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乳癌原発の転移性脈絡膜腫瘍に対し,ベバシズマブ硝子体内投与が奏効した1例

2017年9月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科34(9):1327.1329,2017c乳癌原発の転移性脈絡膜腫瘍に対し,ベバシズマブ硝子体内投与が奏効した1例堀内直樹*1,2,5富田洋平*1,5奥村良彦*2,4,5戸倉英之*3篠田肇*5坪田一男*5小沢洋子*5*1川崎市立川崎病院眼科*2足利赤十字病院眼科*3足利赤十字病院外科*4埼玉メディカルセンター眼科*5慶應義塾大学医学部眼科学教室CACaseofMetastaticChoroidalTumorSecondarytoBreastCancerTreatedbyIntravitrealBevacizumabNaokiHoriuchi1,2,5)C,YoheiTomita1,5)C,YoshihikoOkumura2,4,5)C,HideyukiTokura3),HajimeShinoda5),KazuoTsubota5)CandYokoOzawa5)1)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMunicipalHospital,2)DepartmentofOphthalmology,AshikagaRedCrossHospital,3)DepartmentofSurgery,AshikagaRedCrossHospital,4)DepartmentofOphthalmology,SaitamaMedicalCenter,5)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine乳癌原発の転移性脈絡膜腫瘍に対し,ベバシズマブ硝子体内投与が奏効したC1例を経験したので報告する.症例は67歳,女性で,初診時の矯正視力は右眼(0.5p),左眼(1.2)であり,両眼の眼底に漿液性網膜.離を伴う腫瘍を認めた.乳癌原発の転移性脈絡膜腫瘍と診断され,両眼に放射線療法を施行されたが,右眼は全網膜.離となり,視力は光覚弁となった.左眼の視力は(1.2Cp)を維持していたが腫瘍の大きさは変わらなかった.ベバシズマブC1.25Cmg硝子体内投与を両眼にそれぞれC2回施行した.初回の投与で両眼の網膜下液は減少し,左眼の腫瘍径は縮小した.2回目の投与後には,右眼の網膜下液のさらなる減少と,左眼の網膜下液の消失,および腫瘍による隆起の消失が得られた.本症例ではベバシズマブ硝子体内投与が乳癌原発の転移性脈絡膜腫瘍による滲出性変化の抑制と腫瘍の縮小に効果を示した.CWeCreportCtheCcaseCofCaC67-year-oldCfemaleCwithCbilateralCmetastaticCchoroidalCtumorsCsecondaryCtoCbreastcancertreatedbyintravitrealbevacizumabinjections.At.rstvisit,herbest-correctedvisualacuity(BCVA)was(0.5p)righteyeand(1.2)lefteye.Althoughbotheyeshadreceivedradiation,herrightBCVAdiminishedtolightperceptionduetototalretinaldetachment;herlefteyealsohadretinaldetachmentandtherewasnoreductionintumorCsizeCbutCherCleftCBCVACremained(1.2)atCthisCtime.CSheCtwiceCreceivedCbilateralCintravitrealCbevacizumab(IVB)injections(1.25mg)C.Afterthe.rstinjection,serousretinaldetachmentinbotheyesandtumorsizeinherlefteyedecreased.Afterthesecondinjection,serousretinaldetachmentwasfurtherreducedinbotheyes,andthetumorinherlefteyewas.attened.TheIVBwase.ectiveintreatingchoroidaltumorssecondarytobreastcancer.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(9):1327.1329,C2017〕Keywords:転移性脈絡膜腫瘍,ベバシズマブ,乳癌,滲出性網膜.離,腫瘍縮小.metastaticchoroidaltumor,bevacizumab,breastcancer,exudativeretinaldetachment,tumorregression.Cはじめに転移性脈絡膜腫瘍は,眼内の腫瘍のなかでもっとも頻度が高い1,2).原発巣としては肺癌や乳癌の比率が高く,両者で80%に及ぶ.眼底所見の特徴は,黄白色の扁平な円形隆起で,進行すると軽度から高度の滲出性網膜.離を伴うことがあり,黄斑部に網膜.離が及ぶと変視や視力低下をきたしうる.ベバシズマブ(AvastinCR,Genentech,USA)は,血管内皮細胞増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfactor:VEGF)に対するモノクローナル抗体で,VEGFファミリーのうち〔別刷請求先〕堀内直樹:〒210-0013神奈川県川崎市川崎区新川通C12-1川崎市立川崎病院眼科Reprintrequests:NaokiHoriuchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KawasakiMunicipalHospital,12-1Shinkawadori,Kawasaki-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa210-0013,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(115)C1327VEGF-Aに結合し,VEGF-Aが受容体(VEGFR-1,VEGFR-2,ニューロピリン)に結合するのを阻害する.この結果,腫瘍血管新生,腫瘍増殖,転移の抑制効果があると考えられている3).眼科領域においてベバシズマブ硝子体内投与は適応外(o.Clabel)使用であるが,糖尿病網膜症4),網膜静脈閉塞症4),未熟児網膜症4),Coats病4)など,その病態に血管新生や血管透過性亢進が関与する疾患に対しての有効性が報告された.しかし,転移性脈絡膜腫瘍に対するベバシズマブ硝子体内投与の有用性を報告する例は,海外,国内ともに少数である5).今回筆者らは,乳癌を原発とする転移性脈絡膜腫瘍および随伴する滲出性網膜.離に対してベバシズマブ硝子体内投与を施行し,早期に滲出性網膜.離の減少および腫瘍の縮小が得られたので報告する.なお,本研究は足利赤十字病院倫理委員会の承認のもとに行われた.CI症例患者:67歳,女性.現病歴:2006年,足利赤十字病院外科で右乳癌と診断された.このときの臨床病期はCT2N0M0であり,化学療法(エ図1初診時の所見a:右眼の眼底写真.下方に広がる漿液性網膜.離を認める.Cb:左眼の眼底写真.アーケード上方,および耳側に円形の隆起病変を認める(.).c:左眼のCBモード超音波断層検査.耳側に充実性の隆起を認める.Cd:左眼のフルオレセイン蛍光眼底造影写真(早期).隆起部に一致して多発点状の過蛍光を認める(.).e:頭部CCT.右眼に充実した腫瘍病変を認める(.).左眼の腫瘍はこのスライスでは描出されていない.Cf:初診時からC1カ月後の左眼のCOCT所見.隆起性病変があり(.),網膜下液が出現し,黄斑部に迫っている.Cピルビシン+ドセタキセル)を施行後,同年C6月に乳房部分切除術+腋窩リンパ節郭清が施行された.病理結果から充実腺管癌と診断され,エストロゲン受容体(+),プロゲステロン受容体(C.),ヒト上皮成長因子受容体タイプC2(humanepidermalgrowthfactorreceptorType2:HER2)(1+)であった.外科手術後はホルモン療法(アロマターゼ阻害薬)後,1年にC1回程度の定期通院をしていた.2014年C2月頃より右眼の視野障害を自覚し,近医眼科で右網膜.離および脈絡膜腫瘍を指摘され,同年C3月に足利赤十字病院眼科を紹介され受診した.初診時所見:最高矯正視力は右眼C0.4(0.5pC×sph+2.25D(cyl.1.25DCAx90°),左眼0.9(1.2pC×(cyl.1.25DCAx80°)で,眼圧は右眼C12CmmHg,左眼C17CmmHgであった.前房内には異常がなく,軽度白内障を認めた.右眼の眼底には下方に広がる漿液性網膜.離を(図1a),Bモードエコー上では内部が均一な,充実性のドーム型の隆起病変を認めた.左眼の眼底には,アーケード耳側,および上方にそれぞれC4乳頭径,3乳頭径程度の黄白色の隆起病変を(図1b),Bモードエコー上では,右眼同様充実性の隆起病変を(図1c)認めた.初診時の左眼のCOCTでは,黄斑部耳側にドーム状の隆起がみられた.フルオレセイン蛍光眼底造影検査では,左眼に早期に腫瘍部に一致した境界明瞭で,内部が不均一な過蛍光を認め,また辺縁部は網膜下液に伴う低蛍光で縁取られていた(図1d).また,前医で施行された頭部CCTでは,両眼に内部均一なドーム状の高吸収域が確認された(図1e).以上の所見より,乳癌を原発とする転移性脈絡膜腫瘍および滲出性網膜.離と診断された.臨床経過:2014年C4月には右眼の網膜.離が進行して黄斑部に至り,最高矯正視力が(0.05)と低下した.左眼の腫瘍は増大し,漿液性網膜.離が増悪した(図1f).乳腺外科で施行された採血検査で血中のCCEAの急激な上昇を認めたため,ホルモン療法(アロマターゼ阻害薬)が再開された.また,両眼に合計C45CGy/25Cfrの放射線療法が施行された.その後COCT上,左眼の漿液性網膜.離は改善したが,腫瘍による隆起は縮小しなかった.5月初旬の受診時には右眼が全網膜.離になり,細隙灯顕微鏡による診察では,.離した網膜が水晶体の後方にまで迫っているのが確認された.その後も定期的な診察が継続されたが,7月の診察時には,右眼の視力は光覚弁となり,全網膜.離の状態に大きな変化はなかった.左眼の矯正視力は(1.2Cp)で,漿液性網膜.離はある程度改善したものの,腫瘍径は縮小しなかった.そこで滲出性変化の抑制および腫瘍径の抑制を期待して,2014年C10月に,インフォームド・コンセントを得たうえで,両眼に対し初回のベバシズマブC1.25Cmg硝子体内投与を施行した.1328あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017(116)投与からC9日目の診察時には,右眼の漿液性網膜.離の丈は低下した.左眼眼底の腫瘍の隆起は縮小傾向であり,OCTにおいても左眼の隆起の縮小が確認された.同年C11月にC2回目のベバシズマブC1.25Cmgの硝子体注射を両眼に施行したところ,2015年C2月の診察時には,眼底所見上は左眼の隆起は消失し(図2a),FAG上では顆粒状の過蛍光の部位が縮小し(図2b),OCTでは,漿液性網膜.離の消失および隆起の平坦化を得た(図2c).このときの最高矯正視力は右眼C30Ccm手動弁(矯正不能),左眼(1.2p)であった.その後定期受診を予定していたが,本人の意向により2015年C4月以降は眼科を受診していない.なお,ベバシズマブ硝子体内投与後の観察期間において細菌性眼内炎,網膜.離,高眼圧,白内障などの眼局所の合併症,および脳血管疾患などの全身の合併症は生じなかった.CII考按本症例では,ベバシズマブ硝子体内投与により乳癌原発の転移性脈絡膜腫瘍に続発した滲出性網膜.離の減少,腫瘍の縮小が得られ,左眼の視力が維持された.Augustineらは,眼内転移性腫瘍に対する抗CVEGF薬の硝子体内投与により,59%の症例で視力の改善を,またC77%で腫瘍径の縮小を,45%で滲出性網膜.離の改善を得られたと報告した6).しかしながら,Maudgilらは,乳癌,肺癌,大腸癌の脈絡膜転移をきたしたC5例に対しベバシズマブの硝子体内投与を施行したが,4例において腫瘍の増悪,および視力の悪化がみられたことを報告している7).理由として,加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫と異なり,転移性腫瘍の場合,網膜色素上皮の障害は比較的軽度であり外側血液網膜関門(outerCblood-retinaCbarrier:outerCBRB)に障害をきたしていないため,ベバシズマブが脈絡膜にある腫瘍本体に到達しない可能性があると推察している7).本症例では漿液性網膜.離を伴っており,outerCBRBに障害をきたしていると考えられ,腫瘍本体へのドラッグデリバリーが良好であった可能性があった.脈絡膜転移は比較的放射線感受性が高いとされており,奏効率はC63.89%とされる8).しかし,本症例の場合,とくに左眼の漿液性網膜.