‘ペンタカム’ タグのついている投稿

ペンタカムによる角膜全屈折力およびEquivalent K 値を用いた眼内レンズ度数計算の検討

2012年8月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(8):1159.1163,2012cペンタカムによる角膜全屈折力およびEquivalentK値を用いた眼内レンズ度数計算の検討金谷芳明堀裕一山本忍出口雄三前野貴俊東邦大学医療センター佐倉病院眼科EvaluationofTrueNetPowerandEquivalentKReadingsObtainedfromPentacamforRoutineIntraocularLensPowerCalculationYoshiakiKanaya,YuichiHori,ShinobuYamamoto,YuzoDeguchiandTakatoshiMaenoDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySakuraMedicalCenter目的:正常角膜眼においてPentacam(Oculus社)で測定した角膜全屈折力(TNP)およびEquivalentK値(EKR)をケラト(K)値として用いて眼内レンズ(IOL)度数計算を行った場合の予測屈折値の誤差を検討した.方法:当科で白内障手術を行った連続100眼を対象とした.全例IOLマスターで,ケラト(K)値,眼軸長を測定し,SRK/T式にてIOL度数を決定し,術後1カ月の等価球面値と予測屈折値の誤差を算出した.さらに,術前にPentacamHR(Oculus社)で測定したTNPおよびEKRの3mm,4.5mm領域をK値としてシミュレーションした予測屈折値と術後1カ月の誤差を算定し比較した.結果:術後1カ月の平均絶対誤差はIOLマスター,TNP,EKR(3.0mm),EKR(4.5mm)の順に0.46±0.38D,1.04±0.80D,0.55±0.47D,0.53±0.44Dであり,IOLマスターとEKR(3.0mm,4.5mm)間には有意差はなかった(p>0.05,pairedt-test).結論:正常角膜におけるIOL度数計算は,EKRをK値として用いた場合,IOLマスターのK値を使用した場合と同等の精度である.Purpose:Toevaluatekeratometry(K)readingsobtainedwithScheimpflugtopographer(PentacamHR,Oculus)forroutinecataractsurgery.Methods:In100consecutivecataracteyes,TrueNetPower(TNP)andEquivalentKreadings(EKR,3mmand4.5mm)weremeasuredviaPentacamHR,andautomatedKwasmeasuredviaIOLMaster(CarlZeiss),tocalculateIOLpowersusingtheSRK/Tformula.Themeanabsolutepredictederrors(MAEs)atonemonthpostoperativelywerecomparedbetweentheseparameters.Results:TheMAEswere0.46±0.38D,1.04±0.80D,0.55±0.47Dand0.53±0.44DfortheIOLMaster,TNP,EKR(3mmand4.5mm),respectively.TherewasnosignificantdifferencebetweenEKR(3mmand4.5mm)andIOLMaster(p>0.05,pairedt-test).Conclusion:Intermsofaccuracy,EKRdidnotdifferfromIOLMasterinroutineIOLpowercalculation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1159.1163,2012〕Keywords:ペンタカム,角膜全屈折力,TrueNetPower,EquivalentKreadings,IOL度数計算.Pentacam,Wholecornealpower,TrueNetPower,EquivalentKreadings,IOLpowercalculation.はじめに屈折矯正手術後の患者に対し白内障手術を行う際には,通常の眼内レンズ(IOL)度数計算方法を用いると,術後屈折値に誤差を生じることが知られており1),誤差を最小限にするために,過去にもさまざまな方法が施行されてきた2.6).たとえば,Scheimpflug型前眼部解析装置であるPentacam(Oculus社)で測定した角膜全屈折力(TrueNetPower:TNP)7,8)およびEquivalentK値(EquivalentKreadings:EKR)9,10)や,デュアル・シャインプルークアナライザー(Galilei,Zeimer社)で測定した角膜全屈折力(TotalCornealPower)5)を用いてIOL度数計算を行う方法が報告されている.