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プロスラグランジン関連薬投与有無別Trabeculotomy Ab Interno,白内障同時手術成績

2022年8月31日 水曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(8):1114.1118,2022cプロスラグランジン関連薬投与有無別TrabeculotomyAbInterno,白内障同時手術成績市岡伊久子市岡博市岡眼科CComparingtheResultsofTrabeculotomyAbInternoCombinedwithCataractSurgerywithorwithoutPreoperativeProstaglandinGlaucomaMedicationIkukoIchiokaandHiroshiIchiokaCIchiokaeyeclinicC目的:術前プロスタグランジン関連薬(以下,PG)点眼がCtrabeculotomyabinternoの術後成績に影響するか否かを後ろ向きに調査した.対象および方法:Trabeculotomyabinterno+白内障手術を施行しC1年以上経過観察した患者のうち,術前にCPGを使用していないC26人C26眼をCPG(.)群,術前にCPGを使用していたC67人C67眼をCPG(+)群として,点眼前,術前眼圧,Humphrey視野CMD値,術C1年後眼圧,生存率(点眼再開なくC15CmmHg未満を生存とする)につき調査した.結果:眼圧は術前,術後ともCPG(.)群,PG(+)群間に有意差を認めなかったが,術前→C1年後眼圧,下降眼圧(%)はCPG(.)群がC15.4±4.0C→C12.1±2.5,3.7±3.6(24%),PG(+)群がC14.3±2.6C→C12.0±2.6,C2.3±3.1(16%)とCPG(.)群の眼圧下降が大きく,6カ月目まで下降眼圧に有意差を認めた(p<0.05).術後C1年目までの点眼開始例はCPG(.)群はC0眼,PG(+)群C12眼に認めたが,生存率に有意差は認めなかった(p=0.072).結論:PG(.)群のほうがCPG(+)群に比し下降眼圧が大きく,PG(+)群に点眼薬再開例が多く,trabeculotomyCabCinterno+白内障手術は術前CPG点眼をしていない患者のほうが予後がよいと思われた.CPurpose:ToCretrospectivelyCcompareCintraocularpressure(IOP)loweringCe.cacyCinCeyesCthatCunderwenttrabeculotomy(LOT)abinternocombinedwithcataractsurgerywithorwithoutpreoperativeprostaglandin(PG)Cglaucomamedication.SubjectsandMethods:Thisretrospectivestudyinvolved93eyesof93patientsthatunder-wentLOTabinternocombinedwithcataractsurgerywithPGglaucomamedication[PG(+),67eyes]andwith-outCPGCglaucomamedication[PG(.),C26eyes]administeredCpriorCtoCsurgery.CInCallC93Ceyes,CweCreviewedCIOP(mean±SD)atbaselineandat1-yearpostoperative,aswellasthepercentagerateofglaucomamedicationadmin-isteredpostsurgery.Results:Nosigni.cantdi.erenceofpre-andpostoperativeIOPwasfoundbetweenthetwogroups.CAtC1-yearCpostoperative,CmeanCIOPCinCthePG(+)groupChadCdecreasedCfromC14.3±2.6CmmHgCtoC12.0±2.6CmmHg[i.e.,C2.3±3.1CmmHg(16%)],CwhileCthatCinCthePG(.)groupChadCdecreasedCfromC15.4±4.0CmmHgCtoC12.1±2.5mmHg[i.e.,3.7±3.6CmmHg(24%)].Asigni.cantdi.erenceofIOPdecreasewasfoundbetweenthetwogroupsupuntil6-monthspostoperative(p<0.05).InthePG(+)groupandPG(.)group,thepercentagerateofglaucomamedicationadministrationpostsurgerywas7%and0%,respectively(p=0.072).CConclusion:Postsur-gery,Csigni.cantCIOPCdecreaseCandCaClowerCpercentageCrateCofCglaucomaCmedicationsCusedCwasCobservedCinCbothCgroups,yetbetteroutcomeswerefoundinthePG(.)group.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(8):1114.1118,C2022〕Keywords:緑内障手術,線維柱帯切開術眼内法,眼圧,プロスタグランジン関連薬,線維柱帯切開術術後成績.Cglaucomasurgery,trabeculotomyabinterno,intraocularpressure,prostaglandinglaucomamedication,successrateoftrabeculotomy.C〔別刷請求先〕市岡伊久子:〒690-0003島根県松江市朝日町C476-7市岡眼科Reprintrequests:IkukoIchioka,M.D.,Ichiokaeyeclinic,476-7Asahi-machi,Matsue,Shimane690-0003,JAPANC1114(104)はじめに低侵襲眼圧下降手術,minimallyCinvasiveCglaucomaCsur-gery(MIGS)の一つとして線維柱帯切開術眼内法(trabecu-lotomyCabinterno.以下,LOTCabinterno)が白内障手術との同時手術として普及してきている.当院でも緑内障点眼薬投与中の白内障手術時には眼圧コントロール良好例であっても点眼薬を中止,減少させる目的でCLOTabinternoを同時に施行しているが,術前点眼内容により術後効果に差があると思われた.緑内障ガイドライン1)では開放隅角緑内障は目標眼圧を設定し単剤より眼圧下降薬を投与し,多剤投与にて眼圧コントロール不良,または視神経,視野所見の悪化を認めるときに手術を考慮するとされている.また,点眼薬についてはプロスタグランジン関連薬(以下,PG薬)がもっとも優れた眼圧下降効果,点眼回数より第一選択薬として使用されていると記載されている.LOTCabinterno手術時,PG薬使用期間が長い患者では線維柱帯切開術時の血液逆流が少ない印象がある.PG薬はぶどう膜強膜流出路である副流出路の流出を増加させる点眼薬2.3)だが,主経路に対してはむしろ流出低下をきたす可能性も考えられる4).主経路再建術であるCLOTabinternoがCPG薬投与により手術効果が低下するかどうかを調査した報告はない.今回当院でのCLOTCabinterno手術成績をCPG薬投与の有無別に後ろ向きに調査し,1年後までの成績を比較検討した.CI対象および方法対象は当院で2016年2月.2019年12月にLOTCabinternoと白内障手術を同時施行したC93人(男性C30人,女性C63人)で,平均年齢C75.4C±7.8歳である.術前にCPG薬を投与していたCPG(+)群C67眼とCPG薬を投与していないCPG(.)群C26眼に分けた(合計C93眼,右眼C52眼,左眼C41眼).両眼手術例は先に手術を施行した眼のデータのみ使用した.手術はすべて同一術者により施行された.眼内レンズ挿入後に上方切開創よりCShinskyフック(直)を挿入し,SwanJacobゴニオプリズムを用い下方約90°の線維柱帯を切開した.術前,術後C1.3,6,12カ月後の眼圧と眼圧下降薬数,術後合併症,再手術の有無を後ろ向きに調査した.また,点眼薬投与前のベースライン眼圧,初診時と術前のCHum-phrey視野Cmeandeviation(MD)値についても調査した.術前術後の眼圧をCFriedman検定を用い評価,術後C1年間の眼圧下降幅を群別に比較検討(Mann-WhitneyU検定),PG(.)群の術前点眼薬別についても調査,検討した(Kruskal-Wallis検定).術後の投薬は全例いったん眼圧下降薬をすべて中止し,眼圧がC15CmmHgを超えた時点,または光干渉断層計(OCT)や静的視野検査で明らかな進行を認めた時点で点眼薬を再投与,追加しており,術前CPG薬の有無別に術後点眼薬を開始した場合を死亡と定義し,Kapran-Meierの生存曲線およびCLogranktestを用い評価した.調査については島根県医師会倫理審査委員会の承認を得た.CII結果PG(C.)群は緑内障点眼薬投与なしC6眼,イソプロピルウノプロストンC13眼,Cb遮断薬7眼の計26眼でCPG(+)群は全例プロスタグランジンCF2Ca誘導体(PG)薬C1剤使用例67眼である.PG(C.)群とCPG(+)群の年齢,初診時と術前のCHumphrey視野CMD,点眼前眼圧,術前眼圧を表1に示す.年齢,初診時CMD,術前CMD値に両群で有意差はなく,点眼前ベースライン眼圧(mmHg)はCPG(C.)群C17.4C±4.6,PG(+)群C18.0C±3.2とCPG(+)群が高く,術前眼圧(mmHg)はCPG(C.)群C15.4C±4.0,PG(+)群C14.3C±2.6とPG(C.)群のほうが高めだが,点眼前眼圧,術前眼圧ともに2群に有意差は認めなかった(Mann-WhitneyU検定).術後1年の眼圧はPG(C.)群C12.1C±2.5,PG(+)群C12.0C±2.6,計C12.0C±2.6CmmHgで両群とも術後C1カ月からC1年目まで術前とは有意な眼圧低下を認めた(p<0.01,Friedman検定).術後C1.6カ月までCPG(C.)群の平均眼圧がCPG(+)群よりやや低かったが両群の眼圧に有意差はなかった(図1).平均下降眼圧はCPG(+)群に比しCPG(C.)群で大きく,術後C6カ月間は下降眼圧に有意差を認めた(1,2カ月Cp<0.01,3,6カ月p<0.05,Mann-WhitneyU検定)(図2).表1PG(.)群とPG(+)群の背景年齢(歳)初診時CMDHumphrey視野術前CMDHumphrey視野点眼前眼圧(mmHg)術前眼圧(mmHg)PG(C.)群(2C6眼)C72.7±7.8(49.82)C.3.2±4.9(.14.4.+1.5)C.4.8±5.2(.17.6.+1.2)C17.4±4.6(8.26)C15.4±4.0(9.26)PG(+)群(6C7眼)C76.5±7.6(59.91)C.2.7±3.2(.11.5.+3.5)C.4.9±4.5(.20.4.+0.5)C18.0±3.2(11.24)C14.3±2.6(9.20)CMann-WhitneyU検定Cp=0.98Cp=0.57Cp=0.20Cp=0.95Cp=0.21年齢,初診時,術前CMD,点眼前眼圧,術前眼圧すべてで両群間に有意差を認めなかった.(Mann-WhitneyU検定)(105)あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C1115p<0.01(Friedman検定)図1PG薬有無別点眼前,術前,術後の眼圧経過両群とも術後C1カ月からC1年目まで術前とは有意な眼圧低下を認めた(p<0.01,Friedman検定).**:p<0.01(Mann-WhitneyU検定)*:p<0.05(Mann-WhitneyU検定)図2PG点眼薬有無別の眼圧経過平均下降眼圧幅はCPG(+)群に比しCPG(C.)群で大きく,術後C6カ月目まで平均下降眼圧に有意差を認めた.(1,2カ月p<0.01,3,6カ月p<0.05,Mann-WhitneyU検定)1年後の平均下降眼圧はCPG(C.)群がC3.7C±3.6,PG(+)群がC2.3C±3.1,計C2.7C±3.3CmmHgとCPG(C.)群はC24%,PG(+)群はC16%,全体でC18%の眼圧下降率であった.なお,PG(C.)群の内訳別C1年後下降眼圧は術前降眼圧薬なし(6眼)4.2C±5.0CmmHg,イソプロピルウノプロストン±7.遮断薬(6眼)3Cb1.9mmHg,C±(11眼)3.65.0mmHgでC術前点眼薬を使用していない例で下降眼圧が大きいが症例数が少なく,内訳別の下降眼圧に有意差は認めなかった(Krus-kal-Wallis検定).点眼薬は術前平均C0.96剤が術C1年後C0.1剤となり,1年後にCPG(C.)群では点眼薬を再投与した例はなく,PG(+)群ではC8眼にC1剤,4眼にC2剤再投与していた.生存率分析では点眼薬投与していない生存率はCPG(C.)群C100%,PG(+)群C93%でありCLogrank検定でCp=0.072で有意差は認めなかった(図3).術後合併症は術後C20CmmHg以上の一過性眼圧上昇をCPG(C.)群ではC26眼中C1眼,PG(+)群ではC67眼中C7眼に認め,術後早期の前房洗浄施行例がCPG(+)群にC1眼あった.両群とも他の合併症や追加緑内障手術が必要になった例はなかった.CIII考按LOTCabinternoはC2017年にCTanitoらが眼内から施行する,MIGSとして報告した方法で,白内障手術との同時手術成績で眼圧がC16.4C→C11.8CmmHg(28%),投薬数C2.4C→C2.1剤と報告した5).近年白内障手術との同時手術として一般的になってきていると思われる.今回の手術成績は術後C1年で2.7CmmHg,18%の眼圧下降,0.96C→C0.1剤への投薬減少と既報5,6)と遜色のない効果を得ていた.今回,後ろ向き調査のため術前CPG薬の有無はランダムに点眼薬を振り分けているわけではないがCPG薬非投与群は初回点眼薬選択の際あえてCPG薬を避けイソプロピルウノプロストン,Cb遮断薬(カルテオロール)を意図的に処方していた例である.また,術前点眼薬を投与していない症例は白内障による視力低下を初診時より認めた緑内障例で,点眼薬を開始せず早期に同時手術を施行した例である.PG(C.)群C26眼,PG(+)群C67眼と症例数に差があるが,初診時眼圧,初診時CHumphrey視野CMD値,術前眼圧,術前CMD値はC2群に有意差は認めなかった.中等度進行例も含まれるがおもにC1剤点眼投与症例で軽度から中等度の緑内障であり,LOTabinternoのよい適応例と思われる.術後は両群とも術前に比し有意な眼圧下降を認めた.1年後下降眼圧はCPG(C.)群がC3.7C±3.6CmmHg(24%),PG(+)群がC2.3±3.1CmmHg(16%)とCPG(C.)群に良好な眼圧下降を認めた.1年間の術後眼圧は両群に有意差を認めず,PG(C.)群の眼圧下降効果はCPG(+)群のPG薬+LOTCabCinterno効果に相当すると思われた.しかし,1年間に眼圧がC15mmHg未満で点眼薬を再開しなかった生存率がCPG(C.)群100%,PG(+)群C93%で,症例数の違いもありCp=0.072と有意差を認めなかったが,PG(C.)群のほうが術後のコントロールが良好だと思われた.術前点眼薬別の術後一過性眼圧上昇,前房出血については線維柱帯切開術の特徴として一定の割合できたす可能性があるが,両群とも追加緑内障手術が必要になった例はなかった.今回降眼圧薬を投与していなかったC6眼は平均C4.2CmmHgともっとも良好な眼圧降下を得た.PG(C.)群中では点眼薬投与なし,Cb遮断薬,イソプロピルウノプロストン順に眼圧下降を認めたが,症例数の違いもあり有意差は認めなかった.イソプロピルウノプロストンはCPG関連薬ではあるが,イオンチャンネル開口薬で緑内障患者の主経路からの房水流出の促進効果があるとされている.Cb遮断薬点眼例も術後下降眼圧が大きく,PG薬以外の点眼薬は眼圧下降効果が少ないため,手術効果が高かった可能性がある.TanitoらもCLOTabinterno効果は術前眼圧が高い群で下降率が高いことを報告6)しており,PG薬投与群のほうが術前眼圧が低いことが効果が劣る一因と思われた.筆者らは以前,術前点眼薬別に術後眼圧を調査しており,点眼薬数が多いほど術後眼圧が高い傾向があり,点眼薬を使1.00.80.60.40.20.0TimeNumberatriskPG(-)25242424232323PG(+)67666161555555p=0.072(Logrank検定)図3PG薬有無別生存率PG(C.)群では点眼薬を再開した例はなく,眼圧C15CmmHgで点眼薬を再開した例を死亡とすると生存率はCPG(C.)群C100%,PG(+)群はC3%であったが,両群に有意差は認めなかった.(p=0.072,Logrank検定)用していなかった例では,点眼薬C1剤,2剤使用例と下降眼圧に有意差を認めることを報告した7).今回の結果では,点眼薬C1剤使用例でもCPG(C.)群は(+)群に比し下降眼圧が有意に大きいだけではなく,術後C1年間の点眼薬開始も抑えられていた.線維柱帯を経由する房水排出は圧依存性でコントロールされていることが知られている8).PG薬は緑内障ガイドラインからも第一選択薬とされており,もっとも良好な眼圧下降効果が得られる薬剤であるが,奏効機序はぶどう膜強膜流出促進である2,3).TrueGabeltBAらはサルの実験でCPG薬使用によりぶどう膜強膜流出が増加し眼圧が下降するが線維柱帯を経由する房水流出量はコントロールに比し1/3程度に減少すると報告している4).緑内障の原因として傍CSchlemm管結合組織での細胞外マトリクス蓄積,線維柱帯細胞の虚脱,Schlemm管の狭小化などが多数報告されており8.10),このような変化は徐々に悪化すると思われる.また,Grieshaberらは線維柱帯以降の流出路の機能の悪化がcanaloplastyの効果に影響すると報告11),Hannらは開放隅角緑内障ではCSchlemm管と集合管に狭小化を認めることを報告12)している.Johnsonらは濾過手術後にCSchlemm管狭窄がみられることを報告し,房水が線維柱帯,Schlemm管を迂回し濾過胞に流出することで傍CSchlemm管結合組織,集合管への細胞外マトリックスの異常沈着が起きることを報告している13).PG薬も主流出路の流出量が減少し,同様の変化をきたしている可能性が考えられる.また,プロスタグランジンCFC2aはCFP受容体に作用し肺線維症の原因となるProbability024681012という報告14)もあり,PG薬投与による主経路に対する長期の組織変化については不明だが,線維柱帯の流出障害の一因となっている可能性も考えられる.2019年,Gazzardらは選択的レーザー線維柱帯形成術(selectiveClaserCtrabeculo-plasty:SLT)と点眼治療を比較し,治療後C3年でCSLT群74.2%は点眼追加なしで目標眼圧を達成し,SLT群(93%)は点眼薬群(91.3%)より多い症例で目標眼圧を達成,緑内障追加手術が必要であった例はCSLT群C0例に対し点眼薬群11例だったと報告している15).房水流出主経路の治療として早期治療がより良好な結果を得られるという点では今回のLOTabinternoの手術結果と類似している.以前より線維柱帯切開術は外側切開で施行されており,術前眼圧はC20CmmHg以上の例に施行することが多く,術後眼圧はC12.16CmmHgの報告が多いが,線維柱帯,Schlemm管,また集合管.上強膜静脈までの流出路機能障害の程度によって結果が左右されると思われる.PG薬は眼圧下降作用が強く緑内障治療として必要不可欠な薬ではあるが,白内障合併例などでは房水流出主経路の機能低下が悪化する前に早期のCLotCabinternoも選択に入れると良好な効果が得られる可能性があると思われた.今回CPG薬使用有無の両群の症例数に差があり,前向き試験ではないため点眼薬選択基準もランダムではない可能性があった.また,点眼薬投与せずに手術した症例も少なく,経過観察期間がC1年と短いため,PG点眼薬の有無や点眼薬投与なしでの手術効果の検証をするには症例数を増やし調査,検討する必要があると思われた.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C20182)CrawfordCK,CKaufmanPL:PilocarpineCantagonizesCpros-taglandinCF2Calpha-inducedCocularChypotensionCinCmon-keys.Evidenceforenhancementofuveoscleralout.owbyprostaglandinCF2Calpha.CArchCOphthalmolC105:1112-1116,C19873)NilssonSFE,SamuelssonM,BillAetal:Increaseduveo-scleralout.owasapossiblemechanismofocularhypoten-sionCcausedCbyCprostaglandinCF2Calpha-1-isopropylesterCinCtheCcynomolgusCmonkey.CExpCEyeCResC48:707-716,C1989C4)TrueCGabeltCBA,CKaufmanPL:ProstaglandinCF2aincreasesCuveoscleralCout.owCinCtheCcynomolgusCmonkey.CExpEyeResC49:389-402,C19895)TanitoCM,CIkedaCY,CFujiharaE:E.ectivenessCandCsafetyCofCcombinedCcataractCsurgeryCandCmicrohookCabCinternotrabeculotomyinJapaneseeyeswithglaucoma:reportofaninitialcaseseries.JpnJOphthalmolC61:457-464,C20176)TanitoCM,CSugiharaCK,CTsutsuiCACetal:E.ectsCofCpreop-erativeCintraocularCpressureClevelConCsurgicalCresultsCofCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomy.CJCClinCMedC10:C3327,C20217)市岡伊久子,市岡博:TrabeculotomyCAbInterno,白内障同時手術の術後C1年の成績,術前術後の点眼数の変化より.あたらしい眼科38:1085-1089,C20218)StamerWD,AcottTS:Currentunderstandingofconven-tionalCout.owCdysfunctionCinCglaucoma.CCurrCOpinCOph-thalmolC23:135-143,C20129)VecinoE,GaldosM,BayonAetal:Elevatedintraocularpressureinducesultrastructuralchangesinthetrabecularmeshwork.CJCCytolCHistolCS3,doi:10,C4172/2157-7099,C201510)YanX,LiM,ChenZetal:Schlemm’scanalandtrabecuC-larCmeshworkCinCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglauco-ma:ACcomparativeCstudyCusingChigh-frequencyCultra-soundbiomicroscopy.PLoSOneC11:e0145824,C201611)GrieshaberMC,PienaarA,OlivierJetal:Clinicalevalua-tionoftheaqueousout.owsysteminprimaryopen-angleglaucomaforcanaloplasty.InvestOphthalmolVisSciC51:C1498-1504,C201012)HannCCH,CVercnockeCAJ,CBentleyCMDCetal:AnatomicCchangesinSchlemm’scanalandcollectorchannelsinnor-malCandCprimaryCopen-angleCglaucomaCeyesCusingClowCandChighCperfusionCpressures.CInvestCOphthalmolCVisCSciC55:5834-5841,C201413)JohnsonCDH,CMatsumotoY:SchlemmC’sCcanalCbecomesCsmallerCafterCsuccessfulC.ltrationCsurgery.CArchCOphthal-molC118:1251-1256,C200014)OgaCT,CMatsuokaCT,CYaoCCCetal:ProstaglandinCF2areceptorCsignalingCfacilitatesCbleomycin-inducedCpulmo-naryC.brosisCindependentlyCofCtransformingCgrowthCfac-tor-b.NatMedC15:1426-1430,C200915)GazzardG,KonstantakopoulouE,Garway-HeathDetal:CSelectivelasertrabeculoplastyversuseyedropsfor.rst-lineCtreatmentCofCocularChypertensionCandCglaucoma(LiGHT):amulticentrerandomisedcontrolledtrial.Lan-cetC393:1505-1516,C2019***

