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ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩2剤併用から配合剤への切り替え効果に関する長期的検討

2012年6月30日 土曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(6):831.834,2012cラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩2剤併用から配合剤への切り替え効果に関する長期的検討木内貴博*1井上隆史*2高林南緒子*1大鹿哲郎*3*1筑波学園病院眼科・緑内障センター*2井上眼科医院*3筑波大学医学医療系眼科Long-termEfficacyafterSwitchingfromUnfixedCombinationofLatanoprostandTimololMaleatetoFixedCombinationTakahiroKiuchi1),TakafumiInoue2),NaokoTakabayashi1)andTetsuroOshika3)1)DepartmentofOphthalmology/GlaucomaCenter,TsukubaGakuenHospital,2)3)DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofTsukubaInoueEyeClinic,ラタノプロストとチモロールマレイン酸塩の2剤併用療法中の広義開放隅角緑内障16例16眼を対象とし,配合剤へ切り替えたときの眼圧変化とアドヒアランスについて2年間の観察を行った.平均眼圧は切り替え前が14.4±2.7mmHg,切り替え後が14.8±2.3mmHgで差はなく(p=0.088),経時的にも有意な変化はみられなかった(p=0.944).アドヒアランスに関し,完全点眼達成率は切り替え前が18.8%であったのに対し,切り替え後は62.5%へと有意に改善した(p=0.012).しかしながら,切り替え前は無点眼日があったとする患者が皆無であったのに対し,切り替え後は1日でも点眼忘れがあった例が37.5%にも及んだ.配合剤への切り替えは眼圧に影響を及ぼさず,アドヒアランスの改善が期待できる.ただし,切り替え後の点眼のさし忘れは1日を通してまったく治療が行われないことを意味し,注意が必要である.Weevaluatedintraocularpressure(IOP)andadherenceafterswitchingfromunfixedcombinationoflatanoprostandtimololmaleatetofixedcombinationin16eyesof16patientswithopenangleglaucomafortwoyears.AverageIOPbeforeandafterswitchingwas14.4±2.7mmHgand14.8±2.3mmHg,respectively;nosignificantdifferencewasfound(p=0.088),norwasanystatisticallysignificantdifferenceobservedinthetimecourseofchangesinIOP(p=0.944).Drugadherencerateincreasedsignificantly,from18.8%to62.5%asaresultofswitching(p=0.012).Aftertheswitch,37.5%ofpatientsfailedtocompletethefixedcombinationsolutioninstillationregimenforatleastoneday,whiletherewerenosuchfailuresbeforetheswitch.SwitchingtoafixedcombinationoflatanoprostandtimololmaleatedidnotinfluenceIOPandwashelpfulinimprovingadherence.Attentionmustbepaid,however,tothefactthatfailureofinstillationaftertheswitchmeansthatglaucomatreatmentsarenotbeingadministeredthroughouttheentireday.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(6):831.834,2012〕Keywords:ラタノプロスト,チモロールマレイン酸塩,配合剤,眼圧,アドヒアランス.latanoprost,timololmaleate,fixedcombinationophthalmicsolution,intraocularpressure,adherence.はじめに近年,わが国でも眼圧下降薬として配合剤が使用できるようになり,緑内障に対する薬物療法の選択肢が広がりつつある.わが国初の配合剤は,プロスタグランジン関連薬であるラタノプロストとb遮断薬である0.5%チモロールマレイン酸塩を組み合わせた,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩(ザラカムR配合点眼液,ファイザー)であり,2010年4月の上市をもって配合剤処方の門戸が開かれることとなったが,海外では2000年にスウェーデンで初めて承認されて以来,現在に至るまで100カ国以上で発売されており,すでに緑内障薬物療法の一翼を担う存在となっている.必然的に,本剤に関する臨床研究は外国人を対象としたものが圧倒〔別刷請求先〕木内貴博:〒305-0854茨城県つくば市上横場2573-1筑波学園病院眼科Reprintrequests:TakahiroKiuchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TsukubaGakuenHospital,2573-1Kamiyokoba,Tsukuba,Ibaraki305-0854,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(109)831 的に多く,なかでも多剤併用療法から配合剤へ切り替える方法により,眼圧の推移やアドヒアランスの変化などを検討したものが多勢を占める1.5).ところが,欧米人と日本人とでは,緑内障の疾患構成に違いがあること6,7)や,薬剤に対する反応性が異なる可能性もあることなどから,わが国でも配合剤に関するデータベース作りが急務と思われるが,発売後間もないこともあり,そのような臨床試験はあまり行われていない.さらに,いくつか散見される学術集会レベルの報告をみても,症例の組み入れ条件が一定でなかったり,観察期間が短期限定であったりするものがほとんどである.そこで今回,ラタノプロストとチモロールマレイン酸塩に限定し,これら2剤による併用療法から配合剤1剤へ切り替えたときの眼圧の推移およびアドヒアランスの変化について,比較的長期にわたる観察を行って検討したので報告する.I対象および方法1.対象ラタノプロスト(キサラタンR点眼液0.005%,ファイザー)と2回点眼のチモロールマレイン酸塩(チモプトールR点眼液0.5%,MerckSharp&Dohme)の2剤併用にて,2年以上にわたり治療が継続されてきた広義開放隅角緑内障の患者を対象とした.著しい眼表面疾患を有する者,眼圧値に影響を及ぼす可能性のある眼疾患および全身疾患を有する者,眼圧下降のための外科治療およびレーザー治療の既往のある者,組み入れ前の1年以内に別の眼圧下降薬(ラタノプロスト以外のプロスタグランジン関連薬やチモロールマレイン酸塩以外のb遮断薬を含む)へ変更または追加,あるいは点眼中止のあった者は除外とし,上記の基準を満たし,かつ,十分な説明のうえで同意の得られた18例が本研究に組み入れられた.最終的に,決められた通院スケジュールを遵守できなかった2例が除外され,16例を検討の対象とした.性別は男性10例,女性6例,平均年齢は62.2±13.1歳(39.80歳)であった.全症例とも点眼治療は両眼になされており,検討には右眼のデータを採用した.なお,本研究は筑波大学附属病院倫理委員会の承認を得て行われた.2.点眼スケジュール切り替え前の2剤併用時は,ラタノプロストの夜1回とチモロールマレイン酸塩の朝夕2回の点眼スケジュールであったが,その後,休薬期間なしに配合剤であるラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩への切り替えを行い,切り替え後は夜のみ1回点眼を指示した.3.検討事項切り替え前後における眼圧の推移およびアドヒアランスの変化について調査を行った.眼圧に関しては2カ月ごとに,切り替え前1年と切り替え後1年,つまり計2年間にわたって追跡を行い,切り替え前後それぞれの期間における全測定832あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012値の平均の比較,および,切り替え前後を通じた経時変化について検討した.なお,各々の患者について,切り替え前にはすべての眼圧測定時刻が3時間以内であったことを確認し,切り替え後も同様の時間帯に測定を行った.アドヒアランスに関しては,切り替え前1カ月と,切り替え1年経過時,すなわち本研究終了直前1カ月間の点眼状況をアンケート方式にて抽出した.切り替え前は2剤で3回点眼がノルマであるため,1日のうち1回でも点眼忘れがあれば,その日は不完全点眼日として,また1日を通じてまったく点眼しなかった日があれば,これを無点眼日と定義して,それぞれ該当日数をカウントした.一方,切り替え後は1剤のみ1回点眼となるため,点眼をさし忘れた日があれば,その日は必然的に無点眼日とみなした.そのうえで,1カ月間の該当日数を,なし(完全な点眼ノルマ達成),1日以上4日以内,5日以上8日以内に区分し,切り替え前後のアドヒアランスの変化を検討した.4.統計学的解析平均眼圧の比較にはWilcoxonの符号付順位和検定を,眼圧の経時変化については一元配置分散分析を,アドヒアランスの検討にはFisherの直接確率検定またはKruskal-Wallis検定を用い,危険率5%未満を有意とした.II結果1.眼圧の推移平均眼圧は,切り替え前が14.4±2.7mmHg,切り替え後が14.8±2.3mmHgで有意な差はなかった(p=0.088).切り替え前と比較して,切り替え後の平均眼圧変化が1mmHg以内に維持されていた症例とそれより下降した症例の合計は全体の75%を占めており,逆に1mmHg以上上昇したのは25%にみられたが,そのほとんどは1mmHgを若干超えた程度の軽微な上昇の範囲にとどまっていた(図1).切り替え前後の眼圧の変化を図2に示す.経過中,有意な変化はみられなかった(p=0.944).なお,今回の検討では,眼圧測定25%75%■:>+1mmHg■:±1mmHg:<-1mmHg020406080100(%)図1切り替え前後の平均眼圧の変化切り替え前と比較して,切り替え後の平均眼圧変化が1mmHg以内に維持されていた例とそれより下降した例の合計は全体の75%を占めており,逆に1mmHg以上上昇したのは25%にみられた.(110) 切り替え眼圧(mmHg)-6MLAT+TIMLTFC+6M-12M+12M2520151050図2眼圧の経時変化経過中,有意な変化はみられなかった(p=0.944).LAT:ラタノプロスト,TIM:チモロールマレイン酸塩,LTFC:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩(配合剤).すべての測定点において眼数は16眼.切り替え眼圧(mmHg)-6MLAT+TIMLTFC+6M-12M+12M2520151050図2眼圧の経時変化経過中,有意な変化はみられなかった(p=0.944).LAT:ラタノプロスト,TIM:チモロールマレイン酸塩,LTFC:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩(配合剤).すべての測定点において眼数は16眼.前日および当日の点眼を忘れた例はなかった.2.アドヒアランスの変化1カ月の間,点眼忘れがまったくなかった症例の割合,すなわち完全点眼達成率は,切り替え前がわずか18.8%であったのに対し,切り替え後は62.5%へと大幅に改善した(p=0.012).点眼遵守状況の詳細を図3に示す.無点眼日数のみを抽出すると切り替え前後で有意な差はなかったものの(p=0.070),切り替え前の不完全点眼日数と切り替え後の無点眼日数との間には有意差が認められ(p=0.036),切り替え後は点眼忘れの頻度が減少していた.しかしながら,切り替え前は無点眼日が皆無であった,つまり,毎日なんらかの点眼がなされていたのに対し,切り替え後は,たとえ1日でも点眼忘れがあったとする例が37.5%に及んでいることも判明した.III考按緑内障診療において唯一の治療的エビデンスを有するのは眼圧下降であり,特別な事情がない限り,まずは点眼による治療が優先される.一般に,点眼は1剤から開始されるのが通例であるが,眼圧下降が不十分であると判断されたときは薬剤の変更や追加が考慮される8).当然ながら,目標眼圧達成のノルマが厳格になればなるほど多剤併用療法にシフトされる傾向が強くなり,それに伴いアドヒアランスの低下や副作用発現の増加といったトラブルも増すことになる.一方,2種類の独立した薬効を併せ持つ配合剤には,薬剤数と点眼回数の減少に伴う患者の利便性の向上が期待できる,複数の点眼薬の連続点眼による洗い流し効果がない,防腐剤の曝露量が減少するため眼表面疾患の発症リスクを最小限にできるなどといったさまざまな利点を有することが指摘されている9).したがって,配合剤の適切な使用は,多剤併用療法が抱えるいくつかの欠点を補う可能性があり,現在のところ,(111)不完全LAT点眼日数+TIM無点眼日数LTFC無点眼日数0%80%100%18.8%68.7%12.5%100%62.5%20%40%60%31.3%6.2%:なし/月■:1~4日/月■:5~8日/月図3点眼遵守状況完全点眼達成率は切り替え前の18.8%から切り替え後は62.5%へと有意に改善した(p=0.012)が,切り替え前は無点眼日があるとする患者が皆無であったのに対し,切り替え後は1日でも点眼忘れがあった例が37.5%に認められた.LAT:ラタノプロスト,TIM:チモロールマレイン酸塩,LTFC:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩(配合剤).配合剤の成分を含む2種類の点眼からの切り替え,あるいは,単剤に別の薬効をもつ薬剤の追加を考慮する際などにおいて,投与が検討されうる立ち位置にあるものと考えられる.多剤併用と配合剤との比較試験に関する海外からの報告を参照すると,眼圧下降効果は配合剤へ変更後も同等と結論づけるものが多いなか1.3),Hamacherらはさらに下降4),Diestelhorstらはむしろ上昇したとしている5).このうち上昇に転じたとするDiestelhorstらの検討5)では,配合剤の点眼時刻が朝8時であった点が,夜に点眼をさせたとする他の報告とは異なるため,解釈には若干注意が必要である.今回は,切り替え前の治療薬をラタノプロストと2回点眼のチモロールマレイン酸塩のみに限定したことに加え,除外基準を厳格化することで研究精度をできるだけ保つよう努めただけでなく,切り替え前後それぞれ1年という比較的長期にわたる観察期間を設定したため,組み入れ症例数は少数にとどまったが,眼圧に関しては,経時的にも平均値の比較においても切り替え前後で有意差を認めず,この点については海外の多くの報告と同様であった.平均眼圧の変化に関してPoloら3)は,切り替え後,79%の症例が1mmHg以内に維持,または,それより下降したとしており,これも今回の筆者らの結果と類似している.したがって,2剤併用療法から配合剤へ切り替えたときの眼圧下降効果は,多くの症例で同等であると考えて差し支えないと思われる.一方,点眼に対する動機付けを強いられる今回のような臨床試験とは異なり,実際の日常臨床においては,少なくとも多剤併用時の点眼忘れの頻度はもっと高いものであると推察される.そのような状況下において配合剤へ変更した場合,臨床試験のときと比べ,患者は利便性の向上感をより強く自覚することが予想され,そうなると点眼遵守度の大幅な改善が期待されることから,切り替え後の眼圧はさらに下降する可能性が考えられあたらしい眼科Vol.29,No.6,2012833 る.よって,今回の筆者らの結果も踏まえて考察するに,配合剤は,少なくとも眼圧に関しては比較的安心感をもって使用できるものであると思われる.従来から,点眼薬数や点眼回数の増加によるアドヒアランスの悪化が指摘されている10)が,配合剤はこれを改善させうることが報告されている2).今回の検討でも,点眼忘れがまったくなかったとする症例の割合が,切り替え後は大幅に増加したことに加え,切り替え前の不完全点眼日数との比較においても,切り替え後の点眼忘れの頻度は有意に減少し,アドヒアランスは明らかに改善したことが示された.一方で,切り替え前は無点眼日が皆無であった,つまり,3回点眼という完全なノルマを達成できなかった日であっても,ラタノプロストまたはチモロールマレイン酸塩の両方,あるいは,どちらか一方が,1回ないし2回は点眼されていたのに対し,切り替え後は,たとえ1日であっても無点眼日があったとする例が37.5%に及んでいることも判明した.Okekeらは,1日1回の単剤点眼でさえ,実際に点眼回数が守られていたのは約7割にすぎないことを報告しており11),このことは今回の筆者らの結果を裏づけるものであると思われる.配合剤であるラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩のみで治療を行う場合,点眼忘れのあった日は,1日を通して治療がまったく行き渡らないことを意味しており,したがって,切り替えにより包括的にアドヒアランスが向上したとしても,これを無条件で歓迎するのは危険である.万一,無点眼日の眼圧が大幅に上昇しているとすれば,眼圧の日々変動が大きくなり,結果,緑内障性視神経症の悪化につながらないとも限らない.よって,配合剤に切り替えた後の点眼忘れには特に注意を払い,これまでにも増して点眼指導の徹底を図ることが重要であると思われる.一方,本研究の組み入れ症例数はきわめて少ないものであったため,今回の結果をもってただちに結論を導き出すのは時期尚早といえる.今後,わが国においても大規模かつ多施設での試験が積極的に行われることを期待し,多くの貴重なデータの蓄積を待ちたいところである.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DiestelhorstM,LarssonLI:A12-week,randomized,double-masked,multicenterstudyofthefixedcombinationoflatanoprostandtimololintheeveningversustheindividualcomponents.Ophthalmology113:70-76,20062)DunkerS,SchmuckerA,MaierH:Tolerability,qualityoflife,andpersistencyofuseinpatientswithglaucomawhoareswitchedtothefixedcombinationoflatanoprostandtimolol.AdvTher24:376-386,20073)PoloV,LarrosaJM,FerrerasAetal:Effectondiurnalintraocularpressureofthefixedcombinationoflatanoprost0.005%andtimolol0.5%administeredintheeveninginglaucoma.AnnOphthalmol40:157-162,20084)HamacherT,SchinzelM,Scholzel-KlattAetal:Shorttermefficacyandsafetyinglaucomapatientschangedtothelatanoprost0.005%/timololmaleate0.5%fixedcombinationfrommonotherapiesandadjunctivetherapies.BrJOphthalmol88:1295-1298,20045)DiestelhorstM,LarssonLI:A12weekstudycomparingthefixedcombinationoflatanoprostandtimololwiththeconcomitantuseoftheindividualcomponentsinpatientswithopenangleglaucomaandocularhypertension.BrJOphthalmol88:199-203,20046)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1161-1169,20047)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1641-1648,20058)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:3-46,20129)石川誠,吉冨健志:緑内障治療薬配合剤.あたらしい眼科27:1357-1361,201010)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,200911)OkekeCO,QuigleyHA,JampelHDetal:Interventionsimprovepooradherencewithoncedailyglaucomamedicationsinelectronicallymonitoredpatients.Ophthalmology116:2286-2293,2009***834あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(112)

ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる眼圧下降効果

2012年3月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科29(3):415.418,2012cラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる眼圧下降効果南野桂三*1安藤彰*1松岡雅人*1松山加耶子*1畔満喜*1武田信彦*1高木智恵子*1,2桑原敦子*1西村哲哉*1*1関西医科大学附属滝井病院眼科*2コープおおさか病院眼科ChangesinIntraocularPressureafterSwitchingfromLatanoprosttoTravoprostinPatientswithGlaucomaandOcularHypertensionKeizoMinamino1),AkiraAndo1),MasatoMatsuoka1),KayakoMatsuyama1),MakiKuro1),NobuhikoTakeda1),ChiekoTakagi1,2),AtsukoKuwahara1)andTetsuyaNishimura1)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,CoopOsakaHospital目的:ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる眼圧下降効果を,切り替え前の眼圧値を15mmHg以上の群(A群)と15mmHg未満の群(B群)の2つに分け比較検討した.対象および方法:ラタノプロストを3カ月以上単独投与されている高眼圧症,原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障症例71例115眼を対象とした.眼圧下降効果は,切り替え前3回の平均眼圧値と切り替え後1,3,6カ月の眼圧値を比較した.結果:切り替え前の全体の平均眼圧は15.1±3.2mmHg,切り替え後の平均眼圧は1カ月,3カ月,6カ月では,14.2±3.1mmHg,13.9±3.7mmHg,14.0±1.5mmHgであった.切り替え後の眼圧下降率は,A群では,切り替え後1カ月,3カ月,6カ月の眼圧下降率は10.5%,8.3%,11.9%であった.B群では0.4%,6.9%,5.9%であった.A群ではすべての時期で切り替え後に眼圧は有意に低かった(pairedt-testp<0.001).2mmHg以上の眼圧下降を有効とした場合,A群の有効率は,1カ月,3カ月,6カ月では45.7%,47.2%,56.3%であった.B群の有効率は,6.8%,26.9%,28.6%であった.結論:ラタノプロスト単剤で15mmHg以上の症例ではトラボプロストへの切り替えは有用である.Purpose:Toassesstheefficacyofswitchingfromlatanoprosttotravoprostinpatientswithocularhypertension,normal-tensionglaucomaandprimaryopen-angleglaucoma.Caseandmethod:Thisstudyinvolved115eyesof71patientswhohadhadstableintraocularpressure(IOP)forover3monthswithlatanoprostmonotherapy,andwerethenswitchedtotravoprost.WeinvestigatedtheeffectonIOPandcorneaat1,3and6monthsaftertheswitch.Results:MeanIOPbeforeswitching(15.1±3.2mmHg)wassignificantlyreducedto14.0±1.5mmHgat6monthsafterswitching(p<0.001).InpatientswithIOP≧15mmHgbeforeswitching,themeanIOP(17.7±2.0mmHg)wassignificantlyreducedto15.7±2.1mmHgat6monthsafterswitching(p<0.001);themeanIOPreductionrateswere10.5%,8.3%and11.9%,andthemeaneffectiverateswere45.7%,47.2%and56.3%at1,3and6monthsafterswitching.InpatientswithIOP<15mmHgbeforeswitching,themeanIOP(12.6±1.8mmHg)wassignificantlyreducedto12.0±0.7mmHgat6monthsafterswitching(p<0.05);themeanIOPreductionrateswere0.4%,6.9%and5.9%,andthemeaneffectiverateswere6.8%,26.9%and28.6%at1,3and6monthsafterswitching.Keratoepithelialdisorderdecreasedaftertheswitch.Nopatientsshowedseverecomplications.Conclusion:SwitchingfromlatanoprosttotravoprostmaybeeffectiveinpatientswithIOP≧15mmHgbeforeswitching,orwithcornealdisorders.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(3):415.418,2012〕Keywords:緑内障,ラタノプロスト,トラボプロスト,眼圧,切り替え.glaucoma,latanoprost,travoprost,intraocularpressure,switching.〔別刷請求先〕南野桂三:〒570-8507守口市文園町10-15関西医科大学附属滝井病院眼科Reprintrequests:KeizoMinamino,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,10-15Fumizono-cho,Moriguchi,Osaka570-8507,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(127)415 はじめにプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬はPGF2aを基本骨格としたPG誘導体で,その基本骨格を修飾したプロスト系薬剤と,代謝型のプロストン系に大別される.プロスト系PG関連薬は眼圧下降効果が強いことや眼圧変動幅抑制効果をもつこと,また全身的な副作用がないことや1日1回点眼であることから緑内障および高眼圧症の治療の第一選択薬となっている.わが国では現在ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロスト,タフルプロストが臨床使用され,眼圧下降効果や副作用などによって使い分けや切り替えが試みられているがまだ一定した見解はない.海外の報告ではラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストはメタアナリシス解析でも約25.30%の眼圧下降効果を有すること1),ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えでは眼圧は下降もしくは同等と報告されている2.4).しかし,海外のトラボプロストとわが国ではトラボプロストは防腐剤の違い,すなわち海外では塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumchloride:BAC),わが国ではBAC非含有となっているので,海外での眼圧下降効果の結果はBACによって修飾されている可能性がある.さらに緑内障患者の平均眼圧が低いわが国においては海外における臨床研究の結果がそのまま当てはまらないことも考えられるため,切り替え前の眼圧値を考慮して検討することは有用であると思われる.そこで本研究ではラタノプロストからBAC非含有製剤であるトラボプロストへ切り替えて眼圧を測定し,切り替え前眼圧が高い症例と低い症例で違いがあるかどうかを検討した.I対象および方法1.対象参加2施設(関西医科大学付属滝井病院,コープおおさか病院)に平成20年10月1日から平成21年4月30日にかけて初診あるいは通院中の緑内障(開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障)または高眼圧症の症例で,3カ月以上ラタノプロストが単独投与されている71例115眼を対象にした.男性29例46眼,女性42例69眼,平均年齢65.3歳(29.89歳)病型別では,高眼圧症9眼,原発開放隅角緑内障52眼,正(,)常眼圧緑内障54眼であった.本研究は前向き研究であり,共同設置の倫理委員会において承認されたプロトコールに同意が得られた症例をエントリーした.続発緑内障,閉塞隅角緑内障,切り替え前6カ月内に眼外傷や手術既往のあるものは除外症例とした.2.方法眼圧の測定にはGoldmann圧平眼圧計を用いた.ラタノプロストからトラボプロストに切り替え前に3回眼圧測定し,washout期間を設けずにラタノプロストからトラボプロストに切り替え,1カ月後,3カ月後,6カ月後に各1回416あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012眼圧測定した.切り替え前3回の平均値が15mmHg以上をA群,15mmHg未満をB群とし,切り替え前の眼圧値によって眼圧下降効果の違いがあるかをpaired-ttestで統計学的に検討した.切り替え前後の受診はできうる限り,同一時間帯とした.角膜病変は,フルオレセイン染色後,コバルトブルーフィルターを用いて細隙灯顕微鏡で観察した.角膜病変は点状表層角膜症(superficialpunctatekeratitis:SPK)をArea-Density(AD)分類5)を用いて評価し,pairedt-testで統計学的に検討した.II結果全症例の115眼の切り替え前の平均眼圧は15.1±3.2mmHg,切り替え1カ月後(90眼)では14.2±3.1mmHg,切り替え3カ月後(105眼)では13.9±3.7mmHg,切り替え6カ月後(90眼)では14.0±1.5mmHgであった.A群の59眼の切り替え前の平均眼圧は17.7±2.0mmHg,切り替え1カ月後(46眼)では15.8±2.8mmHg,切り替え3カ月後(53眼)では16.2±3.1mmHg,切り替え6カ月後(48眼)では15.7±2.1mmHgであった.切り替え後のどの時点においても,切り替え前後の眼圧値を比較して統計学的に有意差がみられた.B群の56眼の切り替え前の平均眼圧は12.6±1.8mmHg,切り替え1カ月後(44眼)では12.6±2.5mmHg,切り替え3カ月後(52眼)では11.6±2.7mmHg,切り替え6カ月後(42眼)では12.0±0.7mmHgであった.切り替え1カ月後の眼圧値は,切り替え前の眼圧値と有意差はなかったが,3カ月後と6カ月後では統計学的に有意差がみられた(図1).投与前眼圧からの眼圧下降率は,全症例では1カ月,3カ月,6カ月で6.4%,7.8%,9.6%であった.A群では10.5%,8.3%,11.9%,B群では0.4%,6.9%,5.9%であった(図2).切り替え後の眼圧値が切り替え前の眼圧値より2mmHg以上の下降を有効,2mmHg以上の上昇を悪化とし眼圧(mmHg)2018***********:全体(n=115)16:A群(n=59)14:B群(n=56)12():眼数108切り替え前1カ月3カ月6カ月図1ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え前後の眼圧*p<0.001,**p<0.01,***p<0.05pairedt-test.(128) 10.50%0.40%6.40%8.30%6.90%7.80%11.90%5.90%9.60%10.50%0.40%6.40%8.30%6.90%7.80%11.90%5.90%9.60%1カ月全体3カ月(n=115)6カ月■:全体26.766.66.7():眼数0102030405060708090100(%)6.828.626.956.347.245.743.337.181.854.763.539.545.352.146.754.32.210.08.616.79.611.44.27.5眼圧下降率(%)1カ月(n=115)(n=59):有効A群■:A群3カ月■:不変(n=59)■:悪化6カ月:B群1カ月(n=56)B群3カ月():眼数(n=56)6カ月図3ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え前後1カ月3カ月6カ月の有効率と悪化率図2ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え前後2mmHg以上の下降を有効,2mmHg以上の上昇を悪化,の眼圧下降率2mmHg未満の変化は不変とした.3後のトラフ時刻でトラボプロストのほうがラタノプロストよ2.5切り替え前(n=66)*り眼圧下降効果が大きいとする報告8)があり,本研究の対象2*p<0.01症例の多くが午後に受診しているためトラフ時刻に近い時刻1.5トータルスコアpairedt-testで測定したことや,臨床研究に参加することでアドヒアラン1():眼数スが改善したことなども影響する可能性があり,これらの因0.5子が複合したと推察される.0-0.5図4ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え前後のAD分類のトータルスコアた場合の有効率と悪化率を検討した.有効率は1カ月,3カ月,6カ月で,全症例では26.7%,37.1%,43.3%,A群では45.7%,47.2%,56.3%,B群では6.8%,26.9%,28.6%であった.悪化率は1カ月,3カ月,6カ月で,全症例では6.7%,8.6%,10.0%,A群では2.2%,7.5%,4.2%,B群では11.4%,9.6%,16.7%であった(図3).角膜病変は,切り替え前のSPKありが69%であったが,切り替え後(最終観察時)では48%であった.AD分類のトータルスコアによる検討では,切り替え前が1.62であったが,切り替え後では1.06と減少し,統計学的に有意差がみられた(図4).なお,全症例の経過観察中に充血や角膜病変によるトラボプロスト中止,または点眼変更例はなかった.III考察今回の筆者らの結果では,対象症例全体の平均眼圧値はラタノプロストからトラボプロストへの切り替え後に有意に下降し,最終眼圧下降率は9.6%で有効率は43.3%であった.これはトラボプロストがラタノプロストよりFP受容体の親和性が高いこと6)やFP受容体のアゴニスト活性が高いこと7)などが主な原因として考えられる.さらに点眼24時間(129)わが国におけるラタノプロスト単独投与からトラボプロストへの切り替え後の眼圧下降効果についてはすでに幾つかの報告がある9.12).大谷ら10),佐藤ら11),徳川ら12)の報告ではそれぞれ0.7mmHg,2.1mmHg,1.8mmHgと切り替え後に有意な眼圧下降が得られ筆者らの結果と同様であった.一方,中原ら9)は切り替え後の眼圧にほぼ変化なく眼圧下降効果に有意差がみられなかったと報告しているが,対象症例からラタノプロストのノンレスポンダーを除外しているため,他とは異なる結果となった可能性が考えられる.A群とB群の2群に分けた検討では,A群では全時点において有意な眼圧下降が得られ,最終眼圧下降率は約11.9%,有効率は約56.3%であった.B群では切り替え後3カ月と6カ月で有意な眼圧下降が得られたが,最終眼圧下降率は約5.9%,有効率は約28.6%でA群のほうが効果的であった.中原ら9)は筆者らと同様に切り替え前眼圧値を15mmHg以上と15mmHg未満の2群についても検討しているが,それにおいても両群とも切り替え前後で有意差はなかったと報告している.ラタノプロストのノンレスポンダーのなかにはトラボプロストが有効な症例があることが報告されており2),ラタノプロストのノンレスポンダーを除外していない本研究では,切り替え前眼圧値が高いA群にラタノプロストのノンレスポンダーまたは効果の不十分な症例が含まれていたことも考えられる.全症例では約1mmHgの眼圧下降,A群では約2mmHgの眼圧下降が得られ,EarlyManifestTrial13)ではベースライン眼圧から1mmHg眼圧が下降すると緑内障進行リスクが10%低下すると報告されてあたらしい眼科Vol.29,No.3,2012417切り替え後(n=66) いることから,トラボプロストへの切り替えは有効であると考えられる.しかし,B群では最終悪化率が16.7%でラタノプロスト単独で15mmHg未満の症例では眼圧が悪化する症例もあるため注意して行うべきである.わが国ではトラボプロストは防腐剤としてBACを含有せず,sofZiaRというZn(亜鉛)を用いたイオン緩衝系システムを導入しており,ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えでは角膜所見に改善がみられるという報告が多い9.12,14).本研究でも既報と同様にラタノプロストからトラボプロストへの切り替え後に角膜所見の改善がみられた.ヒト結膜由来細胞を用いたinvitro試験において,BAC含有製剤およびBAC単独は明らかな細胞毒性を示し,BAC非含有製剤では細胞毒性は認められなかったという報告もあり15),わが国のトラボプロストのようにBACを含有しない点眼薬は,薬剤の長期使用による角膜障害を減少させるものと思われる.本研究の結果では,ラタノプロストからトラボプロストへの切り替え後に眼圧が有意に下降して角膜障害も減少したが,対象症例の病型,症例数,経過観察期間の眼圧の季節変動なども考慮して解釈しなければならない.薬剤の効果を比較するためにはランダム割付による群間比較ないしはクロスオーバー試験を二重盲検下で行うことが理想であり,トラボプロスト単独使用からのラタノプロストを含めた他のPG製剤への切り替えも検討する必要があると思われる.現在複数のPG製剤が存在するが,その特長に合わせた使い分けが緑内障治療を行ううえで重要である.文献1)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabililtyofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20082)KabackM,GeanonJ,KatzGetal:Ocularhypotensiveefficacyoftravoprostinpatientsunsuccessfullytreatedwithlatanoprost.CurrMedResOpin20:1341-1345,20043)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,20014)ParrishRK,PalmbergP,SheuWP:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:a12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,20035)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrectionwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20036)佐伯忠賜朗,相原一:プロスタグランジン関連薬の特徴─増える選択肢.あたらしい眼科25:755-763,20087)SharifNA,CriderJY,HusainSetal:HumanciliarymusclecellresponsestoFP-classprostaglandinanalogs:phosphoinositidehydrolysis,intracellularCa2+mobilizationandMAPkinaseactivation.JOculPharmacolTher19:437-455,20038)YanDB,BattistaRA,HaidichABetal:Comparisonofmorningversuseveningdosingand24-hpost-doseefficacyoftravoprostcomparedwithlatanoprostinpatientswithopen-angleglaucoma.CurrMedResOpin24:3023-3027,20089)中原久惠,清水聡子,鈴木康之ほか:ラタノプロスト点眼薬からトラボプロスト点眼薬への切り替え効果.臨眼63:1911-1916,200910)大谷伸一郎,湖崎淳,鵜木一彦ほか:日本人正常眼圧緑内障眼に対するラタノプロストからトラボプロスト点眼液への切り替え試験による長期眼圧下降効果.あたらしい眼科27:687-690,201011)佐藤里奈,野崎実穂,高井祐輔ほか:ラタノプロストからトラボプロストへの切替え効果.臨眼64:1117-1120,201012)徳川英樹,西川憲清,坂東勝美ほか:ラタノプロストからトラボプロストへの変更による眼圧下降効果の検討.臨眼64:1281-1285,201013)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment:theearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol121:48-56,200314)湖崎淳,大谷伸一郎,鵜木一彦ほか:トラボプロスト点眼液の臨床使用成績─眼表面への影響─.あたらしい眼科26:101-104,200915)BaudouinC,RianchoL,WarnetJMetal:Invitrostudiesofantiglaucomatousprostaglandinanalogues:travoprostwithandwithoutbenzalkoniumchlorideandpreservedlatanoprost.InvestOphthalmolVisSci48:4123-4128,2007***418あたらしい眼科Vol.29,No.3,2012(130)

