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低体温患者にみられたLandolt環型角膜上皮症の1例

2018年7月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科35(7):999.1001,2018c低体温患者にみられたLandolt環型角膜上皮症の1例西田功一岡本紀夫高田園子杉岡孝二髙橋(児玉)彩福田昌彦下村嘉一近畿大学医学部眼科学教室CACaseofRing-ShapedEpithelialKeratopathyAccompaniedbyHypothermiaKoichiNishida,NorioOkamoto,SonokoTakada,KojiSugioka,AyaKodama-Takahashi,MasahikoFukudaandYoshikazuShimomuraCDepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicineLandolt環型角膜上皮症は,特異な形態を呈する角膜上皮病変であり,原因や病態について不明である.今回,筆者らは緑内障経過観察中にCLandolt環型角膜上皮症を発症したC1例を経験したので報告する.症例はC58歳,男性.2008年より緑内障にて経過観察をしていた.2012年C2月の定期受診時に細隙灯顕微鏡検査で両眼の角膜上皮に,花弁状の特異な病変を数カ所認めた.自覚症状はなかった.角膜ヘルペスが疑われたためアシクロビル眼軟膏などで治療した.病変はC3カ月後には,消失した.本症例は,脳神経外科手術による視床下部障害のための低体温があり,それが誘因の一つと推察された.CLandoltring-shapedepithelialkeratopathy,acornealepitheliallesionexhibitingasingularform,isunclearastoitscauseandcondition.WereportacaseofLandoltring-shapedepithelialkeratopathyaccompaniedbyprimaryopenangleglaucomaandhypothermiaduetohypothalamusdisorder.A58-year-oldmalesu.eringfromprimaryopenangleglaucomahadbeenfollowedupsince2008.InFebruary2012petalineepitheliopathywasobservedinbothcorneas,withnosubjectivesymptoms.Wesuspectedherpetickeratitisandprescribedaciclovireyeointment.TheCpetalineClesionsCdisappearedCafterCthreeCmonths.CWeCdiagnosedCthisCcaseCasCLandoltCring-shapedCepithelialCkeratopathybecauseofitstypicalappearance.Itissuggestedthathypothermiaduetohypothalamusdisorderwasrelatedtothisepitheliopathy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):999.1001,C2018〕Keywords:ランドルト環型角膜上皮症,低体温,視床下部障害,緑内障.Landoltring-shapedepithelialkeratop-athyhypothermia,hypothalamusdisorder,glaucoma.CはじめにLandolt環型角膜上皮症はC1992年に大橋らが報告した特異な形態を呈する角膜上皮病変である1).特徴としては,小さいCLandolt環状の上皮病変が花弁状に集まったような特異な上皮病変である.両眼性が多く,再発性で冬期に再発することが多いのも特徴である.わが国では現在まで計C16例の報告がある1.6)が,いまだにその原因については解明されていない.今回,緑内障経過観察中にCLandolt環型角膜上皮症を発症したC1例を経験したので報告する.CI症例58歳,男性.主訴はとくになし.既往歴としては未破裂脳動脈瘤の手術により視床下部が障害され低体温であった.両眼の原発開放隅角緑内障(primaryCopenCangleCglauco-ma:POAG),眼内レンズ挿入眼にて,東京の眼科医院にて経過観察されていた.転勤のため,2008年より近畿大学医学部附属病院眼科を定期受診中であった.2012年C2月C15日の緑内障の定期受診のときに,細隙灯顕微鏡検査で両眼の角膜上皮に,花弁のような特異な形態を数カ所認めた.フルオレセイン染色では花弁状の部分は上皮の盛り上がった小さいLandolt環が丸い形に集まっている所見であった(図1).前房に炎症所見などを認めなかった.異物感などの自覚症状はなく,視力は右眼C1.2C×IOL×sph.2.0D,左眼C1.0C×IOL×sph.1.25D(cyl.0.75DCAx70°.眼圧は右眼14mmHg,左〔別刷請求先〕西田功一:589-8511大阪府大阪狭山市大野東C377-2近畿大学医学部眼科学教室Reprintrequests:KoichiNishida,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicine377-2Ohnohigasi,OsakasayamaCity,Osaka589-8511,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(149)C999図12012年2月15日の前眼部写真上段はディヒューザーによる観察で左が右眼,右が左眼.