今後,わが国でも屈折矯正手術後の患者に対し,白内障手術を行う機会は増えてくるため,これらのパラメータを用いてIOL度数計算を行う状況が増えてくる可能性があると〔別刷請求先〕金谷芳明:〒285-8741佐倉市下志津564-1東邦大学医療センター佐倉病院眼科Reprintrequests:YoshiakiKanaya,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySakuraMedicalCenter,564-1Shimoshizu,Sakura,Chiba285-8741,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(133)1159 思われる.このため,今後は各機械におけるこれらのパラメータの特徴を把握しておく必要があると考える.今回,筆者らは正常角膜眼において,IOL度数計算の際にScheimpflug型前眼部解析装置であるPentacamにて測定したTNP,EKRをケラト(K)値として用いた場合の予測屈折値の誤差を検討したので報告する.I対象および方法東邦大学医療センター佐倉病院眼科(以下,当科)にて白内障手術を行い,IOLマスターにて眼軸長の測定が可能であ図1PentacamHRにおけるTrueNetPower表示この症例では中央値は43.7(黒丸で囲った部分)と表示されている.り,PentacamHR(Oculus社)で不正乱視を認めなかった白内障手術患者連続100眼(男性59眼,女性41眼,平均年齢72.0±9.6歳)を対象とした.全例IOLマスターver.5.4(カールツァイス社)にて,K値,眼軸長を測定し,SRK/T(Sanders-Retzlaff-Kraff/theoretical)式にてIOL度数を決定し手術を行い,術後1カ月での等価球面値と予測屈折値との誤差を算出した.さらに,術前にPentacamHRにて測定5mm).した角膜中央部のTNP(図1)およびEKR(3.0mm,4(図2)をK値として使用し,眼軸長はIOLマスターの測定値をそのまま用いて,SRK/T式にて計算したIOLの屈折誤差のシミュレーションを行った.具体的には,実際に手術で使用したIOL度数における,各K値を用いた場合の予測屈折値と実際の術後1カ月での等価球面値との誤差を算定し検討した.また,術前乱視の大きさ,および眼軸長の長さで分類した際の誤差の比較もそれぞれ検討した.II結果IOLマスターによるIOL度数計算で白内障手術を行った100眼の平均眼軸長は24.1±1.3mm(範囲21.93.27.76mm)であり,術前乱視の平均値は1.20±0.94D(範囲0.4D)であった.IOLマスター,TNP,EKR(3.0mm),EKR(4.5mm)をK値として用いた場合の誤差の散布図をとると,誤差の平均はそれぞれ,0.15D,.0.81D,.0.06D,0.17Dとなり,TNPがマイナスに大きくずれる傾向があった(図3).誤差の絶対値による検討では,IOLマスター,TNP,EKR(3.0mm),EKR(4.5mm)をK値とした平均絶対誤差はそれぞれ0.46±0.38D,1.04±0.80D,0.55±0.47D,0.53±0.44Dであり,TNPを用いた場合はIOLマスターによるIOL度数計算と比べ,絶対誤差は有意に大きかった(p≦図2PentacamHRにおけるHolladayReportに表示されるEquivalentK値1.0,2.0,3.0,4.0,4.5,5.0,6.0,7.0mm領域が表示され,4.5mm領域が標準として設定されている.本検討では,3.0mmと4.5mm領域での値を使用した.1160あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(134) ◆:IOLマスターでの誤差◆:TNPでの誤差◆:EKR(3.0)での誤差◆:EKR(4.5)での誤差-6-5-4-3-2-101230100誤差(D)症例(n=100)図3全症例における各K値を用いた場合の誤差の散布図誤差の平均は,IOLマスター,TNP,EKR(3.0mm),EKR(4.5mm)の順に0.15D,.0.81D,.0.06D,0.17Dとなり,TNPがマイナスにずれる傾向にあった.表1各パラメータでの平均絶対誤差と範囲平均絶対誤差±IOLマスターとの比較標準偏差(D)範囲(D)(pairedt-test)IOLマスター0.46±0.38.1.13.2.03.TNP1.04±0.80.5.88.1.83p≦0.001EKR(3.0mm)0.55±0.47.2.02.1.83NSEKR(4.5mm)0.53±0.44.1.95.2.40NSNS:nostatisticallysignificantdifference.表2平均絶対誤差の割合誤差の割合(%)誤差の範囲(D)0.0.50.5.1.01.0.1.51.5.2.02.0.IOLマスターTNPEKR(3.0mm)EKR(4.5mm)59285558336124301029105308318310.001,pairedt-test)(表1).また,IOLマスターとEKR(3.0mm)およびEKR(4.5mm)の間には有意差はなかった(p>0.05,pairedt-test)(表1).絶対誤差が0.5D以内における割合はIOLマスター,TNP,EKR(3.0mm),EKR(4.5mm)の順に,59%,28%,55%,58%と,TNPを用いた場合の絶対誤差が0.5D以内の症例が最も少なかった(表2)が,TNPと他のK値との間に有意差はみられなかった(p>0D以上...つぎに,術前乱視を1.0D未満,1検定)2c0.05,2.0D未満,2.0D以上とに分けて,それぞれの誤差を検討したところ,術前乱視による誤差の有意な変動はみられなかった(p>0.05,Tukeytest).