《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(7):1049〜1052,2016©ブリモニジンの処方パターンと眼圧下降効果砂川広海*1井上賢治*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院PrescribingPatternandEfficacyonIntraocularPressureofBrimonidineHiromiSunagawa1),KenjiInoue1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ブリモニジン点眼薬が処方された患者の背景や眼圧下降効果の検討.対象および方法:新規にブリモニジン点眼薬を投与した緑内障および高眼圧症患者237例237眼を対象とした.ブリモニジン点眼薬を追加した症例(追加群),1剤をブリモニジン点眼薬に変更した症例(変更群),変更と追加あるいは2剤の追加を行った症例(変更追加群)に分けた.3群間で,年齢・投与前眼圧・投与前薬剤数・投与理由,および投与6カ月間の眼圧下降効果を比較検討した.結果:緑内障病型は原発開放隅角緑内障が最多だった.投与前眼圧は変更追加群が有意に高値だった.投与前薬剤数は3群で差がなく,全症例では平均2.3剤だった.投与理由は,3群とも眼圧下降効果不十分が最多だった.3群とも投与後に有意に眼圧が下降した.結論:ブリモニジン点眼薬は多剤併用の眼圧下降効果不十分な原発開放隅角緑内障に追加投与されることが多い.その眼圧下降効果は良好である.Purpose:Toinvestigatetheefficacyofbrimonidineandpatientbackground.Subjectsandmethod:Thesubjects,237open-angleglaucomaorocularhypertensionpatientsnewlyreceivingbrimonidine,wereclassifiedintothefollowingthreegroups:addbrimonidine(Addgroup);discontinueotherdrugandaddbrimonidine(Switchgroup);switchandaddordiscontinuetwodrugs(Addandswitchgroup).Weinvestigatedage,intraocularpressure(IOP),numberofprescribeddrugsbeforeadministrationandreasonforbrimonidineadministrationamongthethreegroups.Caseswerefollowedupfor6months.Results:Therewasnodifferenceinageornumberofdrugsamongthethreegroups.IOPbeforeadministrationinAddandswitchgroupwassignificantlyhigh.Themeannumberofdrugsbeforeadministrationinallgroupswas2.3.ThemainreasonforadministrationwasinsufficientIOP-decreasingefficacyinallgroups.Inallgroups,IOPdecreasewassignificant.Conclusion:BrimonidinewasoftenusedasadjunctivetherapyforPOAGpatientswithmultiplemedications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(7):1049〜1052,2016〕Keywords:プリモジン,眼圧,追加,変更.brimonidine,intraocularpressure,add,switch.はじめにブリモニジン酒石酸塩点眼薬(以下,ブリモニジン点眼薬)は交感神経a2受容体作動薬で,眼圧下降機序として,房水産生抑制とぶどう膜強膜流出路を介した房水流出促進の両者を併せもっている1,2).わが国では2012年5月から使用可能となった.従来からの抗緑内障点眼薬と作用機序が異なることから,他剤との併用効果が期待されている.これまで,プロスタグランジン関連点眼薬単剤投与例や多剤併用例に,ブリモニジン点眼薬を追加した報告が行われてきた3〜8).しかし,ブリモニジン点眼薬がどのような症例に使用されているかを調査した報告はない.今回,ブリモニジン点眼薬が処方された症例の患者背景やその眼圧下降効果を後ろ向きに検討した.I対象および方法2014年4〜9月に井上眼科病院に通院中の緑内障および高眼圧症患者で,新規にブリモニジン点眼薬が投与された237例237眼を対象とした.