0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液追加投与後の眼圧下降効果と副作用

2016年5月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科33(5):729〜734,2016©0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液追加投与後の眼圧下降効果と副作用宮本純輔徳田直人三井一央宗正泰成北岡康史高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室Efficacyof0.1%BrimonidineTartrateOphthalmicSolutiononIntraocularPressureReductionandSideEffectJunsukeMiyamoto,NaotoTokuda,KazuhisaMitsui,YasunariMunemasa,YasushiKitaokaandHitoshiTakagiDepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicineプロスタグランジン(PG)関連薬使用中の患者に0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液(以下,ブリモニジン)を追加し,眼圧下降効果とその持続性について検討した.PG関連薬を含む抗緑内障点眼薬使用中の緑内障患者のうち,ブリモニジン追加後12カ月以上経過観察可能であった33例50眼(平均年齢61.1±17.4歳)に対して,ブリモニジン追加前後の眼圧と眼圧下降率の推移,ブリモニジン追加後の眼圧下降効果の維持について生存分析により検討した.ブリモニジン追加前眼圧16.0±4.0mmHgが追加後12カ月で14.6±3.2mmHgと有意な眼圧下降を認めた.眼圧下降率はブリモニジン追加後12カ月で平均8.7%であった.ブリモニジン追加後12カ月の累積生存率は,単剤群46.7%,2剤併用群55.0%,3剤併用群46.7%であった.PG関連薬使用中の症例に対するブリモニジン追加はさらなる眼圧下降効果が得られる.Weexaminedtheeffectof0.1%brimonidinetartrateophthalmicsolution(brimonidine)onintraocularpressure(IOP)reductioninpatientsusingprostaglandin(PG)analogs.ThepersistenceofIOPreductionwasalsoexamined.Thisstudyincluded33glaucomapatients(50eyes,meanage=61.1±17.4years)whowereusingaPGanalogoranotherophthalmicantiglaucomaagent.Allsubjectswerefollowedforatleast12monthsaftertheadditionofbrimonidinetotheirmedicationregimen.Usingsurvivalanalysis,weexaminedIOPchangewithbrimonidineuse,IOPreductionrateandIOPreductionmaintenancefollowingbrimonidineaddition.IOPbeforebrimonidineuse(16.0±4.0mmHg)wassignificantlyhigherthanafterbrimonidineuse(14.6±3.2mmHg).MeanIOPreductionratewas8.7%after12monthsofbrimonidineuse.TheseresultsdemonstratethataddingbrimonidinecanfurtherreduceIOPinglaucomapatientsalreadyusingPGanalogs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(5):729〜734,2016〕Keywords:緑内障,ブリモニジン,プロスタグランジン関連薬.glaucoma,brimonidine,prostaglandinanalogs.はじめにブリモニジン酒石酸塩点眼液(以下,ブリモニジン)はアドレナリンa2受容体作動薬であり,選択的にアドレナリンa2受容体を刺激することで房水産生の抑制とぶどう膜強膜流出路からの房水流出促進の2つの機序により眼圧下降効果を発揮する抗緑内障点眼薬である1,2).ブリモニジンの眼圧下降効果については交感神経b遮断薬(以下,b遮断薬)であるマレイン酸チモロール(以下,チモロール)と比較するとやや劣るものの,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬併用下におけるブリモニジンの追加投与は有意な眼圧下降を認めたと報告されている3).ブリモニジン単剤の有効性も示されてはいるものの4),これらの報告を含めて臨床におけるブリモニジンの使用方法を振り返ると,ブリモニジンは作用機序が異なる既存の抗緑内障点眼薬との併用が選択しやすい印象が強い5,6).また,ブリモニジンを点眼した群とチモロールを点眼した群とでは,眼圧下降効果は同程度であったものの,視野異常の進行速度はブリモニジンのほうが緩やかであったという報告もあり7),ブリモニジンは臨床における神経保護効果についても期待されている.これらの報告を参考に,聖マリアンナ医科大学(以下,当院)緑内障外来におけるブリモニジンの使用法は,使用中のPG関連薬が有効であると思われる患者に,さらなる眼圧下降効果を期待してブリモニジンを追加投与することが多くなっている.実際,これにより眼圧下降が得られることは多いが,慢性疾患である緑内障においては,その状態がいつまで持続できるかが大きな問題となる.そこで今回筆者らは,PG関連薬使用中の症例に対して,ブリモニジンの追加投与後の眼圧下降効果とその持続性,また副作用についても検討したので報告する.I対象および方法当院緑内障外来にて6カ月以上PG関連薬を含む抗緑内障点眼薬使用中の緑内障患者のうち,ブリモニジンを追加投与し,その後12カ月以上経過観察可能であった33例50眼(平均年齢61.1±17.4歳)を対象とした.対象の緑内障病型は,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)27眼,正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)14眼,原発閉塞隅角緑内障(primarycloserangleglaucoma:PACG)5眼,続発緑内障(secondaryglaucoma:SG)4眼であった.対象のブリモニジン追加前の抗緑内障点眼薬については,PG関連薬単独が15眼(以下,単独群),PG関連薬とb遮断薬の併用が20眼(以下,2剤併用群),PG関連薬とb遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)の併用が15眼(以下,3剤併用群)であった.なお,全症例のうち,8例13眼(26.0%)において緑内障配合点眼薬が使用されていた.2剤併用群にはラタノプロストとチモロールマレイン酸塩の配合点眼液(ザラカム®配合点眼液)が4例8眼,3剤併用群にはドルゾラミド塩酸塩とチモロールマレイン酸塩の配合点眼液(コソプト®配合点眼液)とPG関連薬の組み合わせが4例5眼存在した.ブリモニジン追加前後の眼圧と眼圧下降率の推移については,まず全症例で検討し,その後併用薬数別にも検討した.ブリモニジン追加後の眼圧下降効果の維持については,併用薬数別にKaplan-Meier生存分析法を用いて検討した.死亡の定義は,ブリモニジン追加後,ブリモニジン追加前眼圧を上回る時点が2回連続記録された時点,副作用などの理由でブリモニジンを中止した時点,緑内障手術を施行した時点とし,Logrank-testにより検定を行った.また,ブリモニジン追加後の副作用の出現頻度,種類についても検討した.II結果図1にブリモニジン追加前後の眼圧推移を示す.ブリモニジン追加前の眼圧は平均16.0±4.0mmHgであり,ブリモニジン追加後1カ月より,ブリモニジン追加後7カ月,8カ月の時点を除くすべての経過観察時点においてブリモニジン追加前よりも有意な眼圧下降を示した.図2にブリモニジン追加後の眼圧下降率の推移を示す.ブリモニジン追加後1カ月,2カ月の眼圧下降率はそれぞれ10.8±10.1%,12.3±16.6%であり,その後は10%未満で推移した.図3に併用薬数別のブリモニジン追加前後の眼圧推移を示す.ブリモニジン追加前の眼圧は,単剤群15.2±2.4mmHg,2剤併用群16.1±5.1mmHg,3剤併用群16.7±3.5mmHgであり,3群間に有意差を認めなかった(Dunn’stest).単剤群,2剤併用群ともにブリモニジン追加後2カ月まではブリモニジン追加前に比し有意な眼圧下降を維持したが,ブリモニジン追加後3カ月以降は有意差を認めず推移した.3剤併用群については,ブリモニジン追加後7カ月まではブリモニジン追加前に比し有意な眼圧下降を維持したが,ブリモニジン追加後8カ月以降は有意差を認めず推移した.図4に併用薬数別のブリモニジン追加後の眼圧下降率の推移を示す.単剤群,2剤併用群ではブリモニジン追加後2カ月までは眼圧下降率が10%以上であったが,それ以降は10%未満で推移した.3剤併用群では,ブリモニジン追加後7カ月までは眼圧下降率が10%以上で推移し,それ以降10%未満となった.図5に併用薬数別にブリモニジン追加後の眼圧下降の持続性を示す.ブリモニジン追加後12カ月の累積生存率は,単剤群で46.7%,2剤併用群で55.0%,3剤併用群で46.7%と3群間に有意差を認めなかった(Logranktestp=0.828).なお,各群の死亡理由については,単剤群では,ブリモニジン追加後にブリモニジン追加前眼圧を上回る時点が2回連続で記録された症例(以下,ブリモニジン効果不十分症例)が4例6眼,眼瞼炎が1例2眼,2剤併用群では,ブリモニジン効果不十分症例が3例4眼,選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)施行症例が1例1眼,観血的緑内障手術となった症例が1例2眼,眼瞼炎が1例2眼,3剤併用群では,ブリモニジン効果不十分症例が1例2眼,SLTが1例2眼,観血的緑内障手術が1例2眼,肉芽腫性ぶどう膜炎を伴う眼圧上昇をきたした症例が1例1例,幻覚が1例1眼であった.図6にブリモニジン追加後の副作用とその出現頻度について示す.経過観察期間中にブリモニジン追加投与後,50眼中13眼(26.0%)に副作用が認められた.副作用の詳細は,眼瞼炎が3例6眼(46.1%),結膜蒼白が3例5眼(38.5%),幻視が1例1眼(7.7%),肉芽腫性ぶどう膜炎を伴う眼圧上昇が1例1眼(7.7%)であった.眼瞼炎が認められた2例4眼は自覚症状が強かったためブリモニジンを中止した.結膜蒼白については患者側から否定的な意見がなかったため,すべての症例においてブリモニジンを継続することができた.幻視が認められた1例と肉芽腫性ぶどう膜炎を伴う眼圧上昇をきたした1例については,ともにブリモニジン中止後,改善傾向を認めた.III考察ブリモニジンがわが国で使用可能となったのは2012年と比較的まだ日が浅いため,緑内障診療ガイドライン8)にはその使用法については明示されていないが,過去の報告3~6)を参考にすると,ブリモニジンはPG製剤を第1選択薬とした場合の第2選択薬以降の併用薬として使用されていることが多いと考える.そこで今回,ブリモニジンを第2選択薬または第3選択薬,第4選択薬とした場合の効果とその持続性について検討した.今回,ブリモニジン追加後の眼圧下降効果は全症例でみた場合,追加後7カ月,8カ月の時点を除く12カ月まで有意な眼圧下降を示しており,ブリモニジン追加の有効性が示された.しかし,眼圧下降率でみるとおおむね10%以下で推移していた.ブリモニジン追加投与後の眼圧下降率については短期投与ではLeeら9)は17.9%,長期投与では新家ら4)は15.0%と報告している.今回の結果が既報と比べて低かった理由として,まずはブリモニジン追加投与前の眼圧が既報と比べ低値であったことが考えられる.対象のなかにNTGが14眼(28.0%)含まれており,それらの平均眼圧は13.6±2.2mmHgと他の病型群(POAG群:16.7±4.0mmHg,PACG群:17.1±5.4mmHg,SG群17.5±5.3mmHg)に比較して有意差は認めないものの低値であった(Kruskal-Wallistestp=0.058).また,ブリモニジン追加後の眼圧,および眼圧下降率に注目すると,どちらも標準偏差が比較的大きく,今回の検討についてはブリモニジンの効果が症例ごとに異なるという印象を受けた.これについても,対象の緑内障病型が多岐にわたっていたことが影響している可能性があり,今後ブリモニジンの追加効果について緑内障病型別に検討することも必要かと考える.つぎに,併用薬数別のブリモニジン追加前後の眼圧推移をみると,単剤群,2剤併用群よりも3剤併用群でより長期間有意な眼圧下降を示した.眼圧下降率でみても,3剤併用群のみブリモニジン追加後7カ月まで10%以上の眼圧下降が維持されていた.多剤併用時のブリモニジン追加投与についてはさまざまな報告があるが,わが国で使用されているブリモニジンに限ると,森山ら10)の報告があり,その有効性が指摘されている.今回の筆者らの結果も多剤併用時のブリモニジン追加投与の有効性が認められたが,この結果については3剤併用群が単剤群,2剤併用群と比較し有意差を認めないものの,ブリモニジン追加前眼圧が高かったことが影響している可能性も考えられる.しかし,3剤併用時に4剤目としてブリモニジンを追加することが有効であったことは,緑内障手術が積極的に行うことができない場合などにはブリモニジン追加が選択肢の一つとなる可能性を示唆していると考える.ブリモニジン追加後の持続性については,3群ともに約半数の症例がブリモニジン追加後12カ月間眼圧下降を維持できたことを示している.単剤群,2剤併用群に関しては,目標眼圧がクリアできない場合に抗緑内障点眼薬の変更,または追加がしやすいが,3剤併用群でブリモニジン追加後しばらくしてから眼圧コントロールが悪くなるような症例は,その後多くが緑内障手術を施行されていた.しかし,この結果は約半数の症例においてブリモニジン追加により緑内障手術が回避できたという解釈も可能であり,今後緑内障手術が必要な症例に対して追加してみる価値があるのではないかと考える.ブリモニジンの副作用としては結膜炎,眼瞼炎,点状表層角膜炎,充血,結膜蒼白,虹彩炎,眩暈,血圧低下,徐脈などがあるが,頻度としてはアレルギー性結膜炎が多いとされている4~6).今回の対象において副作用が発現した13眼中,アレルギー性と思われる眼瞼炎が6眼(46.1%),結膜蒼白5眼(38.5%)と比較的多く認められた.眼瞼炎が認められた症例のうち,自覚症状が強くブリモニジンが中止となった症例が2例4眼存在した.結膜蒼白については,患者側から否定的な意見がなかったため,すべての症例においてブリモニジンを継続することができた.ブリモニジン追加後に幻視を自覚した1例については,ブリモニジンと同じくアドレナリンa2受容体作動薬であるクロニジンは,血液脳関門を通過しやすいため中枢神経症状を生じやすいことが報告されている11).ブリモニジンについては血液脳関門を通りづらいとされているが,今回生じた幻視とブリモニジンとは何らかの関係があるかもしれないため,今後さらなる検討を要する.ブリモニジン追加3日後に肉芽腫性ぶどう膜を発症し眼圧上昇が認められた症例が1例あり,一時的に視力低下をきたしたため即座にブリモニジンを中止としリン酸ベタメタゾン点眼を使用した.その後,肉芽腫性ぶどう膜炎は速やかに消退し,眼圧もブリモニジン追加前の値に戻った.本症例はもともと基礎疾患として糖尿病があり,無硝子体眼であり,肉芽腫性ぶどう膜炎を発症しやすい状態であったかもしれないが,ブリモニジン追加後3日目に肉芽腫性ぶどう膜炎が生じたことや,ブリモニジン中止後肉芽腫性ぶどう膜炎が速やかに改善したこと,加えて過去にも同様の報告12)があることなどを考えると,今回の肉芽腫性ぶどう膜炎の発症にブリモニジンは何らかの関与をしているのではないかと思われる.今後ぶどう膜炎既往のある患者に対するブリモニジン追加投与は注意が必要であると考える.以上,ブリモニジンの追加後の眼圧下降効果とその持続性について検討した.今回の検討において,ブリモニジン追加による眼圧下降効果は認められ,とくに3剤併用群においても眼圧下降効果が認められる症例が存在することが示された.また,その効果は約半数の症例でブリモニジン追加後12カ月間持続した.これらの結果からブリモニジン追加投与の有効性は示されたが,症例によってはブリモニジン特有の副作用が生じることもあるため,それを理解したうえでブリモニジン追加投与は行うべきであると考える.また,今回の対象においては,症例ごとにブリモニジン追加による効果に差があったように思われ,今後は緑内障病型,ブリモニジン追加前の眼圧値などにも配慮して検討する必要があると考える.文献1)TorisCB,GleasonML,CamrasCBetal:Effectsofbrimonidineonaqueoushumordynamicsinhumaneyes.ArchOphthalmol113:1514-1517,19952)BurkeJ1,SchwartzM:Preclinicalevaluationofbrimonidine.SurvOphthalmol41(Suppl1):S9-S18,19963)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,20124)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした臨床第III相試験チモロールとの比較試験またはプロスタグランジン関連薬併用下におけるプラセボとの比較試験.日眼会誌116:955-966,20125)俣木直美,齋藤瞳,岩瀬愛子:ブリモニジン点眼液の追加による眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科31:1063-1066,20146)林泰博,林福子:プロスタグランジン関連薬へのブリモニジン点眼液追加後1年間における有効性と安全性.臨眼69:199-203,20157)KrupinT,LiebmannJM,GreenfieldDSetal:Arandomizedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisualfunction:resultsfromthelowpressureglaucomatreatmentstudy.AmJOphthalmol151:671-681,20118)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:5-46,20129)LeeDA,GornbeinJA:Effectivenessandsafetyofbrimonidineasadjunctivetherapyforpatientswithelevatedintraocularpressureinalarge,open-labelcommunitytrial.JGlaucoma10:220-226,200110)森山侑子,田辺晶代,中山奈緒美ほか:臨床報告多剤併用中の原発開放隅角緑内障に対するブリモニジン酒石酸塩点眼液追加投与の短期成績.臨眼68:1749-1753,201411)MarquardtR,PillunatLE,StodtmeisterR:Ocularhemodynamicsfollowinglocaladministrationofclonidine.KlinMonblAugenheilkd193:637-641,198812)BylesDB,FrithP,SalmonJF:Anterioruveitisasasideeffectoftopicalbrimonidine.AmJOphthalmol130:287-291,2000〔別刷請求先〕宮本純輔:〒216-8511川崎市宮前区菅生2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:JunsukeMiyamoto,DepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-kuKawasaki-shi216-8511,JAPAN図1ブリモニジン追加前後の眼圧推移眼圧はブリモニジン追加後1カ月より,追加後7カ月,8カ月の時点を除くすべての経過観察時点において,ブリモニジン追加前よりも有意な下降を示した.図2ブリモニジン追加後の眼圧下降率の推移ブリモニジン追加後1カ月,2カ月の眼圧下降率はそれぞれ10.8±10.1%,12.3±16.6%であり,その後は10%未満で推移した.図3ブリモニジン追加前後の眼圧推移(併用薬数別)単剤群,2剤併用群ともにブリモニジン追加後2カ月まではブリモニジン追加前に比し有意な眼圧下降を維持した.3剤併用群は,ブリモニジン追加後7カ月まではブリモニジン追加前に比し有意な眼圧下降を維持した.図4ブリモニジン追加後の眼圧下降率の推移(併用薬数別)単剤群,2剤併用群ではブリモニジン追加後2カ月までは眼圧下降率が10%以上であった.3剤併用群では,ブリモニジン追加後7カ月までは眼圧下降率が10%以上で推移した.図5ブリモニジン追加後の眼圧下降の持続性(併用薬数別)ブリモニジン追加後12カ月の累積生存率は,単剤群で46.7%,2剤併用群で55.0%,3剤併用群で46.7%であった.図6ブリモニジン追加後の副作用ブリモニジン追加投与後の副作用は,眼瞼炎が6眼(46.1%),結膜蒼白が5眼(38.5%),幻視1眼(7.7%),肉芽腫性ぶどう膜炎を伴う眼圧上昇が1眼(7.7%)に認められた.0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(105)729730あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(106)(107)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016731732あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(108)(109)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016733734あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(110)