しかしながら,EKR(4.5mm)では,乱視による変動が少ない傾向がみられた(表3).また,眼軸長ごとに分けて誤差を検討した結果,症例数が1例であ(135)表3術前乱視の大きさと平均絶対誤差平均絶対誤差±標準偏差(D)術前乱視(D).1.01.0.2.02.0.症例数IOLマスターTNPEKR(3.0mm)EKR(4.5mm)4037230.46±0.360.45±0.420.53±0.350.93±0.731.01±0.591.26±1.150.49±0.440.61±0.460.55±0.530.54±0.480.51±0.450.52±0.36表4眼軸長と平均絶対誤差平均絶対誤差(D)眼軸長<22.0mm22.0.24.5mm24.5.26.0mm>26.0mm症例数1632511IOLマスター1.0150.490.440.32TNP2.2151.060.891.15EKR(3.0mm)1.1150.590.450.48EKR(4.5mm)0.3550.560.470.47った22mm未満の短眼軸以外はすべてIOLマスターによる計算で最も誤差が小さく,22.24.5mmの症例では0.49D,24.5.26mmの症例では0.44D,26mm以上の症例では0.32Dとなった(表4).しかしながら,他のK値との間に統計学的有意差はみられなかった(p>0.05,Tukeytest).III考按Scheimpflug型前眼部解析装置であるPentacamを使用しIOL度数を計算する方法は過去にも報告7.10)されており,角膜中央部のTNP7,8)やEKRをK値として使用する方法9,10)が報告されている.当科では,正常角膜眼における白内障手術のIOL度数計算はIOLマスターによる計算で行っているが,今回,PentacamHRで測定したTNPおよびEKRをK値として使用し,IOL度数計算をした場合の誤差を検討したところ,IOLマスターのK値を用いた場合とEKRを用いた場合との間に有意差はなく,両群ともTNPを用いた場合よりも有意に誤差が小さかった.今回,実際のIOL度数決定に用いたIOLマスターによる角膜屈折力測定はリング状の照明が角膜前面中央部2.4mmの領域に反射して生じるマイヤー像を用いて行っており,その値から補正をして算出された屈折力を用いている.一方,PentacamHRで測定される角膜全屈折力(TNP)は角膜前面と角膜後面の曲率を合わせて理論的に算出されたパラメータであり,EKRはIOL度数計算を行うために角膜後面の影響も考慮し,IOL度数計算式にそのまま代入できるように開発されたパラメータである11).角膜中央部のTNPを用いる方法は,LASIK(laserinsitukeratomileusis)やPRKあたらしい眼科Vol.29,No.8,20121161 (photorefractivekeratectomy)などの屈折矯正手術後に白内障手術を受ける場合に有用とされている方法7,8)で,これらの白内障手術においては有用であるが,通常の白内障手術のIOL度数計算にそのまま使用することはできないとされている11).その理由としては,IOL度数計算式は角膜全屈折力ではなく,角膜中央の前面曲率半径と1.3375という換算屈折率を用いて計算しているからであり,本検討でもTNPを用いた場合,通常どおりIOLマスターのK値を用いた場合と比べ有意に誤差は大きく,他のパラメータと比べ,マイナスにずれる傾向にあった(図3).EquivalentK値は角膜中央部1.0,2.0,3.0,4.0,4.5,5.0,6.0,7.0mm領域での値がPentacamHRに搭載されているHolladayReport(図2)に表示されており,PentacamHRでは4.5mm領域が標準として表示されている.既報では,LASIKやPRKなどの角膜屈折矯正手術後の白内障手術には4.5mm領域の値をK値として使用するのが良いとする報告11)や,通常の白内障手術におけるIOL度数計算においては,3.0mm領域の値を使用した場合に最も誤差が少なかったとする報告12)があるが,本検討では,3.0mmと4.5mm領域の値をK値として使用した場合の誤差を検討したところ,通常どおりIOLマスターで測定した場合との誤差に有意差はなかった.また,本検討においては,EKR(3.0mm)とEKR(4.5mm)との間の誤差に有意な差はみられなかった(p>0.05,Tukeytest).術前乱視と誤差との関係であるが,本検討は術前乱視と誤差との間に統計学的有意差はなかった.しかしながらEKRは術前乱視による誤差の変動が少ない傾向がみられたため,今後はEKRの有用性について症例数を増やして検討をしていきたいと考える.IOL度数計算においては眼軸長もまた,術後の誤差に関係してくるといわれており,22mm以下の短眼軸や25mm以上の長眼軸においては,IOL度数計算において,誤差が大きくなることが懸念される13).Hofferの報告では,眼軸長を22mm未満,22.24.5mm,24.5.26mm,26mm以上に分けて,それぞれ各種計算式で平均絶対誤差を検討しており,22.0.24.5mmの平均的な眼軸長においては,HofferQ式とHolladayI式が最も誤差が小さく,24.5mm以上の眼軸長においては,SRK/T式で誤差が最も小さかったと報告している13).本検討では,眼軸長をHofferの報告と同様に分け,パラメータごとにすべてSRK/T式で計算し,平均絶対誤差を評価した.