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ポリープ状脈絡膜血管症に内頸動脈閉塞症を合併した1 例

2023年6月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科40(6):838.843,2023cポリープ状脈絡膜血管症に内頸動脈閉塞症を合併した1例石郷岡岳*1水野博史*1大須賀翔*1佐藤孝樹*1西川憲清*2喜田照代*1*1大阪医科薬科大学眼科学教室*2大山記念病院眼科CACaseofPolypoidalChoroidalVasculopathyComplicatedwithInternalCarotidArteryOcclusionGakuIshigooka1),HiroshiMizuno1),ShouOosuka1),TakakiSato,1)NorikiyoNishikawa2)andTeruyoKida1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,OyamaMemorialHospitalC緒言:ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)と内頸動脈閉塞症は,高血圧や喫煙など共通の危険因子を有する.今回PCVの経過観察中に網膜動脈分枝閉塞症(BRAO)や高血圧,内頸動脈閉塞症の診断に至った例を報告する.症例:50年の喫煙歴があるC70歳,男性.X年左眼CPCVと診断しアフリベルセプト硝子体注射(IVA)をC3回施行後,経過良好であったが,X+2年CBRAOを発症し,内科で脂質異常症・境界型糖尿病・高血圧症と診断された.X+3年,X+5年にCPCVが再燃しCIVAを施行した.その後蛍光眼底造影検査で腕網膜時間の延長を認め,頸動脈エコー検査で左内頸動脈閉塞と診断,網膜光凝固を施行した.最終CIVA施行後C2年経過時点でCPCVは鎮静化している.考按:BRAO発症時に内頸動脈病変が潜在していたと考えられた.本症のCBRAOや頸動脈病変とCIVAとの関連は低いが,IVA施行前に,高血圧の既往だけでなく長期の喫煙歴があれば,頸動脈病変の有無も視野に入れ,早期に頸動脈病変を検出することも大切と思われた.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCpolypoidalCchoroidalvasculopathy(PCV)complicatedCwithCinternalCcarotidCarteryCocclusion.CCasereport:AC70-year-oldCmanCwithCaChistoryCofCheavyCtobaccoCsmokingCwasCreferredCtoCourChospitalCforCaCdiagnosisCofCPCVCinChisCleftCeye.CForCtreatment,CheCreceivedCanCintravitrealCinjectionCofCa.ibercept(IVA)threeCtimes.CTwoCyearsClater,CheCdevelopedCbranchCretinalCarterialocclusion(BRAO)andCwasCdiagnosedCwithCdyslipidemia,CborderlineCdiabetesCmellitus,CandCsystemicChypertension.CThreeCyearsCafterCthat,CheCreceivedCthreeCIVAsCforCtheCdeterioratedCPCV.CFluorescienCangiohraphyCshowedCprolongationCofCtheCarm-to-retinaCcircula-tiontime.Heunderwentechocardiographyofthecarotidartery,whichrevealedaleftinternalcarotidarteryocclu-sion.Twoyearslater,thePCVwasquiescent.Conclusions:Inthiscase,internalcarotidarteryocclusionseemedtoCbeCanCunderlyingCfactorCatCtheConsetCofCBRAO.CThus,CophthalmologistsCshouldCsuspectCstenosisCofCtheCcarotidCarteryinPCVpatientswithalonghistoryoftobaccosmoking.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(6):838.843,C2023〕Keywords:ポリープ状脈絡膜血管症,網膜動脈分枝閉塞症,内頸動脈閉塞症,喫煙,高血圧.polypoidalCchoroi-dalvasculopathy,branchretinalarteryocclusion,internalcarotidarteryocclusion,smoking,hypertension.Cはじめに加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)の特殊型1)であるポリープ状脈絡膜血管症(poly-poidalCchoroidalvasculopathy:PCV)は日本人の滲出型AMDのC54.7%とされ,欧米に比べわが国ではCPCVが多い2).PCVはインドシアニングリーン蛍光造影検査(Indo-cyanineCgreenangiography:IA)で特徴的なポリープ状の脈絡膜血管拡張を示し,発症平均年齢はC60.72歳と報告されているが3),その発症メカニズムはいまだ明らかではない.わが国においてSakuradaらは,PCVにおける喫煙率が68.4%,全身疾患の有病率は高血圧症がC44.9%,心血管疾患がC8.3%,脳血管障害がC3.2%,糖尿病がC12.2%,末期腎臓病がC0.2%4),またCTaniguchiらは滲出型CAMDと頸動脈狭窄症の合併はC28.2%で,PCVを含むCAMDでの重症頸動脈〔別刷請求先〕石郷岡岳:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科薬科大学眼科学教室Reprintrequests:GakuIshigooka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2-7Daigaku-machi,Takatsuki-City,Osaka569-8686,JAPANC838(126)狭窄症はC8.9%と報告した5).さらに,網膜動脈分枝閉塞症(branchCretinalCarteryocclusion:BRAO)について荻野らは,AMD76眼中C1眼に認めたと報告しているが6),PCVとBRAO,頸動脈病変の合併についての報告はない.今回筆者らは,健康診断で身体疾患がなかったCPCVに対して,3回のアフリベルセプト硝子体内注射(intravitrealCinjectionCofafribercept:IVA)を行ったC2年後にCBRAOを発症し,内科へ紹介したところ高血圧症や境界型糖尿病の診断に至った.さらにそのC6年後,フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)の施行により,内頸動脈閉塞症などの全身疾患が他科との連携により明らかになった,長期間経過観察できたCPCVのC1例を報告する.CI症例患者:70歳,男性.主訴:左眼視力低下.家族歴:特記事項なし.喫煙歴:1日C20本C×50年既往歴:特記事項なし.身体疾患の既往なし.現病歴:X年C7月健康診断で左眼の視力低下と黄斑変性を指摘され,大阪医科薬科大学病院(以下,当院)紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.2(1.2C×sph+2.75D(cyl.0.50DAx80°),左眼C0.15(0.4×+2.00D),眼圧は右眼C14CmmHg,左眼C13CmmHgで,両眼とも軽度の白内障以外,前眼部中間透光体に異常は認めなかった.眼底検査で右眼に明らかな異常所見はなかったが,左眼黄斑部に網膜下出血がみられ(図1a),黄斑部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で,網膜色素上皮の不整と網膜下液(subretinal.uid:SRF)を認めた(図1b).CaFAでは左眼の腕網膜循環時間はC15秒で,黄斑部に早期からの蛍光漏出があり,IAでは左眼後期にポリープ病巣を認めた(図2).経過:左眼CPCVと診断し,7月,8月,9月とC3回連続してCIVAを施行した.その結果,SRFは消退し視力は(1.5)と良好に経過したため,X年C11月近医に逆紹介となった.CX+2年C6月,突然の左眼視力低下を自覚し,再び前医を受診した.左眼視力は(0.1)に低下,BRAOを発症しており,OCTでは下方網膜の白濁化と網膜内層の浮腫を認めた(図3a,b).BRAOの原因となる基礎疾患を調べるため内科に紹介したところ,脂質異常症・境界型糖尿病・高血圧症を指摘され,治療開始となった.飲酒時の意識消失発作もあり,冠動脈造影検査にて右冠動脈低形成を指摘されるも冠動脈狭窄は指摘されなかった.BRAOの発症C3カ月後,サルポグレラート・カリジノゲナーゼ・メコバラミン内服にて,左眼視力は(0.1)から(0.8)に改善したが,OCTでは下方網膜の菲薄化と網膜血管白鞘化がみられた(図3c,d).CX+3年C1月左眼視力低下を訴え予約外で当院を受診した.受診時視力は(0.1),後極部に出血性網膜色素上皮.離(hemorrhagicCretinalCpigmentCepithelialdetachment:HPED)と器質化した網膜下出血を認めた(図4a,b).PCVの再燃と診断しC4回目のCIVAを施行した.その後出血は器質化し,X+5年の時点で視力は(0.5)であった.禁煙を勧めたが喫煙を継続しており,高血圧や脂質異常と診断されてからの内科への通院は不定期で,内服も途切れがちで,X+5年C4月著明な高血圧症(236/115CmmHg)によるうっ血性心不全のため当院に救急搬送された.高血圧症や慢性腎臓病に対する加療により血圧はC130CmmHg程度まで改善した.IVA4回目施行よりC31カ月後の同年C9月,視力は(0.5)を維持していたが,視神経乳頭耳側に新たなCHPEDCb図1初診時a:左眼眼底写真.黄斑部に網膜下出血を認めた.b:左眼COCT画像.網膜下液を認めた.図2左眼蛍光造影写真a:FA21秒.Cb:FA6分.早期からの蛍光漏出を認めた.Cc:IA38秒.Cd:IA5分.後期にポリープ病巣を認めた.図3左眼BRAO発症時3カ月後a:発症時眼底写真.下方網膜は白濁化していた.Cb:OCT画像.網膜内層浮腫を認めた.Cc:3カ月後眼底写真.血管の白鞘化を認めた.d:OCT写真.下方網膜は菲薄化した.acbdf図4眼底写真とOCT画像a,b:X+3年1月.Cc,d:X+5年9月.Ce,f:X+7年7月.Cab図5X+6年2月左眼FA写真a:FA23秒.Cb:パノラマ写真.網膜動脈充盈遅延と耳側周辺部に無灌流域と毛細血管瘤を認めた.の出現とCSRFを認めた(図4c,d).PCVの再燃と判断してIVAをC12月までC3回連続施行した.HPEDは消退傾向となったが,左眼視力は(0.2)まで低下した.CX+6年C2月に再評価目的のためにCFAを再度施行したところ,FAの腕網膜時間はC23秒に延長しており,網膜動脈充盈は遅延していた.