プロスト系プロスタグランジン関連薬からビマトプロストへ切り替え後の眼圧推移と副作用発現頻度

2013年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科30(8):1165.1170,2013cプロスト系プロスタグランジン関連薬からビマトプロストへ切り替え後の眼圧推移と副作用発現頻度松原彩来徳田直人金成真由井上順高木均上野聰樹聖マリアンナ医科大学眼科学教室IntraocularPressureChangeafterSwitchingtoBimatoprostfromOtherProstaglandinAnaloguesandFrequencyofAdverseEffectSairaMatsubara,NaotoTokuda,MayuKanari,JunInoue,HitoshiTakagiandSatokiUenoDepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicine目的:プロスト系プロスタグランジン関連薬(以下,PG関連薬)からビマトプロスト(以下,ビマト)へ切り替え後の眼圧推移と副作用発現頻度を検討した.対象および方法:対象はラタノプロスト(以下,ラタノ),トラボプロスト(以下,トラボ),タフルプロスト(以下,タフル)のいずれかを使用中の患者50例50眼(平均59.7歳).使用中のPG関連薬をビマトへ切り替えた際の眼圧の推移,生存分析,副作用発現頻度について12カ月間観察し検討した.比較対照群はラタノからトラボまたはタフルへ切り替えた患者75例75眼(平均61.0歳)とした.結果:ビマトへの切り替え前後で眼圧は18.8mmHgから15.6mmHgへと有意に下降した(p<0.01:pairedt-test).切り替え後12カ月での生存率はビマト群54.0%に対し,比較対照群は38.7%であった(Logranktestp=0.19).ビマトへ切り替え後,重瞼ラインの深化(deepeningofuppereyelidsulcus:DUES)が憎悪し点眼中止とした症例が3眼(6.0%)存在した.結論:PG関連薬からビマトへの切り替えにより更なる眼圧下降が持続的に得られることもあるが,DUESが悪化する症例も存在する.Purpose:Toevaluateintraocularpressure(IOP)changeandadverseeffectsafterswitchingfromotherprostaglandinanalogues(PG)tobimatoprost(Bimato).Method:Subjectscomprised50eyesof50patients(meanage:59.7years)whohadbeentreatedwitheithertravoprost(Travo),tafluprost(Taflu)orlatanoprost(Latano).WeexaminedIOPchange,survivalanalysisandadverseeffectsofBimatoafterswitchingfrom12monthsofotherPG.Thecontlolgroupcomprised75eyesof75patients(meanage:61.0years)whoswitchedfromLatanotoTravoorTaflu.Result:ResultsshowedsignificantIOPdecreaseintheBimatogroupaveragingfrom18.8mmHgto15.6mmHg(p<0.01:pairedt-test)at1monthafterswitching.At12monthsafterswitching,weobservedasurvivalrateof54.0%intheBimatogroupand38.7%inthecontrolgroup(Logranktestp=0.19).Threepatients(6.0%)withdrewfromthestudyduetodeepeninguppereyelidsulcus(DUES)thatwasworsening.Conclusion:WeobservedfurtherIOPdecreasewithswitchfromotherPGtoBimato,andworseningofDUES.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1165.1170,2013〕Keywords:プロスタグランジン関連薬,ビマトプロスト,点眼切り替え,緑内障点眼薬副作用,重瞼ラインの深化(DUES).prostaglandinanalogues,bimatoprost,switching,adverseeffectsoftopicalocularhypotensivedrug,deepeninguppereyelidsulcus(DUES).はじめにプロストがある.ビマトプロストは2001年からすでに米国今日の眼科臨床においてわが国で使用可能なプロスト系プでは使用されており,眼圧下降効果や安全性について多くのロスタグランジン関連薬(以下,PG関連薬)には,ラタノ報告がある1.8).ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,そしてビマトプロストはプロスタグランジンF2a誘導体(以下,PGF2a誘〔別刷請求先〕松原彩来:〒216-8511川崎市宮前区菅生2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:SairaMatsubara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi216-8851,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(121)1165 導体)でありFP受容体に作用するのに対し,ビマトプロストはプロスタマイドF2a誘導体でありプロスタマイド受容体に作用する点で前者3剤と異なる.このため,ビマトプロスト以外のPG関連薬を使用中の症例に対してビマトプロストへの切り替えを行うことにより更なる眼圧下降が期待できる可能性がある.わが国でもラタノプロストからビマトプロストへの切り替えにより眼圧下降効果を示したという報告9.11)はあるが,ビマトプロストへの切り替え後12カ月まで調査し,眼圧下降効果の持続性について検討した報告はない.そこで今回筆者らは,日本人を対象としてビマトプロスト以外のPG関連薬を使用中の状態からビマトプロストへ切り替えを行い,その後の眼圧下降効果とその持続性,副作用発現頻度についてレトロスペクティブに検討したので報告する.I対象および方法対象は,ラタノプロスト(製品名:キサラタンR点眼液0.005%,ファイザー株式会社),トラボプロスト(製品名:トラバタンズR点眼液0.004%,日本アルコン株式会社),タフルプロスト(製品名:タプロスR点眼液0.005%,参天製薬株式会社)のいずれかを使用中の緑内障患者50例50眼(原発開放隅角緑内障29例,落屑緑内障6例,続発緑内障6例,正常眼圧緑内障5例,混合緑内障4例)で,平均年齢は59.7±12.9歳である.対象の50例のうち,PG関連薬単剤のものが9例であり,残りの41例は多剤併用症例であった.対象の切り替え前の詳細を表1に示す.使用中のPG関連薬をウォッシュアウト期間なしでビマトプロスト(製品名:ルミガンR点眼液0.03%,千寿製薬株式会社)へ切り替え後の眼圧の推移,副作用出現頻度について検討した.比較対照群は,ラタノプロストからトラボプロス表1ビマトプロスト変更前の抗緑内障点眼の詳細単剤/多剤(症例数)切り替え前抗緑内障点眼薬症例数単剤ラタノプロスト7例トラボプロスト1例(9例)タフルプロスト1例ラタノプロスト+b遮断薬9例ラタノプロスト+CAI1例2剤併用トラボプロスト+b遮断薬5例(22例)トラボプロスト+CAI3例タフルプロスト+b遮断薬1例多剤併用タフルプロスト+CAI3例(41例)ラタノプロスト+b遮断薬+CAI4例3剤併用ラタノプロスト+b遮断薬+a1遮断薬1例(16例)トラボプロスト+b遮断薬+CAI5例タフルプロスト+b遮断薬+CAI6例4剤併用(3例)トラボプロスト+b遮断薬+CAI+a1遮断薬3例CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.表2ラタノプロストをトラボプロストまたはタフルプロストに変更後の抗緑内障点眼の詳細単剤/多剤(症例数)切り替え後抗緑内障点眼薬症例数単剤(22例)トラボプロストタフルプロスト12例10例トラボプロスト+b遮断薬17例2剤併用トラボプロスト+CAI2例(26例)タフルプロスト+b遮断薬4例多剤併用(53例)タフルプロスト+CAI3例トラボプロスト+b遮断薬+CAI15例3剤併用(27例)トラボプロスト+b遮断薬+a1遮断薬2例タフルプロスト+b遮断薬+CAI10例1166あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(122) トまたはタフルプロストへ切り替えた75例75眼(原発開放隅角緑内障47例,落屑緑内障5例,続発緑内障1例,正常眼圧緑内障13例,混合緑内障2例,原発閉塞隅角緑内障7例)で,平均年齢は61.0±14.3歳であった.比較対照群については,75例中PG関連薬単剤からの切り替えが23例,多剤併用症例からの切り替えが52例であった.比較対照群の切り替え前の詳細を表2に示す.多剤併用例については,併用薬はそのまま継続とした.なお,コンタクトレンズ装用者,過去1年以内に眼科手術の既往がある者は対象から除外した.眼圧は,Goldmann圧平式眼圧計で測定を行い,点眼切り替え前3回の眼圧平均値をベースライン眼圧とした.経過観察期間は点眼切り替え後12カ月間とし,点眼変更後1カ月ごとに眼圧測定を行い,点眼切り替え前の眼圧と点眼切り替え後の眼圧についてはpairedt-testにより検定した.群間の比較についてはTukey検定を行った.眼圧下降率については,以下の計算式から算出した.眼圧下降率(%)=(IOPpre.IOPpost)×100IOPpreIOPpre:切り替え前眼圧,IOPpost:切り替え後眼圧.点眼変更後の眼圧下降効果の持続性について,KaplanMeier生存分析により検討した.死亡定義は2回連続で切り替え前の眼圧と同等,または上回る時点,またはレーザー治療を含めた手術加療を行った時点とし,Logrank-testにより検定を行った.眼圧(mmHg)252015100II結果1.眼圧図1にビマトプロストへの切り替え前後の眼圧推移と比較対照群の眼圧推移を示す.ビマトプロストへの切り替え前の平均眼圧は18.7±3.0mmHgが,切り替え後2カ月で16.9±3.4mmHg,切り替え後6カ月で16.4±4.2mmHg,切り替え後12カ月で15.6±2.9mmHgと各測定点で有意な眼圧下降を示した(p<0.01:pairedt-test).比較対照群における点眼薬切り替え前の平均眼圧は17.4±3.6mmHgであり,切り替え後2カ月で16.2±3.3mmHg,切り替え後6カ月で15.8±3.1mmHg,切り替え後12カ月で15.6±3.3mmHgと,こちらも各測定点で有意な眼圧下降を示した(p<0.01:pairedt-test).なお,ビマトプロストに変更後1カ月以内に,1mmHg以上の眼圧上昇を認めた症例が3例存在したが,3例とも1mmHgの上昇であった.そのうちの1例は2カ月後に重瞼ラインの深化(deepeningofuppereyelidsulcus:DUES)出現につき中止,その他の2例はともに8カ月後に眼圧コントロール不良を理由に点眼変更となった.図2にビマトプロスト切り替え群と比較対照群の眼圧下降率の推移を示す.ビマトプロスト切り替え群の眼圧下降率は切り替え後,2.4カ月,6.8カ月,10カ月の時点で比較対照群に比し有意な眼圧下降率を示した(unpairedt-test).2.累積生存率図3にビマトプロストへの切り替え後12カ月の累積生存率について示す.比較対照群の切り替え後の累積生存率が38.7%に対して,ビマトプロスト切り替え群は54.0%************************切り替え後切り替え後切り替え後切り替え後切り替え後切り替え後2カ月4カ月6カ月8カ月10カ月12カ月経過観察期間図1ビマトプロスト切り替え群と比較対照群の眼圧推移の比較:ビマトプロスト切り替え群,:比較対照群.*:p<0.01:pairedt-test,すべての観察点において有意差を認めた.(123)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131167 眼圧下降率(%)50403020100切り替え後切り替え後切り替え後切り替え後切り替え後切り替え後************2カ月4カ月6カ月8カ月10カ月12カ月経過観察期間図2ビマトプロスト切り替え群と比較対照群の眼圧下降率の推移:ビマトプロスト切り替え群,:比較対照群.*:p<0.05:unpairedt-test,**:p<0.01:unpairedt-test.54.0%0246810121.00.80.60.40.2038.7%累積生存率生存期間(カ月)図3ビマトプロスト切り替え群と比較対照群の累積生存率の比較:ビマトプロスト切り替え群,:比較対照群.Logranktestp=0.19.(Logranktestp=0.19)と有意差は認めないものの,ビマトプロスト切り替え群のほうが長期間眼圧下降を維持する傾向がみられた.3.副作用表3にビマトプロストへの切り替え後の副作用出現頻度について示す.ビマトプロスト切り替え群の副作用発現頻度は28.0%であり,比較対照群9.4%より有意に多く発症した(c2検定p=0.013).特に,ビマトプロスト切り替え群でDUESを10例に認め,そのうちDUES増悪のため点眼中止とした症例が3例存在した.それらの症例については点眼中止により速やかに症状の改善が得られた.その他,眼瞼色素沈着,結膜充血,睫毛増加,三叉神経痛が認められる症例が存在1168あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013表3点眼切り替え後の副作用症例の内訳ビマトプロスト切り替え群副作用出現症例比較対照群副作用50例中14例(28.0%)(副作用出現頻度)(うち2例は副作用重複*)75例中9例(9.4%)DUES10例(20.0%)0例(0.0%)眼瞼色素沈着2例(4.0%)0例(0.0%)結膜充血2例(4.0%)2例(2.7%)睫毛増加1例(2.0%)0例(0.0%)三叉神経痛1例(2.0%)0例(0.0%)眼刺激症状0例(0.0%)3例(4.0%)掻痒感0例(0.0%)2例(2.7%)*:ビマトプロスト切り替え群のうち2例は,DUESと眼瞼色素沈着,DUESと三叉神経痛を合併.した.III考按緑内障診療ガイドライン12)の緑内障治療薬の項でも,薬剤の効果が不十分な場合は,まず薬剤の変更を考慮することが推奨されている.ビマトプロストが使用可能となって以降,ラタノプロストなどのPGF2a誘導体を使用中で眼圧下降が不十分な症例に対して,ビマトプロストへの切り替えを試みたところ,更なる降圧が得られた症例を多く経験した.しかし,薬剤の切り替え時にはアドヒアランスの向上などにより薬効が過大評価されることがあるため,点眼切り替え後の眼圧下降効果を評価するためには,ある程度長期的な観察が必要と考え,点眼切り替え後1年間の経過観察期間についても検討した.以下,結果について考察する.眼圧下降率については,ビマトプロストの眼圧下降率は既(124) 報では22.6.36.0%4.7)とされている.特にCantorらの報告4)では原発開放隅角緑内障あるいは高眼圧症患者14例に対しビマトプロストを6カ月間投与したところ,6カ月後の眼圧下降率は34.0.36.0%とされており,優れた眼圧下降とその持続性を指摘している.これらの報告と比較し今回の筆者らの検討では,ウォッシュアウト期間なしでPG関連薬からビマトプロストへの切り替えを行っていること,多剤併用症例からのビマトプロストへの切り替え投与としていること,ビマトプロストへの切り替え前の眼圧が11.5.23.5mmHgと多岐にわたっていたこともあるため,単純な比較はできないが,正常眼圧緑内障が多い日本人を対象としている背景も考慮すると,既報に劣らず,十分な眼圧下降効果が得られたといえるのではないかと考える.ビマトプロストへの切り替え後の眼圧下降効果の維持については,広田ら11)はラタノプロストで効果不十分であった症例について,ビマトプロストへの切り替え後6カ月までの眼圧推移を示し,眼圧下降効果が維持されたことを報告している.今回の比較対照群としたラタノプロストからトラボプロストへ,ラタノプロストからタフルプロストへの切り替えについてはいくつかの報告13,14)はあるが,経過観察期間が6カ月以下と短いうえ,眼圧下降効果の持続性について言及している報告は筆者らが検索した限りではみられなかった.抗緑内障点眼薬は多くの場合で長期間使用することが多いため,眼圧下降効果の持続性は重要であると考えられる.そこで今回の検討では,眼圧下降効果の持続性について厳密に検討する目的で,生命分析を利用して評価した.その結果,ビマトプロスト切り替え群の1年生存率は54.0%と有意差は認めないものの,比較対照群に比べ高い生存率を示していた.ビマトプロストへの切り替え後に眼圧下降が維持できた症例が半数以上存在したということは,ビマトプロスト以外のPG関連薬からビマトプロストへの切り替えによる更なる降圧の可能性を示唆する結果とも考えられる.この結果についての関連因子を検討する目的で生存症例27例と,死亡症例23例でその背景因子を比較したところ,病型,年齢,切り替え前眼圧,併用薬剤数ともに統計学的有意差は認められなかった.PG関連薬においては,眼圧下降効果が得られにくい,いわゆるノンレスポンダーが存在するといわれている.過去の報告では,眼圧下降率10.0%以下をノンレスポンダーと定義した場合,ラタノプロストでは15.0.30.0%15,16)に,タフルプロストでは12.8.18.2%17)認められたとしており,ノンレスポンダーがある一定の割合で存在することを指摘している.Gandolfiら18)はラタノプロストのノンレスポンダーに対してビマトプロストに切り替えた15例中13眼で切り替え後20%以上の眼圧下降を得た,と報告している.今回の対象でもビマトプロスト切り替え前のPGF2a誘導体の眼圧下(125)降率が10%未満の症例がどの程度存在したかを調査してみたが,ラタノプロストを使用前にすでに交感神経b遮断薬などが使われている場合や,多剤併用の症例が多く,純粋なノンレスポンダーを抽出することは不可能であった.しかし,今回の対象のなかにはPGF2a誘導体により10%以上眼圧下降が得られた症例も多く含まれており,これらの症例においてもビマトプロストへの切り替えで更なる眼圧下降が得られた可能性が示唆されたという事実は,日常臨床において,治療経過中に視野異常の悪化などにより目標眼圧をさらに低く設定し直す際にもビマトプロストへの切り替えは一つのよい選択肢となりうると考える.副作用に関しては,ビマトプロストへの切り替え群で副作用出現率が多く生じたという印象であった.比較対照群との目立った相違点は,ビマトプロストへの切り替え群ではDUESが10例と多く出現した点である.DUESについて日本人を対象とした報告ではAiharaら19)が25例中11例でDUES陽性であったとしており,今回の筆者らの報告よりもさらに高い頻度であった.また,丸山ら20)は,各種PG関連薬のDUES発生頻度については差がある可能性についても指摘している.今回の症例では,ビマトプロストへ切り替え後,DUES増悪のため,点眼中止とした3例については点眼中止により速やかに症状は改善したが,今後この変化がどの程度で不可逆性の変化になるのかについては注意深い観察を要すると考える.以上,PGF2a誘導体を使用中の状態からビマトプロストへ切り替えを行った症例についてレトロスペクティブな検討を報告した.ビマトプロストへの切り替えにより更なる眼圧下降が持続的に得られる可能性が示唆されたが,DUESなどの副作用についても十分な配慮が必要であると考える.今後はビマトプロストへの切り替え後も無効であった症例についての検討なども含めて,更なる長期的な検討を行っていく予定である.本論文の要旨は第22回日本緑内障学会(2011年)で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BrandtJD,VanDenburghAM,ChenKetal:Comparisonofonce-ortwice-dailybimatoprostwithtwice-dailytimololinpatientswithelevatedIOP.A3-monthclinicaltrial.Ophthalmology108:1023-1032,20012)CantorLB,HoopJ,MorganLetal:Intraocularpressurloweringefficacyofbimatoprost0.03%andtravoprost0.004%inpatientswithglaucomaorocularhypertension.BrJOphthalmol90:1370-1373,2006あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131169 3)WhitcupSM,CantorLB,VanDenburghAMetal:Arandomizeddoublemasked,multicentreclinicaltrialcomparingbimatoprostandtimololforthetreatmentofglaucomaorocularhypertension.BrJOphthalmol87:57-62,20034)CantorLB,WuDunnD,CortesAetal:Ocularhypertensiveefficacyofbimatoprost0.03%andtravoprost0.004%inpatientswithglaucomaorocularhypertension.SurvOphthalmol49(Suppl1):S12-S18,20045)ChenMJ,ChengCY,ChenYCetal:Effectsofbimatoprost0.03%onocularhemodynamicsinnormaltensionglaucoma.JOculPharmacolTher22:188-193,20066)ZeitzO,MatthiessenET,ReussJetal:Effectsofglaucomadrugsonocularhemodynamicsinnormaltensionglaucoma:arandmizedtrialcomparingbimatoprostandlatanoprostwithdorzolamide.BMCOphthalmol5:6,20057)DirksM,NoeckerR,EarlM:A3-monthclinicaltrialcomparingtheIOP-loweringefficacyofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithnormaltensionglaucoma.AdvTher23:385-394,20068)SantyS,DonthamsettiV,VangipuramGetal:LongtermIOPloweringwithbimatoprostinopen-angleglaucomapatientspoorlyresponsivetolatanoprost.JOculPharmacolTher24:517-520,20089)北澤克明,米虫節夫:ビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験.あたらしい眼科27:401-410,201010)南野麻美,谷野富彦,中込豊ほか:各種プロスタグランジン関連薬の0.03%ビマトプロスト点眼液への切替えによる眼圧下降効果.あたらしい眼科28:1629-1634,201111)広田篤,井上康,永山幹夫ほか:ラタノプロスト効果不十分例の点眼をビマトプロストに切替えたときの眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科29:259-265,201212)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:5-46,201213)南野桂三,安藤彰,松岡雅人ほか:ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる眼圧下降効果.あたらしい眼科29:415-418,201214)安達京:ラタノプロスト単独療法におけるタフルプロスト点眼変更による眼圧下降効果の検討.臨眼65:85-89,201115)井上賢治,泉雅子,若倉雅登ほか:ラタノプロストの無効率とその関連因子.臨眼759:553-557,200516)中元兼二,安田典子,南野麻美ほか:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動におけるラタノプロストとゲル基剤チモロールの効果比較.日眼会誌108:401-407,200417)曽根聡,勝島晴美,船橋謙二ほか:正常眼圧緑内障に対するタフルプロスト点眼液の眼圧下降効果・安全性に関する検討.あたらしい眼科28:568-570,201118)GandolfiSA,CiminoL:Effectofbimatoprostonpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhoarenonresponderstolatanoprost.Ophthalmology110:609-614,200319)AiharaM,ShiratoS,SakataR:Incidenceofdeepeningoftheuppereyelidsulcusafterswitchingfromlatanoprosttobimatoprost.JpnJOphthalmol55:600-604,201120)丸山勝彦:プロスタグランジン関連薬による上眼瞼溝深化(DUES).眼科54:47-52,2012***1170あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(126)

