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複数の点眼剤を使用中に発症した涙囊炎からの涙囊結石を分析した1例

2020年4月30日 木曜日

《第8回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科37(4):471.475,2020c複数の点眼剤を使用中に発症した涙.炎からの涙.結石を分析した1例久保勝文*1櫻庭知己*2*1吹上眼科*2青森県立中央病院眼科CACaseofaDacryoliththatDevelopedduetotheUseofMultipleEyeDropsMasabumiKubo1)andTomokiSakuraba2)1)FukiageEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,AomoriPrefecturalCentralHospitalC目的:複数の点眼薬を使用中に涙.炎を発症した患者に涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)を施行し,摘出した涙.結石の成分分析と病理検査を行ったので報告する.症例:77歳,女性.30歳から関節リウマチがあり,10年前から近医にて低濃度ステロイド,ヒアルロン酸,レバミピド,オフロキサシンゲルの点眼で加療中に右涙.炎を発症,吹上眼科にてCDCRを施行した.手術時に涙.内より摘出した柔らかい白色結石について,病理検査と成分分析を行った.結果:赤外分光分析法(IR法)で,結石はレバミピドの成分・蛋白質と同様の吸収を認めた.顕微ラマン分析でレバミピド成分を確認し,液体クロマトグラフでレバミピド成分はC20.9%と判定した.原子吸光分析法でホウ酸は検出されず,病理検査で放線菌を認めた.考察:IR法などから,涙.内結石はレバミピド成分がC20.9%であると確認した.レバミピド点眼などの複数点眼を使用する際には,涙.結石に注意が必要である.CPurpose:Toreportacaseofadacryoliththatdevelopedduetotheuseofmultipleeyedrops.Casereport:CThisstudyinvolveda77-year-oldfemalewithdacryocystitisthatdevelopedafterundergoingtherapywithmulti-pleeyedrops,suchasrebamipideandlow-dosesteroids,ando.oxacingel-formingophthalmicsolutionfromthir-ty-yearsCold.CForCtreatment,CdacryocystorhinostomyCwasCperformedCunderClocalCanesthesia,CandCaCdacryolithCwasCobservedCandCremovedCfromCtheClacrimalCsac.CACsmallCportionCofCtheCdacryolithCwasCsentCoutCtoCaClaboratoryCforCpathologicalstudy,withtheremainingportionusedforchemicalanalysis.Results:Chemicalanalysisrevealedthattheprimarycomponentwasrebamipide,similartotheinfraredspectroscopy.ndings.Ourresultsshowedthat20.9%ofthedacryolithcompositionwasrebamipide.Conclusion:The.ndingsinthispresentcaseshowedthat20.9%CofCtheCdacryolithCwasCcomposedCofCtheCproteinCofCrebamipide,CandCrevealedCthatCtheCuseCofCmultipleCeyeCdropsCmaypresenttheriskofdacryolithformation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(4):471.475,C2020〕Keywords:レバミピド点眼,赤外分光光度計,涙.鼻腔吻合術,涙.結石.rebamipide,infraredspectroscopy(IF),dacryocystorhinostomy,dacryolisths.はじめにレバミピド点眼などの複数の点眼薬を使用中に涙.炎を発症し,その涙.炎の治療のため涙.鼻腔吻合術鼻外法(dac-ryocystorhinostomy:DCR)を行った際に,白色の涙.内結石を認めたとの報告がある1,2).しかし,その白色結石にレバミピドの成分を含んでいるかを調べた報告は少ない1,2).筆者らは,レバミピド点眼などの複数の点眼薬を使用中に涙.炎を発症し,手術目的で吹上眼科に紹介となった患者のDCR中に,涙.内結石を認め除去した.この涙.内結石の成分分析を試みたので,結果を報告する.I症例症例はC77歳,女性.30歳から関節リウマチなどの膠原病があり,10年前より近医で上強膜炎,角膜びらん,ドライアイに対し,低濃度ステロイド点眼,ヒアルロン酸点眼,レバミピド点眼,オフロキサシンゲル点眼で加療していた.