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超広角走査型レーザー検眼鏡によるぶどう膜炎の蛍光眼底造影

2013年5月31日 金曜日

《第46回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科30(5):679.683,2013c超広角走査型レーザー検眼鏡によるぶどう膜炎の蛍光眼底造影小椋俊太郎平原修一郎野崎実穂吉田宗徳小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学FluoresceinAngiographybyUltra-Wide-FieldScanningLaserOphthalmoscopeinPatientswithUveitisShuntaroOgura,ShuichiroHirahara,MihoNozaki,MunenoriYoshidaandYuichiroOguraDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences目的:ぶどう膜炎における超広角走査型レーザー検眼鏡(OptosR200Tx)造影検査の有用性を検討した.症例:2011年5月から2012年5月に名古屋市立大学病院で,OptosR200Txにより蛍光眼底造影検査を施行したぶどう膜炎11症例22眼(サルコイドーシス3例6眼,原田病2例4眼,原因不明3例6眼),男性4名,女性7名,平均年齢44.7歳(16.80歳).結果:OptosR200Txによるフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)では,従来型眼底カメラでは撮影ができなかった眼底周辺部の観察が可能であった.散瞳不良な症例においても,OptosR200Txによる蛍光眼底造影検査では周辺部までの観察が可能であった.結論:OptosR200Txによる超広角蛍光眼底造影検査は,一度の撮影で眼底周辺部まで捉えることができ,ぶどう膜炎の病態の把握や治療の効果判定に有用と考えられた.Purpose:Toevaluatetheefficacyoffluoresceinangiography(FA)usinganultra-wide-fieldscanninglaserophthalmoscope(OptosR200Tx,Dunfermline,Scotland)inpatientswithuveitis.Cases:22eyesof11patients(4males,7females;meanage44.7years;agerange16.80years)diagnosedwithuveitisunderwentFAusingtheOptosR200TxatNagoyaCityUniversityHospitalbetweenMay2011andMay2012.Results:TheOptosR200TxenabledawiderandclearerFAimagefromtheposteriorpolethroughthefar-peripheralarea.Itenabledtheevaluationofdetailedchangesthatwerenotevidentwiththeconventionalfunduscamera.Moreover,itwasefficientinevaluatingthestatusandpathologicalchangesinpatientswithpoormydriasiseyes.Conclusion:TheOptosR200Txcanrevealfar-peripheralpathophysiologyandisusefulforevaluatingthestatusofuveitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(5):679.683,2013〕Keywords:超広角走査型レーザー検眼鏡,フルオレセイン蛍光眼底造影検査,ぶどう膜炎.ultra-wide-fieldimaging,fluoresceinangiography,uveitis.はじめにOptosR200Txは走査型レーザー検眼鏡で,無散瞳下においても一度の撮影で眼底の80%以上の200°の範囲で網膜の撮影が可能な眼底観察器械である.2011年5月にわが国においても認可された.ぶどう膜炎や糖尿病網膜症の病期や病勢判断にフルオレセイン蛍光眼底造影検査(fluoresceinangiography:FA)による評価は有用であるが,従来の造影検査では画角が狭く,眼底周辺部の所見を取るのは困難であった.また,周辺の撮影には患者協力が必要であった.今回筆者らは,ぶどう膜炎におけるOptosR200Txを用いた広角FAを施行し有用性を検討した.I症例症例は2011年5月から2012年5月に名古屋市立大学病院においてぶどう膜炎と診断され,OptosR200TxでFAを施行されたぶどう膜炎11症例22眼(男性4名,女性7名).サルコイドーシス4例,原田病2例,原因不明5例を対象とした.平均年齢は44.7歳(16.80歳)であった.全例で両〔別刷請求先〕小椋俊太郎:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:ShuntaroOgura,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1-Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya-shi,Aichi467-8601,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(101)679 表1各ぶどう膜炎症例の眼所見年齢(歳)性別診断名前房炎症硝子体混濁網膜/血管の検眼鏡的異常FAの周辺部漏出30男性サルコイドーシス++++52男性サルコイドーシス++++59男性サルコイドーシス.+.+80女性サルコイドーシス++.+16女性原田病..++55女性原田病…+13男性原因不明++++34女性原因不明.+++42女性原因不明.+++47女性原因不明+..+68女性原因不明.+++図1原田病におけるOCT(opticalcoherencetomography)初診時に後極部を中心に左眼に多房性の漿液性網膜.