《原著》あたらしい眼科28(11):1629.1634,2011c《原著》あたらしい眼科28(11):1629.1634,2011c南野麻美*1谷野富彦*2中込豊*3鈴村弘隆*4宇多重員*1*1二本松眼科病院*2西鎌倉谷野眼科*3中込眼科*4中野総合病院眼科EfficacyandSafetyofBimatoprostasReplacementforOtherProstaglandinAnalogsMamiNanno1),TomihikoTanino2),YutakaNakagomi3),HirotakaSuzumura4)andShigekazuUda1)1)NihonmatsuEyeHospital,2)NishikamakuraTaninoEyeClinic,3)NakagomiEyeClinic,4)DepartmentofOphthalmology,NakanoGeneralHospitalプロスタグランジン関連薬(PG薬)を3カ月以上使用し,眼圧コントロール不十分な広義原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者51例51眼において投与中のPG薬をビマトプロスト(Bim)へ切替え,眼圧下降効果と安全性を検討した.切替え前と切替え2,4,8,12,16,20,24週後における眼圧,結膜充血,角膜上皮障害を比較したところ,眼圧はすべての観察時点で下降し(すべてp<0.0001),結膜充血は16,20,24週後に有意に減少した(16,24週後各p<0.05,20週後p<0.01).角膜上皮障害に差はなかった.切替え前と切替え12,24週後にアンケートを実施し自覚症状(結膜充血,異物感,刺激感)を比較したところ,充血に変化はなく,異物感(各p<0.0001),刺激感(各p<0.001)は軽減した.以上より他のPG薬で眼圧下降効果が不十分な例ではBimへの切替えが有効と考えられた.Weevaluatedtheeffectivenessandsafetyofswitchingfromprostaglandins(PG)tobimatoprost(Bim)in51eyesof51primaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionpatientswhodidnotreachtheirtargetintraocularpressure(IOP)orwhosevisualfielddefectsprogressedafteratleast3monthsonPGtherapy.IOP,conjunctivalhyperemiaandsuperficialpunctatekeratopathy(SPK)weremeasuredatbaselineandat2,4,8,12,16,20and24weeksaftertheswitch.IOPwasreducedatalltimepoints,comparedwithbaseline(p<0.0001).Conjunctivalhyperemiawassignificantlyreducedat16,20and24weeks(p<0.05,p<0.01,respectively),whereasSPKdidnotchange.Patients’subjectivesymptomsregardingconjunctivalhyperemia,foreignbodysensationandstingingwereassessedatbaseline,12and24weeks;nochangewasnotedregardingconjunctivalhyperemia.Foreign-bodysensationandstingingwerereduced(p<0.0001,p<0.001,respectively).BimmightbeaneffectivereplacementinpatientswithinadequateIOPcontrolonPG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(11):1629.1634,2011〕Keywords:緑内障,眼圧,ビマトプロスト,ラタノプロスト,トラボプロスト.glaucoma,intraocularpressure,bimatoprost,latanoprost,travoprost.はじめに現在,緑内障に対する治療でエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧を下降させることであり,初期には薬物を用いできるだけ眼圧下降を図るのが一般的である.なかでもプロスタグランジン関連薬(prostaglandinanalogs:PG薬)は最大の眼圧下降効果が得られ,おもな副作用は眼局所のみであり,点眼回数が1日1回で,アドヒアランスの向上が期待できることから第一選択として使用されることが多い.2009年に新たに0.03%ビマトプロスト点眼液(ルミガンR,bimatoprost:Bim)が発売されプロスト系PG薬は4剤となり,その後,PG薬とb遮断薬,b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)の合剤が立て続けに使用可能となった.