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ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬とラタノプロスト点眼薬併用症例におけるラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への切り替え効果

2014年10月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(10):1531.1534,2014cドルゾラミド/チモロール配合点眼薬とラタノプロスト点眼薬併用症例におけるラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への切り替え効果井上賢治*1方倉聖基*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科EfficacyofChangingfromLatanoprosttoBimatoprostEyedrops,inPatientsConcomitantlyUsingDorzolamide/TimololFixed-CombinationEyedropsandLatanoprostKenjiInoue1),SeikiKatakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ラタノプロストとドルゾラミド/チモロール配合剤(DTFC)を併用中でラタノプロストを変更することでさらなる眼圧下降が期待され,今回検討した.対象および方法:ラタノプロストとDTFCを併用中で,眼圧下降が不十分な開放隅角緑内障32例32眼を対象とした.ラタノプロストを中止し,ビマトプロストに切り替えた.DTFCは継続とした.眼圧を変更前,変更1,3カ月後に測定し,比較した.変更後の副作用を来院ごとに調査した.結果:眼圧は変更1カ月後16.9±3.5mmHg,3カ月後16.3±3.2mmHgで,変更前17.6±2.5mmHgに比べて有意に下降した(p<0.05).脱落例は3例(9.4%)で,副作用(下眼瞼腫脹),緑内障手術施行,転医の各1例だった.結論:ラタノプロストとDTFC併用患者において,ラタノプロストをビマトプロストへ変更することで眼圧下降が得られ,安全性も良好だった.Purpose:Inpatientsusingdorzolamide/timololfixed-combinationeyedrops(DTFC)andlatanoprost,furtherdecreaseinintraocularpressure(IOP)isexpectedwithchangeoflatanoprost.Subjectsandmethods:Subjectswere32open-angleglaucomapatientsconcomitantlyusingDTFCandlatanoprost,inwhomIOP-decreasingefficacywasinsufficient.Thelatanoprostwaschangedtobimatoprost;DTFCwascontinued.IOPbeforeandat1and3monthsafterthechangewerecompared;adversereactionswereexamined.Results:IOPat1month(16.9±3.5mmHg)and3months(16.3±3.2mmHg)afterthechangeshowedsignificantdecreasefromthepre-changelevel(17.6±2.5mmHg).Threecases(9.4%)werediscontinuedduerespectivelytoadversereaction(swellingoflowereyelid),glaucomasurgeryandchangeofphysician.Conclusion:InpatientsconcomitantlyusingDTFCandlatanoprostwhochangefromlatanoprosttobimatoprost,IOPdecreaseandsafetyaresatisfactory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1531.1534,2014〕Keywords:ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬,ラタノプロスト点眼薬,ビマトプロスト点眼薬,切り替え,眼圧,副作用.dorzolamide/timololfixedcombinationeyedrops,latanoprosteyedrops,bimatoprosteyedrops,change,intraocularpressure,adversereactions.はじめに緑内障患者において視野維持効果が高いエビデンスで示されているのは眼圧下降療法のみである1,2).眼圧下降のために通常点眼薬治療が第一選択である.点眼薬治療は単剤から行うが,眼圧下降効果が不十分な場合は点眼薬の変更や追加が推奨されている3).これを繰り返すと多剤併用となる.しかし,点眼回数が増える多剤併用症例ではアドヒアランスの低下が問題となり4),アドヒアランス向上を目的として配合点眼薬が開発された.日本ではラタノプロスト点眼薬あるいはトラボプロスト点眼薬とマレイン酸チモロール点眼薬の配〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(109)1531 合点眼薬,ドルゾラミド点眼薬あるいはブリンゾラミド点眼薬とマレイン酸チモロール点眼薬の配合点眼薬が使用可能である.臨床現場では,プロスタグランジン/チモロール配合点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬,プロスタグランジン点眼薬+炭酸脱水酵素阻害薬/チモロール配合点眼薬の組み合わせが多く使用されている.点眼薬の変更に関しては,プロスタグランジン点眼薬を他のプロスタグランジン点眼薬へ変更することで眼圧が下降するという報告5.16)が多くみられるが,配合点眼薬との併用症例におけるプロスタグランジン点眼薬の変更を検討した報告はない.今回,ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬とラタノプロスト点眼薬を併用中の患者を対象にして,ラタノプロスト点眼薬をビマトプロスト点眼薬に変更した際の眼圧下降効果と安全性を検討した.I対象および方法2011年7月から2012年9月までの間に井上眼科病院に通院中で,ラタノプロスト点眼薬とドルゾラミド/チモロール配合点眼薬のみを使用中で,眼圧下降効果が不十分な開放隅角緑内障32例32眼(男性13例13眼,女性19例19眼)を対象とし,前向きに研究を行った.平均年齢は73.0±6.9歳(平均±標準偏差)(60.85歳)であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障(狭義)30例,落屑緑内障2例であった.Humphrey視野のmeandeviation(MD)値は.10.3±6.2dB(.23.11.0.63dB)であった.ビマトプロスト点眼薬へ変更前の眼圧は17.6±2.5mmHg(12.23mmHg)であった.両眼該当例では眼圧の高い眼を,眼圧が同値の場合は右眼を,片眼症例では該当眼を解析対象とした.使用中のラタノプロスト点眼薬を中止し,washout期間なしでビマトプロスト点眼薬(1日1回夜点眼)に変更した.ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬は継続使用とした.点眼変更前と変更1,3カ月後に患者ごとにほぼ同時刻に眼圧(mmHg)22.0**20.018.016.014.012.010.08.06.04.0*p<0.052.00.0変更前変更1カ月後変更3カ月後図1点眼薬変更前後の眼圧(ANOVAおよびBonfferoni/Dunn検定,*p<0.05)Goldmann圧平眼圧計で同一の検者が眼圧を測定し,比較した(ANOVAおよびBonferroni/Dunn検定).変更1,3カ月後の変更前と比べた眼圧下降幅を調査した.変更1,3カ月後の変更前と比べた眼圧下降率を算出し,比較した(Friedman検定).変更後に来院時ごとに副作用を調査した.有意水準はいずれも,p<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理委員会で承認され,研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を得た後に行った.II結果眼圧は変更1カ月後16.9±3.5mmHg,3カ月後16.3±3.2mmHgで,変更前17.6±2.5mmHgと比べて有意に下降した(p<0.05)(図1).眼圧下降幅は変更1カ月後では2mmHg以上下降した症例は11例(35.5%),±1mmHg以内の症例は17例(54.8%),2mmHg以上上昇した症例は3例(9.7%)だった(図2).変更3カ月後では2mmHg以上下降した症例は14例(48.3%),±1mmHg以内の症例は12例(41.4%),2mmHg以上上昇した症例は3例(10.3%)だった.眼圧下降率は,変更1カ月後4.1±10.8%,3カ月後6.7±10.8%で同等だった(p=0.4521).変更3カ月後までの脱落例は3例(9.4%)だった.内訳は変更1カ月後に下眼瞼腫脹が出現した1例,変更2カ月後に眼圧が上昇したために緑内障手術を施行した1例,変更2カ月後に転居に伴い転医した1例だった.