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ポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoroethylene (PTFE):ゴアテックス人工硬膜MVP)シートを用いた前頭筋吊り上げ術施行例における材料の組織学的検討

2017年4月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(4):585.588,2017cポリテトラフルオロエチレン(Polytetra.uoroethylene(PTFE):ゴアテックス人工硬膜MVP)シートを用いた前頭筋吊り上げ術施行例における材料の組織学的検討渡邉佳子*1,3林憲吾*2,3水木信久*3*1国際親善総合病院眼科*2横浜桜木町眼科*3横浜市立大学医学部眼科学教室PathologicalFindingofSuspensionMaterialSheetinOperationofFrontalisSuspensionUsingPolytetra.uoroethyleneSheet(Gore-TexMVP)YoshikoWatanabe1,3),KengoHayashi2,3)andNobuhisaMizuki3)1)DepartmentofOphthalmology,InternationalGoodwillGeneralHospital,2)YokohamaSakuragichoEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine緒言:重度の眼瞼下垂症に対する前頭筋吊り上げ術に使用する吊り上げ人工素材であるポリテトラフルオロエチレン(polytetra.uoroethylene:PTFE)シート「ゴアテックス人工硬膜MVP」(以下,PTFEシート)は,長期的に下垂の再発がなく良好な成績が報告されている.症例:30歳,男性.1年前に他院にて,両側の先天性眼瞼下垂症に対してPTFEシートを用いた前頭筋吊り上げ術を受けた.術後1年間で下垂の再発はみられなかったが,術直後より軽い開瞼でMRD(marginre.exdistance)-1が約1.2mm程度と若干低矯正であったため,本人の希望により吊り上げ材料の再調整を行った.眉毛上部よりPTFEシートを露出し,3mm短縮して前頭筋へ再固定した.術後,軽い開瞼でMRD-1が約3mm程度と改善し,兎眼や角膜上皮障害もみられず,自覚症状も改善した.術中の所見として,使用されていたPTFEシートは凹凸面と平滑面のある人工硬膜で,表面(凹凸面)は周辺組織と強く癒着しており,.離時に出血が多く,一方で平滑な裏面(平滑面)は周辺組織との癒着はなく,周囲との間にカプセルが形成されており,.離が容易であった.摘出したPTFEシート断端の病理組織を検査したところ,表面のマイクロポア内に線維組織が入り込んでおり,裏面には組織の侵入はみられなかった.結語:PTFEシートの前面のマイクロポア内に線維組織が侵入し癒着することが,長期的な吊り上げ効果の維持に関与している可能性が考えられる.Introduction:Polytetra.uoroethylene(PTFE:Gore-Tex),whenusedasanarti.cialmaterialinfrontalissus-pensionsurgeryforsevereptosis,resultsinnoptosisrecurrencelong-term,andyieldspositivepostoperativeresults.Case:A30-year-oldmalehadreceivedfrontalissuspensionsurgeryusingPTFEsheetsoncongenitalpto-sisinbotheyesayearpreviouslyatanotherhospital.Ptosisdidnotrecurbuttheadjustmentwasinsu.cientimmediatelyfollowingtheoperation,asthemarginre.exdistance(MRD)-1wasonly1-2mm.Thepatientthere-forerequestedthattheprocedurebeperformedagain.AreadjustmentoperationwasperformedattheYokohamaSakuragichoEyeClinic.WeshortenedthePTFEsheetsby3mmandsuturedthemagaintothefrontalismuscle.Afterthesurgery,theMRD-1wasimprovedto3mmandtherewerenosidee.ectssuchaslagophthalmosorcor-nealepithelialinjury.Observingthesurgery,itwasfoundthatthefront(rough)surfaceofthePTFEsheetadheredstronglytothesurroundingtissue.Therewasconsiderablebleedingatthetimeofpeelingthefront(rough)PTFEsheeto.foradjustment.Theback(smooth)surfacedidnotadhere,andwaseasytopeelo..Weinspectedthepathologicaltissueofthesheetsandfoundthat.broustissuepermeatedintothesurfaceofthemicroporesonthefront(rough)sideofthesheets.Atthesametime,tissuedidnotpermeateintothesmoothbacksurfaceofthesheets.Conclusion:Thepermeationof.broustissueintothesurfaceofthePTFEsheetmicroporesmaymaintainthelong-terme.ectofsuspension.