結果は1症例しかなかった眼軸長22mm未満以外ではIOLマスターで最も誤差が小さかったが,5mm)との間にそ.IOLマスター,EKR(3.0mm)とEKR(4れぞれ有意差はなかった.本検討ではSRK/T式のみで計算しており,Hofferの報告のように,さまざまな計算式での評価は行っていないため,今後は他の計算式とパラメータと1162あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012の関係も検討する必要があると考える.今回の検討において,正常角膜におけるIOL度数計算では,従来どおりIOLマスターを用いた場合に予測屈折値と術後等価球面値との誤差が最も小さかった.このことは,やはり正常角膜であるならば,IOLマスターで測定されたケラト値を用いることで精度の高いIOL決定ができると考えられる.しかしながら,PentacamのEKRを用いた場合との誤差に有意差はなく,乱視による誤差の変動がEKRを用いた場合は小さいように思われるため,術前乱視が大きい症例や角膜形状がイレギュラーな症例では角膜形状解析装置を使用するなど,可能な限り多くの計算法を用い,症例ごとに結果を検討する必要があると考えられる.また,今後,増加していくことが考えられるLASIKやPRKなどの屈折矯正術後の白内障眼におけるIOL度数計算においても,同様な対応が必要であると考える.最後に,今回はペンタカムのみの検討であったが,今後は他のScheimpflug型前眼部解析装置や前眼部OCT(光干渉断層計)でのパラメータの特徴も解析することで,機種間の特徴の違いについても検討していきたいと考える.白内障術後視力は,今や裸眼視力の精度が求められる時代である.前眼部解析装置を用いることで,より満足度の高い白内障術後視力を提供できるのではないかと考える.文献1)GimbelHV,SunR:Accuracyandpredictabilityofintraocularlenspowercalculationafterlaserinsitukeratomileusis.JCataractRefractSurg27:571-576,20012)HolladayJT:Consultationsinrefractivesurgery:IOLcalculationsfollowingradialkeratotomysurgery.RefractCornealSurg5:203,19893)HaigisW:Intraocularlenscalculationafterrefractivesurgeryformyopia:Haigis-Lformula.JCataractRefractSurg34:1658-1663,20084)CamellinM,CalossiA:Anewformulaforintraocularlenspowercalculationafterrefractivesurgery.JRefractSurg22:187-199,20065)荒井宏幸:LASIK後のIOL度数決定法.坪田一男(編):眼科プラクティス9,屈折矯正完全版,p94,文光堂,20066)AramberriJ:Intraocularlenspowercalculationaftercornealrefractivesurgery:double-Kmethod.JCataractRefractSurg29:2063-2068,20037)東浦律子,前田直之:角膜形状異常疾患での眼内レンズ度数計算.大鹿哲郎(編):眼科プラクティス25,眼のバイオメトリー,p239,文光堂,20098)金谷芳明,堀裕一,出口雄三ほか:異なる2つの計算方法で眼内レンズ度数を決定したLASIK後の白内障手術.眼臨紀5:107-110,20129)FalavarjaniKG,HashemiM,JoshaghaniMetal:DeterminingcornealpowerusingPentacamaftermyopicphotorefractivekeratectomy.ClinExperimentOphthalmol(136) 38:341-345,201010)TangQ,HofferKJ,OlsonMDetal:AccuracyofScheimpflugHolladayequivalentkeratometryreadingsaftercornealrefractivesurgery.JCataractRefrectSurg35:1198-1203,200911)ShammasHJ,HofferKJ,ShammasMC:Scheimpflugphotographykeratometryreadingsforroutineintraocularlenspowercalculation.JCataractRefractSurg35:330334,200912)SymesRJ,SayMJ,UrsellPG:Scheimpflugkeratometryversusconventionalautomatedkeratometryinroutinecataractsurgery.JCataractRefractSurg36:1107-1114,201013)HofferKJ:ClinicalresultsusingtheHolladay2intraocularlenspowerformula.JCataractRefractSurg26:12331237,2000***(137)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121163