下眼瞼腫脹が出現した症例ではビマトプロスト点眼薬をラタノプロスト点眼薬に戻したところ症状は消失した.III考按プロスタグランジン点眼薬の変更による眼圧下降効果の報告のなかでラタノプロスト点眼薬をビマトプロスト点眼薬に変更した報告5.16)が多い.ラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への変更では眼圧は有意に下降し,その眼圧下降幅は0.51.6.0mmHg,眼圧下降率は3.0.24.9%であ2mmHg以上2mmHg以上上昇上昇3例,9.7%3例,10.3%2mmHg以上下降11例,35.5%±1mmHg以内17例,54.8%2mmHg以上下降14例,48.3%±1mmHg以内12例,41.4%変更1カ月後変更3カ月後図2点眼薬変更1,3カ月後の眼圧下降幅1532あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(110) る5.16).プロスタグランジン点眼薬の変更により眼圧が下降する理由として,プロスタグランジン点眼薬に対するノンレスポンダーの存在があげられる.ノンレスポンダーのプロスタグランジン点眼薬を他のプロスタグランジン点眼薬に変更することで眼圧が下降するのは妥当で,ラタノプロスト点眼薬に対するノンレスポンダー症例でビマトプロスト点眼薬に変更したところ眼圧が下降したと報告されている5.8).さらに,その眼圧下降幅は1.9.6.0mmHg,眼圧下降率は11.9.24.9%と良好である.しかし,ノンレスポンダーの定義は定まっておらず,ラタノプロスト点眼薬単剤2カ月間投与で眼圧下降率が10%未満の症例5),ラタノプロスト点眼薬単剤8週間投与で眼圧下降幅が3mmHg以下の症例6),ラタノプロスト点眼薬単剤12週間投与で眼圧下降率が20%以下の症例7),ラタノプロスト点眼薬を含む治療を4週間以上行い眼圧下降率が20%未満の症例8)と報告により異なる.その他にプロスタグランジン点眼薬の変更により眼圧が下降する理由として,アドヒアランスの向上があげられる.変更により眼圧下降の必要性を再認識した症例や副作用が軽減する症例が考えられる.変更後のプロスタグランジン点眼薬のほうが変更前のプロスタグランジン点眼薬よりも眼圧下降効果が強力である可能性もある.プロスタグランジン点眼薬の化学構造は各薬剤で異なり,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストはイソプロピルエステル型で,ビマトプロストはエチルアミド型である.エチルアミド型では加水分解されて酸型となると他の3剤と同様にプロスタノイド受容体に結合する.Liangら17)は,ビマトプロストはエチルアミド型でもプロスタノイド受容体とそのスプライスバリアントの複合体に直接結合することができ,眼圧下降機序が他のプロスタグランジン点眼薬と異なると報告した.今回は変更1,3カ月後に眼圧は有意に下降した.対象のなかにラタノプロスト点眼薬のノンレスポンダーが含まれていた可能性はあるが,ラタノプロスト点眼薬投与前の眼圧がわからないので詳細は不明である.また,眼圧下降効果が不十分な症例を対象としたため,点眼薬変更によりアドヒアランスが向上した可能性も考えられる.一方,ラタノプロスト点眼薬の副作用が出現したためにビマトプロスト点眼薬へ変更した症例はなく,副作用の軽減によるアドヒアランスの向上は今回の症例では考えづらい.しかし,変更後に眼圧が2mmHg以上上昇した症例が,変更1カ月後に9.7%,変更3カ月後には10.3%存在し,さらに変更2カ月後に眼圧が上昇したために緑内障手術を施行した症例もあり,それらの症例はビマトプロスト点眼薬に対するノンレスポンダーの可能性がある.ラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬へ変更した報告において,ラタノプロスト点眼薬単剤症例での変更5.15),ラタノプロスト点眼薬を含む多剤併用症例での変更8.12,16)がある.Lawら9)は,多剤併用症例では変更により(111)眼圧が変化なかったと報告した.広田ら10)は,ラタノプロスト点眼薬とb遮断点眼薬併用症例では眼圧は変更2週間後には差がなかったが,変更4.24週間後には有意に下降したと報告した.南野ら11)は,ラタノプロスト点眼薬あるいはトラボプロスト点眼薬を含む多剤併用症例では変更後に眼圧は有意に下降し,その眼圧下降率は変更4.24週間後で13.3.19.7%だったと報告した.仲ら16)は,プロスタグランジン点眼薬およびb遮断薬点眼薬を含む2種類以上の点眼薬併用症例では眼圧は変更3カ月後に有意に下降し,眼圧下降率は10%だったと報告した.今回は全症例がラタノプロスト点眼薬とドルゾラミド/チモロール配合点眼薬併用症例であり,多剤併用症例においても過去の報告10,11,16)と同様にビマトプロスト点眼薬への変更により眼圧が有意に下降する可能性がある.ラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への変更による副作用の頻度は0.9.5%と報告されている5.16).その内訳は結膜充血,点状表層角膜炎,アレルギー性結膜炎,眼痛,掻痒感,刺激感,霧視,異物感,眼瞼色素沈着,睫毛延長である.今回は副作用は3.1%で出現し,下眼瞼腫脹1例だった.ラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への変更による安全性は良好である.結論としてラタノプロスト点眼薬とドルゾラミド/チモロール配合点眼薬を併用中の開放隅角緑内障症例において,ラタノプロスト点眼薬をビマトプロスト点眼薬へ変更することで,3カ月間にわたり眼圧は下降し,安全性も良好だった.配合点眼薬との併用症例においてもプロスタグランジン点眼薬の変更は眼圧下降治療における選択肢となりうる.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19982)TheAGISInvestigators.TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS):7.Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20003)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:3-46,20124)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-242,20095)GandolfiSA,CiminoL:Effectofbimatoprostonpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhoarenonresponderstolatanoprost.Ophthalmology110:609-614,20036)WilliamsRD:Efficacyofbimatoprostinglaucomaandocularhypertensionunresponsivetolatanoprost.Advあたらしい眼科Vol.31,No.10,20141533 Ther19:275-281,20027)SatoS,HirookaK,BabaTetal:Efficacyandsafetyofswitchingfromtopicallatanoprosttobimatoprostinpatientswithnormal-tensionglaucoma.JOculPharmacolTher27:499-502,20118)SontyS,DonthamsettiV,VangipuramGetal:LongtermIOPloweringwithbimatoprostinopen-angleglaucomapatientspoorlyresponsivetolatanoprost.JOculPharmacolTher24:517-520,20089)LawSK,SongBJ,FangEetal:Feasibilityandefficacyofamassswitchfromlatanoprosttobimatoprostinglaucomapatientsinaprepaidhealthmaintenanceorganization.Ophthalmology112:2123-2130,200510)広田篤,井上康,永山幹夫ほか:ラタノプロスト効果不十分例の点眼をビマトプロストに切替えたときの眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科29:259-265,201211)南野麻美,谷野富彦,中込豊ほか:各種プロスタグランジン関連薬の0.03%ビマトプロスト点眼液への切替えによる眼圧下降効果.あたらしい眼科28:1629-1634,201112)松原彩来,徳田直人,金成真由ほか:プロスト系プロスタグランジン関連薬からビマトプロストへ切り替え後の眼圧推移と副作用発現頻度.あたらしい眼科30:1165-1170,201313)KammerJA,KatzmanB,AckermanSLetal:Efficacyandtolerabilityofbimatoprostversustravoprostinpatientspreviouslyonlatanoprost:a3-month,randomised,masked-evaluator,multicenterstudy.BrJOphthalmol94:74-79,201014)BourniasTE,LeeD,GrossRetal:Ocularhypertensiveefficacyofbimatoprostwhenusedasareplacementforlatanoprostinthetreatmentofglaucomaandocularhypertension.JOculPharmacolTher19:193-203,200315)CassonRJ,LiuL,GrahamSLetal:Efficacyandsafetyofbimatoprostasreplacementforlatanoprostinpatientswithglaucomaorocularhypertension.Auniocularswitchstudy.JGlaucoma18:582-588,200916)仲昌彦,山本麻梨亜,金学海ほか:原発開放隅角緑内障患者に対する0.03%ビマトプロスト切り替えによる眼圧下降効果と安全性の検討.臨眼68:219-224,201417)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:IdentificationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,2008***1534あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(112)

