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酸化ストレスによる角膜上皮バリアの障害に対するレバミピドの効果

2012年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科29(9):1265.1269,2012c酸化ストレスによる角膜上皮バリアの障害に対するレバミピドの効果竹治康広田中直美篠原久司大塚製薬株式会社赤穂研究所ProtectiveEffectofRebamipideonOxidativeStress-inducedDisruptionofBarrierFunctioninHumanCornealEpithelialCellsYasuhiroTakeji,NaomiTanakaandHisashiShinoharaAkoResearchInstitute,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.酸化ストレスは,さまざまな前眼部疾患の発症・増悪に関与しており,ドライアイもその一つであると考えられている.レバミピドは,角膜および結膜においてムチン産生促進作用を有するドライアイに対する治療薬であり,またフリーラジカル消去作用をもつことが報告されている.今回,酸化ストレスによる角膜バリアの障害に対するレバミピドの効果について,培養ヒト角膜上皮細胞を用いて検討した.バリアの機能について経上皮電気抵抗(TER)を,バリアの構造についてタイトジャンクションの構成蛋白を指標とし,酸化ストレスの負荷方法として過酸化水素を用いた.その結果,過酸化水素を角膜上皮細胞に処理すると,TERは用量依存的に低下するが,そのTERの低下はレバミピドの前処置により抑制された.さらに,レバミピドは過酸化水素によるタイトジャンクションの構成蛋白であるZonulaoccludens-1の障害に対して保護作用を示した.以上より,レバミピドは,培養角膜上皮細胞において,酸化ストレスによるバリア機能およびタイトジャンクションの障害に対して保護作用を示すことが明らかになった.Oxidativestressisthoughttobeinvolvedintheonsetandexacerbationofvariousanterioreyediseases,suchasdryeye.Rebamipide,atherapeuticagentfordryeyethatpromotestheproductionofmucinincorneaandconjunctiva,reportedlyhasafreeradicalscavengingaction.Inthepresentstudy,weinvestigatedtheeffectivenessofrebamipideagainstcornealbarrierdisruptioncausedbyoxidativestress,usingculturedhumancornealepithelialcells.Transepithelialelectricalresistance(TER)wasevaluatedasanindicatorofbarrierfunction,andtightjunctionproteinsasanindicatorofbarrierstructure.Hydrogenperoxidewasusedforoxidativestresschallenge.TreatmentwithhydrogenperoxideinducedTERdecreaseinadose-dependentmanner,butthedecreasewassuppressedbypretreatmentwithrebamipide.Inaddition,rebamipideexhibitedaprotectiveactionagainsthydrogenperoxideimpairmentofZonulaoccludens-1,atightjunctionprotein.Rebamipidewasthusshowntohaveaprotectiveactionagainstoxidativestress-inducedbarrierfunctionandtightjunctionimpairmentinthecornealepithelialcell.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(9):1265.1269,2012〕Keywords:レバミピド,ヒト角膜上皮細胞,酸化ストレス,バリア機能,タイトジャンクション.rebamipide,humancornealepithelialcell,oxidativestress,barrierfunction,tightjunction.