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フサリウムによる角膜真菌症におけるAmBisome® の使用経験

2012年3月31日 土曜日

《第48回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科29(3):391.396,2012cフサリウムによる角膜真菌症におけるAmBisomeRの使用経験佐々木香る*1樋口かおり*1加来裕康*2出田隆一*1田中住美*1*1出田眼科病院*2慶徳加来病院EffectofAmBisomeRagainstKeratomycosisCausedbyFusariumKaoruAraki-Sasaki1),KaoriHiguchi1),HiroyasuKaku2),RyuichiIdeta1)andSumiyoshiTanaka1)1)IdetaEyeHospital,2)Keitoku-KakuHospital緒言:リポソーマル化により副作用を軽減したアムホテリシンB(リポソーマル化AMPB;L-AmB)の全身・局所投与による治療を経験したので報告する.症例:74歳,女性.木の枝による左眼外傷後2日目受診.角膜後面プラーク,前房蓄膿を伴う角膜炎を認め,フサリウムが分離された.ボリコナゾール(VRCZ)の点滴,点眼,ミコナゾール(MCZ)点眼,ピマリシン軟膏にて加療開始したが,肝障害を生じ,L-AmBの点滴および点眼に変更した.投与後低カリウム血症が生じたが,肝機能は悪化しなかった.表層角膜所見は改善したが,前房蓄膿,角膜後面プラークが高度となったため,治療開始後8週間目に治療的角膜移植を施行した.結果:採取角膜の真菌培養は陰性であり,組織では断片化菌糸が観察された.感受性試験の最小発育阻止濃度(MIC)値はAMPB<VRCZ=MCZ<ミカファンギン(MCFG)であった.結論:各種検査の結果からL-AmBはフサリウムに有効であると推測された.しかし,その有効性ゆえに,破壊菌体による炎症を惹起し,角膜深層所見の悪化をきたす可能性も示唆された.また低カリウム血症への配慮も必須である.Purpose:TodescribethetreatmentofFusarium-causedkeratomycosiswithliposomalamphotericinB(AMPB;L-AmB),whichhaslesssideeffectthanamphotericinB.Case:Thepatient,a74-year-oldfemale,sufferedaninjurytohereyefromatwig.Twodaysaftertheinsult,retrocornealplaqueandhypopyonwereobservedbyslit-lampexamination.Fusariumwasisolatedfromhercornea.Voriconazole(VRCZ;eyedropsandintravenousinjection),miconazole(MCZ;eyedrops)andnatamycin(eyeointment)wereappliedasinitialtreatment.Liverdysfunction,however,soonnecessitatedachangeintreatment,fromvoriconazoletoL-AmB.Thischangecausedhypokalemia,butnotliverdysfunction.Althoughthesuperficialcornealpathogenicregionimproved,thedeepcornealregion,includingtheretrocornealplaqueandhypopyon,progressed.Ultimately,therapeuticpenetratingkeratoplasty(PKP)wasneeded,atweek8oftreatment.Result:Cultureoftheexcisedcorneawasnegative,andfractionalfilamentousfungiwereobservedbyhistologicalexamination.Theminimuminhibitoryconcentrations(MICs)ofthedrugswereinthisorder:AMPB<VRCZ=MCZ<micafungin(MCFG).Conclusion:TheresultsofseveralexaminationsindicatethatL-AmBiseffectiveforFusarium.However,thedrugmightinduceexcessiveinflammation,givenitsstrongmycocidaleffect,whichcouldbeobservedasdeepcornealinflammation.Hypokalemiamustalsobedealtwith.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(3):391.396,2012〕Keywords:フサリウム,角膜真菌症,アムホテリシンB,リポソーマル化アンホテリシンB,糸状菌.Fusarium,keratomycosis,amphotericinB,liposomalamphotericinB,filamentousfungi.〔別刷請求先〕佐々木香る:〒860-0027熊本市西唐人町39出田眼科病院Reprintrequests:KaoruAraki-SasakiM.D.,Ph.D.,IdetaEyeHospital,39Nishi-tojincho,Kumamoto,Kumamoto860-0027,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(103)391 はじめに角膜真菌症には,大きく分けて市中型といわれる酵母によるものと,農村型といわれる糸状菌によるものがある1).このうち糸状菌の起因菌の代表としてはアスペルギルスとフサリウムがあるが,いずれも予後不良であることが知られている.特にフサリウムは種々の抗真菌薬に抵抗性であるが,眼科臨床分離株を用いた検討ではアムホテリシンB(AMPB)が最小発育阻止濃度(MIC)が最も低値で効果が期待できる2).しかし,AMPBは全身投与した際,腎毒性が強く,添加されている胆汁酸による細胞毒性も強いため,眼科医には扱いにくい抗真菌薬である.したがって角膜炎の治療に対して前房内局所投与を推奨する報告もある3.6).近年この副作用を軽減するために,リポソームの脂質二重膜にAMPB分子をはめ込んだリポソーマル化AMPB(アンビゾームR,以下L-AmB)が開発された.この薬剤は真菌細胞膜であるエルゴステロールに特異性が高く,真菌と接触して初めてAMPB分子が取り込まれるため,副作用が少ないとされている7).フサリウムによる心内膜炎に対してL-AmBとボリコナゾール(VRCZ)の併用療法が有効であったという臨床報告もなされている8).