———————————————————————-Page1(103)15730910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15731576,2008cはじめにブリンゾラミド点眼薬は,懸濁性点眼液で緑内障および高眼圧症の治療薬として1日2回点眼で使用する炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)で,わが国では2002年に承認された.眼圧下降のメカニズムは,炭酸脱水酵素(carbonicanhydrase:CA)のアイソザイムII型に対する選択的な阻害作用によって房水産生を抑制することである1).ラタノプロスト点眼薬はその強力な眼圧下降作用により近年緑内障治療の第一選択薬となっている.しかし,眼圧下降が不十分な症例では他の点眼薬の追加投与が必要となる.眼圧下降の機序を考慮すると,房水産生を抑制するb遮断点眼薬や炭酸脱水酵素阻害薬点眼薬があげられる.ラタノプロスト点眼薬へのブリンゾラミド点眼薬の追加投与の報告はある26)が,投与期間が8週間3カ月間と短期間の報告が多く25),1年間以上の長期間の報告は少ない6).さらに原発開放隅角緑内障(広義)や高眼圧症に対する報告は多い36)が,正常眼圧緑内障に対する報告は少なく7),投与期間も3カ月間と短い.今回,ラタノプロスト点眼薬を単剤で使用中の原発開放隅角緑内障(広義)患者に,ブリンゾラミド点眼薬を12カ月間追加投与した際の眼圧下降と視野維持効果,副作用を検討した.さらに,緑内障の病型〔原発開放隅角緑内障(狭義)と正常眼圧緑内障〕による眼圧下降効果の違いを検討した.〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANラタノプロストへのブリンゾラミド点眼追加療法井上賢治*1小尾明子*1若倉雅登*1井上治郎*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座OcularHypotensiveEectandSafetyofBrinzolamideAddedtoLatanoprostKenjiInoue1),AkikoKoh1),MasatoWakakura1),JiroInouye1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)SecondDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicineラタノプロスト点眼薬を単剤で使用中の原発開放隅角緑内障22例22眼に1%ブリンゾラミドを追加投与し,12カ月間の眼圧下降効果および副作用を検討した.ブリンゾラミド追加投与前の眼圧は17.0±2.2mmHg,投与1カ月後15.0±2.6mmHg,3カ月後14.8±2.4mmHg,6カ月後14.8±2.2mmHg,12カ月後14.8±1.7mmHgで投与前に比べ有意に眼圧が下降した(p<0.0001).Humphrey視野計のmeandeviation(MD)値は,追加投与6カ月後9.7±6.7dB,12カ月後10.3±5.5dBで追加投与時(10.6±6.7dB)と同等であった.副作用は20.8%で出現し,霧視2例,頭痛1例,異物感1例,眼の鈍痛1例であった.ブリンゾラミド点眼薬は,ラタノプロスト点眼薬に12カ月間追加投与した際に強力な眼圧下降作用を示し,視野が悪化した症例はなく,安全性においても重大な副作用を認めなかった.Overaperiodof12months,weevaluatedthesafetyandhypotensiveeectof1%brinzolamidetherapyaddedtolatanoprostin22eyesof22cases.Glaucomatypesexaminedcomprisedprimaryopen-angleglaucomain9eyesandnormal-tensionglaucomain13eyes.Inalleyes,thebaselineintraocularpressure(IOP)averaged17.0±2.2mmHg;IOPafter1monthoftreatmentaveraged15.0±2.6mmHg,after3months14.8±2.4mmHg,after6months14.8±2.2andafter12months14.8±1.7mmHg(p<0.0001).TheHumphreyvisualeldtestmeandevia-tionat12monthsaftertreatmentwassimilartothatbeforetreatment.Theoccurrenceofadverseeventsin5cases(20.8%)shouldbenoted.Inconclusion,thesendingsshowthatbrinzolamideissafeandeectiveforopen-angleglaucomaasanadditionaltherapytolatanoprostfor12months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15731576,2008〕Keywords:ラタノプロスト点眼薬,ブリンゾラミド点眼薬,原発開放隅角緑内障,眼圧,視野.latanoprost,brinzolamide,primaryopen-angleglaucoma,intraocularpressure,visualeld.