はじめに眼領域において,ドライアイ,白内障,ぶどう膜炎など多くの疾患の発症・増悪に酸化ストレスは関与している.酸化ストレスは,眼表面における活性酸素の産生亢進と,生体内の活性酸素に対する防御機構とのバランスにより調節されている1).涙液中にはスーパーオキシドジスムターゼやラクトフェリンなどの抗酸化作用を含む物質が含まれており,防御機構の役割を果たしている.正常な状態であれば紫外線などさまざまな要因により発生した活性酸素は速やかに消去されるが,〔別刷請求先〕竹治康広:〒678-0207兵庫県赤穂市西浜北町1122-73大塚製薬株式会社赤穂研究所Reprintrequests:YasuhiroTakeji,AkoResearchInstitute,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,1122-73Nishihamakita-cho,Ako-shi,Hyogo678-0207,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(89)1265 涙液量が低下しているドライアイでは,発生した活性酸素を十分に消去できなくなる.増加した活性酸素は,角膜に障害を与えドライアイの増悪の原因の一つになっているのではないかと考えられている2).角膜上皮は,病原微生物の感染,粉塵,外傷など外界からの直接的な侵襲から角膜を保護しており,隣接する角膜上皮細胞間に存在する接着構造がバリアとして重要な働きを担っている.数種の接着構造が角膜上皮には存在し,そのなかでも最も表層に存在するタイトジャンクションが外界からの刺激を受けやすい.培養角膜上皮細胞に炎症性サイトカインや低酸素などの刺激を与えると,タイトジャンクションが障害を受ける3).さらに,タイトジャンクションは,活性酸素による酸化ストレスによっても障害を受けることが報告されている4).レバミピドは,角膜および結膜においてムチン産生促進作用を有するドライアイに対する治療薬である一方,ヒドロキシラジカル消去作用を有する抗酸化物質の一面をもつことが報告されている5).今回,培養角膜上皮細胞における酸化ストレスによるバリア障害に対するレバミピドの作用を,バリア機能および,タイトジャンクション蛋白の両面から検討した.I実験方法1.細胞培養ヒト角膜上皮細胞(SV40不死化ヒト角膜上皮細胞,RCBNo.2280:理化学研究所)を10%FBS(fetalbovineserum)(ATCC:AmericanTypeCultureCollection)を含むDulbecco’sModifiedEagleMedium/F-12(DMEM/F-12)(Invitrogen)を用いて37℃,5%CO2インキュベーター内で培養し継代維持した.経上皮電気抵抗(transepithelialelectricresistance:TER)測定の試験において,細胞懸濁液を24穴のトランスウェルプレート(ミリポア)に5×104cells/wellで添加し,blankwellには細胞を含まない培地を添加した.細胞播種4日後,FBSを含まないDMEM/F-12に交換した.免疫染色およびWesternblottingの試験において,細胞懸濁液を24ウェルプレートに5×104cells/wellで播種した.細胞がコンフレントになった後,10%FBSを含まないDMEM/F-12に交換した.2.薬物の投与レバミピド(大塚製薬)およびジクアホソルナトリウム(大塚製薬)ともFBSを含まないDMEM/F-12に溶解させて使用した.TERに対する過酸化水素の用量反応性の検討について,FBSを含まないDMEM/F-12に交換した翌日,新たな培地に交換した.その1時間後,過酸化水素(和光純薬)を添加1266あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012し,37℃,5%CO2インキュベーター内で静置した.TER測定,免疫染色およびWesternblottingの各試験でのドライアイ治療薬の検討について,FBSを含まないDMEM/F-12に交換した翌日,コントロール(培地のみ),レバミピドおよびジクアホソルナトリウムを溶解させた培地に交換した.薬物添加1時間後,過酸化水素を添加し,37℃,5%CO2インキュベーター内で静置した.正常群には,過酸化水素ではなく培地を添加した.3.経上皮電気抵抗(TER)の測定過酸化水素添加24時間後に,電気抵抗値測定システム(ミリセルERS-2,ミリポア)を用いて各wellのTERを測定した.TERは以下の式により算出した.TER(W・cm2)=(薬物添加wellの電気抵抗.blankwellの電気抵抗)×培養面積(cm2)4.Zonulaoccludens.1(ZO.1)の免疫染色過酸化水素添加24時間後にZO-1の免疫染色を実施した.