ラタノプロスト後発品点眼薬の角膜上皮細胞に対する安全性の検討

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(97)849《第30回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科28(6):849.854,2011c〔別刷請求先〕福田正道:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学1-1金沢医科大学眼科学Reprintrequests:MasamichiFukuda,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,1-1Daigaku,Uchinadamachi,Kahoku-gun,Ishikawa920-0293,JAPANラタノプロスト後発品点眼薬の角膜上皮細胞に対する安全性の検討福田正道稲垣伸亮萩原健太矢口裕基佐々木洋金沢医科大学眼科学GenericVersionsofLatanoprostOphthalmicSolutionEvaluatedforSafetytoCornealEpithelialCellsMasamichiFukuda,ShinsukeInagaki,KentaHagihara,HiromotoYaguchiandHiroshiSasakiDepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity目的:11種類のラタノプロスト後発品点眼薬の培養家兎由来角膜細胞(SIRC)に対する安全性を評価した.方法:SIRC(2×105cells)を10%fetalbovineserum(FBS)添加Dulbecco’smodifiedEagle’s(DME)培地37℃,5%CO2下でコンフルエントの状態で,12種のラタノプロスト点眼薬およびリン酸緩衝液(PBS)を0,4,8,15,30および60分間接触後,細胞数をコールターカウンター法で測定した.PBS接触細胞での細胞数を100として,細胞生存率(%)を算出し,50%細胞致死時間〔CDT50(分)〕を算出した.一方,invivo試験では家兎眼に先発品と塩化ベンザルコニウム(BAK)を使用していない3種類の点眼薬を5分ごと5回点眼し,点眼終了2分後の角膜抵抗値(CR)を測定し,角膜抵抗率(CR[%])を算出した.結果:12種のラタノプロスト点眼薬の細胞生存率は接触時間の経過に伴い,徐々に減少し,接触30分後で30%以下に減少する群と50%以上を維持する2つの群に大きく分けられた.細胞生存率が30%以下の群ではCDT50(分)は≦15分,50%群以上の群ではCDT50(分)は>30分であった.一方,invivo試験ではCDT50(分)が≦15分の点眼液において,CR(%)が有意に減少した.結論:12種のラタノプロスト点眼薬の角膜細胞障害への影響は点眼薬中の添加物の種類と量により,2群に分類することができた.細胞障害の強い群においては添加物であるBAKの関与が考えられた.Purpose:Eleven(11)genericversionsoflatanoprostophthalmicsolutionwereevaluatedforsafetytoculturedrabbitcornealcells(SIRC).Methods:SIRCcells(2×105cells),inaconfluentstatein10%fetalbovineserum(FBS)-addedDulbecco’smodifiedEagle’s(DME)mediumat37℃with5%CO2,wereputintocontactwith12latanoprostophthalmicsolutionsandphosphatebufferedsalinefor0,4,8,15,30and60minutes.ThecellswerethencountedbytheCoulterCountermethod.Takingthenumberofcellsincontactwithphosphatebufferedsaline(PBS)toequal100,cellsurvivalrates(%)and50%celldeathtimes(CDT50[min])werecalculated.Fortheinvivoexperiments,eachophthalmicsolutionwasinstilledintorabbiteyes5timesatintervalsof5minutes.Cornealresistance(CR)wasmeasuredat2minutesafterinstillation,andcornealresistancerates(CR[%])werecalculated.Results:Whilethecellswereincontactwiththe12solutions,theirsurvivalratesdecreasedgraduallyovertime.Accordingtothecellsurvivalrateafter30minutesofcontact,thesolutionsweredividedintotwomajorgroups:onewithcellsurvivalratesdecreasingto30%orlower,andonewithratesremainingat50%orhigher.The30%orlowergrouphadCDT50≦15min,whilethe50%orhighergrouphadCDT50>30min.Intheinvivoexperiments,CR(%)decreasedsignificantlyintheCDT50≦15mingroupofsolutions.Conclusions:The12latanoprostophthalmicsolutionswereclassifiedintotwogroupsaccordingtotheclassandqualityoftheirpreservativesthatcouldpossiblyaffectcornealcells.Thegroupwithseverecelldamagemayexhibitapossibleassociationwiththeuseofbenzalkoniumchloride(BAK)aspreservative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):849.854,2011〕850あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(98)はじめに近年,プロスタグランジン関連点眼薬の新規の開発,配合剤の登場およびラタノプロスト点眼薬の後発品の発売など,緑内障治療点眼薬の開発はめざましく,緑内障治療の選択肢が広がった.その一方で,これらの点眼薬を適切に臨床応用するためには,個々の点眼薬の特徴を把握することが重要な事項である.特に,ラタノプロスト点眼薬の後発品は2010年5月に22品目が発売され,各後発品の特徴を把握することが重要になっている.後発品点眼薬の場合は先発品の場合と異なり,添加物の種類とその量が異なることがほとんどであり,必ずしも,先発品と後発品の有効性,安全性,安定性およびさし心地が同等とはいえないのが一般的である.これらの現状を踏まえて,筆者らはこれまでに,培養家兎由来角膜細胞による評価法(invitro)や角膜抵抗測定装置による評価法(invivo)を用いて,抗菌点眼薬,非ステロイド点眼薬,および抗緑内障点眼薬などの角膜上皮細胞に対する安全性を評価している1,2).本研究では先発品と11種類のラタノプロスト点眼薬(後発品)の角膜上皮への影響を評価した.I実験材料1.検討点眼薬検討点眼薬の添加物については表1に示した.キサラタンR点眼液0.005%(ファイザー㈱)(先発品):主成分はラタノプロスト〔塩化ベンザルコニウム(BAK)(0.02%)(プロスタグランジンF2a誘導体(以下,『キサラタン』と略す〕.後発品としては0.005%『コーワ』(興和㈱),0.005%『ニットー』(日東メディック㈱),0.005%『科研』(科研製薬㈱),0.005%『日医工』(日医工㈱),0.005%『ニッテン』(㈱ニッテン),0.005%『アメル』(共和薬品工業㈱),0.005%『AA』(バイオテックベイ㈱),0.005%『わかもと』(わかもと製薬㈱),0.005%『センジュ』(千寿製薬㈱),0.005%PF『日点』(㈱日本点眼液研究所),0.005%『NP』(ニプロファーマ㈱)の後発品11種類と先発品1種類を実験に使用した.