また耳側周辺部に無灌流域と毛細血管瘤の形成を認めた(図5).頸動脈エコー施行したところ,左総頸動脈でC71%の内腔狭小化と左内頸動脈起始部より血流シグナルは消失していたことから,左内頸動脈閉塞症と診断した.当院脳外科に紹介したところ,頭部単一光子励起コンピュータ断層撮影(singlephotonemissioncomputedtomo-graphy:SPECT)では脳血流低下は軽度であるため内頸動脈閉塞症は経過観察となったが,その後左眼の眼虚血による血管新生緑内障の発症予防目的のため無灌流域に網膜光凝固術を施行した.CX+6年C12月に左眼の白内障手術を施行した.術後視力は(0.3).(0.4)となり,X+7年,滲出性変化は消退していた.最後のCIVAからC2年経過したCX+7年までCPCVは再発を認めず良好に経過している(図4e,f).CII考按本例はCPCVの治療および経過観察中にCBRAOや内頸動脈閉塞をきたした.PCVはポリープ状に脈絡膜血管が拡張することにより生じ,内頸動脈狭窄や閉塞は粥状動脈硬化により生じる.両者に直接の関係はないが,年齢だけでなく,高血圧症や喫煙歴など共通の危険因子1,6,7)があることから合併しやすいと想定される.本例では,1日C20本C×50年という長い喫煙歴があった.しかし当院初診時,健診で高血圧などの全身疾患は指摘されておらず,PCVの通院加療中にBRAOを発症したことにより内科受診を勧めたところ,高血圧や脂質異常症などの循環器系疾患が判明した.PCVを含むCAMDでの重症頸動脈狭窄症はC8.9%と報告されている5)ので,PCVを診察した場合に頸動脈病変が潜在している可能性を考えておく必要がある.また,高血圧はCPCVにおいて再発性網膜下出血の危険因子とされている8).PCVの治療は長期に及ぶことがあり,本例のように,眼科通院途中で高血圧治療を自己中断している場合もあるため,定期的に眼科医も全身状態を確認することは重要である.岡本らは,眼所見から頸動脈狭窄が疑われた患者についてFAとの関連を調べ,頸動脈エコーでの狭窄率がC100%であればCFAの腕網膜循環時間は平均C23.0C±6.1秒,50.90%でC17.4±4.8秒と報告した9).本例の場合,初診時は眼虚血によって生じる耳側周辺部出血斑を認めず,FAでの腕網膜循環時間はC15秒であり,積極的に頸動脈エコーを施行する理由がなかった.50%未満の頸動脈狭窄あるいは内壁にプラークの存在を否定できないと考えられるが,眼科初診時は脳虚血発作や一過性黒内障の自覚がないと頸動脈病変を疑いにくい.内頸動脈閉塞と診断されるC4年前のCX年C2月,BRAOの発症時に内科に原因精査を依頼したところ,脂質異常症・境界型糖尿病・高血圧・右冠動脈低形成を初めて指摘されたが,頸動脈エコー検査は施行していなかった.荻原らは,高血圧・糖尿病・脂質異常症など心血管の危険因子をもつC479名に頸動脈エコー検査を施行したところ,67.8%に動脈硬化性プラークを認め,喫煙者の有プラーク率はC84.6%と報告している10).本例のCBRAOの原因として,発症時にはすでに頸動脈壁にプラークが存在していた可能性が考えられたため11,12),禁煙を指導するとともに内科で高血圧などの診断がされたあとに頸動脈エコー検査が施行されたかを確認すべきであったと反省される.本例ではCX+6年C2月に再評価のため施行したCFAにおいて,腕網膜循環時間の遅延だけでなく耳側周辺部で無灌流域と毛細血管瘤を認めたことより眼虚血を疑った.そこで頸動脈エコー検査を施行することにより,初めて内頸動脈閉塞が診断された.頸動脈にできたプラークが破綻して急速に閉塞した場合に,遊離した栓子による脳梗塞と同時に眼底に多発する軟性白斑を認めたことを細井らは報告したが13),本例では内頸動脈閉塞と診断される直前に脳梗塞や眼底に軟性白斑がみられなかったことより,頸動脈狭窄が長期にわたり緩徐に進行し閉塞に至ったのではないかと推測される.また,内頸動脈閉塞に対し脳外科に紹介したところ,頭部SPECTでは脳血流低下は軽度であったため,内頸動脈内膜.離術・バイパス手術・ステント治療などは施行せず経過観察となった.慢性期内頸動脈完全閉塞症における血流の低下は眼球循環に影響を及ぼし,乳頭新生血管・血管新生緑内障などの眼虚血症候群が生じやすい14.16).本例の場合,網膜周辺部に無灌流域と毛細血管瘤を認めたため,血管新生緑内障の発生を危惧し光凝固を施行した.しかし,後極部網膜動脈壁からの蛍光色素透過性亢進がなければ虹彩新生血管は発生しにくく,周辺部に毛細血管瘤が存在してもC15年間悪化しなかった症例が報告されている17).本例ではCBRAOの既往により局所的な網膜酸素需要は低下していたと考えられ,しばらくCFAを施行しながら経過観察する余地があったと思われる.抗CVEGF薬の普及前に,加齢黄斑変性C76眼中C1眼にBRAOが発症したと報告6)されており,本症例におけるBRAOの発症は,3回目のCIVA施行からC20カ月後であったことより,抗CVEGF薬による副作用とは考えにくい.同様に,内頸動脈閉塞症に関しても抗CVEGF薬との因果関係は低いと考えられる.しかし,BRAOおよびその原因と考えられる頸動脈病変とCPCVは,高血圧症や喫煙など共通の危険因子を有しやすいと考えられる.抗CVEGF薬注射後に網膜動脈閉塞症による視力・視野障害や脳梗塞の発症はできる限り避ける必要があるため,初診時に喫煙歴を問診し,高血圧や頸動脈病変の有無を含めて既往歴を確認することは重要である.初診時の問診で既往歴なしと答えても,健診結果の確認や,眼科初診時に少なくとも血圧を測定しておけば,高血圧の有無を確認できる.高血圧症・糖尿病・脂質異常・喫煙は大血管障害を助長する1,18,19).PCV治療前にそれらの危険因子を有している場合,頸動脈エコー検査も視野に入れ,内頸動脈狭窄や閉塞の除外がなされているか確認することは有用である.また,PCVの治療は長期にわたる場合がある.最近では非侵襲的な光干渉断層計血管撮影(OCTangiography)検査の進歩によりCFA・IAを施行する機会がいっそう減少しているので,われわれ眼科医も,初診時の問診だけでなく再診時にも,本例のような頸動脈閉塞を早く見つけるために全身状態の把握は必要と思われる.本症例は,第C38回日本眼循環学会にて発表した.文献1)WongCW,YanagiY,LeeWKetal:Age-relatedmaculardegenerationCandCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinCAsians.ProgRetinalEyeResC53:107-139,C20162)MarukoI,IidaT,SaitoMetal:ClinicalcharacteristicsofexudativeCage-relatedCmacularCdegenerationCinCJapaneseCpatients.AmJOphthalmolC144:15-22,C20073)AnantharamanCG,CShethCJ,CBhendeCMCetal:PolypoidalCchoroidalvasculopathy:PearlsCinCdiagnosisCandCmanage-ment.IndianJOphthalmolC66:896-908,C20184)SakuradaCY,CYoneyamaCS,CImasawaCMCetal:SystemicCriskfactorsassociatedwithpolypoidalchoroidalvasculop-athyCandCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CRetinaC33:841-845,C20135)TaniguchiCH,CShibaCT,CMaenoCTCetal:EvaluationCofCcarotidCatherosclerosis,CperipheralCarterialCdisease,CandCchronicCkidneyCdiseaseCinCpatientsCwithCexudativeCage-relatedmaculardegenerationwithoutcoronaryarterydis-easeorstroke.OphthalmologicaC233:128-133,C20156)荻野哲男,竹田宗泰,今泉寛子ほか:網膜血管病変に合併した加齢黄斑変性の臨床像.臨眼61:773-778,C20077)ZuoC,ZhangX,LiMetal:CaseseriesofcoexistenceofpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCwithCotherCrareCfundusCdiseases.IntOphthalmolC39:987-990,C20198)ChungYR,SeoEJ,KimYHetal:HypertensionasariskfactorCforCrecurrentCsubretinalChemorrhageCinCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.CCanCJCOphthalmolC51:348-353,C20169)岡本紀夫,松下賢治,西村幸英ほか:内頸動脈狭窄と眼循環の関係について─蛍光眼底検査による検討─.眼紀C49:465-469,C199810)萩原信宏:頸動脈エコーC479症例の検討.北海道勤労者医療協会医学雑誌32:41-45,C201011)西川憲清,井口直己,本倉眞代ほか:網膜動脈閉塞症における頸動脈病変II.頸動脈エコーとドプラ血流検査からの検討.臨眼48:1117-1120,C199412)田宮良司,内田環,岡田守生ほか:血管閉塞症と閉塞誠頸動脈疾患との関連について.日眼会誌C100:863-867,C199613)細井千草,井口直己,岩橋洋志ほか:眼底所見からみた内頸動脈閉塞について.眼紀48:1062-1066,C199714)DrakouCAA,CKoutsiarisCAG,CTachmitziCSVCetal:TheCimportanceCofCophthalmicCarteryChemodynamicsCinCpatientsCwithCatheromatousCcarotidCarteryCdisease.CIntCAngiolC30:547-554,C201115)HayrehCSS,CZimmermanMB:OcularCarterialCocclusiveCdisordersCandCcarotidCarteryCdisease.COphthalmolCRetinaC1:12-18,C201716)NanaP,SpanosK,AntoniouGetal:Thee.ectofcarotidrevascularizationConCtheCophthalmicCartery.ow:system-aticCreviewCandCmeta-analysis.CIntCAngiolC40:23-28,C202117)西川憲清,北出和史,宮谷真子ほか:15年間経過観察できた眼虚血症候群のC1例.眼科63:677-685,C202118)FloraCGD,CNayakMK:ACbriefCreviewCofCcardiovascularCdiseases,CassociatedCriskCfactorsCandCcurrentCtreatmentCregimes.CurrPharmDesC25:4063-4084,C201919)梅村敏:第C1章高血圧の疫学.高血圧治療ガイドライン2019(日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編),p4-12,日本高血圧学会,2019***

