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未治療滲出型加齢黄斑変性に対するファリシマブの導入期治療成績

2024年11月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科41(11):1372.1377,2024c未治療滲出型加齢黄斑変性に対するファリシマブの導入期治療成績切石達範永井由巳植村太智中山弘基大中誠之木村元貴髙橋寛二関西医科大学眼科学教室CShort-TermOutcomesofIntravitrealFaricimabforTreatment-NaiveNeovascularAge-RelatedMacularDegenerationTatsunoriKiriishi,YoshimiNagai,TaichiUemura,HirokiNakayama,MasayukiOhnaka,MotokiKimuraandKanjiTakahashiCDepartmentofOphthalmologyofKansaiMedicalUniversityHospitalC目的:未治療滲出型加齢黄斑変性(nAMD)に対するファリシマブの治療成績について検討する.方法:関西医科大学附属病院でC2022年C7月.2023年C1月にファリシマブによる治療を開始した未治療CnAMD症例のうち,ファリシマブをC3回またはC4回,1カ月ごとに投与する導入期治療を行い,治療後C1カ月まで経過を観察できたC45例C45眼を対象に,ファリシマブ投与時と導入期治療後C1カ月のClogMAR視力および中心網膜厚(CRT),中心脈絡膜厚(CCT)を計測し,その変化を後ろ向きに検討した.結果:症例は45例45眼(男性25例25眼,女性20例20眼)で全体の平均年齢はC76.6歳,病型の内訳はCtype1MNVがC15眼(33.3%),type1とCtype2MNVの合併例がC5眼(11.1%),type3MNVがC4眼(8.9%),PCVがC21眼(46.7%)であった.導入期治療においてCdryになるまでの投与回数の中央値はC1(1.4)回で,1回投与後がC24眼C53.3%,2回投与後がC14眼C31.1%,3回投与後がC3眼C6.7%,4回投与後がC1眼C2.2%,導入期治療後も滲出性変化が消退しなかった症例はC3眼C6.7%で,92.3%で導入期治療により滲出性変化を抑制できた.logMAR視力,CRT,CCTは治療前および導入治療後で,0.38±0.37CμmおよびC0.38±0.43Cμm,321.1±131.3CμmおよびC185.8±93.0Cμm,215.9±120.5CμmおよびC189.8±113.8Cμmであった.有害事象としてC2眼(4.4%)に網膜色素上皮裂孔を認めた.結論:ファリシマブは未治療CnAMDに対する導入期治療の選択肢の一つとして考慮してもよい薬剤である.CPurpose:ToCevaluateCtheCtreatmentCoutcomesCofCfaricimabCforCuntreatedCnAMD.CSubjectsandMethods:Inthisretrospectivestudy,weexaminedthemedicalrecordsof45treatment-naivenAMDpatients(n=45eyes)inwhomCtreatmentCwithCfaricimabCwasCinitiatedCatCKansaiCMedicalCUniversityCHospitalCfromCJulyC2022CtoCJanuaryC2023.CAllCpatientsCreceivedC3CorC4CmonthlyCinjectionsCofCfaricimabCasCtheCinductionCphase,CandCwereCobservedCforC1-monthposttreatment.LogMARvisualacuity(VA),centralretinalthickness(CRT),andcentralchoroidalthick-ness(CCT)weremeasuredatthetimeofadministrationandat1monthaftertheinductionphase.Changeswereexaminedfortheentirecohort,andseparatelyforcaseswithtype1macularneovascularization(MNV),combinedtype1andtype2MNV,type3MNV,andpolypoidalchoroidalvasculopathy.Results:Posttreatment,therewasnoCchangeCofClogMARCVA,CyetCbothCCRTCandCCCTCimproved.CAsCforCadverseCevents,CretinalCpigmentCepithelialCtearsCwereCobservedCinC2Ceyes.CConclusion:FaricimabCmayCbeCconsideredCaCsuccessfulCandCusefulCtherapeuticCoptionforcasesoftreatment-naivenAMD.