また,塩化ベンザルコニウム(BAK)(0.0025%,0.005%,0.01%,0.02%)(東京化学工業㈱)についても同様の実験を行った.Keywords:ラタノプロスト点眼薬,培養家兎由来角膜細胞(SIRC),50%細胞致死時間〔CDT50(分)〕,塩化ベンザルコニウム(BAK),角膜電気抵抗,家兎眼.latanoprostophthalmicsolution,culturedrabbitcornealcells(SIRC),50%celldeathtimes(CDT50[min]),benzalkoniumchloride(BAK),cornealresistances,rabbiteye.表112種類のラタノプロスト点眼薬の組成商品名防腐剤添加物キサラタン点眼液0.005%BAK◎リン酸水素Na,リン酸二水素Na,塩化Na,エデト酸Na水和物ラタノプロスト点眼液0.005%「コーワ」BAK○トロメタモール,クエン酸,塩酸,d-マンニトール,グリセリン,ポリソルベート80,ヒプロメロースラタノプロスト点眼液0.005%「ニットー」BAK○リン酸水素Na水和物,リン酸二水素Na,ポリソルベート80,塩酸,水酸化Naラタノプロスト点眼液0.005%「科研」BAK◎リン酸水素Na水和物,無水リン酸二水素Na,モノステアリン酸ポリエチレングリコール,ステアリン酸ポリオキシル40,等張化剤ラタノプロスト点眼液0.005%「日医工」BAK○リン酸水素Na,リン酸二水素Na,塩化Na,ポリソルベート80,エデト酸Na水和物,pH調整剤ラタノプロスト点眼液0.005%「ニッテン」安息香酸Naホウ酸,トロメタモール,ポリオキシエチレンヒマシ油,エデト酸Na水和物,pH調整剤ラタノプロスト点眼液0.005%「アメル」BAK△リン酸水素Na水和物,リン酸二水素Na,ポリソルベート80,pH調整剤,等張化剤ラタノプロスト点眼液0.005%「AA」BAK◎リン酸水素Na水和物,リン酸二水素Na,pH調整剤,等張化剤ラタノプロスト点眼液0.005%「わかもと」BAK◎リン酸水素Na水和物,リン酸二水素Na,塩化Na,エデト酸Na水和物ラタノプロスト点眼液0.005%「センジュ」BAK◎リン酸水素Na水和物,リン酸二水素Na,塩化Na,塩酸,水酸化NaラタノプロストPF点眼液0.005%「日点」BAK×ホウ酸,トロメタモール,ポリオキシエチレンヒマシ油,エデト酸Na水和物,pH調整剤ラタノプロスト点眼液0.005%「NP」BAK×ホウ酸,ホウ砂,プロピレングリコール,ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60,ポリソルベート80塩化ベンザルコニウム(BAK)濃度◎:0.02%,○:0.01%,△:0.005%,×:0%.(99)あたらしい眼科Vol.28,No.6,20118512.使用動物ニュージーランド成熟白色家兎(NZW;体重3.0.3.5kg)(雄性,16羽)を本実験に使用した.動物の使用にあたり,金沢医科大学の動物使用倫理委員会の使用基準に従い,そのうえ,実験はARVO(TheAssociationforResearchinVisionandOphthalmology)のガイドラインに従って,動物に負担が掛らないように,配慮して行った.3.使用細胞株細胞株は家兎由来角膜細胞(ATCCCCL60)(以下,SIRCと略す)を使用し,10%fetalbovineserum(FBS)添加Dulbecco’smodifiedEagle’s(DME)培地で37℃,5%CO2下で培養した.4.角膜抵抗測定装置角膜抵抗値(以下,CRと略す)の測定には,角膜抵抗測定装置(Cornealresistancedevice,CRDFukudamodel2007)を用いた3).本装置は,角膜CL(コンタクトレンズ)電極(メイヨー製)とファンクション・ジェネレータ(Dagatron,Seoul,Korea),アイソレーター(BSI-2;BAKElectronics,INC,USA)およびPowerLabシステム(ADInstruments,Australia)から構成されている.角膜CL電極はアクリル樹脂製で家兎角膜形状に対応する直径とベースカーブとを有している.弯曲凹面に設けられた関電極および不関電極の材質はいずれも金で,その外径(直径)はそれぞれ12mm,4.8mm,および幅が0.8mm,0.6mmである.測定条件は交流,周波数;1,000Hz,波形:矩形波,duration:5ms,電流:±50μAで設定した.II実験方法1.培養家兎由来角膜細胞による評価(invitro)SIRC(2×105cells)をDME-10%FBS培地37℃,5%CO25日間培養後,12種類の各点眼薬(200μl)およびBAK溶液を0,4,8,15,30および60分間接触後,細胞数をコールターカウンター法で測定した.薬剤非接触細胞での細胞数を100として,細胞生存率(%)を算出した.その後,各種点眼薬の50%細胞致死時間(以下,CDT50)を算出した.CDT50(分)は生存率(%)をもとにして,2次方程式の解の公式,aX2+bX+c=0(≠0),X=.b±b2.4ac/2aにより求めた.Y軸値が50%となるときのX軸値を2次方程式から求め,これをCDT50(分)値とした.2.角膜抵抗測定法による評価(invivo)成熟白色家兎の結膜.内に0.005%『キサラタン』,0.005%『NP』,0.005%PF『日点』,0.005%『ニッテン』およびBAK溶液(0.01%,0.02%)のいずれかを5分ごと5回(1回50μl)を点眼し,点眼終了2分後のCRを測定した.家兎を8群に分けて1群に4眼を使用した.CRの測定法には角膜抵抗測定装置を用い,CR値(W)とCR比(%)の算出はつぎのように行った.CR(W)=電圧(V)/電流(A)CR比(%)=点眼後のCR×100/点眼前のCR3.フルオレセイン染色法による角膜障害の評価各点眼薬による角膜上皮障害の有無は点眼終了2分後に1%fluoresceinsodium2μlを結膜.内に点眼し,細隙灯顕微鏡下で観察した.染色の有無をみた.4.統計学的処理検定はStudent’st-testを行い,有意水準は5%とした.III結果1.培養家兎由来角膜細胞による評価(invitro)12種のラタノプロスト点眼薬の細胞生存率は接触時間の経過に伴い,徐々に減少し,接触30分後で30%以下に減少する群と接触30分後で50%以上を維持する2つの群に大きく分けられた(図1).また,細胞生存率が30%以下の群ではCDT50(分)は≦15分,50%群以上の群ではCDT50(分)は>30分であった.各種点眼薬のCDT50はキサラタン(先発品):7.2分,センジュ:9.3分,AA:10.1分,わかもと:生存率(%)時間(分)わかもとコーワニットー科研日医工アメルAA日点PFニッテンセンジュNPキサラタン1251007550250010203040506070図1培養家兎由来角膜細胞による評価(12種類のラタノプロスト点眼薬)(平均値±SD)(n=4.6)12010080604020001020時間(分)生存率(%)3040図2培養家兎由来角膜細胞による評価(BAK溶液)(平均値±SD)(n=4.6)◆:BAK(0.0025%),■:BAK(0.005%),▲:BAK(0.01%),×:BAK(0.02%).852あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(100)10.2分,科研:15分,日東:37.9分,コーワ:43.2分,日医工:46.3分,NP,アメル,ニッテンおよび日点PFは60分以上であった.BAK溶液のCDT50(分)は0.0025%BAK:50.4分>0.005%BAK:14.5分>0.01%BAK:8.1分>0.02%BAK:4.0分の順であった(図2,3).2.角膜抵抗測定法による評価(invivo)角膜抵抗測定法による評価では点眼終了2分後でCR(%)はニッテン:110.9%,日点PF:99.1%およびNP:101.6%であり,有意な低下はみられなかったが,キサラタン:86.5%では有意な低下がみられた(p<0.001).BAK溶液のCR(%)では点眼終了2分後でBAK(0.01%)溶液では90.5%,BAK(0.02%)溶液では68.7%の有意な低下がみられた(p<0.001)(図4).3.フルオレセイン染色法による角膜障害の評価(invivo)フルオレセイン染色による点状角膜症の評価ではキサラタン,BAK(0.01%),BAK(0.02%)溶液では点眼終了2分後に角膜の染色がみられた(n=4).一方,NP,ニッテン,および日点PFでは染色はみられなかった(n=4).IV考按ラタノプロスト点眼薬はわが国において,1999年にキサラタン点眼液(ファイザー㈱)が緑内障治療薬として初めて臨床応用が可能になった.この当時,眼圧下降薬物治療は交感神経b遮断薬,ab刺激薬,プロスタグランジン代謝物関連薬,縮瞳薬の点眼と経口炭酸脱水酵素阻害薬が主体であった.ラタノプロストが現在,広く用いられている理由の一つに既存の点眼液に比べて,眼圧下降作用が有意に優れており,かつ全身性副作用がきわめて少ないことが考えられている.このキサラタン点眼液の後発品が2010年5月から22品目発売され,現在臨床応用されているが,今後さらに品目数が増える予定である.いずれの後発品も先発品のキサラタン点眼液との生物学的同等性試験により効果に差がないことは認められているが,主成分であるラタノプロスト以外の添加物(防腐剤,溶解補助剤,緩衝剤など)が異なるため,角膜上皮に対する影響が問題視されている.