円錐角膜眼におけるEnhanced Ectasia Displayの有用性

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(135)1039《原著》あたらしい眼科28(7):1039?1042,2011cはじめに円錐角膜は,角膜中央部が進行性に菲薄化して前方突出し,不正乱視や近視化により視機能低下をきたす疾患である1).診断には細隙灯顕微鏡や角膜曲率半径測定などのほかに,角膜形状解析が重要である.現在,円錐角膜診断における角膜形状解析検査は,プラチド式により角膜前面曲率半径を測定し,その結果をもとに算出された指数を用いて行うものが一般的である2,3).プラチド式による角膜形状解析は,感度・特異度ともに高く優れた診断方法であるが,この方法にはいくつか問題点も存在する.まず円錐角膜の早期変化をとらえるのに重要な角膜後面形状の情報を得ることができない.また曲率マップは測定軸に依存するため,測定軸のずれによって正常眼でも円錐角膜眼と診断されることがある.曲率マップは,角膜屈折度数を評価するうえでわかりやすく多〔別刷請求先〕石井梨絵:〒252-0373相模原市南区北里1-15-1北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:RieIshii,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,1-15-1Kitasato,Minamiku,Sagamihara,Kanagawa252-0373,JAPAN円錐角膜眼におけるEnhancedEctasiaDisplayの有用性石井梨絵*1,4神谷和孝*1五十嵐章史*1清水公也*1宇津見義一*2熊埜御堂隆*3*1北里大学医学部眼科学教室*2宇津見眼科*3クマノミドー眼科*4北里大学北里研究所メディカルセンター病院EvaluationofCornealElevation:UsefulnessofEnhancedEctasiaDisplayinKeratoconusEyesRieIshii1,4),KazutakaKamiya1),AkihitoIgarashi1),KimiyaShimizu1),YoshikazuUtsumi2)andTakashiKumanomido3)1)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,2)UtsumiEyeClinic,3)KumanomidoEyeClinic,4)KitasatoUniversityKitasatoInstituteMedicalCenterHospital円錐角膜の診断は角膜形状解析による曲率に基づくものが主体で高さ情報については不明な点が多い.今回二つの異なる参照面を用いて円錐角膜眼の高さ情報を定量的に検討した.円錐角膜眼44例80眼および正常眼42例83眼を対象とし,Scheimpflug型前眼部解析装置(PentacamTM,Oculus社)のEnhancedectasiadisplayを用いて角膜前面・後面頂点における通常のbestfitsphere(BFS)とenhancedBFS(角膜最菲薄部より4mm径を除外)におけるelevation量をそれぞれ算出し,その差をelevation変化量として評価した.正常眼の角膜前面頂点におけるelevation変化量は2.5±2.1μmであったが,円錐角膜眼では14.3±13.8μm,と有意な増加を示した(Mann-WhitneyUtest,p<0.001).また,正常眼の角膜後面頂点におけるそれは12.3±6.8μmであったが,円錐角膜眼では60.7±39.1μmと有意な増加を示した(p<0.001).角膜高さ情報は円錐角膜のスクリーニングに有用となる可能性が示唆された.Weusedtwodifferentbest-fit-sphere(BFS)tocomparethecornealelevationvalueinnormalandkeratoconuseyes.Wemeasured80eyesof44keratoconuspatiantsand83eyesof42normalswithPentacamTMandevaluatedthemusingEnhancedectasiadisplaythatcalculatedthedifferencebetweenelevationwithnormalBFSandthatwithenhancedBFS(exceptinga4mmdiameterfromcornea’sthinnestpoint)ontheanteriortheposteriorapices.Theelevationchangevaluesofthenormalgroupwere2.5±2.1μmand12.3±6.8μm,andthoseofthekeratoconusgroupwere14.3±13.8μmand60.7±39.1μm,respectively,ontheanteriorapexandtheposteriorapex.Therewerestatisticallysignificantdifferencesbetweenthenormalandkeratoconusgroupsonboththeanteriorapex(Mann-WhitneyUtest,p<0.001)andtheposteriorapex(p<0.001).Keratoconuseyeshavehigheranteriorandposteriorelevationchangevalues.Enhancedectasiadisplaymaybehelpfulindetectingkeratoconus,whenusedwithvideokeratography.