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マイクロパルス経強膜毛様体光凝固術の短期治療成績

2023年8月31日 木曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(8):1103.1107,2023cマイクロパルス経強膜毛様体光凝固術の短期治療成績神谷由紀神谷隆行木ノ内玲子中林征吾善岡尊文室野真孝宋勇錫旭川医科大学眼科学教室CShort-termSurgicalOutcomesofMicropulseTransscleralCyclophotocoagulationYukiKamiya,TakayukiKamiya,ReikoKinouchi,SeigoNakabayashi,TakafumiYoshioka,MasatakaMuronoandSongYoungseokCDepartmentofOphthalmology,AsahikawaMedicalUniversityC目的:視野障害が中期以降の緑内障に対するマイクロパルス経強膜毛様体光凝固術(MP-CPC)の短期治療成績を検討した.対象および方法:2021年5.12月に旭川医科大学病院でCMP-CPCを施行し,6カ月以上経過観察可能であったC21例C21眼を対象とし,診療録から後ろ向きに術前,術後C1,3,6カ月の眼圧値,点眼スコア,有害事象の有無を検討した.結果:平均年齢はC72.3C±11.9歳,病型は原発開放隅角緑内障がC9眼で最多であった.また,16眼が緑内障手術既往眼であった.平均眼圧は術前がC22.5C±5.4CmmHg,術後1,3,6カ月がそれぞれC15.6C±4.3,16.9C±5.5,16.7C±4.3CmmHgで,すべての時点で術前と比較して有意に下降した(p<0.05).点眼スコアは術前がC3.8C±1.4,術後1,3,6カ月がそれぞれC3.4C±1.0,3.4C±1.0,3.5C±0.9で,すべての時点で術前と比較して有意な差はなかった(p>0.05).合併症は瞳孔散大C4例で,眼内出血や眼球癆などの重篤な合併症を認めなかった.結論:中期以降の緑内障に対するMP-CPCは術後C6カ月では安全かつ眼圧下降に有用な治療法であると考えられる.CPurpose:ToCinvestigateCtheCshort-termCsurgicalCoutcomesCofCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagulation(MP-TSCPC)forCmoderate-toCsevere-stageCglaucoma.CMethods:InCthisCretrospectiveCstudy,CweCreviewedCtheCmedicalrecordsofglaucomapatientswhounderwentMP-TSCPCatAsahikawaMedicalUniversityHospitalfromMaytoDecember2021andwhowerefollowedforatleast6-monthspostoperative.Results:Atotalof21eyesof21patients(meanage:72.3C±11.9years)wereincluded,andprimaryopen-angleglaucomawasthemostcommondiagnosis.CInC16CofCtheC21Ccases,CtheCpatientChadCpreviouslyCundergoneCglaucomaCsurgery.CFollowingCMP-TSCPC,CmeanCintraocularpressure(IOP)wasCsigni.cantlyClowerCatCallfollow-upCtime-points(p<0.05)C,CthereCwasCnoCsigni.cantchangeinthemeannumberofglaucomamedicationsused,andnomajorcomplicationsoccurred.Con-clusion:OurCshort-termCoutcomesCrevealedCthatCMP-TSCPCCisCaCsafeCandCe.ectiveCsurgicalCtreatmentCforCtheCreductionofIOPinpatientswithsevere-stageglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(8):1103.1107,C2023〕Keywords:マイクロパルス経強膜毛様体光凝固術,緑内障,短期治療成績.micropulsetransscleralcyclophoto-coagulation(MP-CPC)C,glaucoma,short-termsurgicaloutcomes.Cはじめに現在,緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧下降であり1),薬物療法,手術やレーザー治療などで眼圧下降が図られる.