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(4):585.588,2017〕〔別刷請求先〕渡邉佳子:〒245-0006神奈川県横浜市港南区港南台4-33-11Reprintrequests:YoshikoWatanabe,M.D.,DepartmentofOphthalmology,InternationalGoodwillGeneralHospital,1-28-1,Nishigaoka,IzumiWard,Yokohamacity,KanagawaPrefecture245-0006,JAPANKeywords:眼瞼下垂,先天眼瞼下垂,前頭筋吊り上げ術,ゴアテックス,ポリテトラフルオロエチレン.ptosis,congenitalptosis,frontalissuspension,Gore-tex,polytetra.uoroethylene.はじめに前頭筋吊り上げ術は,挙筋機能不良な重度の眼瞼下垂症に対して施行される手術である.吊り上げ術に使う材料としては,大腿筋膜が一般的である1).移植筋膜は術後6カ月で平均15%収縮すると報告されており,術後吊り上げ量の予測が困難である2).また,長期的に過矯正,兎眼,睫毛内反症となる場合があり,移植筋膜は周辺組織との癒着が強く摘出が困難である3,4).人工材料として,ナイロン糸やシリコーン,ポリテトラフルオロエチレン(polytetra.uoroethylene:PTFE)などが使用されており,PTFE素材による術後の眼瞼下垂の再発率の低さは大腿筋膜に相当するといわれている5,6).筆者らは以前,PTFEシート「ゴアテックス人工硬膜MVP」(以下,PTFEシート)の長期的良好な成績について報告した7).今回,PTFEシートを用いた前頭筋吊り上げ術の術後低矯正症例に対して,矯正量の再調整のため,再手術を施行した.その臨床経過および摘出したPTFEシートの病理組織について報告する.I症例患者:30歳,男性.病名:両側の先天眼瞼下垂.既往歴:とくになし現病歴:幼少時より両側の先天眼瞼下垂で常に顎上げがあったが,視力良好であったため,手術は受けなかった(図1a).1年前に他院にてPTFEシートを用いた前頭筋吊り上a:前医手術前b:前医手術1週間後最大開瞼通常開瞼閉瞼げ術を受けた.術後1年間で下垂の再発はみられなかったが,術直後より軽い開瞼でMRD(marginre.exdistance)-1が約1.2mmと若干低矯正であった(図1b).開瞼幅の改善を希望し,横浜桜木町眼科を受診した.初診時所見:視力は,VD=1.2(1.5×cyl.0.50D),VS=1.2(1.5×cyl.0.50D)と良好であった.軽い開瞼でMRD-1が1.2mm程度のため,上眼瞼が瞳孔にかかり視野障害の自覚があった(図1c).初回前頭筋吊り上げ術直後よりこの状態であり,下垂の再発はみられなかった.しかし,常に眉毛を強く挙上する必要があり,肩こり,頭痛を自覚していた.閉瞼に問題はなく角膜上皮障害は認めなかった.手術所見:眉毛上部の皮膚を切開し,PTFEシートを露出した.シート腹側にあたるに表面は周辺組織との強い癒着を認め,.離時に出血が多くみられた(図2a).一方,シート背側にあたる裏面にはカプセルが形成されており,周辺組織との癒着は認めず,.離は容易であった(図2b).PTFEシートを3mm牽引し再度前頭筋と眉毛下の真皮に固定し,残余部分のPTFEシートの断端を切除し,創部の皮膚を縫合した.術後経過:術後1カ月で軽い開瞼でMRD-1が約2.3mmと改善を認め,また最大開瞼時の前額部の皺も減少しており,頭痛,肩こりは消失した(図1d).閉瞼も良好で角膜上皮障害を認めなかった.病理組織:摘出したPTFEシートを図に示す(図3).上方が頭側,下方が睫毛側である.図3を切断した断面(図4)の顕微鏡像の図(図5a)とその拡大図(図6)を示す.腹側c:再手術前d:再手術後1カ月図1開閉瞼の経過上段:眉毛を拳上した最大開瞼時,中段:通常の軽い開瞼時,下段:閉瞼時.a:前医の初回手術前,b:前医の術後1週間,c:当院での再手術前,d:再手術後1カ月.図2術中所見a:PTFEシートの表面(凹凸面)(細矢印)が周辺組織と癒着している(太矢印).b:PTFEシートの裏面(平滑面)(細矢印)はカプセルが形成されている(太矢印).図3摘出したPTFEシート図4図3を切断した断面図6図5aの拡大図凹凸面のマイクロポア内に組織浸潤を認め(太矢印),平滑面には組織浸潤はみられない(細矢印).にあたる表面は凹凸面であり,そのマイクロポア内には線維組織が侵入していた.背側にあたる裏面は平滑面で組織の侵入は認めなかった.II考按PTFE素材による前頭筋吊り上げ術における再発率の低さは大腿筋膜に相当するといわれている5,6).PTFE素材のなかでも,糸状や紐状のものとシート状のものでは術式が異なる.糸や紐状のPTFE素材を用いる場合,眉毛上から眼瞼をループ状に通して埋没する方法が一般的で,再発率が高いという報告がある8).一方,シート状のPTFE素材を使用する場合は,面状の大腿筋膜と同様に瞼板と前頭筋にシートを直接縫合し,固定する.