今回の実験に使用した11種類のラタノプロスト後発品にはBAK含有とBAK非含有の点眼薬を選択した.実験の結果によると,BAK非含有点眼薬(NP,ニッテン,日点PF)ではCDT50(分)は60分以上であり,角膜障害はほとんどみられなかった.一7.29.310.110.21537.943.246.3>60>60>60>6048.114.550.4010203040506070CDT50(分)わかもとコーワニットー科研日医工アメルAA日点PFBAK(0.02%)BAK(0.01%)BAK(0.005%)BAK(0.0025%)ニッテンセンジュNPキサラタン図3培養家兎由来角膜細胞における各点眼薬およびBAK溶液のCDT50(分)点眼2分後のCR(%)*68.7*90.5*86.599.1101.6110.9*:p<0.001140120100806040200CR(%)日点BAK(0.02%)BAK(0.01%)ニッテンNPキサラタン図4角膜抵抗測定法による評価(invivo)(平均値±SD)(n=4)(101)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011853方,添加物であるBAK溶液で検討した結果,BAK溶液のCDT50(分)はBAK(0.0025%):50.4分>BAK(0.005%):14.5分>BAK(0.01%):8.1分>BAK(0.02%):4.0分の順となり,BAKの濃度に依存して細胞障害の発症がみられた.BAKの細胞障害性はBAK溶液単独のほうが他の添加物が含まれている点眼薬中でのBAKの細胞障害性よりも強くなる傾向がみられ,点眼薬中ではBAKの細胞障害性が緩和されるものと考えられた.BAKを含まないNPでも細胞生存率が薬剤接触直後から約40%の減少がみられたが,その後細胞生存率はほとんど減少しなかった.この早期の減少の原因については明白ではないが,細胞死によるものではなく,点眼薬中のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60による細胞間の密着性の低下による細胞脱落が原因である可能性が高いと考えている4).しかしinvivoの実験においては,涙液の存在のために角膜上のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60が希釈され,角膜上皮の構造が密で重層であることから影響が生じにくいものと思われる.筆者らはこれまでに,invitroの評価法に加えて,角膜抵抗測定装置による評価法(invivo)を用いて,種々の点眼薬の角膜上皮細胞に対する安全性を評価している3,4).本研究ではinvitroの実験結果を基にして,4種類のラタノプロスト点眼薬とBAK溶液を選択して,角膜上皮への影響をinvivoの実験系で評価した.その結果,角膜抵抗測定法によるCR(%)は,キサラタン点眼液とBAK(0.01%)溶液,およびBAK(0.02%)溶液で有意な低下がみられた(p<0.001)が,その他の点眼薬では有意な低下はみられなかった.以上の結果から,角膜障害性は点眼薬中のBAK濃度に大きく影響されることが今回の実験からも明らかになった(表2).一方,先発品(キサラタン)と後発品(11種類)の角膜障害性を比較すると,先発品とほぼ同等の群と,先発品に比べて明らかに軽減している群の大きく2群に分けられ,先発品と後発品では必ずしも,角膜障害性は同等ではないことが明らかとなった.このような結果をどのように,臨床応用に結びつけるかがわれわれ医療に関わる者の大きな課題である.筆者らは,一つの評価として,CDT50(分)が30分以上であれば角膜障害をひき起こす可能性は低く,15分以内であれば角膜障害をひき起こす可能性があり,0.5分以内であれば角膜障害の発症の確率が高いと予想した2).今回の結果をこの評価法に当てはめた場合,15分以内の群と30分以上の2群に分類して,これらの点眼液の安全性を推測してもよいと考えている.その一方で,眼圧下降作用の面を考えた場合,本当に先発品であるキサラタンの効果と同等であるか,問題の残るところである.これまで,眼圧下降薬の多くに防腐剤として使用されているBAKは,防腐効果以外にも可溶化剤,薬剤透過性の亢進効果も有しているため,BAKの眼圧下降作用に対する影響も否定できない.今後,点眼薬中BAK濃度が異なることで,主剤であるラタノプロストの眼内移行にどのように影響を与えるか,検討しなければならない事項の一つである.これらの結果を考慮したうえで,臨床応用に結びつけることが最も重要である.本研究から,先発品1種類と後発品11種類の計12種類のラタノプロスト点眼薬で角膜上皮への影響に差があることを改めて確認できた.正常な角膜に対する1日1回の通常の単剤点眼であれば,BAK含有点眼薬であっても,細胞障害をひき起こすことはほとんどないと考えられる.しかし,緑内障は比較的高齢者に多い疾患であり,そのうえ長期点眼が必要なため,角膜,結膜の疾患を抱えている患者が多く,角結膜染色,涙液層破壊時間,涙液分泌テストでも半数以上に角膜上皮障害などの所見があるとされている5).さらに,眼圧下降点眼薬の多くに防腐剤として使用されているBAKは,防腐効果,可溶化剤,薬剤透過性の亢進効果も有しているが,その一方で点状表層角膜症などをひき起こす6.9).このような理由からも,角膜が脆弱なあるいは他の点眼薬の併用が必要な緑内障患者では,できる限り角膜障害の少ない点眼薬を使用することが望まれる.文献1)福田正道,佐々木洋:オフロキサシン点眼薬とマレイン酸チモロール点眼薬の培養角膜細胞に対する影響と家兎眼内移行動態.あたらしい眼科26:977-981,20092)福田正道,佐々木洋:ニューキノロン系抗菌点眼薬と非ステロイド抗炎症点眼薬の培養家兎由来角膜細胞に対する影響.あたらしい眼科26:399-403,20093)福田正道,山本佳代,高橋信夫ほか:角膜抵抗測定装置による角膜障害の定量化の検討.あたらしい眼科24:521-525,20074)福田正道,佐々木洋,高橋信夫ほか:角膜抵抗測定装置によるプロスタグランジン関連点眼薬の角膜障害の評価.あたらしい眼科27:1581-1585,20105)LeuugEW,MedeirosFA,WeinrebRN:Prevalenceofocularsurfacediseaseinglaucomapatients.JGlaucoma17:350-355,2008表24種点眼薬とBAK溶液のCR(%),AD分類およびCDT50(分)の関連性点眼液およびBAK溶液AD分類A:範囲D:密度点眼後(CR)/点眼前(CR%)(点眼終了2分後)SIRCのCDT50(分)BAK(0.02%)A2D268.74.0キサラタンA1D286.57.2BAK(0.01%)A1D190.58.1日点A0D099.1>60NPA0D0101.6>60ニッテンA0D0110.9>60854あたらしい眼科Vol.28,No.6,20116)HerrerasJM,PaslorJC,CalongeMetal:Ocularsurfacealterationafterlong-termtreatmentwithantiglaucomatousdrug.Ophthalmology99:1082-1088,19927)高橋奈美子,旗福みどり,西村朋子ほか:抗緑内障点眼薬の単剤あるいは2剤併用の長期投与による角膜障害の出現頻度.臨眼53:1199-1203,19998)BaudouinC:Detrimentaleffectofpreservativesineyedrops:implicationsforthetreatmentofglaucoma.ActaOphthalmol86:716-726,20089)KahookMY,NoeckerRJ:ComparisonofcornealandconjunctivalchangesafterdosingoftravoprostpreservedwithsofZia,latanoprostwith0.02%benzalkoniumchloride,andpreservative-freeartificialtears.Cornea27:339-343,2008(102)***

ラタノプロスト点眼薬へのレボブノロール点眼追加療法

2010年8月31日 火曜日

1112(10あ0)たらしい眼科Vol.27,No.8,20100910-1810/10/\100/頁/JC(O0P0Y)《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(8):1112.1114,2010cはじめにラタノプロスト点眼薬は,緑内障点眼薬のなかで眼圧下降効果の点で第一選択薬になることが多い1,2).しかし,眼圧下降が不十分なために2剤併用療法が必要となることがあり,アドヒアランスの点からは1日1回の点眼薬の追加が望ましい.過去に井上ら3)はレボブノロール点眼薬がゲル化剤添加チモロール点眼薬と比べ,眼圧下降効果は同等で,使用感ではより好まれる傾向にあることを報告した.これまでプロスタグランジン関連点眼薬への追加併用2剤目としてのb遮断薬の眼圧下降効果については数多く報告がある4~8)が,ラタノプロスト点眼薬へのレボブノロール点眼薬の追加効果を検討した報告はない.今回,ラタノプロスト点眼薬を単剤で使用中の症例に2剤目としてレボブノロールを追加投与した際の眼圧下降効果を前向きに検討した.I対象および方法2009年1月~11月までの間に,井上眼科病院でラタノプロスト点眼薬を単剤で3カ月以上使用した結果,目標眼圧に達しない緑内障患者に0.5%レボブノロール点眼薬(1日1回朝点眼)の追加を勧め,同意の得られた連続した症例19例19眼を対象とした.既往歴に喘息や心疾患のある患者は除外した.平均年齢は61.8±14.1歳(平均±標準偏差)(21~82歳),性別は男性6例,女性13例であった.