ラタノプロスト効果不十分例の点眼をビマトプロストに切替えたときの眼圧下降効果と安全性の検討

2012年2月29日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(2):259.265,2012cラタノプロスト効果不十分例の点眼をビマトプロストに切替えたときの眼圧下降効果と安全性の検討広田篤*1井上康*2永山幹夫*3相良健*4岡田康志*5古本淳士*6木内良明*7*1広田眼科*2井上眼科*3永山眼科クリニック*4さがら眼科クリニック*5おかだ眼科*6ふるもと眼科*7広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学E.cacyandSafetyofBimatoprostasReplacementforLatanoprostAtsushiHirota1),YasushiInoue2),MikioNagayama3),TakeshiSagara4),KojiOkada5),AtsuhitoFurumoto6)YoshiakiKiuchi7)and1)HirotaEyeClinic,2)InoueEyeClinic,3)NagayamaEyeClinic,4)SagaraEyeClinic,5)OkadaEyeClinic,6)FurumotoEyeClinic,7)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,HiroshimaUniversityGraduateSchoolofBiomedicalSciences目的:ビマトプロスト(bimatoprost:BIM)点眼薬の眼圧下降効果と安全性を比較検討した.方法:24週間以上ラタノプロスト(latanoprost:LAT)単独または併用療法を行っても眼圧下降が不十分な広義原発開放隅角緑内障65例65眼を対象とした.LATをBIMに切替えて24週間観察した.結果:眼圧は切替え前17.5±4.1mmHgで,BIM切替え2週後15.7±3.6mmHg,24週後14.1±3.4mmHgで,いずれも有意に下降した(p<0.0001).切替え前からの眼圧下降率が20%以上の症例は53%であった.結膜充血スコアは切替え前より2週後で有意に高かった(p<0.05).副作用出現(5例)は角膜上皮障害5眼,結膜充血1眼,眼痛1眼で,いずれも軽度であった.中止例は8例で,無効または眼圧上昇1例,副作用2例,手術施行1例,患者希望4例であった.結論:BIMはLATで効果不十分な症例に対し,さらなる眼圧下降効果が期待できる.Object:Toevaluatethesafetyandocularhypotensivee.ectofbimatoprost(BIM)asareplacementforlatanoprost(LAT).Method:BIMwasadministeredfor24weeksto65eyesof65primaryopen-angleglaucomapatientswhowereintolerantofLATtherapyexceeding24-weeks.Results:Intraocularpressure(IOP)was17.5±4.1mmHgatbaseline,15.7±3.6mmHgat2weeksand14.1±3.4mmHgat24weeksaftertheswitch(p<0.0001).IOPchangewas≧20%in53%ofpatients.Conjunctivalhyperemiascoreincreasedsigni.cantlyat2weeks(p<0.05).Adverseeventsobservedin5patientscomprisedcornealepitheliumdisorders:5;conjunctivalhyperemia:1andocularpain:1.Withdrawalsfromthestudytotaled8patients:1forine.ectivenessorincreasedIOP;2foradverseevent;1forsurgeryand4forceasedparticipation.Conclusion:BIMise.ectiveasareplacementforLATinpatientswhoareintolerantofLATtherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(2):259.265,2012〕Keywords:緑内障,ラタノプロスト,ビマトプロスト,眼圧,副作用.glaucoma,latanoprost,bimatoprost,intraocularpressure,sidee.ect.はじめに緑内障治療でevidence-basedmedicine(EBM)が確認された唯一の治療は眼圧下降であり,その治療法の主体は薬物療法である.薬物療法は点眼薬が主で,交感神経作動薬,副交感神経作動薬に加え,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhy-draseinhibitor:CAI)およびプロスタグランジン(prosta-glandin:PG)系薬などの多種の薬剤が市販されている.現在,緑内障治療薬のなかで最も汎用されているのはPG系点眼薬で,2011年3月の時点でわが国では5種類の市販薬が〔別刷請求先〕広田篤:〒745-0017山口県周南市新町1-25-1広田眼科Reprintrequests:AtsushiHirota,M.D.,HirotaEyeClinic,1-25-1Shinmachi,Shunan-city,Yamaguchi745-0017,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(111)259ある.イソプロピルウノプロストンを除くPG系薬は他の薬剤に比べ,眼圧下降効果は強いが,全身副作用が少なく,点眼回数は1回/日で使いやすい.しかし,結膜充血,虹彩色素沈着などの局所の副作用の頻度が高いことも指摘されている1).2009年11月から使用可能になったPG系点眼薬のビマトプロスト(bimatoprost:BIM)はプロスタマイド系,ラタノプロスト(latanoprost:LAT),トラボプロスト,タフルプロストはプロスタノイド系に分類されている.LAT,トラボプロスト,タフルプロストはプロドラッグで,アシッド体に変化してからプロスタノイド受容体に結合してぶどう膜強膜流出路からの房水流出を促進する.一方,BIMは未変化体として直接プロスタマイド受容体に結合して房水流出を促進する2).そのため患者によってPG系薬の効果に差がある可能性があり,海外では原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)あるいは高眼圧症(ocularhypertension:OH)の患者に対しBIMはLATと比較して眼圧下降効果は高いが,結膜充血も強いとの臨床結果がクロスオーバー試験3)あるいは多施設二重盲検試験4,5)により報告されている.わが国におけるBIMとLATの多施設二重盲検比較試験の報告6)でも同様の結果であった.また,LATで眼圧下降が認められない症例が,BIMで有意に下降したとの報告もある3).LATで治療されているが眼圧下降が不十分な緑内障患者に対しては,他剤との併用が試みられることが多かったが,副作用の増加や患者の利便性を考えると,安易な薬剤の追加は避けるべきである.筆者らは以前,LATからトラボプロスト(保存剤:sofZiaTM)への切替えの有効性と安全性を評価し,眼圧は不変であったが,角膜上皮障害は減少することを報告した7).今回,LAT単独,あるいはLATと他剤との併用で治療されていて眼圧下降が不十分な症例について,LATをBIMに変更したときの眼圧下降効果と安全性について比較検討したので報告する.I対象および方法1.対象2009年12月から2010年5月の間に6施設を受診した広義POAG患者で,LAT単剤またはLATと他の緑内障治療表1除外基準1)評価対象眼において,角膜屈折矯正手術,濾過手術の既往を有する者2)評価対象眼においてLAT投与前6カ月以内に内眼手術(緑内障に対するレーザー療法を含む)の既往を有する者および治療薬を変更した者3)緑内障以外の活動性の眼科疾患を有する患者4)重症の角結膜疾患を有する者5)観察期間中に病状が進行する恐れのある網膜疾患を有する患者6)観察期間中コンタクトレンズ装用が必要な患者7)その他,担当医師が適切でないと判断した患者薬を併用して24週間以上治療を継続したが眼圧が目標値に達せず,眼圧下降が不十分と判断された症例を対象とした.評価対象は1患者について1眼とし,点眼治療のみで眼圧コントロールが可能で矯正視力が0.7以上の眼を評価対象眼とした.両眼ともに選択基準を満たす場合は,原則として切替え前の眼圧が高い眼を評価対象眼とし,眼圧が同じ場合は右眼を採用した.症例の除外基準を表1に示した.2.方法a.投与方法0.005%LATを休薬期間を置かずに0.03%BIMに変更して24週間点眼した.他の緑内障治療薬は切替え前後で用法を含めて変更しないこととした.全身および局所のステロイド薬は併用禁忌とした.ただし皮膚局所投与は併用可とした.試験期間中,眼圧に影響を及ぼす新たな薬剤投与は行わないものとし,試験期間中に内眼手術(緑内障に対するレーザー療法を含む)や濾過手術の必要のある症例は中止例とした.b.観察項目①患者背景因子年齢,性別,病歴,矯正視力,視野,緑内障併用薬,内眼手術の既往について検討した.②眼圧検査点眼切替え前(0日),切替え2,4,8,12,16,20,24週後に測定した.測定はGoldmann圧平式眼圧計を用いて,2回測定し,平均値を測定値とした.切替え後の各観察日の表2結膜充血判定基準0:充血(.)0.5:軽微な充血1:軽度の充血2:中等度の充血3:高度の充血260あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(112)測定時間は切替え前の測定時間の前後2時間以内とした.③視野検査Humphrey視野計プログラム30-2を用いて,切替え前と観察終了時(24週後)に測定した.なお,切替え前6カ月以内の視野および観察終了後3カ月以内の視野をもって,切替え前と観察終了時のものに充てることができることとした.④他覚所見結膜充血と角膜上皮障害は,切替え前(0日),切替え2,4,8,12,16,20,24週後に判定した.結膜充血は表2の判定基準に従い,角膜上皮障害はMiyataら8)のArea-Density(AD)分類により判定した.⑤患者アンケート切替え前,切替え12,24週後に実施した.自覚症状は結膜充血,異物感(目がゴロゴロする),刺激感(点眼時しみる)についてVAS(visualanaloguescale)で確認した.また,「眼圧の気になり方」,「点眼忘れの頻度」,「容器の点眼のしやすさ」,「その他気になること」について質問表を用いて調査した.c.評価項目と統計解析評価項目は眼圧,視野,視力(logMAR),他覚所見(結膜充血,角膜上皮障害),およびアンケートによるVAS(結膜充血,異物感,刺激感)とした.解析は,眼圧,視野,視力(logMAR)およびアンケートのVAS(充血,異物感,点眼刺激感)についてはpairedt-test,他覚所見についてはWilcoxonsigned-ranktestを用いて検定した.有意水準は5%未満とした.なお,本試験は倫理審査委員会の承認後,同意を取得できた患者を対象に通常の診療範囲内にて実施した.II結果1.対象および患者背景選択基準を満たした65例65眼を評価対象とした.年齢は平均74.4±8.0歳(53.93歳),男性32例(49.2%),女性33例(50.8%)であった.緑内障の病歴は5年以内が41例(63.1%)であった.症例選択時の緑内障治療薬は,LAT単剤が34例(52.3%),LAT+b遮断薬が12例(18.5%),LAT+CAIが8例(12.3%),LAT+b遮断薬+CAIが6例(9.2%),LAT+その他が5例(7.7%)であった(表3).中止例は8例で,無効または眼圧上昇1例,副作用発現2例,患者希望4例,1例は対象眼の手術施行により中止した.各症例の内訳を表4に示す.無効または眼圧上昇により中止した1例は0日眼圧17.5mmHg,2週後16.5mmHg,4週後14.5mmHg,8週後16.5mmHg,12週後17.5mmHg,16週後14.0mmHg,20週後15.0mmHg,24週後14.5mmHgと変動があり,主治医の判断で中止した.(113)表3患者背景性別男性32(49.2%)女性33(50.8%)74.4±8.0歳年齢〔平均±SD(範囲)〕(53.93歳)視野〔MD:平均±SD(.)(範囲)〕.6.61±4.82(.25.3..0.1)LogMAR視力〔平均±SD(範囲)〕.0.06±0.08(.0.2.0.2)病歴<1年5(7.7%)<5年36(55.4%)<10年15(23.1%)10年≧9(13.8%)緑内障併用薬34(52.3%)31(47.7%)変更前の使用薬剤分類LATのみ34(52.3%)LAT+b遮断薬12(18.5%)LAT+CAI8(12.3%)LAT+b遮断薬+CAI6(9.2%)LAT+a1遮断薬2(3.2%)LAT+b遮断薬+a1遮断薬1(1.5%)LAT+CAI+a1遮断薬1(1.5%)LAT+b遮断薬+CAI+a1遮断薬1(1.5%)内眼手術の既往(評価対象眼)34(52.3%)31(47.7%)白内障手術29(93.5%)Argonlasertrabeculoplasty5(16.1%)その他1(3.2%)無有無有表4中止例(8例)内訳BIM投与中止理由BIM投与期間無効または眼圧上昇24週間角膜上皮障害発現16週間角膜上皮障害発現・結膜充血24週間頭重ありとの患者希望によりLATに戻す2週間刺激感ありとの患者希望によりLATに戻す4週間右眼ぼやけるとの患者希望により他剤に変更16週間点眼忘れあるため,点眼数を減らしたいとの患者希望により配合剤に変更20週間対象眼手術施行のため(除外基準)4週間2.眼圧についてa.眼圧の推移全眼の眼圧は,0日17.5±4.1mmHg,切替え2週後15.7±3.6mmHg,4週後14.6±3.0mmHg,8週後15.2±3.2mmHg,12週後15.3±3.0mmHg,16週後14.7±3.4mmHg,20週後14.8±3.4mmHg,24週後14.1±3.4mmHgで,いずれも切替え後に有意に低下していた(いずれもp<0.0001,あたらしい眼科Vol.29,No.2,20122610日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後0日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後(65)(59)(60)(58)(59)(52)(54)(56)(34)(32)(33)(31)(32)(28)(29)(31)()は眼数()は眼数図1眼圧の推移(全眼)図2眼圧推移(LAT単剤からBIM単剤)0日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後(12)(11)(11)(11)(11)(11)(10)(11)()は眼数p値vs0日─0.07020.00000.00290.00670.00220.00330.0009pairedt-test図3眼圧の推移(LAT+b遮断薬からBIM+b遮断薬)p値vs2週後,pairedt-test図4眼圧下降率と症例分布pairedt-test)(図1).LAT単剤投与眼では,0日16.8±4.0mmHg,切替え2週100*後15.3±3.2mmHg,4週後14.6±3.0mmHg,8週後14.9±803.3mmHg,12週後14.7±3.2mmHg,16週後15.3±3.3mmスコア症例(%)Hg,20週後14.5±3.3mmHg,24週後,14.1±3.8mmHg60と,いずれも有意に低下していた(いずれもp<0.0001,40pairedt-test)(図2).LATとb遮断薬併用眼では,0日17.4±2.7mmHg,切替え2週後15.7±2.5mmHgと有意差はなかった(p=0.0702)が,4週後13.7±2.9mmHg,8週後14.6±2.0mmHg,12週後15.3±1.4mmHg,16週後13.6±3.0mmHg,20週後14.2±2.3mmHg,24週後13.8±2.4mmHgで有意に低下していた(4週後:p<0.0001,8,12,16,20週後:p<0.01,24週後:p<0.001,pairedt-test)(図3).b.眼圧下降率の推移眼圧下降率は,切替え2週後10.4%,4週後14.5%,8週後11.8%,12週後10.4%,16週後17.1%,20週後15.1%,24週後18.0%であり,2週後の眼圧下降率に比べ4,16,20,24週後では有意に増加した(4,20週後:p<0.05,16,24週後:p<0.01,pairedt-test)(図4).262あたらしい眼科Vol.29,No.2,201220:000日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後*:p<0.05vs0日Wilcoxonsigned-ranktest図5結膜充血スコアの分布3.結膜充血BIM切替え前の結膜充血発現症例は67.3%で,スコア1が44.6%を占めていた.BIM切替え2週後では有意に充血が強くなり(p<0.05,Wilcoxonsigned-ranktest),切替え前になかったスコア2の発現もあった.4週後は充血が強い傾向がみられた(p=0.0522)が,8週以降に有意差はなかっ(114)■:充血:異物感■:しみる**スコア症例(%)■:4■:3■:2:02000日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後Wilcoxonsigned-ranktest12週後24週後図6AD分類スコア(A+D)の分布た(図5).4.角膜上皮障害性BIM切替え24週後までのいずれの観察時点でもスコアの分布に差はなかった(図6).BIM切替え前に角膜上皮障害が認められた11例のうち,BIM切替え後,7例は軽減あるいは消失し,4例は変化がなかった.5.視野と視力BIM切替え前meandeviation(MD値)は.6.61±4.82dB,切替え24週後では.6.16±4.42dBで有意差はなかった.LogMAR視力は,BIM切替え前.0.06±0.08,切替え12週後.0.05±0.09,24週後.0.05±0.08といずれの観察時点でも有意差はなかった.6.患者アンケート(VASスコアと回答)「結膜充血」「異物感」のVASスコアは切替え前,切替え12週後,24週,後のいずれでも差はなかった.「刺激感」のVASスコアは切替え前の0.77±1.41,切替え24週後0.33±0.82と有意に小さかった(図7)(p<0.01,pairedt-test).BIMに切替え前で『眼圧が気にならない』患者は28例(43.1%)で,『ときどき気になる』『いつも気になる』は37例(56.9%)であった.『点眼後に眼からあふれた液を拭きとったり,洗い流している』患者は51例(78.5%)であった.「点眼忘れの頻度」はBIM切替え前,切替え12週後,24週後で『めったに忘れない(多くても2.3回/月くらいしか忘れない)』がそれぞれ95.4%(62/65),96.7%(58/60),94.5%(52/55)であった.「その他気になること」では,『目のまわりが黒くなる』がそれぞれ16.9%(11/65),23.3%(14/60),25.5%(14/55)『睫毛が長くなる』はそれぞれ3.1%(2/65),0%,9.1%/55)であった.24週後で『瞼(5,がくぼんだような気がする』が5.5%(3/55)あった.「点眼のしやすさ」では,切替え前は『点眼しやすい』が18.0%(11/61)『点眼しにくい』が4.9%(3/61)であったが,切替え12週,後では『LATと同じ』66.1%(37/56),『BIMのほうがよい』16.1%(9/56)『LATのほうがよい』17.9%(10/56)であった.切替え12後および24週後に週,図7自覚症状(VAS)の推移『BIMを継続する』はそれぞれ100%(57/57)および94.6%(53/56)であった.7.副作用副作用として報告されたのは5例7眼であった.内容は角膜上皮障害が5眼,結膜充血1眼,眼痛1眼で,いずれも軽度で処置を必要とするものはなかった.III考按LAT単剤またはLATと他剤併用で24週間以上点眼治療を実施し,目標眼圧に達せず眼圧下降が不十分と判断されたPOAG患者で,LATをBIMに切替えた65例65眼について検討した.眼圧下降効果については,BIMに切替えた結果,単剤(34眼)あるいはb遮断薬併用(12眼)のいずれの群も眼圧は有意に低下した.vanderValkら9)のPOAGおよびOH患者を対象とした27の無作為二重盲検比較試験のメタアナリシスでは,LATの眼圧下降率はトラフが.28%,ピークが.31%,BIMはトラフが.28%,ピークが.33%であり,BIMのほうがピーク時では眼圧下降率は大きかった.同様にAptelら10)のPOAGおよびOH患者1,610人を対象としたメタアナリシスでは,BIMの眼圧下降値はLATより8:00,12:00,16:00,20:00のいずれの測定時刻でも有意に高かった.今回の試験はこれらの試験と異なり,LAT効果不十分例に対しての切替えであるが,各観察時点で有意な眼圧下降を得られた.これはLATがプロスタノイド受容体に作用するのに対し,BIMはプロスタマイド受容体に作用していることが要因の一つと推測される2).このことからLAT効果不十分例においてLATからBIMへの切替えは有効な選択肢の一つと考えられる.また,本試験ではBIMに切替え後,眼圧下降率は時間の経過とともに増加し,16週以降で安定すると考えられた.以上の結果は,BIM切替えの効果は,切替え早期では判定できないことを示唆している.結膜充血は,BIMに切替え前に0%であったスコア2が2(115)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012263週後では6.8%と増加した.切替え前32.3%であったスコア0が2週後では18.6%と減少した.その結果,2週後の結膜充血スコアは切替え前に比べ有意に増加した.しかし,4週後から24週後までは切替え前と有意差はなく,長期投与に伴って結膜充血が重症化することはなかった.VASスコアでもBIM投与12週後および24週後で,いずれも切替え前と差はなかったことから,BIMは点眼2週前後は結膜充血の程度が強いが,4週以降はLATと同程度と考えられた.PG系点眼薬の結膜充血は,いずれの薬剤も使用早期に発現し,長期使用による増加または増悪は少ないことから11.13),BIMも他剤と同様の推移を示したものと推測される.角膜上皮障害はBIM切替え前と切替え24週後までいずれの時点でも差はなかった.BIM投与中に5眼で副作用として角膜上皮障害が発現したが,いずれも軽度で中止した症例はなかった.BIMに切替え前に角膜上皮障害が発現していた11眼中4眼はBIM切替え24週後も変化がなかったが,7眼は角膜上皮障害が軽減あるいは消失した.これについて福田らは家兎角膜障害性の基礎的な検討14)で,BIMの角膜上皮障害性はLATより低く,その要因は添加剤によるものではないかと推測している.また,「刺激感」のVASスコアは切替え24週後で有意に低かった.これらのことから,BIMの角膜障害性や刺激性はLATより低いと考えられ,両剤のpH(LAT:6.5.6.9,BIM:6.9.7.5)やベンザルコニウム塩化物の濃度(LAT:0.02%,BIM:0.005%)の違いが反映されたものである可能性が考えられる.試験期間中のコンプライアンスは,患者のアンケートにおいて「点眼忘れの頻度」は試験を通じてほとんどが『めったに忘れない』と回答し,『週1,2回忘れる』が数例であったことから,良好であると考えられた.「点眼のしやすさ」では『LATのほうが良い』が17.9%,『BIMのほうが良い』は16.1%であったが,切替え24週後でBIMから他の薬剤に変えたいとの回答は3例(5.3%)だけであった.変更希望の理由は『LATのほうが良い』,『薬剤数を減らしたい』『眼のまわりが黒くなる』であった.継続希望例(94.6%)では,『,点眼瓶が使いやすい』,『しみない』など積極的な理由もあったが,『切替えにより特に問題はなかった』との理由が最も多く,患者使用感については両剤に差はないものと考えられた.副作用として角膜上皮障害や結膜充血が5例7眼に認められたが,いずれも軽微であった.以上の結果から,LATで眼圧下降が不十分な緑内障患者には,PG系薬以外の薬剤の追加をする前にまずはBIMに切替える方法が患者の利便性や医療経済の面から勧められる.さらに,今回の試験の患者にも含まれていると思われるLATのノンレスポンダーに対し,結膜充血や角膜障害性などの安全性を考慮しても眼圧下降効果がより強いBIMを第一選択薬にしても問題ないと考えられた.ただし,今回の試験では発現は認められなかったが,色素沈着,睫毛伸長,眼瞼陥凹などの副作用も報告されていることから15.18),患者にも本剤のメリットとデメリットを十分理解させてアドヒアランスを高めていく必要がある.本稿の要旨は,第21回日本緑内障学会において発表した.文献1)LeeAJ,McCluskeyP:Clinicalutilityanddi.erentiale.ectsofprostaglandinanalogsinthemanagementofraisedintraocularpressureandocularhypertension.ClinOphthalmol4:741-764,20102)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:Identi.cationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,20083)Gandol.SA,CiminoL:E.ectofbimatoprostonpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhoarenonresponderstolatanoprost.Ophthalmology110:609-614,20034)DirksMS,NoeckerRJ,EarlMetal:A3-monthclinicaltrialcomparingtheIOP-loweringe.cacyofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithnormal-tensionglaucoma.AdvTher23:385-394,20065)NoeckerRS,DirksMS,ChoplinNTetal:Asix-monthrandomizedclinicaltrialcomparingtheintraocularpres-sure-loweringe.cacyofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithocularhypertensionorglaucoma.AmJOph-thalmol135:55-63,20036)北澤克明,米虫節夫:ビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験.あたらしい眼科27:401-410,20107)KanamotoT,KiuchiY,SuehiroT:E.cacyandsafetyoftopicaltravoprostwithsofZiapreservativeforJapaneseglaucomapatients.HiroshimaJMedSci59:71-75,20108)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuper.cialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20039)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocu-larpressure-loweringe.ectsofallcommonlyusedglauco-madrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,200510)AptelF,CucheratM,DenisPetal:E.cacyandtolera-bilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofran-domizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,200811)AlagozG,BayerA,BoranCetal:Comparisonofocularsurfacesidee.ectsoftopicaltravoprostandbimatoprost.Ophthalmologica222:161-167,2008264あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(116)12)AbelsonMB,MrozM,RosnerSAetal:Multicenter,open-labelevaluationofhyperemiaassociatedwithuseofbimatoprostinadultswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AdvTher20:1-13,200313)相原一:プロスタグランジン関連眼圧下降薬の選択.日本の眼科81:1025-1026,201014)福田正道,佐々木洋,高橋信夫ほか:角膜抵抗測定装置によるプロスタグランジン関連点眼薬の角膜障害の評価.あたらしい眼科27:1581-1585,201015)CentofantiM,OddoneF,ChimentiSetal:Preventionofdermatologicsidee.ectsofbimatoprost0.03%topicaltherapy.AmJOphthalmol142:1059-1060,200616)SharpeED,ReynoldsAC,SkutaGLetal:Theclinicalimpactandincidenceofperiocularpigmentationassociat-edwitheitherlatanoprostorbimatoprosttherapy.CurrEyeRes32:1037-1043,200717)YamJC,YuenNS,ChanCW:Bilateraldeepeningofupperlidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy.JOculPharmacolTher25:471-472,200918)JayaprakasamA,Ghazi-NouriS:Periorbitalfatatrophy─anunfamiliarsidee.ectofprostaglandinanalogues.Orbit29:357-359,2010***(117)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012265

ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩への切り替え 3日後に発症した脳梗塞の1例

2011年12月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科28(12):1753.1757,2011cラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩への切り替え3日後に発症した脳梗塞の1例西野和明*1八巻稔明*2吉田富士子*1新田朱里*1齋藤三恵子*1齋藤一宇*1*1医療法人社団ひとみ会回明堂眼科・歯科*2KKR札幌医療センター脳神経外科OccurrenceofCerebralInfarctiononDay3afterSwitchfromMorningTimololtoEveningFixedCombinationofLatanoprostandTimololKazuakiNishino1),ToshiakiYamaki2),FujikoYoshida1),AkariNitta1),MiekoSaito1)andKazuuchiSaito1)1)KaimeidohOphthalmic&DentalClinic,2)KKRSapporoMedicalCenter,DivisionofNeurosurgery目的:緑内障点眼薬のアドヒアランスの向上を目的として,近年配合点眼液の使用が増加してきた.一方,チモロールマレイン酸塩が配合されているため高齢者に対する心肺機能や脳血管障害など重大な副作用に注意する必要がある.今回筆者らは多剤併用療法から配合点眼液ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩(FCLT)に切り替えた3日後,脳梗塞が発症した症例を経験したので報告する.症例:78歳,男性.原発開放隅角緑内障(POAG)の診断にて1998年1月から点眼治療を行ってきたが,右眼の視野は湖崎分類IV期,左眼はVb期で末期のPOAGである.点眼治療はラタノプロスト,チモロールマレイン酸塩持続性製剤(朝1回),ドルゾラミド塩酸塩の併用療法で,眼圧は右眼17mmHg,左眼16mmHg.患者は末期のPOAGであるにもかかわらず,点眼遵守不良であったため,2010年5月14日からFCLT(夜1回)とドルゾラミド塩酸塩の併用にしたところ,5月19日「一昨日からの急激な視力低下」を主訴として再診.変更前の視力は右眼(0.8),左眼(手動弁)であったが,変更後は右眼(0.1),左眼(光覚弁)と低下し,眼圧は右眼18mmHg,左眼20mmHgと上昇していた.めまい,ふらつき,吐気,右手の脱力感もみられたため脳神経外科を受診させたところ両側後頭葉の脳梗塞と診断された.結論:本症は約10年もの間,チモロールマレイン酸塩持続性製剤(朝1回)を併用していたにもかかわらず副作用がなく,FCLT(夜1回)に切り替えた3日後に脳梗塞が発症していることから,FCLTの副作用である可能性を否定できない.FCLTの夜点眼が要因の一つである可能性がある.Purpose:Toreportacaseofcerebralinfarctionthatoccurredonday3afterswitchingfromtimololinthemorningtoafixedcombinationoflatanoprostandtimololintheevening.Case:Thepatient,a78-year-oldmale,hadbeentreatedatKaimeidohOphthalmicClinicsinceJanuary1998forprimaryopen-angleglaucoma.Eyedropmedicationsweretimolol,dorzolamideandlatanoprost.intraocularpressure(IOP)was17mmHgrighteye,16mmHglefteye.Despitetheadvancedstageglaucoma,adherencewaspoor.Themedicationplanwasthenswitchedtoafixedcombinationoflatanoprostandtimololintheevening,withdorzolamide.Onday3aftertheswitch,thepatientsufferedsuddenvisionloss.Bestcorrectedvisualacuityoftherighteyedecreasedfrom0.8to0.1.IOProseto18mmHgrighteyeand20mmHglefteye.Thepatientexperienceddizziness,faintness,nauseaandlossofmusclepowerinhisrightarm;hewassenttoNeurosurgeryClinicforfurtherexamination.Thediagnosiswascerebralinfarction.Conclusion:Thecauseofcerebralinfarctionwasundeniablyassociatedwiththeswitchfrommorningtimololtoeveningfixedcombinationoflatanoprostandtimolol.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(12):1753.1757,2011〕Keywords:ラタノプロスト,チモロールマレイン酸塩,配合点眼液,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩,脳梗塞.timolol,latanoprost,fixedcombinationoflatanoprostandtimolol,cerebralinfarction.〔別刷請求先〕西野和明:〒062-0020札幌市豊平区月寒中央通10-4-1医療法人社団ひとみ会回明堂眼科・歯科Reprintrequests:KazuakiNishino,M.D.,KaimeidohOphthalmic&DentalClinic,10-4-1Tsukisamuchu-o-dori,Toyohira-ku,Sapporo062-0020,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(91)1753 bbはじめに緑内障点眼薬のアドヒアランスの向上を目的として,近年配合点眼液の使用が増加してきた.一方,チモロールマレイン酸塩が配合されているため高齢者に対する心肺機能や脳血管障害など重大な副作用に注意する必要がある.今回筆者らはアドヒアランスの向上を目的として,チモロールマレイン酸塩持続性製剤(朝1回)を含むプロスタグランジン関連薬,炭酸脱水酵素阻害薬の多剤併用療法から,配合点眼液ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩(FCLT)の夜1回点眼と炭酸脱水酵素阻害薬の多剤併用に切り替えた直後,脳梗塞が発症した症例を経験したので報告する.I症例患者:78歳,男性(脳梗塞発症時年齢).主訴:視力低下,めまい,ふらつき(脳梗塞発症時).眼科既往歴:2000年4月19日,回明堂眼科・歯科(以下,当院)にて左眼白内障手術,4月25日,右眼白内障手術.全身既往歴:1997年,大腸癌の手術.その後は転移などの異常はみられない.その他にも身長161.5cm,体重55kg,血圧110/65,脈拍80/分と目立った問題はない.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:総合病院眼科にて緑内障の診断で点眼治療を受けていたが,1998年1月8日,近医である当院を初診.精査の結果,原発開放隅角緑内障(POAG)と診断した.初診時視力は右眼0.04(0.5×.5.25D(cyl.0.5DAx95°),左眼0.06(0.3×.3.75D(cyl.1.0DAx90°).眼圧は前医のチモロールマレイン酸塩とイソプロピルウノプロストンの併用で右眼17mmHg,左眼20mmHg.前房は深く,隅角は開放している.中間透光体には中等度の白内障がみられた.眼底検査では視神経乳頭の陥凹が深く,C/D(陥凹乳頭比)はほぼ1.0でかなり進行した緑内障と考えられた.Humphreya図2Goldmann視野検査(2007年3月28日:脳梗塞発症26カ月前)右眼,湖崎分類IV期.当日左眼の検査を実施していないが,後日湖崎分類Vb期へと進行したことを確認した.視野計(30-2)では,MD(平均偏差)値が右眼.14.54dB,左眼.26.59dBとかなり進行していた.当初から進行したPOAGであったため,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,プロスタグランジン関連薬などを複数組み合わせる多剤併用の点眼治療を選択.2001年11月30日からは多剤併用点眼の治療内容をチモロールマレイン酸塩持続性製剤(朝1回)ラタノプロスト,ドルゾラミド塩酸塩の併用療法に固定.眼(,)圧は両眼ともほぼ16mmHgから18mmHgまでで推移した.緑内障の進行を抑制するため,さらなる眼圧下降を期待し手術を検討したが,患者が手術を希望しなかったことや,アドヒアランスも不良であったことなどから視野は徐々に悪化.最近数年間で右眼は湖崎分類IIIb期からIV期へ,左眼はIV期からVb期へと進行した(図1a,b,図2).同時期の眼底検査でも緑内障末期の視神経乳頭を確認することができる図1Goldmann視野検査(2006年3月27日:脳梗塞発症38カ月前)a:左眼,湖崎分類IV期,b:右眼,湖崎分類IIIb期.1754あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(92) abab図3視神経乳頭所見(2008年12月24日:脳梗塞発症15カ月前)a:右眼視神経.陥凹は深く,laminacribrosaが透見しうる.乳頭耳側の辺縁はかなり薄く,C/Dはほぼ1.0である.b:左眼視神経.右眼とほぼ同等であるが,相対的に右眼より色調が蒼白化している.(図3a,b).アドヒアランス不良の改善を目的として,2010年5月14日からFCLT(夜1回)とドルゾラミド塩酸塩の併用に切り替えた.経過:5月19日「一昨日から急激に視力が低下した」ことを主訴として再診.変更前の矯正視力は右眼(0.8),左眼(手動弁)であったが,変更後は右眼(0.1),左眼(光覚弁)と低下し,眼圧は右眼18mmHg,左眼20mmHgと上昇していた.患者がこの視力低下などはFCLTへの切り替えが原因ではないかと考えたことや,本人の希望もあり,点眼計画をFCLTへの切り替え前と同じチモロールマレイン酸塩図4頭部MRI(磁気共鳴画像)所見(2010年5月21日:脳梗塞発症4日後)T2強調画像で,両側後頭葉に広範囲に脳梗塞を認める.ab図5Goldmann視野検査(2010年7月12日:脳梗塞発症2カ月後)a:左眼,湖崎分類Vb期,b:右眼,湖崎分類IV期.(93)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111755 持続性製剤(朝1回),ラタノプロスト,ドルゾラミド塩酸塩の併用療法に戻した.また,患者が眼科的な所見以外にめまい,ふらつき,吐気,右手の脱力感も自覚していたため,脳神経外科を受診させたところ両側後頭葉の脳梗塞と診断された(図4).脳神経外科では急性期の治療はせず,リハビリテーション中心の治療を行った.リハビリテーション中,徐脈(36回/分),頻脈(136回/分)のくり返しが発症,それが数日続き,失神もみられた.しかしながら循環器内科による精査でも異常はみられなかった.6月9日,右眼の矯正視力は(0.2)まで回復した.7月14日,Goldmann視野検査では3年前と大きな変化はみられなかった(図5a,b).今後チモロールマレイン酸塩持続性製剤(朝1回)に関しては,より心肺への影響が少なく,かつ内因性交感神経刺激様作用を有するカルテオロール塩酸塩に変更していく予定である.II考按1983年米国のFDA(FoodandDrugAdministration)とAAO(AmericanAcademyofOphthalmology)が中心になってまとめた,チモロールマレイン酸塩の副作用に関する全国登録(NationalRegistry)によれば1),1,472人の副作用が登録され,心臓血管系だけでも300人に副作用が認められた.その内訳は徐脈71人,不整脈36人,低血圧25人,CVA(cerebrovascularaccident)28人,その他140人で,そのなかに心不全,狭心症,心筋梗塞,脳梗塞が含まれる.ちなみにその当時の点眼は朝夕の2回であったと思われる.また,オーストラリアで3,654人の住民を対象としたBlueMountainsEyeStudyによれば,9年間の間に死亡した住民は873人で,そのうち312人は心臓血管系の疾患で死亡している.そのなかで緑内障と診断されていた患者の心臓血管系の疾患による死亡率は14.6%で,緑内障ではない患者8.4%に比べ高かったと報告している2).その理由としてチモロールマレイン酸塩の点眼をあげている.わが国においても北澤らがチモロールマレイン酸塩持続性製剤(朝1回)の治験で,有害事象にあげられた「心房細動」「左足愁訴(脳梗塞)」に関して,本剤との関連が不明ながら,主薬のb遮断作用に基づく循環器系障害が関与した可能性を否定できないと述べている3).別の治験においてもチモロールマレイン酸塩の点眼グループで脳出血の患者が1例確認されている4).一方,チモロールマレイン酸塩の点眼後の血中濃度は体位や運動などの負荷などにより若干の差はあるものの,徐脈をひき起こすことは間違いないという.しかし,血圧や脳卒中には関係しなかったと述べている5).ただし,この報告は25人の緑内障あるいは高眼圧症を対象とした規模の小さい研究であり,同様の複数の研究結果の集積が必要と思われる.本症における脳梗塞が点眼計画の変更との因果関係につい1756あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011て検討するようになったきっかけは,FCLTへ切り替えてからわずか3日後に発症しており,患者がFCLTの使用が原因ではないかと感じたということからである.もちろんこの脳梗塞の原因は眼科の点眼とは関係がなく,偶然起こったと考えることもできる.患者は13年前に大腸癌の手術を受けた以外には大きな既往歴もなく,職場の健康診断でも常に血液データ,血圧などに異常はなかったという.しかも大腸癌の手術後に転移などの異常は指摘されていない.飲酒,喫煙歴がなく,家族歴にも心臓血管系の患者がなく,脳梗塞の発症要因が少ない患者であったと考えられる.本症ではアドヒアランスの改善を目的として,チモロールマレイン酸塩持続性製剤(朝1回),ラタノプロスト,ドルゾラミド塩酸塩の多剤併用療法を,より簡単なFCLTとドルゾラミド塩酸塩の多剤併用療法に切り替えた.この切り替えにより,唯一変更になった点は,チモロールマレイン酸塩持続性製剤の朝1回点眼が,FCLTに含まれるチモロールマレイン酸塩の夜1回点眼になったということである.チモロールマレイン酸塩は点眼後,その80%が涙道の粘膜から血管中に吸収される.その薬理学的作用により脳内血流が低下しさまざまな脳症状,つまり意識障害,軽度の頭痛,失神,見当識障害をひき起こすことが知られている6).仮にその脳血流量の低下の危険性が朝点眼より夜点眼のほうが高いとすれば,夜点眼が本症の脳梗塞の要因の一つになった可能性がある.もちろん本症だけでは証拠は不十分で,今後も同様の症例の集積が必要である.本症は偶然にも軽い脳梗塞で,患者が直接眼科を再診したため,点眼薬と脳梗塞の因果関係を検討するきっかけになった.もし脳梗塞が重篤で脳神経外科で直接治療を受けていたとしたら,チモロールマレイン酸塩と脳梗塞の因果関係は検討されなかったかもしれない.この10年間の緑内障点眼薬の主流はプロスタグランジン関連薬であり,すっかりチモロールマレイン酸塩などのb遮断薬にとって代わっている.ところが昨年からは日本においても配合点眼薬が3種類発売され,そのいずれにもチモロールマレイン酸塩が配合されており,再びチモロールマレイン酸塩の使用頻度が期せずして増加することになった.今のところFCLTに関するヨーロッパの複数多施設による長期の安全性に関する研究では大きな問題は報告されていない7).ちなみに分析した974例中,副作用のため中止になったのは133例で,そのうち重症な全身副作用と考えられた13例中3例のみがFCLTとの因果関係があると判定された.その内訳は頭痛,失神,徐脈などで,脳梗塞は含まれていなかった.チモロールマレイン酸塩は前述のごとく1),心臓血管系に対する重大な副作用を起こすことが知られており,それを含む配合点眼薬の使用に際しては,患者の健康状態を十分に把握し,慎重に投与する必要がある.その意味で本症は,チモロールマレイン酸塩の全身(94) への副作用を改めて理解するうえで重要と思われる.本症のみからチモロールマレイン酸塩の点眼は朝方と夕方のいずれの時間帯が安全かを述べることはできないが,今後どの時間帯に点眼するのが安全かを考えるうえでも,貴重な症例と思われ報告した.本論文の要旨は第158回北海道眼科集談会(札幌)で口演した.文献1)ZimmermanTJ,BaumannJD,HetheringtonJ:Sideeffectsoftimolol.SurvOphthalmol28:243-249,19832)LeeAJ,WangJJ,KifleyAetal:Open-angleglaucomaandcardiovascularmortality:theBlueMountainsEyeStudy.Ophthalmology113:1069-1076,20063)北澤克明,塚原重雄,東郁郎ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対するWP-934点眼液の第Ⅱ相試験─8週間および長期投与試験─.臨床医薬12:2663-2682,19964)北澤克明,東郁郎,三島弘ほか:塩酸ベタキソロール点眼液の心肺機能への影響に関する検討─緑内障または高眼圧症を対象としたマレイン酸チモロール点眼液との無作為化比較試験─.あたらしい眼科19:1379-1389,20025)NieminenT,UusitaloH,TurjanmaaVetal:Associationbetweenlowplasmalevelsofophthalmictimololandhaemodynamicsinglaucomapatients.EurJClinPharmacol61:369-374,20056)VanBuskirkEM,FraunfelderFT:Timololandglaucoma.ArchOphthalmol99:696,19817)AlmA,GrundenJW,KwokKK:Five-year,multicentersafetystudyoffixed-combinationlatanoprost/timolol(Xalacom)foropen-angleglaucomaandocularhypertension.JGlaucoma20:215-222,2011***(95)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111757

各種プロスタグランジン関連薬の0.03%ビマトプロスト点眼液 への切替えによる眼圧下降効果

2011年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科28(11):1629.1634,2011c《原著》あたらしい眼科28(11):1629.1634,2011c南野麻美*1谷野富彦*2中込豊*3鈴村弘隆*4宇多重員*1*1二本松眼科病院*2西鎌倉谷野眼科*3中込眼科*4中野総合病院眼科EfficacyandSafetyofBimatoprostasReplacementforOtherProstaglandinAnalogsMamiNanno1),TomihikoTanino2),YutakaNakagomi3),HirotakaSuzumura4)andShigekazuUda1)1)NihonmatsuEyeHospital,2)NishikamakuraTaninoEyeClinic,3)NakagomiEyeClinic,4)DepartmentofOphthalmology,NakanoGeneralHospitalプロスタグランジン関連薬(PG薬)を3カ月以上使用し,眼圧コントロール不十分な広義原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者51例51眼において投与中のPG薬をビマトプロスト(Bim)へ切替え,眼圧下降効果と安全性を検討した.切替え前と切替え2,4,8,12,16,20,24週後における眼圧,結膜充血,角膜上皮障害を比較したところ,眼圧はすべての観察時点で下降し(すべてp<0.0001),結膜充血は16,20,24週後に有意に減少した(16,24週後各p<0.05,20週後p<0.01).角膜上皮障害に差はなかった.切替え前と切替え12,24週後にアンケートを実施し自覚症状(結膜充血,異物感,刺激感)を比較したところ,充血に変化はなく,異物感(各p<0.0001),刺激感(各p<0.001)は軽減した.以上より他のPG薬で眼圧下降効果が不十分な例ではBimへの切替えが有効と考えられた.Weevaluatedtheeffectivenessandsafetyofswitchingfromprostaglandins(PG)tobimatoprost(Bim)in51eyesof51primaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionpatientswhodidnotreachtheirtargetintraocularpressure(IOP)orwhosevisualfielddefectsprogressedafteratleast3monthsonPGtherapy.IOP,conjunctivalhyperemiaandsuperficialpunctatekeratopathy(SPK)weremeasuredatbaselineandat2,4,8,12,16,20and24weeksaftertheswitch.IOPwasreducedatalltimepoints,comparedwithbaseline(p<0.0001).Conjunctivalhyperemiawassignificantlyreducedat16,20and24weeks(p<0.05,p<0.01,respectively),whereasSPKdidnotchange.Patients’subjectivesymptomsregardingconjunctivalhyperemia,foreignbodysensationandstingingwereassessedatbaseline,12and24weeks;nochangewasnotedregardingconjunctivalhyperemia.Foreign-bodysensationandstingingwerereduced(p<0.0001,p<0.001,respectively).BimmightbeaneffectivereplacementinpatientswithinadequateIOPcontrolonPG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(11):1629.1634,2011〕Keywords:緑内障,眼圧,ビマトプロスト,ラタノプロスト,トラボプロスト.glaucoma,intraocularpressure,bimatoprost,latanoprost,travoprost.はじめに現在,緑内障に対する治療でエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧を下降させることであり,初期には薬物を用いできるだけ眼圧下降を図るのが一般的である.なかでもプロスタグランジン関連薬(prostaglandinanalogs:PG薬)は最大の眼圧下降効果が得られ,おもな副作用は眼局所のみであり,点眼回数が1日1回で,アドヒアランスの向上が期待できることから第一選択として使用されることが多い.2009年に新たに0.03%ビマトプロスト点眼液(ルミガンR,bimatoprost:Bim)が発売されプロスト系PG薬は4剤となり,その後,PG薬とb遮断薬,b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)の合剤が立て続けに使用可能となった.一方,米国ではBimが発売されてから10年以上が経過し,多くの臨床データやメタアナリシスが報告されている.それによるとBimの眼圧下降効果は他のPG薬と同等かそれ以〔別刷請求先〕南野麻美:〒132-0035東京都江戸川区平井4-10-7二本松眼科病院Reprintrequests:MamiNanno,M.D.,NihonmatsuEyeHospital,4-10-7Hirai,Edogawa-ku,Tokyo132-0035,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(117)1629 上上であり,結膜充血の頻度は高く1),角膜上皮障害は同程度3,4)とされている.またラタノプロスト(latanoprost:Lat)からの切替えではさらなる眼圧下降が得られる5.7)が,結膜充血はLat未使用者よりも起きにくいと報告されている8).国内では狭義原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)および高眼圧症(ocularhypertension:OH)を対象とした第III相比較臨床試験において,副作用の発現頻度は若干高いものの眼圧下降効果はLatと同等以上であることが確認された9).そこで今回,PG薬単剤またはPG薬を含む2剤以上の併用療法で3カ月以上治療を継続し,目標眼圧に達しないか,視野障害の進行が疑われた広義POAGおよびOH患者を対象に,他のPG薬からBimへの切替えによる,眼圧下降効果および安全性,自覚症状の変化について検討した.I対象および方法1.対象対象は,2009年12月から2010年5月に中込眼科,西鎌倉谷野眼科,二本松眼科病院に通院中の患者のうち,狭義POAG,正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG),OHで,矯正視力0.7以上,HumphreyFieldAnalyzerIIの中心30-2または24-2プログラムのmeandeviation(MD)が.15dB以上で,Lat,トラボプロスト(travoprost:Trav),タフルプロスト(tafluprost:Taf)のいずれかを3カ月以上点眼し,単剤または併用療法にて眼圧コントロールが不十分,または視野障害の進行が疑われるもので,Bimへの変更に同意の得られた者を選択した.なお,1)角膜屈折矯正手術・濾過手術の既往,2)6カ月以内に内眼手術(レーザー治療を含む)の既往,3)3カ月以内に緑内障治療薬を変更,4)重症の角結膜疾患を有する,5)緑内障・高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する,6)コンタクトレンズ装用の患者は除外した.評価対象眼は片眼とし,1眼のみが症例選択条件を満たした症例では当該眼を,両眼ともに条件を満たした症例では切替え前の眼圧が高い眼,同じ眼圧であったときには右眼を選択した.本試験は倫理委員会の承認を取得し,患者からの同意を得たうえで実施した.2.方法使用していたPG薬をBimへ切替え,切替え前および切替え2,4,8,12,16,20,24週後にゴールドマン圧平眼圧計(Goldmannapplanationtonometer:GAP)による眼圧測定,細隙灯顕微鏡による結膜充血および角膜上皮障害について観察した.切替え時に使用していたPG薬以外の眼圧下降薬はそのまま継続使用した.眼圧はGAPにて2回測定した平均値とし,結膜充血は各施設に配布した共通の標準写真を用いた5段階スコア(0,0.5,1,2,3)10)で評価した.角膜1630あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011上皮障害はフルオレセイン染色後にAD(area-density)分類11)を用い,A+Dの合計スコアで評価した.視力は切替え時,12,24週後に,視野は切替え時,24週後に測定した.また切替え時および12,24週後に,結膜充血,異物感(ごろごろする感じ),刺激感について,0から10段階のVisualAnalogScale(VAS)を用いた自覚症状アンケートを実施した.観察期間中に発生した有害事象についても観察した.結果の解析は,SASver.8.0を用いて,眼圧はpairedt-test,スコアはWilcoxonsigned-ranktestまたはMann-WhitneyUtestにより行い,有意水準は5%とした.II結果選択基準を満たし,評価対象となったのは51例51眼で,男性29例,女性22例,平均年齢は66.7±11.3歳,平均MD値は.6.48±4.97dB,矯正視力の中央値は1.2,range0.7.1.5(logarithmicminimumangleofresolution:logMAR視力:.0.03±0.07)であった.緑内障の病型別では狭義POAG31眼(60.8%),NTG19眼(37.3%),OH1眼(2.0%)であった.治療薬剤数は,PG薬単剤が18眼(35.3%),PG薬を含む2剤併用が13眼(25.5%),3剤併用が17眼(33.3%),4剤併用が3眼(5.9%)であり,併用例が全体の64.7%を占めていた.切替え前に使用していたPG薬はLat22眼(43.1%),Trav24眼(47.1%),Taf5眼(9.8%)であった.Tafは5眼と少なかったため,切替え前PG薬別の検討項目においては評価対象から除外した.有害事象(鞍結節部髄膜腫)が1例に生じたが因果関係は否定された.その他,副作用は認められず,中止例はなかった.1.眼圧切替え時,切替え4,12,24週後の4つの観察時点で眼圧を測定できた50例を評価対象とした.図1に全症例および単剤,併用治療による眼圧推移を示す.全症例における切替え時の平均眼圧は18.7±3.7mmHg,4週後16.1±3.4mmHg,12週後15.3±3.5mmHg,24週後15.1±2.8mmHgであり,いずれの観察時点でも有意に下降した(すべてp<0.0001,pairedt-test).また眼圧下降率は4週後13.2±10.5%,12週後17.6±12.3%,24週後17.3±14.6%であった.単剤,併用治療でも眼圧は有意に下降し(すべてp<0.0001,pairedt-test),各々の眼圧下降率は4週後13.2±8.8%,13.3±11.4%,12週後13.5±9.6%,19.7±13.1%,24週後17.0±13.6%,17.5±15.3%であった.前PG薬別ではLatからの切替えにより平均眼圧は切替え時17.0±3.3mmHg,4週後14.5±2.6mmHg(p=0.0007),12週後13.9±2.5mmHg(p<0.0001),24週後14.1±2.5mmHg(p=0.0024)と下降し,Travからの切替えでも切替え時19.5±3.6mmHg,4週後16.8±3.5mmHg(p<0.0001),12(118) 1012141618202224眼圧(mmHg):全例(n=50):単剤(n=17):併用(n=33)************************************************************************************p<0.01,****p<0.0001(vs切替え時)pairedt-test02468101214161820症例数2.0%6.0%22.0%30.0%18.0%22.0%10%以上の眼圧下降:35例(70.0%)10%以上の眼圧上昇:1例(2.0%)1012141618202224眼圧(mmHg):全例(n=50):単剤(n=17):併用(n=33)************************************************************************************p<0.01,****p<0.0001(vs切替え時)pairedt-test02468101214161820症例数2.0%6.0%22.0%30.0%18.0%22.0%10%以上の眼圧下降:35例(70.0%)10%以上の眼圧上昇:1例(2.0%)-20%≦-10%≦0%≦10%≦20%≦30%≦<-10%<0%<10%<20%<30%観察時期(週)図1ビマトプロストへの切替えによる眼圧の推移眼圧下降率全症例で,いずれの観察時点でも,眼圧は切替え時より有意に図3切替え24週後における全例(n=50)の眼圧下降率別下降した.単剤,併用治療でも眼圧は有意に下降した.分布グラフ上の数値(%)は全例に占める割合を示す.24:前PG薬:Lat(n=21):前PG薬:Trav(n=24)********************************************p<0.01,***p<0.001,****p<0.0001(vs切替え時)pairedt-test*p<0.05,**p<0.01(vs切替え時)22Wilcoxonsigned-ranktest眼圧(mmHg)20100****24812162024切替え時189080全症例に対する割合(%)16****701460**:35012:24010:1切替え時2481216202430:0.5観察時期(週)20:010図2ラタノプロスト(Lat)またはトラボプロスト(Trav)からビマトプロストへの切替えによる眼圧の推移0前PG薬Lat(n=21):単剤7例,併用14例.前PG薬Trav(n=24):単剤8例,併用16例.Lat,Travからの切替えで,切替え時よりいずれの観察時点でも有意に眼圧は下降した.週後16.1±3.9mmHg(p<0.0001),24週後15.9±2.9mmHg(p<0.0001)と下降した(pairedt-test)(図2).眼圧下降率はLat,Travそれぞれ4週後13.1±12.4%,13.3±9.3%,12週後17.3±11.1%,17.3±12.9%,24週後14.5±17.7%,17.7±10.3%であった.24週後における眼圧下降率別の症例分布を図3に示す.10%以上の眼圧下降を示したのは35眼(70%),逆に10%以上の眼圧上昇を示したのは1眼(2.0%)であった.2.結膜充血および角膜上皮障害切替え時における結膜充血スコアは,スコア0が11眼(21.6%),スコア0.5が19眼(37.3%),スコア1が15眼(29.4%),スコア2が6眼(11.8%)であり,16週後ではスコア0が9眼(20.5%),スコア0.5が25眼(56.8%),スコア1が8眼(18.2%),スコア2が2眼(4.5%),20週後ではスコア0が9眼(20.5%),スコア0.5が28眼(63.6%),スコア1が6眼(13.6%),スコア2が1眼(2.3%),24週後で(119)(51)(50)(51)(47)(51)(44)(44)(50)観察時期(週)図4充血スコアの推移横軸()の数値は症例数を示す.切替えにより結膜充血スコアは,16,20,24週後において有意な改善を認めた.はスコア0が9眼(18.0%),スコア0.5が30眼(60.0%)スコア1が9眼(18.0%),スコア2が2眼(4.0%)で,16,(,)20,24週後において有意な改善を認めた(16週後p=0.0313,20週後p=0.0028,24週後p=0.0394,Wilcoxonsigned-ranktest)(図4)が,前PG薬別に充血スコアの推移をみると,Lat,Travからの切替えともに切替え前後で有意差は認められなかった(図5).またすべての観察時点で切替え時からの変化量に両薬剤間で差はなかった.角膜上皮障害については,切替え時のA+Dの合計スコアはスコア0が38眼(74.5%),スコア2が8眼(15.7%)スコア3が4眼(7.8%),スコア4が1眼(2.0%)であり,(,)12週後ではスコア0が35眼(68.6%),スコア2が10眼(19.6%),スコア3が6眼(11.8%),24週後ではスコア0が34眼(68.0%),スコア2が12眼(24.0%),スコア3があたらしい眼科Vol.28,No.11,20111631 前PG薬:Lat前PG薬:Trav10010090908080全症例に対する割合(%)全症例に対する割合(%)60:37605040302010705040:230:1:0.520:01000切替え時24812162024切替え時24812162024(22)(22)(22)(20)(22)(18)(19)(21)(22)(23)(24)(23)(24)(22)(21)(24)症例数観察時期(週)観察時期(週)図5ラタノプロスト(Lat)またはトラボプロスト(Trav)からビマトプロストへの切替えによる充血の推移各グラフの横軸()の数値は症例数を示す.充血スコアはLat,Travからの切替え前後で有意な差は認められなかった.***p<0.001,****p<0.0001(vs切替え時)Wilcoxonsigned-ranktest30充血:12週後30:12週後****30刺激感:12週後***25異物感:24週後25:24週後****25:24週後***症例数症例数2020201515151010105550-10-8-6-4-202468100-10-8-6-4-202468100-10-8-6-4-20246810切替え時との差切替え時との差切替え時との差図6切替え12,24週後におけるVAS変化量各n=48.充血の平均VASスコアは切替え時と,12,24週後で変化はなかった.異物感,刺激感の平均VASスコアは切替え時より,12,24週後で有意に改善していた.4眼(8.0%)と,いずれの観察時点でも変化はなかった.3.視力,視野観察期間中,logMAR視力は切替え時.0.03±0.07,12週後.0.04±0.07,24週後.0.04±0.07,平均MD値は切替え時.6.48±4.97dB,24週後.5.77±5.99dBと変化は認められなかった.4.自覚症状アンケート図6に切替え時,12,24週後における充血,異物感,刺激感のVASスコアの分布を示す.充血の平均VASスコアは切替え時1.36±2.15,12週後1.38±2.07,24週後1.19±2.05と変化はなかった.前PG薬別でもLatおよびTravの平均VASスコアは切替え時0.77±1.47,1.75±2.53,12週後1.49±2.22,1.09±1.86,24週後1.03±2.10,1.03±1.76であり,切替え前後で差は認められなかった.また12,24週後において切替え時からのスコア変化量に両薬剤間で差はなかった.異物感の平均VASスコアは切替え時1.95±2.37,12週後0.54±1.16,24週後0.58±1.14で,12,24週後に有意な改善を認めた(ともにp<0.0001,Wilcoxonsigned-ranktest).また前PG薬別ではLatおよびTravの平均VASスコアは切替え時1.61±2.43,2.52±2.44,12週後0.64±1.25,0.45±1.10,24週後0.58±1.25,0.66±1.16であり,切替え12,24週後で有意に改善した(Lat:12週後p=0.0410,24週後p=0.0220,Trav:12週後p<0.0001,24週後p<0.0001,Wilcoxonsigned-ranktest).また12,24週後において切替え時からのスコア変化量に両薬剤間で差はなかった.スコアが改善した症例はLatからの切替えでは12週後6眼(30.0%),24週後6眼(30.0%),Travでは12週後12眼(52.2%),24週後12眼(52.2%)で,Travからの切替えのほうが異物感の改善が多かった.刺激感の平均VASスコアは切替え時1.61±1.75,12週後0.87±1.52,24週後0.76±1.51であり,12,24週後で有意に改善していた(12週後p=0.0006,24週後p=0.0008,Wilcoxonsigned-ranktest)(図6).前PG薬別ではLatおよびTravの平均VASスコアは切替え時1.88±1.84,1.60±1.80,12週後1.07±1.92,0.65±1.13,24週後0.64±1.00,1632あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(120) 0.0.(Lat:24週後p=0.0056,Trav:12週後p=0.0016,24週後p=0.0088,Wilcoxonsigned-ranktest).また12,24週後において切替え時からのスコア変化量に両薬剤間で差はなかった.スコアが改善した症例はLatからの切替えでは12週後9眼(45.0%),24週後9眼(45.0%),Travでは12週後10眼(43.5%),24週後10眼(43.5%)であった.III考按今回,選択基準を満たし,PG薬を3カ月以上点眼し,単剤または併用療法にて眼圧コントロールが不十分,または視野障害の進行が疑われ,次なる薬物治療のステップに進む必要がある狭義POAG,NTG,OH患者において,使用中のPG薬をBimへ切替え,眼圧下降効果と安全性,患者の自覚症状を検討した.眼圧は使用薬剤数やPG薬の種類に拘わらずBimへの切替えにより有意に下降した.Lat単剤および併用治療に対する効果不十分な症例でLatをBimへ切替えた過去の報告7)では,切替え時の眼圧は20.4mmHg,2カ月後の眼圧下降幅は3.4mmHg(下降率の記載なし)とされている.今回,Latからの切替え症例における眼圧値は切替え時17.0±3.3mmHg,4週後14.5±2.6mmHg,12週後13.9±2.5mmHg,24週後14.1±2.5mmHgで,眼圧下降率は4週後13.1±12.4%,12週後17.3±11.1%,24週後14.5±17.7%であり,切替え時の眼圧は若干低いものの,ほぼ同様の結果を得ることができた.一方,TravからBimへの切替えの報告は見当たらず,直接比較試験では両薬剤間の眼圧下降効果にほとんど差はないとされている12).しかしLat効果不十分例に対するTravとBimの効果を比較した報告5)では,眼圧下降効果に差が認められており,Bimの作用部位,プロスタマイド受容体が他のPG薬のプロスタノイドFP受容体とは異なる点13)が今回の結果に影響したと考えられた.また,今回対象となった症例は前PG薬のノンレスポンダーで,Bimへの切替えによって眼圧が下降した可能性がある.今後,無治療時眼圧からの各点眼薬の眼圧下降についての検討が必要である.なお,切替え時の眼圧がLat17.0±3.3mmHgに比較しTrav19.5±3.6mmHgと高いが,これは参加3施設においてLat効果不十分例にTravを使用していた例が多いことが影響したものと推測された.結膜充血については,過去の報告でBimは結膜充血の頻度が高い1)が,Latから切替えてBimを使用すると未使用時に比べ充血が起こりにくく8),LatからTravへの切替えよりも充血増強例が少ないとされている5).今回の検討では,TravからBimへの切替えで,有意差はなかったもののスコア1以上の充血が減少した.これに加え前PG薬からの切替(121)えによりBimの充血が起こりにくかったため,全体として16週以降は充血が改善される結果となったと考えられた.VASを用いた患者アンケートでも,有意差はなかったものの,スコアが改善した症例はLatからの切替えでは12週後2眼(10.0%),24週後3眼(15.0%),Travでは12週後7眼(30.4%),24週後8眼(34.8%)で,充血が改善したと回答した症例はLatよりもTravからの切替え例で多く,充血スコアの結果を支持していると考えられた.また,充血については切替え時に十分な説明を行っており,充血が理由で中止を希望した患者はいなかったことから,他のPG薬からの切替えという使用方法であればBimの結膜充血はアドヒアランスへの影響が少ないことが示唆された.点眼時の異物感と刺激感については切替えにより改善した.これは,Lat(キサラタンR:pH6.5.6.9),Trav(トラバタンズR:pH5.7),Bim(ルミガンR:pH6.9.7.5)のpHの違いで,より涙液のpH7.75±0.1914)に近いBimへの切替えにより,点眼時の異物感,刺激感が改善されたと考えられた.このことから,他PG薬で異物感,刺激感を訴える患者にはBimへの変更を考慮してもよいと思われた.PG薬の副作用として,最近上眼瞼溝の顕性化が問題となっているが,今回は検討を行わず,また経過観察中,眼周囲の変化を訴えた症例もなかった.緑内障は長期の管理が必要な慢性疾患であり,薬物治療における点眼薬の選択に当たっては,眼圧下降効果のみならず,アドヒアランスに影響を与える副作用など諸事象も考慮して決定する必要がある.Bim以外のPG薬を含む治療で眼圧コントロール不十分の場合,結膜充血発現の可能性について十分に患者に説明を行ったうえで,使用中のPG薬をBimに変更することは,さらなる眼圧下降効果を得るとともに,自覚症状の改善も期待できる価値ある手段であり,緑内障治療の質を向上できるものと考えた.本論文の要旨は第21回日本緑内障学会にて発表した.文献1)AptelF,CucheratM,DenisPetal:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667673,20082)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20053)WhitsonJT,TrattlerWB,MatossianCetal:Ocularsurfacetolerabilityofprostaglandinanalogsinpatientswithglaucomaorocularhypertension.JOculPharmacolTher26:287-292,20104)StewartWC,StewartJA,JenkinsJNetal:Cornealpuncあたらしい眼科Vol.28,No.11,20111633 tatestainingwithlatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinhealthysubjects.JGlaucoma12:475-479,2003tatestainingwithlatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinhealthysubjects.JGlaucoma12:475-479,2003JA,KatzmanB,AckermanSLetal:Efficacyandtolerabilityofbimatoprostversustravoprostinpatientspreviouslyonlatanoprost:a3-month,randomised,masked-evaluator,multicentrestudy.BrJOphthalmol94:74-79,20106)CassonRJ,LiuL,GrahamSLetal:Efficacyandsafetyofbimatoprostasreplacementforlatanoprostinpatientswithglaucomaorocularhypertension:auniocularswitchstudy.JGlaucoma18:582-588,20097)BourniasTE,LeeD,GrossRetal:Ocularhypotensiveefficacyofbimatoprostwhenusedasareplacementforlatanoprostinthetreatmentofglaucomaandocularhypertension.JOculPharmacolTher19:193-203,20038)KurtzS,MannO:Incidenceofhyperemiaassociatedwithbimatoprosttreatmentinnaivesubjectsandinsubjectspreviouslytreatedwithlatanoprost.EurJOphthalmol19:400-403,20099)北澤克明,米虫節夫:ビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験.あたらしい眼科27:401-410,201010)LaibovitzRA,VanDenburghAM,FelixCetal:ComparisonoftheocularhypotensivelipidAGN192024withtimolol:dosing,efficacy,andsafetyevaluationofanovelcompoundforglaucomamanagement.ArchOphthalmol119:994-1000,200111)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,200312)CantorLB,HoopJ,MorganLetal:Intraocularpressure-loweringefficacyofbimatoprost0.03%andtravoprost0.004%inpatientswithglaucomaorocularhypertension.BrJOphthalmol90:1370-1373,200613)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:IdentificationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,200814)布出優子,小橋俊子,松本美智子ほか:正常人の涙液pH値.眼臨82:648-651,1988***1634あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(122)

