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糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬硝子体注射とマイクロパルスレーザー閾値下凝固併用12カ月の治療成績

2017年6月30日 金曜日

《第22回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科34(6):883.887,2017c糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬硝子体注射とマイクロパルスレーザー閾値下凝固併用12カ月の治療成績高綱陽子*1岡田恭子*1大岩晶子*1山本修一*2*1千葉労災病院眼科*2千葉大学大学院医学研究院眼科学E.cacyof12Months’Anti-VEGFDrugIntravitrealInjectionCombinedwithSubthresholdMicropulseLaserPhotocoagulationforDiabeticMacularEdemaYokoTakatsuna1),KyokoOkada1),ShokoOiwa1)andShuichiYamamoto2)1)DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandvisualscience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:糖尿病黄斑浮腫(DME)に対して,抗VEGF薬硝子体内注射にマイクロパルスレーザー閾値下凝固(SMLP)を併用した治療成績を検討した.対象および方法:対象は千葉労災病院にてDMEと診断され,ラニビズマブまたはアフリベルセプト硝子体注射とSMLPを併用し,12カ月以上経過観察できた11人12眼.平均年齢63.3歳.平均HbA1C6.7%.各症例の視力(logMAR換算)と中心窩網膜厚(CRT)について,治療前および1,3,6,12カ月後について後ろ向きに検討した.結果:1年間の硝子体注射の回数は平均2.5回で,初回治療の平均3.1カ月後にSMLPを施行した.視力は治療前0.33から,1,3,6,12カ月後はそれぞれ0.26,0.23,0.17,0.21となり,6,12カ月後では有意に改善した.CRTは,治療前500.6μmから,1,3,6,12カ月後でそれぞれ365.3,427.0,320.9,372.6μmとなり,1,6,12カ月後では有意に改善した.結論:DMEに対する抗VEGF薬注射は,SMLPとの併用により,少ない注射回数でも12カ月にわたり治療効果が維持できる可能性が示唆された.Purpose:Toassessthee.cacyofintravitrealinjectionofanti-VEGFdrugcombinedwithsubthresholdmicropulselaserphotocoagulation(SMLP)fordiabeticmacularedema(DME).Methods:Inaretrospectivecaseseries,12eyesof11patientswithDMEwhoreceived0.5mganti-VEGFdrugs(ranibizumabora.ibercept)com-binedwithSMLPwerefollowedupfor12months.Best-correctedvisualacuity(BCVA)andopticalcoherencetomography-determinedcentralretinalthickness(CRT)wereevaluatedbeforeand1,3,6and12months(M)afterthe.rstanti-VEGFdruginjection.Results:Thenumberofanti-VEGFdruginjectionsaveraged2.5times.SMLPwasperformedafter3.1months(averaged)fromthe.rstinjection.BaselineBCVAandCRTwere0.33and500.6μm,respectively.Atmonths1and3,BCVAdidnotshowsigni.cantdi.erence(1M:0.26,3M:0.23),thoughatmonths6and12itshowedsigni.cantdi.erence(6M:0.17,12M:0.21).Atmonths1,6and12,CRTshowedsigni.cantdi.erence(1M:365.3,6M:320.9,12M:372.6μm).Atmonth3,CRTdidnotshowsigni.cantdi.erence(3M:427.0μm).Conclusion:Anti-VEGFdrugtherapycombinedwithSMLPise.ectiveforDMEdur-ing12months,evenatthelowerlevelsofanti-VEGFdruginjection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(6):883.887,2017〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,抗VEGF薬,ラニビズマブ,アフリルベセプト,マイクロパルスレーザー閾値下凝固.diabeticmacularedema,anti-VEGFdrugs,ranibizmab,a.ibercept,subthresholdmicropulselaserphotocoagula-tion.