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白内障手術,硝子体手術,硝子体内注射の術中ヨード洗浄と抗菌薬前房内投与の臨床的検討

2024年9月30日 月曜日

《第59回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科41(9):1127.1130,2024c白内障手術,硝子体手術,硝子体内注射の術中ヨード洗浄と抗菌薬前房内投与の臨床的検討小野竜輝岡野内俊雄林淳子越智正登野田雄己永岡卓戸島慎二小野恭子細川満人倉敷成人病センター眼科CClinicalE.cacyofIntraoperativeOcularSurfaceIrrigationwithPovidone-IodineandIntracameralAntibioticsAdministrationinCataractSurgery,Vitrectomy,andIntravitrealInjectionRyukiOno,ToshioOkanouchi,JunkoHayashi,MasatoOchi,YukiNoda,TakuNagaoka,ShinjiToshima,KyokoOnoandMitsutoHosokawaCDepartmentofOpthalmology,KurashikiMedicalCenterC目的:白内障手術,硝子体手術,硝子体内注射におけるポビドンヨード(PI)による術中眼表面洗浄(術中CPI)と抗菌薬前房内投与の臨床効果を検討する.対象および方法:2006.2022年に倉敷成人病センターで施行された白内障手術C22,301件,硝子体手術C6,404件,硝子体内注射C20,358件を対象とした.当院では眼内炎対策としてC2015年から硝子体内注射を含むすべての手術に術中CPIを,白内障手術と硝子体手術については術終了時にモキシフロキサシン(MFLX)前房内投与を施行している.この眼内炎対策の開始以前と開始後の眼内炎発症率を後ろ向きに検討した.結果:硝子体手術で眼内炎発症率は有意に減少(p=0.018)した.白内障手術では有意差はなかった(p=0.34)が発症率は減少した.硝子体注射では有意差はなかった(p=1.0).考按:術中CPIとCMFLX前房内投与は白内障手術と硝子体手術後の眼内炎発症を抑制する効果が期待できる.硝子体内注射は対策前後の母数の差が大きく,さらなる検討が必要である.CPurpose:Toevaluatetheclinicale.cacyofintraoperativeocularsurfacepovidone-iodineirrigation(PI-irriga-tion)andintracameralmoxi.oxacinadministrationincataractsurgery,vitrectomy,andintravitrealinjection.Mate-rialsandMethods:InCthisCstudy,C22301CcataractCsurgeries,C6404Cvitrectomies,CandC20358CintravitrealCinjectionsCperformedCatCKurashikiCMedicalCCenterCfromC2006CtoC2022CwereCincluded.CAtCtheCbeginningCofC2015,CweCinitiatedCPI-irrigationCforCallCsurgeriesCincludingCintravitrealCinjectionsCandCintracameralCmoxi.oxacinCadministrationCatCtheCendofthecataractsurgeriesandvitrectomies.Theincidencerateofendophthalmitisbeforeandaftertheinitiationwasretrospectivelyexamined.Results:Aftertheinitiation,theincidencerateofendophthalmitisaftervitrectomysigni.cantlyreduced(p=0.018)C,whilethataftercataractsurgerywasreduced,butnotsigni.cantly(p=0.34)C.Nosigni.cantCdi.erenceCinCtheCincidenceCrateCofCendophthalmitisCafterCintravitrealCinjectionCwasobserved(p=1.0)C.Conclusions:AlthoughCPI-irrigationCandCintracameralCmoxi.oxacinCadministrationCcanCreduceCendophthalmitisCaftercataractsurgeryandvitrectomy,nosigni.cantdi.erenceintheincidencerateofendophthalmitisafterintra-vitrealinjectionwasdetected.Thus,furtherinvestigationisneeded.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(9):1127.1130,C2024〕Keywords:術後眼内炎,ポビドンヨード,モキシフロキサシン,前房内投与.postoperativeendophthalmitis,po-vidone-iodine,moxi.oxacin,intracameraladministration.Cはじめにうる合併症である.その発症予防はきわめて重要な課題であ眼科手術における術後眼内炎は重篤な視機能障害をきたしり,術前後の抗菌薬による減菌化に依存してきた経緯があ〔別刷請求先〕小野竜輝:〒710-8522岡山県倉敷市白楽町C250倉敷成人病センター眼科Reprintrequests:RyukiOno,DepartmentofOpthalmology,KurashikiMedecalCenter,250Bakuro-tyo,Kurashiki,Okayama710-8522,JAPANC図1ポビドンヨード(PI)による眼表面洗浄a:白内障手術時のCIOL挿入直前,Cb:硝子体手術時の硝子体ポート作成時,Cc:硝子体内注射時の開瞼後注射直前のCPIによる眼表面洗浄.る1).一方,2016年の英国の報告で,2050年にはC100万人が薬剤耐性菌により死亡する可能性があるとされ2),近年薬剤耐性菌増加を抑止する観点から抗菌薬の適正使用が求められている.眼科では耐性菌を生まないヨード製剤を使用した眼内炎対策が新たに提唱されており,白内障手術で術中のヨード製剤での眼表面洗浄や抗菌薬前房内投与,硝子体手術で硝子体ポート作製時のヨード製剤での眼表面洗浄などの有効性や安全性が報告されている1,3.7).ただし,複数の技量の異なる術者がいる病院施設では施設として眼内炎対策を統一させる必要があり,従来どおりの眼内炎対策を取り続ける施設も多いと考えられる.今回,複数の術者がいる筆者らの病院施設で,白内障手術,硝子体手術の術中ポビドンヨード(povidone-iodine:PI)での眼表面洗浄と,術終了時のモキシフロキサシン(MFLX)前房内投与,および硝子体内注射の注射直前・直後のCPIでの眼表面洗浄の臨床効果を検討したので報告する.CI対象および方法2006.2022年に倉敷成人病センター(以下,当院)で施行された白内障手術C22,301件,硝子体手術C6,404件,硝子体注射C20,358件について後ろ向きに検討した.当院では,眼内炎予防のため術前後のニューキノロン系抗菌薬点眼,術前のヨード製剤での皮膚洗浄や洗眼,術中の生理食塩水による眼表面洗浄3),白内障手術と硝子体手術でセフェム系抗菌薬の点滴,内服(白内障手術では点滴はC2019年で終了,内服はC2022年で終了)をしていた.2015年から白内障手術と硝子体手術で術中のC0.25%CPIでの眼表面洗浄3,7)と術終了時CMFLX250.375Cμg/mlの前房内投与5,6)を,また硝子体内注射で開瞼後注射直前(図1c)と直後のC0.25%CPIでの眼表面洗浄を導入した.術中CPI洗浄は,術開始時,終了時,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入時(図1a),硝子体ポート作製時(図1b),および抜去時には必ず,それ以外でも極力角膜にかからないよう断続的に行った.また,硝子体手術のCMFLX前房内投与は白内障手術併用時のみ行った.今回,2015年以前と以後の眼内炎発症率を診療録をもとに後ろ向きに検討した.明らかに中毒性前眼部症候群(toxicanteriorsegmentCsyndrome:TASS)と考えられた症例は除外した.統計解析はCFisherの正確確率検定を用い,p<0.05で有意差ありとした.本研究は当院の倫理委員会の承認を得たうえで,ヘルシンキ宣言に則って行った.CII結果白内障手術後の眼内炎発症は,TASSのC9件(うちCHOYA製CiSert251,255に起因8)したC8件)を除外し,2006.2014年でC7,501件中C3件(0.040%),2015.2022年でC14,800件中C2件(0.012%)だった.眼内炎症例は強角膜切開がC3件,強角膜一面切開がC2件で,2015年以後のC2件は認知症であった.前後で有意差はなかった(p=0.34)が,発症率は低下していた(表1).硝子体手術後の眼内炎発症は,ケナコルトによるCTASSと考えられたC2件を除外し,2006.2014年でC2,551件中C4件(0.17%),2015.2022年でC3,636件中C0件(0%)だった.2015年以後で眼内炎発症率が有意に低下していた(p=0.018)(表1).白内障手術併用の硝子体手術に限定すると(2015年以後はCMFLX前房内投与併用),2006.2014年で1,696件中C4件(0.24%),2015.2022年でC2,962件中C0件(0%)であり,発症率は同様に有意に低下した(p=0.018).2006.2014年の白内障手術併用硝子体手術と硝子体単独手術の比較では,発症率に有意差はなかった(p=0.31).2015年以後ではいずれも眼内炎の発症はなかった.また,対象期間の硝子体手術は全例低侵襲硝子体手術(MIVS)で,23,25,27ゲージ(gauge:G)システムを用いた.2006.2014年ではC2,551件中,23GがC950件,25GがC1,564件,27GがC37件であり,2015.2022年ではC3,636件中,それぞれ50件,1,962件,1,624件であった.眼内炎を生じたのは,対策前ではC23CGでC950件中C1件(0.11%),25CGでC1,564件中C3件(0.17%),27Gで37件中0件(0%)であり,3群間で発症率に有意差はなかった(p=1.0)(表2).対策後ではすべてのゲージでC0件(0%)だった.対策前後を合わせたC3群間でも有意差はなかった(p=0.49)(表2).