角膜炎に対しては臨床使用の報告はなされているものの,症例の詳細な経過およびL-AmB投与に伴う全身状態の変化などについての報告はまだない.今回,他剤による治療中に肝障害をきたしたフサリウムによる角膜真菌症に対し,L-AmBの全身・局所投与を行ったので,詳細な経過とともに,その効果を報告する.I症例呈示患者:74歳,女性.既往歴:糖尿病を患っており,血糖降下剤にてコントロールされていた.経過:木の枝による外傷後2日目,充血および眼痛にて出田眼科を初診した.左眼角膜中央部に膿瘍を認め,角膜後面プラークが観察された(図1a).高度の毛様充血と前房蓄膿を伴っていた.視力は検査は疼痛のため施行できず,眼圧は測定不可能であった.なお,右眼には白内障を認めるのみであった.角膜擦過物のスメアを施行したところ,グラム染色およびファンギフローラY染色にて糸状菌を検出したため,同日,VRCZ400mg/日の点滴,1%VRCZ点眼1時間毎,1%ミコナゾール(MCZ)点眼1時間毎,ピマリシン(PMR)軟膏眠前塗入にて加療開始した.治療開始約1週間後,角膜膿瘍は減少し,毛様充血,前房蓄膿,角膜浸潤も改善した(図1b).そこで,局所投与は続行のうえ,VRCZの内服をイトラコナゾール(ITCZ)内服(100mg/日)に変更した.すると,治療開始2週間目に急激に前房蓄膿および膿瘍が悪化した.さらに初診時に採取した角膜擦過物の培養にてフサリウムが同定された.フサリウムはITCZに耐性であることが多いため,治療開始3週間目には治療を,1%VRCZ点眼,0.1%L-AmB点眼(各々1時間毎),PMR眼軟膏眠前塗入,VRCZ200mg内服に変更した.治療開始後4週目には角膜表層側の病変は混濁化し,上皮欠損も修復する一方で,角膜後面に花弁状の後面沈着物が出現し,病巣の内皮側への拡大が疑われた(図1c,d).この時点で原因不明の肝障害が出現し,グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)526(IU/l),グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)417(IU/l)となった.内科で精査したところ,夜間転倒による肝裂傷および薬剤性の肝障害の併発と診断された.この肝障害によりVRCZ内服を中止した.病巣は依然として角膜内皮側で拡大するため,治療開始6週目よりVRCZ点眼,L-AmB点眼,PMR眼軟膏に加えて,L-AmBの点滴を開始した.点滴は150mgを添付文書に従い,フィルターを通してブドウ糖500mlに溶解して,2時間かけて点滴した.L-AmB点滴開始後,臨床所見は横ばいであった(図1e)が,約1週間で低カリウム血症を生じ,カリウム製剤投与目的で近医内科に転院となった.内科入院中も上記局所治療および点滴治療を続行し,眼科は往診とした.治療開始8週目には角膜後面プラークはやや増大し,明らかに前房蓄膿も高度になった(図1f).この時点で内科的加療は断念し,保存角膜を用いた治療的角膜移植を施行した(図1g).図1症例の治療経過a:初診時所見.角膜後面プラーク,軽度前房蓄膿を伴う角膜潰瘍を認めた.b:治療開始後1週間目の細隙灯顕微鏡所見.角膜後面プラークおよび潰瘍は軽減,縮小し,前房蓄膿も消失した.VRCZ点滴を中止し,ITCZ内服へ変更した.c:治療開始後4週間目.フサリウムと同定されたため,L-AmB点眼開始1週間後には,上皮欠損は治癒し,角膜浅層は浸潤が軽減し,混濁化した.d:cと同じ時点の細隙灯顕微鏡所見.スリット幅を広く倍率を拡大し,内皮面に焦点をあてると,反輝光にて角膜後面プラークが放射状に伸展したことが確認できた.e:治療開始6週間目.L-AmB点眼に加えて,内科転科にて低カリウム血症をコントロールしながら,L-AmB点滴を開始した.角膜上皮側の病変がほぼ瘢痕化しており,病変の主座は内皮側となった.f:治療開始7週間目のscleralscattering所見.内皮側の濃プラークはL-AmB点滴開始後,プラークが厚みを増した浸潤巣となり,前房蓄膿の増大を認め,充血も高度になった.この時点で治療的角膜移植を選択した.g:治療的角膜移植施行後1週間目の細隙灯顕微鏡所見.VRCZの点滴,点眼にて再燃なく,経過した.392あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(104) abcdefabcdef図1症例の治療経過a:初診時所見.b:治療開始後1週間目の細隙灯顕微鏡所見.c:治療開始後4週間目.d:cと同じ時点の細隙灯顕微鏡所見.e:治療開始6週間目.f:治療開始7週間目のscleralscattering所見.g:治療的角膜移植施行後1週間目の細隙灯顕微鏡所見.(図説明は前頁を参照)g(105)あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012393 (mEq/l)高度血清K<2.0中程度2.0<血清K<3.0軽度3.0<血清K<3.5K点滴投与(30~100mEq/日)K内服投与(30~100mEq/日)図2L.AmBによる低カリウム血症に対する対処方法一般に血清カリウム値が3.5mEq/l未満で対処を開始する.カリウム値の下降程度別に,カリウム製剤の内服あるいは点滴を選択する.:角膜表層の所見臨床所見:角膜深層の所見悪化改善1週2週3週4週5週6週7週8週L-AMPB点眼L-AMPB点滴VRCZ点滴/内服低カリウム血症肝機能悪化図3L.AmB点滴,点眼およびVRCZ点滴と,臨床所見の関係経過途中,最も悪化した状態と最も軽快した状態を縦軸の下限,上限として,相対的な臨床所見の変動を表した.表層の所見としては,上皮欠損,角膜表層膿瘍を参考とした.深層の所見としては,前房蓄膿,角膜後面沈着物,角膜深層膿瘍を参考とした.点線は角膜表層側の臨床所見の重度,実線は角膜内皮側の臨床所見の重度を表す.L-AmB点眼開始後,上皮側の臨床所見は軽度となり,内皮側の所見は重度となった.VRCZ点滴により肝障害が出現し,L-AmB点滴に変更したのち,角膜内皮側所見はさらに重度となった.なお,カリウム投与は図2に従って投与した.術後は1%VRCZ点眼1日5回,PMR眼軟膏塗入1日1回とし,肝障害の軽快に伴い,VRCZ点滴投与し,角膜病変の再発なく,良好な経過であった.低カリウム血症は是正されたが,肝機能は術後のVRCZ点滴再開とともに少しずつ悪化したので,術後2週間で全身投与は中止した.約半年後に光学的角膜移植を施行し,矯正視力(0.4×cyl.4.0DAx90°)を得た.L-AmB点眼,点滴およびVRCZ点滴と臨床経過の推移の関係を図3に示す.L-AmB点眼投与開始とともに,上皮側所見は改善したが,内皮所見が悪化したことを示す.また,L-AmB全身投与とともに,前房所見がいっそう悪化したことを示す.394あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012図4採取角膜の薄切切片PAS(過ヨウ素酸Schiff)染色にて断片化された真菌をわずかに認めた.しかし,この角膜の培養からは真菌は検出されなかった.II摘出角膜および分離菌の検討1.