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緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液追加投与の眼圧下降効果と安全性の検討

2018年5月31日 木曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(5):684.688,2018c緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液追加投与の眼圧下降効果と安全性の検討柴田真帆豊川紀子黒田真一郎永田眼科CE.cacyandSafetyofRipasudilOphthalmicSolutionasAdjunctiveTherapyinGlaucomaPatientsMahoShibata,NorikoToyokawaandShinichiroKurodaCNagataEyeClinic目的:リパスジル点眼液追加投与の眼圧下降効果と安全性の検討.対象および方法:2016年C4.6月にリパスジル点眼液を追加投与した緑内障患者C55例C77眼を対象とした.診療録から後ろ向きに検討し,追加前眼圧と追加後C1,C3,6,9,12カ月の眼圧値,経過中の有害事象につき検討した.結果:12カ月以上点眼継続例はC39眼(51%)であり,眼圧はC18.0±5.4CmmHgからそれぞれC14.9±3.1,15.2±3.1,15.5±3.7,15.1±4.4,14.9±3.7CmmHgと有意に下降し(1,3カ月p<0.05,6,9,12カ月p<0.01,ANOVA),平均眼圧下降率はC13.6%であった.追加前眼圧と眼圧下降幅に有意な正の相関を認めた.途中中止例C28眼の原因は有害事象(眼瞼炎とアレルギー性結膜炎)がC12眼,手術施行がC10眼,効果不十分がC6眼であった.併用点眼変更例C4眼と内服追加例C6眼については継続例から除外した.結論:リパスジル点眼液追加投与により眼圧下降効果を認め継続点眼したものは全体のC51%であった.眼局所の有害事象による点眼中止をC16%に認めた.CPurpose:Toevaluatethee.cacyandsafetyofripasudilophthalmicsolutionasadjunctivetherapyinglauco-ma.SubjectsandMethods:Intraocularpressure(IOP)changeandadversee.ectafteradjunctiveuseofripasudilwereCretrospectivelyCstudiedCinC77CeyesCofC55CglaucomaCpatients.CResults:AnCaverageCofC2.8±0.7Canti-glaucomamedicationswereinuseatstartup;39eyesreceivedcontinuoustreatmentfor12months.IOPatbaselineandat1,3,6,9and12monthsafterripasudiladditionwas18.0±5.4,C14.9±3.1,C15.2±3.1,C15.5±3.7,C15.1±4.4CandC14.9±3.7CmmHg,respectively,withsigni.cantIOPreductionatalltimeperiods.Therewassigni.cantpositivecorrelationbetweenCIOPCchangeCandCbaseline.CRegimenCwasCdiscontinuedCinC28CeyesCbecauseCofCblepharitis(9Ceyes),Callergicconjunctivitis(3),CglaucomaCsurgery(10)andCnoCIOP-loweringCe.ect(6).CPatientsCwhoCreceivedCadditionalCoralmedications(6)orCchangedCtoCotherCglaucomaCeyedrops(4)wereCexcludedCfromCtheCcontinuousCtreatmentCgroup.CConclusion:In51%ofthetotal,instillationwascontinuedwithIOP-loweringe.ect.Adversee.ects(16%)wereblepharitisandallergicconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(5):684.688,C2018〕Keywords:リパスジル点眼液,追加投与,眼圧,安全性.ripasudilophthalmicsolution,adjunctivetherapy,in-traocularpressure,safety.Cはじめにトリクスの産生抑制,傍CSchlemm管内皮細胞の透過性亢進リパスジル塩酸塩水和物点眼液(以下,リパスジル点眼液)により,主経路からの房水流出を促進して眼圧を下降させるは,Rhoキナーゼ(ROCK)阻害薬の緑内障点眼薬である.ものである1.3).緑内障治療において眼圧下降効果が唯一効その作用機序は,線維柱帯細胞の細胞骨格の変化や細胞外マ果の認められている緑内障進行阻止方法であることから,新〔別刷請求先〕柴田真帆:〒631-0844奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,Ph.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Horai,Nara-city,Nara631-0844,JAPAN684(120)たな眼圧下降機序による緑内障点眼は治療の選択肢を増やし,追加点眼として選択薬の一つとなりうる.しかし,これまでの報告は緑内障病型と対象患者を限ったものであり,実際の臨床に基づく眼圧下降効果と安全性についての報告は少ない.今回,緑内障病型を問わずリパスジル点眼液の追加処方症例における眼圧下降効果と有害事象発生率について検討した.CI対象および方法永田眼科に通院中の緑内障患者で,緑内障病型は問わず,2016年C4月C1日.6月C30日までにリパスジル点眼液を追加処方した全症例を診療録から後ろ向きに検討した.なお,本研究は永田眼科倫理委員会で承認された.リパスジル点眼液追加前の眼圧と,処方C1,3,6,9,12カ月後の眼圧と有害事象を調査し,点眼継続例と途中中止例に分類した.継続例については眼圧下降効果を検討し,中止例についてはその原因を検索した.眼圧はCGoldmann圧平眼圧計で診療時間内に測定した.配合剤はC2剤として計算した.解析方法として,unpairedCt-test,CpairedCt-test,CKruskal-WallisCtest,chi-squareCtest,PearsonC’sCcorrelationCcoe.cientCtest,one-wayCanalysisCofCvariance(ANOVA)を用い,ANOVAで有意差がみられた場合はCDunnettの多重比較を行った.