———————————————————————-Page21574あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(104)I対象および方法2003年3月から2006年6月の間に井上眼科病院に通院中の原発開放隅角緑内障(広義)患者で,ラタノプロスト点眼薬を単剤で2カ月間以上使用(平均使用期間26.7±20.8カ月,264カ月)(平均±標準偏差)しているが,緑内障病期に応じた目標眼圧に到達していない症例に対して,1%ブリンゾラミド点眼薬を追加投与し,12カ月間以上の経過観察ができた22例22眼(男性7例,女性15例)を対象とした.年齢は66.5±9.5歳(4782歳)であった.緑内障の病型は,原発開放隅角緑内障(狭義)9例,正常眼圧緑内障13例であった.点眼薬追加投与前の眼圧(追加投与1カ月前と追加投与時の平均)は17.0±2.2mmHg(1321.5mmHg),Humph-rey視野中心30-2SITA-STANDARDプログラムのmeandeviation(MD)値は9.7±6.7dB(23.60.9dB)であった.Humphrey視野は追加投与前3カ月以内に行った検査での値を用いた.固視不良が20%を超える,あるいは偽陽性や偽陰性が30%を超える症例は除外した.ブリンゾラミド点眼は1日2回で,原則として朝夕12時間ごとの点眼とした.アセタゾラミド内服中の症例,白内障以外の内眼手術やレーザー手術の既往例は除外した.白内障手術既往例(5例)は術後3カ月以内の症例は除外した.眼圧は,原則として1カ月ごと12カ月間にわたりGold-mann圧平眼圧計で同一の検者が測定した.患者ごとにほぼ同一の時間に毎月来院してもらい,眼圧を測定した.全症例(22例),原発開放隅角緑内障(狭義)症例(9例),正常眼圧緑内障症例(13例)に分けて,ベースライン(ブリンゾラミド点眼追加投与時と投与1カ月前の平均)とブリンゾラミド点眼薬追加投与1,3,6,12カ月後の眼圧をANOVA(analy-sisofvariance)およびBonferroni/Dunnet法で比較した.投与12カ月後の眼圧とベースラインとの差から眼圧下降率を算出した.Humphrey自動視野計のプログラム中心30-2SITA-STANDARDを,追加投与前と投与6,12カ月後に行い,そのMD値をANOVAで比較した.両眼投与例では右眼を,片眼投与例では患眼を解析眼とした.有意水準は,p<0.05とした.各検査は趣旨と内容を説明し,患者の同意を得た後に行った.II結果眼圧は,全症例(22例)ではベースライン17.0±2.2mmHg,追加投与1カ月後15.0±2.6mmHg,3カ月後14.8±2.4mmHg,6カ月後14.8±2.2mmHg,12カ月後14.8±1.7mmHgで,ベースラインに比べ各観察時で有意に下降していた(p<0.0001)(図1a).病型別では,原発開放隅角緑内障(狭義)症例(9例)では,ベースライン18.7±1.8mmHg,追加投与1カ月後16.8±1.9mmHg,3カ月後16.4±2.4mmHg,6カ月後15.8±1.9mmHg,12カ月後15.6±1.4mmHgで,ベースラインに比べ各観察時で有意に下降していた(p<0.0001)(図1b).正常眼圧緑内障症例(13例)では,ベースライン15.8±1.5mmHg,追加投与1カ月後13.8±2.3mmHg,3カ月後13.6±1.7mmHg,6カ月後14.1±2.2mmHg,12カ月後14.3±1.8mmHgで,ベースラインに比べ各観察時で有意に下降していた(p<0.0001)(図1c).全症例での投与12カ月後の眼圧下降幅は1.5±1.6mmHg(1.53.5mmHg),眼圧下降率は12.0±10.2%(10.330.0%)で,眼圧下降率10%未満が9例(40.9%),10%以上20%未満が8例(36.4%),20%以上が5例(22.7%)であった.Humphrey視野計のMD値は全症例では,追加投与6カ月後9.7±6.7dB,12カ月後10.3±5.5dBで追加投与時追加投与前b.原発開放隅角緑内障(狭義)症例c.正常眼圧緑内障症例a.全症例1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後追加投与前1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後追加投与前1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後0101214161820************眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)0101214161820220101214161820図1ブリンゾラミド追加投与前後の眼圧(ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法;*p<0.0001)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081575(105)(10.6±6.7dB)と同等であった(p=0.87)(図2).副作用は20.8%(5例/24例)で出現した.その内訳は霧視2例,頭痛1例,異物感1例,眼の鈍痛1例であった.ブリンゾラミド点眼薬が中止になったのは,異物感と眼の鈍痛が追加投与1カ月後に出現した各1例であった.これら2症例は眼圧下降効果の解析からは除外した.III考按0.5%チモロール点眼薬やラタノプロスト点眼薬へのブリンゾラミド点眼薬の追加投与による眼圧下降効果が報告されている28).0.5%チモロール点眼薬にブリンゾラミド点眼薬を追加投与した原発開放隅角緑内障および高眼圧症118例では,3カ月間投与で眼圧がベースライン(24.125.5mmHg)から3.65.3mmHg(眼圧下降率14.122.0%)有意に下降した2).