加齢黄斑変性の僚眼にみられたラタノプロストによる囊胞様黄斑浮腫の1症例

2011年7月31日 日曜日

1022(11あ8)たらしい眼科Vol.28,No.7,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(7):1022?1024,2011cはじめにラタノプロストをはじめとするプロスタグランジン製剤は,ぶどう膜強膜流出路からの房水の排泄を促進することで眼圧を下降させ,1日1回点眼という利便性,全身副作用がほとんどみられないこと,さらに強力な眼圧下降効果から,現在,緑内障患者に第一選択薬として広く用いられている.プロスタグランジン製剤の副作用として,結膜充血,虹彩や眼瞼の色素沈着,睫毛多毛のほか,前部ぶどう膜炎,?胞様黄斑浮腫(CME)などが今までに報告されている1?5).今回,筆者らは,ラタノプロストを点眼中の加齢黄斑変性の患者で,僚眼にCMEを認めた1症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕長谷川典生:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1番地名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:NorioHasegawa,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya467-8601,JAPAN加齢黄斑変性の僚眼にみられたラタノプロストによる?胞様黄斑浮腫の1症例長谷川典生高瀬綾恵野崎実穂安川力小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Latanoprost-AssociatedCystoidMacularEdemaDetectedbyChanceinaFellowEyeduringExaminationforAge-RelatedMacularDegeneraionNorioHasegawa,AyaeTakase,MihoNozaki,TsutomuYasukawaandYuichiroOguraDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences緑内障治療薬であるプロスタグランジン製剤点眼の副作用として?胞様黄斑浮腫(CME)が知られている.今回,筆者らはラタノプロストを使用中の加齢黄斑変性の患者の僚眼に無症状のCMEを認めた症例を経験したので報告する.症例は71歳,男性で,緑内障を合併しており,10年以上ラタノプロスト点眼を継続していた.当院初診時に,光干渉断層計(OCT)検査および蛍光眼底造影で左眼ポリープ状脈絡膜血管症と診断した.右眼にはCMEを認めた.経過観察中に右眼のCME悪化と漿液性網膜?離の併発を認めたため,ラタノプロストを中止したところ,CMEは消失した.今回,白内障術後数年が経過している症例であったが,ラタノプロストの点眼により自覚症状がなくCMEさらには漿液性網膜?離を発症している症例を経験した.プロスタグランジン製剤を点眼している症例では,慎重な経過観察が重要であり,非侵襲的なOCT検査が有用であると考えられた.Topicalprostaglandinanaloguesareknowntoinducecystoidmacularedema(CME)asasideeffect.Weexperiencedcaseoflatanoprost-associatedCMEthatwasdetectedduringexaminationforexudativeage-relatedmaculardegeneration.Thepatient,a71-year-oldman,presentedatourhospitalduetovisionlossinhislefteye.Hehasusedlatanoprostcontinuouslyoveraperiodof10yearsfortreatmentofglaucoma.Botheyesarepseudophakic.Therighteyehasundergoneposteriorcapsulotomy.Fluoresceinangiographyandopticalcoherencetomography(OCT)revealednotonlypolypoidalchoroidalvasculopathyinthelefteye,butalsoCMEintherighteye.Whileintravitrealranibizumabwasadministeredinthelefteye,CMEworsenedintherighteye.Latanoprostwasthereforediscontinued,andtheCMEresolved.ThiscasesuggeststhatprostaglandinanaloguesmightinduceasymptomaticCME.Carefulregularfundusobservationshouldbeperformedineyesusingprostaglandinanalogues.NoninvasiveOCTmaybeusefulindetectingasymptomaticCME.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(7):1022?1024,2011〕Keywords:プロスタグランジン製剤,ラタノプロスト,?胞様黄斑浮腫(CME),加齢黄斑変性,漿液性網膜?離.prostaglandinanalogue,latanoprost,cystoidmacularedema(CME),age-relatedmaculardegeneration,serousretinaldetachment.(119)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111023I症例患者:71歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:1999年から近医で両眼?性緑内障のため,点眼(チモロール,ブリンゾラミド,ラタノプロスト)で経過観察されていた.左眼の視力低下を自覚し,近医で左眼黄斑下出血を指摘され,2009年7月7日当院紹介受診となった.既往歴・家族歴:特になし.初診時所見:視力は右眼0.2(1.2×sph?2.00D(cyl?1.50DAx100°),左眼0.1(0.3×sph?1.00D(cyl?1.25DAx100°)で,眼圧は右眼16mmHg,左眼11mmHgであった.両眼とも眼内レンズ挿入眼(1995年両眼白内障手術)であり,右眼は後発白内障に対してYAG後?切開術後であった.視神経乳頭/陥凹比は右眼0.8,左眼は0.9であった.蛍光眼底造影および光干渉断層計(OCT)検査にて,左眼眼底には橙赤色隆起病変と網膜下の小出血,漿液性網膜?離を認め,滲出型加齢黄斑変性(ポリープ状脈絡膜血管症)と診断した.一方,自覚症状のない右眼眼底にはCMEを認めた(図1).経過:左眼滲出型加齢黄斑変性に対して,ラニビズマブ硝子体内注射による治療を開始した.2009年11月10日,OCTで,右眼黄斑浮腫の増悪と中心窩下に漿液性網膜?離を併発したため,右眼のラタノプロスト点眼を中止したところ,黄斑浮腫,漿液性網膜?離の改善が認められた(図2).その後,2010年6月22日受診の時点で,右眼CMEの再燃は認められなかった.また,経過観察期間中にラタノプロスト中止に伴う眼圧上昇は認めず,右眼矯正視力は1.2?1.5と良好であった.II考按プロスタグランジン製剤によるCME発症のリスクファクターとしては,内眼手術後,後?破損の症例,無水晶体眼,ぶどう膜炎の既往のある症例,糖尿病網膜症のある症例などがあげられている6).今回の症例は,白内障手術が数年前に施行してあり,CMEを発症した眼では白内障手術の合併症はなかったが後発白内障に対して後?切開術が数年前に施行されていた.CMEを認めた右眼は,視力も良好で,患者の自覚症状もなかったが,滲出型加齢黄斑変性に対する蛍光眼底造影およ右眼左眼abc図1症例1の初診時所見a:眼底写真.b:フルオレセイン蛍光眼底造影写真.c:OCT所見.右眼に?胞様黄斑浮腫および花弁状の蛍光貯留を認める.左眼には橙赤色隆起病変と網膜下小出血と漿液性網膜?離を認める.1024あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(120)びOCT検査で僚眼にCMEが見つかった症例である.このことから,ラタノプロストを初めとするプロスタグランジン製剤を長期点眼している症例では,患者が自覚することなく,黄斑浮腫を発症している可能性が示唆された.したがって,プロスタグランジン製剤を使用している症例,特に白内障手術後の症例では,手術合併症を認めなくても,術後経過年数によらず注意深い眼底の観察が必要であると考えられる.右眼は経過観察中にCMEの悪化に加え漿液性網膜?離の併発を認めた.滲出型加齢黄斑変性の僚眼であることから,漿液性網膜?離発生の成因として網膜色素上皮の加齢変化に伴う外側血液網膜関門の破綻の影響も否定できないが,Ozkanら7)が,ラタノプロスト点眼症例に,漿液性網膜?離のみを認め,ラタノプロストの中止により消失した症例を報告していることや,本症例の右眼には黄斑下に脈絡膜異常血管網や網膜色素上皮の不整を認めないことから,ラタノプロスト点眼の影響が示唆される.実際,ラタノプロスト点眼の中止により,CMEだけでなく漿液性網膜?離も消失した.本症例は両眼にラタノプロスト点眼されていたが,プロスタグランジン製剤の加齢黄斑変性への影響は今後の検討が必要である.白内障術後のCMEの発生にはプロスタグランジンの影響が考えられている3)が,白内障術後に加齢黄斑変性の増悪を認める症例をしばしば経験することや,眼内レンズ挿入眼で加齢黄斑変性の発症率が上昇する事実から8?10),プロスタグランジンが滲出型加齢黄斑変性の病態に関与している可能性も考えられる.実際,最近,滲出型加齢黄斑変性に対して,ラニビズマブ硝子体内注射とプロスタグランジンの生成抑制作用をもつ非ステロイド性抗炎症薬であるブロムフェナク点眼薬(ブロナック点眼液R?:千寿製薬)を併用することにより,ラニビズマブの総投与数が減らせるかどうか国内でも無作為化二重盲検試験が実施されている.最近のOCTの普及により,自覚症状のない時点でも,網膜上膜,黄斑円孔,黄斑浮腫などの検出率が増加していると思われる.プロスタグランジン製剤によるCMEの発生率も,本症例のような無自覚のものを含めると以前の報告よりも頻度が高い可能性が予想される.プロスタグランジン製剤点眼中の緑内障患者のCMEの早期発見に無散瞳でも測定可能で非侵襲的なOCTによる黄斑部の観察が有用であると考えられた.文献1)WarmarRE,BullockJD,BallalD:Cystoidmacularedemaandanterioruveitisassociatedwithlatanoprostuse.Ophthalmology105:263-268,19982)RoweJA,HattenhauerMG,HermanDC:Adversesideeffectsassociatedwithlatanoprost.AmJOphthalmol124:683-685,19973)MiyakeK,IbarakiM:Prostaglandinsandcystoidmacularedema.SurvOphthalmol47:203-218,20024)AyyalaR,CruzD,MargoCetal:Cystoidmacularedemaassociatedwithlatanoprostinaphakicandpseudophakiceyes.AmJOphthalmol126:602-604,19985)CallananD,FellmanR,SavageJ:Latanoprost-associatedcystoidmacularedema.AmJOphthalmol126:134-135,19986)WandM,GaudioA:Cystoidmacularedemaassociatedwithocularhypotensivelipids.AmJOphthalmol133:403-405,20027)OzkanB,Karaba?VL,YukselNetal:Serousretinaldetachmentinthemacularelatedtolatanoprostuse.IntOphthalmol28:363-365,20078)KleinR,KleinBE,WongTYetal:Theassociationofcataractandcataractsurgerywiththelong-termincidenceofage-relatedmaculopathy:theBeaverDamEyeStudy.ArchOphthalmol120:1551-1558,20029)FreemanEE,MunozB,WestSKetal:Isthereanassociationbetweencataractsurgeryandage-relatedmaculardegeneration?Datafromthreepopulation-basedstudies.AmJOphthalmol135:849-856,200310)CugatiS,MitchellP,RochtchinaEetal:Cataractsurgeryandthe10-yearincidenceofage-relatedmaculopathy:theBlueMountainsEyeStudy.Ophthalmology113:2020-2025,2006***図2症例1の右眼のOCT所見a:2009年11月10日,b:2010年6月22日(最終受診日).右眼CMEの増悪および中心窩下にわずかだが漿液性網膜?離を認めたため(a),ラタノプロスト点眼を中止したところ,改善した(b).ab

