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マイクロパルス波経強膜毛様体光凝固術の短期成績

2019年8月31日 土曜日

《第29回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科36(8):1078.1082,2019cマイクロパルス波経強膜毛様体光凝固術の短期成績光田緑*1中島圭一*1谷原秀信*2井上俊洋*1*1熊本大学大学院生命科学研究部眼科学分野*2熊本大学医学部附属病院CShort-termResultsofMicropulseTransscleralCyclophotocoagulationMidoriMitsuta1),Kei-IchiNakashima1),HidenobuTanihara2)andToshihiroInoue1)1)DepartmentofOphthalmology,FacultyofLifeSciences,KumamotoUniversity,2)KumamotoUniversityHospitalCマイクロパルス波経強膜毛様体光凝固術(MP-CPC)の国内における実績は少ないため,その成績を検討した.2018年C2.5月にCMP-CPCを施行した連続症例C19例C20眼を対象に,術後C6カ月間の成績について後ろ向きに検討した.平均眼圧と平均緑内障薬剤数は,術前がC32.6±2.1CmmHgとC4.2±0.22,最終受診時がC22.2±1.8CmmHgとC3.4±0.34であった.1日後を除くすべての観察時点で有意な眼圧下降を認めた(p<0.05).術後合併症は,小眼球症であったC1例C2眼でぶどう膜滲出が出現したほかは重篤な合併症は認めなかった.MP-CPCの短期的な眼圧下降効果が確認された.小眼球症に対しては注意が必要と思われる.Weanalyzedtheshort-termresultsofmicropulsetransscleralcyclophotocoagulation(MP-CPC),becausethereisClittleCevidenceCinCJapanCregardingCthisCtherapy.CSix-monthCresultsCforC20CconsecutiveCeyesCofC19CpatientsCwhoCreceivedCMP-CPCCbetweenCFebruaryCandCMayC2018CatCKumamotoCUniversityCHospitalCwereCretrospectivelyCana-lyzed.Meanintraocularpressure(IOP)/meannumberofglaucomadrugswas32.6±2.1CmmHg/4.2±0.22preopera-tivelyand22.2±1.8CmmHg/3.4±0.34at.nalvisit.Postoperatively,meanIOPsigni.cantlydecreasedatallfollow-uppoints(p<0.05)exceptCdayC1,CcomparedCtoCpreoperativeCvalue.CVision-threateningCcomplicationsCwereCnotCobservedexceptinguveale.usionin2eyesof1casewithmicrophthalmos.MP-CPCwase.ectiveinloweringIOPduringashortfollow-upperiod.MicrophthalmosshouldbeaconsiderationwhenMP-CPCisconducted.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(8):1078.1082,C2019〕Keywords:マイクロパルス波,毛様体光凝固術,緑内障,眼圧,ぶどう膜滲出.micropulse,cyclophotocoagula-tion,glaucoma,intraocularpressure,uveale.usion.Cはじめに緑内障の視神経障害および視野障害は,基本的には進行性であり,非可逆的である1).現在,緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧下降である1).保存的な治療で眼圧がコントロールできない症例では,観血的な治療を行う.このうち,毛様体破壊術は毛様体をレーザーにより破壊し,房水産生を抑制することで,眼圧下降を得る術式である1).