離の進行がある程度抑えられ,視力が維持されたものの,両眼において腫瘍の縮小は得られず,右眼で滲出性変化の増悪を抑制することはできなかった.放射線療法は許容できる照射線量に限界があり,追加の照射をする場合,正常組織への放射線毒性が懸念される9).一方,ベバシズマブの硝子体内投与は繰り返し施行が可能であり,また治療の即効性,効果,副作用および治療の合併症の発症頻度を考えても,検討すべき治療法であるといえる10).現時点では脈絡膜転移は悪性腫瘍の末期における一徴候との認識があるが,従来に比較すると近年では抗癌剤をはじめ(117)図2ベバシズマブ硝子体内投与後(2回目)の所見a:左眼の眼底写真.隆起はほぼ消失している.Cb:左眼のフルオレセイン蛍光眼底造影写真(早期).顆粒状の過蛍光は縮小傾向である.c:左眼のCOCT所見.ほぼ平坦化している.Cとする癌治療の進歩により生命予後が長くなってきた.そのため転移性脈絡膜腫瘍をきたした患者も,その後のCqualityofvision(QOV)の維持や改善の重要性は今後も高まっていくものと考える.ベバシズマブ硝子体内投与が転移性脈絡膜腫瘍の患者のCQOVを改善する治療法の一つとなる可能性を,今後も研究する必要があると考える.文献1)FerryAP,FontRL:Carcinomametastatictotheeyeandorbit.I.Aclinicopathologicstudyof227cases.ArchOph-thalmolC92:276-286,C19742)BlochCRS,CGartnerCS:TheCincidenceCofCocularCmetastaticCcarcinoma.ArchOphthalmolC85:673-675,C19713)LienCS,CLowmanCHB:TherapeuticCanti-VEGFCantibodies.CHandbExpPharmacol181:131-150,C20084)木村修平,白神史雄:【抗CVEGF薬による治療】ベバシズマブのオフラベル投与.あたらしい眼科C32:1083-1088,C20155)稲垣絵海,篠田肇,内田敦郎ほか:滲出性網膜.離に対してベバシズマブ硝子体内投与が奏効した転移性脈絡膜腫瘍のC1例.あたらしい眼科C28:587-592,C20116)AugustineCH,CMunroCM,CAdatiaCFCetCal:TreatmentCofocularCmetastasisCwithCanti-VEGF:aCliteratureCreviewCandcasereport.CanJOphthalmolC49:458-463,C20147)MaudgilCA,CSearsCKS,CRundleCPACetCal:FailureCofCintra-vitrealCbevacizumabCinCtheCtreatmentCofCchoroidalCmetas-tasis.Eye(Lond)C29:707-711,C20158)荻野尚,築山巌,秋根康之ほか:脈絡膜転移の放射線治療.癌の臨床C37:351-355,C19919)ZamberCRW,CKinyounCJL:RadiationCretinopathy.CWestCJCMedC157:530-533,C199210)山根健:Therapeutics抗CVEGF薬でみる硝子体内薬物注射の基本硝子体注射によって起こりうる副作用・合併症.眼科グラフィックC2:165-168,C2013あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017C1329

糖尿病黄斑浮腫におけるベバシズマブ反応不良例のラニビズマブへのスイッチ療法の検討

2016年2月29日 月曜日

《第20回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科33(2):295.299,2016c糖尿病黄斑浮腫におけるベバシズマブ反応不良例のラニビズマブへのスイッチ療法の検討平野隆雄鳥山佑一松田順繁時光元温京本敏行千葉大村田敏規信州大学医学部眼科学教室EvaluationofResponsetoTherapySwitchfromBevacizumabtoRanibizumabinDiabeticMacularEdemaTakaoHirano,YuichiToriyama,YorishigeMatsuda,MotoharuTokimitsu,ToshiyukiKyoumoto,DaiChibaandToshinoriMurataDepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicine目的:ベバシズマブ硝子体内投与(intravitrealbevacizumab:IVB)反応不良の糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)症例においてラニビズマブ硝子体内投与(intravitrealranibizumb:IVR)へのスイッチ療法の効果を検討する.対象および方法:対象はDMEに対しIVB施行されるも反応不良のためIVRへスイッチした7例7眼.最終IVBと初回IVRにおいて投与前と投与1カ月後の中心窩網膜厚,最高矯正視力(logMAR)について検討した.結果:最終IVBの中心窩網膜厚は投与前が476.1±119.2μm,投与1カ月後が484.0±99.7μmと有意差は認められなかった.初回IVRの中心窩網膜厚は投与前が520.1±82.1μm,投与1カ月後343.3±96.8μmと有意な改善を認めた(p=0.0156).最高矯正視力は最終IVB,初回IVRともに投与前,投与1カ月後で有意差は認められなかった.結論:IVB反応不良のDMEではIVRへのスイッチ療法が有効な症例があることが示唆された.Purpose:Toevaluatetheefficacyofswitchingtoranibizumabtherapyfollowingbevacizumabtreatmentfailureineyeswithdiabeticmaculaedema(DME).Methods:Weenrolled7eyesof7patientswithDMEwhoreceivedranibizumabinjectionsfollowingbevacizumabtreatmentfailure.Best-correctedvisualacuity(BCVA)andcentralretinalthickness(CRT)accordingtospectral-domainOCTwereevaluatedbeforeandat1monthafterthelastbevacizumabinjectionandthefirstranibizumabinjection,respectively.Results:MeanCRTshowednosignificantchangeat1monthafterthelastbevacizumabtreatment(before:476.1±119.2;after:484.0±99.7μm),buthaddecreasedsignificantly(p=0.0156)at1monthafterthefirstranibizumabtreatment(before:520.1±82.1μm;after:343.3±96.8μm).BCVAdidnotdiffersignificantlybetweenbeforeand1monthafterthelastbevacizumabandthefirstranibizumabtreatment.Conclusions:RanibizumabtherapywaseffectiveinreducingCRTineyesthathadfailedbevacizumabtherapy.Theresultssuggestthatswitchingbetweenanti-vascularendothelialgrowthfactordrugsmaybeusefulineyeswithDME.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(2):295.299,2016〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,抗VEGF薬,スイッチ療法,ベバシズマブ,ラニビズマブ.diabeticmacularedema,antiVEGFdrug,switchingtherapy,bevacizumab,ranibizumab.はじめに従来,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmaculaedema:DME)はレーザー網膜光凝固,薬物療法,硝子体手術によって治療されてきたが,実臨床の場では治療困難な症例も散見された.そのような状況のなか,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が糖尿病網膜症の硝子体内で濃度が上昇することが報告され,DMEの病因としても重要な役割を果たすことが明らかとなり1).その後,多くの大規模臨床研究において抗VEGF薬のDMEに対する良好な治療成績が報告されている2.4).わが国ではDME治療〔別刷請求先〕平野隆雄:〒390-8621長野県松本市旭3-1-1信州大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TakaoHirano,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicine,3-1-1Asahi,Matsumoto,Nagano390-8621,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(135)295 における抗VEGF薬としてベバシズマブ(アバスチンR)が適用外使用ながら用いられていたが,ラニビズマブ(ルセンティスR),アフリベルセプト(アイリーアR)がそれぞれ平成26年2月と11月にDMEまで適用拡大され,DME治療における抗VEGF薬の選択肢は広がりつつある.DMEに先駆けて抗VEGF薬が認可された加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)では,近年,抗VEGF薬に対する反応不良例として,投与開始時から薬剤に反応しないnon-responder(無反応)5),治療開始当初は良好な効果がみられるが投与を繰り返すうちに効果が減弱するtachyphylaxis・tolerence(耐性)6)が報告されている.このような抗VEGF薬反応不良のAMD症例に対しては,抗VEGF薬を他の種類に変更するスイッチ療法の良好な成績が報告されている7).今回,筆者らは,ベバシズマブ硝子体内投与(intravitrealbevacizumab:IVB)反応不良のDME症例においてラニビズマブ硝子体内投与(intravitrealranibizumb:IVR)へのスイッチ療法の効果を検討したので報告する.I対象および方法2013年6月.2014年8月に信州大学附属病院でDMEに対し3回以上IVB施行するも反応不良のため,抗VEGF薬をラニビズマブへスイッチした症例で既報に準じ8),下記の選択基準を満たし除外基準を含まない患者を対象とした.選択基準:①20歳以上の2型糖尿病患者,②スペクトラルドメイン光干渉断層計(spectraldomainopticalcoherencetomography:SD-OCT)による中心窩を中心とした直径1mmの網膜厚の平均である中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)が初回IVB治療前に350μm以上,③IVBを3回以上施行するも反応不良のためIVRへスイッチ.反応不良とはIVB後1カ月で.胞様黄斑浮腫や漿液性網膜.離を伴い,CRTがIVB初回治療前よりも20%以上の改善を認めない,もしくはCRTが350μm以上と定義した.除外基準:①本研究前の局所的もしくは全身的な抗VEGF療法の既往,②3カ月以内の何らかの網膜光凝固術・局所ステロイド治療の既往,③AMD・硝子体黄斑牽引・黄斑上膜・眼内炎症などDME以外に黄斑に影響を与える疾患の既往,④6カ月以内の白内障手術歴・時期を伴わない硝子体手術歴.⑤重症心疾患,脳血管障害,血液疾患,悪性腫瘍などの重篤疾患の既往.IVBはベバシズマブとして1回当たり1.25mgを0.05mlに調整し,4.6週ごとにCRTが350μm以上で投与するいわゆるPRN(ProReNata)投与で行った.最終IVBと初回IVRにおいて投与前と投与1カ月後のCRT,最高矯正視力(bestcorrectedvisualacuity:BCVA)について検討した.SD-OCTはCirrusHD-OCT(CarlZeissMeditec)を用い296あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016た.統計処理はGraphPadPrismRversion6(GraphPadSoftware)を用い,Wilcoxon符号順位和検定によるノンパラメトリック検定を行い危険率5%(p<0.05)をもって有意差ありとした.