プロスタグランジン関連薬の滴下可能期間と1 日薬剤費の比較

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(119)1179《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(8):1179?1181,2011cはじめに近年,緑内障治療の主流となっているプロスタグランジン関連点眼薬に関し,新たな薬剤の登場,イソプロピルウノプロストン点眼薬の後発医薬品(後発品)の発売など,治療の選択肢が広がってきている.筆者らは,これまでに点眼薬の1滴量の品目間の違いを指摘し,薬剤費を評価するにあたっては,1瓶当たりの薬価のみを比較するのではなく,1瓶の点眼薬を実際に使用できる期間を含めて評価する必要があることを報告してきた1,2).後発品は先発医薬品(先発品)に比べ薬価が安いが,実際に1滴量や充?量を加味して比較すると,先発品と実際の費用がほとんど変わらない品目も存在している2).今回,プロスタグランジン関連点眼薬の先発品と後発品について,1瓶当たりの滴下可能期間および1日薬剤費の算出と比較を行った.I対象および方法2010年3月までに入手できたプロスタグランジン関連薬の先発品および後発品を対象とし,0.12%イソプロピルウノプロストン製剤の後発品を含む5品目,0.005%ラタノプ〔別刷請求先〕冨田隆志:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学病院薬剤部Reprintrequests:TakashiTomita,DepartmentofPharmaceuticalServices,HiroshimaUniversityHospital,1-2-3Kasumi,Minamiku,Hiroshima734-8551,JAPANプロスタグランジン関連薬の滴下可能期間と1日薬剤費の比較冨田隆志*1櫻下弘志*1池田博昭*1塚本秀利*2木平健治*1*1広島大学病院薬剤部*2高山眼科UsablePeriodandDailyCostofProstaglandin-likeAgentOphthalmicSolutionsTakashiTomita1),HiroshiSakurashita1),HiroakiIkeda1),HidetoshiTsukamoto2)andKenjiKihira1)1)DepartmentofPharmaceuticalServices,HiroshimaUniversityHospital,2)TakayamaEyeClinicプロスタグランジン関連薬の滴下可能期間と1日薬剤費の比較検討のため,0.12%イソプロピルウノプロストン製剤の後発医薬品を含む6品目(5mL),0.005%ラタノプロスト,0.004%トラボプロスト,0.0015%タフルプロスト,0.03%ビマトプロスト製剤各先発医薬品(2.5mL)の点眼薬の総滴数と滴下総容量を計測し,1日使用回数と薬価から両眼使用時の滴下可能期間,1日薬剤費を算出した.滴下可能期間,1日薬剤費はイソプロピルウノプロストン先発医薬品がそれぞれ33.3日,30.0円,同後発医薬品がそれぞれ35.7~53.9日,13.4~20.3円,その他の品目がそれぞれ38.8~49.5日,47.4~61.7円で,品目間の実際の費用の差は薬価差以上であった.滴下可能期間はいずれも4週間を超えており,特に長期間点眼が可能な品目の処方,交付の際には,4週間を目処に新しい製品を使用し始めるよう,指導することが重要と考えられる.Weexaminedtheusableperiodanddailycostofophthalmicsolutionsofprostaglandin-likeagents.Sixproductformulationsofisopropylunoprostoneandinnovatorproductformulationsoflatanoprost,travoprost,tafluprostandbimatoprostweremeasuredastototalvolumeanddropcountperbottle.Dailycostwascalculatedonthebasisofstandarddailydosageandofficialpriceofeachproduct.Theusableperiodanddailycostoftheunoprostoneinnovatorproductwere33.3daysand30.0yen,respectively;fortheunoprostonegenericformulationsthefiguresrangedfrom35.7to53.9daysand13.4to20.3yen;otherproductformulationsrangedfrom38.8to49.5daysand47.4to61.7yen.Differenceinactualpharmaceuticalcostwasgreaterthaninofficialprice.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1179?1181,2011〕Keywords:プロスタグランジン関連薬,後発医薬品,滴下可能期間,薬剤費.prostaglandin-analogue,genericproducts,usableperiod,medicationcost.1180あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(120)ロスト,0.004%トラボプロスト,0.0015%タフルプロスト,0.03%ビマトプロスト製剤各先発品を用いた.各品目の容量などを表1に示した.前報2)と同様に,点眼薬は室温(23℃)で10mLメスシリンダー(スーパーグレード,許容誤差0.05mL,柴田科学器械工業,東京)に,専任者1名による滴下により,1瓶から滴下できた総滴数および総容量を計測し,総容量を総滴数で除して1滴量を求めた.滴下は手指による加圧により,1滴ずつ点眼瓶内に空気を戻しながら行った.点眼1回の滴下量を1滴とし,添付文書記載の用法で両眼に使用した場合の1日使用滴数で1瓶当たりの総滴数を除して1瓶の点眼薬の滴下可能期間を求め,2010年4月改訂の薬価基準価格(薬価)に基づく1瓶当たりの価格を滴下可能期間で除して1日薬剤費を算出した.各品目について3瓶の計測を行い,いずれも平均値をデータとした.なお,タフルプロスト製剤は添加物のベンザルコニウム塩化物濃度の変更があったため,変更前後の製剤の検討を行い,その差についてはWelch’sttestで評価した.II結果11品目の検討の結果を表1に示す.1滴量は25.0~38.2μLで,最大で約1.5倍の差が認められた.また,1瓶からの滴下総容量は表示容量の100~116%であった.イソプロピルウノプロストン製剤の滴下総容量,1滴量,滴下可能期間,1日薬剤費については,先発品がそれぞれ5.1mL,38.2μL,33日,68.2円,同後発品5品目がそれぞれ5.0~5.4mL,25.0~35.7μL,35~53日,29.5~44.5円であった.イソプロピルウノプロストン後発品の1滴量はいずれも先発品よりも少なかった.その他のプロスタグランジン関連薬各先発品の結果については,それぞれ2.65~2.91mL,27.6~35.6μL,37.8~49.5日,47.4~63.4円であった.また,タフルプロスト製剤の1表2各点眼薬の計測結果製品名総滴数(滴)滴下総容量(mL)1滴量(μL)滴下可能期間(日)1日薬剤費(円)キサラタンR点眼液0.005%91.3±0.92.91±0.0331.9±0.445.7±0.550.8±0.5トラバタンズR点眼液0.004%99.0±0.82.73±0.0327.6±0.149.5±0.449.6±0.4タプロスR点眼液0.0015%(旧処方)75.7±2.52.65±0.0435.1±1.137.8±1.263.4±2.1タプロスR点眼液0.0015%(新処方)77.7±2.52.77±0.0535.6±0.838.8±1.261.7±2.0ルミガンR点眼液0.03%98.7±0.92.81±0.0128.4±0.349.3±0.547.4±0.4レスキュラR点眼液0.12%133.0±2.95.08±0.0238.2±0.833.3±0.730.0±0.7イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「サワイ」142.7±4.15.09±0.0135.7±1.035.7±1.020.3±0.6イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「タイヨー」215.7±4.55.39±0.0125.0±0.553.9±1.113.4±0.3イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「TS」142.7±2.65.03±0.0335.3±0.935.7±0.720.3±0.4イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「ニッテン」181.0±2.65.11±0.0428.2±0.445.3±0.516.0±0.2イソプロピルウノプロストンPF点眼液0.12%「日点」171.7±1.25.02±0.0429.2±0.342.9±0.316.9±0.1点眼瓶から1滴ずつ滴下して滴下可能であった総滴数,総容量から1滴量を求め,1日使用滴数,薬価を基に滴下可能期間,1日薬剤費算出した.結果は各品目3瓶の計測結果の平均値(±SD).表1使用した点眼薬と薬価製品名一般名1瓶の表示容量(mL)薬価(円/mL)1瓶薬価(円)1日用量(滴/両眼)キサラタンR点眼液0.005%ラタノプロスト2.5928.52,321.252トラバタンズR点眼液0.004%トラボプロスト2.5981.82,454.502タプロスR点眼液0.0015%(旧処方)タフルプロスト2.5957.82,394.502タプロスR点眼液0.0015%(新処方)タフルプロスト2.5957.82,394.502ルミガンR点眼液0.03%ビマトプロスト2.5935.12,337.752レスキュラR点眼液0.12%イソプロピルウノプロストン5.0398.41,992.004イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「サワイ」イソプロピルウノプロストン5.0289.41,447.004イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「タイヨー」イソプロピルウノプロストン5.0289.41,447.004イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「TS」イソプロピルウノプロストン5.0289.41,447.004イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「ニッテン」イソプロピルウノプロストン5.0289.41,447.004イソプロピルウノプロストンPF点眼液0.12%「日点」イソプロピルウノプロストン5.0289.41,447.004薬価は2010年4月現在.(121)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111181滴量は旧製品が35.1±1.1μL,新製品が35.6±0.8μLであった(p=0.56).III考察現在の緑内障の薬物治療の中心は点眼による眼圧下降であり,緑内障患者は生涯にわたって点眼薬を使用する必要がある.長期にわたる疾患治療にかかる薬剤費の情報は,患者にとって大きな関心事であり,薬剤に関する説明を行う医療者にとっても重要である.治療に用いる薬剤費がコンプライアンスに影響を及ぼすとの報告もあり3),治療薬の選択のうえでは,点眼薬の種類によって異なる眼圧降下作用,保管条件や点眼使用感を加味したうえで,その経済性も考慮することが望まれる.点眼薬の滴下量は,薬剤の種類,点眼容器の形状,添加物の濃度などの影響を受けるため1,2),点眼薬の経済性比較を行う際には,1瓶当たりの薬価のみでなく,その1滴量を反映させた評価が必要である.本検討では,プロスタグランジン関連薬の1瓶当たりの総滴数と総容量を実際に計測し,滴下可能期間と1日薬剤費を算出し,その比較を行った.今回検討した点眼薬の1滴量は25.0~38.2μLで,結膜?に保持可能な容量が約30μL,眼表面に存在する涙液量が約7μLとされており4),いずれの品目でも1回の点眼で結膜?に保持可能な容量を1滴で確保しており,適正な範囲にあることが確認された.1日薬剤費については,イソプロピルウノプロストン製剤後発品の先発品に対する薬剤費は,1mL当たりの薬価比が0.70であるのに対し,1滴量を加味した1日薬剤費の比は,0.45~0.68と,その差がより大きく,品目間にも差が認められた.イソプロピルウノプロストン先発品から後発品へ変更を検討する場合,最大の薬剤費の差は3割負担で考えても1日5.1円となる.この費用差は患者に提供すべき情報の一つであり,品目を選択する際の判断に有益と思われる.その他の品目についても,品目間で1日薬剤費に1.33倍の差が認められ,その差は薬価の差である1.06倍よりも大きかった.先発品と後発品の比較と異なり,眼圧低下効果などの違いを考慮に入れる必要はあるが,薬価の差はほとんどないにもかかわらず,実際の薬剤費に比較的大きな違いがあることは,薬剤選択の際の重要な情報といえる.なお,添加物濃度の変更は1滴量に変化を生じることがある5,6)が,今回のベンザルコニウム塩化物濃度の変更はタフルプロスト製剤の1滴量に影響を及ぼしていなかった.一方,1瓶の点眼薬がいつまで使用できるのか,という情報も,患者のライフスタイル支援やコンプライアンス確認,処方量の決定を行ううえで重要になる.1滴量の違いにより,1瓶の点眼薬の使用可能期間にも違いが出ているため,滴下可能期間は先発品の33.3日から後発品の最長53.9日と,最大で1.62倍の違いがみられた.品目の切り替えにより,患者の来院頻度の変化や,併用薬剤の組み合わせにおいて,点眼薬の処方量を変更する必要が生じることも考えられる.また,1瓶の容器をくり返し使用する点眼薬では,使用開始から長期間経過すると細菌汚染などを受けやすくなる7).多くの品目の添付文書などでも,明確な根拠は示されていないものの,開封から4週間を使用期限とすることが求められており,長期間点眼が可能な品目の処方,交付の際には,4週間を目処に新しい製品を使用し始めるよう,指導することが特に必要と考えられる.なお,今回の検討結果は1回1滴を確実に滴下した場合の理論的な数値である.理想的条件で消費された場合,滴下可能期間はすべての製品で4週間を上回っているが,1回に2滴以上の滴下や,点眼の失敗によるさし直しなども多く発生しており,現実にはこの期間は短縮すると考えられ,今回検討した薬剤費や滴下可能期間の情報は,品目間の相対的な評価指標として利用すべきと考える.また,いずれの品目も総容量は表示の容量を超えていたが,一部では表示容量を10%以上超えて滴下可能であった.濃度が適正であれば,容量が多くても使用に問題はないが,過剰な充?量は4週間という使用期限を超えて使用を続ける要因となりうると考えられる.なお,今回検討に用いた点眼薬は,すべて各販売企業より提供を受けた.これを除き,筆者らは各販売企業より,研究費その他の提供は受けていない.文献1)IkedaH,SatoE,KitauraTetal:DailycostofophthalmicsolutionsfortreatingglaucomainJapan.JpnJOphthalmol45:99-102,20012)冨田隆志,池田博昭,櫻下弘志ほか:b遮断点眼薬の先発医薬品と後発医薬品における1日あたりの薬剤費の比較.臨眼63:717-720,20093)TsaiJC,McClureCA,RamosSEetal:Compliancebarriersinglaucoma:asystematicclassification.JGlaucoma12:393-398,20034)MishimaS,GassetA,KlyceDJretal:Determinationoftearvolumeandtearflow.InvestOphthalmol5:264-276,19665)VanSantvlietL,LudwigA:Determinantsofeyedropsize.SurvOphthalmol49:197-213,20046)冨田隆志,池田博昭,塚本秀利ほか:緑内障点眼薬の1滴容量と1日薬剤費用.臨眼60:817-820,20067)野村征敬,塚本秀利,池田博昭ほか:眼科外来患者が使用中の点眼瓶の汚染率の検討.眼臨99:779-782,2005***