はじめに(vascularendotherialgrowthfactor:VEGF)が,高濃度に糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)の病態存在していることが解明され1),DMEにおいて,VEGFが解明が進み,DME患者の硝子体内では,血管内皮増殖因子重要な因子となっていることが明らかになった.また,多く〔別刷請求先〕高綱陽子:〒290-0003千葉県市原市辰巳台東2-16千葉労災病院眼科Reprintrequests:YokoTakatsuna,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2-16Tatsumidai-higashi,Ichihara,Chiba290-0003,JAPANの大規模臨床試験により,抗VEGF薬のDMEに対する良好な治療成績が示されてきた.これまでのレーザー治療やステロイドと比べ,効果発現までの期間は短く,非常に優れた治療効果が示されてきた2.4).そのため,わが国におけるDMEに対する治療は,これまでのレーザー治療,硝子体手術,ステロイド治療から,2014年に発売された抗VEGF薬硝子体注射が間違いなく主流になってきたといえる.しかしながら,多くの大規模臨床試験の示す投与回数は年間8回もの繰り返し投与が必要とされ,頻回の外来受診とその高い薬剤費用が患者,医療者の双方に次第に大きな負担となっているのではないかという側面も見え始めている.また,加齢黄斑変性では,抗VEGF薬長期投与の結果,色素上皮の萎縮につながる可能性も指摘されている5).一方,筆者らが以前から取り組んできたマイクロパルスレーザー閾値下凝固(sub-thresholdmicropulselaserphotocoagulation:SMLP)6.8)は,レーザー連続照射時間がきわめて短くなることにより,温度上昇が網膜色素上皮に限局し,側方にも広がらない特徴をもつもの9)で,副作用の少ない低侵襲な治療である.視力は維持のみで,単独治療としてはまだ十分とはいえなかったが,中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)は12カ月持続して改善できた7).これまでの大規模臨床試験では,レーザー治療と抗VEGF薬との併用効果はないとされていた3)が,LavinskyらはDMEに対するレーザー治療として,通常の連続波によるレーザー治療と比較して,マイクロパルスレーザーの優位性を示している10).今回,抗VEGF薬をまず投与して浮腫を消退させ,その後に,SMLPを併用することにより抗VEGF薬硝子体注射回数を減らしたうえで,よりよい治療成績が期待できるのではないかと考えた.今回,当院を受診したDME患者で,抗VEGF薬注射とSMLP併用治療に同意が得られ,12カ月経過観察できた症例について,その治療成績を後ろ向きに検討した.I対象および方法対象は2014年7月.2015年3月の期間に千葉労災病院にて,DMEと診断され,抗VEGF薬硝子体注射とSMLP併用療法に同意した患者.以下のものは,対象から除外した.すべての期間で抗VEGF薬投与の既往があるもの,硝子体手術既往,3カ月以内にDMEに対するレーザーや薬剤投与歴のあるもの,HbA1C10%以上のコントロール不良例.抗VEGF薬は,ラニビズマブまたはアフリルベセプトを使用し,硝子体注射を行った.術前の20%以上,または300μm以下になるまでは1カ月ごとに抗VEGF薬の注射を行い,浮腫の改善が得られたのちに,SMLPを施行した.SMLPは,レーザー瘢痕がぎりぎり見える閾値を決めたあとは,200ms,10%dutycycle,200μm,閾値の2倍のパワー(実際には120.170mW)で,浮腫の残存している領域にレーザー照射を行った.同時に,浮腫の原因となっていると考えられる毛細血管瘤(microaneurysm:MA)がある場合には,連続波モードで,MAがかろうじて白くなる程度のパワーで直接凝固した.1カ月ごとに経過観察を行い,100μm以上の浮腫の再発,2段階以上の視力の低下があった場合には,抗VEGF薬の再投与を勧めた.SMLP施行は原則1回とした.その後12カ月以上経過観察できた症例の視力(logMAR換算),CRTについて,治療前,1,3,6,12カ月後について後ろ向きに検討した.統計処理は,Wil-coxon順位和検定による.II結果11人12眼が対象である.平均年齢63.3歳.平均HbA1C6.7%.1年間の抗VEGF薬硝子体注射の回数は平均2.5回で,初回治療の平均3.1カ月後にマイクロパルスレーザーを施行した.マイクロパルスレーザーは全例が1回のみの施行であった.