なお,本研究は信州大学附属病院倫理委員会の承認を得て行った(臨床研究No.2256)II結果症例内訳は男性4例4眼,女性3例3眼,年齢60±11(平均±標準偏差)歳であった.IVB前のDME治療歴は網膜局所光凝固術が3.3±1.4回,局所ステロイド治療が2.0±1.1回であった.初回IVB前のCRTは566.1±93.8μmで投与1カ月後464.0±56.5μmと有意な減少を認めた(p=0.0481)(図1a).IVBによる治療期間中,治療前と比較してCRTは最高で平均161.3±86.8(53-300)μmの減少を認め,全症例においてCRTの改善では一定の治療効果がみられた.その後,IVB反応不良のためIVRへスイッチする直前の最終IVBのCRTは投与前が476.1±119.2μm,投与1カ月後484.0±99.7μmで有意差は認められなかった(p=0.8125)(図1b).初回IVRのCRTは投与前が520.1±82.1μm,投与1カ月後343.3±96.8μmと有意な改善を認めた(p=0.0156)(図1c).BCVA(logMAR)は初回IVBで統計学的に有意差は認められなかったが,投与前0.40±0.20,投与1カ月後0.32±0.14と改善傾向を認めた(p=0.1875)(図2a).最終IVBのBCVAは投与前0.35±0.31,投与1カ月後0.38±0.29と改善傾向なくむしろ悪化傾向を認めた(p=0.5000)(図2b).初回IVRでは統計学的に有意差は認められなかったが,投与前0.37±0.24,投与1カ月後0.30±0.21と改善傾向を認めた(p=0.5625)(図2c).なお,IVRへスイッチする前のIVB回数は平均で7.4±2.3回であった.また,最終IVBから初回IVRまでの平均期間は1.50±0.65(1.2.5)カ月であった.代表症例の経過を図3に示す.71歳,男性.2002年に糖尿病を指摘されるも放置.2009年より内服にて糖尿病治療を開始.2010年に右眼)汎網膜光凝固施行.その後,右眼)DME認めたため2012年当科初診.網膜局所光凝固術を5回,局所ステロイド治療を3回施行も浮腫の軽減認めなかったため,患者の同意を得たうえで2013年,初回IVBを施行.初回IVB前はCRT629μm,BCVA(少数)0.3であったが,投与1カ月後にはCRTが507μmと減少を認め,BCVA(少数)0.5まで改善を認めた(図3a,b).その後,IVB6回行われるも徐々に治療効果が減弱し,最終IVB前はCRT637μm,BCVA(少数)0.4で,投与1カ月後にはCRT609μm,BCVA(少数)0.4と反応不良となった(図3c,d).患者希望もあり,いったんIVBを中止.最終IVBより3カ月後に初回IVR施行したところCRTは628μmから285μmと減少を認め,BCVA(少数)も0.2から0.5へ改善を認めた(136) a:初回IVBb:最終IVBc:初回IVR800800800中心窩網膜厚(μm)*2002002000投与前投与1カ月後0投与前投与1カ月後0*投与前投与1カ月後中心窩網膜厚μm)図1初回IVB,最終IVB,初回IVR投与前後の中心窩網膜厚の変化a:初回IVBのCRTは投与前が566.1±93.8μm,投与1カ月後464.0±56.5μmと有意な改善を認めた(p=0.0481).b:最終IVBのCRTは投与前が476.1±119.2μm,投与1カ月後484.0±99.7μmで有意差は認められなかった(p=0.8125).c:初回IVRのCRTは投与前が520.1±82.1μm,投与1カ月後343.3±96.8μmと有意な改善を認めた(p=0.0156).a:初回IVBb:最終IVBc:初回IVR中心窩網膜厚(μm)6006006004004004001.0最高矯正視力(logMAR)最高矯正視力(logMAR)0.00.20.40.80.61.0最高矯正視力(logMAR)1.00.80.60.40.20.00.80.60.40.20.0投与前投与1カ月後投与前投与1カ月後投与前投与1カ月後図2初回IVB,最終IVB,初回IVR投与前後の最高矯正視力(logMAR)の変化a:初回IVBのBCVA(logMAR)は統計学的に有意差は認められなかったが,投与前0.40±0.20,投与1カ月後0.32±0.14と改善傾向を認めた(p=0.1875).b:最終IVBのBCVA(logMAR)は投与前0.35±0.31,投与1カ月後0.38±0.29と改善傾向なく,むしろ悪化傾向を認めた(p=0.5000).c:初回IVRのBCVA(logMAR)は統計学的に有意差は認められなかったが,投与前0.37±0.24,投与1カ月後0.30±0.21と改善傾向を認めた(p=0.5625).(図3e,f).DMEの症状が安定したため,初回IVRから9対する良好な治療成績が報告されている2.4).わが国ではカ月後に白内障手術を施行.計6回IVR施行し,初回IVR2014年2月にラニビズマブ(ルセンティスR)がDMEまでから12カ月後の最終受診時にはCRT261μm,BCVA(少数)保険適用が拡大される以前は,DME治療で保険適用のある1.2と良好な治療効果が得られており,今後もDMEの悪化抗VEGF薬が存在しなかったため,各施設の倫理委員会のを認めるようならIVRを施行する予定である(図3g).承認を得たうえで,ベバシズマブ(アバスチンR)が適用外III考按使用ながら用いられていた.過去の大規模臨床研究の結果と同様に,実臨床の場でもDMEに対して良好な治療効果を示VEGFが眼内の血管新生や血管透過性亢進に深くかかわすことが多いIVBであったが,一方で治療抵抗性や治療効っていることが1994年に報告され1),その後登場した抗果の減弱といった問題も報告されるようになった9).本研究VEGF薬については多くの大規模臨床研究においてDMEにでも7眼すべてにおいて初回IVB後1カ月の平均CRTは有(137)あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016297 1.21a629cd637631e628b511537609520526507456424f337332285266246262240297g261CRT(μm)BCVA(少数)白内障手術0.80.60.40.20002M4M6M8M10M12M14M16M18M20M1M3M5M7M9M11M13M15M17M19Mabcdefg図3代表症例の経過グラフの左縦軸はCRT(μm),右縦軸はBCVA(少数),横軸は初回IVBからの経過日数(月)を表す..はIVBを△はIVRを表す.a:初回IVB投与前,CRT629μm,BCVA(少数)0.4.b:初回IVB投与後1カ月,CRT507μm,BCVA(少数)0.5.c:最終IVB投与前,CRT637μm,BCVA(少数).d:最終IVB投与後1カ月,CRT609μm,BCVA(少数)0.4.e:初回IVR投与前,CRT628μm,BCVA(少数)0.2.f:初回IVR投与後1カ月,CRT285μm,BCVA(少数)0.5.g:最終受診時,CRT261μm,BCVA(少数)1.2.298あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(138) 意に減少を認めたが,平均7.4回のIVB後,CRTは有意な減少を認めず反応不良となった.DMEに先駆けて抗VEGF薬が認可されたAMDでは,このような抗VEGF薬反応不良のAMD症例において,抗VEGF薬を他の種類に変更するスイッチ療法の良好な成績が報告されている7).本研究でもIVB反応不良のDME症例7眼すべてにおいて初回IVRへスイッチすることにより1カ月後にCRTの有意な減少を認めた.IVB反応不良のDME症例においてIVRへのスイッチ療法が有効であることの詳細なメカニズムについては明らかになっていない.AMDでは抗VEGF薬治療中に効果が減弱し反応不良となる理由として,抗VEGF薬に対する中和抗体の産生,標的組織での脱感受性,標的組織でのVEGF産生亢進などが考えられている10).同様の原因により本研究で対象としたDME症例においても,徐々にIVBに対して治療抵抗性となっていた可能性は高いと考えられる.また,KaiserらがIVB反応不良のAMD症例においてIVRへのスイッチ療法が有効な理由として,ラニビズマブがベバシズマブより分子量が小さく,VEGFへの親和性が高いためと考察しているように,Fc領域の有無といった両者の根本的な創薬デザインの相違も大きく影響していると考えられる11).本研究は症例数が7症例と少なく,観察期間も短いため,今後,より多くの症例と長期間の観察が必要と思われる.また,ラニビズマブ反応不良症例において,ベバシズマブやアフリベルセプトなど他の抗VEGF薬へのスイッチ療法の効果についても検討する必要があると思われる.本研究では,ベバシズマブ反応不良となったDME症例において,ラニビズマブへのスイッチ療法が有効な症例があることが示唆された.DMEに対する抗VEGF療法において,反応不良例では一つの抗VEGF薬にこだわらず,抗VEGF薬を変更するスイッチ療法を選択肢の一つとして検討することは重要と考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothelialgrowthfactorinocularfluidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEnglJMed331:1480-1487,19942)MichaelidesM,KainesA,HamiltonRDetal:Aprospectiverandomizedtrialofintravitrealbevacizumaborlasertherapyinthemanagementofdiabeticmacularedema(BOLTstudy)12-monthdata:report2.Ophthalmology117:1078-1086e1072,20103)NguyenQD,ShahSM,KhwajaAAetal:Two-yearoutcomesoftheranibizumabforedemaofthemAculaindiabetes(READ-2)study.Ophthalmology117:21462151,20104)DoDV,Schmidt-ErfurthU,GonzalezVHetal:TheDAVINCIStudy:phase2primaryresultsofVEGFTrap-Eyeinpatientswithdiabeticmacularedema.Ophthalmology118:1819-1826,20115)OtsujiT,NagaiY,ShoKetal:Initialnon-responderstoranibizumabinthetreatmentofage-relatedmaculardegeneration(AMD).ClinOphthalmol7:1487-1490,20136)GasperiniJL,FawziAA,KhondkaryanAetal:Bevacizumabandranibizumabtachyphylaxisinthetreatmentofchoroidalneovascularisation.BrJOphthalmol96:14-20,20127)BakallB,FolkJC,BoldtHCetal:Aflibercepttherapyforexudativeage-relatedmaculardegenerationresistanttobevacizumabandranibizumab.AmJOphthalmol156:15-22e11,20138)HanhartJ,ChowersI:Evaluationoftheresponsetoranibizumabtherapyfollowingbevacizumabtreatmentfailureineyeswithdiabeticmacularedema.CaseRepOphthalmol6:44-50,20159)AielloLP,BeckRW,BresslerNMetal:Rationaleforthediabeticretinopathyclinicalresearchnetworktreatmentprotocolforcenter-involveddiabeticmacularedema.Ophthalmology118:e5-e14,201110)BinderS:Lossofreactivityinintravitrealanti-VEGFtherapy:tachyphylaxisortolerance?BrJOphthalmol96:1-2,201211)KaiserRS,GuptaOP,RegilloCDetal:Ranibizumabforeyespreviouslytreatedwithpegaptaniborbevacizumabwithoutclinicalresponse.OphthalmicSurgLasersImaging43:13-19,2012***(139)あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016299

滲出性網膜剝離に対してベバシズマブ硝子体内投与が奏効した転移性脈絡膜腫瘍の1 例