プロスタグランジン関連薬のウサギ角膜上皮細胞に対する影響

2011年6月30日 木曜日

886(13あ4)たらしい眼科Vol.28,No.6,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(6):886.890,2011c〔別刷請求先〕井上順:〒216-8511川崎市宮前区菅生2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:JunInoue,M.D.,DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa216-8511,JAPANプロスタグランジン関連薬のウサギ角膜上皮細胞に対する影響井上順*1岡美佳子*2井上恵理*1徳田直人*1竹鼻眞*2上野聰樹*1*1聖マリアンナ医科大学眼科学教室*2慶應義塾大学薬学部分子機能生理学講座EffectofProstaglandinAnaloguesonRabbitCornealEpithelialCellsJunInoue1),MikakoOka2),EriInoue1),NaotoTokuda1),MakotoTakehana2)andSatokiUeno1)1)DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofMolecularFunctionandPhysiology,KeioUniversityFacultyofPharmacyプロスタグランジン(PG)関連薬の角膜への影響を検討するため,ウサギ角膜上皮細胞を用いて細胞毒性および細胞増殖に対する抑制作用を比較した.96ウェルプレートにウサギ角膜上皮細胞を5,000cells/mlで播種し,24時間培養後2倍希釈系列(2.512倍)になるように希釈したPG関連薬(ラタノプロスト0.005%,トラボプロスト0.004%,タフルプロスト0.0015%,ビマトプロスト0.03%)を各ウェルに分注し,一定時間培養後LDH(lactatedehydrogenase)assay法またはMTT〔3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazoliumbromide〕assay法を行い,各薬剤の細胞障害率および細胞増殖抑制率を算出した.薬剤濃度を横軸に,細胞増殖抑制率または細胞障害率を縦軸にとり近似曲線を求めた.LDHassay法による細胞障害率50%となる希釈濃度はラタノプロスト(12.2倍)>タフルプロスト(7.1倍)>ビマトプロスト(3.7倍)>トラボプロスト(1.2倍)の順で高く,MTTassay法による細胞増殖抑制率50%となる希釈濃度はラタノプロスト(25.5倍)>タフルプロスト(21.8倍)>ビマトプロスト(10.6倍)>トラボプロスト(1.1倍)の順で高かった.培養ウサギ角膜上皮細胞に対する影響はラタノプロスト,タフルプロスト,ビマトプロスト,トラボプロストの順で強かった.Thecytotoxicityandinhibitoryeffectsofvariousprostaglandin(PG)analogueeyedropsoncornealepithelialcellgrowthwerecomparedinculturedrabbitcornealepithelialcells.Thecellswerespreadona96-wellplate.Afterincubation,thePGanalogues(0.005%latanoprost,0.004%travoprost,0.0015%tafluprost,and0.03%bimatoprost)weredilutedtoprepareserial2-folddilutions(2-512fold),andeachwaspouredintoeachwell.LDH(lactatedehydrogenase)assayor3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazoliumbromide(MTT)assaywereperformed,andthecytotoxicityrateandcellgrowthinhibitionratewerecalculatedforeachdrug.Anapproximatecurvewasobtainedforeachdrugandcomparativeinvestigationwasconductedbyplottingtheconcentrationofeachdrugonthehorizontalaxisandthegrowthinhibitionrateorcytotoxicityrateonthelongitudinalaxis.Thecytotoxicityrate,asdeterminedbyLDHassay,washighest(50%)forthe12.2-folddilutionoflatanoprost,followedinorderbythe7.1-folddilutionoftafluprost,the3.7-folddilutionofbimatoprostandthe1.2-folddilutionoftravoprost.Thegrowthinhibitionrate,asdeterminedbyMTTassay,washighestforthe25.5-folddilutionoflatanoprost,followedinorderbythe21.8-folddilutionoftafluprost,the10.6-folddilutionofbimatoprostandthe1.1-folddilutionoftravoprost.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):886.890,2011〕Keywords:角膜上皮細胞,プロスタグランジン関連薬,LDHassay法,MTTassay法.cornealepithelialcell,prostaglandinanalogues,LDHassay,MTTassay.(135)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011887はじめに緑内障治療では,一般的にまず点眼薬治療が行われる.現在では多くの抗緑内障点眼薬が登場し,治療の選択肢が増えてきている.そのなかでも,プロスタグランジン(PG)関連薬は強力な眼圧下降効果を有し,しかも全身的な副作用が少ないことから,緑内障薬物療法の第一選択薬となっている.一方,緑内障は疾患の性質上,一度,抗緑内障点眼薬が投与されると長期にわたり投与が継続される場合や,眼圧コントロールを得るために複数の薬剤が同時に併用投与される場合もある.点眼薬が最初に接触するのは角膜,結膜などのオキュラーサーフェスであり,この部位での副作用発現の可能性があり,考慮する必要がある.実際に点眼薬の眼局所副作用として角膜上皮障害が多く報告されており,さらに長期連用により重篤化することもある1).また,その角膜上皮障害の程度も点眼薬により異なる.この角膜上皮障害は一旦発症すると,点眼治療を中止しなければならない場合や,自覚症状のためにアドヒアランス低下の原因となる場合もあり,治療を行ううえで大きな影響を及ぼす可能性がある.本研究では,PG関連薬の角膜上皮細胞に対する影響について培養ウサギ角膜上皮細胞を用いて,細胞障害性をLDH(lactatedehydrogenase;乳酸脱水素酵素)活性を指標に検討し,さらにはMTT〔3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazoliumbromide〕assay法により,細胞増殖に及ぼす影響について検討した.I実験材料および方法1.実験材料培養細胞は凍結正常ウサギ角膜上皮細胞(NRCE2)(クラボウ),培地はM-StarA(KeratinocyteGrowthMedium)(アルブラスト)を用いた.LDH活性測定には,LDH-細胞毒性テストキット(和光純薬)を使用した.MTTassay法は,MTT(SIGMA)をPBS(phosphate-bufferedsaline)にて最終濃度5mg/mlになるように調製し,呈色液として用いた.MTT溶解液には0.04NHCl-isopropanol液(和光純薬)を用いた.PG関連薬はラタノプロスト0.005%(ファイザー),トラボプロスト0.004%(日本アルコン),タフルプロスト0.0015%(参天製薬),ビマトプロスト0.03%(千寿製薬)の市販製品を使用した2).いずれも2009年11月に購入したもので,タフルプロストについては2010年1月の防腐剤濃度変更以前のものを用いた(表1).2.実験方法a.ウサギ角膜上皮細胞の培養法凍結正常ウサギ角膜上皮細胞を60mmペトリディッシュに播種し,37℃インキュベーターで5%CO2の条件下で培養した.細胞がサブコンフルエント(80%)になった時点で,1.0×105cells/mlの細胞浮遊液を作製し,96ウェルプレートに細胞浮遊液50μl(5,000cells/ml)を分注した.各ウェルに培養液を加え全量100μlとした.b.LDH活性の測定96ウェルプレートに播種したウサギ角膜上皮細胞は24時間培養後,培養液で洗浄し,最後に培養液50μlを各ウェルに分注した.各PG関連薬を2倍希釈系列(2.512倍)になるように培養液で希釈したものを各ウェルに50μlずつ分注した.15分間室温で放置後,各ウェルから50μlとり,別のプレートに移し,発色液(ニトロブルーテトラゾリウム)50μlを分注し,45分間室温で放置した.反応停止液(0.04NHCl)100μlを各ウェルに加え,マイクロプレートリーダーを用いて570nm波長の吸光度を測定した.各薬剤とも各希釈濃度について4サンプルずつ吸光度を測定した.検体(S),ネガティブコントロール(NC;PBS),およびポジティブコントロール(PC;PBSで溶解した0.2%Tween20)の平均吸光度から,以下に示す計算式で細胞障害率を算出した.細胞障害率(%)=(S.N/P.N)×100各PG関連薬の細胞障害作用に有意差があるか否かは,ANOVA(analysisofvariance;分散分析法)検定後,Bonferroni/Dunn法の多重検定を行い,危険率p<0.05をもって有意差ありとした.50%細胞障害希釈倍率は,各薬剤の濃度を横軸にとり,細胞障害率を縦軸にとって各薬剤についてプロットし対数の近似曲線を求めることによって算出した.c.細胞増殖抑制率の測定96ウェルプレートを24時間培養後,培養液を取り除き,各PG関連薬をそれぞれ2倍希釈系列(2.512倍)になるように培養液で希釈したものを各ウェルに100μlずつ分注し,48時間培養した.各ウェルにMTT溶液(5mg/ml)10μlを加え,37℃で4時間インキュベートした.MTT溶解溶液100μlを加え,マイクロプレートリーダー(LabsystemsMultiskanMS;Labsystems)を用いて570nm波長の吸光度を測定した.各薬剤とも各希釈濃度について4サンプルずつ吸光度を測定した.薬剤無添加のウェルを対照とし,以下に示す計算式で細胞増殖抑制率を算出した.細胞増殖抑制率(%)=100.(薬剤添加ウェルの平均吸光度/薬剤無添加ウェルの平均吸光度)×100各PG関連薬の細胞増殖抑制作用に有意差があるか否か表1各種プロスタグランジン関連薬の主剤濃度と防腐剤濃度主剤防腐剤ラタノプロスト0.005%ベンザルコニウム塩化物0.02%トラボプロスト0.004%sofZiaRタフルプロスト0.0015%ベンザルコニウム塩化物0.01%ビマトプロスト0.03%ベンザルコニウム塩化物0.005%888あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(136)は,ANOVA検定後,Bonferroni/Dunn法の多重検定を行い,危険率p<0.05をもって有意差ありとした.50%増殖抑制希釈倍率は,各薬剤の濃度を横軸にとり,細胞増殖抑制率を縦軸にとって各薬剤についてプロットし,対数近似曲線を求めることによって算出した.II結果1.LDH活性の測定LDH検出法を用いて測定した吸光度から細胞障害率を算出し,細胞障害に対するPG関連薬の影響を検討した.Bonferroni/Dunn法による多重検定を行った結果,各薬剤間に有意差は認めなかったが,最も高い細胞障害性を認めたのはラタノプロスト0.005%であり,細胞障害率は2倍希釈で114%,4倍希釈で66%であった.ついでタフルプロスト0.0015%において,2倍希釈で100%,4倍希釈で48%の細胞障害を認めた.ビマトプロスト0.03%の細胞障害率は,2倍希釈で95%,4倍希釈で37%であった.細胞障害性が最も低かったのがトラボプロスト0.004%であり,細胞障害率は2倍希釈で60%と他の3剤と比較し細胞障害率は低値であり,4倍希釈で35%であった.256倍希釈ではいずれの薬剤も細胞障害率は10%以下となり,512倍希釈では,細胞障害はほとんど認めなかった(図1).各薬剤の濃度を横軸にとり,細胞障害率を縦軸にとって各薬剤についてプロットし対数近似曲線を求めることによって50%細胞障害希釈倍率を算出した.50%細胞障害時希釈倍率は,ラタノプロスト12.2倍,タフルプロスト7.1倍,ビマトプロスト3.7倍,トラボプロスト1.2倍であった(図2).2.細胞増殖抑制率の測定MTTassay法を用いて測定した吸光度から細胞増殖抑制率を算出し,細胞増殖に対するPG関連薬の影響を検討した.細胞増殖抑制率は,ラタノプロストにおいて8倍希釈まで80%以上,32倍希釈でも49%であり,いずれの希釈倍率でも最も抑制率は高かった.ついでタフルプロストにおいて,4倍希釈で83%,16倍希釈で65%,32倍希釈で45%と高い細胞増殖抑制率を認めた.ビマトプロストの細胞増殖抑制率は,4倍希釈で72%,16倍希釈で53%,32倍希釈で30%であった.最も低い細胞増殖抑制率を示したのはトラボプロストであり,抑制率は4倍希釈で66%,16倍希釈で35%,32倍希釈で28%となった(図3).Bonferroni/Dunn法による多重検定を行った結果,トラボプロストは,4倍希釈および8倍希釈濃度で他の薬剤に対して,細胞増殖抑制率は有意に低値を示した.さらにトラボプロストは,4倍希釈から64倍希釈濃度でラタノプロストに対して,細胞増殖抑制率は有意に低値を示し,16倍希釈160140120100806040200-20512256128643216842希釈濃度(倍)細胞障害率(%):ラタノプロスト0.005%:タフルプロスト0.0015%:ビマトプロスト0.03%:トラボプロスト0.004%図1PG関連薬のウサギ角膜上皮細胞に対する細胞障害率の比較LDH検出法を用いて各種薬剤の細胞障害率を算出した.各希釈系列における薬剤間の有意差は認めなかった.細胞障害性はトラボプロスト0.004%が最も低かった.n=4,平均±標準偏差.希釈濃度(倍)00.10.20.30.40.50.6細胞障害率(%):ラタノプロスト0.005%(LAT):タフルプロスト0.0015%(TAF):ビマトプロスト0.03%(BIM):トラボプロスト0.004%(TRA)120100806040200LATy=0.1582Ln(x)+0.8959TAFy=0.1458Ln(x)+0.7855BIMy=0.1227Ln(x)+0.6619TRAy=0.0899Ln(x)+0.5147図2各種PG関連薬のウサギ角膜上皮細胞障害率の近似曲線100806040200-20251625612864321684希釈濃度(倍)細胞増殖抑制率(%)###**###**###***#######***:ラタノプロスト0.005%:タフルプロスト0.0015%:ビマトプロスト0.03%:トラボプロスト0.004%図3PG関連薬のウサギ角膜上皮細胞に対する細胞増殖抑制率の比較MTTassay法を用いて各種薬剤の細胞増殖抑制率を算出した.ラタノプロスト0.005%で最も強い細胞増殖抑制効果を認めた.細胞増殖抑制効果はトラボプロスト0.004%が最も弱かった.n=4,平均±標準偏差.#p<0.05ラタノプロストvsトラボプロスト.*p<0.05タフルプロストvsトラボプロスト.##p<0.05ビマトプロストvsトラボプロスト.**p<0.05タフルプロストvsラタノプロスト.###p<0.05ラタノプロストvsビマトプロスト.***p<0.05タフルプロストvsビマトプロスト.(ANOVAおよびBonferroni/Dunn法)(137)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011889から64倍希釈濃度でタフルプロストに対しても,細胞増殖抑制率は有意に低値を示した.タフルプロストは,32倍希釈濃度でラタノプロストに対して,細胞増殖抑制率は有意に低値を示した.ビマトプロストは,16倍希釈および32倍希釈濃度でラタノプロストに対して,細胞増殖抑制率は有意に低値を示し,64倍希釈濃度でタフルプロストに対しても,細胞増殖抑制率は有意に低値を示した.各薬剤の希釈濃度を横軸にとり,細胞増殖抑制率を縦軸にとって各薬剤についてプロットし対数近似曲線を求めることによって50%細胞増殖抑制希釈倍率を算出した.50%増殖抑制希釈倍率は,ラタノプロスト25.5倍,タフルプロスト21.8倍,ビマトプロスト10.6倍,トラボプロスト1.1倍であった(図4).III考按緑内障の薬物治療は長期にわたることが多い.そのため,眼圧下降効果のみならず,副作用や使用感,経済的負担などを考慮し,患者に応じた最適な薬剤の選択が望まれる.薬剤の選択肢が広がることは,より最適な薬剤処方の実現に寄与するとともに,近年,わが国における薬剤の選択肢は大きな変化を示している.イソプロピルウノプロストン点眼液およびラタノプロスト点眼液が発売されて以降,これらのPG関連薬が薬物治療のおもな第一選択薬として使用されてきた.近年にはトラボプロスト点眼液,タフルプロスト点眼液およびビマトプロスト点眼液が登場し,PG関連薬の選択肢が大きく広がった.さらに最近,一部のPG関連薬とチモロールマレイン酸塩の配合点眼液が発売され,さらに薬剤の選択肢が広がっている.各種のPG関連薬の眼圧下降効果については多くの報告がある3.6).また,副作用については緑内障患者のアドヒアランスへの影響が大きいとされる結膜充血に関する報告が多い7,8).その一方で,緑内障患者が角膜疾患を併発しているケースも少なくないなかで,わが国で使用されているPG関連薬を使用した角膜障害性に関する報告はほとんどない.そこで,今回は4種のPG関連薬の角膜障害性についてウサギ角膜上皮細胞を使用して比較検討することにした.本研究では,各種PG関連薬およびその希釈液を使用して,細胞死の指標であるLDHassay法9.11)と細胞増殖の指標であるMTTassay法12)で角膜上皮細胞に対する障害性を調べた.その結果,各種PG関連薬でウサギ角膜上皮細胞に対する影響に差が認められ,さらにLDHassay法およびMTTassay法ともに同様の傾向が認められた.ウサギ角膜上皮細胞に対して最も強い毒性を示したのはラタノプロスト点眼液で,続いてタフルプロスト点眼液,ビマトプロスト点眼液であり,トラボプロスト点眼液はウサギ角膜上皮細胞に対して最も影響が少ない薬剤であることが明らかとなった.点眼薬は主薬のほかに等張化剤,緩衝剤,可溶化剤,安定化剤,防腐剤,粘稠化剤などが含まれており,点眼薬による角膜上皮障害を考えるうえで,これら添加剤の影響も十分に考慮する必要がある.特に防腐剤のなかではベンザルコニウム塩化物(benzalkoniumchloride:BAK)による角膜上皮障害については多くの報告があり13.16),今後,抗緑内障点眼薬中の薬効成分以外の成分に関する検討も必要であると考えられる.各種PG関連薬の主薬の細胞障害性については,Guenounらがヒト結膜上皮細胞を使用した結果を報告している17).その結果では,ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストの順で障害性が高かったことを示している(タフルプロストは非使用).本研究に用いたPG関連薬に含まれる主薬の濃度は,ビマトプロスト:0.03%,ラタノプロスト:0.005%,トラボプロスト:0.004%,タフルプロスト:0.0015%の順で高いが,BAKを含まないトラボプロストが最も細胞毒性が少なく,BAKを含む薬剤のなかでは主薬の濃度が最も高いビマトプロストが最も細胞毒性が少なかった.Guenounらの主薬の細胞障害性の報告と,今回筆者らが実施した製剤の細胞障害性の結果が相関しなかった理由については,BAKの影響が少なからず関与している可能性があると考えられた.BAKは陽イオン界面活性剤であり,その作用は細菌の細胞膜を溶解し,細胞質の変成を起こすことである.本研究で用いたわが国で発売となっているPG関連薬のなかで,BAKを含有するものは,ラタノプロスト点眼液,タフルプロスト点眼液,ビマトプロスト点眼液であり,BAKの含有量2)はラタノプロスト点眼液が0.02%,タフルプロスト点眼液は0.01%,ビマトプロスト点眼液は0.005%と報告されている.一方,トラボプロスト点眼液に含まれる防腐剤はsofZiaRである.sofZiaRはホウ酸/ソルビトール存在下で塩希釈濃度(倍)0.10.20.30.40.50.6細胞障害率(%)100806040200-20:ラタノプロスト0.005%(LAT):タフルプロスト0.0015%(TAF):ビマトプロスト0.03%(BIM):トラボプロスト0.004%(TRA)LATy=0.1721Ln(x)+1.0575TAFy=0.157Ln(x)+0.9837BIMy=0.1466Ln(x)+0.8467TRAy=0.1112Ln(x)+0.5078図4各種PG関連薬のウサギ角膜上皮細胞増殖抑制率の近似曲線890あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(138)化亜鉛が保存効果を示す防腐剤であり,BAKよりも細胞障害性が低いことが報告されている18.21).今回の筆者らの結果では,製剤の細胞障害性がトラボプロスト点眼液を除くとBAKの含有濃度に依存すること,また既報のとおりBAKよりもsofZiaRが細胞障害性を誘発しにくいことが示唆された.以上,各種PG関連薬についてinvitroでウサギ角膜上皮細胞障害性について検討した.実際の臨床では個々の症例について,涙液動態,角膜知覚,糖尿病などの基礎疾患を併発する場合など,角膜および点眼薬にまつわる環境はさまざまであり,薬剤そのものの細胞障害性だけでは副作用の発現を予測できない場合もある.しかし,本研究のモデルは,PG関連薬の臨床で用いられている製品を,ウサギ角膜上皮細胞に接触させたときの細胞障害性を比較したものであり,各薬剤の細胞障害性のポテンシャルを把握するうえでは有用であると考える.ただし,本試験系では製剤中の主薬および添加物の代謝などの要因が加味されないため,実際の緑内障患者における点眼時の各々の眼表面の挙動とは相違すること,さらにタフルプロスト点眼液が最近,BAKの濃度を低減していることも併せて考慮する必要がある.緑内障治療は,その患者にとってほぼ生涯にわたり治療が継続されることが多いことから,各点眼薬の特性,眼圧下降効果および副作用などを十分理解したうえで,その患者に最も適した薬剤を選択することは不可欠である.そのことが患者のアドヒアランスの向上に繋がり,継続可能でより効果的な治療が行えることになるであろうと考える.文献1)HerrerasJM,PastorJC,CalongeMetal:Ocularsurfacealterationafterlong-termtreatmentwithanantiglaucomatousdrug.Ophthalmology99:1082-1088,19922)青山裕美子:緑内障点眼薬の基剤と防腐剤.臨眼63(増刊):252-259,20093)ChengJW,CaiJP,LiYetal:Ameta-analysisoftopicalprostaglandinanalogsinthetreatmentofchronicangleclosureglaucoma.JGlaucoma18:653-657,20094)ParrishRK,PalmbergP,SheuWP:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:A12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,20035)StewartWC,KonstasAGP,NelsonLAetal:Meta-analysisof24-hourintraocularpressurestudiesevaluatingtheefficacyofglaucomamedicines.Ophthalmology115:1117-1122,20086)OrzalesiN,RossettiL,BottoliAetal:Comparisonoftheeffectsoflatanoprost,travoprost,andbimatoprostoncircadianintraocularpressureinpatientswithglaucomaorocularhypertension.Ophthalmology113:239-246,20067)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20088)EyawoO,NachegaJ,LefebvrePetal:Efficacyandsafetyofprostaglandinanaloguesinpatientswithpredominantlyprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension:ameta-analysis.ClinOphthalmol3:447-456,20099)DeckerT,Lohmann-MatthesML:Aquickandsimplemethodforthequantitationoflactatedehydrogenasereleaseinmeasurementsofcellularcytotoxicityandtumornecrosisfactor(TNF)activity.JImmunolMethods115:61-69,198810)KorzeniewskiC,CallewaertDM:Anenzyme-releaseassayfornaturalcytotoxicity.JImmunolMethods64:313-320,198311)MurphyTH,MaloufAT,SastreAetal:Calcium-dependentglutamatecytotoxicityinaneuronalcellline.BrainRes444:325-332,198812)HansenMB,NielsenSE,BergK:Re-examinationandfurtherdevelopmentofapreciseandrapiddyemethodformeasuringcellgrowth/cellkill.JImmunolMethods119:203-210,198913)PfisterRR,BursteinN:Theeffectsofophthalmicdrugs,vehicles,andpreservativesoncornealepithelium:ascanningelectronmicroscopestudy.InvestOphthalmolVisSci15:246-259,197614)BursteinNL,KlyceSD:Electrophysiologicandmorphologiceffectsofophthalmicpreparationsonrabbitcorneaepithelium.InvestOphthalmolVisSci16:899-911,197715)LiangH,BaudouinC,FaureMOetal:Comparisonoftheoculartolerabilityofalatanoprostcationicemulsionversusconventionalformulationsofprostaglandins:aninvivotoxicityassay.MolVis15:1690-1699,200916)WhitsonJT,CavanaghHD,LakshmanNetal:Assessmentofcornealepithelialintegrityafteracuteexposuretoocularhypotensiveagentspreservedwithandwithoutbenzalkoniumchloride.AdvTher23:663-671,200617)GuenounJM,BaudouinC,RatPetal:Invitrostudyofinflammatorypotentialandtoxicityprofileoflatanoprost,travoprost,andbimatoprostinconjunctiva-derivedepithelialcells.InvestOphthalmolVisSci46:2444-2450,200518)HorsleyMB,KahookMY:Effectsofprostaglandinanalogtherapyontheocularsurfaceofglaucomapatients.ClinOphthalmol3:291-295,200919)KahookMY,NoeckerRJ:ComparisonofcornealandconjunctivalchangesafterdosingoftravoprostpreservedwithsofZia,latanoprostwith0.02%benzalkoniumchloride,andpreservative-freeartificialtears.Cornea27:339-343,200820)YeeRW,NorcomEG,ZhaoXC:Comparisonoftherelativetoxicityoftravoprost0.004%withoutbenzalkoniumchlorideandlatanoprost0.005%inanimmortalizedhumancorneaepitherialcellculturesystem.AdvTher23:511-519,200621)BaudouinC,RianchoL,WarnetJMetal:Invitrostudyofantiglaucomatousprostaglandinanalogues:travoprostwithandwithoutbenzalkoniumchlorideandpreservedlatanoprost.InvestOphthalmolVisSci48:4123-4128,2007

塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト点眼薬の球結膜充血

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(107)563《原著》あたらしい眼科28(4):563.567,2011cはじめに現在,緑内障の第一選択薬であるプロスタグランジン(PG)関連薬は,強力な眼圧下降効果を示し,かつ全身副作用が少ない1).しかし,結膜充血,虹彩・眼瞼色素沈着,睫毛異常などのPG関連薬特有の眼局所副作用2)が懸念される.トラボプロスト点眼薬は,PG関連薬の一つであり,眼圧下降効果に密接に関連していると考えられるFP受容体に選択的なフルアゴニストである3).日本で承認されたトラボプラスト点眼薬は,ベンザルコニウム塩化物(benzalkoniumchloride:BAC)を含まず,防腐剤としてsofZiaTMを含有し〔別刷請求先〕比嘉利沙子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:RisakoHiga,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト点眼薬の球結膜充血比嘉利沙子*1井上賢治*1塩川美菜子*1菅原道孝*1増本美枝子*1若倉雅登*1相原一*2富田剛司*3*1井上眼科病院*2東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学*3東邦大学医学部眼科学第二講座ConjunctivalHyperemiaafterTreatmentwithBAC-FreeTravoprostOphthalmicSolutionRisakoHiga1),KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),MichitakaSugahara1),MiekoMasumoto1),MasatoWakakura1),MakotoAihara2)andGojiTomita3)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine2008年4月から2009年2月に,井上眼科病院でベンザルコニウム塩化物(benzalkoniumchloride:BAC)非含有トラボプラスト点眼薬を新規処方した正常眼圧緑内障患者60例60眼を対象とした.BAC非含有トラボプロスト点眼薬による結膜充血について調査した.BAC非含有トラボプロスト点眼薬は,1日1回点眼し,点眼開始前と点眼1カ月後に撮影した耳側球結膜のスリット写真より,結膜充血の発現率と程度を評価した.結膜充血の程度は,独自に作成した基準写真の6段階グレード分類で,変化なし18例(30%),1段階変化31例(51%),2段階変化10例(17%),3段階変化1例(2%)であり,2段階以上の顕著な充血増強は全体の19%であった.自記式質問調査による自覚的評価では,2週間まで29例(49%)が結膜充血を自覚したが,最終的には19例(32%)が持続して自覚した.6段階評価によるBAC非含有トラボプロスト点眼薬の結膜充血増強は42例(70%)に認めたが,増強例の74%は1段階の軽微な変化であり,点眼継続に支障をきたすことはなかった.Thisstudyinvolved60eyesof60Japanesenormal-tensionglaucomapatientstreatedwithtravoprostwithoutbenzalkoniumchloride(BAC)atInouyeEyeHospitalbetweenApril2008andFebruary2009.Theconjunctivalhyperemiaofeachpatientwasgradedandassessedfromphotographsofthetemporalconjunctivatakenbothbeforeandat1monthaftertreatment.Findingsshowedconjunctivalhyperemiainvariousdegreesofchangebetweenpre-andpost-treatment.Hyperemiawithnochangewasseenin18cases(30%),onedegreeofchangein31cases(51%),twodegreesofchangein10cases(17%)andthreedegreesofchangein1case(2%).Patients’self-assessmentfoundconjunctivalhyperemiain29cases(49%).Althoughconjunctivalhyperemiaincreasewasfoundin42cases(70%),mostofsuchincreasesweremild;nocasesrequireddiscontinuationoftreatmentbytravoprostwithoutBAC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(4):563.567,2011〕Keywords:トラボプロスト点眼薬,副作用,結膜充血,正常眼圧緑内障,プロスタグランジン関連薬.travoprost,adversereaction,conjunctivalhyperemia,normal-tensionglaucoma,prostaglandinanalogs.564あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(108)ている.結膜充血は,トラボプロスト点眼薬の最も頻度の高い眼局所副作用であり4~10),アドヒアランスを左右する要素である.しかし,これまで,日本人を対象としたBAC非含有トラボプロスト点眼薬の結膜充血の発現率や程度については,十分な検証は行われていない.そこで,筆者らは眼局所作用のなかでも結膜充血に着眼し,BAC非含有トラボプロスト点眼薬による結膜充血の客観的評価を試みた.I対象および方法2008年4月から2009年2月に,井上眼科病院でBAC非含有トラボプロスト点眼薬(トラバタンズR0.004%点眼液,日本アルコン)を新規に処方した正常眼圧緑内障患者60例60眼(男性23例,女性37例)を対象とした.年齢(平均値±標準偏差値)は55.1±13.2歳(28~83歳),観察期間は31.8±5.8日(22~48日)であった.正常眼圧緑内障の診断基準は,①日内変動を含む複数回の眼圧測定で眼圧が21mmHg以下であり,②視神経乳頭と網膜神経線維層に緑内障に特有な形態的特徴(視神経乳頭辺縁部の菲薄化,網膜神経線維層欠損)を有し,③それに対応する視野異常が高い信頼性と再現性をもって検出され,④視野異常の原因となりうる他の眼疾患や先天異常がなく,⑤さらに隅角鏡検査で両眼正常開放隅角を示すものとした.両眼点眼例では,右眼を解析眼とした.緑内障患者60名に,BAC非含有トラボプロスト点眼薬を,1日1回,夕方以降就寝前の同一時間帯に点眼し,1カ月後の来院まで継続使用することを指示した.他覚的評価は写真判定とし,点眼開始前に140万画素CCD(KD-140C,興和)を搭載したフォトスリットランプ(SC-1200,興和)で,耳側球結膜を一定照度,30°方向からのスリット照明下で撮影した.1カ月後は,点眼開始前の写真と比較をせずに条件のみを統一し撮影した.写真撮影は,熟練した写真撮影技師3名が行った.写真判定に際しては,点眼前後のペア写真を提示して行った.その際,点眼した事実が認識されるため点眼後の充血スコアが高く評価されるというバイアスがかかることが十分考えられる.そのため,意図的に未点眼群の1カ月おいて撮影した写真2枚をコントロールとして緑内障患者群の点眼前後の写真に混在させることで,点眼の有無にかかわらず充血スコアを正当に評価できるよう努めた.そのためのコントロール群は,井上眼科病院職員よりコンタクトレンズ未使用,点眼薬未使用,眼疾患および眼合併症の可能性のある全身疾患の既往がないことを条件に有志を募り,屈折異常以外に器質的眼疾患がないことが確認された5名5眼(男性2例,女性3例)とした.年齢は40.1±15.1歳(24~64歳),右眼を解析眼とした.結膜充血スコア分類および判定方法結膜充血を評価するために独自に6段階のグレード分類基準写真を作成した(図1).眼疾患を有しない健常人ボランティア30名に対し,BAC非含有トラボプロスト点眼薬を1回点眼することにより惹起される耳側結膜充血をスリットランプにより撮影した.耳側30°方向からの撮影を,9時点眼充血なしグレード1グレード2グレード3グレード4グレード5グレード0図1結膜充血のグレード分類独自に作成した6段階のグレード分類を基準写真として用いた.(109)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011565直前,および点眼後1,2,3,6,12時間にわたり6回撮影し,最も充血が顕著であった症例を基準として採用し,充血スコア0から5までの6段階にスコア化した.この基準写真を元に,写真判定は,該当患者を診察したことのない3名の眼科専門医が個別に行った.判定医には,画像ファイリングシステム(VK-2,興和)より印刷した写真に,症例別に点眼前後のみを表記したペア写真で提示した.さらに判定には,未点眼のコントロール群の1カ月おいて撮影したペア写真をランダムに混入させた.結膜充血の程度は,基準写真を用いたグレード分類によるスコア差(1カ月後.点眼前)が,判定医2名が一致した評価を採用し,一致しなかった場合,第3の判定医の判断により評価を決定した.自記式質問調査方法点眼開始から1カ月後の再来院時に,アドヒアランスに問題がなかったことを問診で確認のうえ,検査員より自記式質問調査表(表1)を患者に配布した.問1の設問に対しては,1時間単位で記載し,問2から4の設問に対しては,回答肢より選択した結果を自己記入後,診察前に検査員が回収した.判定医間のスコア値はKruskal-Wallis検定およびk係数,点眼前と1カ月後のスコア値はWilcoxon符号付順位検定を用い,統計学的解析を行った.有意水準をp<0.05とした.本臨床研究は,井上眼科病院倫理審査委員会で承認後,文書による同意を得て実施した.II結果緑内障患者60名に1カ月間BAC非含有トラボプロスト点眼薬を点眼したところ,副作用や未来院による脱落症例はなかった.1.他覚的評価緑内障患者60名に対する判定医3名の合計充血スコア値は,点眼前は57,51,51(スコア平均値53),点眼1カ月後は合計103,121,105(スコア平均値110)であり,判定医間に有意差を認めなかった(Kruskal-Wallis検定p=0.57,0.21).k係数は,点眼前0.51,点眼1カ月後0.51であった.点眼前と1カ月後のスコア値は,それぞれ有意差を認めた(p<0.0001,Wilcoxon符号付順位検定).結膜充血の程度は,基準写真のグレード分類で変化なし18例(30%),1段階変化31例(51%),2段階変化10例(17%),3段階変化1例(2%)であった.変化のあった42例中31例(74%)は,基準写真を用いたグレード分類で,1段階変化と軽微な変化であった(図2).程度分類については,判定医2名とも不一致な症例はなかった.コントロール症例の結膜充血の変化はなかった.2.自覚的評価点眼薬のアドヒアランスは全例良好で,自記式質問調査の回収率は100%であった.点眼時間は,20時前が10例(17%),20時以降22時前が13例(22%),22時以降24時前が33例(55%),24時以降が4例(6%)であった.表1自記式質問調査表問1:毎日,何時ごろに点眼をしましたか?問2:点眼をはじめてから,今までに充血が気になることはありましたか?①気になることはなかった②はじめは気になったが,今は気にならない③少し気になる④気になる⑤かなり気になる問3:問2の②を選択した方にお伺いします.充血が気になっていた期間は,どれくらいですか?①3日目まで②1週間目まで③2週間まで④1カ月まで問4:問2の③④⑤を選択した方にお伺いします.充血が気になった時間は,点眼後どれくらいですか?①約2時間②翌朝まで③それ以上点眼後の充血について10例(17%)10例(17%)気になる時間2時間まで2例翌朝まで10例それ以上7例気になっていた期間3日まで6例1週間まで2例2週間まで2例気にならない31例(51%)はじめだけ気になったかなり気になる4例(7%)気になる5例(8%)少し気になる図3結膜充血の自覚的評価変化なし30%(18例)1段階変化51%(31例)2段階変化17%(10例)3段階変化2%(1例)図2結膜充血の程度基準写真を用いたグレード分類を基に評価した.566あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(110)自記式質問調査では,結膜充血について,31例(51%)は「気にならない」と回答した(図3).つぎに「はじめだけ気になった」症例が10例(17%)を占めたが,全例2週間までに気にならなくなった.したがって,期間終了時では41例(68%)が「気にならない」と評価した.一方,観察期間終了時点でも「気になる」症例は19例(32%)であった.内訳は図3のとおり,半数以上が「少し気になる」10例(全体の17%)であり,明らかに「気になる」症例は9例(15%)であった.結膜充血の自覚と他覚的評価の対応を表2に示す.自覚的に「気にならない」と回答した31例中6例は他覚的評価では基準写真によるグレード分類で2段階以上の変化であり,「気になる」,「かなり気になる」と回答した9例中5例は他覚的には変化なしであり,自覚と他覚的評価には解離があった(表2).III考按本試験では,BAC非含有トラボプロスト点眼液により1カ月の連続点眼後70%の症例で充血が増強したが,そのうち74%(全体の51%)は1段階の軽微な増強であった.全体の19%で2段階以上の充血スコアの増強を認めた.自覚的には51%が充血を気にならないと評価したが,約半数は充血を気にしていることになった.本調査では,結膜充血を客観的に評価するため,①写真判定,②複数医師による同時判定,③基準スケールには画像採用,④患者背景は非公開,⑤判定には非点眼の正常眼を含むなどの工夫を行った.しかし,最終点眼から写真撮影時間が統一されていないことや,同一眼で異なった日時で評価の再現性を確認していないこと,など評価方法の課題が残ることは否めない.PG関連薬の副作用の大部分は充血である.特に,ラタノプロスト以降発売されたPG関連薬,トラボプロスト,ビマトプロスト,タフルプロストのほうが,充血が強いと報告されている11,12).ところが,結膜表面に及ぼす副作用のメカニズムについては,これまで明らかにされていない.しかも点眼薬製剤では主剤と基剤の両面から副作用を考える必要がある.主剤であるPG関連薬はFP受容体刺激により眼圧下降効果を惹起する13)が,そのFP受容体に対する直接刺激が血管拡張を起こす可能性と,FP受容体刺激により内因性のPGが産生されることで二次的に血管拡張を起こす可能性がある14).眼表面ではPG関連薬は基本的にプロドラッグであるはずであるが,プロドラッグのままのトラボプロストとその代謝されて活性型となったトラボプロスト酸型が,どの程度結膜血管に作用するかは,今後の検討を要する課題である.また,今回BAC非含有トラボプロスト点眼薬(トラバタンズR0.004%点眼液)を用いたが,他のPG関連薬についても,同判定方法で結膜充血の発現率を評価し比較検討する必要がある.一方,点眼薬は基剤としてさまざまな薬剤が混入されている.特に防腐剤であるBACは,易水溶性,室温での長期安定性,広域な抗菌性,強力な抗菌力を有することなどから,点眼薬に広く用いられているが,一方では,細胞毒性による角膜上皮障害やアレルギー反応など眼表面にさまざまな障害をひき起こすことが問題視されてきた15).この主剤と基剤の面からみると,過去の文献ではBAC含有量が等しい0.0015%と0.004%のトラボプロスト点眼薬の結膜充血の発現率は38.0%と49.5%であった4).Lewisら10)は,BAC含有とBAC非含有トラボプロスト点眼薬を比較し,結膜充血は9.0%と6.4%,角膜上皮障害は1.2%と0.3%にみられたことを報告している.安全性については,同等であったと結論付けているが,BAC非含有トラボプロスト点眼薬が結膜充血,角膜上皮障害ともに発現率が少ない傾向にあった.このことから,過去のBAC含有トラボプロスト点眼薬の結膜充血発現率は,主剤のトラボプロスト濃度依存性とともにBACの影響と捉えられることができる.トラボプロスト点眼薬の結膜充血発現率は6.3~58.0%と報告4~10)され(表3),対象(人種差,年齢)や研究デザイン(BAC含有の有無,判定方法)などの違いにより単純に比較することはできないが,本試験はBAC非含有トラボプロストにもかかわらず,70%で充血表3トラボプロスト点眼薬による結膜充血の発現率報告者報告年濃度(%)防腐剤(BAC)症例数(眼)発現率(%)Netland4)20010.0015+20538.00.004+20049.5Parrish5)20030.004+13858.0Parmaksiz6)20060.004+1838.9Chen7)20060.004+3713.5Garcia-Feijoo8)20060.004+326.3Konstas9)20070.004+4038.0Lewis10)20070.004+3399.00.004.3226.4表2結膜充血の自覚と他覚的評価の比較自覚的評価他覚的評価変化計なし1段階変化2段階変化3段階変化気にならない9165131はじめのみ280010少し気になる262010気になる40105かなり気になる11204計183110160他覚的評価は基準写真を用いたグレード分類からの変化を示す.(111)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011567スコアが増加した.しかし不変であった例も含めた全体の51%が1段階の変化であり,臨床的に問題となる変化ではないと考える.19%は2段階以上の変化であり,これは明らかな充血増強と捉えることができる.この充血スコア変化と過去の充血の出現率の直接の比較は困難であるが,少なくともBAC非含有トラボプロスト点眼薬であるため,純粋にトラボプロストの副作用として評価できよう.本試験での充血変化が高かった理由としては,基準となるグレード分類を6段階とかなり詳細なものを用いたため,微細な変化も捉えた結果と考えた.他覚的評価と自覚的評価が一致しなかったことについては,処方時に結膜充血を含む眼局所副作用について統一した説明を行ったが,説明を受けたため気にならなかった患者と逆に意識的に自己チェックした患者の個性が反映された結果と考えた.このような臨床試験への参加は患者の意識を過剰にさせる可能性があり,通常臨床投与の際はこの副作用頻度より少ない可能性もある.本試験では1カ月点眼であったが,長期投与での変化については今後の検討を要する.本試験中は,副作用による脱落はなかったが,臨床的には約半数が自覚的に充血を気にすることを考えると,トラボプロストに限らず,PG関連薬の共通の副作用である充血に対して,投与の際には十分留意させるとともに眼圧下降の重要性を指導することで脱落を防ぎ,アドヒアランスを保つことが重要である.本論文の要旨は,第113回日本眼科学会総会で報告した.文献1)WatsonP,StjernschantzJ,theLatanoprostStudyGroup:Asix-month,randomized,double-maskedstudycomparinglatanoprostwithtimololinopen-angleglaucomaandocularhypertension.Ophthalmology103:126-137,19962)井上賢治,若倉雅登,井上治郎ほか:ラタノプロスト使用患者の眼局所副作用.日眼会誌110:581-587,20063)HellbergMR,SalleeVL,McLaughlinMAetal:Preclinicalefficacyoftravoprost,apotentandselectiveFPprostaglandinreceptoragonist.JOclPharmcolTher17:421-432,20014)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,20015)ParrishRK,PalmbergP,SheuWPetal:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:A12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,20036)ParmaksizS,YukselN,KarabasVLetal:Acomparisonoftravoprost,latanoprost,andthefixedcombinationofdorzolamideandtimololinpatientswithpseudoexfoliationglaucoma.EurJOphthalmol16:73-80,20067)ChenMJ,ChenYC,ChouCKetal:Comparisonoftheeffectsoflatanoprostandtravoprostonintraocularpressureinchronicangle-glaucoma.JOculPharmacolTher22:449-454,20068)Garcia-FeijooJ,delaCasaJM,CastilloAetal:CircatianIOP-loweringefficacyoftravoprost0.004%ophthalmicsolutioncomparedtolatanoprost0.005%.CurrMedResOpin22:1689-1697,20069)KonstasAG,KozobolisVP,KatsimprisIEetal:Efficacyandsafetyoflatanoprostversustravoprostinexfoliativeglaucomapatients.Ophthalmology114:653-657,200710)LewisRA,KatzGL,WeissMJetal:Travoprost0.004%withandwithoutbenzalkoniumchloride:acomparisonofsafetyandefficacy.JGlaucoma16:98-103,200711)StewartWC,KolkerAE,StewartJAetal:Conjunctivalhyperemiainhealthysubjectsaftershort-termdosingwithlatanoprost,bimatoprost,andtravoprost.AmJOphthalmol135:314-320,200312)HonrubiaF,Garcia-Sanchez,PoloVetal:Conjunctivalhyperaemiawiththeuseoflatanoprostversusotherprostaglandinanaloguesinpatientswithocularhypertensionorglaucoma:ameta-analysisofrandomisedclinicaltrials.BrJOphthalmol93:316-321,200813)OtaT,AiharaM,NarumiyaSetal:TheeffectsofprostaglandinanaloguesonIOPinprostanoidFP-receptordeficientmice.InvestOphthalmolVisSci46:4159-4163,200514)HinzB,RoschS,RamerRetal:Latanoprostinducesmatrixmetalloproteinase-1expressioninhumannonpigmentedciliaryepithelialcellsthroughacyclooxygenase-2-dependentmechanism.FASEBJ19:1929-1931,200515)相良健:オキュラーサーフェスへの影響─防腐剤の功罪.あたらしい眼科25:789-794,2008***