従来の毛様体破壊術では眼球癆をきたす症例があり2,3)適応症例が限られていた.マイクロパルス波経強膜毛様体光凝固術(micropulseCtransscleralCcyclophotocoagula-tion:MP-CPC)は従来の連続照射とは異なり,onサイクルとCo.サイクルを作り,プローブを動かしながら照射することで周囲組織を傷つけずに,経強膜的に効率的な毛様体の凝固が施行できるとされている4).海外では効果と安全性が報告されている4.9)が,国内での実績は少ないので当院での成績を検討した.CI対象および方法本研究は熊本大学倫理委員会の承認を得たのち,対象患者に対してウェブサイト上に研究情報を公開し,研究利用を拒否する自由を保障したうえで施行した.当院でC2018年C2.5月にCMP-CPCを初めて施行した難治緑内障の連続症例C19例C20眼を対象とした.当院では,従来の濾過手術で効果が得られにくいと判断した症例や,すでに失明した症例に対して本術式を選択した.Tenon.下麻酔後,製造者のプロトコールにしたがって,CYCLOCG6TMマイクロパルスCP3プ〔別刷請求先〕光田緑:〒860-8556熊本市中央区本荘C1-1-1熊本大学大学院生命科学研究部眼科学分野Reprintrequests:MidoriMitsuta,DepartmentofOphthalmology,FacultyofLifeSciences,KumamotoUniversity,1-1-1Honjo,Kumamoto860-8556,JAPANC1078(108)ローブを用いてC2,000CmW,各半球最大C80秒,半球を片道10.20秒かけてプローブを動かしながら照射した.機能性濾過胞と留置チューブに対する照射は避けた.術後点眼は抗生物質とC0.1%フルオロメトロンをC1週間継続した.眼圧下降が不良で,患者が追加治療に同意した場合はC6週間以上あけて追加の照射を施行した.眼圧比較にはCDunnett検定を,点眼の術前後での比較にはCSteel検定用いた.眼圧下降幅に影響を与える可能性がある因子として,性別,年齢,術前眼圧,血管新生緑内障か否か,各手術既往の有無,MP-CPCの照射範囲,再照射の有無について,重回帰分析を用いて検討した.いずれもp<0.05を有意水準とした.CII結果対象は,男性C13例C14眼,女性C6例C6眼,年齢はC30.86歳でC61.2C±15.9歳(平均値C±標準偏差)だった.全症例の年齢,性別,病型,および術前と最終受診時の視力と眼圧を表1に示す.病型は原発開放隅角緑内障C3例C3眼,小眼球を伴う閉塞隅角緑内障C2例C3眼,落屑緑内障C6例C6眼,血管新生緑内障C7例C7眼,アミロイド緑内障C1例C1眼であった.手術既往は白内障手術がC13例C14眼,濾過手術がC13例C14眼,硝子体手術がC6例C6眼,房水流出路再建術がC2例C2眼,毛様体破壊術がC1例C1眼であった.平均観察期間はC205.0日であった.20眼中C5眼では,眼圧下降効果が不十分で再照射を行った.術前眼圧を横軸,最終観察時点での術後眼圧を縦軸としてプロットしたところ,20眼中C18眼で眼圧が下降していた(図1).術前平均眼圧はC32.6CmmHgで,1週間後,1カ月後,3カ月後およびC6カ月後は術前と比較して有意な眼圧下降を認めた(図2).6カ月後での眼圧下降率は平均C29.7%であった.このC20眼に,術後再照射を施行した症例が含まれているが,再照射を施行した症例の個別の眼圧経過については図3に示す.平均緑内障点眼数については,術前は平均C4.2剤,3カ月後はC3.4剤,6カ月後はC3.3剤でどの時点でも有意差は認めなかった(図4).合併症は小眼球症であったC1例C2眼でぶどう膜滲出を認めた.一過性低眼圧(2CmmHg)をC1眼で認めた.11眼でC1段階以上の視力低下を認め,4眼でC1段階以上の視力改善を認めた.視力低下はいずれも眼圧下降効果が不十分な症例で,6カ月の経過中に進行していた.術直後に一過性の視力低下を訴えた症例がC2眼あった.眼圧下降幅に影響を与えた因子についての検討では,性別,年齢,術前眼圧,血管新生緑内障か否か,各手術既往の有無,MP-CPCの照射範囲,再照射の有無について解析したが,どの因子も有意ではなかった.III考按過去の海外での論文と比較すると,いずれの報告でもC30.40%の眼圧下降率が得られており4.9),今回もC6カ月後での眼圧下降率は平均C29.7%と,過去の報告と大きな差がなかった.最終受診時において,20眼中C3眼ではC10%以上の眼圧下降が得られておらず,効果の乏しい症例が一定の割合で存在する可能性がある.