一方,米国ではBimが発売されてから10年以上が経過し,多くの臨床データやメタアナリシスが報告されている.それによるとBimの眼圧下降効果は他のPG薬と同等かそれ以〔別刷請求先〕南野麻美:〒132-0035東京都江戸川区平井4-10-7二本松眼科病院Reprintrequests:MamiNanno,M.D.,NihonmatsuEyeHospital,4-10-7Hirai,Edogawa-ku,Tokyo132-0035,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(117)1629上上であり,結膜充血の頻度は高く1),角膜上皮障害は同程度3,4)とされている.またラタノプロスト(latanoprost:Lat)からの切替えではさらなる眼圧下降が得られる5.7)が,結膜充血はLat未使用者よりも起きにくいと報告されている8).国内では狭義原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)および高眼圧症(ocularhypertension:OH)を対象とした第III相比較臨床試験において,副作用の発現頻度は若干高いものの眼圧下降効果はLatと同等以上であることが確認された9).そこで今回,PG薬単剤またはPG薬を含む2剤以上の併用療法で3カ月以上治療を継続し,目標眼圧に達しないか,視野障害の進行が疑われた広義POAGおよびOH患者を対象に,他のPG薬からBimへの切替えによる,眼圧下降効果および安全性,自覚症状の変化について検討した.I対象および方法1.対象対象は,2009年12月から2010年5月に中込眼科,西鎌倉谷野眼科,二本松眼科病院に通院中の患者のうち,狭義POAG,正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG),OHで,矯正視力0.7以上,HumphreyFieldAnalyzerIIの中心30-2または24-2プログラムのmeandeviation(MD)が.15dB以上で,Lat,トラボプロスト(travoprost:Trav),タフルプロスト(tafluprost:Taf)のいずれかを3カ月以上点眼し,単剤または併用療法にて眼圧コントロールが不十分,または視野障害の進行が疑われるもので,Bimへの変更に同意の得られた者を選択した.なお,1)角膜屈折矯正手術・濾過手術の既往,2)6カ月以内に内眼手術(レーザー治療を含む)の既往,3)3カ月以内に緑内障治療薬を変更,4)重症の角結膜疾患を有する,5)緑内障・高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する,6)コンタクトレンズ装用の患者は除外した.評価対象眼は片眼とし,1眼のみが症例選択条件を満たした症例では当該眼を,両眼ともに条件を満たした症例では切替え前の眼圧が高い眼,同じ眼圧であったときには右眼を選択した.本試験は倫理委員会の承認を取得し,患者からの同意を得たうえで実施した.2.方法使用していたPG薬をBimへ切替え,切替え前および切替え2,4,8,12,16,20,24週後にゴールドマン圧平眼圧計(Goldmannapplanationtonometer:GAP)による眼圧測定,細隙灯顕微鏡による結膜充血および角膜上皮障害について観察した.切替え時に使用していたPG薬以外の眼圧下降薬はそのまま継続使用した.眼圧はGAPにて2回測定した平均値とし,結膜充血は各施設に配布した共通の標準写真を用いた5段階スコア(0,0.5,1,2,3)10)で評価した.角膜1630あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011上皮障害はフルオレセイン染色後にAD(area-density)分類11)を用い,A+Dの合計スコアで評価した.視力は切替え時,12,24週後に,視野は切替え時,24週後に測定した.また切替え時および12,24週後に,結膜充血,異物感(ごろごろする感じ),刺激感について,0から10段階のVisualAnalogScale(VAS)を用いた自覚症状アンケートを実施した.観察期間中に発生した有害事象についても観察した.結果の解析は,SASver.8.0を用いて,眼圧はpairedt-test,スコアはWilcoxonsigned-ranktestまたはMann-WhitneyUtestにより行い,有意水準は5%とした.II結果選択基準を満たし,評価対象となったのは51例51眼で,男性29例,女性22例,平均年齢は66.7±11.3歳,平均MD値は.6.48±4.97dB,矯正視力の中央値は1.2,range0.7.1.5(logarithmicminimumangleofresolution:logMAR視力:.0.03±0.07)であった.緑内障の病型別では狭義POAG31眼(60.8%),NTG19眼(37.3%),OH1眼(2.0%)であった.