男性101例,女性136例,年齢は65.6±13.9歳(平均値±標準偏差),21〜91歳だった.井上眼科病院勤務の眼科医13名が処方した.緑内障病型は原発開放隅角緑内障188例(80%),続発緑内障41例(17%),高眼圧症5例(2%),原発閉塞隅角緑内障3例(1%)だった.ブリモニジン点眼薬を追加した症例を追加群,1剤を中止しブリモニジン点眼薬に変更した症例を変更群,変更と追加あるいは2剤の追加を行った症例を変更追加群とした.年齢,投与前眼圧,投与前薬剤数,投与理由を3群間で比較し,さらに投与3カ月後,投与6カ月後の眼圧を投与前後で比較した.配合点眼薬は2剤として集計した.各群で,投与前,投与6カ月後までの脱落例を調査した.両眼該当例では右眼を解析に用いた.統計学的検討は3群間の年齢,投与前薬剤数,投与前眼圧の比較にはKruskal-Wallis検定,投与理由の比較にはc2検定,投与前後の眼圧の比較にはBonferroni/Dunn検定を用いた.有意水準はいずれもp<0.05とした.II結果各群の症例数は追加群159例(67%),変更群50例(21%),変更追加群28例(12%)だった.年齢は平均65.6歳,投与前薬剤数は平均2.3剤であった.年齢,投与前薬剤数は3群間に差がなかった.投与前眼圧は変更追加群が追加群,変更群に比べて有意に高値だった(p<0.01)(表1).追加群におけるブリモニジン点眼薬投与前の薬剤数は,3剤が67例と最多で全体の42%を占めていた(表2).変更群において,ブリモニジン点眼薬に変更した点眼薬は,配合点眼薬16例(トラボプロスト/チモロール配合点眼薬14例,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬1例,ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬1例),炭酸脱水酵素阻害点眼薬14例(ブリンゾラミド9例,ドルゾラミド5例),b遮断点眼薬11例(持続性カルテオロール6例,イオン応答ゲル化チモロール4例,カルテオロール1例),プロスタグランジン関連点眼薬8例(イソプロピルウノプロストン2例,タフルプロスト2例,ラタノプロスト2例,トラボプロスト1例,ビマトプロスト1例),非選択制交感神経刺激点眼薬1例(ジピベフリン1例)だった(表3).ブリモニジン点眼薬の投与理由は,3群とも眼圧下降効果不十分が最多で,次に多かったのは追加群,追加変更群では視野障害進行が多く,変更群で副作用出現が多かった(表4).追加群の眼圧は,投与前18.2±5.0mmHg,投与3カ月後15.2±3.7mmHg,投与6カ月後15.6±3.7mmHgだった(図1).投与前と比較して,投与3カ月と6カ月後に眼圧が有意に下降した(p<0.0001).変更群の眼圧は,投与前眼圧16.3±4.1mmHg,投与3カ月後15.2±4.2mmHg,投与6カ月後15.9±4.1mmHgだった(図2).投与前と比較して,投与3カ月後に眼圧が有意に下降した(p<0.0001).変更追加群の眼圧は,投与前眼圧24.3±11.6mmHg,投与3カ月後17.8±9.3mmHg,投与6カ月後17.1±6.6mmHgだった(図3).投与前と比較して,投与3カ月と6カ月後に眼圧が有意に下降した(p<0.0001).脱落例は27例(11.4%)だった.副作用出現が10例で,その内訳は,追加群でめまい4例,充血1例,変更群で搔痒感(アレルギー性結膜炎)2例,めまい1例,傾眠1例,変更追加群で霧視1例だった.副作用出現以外の脱落例は,来院中断3例,転医4例,対象期間内に白内障手術施行した1例,眼圧が下がらず途中で薬剤変更を行った9例(追加群7例,変更群2例)だった.III考按今回ブリモニジン点眼薬の処方パターンを後ろ向きに調査した.投与前薬剤数は平均2.3剤だったが,投与前薬剤数が2剤以上の症例が125例(79%),0剤や1例の症例も34例(21%)存在した.過去の多剤併用例にブリモニジン点眼薬を追加した報告6〜8)では投与前薬剤数は2.7〜3.0剤と今回よりも多かった.ブリモニジン点眼薬の投与理由は,3群とも眼圧下降効果不十分がもっとも多く,次に多かったのは追加群,追加変更群では視野障害進行,変更群では副作用出現であった.治療中に副作用が出現した際には,点眼薬の変更を行わざるをえないためと思われた.原発開放隅角緑内障における多剤併用療法に対するブリモニジン点眼薬追加投与による眼圧下降率は,Schwartzenbergら6)が7カ月間投与で16.7%,俣木ら7)が3カ月間投与で13.1%,森山ら8)が6カ月間投与で8.2%と報告している.今回の眼圧下降率は,追加群において投与3カ月後で14.4±17.6%,6カ月後で11.8±17.3%と過去の報告6〜8)と同様だった.対象症例のうち3剤以上使用していた症例が50%と半数を占め,多剤併用中の症例においても,ブリモニジン点眼薬の投与は眼圧下降効果が期待できる.