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(131)587《原著》あたらしい眼科28(4):587.592,2011cはじめに転移性脈絡膜腫瘍は眼内腫瘍で最も頻度が高く,悪性腫瘍患者の平均生存期間の延長により症例に遭遇する機会が増えてきている1).原発巣としては,男性の肺癌,女性の乳癌を合わせると約8割に及ぶ.眼底検査では後極部から中間周辺部までに黄白色で扁平な隆起性病変として認めることが多く,随伴所見である腫瘍周囲の滲出性網膜.離が黄斑部に及ぶと変視や視力低下をきたす.ベバシズマブ(AvastinR,Genentech,USA)は,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)に対するヒト化モノクローナル抗体で,すべてのVEGFアイソフォームを阻害し,血管内皮細胞の増殖や遊走および血管透〔別刷請求先〕稲垣絵海:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:EmiInagaki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPAN滲出性網膜.離に対してベバシズマブ硝子体内投与が奏効した転移性脈絡膜腫瘍の1例稲垣絵海*1篠田肇*1内田敦郎*1川村亮介*2鈴木浩太郎*2野田航介*3石田晋*3坪田一男*1小沢洋子*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2けいゆう病院眼科*3北海道大学大学院医学研究科眼科学分野EffectofIntravitrealInjectionofBevacizumabforExudativeRetinalDetachmentSecondarytoMetastaticChoroidalTumor:CaseReportEmiInagaki1),HajimeShinoda1),AtsuroUchida1),RyosukeKawamura2),KotaroSuzuki2),KosukeNoda3),SusumuIshida3),KazuoTsubota1)andYokoOzawa1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,KeiyuHospital,3)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine滲出性網膜.離に対してベバシズマブ硝子体内投与が奏効した転移性脈絡膜腫瘍の1症例を経験したので報告する.症例は53歳,男性で,左眼の視力低下を主訴に受診した.肺腺癌(臨床病期T2N0M1,stageIV)と診断されていた.初診時矯正視力は右眼1.2,左眼0.4,左眼眼底に2乳頭径大の脈絡膜腫瘍を認め,黄斑部に滲出性網膜.離を伴っていた.肺癌原発の転移性脈絡膜腫瘍と診断し,ベバシズマブ1.25mg硝子体内投与を計2回施行した.初回の投与で漿液性網膜.離は減少し,死亡するまで矯正視力0.8を維持した.ベバシズマブ硝子体内投与は転移性脈絡膜腫瘍の寛解を必ずしも期待できる治療ではないものの,末期癌患者の残されたqualityoflifeの改善に寄与する可能性がある.Wereportacaseofexudativeretinaldetachmentsecondarytometastaticchoroidaltumorthatwastreatedsuccessfullywithintravitrealinjectionofbevacizumab.Thepatient,a53-year-oldmalewhohadbeendiagnosedwithadenocarcinomaofthelung,T2N0M1,stageIV,noticedlossofvisioninhislefteye.Atthefirstvisit,hisbest-correctedvisualacuitywas1.2OD,0.4OS.Fundusexaminationofthelefteyerevealedachoroidaltumor2discdiametersinsize,locatedinthesuperotemporalquadrant,andserousretinaldetachmentthathadspreadtoincludethemacula.Theclinicaldiagnosiswaschoroidalmetastasissecondarytolungcancer;intravitrealinjectionofbevacizumab1.25mgwasgiventwice.Theserousretinaldetachmentdecreased;best-correctedvisualacuityrecoveredtoandremainedat0.8OSuntilthepatientdied.Althoughintravitrealinjectionofbevacizumabmaynotleadtocompleteregressionofmetastaticchoroidaltumor,itmayimprovequalityoflifeforterminalcancerpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(4):587.592,2011〕Keywords:脈絡膜腫瘍,滲出性網膜.離,ベバシズマブ.choroidaltumor,exudativeretinaldetachment,bevacizumab.588あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(132)過性亢進を抑制する.ベバシズマブはアメリカ食品医薬品局(FDA)により2004年に転移性直結腸癌に対する,また2006年に転移性肺癌(非扁平上皮癌かつ非小細胞癌)に対する治療薬として認可された.眼科領域においてベバシズマブ硝子体内投与は適応外(offlabel)使用であるが,糖尿病網膜症2),網膜静脈閉塞症3),未熟児網膜症4),Coats病5)など,その病態に血管新生や血管透過性亢進が関与する疾患に対しての有効性が報告されている.従来,転移性脈絡膜腫瘍の治療は放射線照射や光凝固術,冷凍凝固術などが行われてきた.近年,海外では,ベバシズマブ硝子体内投与の有用性が報告された6.10)が,国内ではまだ報告例がない.今回筆者らは,肺癌を原発とする転移性脈絡膜腫瘍と随伴する滲出性網膜.離に対してベバシズマブ硝子体内投与を施行し,早期に滲出性網膜.離の減少および矯正視力の改善を得た症例を経験したので報告する.I症例患者:53歳,男性.主訴:左眼の視力低下.家族歴:父は脊髄小脳変性症,母は大腸癌.既往歴:高尿酸血症.現病歴:2005年6月29日検診にて肺野の異常陰影を指摘ABEDC図1初診時の眼底所見A:眼底写真.後極アーケードの耳上側に,2乳頭径大の境界不明瞭な黄白色の隆起性病変を認める.B:OCT.黄斑部に漿液性網膜.離を伴っている.C:フルオレセイン蛍光眼底造影写真(早期).腫瘍部に一致して低蛍光で縁取られた多発点状の過蛍光を認める.D:インドシアニングリーン蛍光眼底造影写真.早期から後期にかけて腫瘍部に一致した低蛍光を認める.E:Bモード超音波断層検査.ドーム状に隆起した表面平滑な腫瘍を認める(画面下方).(133)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011589され,近医を受診した.右肺上葉に35mm大の腫瘤および両肺野に多発する小結節を認め,気管支鏡による細胞診ではclassV(adenocarcinoma)であったことから肺癌(臨床病期T2N1M1,stageIV)と診断され,精査加療目的で慶應義塾大学病院呼吸器外科を紹介受診した.2005年8月10日より全身化学療法(カルボプラチン,ドセタキセル)を開始し,計8コース施行したところ腫瘍はわずかに縮小した.2006年5月8日より癌性リンパ管症に対しドセタキセルの隔週投与を計18コース追加した.その後,腫瘍が増大したため2007年2月19日より全身化学療法をTS-1に変更し,計10コース施行したが治療効果は低く,2007年4月の胸部CTでは腫瘍のさらなる増大を認めた.2007年8月より左眼の視力低下と変視症を自覚した.近医にて左眼の転移性脈絡膜腫瘍および滲出性網膜.離を指摘され,2007年9月に精査加療目的で慶應義塾大学病院眼科を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼0.4(1.2×.1.00D(cyl.2.00DAx105°),左眼0.4(矯正不能)で,眼圧は右眼14mmHg,左眼11mmHgであった.前房内に炎症細胞は認めず,また中間透光体に異常は認めなかった.左眼眼底には約2乳頭径大の黄白色の隆起性病変を認め(図1A),光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では黄斑部に及ぶ漿液性網膜.離を伴っていた(図1B).前医で施行されたフルオレセイン蛍光眼底造影写真(FA)では,早期に腫瘍部に一致して低蛍光で縁取られた多発点状の過蛍光を認め(図1C),また中期から後期にかけて多発点状過蛍光の増強と漿液性網膜.離の範囲に蛍光色素の貯留を認めた.インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(IA)では早期から後期にかけて腫瘍部に一致した低蛍光を認めた(図1D).Bモード超音波断層検査では表面平滑で内部信号が均一なドーム状の腫瘍を認めた(図1E).MRI(磁気共鳴画像)所見では左眼眼底にT1強調画像でhighintensityを示す腫瘍を認めた.右眼には異常を認めなかった.以上の所見より,肺癌を原発とする転移性脈絡膜腫瘍および滲出性網膜.離と診断した.臨床経過:肺癌に対して全身化学療法(TS-1)を継続した.眼局所に対する放射線療法は患者が希望せず施行しなかった.視力低下の主因は漿液性網膜.離と考えられたため,インフォームド・コンセントを得たのち,2007年9月2日にベバシズマブ1.25mg硝子体内投与を施行した.9月13日(投与から11日目)診察時には滲出性網膜.離は減少し(図2A,B),左眼の矯正視力は0.8に改善した.10月17日の眼底写真では腫瘍範囲の拡大を認めたものの,FAでは腫瘍からの蛍光漏出の減少を認めた(図2C).滲出性網膜.離のさらなる改善を目指して11月2日に2回目のベバシズマブ硝子体内投与を施行した.11月12日,矯正視力は0.8を維持したが,滲出性網膜.離の増加および腫瘍範囲の拡大を認めた(図3).2008年1月,3回目のベバシズマブ硝子体内注射予定であったが,全身状態不良のため延期となった.2月6日,呼吸苦増悪し当院外科に緊急入院され,2月13日全身状態の悪化により永眠された.ABC図2ベバシズマブ硝子体内投与(1回目)後の眼底所見A:OCT.腫瘍による網膜色素上皮の隆起を認める.少量の網膜下液を残して中心窩はほぼ復位が得られている.B:眼底写真.腫瘍範囲は中心窩まで拡大している.C:フルオレセイン蛍光眼底造影写真(早期).蛍光漏出の減少を認める.590あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(134)なお,本研究は慶應義塾大学医学部倫理委員会の承認のもとに行われた.II考按本症例では,ベバシズマブ硝子体内投与により転移性脈絡膜腫瘍に続発した滲出性網膜.離の減少と視力の回復がみられ,死亡に至るまでの数カ月間の視力維持を得た.転移性脈絡膜腫瘍の鑑別疾患として,脈絡膜悪性黒色腫,脈絡膜骨腫,脈絡膜血管腫,後部強膜炎などを考慮する必要がある.本症例は検眼鏡で黄白色のドーム状の隆起性腫瘍であったことから,脈絡膜悪性黒色腫の茶.黒褐色のマッシュルーム状でIA後期に腫瘍内血管が明瞭となる所見とは一致しない.また,脈絡膜骨腫のようにBモード超音波断層検査にて石灰化による高信号は認めず,脈絡膜血管腫のようにIA後期に腫瘍全体が過蛍光となる所見は認めなかった.以上から,肺癌による治療歴の背景を考慮して,本症例を転移性脈絡膜腫瘍と診断した.悪性腫瘍の脈絡膜転移は原疾患の予後が不良で,原発巣が肺癌の余命は1.9カ月(0.2.5.9カ月)とされている11).他臓器への転移の有無や平均余命を慎重に検討したうえで,余命が短い患者に対して行う眼科治療の目標は,qualityoflife(QOL)を維持して生きる意欲を高めるための視機能維持・改善であると考えられる.比較的低侵襲で,短期間で治療が終わる可能性の高い治療法が望ましい.従来,肺癌の転移性脈絡膜腫瘍の治療法として,腫瘍の直径が3乳頭径以内であれば光凝固術や冷凍凝固が,そして4乳頭径以上で漿液性網膜.離を伴っていれば放射線治療や化学療法が行われてきた.光凝固術は黄斑部を回避した2乳頭径以内の転移性脈絡膜腫瘍であれば早い治療効果を期待でき,全身への影響が少ない.放射線治療は原発巣が肺癌や乳癌であれば感受性が高く有効な治療法であるが,デメリットとして総量30.35Gyを照射するのに3週間を費やし,皮膚炎,涙液減少によるドライアイ,結膜炎などの急性期副作用を伴う.また,網膜に対する広範囲の組織障害をひき起こしうる.全身化学療法は原発巣や他の臓器の転移巣に対する治療効果も期待でき12),腫瘍の完全寛解が得られたとの報告がABCD図3ベバシズマブ硝子体内投与(2回目)後の眼底所見A:眼底写真.腫瘍範囲は後極部アーケードの全域まで拡大している.B:OCT.