離を認めた.右眼もほぼ同様の所見であった.眼発症のぶどう膜炎であった.サルコイドーシスでは4例中3例で前房炎症を認め,全例で硝子体混濁をきたしていた.原田病では1例は寛解期であったため,検眼鏡では異常を認めなかったが,造影検査では周辺部のFAの軽度漏出を認めた.原因不明のぶどう膜炎では5例中4例で硝子体混濁および網膜血管炎を認めた.また,検眼鏡的に前眼部,後眼部の異常の有無にかかわらず,全例で周辺部の蛍光漏出を認めた(表1).以下に代表症例を3例提示する.〔症例1〕16歳,女性.現病歴:両眼の視力低下,耳鳴りを主訴に近医を受診し,漿液性網膜.離を指摘され,精査目的で当科紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.4(n.c.),左眼0.8(n.c.).眼圧は右眼22.0mmHg,左眼22.0mmHgであった.前眼部や中間透光体所見に特記する所見は認めず,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では後極部に房状の漿液性網膜.離が確認された(図1).カラーパノラマ眼底写真では後極部を中心に広範な漿液性網膜.離が散在した(図2a).OptosR200Txにおいても同様な所見が認められ,さらに周辺部までの様子が確認された(図2b).OptosR200TxによるFAは黄斑周囲に斑状の過蛍光を認め,後極部を中心とした網膜.離に一致した多発性蛍光漏出と蛍光色素の貯留ab図2初診時の左眼のパノラマ写真(a)とOptosR200Txによる眼底写真(b)後極部を中心に漿液性網膜.離が散在している.OptosR200Txではパノラマ写真と比べより周辺部まで撮影が可能であった.680あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013(102) 図3OptosR200Txにおける蛍光眼底造影漿液性網膜.離に一致した箇所に多発性の造影剤の過蛍光と貯留を認める.また,耳側周辺部に過蛍光を認める.も認められた.さらに,検眼鏡的に異常所見がないと思われた周辺部にも過蛍光が確認された(図3).髄液検査では細胞数190/μl(多核球:リンパ球=1:189)とリンパ球有意の細胞増多を認めた.耳鼻科的精査では典型的な感音難聴は認められなかった.原田病と診断し治療を開始した.経過:入院後ステロイドパルス療法を3日間施行し,その後プレドニゾロン60mgより開始し,徐々にステロイド薬を漸減した.経過良好で第20病日に退院.退院時視力は右眼0.9(1.2×sph.0.75D),左眼1.2(1.5×sph.0.25D)であった.その後現在まで再発をきたしてはいない.〔症例2〕52歳,男性.現病歴:両眼霧視を主訴に近医受診し両眼前房細胞,角膜後面沈着物を指摘され,ステロイド薬点眼で経過観察されていた.内科による精査でACE(アンギオテンシン変換酵素)高値を指摘されサルコイドーシスと診断された.徐々に硝子体混濁が悪化し,網膜前膜も出現したため当科紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.9(n.c.),左眼1.2(n.c.)で,眼圧は右眼17.0mmHg,左眼18.5mmHgであった.前眼部所見として両眼前房細胞多数であり,角膜後面沈着物を認めた.隅角にはテント状周辺虹彩癒着を認めた.硝子体は雪玉状混濁をきたしていた.また,眼底には右眼.胞様黄斑浮腫,左眼軽度の黄斑前膜を認めた(図4a).本症例に対し,ステロイド薬の点眼継続ならびに後部Tenon.下ステロイド薬注射を炎症悪化時に施行し経過観察していたが,徐々に混濁が悪化し,さらにはステロイド白内障も呈するようになり8カ月後の最終受診時の視力は右眼0.2(n.c.),左眼0.6(n.c.)であった.FAでは黄斑周囲に斑状の過蛍光を認め,脈絡膜からの蛍光剤の漏出がみられた.また,静脈に沿って(103)ab図4サルコイドーシスにおける眼底写真(a)と蛍光眼底造影写真(b)静脈に沿って多発性結節状の蛍光漏出点を認め,高度な血管炎の状態である.周辺部に造影剤の漏出も認める.多発性結節状の蛍光漏出を多数認めた.周辺部からの造影剤の漏出も認めた(図4b).〔症例3〕47歳,女性.現病歴:左眼の羞明,霧視,眼痛を自覚し,翌週右眼にも同症状が出現したため近医受診.ぶどう膜炎と診断されステロイド薬点眼,塩酸トロピカミド点眼を処方され,精査目的で当科紹介となった.初診時所見:初診時視力は右眼0.1(1.5p×sph.3.50D),左眼0.09(1.5×sph.3.50D),眼圧は右眼19.0mmHg,左眼20.0mmHgであった.前眼部には前房細胞を多数認め,また虹彩後癒着を認めたが,硝子体ならびに中間透光体には混濁は認めなかった.虹彩後癒着のため両眼最大瞳孔径4mmと散瞳不良であった.後眼部に異常所見を認めなかったため,急性前部ぶどう膜炎と診断した.造影検査を施行すると,造影中期相から後期相にかけて耳あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013681 図5前部ぶどう膜炎と診断した症例の蛍光眼底造影写真本症例では後眼部に検眼鏡的には異常を認めなかったが,造影検査を施行すると周辺部に漏出点を認める.側の周辺部にのみFAの漏出を認めた(図5).散瞳不良であったが周辺まで撮影が可能であった.II考按FAは網膜循環動態の評価と,網膜血管や網膜色素上皮がもつ血液網膜関門の状態などを把握することができるため,検眼鏡のみでは判然としない網膜血管炎の所在などが過蛍光として描出され,診断するのに有用である1.3).また,FAによって毛細血管壁や静脈閉塞,.胞様黄斑浮腫,無血管領域や新生血管などの評価が可能である4,5).従来のFAは患者に上下左右9方向を見てもらい,撮影した画像を合成しパノラマ写真を作成していた.この方法においては周辺部の撮影が困難であり,血管や眼底の状態が評価できなかった.さらに,各方向を撮影するタイムラグが生じるため,それらを合成しパノラマ写真を作成したとしても経時的な眼底全体の撮影ができないことに加え,被験者自身の眼球を撮影方向に動かす協力が不可欠であり,負担を生じていた.OptosR200TxによるFAはより眼底周辺部のFA所見がとれることに加え,眼底全体の継時的変化を追うことができる利点があると考える6.8).