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(11):1372.1377,C2024〕Keywords:滲出型加齢黄斑変性,ファリシマブ,導入期治療,治療成績,有害事象.neovascularage-relatedmaculardegeneration,faricimab,inductionphasetreatment,treatmentresult,adverseevent.C〔別刷請求先〕切石達範:〒573-1191大阪府枚方市新町C2-5-1関西医科大学眼科学教室Reprintrequests:TatsunoriKiriishi,DepartmentofophthalmologyofKansaiMedicalUniversityHospital.2-5-1Shinmachi,Hirakata,Osaka573-1197,JAPANC1372(102)I緒言と目的新生血管を伴う滲出型加齢黄斑変性(neovascularCage-relatedCmaculardegeneration:nAMD)は,黄斑部新生血管(macularneovascularization:MNV)からの出血や滲出液により網膜構造の不整を引き起こし視機能を低下させる疾患である.その標準的な治療は,抗血管内皮増殖因子(vas-cularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬の硝子体内注射により滲出性変化を抑制することである.現在までにいくつかの薬剤が上梓されているが,2022年C3月にファリシマブが新たに承認された.ファリシマブはこれまでの薬剤とは異なり,抗CVEGF-A抗体と抗Cangiopoietin-2(Ang-2)抗体を有する眼科初のバイスペシフィック抗体である.VEGF-A阻害による血管新生および血管漏出の抑制と,Ang-2阻害による血管壁の安定化および抗炎症作用により,nAMDの病態抑制が期待されている.また,Fc領域が改変されているため,胎児性CFc受容体,免疫細胞のCFc受容体と結合せず,全身曝露量の低下や炎症誘発の抑制が期待されている1).実臨床において未治療CnAMDに対して行われた第CIII相臨床試験であるCTENAYA試験(NCT0382328)およびCLUCERNE試験(NCT0382330)でも,投与開始後C48週間の時点でC16週間の投与間隔で滲出性変化を抑制できていた症例の割合はそれぞれC46%とC45%,12週間隔とC16週間隔を合わせた割合はそれぞれC80%とC78%となっており,8週間間隔でアフリベルセプトを投与した場合と比較して最高矯正視力が非劣性であることが示されている2).しかし,上梓されて間もないことから,その臨床的な治療成績についてはまだ不明な点が多い.今回筆者らは,実臨床においてファリシマブを使用した短期的な治療成績を報告する.CII対象と方法対象症例は,関西医科大学附属病院眼科黄斑外来を受診し未治療CnAMDと診断され,2022年C7月.2023年C1月にファリシマブによる治療を開始した患者のうち,ファリシマブを3回またはC4回,1カ月ごとに投与する導入期治療を行い,治療後C1カ月まで経過を観察できたC45例C45眼を対象とした.診断は細隙灯顕微鏡検査,フルオレセイン蛍光造影(トプコンCTRC-50DX),インドシアニングリーン蛍光造影および光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT,Heidelberg社スペクトラリスCHRA+OCT)にて行った.検討項目は,logMAR視力,中心網膜厚(centralCretinalthickness:CRT),中心脈絡膜厚(centralCfovealCchoroidalthickness:CCT),滲出性所見〔網膜内液(intraretinal.uid:IRF),網膜下液(subretinal.uid:SRF)〕の変化,滲出性所見消失までの投与回数および合併症とした.CRTとCCCTはスペクトラリス機器に内蔵されているキャリパーを用いてCBスキャン画像上で計測した.CRTの測定は,中心窩における内境界膜から網膜色素上皮の表層までで行い,IRFやCSRFも含めた.CCTの測定は,Bruch膜から脈絡膜と強膜の境界部までとした.測定は筆者および共著者(M.O)のC2人で行った.導入期の投与回数は,2回目の投与までに滲出性変化が消失した状態(dry)になった症例ではC3回,それ以外ではC4回の投与を行った.Dryになるまでのファリシマブの投与回数と,logMAR視力,CRT,CCTに関して,全体およびCtype1MNV/type1+2MNVとポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)に分類し,統計学的検討を行った.統計はCMicrosoftCO.ceCHomeCandCBusinessPremiumに付属するCExcel(バージョンC2311)を用いてCWilcoxonの符号順位検定にて検討し,p値がC0.05未満の場合を有意差ありとした.また,有害事象については後ろ向きに検討を行った.CIII結果対象症例C45例C45眼の内訳は,男性C25例C25眼,女性C20例C20眼,平均年齢はC76.4歳であった.また,nAMDの病型別の内訳は,typeC1MNVがC15眼(33.3%),typeC1CMNVにtype2MNVを合併したものが5眼(11.1%),type3MNVがC4例C8.9%,PCVがC21眼(46.7%)であった.ファリシマブ投与C1回後にCdryになった症例はC24眼(53.3%),2回後が14眼(31.1%),3回後が3眼(6.7%),4回後がC1眼(2.2%)であり,導入期治療で最終的にC42眼(93.3%)においてCdryが得られた.4回投与後にもCdryが得られなかった症例はC3眼(6.7%)であった.logMAR視力の変化(図1)は,全体(45眼)では投与前がC0.38C±0.37,投与後がC0.38C±0.43であり,有意差は認めなかった(p=0.61).