治療薬剤数は,PG薬単剤が18眼(35.3%),PG薬を含む2剤併用が13眼(25.5%),3剤併用が17眼(33.3%),4剤併用が3眼(5.9%)であり,併用例が全体の64.7%を占めていた.切替え前に使用していたPG薬はLat22眼(43.1%),Trav24眼(47.1%),Taf5眼(9.8%)であった.Tafは5眼と少なかったため,切替え前PG薬別の検討項目においては評価対象から除外した.有害事象(鞍結節部髄膜腫)が1例に生じたが因果関係は否定された.その他,副作用は認められず,中止例はなかった.1.眼圧切替え時,切替え4,12,24週後の4つの観察時点で眼圧を測定できた50例を評価対象とした.図1に全症例および単剤,併用治療による眼圧推移を示す.全症例における切替え時の平均眼圧は18.7±3.7mmHg,4週後16.1±3.4mmHg,12週後15.3±3.5mmHg,24週後15.1±2.8mmHgであり,いずれの観察時点でも有意に下降した(すべてp<0.0001,pairedt-test).また眼圧下降率は4週後13.2±10.5%,12週後17.6±12.3%,24週後17.3±14.6%であった.単剤,併用治療でも眼圧は有意に下降し(すべてp<0.0001,pairedt-test),各々の眼圧下降率は4週後13.2±8.8%,13.3±11.4%,12週後13.5±9.6%,19.7±13.1%,24週後17.0±13.6%,17.5±15.3%であった.前PG薬別ではLatからの切替えにより平均眼圧は切替え時17.0±3.3mmHg,4週後14.5±2.6mmHg(p=0.0007),12週後13.9±2.5mmHg(p<0.0001),24週後14.1±2.5mmHg(p=0.0024)と下降し,Travからの切替えでも切替え時19.5±3.6mmHg,4週後16.8±3.5mmHg(p<0.0001),12(118)1012141618202224眼圧(mmHg):全例(n=50):単剤(n=17):併用(n=33)************************************************************************************p<0.01,****p<0.0001(vs切替え時)pairedt-test02468101214161820症例数2.0%6.0%22.0%30.0%18.0%22.0%10%以上の眼圧下降:35例(70.0%)10%以上の眼圧上昇:1例(2.0%)1012141618202224眼圧(mmHg):全例(n=50):単剤(n=17):併用(n=33)************************************************************************************p<0.01,****p<0.0001(vs切替え時)pairedt-test02468101214161820症例数2.0%6.0%22.0%30.0%18.0%22.0%10%以上の眼圧下降:35例(70.0%)10%以上の眼圧上昇:1例(2.0%)-20%≦-10%≦0%≦10%≦20%≦30%≦<-10%<0%<10%<20%<30%観察時期(週)図1ビマトプロストへの切替えによる眼圧の推移眼圧下降率全症例で,いずれの観察時点でも,眼圧は切替え時より有意に図3切替え24週後における全例(n=50)の眼圧下降率別下降した.単剤,併用治療でも眼圧は有意に下降した.分布グラフ上の数値(%)は全例に占める割合を示す.24:前PG薬:Lat(n=21):前PG薬:Trav(n=24)********************************************p<0.01,***p<0.001,****p<0.0001(vs切替え時)pairedt-test*p<0.05,**p<0.01(vs切替え時)22Wilcoxonsigned-ranktest眼圧(mmHg)20100****24812162024切替え時189080全症例に対する割合(%)16****701460**:35012:24010:1切替え時2481216202430:0.5観察時期(週)20:010図2ラタノプロスト(Lat)またはトラボプロスト(Trav)からビマトプロストへの切替えによる眼圧の推移0前PG薬Lat(n=21):単剤7例,併用14例.前PG薬Trav(n=24):単剤8例,併用16例.Lat,Travからの切替えで,切替え時よりいずれの観察時点でも有意に眼圧は下降した.週後16.1±3.9mmHg(p<0.0001),24週後15.9±2.9mmHg(p<0.0001)と下降した(pairedt-test)(図2).眼圧下降率はLat,Travそれぞれ4週後13.1±12.4%,13.3±9.3%,12週後17.3±11.1%,17.3±12.9%,24週後14.5±17.7%,17.7±10.3%であった.24週後における眼圧下降率別の症例分布を図3に示す.10%以上の眼圧下降を示したのは35眼(70%),逆に10%以上の眼圧上昇を示したのは1眼(2.0%)であった.2.