摘出角膜の組織所見摘出した角膜の半割をホルマリン固定し,薄切切片を作製し,グラム染色を施行した.図4のように,菌糸は,断片化されており,染色性も不良であった.2.摘出角膜の培養結果残りの角膜をサブロー培地にて1カ月培養したところ,真菌は陰性であった.3.初診時に分離されたフサリウムの薬剤感受性試験結果MIC値はAMPB=1,VRCZ=8,MCZ=8(μg/ml)であり,AMPBが最も低値であった.III考按今回の結果からinvivo,invitroのいずれにおいても,AMPBおよびL-AmBはフサリウムに効果的であることが推測された.まず,invitroの効果として,感受性試験の結果,今までの報告2)と同様にAMPBはVRCZやMCZに比べてMICが1μg/mlと低く,効果が期待できる結果であった.L-AmBを用いた感受性試験はできなかったが,真菌エルゴステロールに結合し,薬剤が徐放されることが明らかであり,放出されたAMPBそのものは従来のものと同様の効果を示すと推測される.ただし,実際の角膜炎の臨床の場では,どの程度真菌と結合できていているかという不測の問題は残存している.しかし,すでに動物実験では炎症眼に対する静脈内反復投与にて,最高角膜内濃度2.38μg/g,最高前房濃度0.73μg/mlという報告があり9)AMPBそのものより眼内移行が良好であり10),角膜さらには前房に薬剤が到達することは示されている.したがって,AMPBの感受性結果(106) をL-AmBの感受性結果として推測できると思われた.つぎに,invivoの効果であるが,臨床所見上はL-AmB投与後,前房蓄膿や後面プラークが増大し,悪化したように観察されたが,実際に摘出角膜を検討したところ,組織では菌糸の断片化や染色性の低下を認め,さらに培養にて陰性であった.このことから,臨床所見とは異なり,実際にはL-AmBがフサリウムに対し,効果的であったことが推測された.この臨床所見と培養あるいは組織結果の解離については,L-AmB投与後に強い炎症を生じることが原因である可能性が示唆される.既報でもL-AmB投与後にfibrinoidinflammationを生じたことが特筆されており11),AMPBそのものでも,硝子体注射した際に前房内に一過性の炎症を強く惹起することが報告されている3).これは死菌に対する炎症反応か,薬剤そのものの惹起する炎症かは不明であるが,AMPBおよびL-AmBを使用する際に知っておくべき特徴ではないかと思われた.したがって,今回の症例において,L-AmB投与後に前房所見が悪化し治療的角膜移植を選択した時点で,前房洗浄を行うことも有用であった可能性があると思われた.治療初期に投与されたVRCZ局所,全身投与によりすでに菌が死滅していた可能性もあるが,少なくともL-AmB点眼投与後に,病巣が表層から深層へ移動したことから,L-AmBそのもののフサリウムに対する効果は推測された.L-AmB投与による利点としては上記の菌そのものに対する効果以外に,肝機能の保持があげられる.今回,VRCZ全身投与中に外傷性および薬剤性と診断された肝障害を併発し,GOT,GPTの上昇を認めたが,L-AmBへの変更後は順調に肝機能の正常化を認めた.これまでにも同様に肺アスペルギルスによる眼内炎に対しVRCZで加療中に肝障害を発生し,L-AmBに変更することで肝障害が改善し効果的であった報告がある11).0.5%L-AmBは溶解後,室温あるいは2.8℃で6カ月保存しても流動力学的に維持され,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法にても製剤的安定性が保たれており,眼科用製剤として実現可能である12)ことや,結膜下注射として高濃度角膜へ移行することが報告されている13).さらに硝子体注射した場合,胆汁酸を含まないL-AmBは,AMPBに比して副作用が少ないとされており14),最も効果的と思われる投与方法も今後の検討項目である.今回は,L-AmB1瓶から点滴用と点眼用を調整したため,副作用も考慮して0.1%と低濃度の設定とした.角膜表層には十分効果があったが,0.5%点眼を使用した場合にはさらなる効果が認められた可能性もある.効果と副作用の面からL-AmBの至適濃度については,さらなる検討が必要と思われる.一方,L-AmBの欠点としては,低カリウム血症があげられる.本症例ではカリウム値は最低で2.3mEq/lとなった.低カリウム血症に対する対応として,毎朝K値測定を行い,その値によって図2のように,カリウム製剤を内服あるいは点滴投与するべきとされている.高カリウム血症は心機能に影響し,危険であるため,投与カリウム量は慎重に計算し,またゆっくりと点滴しなければならない.今回もアスパラK1アンプルを生理食塩水500mlに溶解して2時間かけて1日2回点滴した.さらに,L-AmBそのものも150mgを5%グルコース500mlに溶解して2時間かけて点滴する必要があるため,患者にとって1日6時間の点滴となり,留置針の設置を余儀なくされた.角膜真菌症の患者は通常,高齢の患者が多く,この留置針が心理的な負担となる可能性もあり,毎日のカリウム投与量の計算を含め,L-AmB使用の際には内科共観が望ましいと思われた.角膜真菌症のうち,フサリウムは急速に進行し,予後不良であることも多い.AMPBそのものは非常に効果的であり,そのリポソーム化製剤であるL-AmBは副作用も軽減され,ぜひとも治療に取り入れたい薬剤である.しかし,投与時に伴う全身管理や投与後の反応に関しての注意すべき点もあり,眼科医がうまくつかいこなせるためには,さらに症例報告を重ねていくべきだと思われた.文献1)石橋泰久:病原性真菌の今日的意味.眼科領域の真菌症.化学療法の領域21:5-10,20042)宇田高広,鈴木崇,宇野敏彦:真菌性角膜炎臨床分離株の薬剤感受性.あたらしい眼科23:933-936,20063)YoonKC,JeongIY,ImSKetal:TherapeuticeffectofintracameralamphotericinBinjectioninthetreatmentoffungalkeratitis.Cornea26:814-818,20074)SridharMS,SharmaS,GopinathanUetal:Anteriorchambertap:diagnosticandtherapeuticindicationinthemanagementofocularinfection.Cornea21:718-722,20025)KaushikS,RamJ,BrarGSetal:IntracameralamphotericinB:initialexperienceinseverekeratomycosis.Cornea20:715-719,20016)KuriakoseT,KothariM,PaulPetal:IntracameralamphotericinBinjectioninthemanagementofdeepkeratomycosis.Cornea21:653-656,20027)Adler-MooreJ,ProffittRT:AmBisome:liposomalformulation,structure,mechanismofactionandpre-clinicalexperience.JAntimicrobChemother49(Supple):21-30,20028)Guzman-CottrillJA,ZhengX,ChadwickEG:FusariumsolaniendocarditissuccessfullytreatedwithliposomalamphotericinBandvoriconazole.PediatricInfectDisJ23:1059-1061,20049)GoldblumD,RohereK,FruehBEetal:CornealconcentrationsfollowingsystemicadministrationofamphotericinBanditslipidpreparationsinarabbitmodel.OphthalmicRes36:172-176,2004(107)あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012395 