投与回数がC3回の群(41眼)とC4回の群(4眼)に分けた場合では,3回投与群で投与前がC0.38C±0.38,投与後がC0.39C±0.45であり,有意差は認めなかった(p=0.49).4回投与群で投与前がC0.31C±0.11,投与後がC0.20C±0.10であり,有意差は認めなかった(p=1).CRTの変化(図2a)は,全体では投与前がC321.1CμC±131.3μm,投与後がC185.8C±93.0Cμmであり,有意に減少を認めた(p<0.0001).3回投与群で投与前がC321.6C±137.2Cμm,投与後がC183.4C±96.1μmであり,有意に減少を認めた(p<C0.0001).4回投与群で投与前がC316.3C±42.6Cμm,投与後がC208.0±62.3Cμmであり,有意差は認めなかった(p=0.11).CCTの変化(図2b)は,全体では投与前がC215.9C±120.5μm,投与後がC189.8C±113.8Cμmであり,有意に減少を認めた(p<0.0001).3回投与群で投与前がC222.0C±122.6Cμm,logMAR視力0.450.40.350.30.250.20.150.10.050治療前1カ月2カ月3カ月4カ月3回投与群4回投与群(n=41)(n=4)図13回投与群と4回投与群のlogMAR視力の推移a350300250CRT(μm)200150100500治療前1カ月2カ月3カ月4カ月3回投与群4回投与群*p<0.05(n=41)(n=4)**p<0.01b250200150153.8100500CCT(μm)治療前1カ月2カ月3カ月4カ月3回投与群4回投与群(n=41)(n=4)図23回投与群と4回投与群のCRT(a)およびCCT(b)の推移0.60.50.40.30.20.10logMAR視力a350300250200150CRT(nm)100500bCCT(nm)300250200150100500治療前治療後type1MNV/1+2MNV群PCV群*p<0.05(n=20)(n=21)**p<0.01図4病型別のCRT(a)およびCCT(b)の治療前後の推移表1治療前後でlogMAR視力が0.3以上悪化した症例の詳細病型治癒前視力(小数視力)治癒後視力(小数視力)治癒前CCRT[Cμm]治癒後CCRT[Cμm]治癒前CCCT[Cμm]治癒後CCCT[Cμm]dryを得るまでの投与回数備考症例C1CPCVC0.40(0C.4)C1.00(0C.1)C720C447C148C143C3症例C2Ctype1CMNVC0.70(0C.2)C1.30(C0.05)C268C130C152C152C3CRPEtear症例C3Ctype1CMNVC0.30(0C.5)C1.00(0C.1)C643C619C130C123C4CPCVrupture症例C4CPCVC0.52(0C.3)C0.82(C0.15)C279C119C183C159C3CPCVrupture症例C5Ctype1CMNVC0.70(0C.2)C1.00(0C.1)C461C332C71C76C3C投与後がC195.0C±116.3Cμmであり,有意に減少を認めた(p<0.0001).4回投与群で投与前がC153.8C±84.3Cμm,投与後がC139.3C±87.9Cμmであり,有意差は認めなかった(p=0.10).また,病型別の検討としてCtypeC1MNVおよびCtypeC1MNVとCtype2MNV合併症例C20例C20眼と,PCV症例C21例C21眼に分けて検討を行った.logMAR視力の変化(図3)は,typeC1MNVおよびCtypeC1MNVとCtypeC2MNV合併症例で投与前がC0.49C±0.43,投与後がC0.53C±0.42であり,有意差は認めなかった(p=0.05).PCV症例で投与前がC0.27C±0.27,投与後がC0.25C±0.31であり,有意差は認めなかった(p=0.89).CRTの変化(図4a)は,typeC1MNVおよびtypeC1MNVとtypeC2MNV合併症例で投与前が320.3C±134.8μm,投与後がC200.2C±116.8Cμmであり,有意に減少を認めた(p=0.001).PCV症例で投与前がC321.0C±136.3Cμm,投与後がC179.7C±72.5μmであり,有意に減少を認めた(p=0.001).CCTの変化(図4b)は,typeC1MNVおよびtypeC1MNVとCtype2MNV合併症例で投与前がC252.7C±64.9Cμm,投与後がC225.4C±59.9Cμmであり,有意に減少を認めた(p=0.002).PCV症例で投与前がC160.7C±130.2Cμm,投与後がC141.0±129.1Cμmであり,有意に減少を認めた(p=0.0008).また,logMAR視力がC0.3以上変化したものとそれ以外の症例に分けてみると,改善した症例がC5眼(11.1%,3回投与群C3眼,4回投与群C1眼),悪化した症例がC5眼(8.9%,3回投与群C4眼,4回投与群C1眼),それ以外(維持)がC36眼(80.0%,3回投与群C33眼,4回投与群C3眼)であった.有害事象については,RPEtearをC2眼(4.4%)で認めた.眼内炎症および全身的な副作用は認めなかった.IV考察ファリシマブの導入期治療において,本検討ではC93.3%と高率にCdryが得られた.nAMDの治療に関して,抗VEGF薬による導入期治療に対する反応性が良好な症例ではその後の視力予後が良好である可能性が示唆されており3,4),ファリシマブ導入期治療での滲出性所見に対する抑制効果が高いことは視力維持に有効である可能性がある.