組織型プラスミノーゲンアクチベーター(tPA;モンテプラーゼ)硝子体内投与による黄斑下血腫の治療経過

2019年11月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科36(11):1446.1450,2019c組織型プラスミノーゲンアクチベーター(tPA;モンテプラーゼ)硝子体内投与による黄斑下血腫の治療経過園部秀樹*1篠田肇*1鴨下衛*1,2渡邊一弘*1栗原俊英*1永井紀博*1坪田一男*1小沢洋子*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2済生会中央病院眼科IntravitrealMonteplaseTissuePlasminogenActivator(tPA)TreatmentforSubmacularHemorrhageHidekiSonobe1),HajimeShinoda1),CMamoruKamoshita1,2),KazuhiroWatanabe1),ToshihideKurihara1),NorihiroNagai1),KazuoTsubota1)andYokoOzawa1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoSaiseikaiCentralHospitalC目的:黄斑下血腫を呈し組織型プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)のモンテプラーゼを硝子体内投与された症例の経過を報告する.対象および方法:2015年C4月.2016年C9月に慶應義塾大学病院眼科において黄斑下血腫に対しCtPA硝子体内投与を施行し,3カ月以上経過観察されたC9例C9眼(男性C3例,平均年齢C78.7歳)を対象とした.(慶應義塾大学医学部倫理委員会承認20140356).結果:ポリープ状脈絡膜血管症C6例,網膜細動脈瘤C3例に対し,3例にCtPA硝子体内注射と空気注入,6例に硝子体手術中の空気置換後に硝子体腔へのCtPA滴下を施行した.すべての症例で黄斑下血腫は移動し,9例中C8例で視力が改善した.網膜細動脈瘤の全例で治療後硝子体出血を認めた以外の大きな合併症はなかった.結論:tPA硝子体内投与は,安全な黄斑下血腫の移動と視力改善を見込める可能性があり,汎用可能な治療法の選択肢の一つとなりえる.CPurpose:ToCreportCtheCclinicalCcourseCofCsubmacularhemorrhage(SMH)patientsCtreatedCbyCintravitrealCtis-sueCplasminogenactivator(tPA;monteplase)administration.CSubjectsandmethods:ThisCstudyCinvolvedC9CeyesCof9SMHpatients(3malesand6females;meanage:78.7years)treatedbyintravitrealtPAattheKeioUniver-sityHospital,Tokyo,JapanfromApril2015toSeptember2016andfollowed-upfor3monthsormorepostopera-tive.ThestudyprotocolwasapprovedbyEthicsCommitteeoftheKeioUniversitySchoolofMedicine(ApprovalNo.:20140356).CResults:Polypoidalchoroidalvasculopathywasobservedin6patients,andmacroaneurysmwasobservedCinC3Cpatients.CThreeCpatientsCunderwentCintravitrealCinjectionCofCtPACandCairConly,CwhileCtheC6CpatientsCunderwentthesametreatmentduringparsplanavitrectomy.SMHwasremovedinallpatients,andbest-correct-edvisualacuity(BCVA)wasimprovedin8ofthe9patients.Vitreoushemorrhageoccurredinall3patientswithmacroaneurysmCduringCtheCfollow-upCperiod,CyetCnoCotherCmajorCcomplicationsCwereCobserved.CConclusion:Our.ndingsshowthatintravitrealtPAadministrationissafeforremovingSMH,thatitmayimproveBCVA,andthatitcanbeconsideredatreatmentoptionintheclinicalsetting.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(11):1446.1450,C2019〕Keywords:黄斑下出血,ポリープ状脈絡膜血管症,網膜細動脈瘤,組織型プラスミノーゲンアクチベーター.CSubmacularhemorrhage,polypoidalchoroidalvasculopathy,macroaneurysm,tissueplasminogenactivator.C〔別刷請求先〕園部秀樹:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:HidekiSonobe,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANC1446(104)はじめに黄斑下血腫は,加齢黄斑変性や網膜細動脈瘤などの脈絡膜内・網膜下もしくは網膜内の血管性病変により引き起こされ,予防は困難であり予後不良である.最近では,ガス注入に加えCtissueplasminogenactivator(tPA,モンテプラーゼ)を投与することで血腫を移動させる治療が行われるが,治療を行える施設が限られているのが現状である.早期治療が重要であることを考えるとより多くの施設が行える方法が普及することが望ましい.筆者らは,黄斑下血腫に対し,特別なデバイスを用いずに比較的簡便な手法でCtPAを硝子体内投与した症例の治療成績を報告する.CI背景黄斑下血腫はポリープ状脈絡膜血管症をはじめとする加齢黄斑変性や網膜細動脈瘤などに伴って発症し,恒久的視力障害をきたしうる病態である.1980年代にCdeJuanらは硝子体手術により意図的網膜裂孔から物理的に血腫を除去する手法を報告したが,視力改善は乏しく,増殖硝子体網膜症などの合併症が問題であった1).1991年にはCPaymanらが,3例の加齢黄斑変性による黄斑下血腫に対して小切開で網膜下にtPAを注入し,1例で視力が改善したと報告した2).初めての視力改善の報告であった.tPAはフィブリン親和性が高く,血栓に特異的に吸着し血栓上でプラスミノーゲンをプラスミンに転化させ,フィブリンを分解し,血栓を溶解する薬剤である.1994年には硝子体手術中に,網膜下にC33CG針でtPAを注射し,逆流を防止するために空気も注入したうえで,網膜を切開し血腫除去を行ったという報告があった3).その後は網膜下注入針の工夫が続けられ,33CG3),36CG4),C39CG5)などの特別な針を用いた報告が相ついだ.2015年にはCKadonosonoらが外径C50Cμmという非常に細いマイクロニードルでCtPAと空気を網膜下に注入しセミファーラー位にすることで,13例全例で血腫が移動し,11眼で視力が改善したという良好な成績を報告した6).一方,tPAを使わずに血腫移動を図る方法も報告された7).Ohjiらは,CC3F8(八フッ化プロパン)ガスを硝子体腔に注射する方法ではC5例中C2例で硝子体手術の追加を要したが,全例で最終的には視力が改善したと報告した7).簡便な方法ではあるが,発症からの時期によっては血腫の移動が困難である可能性があり,日常診療においては血腫を溶解するCtPAの投与を必要とする症例があるのも事実である.その後,HillenkampらがCtPAを硝子体手術中に硝子体内と網膜下のいずれに入れたほうが血腫移動の可能性が高いかを検証したところ,網膜下であることが示された8).ただし,これには特別な網膜下注入針が必要である.この方法は,tPAが適応外使用であり倫理委員会の審査が必要となることに加え,硝子体手術ができる施設のなかでも,特別なデバイスや技術が必要であるため,限られた施設でのみ行われる治療にとどまっている.網膜や網膜色素上皮に対する影響を考えると,黄斑下血腫は発症後なるべく早期に治療することが好ましく,多くの施設で行える手法が普及すれば日常診療に役立つはずである.そこで,筆者らが行った黄斑下血腫に対する比較的簡便なtPA硝子体内投与の治療成績を報告する.CII対象および方法症例はC2015年C4月.2016年C9月に慶應義塾大学病院眼科において黄斑下血腫に対しCtPAの硝子体内投与を施行し,3カ月以上経過観察されたC9例C9眼である.原因疾患は,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)6例C6眼,網膜細動脈瘤C3例C3眼であった.男性C3例3眼,女性C6例C6眼であり,年齢はC67.89歳(平均C78.7C±8.0歳)であった.いずれも書面によるインフォームド・コンセントを得て治療された(慶應義塾大学医学部倫理委員会承認20140356).C1.術式最初の連続C3例に対しては,硝子体手術は行わずに,tPA(物質名モンテプラーゼ;商品名クリアクターCR,60,000CIU/250Cμl)と空気C0.2.0.4Cmlをそれぞれ硝子体内に注入した.ポビドンヨードにて結膜.を消毒後,輪部からC3.5Cmmの位置から市販のC30CG針を用いて注射を行った.いずれの症例も有硝子体眼であり,前房穿刺にて眼圧を調整した.投与後24時間は腹臥位を維持させた.その後の連続C6例に対しては,水晶体再建術併用硝子体切除術中,空気置換の後にCtPA(60,000CIU/100Cμl)を硝子体腔に滴下し,10分程度留置した後に手術を終了とした.術後体位は日中座位,夜間はセミファーラー位とした.C2.眼科的検査経過中には通常の最高矯正視力(best-correctedCvisualacuity:BCVA)・眼圧の測定や細隙灯顕微鏡・眼底検査などの眼科的検査に加え,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT),CSpectralis,CHeidelbergCEngineering,CDossenheim,Germany)による黄斑部の観察も行われた.なお,眼底造影検査は行っておらず,血腫の原因疾患の診断は検眼鏡所見およびCOCT所見により行った.中心網膜厚(centralCretinalthickness:CRT)はCOCTに内蔵されたスケールを用いて測定した.CIII結果tPA投与後,OCT上,すべての症例で投与治療後に血腫が中心窩下から移動した.移動にかかった日数はC7.65日,平均C27.6C±20.7日であった(表1).