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涙小管断裂の断裂部位に関する治療成績

2016年8月31日 水曜日

《第4回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科33(8):1206?1208,2016c涙小管断裂の断裂部位に関する治療成績佐久間雅史廣瀬浩士鶴田奈津子田口裕隆伊藤和彦服部友洋久保田敏信国立病院機構名古屋医療センター眼科TreatmentOutcomeofCanalicularLacerationwithRespecttoCanalicularTearSiteMasashiSakuma,HiroshiHirose,NatsukoTsuruta,HirotakaTaguchi,KazuhikoIto,TomohiroHattoriandToshinobuKubotaDepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganization,NagoyaMedicalCenter目的:涙小管断裂の治療成績を涙小管断裂部位に基づき検討すること.方法:2009年9月?2015年1月に,名古屋医療センター眼科において涙小管断裂と診断され,手術を施行した26例を対象とした.涙点から断裂部位までの距離により,断裂部位が浅い群(14例)と,断裂部位が深い群(12例)に分類し治療成績を検討した.結果:成功率は,全体:22/26(85%),断裂部位の浅い群:12/14(86%),断裂部位の深い群:10/12(83%)であった.考按:涙小管再建術の治療成績と涙小管断裂の部位の間に,明らかな関連はみられなかった.手術にて涙小管断端を正確に同定し縫合すれば,断裂部位は術後結果に大きく影響しないと考えられた.Purpose:Toevaluatethetreatmentoutcomeofcanalicularlacerationwithrespecttothecanaliculartearsite.Methods:Wereviewed26patientsdiagnosedwithcanalicularlacerationwhounderwentreconstructionsurgeryinourhospitalfromSeptember2009toJanuary2015.Weexaminedtreatmentoutcomesbyclassifyingpatientsintotwogroups,basedonthedistancefromlacrimalpunctumtocanaliculartearsite:superficialteargroup(14patients)anddeepteargroup(12patients).Results:Thesuccessrateswereasfollows:allpatients:85%(22/26);superficialteargroup:86%(12/14)anddeepteargroup:83%(10/12).Conclusion:Noclearrelationshipwasobservedbetweencanalicularreconstructionoutcomeandcanaliculartearsite.Itappearsthatwhenthecanalicularstumpsareaccuratelyidentifiedandsuturedduringsurgery,thetearsitedoesnothavesignificantcorrelationwithpostoperativeresults.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1206?1208,2016〕Keywords:涙小管断裂,断裂部位,涙管チューブ,ホルネル筋.canalicularlaceration,tearsite,lacrimaltube,Horner’smuscle.はじめに涙小管断裂は,眼瞼の内眼角付近の外傷により生じる.一般的に,性別は男性で,部位は下眼瞼で頻度が高く,鋭的外傷より鈍的外傷が原因となることが多い1~4).鈍的外傷では殴打やボールなどによるものが多く,鋭的外傷では,金属片やガラス片などによるものが多い2,3).涙小管は,上下涙点より垂直部・水平部を経て総涙小管につながり,内総涙点より涙?に開口する涙道の一部であるとともに,涙液のポンプ機能にも関与している.