———————————————————————- Page 1(119)ツꀀ 14170910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(10):1417 1420,2009cはじめに中心性漿液性脈絡網膜症(centralツꀀ serousツꀀ chorioretinopa-thy:CSC)は,黄斑部の漿液性網膜 離(serousツꀀ retinal detachment:SRD)を特徴とし,30 40 歳代の男性の片眼に多くみられ,小視症,変視症などの症状を認める.ただ矯正視力は比較的良好であることが多く,一般的には 3 4 カ月で自然治癒が可能であるが,遷延化,再発をくり返すことで矯正視力の低下をきたすことがある1,2).今回筆者らは,CSC が 10 年以上もの長期間寛解と再発をくり返したために,視力低下に至った症例に対し,ベバシズマブ(アバスチンR)の硝子体内投与と光線力学的療法による治療を試みたので報告する.I症例患者:55 歳,女性.主訴:左眼の視力低下.既往歴:特になし.現病:10 年前より左眼に CSC を発症し,何度も再発をくり返し,徐々に視力低下をきたした.レーザー光凝固は受けていない.眼所見:初診時の視力は右眼 0.8(n.c.),左眼 0.06(0.08×sph 1.0 D),眼圧は右眼 18 mmHg,左眼 16 mmHg であっ〔別刷請求先〕櫻井寿也:〒550-0024 大阪市西区境川 1-1-39多根記念眼科病院Reprint requests:Toshiya Sakurai, M.D., Tane Memorial Eye Hospital, 1-1-39 Sakaigawa, Nishiku, Osaka 550-0024, JAPAN遷延性中心性漿液性脈絡網膜症に対してベバシズマブ 硝子体内投与と光線力学的療法を行った 1 例櫻井寿也山田知之田野良太郎福岡佐知子竹中久張國中真野富也多根記念眼科病院A Case of Chronic Central Serous Chorioretinopathy, Treated with Bevacizumab Intravitreal Injection and Photodynamic TherapyToshiya Sakurai, Tomoyuki Yamada, Ryotaro Tano, Sachiko Fukuoka, Hisashi Takenaka, Kokuchu Choツꀀ and Tomiya ManoTane Memorial Eye Hospital遷延性中心性漿液性脈絡網膜症はときに視力予後不良となることがある.今回ベバシズマブ(アバスチンR)と 光線力学的療法(PDT)を用いた治療効果について検討した.55 歳,女性.左眼に 10 年以上にわたって中心性漿液性脈絡網膜症の再発をくり返し,矯正視力が 0.08 となったため,ベバシズマブ 1.25 mg(0.05 ml)を硝子体内注入した.その後,漿液性網膜 離(SRD)が残存したため 3 カ月後に PDT を追加治療した.PDT 治療後 SRD も消退し,術後再発を認めていない.矯正視力は 0.1 にとどまっている.遷延性中心性漿液性脈絡網膜症に対してベバシズマブ硝子体内投与だけでは不十分であり PDT を追加治療が有効であった.Weツꀀ reportツꀀ theツꀀ e cacyツꀀ ofツꀀ intravitrealツꀀ bevacizumabツꀀ injectionツꀀ andツꀀ photodynamicツꀀ therapy(PDT)inツꀀ theツꀀ treat-ment of chronic central serous chorioretinopathy(CSC). The patient, a 55-year-old female, presented with serous retinal detachment and chronic CSC of 10 years’ duration. Bevacizumab(1.25 mg)intravitreal injection was admin-istrered. Three months later, photodynamic therapy was performed. Visual acuity improved from 0.08 before treat-mentツꀀ toツꀀ 0.1ツꀀ atツꀀ 1ツꀀ yearツꀀ afterツꀀ treatment.