筆者らは,先天眼瞼下垂の小児31名42眼瞼に対してPTFEシートを用いた前頭筋吊り上げ術を行い,平均観察期間33カ月で,下垂の再発がみられないことを報告した7).同様に小久保らは,成人を含めた重度の先天眼瞼下垂97名130眼瞼に対して同素材を用いた同手術を行い,平均観察期間31カ月で下垂の再発がみられないことを報告している9).本症例で使用したPTFEシートは3層構造で,術中の光の反射による眩しさを軽減するために表面には凹凸が作られており,組織と癒着を生じるため凹凸面を脳脊髄側に向けて使用することは禁忌とされている(図5b).摘出したPTFEシートのマイクロポア内には線維性結合組織が侵入し,一方平滑面には線維性結合組織の侵入はみられなかった(図5a).Neelらは,マイクロポアのあるPTFEは移植後に組織浸潤があり,周辺組織と癒着することを報告している10).マイクロポア内に線維組織が侵入することで,結果的に癒着を生じ,術中定量の開瞼幅が維持し,長期的な吊り上げ効果に繋がっている可能性が考えられる.また,PTFEシートが通過するトンネルは,切開した眼窩隔膜から眼窩脂肪の中を通過して眼窩上縁に達し,眉毛上部へ繋がっているため,PTFEシートは瞼板に縫着し,眼窩隔膜内つまり眼瞼後葉を通過して眉毛上部の前頭筋に連結している.つまり前頭筋吊り上げ術は眼瞼後葉の牽引となる.仮に両面凸凹面のPTFEシートを使用した場合,そのデメリットは,凹凸面を背側にすると再手術時に背側面を.離することが非常に困難になることである.さらにPTFEシートが通過するトンネルの背側には挙筋腱膜があるため,挙筋群との癒着は,筋肉の作用の制限などの合併症が発生する可能性があり好ましくないと考える.2015年,国内で前頭筋吊り上げ術に使用する保険請求可能なPTFE素材のシートとして,サスペンダーが発売された.このシートは両面とも平滑面で,凹凸面はない.そのため,移植後にシート周辺にはカプセルが形成され,再調整や摘出は容易であることが予想される.また,下垂が術前のように著明に再発はしないと予想される.一方,シートと周辺組織との癒着が生じないため,術中定量の開瞼幅の長期的な維持については,今後検討する必要があると思われる.III結論前頭筋吊り上げ術で使用されたPTFEシート,ゴアテックス人工硬膜MVPの凹凸面は周辺組織との癒着が強く,平滑面には癒着がなくカプセルが形成されていた.ゴアテックス人工硬膜MVPのマイクロポア内に線維組織が侵入することが,長期的な吊り上げ効果の維持に関与している可能性が考えられる.文献1)TyersAG,CollinJRO:Browsuspension.ColourAtlasofOphthalmicPlasticSurgery.3rded,p197-207.Butter-worth-Heinemann,Oxford,20082)MatsuoK,YuzurihaS:Frontalissuspensionwithfascialataforseverecongenitalblepharoptosisusingenhancedinvoluntaryre.excontractionofthefrontalismuscle.JPlastReconstrAesthetSurg62:480-487,20093)林憲吾,嘉鳥信忠,笠井健一郎ほか:大腿筋膜による前頭筋吊り上げ術の合併症を来した3例の特徴と治療.日眼会誌117:132-138,20134)YoonJS,LeeSY:Long-termfunctionalandcosmeticout-comesafterfrontalissuspensionusingautogenousfascialataforpediatriccongenitalptosis.Ophthalmology116:1405-1414,20095)WassermanBN,SprungerDT,HelvestonEM:Compari-sonofmaterialsusedinfrontalissuspension.ArchOph-thalmol119:687-691,20016)BenSimonGJ,MacedoAA,SchwarczRMetal:Frontalissuspensionforuppereyelidptosis:evaluationofdi.erentsurgicaldesignsandsuturematerial.AmJOphthalmol140:877-885,20057)HayashiK,KatoriN,KasaiKetal:Comparisonsofnylonmono.lamentsuturetopolytetra.uoroethylenesheetforfrontalissuspensionsurgeryineyeswithcongenitalpto-sis.AmJOphthalmol155:654-663,20138)ZweepHP,SpauwenPH:Evaluationofexpandedpolytet-ra.uoroethylene(e-PTFE)andautogenousfascialatainfrontalissuspension.Acomparativeclinicalstudy.ActaChirPlast34:129-137,19929)KokuboK,KatoriN,HayashiKetal:Frontalissuspen-sionwithanexpandedpolytetra.uoroethylenesheetforcongenitalptosisrepair.JPlastReconstrAesthetSurg69:673-678,201610)NeelHB3rd:ImplantsofGore-tex.ArchOtolaryngol109:427-433,1983***