右〔別刷請求先〕久保勝文:〒031-0003青森県八戸市吹上C2-10-5吹上眼科Reprintrequests:MasabumiKubo,M.D.,Ph.D.,FukiageEyeClinic,2-10-5Fukiage,Hachinohe,Aomori031-0003JAPANC0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(95)C471涙.炎を発症したため,手術目的で吹上眼科紹介となった.結膜培養を行い,涙.洗浄を行うと,涙.までは入れることができたが涙.以降の閉塞を認めた.CT(computedtomography:コンピュータ断層撮影)にて異常なく,局所麻酔にてCDCRを行った3).涙.切開時に白色のおから状の柔らかい結石(図1)を摘出した.摘出した結石の一部にて病理検査を行い,残りは大塚製薬に分析を依頼し約C3.1C×1.7Cmm白色の結石を取出し,風乾後は淡黄白色で大きさが約C1.1C×2.2Cmmとなったものを結石分析の試料とした.1.IR(infraredspectroscopy)赤外分光分析法による有効成分の比較,2.IRによる蛋白質の比較,図1摘出した白色の結石赤色の円内の結石を分析に用いた.3.顕微ラマン分析装置での分析,4.液体クロマトグラフによるレバミピドの含量測定,5.原子吸光分析法によるホウ酸含量測定を行った.CII結果結膜培養では,コアグラーゼ陰性CStaphylococcus(CNS)が認められ,放線菌は確認できなかった.DCR術後は涙.炎の再発もなく経過良好で,3カ月後に涙小管チューブを抜去した.抜去後も再閉塞などなく,経過良好で外来観察中である.C1.IRによる有効成分の比較(図2)ムコスタ点眼液の有効成分のレバミピドは,波数①C3,280CcmC-1,C②C1,730Ccm-1,C③C1,644Ccm-1,C④C1,602Ccm-1,⑤C1,540Ccm-1および⑥C760CcmC-1付近に特異吸収があり,今回の結石は①C3,280cmC-1,C②C1,730CcmC-1,C③C1,644CcmC-1,④C1,602Ccm-1,⑤C1,540CcmC-1および⑥C760CcmC-1付近の特異吸収は同位置に示し,それ以外の吸収も似ていることから,レバミピドの有効成分を含んでいると考えられた.C2.本症例と蛋白質のIRチャート(図3)レバミピドの蛋白質は,波数①C3,270CcmC-1,②C1,640CcmC-1,C③C1,530Ccm-1に吸収があり,今回の結石は同様の位置に吸収を認め,レバミピドの蛋白を含んでいると考えられた.C3.顕微ラマン分析装置での分析(図4)本症例では,1,300CcmC-1付近にレバミピド特有の吸収を認め,レバミピドを含んでいると確認された.図2赤外分光分析法による結石の蛋白とレバミピド点眼の比較6カ所の特異吸収は同位置に示し,それ以外の吸収も似ていることから,レバミピドの有効成分を含んでいると考えられた.図3赤外分光分析法による結石の蛋白とレバミピド点眼の比較今回の結石は,3カ所で同様な吸収を認め,レバミピドの蛋白を含んでいると考えられた.図4顕微ラマン分析による結石の蛋白とレバミピド点眼の比較1,300Ccm-1付近にレバミピド特有の吸収を認め,レバミピドを含んでいると確認された.C4.液体クロマトグラフによるレバミピドの含量測定ていると考えられた.液体クロマトグラフ(highperformanceliquidchromatog-6.病理検査(図5)raphy:HPLC)でレバミピドの含量測定を行ったところ,グロコット染色で放線菌とみられる菌塊がみられた.中心レバミピドをC20.9%含んでいた.部に濃厚な染色があり,そこから表層部にわたってほぼ均一C5.原子吸光分析法によるホウ酸含量測定な放線菌感染を認めた結石を水C0.2Cmlで抽出し,原子吸光分析法によりホウ酸CIII考察含量の測定を行ったところ,ホウ酸は検出されなかった.よって結石にはレバミピド点眼の蛋白質成分がC20.9%含まれレバミピド点眼は,広くドライアイに用いられ,Sjogren図5グロコット染色バーはC500Cμm.症候群にも多用される点眼薬である1).近年レバミピド点眼などの複数の点眼薬を使用中に涙.炎を発症し,DCR時に白色の涙.結石を発見し,涙.結石中にレバミピドが確認される例や確認されない例が報告されている1,2).しかし,成分分析を具体的および詳細に報告はしている報告は少なく1,2)今回調査・報告した.発症時に,レバミピド点眼以外に,ヒアルロン酸ナトリウム,ジクアホソルナトリウム,オフロキサシンなどの点眼をしていたという症例の報告2)はあるが,オフロキサシンゲル点眼の報告は見つけることはできなかった.レバミピド点眼は滞留性がよく,レバミピドの粒子が涙.の壁に認められたとの報告がある4,5).オフロキサシンゲル点眼は,点眼後は眼表面の温度によりゲル化し,眼軟膏と同様に長時間結膜.内に滞留する6).涙.から鼻涙管に排出されるまでの滞留に関する報告は見当たらなかったが,粘性が高いことや結膜での滞留性が高いことを考慮すると,レバミピド点眼同様に涙.から鼻涙管で滞留することは予想される.また,年齢が高い患者や,Sjogren症候群による分泌低下がある場合は,さらにこれらの点眼の排出に時間がかかり,涙道閉塞および涙.炎の原因となりうると考えられた.今回の症例では,涙.炎および涙.