導入期治療での治療成績は,TENAYA試験およびLUCERNE試験ではCIRFとCSRFの抑制率はアフリベルセプトより優位に高いと報告されているが,以前当院でアフリベルセプトの導入期治療を行い,94%でCdryが得られると報告しており5),今回の結果と同様であったことから,ファリシマブはアフリベルセプトと同等あるいはそれ以上の滲出抑制効果があると推測される.CRTとCCCTに関しては,治療により有意に改善を得られており,これはCTENAYA試験,LUCERNE試験および国内での既報6,7)でも同様の報告がなされている.ただし,本検討では視力に関しては治療前後で有意差はみられなかった.logMAR視力がC0.3以上悪化した症例に関して詳細に検討したところ,5例が該当した(表1).治療前のClogMAR視力の平均はC0.52C±0.18と全体の平均と比較し治療開始前の視力が不良であったが,そのうちC2例は治療開始前にCPCVruptureにて出血を起こした状態であり,またC1例では経過中にCRPEtearを認めた.こうした例では治療にかかわらず網膜およびCRPEの萎縮が進行し,不可逆的に視力が増悪する.国内でファリシマブの導入期治療成績を報告している既報でも,松本ら6)は治療前後のClogMAR視力がC0.33C±0.41からC0.22C±0.36に,向井ら7)はC0.40C±0.42がC0.32C±0.43に有意に改善したと報告しているが,本検討では前述の背景因子が大きく影響している可能性があり,症例数を増やして検討を行うことで視力が改善する結果を得られる可能性は高いと考える.合併症としてCRPEtearをC2例で認めたが,既報と比較しても著明に多い結果ではなかった6,7).発生した症例のCPEDの長径および高さは,1例でC5,644μm/304Cμm,もうC1例はC3,645Cμm/121Cμmであり,tear発生前のCPEDの長径および高さはどちらもとくに際立って大きなものではなく,発生に関しての傾向は不明であった.CRPEtearは,大きなCPEDの静水圧や抗CVEGF薬での治療によりCCNVが線維化および収縮することで起こるとされている8,9).黄斑部に起こると劇的に視力が悪化する合併症であるため,丈の高いCPEDでは発生に注意しリスクを説明したうえで治療する必要がある.CV結語本検討ではClogMAR視力に関して有意差はなかったものの,CRTおよびCCCTについては有意な改善を認めた.nAMDに対する導入期治療において,ファリシマブは選択肢の一つとして考慮してもよい薬剤であるが,今後はさらに多数例での検討を要すると考える.文献1)RegulaCJT,CvonCLundhCP,CFoxtonCRCetal:TargetingCkeyCangiogenicCpathwaysCwithCaCbispeci.cCCrossMAbCopti-mizedCforCneovascularCeyeCdiseases.CEMBOCMolCMedC8:C1265-88,C20162)HeierCJS,CKhananiCAM,CQuezadaCRuizCCCetal:E.cacy,Cdurability,andsafetyofintravitrealfaricimabuptoevery16CweeksCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegenera-tion(TENAYACandLUCERNE):twoCrandomised,Cdou-ble-masked,CphaseC3,Cnon-inferiorityCtrials.CLancetC399:C729-740,C20223)OhnakaCM,CNagaiCY,CTakahashiCKCetal:ACmodi.edCtreat-and-extendCregimenCofCa.iberceptCforCtreatment-naiveCpatientsCwithCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CGrafesCArchCClinCExpCOphthalmolC255:C657-664,C20174)OhjiM,OkadaAA,SasakiKetal:RelationshipbetweenretinalC.uidCandCvisualCacuityCinCpatientsCwithCexudativeCage-relatedmaculardegenerationtreatedwithintravitre-alCa.iberceptCusingCaCtreat-and-extendregimen:sub-groupCandCpost-hocCanalysesCfromCtheCALTAIRCstudy.CGraefesArchClinExpOphthalmolC259:3637-3647,C20215)永井由巳,大中誠之,木村元貴ほか:滲出型加齢黄斑変性のCtreatment-naive症例に対するアフリベルセプト硝子体内投与の成績.臨眼69:1167-1173,C20156)MatsumotoCH,CHoshinoCJ,CNakamuraCKCetal:Short-termCoutcomesCofCintravitrealCfaricimabCforCtreatment-naiveCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CGraefesCArchClinExpOphthalmolC261:2945-2952,C20237)MukaiCR,CKataokaCK,CTanakaCKCetal:Three-monthCout-comesCofCfaricimabCloadingCtherapyCforCwetCage-relatedCmaculardegenerationinJapan.SciRepC13:8747,C20238)SarrafD,ChanC,RahimyEetal:ProspectiveevaluationofCtheCincidenceCandCriskCfactorsCforCtheCdevelopmentCofCRPEtearsafterhigh-andlow-doseranibizumabtherapy.RetinaC33:1551-1557,C20139)SarrafD,JosephA,RahimyE:Retinalpigmentepithelialtearsintheeraofintravitrealpharmacotherapy:riskfac-tors,pathogenesis,prognosisandtreatment(anAmericanOphthalmologicalCSocietythesis)C.CTransCAmCOphthalmolCSocC112:142-159,C2014***

アフリベルセプトからファリシマブへの切り替えを契機に 網膜色素上皮裂孔を生じた滲出型加齢黄斑変性の1 例

2023年9月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科40(9):1249.1253,2023cアフリベルセプトからファリシマブへの切り替えを契機に網膜色素上皮裂孔を生じた滲出型加齢黄斑変性の1例岸真椰三木明子上村亜弥奥田実奈中村誠神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野CACaseofExudativeAge-RelatedMacularDegenerationwithRetinalPigmentEpithelialTearafterSwitchingfromIntravitrealA.iberceptInjectiontoFaricimabMayaKishi,AkikoMiki,AyaKamimura,MinaOkudaandMakotoNakamuraCDivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgery,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicineC目的:アフリベルセプトからファリシマブへの切り替えを契機に網膜色素上皮裂孔(RPEtear)を生じたC1例を経験したので報告する.症例:89歳,男性.2013年に近医で左眼滲出型加齢黄斑変性(nAMD)と診断され,抗血管内皮増殖因子薬硝子体内注射で加療されていた.ラニビズマブC3回,アフリベルセプトC21回の加療後,2016年に神戸大学医学部附属病院眼科に紹介された.初診時,中心窩の網膜色素上皮.離と傍中心窩の漿液性網膜.離を認め,検眼鏡,光干渉断層計,蛍光眼底造影検査でCnAMDと診断し,アフリベルセプトで加療した.治療経過中にアフリベルセプトに抵抗性を示したため,ファリシマブへ切り替えた.切り替えC1カ月後に矯正視力低下,RPEtear,黄斑下出血を認めた.結論:滲出型加齢黄斑変性において,ファリシマブへの切替えの際にはCRPEtearの発生に留意する必要がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCretinalpigmentCepithelial(RPE)tearCafterCintravitrealCinjectionCofCfaricimab.CCasereport:AnC89-year-oldCmaleCwasCdiagnosedCwithCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration(nAMD)Cbyhisprimarycarephysician,andwastreatedwithintravitrealinjectionsofanti-vascularendothelialgrowthfac-tor(VEGF)C.CAfterCtreatmentCwithranibizumab(3times)anda.ibercept(21times)C,CheCwasCreferredCtoCtheCDepartmentofOphthalmology,KobeUniversityHospital.HewasdiagnosedasnAMD,andtreatedwithintravitre-ala.ibercept(IVA)injections.CDuringCtheCtreatmentCcourse,CtheCpatientCexhibitedCresistanceCtoCIVACandCwasCswitchedCtoCfaricimab.CAtC1CmonthCafterCswitchingCtoCfaricimab,ChisCbest-correctedCvisualCacuityCdecreased,CandCaCRPEtearandsubretinalhemorrhagedeveloped.Conclusions:WeexperiencedacaseofRPEtearafterintravitre-alinjectionoffaricimab,thusillustratingtheriskofaRPEtearwhenfaricimabisadministered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(9):1249.1253,C2023〕Keywords:加齢黄斑変性,硝子体注射,ファリシマブ,網膜色素上皮裂孔.age-relatedmaculardegeneration,intravitrealinjection,faricimab,retinalpigmentepithelialtear.Cはじめに加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)は現在,アフリベルセプト(アイリーア)やラニビズマブ(ルセンティス)といった抗血管内皮増殖因子(vascularCendo-thelialgrowthfactor:VEGF)薬硝子体内注射を用いた治療が主流となっている.AMDは慢性疾患であり,継続的な治療を要するため,投与が頻回となると,経済的,身体的負担が大きくなる.