視力(logMAR換算)は治療前0.33から,1カ月後0.26,3カ月後0.23,6カ月後0.17,12カ月後0.21となり,術後6,12カ月では有意に改善した(p<0.05)(図1).logMAR0.2以上の変化で3カ月後には,悪化が1眼(8%),改善が4眼(33%),不変が7眼(58%)であったが,12カ月後には改善が4眼(33%),不変が8眼(67%)で,悪化はなかった.CRTは,治療前500.6μmから,1カ月後365.3μm,3カ月後427.0μm,6カ月後320.9μm,12カ月後372.6μmとなり,3カ月後でやや再燃傾向を認めたが,1,6,12カ月後では,有意に改善した(1カ月後p<0.05,6,12カ月後p<0.01)(図2).CRT20%以上の変化で,3カ月後では,改善7眼(58%),不変4眼(33%),増悪1眼(8%)であったが,12カ月後では,改善6眼(50%),不変6眼(50%)で,増悪はなかった.代表的な症例を示す.視力は小数視力で表示する.症例1(図3):64歳,女性.治療前視力(0.3),CRT601μm.ラニビズマブ硝子体注射後の1カ月後の視力は(0.4),CRT217μmと改善がみられたので,SMLPを施行した.3カ月後の視力は(0.5),CRT395μm.3カ月後でやや再燃はあったが,6カ月後の視力は(0.6),CRT242μmと改善がみられ,12カ月後まで,視力は(0.5),CRT258μmと安定していた.6カ月後,12カ月後の眼底では,レーザーの瘢痕は認められない.症例2(図4):57歳,男性,右眼.治療前視力(0.5),CRT479μm.ラニビズマブ硝子体注射1回施行後に,CRT273μmと改善し,SMLPを施行した.3カ月後の視力は(0.15),CRT725μmと,視力,CRTが,ともに著明に増悪した.その後,2回のアフリルベセプト硝0.45600*p<0.05,**p<0.010.4*5004003002000.1中心窩網膜厚(μm)0.050before1M3M6M12M期間図1視力(logMAR)の経過治療前,1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後の視力(logMAR).治療前0.33,1カ月後0.26,3カ月後0.23,6カ月後0.17,12カ月後0.21となり,6,12カ月後では有意に改善した(p<0.05).1000before1M3M6M12M期間図2中心窩網膜厚の経過中心窩網膜厚(CRT)は,治療前500.6から,1カ月後365.3,3カ月427.0,6カ月320.9,12カ月372.66μmとなり,1,6,12カ月後では,有意に改善した(1カ月後p<0.05,6,12カ月後ではp<0.01).BeforeIVR1Before1Mマイクロパルスレーザ3M6M6M12M12M図3症例1(64歳,女性)治療前視力(0.3),CRT601μm.ラニビズマブ硝子体注射(IVR)を1回施行後に,マイクロパルスレーザー閾値下凝固を施行した.IVR1カ月後の視力は(0.4),CRT217μm.3カ月後の視力は(0.5),CRT395μm.6カ月後の視力は(0.6),CRT242μm.12カ月後の視力は(0.5),CRT258μm.6カ月後,12カ月後ともに眼底にはレーザーによる瘢痕は認められない.子体注射を行い,6カ月後の視力は(0.7),CRT261μm.1212カ月後の視力は(1.0),CRT305μmと維持ができている.カ月後の視力は(0.5),CRT231μmとなった.症例2(図5):57歳,男性,左眼.III考按図4で示した症例2の左眼である.右眼の初回治療から約DMEのメカニズムとして,まず,高血圧,高血糖,高脂6カ月後に治療開始した.血症の全身因子が重要である.それらを基盤として,低酸治療前視力(0.7p),CRT597μm.アフリルベセプト硝素,酸化ストレス,炎症といった機転より,VEGFをはじ子体注射2回施行後に,CRT288μm,視力(1.0)と改善し,めとするさまざまサイトカインが放出され,血液網膜柵破SMLPを施行した.6カ月後の視力は(1.0),CRT304μm,綻,血管透過性亢進の結果,DMEが発症すると説明されてBefore1MIVR13MIVA翌日マイクロパルスレーザIVA16MIVA212MBefore図4症例2(57歳,男性,右眼)治療前視力(05),CRT479μm.ラニビズマブ硝子体注射(IVR)1カ月後に,視力(05),CRT273μmと改善が得られ,マイクロパルスレーザー閾値下凝固を施行した.3カ月後の視力は(0.15),CRT725μmと著しく増悪した.その後,2回のアフリルベセプト硝子体注射(IVA)を施行し,6カ月後の視力は(0.7),CRT261μm.12カ月後の視力は(0.5),CRT231μmと安定している.BeforeIVA11WIVA21MBeforeマイクロパルスレーザ3M6M12M図5症例2(57歳,男性,左眼)治療前視力(0.7p),CRT579μm.アフリルベセプト硝子体注(IVA)1カ月ごとに2回施行後に,マイクロパルスレーザーを施行した.IVA初回の1カ月後,視力(0.7),CRT298μm.3カ月後の視力は(1.0),CRT288μm.6カ月後の視力は(1.0),CRT304μm.12カ月後の視力は(1.0),CRT305μmと安定している.いる11)が,VEGFは1990年代より血管新生や血管透過性亢進に大きく関与し,DMEで重要なサイトカインであると注目されてきた.マイクロパルスレーザーの奏効機序には諸説があるが,筆者らはこれまでの治療経験をもとに,SMLPは色素上皮を刺激することにより,色素上皮のポンプ機能を賦活化させ,網膜内浮腫を改善させるのではないかという作用機序を支持してきた.