有意水準はp<0.05とした.CII結果表1に全症例と継続例の患者背景を示した.全症例C61例86眼のうち,自己都合で点眼しなかったC2例C4眼と来院のなかったC4例C5眼を除き,55例C77眼を対象とした.内訳は男性C29例C41眼,女性C26例C36眼,平均年齢C68.7C±12.1歳,追加前平均眼圧C18.8C±4.9CmmHg,平均緑内障点眼数C2.8C±0.7剤(meanC±SD)であった.このうち,12カ月以上点眼継続可能例はC39/77眼(51%)であった.途中リパスジル点眼圧(mmHg)201918171615141312前1M3M6M9M12M投与期間(mean±SE)図1継続例の眼圧経過点眼追加前に比較して全観察期間で有意な眼圧下降を認めた.*:p<0.05,**:p<0.01,one-wayANOVA+Dunnett’stestC眼液を継続しながら併用点眼の変更があったC4眼と,内服薬の追加処方があったC6眼の計C10眼(13%)は継続例の検討から除いた.図1に継続例C39眼における眼圧経過を示した.リパスジル点眼追加前の眼圧はC18.0C±5.4CmmHgであり,追加後C1,3,6,C9,C12カ月の眼圧は,それぞれC14.9C±3.1CmmHg,15.2C±3.1CmmHg,15.5C±3.7CmmHg,15.1C±4.4CmmHg,14.9C±3.7mmHgとすべての観察期間で有意に低下していた(1,3カ月p<0.05,6,9,12カ月p<0.01,one-wayANOVA+Dun-nett’sCtest).期間中の平均眼圧下降幅はC2.8C±0.3CmmHg,平均眼圧下降率はC13.6C±1.0%であった.図2に継続例C39眼におけるC12カ月後の眼圧下降率の分布を示した.開放隅角緑内障(primaryCopenCangleCglauco-ma:POAG),正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG),落屑緑内障(exfoliationCglaucoma:EXG),続発緑内障(secondaryCglaucoma:SG),混合緑内障(combined)の病型別では,眼圧下降率がC30%以上であったのはC3眼(7%;POAG2眼,EXG1眼),20.30%未満C12眼(31%;表1患者背景全症例継続例症例数55例77眼28例39眼性別男性29例41眼11例15眼女性26例36眼17例24眼年齢C68.7±12.1歳C69.7±10.1歳追加前眼圧C18.8±4.9CmmHgC18.0±5.4CmmHg点眼剤数*C2.8±0.7(1.4剤)C2.8C±0.6(2.4剤)内眼手術既往なし35眼17眼あり**42眼22眼緑内障病期初期13眼7眼中期22眼10眼後期42眼22眼*配合剤はC2剤として計算.(mean±SD)**すべての症例で術後C3カ月以上が経過.図2継続例における12カ月後の眼圧下降率の分布12カ月後の眼圧下降率がC30%以上であったのは継続例39眼中3眼,20.30%未満12眼,10.20%未満12眼,10%未満C12眼であった.C6M12M-5051015-5051015眼圧下降幅(mmHg)眼圧下降幅(mmHg)図3継続例における点眼追加前眼圧と眼圧下降幅リパスジル点眼追加C6カ月後,12カ月後とも点眼追加前眼圧と眼圧下降幅に有意な正の相関を認めた.6カ月後p<0.001,r=0.735,12カ月後Cp<0.001,r=0.719,PearsonC’sCcorrelationcoe.cienttest.CPOAG8眼,NTG1眼,SG3眼),10.20%未満C12眼(31%;POAG7眼,NTG3眼,EXG1眼,SG1眼),10%未満C12眼(31%;POAG6眼,NTG4眼,EXGC1眼,com-binedC1眼)であった.眼圧下降率に病型別で有意差を認めなかった(p=0.67,chi-squaretest).図3にリパスジル点眼液追加前眼圧と眼圧下降幅の相関を示した.点眼前眼圧と眼圧下降幅に正の相関を認めた(6カ月p<0.001,r=0.735,12カ月Cp<0.001,r=0.719,PearsonC’scorrelationCcoe.cientCtest).さらに,年齢とC6カ月後の眼圧下降幅に正の相関を認めた(p<0.01,r=0.534,PearsonC’scorrelationcoe.cienttest).継続例を併用薬剤数別に分類すると,追加前平均眼圧はC2剤併用群C16.3C±4.1CmmHg,3剤C18.8C±5.1CmmHg,4剤C18.5C±10.3CmmHgと追加前眼圧に有意差なく(p=0.22,Krus-kal-WallisCtest),リパスジル点眼追加後の平均眼圧下降率はそれぞれC14.0C±3.8%,13.1C±3.4%,13.8C±4.1%であり,併用薬剤数別の眼圧下降率に有意差を認めなかった(p=0.87,Kruskal-Wallistest).途中点眼中止例はC28/77眼(36%)であった.有害事象による点眼中止はC12/77眼(16%)であり,内訳は眼瞼炎C9眼(追加1カ月後中止1眼,6カ月4眼,8カ月2眼,12カ月2眼),アレルギー性結膜炎C3眼(6カ月C3眼)であった.眼瞼炎とアレルギー性結膜炎に対する局所加療を継続しながらリパスジル点眼を継続したものはなかった.有害事象による中止例C12眼の平均緑内障点眼数はC2.4C±0.8剤であり,それ以外C55眼の平均緑内障点眼数C2.7C±0.6剤と有意差を認めなかった(p=0.24,unpairedt-test).手術施行による点眼中止がC10眼(POAG2眼,NTG1眼,EXGC5眼,SGC1眼,発達緑内障C1眼),無効と判断され点眼中止となったものがC6眼(POAGC3眼,NTGC1眼,EXG1眼,SGC1眼)であった.手術施行による点眼中止例C10眼の追加前眼圧はC21.1C±4.0mmHg,追加後C1,3,6,9カ月の眼圧はそれぞれC22.0C±7.6CmmHg(10眼),17.2C±2.3CmmHg(5眼),18.0C±3.4CmmHg(4眼),17.0C±5.7CmmHg(2眼)であり,有意な眼圧下降を認めなかった(それぞれCp=0.68,p=0.09,p=0.40,p=0.80,pairedCt-test).無効中止例C6眼の追加前眼圧はC17.3C±2.1CmmHg,追加後C1,3カ月の眼圧はそれぞれC16.2C±2.3CmmHg(6眼),17.5C±2.0CmmHg(4眼)であり,有意な眼圧下降を認めなかった(それぞれCp=0.21,p=0.72,pairedt-test).副作用として眼瞼炎とアレルギー性結膜炎以外の結膜充血がC7/77眼(9%),表層角膜炎については点眼追加前から認めるものがC22/77眼(29%),そのうち点眼追加による悪化がC5/77眼(6%)あったが,いずれも中止となる症例はなく,全身の副作用も認めなかった.CIII考按今回,緑内障点眼加療中の患者に対するリパスジル点眼液の追加投与により,有意な眼圧下降が得られることが示された.