また,全症例の平均表1術前と術後3カ月の経過症例治療法原疾患性別年齢発症から投与までの期間(日)BCVA〔logMAR(decimal)〕CRT(Cμm)投与から黄斑下血腫移動の期間(日)備考投与前投与後投与前投与後C1注射CPCVCFC89C141.15[C0.07]1.22[C0.06]C425C241C8C2注射CPCVCMC67C350.30[C0.5]C.0.08[C1.2]C525C150C12C3手術CPCVCFC74C41.00[C0.1]0.15[C0.7]C1,080C375C12C4手術CPCVCMC85不明0.70[C0.2]1.00[C0.1]C275C320C45陳旧化症例C5手術CPCVCMC69C311.05[C0.09]1.00[C0.1]C858C90C45症例提示C6手術CPCVCFC76C63.00[s.l.(+)]0.30[C0.5]C1,215C122C7C7注射CMACFC79C62.00[C0.01]1.10[C0.08]C883C211C19硝子体出血自然消退C8手術CMACFC75C21.05[C0.09]0.22[C0.6]C1,150C177C35硝子体出血に対して術後C1カ月で硝子体手術C9手術CMACFC89C31.30[C0.05]0.82[C0.15]C1,167C200C65硝子体出血に対して術後C1カ月で硝子体手術図1tPA投与後の最高矯正視力(BCVA)と中心窩網膜厚(CRT)の推移全症例の平均CBCVA(logMAR)は投与前C1.28C±0.26,投与後C1週間C1.38C±0.33,1カ月C0.88C±0.23,3カ月C0.64C±0.16,6カ月0.52C±0.11,12カ月C0.43C±0.16であった(Ca).平均CRTは投与前(n=9)842C±117.5Cμm,投与後C1週間(n=9)C353±120.8Cμm,1カ月(n=9)208C±24.3Cμm,3カ月(n=9)210C±30.6μm,6カ月(n=8)223C±56.6μm,12カ月(n=7)235C±66.7Cμmであった(Cb).BCVA(logMAR)は投与前C1.28C±0.26,投与C1週間後C1.38C±0.33,1カ月後C0.88C±0.23,3カ月後C0.64C±0.16,6カ月後C0.52C±0.11,12カ月後C0.43C±0.16であった(図1a).平均CCRTは投与前C842C±117.5Cμm,投与C1週間後C353C±120.8μm,1カ月後C208C±24.3Cμm,3カ月後C210C±30.6Cμm,6カ月後C223C±56.6μm,12カ月後C235C±66.7μmであった(図1b).なお,投与後C3カ月までのデータがあったが,6カ月,12カ月後のデータはそれぞれC8例,7例のものであり,それ以外は他院への紹介のため通院中断となっていた.C1.各症例の推移症例C1.6はCPCVであり,症例C7.9は網膜細動脈瘤であった.また,硝子体手術を行わずに硝子体内投与を行った症例は症例C1,2とC7であり,硝子体手術中にCtPAを投与した症例は症例3.6と8,9であった(表1).投与後の経過中の最高CBCVAは,9例中C8例で投与前と比べてC0.2ClogMAR以上改善した.投与後にCBCVAが一度改善した後,増悪した例や,投与後時間がたってからCBCVAが改善した症例もあった(図1a).一方,すべての症例で投与後早期からCCRTは低下した.ただしC1例(症例4)では一度低下したのち,最終観察時まで増加した(図1b).C2.投与前と投与後3カ月の比較各症例の投与前と投与C3カ月後のデータを比較した(表1).投与C3カ月後では,1例(症例4)を除いて視力は維持以上であり,0.2ClogMAR以上改善していたのはC6例であった.視力が低下した症例C4では投与治療以降にCPCVに伴う滲出性変化の再発があり,CRTはむしろ増加した.一方,網膜細動脈瘤ではいずれの症例も投与後に硝子体出血をきたした.1例(症例7)は自然軽快し,残りC2例(症例8,9)は術後C1カ月の時点で硝子体切除術を施行した.3例(106)ab術前術後1カ月術後12カ月図2症例提示(症例5)Ca:術前の眼底写真.中心窩近傍のCPCVが破綻し,アーケード内C5.6乳頭径の黄斑を含む網膜下出血を呈していた.b:術後速やかに黄斑下血腫は移動しており,視力もそれに伴って改善した.ともにCtPA投与後C1カ月後にはCCRTは減少し,黄斑下出血は消失し,BCVAは改善した.tPA投与の際に硝子体手術を併施したか否かにかかわらず,黄斑下血腫は速やかに移動した.C3.合併症網膜細動脈瘤C3例中C3例で投与後に硝子体出血を生じ,そのうちC2例で硝子体切除術を要したが,裂孔原性網膜.離や黄斑円孔といった大きな合併症はみられなかった.なお,硝子体出血により再手術を要したC2例も術後の視力は改善した.観察期間中,眼圧が上昇した例や黄斑下血腫が再発した例はなかった.C4.症.例.提.示(症例5)69歳,男性.2016年C5月中旬に左眼視力低下を自覚した.同年C6月初旬に近医を受診して左眼の網膜下出血と診断され,当院を紹介受診し,左眼水晶体再建術併用硝子体切除術を施行され,術中にCtPAを硝子体内に滴下された.矯正視力は初診時C0.09(1.05logMAR),手術C1週間後C0.04(1.40ClogMAR),1カ月後C0.04(1.40ClogMAR),3カ月後C0.1(1.00logMAR),6カ月後C0.20(0.70logMAR),12カ月後0.20(0.70ClogMAR)であった.術後速やかに黄斑下血腫は移動しており,視力もそれに伴って改善した(図2).CIV考按本報告では,黄斑下血腫に対し網膜下注入針のような特別なデバイスを用いずに一般に普及した設備を用い,硝子体手術の経験を問わない比較的簡便な手法でCtPAを硝子体腔に投与した結果を示した.投与後速やかに黄斑下血腫は移動し,9例中C8例で視力は改善した.近年報告された網膜下注入針によるCtPA投与法は,高価なデバイスを準備し,硝子体手術にきわめて熟達した者が行うものであった.しかし,黄斑下血腫は急性発症し,かつ網膜への影響を考えると発症後可及的速やかに処置したい状態であることから,全国のさまざまな施設で対処可能な方法を普及することは,患者の予後改善のために重要であると考えられる.そこで,筆者らは硝子体内投与という方法を選択した.さらに硝子体手術を施行しない場合でも,tPAを硝子体内投与することによる効果が見込める可能性を示した.原因疾患にはCPCVと網膜細動脈瘤があり,黄斑下血腫の移動という面からはほぼ同様の結果であると考えられたが,視力予後については,PCVでは黄斑下血腫移動後の滲出性変化の再発による影響,黄斑下血腫発症以前のCPCVによる黄斑部変性による影響があると考えられた.一方,網膜細動脈瘤ではC3例中全例で術後硝子体出血があった.これは網膜細動脈瘤の出血源が網膜内層にあり,移動した出血が硝子体腔に達しやすいことと,硝子体腔から出血源および血腫への距離が近く,病巣に対するCtPAの効果が高くなり,より速やかに多くの血腫が溶解されたことが原因として考えられる.しかし,網膜下の出血は網膜視細胞や網膜色素上皮に悪影響を引き起こすのに対し,硝子体出血はその懸念が低くなり,さらに硝子体手術により除去しやすいことから,むしろ視力予後には良い方向に働く可能性がある.硝子体手術中投与では,硝子体腔を全空気置換するため病巣に達するCtPAの濃度が高くなり,より良い血腫溶解を得られる可能性があった.また,元来視力に対する影響は白内障より黄斑下血腫のほうが大きいと考えられるが,手術症例では白内障手術併施が可能であり,より視機能改善につながった可能性があった.さらには術前からあった硝子体出血を取り除くことが可能であった.本報告では,症例数が比較的少なく原因疾患が複数あるという限界はあったものの,tPAの硝子体内投与による効果と安全性の可能性が示された.CV結語黄斑下血腫に対しCtPAを比較的簡便な手法で硝子体内投与した症例の経過を報告した.網膜下の血腫を安全に移動させることができ,視力改善が見込める可能性があることから,tPAの硝子体内投与は黄斑下血腫の治療法の選択肢の一つとして提案された.文献1)deJuanEJr,MachemerR.:Vitreoussurgeryforhemor-rhagicCandC.brousCcomplicationsCofCage-relatedCmacularCdegeneration.AmJOphthalmol105:25-29,C19882)PeymanGA,NelsonNCJr,AlturkiWetal:Tissueplas-minogenCactivatingCfactorCassistedCremovalCofCsubretinalChemorrhage.OphthalmicSurg22:575-582,C19913)LewisH:IntraoperativeC.brinolysisCofCsubmacularChem-orrhageCwithCtissueCplasminogenCactivatorCandCsurgicalCdrainage.AmJOphthalmol118:559-568,C19944)HaupertCL,McCuenBW2nd,Ja.eGJetal:Parsplanavitrectomy,CsubretinalCinjectionCofCplasminogenCactivator,Cand.uid-gasexchangefordisplacementofthicksubmac-ularChemorrhageCinCage-relatedCmaculardegeneration.CAmJOphthalmol131:208-215,C20015)OlivierCS,CChowCDR,CPackoKH:SubretinalCrecombinantCtissueCplasminogenCactivatorCinjectionCandCpneumaticCdis-placementofthicksubmacularhemorrhageinage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology116:1201-1208,C20046)KadonosonoCK,CArakawaCA,CYamaneCSCetal:Displace-mentCofCsubmacularChemorrhagesCinCage-relatedCmacularCdegenerationwithsubretinaltissueplasminogenactivatorandair.Ophthalmology122:123-128,C20157)OhjiCM,CSaitoCY,CHayashiCACetal:PneumaticCdisplace-mentCofCsubretinalChemorrhageCwithoutCtissueCplasmino-genactivator.ArchOphthalmol116:1326-1332,C19988)HillenkampCJ,CSurguchCV,CFrammeCCCetal:ManagementCofCsubmacularChemorrhageCwithCintravitrealCversusCsub-retinalinjectionofrecombinanttissueplasminogenactiva-tor.GraefesArchClinExpOphthalmol248:5-11,C2010***

光線力学的療法を施行したラニビズマブ反応不良ポリープ状脈絡膜血管症7例