再照射した症例について,症例数が少なく統計的な解析はできないが,眼圧が上昇傾向にある症例においてさらなる上昇を抑えた可能性はある.眼圧下降幅に影響を与える因子は,今回は同定できなかったが,症例数が限られていることがその原因となっていると推測され,今後の成績の蓄積が待たれる.また,有意差はないものの,眼圧下降効果は照射C1週後がピークで,その後減弱していく傾向があった.今後,長期的な成績も検討していく必要がある.平均緑内障点眼数に関して,照射前後で有意差がみられなかった理由として,照射前の眼圧が高く,眼圧下降率がC30%以上であっても最終観察時点での眼圧がC10台前半まで十分に下降せず緑内障点眼を継続している症例が多いためと思われる.合併症に関しては,これまでの報告では眼球癆に至った症例はなく,今回の検討でも眼球癆は経験しなかった.視力低下について,過去の報告で基準が統一されていないものの,今回の検討ではやや多く認められた印象であった.原因として,病態が重症の症例が多く含まれていた可能性がある.なかには視力が改善した症例もあり,視力が変化した症例の一部は,日々変動の範囲内の可能性もあると考えられた.また,これまでに報告がないぶどう膜滲出が小眼球症の症例に生じたが,この症例はトラベクレクトミー術後もぶどう膜滲出を生じた症例であった.過去の報告にある,遷延する虹彩炎,前房出血,強膜菲薄化,角膜浮腫など4.9)は,今回の検討では認めなかった.マイクロパルス波を用いて,従来の毛様体破壊術と同様にプローブを固定した状態で照射した報告では,平均でC51%の眼圧下降率であったと報告されている10).しかしながら,この報告ではC79眼中C2眼で眼球癆が生じており,マイクロパルス波でも,使用方法によっては従来法と同様のリスクがあると考えられる.したがって,安全性を考慮すれば,プロトコールどおりの使用が望ましいと思われる.マイクロパルス波毛様体光凝固術の短期的な眼圧下降効果が確認された.小眼球症におけるぶどう膜滲出などの合併症に注意が必要と思われる.表1患者背景術前眼圧1日後1週後1カ月後3カ月後6カ月後最終受診眼圧眼圧術前最終最終受診症例年齢性別病名平均(mmHg)眼圧眼圧眼圧眼圧時眼圧下降幅下降率点眼数*点眼数*術前視力時視力再照射(mmHg)(mmHg)(mmHg)(mmHg)(mmHg)(mmHg)(mmHg)164男CPOAGC23.3C31C21C23C16C24C28C.4.7C.20%C3C3C0.05手動弁3回2C67男CNVG,PDRC28.7C32C31C31C34C30C32C.3.3C.11.6%C5C5光覚弁光覚なし2回3C30男CNVG,PDRC57.3C22C46C48C34C42C14C4375.6%C3C3光覚なし光覚なしC.4C55女CFAPC36.0C19C22C30C37C30C28C822.2%C4C2光覚弁光覚なしC.5C58男CNVG,PACGC29.0C32C13C9C6C14C16C1344.8%C5C0C0.07手動弁C.6C32男CNVG,CRVOC47.3C38C27C40C54C46C38C919.7%C3C3手動弁光覚なし1回7C58男CNVG,PACGC33.0C29C20C22C21C16C28C515.2%C5C4光覚弁手動弁2回886男CPOAGC33.0C42C20C18C20C19C27C618.2%C5C5C0.02光覚弁C.9C55男CNVG,PDRC31.7C24C11C20C22C22C24C824.2%C5C5光覚なし光覚なしC.1048男CEXGC42.0C29C11C35C17C17C17C2559.5%C3C3C0.8C0.4C.1176男CPACGC28.0C24C14C12C16C26C26C27.1%C4C4C0.03C0.04C.1256女CEXGC22.5C16C8C12C7C12C20C311.1%C5C4C0.01C0.02C.1384女CEXGC34.0C12C10C16C16C17C17C1750.0%C3C2C0.03C0.03C.1475男CEXGC29.7C33C16C22C20C20C20C1032.6%C2C2C0.01手動弁C.15C71男CEXGC25.0C14データなしC8データなしデータなしC8C1768.0%C5C5C0.02手動弁C.16C45女CNVG,PDRC43.0C39C38C21C23C26C26C1739.5%C5C4C0.02C0.4C.17C49男CNVG,PDRC26.0C22C18C20C14C14C14C1246.2%C5C5C0.05C0.03C.1878女CEXGC21.7C17C11C23C17C16C17C521.5%C4C4C0.05C0.041回19C66女CNVG,PDRC23.0C26C16C8C10C12C12C1147.8%C4C0C0.1C0.1C.2068男CPOAGC37.0C17C12C2C28C32C32C513.5%C5C4手動弁手動弁C.