細胞を100%メタノールで20分間固定した後,0.1%Triton-Xを含むPBS(phosphatebufferedsaline)で30分間透過処理した.1%BSA(bovineserumalbumin)/PBSを1時間室温処置でブロッキングを実施した後,一次抗体のZO-1抗体(1:100,Invitrogen)で1時間室温インキュベートした.PBSで洗浄後,AlexaFluor488-conjugate二次抗体(1:1,000,Invitrogen)で室温1時間,さらに0.5μMDAPI(4¢,6-diamidino-2-phenylindol)(Polyscience)を室温30分間インキュベートし,核染色を行った.洗浄後,蛍光顕微鏡(BZ-9000,Keyence)を用いて観察した.5.ZO.1蛋白の発現過酸化水素添加24時間後にZO-1蛋白の発現をWesternblottingにて実施した.Proteaseinhibitorcocktail含有RIPAbufferにて蛋白を抽出し,BCAProteinAssayKit(ThermoSCIENTIFIC)を用いて蛋白濃度測定を行った.蛋白抽出液を電気泳動し,メンブレンに転写した後,ブロッキング処理を施した.一次抗体であるantiZO-1ポリクローナル抗体(1:300,Invitrogen)およびantib-actin抗体(AC-15)(1:10,000,Abcam)で4℃オーバーナイト,およびhorseradishperoxidase-conjugated二次抗体(GEHealthcare)で室温1時間処理し,標的蛋白を検出した.検出したバンドはImageQuantTL(GEHealthcare)を用いて,シグナル強度を数値化した.ZO-1蛋白のシグナル強度をb-actinシグナル強度で補正し,ZO-1蛋白の発現量を算出した.6.統計解析統計解析をSAS(Release9.1,SASInstituteJapan,Ltd)を用いて実施した.(90) TERに対する過酸化水素の用量反応性について,0μMと500各濃度(250,500および750μM)の過酸化水素でDunnett500各濃度(250,500および750μM)の過酸化水素でDunnett400検定(両側)を行った.TERに対するドライアイ治療薬の効果の検討については,正常とコントロールで対応のないt-検定(両側)を行った.レバミピドの用量反応性については,直線回帰分析による単調増加性が確認されたため,コントロールとレバミピドの各群でWilliams検定(上側)を行った.ジクアホソルナトリウムの効果については,コントロールとの間で対応のないt検定(両側)を実施した.ZO-1発現の検討については,正常とコントロールで対応のないt-検定(両側)を行い,コントロールとレバミピドおよびジクアホソルナトリウムの各群でDunnett検定(両側)を行った.いずれの検定も5%を有意水準として解析した.II結果****TER(W・cm2)3002001000過酸化水素(μM)図1角膜上皮細胞におけるバリア機能に及ぼす過酸化水素の影響値は平均値±標準誤差を示す(n=4).TERは過酸化水素添加24時間後に測定.**:p<0.01vs0mM〔Dunnetttest(両側)〕.02505007501.TERに対する過酸化水素の用量反応性500角膜上皮細胞に過酸化水素を添加し,24時間後のTERの結果を図1に示す.過酸化水素の用量に依存して,TERは400###**低下した.250μM過酸化水素添加時のTER(420±18W・cm2;平均値±標準誤差)は,0μM(382±20W・cm2)に対してほとんど変化を示さないのに対し,500μMでは279±13W・cm2に,750μMでは127±4W・cm2に有意に低下した.TER(W・cm2)3002001002.TERに対するドライアイ治療薬の効果角膜上皮細胞におけるTERに対するドライアイ治療薬(レバミピドおよびジクアホソルナトリウム)の効果を検討した(図2).過酸化水素の濃度は,TERが約7割に低下する500μMを用いた.その結果,レバミピドの前処置により,過酸化水素によるTERの低下は用量依存性に抑制された.300μMおよび1,000μMでレバミピドは,コントロールに対して有意な差を示した.一方,ジクアホソルナトリウムはコントロールに対して変化を示さなかった.3.タイトジャンクション蛋白に対するドライアイ治療薬の効果タイトジャンクションの構成蛋白の一つであり,角膜を含めさまざまな組織でタイトジャンクションのマーカーとして利用されているZO-1に対するレバミピドの作用を免疫染色およびWesternblottingにより検討した.