併用薬の違いによる1%ドルゾラミドの視神経乳頭血流増加作用

2011年6月30日 木曜日

868(11あ6)たらしい眼科Vol.28,No.6,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(6):868.873,2011cはじめに日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン1)によると,「現在,緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧を下降することである」とされており,したがって強力な眼圧下降効果を有するプロスタグランジン(PG)関連薬あるいはb遮断薬が第一選択薬として使用されている.一方,炭酸脱水酵素(carbonicanhydrase:CA)阻害薬であるドルゾラミドは,眼圧下降効果および点眼回数などの点でやや劣ることから,これらに併用する形で使用されることがほとんどである.近年,ドルゾラミド点眼薬に眼循環改善作用があるとする報告が散見され2.4),緑内障神経保護治療の面で注目されている.2003年Arendら2)は原発開放隅角緑内障患者14例にドルゾラミド,0.5%マレイン酸チモロールあるいはラタ〔別刷請求先〕大黒幾代:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:IkuyoOhguro,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,S-1,W-16,Chuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8543,JAPAN併用薬の違いによる1%ドルゾラミドの視神経乳頭血流増加作用大黒幾代片井麻貴田中祥恵鶴田みどり大黒浩札幌医科大学医学部眼科学講座Dorzolamide1%AddedtoLatanoprostorTimololMaleate0.5%:EffectonOpticNerveHeadBloodFlowinGlaucomaIkuyoOhguro,MakiKatai,SachieTanaka,MidoriTsurutaandHiroshiOhguroDepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine目的:ラタノプロストあるいはマレイン酸チモロールにドルゾラミドを併用した際の視神経乳頭血流に及ぼす影響につき調査した.対象および方法:ラタノプロスト単剤(LP群)あるいは0.5%マレイン酸チモロール単剤(TM群)で治療中の緑内障患者15症例に1%ドルゾラミドを追加投与し,2カ月後の眼圧,眼灌流圧および視神経乳頭血流量を測定した.結果:ドルゾラミド追加により両群で乳頭血流量に増加傾向がみられた.特にLP群では乳頭陥凹部のmeanblurrate(MBR)値が7.45±2.51から10.09±4.02,TM群では上耳側リムのMBR値が4.49±2.59から6.04±3.20とそれぞれ有意に増加した(p<0.05).一方,眼圧は群間での差はなく両群ともに有意に下降していた.結論:ラタノプロストあるいはマレイン酸チモロールへのドルゾラミドの併用は,眼圧下降だけでなく視神経乳頭血流量増加にも有効であると考えられる.Purpose:Toevaluatetheeffectofadditionalinstillationofdorzolamide1%onopticnerveheadbloodflowinglaucomapatientsreceivingeitherlatanoprostortimololmaleate.CasesandMethod:Thisprospectivestudyinvolved15eyesof15patients,theseriescomprising10patientstreatedwithlatanoprost(LPgroup)and5treatedwithtimololmaleate(TMgroup).Opticnerveheadcirculationwasmeasuredusinglaser-speckleflowgraphy,beforeandat2monthsafterdorzolamideinstillation.Results:Laser-speckleflowgraphydisclosedsignificantbloodflowincreasesinthecuppingofLPgroupandinthesuperotemporalsegmentoftherimareaofTMgroup(p<0.05).Intraocularpressuredecreasedsignificantlyafter2monthsofinstillationinbothgroups.Conclusion:Theseresultssuggestthattheinstillationofdorzolamideadditionaltoeitherlatanoprostortimololmaleateisaneffectivetreatmentforincreasingopticnerveheadbloodflow,aswellasfordecreasingintraocularpressure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):868.873,2011〕Keywords:1%ドルゾラミド,視神経乳頭血流,ラタノプロスト,0.5%マレイン酸チモロール.dorzolamide1%,opticnerveheadbloodflow,latanoprost,timololmaleate0.5%.(117)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011869ノプロストのいずれか1剤を4週間点眼し,網膜動静脈循環時間の短縮およびコントラスト感度の上昇がドルゾラミド群でのみ認められたと報告している.また,2005年にはFuchsjager-Mayrlら4)が原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者140名にドルゾラミドあるいは0.5%マレイン酸チモロールのいずれか1剤を6カ月間点眼し,ドルゾラミド群ではチモロール群に比べて視神経乳頭耳側リムおよび陥凹部の血流が有意に増加したと報告しており,これらの事実はドルゾラミドがマレイン酸チモロールあるいはラタノプロストに比べて網膜および視神経乳頭の循環改善作用を有するとするものであろう.しかしながら,PG関連薬と併用した際のドルゾラミド点眼薬の乳頭血流に関する報告はなく,また併用薬の違いによりドルゾラミドの乳頭血流に及ぼす効果に差が生じるか否かは不明である.そこで,今回はPG関連薬あるいはb遮断薬にドルゾラミド点眼薬を併用し,その乳頭血流に及ぼす影響につき調査した.I対象および方法対象は札幌医科大学眼科緑内障専門外来に通院中の緑内障患者のうち,ラタノプロスト単剤(ラタノプロスト群)あるいは0.5%マレイン酸チモロール単剤(ただし持続性点眼液は除く)(チモロール群)にて3カ月以上治療中で,効果が不十分と判断されかつ当臨床試験の趣旨に賛同した緑内障患者15例(男性7例,女性8例,年齢45.78歳)である.ラタノプロスト群は10例,その内訳は男性6例,女性4例,年齢は54.78歳(平均±標準偏差;68.8±7.2歳),病型は正常眼圧緑内障6例,原発開放隅角緑内障4例である.緑内障病期はHumphrey静的視野プログラム30-2にてmeandeviation(MD)値が.19.14.1.06dB(平均±標準偏差;.5.54±6.82dB)と初期から中期のものが大部分で,MD≦.12dBのAndersonら5)の重度視野欠損例は1例であった(表1).チモロール群は5例,その内訳は男性1例,女性4例,年齢は45.70歳(平均±標準偏差;61.0±10.0歳),病型は正常眼圧緑内障2例,原発開放隅角緑内障2例,虹彩切開術後の慢性閉塞隅角緑内障1例である.緑内障病期は同プログラムにてMD値が.10.85.1.16dB(平均±標準偏差;.5.26±4.70dB)とすべて初期から中期であった(表1).対象患者に1%ドルゾラミド点眼液を追加投与し,追加前,追加1カ月および2カ月後に眼圧,全身血圧より眼灌流圧を算出し,追加前および追加2カ月後に視神経乳頭陥凹部および耳側リムにおける組織血流を測定した.実際には既報6)のごとく,0.5%トロピカミド・塩酸フェニレフリンによる散瞳30分後,比較暗室で視神経乳頭を中心に画角35°で連続3回測定した.血流測定にはcharge-coupleddevice(CCD)カメラを用いたレーザースペックルフローグラフィを使用し,組織血流の指標となるmeanblurrate(MBR)値を測定した.血流測定領域は眼底写真で確認し,乳頭陥凹部および上・下耳側リム上の表在血管のない最大矩形領域に設定した.リム乳頭径比が0.1未満で矩形領域が設定困難な場合はやや黄斑部に寄せて矩形領域を設定した.統計学的解析は15例15眼に施行し,有意水準p<0.05を有意とした.なお,測定はすべての症例で点眼2時間から5時間後の午前10時から11時の間に行った.表1ドルゾラミド追加投与前の両群患者背景ラタノプロスト群(n=10)チモロール群(n=5)検定年齢(平均±標準偏差)68.8±7.260.1±10.0NS(p=0.0647)(Mann-WhitneyUtest)性別(男性/女性)6例/4例1例/4例病型正常眼圧緑内障6例2例NS(p=0.3734)原発開放隅角緑内障4例2例(c2検定)慢性閉塞隅角緑内障(LI後)1例病期MD(平均±標準偏差).5.54±6.82dB.5.26±4.70dBNS(p=0.4724)MD>.6dB6例2例(c2検定).6dB≧MD>.12dB3例3例.12dB≧MD1例眼圧(mmHg)(平均±標準偏差)14.6±2.515.3±2.3NS(p=0.6192)(Mann-WhitneyUtest)眼灌流圧(mmHg)(平均±標準偏差)49.2±6.1*39.5±6.7*(p=0.0373)(Mann-WhitneyUtest)収縮期血圧(mmHg)(平均±標準偏差)135.7±17.9120.9±20.3NS(p=0.1583)(Mann-WhitneyUtest)拡張期血圧(mmHg)(平均±標準偏差)75.5±7.3*62.9±7.6*(p=0.0142)(Mann-WhitneyUtest)LI:レーザー虹彩切開術,MD:meandeviation.870あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(118)また,当臨床試験は札幌医科大学倫理委員会の承認を得た後,患者全員から文書での同意を取得して施行,すべての試験プロトコールはヘルシンキ人権宣言に従った.II結果1.ドルゾラミド追加投与前の両群の患者背景両群の年齢,病型および病期に差はなく,ドルゾラミド追加投与前のラタノプロスト群およびチモロール群の眼圧値はそれぞれ14.6±2.5mmHg,15.3±2.3mmHgで有意な差はなかった.しかし,拡張期血圧はラタノプロスト群で有意に高く(p<0.05),血圧と眼圧値から算出した眼灌流圧はチモロール群(39.5±6.7mmHg)に比べてラタノプロスト群(49.2±6.1mmHg)で有意に高かった(p<0.05)(表1).2.ドルゾラミド追加投与前の両群の眼血流ドルゾラミド追加投与前における組織血流の指標であるMBR値は,乳頭陥凹部および上・下耳側リムいずれの部位においても両群に差はみられなかった(表2).3.ドルゾラミド追加投与後の眼圧ラタノプロスト群の眼圧(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前14.6±2.5mmHgから,追加1カ月後および2カ月後にそれぞれ12.9±3.1mmHg(p<0.05),13.2±2.9mmHgと有意に下降した(図1).チモロール群の眼圧(平均±標準偏差)もドルゾラミド追加前15.3±2.3mmHgから,追加1カ月後および2カ月後にそれぞれ14.1±1.3mmHg,12.7±1.8mmHg(p<0.05)と有意に下降した(図1).4.ドルゾラミド追加投与後の平均血圧平均血圧を1/3(収縮期血圧.拡張期血圧)+(拡張期血圧)と定義すると,ラタノプロスト群の平均血圧(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前95.6±8.9mmHgで,追加1カ月後および2カ月後はそれぞれ88.5±13.4mmHg,93.3±7.8mmHgとやや低下傾向がみられたものの,有意な変化ではなかった(図2).チモロール群の平均血圧(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前82.2±10.3mmHgで,追加1カ月後および2カ月後はそれぞれ82.9±11.6mmHg,84.7±14.3mmHgで,有意な変化はなかった(図2).5.ドルゾラミド追加投与後の眼灌流圧眼灌流圧は便宜的に2/3(平均血圧).(眼圧値)で算出した.ラタノプロスト群の眼灌流圧(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前49.2±6.1mmHg,追加1カ月後および2カ表2ドルゾラミド追加投与前の両群眼血流ラタノプロスト群(n=10)チモロール群(n=5)検定陥凹部(平均±標準偏差)4.49±2.596.12±2.83NS(p=0.2207)(Mann-WhitneyUtest)上耳側リム(平均±標準偏差)8.30±5.447.45±2.51NS(p=0.7389)(Mann-WhitneyUtest)下耳側リム(平均±標準偏差)8.15±6.567.17±1.60NS(p=0.6242)(Mann-WhitneyUtest)(単位:MBR)*:p<0.05pairedt-testベースライン眼圧(mmHg)201816141210015.3±2.314.1±1.31カ月後2カ月後12.7±1.8:チモロール群:ラタノプロスト群14.6±2.512.9±3.113.2±2.9**図1ドルゾラミド追加投与後の眼圧経過ベースライン平均血圧(mmHg)1カ月後2カ月後:チモロール群:ラタノプロスト群120110100908070082.2±10.382.9±11.695.6±8.993.3±7.888.5±13.484.7±14.3図2ドルゾラミド追加投与後の平均血圧経過ベースライン眼灌流圧(mmHg)1カ月後2カ月後:チモロール群70:ラタノプロスト群605040302010039.5±6.749.2±6.143.7±10.945.6±6.549.0±6.141.2±7.3図3ドルゾラミド追加投与後の眼灌流圧経過(119)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011871月後はそれぞれ45.6±6.5mmHg,49.0±6.1mmHgと有意な変化はみられなかった(図3).チモロール群の眼灌流圧(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前39.5±6.7mmHg,追加1カ月後および2カ月後はそれぞれ41.2±7.3mmHg,43.7±10.9mmHgとやや増加傾向がみられたものの,有意な変化ではなかった(図3).6.ドルゾラミド追加投与後の視神経乳頭血流組織血流の指標となるMBR値(平均±標準偏差)はラタノプロスト群の乳頭陥凹部で,ドルゾラミド追加前4.49±2.59から,追加2カ月後に6.04±3.20と有意に増加した(p<0.05)(図4).また,視神経乳頭上・下耳側リムのMBR値(平均±標準偏差)もそれぞれドルゾラミド追加前8.30±5.44,8.15±6.56から,追加2カ月後に8.59±5.48,9.12±7.83と増加傾向を示した(図5,6).一方チモロール群では,乳頭陥凹部のMBR値(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前6.12±2.83から,追加2カ月後に6.75±3.45と有意ではないものの10%程度の増加傾向がみられた(図4).また,視神経乳頭上・下耳側リムのMBR値(平均±標準偏差)もそれぞれドルゾラミド追加前7.45±2.51,7.17±1.60から,追加2カ月後に10.09±4.02(p<0.05),7.80±4.75となり,上耳側リムでは有意な増加を示した(図5,6).7.ドルゾラミド追加投与による両群の各種変化量ドルゾラミド追加投与前のベースラインから投与2カ月後の変化量を群間で比較したところ,眼圧および眼灌流圧には差がなかったが,視神経乳頭上耳側リムのMBR値(平均±標準偏差)はラタノプロスト群(0.28±1.63)に比べてチモロール群(2.63±1.83)で有意に増加していた(p<0.05).視神経乳頭陥凹部および下耳側リムのMBR値には群間で差はなかった(表3).III考按CAは生体内におけるH2O+CO2.H2CO3.HCO3.+H+の可逆的反応を触媒する酵素で,房水産生に関与することが知られている.CA阻害薬であるドルゾラミドはヒトCA-II型に強い阻害活性を示す7)ことから,毛様体におけるCA-II型の活性を強く阻害することで房水産生を抑制し眼圧を下降させると考えられている.近年の免疫組織化学的研究からブ乳頭陥凹部(MBR)6.12±2.836.75±3.45109876543204.49±2.596.04±3.20**:p<0.05pairedt-testベースライン2カ月後:チモロール群:ラタノプロスト群図4ドルゾラミド追加投与後の視神経乳頭陥凹部血流経過上耳側リム(MBR)131211109876540**:p<0.05pairedt-testベースライン2カ月後:チモロール群:ラタノプロスト群7.45±2.5110.09±4.028.30±5.448.59±5.48図5ドルゾラミド追加投与後の視神経乳頭上耳側リム血流経過下耳側リム(MBR)ベースライン2カ月後10:チモロール群:ラタノプロスト群7.17±1.607.80±4.758.15±6.569.12±7.8350図6ドルゾラミド追加投与後の視神経乳頭下耳側リム血流経過表3ドルゾラミド追加投与による両群の各種変化量ラタノプロスト群(n=10)チモロール群(n=5)p値(Mann-Whitneytest)陥凹部(MBR)1.55±2.010.63±2.83NS(p=0.540)上耳側リム(MBR)0.28±1.632.63±1.83*p<0.05(p=0.028)下耳側リム(MBR)0.98±2.540.63±4.73NS(p=0.903)眼灌流圧(mmHg).0.15±9.144.24±4.95NS(p=0.142)眼圧(mmHg).1.35±2.24.2.60±1.67NS(p=0.294)872あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011タやサルの視神経毛細血管周囲さらにサルでは網膜毛細血管周囲にCA活性があり,ドルゾラミド添加によりこれら毛細血管が拡張することが示されている8).この事実はドルゾラミドにより網膜および視神経の毛細血管に存在するCA-II型活性が阻害され,局所炭酸ガス分圧が上昇し二次的に毛細血管が拡張して網膜および視神経乳頭血流が増加する可能性を示唆している.実際に筆者らの臨床試験において,ドルゾラミドを追加投与することにより両群で眼圧は有意に下降し眼灌流圧は変化しなかったことから,ドルゾラミドは血管抵抗を減弱することで血流を改善したと考えられ,先の可能性を支持するものであった.今回併用薬として用いた薬剤ラタノプロストはPGF2a誘導体で,強力な眼圧下降効果をもつことから第一選択薬として使用されている.眼血流に関しては不変とする報告もある2,3)が増加とする報告が多く9.10),ラタノプロストは眼圧を大きく下降させることにより眼灌流圧を上昇させるため,一般に眼血流は増加すると考えられる.Gherghelら9)は原発開放隅角緑内障患者未治療22例にラタノプロストを6カ月間投与したところ,眼圧は有意に下降し平均眼灌流圧は有意に上昇して視神経乳頭血流速度は有意に増加したと報告している.また,ラタノプロスト点眼にて有色家兎,カニクイザル,正常人の視神経乳頭血流量が増加したとする報告では,その機序としてPGF2a誘導体であるラタノプロストが内因性PGI2を誘導する可能性が考察で述べられている10).したがって,作用機序が異なるラタノプロストとドルゾラミドの併用は眼圧のみならず眼血流においても有用と考えられ,筆者らの臨床試験結果においても視神経乳頭,特に陥凹部血流は有意に増加していた.今回併用薬として用いたもう一つの薬剤であるマレイン酸チモロールは非選択性b遮断薬である.眼圧下降による眼灌流圧上昇は眼血流増加の方向に働くと考えられるが,一般にb遮断薬は末梢血管収縮作用を有することから,b遮断点眼薬が視神経や網膜の血流に抑制的に働く可能性も考えられる.これまでチモロールの眼血流に関する報告は多数あるものの,結果は増加11),不変12),減少13)と一定していない.Martinezら14)は0.5%マレイン酸チモロールで加療中の原発開放隅角緑内障初期40例80眼を対象に,片眼(視野障害の大きいほう)に2%ドルゾラミドを追加投与して,眼血流に関する4年間の前向き試験を行ったところ,チモロール・ドルゾラミド併用治療眼ではチモロール単独治療眼に比べて,有意な眼圧下降,眼動脈および短後毛様動脈の拡張終期血流速度の有意な上昇および抵抗指数の有意な低下,視野障害進行リスクの有意な減少がみられたと報告した.したがって,チモロールとドルゾラミドの併用により後眼部血流が増加することから,視神経乳頭血流の増加も期待できると予想され,筆者らの臨床試験においても視神経乳頭,特に上耳側リム血流は有意に増加しており矛盾しない結果であった.ドルゾラミドの単剤もしくはチモロールに追加した際の眼血流に関する報告は成されている2.4,14)が,ラタノプロストに併用した際の眼血流に関する報告はこれまでなく,今回の筆者らのものが初めてである.ドルゾラミドはチモロールに併用してもラタノプロストに併用しても視神経乳頭血流を増加することが示されたことから,併用薬として有用と考えられる.同時に,ドルゾラミドの乳頭血流増加作用には部位によって差があることも今回示された.この原因として,ベースラインにおける眼灌流圧の群間での違いやCA活性の部位による差,血管分布密度の部位別差などが考えられるが,詳細については多数例での検討が必要と考えられ,次回の課題としたい.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌110:777-814,20062)ArendO,HarrisA,WolterPetal:Evaluationofretinalhaemodynamicsandretinalfunctionafterapplicationofdorzolamide,timololandlatanoprostinnewlydiagnosedopen-angleglaucomapatients.ActaOphthalmolScand81:474-479,20033)HarrisA,MigliardiR,RechtmanEetal:Comparativeanalysisoftheeffectsofdorzolamideandlatanoprostonocularhemodynamicsinnormaltensionglaucomapatients.EurJOphthalmol13:24-31,20034)Fuchsjager-MayrlG,WallyB,RainerGetal:Effectofdorzolamideandtimololonocularbloodflowinpatientswithprimaryopenangleglaucomaandocularhypertension.BrJOphthalmol89:1293-1297,20055)AndersonDR,PatellaVM:Automatedstaticperimetry,2nded,p121-190,Mosby,StLouis,19996)大黒幾代,片井麻貴,田中祥恵ほか:緑内障眼における1%ドルゾラミド点眼の視神経乳頭血流に及ぼす影響.臨眼64:921-926,20107)大森政信,内藤恭三:塩酸ドルゾラミド(トルソプトR点眼液)の薬理作用,臨床効果.眼薬理15:9-15,20018)Lutjen-DrecollE,RichterM,KiilgaardJetal:Speciesdifferencesindistributionofcarbonicanhydraseactivityandvasodilativeeffectsofdorzolamideinretinalandopticnervevasculature.InvestOphthalmolVisSci41:S560,20009)GherghelD,HoskingSL,CunliffeIAetal:First-linetherapywithlatanoprost0.005%resultsinimprovedocularcirculationinnewlydiagnosedprimaryopen-angleglaucomapatients:aprospective,6-month,open-labelstudy.Eye22:363-369,200810)IshiiK,TomidokoroA,NagaharaMetal:Effectsoftopicallatanoprostonopticnerveheadcirculationinrabbits,monkeys,andhumans.InvestOphthalmolVisSci42:2957-2963,200111)GrunwaldJE:Effectoftimololmaleateontheretinalcirculationofhumaneyeswithocularhypertension.Invest(120)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011873OphthalmolVisSci33:604-610,199212)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Effectoftopicalbeta-blockersontissuebloodflowinthehumanopticnervehead.CurrEyeRes16:1102-1110,199713)YoshidaA,FekeGT,OgasawaraHetal:Effectoftimololonhunanretinal,choroidalandopticnerveheadcirculation.OphthalmicRes23:162-170,199114)MartinezA,Sanchez-SalorioM:Effectsofdorzolamide2%addedtotimololmaleate0.5%onintraocularpressure,retrobulbarbloodflow,andtheprogressionofvisualfielddamageinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma:asingle-center,4-year,open-labelstudy.ClinTher30:1120-1134,2008(121)***

