《原著》あたらしい眼科31(2):289.294,2014c糖尿病黄斑浮腫の格子状光凝固術を施行した部位の網膜感度の検討荻原彩子*1,2稲垣圭司*1箕輪有子*1藤谷周子*1,2大越貴志子*1村上晶*2*1聖路加国際病院眼科*2順天堂大学医学部眼科学教室RetinalSensitivityofMaculaafterGridPhotocoagulationforDiabeticMacularEdemaAyakoOgiwara1,2),KeijiInagaki1),YukoMinowa1),ShukoFujitani1,2),KishikoOhkoshi1)andAkiraMurakami2)DepartmentofOphthalmology,1)St.Luke’sInternationalHospital,2)JuntendoUniversitySchoolofMedicine目的:糖尿病黄斑浮腫の格子状光凝固術施行部位の網膜感度を評価した.方法および対象:対象は閾値凝固を行った糖尿病黄斑浮腫症例,男性5例5眼,女性6例7眼の計11例12眼,年齢は52.78歳.マイクロペリメーター1(NIDEK社)を用い術前,術後早期(1週.1カ月),3カ月,7.20カ月の照射部網膜感度をフォローアップモード測定し比較検討した.結果:12眼全体の平均網膜感度(dB)は術前,術後早期,3カ月,7カ月以降の最終網膜感度(7.20カ月)においてそれぞれ10.88,9.81,10.32,11.69で有意な低下は認めなかった.各症例の平均網膜感度の変化が2dB以上を有意とすると,術後早期で11眼中改善2眼(18%),不変4眼(36%),悪化5眼(45%)となった.最終網膜感度は7眼中改善2眼(29%),不変3眼(43%),悪化2眼(29%)となり,術後早期よりも改善している割合が増加した.結論:格子状光凝固術後の凝固部位の網膜感度は凝固後1週.1カ月には低下傾向であったが,それ以降は回復傾向となった.Purpose:Toassess,viafundus-relatedmicroperimetry,changesinretinalsensitivityfollowinggridphotocoagulationfordiabeticmacularedema(DME).Methods:DiabeticpatientswithdiffuseDME(11patients,12eyes)weretreatedwithgridphotocoagulation.Postoperativeretinalsensitivity(1week.20months)wascomparedtopreoperativeretinalsensitivityasmeasuredbymicroperimeter-1(MP-1,NidekTechnologies).Results:Meanretinalsensitivitydidnotdecreasesignificantlybefore(10.88dB)orafter(1week.1month:9.81dB,3months:10.32dB,7.20months:11.69dB)gridphotocoagulation.Therewasatendencytowardtemporaryretinalsensitivitydecreaseaftergridlasertreatment,butsensitivitygraduallyrecovered.Conclusion:Itseemedthatretinalsensitivityinitiallydecreasedbetween1weekand1monthaftergridlaserphotocoagulation,andgraduallyrecoveredafterward.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(2):289.294,2014〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,黄斑感度,マイクロペリメトリ,格子状光凝固,光干渉断層計.diabeticmacularedema,macularsensitivity,microperimetry,gridphotocoagulation,opticalcoherencetomography.はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は糖尿病網膜症による視力障害の主たる原因の一つである.1985年にEarlyTreatmentofDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)1)がclinicallysignificantmacularedema(CSME)に対する光凝固術の視力維持効果を証明し,また1986年Olk2)によってびまん性黄斑浮腫に対する格子状光凝固術の有効性が報告された.