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アムビゾーム® とブイフェンド® による治療を行った角膜真菌症の1例

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(115)1483《原著》あたらしい眼科28(10):1483?1489,2011cはじめに角膜真菌症は,ステロイド製剤や広域抗菌薬の局所投与の濫用,アトピー性皮膚炎の患者数やコンタクトレンズ装用者数の増加などにより,近年増加傾向にあるといわれている1?3).角膜真菌症に対する治療として,抗真菌薬の点滴療法を併用する場合があるが,抗真菌薬の眼内移行性の問題や腎障害や肝障害といった全身的副作用の問題がある.わが国で眼局所投与が可能な抗真菌製剤は,5%ナタマイシン(ピマリシンR)点眼液と1%ナタマイシン(ピマリシンR)眼軟膏のみであるが,副作用として角膜上皮障害やアレルギー性〔別刷請求先〕平山雅敏:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MasatoshiHirayama,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANアムビゾームRとブイフェンドRによる治療を行った角膜真菌症の1例平山雅敏*1大口剛司*2松本幸裕*1手島ひとみ*1上遠野保裕*3村田満*3川北哲也*1榛村重人*1坪田一男*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2北海道大学大学院医学研究科眼科学分野*3慶應義塾大学病院中央臨床検査部ACaseofKeratomycosisTreatedwithAntifungalAgentsAmBisomeRandVfendRMasatoshiHirayama1),TakeshiOhguchi2),YukihiroMatsumoto1),HitomiTeshima1),YasuhiroKatouno3),MitsuruMurata3),TetsuyaKawakita1),ShigetoShimmura1)andKazuoTsubota1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofMicrobiology,KeioUniversityHospitalFusariumsolaniとCandidaalbicansによる混合感染が原因と考えられた角膜真菌症に対して,アムホテリシンBリポソーム製剤(アムビゾームR)とボリコナゾール(ブイフェンドR)にて治療を行った1例を経験したので報告する.症例は,75歳,男性で,右眼の角膜潰瘍と診断され,慶應義塾大学病院を紹介受診となった.初診時の視力は,右眼手動弁(矯正不能)で,感染性の角膜潰瘍が疑われた.生体レーザー共焦点顕微鏡検査にて,角膜実質に多数の糸状の像を認め,真菌培養検査およびその遺伝子検査にて,FusariumsolaniとCandidaalbicansが同定され,角膜真菌症と診断した.ミカファンギン点眼にて治療を開始するも,角膜穿孔を生じ,治療的角膜移植術を施行した.術前および術後には,アムビゾームRとブイフェンドRの点眼および点滴による治療を行った.術後の角膜の上皮化は良好であり,感染の再発も認められなかった.アムビゾームRとブイフェンドRによる治療は,角膜真菌症に対する治療の選択肢の一つになりうると考えられた.WereportacaseofkeratomycosiscausedbyFusariumsolaniandCandidaalbicansthatwastreatedwithliposomalamphotericinB(AmBisomeR)andvoriconazole(VfendR).Thepatient,a75-year-oldmale,hadpreviouslybeendiagnosedwithcornealulcerinhisrighteyeataneyeclinic.Visualacuityintheeyewashandmotion.Confocalmicroscopyrevealedmanyfilamentousstructures.FusariumsolaniandCandidaalbicanswereisolatedfromcultureofthecornealscrapingsandconfirmedbyDNAanalysis.Wediagnosedkeratomycosisandcommencedtreatmentwithtopicalmicafungin;however,theulcerworsenedandperforated.Wethenperformedtherapeuticcornealtransplantation,followedwithantifungalagentsincludingtopical/systemicAmBisomeRandVfendR.Nopersistentcornealepithelialdefectorinfectionrecurrencewereobserved.CombinedtreatmentwithAmBisomeRandVfendRseemstobeanoptionforkeratomycosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(10):1483?1489,2011〕Keywords:アムホテリシンB,ボリコナゾール,角膜真菌症,フサリウム,カンジダ.amphotericinB,voriconazole,keratomycosis,Fusariumsolani,Candidaalbicans.1484あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(116)結膜炎を生じやすく,症例によっては使用しにくいという欠点がある.