また,これまでに810nm波長の機種において,視力は維持にとどまり,有意な改善は示せなかったが,CRTは12カ月にわたる持続した有意な改善を示すことができ7),即効性には欠けるが,持続性があると考えていた.また,577nm波長の新しい機種においては,577nmの波長特性を生かし,SMLP治療を行う際に,浮腫の原因と考えられるMAがあれば,同時に治療を行うことも簡単にできるようになり,照射1カ月後では視力,CRTともに有意差がなかったが,3カ月では,CRTは有意に改善した8).わが国において,2014年にラニビズマブ,アフリルベセプトにDMEへの適用が認可され,その有効性は認められたが,頻回投与が次第に問題となってきた.このような状況のなかで,筆者らは,抗VEGF薬とSMLPの併用療法を行えば,よりよい臨床効果とともに,患者負担の軽減につながるのではないかと考えた.今回示した治療成績では,3カ月後にCRTが増悪しているが,抗VEGF薬注射回数が平均2.5回では,効果が不十分であった可能性と,症例1,2が示すように,SMLP施行直後の増悪であった可能性が考えられる.SMLPは低侵襲レーザーで悪化はないとの報告が多いが,これまでにSMLP施行後,漿液性.離(serousretinaldetachment:SRD)があった症例で,SMLP施行1カ月後に増悪した例を経験している6).今回の症例2の右眼もSRDを伴うタイプであり,SMLP施行直後にCRTの著明な増悪があったので,SRD型では,慎重に対応したほうがよいと考えられる.筆者らのこれまでのSMLP単独の12カ月の治療成績7)では,視力は維持であったのに対し,今回の併用療法では,視力についても有意な改善が得られ,SMLPの単独療法を上回る結果となった.今後のDME治療において,SMLPは抗VEGF薬とは作用機序が異なる治療法であり,抗VEGF薬注射数が大規模臨床研究と比較して,より少ない本数でも,治療効果が維持できる可能性を示すことができたものではないかと考える.本研究は症例数も少なく,後ろ向き研究である.今後は,DMEの治療として,従来の連続波によるレーザーではなく,より低侵襲であるSMLPを用いて,抗VEGF薬との併用の効果を検討することが,今後のDME治療の方向性を考えるうえで重要ではないかと考え,継続して取り組んで行きたいと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothe-rialgrowthfactorinocular.uidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NewEnglJMed331:1480-1487,19942)MitchellP,BandelloF,Schmidt-ErfurthUetal;RESTOREStudyGroup:TheRESTOREstudy:ranibizumabmono-therapyfordiabeticmacularedema.Ophthalmology118:615-625,20113)BrownDM,NguyenQD,MarcusDMetal;RIDEandRISEResearchGroup:Longtermoutcomesofranibi-zumabtherapyfordiabeticmacularedema:the36-monthresultsfromtwophaseIIItrials:RISEandRIDE.Ophthalmology120:2013-2022,20134)KorobelnikJF,DoDV,Schmidt-ErfurthUetal:Intravit-reala.iberceptfordiabeticmacularedema.Ophthalmolo-gy121:2247-2254,20145)GrunwaldJE,DanielE,HuangJetal:Riskofgeographicatrophyinthecomparisonofage-relatedmaculardegen-erationtreatmentstrials.Ophthalmology121:150-161,20146)高綱陽子,中村洋介,新井みゆきほか:糖尿病黄斑浮腫に対するマイクロパルス閾値下凝固6カ月の治療成績.眼臨101:848-852,20077)TakatsunaY,YamamotoS,NakamuraYetal:Long-termtherapeutice.cacyofthesubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacularedema.JpnJOphthalmol55:365-369,20118)高綱陽子,水鳥川俊夫,渡辺可奈ほか:糖尿病黄斑浮腫に対する577nmマイクロパルスレーザー光凝固装置の治療経験.あたらしい眼科30:1445-1449,20139)PankratovMM:Pulsedeliveryoflaserenergyineperi-mentaltheramalretinalphotocoagulation.ProcSocPhotoOptInstrumEng1202:205-213,199010)LavinskyD,CardillioJA,MeloLAJretal:RandomizedclinicaltrialevaluatingETDRSversusnormalorhighdensitymicropulsephotocoagulationfordiabeticmacularedema.InvestOphthalmolVisSci52:4314-4324,201111)DasA,McGuirePG,RangasamyS:Diabeticmacularedema:Pathophysiologyandnoveltherapeutictargets.Ophthalmology122:1375-1394,2015***