硝子体内注射後の眼内炎発症は,ブロルシズマブ関連の眼内炎9)3件を除外すると,2006.2014年でC3,536件中C0件(0表1白内障手術,硝子体手術,硝子体内注射後の眼内炎発症率2006.C2014年2015.C2022年p値*白内障手術0.040%(3C/7,501)0.012%(2C/14,800)C0.34硝子体手術0.17%(4C/2,551)0%(0C/3,636)C0.018硝子体内注射0%(0C/3,536)0.012%(2C/16,822)C1.002015年以降,白内障手術では有意差はないが眼内炎の発症率がC0.04%からC0.012%へと約C1/3に減少した,硝子体手術では眼内炎発症率が有意に減少した.硝子体内注射では発症率に有意差はなかった.*Fisherの正確確率検定.表2硝子体手術のゲージ数ごとの眼内炎発症率2006.C2014年2015.C2022年全症例23ゲージ25ゲージ27ゲージp値*C0.11%(1C/950)0.17%(3C/1,564)0%(0C/37)1.0C0%(0C/50)0%(0C/1,962)0%(0C/1,624)1.0C0.10%(1C/1,000)0.085%(3C/3,526)0%(0C/1,661)0.49硝子体手術のゲージ別のC3群間で眼内炎発症率に有意差はなかった.*Fisherの正確確率検定.表3発症した術後眼内炎の治療経過年度年齢,性別元の視力原因となった治療発症までの日数発症後視力眼内炎治療内容術後視力C2006200920102010201020102014201620162017202059歳,男性C75歳,男性C75歳,男性C54歳,女性C70歳,女性C51歳,男性C78歳,男性C84歳,女性C89歳,女性C81歳,女性C89歳,男性C0.21.20.70.50.090.60.60.90.30.020.5硝子体手術白内障手術硝子体手術白内障手術硝子体手術白内障手術硝子体手術硝子体内注射白内障手術白内障手術硝子体内注射2日20日C11日C16日C10日13日C5日1日C2日2日C7日C測定なし1.00.80.01手動弁0.6測定なし0.9測定なし0.60.07前房洗浄+硝子体手術C前房洗浄+抗菌薬硝子体内注射C抗菌薬硝子体内注射C前房洗浄+硝子体手術C硝子体手術C前房洗浄+抗菌薬硝子体内注射C前房洗浄+硝子体手術C前房洗浄+抗菌薬硝子体内注射C前房洗浄C前房洗浄+抗菌薬硝子体内注射C前房洗浄+硝子体手術C1.2C1.2C1.2C1.2C0.7C1.5C0.7C1.2C1.2C1.0C1.0発症した眼内炎症例C11件は硝子体手術や前房洗浄,抗菌薬硝子体内注射で治療を行い,いずれも視力の改善が得られた.%),2015.2022年でC16,822件中C2件(0.012%)だったが,前後で有意差はなかった(p=1.0)(表1).なお,発症した眼内炎症例C11件は全例当院で前房洗浄や抗菌薬硝子体内注射,硝子体手術などで治療し,いずれも視力改善が得られた(表3).IOLは全例温存した.CIII考按術後眼内炎発症率は白内障手術でC0.025%10),硝子体手術でC0.054%11),硝子体内注射でC0.035%12)程度と報告されている.その発症を予防するため,近年白内障手術で術中ヨード製剤での眼表面洗浄や抗菌薬前房内投与,硝子体手術で硝子体ポート作製時のヨード製剤での眼表面洗浄などが行われ,その有効性や安全性が報告されている1,3.7).とくにヨード製剤の使用は薬剤耐性菌を生じないことで注目されている.2011年,Shimadaらは白内障手術でC0.25%CPIでの術中眼表面洗浄を頻回に行った群で術終了時の前房水中の細菌検出率が0%だったと報告しており3),開瞼器装脱着前後の眼脂の出やすいタイミングや眼内への細菌迷入の可能性があるCIOL挿入時などでCPIでの洗浄は重要と考えられる.また,同報告でヨードの含まれていない灌流液での術中の眼表面頻回洗浄でも,前房水中の細菌汚染率が既報と比較し低値だったと報告されており,当院でも生理食塩水での術野洗浄を励行している.また,2015年,Matsuuraらは白内障手術時,MFLX前房内投与群で非投与群と比較し眼内炎発症率が有意に低かったと報告し,MFLX前房内投与の有用性を示した6).当院では術野から眼内への菌の迷入を減らすため術中CPI洗浄を,迷入する菌に対してCMFLX前房内投与をC2015年から導入した.今回の結果では,白内障手術は術中CPI洗浄とCMFLX前房内投与の開始前後で眼内炎発症率はC0.040%からC0.012%まで低下したものの有意差はなかった.2015年以後のC2件はいずれも認知症患者であり,術後の感染も考えられるため,一定の眼内炎発症抑制効果が期待できると考えてよいかもしれない.切開創は強角膜切開を基本とし,経結膜強角膜一面切開が報告されてからは13),この切開を基本としている.熟練術者による角膜切開も一部含まれるが,今回の眼内炎発症例に角膜切開はなかった.角膜切開と強角膜切開で眼内炎発症率に有意差はないという過去の報告14)からも切開創による影響はないと考える.硝子体手術では開始前後で眼内炎発症率に有意差を認め,眼内炎発症抑制効果が示された.ゲージによる発症率の差はなかった.なお,硝子体単独手術で眼内炎発症例がなかったが,単独手術の全体数が少ないことを考慮する必要がある.硝子体注射ではC2015年以前と以後で眼内炎発症率に有意差はなかった.以後でC2件生じたことからヨードの直前直後の使用でも完全には予防できないといえる.以前以後とも低値だったのは,注射開始当初から全例テガダームを用いたドレーピングを行っていることや,開瞼してすぐ注射することで結膜面への常在菌の移行が少ないことも要因として考えられる.近年,薬剤耐性菌増加を抑止する観点から抗菌薬の適正使用が求められている.2020年,Matuuraらは白内障手術時,抗菌薬点眼を術前C3日間使用した群と抗菌薬点眼は使用せず手術開始時とCIOL挿入直前のC2回,ヨードでの眼表面洗浄を行った群で手術前,手術開始時,手術後の結膜の細菌培養陽性率に差がなかったと報告した4).また,2013年,MatsuuraらはCMFLX前房内投与後の前房濃度がC150Cμg/mlであれば半減期を考慮してC2時間後濃度がC38Cμg/mlであり,これはほとんどの耐性菌のCMICC90を上回ると報告した5).レボフロキサシンC1.5%点眼,およびCMFLX0.5%点眼の頻回使用で前房内濃度がそれぞれC1.43,0.87μg/mlだったという報告15)があり,耐性菌を考慮すると十分な濃度に達していないと考えられる.そのため,高濃度投与の可能な前房内投与はより有効な術後眼内炎対策方法であるといえる5,6).周術期の抗菌薬使用の適正化を進めるうえで,術中CPI洗浄とCMFLX前房内投与は術前後の抗菌薬削減に向けて期待されている1).今回の結果から,技量の異なる複数の術者がいる病院施設でも,術中CPI洗浄とCMFLX前房内投与が眼内炎対策にさらなる有益性をもたらすと考えられた.このことは,病院施設の術前抗菌薬点眼などの周術期抗菌薬使用の削減にもつながると考えられる.本研究の限界としては,白内障手術,硝子体内注射で前後の発症率に有意差はなく,さらに多数例での検討が必要であること,また白内障手術,硝子体手術では術中CPI洗浄とMFLX前房内投与を同時に開始したため,単独での有用性について言及できないことがあげられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)松浦一貴,宮本武,田中茂登ほか:日本国内での白内障周術期の消毒法および抗菌薬投与法の現況調査.日眼会誌C121:521-528,C20172)OC’NeillJ:TacklingCdrug-resistantCinfectionsglobally:C.nalreportandrecommendations.ReviewonAntimicrobi-alResistance,C20163)ShimadaCH,CAraiCS,CNakashizukaCHCetal:ReductionCofCanteriorCchamberCcontaminationCrateCafterCcataractCsur-gerybyintraoperativesurfaceirrigationwith0.25%Cpovi-done-iodine.AmJOphthalmolC151:11-17,C20114)MatsuuraK,MiyazakiD,SasakiSIetal:E.ectivenessofintraoperativeCiodineCinCcataractsurgery:cleanlinessCofCtheCsurgicalC.eldCwithoutCpreoperativeCtopicalCantibiotics.CJpnJOphthalmolC64:37-44,C20205)MatsuuraK,SutoC,AkuraJetal:ComparisonbetweenintracameralCmoxi.oxacinCadministrationCmethodsCbyCassessingCintraocularCconcentrationsCandCdrugCkinetics.CGraefesArchClinExpOphthalmolC251:1955-1959,C20136)MatsuuraCK,CUotaniCR,CSasakiS:Irrigation,CincisionChydration,CandCeyeCpressurizationCwithCantibiotic-contain-ingsolution.ClinOphthalmolC9:1767-1769,C20157)ShimadaCH,CNakashizukaCH,CHattoriCTCetal:E.ectCofCoperativeC.eldCirrigationConCintraoperativeCbacterialCcon-taminationCandCpostoperativeCendophthalmitisCratesCinC25-gaugevitrectomy.RetinaC30:1242-1249,C20108)SuzukiCT,COhashiCY,COshikaCTCetal:OutbreakCofClate-onsettoxicanteriorsegmentsyndromeafterimplantationofCone-pieceCintraocularClenses.CAmCJCOphthalmolC159:C934-939,C20159)BaumalCCR,CSpaideCRF,CVajzovicCLCetal:RetinalCvasculi-tisandintraocularin.ammationafterintravitrealinjectionofbrolucizumab.OphthalmologyC127:1345-1359,C202010)InoueT,UnoT,UsuiNetal:Incidenceofendophthalmi-tisCandCtheCperioperativeCpracticesCofCcataractCsurgeryCinJapan:JapaneseCProspectiveCMulticenterCStudyCforCPost-operativeCEndophthalmitisCafterCCataractCSurgery.CJpnJOphtalmolC62:24-30,C201811)OshimaCY,CKadonosonoCK,CYamajiCHCetal:MulticenterCsurveyCwithCaCsystematicCoverviewCofCacute-onsetCendo-phthalmitisCafterCtransconjunctivalCmicroincisionCvitrecto-mysurgery.AmJOphtalmolC150:716-725,C201012)RayessCN,CRahimyCE,CStoreyCPCetal:PostinjectionCendo-phthalmitisratesandcharacteristicsfollowingintravitrealbevacizumab,ranibizumab,anda.ibercept.AmJOphthal-molC165:88-93,C201613)菅井滋,大鹿哲郎:白内障手術における経結膜・強角膜一面切開.