しかしその後,凝固斑の進行性拡大3)や暗点4),網膜下線維増殖5)などレーザーによる組織障害に起因する合併症が報告され,より低侵襲に行える凝固条件や適応などが見直されてきた.また,近年DMEの浮腫の程度,視力,網膜感度の関係を検討している報告6,7)や,格子状光凝固術前後の黄斑部感度を測定した報告8)が散見される.しかし,それらは黄斑部全体の網膜感度を測定しており,凝固〔別刷請求先〕荻原彩子:〒113-8431東京都文京区本郷3-1-3順天堂大学医学部眼科学教室Reprintrequests:AyakoOgiwara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversitySchoolofMedicine,3-1-3Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8431,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(129)289部に限定した網膜感度を術前後で検討した報告はない.そこで今回筆者らはDMEに対し格子状光凝固術を行った部位の凝固術前後の網膜感度をマイクロペリメーター1を用いて検討したので報告する.I対象および方法対象は,ETDRSのCSMEに該当するDMEを有する11例12眼である.除外基準は1カ月以内のトリアムシノロン後部Tenon.下投与,4カ月以内の白内障手術後症例,6カ月以内の硝子体手術後症例とした.症例の内訳は,男性5例5眼,女性6例7眼,年齢は52.78歳(66.1±7.6歳:平均値±標準偏差,以下同様)であった.平均血清Hb(ヘモグロビン)A1C値は8.7±1.9%,網膜症分類は増殖前網膜症6眼,増殖網膜症6眼であった.腎症を有する7眼は,透析症例ではなかった.また,術前視力は0.1以下が3眼,0.2.0.5が3眼,0.6.0.9が6眼であった.DMEに対して治療歴のある症例は12眼中7眼(58%)で,内訳は硝子体手術3眼,トリアムシノロン後部Tenon.下投与5眼であった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)所見でびまん性漏出を認め,かつ浮腫が存在する部位に格子状光凝固術を行った.10眼はマルチカラーレーザーイエロー561nm(ルミナス社,NOVUSVARIA),2眼はパターンスキャンレーザー532nm(トプコン社,PASCAL)を使用した.マルチカラーレーザーはスポットサイズ100μm,凝固時間0.1秒,スペーシング1.5.パターンスキャンレーザーはスポットサイズ100μm,凝固時間0.01秒,スペーシング1.0.凝固出力はマルチカラーレーザーは0.08.0.1W,パターンスキャンレーザーは0.15.0.2Wで,それぞれ凝固斑が観察される最低条件で照射した.また,FAで毛細血管瘤からの蛍光漏出の強い症例3眼には毛細血管瘤への直接凝固も併用した.光凝固術前,術後1,2,3,6,12カ月の視力,中心窩網膜厚,黄斑体積および術後早期1週.1カ月,3カ月,7カ月以降(7.20カ月)の最終網膜感度の凝固部網膜感度を測定した.中心窩網膜厚,黄斑体積の測定はOCT3000(CarlZeissMeditecDublin,CA,USA)を用い,中心6mmの範囲をファーストマクラモードにて測定し黄斑体積とし中心窩1mmの範囲の平均網膜厚を自動計測し評価に用いた.また,各症例ごとに厚さの測定基点がずれていないことを確認した.網膜感度はマイクロペリメーター1(microperimetor-1:MP-1)(Nidektechnologies,Padova,Italy)を用いた.MP-1の指標はGoldmannIII,閾値ストラテジーは4-2,固視標は1mmのシングルクロスを用いた.マニュアルモードで1×1mm内0.5°間隔,49ポイントのグリッドパターンを作成し,びまん性蛍光漏出を伴い浮腫を認め,毛細血管瘤290あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014がない部分の凝固予定部位の網膜感度を測定し,眼底写真と対比させながらその部位が確実に照射されるように格子状光凝固術を行った.その後フォローアップモードで同部位の網膜感度を測定した.光凝固術前後の視力,OCTで測定した中心窩網膜厚,黄斑体積および凝固部網膜感度の変化をWilcoxon符号付順位和検定で検討した.視力は少数視力で測定し,logarithmoftheminimalangleofresolution(logMAR)値に換算して統計処理を行った.