ツꀀ Intravitrealツꀀ bevacizumabツꀀ injectionツꀀ andツꀀ addedツꀀ PDTツꀀ compriseツꀀ anツꀀ e ective treament for chronic CSC.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(10):1417 1420, 2009〕Key words:中心性漿液性脈絡網膜症,漿液性網膜 離,べバシズマブ,光線力学的療法.central serous choriore-tinopathy, serous retinal detachment, bevacizumab, photodynamic therapy.———————————————————————- Page 21418あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(120)た.細隙灯顕微鏡検査では両眼ともに軽度の白内障を認めた.右眼眼底は特に異常を認めなかった.左眼の眼底は黄斑部に漿液性網膜 離を認めた.フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)の初期 中期に中心窩下方に点状漏出点を認め,その周囲へ時間とともに過蛍光の漏出拡大を認め,インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)では FA の過蛍光に一致した部位での脈絡膜血管の透過性亢進を示す蛍光漏出を認める(図 1).光干渉断層計(opticalツꀀ coherenceツꀀ tomography:OCT)で SRD が確認された.3 カ月経過観察後も変化なく,当院倫理委員会承認のもと,ベバシズマブ(アバスチンR)1.25 mgツꀀ 0.05 ml を硝子体内投与した.ベバシズマブ投与後,左眼視力は 0.1(n.c.)にやや改善するも,OCT による SRDは投与により以前より減少はみられたが,3 カ月経っても投与後の SRD がこれ以上減少しないと判断し(図 2),追加治療としてベルテポルフィン(ビスダインR)を用いた光線力学的療法(PDT)を当院倫理委員会承認のもと施行した.ビスダインRツꀀ 6 mg/m2を 5%ぶとう糖液で調整して 30 ml としたものを 10 分間静脈内に連続投与した.投与後 5 分後にビズラス PDT システム 690S(カールツァイス社製)を用いて波長 689 nm のレーザーを 83 秒間 FA の蛍光漏出点を中心に PDT スポットサイズ 2,800 μm の径で照射した.照射径の決定は FA の蛍光漏出部分が 1,800 μm であったので1,000 μm 加えたサイズとした.PDT 施行後約 2 週間で SRDは消失し,その後 1 年間 SRD はみられていない.PDT 施行後 12 カ月の FA では黄斑部周辺に windowツꀀ defect と考えられる顆粒状の多数の過蛍光点を認めるが,後期に拡大することはなかった.また,IA において初診時のような蛍光漏出は認められなかった(図 3).しかし,左眼の矯正視力は 0.1(n.c.)にとどまっていた.II考按CSC は自然治癒が期待され,予後良好と期待できる疾患ではあるが,一定期間 SRD が残存していることによる視細胞層へのダメージが考えられ,罹病期間を短縮し,再発を防DABC図 1初診時所見A:眼底写真.B:フルオレセイン蛍光眼底撮影(FA,造影 14 分後),矢印は点状漏出点.C:インドシアニングリーン蛍光眼底撮影(IA,造影左眼 1 分,右眼 5 分後),FA で過蛍光が認められた部位に脈絡膜血管の透過性亢進を示す蛍光漏出を認める.D:OCT において SRD を認める.図 2 ベバシズマブ硝子体内投与後3カ月のOCT 減少した SRF が残っている.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091419(121)ぐことが望まれる.CSC の病態としてはまず脈絡膜血管の循環障害,血管透過性亢進により網膜色素上皮細胞が障害され,SRD が生じると考えられる.そこで,今回,強力な血管透過性亢進抑制作用を有する抗血管内皮増殖因子(vascu-larツꀀ endothelialツꀀ growthツꀀ factor:VEGF)製剤に注目し,抗VEGF 製剤としてベバシズマブの硝子体内注入を試み た3).これまで筆者らは CSC の脈絡膜循環障害から VEGFの発生が病態に関与するものと推測し,CSC に対するベバシズマブ硝子体内投与治療を施行した.ベバシズマブR硝子体内投与後 6 例中 4 例が 1 カ月後に SRD の消失を認めた.