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(7):1039?1042,2011〕Keywords:円錐角膜,高さ情報,角膜形状解析装置.ペンタカム,keratoconus,elevation,cornealtopography,PentacamTM.1040あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(136)くの臨床医にとって見なれたものであるが,測定軸により変化する相対的なものであり,必ずしも角膜の物理的な性質を示すとは限らない.角膜前後面形状解析装置では,従来の曲率マップ測定以外にも角膜の高さ情報を評価することが可能である.実際には,Scheimpflug式前眼部解析装置(PentacamTM,Oculus社)やスリットスキャン式前眼部解析装置(OrbscanTM)といった装置で測定することが可能である4,5).高さ情報は,形状解析から算出された参照面(bestfitsphere:BFS)を基準として用い,測定された角膜面とBFSとの差異を高さ(elevation)として表示する.曲率マップは円錐角膜に伴う角膜の歪みを顕在化し,高さ情報は円錐角膜に伴う角膜の突出を描出可能である.現在,円錐角膜の診断は曲率マップによるものが主体で,角膜の高さ情報については十分に検討されておらず,不明な点が多い.そこで今回筆者らはPentacamTMを用いて高さ情報を算出し,円錐角膜の特徴的な変化をより鋭敏にとらえるために二つの異なる参照面を用いて,円錐角膜眼と正常眼における角膜頂点でのelevation変化量を定量的に検討したので報告する.I対象および方法細隙灯顕微鏡検査および角膜形状解析により円錐角膜と診断された症例44名80眼(男性34名62眼・女性10名18眼,年齢37.0±11.0歳)および屈折異常以外に眼科的疾患を有さない正常被験者42名83眼(男性25名50眼・女性17名33眼,年齢35.2±10.1歳)を対象とした.それぞれの症例において,Scheimpflug式前眼部解析装置(PentacamTM)を使用し,角膜前面・後面における角膜面と参照面との差をelevation量として求めた.Enhancedectasiadisplay6,7)を用いて,参照面として角膜形状解析で得られた通常のBFSと角膜最菲薄部を中心として直径4mmの部分をBFS算出の際に除外して求めたenhancedBFSを使用した.これらの二つの参照面を用いて得られた同一眼におけるelevation量の差をelevation変化量として求め,角膜前面頂点および角膜後面頂点での値を円錐角膜眼と正常眼で比較した.角膜混濁例や角膜上皮障害が顕著な症例,角膜移植などの手術加療を行っている症例は除外した.正常眼と円錐角膜眼の結果の比較にはMann-WhitneyUtestを用いた.結果は平均値±標準偏差で表し,p<0.05を有意差ありとした.II結果角膜前面頂点における正常眼の平均elevation変化量は2.5±2.1μmで,円錐角膜眼では14.3±13.8μmであり,円錐角膜眼のほうが有意に高値であった(Mann-WhitneyUtest,p<0.001)(図1).角膜後面頂点における正常眼の平均elevation変化量は12.3±6.8μmで,円錐角膜眼では60.7±39.1μmとこちらも円錐角膜眼で有意に高値であった(p<0.001)(図2).III考按今回の検討では,円錐角膜眼は正常眼に比べelevation変化量が有意に高値を示した.これまでにも,通常のBFSのみを用いて得られた高さ情報で円錐角膜眼のほうが正常眼に比べ高値を示すことが報告されている.Raoら8)は,OrbscanIITMを用いて角膜前面および後面のelevation量を測定したところ,プラチド式角膜形状解析による円錐角膜の診断基準を満たした症例の前面と後面におけるelevation量は対象群と比較して有意に高値であり,角膜屈折矯正手術前のスクリーニングとして,プラチド式角膜形状解析で円錐角膜疑いとなった症例でOrbscanIITMを測定し,後面elevation量40μm以上の場合は角膜屈折矯正手術を行わないという方法を提案している.Schlegelら9)は円錐角膜疑い眼と正常眼でOrbscanIITMを測定したところ,角膜頂点から1mm径における角膜後面の最大elevation量は,円錐角膜疑い眼で正常眼に比べ有意に高値であったと報告している.今回の筆者らの報告では,elevation変化量を用いているため,これらの報告とは高さ情報の評価方法が少し異なっているが,これらの結果は角膜の高さ情報が円錐角膜眼における早期の角膜変化をとらえるのに有用であることを示唆している.現在,円錐角膜の診断は先述したプラチド式による角膜形状解析が有正常眼円錐角膜眼2.53302520151050Elevation変化量(μm)14.34図1角膜前面のelevation変化量の比較角膜前面では正常眼に比較して円錐角膜眼ではelevation変化量は有意に高値となった(Mann-WhitneyU検定,p<0.001).