平均眼圧下降幅はC2.8CmmHg,平均眼圧下降率はC13.6%であった.これらの結果は,従来の報告4.8)と矛盾しないものであり,多剤併用におけるリパスジル点眼液追加加療の眼圧下降効果が確認できたと考える.眼圧下降率に病型別で有意差を認めなかったことは,今回の研究にあるような病型においては追加点眼でさらなる眼圧下降が得られる可能性があると考えられるが,今回の対象眼には手術既往眼を含むため,病型と眼圧下降効果の正確な評価には多数例での検討を要すると考える.今回の研究で,点眼追加前眼圧と眼圧下降幅に有意な正の相関を認め,追加前眼圧の高いほうがより大きな眼圧下降を得られることが示された.これは過去の報告5,6)と矛盾しないと考える.さらに,今回は年齢と眼圧下降幅に有意な正の相関がみられた.過去にも同様の報告9)がなされているが,これについてはCROCK阻害薬のターゲット細胞としての線維柱帯細胞が減少していない病期や罹患期間を考慮する必要があると考えられ,今後多数例での検討が必要であると考える.リパスジル点眼を追加薬として評価するために,併用薬剤数の影響を検討した.今回C2.4剤の併用薬剤があったが,併用薬剤数別の眼圧下降効果に有意差を認めなかった.リパスジルの点眼追加効果は過去の報告10)同様,併用薬剤数の影響を受けにくいと考えられる.これはリパスジル点眼の新しい眼圧下降機序によるものと考えられ,多剤併用下における追加点眼として選択薬の一つとなりうることを示すと考える.今回の研究で点眼継続が中止となった有害事象は眼瞼炎とアレルギー性結膜炎であり,すべてリパスジル点眼の中止と眼局所加療によって軽快が得られた.その発現率はC16%であり,過去の報告4)と同様であった.発現時期はC1.12カ月とばらつきがあったが,点眼追加後C1カ月で眼瞼炎が発症した症例以外はC6カ月後以降の発症であった.過去の報告において,点眼追加後C3カ月の経過観察では眼瞼炎やアレルギー性結膜炎の発症による中止例は少なく5.8),点眼追加後C8週以降での発症が多いとする報告4)があることから,今回の研究のようにアレルギー性結膜炎や眼瞼炎は追加C6カ月後以降も発症し,眼瞼炎においてはC12カ月後も発症する傾向にあり,長期使用において念頭に置くべき副作用であると考えられる.また,これら有害事象による点眼中止症例の緑内障点眼数がそれ以外の症例と有意差を認めなかったことは,併用点眼数の多さが眼瞼炎とアレルギー性結膜炎の発症に関連しない可能性を示唆すると考えられた.有害事象の発現は診療時間内の他覚所見で判断したため,もっとも多いと考えられる一過性結膜充血に関しては評価できなかった.今回の充血症例は持続充血であると考えられ,過去の報告4,6)より少なく正確に評価できていない可能性があるが,充血による継続中止例は認めなかった.角膜上皮障害については,すでに多剤併用療法による角膜炎がみられたものの悪化症例については過去の報告5)と同様であり,角膜炎悪化による点眼中止症例はなく,多剤併用症例にも追加可能であると考えられた.今回点眼継続例と途中中止例に分類して検討したため,12カ月以上点眼が継続できたのは全体のC51%と約半数であったが,これは併用薬剤数が多く手術加療を検討しているような症例にリパスジル点眼液が追加されたことが要因の一つであると考えられる.つまり経過中の手術施行による点眼中止と炭酸脱水酵素阻害薬の内服追加による継続例からの除外をC16眼(21%)に認めた.手術施行以外に効果不十分・無効として中止となったものはC6眼(8%)であったが,手術介入の時期を含めこれらは主治医の判断によるものであり,点眼効果不十分の判断,点眼継続と中止の基準において評価判定が統一されていなかったため,無効例の検討については今後多数例での検証が必要であると考えられる.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上結果の解釈には注意を要する.継続例と中止例の判断,有害事象発現率については上記のように正確に評価されていない可能性があるが,今回の検討では新たな眼圧下降機序をもつリパスジル点眼液の追加投与によって,多剤併用においてもさらなる眼圧下降が得られる可能性があると考えられた.CIV結論リパスジル点眼液は多剤併用中でも追加投与によってさらなる眼圧下降を得る可能性のある薬剤であると考えられた.有害事象は眼局所であり重篤なものはなかったが,長期にわたりその発現に注意すべきと考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:E.ectofrho-asso-ciatedCproteinCkinaseCinhibitorCY-27632ConCintraocularCpressureCandCout.owCfacility.CInvestCOphthalomolCVisCSciC42:137-144,C20012)KogaCT,CKogaCT,CAwaiCMCetCal:Rho-associatedCproteinCkinaseCinhibitor,CY-27632,CinducesCalterationCinCadhesion,CcontractionCandCmobilityCinCculturedChumanCtrabecularCmeshworkcells.ExpEyeResC82:362-370,C20063)InoueT,TaniharaH:Rho-associatedkinaseinhibitors:anovelCglaucomaCtherapy.CProgCRetinCEyeCResC37:1-12,C20134)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclini-calCevaluationCofC0.4%Cripasudil(K-115)inCpatientsCwithCopen-angleCglaucomaCandCocularChypertention.CActaCOph-thalmolC94:e26-e34,C20165)中谷雄介,杉山和久:プロスタグランジン薬,Cbブロッカー,炭酸脱水酵素阻害薬,ブリモニジンのC4剤併用でコントロール不十分な緑内障症例に対するリパスジル点眼液追加処方.あたらしい眼科33:1063-1065,C20166)吉谷栄人,坂田礼,沼賀二郎ほか:緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科33:1187-1190,C20167)杉山哲也,清水恵美子,中村元ほか:リパスジル点眼液の原発開放隅角緑内障に対する短期成績:眼圧・視神経乳頭血流に対する効果.あたらしい眼科33:1191-1195,C20168)InataniCH,CKobayashiCS,CAnzaiCYCetCal:E.cacyCofCaddi-pilotstudy.ClinDrugInvestigC37:535-539,CDOIC10.1007CtionalCuseCofCripasudil,CaCRho-kinaseCinhibitor,CinCpatientsC/s40261-017-0509-0,C2017withCglaucomaCinadequatelyCcontrolledCunderCmaximumC10)InoueCK,COkayamaCR,CShiokawaCMCetCal:E.cacyCandCmedicaltherapy.JGlaucomaC26:96-100,C2017safetyofaddingripasudiltoexistingtreatmentregiments9)MatsumuraCR,CInoueCT,CMatsumuraCACetCal:E.cacyCofCforCreducingCintraocularCpressure.CIntCOphthalmol:DOIripasudilasasecond-linemedicationinadditiontoapros-10.1007/s10792-016-0427-9,C2017taglandinCanalogCinCpatientsCwithCexfoliationCglaucoma:aC***

緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討

2016年8月31日 水曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(8):1187?1190,2016c緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討吉谷栄人*1坂田礼*1沼賀二郎*1本庄恵*1,2*1東京都健康長寿医療センター眼科*2東京大学医学部附属病院眼科EfficacyandSafetyofRipasudilOphthalmicSolutioninEyesofPatientswithGlaucomaMasatoYoshitani1),ReiSakata1),JiroNumaga1)andMegumiHonjo1,2)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanGeriatricHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoSchoolofMedicine目的:日本人緑内障患者におけるリパスジル点眼液(グラナテックR点眼液0.4%)の有効性と安全性を検討すること.対象および方法:緑内障点眼下でも目標眼圧に到達しない症例のなかで,リパスジル点眼液を追加した症例を後ろ向きに検討した.投与開始後1カ月目,2カ月目,3カ月目の眼圧値および安全性について検討した.結果:投与開始前の眼圧は18.6±4.2mmHgであり,追加投与後1カ月目14.6±2.5mmHg(p<0.005),2カ月目15.3±3.4mmHg(p<0.005),3カ月目14.8±2.3mmHg(p<0.05)であった.3カ月間を通しての副作用として,結膜充血4例4眼,掻痒感1例1眼,眼刺激感1例1眼を認めたが,いずれも中止には至らなかった.結論:目標眼圧に到達しない緑内障患者において,リパスジル点眼液は追加投与による副作用も少なく,さらなる眼圧下降を得ることが期待できる薬剤であると考えられた.Purpose:Toevaluatetheefficacyandsafetyofripasudilophthalmicsolutionintheeyesofpatientswithglaucoma.SubjectsandMethods:Subjectscomprised14eyesof14patientstreatedwiththemultiplecombinedtherapyforglaucoma.Weexaminedintraocularpressure(IOP)changeandadverseeffectsafteradjunctionofripasudilophthalmicsolution.Results:ThemeanbaselineIOPwas18.6±4.2mmHg.At1,2and3months,IOPwas14.6±2.5mmHg,15.3±3.4mmHgand14.8±2.3mmHgrespectively;significantIOPreductionwasobserved.TherewasnosignificantcorrelationbetweenIOPreductionrateandage.Adverseeffectswerehyperemia(4eyes),itching(1eye),andeyeirritation(1eye).Nopatientsdiscontinuedbecauseofadverseeffects.Conclusion:RipasudilophthalmicsolutionwaseffectiveinsafelyreducingIOPinpatientswithglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1187?1190,2016〕Keywords:リパスジル点眼液,緑内障,ROCK阻害薬,安全性,眼圧.ripasudilophthalmicsolution,glaucoma,Rhokinaseinhibitor,safety,intraocularpressure.はじめに緑内障においては,眼圧下降治療が依然として唯一確実に効果が認められている治療法であるため1),新たな眼圧下降機序の薬物の開発は治療の選択肢を拡大するという点において非常に有意義であると考えられる.リパスジル塩酸塩水和物点眼液(グラナテック点眼液0.4%R,以下リパスジル点眼液)は,日本で研究,開発されたROCK(Rho-associatedcoiled-coilformingkinase)阻害薬の緑内障点眼液であり,その作用機序は,Rhoの標的蛋白質のセリン・スレオニンキナーゼであるROCKを阻害し,線維柱帯細胞の形態の変化,細胞外マトリクス産生抑制,傍Schlemm管内皮細胞の透過性亢進を通じて,主経路である経Schlemm管房水流出路での房水流出を促進することで眼圧下降をもたらすとされる2?4).これまでの報告によると,第I相臨床試験においては,健常男性において点眼投与2時間後,単剤で平均4.0mmHgの眼圧下降効果が認められた.第II相臨床試験では開放隅角緑内障患者または高眼圧症患者において単剤で平均3.5mmHgの眼圧下降効果が認められた.第III相臨床試験では0.5%チモロール点眼液に追加した群では平均2.4mmHgの相加的な眼圧下降効果,0.005%ラタノプロスト点眼液に追加した群では平均2.2mmHgの相加的な眼圧下降効果が認められた5?7).52週にわたる長期投与においても,単剤においては平均2.6mmHgの眼圧下降効果を認め,プロスタグランジン関連薬に追加した群では平均1.4mmHgの相加的な眼圧下降効果,b遮断薬に追加した群では平均2.4mmHgの相加的な眼圧下降効果,プロスタグランジン関連薬とb遮断薬の併用に追加した群では平均2.2mmHgの相加的な眼圧下降効果がそれぞれ認められている8).