2013年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(2):276.281,2013c光線力学的療法を施行したラニビズマブ反応不良ポリープ状脈絡膜血管症7例井尻茂之杉山和久金沢大学医薬保健研究域視覚科学(眼科学)PhotodynamicTherapyforPolypoidalChoroidalVasculopathyRefractorytoRanibizumabShigeyukiIjiriandKazuhisaSugiyamaDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience目的:ラニビズマブ硝子体内投与(IVR)に反応不良であったポリープ状脈絡膜血管症(PCV)7例に対し光線力学的療法(PDT)を施行したので治療経過を報告する.対象および方法:対象は,IVR単独治療を施行するも光干渉断層計(OCT)上反応不良にてPDTを施行し,PDT後6カ月以上経過観察できたPCV7例7眼である.6例は,導入期の連続3回投与後もOCTにて滲出性変化が悪化または残存したためIVR反応不良と判断した.1例は,維持期に再発した滲出性変化が計3回の投与後も残存したためIVR反応不良と判断した.7例ともポリープ状病巣は残存し,初回IVR時から視力またはOCT所見が経時的に悪化したためPDTを施行した.PDT後の平均観察期間は11.0±2.0カ月であった.PDT前後の視力,OCT所見,蛍光眼底造影所見,再治療,合併症について検討した.結果:7例中6例は,ポリープ状病巣が閉塞しPDT後6カ月までに滲出性変化の消失または改善を認めた.6例中3例は滲出性変化が再発し,3例中2例は残存異常血管網からの漏出に対しIVR単独で再治療を行い,2例とも1カ月後に滲出性変化は消失した.もう1例は,中心窩外に再発したポリープ状病巣に対し光凝固を施行し,光凝固3カ月後で滲出性変化は消失した.7例中1例は,ポリープ状病巣が閉塞せず滲出性変化も悪化した.再治療としてIVR併用PDTを施行したが,ポリープ状病巣および滲出性変化は残存した.本症例のみ,視力はPDT後3カ月までに悪化したが,最終的には全症例が維持または改善した.合併症については,1例のみPDT後に1乳頭径未満の出血性網膜色素上皮.離を生じたが,出血は自然吸収され最終観察時まで再治療なく視力を維持できた.結論:解剖学的にIVRに反応不良なPCVに対するPDTは有効であった.Purpose:Toreport7casesofpolypoidalchoroidalvasculopathy(PCV)thatunderwentphotodynamictherapy(PDT)becausetheywererefractorytointravitrealranibizumab(IVR)monotherapy.SubjectsandMethods:Weinvestigated7casesofPCVthatunderwentPDTbecausetheywererefractorytoIVRmonotherapy.Exudativechangesasevaluatedbyopticalcoherencetomography(OCT)increasedorremainedunchangedinallcases,despite3consecutivemonthlyIVRinjections.Themeanfollow-upperiod(±standarddeviation)afterPDTwas11.0±2.0months.Patientdataretrievedincludedbest-correctedvisualacuity(BCVA),OCTfindings,fluoresceinangiographicfindings,indocyaninegreenangiographic(IA)findings,re-treatmentsandcomplications.Results:IAperformedat3-monthintervalsafterPDTrevealeddisappearedpolypoidallesionsin6of7cases.ExudativechangesasevaluatedbyOCTdisappearedorresolvedby6monthsafterPDTinthese6cases,butrecurredin3ofthe6.In2ofthose3,recurringexudationswerethecauseofresidualbranchingvascularnetworkvessels.These2caseswerere-treatedwithIVR;theexudativechangeshadcompletelydisappearedat1monthafterre-treatment.Theothercasewasre-treatedwithphotocoagulation(PC)forrecurrentextrafovealpolypoidallesions;theexudativechangeresolvedby3monthsafterPC.Inoneofthe7cases,polypoidallesiononIAdidnotdisappearandexudativechangeonOCTgraduallyincreasedafterPDT.Thiscasewasre-treatedwithPDTcombinedwithIVR.Thepolypoidallesiondidnotdisappearafterre-treatment,andexudativechangeremained.BCVAdeterioratedat3monthsafterPDTin1casewithoutthepolypoidallesiondisappearing,butimprovedorwasmaintainedatfinalvisitsinall7cases.Hemorrhagicretinalpigmentepithelialdetachmentsmallerthan1discdiameter〔別刷請求先〕井尻茂之:〒920-8641金沢市宝町13番1号金沢大学医薬保健研究域視覚科学(眼科学)Reprintrequests:ShigeyukiIjiri,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,13-1Takara-machi,Kanazawa-shi920-8641,JAPAN276276276あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(142)(00)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY wasseenat1monthafterPDTin1case.Thehemorrhagedisappearednaturally,andvisualacuitywasmaintainedatfinalvisitwithoutre-treatment.Conclusion:PDTwaseffectiveforcasesofPCVthathadpooranatomicresponsetoIVRmonotherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(2):276.281,2013〕Keywords:光線力学的療法,ラニビズマブ,ポリープ状脈絡膜血管症,滲出型加齢黄斑変性,光干渉断層計.photodynamictherapy,ranibizumab,polypoidalchoroidalvasculopathy,exudativeage-relatedmaculardegeneration,opticalcoherencetomography.はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)抗体であるラニビズマブ(ルセンティスR,ノバルティスファーマ)硝子体内注射(intravitrealranibizumab:IVR)は,2009年に臨床使用が開始され,現在AMD治療の主要な治療法として確立されている.国内外の臨床試験では,平均視力は投与開始後から急速に改善し,1カ月毎連続3回の導入期終了までにプラトーに達するという良好な結果である1.3).しかしながら,AMDに対するIVR単独治療には,約3割で解剖学的反応不良例が存在することが報告されており4,5),抗VEGF単独治療に抵抗性を示すAMDにはポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)や網膜色素上皮.離(retinalpigmentepithelialdetachment:PED)主体のoccult脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)例が多いことが報告されている6.8).実際の臨床でも導入期の投与に解剖学的に反応しない症例や,導入期の投与には反応したものの維持期での追加投与に反応が不良になってくる症例を経験し,近年,このようなIVR単独治療に抵抗性を示すAMD症例への対応が問題となってきている.IVR以外のAMDに対する治療としては,ベルテポルフィン(ビスダインR,ノバルティスファーマ)を用いた光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)があり,2004年にわが国で臨床使用が可能となっている.PDTは,IVR治療と比較し視力に関してはその長期成績は劣るものの1),解剖学的所見の改善や視力維持効果が多数報告されており,特にPCVで有効とされている9.12).近年,抗VEGF抗体の硝子体内注射単独治療に抵抗性を示すAMDに対するPDTの有効性が報告されている7).今回,筆者らはIVR単独治療を行うも光干渉断層計(OCT)にて解剖学的に改善が得られないためPDTを施行し,PDT後6カ月以上経過観察できたPCV7例の経過を報告する.I対象および方法対象は,2009年3月から2011年3月の間に,金沢大学附属病院眼科で初回治療としてIVR単独治療を施行するもOCT上反応不良にてPDTを施行し,PDT後6カ月以上経過観察できたPCV7例7眼である.PDT後の平均観察期間は11.0±2.0カ月であった.PCVの診断は,日本ポリープ状脈絡膜血管症研究会による診断基準の確実例を満たすものとした13).症例2を除く6例は,ラニビズマブ0.5mg/0.05mlを導入期として1カ月毎連続3回投与したにもかかわらず,OCTにて網膜下液(subretinalfluid:SRF)または漿液性PEDが悪化または残存したためIVR反応不良と判断した.症例2は,導入期の連続3回投与にてSRFは消失したが,維持期に再発したSRFが計3回の投与でも消失しなかったためIVR反応不良と判断した.7例ともインドシアニングリーン蛍光眼底造影(indocyaninegreenangiography:IA)でIVR開始前に認めたポリープ状病巣はPDT前に増減なく残存し,初回IVR時から視力またはOCT所見が経時的に悪化したためPDTを施行した.各症例の治療前の背景を表1に示す.PDTは,標準の条件で施行した(ベルテポルフィンを体表面積当たり6mg/m2で10分かけて点滴静注,エネルギー50J/cm2,波長689nm,照射時間83秒).最大病変直径はIAで決定し,照射径は,病変最大直径に1mm(周囲に500μm)の縁取りをつけたものとした.全症例,PDT前とPDT後1カ月毎に小数視力(3mまたは5mで測定)とOCT(トプコン社製,3DOCT-1000MARKII)を測定し,PDT前とPDT後3カ月以降にフルオレセイン蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FA)およびIA(ハイデルベルグ社製,ハイデルベルグスペクトラリスHRA+OCTで撮影)を施行した.再治療は,初回PDT後3カ月以降にOCTにて滲出性変化の残存または悪化を認めた場合に施行した.