《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(8):951.954,2021cブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬からブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬への変更松村理世*1井上賢治*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CSwitchingtoBrimonidine/TimololFixedCombinationandBrinzolamidefromBrinzolamide/TimololFixedCombinationandBrimonidineRiyoMatsumura1),KenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ変更した症例の眼圧下降効果と安全性を調査した.対象および方法:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬を併用使用中の緑内障C29例29眼を対象とした.これらの点眼薬を中止しCwashout期間なしでブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ変更した.変更前と変更C1回目来院時の眼圧を比較した.変更後の副作用と投与中止例を調査した.結果:眼圧は変更前C16.6C±4.2CmmHgと変更後C16.8C±4.7CmmHgで同等だった.副作用はC4例(13.8%)で出現し,内訳は見えづらいC2例,結膜充血C1例,刺激感C1例だった.投与中止例はC4例(13.8%)で,内訳は眼圧上昇C3例,見えづらいC1例だった.結論:ブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ同成分の点眼薬から変更したところ,短期的には眼圧を維持でき,安全性も良好だった.CPurpose:ToCinvestigateCtheCIOP-loweringCe.cacyCandCsafetyCofCbrimonidine/timololC.xedCcombinationCandCbrinzolamide.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved29eyesof29patientsbeingadministeredacombinationtherapyofbrinzolamide/timolol.xedcombinationandbrimonidinewhowereswitchedtoacombinationtherapyofbrimonidine/timololC.xedCcombinationCandCbrinzolamideCwithoutCaCwashoutCperiod.CIntraocularpressure(IOP)atCbaselineCandCtheC.rstCvisitCafterCswitchingCwereCcompared.CAdverseCreactionsCandCdropoutsCwereCinvestigated.CResults:ThereCwasCnoCdi.erenceCinCIOPCatbaseline(16.6C±4.2CmmHg)andCatCtheC.rstvisit(16.8C±4.7CmmHg)C.Adversereactionsoccurredin4patients(13.8%);i.e.,blurredvisionin2,conjunctivalhyperemiain1,andirrita-tionCinC1.CFourpatients(13.8%)discontinuedCtheCadministration,CandCtheCreasonsCforCdiscontinuationCwereCincreasedCIOPCinC3CandCblurredCvisionCinC1.CConclusion:AfterCswitchingCtoCtheCcombinationCtherapyCofCbrimoni-dine/timolol.xedcombinationandbrinzolamidefrombrinzolamide/timolol.xedcombinationandbrimonidine,IOPwasmaintainedandthesafetywassatisfactoryintheshort-term.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(8):951.954,C2021〕Keywords:眼圧,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬,緑内障,安全性.CintraocularCpressure,Cbrimonidine-timololC.xedCcombination,Cbrinzolamide-timololC.xedCcombination,Cglaucoma,Csafety.Cはじめに用中の患者は点眼薬を変更せざるをえない状況になった.筆2019年C11月中旬にブリンゾラミド/チモロール配合点眼者らは眼圧下降効果と副作用,アドヒアランスの観点から点薬(アゾルガ,ノバルティスファーマ)が突然供給停止とな眼薬の主剤がまったく変わらず,ボトル数やC1日の総点眼回った.そのためブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬を使数が増加しない変更がもっともよいと考えた.〔別刷請求先〕松村理世:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:RiyoMatsumura,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(103)C951表1点眼薬使用感のアンケート調査①充血は?□前より赤くならない□前と同じ□前より赤くなる②刺激は?□前よりしみない□前と同じ□前よりしみる③かゆみは?□前よりかゆくない□前と同じ□前よりかゆい④痛みは?□前より痛くない□前と同じ□前より痛い⑤かすみは?□前よりかすまない□前と同じ□前よりかすむ□変更した後のほうが良い□どちらも同じ□変更する前のほうが良い□充血しない□しみない□かゆくない□痛くない□かすまない□点眼瓶が使いやすい□味覚に変化がない□価格が安い□その他()表2点眼薬使用感のアンケート調査「問1」の結果前より良い同じ前の方が良い刺激感(しみる)2例6.9%23例79.3%4例13.8%かゆみ1例3.4%24例82.8%4例13.8%痛み0例0.0%27例91.3%2例6.9%同時期のC2019年C12月にブリモニジン点眼薬とチモロール点眼薬を配合したブリモニジン/チモロール配合点眼薬(アイベータ,ノバルティスファーマ)が使用可能となった.