眼科手術C22:173-177,C200914)LundstromM,WejdeG,SteneviUetal:EndophthalmitisafterCcataractsurgery:aCnationwideCprospectiveCstudyCevaluatingCincidenceCinCrelationCtoCincisionCtypeCandCloca-tion.OphthalmologyC114:866-870,C200715)BucciFA,NguimfackIT,FluetATetal:Pharmacokinet-icsCandCaqueousChumorCpenetrationCofClevo.oxacin1.5%CandCmoxi.oxacin0.5%CinCpatientsCundergoingCcataractCsurgery.ClinOphthalmolC10:783-789,C2016

脳外科手術時にポビドンヨードの誤入により重篤な角膜内皮障害をきたした1例

2015年5月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科32(5):745.748,2015c脳外科手術時にポビドンヨードの誤入により重篤な角膜内皮障害をきたした1例吉川大和清水一弘阿部真保田尻健介出垣昌子勝村浩三池田恒彦大阪医科大学眼科学教室ACaseofCornealEndothelialDysfunctionApparentlyCausedbyPovidone-IodineUsedDuringBrainSurgeryYamatoYoshikawa,KazuhiroShimizu,MahoAbe,KensukeTajiri,MasakoIdegaki,KozoKatsumuraandTunehikoIkedaDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege目的:脳外科手術時に使用したポビドンヨードの誤入によるものと思われる角膜内皮障害をきたした症例を経験したので報告する.症例:45歳,男性.既往歴にvonHippel-Lindow病がある.2004年より網膜血管腫で経過観察していた.2011年2月3日転移性脳腫瘍の診断にて脳外科手術が施行された.術翌日に左眼の眼痛,視力障害を主訴に眼科受診となった.所見:左眼の角膜浮腫と角膜びらんがみられた.視力(0.3).消毒液として使用された原液ポビドンヨードの誤入が疑われた.ベタメタゾン0.1%点眼とオフロキサシン眼軟膏と眼帯にて加療したところ術後3週目に上皮欠損は消失した.しかしその後も角膜実質浮腫は遷延した.術後2カ月目の角膜内皮細胞密度は672cells/mm2であった.術後1年目には角膜浮腫は軽減し,視力は(0.8)に回復した.術後1年4カ月後に角膜浮腫は消失,角膜上皮下に淡い実質混濁を残し瘢痕治癒となった.角膜内皮細胞密度731cells/mm2,視力(0.9)であった.結論:ポビドンヨードが高い濃度で長時間眼表面に滞留すれば重篤な角膜障害を生じる可能性が示唆された.Purpose:Toreportacaseofcornealendothelialdisorderwhichappearedtobecausedbypovidone-iodine(PVP-I)usedduringbrainsurgery.CaseReport:A45-year-oldmalewithamedicalhistoryofvonHippel-Lindaudiseasepresentedwithretinalhemangiomathathadbeenobservedsince2004.HewasdiagnosedwithmetastaticbraintumorsandunderwentbrainsurgeryonFebruary3,2011.Hewassubsequentlyreferredtoourdepartmentduetoacomplaintofblurredvisionandocularpaininhislefteyeonthedayaftersurgery.Uponexamination,massivecornealerosionandcornealedemawereobservedinhislefteye,andthecorrectedvisualacuity(VA)inthateyewas0.3.WespeculatedthatthesecornealdisorderswerecausedbyPVP-Iintrusion,whichwasusedfordisinfectionandsterilizationduringbrainsurgery.Hewastreatedwithbetamethasone0.1%eyedrops,ofloxacineyeointment,andaneyepatch.Thecornealepithelialdefectdisappeared3weeksafterinitiatingtreatment,yetthecornealstromaledemaprolongedthereafter.At2-monthspostoperative,thecornealendothelialcell(CEC)densityinhislefteyewas672cells/mm2,thecornealedemahadreduced,andthecorrectedVAimprovedto0.8.At16-monthspostoperative,thecornealedemahadalmostdisappeared(eventhoughasmallamountofopacityremainedunderthecornealepithelium),theCECdensitywas731cells/mm2,andthecorrectedVAhadimprovedto0.9.Conclusion:ThefindingsinthisstudysuggestthatseverecorneadamagecanresultwhenahighconcentrationofPVP-Iisallowedtoremainontheocularsurfaceforanextendedperiodoftime.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(5):745.748,2015〕Keywords:角膜内皮細胞,ポビドンヨード,手術,消毒,合併症.cornealendothelialcell,povidone-iodine,surgery,disinfection,complication.〔別刷請求先〕吉川大和:〒569-8686大阪府高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科教室Reprintrequests:YamatoYoshikawa,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki-City,Osaka569-8686,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(135)745 はじめに眼科領域において,内眼手術における術後合併症のうち術後の感染性眼内炎はもっとも重篤なものの一つである.白内障手術後眼内炎の発症率は約0.052%であり1),決して高くはないが,術後の視機能に与える影響は大きく,発生の予防には術前の眼表面や眼瞼の無菌化が重要である.術前の感染症対策として,抗菌点眼薬の術前投与をはじめとしてさまざまな方法が取られているが2),2002年の術後感染防止法についての報告3)で結膜.内の菌を減らす効果として唯一エビデンスがあると評価されたのがこの術前のポビドンヨードの使用であり,今なお多くの周術期感染対策として活躍している.ポビドンヨードは薬剤耐性がなく,ウイルス,細菌,多剤耐性菌,真菌にも殺菌効果があり,眼科領域だけでなく外科領域全般においても手術前の皮膚消毒には原液ポビドンヨード(10%)が広く使用されている.広く使用されているポビドンヨードであるが,眼周囲に使用する場合には適正な濃度で使用しなければ角膜をはじめとする眼組織に障害をもたらす場合がある.動物実験などで高い濃度のポビドンヨードが角膜上皮および内皮障害をきたすことは数多く報告されている4.8).ヒトにおけるポビドンヨードによる角膜障害の報告もあるが,角膜内皮細胞が障害された報告は筆者らが知る限りではわが国においては有害事象として報告されている2症例のみである2).今回,筆者らは脳外科手術時に原液ポビドンヨード(10%)が眼表面に長時間誤入したことで角膜内皮障害をきたしたと考えられる症例を経験したので報告する.I症例患者:46歳,男性.既往歴:vonHippelLindou病,血管腫(小脳,網膜),腎細胞癌,転移性肺癌,転移性脳腫瘍(左後頭葉皮質下).眼外傷歴:なし.内眼部手術歴:なし.現病歴:平成16年より網膜血管腫に対して当院にて経過観察していた.角膜内皮細胞密度の測定は行っていなかったが,前眼部に明らかな異常を認めることはなかった.平成23年2月3日左後頭葉皮質下の転移性脳腫瘍に対して,全身麻酔下で開頭腫瘍摘出術が施行された.手術時間は5時間50分,麻酔時間は8時間10分であった.左後頭葉皮質下の転移性脳腫瘍に対するアプローチのため,体位は伏臥位で,左後頭葉が上向きになるよう頭部を回転させ固定された.術前消毒前にアイパッチを装着しているが,アイパッチは耳側が.がれかけており,貼りなおすことも考慮されたが,軽く抑えることで再接着したため,十分な粘着力を保っているものと判断され,術前消毒を行って手術が施行された.術前消毒はポビドンヨード原液(10%)を使746あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015用し,開創予定部より広く皮膚消毒するが,左眼の周辺までは及んでいなかった.術後確認時にはアイパッチは術前消毒前と同じ耳側が.がれかけており,術終了時にはアイパッチには乾燥したポビドンヨードが付着していた.全身麻酔覚醒後,左眼の眼痛と視力障害を訴えたため,翌4日当科紹介受診となった.受診時には左眼の角膜浮腫と全角膜上皮欠損を認めた.オフロキサシン眼軟膏の1日4回の点入と眼帯による閉瞼にて加療した.手術5日後,視力測定可能な安静度となった際の視力はVD=(1.2×sph.2.5D(cyl.3.0DAx180°),VS=(0.3×sph.3.5D(cyl.1.5DAx90°),眼圧は右眼13mmHg,左眼14mmHgであった.