網膜感度の変化は49ポイントの感度の平均値にて評価した.II結果平均視力(logMAR値±SD)は術前0.43±0.41(n=12),術後1カ月では0.41±0.38(n=12),2カ月では0.32±0.36(n=11),3カ月では0.27±0.44(n=12),6カ月では0.29±0.28(n=10),12カ月では0.27±0.28(n=10)であり,術後3カ月で術前と比較し有意に改善していた(p=0.044,Wilcoxon符号付順位和検定)が,その後は有意な変化は認めなかった(図1).平均中心窩網膜厚は術前396.3±164.0μm(n=12),術後1カ月では337.3±79.8μm(n=12),2カ月は357.8±139.1μm(n=12),3カ月は338.4±113.2μm(n=12),6カ月は281.3±91.3μm(n=9),12カ月は290.4±73.9μm(n=11)であり,有意な変化は認めなかった(Wilcoxon符号付順位和検定)(図2).12例全例の平均黄斑部体積は術前10.50±1.64mm3,術後1カ月では10.42±1.89mm3,2カ月は9.90±1.83mm3,3カ月は10.25±1.94mm3,6カ月は9.71±1.55mm3,12カ月は9.91±2.07mm3であり,術後6カ月で術前と比較し有意に減少していた(p=0.033,Wilcoxon符号付順位和検定)が,12カ月では有意な減少は認めなかった(図3).平均網膜感度は術前10.88±2.08dB(n=12),術後早期(1週.1カ月)では9.81±2.65dB(n=11),3カ月では10.32±2.03dB(n=7),7カ月以降の最終網膜感度は11.69±2.98dB(n=7)で有意な低下は認めなかった(Wilcoxon符号付順位和検定)(図4).各症例の平均網膜感度を,2dB以上の増減を有意とすると,術前と比較し術後早期は11眼中改善2眼(18%),不変4眼(36%),悪化5眼(45%)であった.また最終網膜感度は術前と比較し7眼中改善2眼(29%),不変3眼(43%),悪化2眼(29%)であった(表1).Wilcoxon符号付順位和検定では,術後早期は11眼中改善3眼(27%),不変1眼(9%),悪化6眼(55%)となり,最終網膜感度は7眼中改善4眼(57%),不変1眼(14%),悪化2眼(29%)であった(表2).ともに術後早期より改善している症例の割合が上昇していた.代表的な症例を以下に提示する.(130)0-0.05450400350-0.1300-0.150術前1カ月2カ月3カ月6カ月12カ月*平均中心窩網膜厚(μm)logMAR視力250-0.2-0.25-0.3-0.3520015010050-0.4-0.45観察期間-0.5術前1カ月2カ月3カ月6カ月12カ月図2平均中心窩網膜厚の推移観察期間術前と比較し有意な変化は認めなかったが減少傾向だ図1平均logMAR視力の推移った.p=NS(Wilcoxon符号付順位和検定)術前との比較では,術後3カ月でのみ有意に改善した.*p<0.05(Wilcoxon符号付順位和検定)*1210.611.5平均黄斑部体積(mm3)10.4平均網膜感度(dB)1110.2109.810.5109.69.59.499.2術前1カ月2カ月3カ月6カ月12カ月8.5術前1週~3カ月7~観察期間(n=12)1カ月(n=7)20カ月図3平均黄斑部体積の推移術後6カ月で術前と比較し有意な減少を認めたが,12カ月では有意な変化は認めなかった.*p<0.05(Wilcoxon符号付順位和検定)表1平均網膜感度の術前との比較術後早期最終網膜感度改善2眼(18%)2眼(29%)不変4眼(36%)3眼(43%)悪化5眼(45%)2眼(29%)2dB以上の変化を有意とした.78歳,女性.OCTで中心窩に漿液性網膜.離を伴う黄斑浮腫があり,FAでは黄斑部にびまん性の漏出を認めた.そこでマルチカラーレーザーを用いて格子状光凝固術を施行した.凝固条件は波長561nm,スポットサイズ100μm,凝固時間0.1秒,スペーシンング1.5,凝固出力は凝固斑がわずかに残る程度の凝固とした.小数点視力は術前0.4,術後2週以降は0.6であった.中心窩網膜厚は術前390μm,術後2週も390μmと浮腫の改善はなかったが,術後3カ月で240μmに減少,術後4カ月は229μmとなり浮腫はほぼ消失した.凝固部網膜感度は術前13.63dB,浮腫の引かない(131)(n=11)(n=7)観察期間図4平均網膜感度の推移術前と比較し有意な変化は認めなかった.p=NS(Wilcoxon符号付順位和検定)表2平均網膜感度の術前との比較術後早期最終網膜感度改善3眼(27%)4眼(57%)不変1眼(9%)1眼(14%)悪化6眼(55%)2眼(29%)Wilcoxon符号付順位和検定による.