糖尿病黄斑浮腫に対する577nmマイクロパルスレーザー光凝固装置の治療経験

2013年10月31日 木曜日

《第18回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科30(10):1445.1449,2013c糖尿病黄斑浮腫に対する577.nmマイクロパルスレーザー光凝固装置の治療経験高綱陽子*1水鳥川俊夫*1渡辺可奈*1山本修一*2*1千葉労災病院眼科*2千葉大学大学院医学研究院眼科学577.nmSubthresholdMicropulseLaserPhotocoagulationforDiabeticMacularEdemaYokoTakatsuna1),ToshioMidorikawa1),KanaWatanabe1)andShuichiYamamoto2)1)DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:直接凝固やステロイドTenon.下注射(STTA)を行っても改善の得られなかった糖尿病黄斑浮腫について,577nmマイクロパルスレーザー光凝固装置を用いて,追加治療を行いその治療成績を後ろ向きに検討した.対象および方法:2011年11月14日から2012年2月14日までに,マイクロパルスレーザー(IRIDEX社,IQ577)による閾値下凝固(SMLP)を施行した糖尿病黄斑症16例18眼.先行治療として毛細血管瘤直接凝固(MAPC)とSTTAの両方施行7眼,MAPCのみ施行7眼,STTAのみ施行4眼.マイクロパルス閾値下凝固を施行したときに残存した毛細血管瘤があれば,MAPC同時施行したもの4眼が含まれる.SMLP施行前,術後1カ月,3カ月に視力と中心窩網膜厚を測定した.視力は小数視力をlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)に換算した.結果:平均年齢63.6歳.平均ヘモグロビン(Hb)A1C6.4%.視力は術前0.37,術後1カ月0.36,3カ月0.34で有意差はなかった.中心窩網膜厚は,術前419μm,術後1カ月367μm,3カ月360μmで3カ月で有意に減少した.結論:577nmSMLPは,糖尿病黄斑浮腫に対し,3カ月の経過で視力を維持し,中心窩網膜厚を改善させた.Purpose:Toinvestigatethee.cacyof577nmsubthresholdmicropulselaserphotocoagulation(SMLP)fordiabeticmacularedema(DME).Methods:Reviewedwere18eyesof16patientswithDMEwhohadundergoneprevioustherapy:7hadbothdirectphotocoagulationandsub-Tenontriamcinoloneacetonideinjection(STTA),7haddirectphotocoagulationonlyand4hadSTTA.Residualmicroaneurysmsmightbefound,directphotocoagula-tionwasaddedtotheSMLP.Opticalcoherencetomography-determinedfovealthickness(FT)andbest-correctedvisualacuity(BCVA)wereevaluatedbeforeandat1and3months(M)afterSMLP.Results:Meanagewas63.6yearsold,meanhemoglobin(Hb)A1Cwas6.4%.BCVAwas0.37(logarithmicminimumangleofresolution:log-MAR)beforeSMLP,and0.36at1Mand0.34at3M.Itwasnotchangedsigni.cantly.FTwas419μmbeforeSMLP,367μmat1Mand360μmat3M;itwasreducedsigni.cantlyafter3M.Conclusion:Itwasfoundthat577nmSMLPforDMEmaintainedVAandimprovedFTat3M.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(10):1445.1449,2013〕Keywords:糖尿病黄斑症,577nm,マイクロパルスレーザー閾値下凝固,毛細血管瘤,直接凝固.diabeticmacu-laredema,577nm,subthresholdmicropulselaserphotocoagulation,microaneurysm,directphotocoagulation.はじめに糖尿病黄斑症は,視力低下をひき起こし,日常生活の質に大きな影響を与える疾患である.