網膜色素上皮の不整な隆起と,漿液性網膜.離の再燃を認める.C:フルオレセイン蛍光眼底造影写真(早期).病変部内に多数の顆粒状の過蛍光を認める.D:インドシアニングリーン蛍光眼底造影写真.早期から後期まで強い低蛍光を示す.腫瘍内血管を認める.(135)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011591ある13,14)ものの,約30%にしか奏効しないため確実性に乏しく,胃腸障害や疲労感,心毒性などの副作用が生じた場合にはQOLの低下につながる.本症例では治療法の選択にあたり,漿液性網膜.離を伴っていたことから光凝固術は選択しなかった.また,原発巣の根治は困難なことから視力低下の主因となっていた漿液性網膜.離の治療を重視し,全身への負担が比較的少なく治療にかかる時間が短いベバシズマブ硝子体内投与を選択した.転移性脈絡膜腫瘍に対するベバシズマブ硝子体内投与は2007年にAmselemら6)によって初めて報告された.彼らは,乳癌原発の転移性脈絡膜腫瘍に対しベバシズマブ4mg硝子体内投与を行ったところ,腫瘍サイズは15.9×11.8mmから6.4×2.3mmまで縮小し,黄斑部の滲出性網膜.離の減少により矯正視力は10/200から20/60まで改善したと報告している.またKuoら8)は,8×8mm大のS状結腸癌原発の転移性脈絡膜腫瘍に対しベバシズマブ1.25mg硝子体内投与を1カ月ごとに計3回行ったところ,初回投与から2カ月後に腫瘍は黄白色の瘢痕を残してほぼ消失,矯正視力は手動弁から20/30まで回復し,初回投与から5カ月後の最終観察時までその視力を維持したと報告している.同様にYaoら10)は,直径10mm大の乳癌原発の転移性脈絡膜腫瘍に対してベバシズマブ2.5mg硝子体内投与を行ったところ,腫瘍は著明に縮小し,その後少なくとも24カ月間再発を認めなかったと報告している.転移性脈絡膜腫瘍に対するベバシズマブ硝子体内投与の効果の機序としては,転移病巣の血管組織に対するベバシズマブの抗VEGF作用による効果が考えやすい.抗VEGF作用には,血管増殖抑制の他に血管透過性の抑制があり,本症例では後者が漿液性網膜.離の改善に関与したと考えられた.また,ベバシズマブを静脈内投与した場合,腫瘍内の局所灌流の低下,血管容積の減少,毛細血管密度の低下をもたらす15).硝子体内に投与された抗VEGF抗体の濃度は静脈内投与された場合より低濃度であるものの,血中に移行する16)ことが知られているため,硝子体内投与されたベバシズマブが原発の腫瘍に作用した可能性も否定はできない.全身化学療法と抗VEGF抗体の併用をしたKimら7)は,肺非小細胞癌が原発の漿液性網膜.離を伴った転移性脈絡膜腫瘍に対してエリオチニブ内服とベバシズマブ2.5mg硝子体内投与を1カ月ごとに計3回行ったところ,網膜下に認めた2つの腫瘍は完全に消失し,矯正視力は20/200から20/40まで改善したと報告している.抗VEGF抗体により腫瘍の血管内皮細胞と血管周皮細胞の増殖が抑制されると局所組織の灌流圧が下がり,抗がん剤が腫瘍組織に到達しやすくなるため,両者の併用は相乗効果をもたらすとする報告17)がある.ベバシズマブ硝子体内投与が効果的でなかった症例としてLinら9)は,直腸癌原発の両眼性の転移性脈絡膜腫瘍に対してベバシズマブ4mg硝子体内投与を行い,進行眼には計4回投与するも腫瘍の増大を抑えられず,2つの小さな腫瘍を認めた片眼は1回投与だけで腫瘍の縮小と沈静化が得られたと報告している.原発巣とその組織型だけでなく,腫瘍の大きさもベバシズマブ硝子体内投与の治療を左右する可能性がある.もしベバシズマブ硝子体内投与を行っても十分な治療効果が得られない場合は,速やかに局所の放射線治療や全身化学療法の併用を検討する必要がある.また,ベバシズマブ硝子体内投与の単独治療は,原発巣の根治を目指す治療ではないことを患者に十分に説明し,同意を得る必要がある.短期間に滲出性網膜.離の減少を期待しうるベバシズマブ硝子体内投与は,転移性脈絡膜腫瘍の寛解を必ずしも期待できる治療ではないものの,末期癌患者の残されたQOLの改善に寄与する可能性がある.今後,転移性脈絡膜腫瘍に伴う滲出性網膜.離に対する治療の選択肢としてさらに検討する必要がある.文献1)矢部比呂夫:[悪性疾患と眼]転移性脈絡膜腫瘍.眼科42:153-158,20002)SpaideRF,FisherYL:Intravitrealbevacizumab(Avastin)treatmentofproliferativediabeticretinopathycomplicatedbyvitreoushemorrhage.Retina26:275-278,20063)RosenfeldPJ,FungAE,PuliafitoCA:Opticalcoherencetomographyfindingsafteranintravitrealinjectionofbevacizumab(avastin)formacularedemafromcentralretinalveinocclusion.OphthalmicSurgLasersImaging36:336-339,20054)TravassosA,TeixeiraS,FerreiraPetal:Intravitrealbevacizumabinaggressiveposteriorretinopathyofprematurity.OphthalmicSurgLasersImaging38:233-237,20075)VenkateshP,MandalS,GargS:ManagementofCoatsdiseasewithbevacizumabin2patients.CanJOphthalmol43:245-246,20086)AmselemL,CerveraE,Diaz-LlopisMetal:Intravitrealbevacizumab(Avastin)forchoroidalmetastasissecondarytobreastcarcinoma:short-termfollow-up.Eye(Lond)21:566-567,20077)KimSW,KimMJ,HuhKetal:Completeregressionofchoroidalmetastasissecondarytonon-small-celllungcancerwithintravitrealbevacizumabandoralerlotinibcombinationtherapy.Ophthalmologica223:411-413,20098)KuoIC,HallerJA,MaffrandRetal:Regressionofasubfovealchoroidalmetastasisofcolorectalcarcinomaafterintravitreousbevacizumabtreatment.ArchOphthalmol126:1311-1313,20089)LinCJ,LiKH,HwangJFetal:Theeffectofintravitrealbevacizumabtreatmentonchoroidalmetastasisofcolonadenocarcinoma─casereport.Eye(Lond)24:1102-592あたらしい眼科Vol.28,No.4,20111103,201010)YaoHY,HorngCT,ChenJTetal:Regressionofchoroidalmetastasissecondarytobreastcarcinomawithadjuvantintravitrealinjectionofbevacizumab.ActaOphthalmol88:e282-283,201011)KreuselKM,WiegelT,StangeMetal:Choroidalmetastasisindisseminatedlungcancer:frequencyandriskfactors.AmJOphthalmol134:445-447,200212)LetsonAD,DavidorfFH,BruceRAJr:Chemotherapyfortreatmentofchoroidalmetastasesfrombreastcarcinoma.AmJOphthalmol93:102-106,198213)ChristosPJ,OliveriaSA,BerwickMetal:Signsandsymptomsofmelanomainolderpopulations.JClinEpidemiol53:1044-1053,200014)SinghA,SinghP,SahniKetal:Non-smallcelllungcancerpresentingwithchoroidalmetastasisasfirstsignandshowinggoodresponsetochemotherapyalone:acasereport.JMedCaseReports4:185,201015)WillettCG,BoucherY,diTomasoEetal:DirectevidencethattheVEGF-specificantibodybevacizumabhasantivasculareffectsinhumanrectalcancer.NatMed10:145-147,200416)EnseleitF,MichelsS,RuschitzkaF:Anti-VEGFtherapiesandbloodpressure:morethanmeetstheeye.CurrHypertensRep12:33-38,201017)JainRK:Normalizingtumorvasculaturewithanti-angiogenictherapy:anewparadigmforcombinationtherapy.NatMed7:987-989,2001(136)***

黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体注入 ─糖尿病網膜症と網膜静脈分枝閉塞症─

2011年1月31日 月曜日

108(10あ8)たらしい眼科Vol.28,No.1,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第15回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科28(1):108.112,2011cはじめに糖尿病網膜症(DR)や網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に伴う黄斑浮腫に対する治療として,硝子体手術1,2),網膜光凝固術3),不溶性副腎皮質ホルモン懸濁液であるトリアムシノロンアセトニド(TA)硝子体注入3)またはTenon.下注入2)などが行われてきた.近年は抗血管内皮増殖因子(VEGF)〔別刷請求先〕坂本英之:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室Reprintrequests:HideyukiSakamoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,TokyoWomen’sMedicalUniversity,8-1Kawada-cho,Shinjuku-ku,Tokyo162-8666,JAPAN黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体注入─糖尿病網膜症と網膜静脈分枝閉塞症─坂本英之山本香織堀貞夫東京女子医科大学眼科学教室IntravitrealBevacizumabforTreatmentofMacularEdema:DiabeticMacularEdemaandBranchRetinalVeinOcclusionHideyukiSakamoto,KaoriYamamotoandSadaoHoriDepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,TokyoWomen’sMedicalUniversity目的:黄斑浮腫を伴う糖尿病網膜症(DR)と網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に対するベバシズマブ硝子体注入(IVB)の効果を検討した.対象および方法:対象は経過観察期間中における最終治療がIVBであり,その後6カ月間黄斑浮腫の再発がなく追加治療をせずに経過観察できた32眼(DR18眼,BRVO14眼)であった.Logarithmicminimalangleofresolution〔以下,視力(logMAR値)〕,光干渉断層計で測定したfovealthickness(FT),totalmacularvolume(TMV)を術前と術後6カ月で比較した.視力(logMAR値),FT,TMVをDRとBRVOで比較し,また,術後視力改善の有無によっても比較した.結果:術後視力は術前視力に比べてBRVOで有意に改善し,FTとTMVはDRとBRVOで術前に比べて術後有意に改善した.DRにおける視力改善ありは術後視力改善なしと比べてTMVは有意に小さく,BRVOにおける視力改善ありは視力改善なしと比べて術前後視力は有意に不良であった.