同時にその報告によると,副作用として結膜充血74.6%,眼瞼炎20.6%,アレルギー性結膜炎17.2%で,全症例352症例のうち51症例が眼瞼炎またはアレルギー性結膜炎のために中止となっている.ただし点眼中止後は,必要に応じた加療により症状は全例軽快したとされている8).一方で開放隅角緑内障患者または高眼圧症患者における点眼開始後の24時間眼圧においては,単剤のリパスジル点眼液投与後から1時間から7時間は有意な眼圧下降効果を認め,初回の点眼投与2時間後において平均6.4mmHgの眼圧下降効果を認めたと報告されている9).その他のROCK阻害薬に関する報告では,糖尿病網膜症におけるROCK阻害薬による血管障害の制御の可能性に関して報告があり,血管内皮細胞障害阻害作用や白血球接着阻害による糖尿病網膜症の微小血管障害の病態制御の可能性が期待されている10).また,ROCK阻害薬の一種であるY-27632による角膜内皮の創傷治癒促進が指摘され,Fuchs角膜内皮ジストロフィによる初期の水疱性角膜症における角膜内皮機能の回復と視力回復が得られた報告もある11).リパスジル点眼液は2014年12月に世界に先駆けて販売が開始されたが,実際の臨床に基づく有効性と安全性の報告は皆無である.今回,緑内障点眼下でも目標眼圧に到達しない症例のなかで,リパスジル点眼液を追加した症例を後ろ向きに検討した.I対象および方法東京都健康長寿医療センター眼科に通院中の日本人緑内障患者を検討対象とした.緑内障の病型は問わず,緑内障点眼下でも目標眼圧(ベースライン眼圧より20%下降)に到達しない症例のなかで,2015年1?8月に,リパスジル点眼液を追加した症例を後ろ向きに検討した.なお,本研究は東京都健康長寿医療センターの倫理委員会で承認された.対象症例を1例1眼としてランダムに選択したが,リパスジル点眼液が両眼に投与された症例では,眼圧下降率の少ない眼あるいは内眼手術の既往歴のない眼を対象とした.Goldmann圧平眼圧計(Haag-Streit社,スイス)による診療時間内の眼圧測定,リパスジル点眼液開始前のHumphrey自動視野計(Carl-Zeiss社,ドイツ)SITA-Fast30-2の信頼性のある視野検査結果(固視不良,偽陽性,偽陰性それぞれ20%以下)を採用した.安全性の評価は,患者の自覚症状や細隙灯顕微鏡検査による他覚的評価を参考とした.経過観察中,目標眼圧に到達せず追加の緑内障治療を必要とした症例,転医した症例,データが得られなかった症例はその都度除いた.1カ月ごとの眼圧下降効果の評価は,投与開始後の得られたデータ群とその各々に対応する投与前のデータ群との比較により評価し,データが得られなかった症例の投与前のデータは除外した.主要評価項目は点眼追加後の眼圧経過であり,1カ月ごとの眼圧下降効果に関してはpairedt-testを用いた.また,副次的に投与後の眼圧の下降量と年齢,投与前眼圧値との相関関係に関して検討を行い,それぞれ,Spearmans’scorrelationcoefficientbyranktest,Peason’scorrelationcoefficienttestを用いて検討を行った.統計解析ソフトはStatcelver3を使用し,有意水準はp<0.05とした.II結果対象患者を表1に示す.リパスジル点眼液追加投与前の眼圧は18.6±4.2mmHgであり,追加投与後の眼圧値は,1カ月目で14.6±2.5mmHg(p<0.005),2カ月目で15.3±3.4mmHg(p<0.005),3カ月目で14.8±2.3mmHg(p<0.05)であった(図1).それぞれの眼圧下降量は1カ月目で3.8±1.1mmHg,2カ月目で3.4±0.9mmHg,3カ月目で3.3±1.4mmHgであった.追加投与開始後の眼圧下降量と年齢の間には有意な相関関係を認めなかった(1カ月目:r=0.13,p=0.69,2カ月目:r=?0.20,p=0.53,3カ月目:r=0.29,p=0.45).一方,眼圧下降量と追加前眼圧との間には,有意な正の相関関係を認めた(1カ月目:r=0.80,p<0.01,2カ月目:r=0.65,p<0.05,3カ月目:r=0.84,p<0.01).安全性の評価では,結膜充血4眼(1カ月目3眼,3カ月目1眼),掻痒感1眼(3カ月目1眼),眼刺激感1眼(1カ月目1眼)を認めた(重複あり)が,いずれも中止となる症例はなく,全身の副作用も認めなかった.III考按今回,眼圧コントロールが不十分であった緑内障患者に対して,リパスジル点眼液の追加投与を行った症例を後ろ向きに検討した.点眼数は投与追加前の平均3.1剤から追加後の平均4.1剤に増えた(配合剤は2剤として計算した)ものの,点眼追加後1カ月目から3カ月目において,いずれも有意な眼圧下降効果が得られていた.また,臨床上中止に至るような眼局所の副作用もなく,安全性も担保されていると考えられた.また,年齢と眼圧下降量には相関関係を認めなかったが,一方で,追加前眼圧と眼圧下降量に関しては有意な正の相関関係を認め,追加前の眼圧が高いほうがより強い眼圧下降量を得られることが期待される.ただし,今回の検討では症例数が少ないため,今後さらなる多症例数での検討が必要である.これまでの緑内障治療薬は,プロスタグランジン関連薬を柱に,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,a2刺激薬を組み合わせることで眼圧管理を行ってきたが,リパスジル点眼液はこれら既存の点眼薬と作用機序が異なることから,新たな治療薬の選択肢となりうる.全身的な副作用も皆無であり,今後併用療法の一つの柱になるのでないかと考えられた.リパスジル点眼液追加投与後も目標眼圧に到達しなかった症例は4例4眼であり,2眼は開放隅角緑内障(83歳,女性と54歳,女性)で併用点眼薬を変更,1眼は落屑緑内障の76歳,女性で線維柱帯切開術を施行,1眼は開放隅角緑内障の74歳,女性でチューブシャント手術をそれぞれ施行された.安全性の検討に関して,今回の14眼で使用中止となるような重篤な副作用は認められなかった.もっとも頻度が高いと考えられた結膜充血は,3カ月間で14眼中4眼(29%)に認められた.ただし,診療時間内における患者の自覚症状の聴取,もしくは細隙灯顕微鏡検査による他覚的評価を評価対象としたため,その評価判定基準は統一されておらず,今後の検討を要すると考えられた.緑内障点眼薬においては,結膜充血などの眼局所の副作用による点眼アドヒアランスの低下が懸念されるため,リパスジル点眼液で頻度の高い結膜充血の動態を把握しておくことはアドヒアランスを維持するうえで非常に重要と思われる.アレルギー性結膜炎や眼瞼炎など他の副作用も含め,母数を増やし,より長期的な経過観察が必要と考えられた.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上,避けられないいくつかの問題点があげられる.まず症例数が少ない(n=14)ため,眼圧下降効果や相関の有意性を正確に評価することが困難であり,今後さらに母数を増やす必要がある.つぎに,今回の検討対象に含まれるのはあらゆる病型の緑内障であり,かつ手術既往眼も含めたため,病型別の眼圧下降効果を正確に評価することが困難であった.