ラタノプロスト点眼薬へのブリンゾラミド点眼薬の追加投与の眼圧下降効果は,原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症に対して多数報告されている36).8週間投与(11例)でベースライン(20.6±2.9mmHg)から2.42.5mmHg(眼圧下降率11.612.1%)3),3カ月間投与(14例)でベースライン(21.1±4.8mmHg)から4.25.2mmHg(眼圧下降率19.924.6%)4),12週間投与(15例)でベースライン(17.8±1.7mmHg)から1.92.0mmHg(眼圧下降率10.711.2%)5),12カ月間投与(10例)でベースライン(19.8±5.3mmHg)から4.05.7mmHg(眼圧下降率18.223.0%)6)それぞれ有意に眼圧が下降した.一方,正常眼圧緑内障に対しては3カ月間投与(20例)で眼圧がベースライン(14.6±1.0mmHg)から1.6mmHg(眼圧下降率10.1%)7)有意に下降した.ラタノプロスト点眼薬あるいはb遮断点眼薬に6カ月間投与(18例)で眼圧がベースライン(16.3±2.5mmHg)から0.91.4mmHg(眼圧下降率5.58.6%)有意に下降した8).今回の12カ月間の追加投与の眼圧下降幅と眼圧下降率は,全症例(22例)では2.2mmHgと12.0%,原発開放隅角緑内障(狭義)症例(9例)では3.1mmHgと16.6%,正常眼圧緑内障症例(13例)では1.5mmHgと9.5%で,過去の報告38)とほぼ同等であった.ラタノプロスト点眼薬へのブリンゾラミド点眼薬の追加投与による視野の変化についての報告は過去になく,今回の12カ月間投与においては視野が悪化した症例はなかった.しかし,視野に関してはさらに長期的に評価する必要があり,今後も経過観察を続ける予定である.ラタノプロスト点眼薬への追加投与によるブリンゾラミド点眼薬の副作用は,12週間投与では,角膜上皮障害1例(6.3%),顔面紅潮1例(6.3%)で,顔面紅潮症例が投与中止になった5).3カ月間投与では,角膜上皮障害2例(14.3%),結膜充血2例(14.3%),眼脂増加1例(7.1%)で,投与中止となった症例はなかった4).12カ月間投与では,角膜上皮障害2例(11.8%),結膜充血1例(5.9%),頭痛1例(5.9%)で,結膜充血と頭痛の症例が投与中止になった6).0.5%チモロール点眼薬への追加投与では副作用が3カ月間投与で14.7%(17例/116例)出現した2).そのうち1%以上の症例で発現した副作用は,気分不快感2例(1.7%),霧視2例(1.7%),味覚倒錯3例(2.6%)であった.報告により副作用発現の頻度は違うが,これは副作用をどのように定義するかによっても異なるためと思われる.今回は,過去の報告2,4,5)と同様あるいはそれ以上の20.8%に副作用が出現したが,重大な副作用は認められず,ブリンゾラミド点眼薬は比較的安全に使用できると考えられる.ブリンゾラミド点眼薬は,原発開放隅角緑内障(広義)症例に対して,ラタノプロスト点眼薬に12カ月間追加投与した際に強力な眼圧下降作用を示し,視野が悪化した症例はなく,安全性においても重大な副作用を認めなかった.ラタノプロスト点眼薬につぐ緑内障治療薬の第二選択薬として期待できる薬剤である.文献1)DeSantisL:Preclinicaloverviewofbrinzolamide.SurvOphthalmol44(Suppl2):S119-S129,20002)MichaudJ-E,FrirenB,TheInternationalBrinzolamideAdjunctiveStudyGroup:Comparisonoftopicalbrinzol-amide1%anddorzolamide2%eyedropsgiventwicedailyinadditiontotimolol0.5%inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOph-thalmol132:235-243,20013)廣岡一行,馬場哲也,竹中宏和ほか:開放隅角緑内障におけるラタノプロストへのチモロールあるいはブリンゾラミド追加による眼圧下降効果.あたらしい眼科22:809-811,20054)ShojiN,OgataH,SuyamaHetal:Intraocularpressurelowingeectofbrinzolamide1.0%asadjunctivetherapytolatanoprost0.005%inpatientswithopenangleglauco-MD値(dB)追加投与前6カ月後12カ月後0.0-2.0-4.0-6.0-8.0-10.0-12.0-14.0-16.0-18.0-20.0図2全症例でのブリンゾラミド追加投与前後のmeandeviation値(ANOVA)———————————————————————-Page41576あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(106)maorocularhypertension:anuncontrolled,open-labelstudy.CurrMedResOpin21:503-508,20055)MiuraK,ItoK,OkawaCetal:Comparisonofocularhypotensiveeectandsafetyofbrinzolamideandtimololaddedtolatanoprost.JGlaucoma17:233-237,20086)緒方博子,庄司信行,陶山秀夫ほか:ラタノプロスト単剤使用例へのブリンゾラミド追加による1年間の眼圧下降効果.あたらしい眼科23:1369-1371,20067)江見和雄:正常眼圧緑内障に対するラタノプロストとブリンゾラミド併用効果.あたらしい眼科24:1085-1089,20078)新田進人,湯川英一,森下仁子ほか:正常眼圧緑内障に対する1%ブリンゾラミド点眼液と1%ドルゾラミド点眼液の眼圧下降効果.臨眼60:193-196,2006***