結論:DRとBRVOにIVB施行後6カ月間追加治療をせずに観察できた症例において,黄斑浮腫に対するIVB施行は,DRに比べBRVOにおいて効果が高い可能性が示唆された.Purpose:Tocomparetheeffectsofintravitrealbevacizumab(IVB)injectionformacularedemaindiabeticretinopathy(DR)withbranchretinalveinocclusion(BRVO).CaseandMethod:Thisstudyinvolved32eyes(DR18eyes,BRVO14eyes)thatunderwentIVBasfinaltreatmentduringtheinvestigationperiod,anddidnotrequireadditionaltreatmentforrecurrenceofmacularedemaduringthe6-monthfollow-up.Weexaminedlogarithmicminimalangleofresolution(logMAR)visualacuity,fovealthickness(FT)andtotalmacularvolume(TMV)viaopticalcoherencetomography,beforeandat6monthsafterinjection,andcomparedtheresultsbetweenDRandBRVO.Patientsweredividedinto2groupsbasedonvisualacuityimprovement,andtheresultswereanalyzed.Results:ImprovementinvisualacuitywasfoundonlyintheBRVOgroup,thoughimprovementsinFTandTMVwerefoundinbothgroups.IntheDRpatients,TMVinthegroupthatimprovedinvisualacuitywassignificantlylessthaninthegroupthatdidnotimprove.IntheBRVOpatients,visualacuityinthegroupthatimprovedinvisualacuitywasworsethaninthegroupthatdidnotimprove,bothbeforeandaftertreatment.Conclusion:ItissuggestedthatIVBformacularedemaismoreeffectiveforBRVOthanforDR,withouttheneedforadditionaltreatmentduringthe6-monthfollow-upperiod.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(1):108.112,2011〕Keywords:糖尿病網膜症,網膜静脈分枝閉塞症,黄斑浮腫,ベバシズマブ,光干渉断層計(OCT).diabeticretinopathy,branchretinalveinocclusion,macularedema,bevacizumab,opticalcoherencetomography(OCT).(109)あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011109抗体であるベバシズマブ硝子体注入(IVB)の効果が報告されている4~7).黄斑浮腫を伴うDRやBRVOに対してIVBを施行し,その治療効果を検討した報告は術後3カ月程度の短期成績が主である4,6,7).IVB後の視力改善や黄斑浮腫の改善の程度,黄斑浮腫の改善から再燃までの期間などに関しても報告によって結果にばらつきがある4~7).IVB後に黄斑浮腫が再燃し,IVB再施行の必要な例や,すでに他の治療歴があるものにIVBを施行する例を経験する.また,対象の症例によって効果が異なることも経験するが,IVB後のDRとBRVOにおける効果を比較した報告は,検索した限りではない.今回,黄斑浮腫を伴うDRとBRVOに対して経過観察中における最終的な治療がIVBであり,その後6カ月間追加治療をせずに経過観察ができた症例についてその結果や背景を検討することを目的に,視力や黄斑浮腫につき比較,検討したので報告する.I対象および方法対象は,2007年11月から2008年12月に黄斑浮腫に対してベバシズマブ1.25mg/0.05ml硝子体注入を施行した症例48例50眼(DR:32例34眼,BRVO:16例16眼)のうち,最終IVBから追加治療をせずに6カ月以上経過観察できた30例32眼である(50眼中32眼:64%).IVBにあたっては,本学倫理委員会の承認を得て,患者への十分な説明と同意のもとに施行した.男性18例20眼,女性12例12眼,年齢は68.0±6.0(平均±標準偏差)歳であった.DR:16例18眼,BRVO:14例14眼であった.治療歴があったものはDRでは11眼,BRVOでは11眼で,その内訳は硝子体手術,網膜光凝固術,TATenon.下注入,IVBであった.対象となった症例のIVB施行回数は,DRにおいては1回が12眼,2回が5眼,3回が1眼であった.BRVOにおいては1回が5眼,2回が6眼,3回が3眼であった.治療追加の基準は,原則としてlogarithmicminimalangleofresolution〔以下,視力(logMAR値)〕で0.2以上増加,または経過観察中に最も軽度であった黄斑浮腫が光干渉断層計(opticalcoherencetomography:Zeiss社製,OCT3000,以下OCT)による後述の計測で30%以上の増悪を認めた場合とした.視力(logMAR値)はlogMAR視力表(Neitz社製)で測定した.黄斑浮腫はOCTで測定した.測定にはfastmacularthicknessMAPを用い,fovealminimumとtotalmacularvolume(TMV)を測定した.Fovealminimumをfovealthickness(FT)とした.最終IVB直前とその6カ月後の視力(logMAR値),FT,TMVをカルテベースに調査し,術前と術後で比較した.同様にDRとBRVOで比較した.さらに,視力改善に共通する術前因子を検討することを目的に,術後6カ月でのDRとBRVOそれぞれにおける視力改善の有無に分けて視力(logMAR値),FT,TMVを比較した.視力改善ありは視力(logMAR値)が0.2以上減少したものとし,視力改善なしは視力(logMAR値)が0.2未満の改善,不変および悪化を含めた.検討はレトロスペクティブに行った.統計処理にはt検定を用い,有意水準をp<0.05とした.II結果1.DRとBRVOにおける術前と術後6カ月の視力(logMAR値),FT,TMV視力(logMAR値)は,DRで術前0.54±0.30,術後0.51±0.33,BRVOで術前0.43±0.33,術後0.22±0.17であった.術後視力はDRでは有意な改善を認めず,BRVOのみで有意に改善した(p=0.026)(表1).FTは,DRで術前481±115μm,術後366±163μm,BRVOで術前348±112μm,術後243±90.5μmであり,FTはDRとBRVO両者で術前より術後有意に減少した(DR:p=0.0022,BRVO:p=0.022)(表1).FTの術後の減少率はDRでは23%,BRVOでは29%であった.TMVは,DRで術前10.2±1.53mm3,術後9.00±2.09mm3,BRVOで術前8.83±2.56mm3,術後7.55±1.48mm3であった.TMVはDRとBRVOの両者で術前より術後有意に減少した(DR:p=0.0012,BRVO:p=0.038)(表1).TMVの術後の減少率はDRでは12%,BRVOでは14%であった.2.視力(logMAR値),FTおよびTMVのDRとBRVOにおける比較術前視力(logMAR値)はDRで0.54±0.30,BRVOで0.43±0.33で,両者間に有意差はなかった(p=0.27).術後表1DRとBRVOにおけるベバシズマブ注入術前後の視力(logMAR値),FT,TMV視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)DRBRVODRBRVODRBRVO術前0.54±0.300.43±0.33481±115348±11210.2±1.538.83±2.56術後6カ月0.51±0.330.22±0.17366±163243±90.59.00±2.097.55±1.48p値0.570.0260.00220.0220.00120.038t検定:術前と術後6カ月の比較.110あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(110)視力(logMAR値)はDRで0.51±0.33,BRVOで0.22±0.17で,DRと比較しBRVOで有意に良好であった(p=0.0026)(表2).術前FTは,DRで481±115μm,BRVOで348±112μmで,DRと比較しBRVOで有意に薄かった(p=0.0028).術後FTはDRで366±163μm,BRVOで243±90.5μmで,DRと比較しBRVOで有意に薄かった(p=0.022)(表2).術前TMVはDRで10.2±1.53mm3,BRVOで8.83±2.56mm3で,両者間に有意差はなかった(p=0.096).術後TMVはDRで9.00±2.09mm3で,BRVOで7.75±1.48mm3で,DRと比較しBRVOで有意に小さかった(p=0.038)(表2).3.DRとBRVOにおける術後6カ月での視力改善の有無による視力(logMAR値),FTおよびTMVの比較DRでは18眼中,術後6カ月での視力改善ありは7眼,視力改善なしは11眼であった.BRVOでは14眼中,術後6カ月での視力改善ありは6眼,視力改善なしは8眼であった.DRにおける術後6カ月での視力改善の有無により視力(logMAR値),FTおよびTMVを比較すると,術前視力(logMAR値)は視力改善ありでは0.63±0.35,視力改善なしでは0.48±0.27で,有意差はなかった(p=0.37).術前FTは視力改善ありでは430±108μm,視力改善なしでは514±112μmで有意差はなかった(p=0.14).術前TMVは視力改善ありでは9.46±1.62mm3,視力改善なしでは10.6±1.35mm3で有意差はなかった(p=0.14)(表3).術後6カ月での視力(logMAR値)は視力改善ありでは0.34±0.34,視力改善なしでは0.61±0.29で有意差はなかった(p=0.11).術後FTは視力改善ありでは293±92.6μm,視力改善なしでは412±184μmで,視力改善ありは視力改善なしに比べ術後FTは有意に薄かった(p=0.088).術後TMVは視力改善ありでは7.92±1.02mm3,視力改善なしでは9.69±2.35mm3で,視力改善ありは視力改善なしに比べ術後TMVは有意に小さかった(p=0.044)(表3).BRVOにおける術後6カ月での視力改善の有無による視力(logMAR値),FTおよびTMVを比較すると,術前視力(logMAR値)は視力改善ありでは0.72±0.21,視力改善なしでは0.18±0.04で,視力改善ありは視力改善なしに比べ術前視力(logMAR値)は有意に不良であった(p=0.00079).術前FTは視力改善ありでは404±140μm,視力改善なしでは307±67.8μmで有意差はなかった(p=0.16).術前TMVは視力改善ありでは10.5±3.02mm3,視表2DRとBRVOにおける視力(logMAR値),FT,TMVの比較術前術後6カ月視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)DR0.54±0.30481±11510.2±1.530.51±0.33366±1639.00±2.09BRVO0.43±0.33348±1128.83±2.560.22±0.17243±90.57.55±1.48p値0.270.00280.0960.00260.0220.038t検定:DRとBRVOの比較.表3DRにおける視力改善の有無によるベバシズマブ注入術前後の視力(logMAR値),FT,TMVの比較(n=18)視力術前術後6カ月視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)改善あり(n=7)0.63±0.35430±1089.46±1.620.34±0.34293±92.67.92±1.02改善なし(n=11)0.48±0.27514±11210.6±1.350.61±0.29412±1849.69±2.35p値0.370.140.140.110.0880.044t検定:視力改善「あり」と「なし」の比較.表4BRVOにおける視力改善の有無によるベバシズマブ注入術前後の視力(logMAR値),FT,TMVの比較(n=14)視力術前術後6カ月視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)視力(logMAR値)FT(μm)TMV(mm3)改善あり(n=6)0.72±0.21404±14010.5±3.020.38±0.13216±88.68.01±2.16改善なし(n=8)0.18±0.04307±67.87.54±1.090.10±0.05264±92.27.21±0.62p値0.000790.160.0590.00280.350.41t検定:視力改善「あり」と「なし」の比較.