残りの 2 例は追加投与を行い初回投与から 2 カ月後には全例SRD の消退を認めた.治療後 3 カ月の矯正視力は全例において視力の改善もしくは維持が認められた.以上の結果を得て第 47 回日本網膜硝子体学会で発表した(あたらしい眼科投稿中).CSC への PDT の応用はこれまでも報告され4,5),作用機序は PDT によって脈絡膜の血管透過性亢進が抑制されるとしている.今回の症例はかなり視力が低下しており,さらに,治療前の OCT からも網膜厚が菲薄化していることから,PDT を施行することで炎症を惹起し,さらなる VEGF の発生をきたす可能性6),および PDT によるレーザー照射範囲の正常脈絡膜血管の閉塞を伴いさらに網膜色素上皮細胞層の萎縮が推測されたために7),まずベバシズマブの投与を先に行った.しかし,SRD の大きさは減少したが完全に消退しなかったことから結果として PDT を追加治療として行った.今回の症例では罹病期間も長く,再発をくり返すことにより網膜厚が菲薄化しており,最終的には SRD の消失を認めたが視力改善には至らなかった.CSC の治療の第一選択はレーザー光凝固であるが,蛍光漏出点が黄斑近傍に存在する場合や SRD の丈が高いと効果的には使用できない.また,レーザー光凝固により脈絡膜新生血管が生じる例がある.CSCに対する治療は罹病期間を短縮し,できるだけ侵襲の少ないものが望まれる.これは本症が自然治癒傾向のある疾患であり,治療そのものによる合併症が生じると視力予後不良となってしまう可能性があるからである.今後は CSC への治療として早期に SRD を消退させ視機能を保護する新しい治療方法として抗 VEGF 製剤を試みる価値はあると考えられ,そのうえで効果が不十分な場合には PDT を検討すべきではないかと考えられた.本論文の要旨は第 32 回日本眼科手術学会総会にて発表した.図 3PDT施行後12カ月の所見A:眼底写真.B:FA 像(造影 15 分後).Windowツꀀ defect を多数認めるが蛍光の拡大はなかった.C:IA 像(造影 5 分後)での蛍光漏出は認めない.D:SRD は消失している.ツꀀツꀀツꀀ ———————————————————————- Page 41420あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(122)文献 1) 古泉英貴,飯田知弘:中心性漿液性網脈絡膜症の病態と治療.あたらしい眼科 22:567-572, 2005 2) 飯田知弘,村岡兼光,萩村徳一ほか:中心性漿液性網脈絡膜症における脈絡膜血管病変.臨眼 48:1583-1593, 1994 3) 石田晋:抗血管新生療法の奏功機序と将来の展望.日本の眼科 79:435-439, 2008 4) Taban M, Boyer DS, Thomas EL et al:Chronic central serous chorioretionpathy:photodynamic therapy. Am J Ophthalmol 137:1073-1080, 2004 5) Yannuzzi LA, Slakter JS, Gross NE et al:Indocyanine green angiography-guided photodynamic therapy for treatment of chronic central serous chorioretinopathy. A pilot study. Retina 23:288-298, 2003 6) Schmidt-Erfurth U, Schlotzer-Schrehard U, Cursiefen C etツꀀ al:In uenceツꀀ ofツꀀ photodynamicツꀀ terapyツꀀ onツꀀ expressionツꀀ of vasucular endothelial growth factor(VEGF), VEGF receptor 3, and pigment epithelium-deriverd factor. Invest Ophthalmol Vis Sci 44:4473-4480, 2003 7) Dewi NA, Yuzawa M, Tochigi K et al:E ects of photo-dynamic therapy on the choriocapillaris and retinal pig-mentツꀀ epitheliumツꀀ inツꀀ theツꀀ irradiatedツꀀ area.ツꀀ Jpnツꀀ Jツꀀ Ophthalmol 52:277-281, 2008***