わが国では,1962年より使用されているアムホテリシンB(amphotericineB:AMB)の点滴製剤である,アムホテリシンBデオキシコール酸製剤(amphotericinBdeoxycholate:D-AMB,ファンギゾンR)は,抗菌スペクトルが広く,真菌に殺菌的に作用し,耐性真菌の発現がきわめて少ない薬剤であるが,腎障害などの副作用が問題となっていた.角膜真菌症に対しては,自家調整された0.15%ファンギゾンR点眼の有効性が示唆されているが,角膜上皮障害などの副作用の出現が問題となっている4).しかし,2006年には,その副作用を軽減するための薬剤として開発された,アムホテリシンBリポソーム製剤(liposomalamphotericinB:L-AMB,アムビゾームR)が登場することとなり,その薬剤の安全性を高めたことで,ファンギゾンRに代わる薬剤として,その有用性が期待されている.2005年より使用可能となったボリコナゾール(voriconazole:VCZ,ブイフェンドR)においては,それを自家調整した1%ブイフェンドR点眼が,Fusariumsolaniによる角膜真菌症に対して有効かつ安全である,と報告されている5?8).今回,FusariumsolaniとCandidaalbicansによる混合感染が原因と考えられた角膜真菌症に,自家調整した0.1%アムビゾームR点眼および1%ブイフェンドR点眼を使用し,有用であった症例を経験したので報告する.I症例患者:75歳,男性.主訴:右眼の眼痛,充血,視力低下.既往歴:高血圧(+),糖尿病(?),その他の全身疾患(?),眼外傷歴(?).現病歴:平成21年2月23日に,右眼の視力低下を主訴に近医を受診し,右眼細菌性角膜潰瘍を疑われ,0.5%モキシフロキサシン(ベガモックスR)点眼,0.3%トブラマイシン(トブラシンR)点眼,0.1%ヒアルロン酸ナトリウム(ヒアレインR)点眼を処方されるも改善なく,その後,角膜ヘルペスを疑われ,バラシクロビル(バルトレックスR)内服,プレドニゾロン(プレドニンR)内服,3%アシクロビル(ゾビラックスR)眼軟膏にて加療されたが,症状の増悪を認めたために,同年5月15日に,精査加療目的にて慶應義塾大学病院(以下,当院)を紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼手動弁(矯正不能),左眼0.3(0.8×sph?2.25D(cyl?0.15DAx90°),眼圧は右眼20mmHgであった.前眼部所見は,右眼に結膜および毛様充血,角膜中央部に8mm×8mmの角膜上皮欠損と角膜浸潤巣,前房内炎症を認めた(図1A).左眼は軽度の白内障を認めた.生体レーザー共焦点顕微鏡検査(HeidelbergRetinaTomographII-RostockCorneaModule:HRTII-RCM,HeidelbergEngineering社,ドイツ)を施行し,右眼の角膜実質に糸状の像を認めた(図2).角膜擦過物の真菌培養検査およびその遺伝子検査にて,FusariumsolaniとCandidaalbicansが同定された(図3).また,同時に,各々の真菌について抗真菌ACB図1細隙灯顕微鏡検査A:当院初診時において,結膜充血,毛様充血,角膜上皮欠損と角膜浸潤巣を認めた.B:当院初診より18日後において,角膜上皮欠損の拡大と,角膜中央の菲薄部に穿孔(矢印)を認めた.C:治療的角膜移植後には,角膜の実質浮腫とDescemet膜皺襞を認めるものの,角膜上皮欠損は改善した.(117)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111485薬に対する薬剤感受性試験を行った.その結果,最小発育阻止濃度(minimuninhibitoryconcentration:MIC)については,Fusariumsolaniではミカファンギン(micafungin:MCFG)が0.25μg/mL,AMBが1μg/mL,VCZが0.5μg/mLであり,CandidaalbicansではMCFGが0.06μg/mL,AMBが0.5μg/mL,VCZが<0.015μg/mLであった(表1).以上の結果より,右眼角膜真菌症と診断し,自家調整した0.1%MCFG(ファンガードR)点眼と0.5%レボフロキサシン(クラビットR)点眼による治療を開始した.しかし,5月30日に,角膜上皮欠損は角膜全体に広がり,角膜浸潤の増悪とともに角膜中央部に菲薄化を認めた.0.1%ファンガードR点眼を中止し,自家調整した1%ブイフェンドR点眼(作製方法については表2を参照),ブイフェンドR内服(300mg/日)に変更したが,6月2日に,角膜上皮欠損の拡大,角膜浸潤の増悪,角膜中央の菲薄部に穿孔を認めたため(図1B),加療目的にて同日当院に入院となった.入院後経過:入院後,0.3%セフメノキシム(ベストロンR)AB図2生体レーザー共焦点顕微鏡検査A:角膜実質層に糸状の構造物が認められた.B:後日,糸状の構造物が断裂している像が認められた.??????????Candidaalbicans??????????FusariumsolaniAB図3真菌培養検査A:胞子の存在と仮性菌糸の形成が認められた.B:新月形の大型分生子を形成する菌糸が認められた.1486あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(118)点眼,1%ブイフェンドR点眼,自家調整した0.1%アムビゾームR点眼(作製方法については表2を参照),ブイフェンドR内服(300mg/日),アムビゾームR点滴(2.5mg/kg/日)による治療を開始したが,角膜の菲薄化および穿孔は改善しなかったため,6月13日に,右眼に対して,保存角膜を用いた治療的角膜移植術を施行した.術中,特記すべき合併症を認めなかった.術後も引き続き,0.3%ベストロンR点眼,1%ブイフェンドR点眼,0.1%アムビゾームR点眼,ブイフェンドR内服(300mg/日),アムビゾームR点滴(2.5mg/kg/日)を継続し,1%アトロピン(アトロピンR)点眼,0.5%トロピカミド+0.5%フェニレフリン(ミドリンPR)点眼を追加した(図4).血液検査では,入院時の血中尿素窒素(bloodureanitrogen:BUN)は22.4mg/dL,血中クレアチニン(creatinin:Cr)は1.4mg/dL,血中アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartateaminotransferase:AST)は15IU/L,血中アラニンアミノトランスフェラーゼ(alanineaminotransferase:ALT)は8IU/Lであったが,点滴施行中,BUNは35.4mg/dL,血中Crは2.2mg/dL,血中ASTは36IU/L,血中ALTは22IU/Lまで上昇した(図5).点滴開始から2週間後のクレアチニンクリアランス値は57.6mL/minであった.AMBの血中濃度測定では,6月19日,6月22日,6月25日と3回測定して,平均22.98±3.94μg/mLであった.術後,角膜の実質浮腫とDescemet膜皺襞を認めたが,角膜上皮欠損は徐々に改善した(図1C).