そのため,より少ない投与回数で,効果が得られることが望まれる.ファリシマブ(バビースモ)はC2022年C5月に承認された抗CVEGF薬であり,VEGF-A阻害作用による血管新生抑制とともに,アンジオポエチン-2(angiopoietin-2:Ang-2)阻害作用による血管不安定化の抑制効果を有すると考えられている.未治療加齢黄斑変性症を対象とした第CIII相試験〔別刷請求先〕岸真椰:〒650-0017兵庫県神戸市中央区楠町C7-5-2神戸大学医学部附属病院眼科医局Reprintrequests:MayaKishi,DivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgery,KobeUniversityHospital,7-5-2Kusunoki-cho,Chuo-ku,KobeCity,HyogoPrefecture650-0017,JAPANCabcd図1初診時画像所見a:フルオレセイン蛍光造影.Cb:インドシアニングリーン蛍光造影.Cc:カラー眼底写真.Cd:スペクトラルドメイン光干渉断層計画像(SD-OCT).脈絡膜新生血管,漿液性網膜.離,網膜色素上皮.離を認め,滲出型加齢黄斑変性と診断した.(TENAYA試験およびCLUCERNE試験)では,ファリシマブCQ8W-Q16W投与群が,アフリベルセプトCQ8W投与群と同等の視覚的,解剖学的結果を示し1),ファリシマブの効果持続性が期待されている.一方で,ファリシマブ硝子体内注射(intravitrealCfarici-mab:IVF)による有害事象について,網膜色素上皮裂孔(RPEtear)やぶどう膜炎が報告されている1).今回,筆者らはファリシマブへの切替えを契機にCRPEtearを生じたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:89歳,男性.既往歴:糖尿病,高血圧,心肥大,高脂血症.主訴:左眼視力低下.現病歴:2009年に眼精疲労のため近医を受診し,2011年2月に両眼白内障手術を施行された.その後経過観察中に,左眼漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SD)が出現し,AMDの診断でC2013年C1月からラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealranibizumab:IVR)をC3回,アフリベルセプト硝子体注射(intravitrealaflibercept:IVA)をC21回施行された後,2016年C5月,神戸大学医学部附属病院眼科(以下,当科)に紹介となった.経過:初診時視力はCVD=0.7(1.2C×sph+0.50D(cylC.1.25DAx90°),VS=0.4(0.7C×sph+1.00D(cyl.0.75DAx90°)であった.左眼眼底に中心窩下網膜色素上皮.離(pigmentCepithelialdetachment:PED)および傍中心窩にSDを認めた(図1).右眼は中心窩下方に小さなCPEDを認めた.フルオレセイン,インドシアニングリーン蛍光造影検査にて左眼に脈絡膜新生血管(choroidalCneovascula-rization:CNV)を認め,左滲出型加齢黄斑変性と診断した(図1).2016年C6月当院にてCIVA単独治療を必要時投与で開始した.その後C2カ月ごとにCSDが再発したため,2カ月ごとの固定投与に変更した.IVAのC6週間後,近医受診時にCSDの再発を指摘されたため,2019年C2月以降C6週間ごとの投与で加療した.6週間ごとの投与においてもCSDの消失は得られなかったが,経済的な理由で,患者が積極的な治療を希望されず,2019年C10月以降は再度C2カ月ごとの固定投与を行った.2020年C5月に光干渉断層計(opticalCcoher-encetomography:OCT)で中心窩に網膜下高輝度物質(subretinalChyperre.ectivematerial:SHRM)が出現したが,経済的な理由でC2カ月ごとの固定投与を継続していた.経過中,SHRMは増悪と改善を繰り返し,SDの消失も得られなかった.2022年C2月には左眼矯正視力がC0.4に低下したため,注射間隔をC6週間に再度短縮した.その後注射間隔をC5週間,4週間とさらに短縮したが,SDの消失は得られなかったため(図2a),2022年C6月CIVFに切り替えた.切り替え直前,黄斑部網膜下出血(submacularhemorrhage:SMH)が出現し,PED丈はC318Cμm,PED最大直径はC2,508μmであった(図2b).切り替えC1カ月後,左眼矯正視力は0.3とさらに低下し,RPEtearおよびCSMHの増悪を認めた図2RPEtear発生前後の画像所見a:ファリシマブ硝子体注射(IVF)施行C4週前のCSD-OCT像.網膜色素上皮.離(PED),網膜下高輝度病変(SHRM:)と漿液性網膜.離(SD)を認める.Cb:IVF施行直前のCSD-OCT像.PED丈はC318Cμm,PED最大直径はC2,508Cμmであった.