緑内障病〔別刷請求先〕森山涼:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:RyoMoriyama,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANラタノプロスト点眼薬へのレボブノロール点眼追加療法森山涼*1野口圭*1河本ひろ美*1塩川美菜子*1井上賢治*1若倉雅登*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科OcularHypotensiveEffectofLevobunololSolutionAddedtoLatanoprostRyoMoriyama1),KeiNoguchi1),HiromiKoumoto1),MinakoShiokawa1),KenjiInoue1),MasatoWakakura1)andGojiTomita1)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterラタノプロスト点眼薬を単剤で使用中の原発開放隅角緑内障患者19例19眼に対して0.5%レボブノロール追加投与を行い,3カ月間の眼圧下降効果および副作用を前向きに調査した.レボブノロール追加投与時の平均眼圧は17.0±3.2mmHg,追加投与3カ月後14.3±2.3mmHgで投与前に比べ有意に下降した(p<0.0001).追加投与3カ月間の平均眼圧下降幅は1.7~2.9mmHg,平均眼圧下降率は10.1~16.0%であった.副作用は2例に出現し,異物感1例,頭痛1例であった.レボブノロール点眼薬はラタノプロスト点眼薬に追加投与した際,過去に報告されている他のb遮断薬追加投与とほぼ同等の眼圧下降が得られた.また,安全性においても重大な副作用を認めなかった.In19patientswithprimaryopen-angleglaucomawhowerebeingtreatedwithlatanoprostsolution,levobunololwasadministeredasasecondtherapy,toinvestigateadditiveocularhypotensiveeffects.Intraocularpressure(IOP),IOPreduction,IOPreductionrateandsideeffectswereprospectivelycheckedmonthlyfor3months.At3monthafteraddictivetherapythemeanIOPhaddecreasedsignificantly,from17.0±3.2mmHgbeforeadditionto14.3±2.3mmHg(p<0.0001).ThemeanIOPreductionwas1.7~2.9mmHg,andthemeanIOPreductionratewas10.1~16.0%,Therewerenoserioussideeffects,includingforeign-bodysensationandheadache.Asasecondtherapyinadditiontolatanoprostsolution,levobunololiseffectiveforIOPreduction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(8):1112.1114,2010〕Keywords:塩酸レボブノロール点眼薬,ラタノプロスト点眼薬,眼圧下降効果,副作用.levobunolol,prostaglandin-relatedsolution,ocularhypotensiveeffects,sideeffect.(101)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101113型の内訳は原発開放隅角緑内障13眼,正常眼圧緑内障6眼であった.眼圧は,レボブノロール追加投与時,追加1カ月後,3カ月後にGoldmann圧平眼圧計を用いて,患者ごとに同一の検者がほぼ同時刻に測定した.両眼に投与した症例では追加投与時に眼圧の高いほうの眼を,眼圧が同値の場合は右眼を対象眼とした.追加投与前後の眼圧はANOVA(analysisofvariance,分散分析)を用いて比較した.追加投与後の眼圧下降幅および下降率を算出し,それぞれ1カ月後,3カ月後の間で対応のあるt検定を用いて比較した.有意水準(危険率)はp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認され,研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を得た後に行った.II結果眼圧はレボブノロール追加時には17.0±3.2mmHg(19眼),追加1カ月後は15.3±3.7mmHg(18眼),3カ月後は14.3±2.3mmHg(17眼)であった(図1).追加1カ月後,3カ月後でそれぞれ投与前に比べ有意に下降していた(p<0.0001,Bonferroni/Dunn).眼圧下降幅は追加1カ月後1.7±2.4mmHg,3カ月後2.9±2.0mmHgで,追加1カ月後,3カ月後の眼圧下降幅には差はなかった(p=0.2).眼圧下降率は追加1カ月後10.1±12.3%,3カ月後16.0±9.9%で,追加1カ月後,3カ月後の眼圧下降率には差はなかった(p=0.2).副作用は19例中2例(10.5%)に出現し,異物感1例,頭痛1例であった.うち,異物感を訴えた1例は角膜所見には異常を認めなかったが,追加投与後1カ月の時点で患者の申し出により中止となった.頭痛を訴えた1例は,経過中に症状が軽快し,投与継続が可能であった.III考按プロスタグランジン関連点眼薬への追加併用2剤目としてのb遮断薬の眼圧下降効果についてはこれまでに数多くの報告がある4~8).b遮断点眼薬のラタノプロストへの追加効果について,水谷ら4)はラタノプロスト点眼薬単剤投与で12週以上経過している正常眼圧緑内障患者7例にニプラジロールを2剤目として24週間投与した.眼圧は,追加投与後有意に下降し,24週後の眼圧下降幅は1.7mmHg,眼圧下降率は11.0%であった.河合ら5)は,ラタノプロスト点眼薬単剤投与で3カ月以上経過している広義の原発開放隅角緑内障患者8例にカルテオロールを2剤目として24週間投与した.眼圧は,追加投与後有意に下降し,24週後の眼圧下降幅は2.06mmHg,眼圧下降率は11.8%であった.本田ら6)は,ラタノプロスト点眼薬単剤投与で12週間治療した広義の原発開放隅角緑内障患者37例にチモロールまたはカルテオロールを2剤目として4週間投与した.眼圧は,追加投与後に有意ではないが下降し,4週後の眼圧下降幅はチモロール群が1.6mmHg,カルテオロールが2.1mmHg,眼圧下降率はチモロールが10.1%,カルテオロールが12.9%であった.橋本ら7)は,ラタノプロスト点眼薬単剤投与で3カ月以上経過している広義の原発開放隅角緑内障患者8例にカルテオロールを2剤目として24週間投与した.眼圧は,追加投与後有意に下降し,24週後の眼圧下降幅は2.06mmHg,眼圧下降率は11.8%であった.塩川ら8)は,ラタノプロスト点眼薬単剤投与で2カ月以上経過している緑内障および高眼圧症患者21例にゲル化チモロールを2剤目として12週間投与した.眼圧は,追加投与後有意に下降し,12週後の眼圧下降幅は3.3mmHg,眼圧下降率は18.3%であった.今回の結果では,ラタノプロスト点眼薬に対するレボブノロール点眼薬追加投与後の眼圧下降幅(1.7~2.9mmHg)と眼圧下降率(10.1~16.0%)は,過去の報告と追加投与前の眼圧が異なるので単純に数値を比較することはできないが,他のb遮断点眼薬追加投与時の眼圧下降幅や眼圧下降率とほぼ同等であった.また今回の結果は,ゲル化チモロールからレボブノロールへの切り替えにおいて眼圧には変化がなかったとする井上ら3)の報告からも妥当であることが推察される.副作用,使用感について,水谷ら4)はラタノプロストにニプラジロールを追加した際に眼瞼炎や充血を13.3%に認めたと報告している.河合ら5)はラタノプロストにカルテオロールを追加した際にBUT(涙液層破壊時間)悪化を37.5%に,角膜上皮障害を25%に認めたと報告している.塩川ら8)はラタノプロストにゲル化チモロールを追加した際に咳,痰,違和感,点状表層角膜炎を12.5%に認めたと報告している.今回は,異物感,頭痛を各1例(10.5%)に認め,うち1例では投与中止となっているが,これは過去の報告と比べて同等かやや少ないと思われる.また,井上ら3)はレボブノロールがゲル化チモロールと比べて,「しみる」「べとつく」追加投与前眼圧(mmHg)1カ月後**3カ月後24222018161412100図1レボブノロール追加前後の眼圧(*p<0.0001,ANOVA)1114あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(102)といった使用感での訴えが少なく,レボブノロールのほうがより好まれることを報告している.今回は短期間の検討だが,レボブノロールを2剤目として追加した際,副作用や使用感でのマイナス面が少ないことは長期的なアドヒアランスの向上にも寄与する可能性がある.結論として,レボブノロール点眼薬はラタノプロスト点眼薬に3カ月間追加投与した際,過去に報告されている他のb遮断薬追加投与とほぼ同等の眼圧下降が得られ,安全性においても重大な副作用を認めなかった.ただし,本研究はcaseseriesで症例数も少ないため,結果にバイアスがかかりやすいことが考えられる.今後はより多くの症例数で無作為化するなどして結果のバイアスを減らし,長期間の眼圧下降効果や副作用,アドヒアランスについて検討する必要がある.