従来,点眼や手術によるコントロールが不良な難治性緑内障に対し,経強膜毛様体光凝固術(continuousCwaveCtransscleralcyclophotocoagulation:CW-CPC)が施行されてきた.CW-CPCは良好な眼圧下降は得られるが,合併症の重篤さから眼圧下降の最終手段と考えるべきとされている1).2017年にわが国にマイクロパルス経強膜毛様体光凝固術(micropulseCtransscleralcyclophotocoagulation:MP-CPC)が導入された.MP-CPCは照射のCon-o.サイクルを繰り返すことによりCCW-CPCと比較し重篤な合併症が少ないことが特徴であり,点眼治療への追加など早期の患者にも適応とされることが期待されてい〔別刷請求先〕神谷由紀:〒078-8510北海道旭川市緑が丘東C2-1-1-1旭川医科大学眼科学教室Reprintrequests:YukiKamiya,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AsahikawaMedicalUniversity,2-1-1-1MidorigaokahigashiAsahikawacity,Hokkaido078-8510,JAPANCるがまだ十分に検討されていない1).海外ではその効果と安全性が多数報告されている2.9)が,国内での報告はまだ少数である10,11)ため,旭川医科大学病院(以下,当院)における短期治療成績を検討した.CI対象および方法対象はC2021年C5.12月に当院眼科でCMP-CPCを施行した中期以降の緑内障患者で,6カ月以上経過観察可能であった男性C10例,女性C11例,年齢C72.3C±11.9歳(平均年齢C±標準偏差)のC21例C21眼である.本研究において,全症例で6カ月以上経過観察可能であった.術前,術後C1,3,6カ月の眼圧値,点眼スコア(配合剤はC2点,内服薬はC1日当たりの錠数につきC1錠をC1点とした),有害事象の有無を診療録から後ろ向きに検討した.緑内障病期を静的視野検査で初期:meandeviation(MD)値≧C.6CdB,中期:C.12CdB≦MD値<C.6CdB,後期:MD値<C.12CdBと定義し,対象の視野障害の程度を評価した.MP-CPCはCCycloG6CGlaucomaCLasermachine(IRIDEX社)とCMP3プローブを使用し,推奨されている以下の条件で施行した.PowerはC2,000mW,DutycycleはC31.3%(on0.5Cms,o.1.1Cms)で各半球を最大C80秒,片道C10秒,合計4往復照射した.3時,9時,濾過胞作製部と留置チューブのある部分は避けて照射した.解析は眼圧,点眼スコアについて統計ソフトCGraphPadPrism9を用いてCDunnett’stestで検討した.また,手術既往の有無別についても検討した.いずれもCp<0.05を有意水準とした.なお,本研究は旭川医科大学倫理委員会で承認された.CII結果対象のC21眼の病型は,原発開放隅角緑内障C9眼,閉塞隅角緑内障C2眼,血管新生緑内障C3眼,落屑緑内障C3眼,その他C4眼であった.静的視野検査を施行できたものはC11眼(52.4%)で,平均値はC.20.49±5.9CdBであった.また,16眼が緑内障手術既往眼であった(表1).平均眼圧の推移を図1に示す.平均眼圧は術前C22.5C±5.4mmHg,術後C1,3およびC6カ月はC15.6C±4.3,16.9C±5.5,C16.7±4.3CmmHgで,すべての時点において術前と比較して有意に下降した(p<0.05,Dunnett’stest).術前からC20%以上の眼圧下降を示した割合は術後C1,3およびC6カ月で76.2,71.4,61.9%であった.また,眼圧C6.21CmmHgの割合は術前,術後C1,3およびC6カ月でC42.9,90.5,76.2,85.7%であった.点眼スコアの推移を図2に示す.点眼スコアは術前C3.8C±1.4,術後C1,3およびC6カ月はC3.4C±1.0,3.4C±1.0,3.5C±0.9ですべての時点において術前と比較して有意な差を認めなかった(Dunnett’stest).手術既往の有無別にみた平均眼圧の推移を図3に示す.手術既往眼の平均眼圧は術前C21.9C±5.9CmmHg,術後1,3およびC6カ月はC15.8C±4.8,16.5C±5.1,17.2C±4.7CmmHgで,すべての時点において術前と比較して有意に下降した(p<C0.05,Dunnett’stest).非手術既往眼の平均眼圧は術前C24.4C±3.1mmHg,術後C1,3およびC6カ月はC14.8C±3.0,18.0C±7.2,14.6C±1.8CmmHgで,術後C1,6カ月において術前と比較して有意に下降した(p<0.05,Dunnett’stest).手術既往眼,非手術既往眼ともに,術後C6カ月時点で術前と比較し有意に下降した(p<0.05,Dunnett’stest).合併症は瞳孔散大C4例を認め,羞明の自覚症状があったが,いずれも術後C6カ月までには改善または改善傾向であった.また,眼内出血や眼球癆などの重篤な合併症を認めなかった.CIII考按今回,眼圧は術後C1,3およびC6カ月のすべての時点において術前と比較して有意に下降した.今回とCMP-CPC施行条件,成功基準が類似している既報との比較を表2に示す.既報では成功基準を「眼圧C6.21CmmHgまたは術前からC20%以上の眼圧下降」とした場合,術後C6カ月時点でC74.3.83.3%の症例がこの基準を満たす2.5)と報告されている.今回はC90.5%の症例がこの基準を満たしており,既報と比較し同等以上の効果を認めた.