再治療は,中心窩下にポリープ状病巣を認める場合にはPDTを施行し,中心窩外にポリープ状病巣を認める場合は網膜光凝固を施行した.ポリープ状病巣を認めず異常血管網のみから漏出している場合は,IVRを施行した.検討項目は,①視力およびOCT所見(PDT前,PDT1カ月後,3カ月後,6カ月後,最終観察時),②ポリープ状病巣閉塞の有無(PDT前とPDT3カ月以降に施行したIAを比較し評価),③再治療について,④合併症について,である.(143)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013277 表1各症例のPDT前背景IVR前IVR前IVR最終IVR.PDT前PDT前PDT前のPDT前PDT前ポリPDT照射症例年齢(歳)・性BCVACFT(μm)回数PDT期間(月)BCVACFT(μm)OCT所見FA分類ープ状病巣径(μm)166・男性1.02403170.5295SRF,sPEDOccultsub4,800283・男性0.327862.50.5224SRFOccultsub6,000362・女性0.619336.00.8193sPEDOccultextra4,000466・男性0.823933.00.3557SRF,sPEDOccultsub,extra3,850573・男性0.635833.80.15422SRF,sPEDOccultsub4,200680・男性0.730632.30.7424SRFOccultsub,extra5,500767・女性0.817034.10.5147SRFOccultsub2,700PDT:photodynamictherapy,IVR:intravitrealranibizumab,BCVA(小数視力):bestcorrectedvisualacuity,CFT:centralfovealthickness,OCT:opticalcoherencetomography,SRF:subretinalfluid,sPED:serousretinalpigmentepithelialdetachment,FA:fluoresceinangiography,Occult:occultwithnoclassic,sub:subfovea,extra:extrafovea.表2各症例のPDT後の経過症例PDT前1MBCVA3M6M最終PDT前CFT(μm)1M3M6M最終ポリープ状病巣再治療合併症観察期間(月)10.50.60.30.50.7295*352*355*221*238*残存IVR併用PDTなし820.50.50.50.60.6224*175*153137132閉塞なしhPED1030.80.80.81.01.0193126107104135閉塞なしなし1240.30.30.30.70.6557*305*238215*241*再発光凝固なし1150.150.70.90.91.0422*173*188*151152閉塞IVR1回なし1360.70.80.90.90.7424*165*196166160閉塞IVR1回なし1370.50.60.70.90.9147*139150176156閉塞なしなし13PDT:photodynamictherapy,IVR:intravitrealranibizumab,BCVA(小数視力):bestcorrectedvisualacuity,CFT:centralfovealthickness,hPED:hemorrhagicretinalpigmentepithelialdetachment.*:光干渉断層計にてsubretinalfluidを認めるもの.II結果各症例のPDT後の経過を表2に示す.7例中6例(症例2,3,4,5,6,7)は,IAでポリープ状病巣が閉塞した.ポリープ状病巣が閉塞した6例のうち,PDT前にSRFのみを認めた3例(症例2,6,7)はPDT後3カ月までにSRFが消失した.PDT前に漿液性PEDのみを認めた症例3はPDT後1カ月で漿液性PEDは消失した.PDT前にSRFと漿液性PEDの両者を認めた2例のうち,症例5はPDT後1カ月までに漿液性PEDが,PDT後2カ月までにSRDが消失した.もう1例の症例4は,PDT後2カ月で一旦SRFは消失したが,PDT後6カ月でSRFが再発し,漿液性PEDは残存した.本症例は,IAでPDT前に認めた中心窩下のポリープ状病巣は閉塞していたが,中心窩外(異常血管網の末端)にポリープ状病巣が再発していた.再発したポリープ状病巣に対し光凝固を施行したところ3カ月後までにSRFは消失した.再治療については,症例5がPDT後3カ月で,症例6がPDT後11カ月でSRFが再発したが,IAではポリープ状病巣の再発は認めず異常血管網のみであった.2例ともIVRで再治療を行い,IVR1カ月後にSRFは消失した.症例1278あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013は,PDT後もSRFおよび漿液性PEDは悪化し,IAでもポリープ状病巣が残存した.再治療として初回PDTから4カ月後にIVR併用PDTを施行した(PDT7日前にIVR1回,PDT後2カ月後にIVRを2回連続施行).再治療後,SRFは減少し漿液性PEDは縮小したがいずれも残存し,ポリープ状病巣も閉塞しなかった.症例2,3,7は,初回PDT後SRFの再発は認めず,再治療は施行しなかった.視力については,ポリープ状病巣が残存しOCT所見が悪化した症例1のみPDT後3カ月までに悪化したが,最終的には全症例が維持または改善した.小数視力をlogarithmicminimumangleofresolution(logMAR)値に換算し,logMAR値0.3以上の変化を改善または悪化とすると,7眼中2眼(28.6%)が改善,7眼中5眼(71.4%)が不変であった.合併症については,症例2がPDT後1カ月時に中心窩下に1乳頭径未満の出血性PEDを認めた.PDT後6カ月までに出血は吸収され,ポリープ状病巣は閉塞し,最終観察時まで再治療なく視力を維持できた.全身的合併症は1例も認めなかった.代表例(症例7)を図1に示す.67歳女性で,中心窩下に橙赤色隆起性病巣を認め,IAで異常血管網とポリープ状病(144) BCDABCDA図1症例7(67歳,女性)A:PDT前のFA・IA同時撮影像(後期像).IAで中心窩下に異常血管網とポリープ状病巣を認めた.点線丸で病変最大長径を,実線丸で照射径(2,700μm)を示した.FAでは点状の漏出点を2カ所認めた.B:PDT前のOCT所見.中心窩下にノッチサインを伴う網膜色素上皮の隆起とSRFを認めた.C:PDT3カ月後のFA・IA同時撮影像(後期像).IAで異常血管網の縮小とポリープ状病巣の閉塞を認め,照射野に一致して低蛍光領域を認めた.FAでは蛍光漏出点は消失していた.D:PDT3カ月後のOCT所見.網膜色素上皮の隆起とSRFの消失を認めた.(145)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013279 巣を認めた.導入期に連続3回のIVRを施行したがSRFは残存し,視力が徐々に低下するため最終IVRから4カ月後にPDTを施行した.PDT1カ月後の時点でSRFは完全に消失し,PDT3カ月後のIAで異常血管網の縮小とポリープ状病巣の閉塞を認めた.PDT後観察期間13カ月でOCT上滲出性変化の再発は認めず,視力は0.5から0.9に改善した.III考按AMDに対するIVR反応不良の治療前因子として,正らは61眼のAMD例を対象に検討を行い,年齢,男女比,治療歴,視力,病変最大直径,病型,FAによる病変タイプのすべての項目について滲出消失群(69%)と残存群(31%)に有意差を認めなかったと報告している5).一方,抗VEGF単独治療に抵抗性を示すAMDにはPCV例やPED主体のoccultCNV例が多いことが報告されている6.8).また,Koizumiらは,PCVに対するIVR反応不良の治療前因子として大きなポリープ状病巣とPEDの存在を報告している4).本報告におけるIVR反応不良PCV7例も,全例がFAでocculttypeのCNVであり,7例中4例で漿液性PEDを認めた.PCVでは抗VEGF単独治療よりも,PDTを併用したほうがポリープ状病巣の閉塞が得られやすいことが報告されている.Choらは,抗VEGF単独治療が無効のPCV9例に抗VEGF療法併用PDTを行い,8例(89%)がIAとOCTで完全寛解が得られたと報告している7).また,EVERESTstudyによると,PCVにおけるポリープ状病巣の完全閉塞率はIVR単独では28.6%,PDTを併用すれば77.8%,PDT単独でも71.4%である14).本報告でもPDTを施行することで,IVR単独では閉塞が得られなかったポリープ状病巣が7例中6例(85.7%)で閉塞した.AMDに対するPDTは長期的には再発が多いことが報告されている11,12,15).本報告でも7例中3例が再発し,再治療を必要としなかったのは2例のみであった.また,症例1は初回PDTが無効のため再治療としてIVR併用PDTを施行したが,ポリープ状病巣は閉塞せず滲出性変化が残存した.症例1は,PDT前の中心窩網膜厚や病変面積が他症例と比較し著しく大きくはなかったが,最終IVRからPDTまでの期間が顕著に長かった(症例1は17カ月,他症例は6カ月以内).今後は,長期的な再発を減らせるような治療法や,症例1のようなIVR単独にもPDT単独にもIVR併用PDTにも抵抗性を有するAMD例の治療法が課題である.PCVに対するPDT後の残存異常血管網からの漏出に対しては抗VEGF薬単独治療が有効との報告がある16,17).Saitoらは,残存異常血管網からの漏出に対する治療でIVR単独治療を施行した群はPDT単独を施行した群よりも視力予後が良好であったと報告している17).本報告でも,症例5と症280あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013例6はポリープ状病巣が閉塞したが,PDT後3カ月以降に異常血管網からの漏出によるSRFの再発を認め,IVRを施行した.2例ともIVR後1カ月でSRFは完全に消失し,良好な視力を維持できた.PDT後に約4.5%の割合で重篤な視力低下をきたすという報告9)や,PDT後にVEGF産生が亢進するとの報告があること18)から,ポリープ状病巣が閉塞したあとの残存異常血管網からの漏出に対する再治療は,PDTではなく抗VEGF単独治療を行うべきと考えられる.AMDに対するPDTの国内臨床試験の結果に基づいて作成された日本版PDTガイドラインでは,治療前視力が0.5よりも良好な患者は12カ月後の視力が有意に低下していたという結果から,視力が0.5よりも良好な症例には「推奨」または「モニタリング」とされている19).本報告では,PDT前視力が0.5よりも良好な症例は2症例存在した(症例3が0.8,症例6が0.7).症例3は,中心窩下の漿液性PEDにより強い歪視の訴えがあったためPDTを施行した.症例6は,導入期中も最終IVR後も比較的急速にSRFが増加したため速やかにPDTを施行した.本報告のまとめとして,IVR反応不良PCV例にPDTを施行した.その結果,7例中6例はポリープ状病巣が閉塞し,OCT上滲出性変化の消失と視力の改善を認めた.解剖学的にIVRに反応不良なPCVに対するPDTは有効であった.