その際の前眼部所見は,広範囲の結膜上皮欠損,下方以外の90%の角膜上皮欠損,角膜実質浮腫,Descemet膜皺襞を認めた(図1).角膜上皮の再生が遅いため,前述の治療に加えて,ベタメタゾン0.1%点眼1日4回で加療を行った.経過とともに角膜上皮欠損は徐々に改善してゆき,手術3週間後に角膜上皮欠損は消失したが,角膜実質浮腫,Descemet膜皺襞は残存した.その際に測定された角膜内皮細胞密度は右眼が2,481/mm2に対して672/mm2と右眼に比べて左眼の明らかな角膜内皮細胞密度の減少を認めた.角膜上皮欠損の消失に伴い,フルオロメトロン0.1%点眼,ヒアルロン酸0.1%点眼,2%生理食塩水点眼に変更した.治療継続にて徐々に角膜実質浮腫,Descemet膜皺襞は改善し,それに伴い視力も徐々に改善した.平成24年6月13日(術後1年4カ月)の最終所見は,VD=0.1(1.2×sph.2.75D(cyl.2.75DAx165°),VS=0.2(0.9×sph.1.75D(cyl.2.0DAx5°),眼圧は右眼13mmHg,左眼11mmHgであった.その際の前眼部所見は,角膜実質浮腫,Descemet膜皺襞は消失し,角膜上皮下に淡い実質混濁を残して瘢痕治癒となった(図2).その際の角膜内皮細胞密度は右眼(図3)が2,590/mm2に対して,左眼(図4)は731/mm2と角膜内皮細胞密度は減少したままであった.II考按本症例の脳外科手術において,左後頭葉皮質下の転移性脳腫瘍に対するアプローチのために取られた体位は伏臥位で,左後頭葉が上向きになるよう頭部を回転されていた.そのため術前消毒に使用された原液ポビドンヨード(10%)が,開創予定部から左眼に流れ込みやすい頭位であった.また,術前消毒前と術後確認時のアイパッチの状況はともに耳側が.がれており,消毒部から乾燥していない消毒液が流れ込めば眼部に貯留しやすい状態であったと考えられる.実際に眼部に貯留していたと考えられるポビドンヨードは,術中確認するのは困難であるが,一連の状況からポビドンヨードによる(136) 図1脳外科手術5日後の左眼の前眼部写真下方以外の90%の角膜上皮欠損,角膜実質浮腫,Descemet膜皺襞を認めた.図3脳外科手術1年4カ月後の僚眼のスペキュラーマイクロスコープ所見右眼角膜内皮細胞密度は2,590/mm2であった.角膜障害と考えられた.ポビドンヨードが乾燥する前に左眼表面に誤入したと推測されるので,最低でも5時間程度は眼表面に滞留していたものと考えられる.脳外科手術以前の状況は,角膜内皮細胞密度の測定はされていなかったが,当院の眼科で両眼の網膜血管腫に対して平成16年より7年間にわたって定期的に経過観察されており,その際に角膜の異常は認めなかった.また,外傷およびコンタクトレンズ装用,内眼部手術の既往もなく,脳外科手術術前の状態において角膜内皮細胞密度の左右差が生じる可能性は考えにくいと思われた.術後の経過においてスペキュラーマイクロスコピー検査によって測定された角膜内皮細胞密度が,右眼が2,590/mm2に対して,左眼は731/mm2と著明な左右差を認めたことからポビドンヨードによる角膜内皮障害があったものと考えられた.(137)図2脳外科手術1年4カ月後の左眼の前眼部写真角膜上皮下に淡い実質混濁を残して瘢痕治癒となった.図4脳外科手術1年4カ月後の患眼のスペキュラーマイクロスコープ所見左眼角膜内皮細胞密度は731/mm2であった.高い濃度のポビドンヨードによって角膜上皮および内皮障害が生じうるという点においては,動物実験が多数報告されている.過去の報告によると家兎を用いた実験で1.0%以上の高い濃度のポビドンヨードが前房内に至ることで角膜内皮細胞を障害され4,5),また角膜上皮においても2.5%で角膜上皮障害をきたし,5%以上になると全例において重度の角膜上皮障害をきたしている6).ポビドンヨードの主成分であるヨウ素は分子量が254と小さく,角膜実質は容易に通過すると考えられる.本症例では原液ポピドンヨード(10%)が長時間付着することによって角膜上皮全欠損が生じ,上皮のバリア機能は障害され,ポビドンヨードが角膜実質を通じて前房内に至り角膜内皮障害に至ったか,あるいは実質側から直接,角膜内皮細胞を傷害したものと考えられた.本症例では脳外科の手術であるが,眼科領域においても白あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015747 内障手術を初めとする多くの手術で術前消毒が施行されている.山口らの報告でもあるように各施設によってその術前の消毒方法はさまざまであるが,多くの施設でポビドンヨードが使用されている2).また,術前の眼周囲の皮膚消毒に関しては希釈ポビドンヨードより原液ポビドンヨードのほうが減菌効果に優れていることが報告されている9)ことからも,希釈されたものだけでなく,原液のポビドンヨードを術前に使用する機会は眼科手術においても多いと考えられる.Karenらはブタを用いた実験で2%以上の濃度のポビドンヨードを角膜に1分間さらした前後において有意に角膜内皮細胞密度が減少していたと報告している7).眼科の手術においては,術中の灌流液の使用などにより,本症例のようにポビドンヨードの原液が数時間も滞留することはほとんどないが,手術操作の影響と済まされているような軽微な角膜内皮細胞密度の減少がポビドンヨードによって生じている可能性も考えられる.その点を考慮すると,眼科領域においても,ポビドンヨードによる角膜内皮障害は生じうる合併症であり,術前消毒にポビドンヨードを使用する場合,合併症を生じない適切な消毒を施行することが重要である.本症例を通じて,とくに角膜上皮が障害されているような状況では角膜内皮も傷害される可能性があることが考えられた.ポビドンヨードは高い濃度であればあるほど殺菌効果を示すものではなく,短期的な殺菌効果では,0.1%溶液がもっともヨードを遊離しやすく殺菌効果が高いとされている10,11).ただし細菌や有機物と反応した遊離ヨードは不活化されてしまうので,菌量が多い場合や殺菌効果の持続には補給できるヨード,つまり高い濃度が必要となる.ポビドンヨードは乾燥しないと十分な殺菌効果は出ないと誤解されているが,それは原液ポビドンヨード(10%)ではヨードが遊離しにくいため殺菌効果が出るまでに「時間」がかかることを意味しており,「乾燥」は重要ではない.乾燥すると遊離ヨードが供給されなくなり,むしろ殺菌効果は減少する9).そのために菌量の多い眼周囲の皮膚消毒においては原液ポビドンヨード(10%)が適正であるし,結膜.であれば,40倍希釈ポビドンヨード(0.25%)の使用が角膜内皮の障害もなく,即効性もあり望ましいとされている11,12).今回筆者らは原液ポビドンヨード(10%)が眼表面に長時間滞留することで重篤な角膜内皮障害をきたしうることを報告した.本症例を通じて,ポビドンヨードによる角膜内皮障害は,角膜上皮のバリア機能が障害されたときに生じるものであるという可能性が示唆された.眼科手術の術前消毒の際は適正な濃度のポビドンヨードを使用することが望ましいと考えられる.術前消毒後は速やかに執刀を開始できる環境を事前に整えておき,皮膚消毒に用いた高い濃度のポビドンヨードが眼表面に誤入する危険を避けることが重要であると考えられた.また,眼科としては他科手術時に眼の障害が出ないように他科の医療関係者に対する啓蒙が必要であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大鹿哲郎:白内障術後眼内炎発症頻度と危険因子.あたらしい眼科22:871-873,20052)山口達夫,三木大二郎,谷野富彦ほか:眼の消毒にヨード製剤は危険か?.東京都眼科医会勤務部が実施したアンケート調査の結果..眼科45:937-946,20033)CiullaTA,StarrMB,MasketS:Bacterialendophthalmitisprophylaxisforcataractsurgery:anevidence-basedupdate.Ophthalmology109:13-26,20024)NaorJ,SavionN,BlumenthalMetal:Cornealendothelialcytotoxicityofdilutedpovidone-iodine.JCataractRefractSurg27:941-947,20015)AlpBN,ElibolO,SargonMFetal:Theeffectofpovidoneiodineonthecornealendothelium.Cornea19:546550,20006)JiangJ,WuM,ShenT:Thetoxiceffectofdifferentconcentrationsofpovidoneiodineontherabbit’scornea.CutanOculToxicol28:119-124,20097)LerhauptKE,MaugerTF:Cornealendothelialchangesfromexposuretopovidoneiodinesolution.CutanOculToxicol25:63-65,20068)TrostLW,KivilcimM,PeymanGAetal:Theeffectofintravitreallyinjectedpovidone-iodineonStaphylococcusepidermidisinrabbiteyes.JOculPharmacolTher23:70-77,20079)秦野響子,秦野寛:原液と希釈ポピドンヨードの眼部皮膚消毒効果の比較.あたらしい眼科28:1473-1476,201110)岩沢篤郎,中村良子:ポビドンヨード製剤添加物の殺菌効果・細胞毒性への影響.環境感染16:179-183,200111)BerkelmanRL,HollandBW,AndersonRL:Increasedbactericidalactivityofdilutepreparationsofpovidoneiodinesolutions.JClinMicrobiol15:635-639,198212)ShimadaH,AraiS,NakashizukaH:Reductionofanteriorchambercontaminationrateaftercataractsurgerybyintraoperativesurfaceirrigationwith0.25%povidoneiodine.AmJOphthalmol151:11-17,2011***748あたらしい眼科Vol.32,No.5,2015(138)

原液と希釈ポビドンヨードの眼部皮膚消毒効果の比較