正常眼円錐角膜眼12.3512010080604020060.74Elevation変化量(μm)図2角膜後面のelevation変化量の比較角膜後面において正常眼に比較して円錐角膜眼ではelevation変化量は有意に高値となった(Mann-WhitneyU検定,p<0.001).(137)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111041用で,この方法で診断可能な症例がほとんどである.しかし,臨床的に問題とならないようなごく早期の円錐角膜もしくは円錐角膜疑い(formefrustekeratoconus)の一部では角膜の形状変化が軽微なため,屈折矯正術施行前に検査を行っても診断がむずかしい場合がある.実際に屈折矯正術後にkeratectasiaを発症した症例の多くが術前に円錐角膜とは診断されておらず,formefrustekeratoconusを診断することは,医原性の重篤な合併症を防止するために重要である.Elevation変化量の算出に用いているenhancedBFSは,角膜菲薄部を中心に前方に角膜が突出するという円錐角膜の特徴をより顕在化させるために考案されたもので,正常眼の場合には通常のBFSとさほど変わりはない.しかし円錐角膜眼では,突出部分を除いて算出されたenhancedBFSは,通常のBFSに比べてフラットになるため,角膜の突出をより強調することができる(図3).このため通常のBFSとenhancedBFSとの差であるelevation変化量は,通常のBFSだけを用いた場合より早期の段階で円錐角膜に特徴的な変化を検出しやすく,円錐角膜眼における高さ情報の評価方法として有用な指標となる可能性がある.ここでenhancedBFSを用いたelevation量ではなくelevation変化量を用いるのは,elevation量ではカットオフポイントの設定がむずかしく乱視などの影響により感度および特異度の低下が懸念されるからである.今回の結果では角膜前面に比べて,角膜後面のほうが高値をとる傾向にあった.プラチド式による角膜形状解析では,角膜前面の曲率半径をもとに角膜の歪みをとらえているが,円錐角膜の変化は角膜全体に起こっており,角膜前面だけでなく角膜後面の情報も早期の円錐角膜診断に有用と考えられる.これまでも円錐角膜眼における角膜後面の変化を評価するために角膜後面由来の曲率を測定したり,高次収差を測定したりする方法が考案されてきた10?12).それらによると,角膜後面でも角膜前面と同様に円錐角膜眼では正常眼に比べ有意に角膜曲率や高次収差が増加すると報告されている.今回用いたPentacamTMは短時間で角膜前面,後面の情報を測定することができ,後面形状変化を検出可能である.Mihaltzら13)はPentacamTMを用いて,円錐角膜眼の角膜前面および後面のelevation量,中心角膜厚,最小角膜厚,乱視度数,平均K(角膜屈折)値,角膜中心と角膜最菲薄部との距離という円錐角膜検出の指標についてROC曲線(receiveroperatingcharacteristiccurve)を用いて比べたところ,後面elevation量が最も感度および特異度に優れていたと報告している.このように角膜高さ情報は円錐角膜評価に有用と考えられるが,現段階ではまだ一般的な指標や基準値が定まっておらず,結果の解釈がむずかしいという側面がある.また機器により測定方法が違うため,異なった測定機器で得られた値を単純に比較することはできない14).今後は基準値や評価方法を明確にし,さらに疾患の重症度との関連や他の評価法との関連を検討していくことが必要と思われる.PentacamTMでは,高さ情報だけでなく角膜厚の詳細な情報も測定可能である.従来は超音波パキメトリーを用いて中心角膜厚を測定しており,角膜全体の厚みを評価することはむずかしかった.しかし,現在では角膜全体の厚みのプロフィールを短時間で測定することが可能で,角膜最菲薄部の位置を評価することもできる.Ambrosioら15)は,PentacamTMを用いて角膜厚の情報と角膜体積の情報を元に角膜最菲薄部を基準として角膜周辺部へ向かって角膜厚増加率と角膜体積増加率を算出し,正常眼と円錐角膜眼を比較したところ,円錐角膜眼において有意に高値であったと報告している.高さ情報や角膜厚といった新しい角膜評価法は,従来の曲率マップを用いた円錐角膜診断法と併用することで,円錐角膜の早期診断に有用となると考えられる.今回用いたEnhancedectasiadisplayというプログラムはPentacamTMにて使用でき,elevation変化量と角膜厚の情報を同時に評価することが可能である.さらに近年,円錐角膜眼でのORAを用いた角膜生体力学特性の定量的評価も報告されており16),これらの併用によって円錐角膜の診断精度の向上が期待される.今回の検討で,角膜高さ情報の指標の一つであるelevation変化量は円錐角膜眼において正常眼より有意に増加することが明らかとなった.Enhancedectasiadisplayは円錐角膜の診断に有用である可能性が示唆された.