文献1)ZhangWY,PoAL,DuaHSetal:Meta-analysisofrandomizedcontrolledtrialscomparinglatanoprostwithtimololinthetreatmentofpatientswithopenangleglaucomaorocularhypertension.BrJOphthalmol85:983-990,20012)MishimaHK,MasudaK,KitazawaYetal:Acomparisonoflatanoprostandtimololinprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.A12-weekstudy.ArchOphthalmol114:929-932,19963)井上賢治,若倉雅登,井上治郎ほか:チモロールゲルからレボブノロールへの切り替えによる効果.臨眼60:263-267,20064)水谷匡宏,竹内篤,小池伸子ほか:プロスタグランディン系点眼単独使用の正常眼圧緑内障に対する追加点眼としてのニプラジロール.臨眼56:799-803,20025)河合裕美,林良子,庄司信行ほか:カルテオロールとラタノプロストの併用による眼圧下降効果.臨眼57:709-713,20036)本田恭子,植木麻理,廣辻徳彦ほか:ラタノプロストと2種のb遮断薬による眼圧下降効果の比較検討.眼紀54:801-805,20037)橋本尚子,原岳,高橋康子ほか:正常眼圧緑内障に対するチモロール・ゲルとラタノプロスト点眼薬の眼圧下降効果.臨眼57:288-291,20038)塩川美菜子,井上賢治,若倉雅登ほか:熱応答ゲル化チモロールおよびブリンゾラミド点眼薬のラタノプロスト点眼薬の追加効果.あたらしい眼科25:1143-1147,2008***

ラタノプロストへのブリンゾラミド点眼追加療法

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(103)15730910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15731576,2008cはじめにブリンゾラミド点眼薬は,懸濁性点眼液で緑内障および高眼圧症の治療薬として1日2回点眼で使用する炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)で,わが国では2002年に承認された.眼圧下降のメカニズムは,炭酸脱水酵素(carbonicanhydrase:CA)のアイソザイムII型に対する選択的な阻害作用によって房水産生を抑制することである1).ラタノプロスト点眼薬はその強力な眼圧下降作用により近年緑内障治療の第一選択薬となっている.しかし,眼圧下降が不十分な症例では他の点眼薬の追加投与が必要となる.眼圧下降の機序を考慮すると,房水産生を抑制するb遮断点眼薬や炭酸脱水酵素阻害薬点眼薬があげられる.ラタノプロスト点眼薬へのブリンゾラミド点眼薬の追加投与の報告はある26)が,投与期間が8週間3カ月間と短期間の報告が多く25),1年間以上の長期間の報告は少ない6).さらに原発開放隅角緑内障(広義)や高眼圧症に対する報告は多い36)が,正常眼圧緑内障に対する報告は少なく7),投与期間も3カ月間と短い.今回,ラタノプロスト点眼薬を単剤で使用中の原発開放隅角緑内障(広義)患者に,ブリンゾラミド点眼薬を12カ月間追加投与した際の眼圧下降と視野維持効果,副作用を検討した.さらに,緑内障の病型〔原発開放隅角緑内障(狭義)と正常眼圧緑内障〕による眼圧下降効果の違いを検討した.〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANラタノプロストへのブリンゾラミド点眼追加療法井上賢治*1小尾明子*1若倉雅登*1井上治郎*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座OcularHypotensiveEectandSafetyofBrinzolamideAddedtoLatanoprostKenjiInoue1),AkikoKoh1),MasatoWakakura1),JiroInouye1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)SecondDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicineラタノプロスト点眼薬を単剤で使用中の原発開放隅角緑内障22例22眼に1%ブリンゾラミドを追加投与し,12カ月間の眼圧下降効果および副作用を検討した.ブリンゾラミド追加投与前の眼圧は17.0±2.2mmHg,投与1カ月後15.0±2.6mmHg,3カ月後14.8±2.4mmHg,6カ月後14.8±2.2mmHg,12カ月後14.8±1.7mmHgで投与前に比べ有意に眼圧が下降した(p<0.0001).Humphrey視野計のmeandeviation(MD)値は,追加投与6カ月後9.7±6.7dB,12カ月後10.3±5.5dBで追加投与時(10.6±6.7dB)と同等であった.副作用は20.8%で出現し,霧視2例,頭痛1例,異物感1例,眼の鈍痛1例であった.ブリンゾラミド点眼薬は,ラタノプロスト点眼薬に12カ月間追加投与した際に強力な眼圧下降作用を示し,視野が悪化した症例はなく,安全性においても重大な副作用を認めなかった.Overaperiodof12months,weevaluatedthesafetyandhypotensiveeectof1%brinzolamidetherapyaddedtolatanoprostin22eyesof22cases.Glaucomatypesexaminedcomprisedprimaryopen-angleglaucomain9eyesandnormal-tensionglaucomain13eyes.Inalleyes,thebaselineintraocularpressure(IOP)averaged17.0±2.2mmHg;IOPafter1monthoftreatmentaveraged15.0±2.6mmHg,after3months14.8±2.4mmHg,after6months14.8±2.2andafter12months14.8±1.7mmHg(p<0.0001).TheHumphreyvisualeldtestmeandevia-tionat12monthsaftertreatmentwassimilartothatbeforetreatment.Theoccurrenceofadverseeventsin5cases(20.8%)shouldbenoted.Inconclusion,thesendingsshowthatbrinzolamideissafeandeectiveforopen-angleglaucomaasanadditionaltherapytolatanoprostfor12months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15731576,2008〕Keywords:ラタノプロスト点眼薬,ブリンゾラミド点眼薬,原発開放隅角緑内障,眼圧,視野.latanoprost,brinzolamide,primaryopen-angleglaucoma,intraocularpressure,visualeld.———————————————————————-Page21574あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(104)I対象および方法2003年3月から2006年6月の間に井上眼科病院に通院中の原発開放隅角緑内障(広義)患者で,ラタノプロスト点眼薬を単剤で2カ月間以上使用(平均使用期間26.7±20.8カ月,264カ月)(平均±標準偏差)しているが,緑内障病期に応じた目標眼圧に到達していない症例に対して,1%ブリンゾラミド点眼薬を追加投与し,12カ月間以上の経過観察ができた22例22眼(男性7例,女性15例)を対象とした.年齢は66.5±9.5歳(4782歳)であった.緑内障の病型は,原発開放隅角緑内障(狭義)9例,正常眼圧緑内障13例であった.点眼薬追加投与前の眼圧(追加投与1カ月前と追加投与時の平均)は17.0±2.2mmHg(1321.5mmHg),Humph-rey視野中心30-2SITA-STANDARDプログラムのmeandeviation(MD)値は9.7±6.7dB(23.60.9dB)であった.Humphrey視野は追加投与前3カ月以内に行った検査での値を用いた.固視不良が20%を超える,あるいは偽陽性や偽陰性が30%を超える症例は除外した.ブリンゾラミド点眼は1日2回で,原則として朝夕12時間ごとの点眼とした.アセタゾラミド内服中の症例,白内障以外の内眼手術やレーザー手術の既往例は除外した.白内障手術既往例(5例)は術後3カ月以内の症例は除外した.眼圧は,原則として1カ月ごと12カ月間にわたりGold-mann圧平眼圧計で同一の検者が測定した.患者ごとにほぼ同一の時間に毎月来院してもらい,眼圧を測定した.全症例(22例),原発開放隅角緑内障(狭義)症例(9例),正常眼圧緑内障症例(13例)に分けて,ベースライン(ブリンゾラミド点眼追加投与時と投与1カ月前の平均)とブリンゾラミド点眼薬追加投与1,3,6,12カ月後の眼圧をANOVA(analy-sisofvariance)およびBonferroni/Dunnet法で比較した.