黄斑下出血(SMH)によるCSHRMの増悪()を認める.SDの残存も認めた.Cc,d:IVF投与C4週後のCSD-OCT(Cc)とカラー眼底写真(Cd).SMHの悪化,網膜色素上皮の断裂を認めた.(図2c,d).ブロルシズマブ硝子体注射(intravitrealbrolucizumab:IVBr)のC1カ月ごと連続投与を行い,SMHは改善し,CNVの活動性も低下した(図3a,b).その後はIVBr2カ月ごとの固定投与にて,滲出性変化の再燃なく経過した.しかし,RPEtearによるCRPE欠損は中心窩に及び(図3c),左眼矯正視力はC0.15に低下した.CII考察抗CVEGF薬硝子体内注射後の合併症にCRPEtearがあり,発生率はC1.36%と報告されている2).ファリシマブの第CIII相試験(TENAYA試験およびCLUCERNE試験)において,投与後C48週までに,ファリシマブ投与群でCTENAYA試験では333例中2例(1%),LUCERNE試験では331例中2例(1%)でCRPEtearが生じ,アフリベルセプト投与群ではTENAYA試験,LUCERNE試験ともにCRPEtearは生じなかった1).抗CVEGF薬の作用機序として,アフリベルセプトはCVEGF-A,BおよびCVEGFと類似した分子構造を有する胎盤成長因子(placentalCgrowthfactor:PlGF)を阻害し3),ファリシマブはCVEGF-AおよびCAng-2を同時に阻害する1).ファリシマブが有する二重経路阻害作用は,血管の安定性を図3RPEtear発生後の経過a:発生C1カ月後.Cb:発生C3カ月後.Cc:発生C5カ月後.徐々に黄網膜下高輝度病変()は消失し,解剖学的な改善も得られたが,中心窩を含む網膜色素上皮が欠損している(.).相乗的に促進し,新生血管の伸長,血管透過性亢進,および線維化や細胞死による萎縮をもたらす炎症を抑制することによって,VEGF経路のみを標的とする薬剤よりも治療効果が期待できる4).各抗CVEGF薬におけるCRPEtearの発生率について,ベバシズマブ,ラニビズマブ,アフリベルセプトで加療された未治療滲出型CAMDにおいて差を認めなかった2).ファリシマブの二重経路阻害が,RPEtearの発生リスクを高めるかどうかは不明であるが,本症例ではファリシマブ切り替え直後にCRPEtearを生じたことから,ファリシマブの作用がCRPEtearの発生に関与した可能性がある.抗CVEGF加療後のCRPEtearのリスク因子として,丈が400Cμmを超えるCPED5),PEDの大きさに対する比率の小さなCCNV6)が報告されている.既報では,RPEtearを生じた群ではCPEDの最大直径がC3.2Cmmであり,生じなかった群(1.8Cmm)より有意に大きかった7).また,RPEtear発生の前兆として,RPEのCmicrorip8)が報告されている.RPEのmicroripはCOCTで網膜色素上皮(retinalCpigmentCepi-thelium:RPE)の小さな欠損として確認できるほか,フルオレセイン蛍光造影検査(FA)では網膜下への蛍光漏出として過蛍光を示し,自発蛍光眼底では低蛍光を示す.本症例では切り替え前のPED丈はC318Cμm,PED最大直径はC2,508Cμmであり,OCT上はCPEDのサイズについて明らかなリスク因子は認めなかった.今回CFAは施行していないため,PEDに対するCCNVの比率については十分に検討できていない.RPEのCmicroripはCOCTでは認めなかったが,切り替え時に黄斑下出血を生じていたことからCmicroripが存在していた可能性がある.滲出型CAMDに対する抗CVEGF薬硝子体内注射後のCRPEtearのメカニズムとして,NigelらはCPED部分のCRPEの下面に付着したCCNVが,抗CVEGF薬の作用によって急速に退縮および収縮し,CNVの付着していない部分のCRPEに負荷がかかり断裂すると結論づけている9).既報では,滲出型AMDにおける抗CVEGF薬硝子体内注射後のCRPEtearのうちC76%(16眼/21眼)が,治療開始後C3カ月以内に生じた10).複数回の抗CVEGF薬硝子体内注射を受けた滲出型AMDでは,PED下のCCNVの線維性瘢痕化が進み,PEDの安定化効果が得られているため,RPEの断裂リスクは低いと考えられている9).一方で,Invernizziらは治療開始後6カ月以降にCRPEtearを生じた症例では,抗CVEGF薬の治療効果が不良であることを報告し,CNVの伸長およびそれに伴うCRPEの萎縮,また,長期の疾患活動によって引き起こされる線維化が,RPEtearを引き起こすと推測している11).本症例は,前医も合わせてC9年の治療経過があり,IVR3回,IVA60回,IVF1回を施行後にCRPEtearを発症した.ファリシマブ切り替え時,疾患活動性は高い状態であり,PEDの安定化は十分には得られておらず,CNVの伸長が起こっていたと推測される.IVF投与によりCPED部分のRPE下面に新規に伸長したCCNVが収縮し,RPEtearが生じた可能性がある.CRPEtear後の治療に関して,RPEtear発生後も抗CVEGF薬硝子体内注射を継続することで視覚的,解剖学的な改善が得られることが報告されている2).また,Bilgicらの報告ではCIVAで効果不十分であった滲出型CAMDおよび未治療AMDに発生したCRPEtearに対して,IVBrが解剖学的,視覚的改善に有効であった12).本症例においても,RPECtear発生前CIVAは効果不十分であったが,RPEtear発生後,IVBrに切替え,滲出性変化は消失した.視力改善は得られなかったが,その理由としてCRPEtearによるCRPE欠損が中心窩に及んだためと考えられる.