そのため,涙小管断裂は適切な治療を行わなければ,流涙症を引き起こすことがある.治療は観血的な再建法であり,断裂涙小管の断端の同定を行い,涙管チューブを挿入し,断端と周囲組織を縫合する.受傷部位により治療の難易度が異なるため,一次医療機関で涙小管断端が発見できず,涙小管の再建をせずに眼瞼の縫合のみで経過観察されることもある5).筆者らは,涙小管断裂患者に対する涙小管再建術の治療成績と,涙小管断裂の部位についてretrospectiveに検討した.I方法症例は,2009年9月?2015年1月に,名古屋医療センター眼科にて涙小管断裂と診断され,手術を施行した26例であり,性別は男性が22例,女性が4例で,受傷時年齢は1~91歳(平均43.2歳)であった.受傷側は右側が10例,左側が16例で,上下側が4例,上側が3例,下側が19例であった.受傷原因は,鈍的外傷が21例,鋭的外傷が5例であり,重篤な合併症としては,眼球破裂が1例,眼窩壁骨折が3例であった.二重断裂は認めなかった.受傷から手術までの期間は,受傷当日から32日(平均3.1日)であった.手術は全身麻酔が7例,局所麻酔が19例で,局所麻酔では全例にて滑車下神経ブロックを施行した.はじめに涙点よりブジーを挿入し,涙点から断裂部位までの距離を計測した.涙小管の長さがおよそ10mmであるため,5mm以下を断裂部位が浅い群,5mm以上を断裂部位が深い群と2群に分類した.浅い群が14例(53.9%),深い群が12例(46.1%)であった.つぎに,牽引糸(multipletractionsuture:MTS)6)や釣針型開創鈎などを用いて術野を可能な限り展開し,止血を行い,涙小管の鼻側断端を同定した(図1).受傷32日後に手術を施行した症例では,組織の瘢痕化により,断端の同定が困難であったため,涙?切開を行い,涙?より粘弾性物質(ビスコートR0.5眼粘弾剤)0.2mlほどを注入し,逆行性に涙小管断端を同定した.断裂涙小管の涙点側断端と鼻側断端を確認後,シリコーンチューブ(ヌンチャク型シリコンチューブR,PFカテーテルR:ショートtype)を挿入し,涙小管断端同士を10-0ナイロン糸にて1~3針縫合した.裂傷した眼瞼は外前方に偏移していることが多いため,Horner筋や眼輪筋などの再建を含め,全例必要な限り,7-0ナイロン糸にて,軟部組織,皮膚の縫合も行った.術後療法として,瘢痕抑制薬物は使用しなかった.挿入した涙管チューブは術後3週間?4カ月(平均1.9カ月)後に抜去した.術後結果は,涙管チューブの抜去後に通水テストの結果で判定した.II結果26症例の治療成績を表1に示す.受傷側は,断裂部位が浅い群では,上側が2例,下側が12例,上下側が0例で,断裂部位が深い群では,上側が1例,下側が7例,上下側が4例であった.成功例(成功率)は,断裂部位の浅い群にて12例(83%),断裂部位の深い群にて10例(86%),全体で22例(85%)であった.成功率と断裂部位に明らかな関連はみられなかった.再閉塞例は,断裂部位が浅い群(2例)では,下側が2例で,断裂部位が深い群(2例)では,下側が1例,上下側が1例であった.手術時間は,成功例で平均60.3分,再閉塞例で平均91.5分であった.また,受傷から手術までの日数は,成功例で平均3.2日,再閉塞例で平均2,7日であった.III考按杉田らは,受傷後10日前後までが,良好な治療結果が期待できる積極的な手術治療の適応期間であるが,受傷3週間以降では,組織の瘢痕化により予後不良であると報告し3),笛田らは,受傷後23日前後までは新鮮例として成功率は低下しないと報告している1).また,佐藤らは,受傷後1週間で治癒率が低下し,受傷後1カ月以上で組織が瘢痕化することを報告しているが2),今回筆者らは,受傷後12日,32日の症例ともに良好な結果を得ることができた.今回の検討では,成功率と断裂部位に明らかな関連はみられなかった.また,最近の国内文献に認められた涙小管断裂の治療成績と比較しても,良好な結果が得られた(表2).これらより,今回の検討では,涙小管断端を正確に同定し縫合することが重要であり,断裂部位は術後結果に大きく関連していないと考えられた.今後さらに症例を増加して検討する必要があると思われた.今回再閉塞した症例は4例で,1例に流涙症を認めた.再閉塞した4例の特徴としては,出血や外傷による組織の挫滅が強く(眼窩壁骨折が1例,眼球破裂が1例),手術時間が長くなったもの(2例が120分以上)が認められた.受傷から手術までの平均期間は成功例(3.2日)が閉塞例(2.7日)より長く,組織の瘢痕化などの明らかな影響は認めなかった.