免疫染色の結果(図3),正常群では,ZO-1は,細胞-細胞間つまりタイトジャンクションに局在していることが観察された.500μM過酸化水素を添加すると,部分的にZO-1のタイトジャンクションへの局在が阻害されていることが観察された.1,000μMレバミピドを前処置しておくと,過酸化水素により生じたZO-1の変化は抑制されたが,1,000μMジクアホソルナトリウムはZO-1の変化に対して作用を示さ(91)0正常ジクアホソルレバミピド(μM)ナトリウム500μM過酸化水素図2酸化ストレスによるバリア機能の低下に対するドライアイ治療薬の効果値は平均値±標準誤差を示す(n=4).TERは過酸化水素添加24時間後に測定.**:p<0.01vs正常〔対応のないt-検定(両側)〕.#:p<0.05,##:p<0.01vsコントロール〔Williams検定(上側)〕.なかった.ZO-1蛋白発現に対するレバミピドの作用をWesternblottingにより検討した(図4).正常群に比べ500μM過酸化水素を添加すると,ZO-1蛋白発現の低下が観察された.1,000μMレバミピドを前処置しておくと,過酸化水素により生じたZO-1蛋白発現低下は抑制された.III考按ドライアイの発症・増悪には,涙液の異常以外にも多くの要因が関与しており,外的もしくは内的要因により生じた活性酸素の増加がその一つとして報告されている2).角膜上皮あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121267コントロール1003001,0001,000μM 正常過酸化水素(コントロール)過酸化水素(レバミピド処置)過酸化水素(ジクアホソルナトリウム処置)図3酸化ストレスによるZO.1の変化に対するドライアイ治療薬の効果培地(コントロール),レバミピドおよびジクアホソルナトリウムを添加し,1時間後に500μMの過酸化水素を添加した.免疫染色は,過酸化水素添加24時間後に実施した.過酸化水素により,ZO-1のタイトジャンクションへの局在が阻害された(矢印).その阻害は,レバミピドの前処置により抑制された.ZO-1b-actinジクアホソル正常コントロールレバミピドナトリウム500μM過酸化水素0.10**0.080.060.040.020.00正常コントロールレバミピドジクアホソルナトリウム#ZO-1/b-actin500μM過酸化水素図4酸化ストレスによるZO.1の変化に対するドライアイ治療薬の効果値は平均値±標準誤差を示す(n=6).**:p<0.01vs正常〔対応のないt-検定(両側)〕.#:p<0.05vsコントロール〔Dunnett検定(両側)〕.および涙液中には,活性酸素を消去する物質が存在しているため,眼表面で発生した活性酸素は速やかに消去されるが,涙液分泌の異常に伴う抗酸化物質の減少,炎症を伴う病態および紫外線などの影響を受けた場合,活性酸素が上昇する.増加した活性酸素は,直接的に角膜障害を起こしたり,また炎症反応を介してドライアイの発症・増悪をひき起こしていると考えられている.ドライアイ患者の涙液において,過酸化脂質が高いことからも,ドライアイの発症・増悪には酸化ストレスが関与していることが示唆されている6).角膜上皮において,バリア機能が障害された所見の一つとして点状表層角膜症がある.この所見は,ドライアイ,アトピー性角膜炎,春季カタル,薬剤性角膜上皮障害などでみられ,上皮の表層細胞が欠損しており,その部位でタイトジャンクションの障害が生じている7).レバミピドは,培養胃上皮細胞において酸化ストレスによるバリア機能低下を抑制し,その効果はタイトジャンクションの障害に対する保護作用によることが報告されている8).今回,角膜上皮細胞における酸化ストレスによるバリア障害に対するレバミピドの効果を検討した.酸化ストレスを負荷する方法として,活性酸素の一つであるヒドロキシラジカルを生じる過酸化水素を用いた.生体内で過酸化水素より産生されるヒドロキシラジカルは,分解する酵素がないうえに,非常に高い細胞障害性をもつ物質である.1268あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(92) 角膜バリア機能の指標となるTERにおいて,レバミピドは過酸化水素によるTER低下に対して保護作用を示した.また,角膜バリアの役割を担うタイトジャンクションの構成蛋白の一つであるZO-1の障害に対しても保護作用を示した.以前の報告で,レバミピドはelectronspinresponse法を用いた検討において,ヒドロキシラジカルを消去する作用を有することが確認されており5),またラットのUVB(ultraviolet-B)誘導による角膜障害および酸化ストレスマーカーである8-OHdG(8-hydroxydeoxyguanosine)の増加に対して抑制作用を示し,その作用はヒドロキシラジカルを消去したためであることが報告されている9).