3 種のプロスタグランジン製剤の眼圧下降効果の比較検討

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(133)441《原著》あたらしい眼科28(3):441.443,2011cはじめに高眼圧は緑内障の発症,進行の最大の危険因子であり,緑内障治療においては,眼圧下降が唯一の科学的根拠のある治療法とされている1~5).緑内障点眼薬のなかでは眼圧下降効果が強力かつ持続的で全身副作用の少ないプロスタグランジン(PG)製剤が第一選択薬として広く用いられている6,7).わが国では1999年に0.005%ラタノプロスト点眼液(Lat)が上市されたが,その後,2007年には0.004%トラボプロスト点眼液(Tra),2008年には0.0015%タフルプロスト点眼液(Taf)が上市され,PG製剤の選択肢が広がった.一方でこれらのPG製剤を使い分ける明確な基準はまだ存在しない.今回,筆者らはこの3種のPG製剤の眼圧下降効果の差異につき比較検討したので報告する.I対象および方法コンタクトレンズ非装用の健常者ボランティア37名74眼(男性20名,女性17名,平均年齢20.8±1.6歳)を対象とした.左右眼には3種のPG製剤,Lat,Tra,Tafのうち異なる2剤をランダムに割り振り,1日1回1週間点眼した.点眼開始前(点眼前),初回点眼開始1時間後(1時間後),初回点眼開始1週間後(1週間後),および点眼を中止してから1週間後(中止1週間後)にGoldmann圧平眼圧計を用いて眼圧を測定した.同一例左右眼における異なる2剤のPG製剤の1週間後の眼圧下降率(点眼前眼圧から1週間後眼圧を差し引き点眼前眼圧で除したもの)について二重盲検法によって検証した.異なる2剤のPG製剤間の比較は,Latと〔別刷請求先〕木村健一:〒629-0392京都府南丹市日吉町保野田ヒノ谷6-1明治国際医療大学眼科学教室Reprintrequests:KenichiKimura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MeijiUniversityofIntegrativeMedicine,6-1Hinotani,Honoda,Hiyosi-cho,Nantan-shi,Kyoto629-0392,JAPAN3種のプロスタグランジン製剤の眼圧下降効果の比較検討木村健一*1長谷川謙介*2寺井和都*1*1明治国際医療大学眼科学教室*2明治国際医療大学健康予防鍼灸学部IntraocularPressure-LoweringEffectof3KindsofProstaglandinAnalogsKenichiKimura1),KensukeHasegawa2)andKazutoTerai1)1)DepartmentofOphthalmology,MeijiUniversityofIntegrativeMedicine,2)DepartmentofHealthPromotingandPreventiveAcupunctureandMoxibustion,MeijiUniversityofIntegrativeMedicine健常者37名の左右眼それぞれに異なるプロスタグランジン製剤を1週間点眼した.点眼前,点眼開始1時間後,点眼開始1週間後および点眼を中止してから1週間後に眼圧測定を行い,眼圧下降効果について二重盲検法によって検証した.左右眼にはラタノプロスト(Lat),トラボプロスト(Tra),タフルプロスト(Taf)のうち2剤をランダムに割り振り,Lat-Tra群(n=10),Tra-Taf群(n=14),Taf-Lat群(n=13)とした.統計的解析は対応のあるt検定を用いた.いずれのプロスタグランジン製剤も点眼開始1週間後には点眼前と比較して有意に眼圧が下降したが,各プロスタグランジン製剤の眼圧下降率に有意差は認められなかった.3剤の眼圧下降効果はほぼ同等であることが確認された.Toevaluatetheintraocularpressure-loweringeffectof3kindsofprostaglandinanalogs,weadministeredvariouscombinationsoflatanoprost(Lat),travoprost(Tra)andtafluprost(Taf)totheeyesofhealthyvolunteers(n=37)inonce-dailyapplicationsfor1week.Thesubjectswererandomizedinto3groups:Lat-Tra(n=10),Tra-Taf(n=14)andTaf-Lat(n=13)groups.Intraocularpressure(IOP)wasmeasuredatbaseline,at1hour,1weekand2weeksafterinitiation.StatisticaldifferenceswereanalyzedbyStudent’spaired-ttest.ResultsshowedsignificantdecreaseinIOPafteroneweek.NosignificantIOPreductionrateswereobservedineithereyeofanyvolunteerineachgroupafter1week.WeconcludedthateachprostaglandinanalogcanachievesimilarIOP-loweringeffects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):441.443,2011〕Keywords:プロスタグランジン関連薬,眼圧下降効果,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト.prostaglandinanalogs,intraocularpressure-loweringeffect,latanoprost,travoprost,tafluprost.442あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(134)Traを割り振った群をLat-Tra群,TraとTafを割り振った群をTra-Taf群,TafとLatを割り振った群をTaf-Lat群とした.なお,データはすべて平均±標準偏差で示した.統計的解析は対応のあるt検定を用いた.また,すべての被験者に本研究の目的,意義,方法,予測される危険性について医師が説明し,文書による同意を得た後に行った.II結果対象の背景を表1に示す.Lat-Tra群の眼圧変化を図1に示す.Lat点眼では点眼前12.6,1週間後10.0mmHgで,眼圧下降率は20.8±10.2%であった.Tra点眼では点眼前12.8,1週間後9.5mmHgで,眼圧下降率は25.8±12.0%であった.2剤の眼圧下降率に有意差を認めなかった(p=0.2237).Tra-Taf群の眼圧変化を図2に示す.Tra点眼では点眼前14.7,1週間後10.5mmHgで,眼圧下降率は28.6±16.2%であった.Taf点眼では点眼前15.3,1週間後11.0mmHgで,眼圧下降率は27.5±14.7%であった.2剤の眼圧下降率に有意差を認めなかった(p=0.7548).Taf-Lat群の眼圧変化を図3に示す.Taf点眼では点眼前12.8mmHg,1週間後9.2mmHgで,眼圧下降率は28.7±13.0%であった.Lat点眼では点眼前12.5mmHg,1週間後9.7mmHgで,眼圧下降率は23.1±11.0%であった.2剤の眼圧下降率に有意差を認めなかった(p=0.0623).III考按今回,Lat,Tra,TafのいずれのPG製剤においても1週間後には点眼前と比較して有意な眼圧下降が認められた.一方で,各PG製剤間の眼圧下降率には有意差を認めなかった.この3剤は緑内障治療薬の第一選択薬として広く用いられているが,使い分けるための明確な基準がないため,日常診療においてはいずれのPG製剤を用いるべきか判断するのが困難である.Latはわが国で10年以上の使用経験がある使い慣れた点眼薬で,その安定した眼圧下降効果は報告されている7).しかし,眼圧下降率には個人差があり,期待された眼圧下降の得られないいわゆるノンレスポンダーの存在も指摘されている8~10).このためTra,Tafにおいても眼圧下降率には個人差が生じ,十分な眼圧下降が得られない可能性も考えられる.緑内障治療における薬物療法は生涯にわたって点眼が必要であり,視機能を維持するためには1mmHgでも大きな眼圧下降が望まれるため5),点眼の導入にあたってはいずれのPG製剤を用いるべきかの選択が重要である.緑内障ガイドライン11)では,「点眼の導入にあたって,できれば片眼に投与してその眼圧下降や副作用を判定(片眼トライアル)し,効果を確認の後両眼に投与を開始することが望ましい」とされ,臨床的にレスポンダー,ノンレスポンダーを見分ける方法として点眼薬の片眼トライアルが推奨されてきた.片眼トライアルを成立させるためには,「1.トライアルの開始時に両眼とも同じ眼圧,2.両眼は同様な日内変動をする,3.片眼に投与する薬剤は他眼に影響を及ぼさないも表1対象の背景年齢(歳)(mean±SD)性別(男/女)全体(n=37)20.8±1.620/17Lat-Tra群(n=10)20.1±1.74/6Tra-Taf群(n=14)21.1±2.05/9Taf-Lat群(n=13)20.8±1.611/216.014.012.010.08.06.04.02.00.0点眼前1時間後1週間後中止1週間後■:Lat■:Tra*,#:p=0.0001眼圧(mmHg)*#図1Lat.Tra群の眼圧変化16.014.012.010.08.06.04.02.00.0点眼前1時間後1週間後中止1週間後■:Taf■:Lat眼圧(mmHg)***#*,#:p<0.0001**:p<0.01図3Taf.Lat群の眼圧変化20.018.016.014.012.010.08.06.04.02.00.0点眼前1時間後1週間後中止1週間後■:Tra■:Taf眼圧(mmHg)*###*,#:p<0.0001**,##:p<0.01**図2Tra.Taf群の眼圧変化(135)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011443のであること」という前提条件がある12).この前提条件の3.に関しては,Latは非点眼側の眼圧は変化させなかった13)という報告があるため,PG製剤の導入にあたっては片眼トライアルが可能であると考えられている14).しかし,日常診療においては厳密に前提条件が満たされた理想的条件で評価できるとは限らないため,今回は両眼に異なる2剤のPG製剤を用いて眼圧下降効果を比較検討した.なお,副作用に関しては他で報告する予定である.今回の検討は対象が正常者で,点眼期間も1週間であり,眼圧下降率を評価するための眼圧測定も1回のみという問題点があるため,個々の症例にPG製剤を導入するにあたってはより理想的な条件のもとで,いずれのPG製剤で最大の眼圧下降効果が得られるかを確認することが重要であると考えられた.IV結論今回の検討では種類の異なるPG製剤間の眼圧下降効果には有意差を認めなかった.本論文の要旨は第20回日本緑内障学会(2009年11月,沖縄県)において発表した.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormaltensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19982)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19983)TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS)7:Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20004)LichterPR,MuschDC,GillespieBWetal:fortheCIGTSStudyGroup:InterimclinicaloutcomesintheCollaborativeInitialGlaucomaTreatmentStudycomparinginitialtreatmentrandomizedtomedicationsorsurgery.Ophthalmology108:1943-1953,20015)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment:theearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol121:48-56,20036)O’ConnorDJ,MartoneJF,MeadA:Additiveintraocularpressureloweringeffectofvariousmedicationswithlatanoprost.AmJOphthalmol133:836-837,20027)KashiwagiK,TsumuraT,TsukaharaS:Long-termeffectsoflatanoprostmonotherapyonintraocularpressureinJapaneseglaucomapatients.JGlaucoma17:662-666,20088)RossettiL,GandolfiS,TraversoCetal:Anevaluationoftherateofnonresponderstolatanoprosttherapy.JGlaucoma15:238-243,20069)井上賢治,泉雅子,若倉雅登ほか:ラタノプロストの無効率とその関連因子.臨眼59:553-557,200510)IkedaY,MoriK,IshibashiTetal:Latanoprostnonresponderswithopen-angleglaucomaintheJapanesepopulation.JpnJOphthalmol50:153-157,200611)阿部春樹,北澤克明,桑山泰明ほか:緑内障ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,200612)SmithJ,WandelT:Rationalefortheone-eyetherapeutictrial.AnnOphthalmol18:8,198613)TakahashiM,HigashideT,SakuraiMetal:Discrepancyoftheintraocularpressureresponsebetweenfelloweyesinone-eyetrialsvs.bilateraltreatment:verificationwithnormalsubjects.JGlaucoma17:169-174,200814)杉山和久:緑内障治療薬の片眼トライアルの方法と評価のポイントは?.あたらしい眼科25(臨増):154-156,2008***