結膜充血および角膜上皮障害切替え時における結膜充血スコアは,スコア0が11眼(21.6%),スコア0.5が19眼(37.3%),スコア1が15眼(29.4%),スコア2が6眼(11.8%)であり,16週後ではスコア0が9眼(20.5%),スコア0.5が25眼(56.8%),スコア1が8眼(18.2%),スコア2が2眼(4.5%),20週後ではスコア0が9眼(20.5%),スコア0.5が28眼(63.6%),スコア1が6眼(13.6%),スコア2が1眼(2.3%),24週後で(119)(51)(50)(51)(47)(51)(44)(44)(50)観察時期(週)図4充血スコアの推移横軸()の数値は症例数を示す.切替えにより結膜充血スコアは,16,20,24週後において有意な改善を認めた.はスコア0が9眼(18.0%),スコア0.5が30眼(60.0%)スコア1が9眼(18.0%),スコア2が2眼(4.0%)で,16,(,)20,24週後において有意な改善を認めた(16週後p=0.0313,20週後p=0.0028,24週後p=0.0394,Wilcoxonsigned-ranktest)(図4)が,前PG薬別に充血スコアの推移をみると,Lat,Travからの切替えともに切替え前後で有意差は認められなかった(図5).またすべての観察時点で切替え時からの変化量に両薬剤間で差はなかった.角膜上皮障害については,切替え時のA+Dの合計スコアはスコア0が38眼(74.5%),スコア2が8眼(15.7%)スコア3が4眼(7.8%),スコア4が1眼(2.0%)であり,(,)12週後ではスコア0が35眼(68.6%),スコア2が10眼(19.6%),スコア3が6眼(11.8%),24週後ではスコア0が34眼(68.0%),スコア2が12眼(24.0%),スコア3があたらしい眼科Vol.28,No.11,20111631前PG薬:Lat前PG薬:Trav10010090908080全症例に対する割合(%)全症例に対する割合(%)60:37605040302010705040:230:1:0.520:01000切替え時24812162024切替え時24812162024(22)(22)(22)(20)(22)(18)(19)(21)(22)(23)(24)(23)(24)(22)(21)(24)症例数観察時期(週)観察時期(週)図5ラタノプロスト(Lat)またはトラボプロスト(Trav)からビマトプロストへの切替えによる充血の推移各グラフの横軸()の数値は症例数を示す.充血スコアはLat,Travからの切替え前後で有意な差は認められなかった.***p<0.001,****p<0.0001(vs切替え時)Wilcoxonsigned-ranktest30充血:12週後30:12週後****30刺激感:12週後***25異物感:24週後25:24週後****25:24週後***症例数症例数2020201515151010105550-10-8-6-4-202468100-10-8-6-4-202468100-10-8-6-4-20246810切替え時との差切替え時との差切替え時との差図6切替え12,24週後におけるVAS変化量各n=48.充血の平均VASスコアは切替え時と,12,24週後で変化はなかった.異物感,刺激感の平均VASスコアは切替え時より,12,24週後で有意に改善していた.4眼(8.0%)と,いずれの観察時点でも変化はなかった.3.視力,視野観察期間中,logMAR視力は切替え時.0.03±0.07,12週後.0.04±0.07,24週後.0.04±0.07,平均MD値は切替え時.6.48±4.97dB,24週後.5.77±5.99dBと変化は認められなかった.4.自覚症状アンケート図6に切替え時,12,24週後における充血,異物感,刺激感のVASスコアの分布を示す.充血の平均VASスコアは切替え時1.36±2.15,12週後1.38±2.07,24週後1.19±2.05と変化はなかった.前PG薬別でもLatおよびTravの平均VASスコアは切替え時0.77±1.47,1.75±2.53,12週後1.49±2.22,1.09±1.86,24週後1.03±2.10,1.03±1.76であり,切替え前後で差は認められなかった.また12,24週後において切替え時からのスコア変化量に両薬剤間で差はなかった.異物感の平均VASスコアは切替え時1.95±2.37,12週後0.54±1.16,24週後0.58±1.14で,12,24週後に有意な改善を認めた(ともにp<0.0001,Wilcoxonsigned-ranktest).また前PG薬別ではLatおよびTravの平均VASスコアは切替え時1.61±2.43,2.52±2.44,12週後0.64±1.25,0.45±1.10,24週後0.58±1.25,0.66±1.16であり,切替え12,24週後で有意に改善した(Lat:12週後p=0.0410,24週後p=0.0220,Trav:12週後p<0.0001,24週後p<0.0001,Wilcoxonsigned-ranktest).また12,24週後において切替え時からのスコア変化量に両薬剤間で差はなかった.スコアが改善した症例はLatからの切替えでは12週後6眼(30.0%),24週後6眼(30.0%),Travでは12週後12眼(52.2%),24週後12眼(52.2%)で,Travからの切替えのほうが異物感の改善が多かった.