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(105)1473《原著》あたらしい眼科28(10):1473?1476,2011cはじめに健常人の皮膚常在菌はcoagulase-negativeStaphylococcus(CNS)を筆頭にPropionibacterium,真菌のCandidaなどが知られている1)が,眼周囲皮膚についての報告はほとんどない.眼瞼結膜常在菌については多くの報告があるが,その内訳はブドウ球菌属,腸球菌,Propionibacteriumacnesが多い2).眼科領域における外眼・内眼術後感染を予防にするために術前減菌をいかに行うかが重要であり,ポビドンヨード(povidone-iodine:Pヨード)による眼瞼皮膚消毒は広く行われている.Pヨードは薬剤耐性がなく,ウイルス,細菌,多剤耐性菌,真菌にも殺菌効果がある.外科領域では全般にPヨード(10%原液)による皮膚消毒が行われているが,希〔別刷請求先〕秦野響子:〒251-0052藤沢市藤沢438-1ルミネプラザビル7Fルミネはたの眼科Reprintrequests:KyokoHatano,M.D.,LumineHatanoEyeClinic,438-1Fijisawa,FujisawaCity,Kanagawa251-0052,JAPAN原液と希釈ポビドンヨードの眼部皮膚消毒効果の比較秦野響子秦野寛ルミネはたの眼科ComparisonbetweenPovidone-IodineDilutionsRegardingEfficacyofLidSkinDisinfectionKyokoHatanoandHiroshiHatanoLumineHatanoEyeClinic白内障術前の眼部皮膚消毒において,ポビドンヨード液10%(原液)と16倍希釈溶液の減菌効果を比較検討した.823眼を無作為に原液群と希釈溶液群に分け,白内障手術直前に眼部皮膚消毒を2つの方法にて行った.方法1(原液群203眼,16倍希釈群196眼):ポビドンヨードにて眼部皮膚消毒後,綿球で溶液を拭き取り,頬部皮膚を擦過し培養検査を施行.方法2(原液群210眼,16倍希釈214眼):方法1に加えさらに擦過培養前に,残ポビドンヨードが付着した頬周囲皮膚を生理食塩水を含ませた綿球にて拭き取った後皮膚を擦過し培養検査を施行した.両群の菌検出率と検出菌種の内容を比較検討した.方法1では原液群16.8%,16倍希釈群35.7%にて菌を検出,方法2では原液群24.8%,16倍希釈群42.5%に菌を検出した.両方法とも菌検出率は有意に(p<0.01)原液群において低かった.検出菌の大半は両群ともコアグラーゼ陰性ブドウ球菌であった.眼部皮膚消毒においてポビドンヨードは希釈溶液よりも原液のほうが減菌効果が優れていることが確認された.Purpose:Tocomparelidskinbacterialflorareductionbetweenpovidone-iodine10%(undiluted)solutionand0.6%(diluted)solutionforuseinpreoperativedisinfection.Methods:Consecutiveeyesabouttoundergocataractsurgery(823eyes)wererandomizedintotwogroups,inwhichfacialskinandskinaroundlidswasdisinfectedwitheither10%or0.6%povidone-iodinesolution.Weusedtwodifferentwaysofsamplingfromthedisinfectedskinineachgroup.Method1:Afterpovidone-iodinedisinfection,bacterialculturingwasdonewithswabsamplingfromthedisinfectedfacialskin.Method2:Afterdisinfection,residualpovidone-iodinesolutionwasremovedfromtheskinwithsaline;culturingwasthendonewithswabsamplinginthesamewayasinmethod1.Results:Method1:Bacterialdetectionrateinthe10%povidone-iodinegroupwas16.8%;thatinthe0.6%povidoneiodinegroupwas35.7%.Method2:Bacterialdetectionrateinthe10%povidone-iodinegroupwas24.8%;thatinthe0.6%povidone-iodinegroupwas42.5%.Bothmethodsshowedsignificantlygreater(p<0.01)bacteriareductioninthe10%povidone-iodinegroup.Mostofthedetectedbacteriawerecoagulase-negativeStaphylococcus(CNS).Conclusions:Inreducingskinbacteriabeforesurgery,anundiluted10%solutionofpovidone-iodineprovidessignificantlygreaterbacteriareductionthanadiluted0.6%solution.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(10):1473?1476,2011〕Keywords:眼部皮膚消毒,ポビドンヨード,皮膚常在菌,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌.skindisinfection,povidone-iodine,skinbacteriaflora,coagulase-negativeStaphylococcus(CNS).1474あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(106)釈溶液のほうが遊離ヨード濃度が高く,殺菌効果が高いとの報告もある3).実際,眼科での結膜?内の術前消毒は8?16倍希釈液が一般的である.これまでにPヨード原液と希釈溶液を用いた眼部皮膚消毒の殺菌効果についての比較検討の報告はなく,今回筆者らは,白内障手術眼の眼瞼周囲皮膚消毒において比較検討した.両群の菌検出率と検出菌種の内容を報告する.I対象および方法1.対象対象は2009年10月3日?2011年6月6日,ルミネはたの眼科において白内障手術を施行した823眼(男性324眼,女性499眼:延べ眼数)で,平均年齢は72.1±4.2歳であった.2.方法1術前に眼部皮膚の細菌培養検査を施行する旨を患者に説明し同意を書面で得た.患者は無作為に抽出し,Pヨード原液群(以下,原液群)203眼と16倍希釈溶液群(以下,希釈群)196眼に分けた.白内障手術患者における術眼の眼瞼皮膚周囲を含めて,上は眉毛,下は鼻下部,内側は鼻背,外側は耳介までの顔面約1/4の面積を消毒した.まずPヨード(イソジンR,明治製菓)消毒液を染み込ませた滅菌綿球にて皮膚のみを消毒し,その後結膜?内をポリビニルアルコールヨード(PAヨード)8倍希釈を用いて溶液が皮膚面に及ばないように注意しながら60秒間洗浄した.続いて滅菌綿球にて溶液を拭き取った後,1?2分ほど乾燥させた頬部周囲皮膚を輸送用培地カルチャースワブ(BDBBLCultureSwabPlusTM)を用いて擦過した.検体は三菱化学メディエンス(神奈川SO)に培養検査を依頼した.3.方法2Pヨード原液群210眼と16倍希釈群214眼に無作為に分けた.方法1と同様に白内障手術患者における術眼の眼瞼皮膚周囲を含めた顔面約1/4の皮膚を消毒液を染み込ませた滅菌綿球にて消毒し,その後PAヨード8倍希釈を用いて結膜?内を60秒間消毒後,滅菌綿球にて眼瞼周囲液を拭き取った(ここまでは方法1と同様).その後Pヨードが1?2分ほど経ち乾燥した頬周囲皮膚を,生理食塩水を染み込ませた綿球にて肉眼で着色が見えなくなるまで付着ヨードを拭き取り,さらに乾燥綿球で生理食塩水を拭き取り乾燥させた.その後は方法1と同様に皮膚を擦過し培養検査を依頼した.II結果1.結果1(方法1)原液群では203眼中34眼(16.8%)に菌を検出,16倍希釈群では196眼中70眼(35.7%)にて菌を検出した.この結果p<0.01(Fisher検定)と有意に原液群で菌検出率は低かった(図1).検出菌は原液群では表1のようにcoagulasenegativeStaphylococcus(CNS)30株,Bacilliussp.1株,Corynebacteriumsp.1株,Enterobacteraerogenes1株,methicillin-sensitiveStaphylococcusaureus(MSSA)1株の計34株であった.希釈群では表2のようにCNS62株,Bacilliussp.4株,Enterobacteraerogenes1株,Escherichiacoli1株,MSSA4株の計72株であった.2.結果2(方法2)原液群では210眼中52眼(24.8%)に菌を検出,16倍希釈群では214眼中91眼(42.5%)に菌を検出した.この結果p<0.01(Fisher検定)と有意に原液群で菌検出率は低かった(図1).検出菌は原液群では表3のようにCNS45株,MSSA4株,Enterobacteraerogenes3株,Bacilliussp.1株,Escherichiacoli1株,Enterococcusfaecalis1株,Streptococcusagalactiae1株,ブドウ糖非発酵菌1株,酵母1株の計53株であった.希釈群では表4のようにCNS85株,MSSA3株,Enterobacteraerogenes2株,Micrococcussp.図1Pヨード眼部皮膚消毒による菌検出率原液群と希釈群の比較.05101520253035404550方法1方法2菌検出率(%):原液群:希釈群***p<0.01Fisher検定表2方法1希釈群における検出菌菌種株数CNS62Bacillussp.4Enterobacteraerogenes1Escherichiacoli1MSSA4計72表1方法1原液群における検出菌菌種株数CNS30Bacillussp.1Corynebacteriumsp.1Enterobacteraerogenes1MSSA1計34(107)あたらしい眼科Vol.28,No.10,201114751株,Enterobacteriaceae1株,Citrobacterfreundii1株,ブドウ糖非発酵菌2株の計95株であった.方法1と方法2の原液群同士の比較では,方法1では203眼中34眼(16.8%),方法2では210眼中52眼(24.8%)で菌が検出された.方法2のほうが菌検出率は高かったが有意差は認めなかった.方法1と方法2の希釈群同士の比較では,方法1では196眼中70眼(35.7%),方法2では214眼中91眼(42.5%)で菌が検出された.こちらも同様に方法2のほうが菌検出率は高かったが有意差は認めなかった.検出菌はCNSが全体の254株中222株(87.4%)と大半を占めていた.III考察今回の筆者らの報告結果から,術前眼部皮膚消毒に関してはPヨード原液のほうが希釈溶液より検出菌株数が明らかに少なく,殺菌効果が高いことが確認された.今回筆者らは異なる2つの方法で検体を採取した.方法1と方法2はPヨードにて眼部皮膚を消毒,乾燥までの過程は同様であるが,Pヨードが残留付着した皮膚を擦過した(方法1)か,付着していない生地の皮膚を擦過した(方法2)かの違いがある.有意差はないものの,方法2のPヨードが付着していない皮膚からのほうが原液群,希釈群においても菌検出率が高く,菌種数も多かった.