また,断裂部位,涙管チューブの抜去までの期間などにも明らかな関連は認めなかった.流涙症を認めた1例では,今後,涙小管涙?鼻腔吻合術,Jonestube挿入術も検討している.鼻側の涙小管断端の同定が困難な場合,健側の涙小管よりブジーを挿入したり,正常側の涙点や,涙?より粘弾性物質を注入して逆行性に露出点を探索した.粘弾性物質を使用することで,術野の視認性を阻害することなく,虚脱した涙小管断端の管空スペースを再現・維持することができた9).涙小管はHorner筋により内後方に牽引されているため10),断裂部位が深いほど,鼻側の涙小管断端は,想定より深部方向で同定されることが多い.また,鈍的外傷に伴う涙小管断裂では,鋭的外傷によるものと比べ,断端が斜めで不整なことが多いため,周囲の組織をより十分に縫合する必要があると報告されている11).涙小管断端が深部で十分な縫合が必要な場合,涙小管断端同士を先に縫合してしまうと,周囲の組織の縫合が困難になることが多いため,筆者らは,先に深部の組織に糸だけかけておき,涙小管断端の縫合後に,その糸を絞めることにより,涙小管断端と周囲組織の縫合をより強固にしている.涙小管が再建できても,眼瞼外反や,眼瞼の水平方向の緊張の低下により,流涙を生じることがあるため,外前方に偏移した眼瞼を内後方に戻し,Horner筋,眼輪筋,内眼角靭帯などを再建し,軟部組織を縫合することにより,涙小管の導管機構および眼瞼も可能な限り再建するべきである(図2).IV結語今回筆者らは,涙小管断裂患者に対する涙小管再建術について良好な結果を得た.涙小管再建術の治療成績と涙小管断裂の部位について,明らかな関連はみられなかった.涙小管断端を正確に同定し縫合すれば,断裂部位は術後結果に大きく関連しないと考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)笛田孝明,武田啓治:涙小管断裂再建術の成績に及ぼす因子の検討.眼臨8:1147-1149,19992)佐藤浩介,河井克仁:チューブ留置による涙小管断裂再建術80例.日眼会誌106:83-88,20023)杉田真一,大江雅子,木下太賀:外傷性涙小管断裂の手術時期と治療結果に関する検討.眼科手術19:575-578,20064)宮久保純子,岩崎明美:外傷性涙小管断裂.眼科52:1019-1924,20105)廣瀬浩士:外傷性涙小管断裂の治療について教えてください.あたらしい眼科30:210-212,20136)KurihashiK:Canalicularreconstructionfordifficultcases.Ophthalmologica209:27-36,19957)木内裕美子,黒田輝仁,小森秀樹ほか:外傷性涙小管断裂の検討.眼科手術11:121-124,19988)岡田宇広,松村一,田中浩二ほか:涙小管断裂の手術時間に関する検討.日本頭蓋顎顔面外科学会誌24:202-207,20099)矢部比呂夫:粘弾性物資値を用いる涙小管断裂再建術.臨眼50:1596-1597,199610)KakizakiH,ZakoM,MiyaishiOetal:ThelacrimalcanaliculusandsacborderedbytheHorner’smuscleformthefunctionallacrimaldrainagesystem.Ophthalmology112:710-716,200511)西尾佳晃:涙小管断裂.眼科47:1307-1312,2005〔別刷請求先〕佐久間雅史:〒460-0001愛知県名古屋市中区三の丸4丁目1番1号国立病院機構名古屋医療センター眼科Reprintrequests:MasashiSakuma,DepartmentofOphthalmology,NagoyaMedicalCenter,4-1-1Sannomaru,Naka-ku,Nagoya460-0001,JAPAN192100-61810/あ16た/図1術中所見釣針型開創鈎を用いて,術野を可能な限り展開した.表1断裂部位による治療成績表2最近の国内文献にみられた涙小管断裂の治療成績(125)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161207図2左下側涙小管断裂(75歳,男性)全身麻酔にて,涙小管再建術および可能な限り眼瞼の再建も施行した.1208あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016