そこで今回のレバミピドの過酸化水素に対する保護作用は,この活性酸素をトラップしたためであると推測される.以上より,レバミピドは,培養角膜上皮細胞において,酸化ストレスによるバリア機能およびタイトジャンクションの障害に対して保護作用を示すことが明らかになった.文献1)WakamatsuTH,DogruM,TsubotaK:Tearfulrelations:oxidativestress,inflammationandeyediseases.ArqBrasOftalmol71:72-79,20082)樋口明弘,坪田一男:ドライアイ活性酸素仮説.あたらしい眼科25:1639-1645,20083)木村和博:炎症性サイトカインtumornecrosisfactor-aによる培養角膜上皮バリアー破綻の機序.日眼会誌114:935-943,20104)BasuroyS,SethA,EliasBetal:MAPKinteractswithoccludinandmediatesEGF-inducedpreventionoftightjunctiondisruptionbyhydrogenperoxide.BiochemJ393:69-77,20065)YoshikawaT,NaitoY,TanigawaTetal:Freeradicalscavengingactivityofthenovelanti-ulceragentrebamipidestudiedbyelectronspinresonance.Arzneimittelforschung43:363-366,19936)AugustinAJ,SpitznasM,KavianiNetal:Oxidativereactionsinthetearfluidofpatientssufferingfromdryeyes.GraefesArchClinExpOphthalmol233:694-698,19957)横井則彦:眼表面上皮のバリアー機能と疾患への応用.眼科NewInsight10:14-29,19978)HashimotoK,OshimaT,TomitaTetal:Oxidativestressinducesgastricepithelialpermeabilitythroughclaudin-3.BiochemBiophysResCommun376:154-157,20089)TanitoM,TakanashiT,KaidzuSetal:CytoprotectiveeffectsofrebamipideandcarteololhydrochlorideagainstultravioletB-inducedcornealdamageinmice.InvestOphthalmolVisSci44:2980-2985,2003***(93)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121269

ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果

2012年8月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(8):1147.1151,2012cウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果中嶋英雄浦島博樹竹治康広篠原久司大塚製薬株式会社赤穂研究所TherapeuticEffectofRebamipideOphthalmicSuspensiononCornealandConjunctivalDamageinMucin-removedRabbitEyeModelHideoNakashima,HirokiUrashima,YasuhiroTakejiandHisashiShinoharaAkoResearchInstitute,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.ウサギの眼表面ムチン被覆障害モデルにおける眼表面の障害に対するレバミピド点眼液の効果について検討した.本モデルに1%レバミピド点眼液または基剤を1日6回,2週間点眼した後,電子顕微鏡により角結膜表面微細構造を観察するとともに,コムギ胚芽レクチンを用いた酵素免疫法で角結膜のムチン様糖蛋白質を定量した.また,ドライアイ観察装置を用いて涙液安定性についても評価した.レバミピド点眼液は角結膜表面の微絨毛/微ひだを修復し,また,角結膜のムチン様糖蛋白質を有意に回復させた.さらに,涙液層におけるドライスポットの出現を抑制したことから,涙液安定性の改善が示唆された.