下段はフルオレセイン染色で左が右眼,右が左眼.フルオレセイン染色でCLandolt環状の角膜上皮病変が円形に配列し,花弁状となった病変が両眼に認められた.図22012年2月21日の前眼部写真フルオレセイン染色で左が右眼,右が左眼.角膜病変は退縮傾向を認めた.眼C13CmmHgであった.眼底所見は両眼ともに視神経乳頭陥凹拡大を認めた(右眼CC/D=0.8,左眼CC/D=0.9).そのときの緑内障点眼はカルテオロール塩酸塩点眼液(両眼C×1),ラタノプロスト点眼液(両眼C×1),ブリンゾラミド点眼液(左眼C×2)であった.2012年C2月C21日の再診時には花弁状の角膜病変は退縮傾向であった(図2).非典型的であるが,角膜ヘルペスの可能性を疑い,アシクロビル眼軟膏(両眼C×3)を追加処方した.同時に,涙液ポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainCreaction:PCR)で単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)を調べたが陰性であった.3カ月後の再診時には再発を認めなかった.現在のところ再発を認めていない.CII考按Landolt環型角膜上皮症は,角膜上皮病変の形態が視力検査に用いられる「Landolt環」に類似していることから命名された病気である.小さいCLandolt環状の病変は輪状に配列することが特徴である.本症例も既報とほぼ同じ上皮病変であった.過去の症例を表1にまとめる.主訴としては異物感の訴えが多く,性別は女性が多く,両眼性が多く,冬季に発症が多いことがわかる.本症例では,自覚症状はなかった.また,1000あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018(150)表1Landolt環型角膜上皮症の過去の報告のまとめ症例年齢(歳)性別側性主訴発症月眼疾患CCL全身疾患再発C13)C52女性両眼異物感疼痛12月C..甲状腺疾患C.23)C47女性両眼異物感霧視12月ドライアイC..+33)C48女性両眼異物感羞明11月ドライアイC..+43)C48女性両眼異物感霧視3月C..胃癌C.53)C73女性両眼異物感霧視2月白内障C.肺癌+63)C41女性両眼霧視疼痛3月C..肝炎,高血圧C.73)C17男性両眼疼痛3月アレルギー性結膜炎CHCLC..83)C17女性両眼疼痛12月C.HCLC..93)C71女性両眼視力低下12月緑内障,白内障C…103)C42女性片眼異物感疼痛3月C.SCLC..113)C49女性両眼異物感霧視12月C….126)C18男性両眼疼痛3月C.SCLC..132)C57女性両眼異物感11月高度近視CSCLC.+142)C87女性片眼異物感12月緑内障C…155)C41女性片眼異物感2月C.SCLC..164)C67女性両眼異物感12月C..肺癌C.17C58男性両眼C.2月C..脳動脈瘤C.症例C1.11はCInoueら3),症例C12は阪谷ら6),症例C13.14は小池ら2),症例C15は大久保ら5),症例C16は細谷4),症例C17は本症例である(症例C9はその後に再発が確認できたので改変している).両眼性で冬季に発症しているが再発はみられなかった.本症例は視床下部が障害のため低体温があり,このことが誘因の一つと考えられた.鑑別疾患として,角膜ヘルペス,Thy-geson点状表層角膜炎が考えられるが,単純ヘルペス角膜炎は今回両眼性で,real-timeCPCRでCHSV(-)であり,病変の形状からも否定的と考える.Thygeson点状表層角膜炎は病変の形状から否定的と考える.今回,角膜ヘルペスの可能性を疑い,アシクロビル眼軟膏(両眼C×3)を追加処方したが,実際にはアシクロビルにより消失したとは考えにくく,自然消失したと考えられる.共著者の症例(症例9)も再度問診したところ低体温であった.症例数が少ないため低体温についての影響についてははっきりとしたことはいえない.発症時期は本症例も冬季に発症しており既報と同じであった.Landolt環型角膜上皮症の発症機序についてはいまだに不明な点が多く,ウイルスが原因ではないかとも考えられている2).CLの既往や眼疾患についても検討中である.今後症例数の増加に伴い発症機序が明らかになることが期待される.Landolt環型角膜上皮症は重症例はないが両眼性再発性であるので注意深く経過観察する必要があると考えられた.文献1)大橋裕一,前田直之,山本修士ほか:ランドルト環型角膜上皮炎のC1例.臨眼46:596-595,C19922)小池美香子,杤久保哲男,飯野直樹ほか:ランドルト環型角膜上皮炎のC2例.眼紀49:31-34,C19983)InoueCT,CMaedaCN,CZhengCXCetCal:LandltCring-shapedCepithelialCkeratopathy.CACnovelCclinicalCentityCofCtheCcor-nea.JAMAOphthalmolC133:89-92,C20154)細谷比左志:ランドルト環型角膜上皮炎.あたらしい眼科C31:1631-1632,C20145)大久保裕史:ランドルト環型角膜上皮炎のC1例.長野県医学会雑誌44:84-85,C20146)阪谷洋士:ランドルト環型角膜上皮炎のC1例.眼臨C89:C424-425,C1995***(151)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C1001