投与12カ月後の眼圧とベースラインとの差から眼圧下降率を算出した.Humphrey自動視野計のプログラム中心30-2SITA-STANDARDを,追加投与前と投与6,12カ月後に行い,そのMD値をANOVAで比較した.両眼投与例では右眼を,片眼投与例では患眼を解析眼とした.有意水準は,p<0.05とした.各検査は趣旨と内容を説明し,患者の同意を得た後に行った.II結果眼圧は,全症例(22例)ではベースライン17.0±2.2mmHg,追加投与1カ月後15.0±2.6mmHg,3カ月後14.8±2.4mmHg,6カ月後14.8±2.2mmHg,12カ月後14.8±1.7mmHgで,ベースラインに比べ各観察時で有意に下降していた(p<0.0001)(図1a).病型別では,原発開放隅角緑内障(狭義)症例(9例)では,ベースライン18.7±1.8mmHg,追加投与1カ月後16.8±1.9mmHg,3カ月後16.4±2.4mmHg,6カ月後15.8±1.9mmHg,12カ月後15.6±1.4mmHgで,ベースラインに比べ各観察時で有意に下降していた(p<0.0001)(図1b).正常眼圧緑内障症例(13例)では,ベースライン15.8±1.5mmHg,追加投与1カ月後13.8±2.3mmHg,3カ月後13.6±1.7mmHg,6カ月後14.1±2.2mmHg,12カ月後14.3±1.8mmHgで,ベースラインに比べ各観察時で有意に下降していた(p<0.0001)(図1c).全症例での投与12カ月後の眼圧下降幅は1.5±1.6mmHg(1.53.5mmHg),眼圧下降率は12.0±10.2%(10.330.0%)で,眼圧下降率10%未満が9例(40.9%),10%以上20%未満が8例(36.4%),20%以上が5例(22.7%)であった.Humphrey視野計のMD値は全症例では,追加投与6カ月後9.7±6.7dB,12カ月後10.3±5.5dBで追加投与時追加投与前b.原発開放隅角緑内障(狭義)症例c.正常眼圧緑内障症例a.全症例1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後追加投与前1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後追加投与前1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後0101214161820************眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)0101214161820220101214161820図1ブリンゾラミド追加投与前後の眼圧(ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法;*p<0.0001)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081575(105)(10.6±6.7dB)と同等であった(p=0.87)(図2).副作用は20.8%(5例/24例)で出現した.その内訳は霧視2例,頭痛1例,異物感1例,眼の鈍痛1例であった.ブリンゾラミド点眼薬が中止になったのは,異物感と眼の鈍痛が追加投与1カ月後に出現した各1例であった.これら2症例は眼圧下降効果の解析からは除外した.III考按0.5%チモロール点眼薬やラタノプロスト点眼薬へのブリンゾラミド点眼薬の追加投与による眼圧下降効果が報告されている28).0.5%チモロール点眼薬にブリンゾラミド点眼薬を追加投与した原発開放隅角緑内障および高眼圧症118例では,3カ月間投与で眼圧がベースライン(24.125.5mmHg)から3.65.3mmHg(眼圧下降率14.122.0%)有意に下降した2).ラタノプロスト点眼薬へのブリンゾラミド点眼薬の追加投与の眼圧下降効果は,原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症に対して多数報告されている36).8週間投与(11例)でベースライン(20.6±2.9mmHg)から2.42.5mmHg(眼圧下降率11.612.1%)3),3カ月間投与(14例)でベースライン(21.1±4.8mmHg)から4.25.2mmHg(眼圧下降率19.924.6%)4),12週間投与(15例)でベースライン(17.8±1.7mmHg)から1.92.0mmHg(眼圧下降率10.711.2%)5),12カ月間投与(10例)でベースライン(19.8±5.3mmHg)から4.05.7mmHg(眼圧下降率18.223.0%)6)それぞれ有意に眼圧が下降した.一方,正常眼圧緑内障に対しては3カ月間投与(20例)で眼圧がベースライン(14.6±1.0mmHg)から1.6mmHg(眼圧下降率10.1%)7)有意に下降した.ラタノプロスト点眼薬あるいはb遮断点眼薬に6カ月間投与(18例)で眼圧がベースライン(16.3±2.5mmHg)から0.91.4mmHg(眼圧下降率5.58.6%)有意に下降した8).今回の12カ月間の追加投与の眼圧下降幅と眼圧下降率は,全症例(22例)では2.2mmHgと12.0%,原発開放隅角緑内障(狭義)症例(9例)では3.1mmHgと16.6%,正常眼圧緑内障症例(13例)では1.5mmHgと9.5%で,過去の報告38)とほぼ同等であった.ラタノプロスト点眼薬へのブリンゾラミド点眼薬の追加投与による視野の変化についての報告は過去になく,今回の12カ月間投与においては視野が悪化した症例はなかった.しかし,視野に関してはさらに長期的に評価する必要があり,今後も経過観察を続ける予定である.ラタノプロスト点眼薬への追加投与によるブリンゾラミド点眼薬の副作用は,12週間投与では,角膜上皮障害1例(6.3%),顔面紅潮1例(6.3%)で,顔面紅潮症例が投与中止になった5).3カ月間投与では,角膜上皮障害2例(14.3%),結膜充血2例(14.3%),眼脂増加1例(7.1%)で,投与中止となった症例はなかった4).12カ月間投与では,角膜上皮障害2例(11.8%),結膜充血1例(5.9%),頭痛1例(5.9%)で,結膜充血と頭痛の症例が投与中止になった6).0.5%チモロール点眼薬への追加投与では副作用が3カ月間投与で14.7%(17例/116例)出現した2).そのうち1%以上の症例で発現した副作用は,気分不快感2例(1.7%),霧視2例(1.7%),味覚倒錯3例(2.6%)であった.報告により副作用発現の頻度は違うが,これは副作用をどのように定義するかによっても異なるためと思われる.今回は,過去の報告2,4,5)と同様あるいはそれ以上の20.8%に副作用が出現したが,重大な副作用は認められず,ブリンゾラミド点眼薬は比較的安全に使用できると考えられる.ブリンゾラミド点眼薬は,原発開放隅角緑内障(広義)症例に対して,ラタノプロスト点眼薬に12カ月間追加投与した際に強力な眼圧下降作用を示し,視野が悪化した症例はなく,安全性においても重大な副作用を認めなかった.ラタノプロスト点眼薬につぐ緑内障治療薬の第二選択薬として期待できる薬剤である.文献1)DeSantisL:Preclinicaloverviewofbrinzolamide.SurvOphthalmol44(Suppl2):S119-S129,20002)MichaudJ-E,FrirenB,TheInternationalBrinzolamideAdjunctiveStudyGroup:Comparisonoftopicalbrinzol-amide1%anddorzolamide2%eyedropsgiventwicedailyinadditiontotimolol0.5%inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOph-thalmol132:235-243,20013)廣岡一行,馬場哲也,竹中宏和ほか:開放隅角緑内障におけるラタノプロストへのチモロールあるいはブリンゾラミド追加による眼圧下降効果.あたらしい眼科22:809-811,20054)ShojiN,OgataH,SuyamaHetal:Intraocularpressurelowingeectofbrinzolamide1.0%asadjunctivetherapytolatanoprost0.005%inpatientswithopenangleglauco-MD値(dB)追加投与前6カ月後12カ月後0.0-2.0-4.0-6.0-8.0-10.0-12.0-14.0-16.0-18.0-20.0図2全症例でのブリンゾラミド追加投与前後のmeandeviation値(ANOVA)———————————————————————-Page41576あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(106)maorocularhypertension:anuncontrolled,open-labelstudy.CurrMedResOpin21:503-508,20055)MiuraK,ItoK,OkawaCetal:Comparisonofocularhypotensiveeectandsafetyofbrinzolamideandtimololaddedtolatanoprost.JGlaucoma17:233-237,20086)緒方博子,庄司信行,陶山秀夫ほか:ラタノプロスト単剤使用例へのブリンゾラミド追加による1年間の眼圧下降効果.あたらしい眼科23:1369-1371,20067)江見和雄:正常眼圧緑内障に対するラタノプロストとブリンゾラミド併用効果.あたらしい眼科24:1085-1089,20078)新田進人,湯川英一,森下仁子ほか:正常眼圧緑内障に対する1%ブリンゾラミド点眼液と1%ドルゾラミド点眼液の眼圧下降効果.臨眼60:193-196,2006***