文献1)BrownDM,MichelsM,KaiserPKetal;ANCHORStudyGroup:Ranibizumabversusverteporfinphotodynamictherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration:Two-yearresultsoftheANCHORstudy.Ophthalmology116:57-65,20092)RosenfeltPJ,BrownDM,HeierJSetal;MARINAStudyGroup:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,20063)TanoY,OhjiM;EXTEND-IStudyGroup:EXTENDI:safetyandefficacyofranibizumabinJapanesepatientswithsubfovealchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.ActaOphthalmol88:309-316,20104)KoizumiH,YamagishiT,YamazakiTetal:Predictivefactorsofresolvedretinalfluidafterintravitrealranibizumabforpolypoidalchoroidalvasculopathy.BrJOphthalmol95:1555-1559,20115)正健一郎,尾辻剛,津村晶子ほか:ラニビズマブ硝子体注射における反応不良例の検討.眼臨紀4:782-784,20116)ArosaS,MckibbinM:One-yearoutcomeafterintravitrealranibizumabforlarge,serouspigmentepithelialdetachmentsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.Eye25:1034-1038,20117)ChoM,BarbazettoIA,FreundKB:Refractoryneovascularage-relatedmaculardegenerationsecondarytopoly(146) poidalchoroidalvasculopathy.AmJOphthalmol148:70-78,20098)StangosAN,GandhiJS,Nair-SahniJ:Polypoidalchoroidalvasculopathymasqueradingasneovascularage-relatedmaculardegenerationrefractorytoranibizumab.AmJOphthalmol150:666-673,20109)BresslerNM;TreatmentofAge-RelatedMacularDegenerationwithPhotodynamicTherapy(TAP)StudyGroup:Photodynamictherapyofsubfovealchoroidalneovascularizationinage-relatedmaculardegenerationwithverteporfin:two-yearresultsof2randomizedclinicaltrials-tapreport2.ArchOphthalmol119:198-207,200110)JapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial(JAT)StudyGroup:PhotodynamictherapywithverteporfininJapanesepatientswithsubfovealchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration(AMD):resultsoftheJapaneseAMDTrial(JAT)extension.JpnJOphthalmol52:99-107,200811)TsuchiyaD,YamamotoT,KawasakiRetal:Two-yearvisualoutcomesafterphotodynamicinage-relatedmaculardegenerationpatientswithorwithoutpolypoidalchoroidalvasculopathylesions.Retina29:960-965,200912)GomiF,OhjiM,SayanagiKetal:One-yearoutcomesofphotodynamictherapyinage-relatedmaculardegenerationandpolypoidalchoroidalvasculopathyinJapanesepatients.Ophthalmology115:141-146,200813)日本ポリープ状脈絡膜血管症研究会:日本ポリープ状脈絡膜血管症の診断基準.日眼会誌109:417-427,200514)KohA,LeeWK,ChenLJetal:EVERESTstudy:efficacyandsafetyofverteporfinphotodynamictherapyincombinationwithranibizumaboraloneversusranibizumabmonotherapyinpatientswithsymptomaticmacularpolypoidalchoroidalvasculopathy.Retina32:14531464,201215)AkazaE,YuzawaM,MoriR:Three-yearfollow-upresultsofphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy.JpnJOphthalmol55:39-44,201116)WakabayashiT,GomiF,SawaMetal:Intravitrealbevacizumabforexudativebranchingvascularnetworksinpolypoidalchoroidalvasculopathy.BrJOphthalmol96:394-399,201217)SaitoM,IidaT,KanoM:Intravitrealranibizumabforpolypoidalchoroidalvasculopathywithrecurrentorresidualexudation.Retina31:1589-1597,201118)TatarO,AdamA,ShinodaKetal:ExpressionofVEGFandPEDFinchoroidalneovascularmembranesfollowingverteporfinphotodynamictherapy.AmJOphthalmol142:95-104,200619)TanoY;OphthalmicPDTStudyGroup:GuidelinesforPDTinJapan.Ophthalmology115:585-585.e6,2008***(147)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013281

視神経乳頭を含んで光線力学的療法を施行したポリープ状脈絡膜血管症の1例

2013年1月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(1):117.121,2013c視神経乳頭を含んで光線力学的療法を施行したポリープ状脈絡膜血管症の1例矢野香*1張野正誉*1富永明子*1越智亮介*1山岡青女*2喜田照代*3*1淀川キリスト教病院眼科*2福岡青州会病院眼科*3大阪医科大学付属病院眼科ACaseofPeripapillaryPolypoidalChoroidalVasculopathyTreatedwithPhotodynamicTherapyIncludingOpticDiscKaoriYano1),SeiyoHarino1),AkikoTominaga1),RyosukeOchi1),SeijyoYamaoka2)andTeruyoKida3)1)DepartmentofOphthalmolgy,YodogawaChristianHospital,2)3)DepartmentofOphthalmolgy,OsakaMedicalUniversityDepartmentofOphthalmolgy,FukuokaSeisyuukaiHospital,目的:傍乳頭部のポリープ状脈絡膜血管症に対し,視神経乳頭を含んだ領域に光線力学的療法を施行した症例の報告.症例:69歳の男性が1カ月前からの左眼の変視にて来院した.所見:矯正視力は左眼0.3,右眼1.0で,左眼視神経乳頭近傍に橙赤色隆起病巣,網膜下出血,硬性白斑を認めた.インドシアニングリーン蛍光眼底造影にて視神経乳頭近傍にポリープ状病巣による過蛍光部位を認め,ポリープ状脈絡膜血管症と診断した.光線力学的療法を施行し,治療3カ月後矯正視力1.0に回復し,また視神経症の発症も認めなかった.治療から24カ月後において,再発を認めなかった.結論:視神経乳頭を含む光線力学的療法を行い,合併症なく経過良好である1例を経験した.Purpose:Toreportacaseofperipapillarypolypoidalchoroidalvasculopathy(PCV)treatedwithphotodynamictherapy(PDT)includingtheopticdisc.Patient:A69-year-oldmalehadmetamorphopsiaofhislefteye,ofonemonth’sduration.Best-correctedvisualacuity(BCVA)ofhislefteyewas0.3;righteyewas1.0.HehadperipapillaryPCVwithretinalhemorrhageandhardexudates.Indocyaninegreenangiographyshowedhyperfluorescenceneartheopticdisc.BCVAimprovedto1.0at3monthsafterPDTtreatment;therewerenosignsofopticneuropathy.Weobservednosignsofrecurrenceat24months.Conclusion:NocomplicationsappearedinacaseofPCVtreatedwithPDTincludingopticdisc.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(1):117.121,2013〕Keywords:ポリープ状脈絡膜血管症,傍乳頭病変,光線力学的療法.polypoidalchoroidalvasculopathy,peripapillarylesion,photodynamictherapy.はじめに光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)はわが国で2004年5月に認可されて以降,中心窩下に脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)やポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)を有する加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の治療として用いられている.現在,PDTの照射範囲はフルオレセイン蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FA)で最大病変径(GLD)を決定し,それに500μmを加えた治療スポットにレーザーを照射することがガイドラインで推奨されている.