ファリシマブとCRPEtearの関連について,今後さらに多数例での検討が必要である.ファリシマブ新規投与や切替え前には,他の抗CVEGF薬と同様に,RPEtearのリスク因子をCOCTなどの画像検査で確認する必要がある.CIII結論ファリシマブ切り替え後にCRPEtearを生じたC1例を経験した.PEDを有する症例へのファリシマブ投与の際には,CRPEtearのリスクに留意すべきである.文献1)HeierCJS,CKhananiCAM,CQuezadaCRuizCCCetal:E.cacy,Cdurability,andsafetyofintravitrealfaricimabuptoevery16CweeksCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegenera-tion(TENAYACandLUCERNE):twoCrandomised,Cdou-ble-masked,CphaseC3,Cnon-inferiorityCtrials.CLancetC399:C729-740,C20222)AhnJ,HwangDD,SohnJetal:Retinalpigmentepitheli-umCtearsCafterCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegenera-tion.OphthalmologicaC245:1-9,C20223)PapadopoulosCN,CMartinCJ,CRuanCQCetal:BindingCandCneutralizationCofCvascularCendothelialCgrowthCfactor(VEGF)andrelatedligandsbyVEGFTrap,ranibizumabandbevacizumab.AngiogenesisC15:171-185,C20124)HeierCJS,CSinghCRP,CWyko.CCCCetal:TheCangiopoietin/tiepathwayinretinalvasculardiseases:areview.RetinaC41:1-19,C20215)ChanCK,AbrahamP,MeyerCHetal:Opticalcoherencetomography-measuredCpigmentCepithelialCdetachmentCheightCasCaCpredictorCforCretinalCpigmentCepithelialCtearsCassociatedCwithCintravitrealbevacizumabinjections.RetinaC30:203-211,C20106)ChanCK,MeyerCH,GrossJGetal:Retinalpigmentepi-thelialCtearsCafterCintravitrealCbevacizumabCinjectionCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CRetinaC27:541-551,C20077)ChiangCA,CChangCLK,CYuCFCetal:PredictorsCofCanti-VEGF-associatedretinalpigmentepithelialtearusingFAandOCTanalysis.RetinaC28:1265-1269,C20088)ClemensCCR,CAltenCF,CEterN:ReadingCthesigns:CMicroripsCasCaCprognosticCsignCforCimpendingCRPECtearCdevelopment.ActaOphthalmolC93:e600-e602,C20159)NagielA,FreundKB,SpaideRFetal:Mechanismofret-inalCpigmentCepitheliumCtearCformationCfollowingCintravit-realCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCrevealedCbyCspectral-domainCopticalCcoherenceCtomogra-phy.AmJOphthalmolC156:981-988,C201310)CunninghamETJr.,FeinerL,ChungCetal:Incidenceofretinalpigmentepithelialtearsafterintravitrealranibi-zumabCinjectionCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.OphthalmologyC118:2447-2452,C201111)InvernizziCA,CNguyenCV,CArnoldCJCetal:EarlyCandClateCretinalpigmentepitheliumtearsafteranti-vascularendo-thelialCgrowthCfactorCtherapyCforCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration.OphthalmologyC125:237-244,C201812)BilgicA,KodjikianL,VasavadaSetal:BrolucizumabforchoroidalCneovascularCmembraneCwithCpigmentCepithelialCtearandsubretinal.uid.JClinMedC10:2425,C2021***