これは方法1では擦過時に,皮膚に残留したPヨードが培地内に混入し,培地内にて遊離ヨードが働き殺菌した可能性がある.いずれにしてもどちらの方法においてもPヨード原液群においてより高い減菌効果を示した.Pヨード液には,ヨードと複合体を形成する非イオン界面活性剤であるポリビニルピロリドンとポリオキシエチレン系界面活性剤が含まれている.ポリオキシエチレン系界面活性剤は有機物の汚れへの透過性の助長,洗浄・乳化作用をもち4),徐々に遊離された遊離ヨードが水を酸化することで発生するH2OI+が細菌,ウイルスの膜蛋白に直接働きやすくなることにより殺菌効果を示す.そのためポリオキシエチレン系界面活性剤濃度が低い希釈Pヨード液は,皮膚消毒に関しては効果が不十分である可能性がある.実験的には0.1%溶液が最もヨードを遊離しやすく殺菌効果が高いとされている3).消費された遊離ヨードは不活化されるため新たに供給が必要となるが,高濃度ヨードにおいては周囲から濃度依存性に遊離ヨードが補給される.したがって,皮膚消毒に関しては両者の含有率が高い原液Pヨードのほうが効果持続性も高く有効であると考えられ,今回の結果からもその可能性が示唆された.Pヨードの眼手術時結膜?内の殺菌効果に関しては,術前結膜?洗浄にはPヨード1%よりも5%溶液のほうが減菌効果が高い5),白内障術前数回のヨード点眼よりもヨード溶液にて洗浄を行うほうが殺菌効果が高い6),術中眼表面をくり返し希釈ヨード(0.25%)で洗浄することで終刀時の前房内より細菌は検出されず白内障術後眼内炎予防に有用7)などの報告がある.希釈溶液の場合は殺菌持続時間が短いため,くり返しの洗浄における遊離ヨードの供給が必要であり,殺菌持続性を保つことが重要である.皮膚は消毒直後は無菌に近く滅菌されるが,間もなく毛包管や汗腺などから残存した菌が出現して元に戻る1).そのため眼部皮膚消毒に関しては一定量,持続した殺菌効果をもっていることが望ましいと考えられる.殺菌に必要な菌との接触時間も2?4分3)必要であるが,Pヨード原液では眼部皮膚塗布後から溶液がほぼ完全に乾燥するまでの数分は一定の遊離ヨードが供給されると考えられ,殺菌効果の持続性も高いと思われる.そのため高濃度のPヨード原液は今回の筆者らの結果からも眼部皮膚消毒に関しては希釈溶液より減菌効果が高いことが示唆された.検出された菌は原液群,希釈群ともにCNSが全体の検出菌254株中222株(87.4%)であり大半を占めていた.その他はBacillius属,Enterobacter属,ブドウ糖非発酵菌などが1?4株ずつ検出されたのみであった.この内容は江口ら8)の報告と類似している.皮膚の常在菌はCNSが最も多いとされている従来の記載と一致する結果であった1).外科分野全般において術前の皮膚消毒は術野に菌を持ち込表3方法2原液群における検出菌菌種株数CNS45MSSA4Enterobacteraerogenes3Bacillussp.1Escherichiacoli1Enterococcusfaecalis1Streptococcusagalactiae1ブドウ糖非発酵菌1酵母1計53表4方法2希釈群における検出菌菌種株数CNS85MSSA3Enterobacteraerogenes2Micrococcussp.1Enterobacteriaceae1Citrobacterfreundii1ブドウ糖非発酵菌2計951476あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(108)まないための非常に重要なステップである.白内障を含めた内眼手術に関しても術後眼内炎を防ぐため,一方法としてPヨード原液による眼瞼を含めた皮膚消毒は非常に重要であり,不可欠であると考えられる.今後の課題として,皮膚で得られた今回の結果を踏まえて,結膜?内消毒においてもPヨードの希釈倍率による減菌効果と持続性のさらなる検討が必要と考えられる.文献1)中山浩次:常在細菌叢.戸田細菌学(吉田眞一,柳雄介編)改訂32版,II-8,p175-176,南山堂,19992)HaraJ,YasudaF,HigashitsutsumiM:Preoperativedisinfectionoftheconjunctivalsacincataractsurgery.Ophthalmologica211(Suppl1):62-67,19973)BerkelmanRL,HollandBW,AndersonRL:Increasedbactericidalactivityofdilutepreparationsofpovidoneiodinesolutions.JClinMicrobiol15:635-639,19824)岩沢篤郎,中村良子:ポビドンヨード製剤添加物の殺菌効果・細胞毒性への影響.環境感染16:179-183,20015)FergusonAW,ScottJA,McGaviganJetal:Comparisonof5%povidone-iodinesolutionagainst1%povidoneiodinesolutioninpreoperativecataractsurgeryantisepsis:aprospectiverandomiseddoubleblindstudy.BrJOphthalmol87:163-167,20036)MinodeKasparH,ChangRT,SinghKetal:Prospectiverandomizedcomparisonof2differentmethodsof5%povidone-iodineapplicationsforanteriorsegmentintraocularsurgery.ArchOphthalmol123:161-165,20057)ShimadaH,AraiA,NakashizukaHetal:Reductionofanteriorchambercontaminationrateaftercataractsurgerybyintraoperativesurfaceirrigationwith0.25%povidone-iodine.AmJOphthalmol151:11-17,20118)江口甲一郎,多田桂一,中尾てる子ほか:眼部手術野の消毒に関する検討.眼臨80:911-917,1986***

シリコーンハイドロゲルレンズに対するポビドンヨード消毒剤OPL78 の臨床試験

2010年9月30日 木曜日

1310(14あ4)たらしい眼科Vol.27,No.9,20100910-1810/10/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科27(9):1310.1317,2010cはじめにコンタクトレンズ(CL)による眼障害で最も問題視されるのは角膜感染症であるが,近年,とりわけ2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ(SCL)使用者に感染例が増えており,SCLの消毒に関心が集まっている1,2).現在,SCLの化学消毒剤として,塩化ポリドロニウムやポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)を消毒成分とする1液型のマルチパーパスソリューション(MPS),および過酸化水素消毒剤やポビドンヨード消毒剤が使用されている.これらの消毒剤のうち,MPSを使用する者が大多数を占めるが,MPSは他の消毒剤に比べ消毒効果が弱いことが難点である3).過酸化水素消毒剤は過酸化水素の中和が不十分だとその細胞毒性によって眼〔別刷請求先〕植田喜一:〒751-0872下関市秋根南町1-1-15ウエダ眼科Reprintrequests:KiichiUeda,M.D.,UedaEyeClinic.1-1-15Akineminami,Shimonoseki751-0872,JAPANシリコーンハイドロゲルレンズに対するポビドンヨード消毒剤OPL78の臨床試験植田喜一*1稲葉昌丸*2宮本裕子*3久保田泰隆*4岩崎直樹*4山崎勝秀*5斉藤文郎*5*1ウエダ眼科*2稲葉眼科*3アイアイ眼科医院*4イワサキ眼科医院*5株式会社オフテクスClinicalEvaluationofOPL78,aPovidon-IodineDisinfectionSystem,withSiliconeHydrogelLensesKiichiUeda1),MasamaruInaba2),YukoMiyamoto3),YasutakaKubota4),NaokiIwasaki4),KatsuhideYamasaki5)andFumioSaitoh5)1)UedaEyeClinic,2)InabaEyeClinic,3)Ai-aiEyeClinic,4)IWASAKIEYECLINIC,5)OphtecsCorporationソフトコンタクトレンズ用ポビドンヨード消毒剤OPL78の有用性を評価するために臨床試験を行った.65名(男性16名,女性49名,平均年齢33.0±9.8歳)を対象に,2週間頻回交換のシリコーンハイドロゲルレンズ(SHCL)4種にOPL78を使用して12週間の経過観察を行った.調査項目は,細隙灯顕微鏡による前眼部所見,レンズの状態,装用後レンズの微生物学的検査,被験者へのアンケート(自覚症状)であった.その結果,OPL78の使用期間中に前眼部所見はほとんど変化しなかった.レンズの傷,汚れを認める症例はあったが,レンズ装用に影響はなかった.微生物学的検査からは問題を認めず,自覚症状についてはほぼ良好にレンズが使用できるという回答が大多数であった.これらの結果から,OPL78はSHCLの消毒剤として有用であるといえる.OPL78,achemicaldisinfectionsystemforsoftcontactlensesthatcontainspovidone-iodineastheactiveingredient,wasclinicallyevaluatedwithsiliconehydrogellenses(SHCL).Thestudyincluded65patients(49females,16males;meanage:33.0±9.8years),whousedOPL78todisinfecta2weeksfrequentreplacementSHCLfor12weeks,thenratedtheusefulnessofOPL78.Weconductedslit-lampexamination,observationofSHCLwornoneyesandmicrobiologicalexaminationafterpatientshadcompletedadisinfectingprocedure.Finally,weconductedaquestionnairesurvey.Anterioreyefindingsbyslit-lampexaminationdidnotchangemuchduringtheclinicalevaluation.ThoughscratchesanddepositswerefoundonSHCLinsomecases,thesedidnotaffectthewearingoftheSHCL.Themicrobiologicalexaminationdisclosednoproblems.Furthermore,thequestionnairesurveyshowedthatthemajorityofrespondentsexperiencednoproblemswhileusingOPL78withSHCL.Onthebasisoftheseresults,itisconcludedthatOPL78isusefulfordisinfectingSHCL.