3 種のプロスタグランジン製剤の眼圧下降効果の比較検討

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(133)441《原著》あたらしい眼科28(3):441.443,2011cはじめに高眼圧は緑内障の発症,進行の最大の危険因子であり,緑内障治療においては,眼圧下降が唯一の科学的根拠のある治療法とされている1~5).緑内障点眼薬のなかでは眼圧下降効果が強力かつ持続的で全身副作用の少ないプロスタグランジン(PG)製剤が第一選択薬として広く用いられている6,7).わが国では1999年に0.005%ラタノプロスト点眼液(Lat)が上市されたが,その後,2007年には0.004%トラボプロスト点眼液(Tra),2008年には0.0015%タフルプロスト点眼液(Taf)が上市され,PG製剤の選択肢が広がった.一方でこれらのPG製剤を使い分ける明確な基準はまだ存在しない.今回,筆者らはこの3種のPG製剤の眼圧下降効果の差異につき比較検討したので報告する.I対象および方法コンタクトレンズ非装用の健常者ボランティア37名74眼(男性20名,女性17名,平均年齢20.8±1.6歳)を対象とした.左右眼には3種のPG製剤,Lat,Tra,Tafのうち異なる2剤をランダムに割り振り,1日1回1週間点眼した.点眼開始前(点眼前),初回点眼開始1時間後(1時間後),初回点眼開始1週間後(1週間後),および点眼を中止してから1週間後(中止1週間後)にGoldmann圧平眼圧計を用いて眼圧を測定した.同一例左右眼における異なる2剤のPG製剤の1週間後の眼圧下降率(点眼前眼圧から1週間後眼圧を差し引き点眼前眼圧で除したもの)について二重盲検法によって検証した.異なる2剤のPG製剤間の比較は,Latと〔別刷請求先〕木村健一:〒629-0392京都府南丹市日吉町保野田ヒノ谷6-1明治国際医療大学眼科学教室Reprintrequests:KenichiKimura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MeijiUniversityofIntegrativeMedicine,6-1Hinotani,Honoda,Hiyosi-cho,Nantan-shi,Kyoto629-0392,JAPAN3種のプロスタグランジン製剤の眼圧下降効果の比較検討木村健一*1長谷川謙介*2寺井和都*1*1明治国際医療大学眼科学教室*2明治国際医療大学健康予防鍼灸学部IntraocularPressure-LoweringEffectof3KindsofProstaglandinAnalogsKenichiKimura1),KensukeHasegawa2)andKazutoTerai1)1)DepartmentofOphthalmology,MeijiUniversityofIntegrativeMedicine,2)DepartmentofHealthPromotingandPreventiveAcupunctureandMoxibustion,MeijiUniversityofIntegrativeMedicine健常者37名の左右眼それぞれに異なるプロスタグランジン製剤を1週間点眼した.点眼前,点眼開始1時間後,点眼開始1週間後および点眼を中止してから1週間後に眼圧測定を行い,眼圧下降効果について二重盲検法によって検証した.左右眼にはラタノプロスト(Lat),トラボプロスト(Tra),タフルプロスト(Taf)のうち2剤をランダムに割り振り,Lat-Tra群(n=10),Tra-Taf群(n=14),Taf-Lat群(n=13)とした.統計的解析は対応のあるt検定を用いた.いずれのプロスタグランジン製剤も点眼開始1週間後には点眼前と比較して有意に眼圧が下降したが,各プロスタグランジン製剤の眼圧下降率に有意差は認められなかった.3剤の眼圧下降効果はほぼ同等であることが確認された.Toevaluatetheintraocularpressure-loweringeffectof3kindsofprostaglandinanalogs,weadministeredvariouscombinationsoflatanoprost(Lat),travoprost(Tra)andtafluprost(Taf)totheeyesofhealthyvolunteers(n=37)inonce-dailyapplicationsfor1week.Thesubjectswererandomizedinto3groups:Lat-Tra(n=10),Tra-Taf(n=14)andTaf-Lat(n=13)groups.Intraocularpressure(IOP)wasmeasuredatbaseline,at1hour,1weekand2weeksafterinitiation.StatisticaldifferenceswereanalyzedbyStudent’spaired-ttest.ResultsshowedsignificantdecreaseinIOPafteroneweek.NosignificantIOPreductionrateswereobservedineithereyeofanyvolunteerineachgroupafter1week.WeconcludedthateachprostaglandinanalogcanachievesimilarIOP-loweringeffects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):441.443,2011〕Keywords:プロスタグランジン関連薬,眼圧下降効果,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト.prostaglandinanalogs,intraocularpressure-loweringeffect,latanoprost,travoprost,tafluprost.442あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(134)Traを割り振った群をLat-Tra群,TraとTafを割り振った群をTra-Taf群,TafとLatを割り振った群をTaf-Lat群とした.なお,データはすべて平均±標準偏差で示した.統計的解析は対応のあるt検定を用いた.また,すべての被験者に本研究の目的,意義,方法,予測される危険性について医師が説明し,文書による同意を得た後に行った.II結果対象の背景を表1に示す.Lat-Tra群の眼圧変化を図1に示す.Lat点眼では点眼前12.6,1週間後10.0mmHgで,眼圧下降率は20.8±10.2%であった.Tra点眼では点眼前12.8,1週間後9.5mmHgで,眼圧下降率は25.8±12.0%であった.2剤の眼圧下降率に有意差を認めなかった(p=0.2237).Tra-Taf群の眼圧変化を図2に示す.Tra点眼では点眼前14.7,1週間後10.5mmHgで,眼圧下降率は28.6±16.2%であった.Taf点眼では点眼前15.3,1週間後11.0mmHgで,眼圧下降率は27.5±14.7%であった.2剤の眼圧下降率に有意差を認めなかった(p=0.7548).Taf-Lat群の眼圧変化を図3に示す.Taf点眼では点眼前12.8mmHg,1週間後9.2mmHgで,眼圧下降率は28.7±13.0%であった.Lat点眼では点眼前12.5mmHg,1週間後9.7mmHgで,眼圧下降率は23.1±11.0%であった.2剤の眼圧下降率に有意差を認めなかった(p=0.0623).III考按今回,Lat,Tra,TafのいずれのPG製剤においても1週間後には点眼前と比較して有意な眼圧下降が認められた.一方で,各PG製剤間の眼圧下降率には有意差を認めなかった.この3剤は緑内障治療薬の第一選択薬として広く用いられているが,使い分けるための明確な基準がないため,日常診療においてはいずれのPG製剤を用いるべきか判断するのが困難である.Latはわが国で10年以上の使用経験がある使い慣れた点眼薬で,その安定した眼圧下降効果は報告されている7).しかし,眼圧下降率には個人差があり,期待された眼圧下降の得られないいわゆるノンレスポンダーの存在も指摘されている8~10).このためTra,Tafにおいても眼圧下降率には個人差が生じ,十分な眼圧下降が得られない可能性も考えられる.緑内障治療における薬物療法は生涯にわたって点眼が必要であり,視機能を維持するためには1mmHgでも大きな眼圧下降が望まれるため5),点眼の導入にあたってはいずれのPG製剤を用いるべきかの選択が重要である.緑内障ガイドライン11)では,「点眼の導入にあたって,できれば片眼に投与してその眼圧下降や副作用を判定(片眼トライアル)し,効果を確認の後両眼に投与を開始することが望ましい」とされ,臨床的にレスポンダー,ノンレスポンダーを見分ける方法として点眼薬の片眼トライアルが推奨されてきた.片眼トライアルを成立させるためには,「1.トライアルの開始時に両眼とも同じ眼圧,2.両眼は同様な日内変動をする,3.片眼に投与する薬剤は他眼に影響を及ぼさないも表1対象の背景年齢(歳)(mean±SD)性別(男/女)全体(n=37)20.8±1.620/17Lat-Tra群(n=10)20.1±1.74/6Tra-Taf群(n=14)21.1±2.05/9Taf-Lat群(n=13)20.8±1.611/216.014.012.010.08.06.04.02.00.0点眼前1時間後1週間後中止1週間後■:Lat■:Tra*,#:p=0.0001眼圧(mmHg)*#図1Lat.Tra群の眼圧変化16.014.012.010.08.06.04.02.00.0点眼前1時間後1週間後中止1週間後■:Taf■:Lat眼圧(mmHg)***#*,#:p<0.0001**:p<0.01図3Taf.Lat群の眼圧変化20.018.016.014.012.010.08.06.04.02.00.0点眼前1時間後1週間後中止1週間後■:Tra■:Taf眼圧(mmHg)*###*,#:p<0.0001**,##:p<0.01**図2Tra.Taf群の眼圧変化(135)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011443のであること」という前提条件がある12).この前提条件の3.に関しては,Latは非点眼側の眼圧は変化させなかった13)という報告があるため,PG製剤の導入にあたっては片眼トライアルが可能であると考えられている14).しかし,日常診療においては厳密に前提条件が満たされた理想的条件で評価できるとは限らないため,今回は両眼に異なる2剤のPG製剤を用いて眼圧下降効果を比較検討した.なお,副作用に関しては他で報告する予定である.今回の検討は対象が正常者で,点眼期間も1週間であり,眼圧下降率を評価するための眼圧測定も1回のみという問題点があるため,個々の症例にPG製剤を導入するにあたってはより理想的な条件のもとで,いずれのPG製剤で最大の眼圧下降効果が得られるかを確認することが重要であると考えられた.IV結論今回の検討では種類の異なるPG製剤間の眼圧下降効果には有意差を認めなかった.本論文の要旨は第20回日本緑内障学会(2009年11月,沖縄県)において発表した.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormaltensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19982)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19983)TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS)7:Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20004)LichterPR,MuschDC,GillespieBWetal:fortheCIGTSStudyGroup:InterimclinicaloutcomesintheCollaborativeInitialGlaucomaTreatmentStudycomparinginitialtreatmentrandomizedtomedicationsorsurgery.Ophthalmology108:1943-1953,20015)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment:theearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol121:48-56,20036)O’ConnorDJ,MartoneJF,MeadA:Additiveintraocularpressureloweringeffectofvariousmedicationswithlatanoprost.AmJOphthalmol133:836-837,20027)KashiwagiK,TsumuraT,TsukaharaS:Long-termeffectsoflatanoprostmonotherapyonintraocularpressureinJapaneseglaucomapatients.JGlaucoma17:662-666,20088)RossettiL,GandolfiS,TraversoCetal:Anevaluationoftherateofnonresponderstolatanoprosttherapy.JGlaucoma15:238-243,20069)井上賢治,泉雅子,若倉雅登ほか:ラタノプロストの無効率とその関連因子.臨眼59:553-557,200510)IkedaY,MoriK,IshibashiTetal:Latanoprostnonresponderswithopen-angleglaucomaintheJapanesepopulation.JpnJOphthalmol50:153-157,200611)阿部春樹,北澤克明,桑山泰明ほか:緑内障ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,200612)SmithJ,WandelT:Rationalefortheone-eyetherapeutictrial.AnnOphthalmol18:8,198613)TakahashiM,HigashideT,SakuraiMetal:Discrepancyoftheintraocularpressureresponsebetweenfelloweyesinone-eyetrialsvs.bilateraltreatment:verificationwithnormalsubjects.JGlaucoma17:169-174,200814)杉山和久:緑内障治療薬の片眼トライアルの方法と評価のポイントは?.あたらしい眼科25(臨増):154-156,2008***

ラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」の角結膜障害性の評価

2010年12月31日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(89)1721《原著》あたらしい眼科27(12):1721.1726,2010cはじめにラタノプロストはプロスタノイドFP受容体と高い親和性をもつプロスタグランジンF2a(以下,PGF2a)誘導体である.PGF2a誘導体を有効成分とするPG関連薬は,緑内障病型を選ばない強い眼圧下降効果があり,全身副作用が少ないことから,近年では世界的に第一選択薬として高く評価されている.しかし,PG関連薬は結膜充血,角膜炎,色素沈着,刺激感などの局所的副作用をひき起こすことが指摘されている.これらの局所的副作用は主剤であるPGF2a誘導体自体の影響のほかに,点眼液中に含まれる防腐剤の細胞毒性およびアレルギー反応が関与しているとされている1).点眼液に使用される防腐剤のなかでも,溶解性が良く,抗菌力および防腐力が強いベンザルコニウム塩化物が頻用されており,0.001~0.02%の濃度で使用されている2).しかし,ベンザルコニウム塩化物は防腐剤としての高い有用性をもつ反面,角結膜の上皮細胞に対する細胞毒性があり2,3),それによる眼表面への障害が問題視されている4).また,ベンザルコニウム塩化物の細胞毒性作用にはアポトーシスが関与していることが示唆されている3,5).ラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」(以下,ラタノプ〔別刷請求先〕伊田昌弘:〒532-0003大阪市淀川区宮原5-2-30沢井製薬株式会社学術部Reprintrequests:MasahiroIda,MedicalInformationDepartment,SawaiPharmaceuticalCo.,Ltd.,5-2-30Miyahara,Yodogawa-ku,Osaka532-0003,JAPANラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」の角結膜障害性の評価小倉岳治*1片岡博文*1大坪義和*1伊藤吉將*2*1沢井製薬株式会社生物研究部*2近畿大学薬学部製剤学研究室EvaluationofCorneoconjunctivalDamagefromLatanoprostEyedrops0.005%「SAWAI」TakeharuOgura1),HirofumiKataoka1),YoshikazuOhtsubo1)andYoshimasaIto2)1)BiologicalResearchDepartment,SawaiPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)LaboratoryofAdvancedDesignforPharmaceuticals,SchoolofPharmacy,KinkiUniversity眼表面への局所的副作用を考慮して開発されたジェネリック医薬品であるラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」について,invivoおよびinvitroにおける細胞毒性およびアポトーシス誘導能を測定し,角結膜障害性を評価した.本点眼液をヒト結膜由来の培養細胞に曝露したところ,細胞生存率は経時的に低下したが,対照品であるキサラタンR点眼液0.005%と比して高い生存率であった.また,細胞核の凝集は軽度で,断片化DNA量の増加は認められなかった.さらに,ウサギにラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」を頻回点眼したところ,結膜上皮層のTUNEL(TdTmediateddUTP-biotinnick-endlabeling)陽性細胞の増加は認められず,単回点眼後の涙液中へのグルタチオン漏出も認められなかった.以上の結果,ラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」の細胞毒性およびアポトーシス誘導能は低く,角結膜障害性は低いと考えられた.Corneoconjunctivaldamagecausedbythegenericformulationoflatanoprost,Latanoprosteyedrops0.005%「SAWAI」,wasevaluatedonthebasisofcytotoxicityandpro-apoptoticeffectsinhumanconjunctivalcellsinvitro,andinrabbitsinvivo.Invitro,thetestformulationtriggeredcelldeathofChangconjunctivacells,thoughlessthanwiththebrandedformulation,XalatanReyedrops0.005%.NoDNAfragmentationandlessevidentnuclearcondensationwereobservedincellstreatedwiththetestformulation.Invivo,frequentinstillationofthetestformulationtorabbiteyeshadnoeffectonthenumberofTUNEL-positivecellsintheepitheliallayeroftheconjunctiva.Exudationofglutathioneintotearfluidwasnotincreasedbysingleinstillationofthetestformulation.TheseresultssuggestthatLatanoprosteyedrops0.005%「SAWAI」causeslesscorneoconjunctivaldamage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(12):1721.1726,2010〕Keywords:ラタノプロスト,角結膜障害,細胞毒性,アポトーシス,ベンザルコニウム塩化物.latanoprost,corneoconjunctivaldamage,cytotoxicity,apoptosis,benzalkoniumchloride.1722あたらしい眼科Vol.27,No.12,2010(90)ロスト点眼液「サワイ」)は1mL中にラタノプロスト50μgを含有する点眼液であり,先発医薬品であるキサラタンR点眼液0.005%(以下,キサラタンR点眼液)と同一の有効成分を同量含有するジェネリック医薬品として開発された6).両製剤はともに防腐剤としてベンザルコニウム塩化物を含有するが,ラタノプロスト点眼液「サワイ」は角結膜障害を考慮し,ベンザルコニウム塩化物を減量して処方設計されている.そこで,新たに筆者らが開発したラタノプロスト点眼液「サワイ」について,角結膜に対する障害性を評価することを目的として,ヒト成人結膜由来細胞株およびウサギを用いて,細胞毒性およびアポトーシス誘導能を測定し,角結膜障害性を評価したので報告する.I実験材料および方法1.被験物質ラタノプロスト点眼液「サワイ」(沢井製薬),キサラタンR点眼液(ファイザー)を用いた.陰性対照としてinvitroではEagle’sminimumessentialmedium(以下,EMEM,Sigma),invivoではリン酸緩衝生理食塩水(以下PBS,和光純薬)を,陽性対照として0.02%ベンザルコニウム塩化物(和光純薬)を用いた.2.使用細胞ヒト成人結膜由来細胞であるChangconjunctiva細胞はDSファーマバイオメディカルより入手した.細胞は50IU/mLペニシリン(Invitorogen),50μg/mLストレプトマイシン(Invitorogen)および10%ウシ胎児血清(BioWhittaker)を添加したEMEMにて培養し,各試験には対数増殖期の細胞を用いた.3.使用動物12週齢の雄性NZWウサギを日本エスエルシーより入手し,馴化飼育の後,試験に用いた.なお,動物実験はすべて沢井製薬動物実験倫理委員会により承認され,動物実験承認規定に準拠し実施した.4.Invitro細胞毒性試験96穴マイクロプレートにChangconjunctiva細胞を20,000cells/wellで播種し,コンフルエントになるまで培養した.培養上清を除去し,PBSで1回洗浄し,被験物質を50μL添加した.37℃で5~30分間インキュベート後,薬液を除去し,PBSで2回洗浄し,MTS法(CellTiter96AQueousOneSolution,Promega)にて490nm(対照640nm)の吸光度を測定することにより生存細胞を測定した.生存率は下式より算出した.なお,試験は5回くり返し実施した.生存率(%)=(処理群の吸光度)÷(陰性対照の吸光度)×1005.細胞核の形態学的観察Changconjunctiva細胞をチャンバースライド(8well,BDFalcon)に45,000cells/wellで播種し,コンフルエントになるまで培養した.PBSで1回洗浄後,被験物質を100μL添加し,37℃で20分間インキュベートした.PBSで2回洗浄後,4%ホルマリンで固定し,10μg/mLDAPI(4¢,6-diamidino-2-phenylindole,同仁化学)を添加した後,蛍光顕微鏡下にて核の形態学的観察を行った.6.細胞内断片化DNA量の測定細胞内の断片化DNAは,細胞DNAフラグメンテーションELISA(enzyme-linkedimmunosorbentassay;酵素免疫測定法)キット(Roche)を用いて測定した.Invitro細胞毒性試験と同様に96穴プレートに培養したChangconjunctiva細胞にBrdU(bromodeoxyuridine;ブロモデオキシウリジン)を10μMとなるように添加し,18時間培養した.PBSで洗浄後,被験物質を50μL添加し,37℃で20分間インキュベートした.氷冷したPBSを150μL添加し,3,500rpmで1分間遠心後,上清を除去し,細胞溶解液を200μL添加した.室温で30分間インキュベート後,3,500rpmで10分間遠心し,上清中の断片化DNA量をELISAにて測定した.なお,試験は5回くり返し実施した.7.頻回点眼後のウサギ結膜におけるアポトーシス誘導能の測定ウサギに被験物質50μLを5分ごとに10回点眼し,24時間後にペントバルビタールの過剰投与による致死後,結膜を摘出した.摘出結膜は10%中性緩衝ホルマリン溶液で固定後,作製した薄切標本について,InsituApoptosisDetectionKit(タカラバイオ)を用いてTUNEL染色後,ヨウ化プロピジウム(同仁化学)で対比染色した.TUNEL陽性細胞を蛍光顕微鏡下でカウントし,結膜上皮層面積当たりの数を算出した.試験にはウサギ20羽の両眼,計40眼を使用し,各群5例で実施した.8.単回点眼後のウサギ涙液中グルタチオン濃度の測定ウサギに被験物質200μLを結膜.内に点眼し,薬液が流出しないように下瞼を引きながら1分間保持した.貯留する涙液をマイクロピペットで採取し,グルタチオン(以下,GSH)濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法にて測定した.涙液70μLに内部標準溶液(1μg/mLシステアミン)20μLおよびジチオストレイトール10μL(終濃度0.1mM)を添加し,室温で30分間インキュベートし還元した.発蛍光試薬として1mMABD-Fを100μL添加し,50℃で5分間インキュベート後,0.1MHClを60μL添加し反応を停止した.この反応液について,逆相HPLC法(使用カラム:ImtaktCadenzaCD-C18100×4.6mm3μm,蛍光検出:EX380nm/EM510nm)にて涙液中総GSH濃度を定量した.試験にはウサギ3羽の両眼,計6眼を使用した.試(91)あたらしい眼科Vol.27,No.12,20101723験は4×4クロスオーバー法で実施し,1週間の休薬期間をおいてPBS,ベンザルコニウム塩化物,続いてラタノプロスト点眼液「サワイ」またはキサラタンR点眼液の順に点眼した.II結果1.Invitro細胞毒性試験図1にヒト結膜細胞に点眼液を曝露した際の生存率の経時的変化を示した.キサラタンR点眼液を曝露すると5分後に生存率は9.8%となり,生存率は急激に低下した.また,0.02%ベンザルコニウム塩化物を曝露した場合も同様の時間的推移を示し,急激に生存率が低下した.それに対し,ラタノプロスト点眼液「サワイ」では5,10および20分後の生存率はそれぞれ78.9%,76.8%および41.2%で,30分後には15.7%まで減じるものの,いずれの時点においてもキサラタンR点眼液よりも高い生存率であった.2.細胞核の形態学的変化ヒト結膜細胞にキサラタンR点眼液および0.02%ベンザルコニウム塩化物を曝露すると,顕著な核の凝集が認められた0255075100曝露時間(分)051015202530生存率(%ofControl)図1ヒト結膜由来細胞における細胞毒性試験(5例平均±SD)培養細胞を各被験物質に曝露後,経時的に生細胞をMTS法にて測定した.●:ラタノプロスト点眼液「サワイ」,○:キサラタンR点眼液,×:0.02%ベンザルコニウム塩化物.A.コントロール(EMEM)B.ラタノプロスト点眼液「サワイ」C.キサラタンR点眼液D.0.02%ベンザルコニウム塩化物図2ヒト結膜由来細胞における核の形態学的変化培養細胞を各被験物質に20分間曝露後,DAPI(4¢,6-diamidino-2-phenylindole)染色した.1724あたらしい眼科Vol.27,No.12,2010(92)(図2CおよびD).これに対し,ラタノプロスト点眼液「サワイ」を曝露した際は,一部の細胞で核の凝集が認められるものの,凝集度は軽度であった(図2B).3.細胞内断片化DNA量図3に示したように,ヒト結膜細胞にラタノプロスト点眼液「サワイ」を曝露しても,細胞内の断片化DNA量に変化は認められなかった.それに対し,キサラタンR点眼液を曝露すると有意な断片化DNAの増加が認められた.4.頻回点眼後のウサギ結膜におけるアポトーシス誘導能5分ごとに10回連続点眼後のウサギ結膜をTUNEL染色し,アポトーシス細胞を測定した(図4).キサラタンR点眼液および0.02%ベンザルコニウム塩化物点眼群では,コントロールと比して有意なTUNEL陽性細胞の増加が認められた.それに対し,ラタノプロスト点眼液「サワイ」点眼群ではTUNEL陽性細胞の増加は認められなかった.5.単回点眼後のウサギ涙液中GSH濃度単回点眼後のウサギ涙液中の総GSH濃度を測定した(図5).キサラタンR点眼液および0.02%ベンザルコニウム塩化物点眼群では,コントロールと比して有意な涙液中GSH濃度の増加が認められた.それに対し,ラタノプロスト点眼液「サワイ」点眼群では涙液中GSH濃度の増加は認められなかった.III考按緑内障は特徴的な視神経の変化と視野欠損を呈する進行性の疾患である.その原因はさまざまであるが,緑内障進行の最大のリスクファクターは眼圧であり,眼圧を下降させることが緑内障治療の基本となっている.眼圧下降治療は薬物治療が基本であり,薬剤選択のポイントには最小限の薬剤で設定した目標眼圧を達成できるような薬理学的側面がある一方,副作用,年齢,社会的経済的な側面も考慮して患者のqualityoflife(QOL)を損ねない配慮も必要である7).局所的副作用の側面として,PG関連薬では結膜充血,角膜上皮障害,しみるなどの刺激症状などが高頻度で起こることが知られている.このような局所的副作用は有効成分のほか,点眼液に含まれる添加物,特に防腐剤が原因となっている2,3).緑内障における点眼治療は生涯にわたって継続し,目標眼圧の達成に多剤併用を必要とすることも多く,これらの多面的要因により薬剤の変更や治療の中止を余儀なくされる場合もある.点眼液は主薬の有効性,溶解性および安定性のほか,刺激性,無菌性などさまざまな因子を考慮し,可溶化剤,等張化剤,pH調節剤,防腐剤など添加物を用いて処方設計される.キサラタンR点眼液のジェネリック医薬品であるラタノプロスト点眼液「サワイ」はこれらの添加物を効率よく配合することにより,キサラタンR点眼液と同等の眼圧下降作用を有しながら6),安定性を向上させて室温保存を可能とした.さらに添加物のなかでも局所的副作用のおもな原因であるベンザルコニウム塩化物の濃度を減じ,かつ防腐剤としての効力を十分に発揮させることを可能とした.そこで,本研究ではラタノプロスト点眼液「サワイ」の角結膜における局所的副作用を評価することを目的とし,invivoおよびinvitroにおける細胞毒性およびアポトーシス誘導能を測定した.Invitroでヒト結膜細胞にラタノプロスト点眼液「サワイ」およびキサラタンR点眼液を曝露した際,いずれの群においても細胞死が誘導された.しかし,ラタノプロスト点眼液「サワイ」ではキサラタンR点眼液と比較して細胞生存率は高率であった.また,ラタノプロスト点眼液「サワイ」による長時間の曝露でも顕著な生存率の低下が認められたが,これは高濃度の薬剤を長時間曝露した場合であり,ヒトに点眼した場合は点眼刺激による涙液分泌増加のために薬剤濃度が速やかに希釈され,余剰な薬剤は流出すること,さらには涙液交換率が約17%/分2)であることを考慮すると,臨床上,細胞の生死にはほとんど影響を与えないと考えられる.Invivoにおける細胞毒性の指標として涙液中GSH濃度を測定した.GSHは涙液腺からは分泌されないが,角結膜に多量に含有されており,角結膜組織の物理的,生化学的,生理学的な変化によりその表面や内部から流出するため,流出したGSH量が角結膜の障害性を反映すると考えられている8).ウサギにキサラタンR点眼液を単回点眼した際,涙液中のGSH濃度の有意な増加が認められたが,ラタノプロスト点眼液「サワイ」では認められなかった.これらの結果から,本点眼液はキサラタンR点眼液と比較して細胞毒性は低く,角結膜組織への障害性は軽減されていると考えられた.0.250.200.150.100.050.00吸光度####**コントロール(EMEM)ラタノプロスト点眼液「サワイ」キサラタンR点眼液0.02%BAC図3ヒト結膜由来細胞における細胞内断片化DNA量の比較(5例平均±SD)培養細胞を各被験物質に20分間曝露後,ELISAにて細胞内の断片化DNA量を測定した.BAC:ベンザルコニウム塩化物.##:p<0.01vsControlbyDunnetttest,**:p<0.01byttest.(93)あたらしい眼科Vol.27,No.12,20101725ベンザルコニウム塩化物は角膜上皮細胞や結膜上皮細胞のアポトーシスを誘導することが知られている.ベンザルコニウム塩化物を含有する点眼液でも同様の報告があり,これが点眼液による細胞毒性の機序の一つと考えられている3,5).本研究で用いたinvivoでウサギに頻回点眼するモデルは,点眼液の毒性の有無を鋭敏に評価できるとされており,キサA.コントロール(PBS)B.ラタノプロスト点眼液「サワイ」C.キサラタンR点眼液D.0.02%ベンザルコニウム塩化物E.TUNEL陽性細胞数(5例平均±SD)6005004003002001000TUNEL陽性細胞(個/mm2)###*コントロール(PBS)ラタノプロスト点眼液「サワイ」キサラタンR点眼液0.02%BAC図4頻回点眼後のウサギ結膜のTUNEL染色像5分ごと10回点眼し,24時間後に結膜を採取してTUNEL染色(緑)およびPI(ヨウ化プロビジウム)染色(赤)した.BAC:ベンザルコニウム塩化物.#,##:p<0.05,0.01vsControlbyDunnetttest,*:p<0.05byt-test.6.05.04.03.02.01.00.0涙液中グルタチオン(μg/mL)####**コントロール(PBS)ラタノプロスト点眼液「サワイ」キサラタンR点眼液0.02%BAC図5単回点眼後の涙液中グルタチオン濃度(6例平均±SD)結膜.内に各被験物質を1分間貯留させ,貯留液中の総グルタチオン濃度を測定した.BAC:ベンザルコニウム塩化物.##:p<0.01vsControlbyDunnetttest,**:p<0.01byt-test.1726あたらしい眼科Vol.27,No.12,2010(94)ラタンR点眼液あるいはベンザルコニウム塩化物の点眼により,角結膜における炎症反応の惹起およびアポトーシスの誘導が報告されている5,9).しかし,ラタノプロスト点眼液「サワイ」を頻回点眼してもアポトーシス(TUNEL陽性)細胞数の増加は認められなかった.また,invitroでヒト結膜細胞に曝露しても,アポトーシスの指標となる核の凝集は軽度で,DNAの断片化は認められなかった.これらの結果から,ラタノプロスト点眼液「サワイ」による結膜上皮細胞に対するアポトーシス誘導能は低いものと考えられた.ラタノプロスト点眼液「サワイ」に使用されているベンザルコニウム塩化物以外の添加物(トロメタモール,クエン酸,d-マンニトール,グリセリン,ヒプロメロースおよびポリソルベート80)について,ヒト結膜細胞における細胞毒性試験を実施した結果,いずれの添加物についても本点眼液に含有する濃度では細胞毒性は認められなかった(データ示さず).各添加物の相互作用あるいは保護作用などの影響は未知であるが,本点眼液はキサラタンR点眼液に対し,ベンザルコニウム塩化物濃度を約半分へ減じており,両製剤の細胞毒性およびアポトーシス誘導能の差異は,ベンザルコニウム塩化物含有量の違いがその一因と考えられる.本研究はヒト結膜細胞を用いたinvitro試験およびウサギを用いたinvivo試験の結果であり,まだ臨床的な検証はされていない.しかし,本研究の結果は点眼液の処方を検討することにより,細胞毒性を軽減させることが可能であることを示しており,同一主薬の製剤でも同等の効果を維持しながら,臨床使用における角結膜障害リスクを低減させることが可能であることを示唆している.点眼液の処方設計と局所的副作用に関する臨床的な検証はまだ不十分であり,今後のさらなる検討が必要である.以上,ヒト結膜由来細胞およびウサギを用いてラタノプロスト点眼液「サワイ」の角結膜障害性を評価した結果,その細胞毒性およびアポトーシス誘導能は低く,角結膜障害性は低いと考えられた.また,本検討で行ったいずれの試験においても,本点眼液の毒性は対照に用いたキサラタンR点眼液と比して軽度であった.よって,ラタノプロスト点眼液「サワイ」は角結膜障害発生のリスク低減という意味で有用性が期待できると考えられた.文献1)相良健:オキュラーサーフェスへの影響─防腐剤の功罪.あたらしい眼科25:789-794,20082)中村雅胤,西田輝夫:防腐剤の功罪.眼科NewInsight2点眼薬─常識と非常識(大橋裕一編),p36-43,メジカルビュー社,19943)GuenounJM,BaudouinC,RatPetal:Invitrostudyofinflammatorypotentialandtoxicityprofileoflatanoprost,travoprost,andbimatoprostinconjunctiva-derivedepithelialcells.InvestOphthalmolVisSci46:2444-2450,20054)PisellaPJ,PouliquenP,BaudouinC:Prevalenceofocularsymptomsandsignswithpreservedandpreservativefreeglaucomamedication.BrJOphthalmol86:418-423,20025)LiangH,BaudouinC,PaulyAetal:Conjunctivalandcornealreactionsinrabbitsfollowingshort-andrepeatedexposuretopreservative-freetafluprost,commerciallyavailablelatanoprostand0.02%benzalkoniumchloride.BrJOphthalmol92:1275-1282,20086)竹内譲,沖田祐佳,上野眞義ほか:ラタノプロスト点眼液0.005%「サワイ」の健康成人における薬力学的試験.診療と新薬47:298-303,20107)相原一:緑内障点眼薬─選択のポイント.あたらしい眼科25:751,20088)開繁義,石田俊郎,狩野真由美:涙液の生化学的分析による眼局所用薬剤の角膜障害性の評価.日眼会誌92:1553-1564,19889)LiangH,Brignole-BaudouinF,Rabinovich-GuilattLetal:Reductionofquaternaryammonium-inducedocularsurfacetoxicitybyemulsions:aninvivostudyinrabbits.MolVis14:204-216,2008***