術後2週は9.84dBに低下,浮腫が引くのに伴って術後3カ月は13.22dBに上昇,術後7カ月には14.78dBと術前よりも改善した(図5,6).III考察DMEと網膜感度の相関を検討する報告は数多い.2006年Okadaら6)は,DMEで中心窩網膜厚と黄斑部網膜感度(中心10°,24ポイント:MP-1)は有意な関係があり,さらに網膜感度はDMEの予後測定因子となりうると報告していあたらしい眼科Vol.31,No.2,2014291BAD図5症例(78歳,女性):術前検査所見A:術前のカラー眼底写真.硬性白斑を伴う黄斑浮腫を認める.B:術前のフルオレセイン蛍光眼底造影撮影.黄斑部にびまん性漏出を認める.C:術前の光干渉断層計写真.漿液性網膜.離を伴う黄斑浮腫を認める.中心窩網膜厚は390μmであった.D:術前のマイクロペリメーター1.平均感度は13.63dBであった.る.2011年Hatefら7)がDMEの中心窩網膜厚(中心12°,28ポイント:OPKO/OTI)は280.320μmで最も感度が高く,それより低値あるいは高値であるほど感度は低下すると報告した.一方,DMEに対する黄斑光凝固術は,直接凝固と格子状凝固がある.ETDRS1)は1985年に黄斑局所凝固(直接凝固と格子状凝固)が視力維持に有効であることを報告し,それ以降,今日まで,エビデンスレベルの高い治療法として広く用いられてきた.しかしながら,黄斑部という最も視機能に直結する部位をレーザーにて破壊する治療であるため,黄斑機能がレーザーにより損なわれる可能性が懸念されている.このため,視力の評価はもとより,網膜感度に代表される黄斑機能評価は不可欠である.特に格子光凝固術は黄斑部全体または4分の1の範囲といった比較的広い範囲の網膜に凝固斑を置くため,今日まで光凝固術前後の感度変化を評価するためのさまざまな研究がなされてきた.格子状光凝固術前後の網膜感度はこれまでHumphrey視野計9,10),走査レーザー検眼鏡(scanninglaserophthalmoscope:SLO)4,8),highcontrastvisualdiscriminatoryfunction11)などで測定し報告されてきた.2005年Klausら8)は,DMEに対する閾値凝固術前後の黄斑部網膜感度(SLO)は1dB以上の変化を有意とすると30眼中改善15眼,不変7眼,悪化7眼だったと報告している.また,辻本ら4)は,黄斑光凝固の凝固斑を走査レーザー検眼鏡で感度を測定し,術直後,絶対暗点になることを報告している.また,Sinclairら11)は,閾値レベルの凝固は,従来のETDRS凝固に比較して網膜感度への影響が少ないことを報告している.しかし,これまでの報告では,黄斑全体の感度を評価,またはマニュアルにて凝固斑の1点のみを評価するなど,厳密に格子状凝固そのものの黄斑感度への影響を評価する方法ではなかった.その理由はこれまでの機器は同一箇所の感度を測定するのは事実上不可能であり,臨床上評価に値する治療前後のデータを得ることは不可能であったからである.一方,今回使用したMP-1はトラッキング機能による固視ずれの補正やフォローアップ機能をもち,同一箇所を測定できる網膜感度測定機器である.この利点を生かし,純粋に光凝固部位に合わせ,1×1mm内0.5°間隔,49ポイントと小さいグリットパターンをマニュアルモードで作成し,凝固部そのものの感度の術前後の変化を経時的に測定することができた.また,MP-1の網膜感度の変化については,評価の方法が確立されていないため,今回2dB以上による評価と,ポイントに対応するWilcoxon符号付順位検定を用いた.292あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(132)EFGHIJ図6症例(78歳,女性):術後検査結果E:術後2週の光干渉断層計写真.中心窩網膜厚は術前と変化なく390μmだった.F:術後2週のマイクロペリメーター1.平均網膜感度は9.84dBに低下した.G:術後3カ月の光干渉断層計写真.中心窩網膜厚は240μmに減少した.H:術後3カ月のマイクロペリメーター1.平均網膜感度は13.22dBに上昇した.I:術後7カ月の光干渉断層計写真.黄斑浮腫はほぼ消失している.J:術後7カ月のマイクロペリメーター1.平均網膜感度は術前より改善し14.78dBとなった.今回DMEに対する格子状光凝固術は,術後早期では45%の症例で凝固部の網膜感度が低下したが,術後3カ月以降は回復傾向にあった.症例数が少なく有意な黄斑部体積減少を認めたのは6カ月の時点のみであり12カ月では有意な減少は認めなかったが,平均値では減少しており,凝固部を含めた黄斑部全体の浮腫が減少傾向に転じたことに起因するものと推定される.