レーザー光凝固が視力低下のリスクを軽減させることは,1985年EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)ResearchGroupにより報告され1),毛細血管瘤への直接凝固や,格子状凝固が行われてきた.しかし,通常のレーザーによる黄斑部の治療においては,その後の凝固斑の拡大や線維性増殖など,黄斑に変性をきたし,視力低下につながるリスクも指摘されている.そのようななかで,レーザー照射時間をきわめて短く〔別刷請求先〕高綱陽子:〒290-0003市原市辰巳台東2-16千葉労災病院眼科Reprintrequests:YokoTakatsuna,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2-16Tatsumidai-higashi,Ichihara,Chiba290-0003,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(101)1445し,パルス状に発振するマイクロパルス閾値下凝固は,色素上皮に限局した凝固で,側方にも広がらず2),瘢痕の残らない低侵襲な黄斑症への治療法として注目されてきた.通常の連続波による凝固では,時間200msの設定では,その200msの間連続してレーザーが発振されているが,マイクロパルスレーザーの時間200ms,15%dutycycleの設定では,200msのなかで0.3msのonと1.7msのo.が連続して繰り返される形となる(0.3ms/2.0ms×100=15%dutycycle).1回のレーザー発振時間は0.3msときわめて短く,十分な休止時間があり,レーザーによる温度上昇は色素上皮に限局するものとなっており,側方にも広がらない.瘢痕がつかないきわめて低侵襲なレーザーとして注目されており,その照射領域は,基本的には従来の格子状凝固と同様に中心窩無血管野内には施行しないものである.筆者らも,これまでにIRIDEX社製810nmの波長をもつ機器を用いて,長期成績をはじめとし,網膜感度や硬性白斑の沈着例に対する治療成績を報告してきた3.6).また,Lavinskyらによる前向きランダム比較試験により,従来の連続波のレーザーに比べて,マイクロパルスレーザーの有効性が示された7)ことにより,黄斑症への低侵襲なレーザーとして注目されている.今回,577nmの波長をもつピュアイエローレーザー光凝固装置IQ577(IRIDEX社)を使用する機会を得た.通常の連続波のレーザーとマイクロパルスレーザーの両方の機能をもつ光凝固装置である.577nmという波長では,酸化ヘモグロビンへの吸収ピークをもち,キサントフィルにはほとんど吸収されないという特徴がある8).このため,黄斑部の毛細血管瘤への直接凝固には効果的な波長と考えられる.そこで,今回筆者らは,ステロイドTenon.下注射(STTA)や毛細血管瘤への直接凝固では効果が得られなかった糖尿病黄斑症を対象に,577nm波長でのマイクロパルス閾値下凝固を行い,このとき,凝固可能な毛細血管瘤があれば,それに対する直接凝固を連続波モードに切り替え,同時に施行する方法で,術後3カ月までの治療成績を中心窩網膜厚と視力を評価することで検討した.I対象および方法2011年11月14日から2012年2月14日までに,千葉労災病院で糖尿病黄斑症に対して,マイクロパルスレーザー(IRIDEX社,IQ577)による閾値下凝固を施行した16例18眼.先行治療として2カ月以上前に毛細血管瘤直接凝固とSTTAの両方施行7眼,直接凝固のみ施行7眼,最短で1カ月以上前にSTTAのみ施行4眼.マイクロパルスレーザーを施行したときに残存した毛細血管瘤があれば,直接凝固同時施行したもの4眼が含まれる.マイクロパルスレーザー閾値下凝固の方法は,先に810nmの機種で用いた方法と基本的には同様である3.6).まず1446あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013は,連続波モードにて,照射径200μm,100msで凝固斑がかすかに認められる閾値を求める.マイクロパルスモードに変更し,閾値の200%のパワーで,15%dutycycle,200msでレーザー照射を浮腫のある領域に行う.今回の凝固斑の間隔は,重ならない程度に間隔を開けずにおいた.マイクロパルスレーザー施行前,術後1カ月,3カ月に視力と中心窩網膜厚(CirrusOCT,CarlZeiss)を測定した.視力は小数視力をlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)に換算した.統計学的解析はWilcoxon順位和検定による.II結果平均年齢63.6±5.9歳.平均ヘモグロビン(Hb)A1C6.4±0.7%.平均視力は術前0.37,術後1カ月0.36,3カ月0.34であり,統計学的有意差はなく経過中視力は維持されていた.logMAR0.2以上の変化で改善1眼,不変18眼,悪化はなかった(表1,図1).中心窩網膜厚は,術前419μm,術後1カ月367μm,3カ月360μmであり,3カ月で有意に減少した.15%以上の変化で改善8眼,不変11眼で悪化はなかった(表1,図4).術後の眼底所見では,経過中,マイクロパルスレーザー閾値下凝固による瘢痕は認められなかった.代表症例を以下に提示する.