刺激感の平均VASスコアは切替え時1.61±1.75,12週後0.87±1.52,24週後0.76±1.51であり,12,24週後で有意に改善していた(12週後p=0.0006,24週後p=0.0008,Wilcoxonsigned-ranktest)(図6).前PG薬別ではLatおよびTravの平均VASスコアは切替え時1.88±1.84,1.60±1.80,12週後1.07±1.92,0.65±1.13,24週後0.64±1.00,1632あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(120)0.0.(Lat:24週後p=0.0056,Trav:12週後p=0.0016,24週後p=0.0088,Wilcoxonsigned-ranktest).また12,24週後において切替え時からのスコア変化量に両薬剤間で差はなかった.スコアが改善した症例はLatからの切替えでは12週後9眼(45.0%),24週後9眼(45.0%),Travでは12週後10眼(43.5%),24週後10眼(43.5%)であった.III考按今回,選択基準を満たし,PG薬を3カ月以上点眼し,単剤または併用療法にて眼圧コントロールが不十分,または視野障害の進行が疑われ,次なる薬物治療のステップに進む必要がある狭義POAG,NTG,OH患者において,使用中のPG薬をBimへ切替え,眼圧下降効果と安全性,患者の自覚症状を検討した.眼圧は使用薬剤数やPG薬の種類に拘わらずBimへの切替えにより有意に下降した.Lat単剤および併用治療に対する効果不十分な症例でLatをBimへ切替えた過去の報告7)では,切替え時の眼圧は20.4mmHg,2カ月後の眼圧下降幅は3.4mmHg(下降率の記載なし)とされている.今回,Latからの切替え症例における眼圧値は切替え時17.0±3.3mmHg,4週後14.5±2.6mmHg,12週後13.9±2.5mmHg,24週後14.1±2.5mmHgで,眼圧下降率は4週後13.1±12.4%,12週後17.3±11.1%,24週後14.5±17.7%であり,切替え時の眼圧は若干低いものの,ほぼ同様の結果を得ることができた.一方,TravからBimへの切替えの報告は見当たらず,直接比較試験では両薬剤間の眼圧下降効果にほとんど差はないとされている12).しかしLat効果不十分例に対するTravとBimの効果を比較した報告5)では,眼圧下降効果に差が認められており,Bimの作用部位,プロスタマイド受容体が他のPG薬のプロスタノイドFP受容体とは異なる点13)が今回の結果に影響したと考えられた.また,今回対象となった症例は前PG薬のノンレスポンダーで,Bimへの切替えによって眼圧が下降した可能性がある.今後,無治療時眼圧からの各点眼薬の眼圧下降についての検討が必要である.なお,切替え時の眼圧がLat17.0±3.3mmHgに比較しTrav19.5±3.6mmHgと高いが,これは参加3施設においてLat効果不十分例にTravを使用していた例が多いことが影響したものと推測された.結膜充血については,過去の報告でBimは結膜充血の頻度が高い1)が,Latから切替えてBimを使用すると未使用時に比べ充血が起こりにくく8),LatからTravへの切替えよりも充血増強例が少ないとされている5).今回の検討では,TravからBimへの切替えで,有意差はなかったもののスコア1以上の充血が減少した.これに加え前PG薬からの切替(121)えによりBimの充血が起こりにくかったため,全体として16週以降は充血が改善される結果となったと考えられた.VASを用いた患者アンケートでも,有意差はなかったものの,スコアが改善した症例はLatからの切替えでは12週後2眼(10.0%),24週後3眼(15.0%),Travでは12週後7眼(30.4%),24週後8眼(34.8%)で,充血が改善したと回答した症例はLatよりもTravからの切替え例で多く,充血スコアの結果を支持していると考えられた.また,充血については切替え時に十分な説明を行っており,充血が理由で中止を希望した患者はいなかったことから,他のPG薬からの切替えという使用方法であればBimの結膜充血はアドヒアランスへの影響が少ないことが示唆された.点眼時の異物感と刺激感については切替えにより改善した.これは,Lat(キサラタンR:pH6.5.6.9),Trav(トラバタンズR:pH5.7),Bim(ルミガンR:pH6.9.7.5)のpHの違いで,より涙液のpH7.75±0.1914)に近いBimへの切替えにより,点眼時の異物感,刺激感が改善されたと考えられた.このことから,他PG薬で異物感,刺激感を訴える患者にはBimへの変更を考慮してもよいと思われた.PG薬の副作用として,最近上眼瞼溝の顕性化が問題となっているが,今回は検討を行わず,また経過観察中,眼周囲の変化を訴えた症例もなかった.