筆者らはブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬の併用患者に対して,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬への変更を行った.この変更では,2ボトル,1日C4回点眼を維持でき,アドヒアランスも維持できると考えた.今回,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬が供給停止となったことを契機として,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬併用中の患者に対して,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ変更した際の短期的な眼圧下降効果と安全性を後ろ向きに検討した.CI対象および方法2019年C12月.2020年C1月にブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬を使用しており,両点眼薬を中止し,washout期間なしでブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ変更したC29例C29眼を対象とした.両眼該当例では眼圧の高い眼を,眼圧が同値の場合は右眼を,片眼症例では該当眼を解析対象とした.男性13例,女性C16例,平均年齢はC70.2C±9.9歳(平均値C±標準偏差C46.83歳)であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障C24例,落屑緑内障C4例,原発閉塞隅角緑内障C1例であった.変更前眼圧はC16.6C±4.2CmmHg(10.25CmmHg)であった.Humphrey視野検査プログラムC30-2SITA-StandardのCmeandeviation値は平均C.7.06±5.81CdB(C.18.53.0.11CdB)であった.緑内障使用薬剤数は平均C4.7C±0.6剤(4.6剤)であった.他の点眼薬は継続使用とした.配合点眼薬はC2剤とした.変更前と変更後C1回目(79.2C±38.6日後)の来院時の眼圧(Goldmann圧平眼圧計による)を比較した.眼圧変化量をC2CmmHg以上上昇,C±2CmmHg未満,2CmmHg以上下降に分けて解析した.変更前と変更後の点眼薬の使用感と好みを変更後C1回目の来院時にアンケートで調査した(表1).変更後の副作用,中止例を調査した.変更前後の眼圧の比較には対応のあるCt検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理委員会で承認を得た.研究の趣旨と内容を患者に開示し,患者の同意を文書で得た.CII結果眼圧は変更前C16.6C±4.2CmmHgと変更後C16.8C±4.7CmmHgで同等であった(p=0.7167).眼圧変化量はC2CmmHg以上上昇C6眼(20.7%),C±2mmHg未満C18眼(62.1%),2mmHg以上下降C5眼(17.2%)であった.アンケート結果を表2に示す.変更前後の眼の症状は充血,刺激感,かゆみ,痛み,かすみのすべてで同じがC72.4.91.3%と高率であった.変更前後の組み合わせの選択(問2C①)はどちらも同じC19例(65.5%),変更後が良いC5例(17.2%),変更前が良いC4例(13.8%)などだった.変更後が良い理由(5例)は,点眼瓶が使いやすいC4例,しみないC1例,かすまないC1例,充血しないC1例であった(問C2C②).変更前が良い理由(4例)は,充血しないC2例,しみないC2例,かゆくないC1例であった.変更後に副作用はC4例(13.8%)で出現し,その内訳は見952あたらしい眼科Vol.38,No.8,2021(104)えづらいC2例,結膜充血C1例,刺激感C1例であった.中止症例はC4例(13.8%)で,その内訳は眼圧上昇C3例,見えづらいC1例であった.継続症例はC25例(86.2%)であった.眼圧上昇症例は原発開放隅角緑内障C2例,落屑緑内障C1例であった.原発開放隅角緑内障症例の眼圧は各10mmHgから14CmmHgへ,12CmmHgからC22CmmHgへ上昇した.落屑緑内障症例の眼圧はC25CmmHgからC31CmmHgへ上昇した.3例とも変更後C1回目の来院時にブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬に戻した.その後,原発開放隅角緑内障症例では眼圧は各C11CmmHgとC14CmmHgになり,変更前に戻った.落屑緑内障症例では眼圧はC30CmmHgのままで元に戻らなかった.見えづらさを訴えて中止した症例ではブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬に戻したところ見えづらさは改善した.変更後のブリンゾラミド点眼薬は先発医薬品(エイゾプト,ノバルティスファーマ)使用がC3例,後発医薬品(センジュ,千寿製薬)使用がC26例であった.CIII考按ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬の供給停止を受けて,この配合点眼薬の変更に関して以下の四つの方法を検討した.C1.ブリンゾラミド点眼薬と同じ炭酸脱水酵素阻害薬であるドルゾラミド点眼薬を含んだドルゾラミド/チモロール配合点眼薬への変更.C2.ブリンゾラミド点眼薬とチモロール点眼薬併用への変更.C3.他にプロスタグランジン関連薬を使用している患者ではプロスタグランジン関連薬/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬併用への変更.C4.他にブリモニジン点眼薬を使用している患者ではブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬併用への変更.1の変更に関しては,ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬からブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬へ変更した報告では,刺激感はドルゾラミド/チモロール配合点眼薬で多く,霧視はブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬で多かった1).