南野麻美,谷野富彦,中込豊ほか:各種プロスタグランジン関連薬の0.03%ビマトプロスト点眼液への切替えによる眼圧下降効果.あたらしい眼科28:1629-1634,201112)松原彩来,徳田直人,金成真由ほか:プロスト系プロスタグランジン関連薬からビマトプロストへ切り替え後の眼圧推移と副作用発現頻度.あたらしい眼科30:1165-1170,201313)KammerJA,KatzmanB,AckermanSLetal:Efficacyandtolerabilityofbimatoprostversustravoprostinpatientspreviouslyonlatanoprost:a3-month,randomised,masked-evaluator,multicenterstudy.BrJOphthalmol94:74-79,201014)BourniasTE,LeeD,GrossRetal:Ocularhypertensiveefficacyofbimatoprostwhenusedasareplacementforlatanoprostinthetreatmentofglaucomaandocularhypertension.JOculPharmacolTher19:193-203,200315)CassonRJ,LiuL,GrahamSLetal:Efficacyandsafetyofbimatoprostasreplacementforlatanoprostinpatientswithglaucomaorocularhypertension.Auniocularswitchstudy.JGlaucoma18:582-588,200916)仲昌彦,山本麻梨亜,金学海ほか:原発開放隅角緑内障患者に対する0.03%ビマトプロスト切り替えによる眼圧下降効果と安全性の検討.臨眼68:219-224,201417)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:IdentificationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,2008***1534あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(112)