加齢により毛様体無色素上皮の色素が増加すること12),白色人種と比較し,有色人種のほうが眼の色素が濃いために少ないレーザーパワーで効果が現れやすいこと6,7,13)が知られている.CW-CPCの成功率は患者の年齢と相関がある8)という報告や,MP-CPCでもC40歳以上の患者ではC40歳未満の若年者と比較し再手術のリスクが低いこと2),有色素眼のほうが無色素眼よりもレーザーの効果が高い9)という報告がある.今回は既報と比較し,平均年齢が高く,色素の増加によりレーザーの感受性が高くなり生存率を上昇させた可能性も考えられる.点眼スコアに関し,今回は術前後で点眼スコアに有意な変化は認めなかった.既報では点眼スコアは有意に減少した2.5)と多く報告されている.一方,Laruelleらは点眼調整における明確な基準が存在しなかったこと,症例に進行例が含まれていたことなどから,術前後で点眼スコアに有意な変化を認めなかった14)と報告している.本研究においても末期緑内障が多く,20%以上の眼圧下降が得られていても,10CmmHg台前半以下の眼圧を達成するため術前と同強度の薬物療法が継続となった症例が多かったためと考えられる.また,このように術後も術前と同強度の薬物治療を継続としたことが,術後C6カ月時点で既報と比較し良好な術後成績が得られた一因とも考えられる.手術既往の有無別に検討したところ,本研究では手術歴の表1患者背景30年齢C72.3±11.9歳25性別男10例(C47.6%)女11例(C52.4%)病型原発開放隅角緑内障9眼(42.8%)閉塞隅角緑内障2眼(9.5%)眼圧(mmHg)2010血管新生緑内障3眼(14.2%)落屑緑内障3眼(14.2%)C5その他4眼(1C9.0%)静的視野検査(HFA)11眼(C52.4%)初期(MD値≧C.6dB)0眼(0C.0%)中期(C.12CdB≦MD値<C.6dB)1眼(4C.8%)末期(MD値<C.12dB)10眼(4C.8%)手術既往16眼(C76.2%)Trabeculectomy12眼(C57.1%)Trabeculotomy3眼(1C4.2%)Ahmedglaucomavalve2眼(9C.5%)Express2眼(9C.5%)術前術後1カ月術後3カ月術後6カ月図1平均眼圧の推移平均眼圧は術前と比較し,術後すべての時点で有意な下降を認めた(p<0.05).C6(平均±標準偏差)*p<0.05,Dunnett’stest533.5±0.93.8±1.43.4±1.03.4±1.02Selectivelasertrabeculoplasty1眼(4.7%)(平均±標準偏差)点眼スコア4有無にかかわらず,術後C6カ月の時点で有意な眼圧下降を認めた.Zaarourらは手術歴の有無にかかわらず,有意な眼圧下降を認めたが,非手術既往眼のほうが手術既往眼よりも眼圧下降率が高い3)と報告している.この理由としてCChenらは手術既往眼であること自体,難治性緑内障である可能性が1術前術後1カ月術後3カ月術後6カ月図2点眼スコアの推移点眼スコアは術前と比較し,術後すべての時点で有意差を認めな高く,以前に手術を受けた患者は成功率が低くなる可能性がかった.高いのではないか2)と示唆している.一方で手術既往眼のほうが非手術既往眼よりも眼圧下降率が高い4,9)という報告もC30あり,統一した見解はない.25以上から,MP-CPCは手術後の眼圧コントロール不良な難治性緑内障のみならず,認知症や全身状態不良などの理由で手術自体が困難な患者に対する治療の選択肢の一つとなりうると考えられる.しかし,手術既往の有無別での眼圧下降率の優劣に関しては,本研究では非手術既往眼はC5例と症例眼圧(mmHg)201510数も少ないため,さらなる症例の蓄積・検討が必要と考えられる.合併症に関しては,本研究では既報同様に眼球勞やその他視機能に影響を与える重篤な合併症は認めなかった.これまでの報告では前房炎症の頻度が高い2,3)が,本研究では前房炎症を生じた症例はなかった.既報においてCMP-CPC後の前房炎症はC1週間程度のステロイド点眼の使用により改善が得られており,本研究では予防的にステロイド点眼を処方していたため前房炎症の発生が抑制された可能性が考えられる.また,本研究では経過中に瞳孔散大をC4眼(18%)で認めた.ChenらはC3.3%,RadhakrishnanらもC11%で瞳孔散大を認めたと報告している2,15).Radhakrishnanらはアジア(119)5手術既往眼非手術既往眼図3手術既往の有無別にみた平均眼圧の推移手術歴の有無にかかわらず,術後C6カ月の時点で有意な眼圧下降を認めた.人や水晶体眼では術後散瞳の頻度が高いと報告しており15),本研究およびCChenらの研究でもアジア人の割合が高いため,他の研究に比較し瞳孔散大の頻度が高くなった可能性が考えられる.