ラタノプロスト点眼単剤治療とチモロール・ドルゾラミド点眼併用治療の比較

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(117)1599《原著》あたらしい眼科27(11):1599.1602,2010cはじめにエビデンスに基づいた唯一の緑内障治療は眼圧下降であることが大規模臨床試験で確認されており1,2),多くの症例では最初に点眼治療が行われる.点眼治療は,まず単剤を使用し,眼圧下降不十分ならば,他剤に変更するか多剤併用となる.多剤併用とする場合には,選択薬剤の副作用の発現やコンプライアンスの低下に十分に注意を払う必要がある.現在,緑内障治療点眼薬の第一選択は眼圧下降作用の強いプロスタグランジン関連点眼薬(以下,PG薬)か交感神経b遮断薬(以下,b遮断薬)であるが,PG薬が選択されることが多いと思われる.PG薬は眼圧下降作用が強くて全身的副作用が少ないため,高齢者や全身合併症を有する場合は使用しやすいものの,局所的副作用である睫毛成長促進や眼瞼色素沈着など3)美容的な問題のため使用しにくい場合もある.〔別刷請求先〕加畑好章:〒125-8506東京都葛飾区青戸6-41-2東京慈恵会医科大学附属青戸病院眼科Reprintrequests:YoshiakiKabata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,AotoHospital,6-41-2Aoto,Katsushika-ku,Tokyo125-8506,JAPANラタノプロスト点眼単剤治療とチモロール・ドルゾラミド点眼併用治療の比較加畑好章*1中島未央*1後藤聡*1久米川浩一*1高橋現一郎*1常岡寛*2*1東京慈恵会医科大学附属青戸病院眼科*2東京慈恵会医科大学眼科学講座AComparisonofLatanoprostMonotherapywithTimolol-DorzolamideCombinedTherapyYoshiakiKabata1),MioNakajima1),SatoshiGoto1),KoichiKumegawa1),GenichiroTakahashi1)andHiroshiTsuneoka2)1)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,AotoHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine目的:0.5%チモロール点眼薬(T)を使用して効果不十分な緑内障症例に対して,ラタノプロスト点眼(L)単剤療法への切り替え群(A群):(T→L)と1%ドルゾラミド点眼(D)を追加した併用療法群(B群):(T+D)とに分け,両群の眼圧,中心角膜厚,血圧,脈拍を測定し比較した.対象および方法:A群13例13眼,B群13例13眼で,眼圧・中心角膜厚・血圧・脈拍を変更前,変更後3カ月,6カ月で測定し比較した.結果:変更後6カ月の眼圧低下率は,A群:.14.1±9.9%,B群:.14.1±20.4%,A,B群ともに変更後6カ月で有意に低下しており,A,B群間で有意差はなかった.中心角膜厚・血圧・脈拍については,変更前後で有意な変化はなかった.結論:T→LとT+Dでは同等の眼圧下降効果が認められた.中心角膜厚,血圧,脈拍に変化はなかった.Purpose:Tocomparelatanoprostmonotherapywithtimolol-dorzolamidecombinedtherapy.Methods:Patientsreceivinginadequatetreatmentwithtimolol0.5%(T)wererandomlyassignedtoAorBgroup.Agroup(13eyesof13patients)wasswitchedtolatanoprost(L)only;thiswasthemonotherapygroup(T→L).Bgroup(13eyesof13patients)wasswitchedtoacombinationofdorzolamide1%(D)and(T);thiswasthecombinedtherapygroup(T+D).Wemeasuredintraocularpressure(IOP),visualfield,centralcornealthickness,bloodpressureandheartratebeforeandat3and6monthsaftertheswitch,andcomparedtheresults.Results:ThepercentageofIOPreductionat6monthsaftertheswitchwas.14.1±9.9%inAgroupand.14.1±20.4%inBgroup.Inbothgroups,IOPhaddecreasedsignificantlyat6monthsafterswitching.TherewerenosignificantdifferencesbetweenAandBgroupsintermsofcentralcornealthickness,bloodpressure,heartrateorvisualfield.Conclusion:(T→L)and(T+D)exhibitedsimilareffectsintermsofIOPreduction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1599.1602,2010〕Keywords:ラタノプロスト,チモロール,ドルゾラミド,単剤療法,併用療法.latanoprost,timolol,dorzolamide,monotherapy,combinedtherapy.1600あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(118)一方,b遮断薬は第一選択薬としての歴史が長く,眼圧下降効果も比較的強いが,局所的副作用は少ないものの全身的副作用が懸念され,また長期の使用で効果が減弱する傾向がみられる4),という問題点を有している.単剤で効果が不十分な場合は,他剤へ切り替えるか併用療法となるが,炭酸脱水酵素阻害点眼薬(以下,CAI点眼薬)は,他の点眼薬と作用機序が異なり,しかも全身的・局所的な副作用が比較的少ないため,併用薬としてよく使用されている5,6).いままで,PG薬,b遮断薬,CAI点眼薬のさまざまな組み合わせの比較検討が報告7,8)されているが,PG薬単剤療法とb遮断薬・CAI点眼薬併用療法を比較した報告はわが国では少ない9,10).今回筆者らは,b遮断薬である0.5%チモロール点眼薬(0.5%チモプトールR点眼液)を使用して眼圧下降効果不十分な症例に対して,0.5%チモロール点眼薬からラタノプロスト点眼薬(キサラタンR点眼液)単剤療法への切り替え群と0.5%チモロール点眼薬にCAI点眼薬である1%ドルゾラミド点眼薬(1%トルソプトR点眼液)を追加した併用療法群とに分け,両群での眼圧,視野,中心角膜厚,血圧,脈拍の経過を測定し比較検討した.I対象および方法2007年9月~2009年3月に東京慈恵会医科大学附属青戸病院を受診した原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,高眼圧症の患者で,1カ月以上0.5%チモロール点眼薬(1日2回)を使用したが,効果不十分(視野の悪化が認められる症例,または原発開放隅角緑内障眼圧・高眼圧症の患者では眼圧18mmHg以上の症例,正常眼圧緑内障の患者では目標眼圧に達成しない症例)と判断された症例を対象とした.休止期間を設けず,封筒法を使用して無作為にA群:0.5%チモロール点眼薬からラタノプロスト点眼薬(1日1回)へ切り替えた単剤療法群,B群:0.5%チモロール点眼薬に1%ドルゾラミド点眼薬(1日3回)を追加した併用療法群の2群に分け,両群の眼圧,中心角膜厚,血圧,脈拍について比較検討した.両眼ともに治療している患者は,両眼とも点眼薬を変更し,右眼を解析対象とした.眼圧測定には,非接触型眼圧計(RTK-7700,ニデック社)を使用し,3回測定した平均値を測定値とした.測定時刻は症例ごとに一定とした.変更前,変更後3カ月目,6カ月目に測定し比較した.視野は変更前,変更後6カ月目に測定し,Humphrey静的視野計を使用したA群8例,B群5例のmeandeviation(MD)値,patternstandarddeviation(PSD)値を比較した.Humphrey静的視野計にて信頼度の低いA群5例,B群8例にはGoldmann動的視野計を使用して測定した.点眼薬による角膜厚への影響を検討するため,中心角膜厚を超音波パキメーター(AL-3000,トーメー社)を用いて,変更前,変更後3カ月目,6カ月目に測定し比較した.全身への影響のなかで,最も重要と考えられる循環器系への影響を検討するため,30分以上安静後の血圧(収縮期,拡張期),脈拍を変更前,変更後3カ月目,6カ月目に測定し比較した.統計学的処理は,群内比較にはpairedt検定,群間比較にはunpairedt検定を行い,有意水準をp<0.05として解析した.本研究は,ヘルシンキ宣言を遵守しており,東京慈恵会医科大学での倫理委員会の承認を得た後に,患者から文書でのインフォームド・コンセントを得て,その書面を保存した.II結果6カ月以上経過観察を行えた26例26眼(男性12例,女性14例)で,A群:13例13眼(男性7例,女性6例),B群:13例13眼(男性5例,女性8例)を解析対象とした.平均年齢は67.8±11.7歳(42~84歳)であった.緑内障の病型は,A群:原発開放隅角緑内障6例,正常眼圧緑内障7例,高眼圧症0例,B群:原発開放隅角緑内障4例,正常眼圧緑内障7例,高眼圧症2例であった.平均年齢はA群70.6±10.4歳,B群64.7±13.0歳で,A,B群間に有意差はなかった(p=0.22).屈折は,等価球面度数でA群.1.53±1.93D,B群.0.23±3.26Dで,A,B群間に有意差はなかった(p=0.11).眼圧値の経過は,A群:変更前16.9±3.6mmHg,変更後3カ月目15.5±3.1mmHg(p=0.088),6カ月目14.5±3.3mmHg(p<0.001),B群:変更前18.2±5.5mmHg,変更後3カ月目15.5±4.9mmHg(p<0.05),6カ月目15.5±5.1mmHg(p<0.05)であり,変更前と比較してA群では変更後6カ月目に,B群では変更後3カ月目,6カ月目で有意に下降していた(図1).眼圧下降率は,A群:変更後3カ月目で.7.0±14.1%,6図1点眼変更前後の眼圧値○:A群(n=12),●:B群(n=12).*p<0.05,**p<0.001(pairedt-test).252015105変更前眼圧(mmHg)6カ月後*3カ月後***(119)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101601カ月目で.14.1±9.9%であるのに対して,B群:変更後3カ月目で.13.8±15.2%,6カ月目.14.1±20.4%であり,両群とも,ほぼ同様の眼圧下降を認めた.A群とB群との比較では,変更後3カ月目(p=0.25),6カ月目(p=0.99)で有意差はなかった.静的視野については,A群:MD値は変更前.6.06±9.19dB,変更後6カ月目.5.73±8.30dB(p=0.57),PSD値は変更前5.53±4.78dB,変更後6カ月目6.06±4.71dB(p=0.35)であるのに対して,B群:MD値は変更前.2.72±2.88dB,変更後6カ月目.1.42±2.65dB(p=0.07),PSD値は変更前4.27±2.06dB,変更後6カ月目3.25±2.43dB(p=0.15)であり,両群ともに変更前と比較して変更後6カ月目で有意差はなかった.Goldmann動的視野計を使用したA群5例,B群8例では,変更前,変更後6カ月目で変化は認めなかった.中心角膜厚,血圧,脈拍については,両群ともに変更前と比較して変更後3カ月目,6カ月目でいずれも有意差を認めなかった(表1).中心角膜厚は,A群とB群との比較では変更前(p=0.06),変更後3カ月目(p=0.09),6カ月目(p=0.08)で有意差を認めなかった.III考按欧米ではチモロール点眼薬とドルゾラミド点眼薬の配合剤(CosoptR)がすでに使用可能であり,ラタノプロスト点眼薬単剤投与との比較は多数報告されていて,ほぼ同等の眼圧下降といわれている11,12).本研究において,チモロール点眼薬からラタノプロスト点眼薬へ変更したときの眼圧下降率は変更後6カ月で.14.1±9.9%,チモロールにドルゾラミドを追加したときの眼圧下降率は.14.1±20.4%であった.両群ともに,ベースライン時と比較し同程度の有意な眼圧下降を認め,両群間は同程度の眼圧下降であり,過去の報告11,12)と同じであった.眼圧測定には,非接触型眼圧計を使用した.当院では普段の診療において非接触型眼圧計を使用しており,本研究での対象患者も日常診療では非接触型眼圧計での測定値で経過観察していた.本研究では,得られた眼圧値や中心角膜厚の値に,正常値からの大幅な逸脱がなかったため,非接触型眼圧計での測定値を採用した.静的視野検査においても両群間で有意な変化を認めなかったが,今回は症例数が少なく,観察期間も短かった.さらに,静的視野検査の信頼度が低く,動的視野検査を行っている症例もあるため,今回の結果は参考値として検討した.今後長期にわたる検討が必要であると思われた.中心角膜厚によって,眼圧値や薬剤浸透に影響を及ぼすと報告されている13).本研究では,両群ともに点眼変更前と比較して有意差を認めず,A群とB群との比較でも有意差を認めなかった.したがって,本研究の結果に対する中心角膜厚の影響は少ないと考えられた.CAI点眼薬は毛様体に存在する炭酸脱水酵素II型を阻害し房水産生を抑制する14)が,炭酸脱水酵素II型は角膜内皮にも存在するため,角膜にも影響を与える可能性がある.同じCAI点眼薬であるブリンゾラミド点眼薬での報告では,角膜内皮への影響があるとは結論されていない15)が,内皮細胞数の減少した症例にドルゾラミド点眼薬やブリンゾラミド点眼薬を投与し,角膜浮腫をきたした報告16)があるため,使用に際しては注意が必要である.今回は角膜内皮数の検討は行っていないが,CAI点眼薬が原因と思われる角膜浮腫などの合併症はみられなかった.CAI点眼薬は,古くより経口・点滴投与も行われてきた薬剤であり,現在もアセタゾラミドが使用されている.しかし経口・点滴投与はさまざまな全身的副作用があり,長期連用が困難である17).CAI点眼薬は,内服での副作用を軽減するため開発された薬剤であり,PG薬とともに重篤な全身的副作用の報告は少ない.本研究でも循環器系に対する影響は両群とも認めなかった.本研究の結果,チモロール点眼薬からラタノプロスト点眼薬への変更,チモロール点眼薬にドルゾラミド点眼薬の追加では同等の眼圧下降を認め,角膜や循環器系への影響も差がなかった.このことから,b遮断薬で効果不十分な症例にお表1点眼変更前後の血圧,脈拍,中心角膜厚(平均値±標準偏差)A群B群点眼変更前変更後3カ月変更後6カ月点眼変更前変更後3カ月変更後6カ月収縮期血圧(mmHg)131.5±16.7132.5±20.0(p=0.85)134.5±19.2(p=0.62)133.3±12.9133.8±16.2(p=0.89)134.8±13.8(p=0.67)拡張期血圧(mmHg)75.5±10.480.0±9.4(p=0.22)80.3±11.9(p=0.18)79.8±12.577.9±13.6(p=0.46)78.8±11.0(p=0.67)脈拍数(回/分)70.1±9.674.1±12.4(p=0.11)71.5±12.1(p=0.45)72.7±11.068.0±8.0(p=0.17)69.2±7.8(p=0.27)中心角膜厚(μm)567.9±42.7567.4±41.8(p=0.85)562.4±40.6(p=0.08)539.2±38.4536.2±34.7(p=0.23)536.6±34.5(p=0.34)1602あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(120)いては,PG薬へ変更するかわりに,CAI点眼薬を追加する手段も選択肢の一つになりうると考えられた.CAI点眼薬の追加は,PG薬への変更より美容的副作用の点で利点があり,有用である.しかし,点眼回数が多くなるため,コンプライアンスの低下には十分に注意を払う必要がある.点眼薬の効果を保ちつつコンプライアンスを低下させないためにも,わが国での配合剤導入が待たれる.文献1)TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS)7:Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20002)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJ:TheOcularHypertensionTreatmentStudy:Arandomizedtrialdeterminesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.ArchOphthalmol120:701-713,20023)北澤克明:ラタノプロスト点眼液156週間長期投与による有効性および安全性に関する多施設共同オープン試験.臨眼60:2047-2054,20064)徳岡覚:b遮断薬:新図説臨床眼科講座,第4巻緑内障(新家眞編),p214-216,メジカルビュー社,19985)柴田真帆,湯川英一,新田進人ほか:混合型緑内障患者に対する1%ドルゾラミド点眼追加投与の眼圧下降効果.臨眼59:1999-2001,20056)緒方博子,庄司信行,陶山秀夫ほか:ラタノプロスト単剤使用例へのブリンゾラミド追加による1年間の眼圧下降効果.あたらしい眼科23:1369-1371,20067)廣岡一行,馬場哲也,竹中宏和ほか:開放隅角緑内障におけるラタノプロストへのチモロールあるいはブリンゾラミド追加による眼圧下降効果.あたらしい眼科22:809-811,20058)ItoK,GotoR,MatsunagaKetal:Switchtolatanoprostmonotherapyfromcombinedtreatmentwithb-antagonistandotherantiglaucomaagentsinpatientswithglaucomaorocularhypertension.JpnJOphthalmol48:276-280,20049)小嶌祥太,杉山哲也,柴田真帆ほか:ラタノプロスト単独点眼からチモロール・ドルゾラミド併用点眼へ切り替え時の眼圧,視神経乳頭血流の変化.あたらしい眼科26:1122-1125,200910)SakaiH,ShinjyoS,NakamuraYetal:Comparisonoflatanoprostmonotherapyandcombinedtherapyof0.5%timololand1%dorzolamideinchronicprimaryangleglaucoma(CACG)inJapanesepatients.JOculPharmacolTher21:483-489,200511)FechtnerRD,McCarrollKA,LinesCRetal:Efficacyofthedorzolamide/timololfixedcombinationversuslatanoprostinthetreatmentofocularhypertensionorglaucoma:combinedanalysisofpooleddatafromtwolargerandomizedobserverandpatient-maskedstudies.JOculPharmacolTher21:242-249,200512)KonstasAG,KozobolisVP,TsironiSetal:Comparisonofthe24-hourintraocularpressure-loweringeffectsoflatanoprostanddorzolamide/timololfixedcombinationafter2and6monthsoftreatment.Ophthalmology115:99-103,200813)BrandtJD,BeiserJA,GordonMOetal:CentralcornealthicknessandmeasuredIOPresponsetotopicalocularhypotensivemedicationintheOcularHypertensionTreatmentStudy.AmJOphthalmol138:717-722,200414)MarenTH:Carbonicanhydrase:Generalperspectivesandadvancesinglaucomaresearch.DrugDevRes10:255-276,198715)井上賢治,庄司治代,若倉雅登ほか:ブリンゾラミドの角膜内皮への影響.臨眼60:183-187,200616)安藤彰,宮崎秀行,福井智恵子ほか:炭酸脱水酵素阻害薬点眼後に不可逆的な角膜浮腫をきたした1例.臨眼59:1571-1573,200517)KonowalA,MorrisonJC,BrownSVetal:Irreversiblecornealdecompensationinpatientstreatedwithtopicaldorzolamide.AmJOphthalmol127:403-406,199918)安田典子:炭酸脱水酵素阻害剤長期使用上の注意.眼科29:405-412,1981***