つぎに,診療録記載に基づく安全性評価であり,その評価基準は一定していないため,今後は決められた評価基準を作成し評価していく必要がある.そして最後に,今回は3カ月間という短期の報告であるため,今後はさらに長期にわたる点眼評価を行っていく必要がある.このように多くの問題点は含有するが,今回の検討からは,目標眼圧に到達しない日本人緑内障患者において,リパスジル点眼液は追加投与による副作用も少なく,さらなる眼圧下降効果を得ることができる薬剤であると考えられた.IV結論目標眼圧に到達しない緑内障患者において,リパスジル点眼液は追加投与による副作用も少なく,さらなる眼圧下降を得ることができる薬剤であると考えられた.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)中庄司幹子:新薬のプロフィルグラナテック点眼液0.4%.ファルマシア51:240,20153)本庄恵:Rho-associatedkinase(ROCK)阻害薬の緑内障治療薬としての可能性.日眼会誌113:1071-1081,20094)本庄恵:緑内障の新薬1:ROCK阻害薬.あたらしい眼科32:775-781,20155)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase1clinicaltrialsofaselectiveRhokinaseinhibitor,K-115.JAMAOphthalmol131:1288-1295,20136)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase2randomizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,K-115,inprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol156:731-736,20137)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Additiveintraocularpressure-loweringeffectsoftheRhokinaseinhibitorripasudil(K-115)combinedwithtimololorlatanoprost:Areportof2randomizedclinicaltrials.JAMAOphthalmol133:755-761,20158)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclinicalevaluationof0.4%ripasudil(K-115)inpatientswithopen-angleglaucomaandocularhypertension.ActaOphthalmol4:DOI:10.1111/aos.12829,20159)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Intra-ocularpressure-loweringeffectsofaRhokinaseinhibitor,ripasudil(K-115),over24hoursinprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension:arandomized,open-label,crossoverstudy.ActaOphthalmol93:e254-e260,201510)有田量一:糖尿病性網膜微小血管障害のメカニズムとROCK阻害薬による病態制御の可能性.日眼会誌115:985-997,201111)小泉範子:Rhoキナーゼ(ROCK)阻害薬を用いた新しい角膜内皮疾患治療の開発.日の眼科83:1324-1328,2012〔別刷請求先〕吉谷栄人:〒173-0015東京都板橋区栄町35-2東京都健康長寿医療センター眼科Reprintrequests:MasatoYoshitani,DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanGeriatricHospital,35-2Sakaetyou,Itabashiku,Tokyo173-0015,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(105)11871188あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(106)表1患者背景背景因子症例数14例14眼性別男性5例,女性9例年齢70.2±12.2歳(51?92)MD?12.46±10.10dB(?29.01??0.53)PSD9.91±4.75dB(1.67?15.13)眼圧18.6±4.2mmHg(12?25)点眼剤数※3.1±0.9剤(1?4)病型原発開放隅角緑内障7例7眼落屑緑内障3例3眼続発緑内障2例2眼原発閉塞隅角緑内障2例2眼手術既往歴白内障手術5例5眼線維柱帯切開術1例1眼線維柱帯切除術1例1眼隅角癒着解離術1例1眼MD:meandeviation.PSD:patternstandarddeviation.※配合剤は2剤として計算図1リパスジル点眼液投与開始後の眼圧経過リパスジル点眼追加後,有意な眼圧下降が維持された.(107)あたらしい眼科Vol.33,No.8,201611891190あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(108)

プロスタグランジン薬,βブロッカー,炭酸脱水酵素阻害薬,ブリモニジンの4剤併用でコントロール不十分な緑内障症例に対するリパスジル点眼液の追加処方

2016年7月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科33(7):1063〜1065,2016©プロスタグランジン薬,bブロッカー,炭酸脱水酵素阻害薬,ブリモニジンの4剤併用でコントロール不十分な緑内障症例に対するリパスジル点眼液の追加処方中谷雄介*1杉山和久*2*1厚生連高岡病院眼科*2金沢大学眼科EffectivenessofTopicalRipasudilasAdjunctiveTherapywithCombinationofProstaglandin,b-Blocker,CarbonicAnhydraseInhibitorandBrimonidineinGlaucomaPatientsYusukeNakatani1)andKazuhisaSugiyama2)1)DepartmentofOphthalmology,KoseirenTakaokaHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience目的:プロスタグランジン薬,bプロッカー,炭酸脱水酵素阻害薬,ブリモニジンの4剤併用中の緑内障患者にリパスジル点眼液を追加した場合の眼圧変化と安全性を検討した.