前房はやや浅く,下方に虹彩前癒着,瞳孔には虹彩後癒着を認めたが,感染所見の再燃を認めず,6月26日にアムビゾームR表2点眼液の作製方法0.1%アムビゾームR点眼液1.注射用アムビゾームRを1バイアル(50mg/0.5mL換算)中に,注射用水12.0mLを加えた後,ただちに振盪し,均一な半透明な液になるまで激しく振り混ぜる(計12.5mLとなる)2.この溶解した本剤12.5mLをシリンジ(20mL)にてすべて採取する3.シリンジにフィルターを取り付ける4.採取した溶解薬液12.5mLを,フィルター濾過しながら,5%ブドウ糖注射液37.5mLに加え,0.1%アムビゾームR点眼液とする(計50mLとなる)5.0.1%アムビゾームR点眼液を点眼瓶に分注する(注)本剤は溶解しにくい.また,溶解にあたっては注射用水を使用すること1%ブイフェンドR点眼液1.注射用ブイフェンドRを1バイアル(200mg/1.0mL換算)中に,注射用水19.0mLを加えた後,均一な液となるまで振盪し溶解する(計20.0mLとなる)2.この溶解した本剤20.0mLをシリンジ(20mL)にてすべて採取する3.シリンジにフィルターを取り付ける4.採取した溶解薬液20.0mLを,フィルター濾過しながら,点眼瓶に分注し,1%ブイフェンドR点眼液とする上記にて作製した点眼液は1週間を期限として,4℃で保存する表1薬剤感受性試験薬剤名MIC(μg/mL)FusariumsolaniCandidaalbicansアムホテリシンB10.55-フルシトシン>641フルコナゾール>640.25イトラコナゾール>80.25ミコナゾール40.125ミカファンギン0.250.06ボリコナゾール0.5<0.015MIC:最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration).20095/15初診時5/306/2穿孔6/136/27角膜移植10/111/1720101/120.1%ミカファンギン点眼30分毎0.5%レボフロキサシン点眼1日8回1%ボリコナゾール点眼30分毎ボリコナゾール内服300mg/日0.3%セフメノキシム点眼1日8回0.1%アムホテリシンB点眼30分毎アムホテリシンB点滴2.5mg/kg/日0.5%(トロピカミド+フェニレフリン点眼)1日2回1%硫酸アトロピン点眼1日2回2時間毎2時間毎0.5%レボフロキサシン点眼1日8回図4治療経過初診時より,ミカファンギン(ファンガードR)点眼にて治療を開始するも効果がなかったために,ボリコナゾール(ブイフェンドR)点眼に変更した.その後,アムホテリシンB(アムビゾームR)点眼を追加した.(119)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111487点滴を中止し,6月27日に退院となった.退院後経過:退院後も引き続き,0.3%ベストロンR点眼,1%ブイフェンドR点眼,0.1%アムビゾームR点眼,1%アトロピンR点眼,ミドリンPR点眼,ブイフェンドR内服(300mg/日)を継続した.7月7日に,角膜縫合糸の一部に緩みを認めたため,抜糸した.術後3カ月経過した時点で,移植片に実質浮腫とDescemet膜皺襞を認めたが,角膜の上皮化は良好であった.血液検査では,BUN,血中Cr,血中AST,および血中ALTの数値は改善傾向であったが,再び血中ASTと血中ALTの数値の上昇を認めたため,10月1日に,ブイフェンドR内服を中止した.その後は,血中ASTと血中ALTの数値は正常化した.平成22年1月12日に,0.1%アムビゾームR点眼を中止とした.現在,術後1年を経過しているが,これまでに感染の再発を認めていない.II考察AMBは,ポリエン系のマクロライドであり,真菌細胞膜の主要なステロールであるエルゴステロールに結合し,膜の透過性を変化させて細胞死をひき起こす.D-AMBは,真菌に対して,殺菌的に作用する強力な薬剤であるが,組織透過性が悪く,また,有害な副作用のために十分な治療量を投与できないことがあった9).L-AMBは,D-AMBをリポソームとよばれる脂質小胞の脂質二分子膜中に封入することにより,D-AMBの真菌に対する作用を維持しながら生体細胞に対する傷害性を低下させた製剤である.Invitroにおける抗真菌活性の評価では,L-AMBは,D-AMBと同様に,Aspergullus属,Candida属,Cryptcoccus属などを含む各種真菌に対し幅広い抗真菌スペクトルを有する.その抗真菌活性は最高血中濃度(maximumdrugconcentration:Cmax)/MICに相関するとされ10),大部分の菌株でL-AMBはD-AMBと同等であったと報告されている11,12).発熱性好中球減少患者において,D-AMBとL-AMBを比較した二重盲検比較試験では,全体的な改善率は両者間で差がなく,腎機能障害,投与時の発熱,悪寒についてはL-AMBで有意に減少していた13).このため,L-AMBは,深在性真菌症に対して有用な薬剤として使用されている.L-AMBの眼局所療法に関しては,動物を用いた研究において,サルに対する硝子体内注射やウサギに対する結膜下注射による眼毒性は,D-AMBによる治療と比べ軽減したと報告されている14,15).Goldblumらは,ウサギ眼において,L-AMBの点眼療法は,L-AMBの点滴療法の併用により角膜への薬剤浸透が高まると報告する16)など,L-AMBの眼局所療法の有効性が示唆されている.角膜真菌症の診断では,培養検査において,病原体の検出までに時間を要することが多く,病原体が検出されないことも少なくないが,角膜真菌症においては,HRTII-RCM検査により,酵母様真菌の仮性菌糸や糸状真菌の観察が可能であり,角膜真菌症の早期の診断補助に有用であることが報告されている17,18).本症例においても,HRTII-RCM検査により,早期よりCandidaalbicansの仮性菌糸もしくはFusariumsolaniの菌糸が,角膜実質内の糸状の構造物として観察されたものであると推測される.HRTII-RCM検査における,角膜内の糸状構造物の断裂は,薬剤によって,菌体が崩壊している像を反映しているとされ,角膜真菌症における治療効果の判定にも有用であると報告されている19)が,本症例においても,同様の所見を観察することが可能であった.本症例においては,角膜潰瘍擦過物の培養検査およびその遺伝子検査にて,FusariumsolaniとCandidaalbicansによる角膜真菌症と診断した.Fusarium属による角膜真菌症は,他の糸状菌感染に比べ進行が速く,薬剤の効果も低いため,治療が困難となる場合が多い.現在,薬剤の抗真菌効果を比較する指標としてMICが用いられているが,臨床分離株による抗真菌薬のMICのデータのレトロスペクティブな検討によると,Fusarium属に関しては,抗真菌作用が最も期待できる薬剤はAMBであり,細胞毒性を抑えたL-AMBは今後期待できる薬剤と考えられている20).