角膜抵抗測定装置によるプロスタグランジン関連点眼薬の角膜障害の評価

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(99)1581《原著》あたらしい眼科27(11):1581.1585,2010c〔別刷請求先〕福田正道:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学1-1金沢医科大学眼科学Reprintrequests:MasamichiFukuda,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,1-1Daigaku,Uchinadamachi,Kahoku-gun,Ishikawa-ken920-0293,JAPAN角膜抵抗測定装置によるプロスタグランジン関連点眼薬の角膜障害の評価福田正道*1佐々木洋*1高橋信夫*1吉川眞男*4北川和子*1佐々木一之*1,2,3*1金沢医科大学眼科学*2金沢医科大学総合医学研究所環境原性視覚病態研究部門*3東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科視覚機能学*(4有)メイヨーEvaluationofCornealDisordersCausedbyProstaglandinDerivativeOphthalmicSolutionsUsingaCornealResistanceMeasuringDeviceMasamichiFukuda1),HiroshiSasaki1),NobuoTakahashi1),MasaoYoshikawa4),KazukoKitagawa1)andKazuyukiSasaki1,2,3)1)DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,2)DivisionofVisionResearchforEnvironmentalHealth,MedicalResearchInstitute,KanazawaMedicalUniversity,3)VisualScienceCourse,DepartmentofRehabilitation,FacultyofMedicalScienceandWelfare,TohokuBunkaGakuenUniversity,4)MayoCorporation目的:角膜抵抗測定装置を用いて,4種類のプロスタグランジン関連薬の家兎眼の角膜上皮に対する安全性(invivo)を評価し,さらに培養兎由来角膜細胞障害性(invitro)との相関性を検討した.方法:培養兎由来角膜細胞株にキサラタンR点眼液(以下,キサラタン),ルミガンR点眼液(以下,ルミガン),トラバタンズR点眼液(以下,トラバタンズ)あるいはトラバタンR点眼液(以下,トラバタン)を0~60分間接触後の生存細胞数を測定し,各点眼薬の50%細胞致死時間(CDT50)を算出した.角膜抵抗測定法では,家兎の結膜.内に各点眼液を15分ごと3回点眼し,点眼終了2分,30分,60分後の角膜抵抗(CR)を測定した.結果:各点眼薬のCDT50(分)はトラバタンズ51.0分,ルミガン50.5分,トラバタン25.3分,およびキサラタン11.6分の順であった.CR測定ではトラバタンの[点眼後CR×100/点眼前CR](CR比)は点眼終了で30分後81.0%,キサラタンは点眼終了2分後で82.0%でいずれも有意に低下した(p<0.05).一方,トラバタンズおよびルミガンではCR比の低下はみられなかった.結論:角膜抵抗測定装置で得た結果は培養角膜細胞による結果と相関性がみられ,生体眼でのプロスタグランジン関連薬の角膜障害性を評価するうえで有用であった.また,いずれの方法においても,角膜障害は,キサラタン>トラバタン>トラバタンズ=ルミガンであった.Objectives:Safetyof4prostaglandinderivativepreparationsforrabbitcornealepitheliumwasevaluatedinvivo,usingacornealresistancemeasuringdevice.Correlationwithcytotoxicityagainstculturedrabbitcornealcellsevaluatedinvitrowasalsoanalyzed.Methods:Culturedcellsofarabbit-derivedcornealcelllinewereexposedtotheophthalmicsolutionsXalatanR,LumiganR,TravatanzRorTravatanRfor0-60minutesandviablecellswerecounted,followedbycalculationofexposuretimecausing50%celldamage(CDT50)foreachsolution.Cornealresistance(CR)wasmeasuredat2,30and60minutesaftercompletionof3eyedropdoses(instilledatintervalsof15minutes)totheconjunctivalsacofeachrabbit.Results:CDT50was51.0minuteswithTravatanzR,50.5minuteswithLumiganR,25.3minuteswithTravatanRand11.6minuteswithXalatanR.CRratio(post-treatmentCR×100/pre-treatmentCR)was81.0%withTravatanR(30minutesafterendoftreatment)and82.0%withXalatanR(2minutesafterendoftreatment),indicatingsignificantreductionofCRtreatmentwiththesetwopreparations(p<0.05).CRdidnotdecreaseaftertreatmentwithTravatanzRorLumiganR.Conclusion:Theseresultssuggestthatthecytotoxiceffectswere:XalatanRophthalmicsolution>TravatanRophthalmicsolution>TravatanzRophthalmicsolution=LumiganRophthalmicsolution.Thedataoncornealresistancecorrelatedwiththedatafromculturedcornealcells,reflectingtheusefulnessofcornealresistanceasanindicatorofcornealinjurybyprostaglandinderivativesinvivo.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1581.1585,2010〕1582あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(100)はじめに一般に点眼薬には,有効性,安全性,安定性,さし心地という4つの条件が求められ,そのために主薬のほか種々の添加剤が加えられている.抗菌薬,抗ウイルス薬,抗真菌薬,非ステロイド薬,抗緑内障薬および表面麻酔薬などさまざまな点眼薬で比較的高頻度に発現する副作用である角膜上皮障害は,頻回点眼,多剤併用および長期連用ではさらにその発症頻度が高くなる.角膜上皮障害の原因として,添加剤である防腐剤が注目されている.筆者らはこれまでに,培養兎由来角膜細胞による評価法(invitro)や角膜抵抗測定装置による評価法(invivo)を用いて,種々の点眼薬の角膜上皮細胞に対する安全性を評価している1,2).本研究では4種類のプロスタグランジン関連薬の角膜上皮への影響を,invitroおよびinvivoの実験系で評価し,薬剤により異なる原因,および評価系の相関について検討した.I実験材料1.試験薬剤つぎの点眼薬について検討した.また,これらの製剤のおもな成分については表1に示した.・キサラタンR点眼液0.005%(ファイザー):主成分ラタノプロスト(プロスタグランジンF2a誘導体)(以下,キサラタンと略す)・トラバタンズR点眼液0.004%(日本アルコン):主成分トラボプロスト(プロスタグランジンF2a誘導体)(以下,トラバタンズと略す)・トラバタンR点眼液(アルコン):主成分トラボプロスト(プロスタグランジンF2a誘導体)(以下,トラバタンと略す)・ルミガン点眼液0.03%(千寿製薬):主成分ビマトプロスト(プロスタマイド誘導体)(以下,ルミガンと略す)を用いた.2.使用動物ニュージーランド成熟白色家兎(NZW;体重3.0~3.5kg)(雄性,16羽)を本実験に使用した.動物の使用にあたり,金沢医科大学の動物使用倫理委員会の使用基準に従い,そのうえ,実験はARVO(TheAssociationforResearchinVisionandOphthalmology)のガイドラインに従って,動物に負担が掛らないように,配慮して行った.3.使用細胞株細胞株は家兎由来角膜細胞(ATCCCCL60)(以下,SIRCと略す)を使用し,10%fetalbovineserum(FBS)添加Dulbecco’smodifiedEagle(DME)培地で37℃,5%CO2下で培養した.4.角膜抵抗測定装置角膜電極は湾曲凹面に関電極および不関電極を同心円状に配設し,両電極が測定時に家兎の角膜表面に接するようにした.さらに,電気抵抗計装置から関電極および不関電極間に電流を通電し,その電気抵抗を測定することで角膜の電気抵抗を測定する3).角膜抵抗値(以下,CRと略す)の測定には図1に示した角膜抵抗測定装置(Cornealresistancedevice,CRDFukudamodel2007)を用いた.本装置は角膜CL電極(メイヨー製)とファンクション・ジェネレータ(Dagatron,Seoul,Korea),アイソレーター(BSI-2;BAKElectronics,Inc.USA),およびPowerLabシステム(ADInstruments,Australia)から構成されている.角膜CL電極はアクリル樹脂製でウサギ角〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1579.1583,2010〕Keywords:角膜抵抗,培養角膜細胞株,プロスタグランジン関連薬,角膜上皮障害,生体眼.cornealresistance,culturedcornealcellline,prostaglandinderivatives,cornealepithelialinjury,eyeinvivo.表14種のプロスタグランジン系緑内障点眼剤の組成点眼液トラバタンR点眼液0.004%トラバタンズR点眼液0.004%キサラタンR点眼液ルミガンR点眼液0.03%有効成分トラボプロスト40μg(1ml中)トラボプロスト40μg(1ml中)ラタノプロスト50μg(1ml中)ビマトプロスト300μg(1ml中)添加物ベンザルコニウム塩化物ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40,トロメタノール,ホウ酸,マンニトール,pH調整剤2成分,EDTA(エチレンジアミン四酢酸)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40,プロピレングリコール,ホウ酸,D-ソルビトール,塩化亜鉛,pH調整剤2成分ベンザルコニウム塩化物リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,等張化剤ベンザルコニウム塩化物リン酸水素ナトリウム水和物,塩化ナトリウム,クエン酸水和物,塩酸,水酸化ナトリウム(101)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101583膜形状に対応する直径とベースカーブとを有している.湾曲凹面に設けられた関電極および不関電極の材質はいずれも金で,その外径(直径)は,それぞれ,12mm,4.8mmおよび,幅が0.8mm,0.6mmである.測定条件は交流,周波数:1,000Hz,波形:矩形波,duration:5ms,電流:±50μAで設定した.II実験方法1.培養兎由来角膜細胞による評価(invitro)SIRC(2×105cells)を10%FBS添加DME培地37℃,5%CO25日間培養後,各点眼液(200μl)を0~60分間接触後,細胞数をコールターカウンター法で測定した.薬剤非接触細胞での細胞数を100として,細胞生存率(%)を算出した.その後,各種点眼薬の50%細胞致死時間(以下,CDT50)を算出した.CDT50(分)は生存率(%)をもとにして,2次方程式の解の公式,aX2+bX+c=0(≠0),X=.b±b2-4ac/2aにより求めた.Y軸に値が50%となるときのX軸値を2次方程式から求め,これをCDT50(分)値とした.2.角膜抵抗測定法による評価(invivo)成熟白色家兎の結膜.内にキサラタン,ルミガン,トラバタンズあるいはトラバタンを15分ごと3回(1回50μl)点眼し,点眼終了2分,30分,60分後のCRを測定した.家兎を4群に分けて,1群に4眼を使用した.CRの測定法には角膜抵抗測定装置を用い,CR値(W)とCR比(%)の算出はつぎのように行った.CR(W)=電圧(V)/電流(A)=(mV×10.3)/100μA×10.6CR比(%)=点眼後のCR×100/点眼前のCR3.フルオレセイン染色法による角膜障害の評価各点眼薬による角膜上皮障害の有無は点眼終了2分,30分,60分後に1%fluoresceinsodium2μlを結膜.内に点眼し,細隙灯顕微鏡下で観察した.染色の程度はAD分類5)により評価した.4.統計学的処理検定はStudent’st-testを行い,有意水準は0.05%とした.III結果1.培養兎由来角膜細胞による評価(invitro)SIRCに対する評価では,トラバタンの生存率は接触30分後まではトラバタンズとほぼ同程度の生存率を示したが,接触60分時点では50.0%にまで減少しトラバタンズに比べて有意に減少した(p<0.05).ルミガンでは接触時間の経過とともに,徐々に生存率は減少した.一方,キサラタンでは接触時間とともに生存率は減少し,接触8分後では17.1%にまで減少した(図2).各種点眼薬のCDT50はトラバタンズ51.0分,ルミガン50.5分,トラバタン25.3分,キサラタン11.6分の順であった.2.角膜抵抗測定法による評価(invivo)角膜抵抗測定法によるCR比は,トラバタン81.0%(点眼終了30分後),キサラタン82.0%(点眼終了2分後)とそれぞれ有意に低下した(p<0.05)が,その後,時間の経過とともに回復した.一方,トラバタンズではどの時点もほとんど低下はみられなかった.ルミガンにおいても,CR(%)の低Trigger(Functiongenerator)IsolatorPowerLab(current=±50μA,frequency=1,000Hz)ComputerContactlenselectrodes図1角膜抵抗測定装置の図0生存率(%)10203040時間(分)50607080**p<0.001:トラバタン120100806040200:トラバタンズ:キサラタン:ルミガン図2培養兎由来角膜細胞による評価(invitro)010203040506070CR(%)時間(分)140120100806040200:トラバタン:トラバタンズ:キサラタン:ルミガン図3角膜抵抗測定法による評価(invivo)1584あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(102)下はみられず,むしろ,わずかに高い値を示す傾向がみられた(図3).3.フルオレセイン染色法による角膜障害の評価(invivo)フルオレセイン染色によるAD分類では,トラバタンはA1D1(点眼終了30分後)(4眼中4眼),キサラタンはA1D2(点眼終了2分後)(4眼中4眼)であった.トラバタンズとルミガンでは各時点においてもA0D0(各4眼中4眼)であった(図4).IV考按今回,実験に用いた角膜抵抗測定装置は,これまでにいくつかの改良を加えて,得られる値の信頼性,生体に対する安全性を確立した筆者らが開発した装置であり,薬剤の角膜上皮障害の評価方法として有用性が高いことを報告している3).すなわち,本測定装置は,家兎眼の角膜上に電極を埋め込んだコンタクトレンズを装着して,交流電流を通電し,コンピュータ上に電圧を表示させ,電流と電圧の関係から抵抗値を算出するシステムで,invitroの実験系ではみることのできない角膜上皮バリア機能の回復過程を家兎眼でリアルタイムに定量的に確認することができる.培養角膜細胞(invitro)による実験系はSIRC細胞に各点眼薬を接触し,経時的に細胞数を測定して,CDT50(分)を算出するもので,筆者らはこれまでに,数多くの点眼薬の安全性の評価にこの方法を用いて行ってきた.この評価方法は測定感度が高いこと,データの再現性が良いこと,実験操作が簡便であることなどの長所を有する.一方,短所としては単層細胞系で生体眼での生理学的な現象と異なる環境であるため,得られたデータがどの程度,生体眼での影響を反映しているか不明の点がある.そこで,これらの異なる評価方法により,4種のプロスタグランジン系関連薬の角膜上皮細胞への影響の比較と合わせて,評価方法から得られた結果の相関性を明らかにする目的で検討を行った.その結果,CR比では,ベンザルコニウム塩化物(以下,BAKと略す)0.015%含有のトラバタンは81.0%(点眼終了30分後),BAK0.02%含有のキサラタンは82.0%(点眼終了2分後)にそれぞれ低下したが,時間の経過とともにいずれもCR値は上昇した.BAKを含まないトラバタンズとBAK0.005%含有のルミガンはいずれの時点でもCR比の低下はほとんどみられなかった.ルミガンでは点眼前に比べて,点眼後はわずかではあるが高値を示す傾向がみられたが,この原因は点眼薬中の添加剤であるクエン酸などが影響しているのではないかと考えている.このときの角膜上皮のフルオレセイン染色による評価ではキサラタンが最も障害がA1D2A0D0A0D0A1D1トラバタントラバタンズルミガン点眼終了30分後点眼終了30分後点眼終了30分後点眼終了2分後キサラタン図4フルオレセイン染色法による角膜障害例(103)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101585強く,ついでトラバタンで,トラバタンズとルミガンでは明らかな障害はみられず,角膜抵抗の結果と一致した.Invitro試験としてのSIRC細胞の60分接触の生存率では,トラバタンがトラバタンズに比べ有意に低下した(p<0.05%).また,CDT50についてもトラバタンズとルミガンに比べてキサラタンとトラバタンは短く,細胞障害を起こしやすい傾向がみられた.このようなトラバタンとトラバタンズの角膜障害の差は,おそらくBAKの有無によるものと考えられ,過去にもいくつかの報告がある5,6).BAKを含まないトラバタンズでもinvitroの実験では細胞生存率が薬剤接触直後から30~40%の減少がみられたが,この原因は細胞死によるものではなく,点眼薬中のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40による細胞間の密着性の低下による細胞脱落が原因である可能性が高いと考えている.しかしinvivoの実験においては,涙液の存在のために角膜上のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40が希釈され,角膜上皮の構造が密で重層であることから影響が生じにくかったものと思われる.角膜上皮バリア機能の回復に関しては,Wolasinの家兎角膜細胞での報告によると,最表層1層のみの.離なら健常レベルに回復するまで1時間程度で,この程度では蛋白合成阻害の影響を受けない.一方,翼状細胞までの.離では健常レベルに回復するまでに8~10時間を要し,この過程では蛋白合成阻害の影響を受けることが知られている7).今回の実験で得られた生体眼でのCR値はおそらく,角膜上皮障害の程度と回復状態を反映していると考える.以上の結果はinvitro(培養兎由来角膜細胞)とinvivo(角膜抵抗測定およびフルオレセイン染色)による評価法はよく相関していることを示したものと考えてよい.したがって,生理的条件が異なるため培養細胞での細胞障害の結果をそのまま臨床評価に結び付けることはできないが,培養細胞の評価は生体眼での成績を予測する有用な検討方法と考える.本研究から4種類のプロスタグランジン関連薬で角膜上皮への影響に差があることを改めて確認できた.ただし,正常な角膜に対する1日1回の単剤点眼であれば,BAK含有点眼薬であっても,細胞障害をひき起こすことはほとんどないと考えられる.しかし,角膜が脆弱なあるいは他の点眼薬の併用が必要な緑内障患者では,できる限り角膜障害の少ない点眼薬を使用したい.最近,配合剤が点眼コンプライアンスの向上および角膜上皮障害の低減の面から注目されているが,最適な薬剤の選択には十分な眼圧下降効果を有することも考慮することが重要である.文献1)福田正道,佐々木洋:オフロキサシン点眼薬とマレイン酸チモロール点眼薬の培養角膜細胞に対する影響と家兎眼内移行動態.あたらしい眼科26:977-981,20092)福田正道,佐々木洋:ニューキノロン系抗菌点眼薬と非ステロイド抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞に対する影響.あたらしい眼科26:399-403,20093)福田正道,山本佳代,高橋信夫ほか:角膜抵抗測定装置による角膜障害の定量化の検討.あたらしい眼科24:521-525,20074)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20035)PellinenP,LokkilaJ:Cornealpenetrationintorabbitaqueoushumoriscomparablebetweenpreservedandpreservative-freetafluprost.OphthalmicResearch4:118-122,20096)YeeRW,NorcomEG,ZhaoXC:Comparisonoftherelativetoxicityoftravoprost0.004%withoutbenzalkoniumchlorideandlatanoprost0.005%inanimmortalizedhumancorneaepithelialcellculturesystem.AdvTher23:511-518,20067)WolosinJM:Regenerationofresistanceandiontransportinrabbitcornealepitheliumafterinducedsurfacecellexfoliation.JMembrBiol104:45-55,1988***