対象および方法:対象は4剤併用でコントロール不十分な27例29眼.リパスジル点眼液を追加した前後の眼圧および副作用の有無につき検討した.結果:リパスジル点眼液の追加によって追加前眼圧より1,2,3カ月とも有意に低下した(追加前14.7±3.5mmHg→1カ月後12.3±3.2mmHg→2カ月後12.1±3.6mmHg→3カ月後11.8±3.2mmHg,RepeatedANOVA,p<0.001).平均眼圧下降率は18.6%であった.眼圧下降率20%以上は14/29眼(48.2%)であった.頭痛,眼瞼炎にて早期に点眼を中止した2例2眼を認めたものの局所的,全身的に重篤な合併症を認めなかった.結論:4剤併用症例においてもリパスジル点眼液を追加することで,さらなる眼圧下降効果が期待できる.Purpose:Weperformeda3-monthopen-labelstudyinpatientswithglaucomatoassesstheocularpressureloweringeffectof0.4%ripasudilophthalmicsolutionasanadjunctivetherapy.ObjectandMethod:Patientswereassignedtoreceivetopicalripasudil(n=29)forinadequatecontrolwithmaximaltopicaltherapy(prostaglandin,b-blocker,carbonicanhydraseinhibitorandbrimonidine).IOPmeasurementswererecordedatday0(baseline)andat1to3months.Results:RipasudilreducedmeanIOPby2.4-2.9mmHgat1to3months(p<0.001forall).Althoughtwopatientsdiscontinuedduetohyperaemiaandheadache,noseverecomplicationwasfound.Conclusion:RipasudilreducedIOPasmaximaladjunctivetherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(7):1063〜1065,2016〕Keywords:リパスジル点眼液,追加投与.ripasudil,adjunctivetherapy.はじめに緑内障に対する点眼治療は通常プロスタグランジン関連薬(PG)を第1選択とし,さらに単剤での治療効果が不十分の際,2,3剤目あるいは4剤目としてb遮断薬(b-blocker),炭酸脱水酵素阻害薬(CAI),a2刺激薬(ブリモニジン)などを選ぶことが多い.わが国では2014年12月より,これらの主要4剤と薬理作用の異なる眼圧下降薬であるリパスジル塩酸塩水和物点眼液(グラナテック®)が使用可能となった.Rhoキナーゼ阻害薬(ROCK阻害薬)である本剤の作用機序は線維柱帯細胞の細胞骨格の変化や細胞外マトリクスの構造を変化させ,これを弛緩させることで線維柱帯-Schlemm管を介する主流出路からの房水流出を促進して眼圧を下降させる1〜3).本剤の位置付けは第2,第3あるいは第4の追加点眼における選択薬とされている.そこで,今回fullmedicationである4剤併用症例に対して,リパスジル点眼薬の追加による眼圧下降効果についてオープンラベルによるプロスペクティブスタディで検討した.I対象および方法対象は平成27年2月〜9月に厚生連高岡病院に通院中の緑内障患者で,PG,b-blocker,CAI,ブリモニジンの多剤併用治療を3カ月以上行っているにもかかわらず,眼圧下降効果が不十分あるいは視野障害が進行している症例を対象とした.リパスジル点眼液を追加投与し,1,2,3カ月後の眼圧について検討した.角膜屈折矯正手術,角膜疾患,ぶどう膜炎,6カ月以内に緑内障手術などの内眼手術の既往のある症例,心疾患,腎疾患,呼吸器疾患や副腎皮質ステロイド薬で治療中の症例は対象から除外した.点眼追加前,追加後1カ月後,2カ月,3カ月後に眼圧をGoldmann圧平式眼圧計で測定した.眼圧は午前中の外来診療における時間帯に同一検者が測定した.配合剤は2剤としてカウントした.本研究は厚生連高岡病院倫理委員会の承認を事前に受けた.対象患者には本試験について十分に説明を行い,同意を得た.解析方法はMedcalc®.version11.1.1.0を用い,投与前と投与1,2,3カ月後の眼圧の比較にはRepeatedANOVA,Post-hoctestとしてBonferroni法を用いた.点眼前の眼圧値と眼圧下降率の相関関係はPearsonの相関係数によって検討した.追加前ベースライン眼圧を15mmHg以上,14mmHg以下に分けて追加3カ月目の眼圧下降値の比較をunpairedt-testで行った.角膜上皮スコアの比較にはAD(area-density)分類を用い4),Wilcoxonranksumtestを用いた.危険率5%以下を有意な差ありとした.II結果全症例の内訳は31例33眼(男性22眼,女性11眼)であった.年齢は74.4±8.9(平均値±標準偏差)歳であった.経過中4例4眼が脱落,理由は1例は充血で中断,1例は頭痛で中断,1例は経過観察中に手術施行,1例は点眼忘れであった.眼圧経過については上記脱落例を除く27例29眼を対象とした.対象の内訳は72.1±8.3歳,男性19眼,女性10眼であった.病型は,原発開放隅角緑内障(狭義)17眼,正常眼圧緑内障9眼,落屑緑内障3眼であった(表1).なお,全例PG+b-blockerまたはPG+CAIの配合剤のいずれかを追加前に使用していた.眼圧値は追加前14.7±3.5mmHg(平均値±標準偏差),1カ月後12.3±3.2mmHg,2カ月後12.1±3.6mmHg,3カ月後11.8±3.2mmHgで,追加前に比較して追加後はすべて有意に低下していた(p<0.001)(図1).全体の眼圧下降率は18.6±16.7%であった.眼圧下降率が30%以上は8/29眼(27.6%),20%以上30%未満は6/29眼(20.7%),10%以上20%未満は1/29眼(3.4%),10%未満は14/29例(48.3%)であった(図2).眼圧下降率と追加前ベースライン眼圧に相関はなかった(p=0.08,r=0.32)が,追加前ベースライン眼圧を15mmHgと14mmHg以下に分けた場合15mmHg以上の眼圧下降値は4.1±3.1mmHg,14mmHg以下の眼圧下降値2.0±2.1mmHgと有意に15mmHg以上が大きかった(p=0.04).副作用として全症例31例33眼中,表層角膜炎の増加5眼(15%),充血15例(45%),眼瞼炎1例(3%),頭痛1例(3%)があった.リパスジル点眼追加前後の角膜上皮スコアは追加前0.26±0.59,追加後0.48±0.75とやや悪化していたが有意差は認めなかった(p=0.06)(図3).III考按今回の研究では,作用機序の異なる緑内障点眼をfullmedicationである4剤投与していた場合にリパスジル点眼をさらに追加することで,追加投与後3カ月間で2.4〜2.9mmHgのさらなる眼圧下降が得られることがわかった.