レバミピド点眼液は角結膜表面の微細構造の修復作用と角結膜ムチンの増加作用により,涙液層を安定化させたと考えられた.Thisstudyinvestigatedtheeffectofrebamipideophthalmicsuspensiononcornealandconjunctivaldamageinthemucin-removedrabbiteyemodel.Rebamipideophthalmicsuspension(1%)orvehicleonlywastopicallyappliedtothesubjecteyes6timesdailyfor2weeks.Thefinestructureofthecornealandconjunctivalsurfacewasexaminedusingtransmissionandscanningelectronmicroscopy.Cornealandconjunctivalmucinsweremeasuredbyenzyme-linkedlectinassaywithwheatgermagglutinin.Tearfilmstabilitywasevaluatedusinganophthalmoscopefordryeye.Rebamipideophthalmicsuspensionstimulatedrecoveryofmicrovilli/microplicaeonthecornealandconjunctivalsurfaceandsignificantlyincreasedcornealandconjunctivalmucinsinmucin-removedrabbiteyes.Inaddition,rebamipideophthalmicsuspensionsuppressedtheappearanceofdryspots,whichsuggestsimprovedtearfilmstability.Theseresultssuggestthatrebamipideophthalmicsuspensionincreasescornealandconjunctivalmucinsandinducesrecoveryofthefinestructureoftheocularsurface,therebyimprovingtearfilmstability.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1147.1151,2012〕Keywords:レバミピド,ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデル,N-アセチルシステイン,微絨毛/微ひだ,ムチン様糖蛋白質,涙液安定性.rebamipide,mucin-removedrabbiteyemodel,N-acetylcysteine,microvilli/microplicae,mucinlikeglycoprotein,tearfilmstability.はじめにドライアイはさまざまな要因による涙液および眼表面上皮における慢性疾患である.その病態の成立には涙液と角結膜上皮の悪循環,およびその悪循環をひき起こすリスクファクターが関与し,その結果として生じる涙液安定性の低下はドライアイのコアメカニズムの一つであると捉えられている1).涙液は油層と水/ムチン層からなり,眼表面のムチンは角結膜表面の親水性を高め,角膜表面での安定な涙液層の形成に寄与するとされる.ドライアイでは涙液および眼表面のムチンが減少すると報告されており2,3),ドライアイの治療において眼表面のムチンを増加させることの重要性が指摘されている.角結膜表面に発達している微絨毛/微ひだはその先端〔別刷請求先〕中嶋英雄:〒678-0207兵庫県赤穂市西浜北町1122-73大塚製薬株式会社赤穂研究所Reprintrequests:HideoNakashima,AkoResearchInstitute,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,1122-73Nishihamakita-cho,Ako-shi,Hyogo678-0207,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(121)1147 に膜結合型ムチンが局在するとされ4),ドライアイにおいては微絨毛/微ひだが減少・不整化していること5.7)や,微絨毛/微ひだの減少に依存して涙液安定性が低下することが報告されている8).新規ドライアイ治療薬であるレバミピド点眼液は,N-アセチルシステインを点眼することにより眼表面のムチンを除去したウサギ(眼表面ムチン被覆障害モデル)の角結膜においてムチン様物質を増加させ,ローズベンガル染色スコアを改善させることがこれまでに報告されている9).