眼科的には,Fusariumsolaniによる角膜真菌症に対して,VCZが奏効したという報告がある5,7,8)が,Fusariumsolaniによる真菌性眼内炎に対しては,L-AMBの点滴療法の有効性も示唆されてい0102030405060BUN,Cr(mg/dL),AST,ALT(IU/L):BUN:血中Cr:血中AST:血中ALT2009/6/26/259/1512/15図5臨床検査値の変動アムビゾームR点滴中に軽度の肝機能障害と腎機能障害を認めたが,アムビゾームR点滴の中止により両者ともに改善した.また,ブイフェンドR内服中に再び軽度の肝機能障害を認めたが,ブイフェンドR内服の中止により改善した.BUN:血中尿素窒素(bloodureanitrogen),Cr:クレアチニン(creatinin),AST:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartateaminotransferase),ALT:アラニンアミノトランスフェラーゼ(alanineaminotransferase).1488あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(120)る21).抗真菌薬の併用療法は,治療の選択肢の一つとなりうるが,全身的投与において抗真菌薬の併用による薬物間の協調作用は理論的に証明されておらず,一般的には行われていない.しかしながら,invitroでの抗真菌作用の検討では,MCFGはフルコナゾールやVCZとの併用により相乗効果があったと報告され22),臨床においても,慢性壊死性肺アスペルギルス症に対して,L-AMBとイトラコナゾールの併用療法の有用性が示唆されている23).イトラコナゾールとD-AMBの併用では,侵襲性肺アスペルギルス症の82%に有効であり,D-AMB単剤の治療より有効率が高かったといった報告がされるなど24),今後,難治例を中心に併用療法の試みは広がっていくと考えられる.Fusarium属による真菌感染症に対するL-AMBの併用療法に関してもすでに報告があり,invitroにおいては,L-AMBとVCZの相乗作用が示唆され25),invivoにおいて,Fusariumsolaniに感染した免疫不全のネズミを用いた報告では,L-AMBとVCZの併用療法の有効性が示唆されている26).臨床においても,Fusarium属による深在性真菌症では,L-AMBとVCZによる併用療法が有効であったと報告されており27,28),Fusariumsolaniによる角膜真菌症に対しては,0.5%L-AMB点眼と,VCZの点滴による併用療法が奏効したと報告されている29).角膜真菌症の治療においては,真菌により薬剤感受性が異なるため,起因菌に対応した薬剤の選択が重要であるとされている20).本症例では,薬剤感受性試験において,AMBは,Fusariumsolaniに対して,MICにて1.0μg/mL,Candidaalbicansに対して,MICにて0.5μg/mL,また,VCZは,Fusariumsolaniに対して,MICにて0.5μg/mL,Candidaalbicansに対して,MICにて<0.015μg/mLと,いずれも高い感受性を示した.しかしながら,点眼や点滴による加療にもかかわらず,角膜の菲薄化や穿孔は改善を認めず,治療的角膜移植術が施行された.その理由として,感染源における菌量,角膜における薬剤浸透率,薬剤の投与量,点眼のコンプライアンスの問題などが考えられる.治療的角膜移植術では,感染部位の角膜を直径8.0mmにて全層切除したが,周辺角膜の一部に角膜の浸潤巣を残すこととなり,角膜移植術施行後には,感染の再発が危惧されたが,アムビゾームRの点眼や点滴,ブイフェンドRの点眼や内服などの治療により良好な結果を得ることができた.本症例では,L-AMBの点滴療法を施行しているなかで,軽度の腎機能障害と肝機能障害を認めたが,L-AMBの点滴の中止とともにそれらは改善した.その後,再び軽度の肝機能障害を認めたが,ブイフェンドRの内服の中止とともに肝機能は正常化した.また,L-AMBの点眼を用いた本症例では,頻回点眼にもかかわらず,D-AMBの点眼においてみられるような角膜上皮障害や炎症反応を認めなかったことは,アムビゾームR点眼による抗真菌治療の安全性という面において注目すべき点であった.問題点として,点眼薬作製後の薬剤の安定性に関して不明な点が多いことがあげられる30,31).本症例では,0.1%アムビゾームR点眼を自家調整し,作製後は冷蔵庫にて保管し,1週間ごとに作製して処方したが,現在に至るまで特に問題は生じていない.FusariumsolaniとCandidaalbicansの混合感染による角膜真菌症により生じた角膜穿孔に対して,治療的角膜移植術を施行し,アムビゾームRとブイフェンドRにて治療を行った1例を報告した.今回の症例では,アムビゾームRとブイフェンドRによる治療が,角膜真菌症に対する治療の選択肢となりうることが示唆されるとともに,アムビゾームRの点眼投与での有用性と安全性が示唆されたものと考えられる.アムビゾームRの点眼は,ブイフェンドRの点眼と同様に,難治性の角膜真菌症に対する新しい治療の選択肢となる可能性が推察された.今後は,アムビゾームR点眼の単独治療が角膜真菌症に有効であるかを検討する必要があると考えられる.謝辞:本稿を終えるにあたり,ご指導いただきました,昭和大学医学部臨床感染症学講座吉田耕一郎先生に深謝いたします.なお,本稿の要旨については,第34回角膜カンファランス(仙台)にて発表した.文献1)三井幸彦:フサリウム感染.眼科33:1333-1339,19912)井上須美子:角膜真菌症の変遷.あたらしい眼科7:123-125,19903)三井幸彦:角膜真菌症にフザリウム感染が増加した原因.あたらしい眼科7:127-130,19904)PleyerU,LegmannA,MondinoBJetal:UseofcollagenshieldscontainingamphotericinBinthetreatmentofexperimentalCandidaalbicans-inducedkeratomycosisinrabbits.AmJOphthalmol113:303-308,19925)小松直樹,堅野比呂子,宮﨑大ほか:ボリコナゾール点眼が奏効したFusariumsolaniによる非定型的な角膜真菌症の1例.あたらしい眼科24:499-501,20076)松下博文,鈴木由布子,藤田昌弘ほか:Fusariumsolaniによる角膜真菌症の1例.