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(9):1310.1317,2010〕Keywords:OPL78,ポビドンヨード,シリコーンハイドロゲル,消毒剤,臨床試験.OPL78,povidone-iodine,disinfection,siliconehydrogel,clinicalevaluation.(145)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101311障害が生じるという問題がある.一方,ポビドンヨード消毒剤は,細菌,真菌,ウイルスおよびアメーバなどに対して広い抗菌スペクトルを有しており,角膜への安全性が高いと報告されている4~11).最近のCL市場は,2週間頻回交換SCLや1日使い捨てSCLの使用者が増えているが,素材の面では新素材であるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(SHCL)が急増している.従来のポビドンヨード消毒剤は,消毒顆粒,中和錠,溶解・すすぎ液の3剤で構成されていたが,最近,顆粒と錠剤を1錠タイプとした2剤タイプのOPL78が開発された.そこで2週間頻回交換SHCLを試験レンズとして,OPL78の有用性を評価するための臨床試験を実施したので,その結果を報告する.I対象および方法1.対象2009年1月26日~2009年6月30日に,試験の目的と内容の説明を受け,自らの意思で文書による同意を示した被験者65人(男性16名,女性49名,平均年齢33.0±9.8歳)を対象とした.被験者の背景を図1に示す.2.方法a.使用レンズおよび使用化学消毒剤使用した4種類の2週間頻回交換SHCLとその症例数は,アキュビューRオアシスTMが20例40眼,エアオプティクスRが15例30眼,メダリストRプレミアが15例30眼,メニコン2WEEKプレミオが15例30眼であった.これらのSHCLの種類と仕様を表1に示す.各SHCLは原則として2週間ごとに交換した.被験者に対しては,レンズの取り扱い時には手洗いを徹底するよう指導した.使用したポビドンヨード消毒剤OPL78の構成を図2に,使用方法を図3に示す.OPL78-Iは消毒成分と中和・洗浄成分を1つの錠剤としたもので,これを溶解・すすぎ液であるOPL78-IIに溶かして使用した.OPL78の使用説明書によるとこすり洗いの必要はないが,レンズの汚れが多いと認められた被験者には,溶解・すすぎ液(OPL78-II)によるレンズのこすり洗いを指導した.b.観察時期・調査項目と内容OPL78は各SHCLに対して12週間使用させた.調査する項目と内容は,細隙灯顕微鏡による前眼部所見,装用後のレンズ状態,微生物学的検査,被験者へのアンケートである(表2).前眼部所見およびアンケートによる自覚症状は表3表1使用レンズの種類と仕様レンズ名アキュビューRオアシスTMエアオプティクスRメダリストRプレミアメニコン2WEEKプレミオメーカージョンソン&ジョンソンチバビジョンボシュロムメニコンポリマーSenofilconALotrafilconBBalafilconAAsmofilconADk/L値*147138101161含水率(%)38333640ベースカーブ(mm)8.48.68.68.3,8.6装用方法2週間終日装用2週間終日装用2週間終日装用1週間連続装用2週間終日装用*酸素透過率=×10.(9cm/sec)・(mlO2/〔ml×mmHg〕).レンズの種類ケア用品の種類(n=65人)(n=65人)1カ月定期交換SCL*10%1日ディスポーザブルSCL*11%従来型SCL*1%装用経験なし1%77%2週間頻回交換SCL*過酸化水素消毒剤9%使用経験なし5%無記入6%80%MPS**図1被験者背景*SCL:ソフトコンタクトレンズ,**MPS:マルチパーパスソリューション.1312あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(146)の判定基準に従って評価した.装用後のレンズ状態は細隙灯顕微鏡で,汚れと傷の有無を観察した.また,12週間後にOPL78の使いやすさ,SHCLの汚れ落ち,SHCLの装用感についてアンケートを行い,被験者からの評価を得た.試験開始から2週間後にSHCLを回収し,表4に示す手順,方法および判定基準12)で微生物学的評価を行った.眼科領域で臨床的に問題となることの多いStaphylococcusaureus,Pseudomonasaeruginosa,Escherichiacoli,Serratiaspp.を特定菌としこれらが検出された場合は有効性なしとした.なお,増菌培養でのみ検出された菌については陰性として扱った12).c.統計解析手法前眼部所見,自覚症状の評価について試験開始時と12週間後でWilcoxonの符号付順位検定により有意差検定を行った.有意水準は5%とした.II結果1.前眼部所見試験開始時に角膜上皮ステイニング,角膜血管新生,球結膜充血,上眼瞼乳頭増殖,pigmentedslide,dimpleveil,角膜瘢痕を認めた被験者がいたが,すべて軽度であったため表2調査項目と内容調査項目内容開始時2週間後4週間後8週間後12週間後前眼部所見角膜上皮ステイニング,SEALs*,角膜浮腫,角膜浸潤,角膜潰瘍,血管新生,球結膜充血,乳頭増殖●●●●●装用後のレンズ状態傷,汚れ,変形,変色●●●●微生物学的検査表4参照●被験者へのアンケート調査異物感,乾燥感,かゆみ,くもり,その他●●●●●***SEALs:superiorepithelialarcuatelesions.**12週目には被験者に対しアンケートによるOPL78の総合評価も行った.OPL78-I(有核錠)外側:・ポビドンヨード(消毒剤)内側:・亜硫酸ナトリウム(中和剤)・蛋白分解酵素(洗浄剤)OPL78.II(溶解・すすぎ液)・塩化ナトリウム,ホウ酸レンズケース消毒剤OPL78-I中和剤・洗浄剤OPL78-Ⅱレンズケース図2OPL78の構成OPL78-IOPL78-IIOPL78-IIケースにIとIIを入れ,レンズをセットする.4時間以上放置する.装用IIを入れ替え,すすぎ操作をする.色が消える消毒中(オレンジ色)消毒完了(無色)左右に振る図3OPL78の使用方法(147)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101313試験を行った.これらの所見の程度は,試験開始時と12週間後に差を認めなかった.試験中に,superiorepithelialarcuatelesions(SEALs)が1眼,球結膜充血が2眼認めたが,いずれも軽度であった(表5).2.装用後のレンズ状態SHCLの汚れは2週間後では22眼(16.9%)に観察されたが,12週間後には9眼(6.9%)と減少した.汚れを認めたSHCLを装用していた被験者のうち,汚れが多いためこすり操作を指示した者は2週間後の観察時で4名,4週間後で7名,8週間後で4名であった.SHCLの傷を2週間後以降2~7眼(1.5~5.4%)に認めたが,すべて軽度で,装用中止に至る例はなかった.金属の付着を1眼と塗料の付着を1眼認めた(図4).試験期間中に変形などの異常を認めなかった.3.微生物学的検査今回,検査を行った130検体中,すべての症例で特定菌(S.aureus,P.aeruginosa,E.coli,Serratiaspp.)は検出されなかった.130検体中128検体で総検出菌数が0~103(cfu/ml)未満,2検体が103~105(cfu/ml)未満であり,解析対象症例の98.5%がきわめて有効,1.5%が有効であった(表6).有効2検体から検出された菌は,Staphylococcus属とCorynebacterium属であった.4.被験者へのアンケート調査自覚症状については,ほぼ良好にレンズが使用できるといった回答がほとんどであった.自覚症状として乾燥感(発現率20.8~34.6%),異物感(発現率3.9~15.4%),かゆみ(発現率0.8~11.5%)の順で多かった.なお,試験開始時と12表3前眼部所見と自覚症状の判定基準1)前眼部所見判定基準A)角膜所見角膜ステイニング(範囲)0:ステイニングなし1:角膜表面の1.25%のステイニング2:角膜表面の26.50%のステイニング3:角膜表面の51.75%のステイニング4:角膜表面の76.100%のステイニング(密度)0:ステイニングなし1:密度が低いステイニング2:密度が中等度のステイニング3:密度が高いステイニングSEALs0:なし1:軽度2:中度3:重度角膜実質の細胞浸潤・潰瘍0:なし1:細胞浸潤2:潰瘍角膜浮腫0:なし1:上皮の浮腫2:実質の浮腫(Descemet膜皺襞を含む)3:角膜全体の浮腫角膜血管新生0:なし1:角膜輪部から2mm未満2:角膜輪部から2mm以上3:角膜輪部から2mm以上多方向または実質内血管新生B)結膜所見球結膜充血0:なし1:1/2未満2:1/2以上3:全周上眼瞼乳頭増殖0:なし1:円蓋部結膜のみ2:円蓋部結膜+瞼結膜1/2未満3:円蓋部結膜+瞼結膜1/2以上その他0:なし1:軽度2:中度3:重度2)自覚症状判定基準0:なし(気になる自覚症状なし)1:軽度(時々気になる自覚症状はあるが,ほぼ良好)2:中度(常時気になる自覚症状はあるが,休止なし)3:重度(常時強い自覚症状があり,装用できない)1314あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(148)週間後のかゆみには,有意差を認めた(p=0.0128)が,他の症状については認めなかった(図5).レンズの装用感や汚れ落ち,OPL78の使いやすさについては非常に良いあるいは良いと回答した被験者が77~80%で,被験者のOPL78の継続使用意向は68%であった(図6).III考按新素材のSHCLの消毒剤としてOPL78を用いて,65例130眼を対象に12週間の経過観察を行い,OPL78の臨床上の有用性について検討した.OPL78の消毒成分であるポビドンヨードは,水溶液中で有効ヨウ素(I2,I3.)を遊離する.この有効ヨウ素は細胞に対して高い浸透性を有し,膜蛋白質,酵素蛋白質,核蛋白質のチオール基を酸化することにより殺菌作用を発揮する.ポビドンヨードは広い範囲の微生物に有効でありながら,皮膚刺激性がほとんどないため,粘膜面や手指,皮膚の消毒など臨床的に広く利用されている.ポビドンヨードはSCL用化学消毒剤としても開発されたが,細菌,真菌,アカントアメーバ,ウイルスに対する消毒効果が高いだけでなく,安全性も高いことが報告されている4,5).今回の臨床試験では130検体中すべての症例で,臨床で問題となることの多いS.aureus,P.aeruginosa,E.coli,Serratiaspp.が検出されなかった.128検体がきわめて有効,2検体が有効で,この2検体から検出された菌はおもに結膜.