レーザーによる網膜の障害は凝固直後から1,2カ月で形態的変化が最も強く,その後術後約2カ月で視細胞内節外節接合部(IS-OSライン)の修復が始まることをInagakiら12)が報告しており,また動物実験でも同様の報告13)がある.今回はOCTによる凝固斑の観察はしていないが,既報告におけるレーザー後の網膜障害と回復の過程が,感度の回復の過程に類似した経過をたどった.そして,黄斑部全体の浮腫が減少するにつれて凝固部局所の感度が改善し,術前より感度が改善する症例があったことを考慮すると,光凝固による障害が黄斑感度に与える影響が,浮腫改善による黄斑機能の回復で相殺され,その結果感度上昇に転じたものと推定された.今回の検討では,視力の有意な変化の時期と黄斑部体積の有意な変化の時期がずれていた.視力の変化は主として中心窩の機能を反映しているが,黄斑部体積は黄斑部全体の浮腫の評価になり視力の変化と一致しなかった可能性が考えられる.また,OCT3000では,6本のラインを用いた疑似体積での評価になり,実際の体積の評価にはなっていないことが原因とも推定される.今回の結果を,他のレーザー治療法と比較すると,同様な凝固部位の感度測定方法でマイクロパルス閾値下凝固の術前後の感度を星川らが報告しており14),術後早期に2dB以上(133)あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014293の感度低下を示した症例はなかった.また,2009年に中村ら15)は,硬性白斑が集積するDMEに対するマイクロパルス閾値下凝固前と術後3カ月で黄斑部全体の網膜感度を測定し有意な改善はみられなかったと報告している.2010年Vujosevicら16)は,DMEに対するマイクロパルス閾値下凝固,modifiedETDRS凝固を比較検討し,両者において術後12カ月の中心窩網膜厚は有意な変化を認めなかったが,黄斑部感度(中心4°,12°:MP-1)はマイクロパルス閾値下凝固では有意に改善しmodifiedETDRS凝固では有意に低下したと報告している.このように,黄斑感度の変化から推定すると,今回の調査で対象となった従来の格子状凝固より,マイクロパルス閾値下凝固のほうが低侵襲であることが考えられる.近年,選択的色素上皮凝固可能なマイクロパルス閾値下凝固術が浮腫減少に有効であることが報告されている17).従来の格子状凝固は視細胞層の破壊を免れえないが,マイクロパルスは視細胞層を破壊せず,色素上皮層に修復可能なレベルの障害を与えるのみでレーザーの効果を発揮するため,感度の変化が少ないのではないかと推定される.今回の検討は12眼と症例数が少なく,そのうち2眼は他と異なるレーザーを使用していることが検討課題としてあげられる.光凝固の効果と侵襲のバランスは今後の検討課題である.本稿の要旨は第17回日本糖尿病眼学会(2011)にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)EarlyTreatmentofDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.ArchOphthalmol103:1796-1806,19852)OlkRJ:Modifiedgridargon(blue-green)laserphotocoagulationfordiffusemacularedema.Ophthalmology93:938-950,19863)SchatzH,MadeiaD,McDonaldRetal:Progressiveenlargementoflaserscarsfollowinggridlaserphotocoagulationfordiffusediabeticmacularedema.ArchOphthalmol109:1549-1551,19914)辻本元一,斉藤喜博,井上智之ほか:格子状光凝固術のSLOMicroperimetryによる検討.眼紀47:37-41,19965)GuyerDR,D’AmicoDJ,SmithCW:Subretinalfibrousafterlaserphotocoaglationfordiabeticmacularedema.AmJOphthalmol113:652-654,19926)OkadaK,YamamotoS,MizunoyaSetal:Correlationofretinalsensitivitymeasuredwithfundus-relatedmicroperimetryandretinalthicknessineyeswithdiabeticmacularedema.Eye20:805-809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