本研究で瞳孔散大を認めた症例はいずれも経過あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023C1105表2既報との比較評価項目と達成率文献年齢おもな病型手術既往(術後C6カ月)合併症原発開放隅角緑内障9眼(42.8%)手術既往眼16眼(76.2%)瞳孔散大4眼(18.2%)閉塞隅角緑内障2眼(9.5%)Trabeculoctomy12眼(57.1%)今回血管新生緑内障3眼(14.2%)Trabeculotomy3眼(14.2%)①眼圧6.21CmmHgor21例21眼90.5%C72.8±11.8歳落屑緑内障3眼(14.2%)Ahmedglaucomavalve2眼(9.5%)②術前からC20%以上の下降Express2眼(9.5%)Selectivelasertrabeculoplasty1眼(4.7%)原発開放隅角緑内障26眼(34.7%)手術既往眼31眼(41.3%)炎症17眼(23.0%)閉塞隅角緑内障6眼(8.0%)Trabeculoctomy14眼(18.7%)視力低下8眼(14.0%)CZaarourKetal.20183)血管新生緑内障4眼(5.3%)Ahmedglaucomavalve20眼(26.7%)①眼圧6.21CmmHgor69例75眼81.4%C55.5±22.9歳落屑緑内障3眼(4.0%)Diodelasereyelophotocoagulation6眼(8.0%)②術前からC20%以上の下降Laserperipheralindotomy6眼(8.0%)Selectivelasertrabeculoplasty3眼(4.0%)原発開放隅角緑内障66眼(56.9%)手術既往眼79眼(68.1%)視力低下9眼(7.8%)閉塞隅角緑内障7眼(6.0%)Trabeculoctomy31眼(26.7%)低眼圧症2眼(1.7%)CGarciaGAetal.20194)血管新生緑内障3眼(2.6%)Tubeshuntsurgery57眼(49.1%)①眼圧6.21CmmHgor116例C116眼74.3%C65.8±16.9歳落屑緑内障6眼(4.3%)Express5眼(4.3%)②術前からC20%以上の下降Diodelasereyelophotocoagulation3眼(2.6%)Selectivelasertrabeculoplasty9眼(7.8%)原発開放隅角緑内障12眼(41.4%)手術既往眼17眼(58.6%)黄斑浮腫1眼(3.4%)CVigNetal.20205)閉塞隅角緑内障1眼(3.4%)Trabeculoctomy8眼(27.6%)①眼圧6.21CmmHgorC64.7±15.1歳血管新生緑内障2眼(6.9%)Bacrveldttubes9眼(33.3%)②術前からC20%以上の下降29例29眼落屑緑内障1眼(3.4%)Diodelasereyelophotocoagulation10眼(34.5%)75.9%Minimallyinvasivegraucomashunt7眼(24.1%)原発開放隅角緑内障37眼(61.7%)手術既往眼18眼(30.0%)前房炎症13眼(21.6%)閉塞隅角緑内障6眼(10.0%)Trabeculoctomy14眼(273.3%)①眼圧6.21CmmHgor結膜出血4眼(6.7%)CChenHSetal.20222)C58.9±12.4歳Express2眼(3.3%)②術前からC20%以上の下降低眼圧症2眼(3.3%)56例60眼血管新生緑内障4眼(7.1%)CW-TSCPC8眼(13.3%)83.3%瞳孔散大2眼(3.3%)(<6mmHg)今回とCMP-CPC施行条件,成功基準が類似している既報についてまとめた.既報では成功基準を「眼圧C6.21CmmHgまたは術前からC20%以上の眼圧下降」とした場合,術後C6カ月時点でC74.3.83.3%の症例がこの基準を満たす.今回はC90.5%の症例がこの基準を満たしており,既報と比較し同等以上の効果を認めた.観察のみで術後C6カ月には改善が得られている.以上より,MP-CPCは安全性に優れた治療法と考えられる.CIV結論利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)ChenHS,YehPH,YehCTetal:MicropulsetransscleralcyclophotocoagulationCinCaCTaiwanesepopulation:2-yearCclinicalCoutcomesCandCprognosticCfactors.CGraefesCArchCClinExpOphthalmolC260:1265-1273,C20223)ZaarourCK,CAbdelmassihCY,CArejCNCetal:OutcomesCofCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagulationCinCuncon-trolledglaucomapatients.JGlaucomaC28:270-275,C20194)GarciaCGA,CNguyenCCV,CYelenskiyCACetal:MicropulseCtransscleralCdiodeClaserCcyclophotocoagulationCinCrefracto-ryglaucoma:Short-termCe.cacy,Csafety,CandCimpactCofCsurgicalChistoryConCoutcomes.COphthalmolCGlaucomaC2:C402-412,C20195)VigCN,CAmeenCS,CBloomCPCetal:MicropulseCtransscleralcyclophotocoagulation:initialCresultsCusingCaCreducedCenergyprotocolinrefractoryglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmolC258:1073-1079,C20206)CheungCJJC,CLiCKKW,CTangSWK:RetrospectiveCreviewConCtheCoutcomeCandCsafetyCofCtransscleralCdiodeClaserCcyclophotocoagulationCinCrefractoryCglaucomaCinCChineseCpatients.IntOphthalmolC39:41-46,C20197)KaushikS,PandavSS,JainRetal:LowerenergylevelsadequateCforCe.ectiveCtransscleralCdiodeClaserCcyclophoto-coagulationCinCAsianCeyesCwithCrefractoryCglaucoma.CEye(Lond)22:398-405,C20088)SchloteT,DerseM,RassmannKetal:E.cacyandsafe-tyCofCcontactCtransscleralCdiodeClaserCcyclophotocoagula-tionCforCadvancedCglaucoma.CJCGlaucomaC10:294-301,C20019)deCCromCRMPC,CSlangenCCGMM,CKujovic-AleksovCSCetal:MicropulseCtrans-scleralCcyclophotocoagulationCinCpatientsCwithglaucoma:1-andC2-yearCtreatmentCout-comes.JGlaucomaC29:794-798,C202010)山本理紗子,藤代貴志,杉本宏一郎ほか:難治性緑内障におけるマイクロパルス経強膜的毛様体凝固術の短期成績.あたらしい眼科36:933-936,C201911)光田緑,中島圭一,谷原秀信ほか:マイクロパルス波経強膜毛様体凝固術の短期成績.あたらしい眼科C36:1078-1082,C201912)GartnerJ:ElectronCmicroscopicCobservationsConCtheCcil-iozonularCborderCareaCofCtheChumanCeyeCwithCparticularCreferencetotheagingchanges.ZAnatEntwicklungsgeschC131:263-273,C197013)CantorLB,NicholsDA,KatzLJetal:Neodymium-YAGtransscleralCcyclophotocoaguration.CTheCroleCofCpigmenta-tion.InvestOphthalmolVisSciC30:1834-1837,C198914)LaruelleG,PourjavanS,JanssensXetal:Real-lifeexpe-rienceCofCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagulation(MP-TSCPC)inadvancedanduncontrolledcasesofsev-eralglaucomaCtypes:aCmulticentricCretrospectiveCstudy.CIntOphthalmolC41:3341-3348,C202115)RadhakrishnanS,WanJ,TranBetal:Micropulsecyclo-photocoagulation:aCmulticenterCstudyCofCe.cacy,Csafety,CandCfactorsCassociatedCwithCincreasedCriskCofCcomplica-tions.JGlaucomaC29:1126-1131,C2020***

悪性緑内障に対するマイクロパルス経強膜毛様体光凝固術が奏効した1症例

2020年10月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科37(10):1319.1321,2020c悪性緑内障に対するマイクロパルス経強膜毛様体光凝固術が奏効した1症例中西美穂中島圭一井上俊洋熊本大学大学院生命科学研究部眼科学講座CACaseofMalignantGlaucomaSuccessfullyTreatedwithMicropulseTransscleralCyclophotocoagulationMihoNakanishi,Kei-IchiNakashimaandToshihiroInoueCDepartmentofOphthalmology,FacultyofLifeSciences,KumamotoUniversityC症例:94歳,女性.近医にて左眼閉塞隅角症に対し水晶体再建術を施行した.左眼術前眼圧はC38CmmHgであり,術翌日,浅前房は残存するが左眼眼圧はC17CmmHgへと下降した.術後C2日目から眼圧C34CmmHgと上昇し,降圧点眼および炭酸脱水酵素阻害薬の内服を開始したが,眼圧上昇が持続した.悪性緑内障が疑われ,Nd:YAGレーザーにて後.および前部硝子体膜切開を行ったが,眼圧下降を認めず熊本大学病院紹介となった.受診時(水晶体再建術C6日),著明な浅前房と高眼圧を認めており,悪性緑内障と診断した.高齢であり,アルツハイマー型認知症もあったために硝子体手術を含む観血的加療を希望されなかった.そのため,マイクロパルス経強膜毛様体光凝固術(MP-CPC)を施行した.