緑内障は長期の管理が必要な慢性疾患であり,薬物治療における点眼薬の選択に当たっては,眼圧下降効果のみならず,アドヒアランスに影響を与える副作用など諸事象も考慮して決定する必要がある.Bim以外のPG薬を含む治療で眼圧コントロール不十分の場合,結膜充血発現の可能性について十分に患者に説明を行ったうえで,使用中のPG薬をBimに変更することは,さらなる眼圧下降効果を得るとともに,自覚症状の改善も期待できる価値ある手段であり,緑内障治療の質を向上できるものと考えた.本論文の要旨は第21回日本緑内障学会にて発表した.文献1)AptelF,CucheratM,DenisPetal:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667673,20082)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20053)WhitsonJT,TrattlerWB,MatossianCetal:Ocularsurfacetolerabilityofprostaglandinanalogsinpatientswithglaucomaorocularhypertension.JOculPharmacolTher26:287-292,20104)StewartWC,StewartJA,JenkinsJNetal:Cornealpuncあたらしい眼科Vol.28,No.11,20111633tatestainingwithlatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinhealthysubjects.JGlaucoma12:475-479,2003tatestainingwithlatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinhealthysubjects.JGlaucoma12:475-479,2003JA,KatzmanB,AckermanSLetal:Efficacyandtolerabilityofbimatoprostversustravoprostinpatientspreviouslyonlatanoprost:a3-month,randomised,masked-evaluator,multicentrestudy.BrJOphthalmol94:74-79,20106)CassonRJ,LiuL,GrahamSLetal:Efficacyandsafetyofbimatoprostasreplacementforlatanoprostinpatientswithglaucomaorocularhypertension:auniocularswitchstudy.JGlaucoma18:582-588,20097)BourniasTE,LeeD,GrossRetal:Ocularhypotensiveefficacyofbimatoprostwhenusedasareplacementforlatanoprostinthetreatmentofglaucomaandocularhypertension.JOculPharmacolTher19:193-203,20038)KurtzS,MannO:Incidenceofhyperemiaassociatedwithbimatoprosttreatmentinnaivesubjectsandinsubjectspreviouslytreatedwithlatanoprost.EurJOphthalmol19:400-403,20099)北澤克明,米虫節夫:ビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験.あたらしい眼科27:401-410,201010)LaibovitzRA,VanDenburghAM,FelixCetal:ComparisonoftheocularhypotensivelipidAGN192024withtimolol:dosing,efficacy,andsafetyevaluationofanovelcompoundforglaucomamanagement.ArchOphthalmol119:994-1000,200111)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,200312)CantorLB,HoopJ,MorganLetal:Intraocularpressure-loweringefficacyofbimatoprost0.03%andtravoprost0.004%inpatientswithglaucomaorocularhypertension.BrJOphthalmol90:1370-1373,200613)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:IdentificationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,200814)布出優子,小橋俊子,松本美智子ほか:正常人の涙液pH値.眼臨82:648-651,1988***1634あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(122)