〔症例1〕63歳,男性.3カ月前に毛細血管瘤への直接凝固の施行歴があるが,浮表1マイクロパルスレーザー治療前後の視力(logMAR)と中心窩網膜厚(μm)の平均値視力(logMAR)p値中心窩網膜厚(μm)p値治療前0.374191カ月0.360.193670.0523カ月0.340.203600.046治療3カ月後(logMAR)1.210.80.60.40.2000.20.40.60.811.2治療前(logMAR)図1視力(logMAR)の散布図(102)腫が改善せず.術前視力(0.7),中心窩網膜厚は375μmであった.光干渉断層計(OCT)で赤く表示された浮腫のある領域にマイクロパルスレーザー閾値下凝固を施行.140mWの出力で,200ms,15%dutycycle,200μmの条件で施行し,同時に残存する毛細血管瘤を連続波モードに切り替え,70mWの出力で,100ms,100μmの条件で施行した.術後3カ月,視力は(0.7)と維持され,中心窩網膜厚は295μmへと減少した(図2).〔症例2〕56歳,女性.中心窩の下耳側に,毛細血管瘤が集積し黄斑浮腫の原因となり,初診時の視力は(0.3),中心窩網膜厚は491μmであった.まず,STTAを行い,ついで毛細血管瘤への直接凝固を施行したが,2カ月後,改善が得られなかったので,浮腫の強い領域にマイクロパルスレーザー閾値下凝固を施行し図2症例1:治療前眼底写真(a),同OCT画像(b),および治療後眼底写真(c)と同OCT画像(d)63歳,男性.術前視力(0.7),中心窩網膜厚375μm.浮腫のある領域にマイクロパルスレーザー(施行範囲は点線で囲まれた領域),残存する毛細血管瘤を連続波モードで直接凝固を施行した.術後3カ月,視力は(0.7)と維持され,中心窩網膜厚295μmへと減少した.図3症例2:治療前眼底写真(a左),同蛍光眼底造影写真(a右)と同OCT画像(b),および治療後眼底写真(c)と同OCT画像(d)56歳,女性.術前視力(0.3),中心窩網膜厚491μm.2カ月前にステロイドTenon.下注射と毛細血管瘤への直接凝固施行後の浮腫遷延例.2回のマイクロパルスレーザーを施行(施行範囲は点線で囲まれた領域)3カ月後は,視力(0.5),中心窩網膜厚346μmと改善が認められた.(103)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131447治療3カ月後(μm)70060050040030020010000100200300400500600700800治療前(μm)図4中心窩網膜厚(μm)の散布図た.反応が不十分と考え,術後1カ月に2回目の照射を行ったところ,その3カ月後には,視力(0.5),中心窩網膜厚346μmと黄斑浮腫の改善が認められた.術後の眼底でマイクロパルスレーザーによる瘢痕は認められない(図3).III考按毛細血管瘤の直接凝固を併用したマイクロパルスレーザー閾値下凝固の治療成績は治療後3カ月において視力は全例で維持され,中心窩網膜厚では有意な改善が得られた(表1).術後3カ月までの成績では,810nmの波長の機種を用いた筆者らのこれまでの報告6)では中心窩網膜厚は504μmから409μmへの有意な減少,同じ日本人を対象とした大越らの報告9)でも,348μmから300μmへの有意な減少が報告されているが,今回の筆者らの治療成績でも中心窩網膜厚は419μmから360μmへと減少し,中心窩網膜厚の有意な改善と視力の維持が示された.これまでの報告は,びまん性浮腫に対する治療成績であり,毛細血管瘤への凝固は併用していないものが多いが,稲垣らは,810nmのマイクロパルスレーザーと,別の装置を用いての毛細血管瘤への直接凝固を併用した治療成績を報告している10).3カ月までの治療成績では,視力は維持以上95%,中心窩網膜厚は443μmから374μmへの改善が示され,毛細血管瘤への直接凝固を併用することにより,マイクロパルスレーザー単独よりも,浮腫の改善効果が高まり,再燃のリスクを減少できるのではないかと述べている.局所性浮腫と考えられる症例においても,毛細血管瘤への直接凝固のみで完全に消退させられるものばかりではなく,マイクロパルスレーザーとの併用も治療戦略として考えるべきではないかと思われる.マイクロパルスレーザーとして使用した場合の810nmの機種と577nmのものとで治療効果の違いについての詳しい報告はまだないと思われる.810nmと577nmの波長の相違については,810nmのほうが深部への到達には有利かもしれないが,メラニンへの吸収は波長が長くなるにつれて減1448あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013衰していくこと8),照射時間がきわめて短いマイクロパルスとしての照射方法が色素上皮をターゲットにするものであり2),今回の成績とあわせても,両者の有効性は総合的には変わりがないものと考えられるが,閾値の設定にあたって,810nmの機種では350.500mWを超えることもあった3,6)が,577nmの今回の機種では,120.200mWの限局した範囲で閾値が決定でき,577nmのほうが閾値を決めやすかった.また,最近の糖尿病黄斑症の治療においては,抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)抗体療法が大変注目されている11).これらの報告ではレーザーとの比較検討を行い,抗VEGF抗体療法の優位性が示されてきたものではあるが,比較したレーザーはマイクロパルスではなく,連続波での凝固である.