左眼術前眼圧C28CmmHg,術翌日,1週後,3週後の眼圧はそれぞれC23CmmHg,10CmmHg,6CmmHgと下降を認めた.前房深度についてはCMP-CPC施行C3週後に改善を認めた.結論:悪性緑内障に対して従来の治療方法が困難な場合,MP-CPCが有効である可能性が示された.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofmalignantCglaucoma(MG)postCcataractCsurgeryCthatCwasCsuccessfullyCtreatedwithmicropulsetransscleralcyclophotocoagulation(MP-TSCPC)C.Casereport:Thisstudyinvolveda94-year-oldwomanCwhoCunderwentCcataractCsurgeryCforCprimaryCangleCclosureCinCtheCleftCeye.CTheCpreoperativeCIOPCwasC38CmmHg,yetitdecreasedto17CmmHgat1-daypostoperative.However,at2-dayspostoperative,itincreasedto34CmmHg.ShewasdiagnosedasMG,andunderwentincisionoftheposteriorcapsuleandanteriorvitreousmem-braneCwithCaNd:YAGClaser.CHowever,CtheCtreatmentCwasCine.ective.CSinceCsheCwasCelderlyCandCsu.eringCfromCdementia,shewastreatedwithMP-TSCPCinsteadofvitrectomy.TheIOPat1-daypreand1-day,1-week,and3-weeksCpostoperativeCwasC28CmmHg,C23CmmHg,C10CmmHg,CandC6CmmHg,Crespectively,CandCtheCanteriorCchamberCbecamedeepat3-weekspostsurgery.Conclusion:MP-TSCPCcanbeane.ectivetreatmentforMGwhencon-ventionaltreatmentscannotbeperformed.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(10):1319.1321,C2020〕Keywords:悪性緑内障,マイクロパルス経強膜毛様体光凝固術,水晶体再建術,続発緑内障,閉塞隅角症.malig-nantglaucoma,micropulsetransscleralcyclophotocoagulation,cataractsurgery,secondaryglaucoma,primaryangleclosure.Cはじめに悪性緑内障は極端な浅前房と高眼圧をきたす重篤な続発緑内障であり,1869年にCVonCGraefeにより従来の治療法が奏効しないことからその名が付けられた1).Simmonsらは悪性緑内障に対する初期治療は薬物療法であると報告している2).悪性緑内障に対する薬物療法としては,アトロピン,交感神経Cb受容体遮断薬の点眼,炭酸脱水酵素阻害薬の点眼あるいは内服,高張浸透圧薬の点滴である.薬物療法に奏効しない場合は,Nd:YAGレーザーによる前部硝子体膜の切開,経強膜毛様体光凝固術,硝子体切除術を行う3).経強〔別刷請求先〕中西美穂:〒860-8556熊本市中央区本荘C1-1-1熊本大学大学院生命科学研究部眼科学講座Reprintrequests:MihoNakanishi,DepartmentofOphthalmology,FacultyofLifeSciences,KumamotoUniversity,1-1-1Honjo,Chuo-ku,Kumamoto860-8556,JAPANC0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(143)C1319図1前眼部OCT検査結果a:右眼.やや浅前房であり,有水晶体眼であった.Cb:左眼マイクロパルス経強膜毛様体光凝固術(MP-CPC)施行前.眼内レンズが前方移動し,浅前房であった.周辺は虹彩と角膜が接触していた.Cc:左眼CMP-CPC施行C3週間後の左前眼部COCT検査結果.左前房の著明な深化を認めた.膜毛様体光凝固術はC1930年代から悪性緑内障のような難治緑内障に対し用いられてきたが,疼痛,前房出血,視力低下,低眼圧,眼球癆などの副作用から,他の治療法が有効な場合には敬遠されてきた4).しかし,近年用いられているマイクロパルス経強膜毛様体光凝固術(micropulseCtranss-cleralcyclophotocoagulation:MP-CPC)は,ON/OFFサイクルを繰り返すことで周囲組織の熱凝固を抑え,効率よく凝固することでそれらの副作用を抑えることができると報告されているが5),悪性緑内障に使用した報告はない.今回,閉塞隅角緑内障に対する水晶体再建術後に生じた悪性緑内障に対し,MP-CPCが奏効した症例を経験したので報告する.CI症例患者:94歳,女性.