あたらしい眼科16:95-99,19997)ReisA,SundmacherR,TintelnotKetal:Successfultreatmentofocularinvasivemoldinfection(fusariosis)withthenewantifungalagentvoriconazole.BrJOphthalmol84:932-933,20008)PolizziA,SiniscalchiC,MastromarinoAetal:EffectofvoriconazoleonacornealabscesscausedbyFusarium.ActaOphthalmolScand82:762-764,20049)GallisHA,DrewRH,PickardWWetal:AmphotericinB:30yearsofclinicalexperience.RevInfectDis12:308-329,199010)TakemotoK,YamamotoY,UedaY:EvaluationofantifungalpharmacodynamiccharacteristicsofAmBisome(121)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111489againstCandidaalbicans.MicrobiolImmunol50:579-586,200611)BekerskyI,FieldingRM,DresslerDEetal:Pharmacokinetics,excretion,andmassbalanceofliposomalamphotericinB(AmBisome)andamphotericinBdeoxycholateinhumans.AntimicrobAgentsChemother46:828-833,200212)竹本浩司,柏本茂樹,金澤勝則:接合菌類,黒色真菌類およびフサリウム属に対するリポソーム化amphotericinBの抗真菌活性.臨床と微生物34:759-765,200713)WalshTJ,FinbergRW,ArndtCetal:LiposomalamphotericinBforempiricaltherapyinpatientwithpersistentfeverandneutrophia.NEnglJMed340:764-771,199914)KajiY,YamamotoE,HiraokaTetal:ToxicitiesandpharmacokineticsofsubconjunctivalinjectionofliposomalamphotericinB.GraefesArchClinExpOphthalmol247:549-553,200915)BarzaM,BaumJ,TremblayCetal:OculartoxicityofintravitreallyinjectedliposomalamphotericinBinrhesusmonkeys.AmJOphthalmol100:259-263,198516)GoldblumD,RohrerK,FruehBEetal:CornealconcentrationsfollowingsystemicadministrationofamphotericinBanditslipidpreparationsinarabbitmodel.OphthalmicRes36:172-176,200417)BrasnuE,BourcierT,DupasBetal:Invivoconfocalmicroscopyinfungalkeratitis.BrJOphthalmol91:588-591,200718)近間泰一郎,西田輝夫:角膜真菌症─初期診断での生体共焦点顕微鏡の有用性.臨眼61:1152-1155,200719)野田恵理子,白石敦,坂根由梨ほか:生体レーザー共焦点顕微鏡(HRTII-RCM)が診断,経過観察に有用であった角膜真菌症の1例.あたらしい眼科25:385-388,200820)宇田高広,鈴木崇,宇野敏彦ほか:真菌性角膜炎臨床分離株の薬剤感受性.あたらしい眼科23:933-936,200621)GoldblumD,FruehBE,ZimmerliSetal:TreatmentofpostkeratitisFusariumendophthalmitiswithamphotericinBlipidcomplex.Cornea19:853-856,200022)NishiI,SanadaA,ToyokawaMetal:Invitroantifungalcombinationeffectsofmicafunginwithfluconazole,voriconazole,amphotericinB,andflucytosineagainstclinicalisolatesofCandidaspecies.JInfectChemother15:1-5,200923)清川浩,中島瑠美子,高藤繁ほか:LiposomalamphotericinBとitraconazoleの二剤併用が有効だった慢性壊死性肺アスペルギルス症の1例.日呼吸会誌46:448-454,200824)PoppAI,WhiteMH,QuadriTetal:AmphotericinBwithandwithoutitraconazoleforinvasiveaspergillousis:Athree-yearyearretrospectivestudy.IntJInfectDis3:157-160,199925)SpaderTB,VenturiniTP,CavalheiroASetal:InvitrointeractionsbetweenamphotericinBandotherantifungalagentsandrifampinagainstFusariumspp.Mycoses54:131-136,201126)Ruiz-CendoyaM,MarineM,GuarroJ:CombinedtherapyintreatmentofmurineinfectionbyFusariumsolani.JAntimicrobChemother62:543-546,200827)HoDY,LeeJD,RossoFetal:Treatingdisseminatedfusariosis:amphotericinB,voriconazoleorboth?Mycoses50:227-231,200728)StanzaniM,VianelliN,BandiniGetal:SuccessfultreatmentofdisseminatedFusariosisafterallogenichematopoieticstemcelltransplantationwithcombinationofvoriconazoleandliposomalamphotericinB.JInfect53:243-246,200629)TouvronG,DenisD,DoatMetal:SuccessfultreatmentofresistantFusariumsolanikeratitiswithliposomalamphotericinB.JFrOphtalmol10:721-726,200930)PleyerU,GrammerJ,PleyerJHetal:AmphotericinB─bioavailabilityinthecornea.StudieswithlocaladministrationofliposomeincorporatedamphotericinB.Ophthalmologe92:469-475,199531)MorandK,BartolettiAC,BochotAetal:LiposomalamphotericinBeyedropstotreatfungalkeratitis:Physico-chemicalandformulationstability.IntJPharm344:150-153,2007***