従来のレーザーとマイクロパルスでの比較においては,密度をつめたマイクロパルスレーザーの優位性が前向きランダム化試験のかたちで報告されている7)ので,今後,抗VEGF抗体療法とマイクロパルスレーザーの比較,併用効果についての検討が必要であろう.特に抗VEGF抗体療法については,繰り返し投与の必要性とそれに伴う高額な医療費や患者の通院負担の問題も懸念される.マイクロパルスレーザーの奏効機序として,マイクロパルスレーザーは色素上皮を刺激して,色素上皮のポンプ機能を賦活化させ,浮腫を軽減させるものではないかと考えてきた3,6).治療効果発現には数カ月の時間を要することもある3.6).一方,抗VEGF抗体などの薬剤では血管透過性亢進の抑制や抗炎症効果により速やかな作用が期待できるが,効果は一過性であり,繰り返し投与の必要性が出てくるものである.それぞれの作用機序を考えながら,マイクロパルスレーザーと毛細血管瘤直接凝固の併用,さらには,ステロイド薬や,抗VEGF抗体療法などの薬剤投与を先行させ,ある程度浮腫が軽減した後にマイクロパルスレーザー閾値下凝固を行えば,よりよい臨床効果とともに患者負担の軽減につながることも期待できるのではないかと考えられる.本検討では,3カ月までの短い期間ではあるが,毛細血管瘤直接凝固を併用した577nmマイクロパルスレーザー閾値下凝固が,黄斑浮腫治療に有効な治療である可能性が示唆された.ただし,マイクロパルスレーザー閾値下凝固施行前に,最短で1カ月という比較的短い期間にSTTAを施行していること,2カ月前に毛細血管瘤への直接凝固を施行しており,先行治療の効果が残存していないとは言い切れないところに問題がある.今後は,先行治療のない症例を対象とするなどして,より長期の経過観察期間をとり検討を重ねていきたいと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし(104)文献1)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyReportNumber1.ArchOphthalmol103:1796-1806,19852)PankratovMM:Pulsedeliveryoflaserenergyinexperi-mentalthermalretinalphotocoagulation.ProcSocPhotoOptInstrumEng1202:205-213,19903)高綱陽子,中村洋介,新井みゆきほか:糖尿病黄斑浮腫に対するマイクロパルス閾値下凝固6カ月の治療成績.眼臨101:848-852,20074)中村洋介,辰巳智章,新井みゆきほか:硬性白斑が集積する糖尿病黄斑浮腫に対するマイクロパルス・ダイオードレーザー閾値下凝固の治療成績.日眼会誌113:787-791,20095)NakamuraY,MitamuraY,OgataKetal:Functionalandmorphologicalchangesofmaculaaftersubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacu-laroedema.Eye24:784-788,20106)TakatsunaY,YamamotoS,NakamuraYetal:Longtermtherapeutice.cacyofsubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacularedema.JpnJOphthalmol55:365-369,20117)LavinskyD,CardilloJA,MeloLAJretal:RandomizedclinicaltrialevaluatingmETDRSversusnormalorhigh-densitymicropulsephotocoagulationfordiabeticmacularedema.InvestOphthalmolVisSci52:4314-4324,20118)MainsterMA:Wavelengthselectioninmacularphotoco-agulation.Tissueoptics,thermale.ects,andlasersys-tems.Ophthalmology93:952-958,19869)OhkoshiK,YamaguchiT:SubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacularedemainJapa-nesepatients.AmJOphthalmol149:133-139,201010)稲垣圭司,伊勢田歩美,大越貴志子:糖尿病黄斑浮腫に対する直接凝固併用マイクロパルス・ダイオードレーザー閾値下凝固の治療成績の検討.日眼会誌116:568-574,201211)MitchellP,BandelloF,Schmidt-ErfurthUetal:TheRESTOREstudy:Ranibizumabmonotherapyorcom-binedwithlaserversuslasermonotherapyfordiabeticmacularedema.Ophthalmology118:615-625,2011***(105)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131449