や皮膚の常在菌と考えられるStaphylococcus属とCorynebacterium属で,これらを分離培養したのちOPL78の消毒液に105~6cfu/mlを負荷したところ,すべての菌が死滅した.被験者が自らケアを行ったレンズを中和後の液が入ったケースごと回収して微生物学的検査を行ったが,レンズケースに消毒液が充満していなかったので,消毒液が接触しなかったケース内面に付着した菌が検出された可能性がある.微生物学的検査の結果と試験期間中に被験者に感染症を疑う症状や所見がなかったことから,OPL78はSHCLの消毒剤として有効だと評価する.試験期間中の細隙灯顕微鏡で観察された前眼部所見は,SCLやSHCL装用者に比較的多く認められる所見であるが,これらはすべて軽度なものであった.SHCLとPHMBを含むMPSの組み合わせで,角膜ステイニングを発生することがある13,14).これはレンズに含有する消毒剤の成分が角膜上皮細胞に影響するためで,硬めのSHCLが機械的に角膜を刺激することも影響していると考えられている13).今回の試験では,角膜ステイニングは範囲・密度とも試験開始時と12週間後で変化がなかったが,OPL78は消毒成分を中和し,かつ装用前にすすぎを行うため,消毒剤の成分がレンズに含有することは少ないためと考える.日本で最初にポビドンヨード消毒剤として製品化されたクレンサイドRは,従来素材のSCL使用者に遅発性の薬剤アレルギー様所見を認めることがあった15).OPL78はクレンサイドRと消毒成分や中和成分,洗浄成分が同一であるが,SHCLを対象とした今回の試験においては同様の所見は確認されなかった.従来素材のSCLとSHCLの素材の違いはあるが,遅発性のアレルギー所見については12週間という短期間では評価できない.したがって,長期間の使用にあたっては注意が必要である.なお,本試験期間中に,有害事象として麦粒腫を1眼に認めたが,OPL78との因果関係は明らかでないため,副作用と判定しなかった.表4微生物学的検査の手順,方法,判定基準検査手順①ケア後,レンズケース内のレンズを採取する②各レンズを2mlDPBS入り滅菌PPtubeに移す③Vortex-mixerで1分攪拌する④攪拌後,レンズおよび攪拌液を検体として培養する検体培養方法①トリプチケースソイ5%羊血液寒天培地35℃,24~48時間培養②チョコレートII寒天培地37℃,5%CO2,24~48時間培養③チオグリコレート培地35℃,7日間増菌培養④SCD寒天培地35℃,5日間培養(CL埋没)①②は攪拌後液200μlを使用,③は残液全量を使用.判定基準12)OPL78消毒後CLの微生物学的検査結果特定菌*の検出総検出菌数(cfu/ml)極めて有効検出せず0~103未満有効検出せず103~105未満有効性なし検出105以上*特定菌:S.aureus,P.aeruginosa,E.coli,Serratiaspp.(149)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101315表5前眼部所見症状程度*1観察時期p値*2開始時2週間後4週間後8週間後12週間後角膜ステイニング範囲0123105眼223097眼276094眼3600104眼2600103眼25200.9094角膜ステイニング密度01231052230973210943240104224010325200.8832SEALs0123130000129100130000130000129100─角膜浸潤・潰瘍0123130000130000130000130000130000─角膜浮腫0123130000130000130000130000130000─角膜血管新生01231263101281101281101281101281100.1797球結膜充血0123130000130000129100130000130000─上眼瞼乳頭増殖01231264001264001272101264001282000.1797その他*30123124600124600124600123700124600─*1:程度の判定は表3を参照.*2:検定方法:Wilcoxonの符号付順位検定(開始時と12週間後),─:開始時と12週間後ともに程度が0,または症例数などから検定不可であったもの.*3:その他の内訳:pigmentedslide,dimpleveil,角膜瘢痕.レンズ枚数(枚)*※重複あり2211758822296353025201510502週間後4週間後8週間後12週間後観察時期付着物金属付着物塗料■:汚れ■:傷■:その他図4装用後のレンズ状態*各時期全130枚中汚れ,傷などが認められたレンズの枚数.1316あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010装用後のレンズ状態について,汚れが認められる例があった.OPL78は洗浄剤として蛋白分解酵素などを含むが,脂質汚れが付着しやすいSHCLに対しては洗浄力が十分ではない場合がある.この場合には,OPL78の溶解・すすぎ液によるこすり洗いを行うよう指導する必要がある.他の観察時期と比較して2週後にレンズの汚れが多く観察されたが,その原因は明らかではなかった.今回の試験で初めてSHCLを装用する被験者が多かったため,慣れるまでに眼の分泌物(150)表6微生物学的検査総検出菌数(cfu/ml)項目0~103未満103~105未満105以上検体数*12820特定菌検出せず検出せず─判定極めて有効有効─*増菌培養によってのみ検出された菌は陰性として扱った.(n=130枚)140120100806040200眼数(眼)開始時2週4週8週12週観察時期(n=130眼)140120100806040200眼数(眼)開始時2週4週8週12週観察時期(n=130眼)140120100806040200眼数(眼)開始時2週4週8週12週観察時期(n=130眼)140120100806040200眼数(眼)開始時2週4週8週12週観察時期(n=130眼)*:p≦0.05■程度0:なし■程度1:軽度■程度2:中度■程度3:重度103p=0.4024p=0.0128*p=0.5862p=0.463187402385989339283644541乾燥感かゆみ異物感くもり12011011412512217138233571129116115122120112142188112212112312412586352425図5被験者へのアンケート調査(自覚症状)レンズの装用感レンズの汚れ落ちOPL78の使いやすさ■:非常に良い■:良い■:普通■:悪い■:非常に悪い使用感継続使用意向使いたくない1%0%20%40%60%80%100%(n=65人)(n=65人)1720262412332133513どちらでもよい31%使いたい68%図6被験者へのアンケート調査(総合評価)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101317が増加した可能性も考えられる.自覚症状の訴えは,乾燥感,異物感,かゆみの順に多かった.試験開始時と12週間後のかゆみの程度については有意差があったが,自覚症状はほとんどが軽度で,SHCLの装用を中止するものではなかった.これらの自覚症状は,他のSHCLの臨床報告でもみられるもので,忍田らは1カ月交換SHCLを過酸化水素剤で消毒して3カ月間経過観察した試験結果を報告しているが,自覚症状は乾燥感(発現率10.3~33.3%),異物感(10.3~20.5%),かゆみ(5.1~7.7%)の順に多く,発現率も同様であった16).今回の異物感についても前述したSHCLの汚れや,SHCLの機械的刺激が主とした原因であったと考える.CLのケアは定められた方法を遵守することが求められるが,ポビドンヨード消毒剤についても3剤の添加が必要な従来の消毒操作の簡便化が望まれていた4).OPL78の使用法はOPL78-IをOPL78-IIに溶かして使用するが,今回の試験のアンケート調査で使いやすさは77%の被験者が非常に良いあるいは良いと回答した.レンズの汚れ落ちや装用感については被験者の80%が非常に良いあるいは良いと回答した.これらのことから被験者の68%がOPL78の継続使用の意向を示し,総合的に高い評価を得た.以上のことから,OPL78はSHCL消毒剤として有効性が高く,安全で,操作性も良く,有用であると考える.文献1)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス.日眼会誌110:961-972,20062)福田昌彦:コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査.あたらしい眼科26:1167-1171,20093)植田喜一,柳井亮二:コンタクトレンズケアの現状と問題点.あたらしい眼科26:1179-1186,20094)柳井亮二,植田喜一,田尻大治ほか:細菌・真菌に対するポビドンヨード製剤の有効性.日コレ誌47:32-36,20055)柳井亮二,植田喜一,田尻大治ほか:アカントアメーバおよびウィルスに対するポビドンヨード製剤の有効性.日コレ誌47:37-41,20056)柳井亮二,植田喜一,戸村淳二ほか:家兎角膜に対するポビドンヨード製剤の安全性.日コレ誌47:120-123,20057)YanaiR,YamadaN,UedaKetal:EvaluationofPovidone-iodineasadisinfectantsolutionforcontactlenses:Antimicrobialactivityandcytotoxicityforcornealepithelialcells.ContactLensAntEye29:85-91,20068)KilvingtonS:Antimicrobialefficacyofapovidoneiodine(PI)andaone-stephydrogenperoxidecontactlensdisinfectionsystem.ContactLensAntEye27:209-212,20049)松田賢昌,杉江祐子,塚本光雄ほか:新しいソフトコンタクトレンズ消毒システムOPL7の臨床評価~第1報グループIレンズを用いた試験~.眼紀52:687-701,200110)杉江祐子,松田賢昌,塚本光雄ほか:新しいソフトコンタクトレンズ消毒システムOPL7の臨床評価~第2報グループIVレンズを用いた試験~.眼紀52:702-713,200111)稲葉昌丸,西川博彰,岩崎和佳子ほか:OPL7のソフトコンタクトレンズ装用者に対する使用経験.あたらしい眼科15:295-305,199812)宮永嘉隆:ソフトコンタクトレンズ用化学消毒液BL-49の臨床評価.日コレ誌38:258-273,199613)植田喜一,稲垣恭子,柳井亮二:化学消毒剤による角膜ステイニングの発生.日コレ誌49:187-191,200714)糸井素純:マルチパーパスソリューションとシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとの組み合わせで見られる角膜ステイニングの評価.あたらしい眼科26:93-99,200915)植田喜一:ポビドンヨード製剤(クレンサイド)による角結膜障害が疑われた4例.日コレ誌47:193-196,200516)忍田太紀,伏見典子,澤充ほか:シリコーンハイドロゲルレンズ(HiDk)の臨床試験報告.日コレ誌49:35-43,2007(151)***