結石の形成にオフロキサシンゲル点眼とレバミピド点眼が,それぞれ単独で関与したか,または相互作用により涙.結石が生じた可能性も考えられたが,以前の報告同様1,2)に明確な原因は不明だった.涙.内結石への細菌感染については,池田らの報告でもC2症例(100%)ともに放線菌感染を認め1),年齢とともに結石への細菌感染は高くなるとの報告7)もあり,今回も,放線菌感染を認め,以前の報告と同様だった.放線菌が確認された部位は,中心部に濃厚な染色が何個かあり,表層部にわたって均一な放線菌感染を認めた.初期の段階から持続的に感染を継続しつつ結石が増大した可能性と,ある程度大きくなった結石に放線菌感染が起こり中心部に拡大していった可能性が考えられた.病理の所見をみると,中心部に濃厚な放線菌感染があり表層に放線菌が薄いため,放線菌感染を濃厚に起こした小さい結石が集結し結石が大きくなり,大きくなった結石にさらに放線菌感染が起こったように思えた.しかし,調べた限りでは現在の結石の形成および感染の機序,順序などは不明だった.今回の症例は,涙.炎発症以前に,涙.内結石や鼻涙管閉塞があったかは不明であるが,推測される病態としては以下が考えられる1).Sjogren症候群および年齢的変化で涙液量が少なく,涙道内にある異物の排泄効率が低下しており,さらにレバミピドの粒子や,粘性の高いオフロキサシンゲル点眼が滞留して小さな涙.結石の核を形成し,一時的な鼻涙管閉塞症および放線菌による涙.炎および涙.結石のへの感染を起こした.放線菌に感染した小さい涙.内結石同士が融合し,機械的な鼻涙管閉塞症を起こす程度まで結石が成長し,大きくなってからも放線菌感染が起きた.初期段階から涙.内結石と涙.炎および放線菌感染が相互に複雑に作用した.今回の症例はC77歳と高齢だった.杉本らの報告2)をみると,涙.炎の発症はC10例中C9例(90%)がC70歳以上と高率だった.また,池田らの報告1)もC70歳以上のC2症例で,涙.炎患者における涙.内結石の発生率は年齢ともに上昇するとの報告7)もあり,高齢が涙.炎および涙.内結石を生じやすい素因と考えられた.今回は,結石中にレバミピド成分がC20.9%含まれていた.池田らの報告1)と杉本らの報告2)を合わせると,IR法でのレバミピド定性については,11例中C6例(54.5%)がありで,4例(36%)がなしだった.3例のレバミピド定量結果は,43.8%,14.4%,11.7%だった.今回の測定ではC20.9%であり,いままでの報告と比較し,定性では多数派であり定量結果では中間に位置した.これ以上については,症例が少ないため詳細不明だった.IR法は,結石の粉末資料に赤外線を照射し,透過光を分光して得られる赤外線吸収スペクトルから結石成分を同定する8).今回の波形と以前の報告8)の波形を比較すると,相違をはっきりと認めた.一方,レバミピド点眼の成分をC20%程度含むことでレバミピド点眼成分の波形に似てくることがわかった.なお,懸濁性点眼液を他の水溶性点眼液と併用する場合は,水溶性点眼液を先に点眼し,5分以上の間隔をあけて点眼することが推奨されている9).また,レバミピド点眼が涙.内で固まらないようにするためにC2.3日間隔をおくことが推奨されている4).以上のことを考えると,通常C1日に数回の点眼回数で,レバミピド点眼以外に粘性の高い点眼をすることは避けるべきと考えられる.高齢患者にレバミピド点眼などの複数の点眼薬を使用する際には,経過観察中は涙道・涙.疾患に注意が必要と考えられた.レバミピド点眼以外には,粘性の点眼を併用することは避け,涙.炎を認めた際には速やかに専門医受診を薦める必要があると考える.文献1)池田毅,平岡美紀,稲富周一郎ほか:量側涙.部に涙石を生じたシェーグレン症候群のC2例.臨眼C71:593-598,C20172)杉本夕奈,福田泰彦,坪田一男ほか:レバミピド懸濁点眼液(ムコスタCR点眼液CUD2%)の投与にかかわる涙道閉塞,涙.炎および眼表面・涙道などにおける異物症例のレトロスペクティブ検討.あたらしい眼科32:1741-1747,C20153)久保勝文,櫻庭知己:日帰り涙.鼻腔吻合術鼻外法C18例20眼の検討.眼科手術18:283-286,C20054)杉本学,野田佳宏:涙道内視鏡の基本─鼻涙管.眼科手術30:53-58,C20175)MimuraCM,CUekiCM,COkuCHCetal:E.ectCofCrebamipideCophthalmicCsuspensionConCtheCsuccessCofClacrimalCstentCintubation.CGrafesCArchCClinCExpCOphthalmolC254:385-389.C20166)岡本茂樹,加藤あずさ:オフロキサシンゲル化製剤について教えてください.あたらしい眼科26:197-199,C20097)KuboCM,CSakurabaCT,CWadaR:ClinicopathologicalCfea-turesCofCdacryolithiasisCinCJapanesepatietnts:frequentCassociationwithinfectioninagedpatients.ISRNOphthtal-molC2013,C406153,C20138)久保勝文,櫻庭知己:涙小管結石および涙.結石に対しての結石成分分析.あたらしい眼科35:529-532,C20189)大谷道輝:点眼剤の「実践編」.JINスペシャルC80:170-176,C2007C***