リパスジル点眼の報告では第II相試験で平均ベースライン眼圧が23mmHgの症例を対象に0.4%リパスジル単剤でトラフとピークにおいて3.5〜4.5mmHg下がったとされる5).追加効果では第III相試験において,ラタノプロストに追加したものではトラフとピークで2.2〜3.2mmHg,チモロールに追加したものでは2.4〜2.9mmHg下がったとされている6).1年の経過をみたものでは,ピークとトラフにおいて単剤で2.6〜3.7mmHg,PGに追加で1.4〜2.4mmHg,b-blockerに追加で2.2〜3.0mmHg,PG+b-blockerの配合剤に追加で1.7mmHg下がったとされる7).今回の研究では2.4〜2.9mmHg下がっていたことから,すでに配合剤を含めたfullmedication治療(PG,b-blocker,CAI,ブリモニジン)が行われているにもかかわらず十分なコントロールが得られない患者にリパスジル点眼液が追加処方された場合,さらに眼圧降圧効果が期待できることが考えられた.副作用については,全身的なものは頭痛で中断した1例はあったが,重篤なものは認めなかった.眼局所の副作用は充血がもっとも多く,従来の報告5)と同様であったが,充血で中断したのは1例のみであった.角膜上皮障害について,すでに多剤併用療法が行われており,追加前から角膜炎がみられた症例もあったが,リパスジル点眼の追加で著明に悪化する例はなく,安全に使用できるものと思われた.今回の症例はすべての症例で併用点眼に配合剤を使用しており,リパスジル点眼を含め5種併用であるが実際は4剤点眼となっており,fullmedicationにおいて配合剤の利点があると思われた.問題点として,今回の報告では症例数が限られており,緑内障病型による追加効果の違いについては検討できなかった.さらにfullmedicationでリパスジル点眼を継続していった場合の長期効果は不明である.これは5剤目の追加として検討した場合,アドヒアランスの低下が問題となる場合があり8),今回の検討にも影響する可能性があると考えられるが,今回の患者からの聞き取りではアドヒアランスは良好と考えられた.以上,リパスジル点眼はfullmedicationの多剤併用においても眼圧下降効果があり,追加点眼薬として検討する価値があると考えられた.さらに重篤な副作用も認めず安全に使用できると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:EffectsofrhoassociatedproteinkinaseinhibitorY-27632onintraocularpressureandoutflowfacility.InvestOphthalmolVisSci42:137-144,20012)KogaT,KogaT,AwaiMetal:Rho-associatedproteinkinaseinhibitor,Y-27632,inducesalterationsinadhesion,contractionandmotilityinculturedhumantrabecularmeshworkcells.ExpEyeRes82:362-370,20063)InoueT,TaniharaH:Rho-associatedkinaseinhibitors:anovelglaucomatherapy.ProgRetinEyeRes37:1-12,20134)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層性角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19945)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase2randomizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,K-115,inprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol156:731-736,20136)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Additiveintraocularpressure-loweringeffectsoftheRhokinaseinhibitorripasudil(K-115)combinedwithtimololorlatanoprost:Areportof2randomizedclinicaltrials.JAMAOphthalmol133:755-761,20157)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclinicalevaluationof0.4%ripasudil(K-115)inpatientswithopen-angleglaucomaandocularhypertension.ActaOphthalmol94:e26-e34,20168)DjafariF,LeskMR,HarasylnowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,2009表1対象症例の内訳症例数年齢(歳)女性男性緑内障タイプ29眼72.1±8.310眼19眼POAG(狭義):17眼NTG:9眼PE:3眼平均値±標準偏差.POAG:primaryopenangleglaucoma.NTG:normaltensionglaucoma.PE:pseudoexfoliation図1リパスジル点眼を追加した場合の眼圧経過追加前に比較し,追加後1,2,3カ月後で有意に眼圧が低下していた(1カ月目p<0.0001,2カ月目p=0.0001,3カ月目p<0.0001).図2リパスジル点眼の追加による眼圧下降率の分布全体の眼圧下降率は18.6±16.7%であった.眼圧下降率20%以上は14/29眼(48.3%)であった.図3リパスジル点眼追加後3カ月目の角膜上皮スコア(平均値±標準偏差)角膜上皮スコアの有意な悪化を認めなかった(p=0.06)〔別刷請求先〕中谷雄介:〒933-8555富山県高岡市永楽町5-10厚生連高岡病院眼科Reprintrequests:YusukeNakatani,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KoseirenTakaokaHospital,5-10Eirakucho,Takaoka,Toyama933-8555,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(137)10631064あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(138)(139)あたらしい眼科Vol.33,No.7,20161065