これまでに糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症におけるOptosR200TxによるFAの従来型眼底カメラに対する有用性が報告されている8.12).Wesselらによると,従来型の眼底カメラと比べOptosR200Txは平均3.9倍広範囲に網膜を描写できたとした.また,糖尿病網膜症においては有意に無血管領域や,新生血管の評価ができたとしている8).ぶどう膜炎における超広角走査型レーザーによる造影検査の有用性はKainesらが2009年に報告しており,従来型カメラと比べ,周辺部の網膜の評価に有用であったとしている.彼らは原発性中間部ぶどう膜炎患者にFAを682あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013施行すると,周辺部静脈からの造影剤の漏出を認め,さらには予期せぬ局所的な過蛍光も認めたと報告している12).今回筆者らも11例のぶどう膜炎症例でOptosR200TxによるFAの有用性を検討した.OptosR200Txにおける蛍光眼底造影検査では,従来の眼底カメラでは撮影ができなかった眼底周辺部の観察が可能であり,周辺部の炎症による血管所見の評価が可能であった6,7,11,12).また,通常のパノラマなどの造影写真と比べ,全体が均一な濃度で示されるため病変の判定をしやすくなった6).症例3に示したように,従来撮影が困難であった散瞳不良な症例においても,周辺部までのFAが施行でき,評価が可能であった.さらに今回は,検眼鏡では異常がなく前部ぶどう膜炎だけであると判断された症例も,OptosR200TxのFAにより周辺部の網膜血管からの蛍光漏出がみられた.推測ではあるが,前眼部炎症から産生されたサイトカインの刺激によって血管炎が惹起され,蛍光漏出がみられたものと考えられる.以上からこのような症例では中間部ぶどう膜炎としての所見もみられたといえる.III結語OptosR200Txによる超広角蛍光眼底造影検査は一度の撮影で眼底周辺部まで捉えることができ,ぶどう膜炎の病態の把握や治療の効果判定に有用であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)Ossewaarde-vanNorelJ,CamffermanLP,RothovaA:Discrepanciesbetweenfluoresceinangiographyandopticalcoherencetomographyinmacularedemainuveitis.AmJOphthalmol154:233-239,20122)KozakI,MorrisonVL,ClarkTMetal:Discrepancybetweenfluoresceinangiographyandopticalcoherencetomographyindetectionofmaculardisease.Retina28:538-544,20083)AtmacaLS,SonmezPA:FluoresceinandindocyaninegreenangiographyfindingsinBehcet’sdisease.BrJOphthalmol87:1466-1468,20034)AtmacaLS:FunduschangesaccociatedwithBehcet’sdisease.GraefesArchClinExpOphthalmol227:340-344,19895)FribergTR,GuptaA,YuJetal:Ultrawideanglefluoresceinangiographicimaging:acomparisontoconventionaldigitalacquisitionsystems.OphthalmicSurgLasersImaging39:304-311,20086)MackenziePJ,RussellM,MaPEetal:Sensitivityandspecificityoftheoptosoptomapfordetectingperipheralretinallesions.Retina27:1119-1124,20077)ManivannanA,PlskovaJ,FarrowAetal:Ultra-widefieldfluoresceinangiographyoftheocularfundus.AmJ(104) Ophthalmol140:525-527,20058)WesselMM,AakerGD,ParlitsisGetal:Ultra-wide-fieldangiographyimprovesthedetectionandclassificationofdiabeticretinopathy.Retina32:785-791,20129)TsuiI,Franco-CardenasV,HubschmanJPetal:Ultrawidefieldfluoresceinangiographycandetectmacularpathologyincentralretinalveinocclusion.OphthalmicSurgLasersImaging43:257-262,201210)PrasadP,OliverS,CoffeeRetal:Ultrawide-fieldangiographiccharacteristicsofbranchretinalandhemicentralretinalveinocclusion.Ophthalmology117:780-784,201011)WesselMM,NairN,AakerGDetal:Peripheralretinalischaemia,asevaluatedbyultra-widefieldfluoresceinangiography,isassociatedwithdiabeticmacularoedema.BrJOphthalmol96:694-698,201212)KainesA,TsuiI,SarrafD:Theuseofultrawidefieldfluoresceinangiographyinevaluationandmanagementofuveitis.SeminOphthalmol24:19-24,2009***(105)あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013683