この変更により副作用が出現し,アドヒアランスが低下する危険性を有していた.2の変更に関しては,患者にとって点眼ボトルとC1日の総点眼回数が増えるためにアドヒアランスが低下する2)可能性を有していた.3,4の変更に関しては変更後に点眼ボトルとC1日の総点眼回数が増加しないためにアドヒアランスを維持できると考えた.また,点眼薬の成分も同一のため新たな副作用の発現も少なく,眼圧も変化しないと予想した.しかし,国内ではビマトプロスト/チモロール配合点眼薬は使用できないためにビマトプロスト点眼薬を使用している患者ではこの変更は行うことができない.そこで今回はC3の変更を行った.今回点眼薬の主剤が同成分での変更を行ったところ,変更前後の眼圧に変化はなかった.しかし,個別の症例で検討すると,変更後に眼圧がC2CmmHg以上上昇した症例がC20.7%,2CmmHg以上下降した症例がC17.2%存在した.同成分の変更としてラタノプロスト点眼薬とゲル化チモロール点眼薬を中止し,ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬へ変更した患者でのC36カ月後の眼圧変化量はC2CmmHg超上昇C10.0%,C±2CmmHg以内C77.0%,2CmmHg超下降C13.0%であった3).ドルゾラミド点眼薬とチモロール点眼薬を中止し,ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬へ変更した患者でのC3カ月後の眼圧変化量はC2CmmHg超上昇C16.1%,C±2CmmHg以内C77.4%,2CmmHg超下降C6.5%であった4).主剤が同成分での変更においても変更後に眼圧は上昇したり,下降したりする患者が存在するので,変更後の注意深い経過観察が必要である.今回の眼圧上昇症例では全例で変更後に後発医薬品のブリンゾラミド点眼薬を使用していた.眼圧上昇した原因として後発医薬品が先発医薬品と同等の眼圧下降効果を有していない点5),調査時期が冬季であったため眼圧が上昇しやすかった点6),落屑緑内障症例では眼圧が変動しやすいことが影響した点7)などが考えられる.眼圧下降症例では全例で変更後に後発医薬品のブリンゾラミド点眼薬を使用していた.後述のように点眼瓶が使いやすくなり,アドヒアランスが向上した可能性がある.変更前後の眼の症状の変化は充血,刺激感,かゆみ,痛み,かすみともに同じが大多数を占めた.今回の点眼薬の変更では,主剤の成分に変更がなかったためと考えられる.変更前後の組み合わせの好みは変更前と変更後でほぼ同数だった.変更後が良い理由として,点眼瓶が使いやすいがもっとも多かった.今回の点眼薬の変更では変更前のブリモニジン点眼薬と変更後のブリモニジン/チモロール配合点眼薬は千寿製薬の平型容器で共通である.変更前のブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬と変更後の先発医薬品のブリンゾラミド点眼薬はアルコンファーマのラウンド型容器で共通である.平型容器は持ちやすく,押しやすく,キャップの開閉が行いやすく,一方ラウンド型容器は押しにくく,液が出にくく,残量が見えにくいと報告されている8).ブリンゾラミド点眼薬の先発医薬品を使用した患者では変更前後の点眼瓶の形状はまったく同じである.ブリンゾラミド点眼薬の後発医薬品を使用した患者では点眼瓶が使いやすくなり,アドヒアランスが向上した可能性がある.点眼瓶の形状を考慮することも重要である.今回は調査期間中に新型コロナウイルス感染症の流行による緊急事態宣言発令などの影響で,変更後C1回目の来院が最(105)あたらしい眼科Vol.38,No.8,2021C953短C14日後.最長C176日後と差が出てしまい統一ができなかった.このことが変更後の結果に影響を及ぼした可能性も否定できない.今回,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬を中止し,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ変更した患者を検討した.主剤が同成分の変更のため短期的には眼圧は維持することができ,安全性や使用感も良好だった.このような点眼薬の変更は点眼薬選定の選択肢となりうると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AugerCGA,CRaynorCM,CLongsta.S:PatientCperspectivesCwhenCswitchingCfromCosopt(CR)(dorzolamide-timolol)toCAzarga.(brinzolamide-timolol)forCglaucomaCrequiringCmultipleCdrugCtherapy.CClinCOphthalmolC6:2059-2062,C2012C2)DjafariCF,CLeskCMR,CHayasymowyczCPJCetal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20093)InoueK,OkayamaR,HigaRetal:E.cacyandsafetyofswitchingCtoClatanoprost0.005%-timololCmaleate0.5%C.xed-combinationCeyedropsCfromCanCun.xedCcombinationCfor36months.ClinOphthalmolC8:1275-1279,C20144)InoueCK,CShiokawaCM,CSugaharaCMCetal:Three-monthCevaluationCofCdorzolamideChydrochloride/timololCmaleateC.xed-combinationCeyeCdropsCversusCtheCseparateCuseCofCbothdrugs.JpnJOphthalmolC56:559-563,C20125)津幡結美子,菊池順子,井上賢治ほか:Cb遮断点眼液の後発品処方への変更.日本の眼科C78:727-732,C20076)古賀貴久,谷原秀信:緑内障と眼圧の季節変動.臨眼C55:C1519-1522,C20017)KonstasAG,MantzirisDA,StewartWC:DiurnalintraocC-ularCpressureCinCuntreatedCexfoliationCandCprimaryCopen-angleglaucoma.ArchOphthalmolC115:182-185,C19978)中道晶子,高橋嘉子,井上賢治ほか:緑内障患者を対象とした点眼容器のアンケート調査報告.あたらしい眼科C37:C100-103,C2020C***954あたらしい眼科Vol.38,No.8,2021(106)