(111)あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011111力改善なしでは7.54±1.09mm3で有意差はなかった(p=0.059)(表4).術後6カ月での視力(logMAR値)は視力改善ありでは0.38±0.13,視力改善なしでは0.10±0.05で視力改善ありは視力改善なしに比べ術後視力は有意に不良であった(p=0.0028).術後FTは視力改善ありでは216±88.6μm,視力改善なしでは264±92.2μmで有意差はなかった(p=0.35).術後TMVは視力改善ありでは8.01±2.16mm3,視力改善なしでは7.21±0.62mm3で有意差はなかった(p=0.41)(表4).III考按今回,過去に治療歴のあるものを含む,黄斑浮腫を伴うDRとBRVOに対し,経過観察期間中の最終的な治療がIVBであった症例について検討した.DRにおいてはIVB施行6カ月後の黄斑浮腫(FTとTMV)は有意に改善したことがわかった.しかし術後6カ月の視力は術前に比べ改善傾向は認めたが,有意差はなかった.DRにおいて術後視力改善ありと視力改善なしを比較すると,視力改善ありにおいてFTとTMVは有意に改善しており,浮腫が改善すれば視力が改善することが確認できた.一方,術前視力や術前の黄斑浮腫の程度は術後視力の改善に関与する因子ではなかった.BRVOにおける術後6カ月での視力改善の有無により比較すると,術後視力改善ありは視力改善なしと比較して,術前後の視力が有意に不良であった.DRとBRVOの比較から,今回の検討の対象においてBRVOはDRに比べて術前ではFTは有意に薄く,術後では視力は有意に良好でFTは薄く,TMVは小さい結果が得られた.このことからDRでは術前の黄斑浮腫は高度であり,DRではFT,TMVは術後に改善したがBRVOに比べると黄斑浮腫の残存の程度が大きいことがわかった.FTの術後減少率はDRでは23%,BRVOでは29%,TMVの術後減少率はDRでは12%,BRVOでは14%であり,BRVOにおいてのみ術後有意に視力が改善した結果との関連が考えられた.今回の検討では,視力改善の点ではDRよりもBRVOにおいてIVBの効果は高いという結果であった.BRVOでは黄斑浮腫発症にあたりVEGFとinterleukin-6(IL-6)が関与するといわれている8).一方,DRでは黄斑浮腫発症の病態にVEGF以外にIL-6,intercellularadhesionmolecule1(ICAM-1)などの因子が関連するといわれている9,10).さらに,monocytechemoattractantprotein-1(MCP-1),pigmentepithelium-derivedfactor(PEDF)がDRに伴う黄斑浮腫おける黄斑部の網膜厚に関連する11)との報告がある.DRにおける黄斑浮腫の再燃にあたって,硝子体内のVEGFよりも,IL-6やMCP-1の関連が強く,黄斑浮腫の病因となる可能性が指摘されている12).以上のように,BRVOに比べDRでは黄斑浮腫発症の機序に,炎症に関連する数多くのサイトカインが関与するといわれている.BRVOでは黄斑浮腫発症の主因としてVEGFがあげられる一方で,糖尿病網膜症では病理組織学的に網膜毛細血管における周皮細胞・内皮細胞の変性,基底膜の肥厚があり,特に周皮細胞の変化と血管透過性亢進との関連がいわれている13,14).これらのことは,VEGFのみを標的とした抗VEGF抗体(ベバシズマブ)硝子体注入の治療効果をみた今回の検討において,BRVOのほうがDRに比べ効果が高いという結果になったことの要因と考えられる.Shimuraらの検討でもDRに伴う黄斑浮腫の治療としてIVBに比べ,抗炎症作用を併せ持つ副腎皮質ステロイド薬(TA)硝子体注入のほうが有効であり,ベバシズマブの効果はTAと比較して弱く,短いとしている15).黄斑浮腫に対する治療として,硝子体手術は長期間にわたり黄斑浮腫改善を維持できるとの報告1,2)やTA硝子体注入に比べ,局所/grid光凝固のほうがDRの黄斑浮腫における視力の長期予後が良好であるとする報告がある3).DRやBRVOに伴う黄斑浮腫発症機転に関してはいまだ明らかでない点が多い.その治療にあたり,硝子体手術,IVB,TAのTenon.下注入または硝子体注入,網膜光凝固などの選択肢のなかから,治療の侵襲,副作用,期待できる効果の程度や持続期間を考慮し,かつ患者の社会的背景も踏まえ適切な治療選択をすることが求められる.今回,過去に治療歴のあるものを含む,黄斑浮腫を伴うDRとBRVOに対し,経過観察期間中の最終的な治療がIVBであった症例において,DRに比べてBRVOでは術後視力は有意に良好で,術後FTとTMVは有意に小さく,術後減少率も高かった.黄斑浮腫に対するIVB施行は,DRに比べBRVOにおいて効果が高い可能性が示唆された.文献1)武末佳子,山名時子,向野利寛ほか:糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術の術後成績.臨眼62:1457-1460,20082)八木文彦,佐藤幸裕,山地英孝ほか:網膜静脈分枝閉塞症の黄斑浮腫に対する硝子体手術.眼臨100:608-611,20063)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Arandomizedtrialcomparingintravitrealtriamcinoloneacetonideandfocal/gridphotocoagulationfordiabeticmacularedema.Ophthalmology115:1447-1459,20084)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:Aphase2randomizedclinicaltrialofintravitrealbevacizumabfordiabeticmacularedema.Ophthalmology114:1860-1867,20075)大野尚登,森山涼,菅原通孝ほか:糖尿病黄斑浮腫に対するベバシズマブとトリアムシノロンアセトニドの治療効果.臨眼63:307-309,2009112あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(112)6)澤田浩作,池田俊英,大八木智仁ほか:網膜静脈分枝閉塞症の黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体内投与の効果.臨眼62:875-878,20087)原信哉,桜庭知己,片岡英樹ほか:網膜静脈分枝閉塞症による黄斑浮腫に対するベバシズマブの治療成績.眼臨紀1:796-801,20088)NomaH,FunatsuH,YamasakiMetal:Pathogenesisofmacularedemawithbranchretinalveinocclusionandintraocularlevelsofvascularendothelialgrowthfactorandinterleukin-6.AmJOphthalmol140:256-261,20059)NomaH,FunatsuH,MimuraTetal:Vitreouslevelsofinterleukin-6andvascularendothelialgrowthfactorarerelatedtodiabeticmacularedema.Ophthalmology110:1690-1696,200310)FunatsuH,YamashitaH,SakataKetal:Vitreouslevelsofvascularendothelialgrowthfactorandintercellularadhesionmolecule1arerelatedtodiabeticmacularedema.Ophthalmology112:806-816,200511)FunatsuH,NomaH,MiuraTetal:Associationofvitreousinflammatoryfactorswithdiabeticmacularedema.Ophthalmology116:73-79,200912)RohMI,KimHS,SongJHetal:Effectofintravitrealbevacizumabinjectiononaqueoushumorcytokinelevelsinclinicallysignificantmacularedema.Ophthalmology116:80-85,200913)WuL,ArevaloJF,BerrocalMHetal:Comparisonoftwodosesofintravitrealbevacizumabasprimarytreatmentformacularedemasecondarytobranchretinalveinocclusions:resultsofthePanAmericanCollaborativeRetinaStudyGroupat24months.Retina29:1396-1403,200914)高木均,本田孔士,吉村長久ほか:眼と加齢加齢と網膜血管障害.日眼会誌111:207-231,200715)ShimuraM,NakazawaT,YasudaKetal:Comparativetherapyevaluationofintravitrealbevacizumabandtriamcinoloneacetonideonpersistentdiffusediabeticmacularedema.AmJOphthalmol154:856-861,2008***

網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体内投与の短期成績

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1(133)5650910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(4):565568,2009cはじめに網膜中心静脈閉塞症(CRVO)に伴う黄斑浮腫は,視力低下の原因となる合併症である1).これまで,黄斑浮腫に対する治療として格子状網膜光凝固が試みられているが,黄斑浮腫に対しては有効であったが視力の改善は得られなかった2).トリアムシノロンアセトニド(TA)Tenon下注射または硝子体内注射3,4)も行われてきたが,効果は一時的であり,副作用として眼圧上昇や白内障進行などがみられた.さらに放射状視神経切開術が有効であったとする報告57)もあるが,硝子体手術はリスクも少なくなく,硝子体術者のいる一〔別刷請求先〕新垣孝一郎:〒040-0053函館市末広町7-13江口眼科病院Reprintrequests:KoichiroArakaki,M.D.,EguchiEyeHospital,7-13Suehiro-cho,Hakodate-shi040-0053,JAPAN網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体内投与の短期成績新垣孝一郎*1森文彦*1昌原英隆*1外山琢*1田邉智子*1森洋斉*2江口まゆみ*1江口秀一郎*1*1江口眼科病院*2宮田眼科病院Short-TermEectofIntravitrealBevacizumabforMacularEdemainCentralRetinalVeinOcclusionKoichiroArakaki1),FumihikoMori1),HidetakaMasahara1),TakuToyama1),TomokoTanabe1),YousaiMori2),MayumiEguchi1)andShuichiroEguchi1)1)EguchiEyeHospital,2)MiyataEyeHospital目的:網膜中心静脈閉塞症(CRVO)に伴う黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体内単回投与の効果を検討した.対象および方法:CRVO発症後3カ月以内の男性3例,女性4例の7例7眼について,CRVOに伴った黄斑浮腫に対しベバシズマブ(1.25mg/0.05ml)を硝子体内に投与した.年齢は5587歳(平均68歳).ベバシズマブ硝子体内投与前に,トリアムシノロンTenon下投与を施行されている症例はなかった.投与前後の矯正視力と中心窩網膜厚を測定した.結果:中心窩網膜厚は投与前(676±158μm)と比較し,投与1週間(338±73.6μm),1カ月後(437±184μm)で有意に減少した.logMAR視力は,投与前(0.74±0.40),投与後1週間(0.67±0.51),1カ月後(0.78±0.49)の3群間で有意差はみられなかった.