最大病変径が5,400μm以下,治療スポットの鼻側縁端は視神経乳頭の側頭側縁端から200μm以上離れた位置とすることが標準的であるが,視神経乳頭に病変が近い場合は,照射範囲が乳頭にかかってどこに照射するか迷うこともある.これまで,視神経乳頭を含んで照射するのは禁忌とされていたが,Bernsteinらは,視神経乳頭を含んでPDTを施行した加齢黄斑変性の7例2)について,またSchmidt-Erfurthらは傍視神経乳頭部血管腫に対し視神経乳頭内の中心動脈を含まずPDTを施行し視神経障害を認めなかった例を報告し〔別刷請求先〕矢野香:〒540-0008大阪市中央区大手前1丁目5番34号大手前病院眼科Reprintrequests:KaoriYano,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OtemaeHospital,1-5-34Otemae,Cyuo-ku,OsakaCity540-0008,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(117)117 ている3).そこで今回,筆者らはポリープ状病巣が視神経乳頭に近く,視神経乳頭を含む領域をPDTの照射範囲に設定し治療を行ったが,明らかな視神経障害は認めず経過良好であった1例を経験したので報告する.I症例患者:69歳,男性.主訴:左眼変視.現病歴:2008年9月初旬頃より左眼の変視を自覚し,2007年10月14日近医を受診したところ,黄斑部近傍の出血を指摘され淀川キリスト教病院紹介となった.既往歴:痛風があり内服治療中.嗜好歴:40年間1日20本の喫煙.初診時所見:視力は右眼0.6(1.0×sph+0.5D(cyl.1.25DAx130°),左眼0.2(0.3×sph+1.25D(cyl.1.0DAx70°).眼圧は右眼17mmHg,左眼14mmHg.前眼部は著変なく,中間透光体に両眼軽度皮質白内障を認めた.眼底(図1)は右眼は著変なし,左眼に視神経乳頭の耳側上方に橙赤色隆起病巣,黄斑の上方と下方に網膜下出血,その出血の上方に硬性白斑を認めた.FAの後期像にて視神経乳頭耳側から上方に接する過蛍光と蛍光漏出を認めた(図2).インドシアニングリーン蛍光眼底造影(indocyaninegreenangiography:IA)にて過蛍光部位をポリープ状病巣と判断し,傍視神経乳頭部のPCVと診断した(図2).光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)にて橙赤色隆起病巣に一致するポリープ状病巣の急峻な隆起とその周囲の滲出性網膜.離を認めた(図3).経過:中心窩外のポリープ状脈絡膜血管症で,レーザー光凝固の適応も考えられたが,乳頭に接している病変で,乳頭や乳頭黄斑線維束の障害が危惧されたことと,PCVに対するPDTの有効性がほぼ確立されていたことから,PDTの施行を考慮した.そして,患者本人と家族に,ガイドラインとは異なる照射方法であることと,視神経への影響から視野へ障害がでる可能性があること,視力の低下が起こる可能性があることを丁寧に説明し,十分なインフォームド・コンセントを得た.2008年11月17日PCVに対しPDTを施行した.abcd図1初診時の眼底写真とPDT治療後の眼底写真a:初診時.橙赤色の隆起性の病巣と眼底出血を認める.b:PDT3カ月後.橙赤色病巣の縮小を認めるが,硬性白斑が増加した.c:PDT6カ月後.病巣の消失,出血の消失を認める.d:PDT18カ月後.再発を認めない.118あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(118) ababcd図2蛍光眼底造影写真所見a:初診時FA後期8分.b:初診時IA後期15分.視神経乳頭に接して過蛍光を認めた.c:PDT3カ月後FA後期10分.d:PDT3カ月後IA後期8分.過蛍光部位の消失を認めた.出血によるブロックも減少した.abdec図3光干渉断層計所見a:初診時.ポリープ病巣(灰色矢印)および滲出性網膜.離(SRD:白色矢印)を認めた.b:PDT1カ月後.c:PDT3カ月後.PEDおよびSRDの消失を認めた.d:PDT6カ月後.e:PDT18カ月後.(119)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013119 図4PDTデザイン病変に500μmのマージンをとりPDTスポットサイズ(白色矢印)を決定した.GLD3,641μm.PDTスポットサイズ4,600μm.ガイドラインに沿って,ベルテポルフィンを6mg/m2(体表面積)を10分間かけて静脈投与し,薬剤投与から15分後に83秒間レーザー光を照射した.最大病変部直径(GLD)は3,641μmであり,500μmのマージンをとり治療スポットサイズをFAでの漏出部位にて決定した(図4).治療スポットサイズは直径4,600μmであり,視神経乳頭を75%含んでの照射となった.PDT1カ月後に左眼矯正視力は0.5に,3カ月後には視力は1.0と回復した.眼底所見ではPDT3カ月後,硬性白斑は依然認めたが,網膜下出血の減少,橙赤色隆起病巣の縮小を認め,6カ月後には橙赤色隆起病巣の消失および,網膜下出血も消失した.18カ月後も再発を認めなかった.IAにて,PDT3カ月後には治療前に認めていたポリープ状病巣の過蛍光は消失した.また,OCT(図3)にてPDT3カ月後,滲出性網膜.離の消失およびポリープ状病巣の平坦化を認め,6カ月後には消失した.18カ月後も再発なく経過した.PDT後24カ月経過した現在も左眼矯正視力1.0を維持し,再治療を必要としていない.今回視神経を含みレーザー照射を行ったため,視神経症発症の可能性を考慮し,PDT後視力改善を認めた段階で視神経に対する評価として,PDT17カ月後にGoldmann視野検査(Goldmannperimeter:GP)を行った(図5).ポリープ状病巣に一致して相対暗点を認めるが,視神経症で一般的に認める中心暗点やMariotte盲点の拡大といった異常所見は認めなかった.また,限界フリッカー値(cirticalfusionfrequency:CFF)は右36Hz,左37Hzと左右差なく正常範囲内であった.120あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013図5PDT17カ月後のGoldmann視野検査病変に一致して相対暗点を認めるが,中心暗点やMariotte盲点の拡大はない.II考按PCVには視神経乳頭近傍に発生するものと黄斑部に発生するものがある.わが国では黄斑部に生じるものが多いが,欧米では視神経乳頭近傍に生じるものが多い1,4,5).本症例は,ポリープ状病巣が視神経乳頭に接しており,PDTガイドラインに沿って治療スポットサイズを決定すると,必ず視神経乳頭が含まれるため,やむをえず視神経乳頭を含んだ照射となった.ガイドラインでは乳頭を含んでPDTを施行することは認められていないが,Bernsteinらは視神経乳頭を含んでPDTを施行した加齢黄斑変性の7例について,全例でPDT後の視神経障害を認めず,相対的入力瞳孔反射異常(RAPD)は陰性,視野障害は認めなかったと報告している2).また,Schmidt-Erfurthらは傍視神経乳頭部血管腫に対し視神経乳頭内の中心動脈を含まずPDTを施行し視神経障害を認めなかった例を報告している3).また,視神経乳頭近傍の病変に対するPDTの照射方法として筆者らのとった照射方法以外に,以下のような報告がある.Rosenblattらは,傍視神経乳頭部に脈絡膜新生血管を認める加齢黄斑変性の5眼に対し視神経乳頭から125μm離して,すべての病変が照射されるように照射野を3つのパートに分け,各エリアに30秒(18J/cm2)照射する方法で視神経への照射を回避し,平均10カ月の経過観察期間内に視神経傷害を認めなかったと報告している6).また,Wachtlinらは巨大脈絡膜血管腫に対し,腫瘍中心の周りにPDTスポットを一定速度で回転させ,視神経を照射野に含めず,また照射野すべてに均等にPDTを行うことができたと報告している7).(120) 本症例でも視神経への障害の判定のために施行したGP・CFFで異常を認めなかった.GPの暗点は,視神経の異常ではなく,初めにPCVがあった部位に相当すると考えられた.しかし,わずかな異常が検査結果に現れなかった可能性もあるので,今回は施行できなかったが,視神経に対する退行性変性の有無を観察するため,OCTで視神経線維厚もしくはGCC(ganglioncellcomplex)の測定も有用であると思われる.今回の症例は,一度のPDTで再発することなく良好な視力を得たが,もし再発した場合には,何回も繰り返し視神経を含んでPDTを行うことは推奨できない.今回の症例では承認前で使用することができなかった抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬であるラニビズマブ(ルセンティスR)は2009年4月より使用可能となっている.今回視神経乳頭への照射で視神経への障害は認められなかったが,今後同様の症例があった場合,初回治療はルセンティスRを選択するほうがよいかもしれない.投稿にあたり,貴重なご意見を賜りました市立豊中病院眼科,佐柳香織先生に厚く御礼申し上げます.文献1)YannuzziLA,CiardellaA,SpaideRFetal:Theexpandingclinicalspectrumofidiopaticpolypoidalchoroidalvasculopathy.ArchOphthalmol115:478-485,19972)BernsteinPS,HornRS:Verteporfinphotodynamictherapyinvolvingtheopticnerveforperipapillarychoroidalneovascularization.Retina28:81-84,20083)Schmidt-ErfurthUM,KusserowC,BarbazettoIAetal:Benefitsandcomplicationsofphotodynamictherapyofpapillarycapillaryhemangiomas.Ophthalmology109:1256-1266,20024)ShoK,TakahashiK,YamadaHetal:Polypoidalchoroidalvasculopathy:incidence,demographicfeatures,andclinicalcharacteristics.ArchOphthalmol121:1392-1396,20035)MarukoI,IidaT,SaitoMetal:Clinicalcharacteristicsofexudativeage-relatedmaculardegenerationinJapanesepatients.AmJOphthalmol144:15-22,20076)RosenblattBJ,ShahGK,BlinderK:Photodynamictherapywithverteporfinforperipapillarychoroidalneovascularization.Retina25:33-37,20057)WachtlinJ,SpyridakiM,StrouxA:TherapyforperipapillarylocatedandlargechoroidalhaemangiomawithPDT‘paint-brushtechnique’.KlinMonblAugenheilkd226:933-938,2009***(121)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013121