文献1)SherwinT,BrookesNH:Morphologicalchangesinkeratoconus:pathologyorpathogenesis.ClinExperimentOphthalmol32:211-217,20042)MaedaN,KlyceSD,SmolekMKetal:Automatedkeratoconusscreeningwithcornealtopographyanalysis.InvestOphthalmolVisSci35:2749-2757,19943)MaedaN,KlyceSD,SmolekMK:Comparisonofmethodsfordetectingkeratoconususingvideokeratography.Arch正常眼円錐角膜眼:BFS:EnhancedBFS図3EnhancedBFSとBFSの違い図のピンクの線がenhancedBFSを示し,黄色の線が通常のBFSを示している.正常眼ではBFSとenhancedBFSであまり違いはないが,円錐角膜眼ではBFSに比べてenhancedBFSはよりフラットになるため,突出した角膜の高さをより描出しやすくなっている.1042あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(138)Ophthalmol113:870-874,19954)LimL,WeiRH,ChenWKetal:EvaluationofkeratoconusinAsians:roleofOrbscanIIandTomeyTMS-2cornealtopography.AmJOphthalmol143:390-400,20075)NilforoushanMR,SpealerM,MarmorMetal:ComparativeevaluationofrefractivesurgerycandidateswithPlacidotopography,OrbscanII,Pentacam,andwavefrontanalysis.JCataractRefractSurg34:623-631,20086)BelinMW,KhachikianSS:Keratoconus:Itishardtodefine,but….AmJOphthalmol143:500-503,20077)BelinMW,KhachikianSS:Highlightsofophthalmology.Elevationbasedtopographyscreeningforrefractivesurgery,JaypeeHighlightsMedicalPublishers,Inc,Panama,20088)RaoSN,RavivT,MajmudarPAetal:RoleofOrbscanIIinscreeningkeratoconussuspectsbeforerefractivecornealsurgery.Ophthalmology109:1642-1646,20029)SchlegelZ,Hoang-XuanT,GatinelD:Comparisonofandcorrelationbetweenanteriorandposteriorcornealelevationmapsinnormaleyesandkeratoconus-suspecteyes.JCataractRefractSurg34:789-795,200810)TomidokoroA,OshikaT,AmanoSetal:Changesinanteriorandposteriorcornealcurvaturesinkeratoconus.Ophthalmology107:1328-1332,200011)ChenM,YoonG:Posteriorcornealaberrationsandtheircompensationeffectsanteriorcornealaberrationsinkeratoconiceyes.InvestOphthalmolVisSci49:5645-5652,200812)NakagawaT,MaedaN,KosakiRetal:Higher-orderaberrationsduetotheposteriorcornealsurfaceinpatientswithkeratoconus.InvestOphthalmolVisSci50:2660-2665,200913)MihaltzK,KovacsI,TakacsAetal:Elevationofkeratometric,andelevationparametersofkeratoconiccorneaswithpentacam.Cornea28:976-980,200914)QuislingS,SjobergS,ZimmermanBetal:ComparisonofPentacamandOrbscanIIzonposteriorcurvaturetopographymeasurementsinkeratoconuseyes.Ophthalmology113:1629-1632,200615)AmbrosioRJr,AlonsoRS,LuzAetal:Corneal-thickinessspatialprofileandcorneal-volumedistribution:Tomographicindicestodetectkeratoconus.JCataractRefractSurg32:1851-1859,200616)大本文子,神谷和孝,清水公也:OcularResponseAnalyzerTMによる円錐角膜の角膜生体力学特性の測定.IOL&RS22:212-215,2008***