林らはブリンゾラミド点眼薬をブリモニジン点眼薬へと変更した症例で,変更6カ月後の眼圧下降幅は2.3±3.0mmHgと報告した9).今回の変更例(50例)の眼圧下降幅は変更3カ月後1.2±2.0mmHg,変更6カ月後0.4±2.9mmHgだった.変更群では,追加群,変更追加群と比較し眼圧下降効果が低く,ブリモニジン点眼薬は変更投与するよりも,追加投与することでより眼圧下降が得られると思われた.ブリモニジン点眼薬の特徴的な副作用としては,アレルギー性結膜炎,めまい,傾眠などが報告されている3〜9).今回出現した副作用は,充血,めまい,搔痒感(アレルギー性結膜炎),傾眠,霧視で,これらは過去の報告3〜9)と同様だった.過去の,多剤併用療法へのブリモニジン点眼薬追加投与症例における副作用発現頻度は5.2%6),7.5%8),16.7%7)と報告されている.今回の副作用発現頻度は4.2%とやや低値だった.今回は後ろ向き調査のため,軽度の副作用が診療録に記載されていない可能性も考えられる.IV結論ブリモニジン点眼薬は多剤併用の眼圧下降効果不十分な原発開放隅角緑内障に追加投与されることが多い.多剤併用症例においても,追加投与や変更により,さらなる眼圧下降効果が期待できる.文献1)和田智之,BurkeJA,WheelerLA:ブリモニジン酒石酸塩点眼液(アイファガン点眼液0.1%)の特徴.医学と薬学67:547-555,20122)川瀬和秀:交感神経a1遮断薬,交感神経刺激薬,副交感神経作動薬.あたらしい眼科29:487-491,20123)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,20124)林泰博,林福子:プロスタグランジン関連薬へのブリモニジン点眼液追加後1年間における有効性と安全性.臨眼69:499-503,20155)山本智恵子,井上賢治,富田剛司:ブリモニジン酒石酸塩点眼薬のプロスタグランジン関連点眼薬への追加効果.あたらしい眼科31:899-902,20146)SchwartzenbergGWS,BuysYM:Efficacyofbrimonidine0.2%asadjunctivetherapyforpatientswithglaucomainadequatelycontrolledwithotherwisemaximalmedicaltherapy.Ophthalmology106:1616-1620,19997)俣木直美,齋藤瞳,岩瀬愛子:ブリモニジン点眼液の追加による眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科31:1063-1066,20148)森山侑子,田辺晶代,中山奈緒美ほか:多剤併用中の原発開放隅角緑内障に対するブリモニジン酒石酸塩点眼液追加投与の短期成績.臨眼68:1749-1753,20149)林泰博,林福子:ブリンゾラミド点眼よりブリモニジン点眼への変更後6カ月間における有効性と安全性.臨眼68:1307-1311,2014表1追加群,変更群,変更追加群の患者背景全症例追加群変更群変更追加群p値症例数2371595028─年齢(歳)65.6±13.965.0±14.667.0±12.666.5±12.60.7258投与前薬剤数2.3±1.02.3±1.02.4±1.02.0±1.30.5738投与前眼圧(mmHg)18.5±6.418.2±5.016.3±4.124.3±11.6*<0.01(Kruskal-Wallis検定)**表2追加群の投与前薬剤数(n=159)0剤5例(3%)1剤29例(18%)2剤46例(29%)3剤67例(42%)4剤10例(7%)5剤2例(1%)表3変更群の変更した点眼薬(n=50)配合点眼薬16例(32%)炭酸脱水酵素阻害点眼薬14例(28%)b遮断点眼薬11例(22%)PG関連点眼薬8例(16%)非選択性交感神経刺激薬1例(2%)表4投与理由追加群(n=159)変更群(n=50)変更追加群(n=28)眼圧下降効果不十分116例(73%)31例(62%)17例(61%)視野障害進行43例(27%)2例(4%)7例(25%)副作用出現0例(0%)17例(34%)4例(14%)図1追加群の眼圧図2変更群の眼圧図3変更追加群の眼圧〔別刷請求先〕砂川広海:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:HiromiSunagawa,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(123)10491050あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(124)(125)あたらしい眼科Vol.33,No.7,201610511052あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(126)