現病歴:近医にて左眼閉塞隅角症に対し水晶体再建術を施行され問題なく終了した.左眼術前眼圧はC38CmmHgであり,術翌日に浅前房は残存するものの左眼眼圧はC17CmmHgに下降した.術後C2日目から左眼眼圧はC34CmmHgと上昇し,降圧点眼および炭酸脱水酵素阻害薬の内服を開始したが,眼圧下降が得られなかった.悪性緑内障が疑われ,Nd:YAGレーザーにて後.および前部硝子体膜切開を行ったが,眼圧下降を認めず,水晶体再建術C6日後に当科紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.7(矯正不能),左眼C0.06C×IOL(0.7C×IOL×sph.6.00D(cyl.2.5DAx100°).眼圧は右眼10CmmHg,左眼C20CmmHg.右眼はやや浅前房で有水晶体眼であった(図1a).左眼は眼内レンズが前方移動し,浅前房であった.周辺は虹彩と角膜が接触していた(図1b).眼底は両眼ともに視神経乳頭拡大や網膜神経線維層厚の菲薄化などの緑内障性変化を認めなかった.眼軸長は右眼がC20.75mm,左眼がC20.95Cmmであり,両眼とも短眼軸であった.経過:初診時左眼圧が前医よりも下降傾向であったことと,左中心前房深度が典型的な悪性緑内障の状態よりは深くなっていることから,病状が改善傾向である可能性を考え,外来で経過観察の方針となった.初診時よりC10日後,左眼圧C27CmmHgと高値を認めたため,手術加療を勧めたが,高齢であり,アルツハイマー型認知症もあったため,硝子体手術を含む観血的手術は希望されなかった.そのため,MP-CPCを施行した.左眼CMP-CPC術前眼圧はC28CmmHgであったが,術翌日,1週後,3週後の眼圧はそれぞれC23mmHg,10CmmHg,6CmmHgと下降を認めた.左眼前房深度はCMP-CPC施行C3週後に著明な深化を認めた(図1c).MP-CPC施行C3カ月後の左眼矯正視力はC0.5,眼圧はC9CmmHgで,前房深度は保たれていた.CII考按悪性緑内障の平均発症年齢はC70歳で,男女比はC3:11とされている6).閉塞隅角緑内障眼の術後にC2.4%の頻度で発症し,手術既往なく発症することもある7).また,アジア人に多いとされているが,その原因は眼軸が短く,前房が浅い傾向にあるためと推測されている8).今回の症例では両眼ともに短眼軸であり,高齢の女性であったことから,悪性緑内障のリスクを有していた可能性がある.悪性緑内障の機序は明確にはわかっていないが,房水異常流入が考えられてきた.房水異常流入では毛様体から前部硝子体,水晶体,眼内レンズにかけて房水流出が阻害され,房水が前房ではなく,硝子体腔に流入することにより硝子体圧が上昇し,浅前房と高眼圧を引き起こすと考えられている9).また,白内障手術中は急激な眼圧下降により毛様体が前方回旋し,毛様体扁平部と硝子体が離れることにより房水異常流入が生じるという報告もある10).その他の機序としては,術中,術後の低眼圧が脈絡膜.離を引き起こし,それにより前1320あたらしい眼科Vol.37,No.10,2020(144)房が浅くなるとの報告もある11).悪性緑内障の初期治療は薬物療法であるとCSimmonsらは報告している2).薬物療法には,毛様体筋を弛緩させ,lens-irisdiaphragmを後方回転させる毛様体麻痺薬の点眼,房水産生を抑制するための房水産生抑制薬の点眼や炭酸脱水酵素阻害薬の内服,硝子体を収縮させるための高張浸透圧薬の点滴などがある3).Luntzらはかつて悪性緑内障のC50%は薬物療法をC5日間継続し治癒したと報告している12).薬物療法で効果がない場合は,白内障術後であればCNd:YAGレーザーによる後.,前部硝子体膜の切開,それでも治癒しない場合は硝子体切除術を行い,段階的に治療することで効果がより期待できるとCVarmaらは報告している13).今回の症例では薬物療法およびCNd:YAGレーザーによる後.,前部硝子体膜切開を行うも治癒しなかったために硝子体切除術の適応があったと考えられるが,前述のように高齢であり,アルツハイマー型認知症もあったためにCMP-CPCを施行した.従来型の経強膜毛様体光凝固術は,これまでも悪性緑内障に対し選択されてきた治療法である.Daveらは,悪性緑内障C28眼のうち,4眼は薬物療法,7眼の眼内レンズ挿入眼はCYAGレーザー,4眼は硝子体切除術,12眼は経強膜毛様体光凝固術で治癒したと報告している.彼らは,経強膜毛様体光凝固術の奏効機序として,毛様体突起の凝固壊死と収縮が毛様体と硝子体の境界面を変化させ,この変化が房水産生の抑制だけでなく,房水流出の促進と毛様体の後方回転に寄与しているのではないかと考察している3).今回筆者らが使用したCMP-CPCでは,従来型の経強膜毛様体光凝固術とは異なり,マイクロパルス秒でレーザー照射のCON/OFFを繰り返すことで周囲組織の熱凝固を抑えることができるのではないかと推測されている4).ONサイクルでは,マイクロ秒で繰り返されるレーザー照射が色素上皮に吸収され,色素上皮の熱エネルギーが上昇することで熱凝固を引き起こすが,無色素上皮では熱エネルギーを吸収しづらく,OFFサイクルでのクーリングタイムを得られるために凝固されることがないと報告されている14).MP-CPCの眼圧下降の作用機序の詳細は解明されておらず,作用機序解明のためにリアルタイムビデオを用いてレーザー照射中の房水流出路の観察が行われた研究も報告されている(JohnstoneCMACetCal,CARVOCAnnualCMeeting2019).