結論:CRVOに伴う黄斑浮腫に対して,ベバシズマブ硝子体内投与は中心窩網膜厚を改善させたが,視力の改善は得られなかった.Westudiedtheeectofintravitrealbevacizumabinpatientswithmacularedemasecondarytocentralretinalveinocclusion(CRVO).Subjectscomprised7patients(7eyes)withmacularedemainCRVOwhoreceivedintrav-itrealinjectionofbevacizumab(1.25mg);thecriterionforstudyinclusionwasintravitrealinjectionofbevacizum-abwithinthreemonthsofCRVOonset.Subjectagesrangedfrom55to87years(average68years).Wemeasuredcorrectedvisionandcentralmacularthickness.Centralmacularthicknesswasfoundtohavedecreasedfrom676±158μmatpre-injectionto338±73.6μmat1week,andto437±184μmat1month.MeanvisualacuitylogMARwasnotsignicantlydierentbetweenthethreegroups:0.74±0.40atpre-injection,0.67±0.51at1weekafterinjectionand0.78±0.49at1monthafter.Intravitrealbevacizumabtreatmentwaseectiveforthesecondarymac-ularedemainCRVO,butnotforvisualacuity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(4):565568,2009〕Keywords:ベバシズマブ,網膜中心静脈閉塞症,黄斑浮腫.bevacizumab,centralretinalveinocclusion,maculaedema.———————————————————————-Page2566あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(134)部の施設でしか行えない制限もある.これまでの報告からも,CRVOに伴った黄斑浮腫に対する治療方法はいまだに確立していない.網膜静脈閉塞症のような血管閉塞病変に伴う黄斑浮腫には,血管内皮増殖因子(VEGF)が関連していることが知られており8,9),近年そのモノクローナル抗体である抗VEGF抗体を硝子体内に投与する治療が報告されている1012).わが国でも,CRVOに伴った黄斑浮腫に対して,抗VEGF抗体であるベバシズマブ(アバスチンR,Genentech,USA)を硝子体内投与した報告がある13,14)が,単回投与での詳細な経過を追っていない.今回筆者らは発症後3カ月以内のCRVOに伴う黄斑浮腫に対し,ベバシズマブ硝子体内単回投与の効果を検討した.I対象および方法発症後3カ月以内のCRVOに伴う黄斑浮腫に対して,TA投与歴のない男性3例,女性4例の7例7眼を対象とした.年齢は平均68歳(5587歳)である.CRVO発症からベバシズマブ投与までの期間は平均37日(789日)で,ベバシズマブ投与後1カ月経過観察を行った.眼底所見,フルオレセイン蛍光眼底検査からCRVOStudy15)の基準と照らし合わせて,5眼は虚血型,2眼は非虚血型であった(表1).虚血型については,汎網膜光凝固を予定した.院内倫理委員会の承認後,十分な説明にて患者の同意を得てベバシズマブ1.25mg/0.05mlを硝子体内に投与した.ベバシズマブ投与前,投与後1週間,1カ月におけるlogMAR視力(小数視力を後にlogMAR換算した)と中心窩網膜厚を検討し,Wil-coxonの符合付順位検定にてp<0.05を有意とした.中心窩網膜厚は光干渉断層計(ZEISS製:OCT3000もしくはCir-rusHD-OCT,以下OCT)を用いて測定した.II結果各症例の視力経過は図1に示すとおりであった.平均logMAR視力は投与前0.74±0.40に対して,投与後1週間,1カ月でそれぞれ0.67±0.51,0.78±0.49となり,3群間で有意差はみられなかった(図2).平均中心窩網膜厚は投与前676±158μmに対して,投与後1週間,1カ月でそれぞれ338±73.6μm,437±184μmとなり,投与後1週間,1カ月で有意に減少した(図3).全症例の中心網膜厚の経過を図4に示した.全症例ともベバシズマブ投与後1週間で網膜厚は減少した.しかし,1カ月後まで減少傾向が持続した症例は2例のみであり,その他の5例は少なくとも網膜厚の再燃がみられた(症例①と④のOCT所見:図5).全例において,投与前よりも悪化する症例はみられなかった.今回の観察期表1各症例一覧症例年齢(歳)性別ベバシズマブ投与までの期間(日)虚血型/非虚血型全身疾患について①73女性73虚血型高血圧症②87女性89虚血型特記事項なし③78女性30虚血型高血圧症,糖尿病④60男性34虚血型高血圧症,糖尿病⑤61女性19虚血型特記事項なし⑥63男性7非虚血型高血圧症,糖尿病⑦55男性10非虚血型高血圧症:症例①:症例②:症例③:症例④:症例⑤:症例⑥:症例⑦投与前1週間後1カ月後00.20.40.60.811.21.41.6logMAR視力図1各症例の視力推移投与前後後平均±標準偏差0.74±0.400.67±0.510.78±0.49logMAR視力図2ベバシズマブ投与前後の平均視力推移———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009567(135)間では,ベバシズマブ投与に関連した眼内炎,眼圧上昇,網膜離,硝子体出血,水晶体損傷などの合併症はみられなかった.III考按今回の結果,CRVOに伴う黄斑浮腫に対してベバシズマブ硝子体内投与後1週間で黄斑浮腫は改善した.中心窩網膜厚は,投与前と比較し1週間後,1カ月後において有意に減少していたが,logMAR視力では,3群間に有意差はみられなかった.Ferraraらは,発症後3カ月以内のCRVOに伴う黄斑浮腫6眼に対して,初回治療としてベバシズマブ1.25mg/0.05ml硝子体内投与を行った経過を報告している10).彼らの報告では,中心窩網膜厚はベバシズマブ投与1カ月後より有意に減少したが,視力の改善が得られたのは2カ月後からであった.最終結果は,6カ月の経過で中心窩網膜厚および視力の有意な改善を得ている.しかし,プロトコールでは1カ月ごとの診察を行い,網膜出血に伴う視力低下,黄斑浮腫の残存,再燃があればベバシズマブを再投与したため,最終観察期間7カ月から15カ月において,4回から10回の投与中心窩網膜厚(m)9008007006005004003002001000**投与前1週間後1カ月後平均±標準偏差437±184338±73.6676±158図3ベバシズマブ投与前後の平均中心窩網膜厚推移*Wilcoxonの符号付順位検定p<0.05.:症例①:症例②:症例③:症例④:症例⑤:症例⑥:症例⑦投与前1週間後1カ月後1,0009008007006005004003002001000中心窩網膜厚(m)図4各症例の中心窩網膜厚推移症例①症例④投与前後後図5症例①と④のOCT所見———————————————————————-Page4568あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(136)が必要であったとしている.Priglingerらの報告11)では,過去にTA投与や放射状視神経切開術,汎網膜光凝固術などを施行された症例も含む46眼に対して,ベバシズマブ1.25mg/0.05ml硝子体内投与を,初回投与と4週間後に再投与している.さらなる追加投与については,視力,黄斑浮腫の経過により個々で判断され,14眼が2回,20眼で3回,12眼で4回投与を行い,6カ月の経過で有意な中心窩網膜厚の減少と視力の改善を得ている.今回の結果では,ベバシズマブ単回投与では中心窩網膜厚の改善はあったが,視力の改善は得られなかった.また,1カ月という短期間において黄斑浮腫の再燃をきたす症例がみられた.視機能回復には,黄斑浮腫を消退させ持続させる必要があるため,CRVOに伴った黄斑浮腫に対する有効なベバシズマブ投与は,複数回必要であることが考えられる.しかし,ベバシズマブ硝子体内投与は適応外使用という問題もあり,角膜障害,水晶体損傷,網膜離,眼内炎などの眼合併症のほかに,血圧上昇や脳血管障害などの全身合併症の可能性も示唆されている16).現状においては,それぞれの施設基準や倫理委員会などにおいて投与の判断がされており,どのような症例に有効なのか,どこまで続けていくか,いつ投与するかなどの問題がある.今後症例数を増やし投与時期や投与回数,長期予後なども含め検討していく必要がある.文献1)ChenJC,KleinML,WatzkeRCetal:Naturalcourseofperfusedcentralretinalveinocclusion.CanJOphthalmol30:21-24,19952)Evaluationofgridpatternphotocoagulationformacularedemaincentralveinocclusion.TheCentralVeinOcclu-sionStudyGroupMreport.Ophthalmology102:1425-1433,19953)KaracorluM,KaracorluSA,OsdemirHetal:Intravitrealtriamcinoloneacetonidefortreatmentofserousmaculardetachmentincentralretinalveinocclusion.Retina27:1026-1030,20074)JonasJB,AkkoyunI,KamppeterBetal:Intravitrealtri-amcinoloneacetonidefortreatmentofcentralretinalveinocclusion.EurJOphthalmol15:751-758,20055)築城英子,三島一晃,北岡隆:網膜中心静脈閉塞症に対する放射状視神経切開術の長期経過.眼紀57:755-758,20066)金子卓,石田政弘,竹内忍:網膜中心静脈閉塞症に対するradialopticneurotomyの成績.臨眼58:923-926,20047)ArevaloJF,GarciaRA,WuLetal:Pan-AmericanCol-laborativeRetinaStudyGroup.Radialopticneurotomyforcentralretinalveinocclusion:resultsofthePan-Ameri-canCollaborativeRetinaStudyGroup(PACORES).Retina28:1044-1052,20088)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothe-lialgrowthfactorinocularuidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEnglJMed331:1480-1487,19949)Pe’erJ,FolbergR,ItinAetal:Vascularendothelialgrowthfactorupregulationinhumancentralretinalveinocclusion.Ophthalmology105:412-416,199810)FerraraDC,KoizumiH,SpaideRF:Earlybevacizumabtreatmentofcentralretinalveinocclusion.AmJOphthal-mol144:864-871,200711)PriglingerSG,WolfAH,KreutzerTCetal:Intravitrealbevacizumabinjectionsfortreatmentofcentralretinalveinocclusion:six-monthresultsofaprospectivetrial.Retina27:1004-1012,200712)HsuJ,KaiserRS,SivalingamAetal:Intravitrealbevaci-zumab(avastin)incentralretinalveinocclusion.Retina27:1013-1019,200713)元村憲文,三浦雅博,岩崎琢也:網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体内投与の短期成績.臨眼62:533-536,200814)梅基光良,山口泰孝,木村忠貴ほか:網膜静脈閉塞による遷延性類胞状黄斑浮腫に対する硝子体ベバシズマブ投与の短期効果.臨眼62:537-541,200815)Baselineandearlynaturalhistoryreport.TheCentralVeinOcclusionStudy.ArchOphthalmol111:1087-1095,199316)FungAE,RosenfeldPJ,ReichelE:TheInternationalIntravitrealBevacizumabSafetySurvey:usingtheinter-nettoassessdrugsafetyworldwide.BrJOphthalmol90:1344-1349,2006***