*配合剤はC2剤として計算.CRVO:網膜中心静脈閉塞症,EXG:落屑緑内障,FAP:家族性アミロイドポリニューロパチー,NVG:血管新生緑内障,PACG:原発閉塞隅角緑内障,PDR:増殖糖尿病網膜症,POAG:原発開放隅角緑内障.図1術前眼圧と最終受診時眼圧の分布図2術前および術後眼圧の推移術前と比較して,1日後以外は有意な眼圧下降を認めた.*p<0.05,**p<0.01,Dunnett検定.Cab初回照射からの日数初回照射からの日数cd初回照射からの日数初回照射からの日数e図3術後に再照射した5眼の眼圧の推移初回照射からの日数再照射のタイミングを.で記す.図4術前および術後緑内障点眼数の推移術前と比較して,いずれの時点でも有意差を認めなかった.Steel検定.利益相反:谷原秀信(カテゴリーCF:参天製薬株式会社,興和株式会社,千寿製薬株式会社)文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C20182)BloomPA,TsaiJC,SharmaKetal:“Cyclodiode”.Trans-scleraldiodelasercyclophotocoagulationinthetreatmentofCadvancedCrefractoryCglaucoma.COphthalmologyC104:1508-1519;discussionC1519-1520,C19973)MistlbergerCA,CLiebmannCJM,CTschidererCHCetal:DiodeClaserCtransscleralCcyclophotocoagulationCforCrefractoryCglaucoma.JGlaucomaC10:288-293,C20014)KucharS,MosterMR,ReamerCBetal:Treatmentout-comesCofCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagulationCinCadvancedglaucoma.LasersMedSciC31:393-396,C20165)TanAM,ChockalingamM,AquinoMCetal:Micropulsetransscleraldiodelasercyclophotocoagulationinthetreat-mentCofCrefractoryCglaucoma.CClinCExpCOphthalmolC38:C266-272,C20106)AquinoMC,BartonK,TanAMetal:MicropulseversuscontinuousCwaveCtransscleralCdiodeCcyclophotocoagulationCinrefractoryCglaucoma:aCrandomizedCexploratoryCstudy.CClinExpOphthalmolC43:40-46,C20157)GavrisCMM,COlteanuCI,CKantorCECetal:IRIDEXCMicro-PulseP3:innovativeCcyclophotocoagulation.CRomCJCOph-thalmolC61:107-111,C20178)EmanuelCME,CGroverCDS,CFellmanCRLCetal:Micropulsecyclophotocoagulation:Initialresultsinrefractoryglauco-ma.JGlaucomaC26:726-729,C20179)LeeJH,ShiY,AmoozgarBetal:OutcomeofmicropulselaserCtransscleralCcyclophotocoagulationConCpediatricCver-susCadultCglaucomaCpatients.CJCGlaucomaC26:936-939,C201710)WilliamsCAL,CMosterCMR,CRahmatnejadCKCetal:ClinicalCe.cacyandsafetypro.leofmicropulsetransscleralcyclo-photocoagulationinrefractoryglaucoma.JGlaucomaC27:C445-449,C2018C***