それによると,強膜厚の変化,毛様体筋の収縮による脈絡膜上腔の拡大,線維柱帯の内方,後方回転によるCSchlemm管の拡大が観察されている.また,毛様体無色素上皮への傷害は認めなかった.そのため,MP-CPCの眼圧下降機序は房水産生抑制よりも房水流出促進の影響が大きいと思われる.今回の症例では,従来の経強膜毛様体光凝固術の作用機序である房水産生抑制による前房と後房の圧格差の解消に加え,毛様体筋の収縮および毛様体皺襞部の後方回転により房水異常流入が解除(145)されたため,前房が深くなり,房水流出が促進されたことにより眼圧が下がったと推測される.悪性緑内障は比較的まれな疾患ではあるが,発症リスクを理解したうえでの的確な診断,および段階的な治療を施すことにより視機能を保てる可能性が高くなる.薬物療法およびNd:YAGレーザーによる後.・前部硝子体膜切開が奏効せず,観血的手術困難な悪性緑内障に対して,MP-CPCが有効である可能性が示された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)vonGraefeA:BeltragezurPathologieundTherapiedesGlaucomas.ArchivfurOphthalmologieC15:108-252,C18692)SimmonsCRJ,CBelcherCCD,CDallowRL:PrimaryCangle-clo-sureCglaucoma.In:DuaneC’sCClinicalOphthalmology(Tas-manCW,CJaegerCEA,eds.)C.CVolC3,CPhiladelphia,CLippincott,Cp23-31,C19853)DaveCP,CSenthilCS,CRaoCHLCetal:TreatmentCoutcomesCinCmalignantglaucoma.OphthalmologyC120:984-990,C20134)NdulueCJK,CRahmatnejadCK,CSanvicenteC:EvolutionCofCcyclophotocoagulation.CJCOphthalmicCVisCResC13:55-61,C20185)AbdelrahmanAM,ElSayedYM:Micropulseversuscon-tinuouswavetransscleralcyclophotocoagulationinrefrac-torypediatricglaucoma.JGlaucomaC27:900-905,C20186)TropeCGE,CPavlinCCJ,CBauCACetal:MalignantCglaucoma.CClinicalCandCultrasoundCbiomicroscopicCfeatures.COphthal-mologyC101:1030-1035,C19947)SchwartzCAL,CAndersonDR:C“MalignantCGlaucoma”inCanCeyeCwithCnoCantecedentCoperationCorCmiotics.CArchCOphthalmolC93:379-381,C19758)ShenCCJ,CChenYY,CSheuSJ:TreatmentCcourseCofCrecur-rentmalignantglaucomamonitoringbyultrasoundbiomi-croscopy:aCreportCofCtwoCcases.CKaohsiungCJCMedCSciC24:608-613,C20089)KaplowitzK,YungE,FlynnRetal:CurrentconceptsintheCtreatmentCofCvitreousCblock,CalsoCknownCasCaqueousCmisdirection.SurvOphthalmolC60:229-241,C201510)MuqitMK:MalignantCglaucomaCafterCphacoemulsi.ca-tion:treatmentCwithCdiodeClaserCcyclophotocoagulation.CJCataractRefractSurgC33:130-132,C200711)QuigleyHA,FriedmanDS,CongdonNG:Possiblemecha-nismsofprimaryangle-closureandmalignantglaucoma.JGlaucomaC12:167-180,C200312)LuntzMH,RosenblattM:Malignantglaucoma.SurvOph-thalmolC32:73-93,C198713)VarmaDK,BelovayGW,TamDYetal:Malignantglau-comaaftercataractsurgery.JCataractRefractSurgC40:C1843-1849,C201414)KucharS,MosterMR,ReamerCBetal:Treatmentout-comesCofCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagulationCinCadvancedglaucoma.LasersMedSciC31:393-396,C2016あたらしい眼科Vol.37,No.10,2020C1321