今回,ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルの角結膜表面微細構造,角結膜のムチン様糖蛋白質および涙液安定性について検討するとともに,レバミピド点眼液の効果について検討した.I実験方法1.眼表面ムチン被覆障害モデルの作製およびレバミピド点眼液の投与雌性NZW(NewZealandWhite)ウサギ(北山ラベス)に,10%N-アセチルシステイン溶液(和光純薬,溶媒:生理食塩液)を1日6回点眼し,眼表面ムチン被覆障害モデルを作製した.N-アセチルシステイン処置翌日より1%レバミピド点眼液または基剤を1回50μL,1日6回,両眼に2週間点眼した.なお,本研究は「大塚製薬株式会社動物実験指針」を遵守して実施した.2.角結膜表面微細構造の観察はじめに,N-アセチルシステイン処置後,非点眼で3日,1週間および2週間経過後の角膜表面微細構造について検討し,つぎに,N-アセチルシステイン処置翌日から,レバミピド点眼液または基剤を2週間点眼した後の角膜および結膜表面の微細構造について検討した.ペントバルビタールナトリウム注射液(共立製薬)の静脈内投与によりウサギを安楽殺し,中央部角膜および上部球結膜を採取した.2%パラフォルムアルデヒドと2%グルタルアルデヒドの混合液に続いて2%四酸化オスミウムにより固定した後,樹脂包埋し,超薄切片を作製した.酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛による二重染色とカーボン蒸着を行った後,透過型電子顕微鏡(TEM;JEM-1200EX,日本電子)で観察した.また,同様に固定した角膜に,真空乾燥,オスミウムコーティングを施し,走査型電子顕微鏡(SEM;S-800S,日立)で観察した.3.角結膜におけるムチン様糖蛋白質の測定角膜上皮細胞は機械的.離により,上部球結膜組織は直径10mmに打ち抜き採取した.1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)/10%Dulbecco’sPBS(リン酸緩衝生理食塩水)溶液に30℃で一昼夜インキュベートして可溶化した後,カラム(SepharoseCL-4B,Bio-Lad)を用いてゲル濾過し,ボイドボリュームに溶出した高分子蛋白質を含む溶液をムチン様糖蛋白質サンプルとした.サンプルまたは検量線用のウシ顎下1148あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012腺ムチン(和光純薬)を96穴マイクロプレートに入れ,一晩乾燥させて固相化した.ペルオキシダーゼ標識コムギ胚芽レクチン(ホーネンコーポレーション)と37℃で1時間,続いてo-dianisidine(Sigma)と37℃で1時間反応させた後,マイクロプレートリーダー(MolecularDevices)にて405nmの吸光度を測定した.4.涙液安定性の評価N-アセチルシステイン処置後点眼開始前および2週間後にドライアイ観察装置DR-1R(興和)を用いて涙液層におけるドライスポットの出現を評価した.ウサギに強制瞬目を3回施した後,角膜中央部表面をDR-1Rで観察し,倍率12倍で写真撮影した.5.統計解析角膜および結膜のムチン様糖蛋白質に関してSAS(SASInstituteJapan)を用いて5%を有意水準として解析した.正常眼とN-アセチルシステイン処置眼(基剤),およびNアセチルシステイン処置眼の基剤と1%レバミピド点眼液について対応のないt検定(両側)を実施した.II結果1.角結膜表面の微絨毛.微ひだに対する作用正常眼の角膜表面は多くの微絨毛/微ひだを有していたのに対し,N-アセチルシステイン処置3日後では微絨毛/微ひだが消失し,1週間および2週間後においても微絨毛/微ひだの再形成は認められなかった(図1).N-アセチルシステイン処置後に1%レバミピド点眼液または基剤を2週間投与した角膜表面をTEMで観察したところ,1%レバミピド点眼液群では基剤群と比較して多くの微絨毛/微ひだが認められた(図2a,b).また,SEMによる観察においても,1%レバミピド点眼液群の角膜表面には基剤群と比較して微絨毛/微ひだが密に認められた(図2c,d).結膜に関しても,1%レバミピド点眼液群は基剤群と比較して発達した微絨毛/微ひだが認められた(図3).2.角結膜におけるムチン様糖蛋白質に対する作用レバミピド点眼液の角膜におけるムチン様糖蛋白質に対する作用を検討した結果を図4aに示す.N-アセチルシステイン処置2週間後の角膜ムチン様糖蛋白質は正常眼と比較して有意に低値を示したのに対し(p<0.01),1%レバミピド点眼液は減少した角膜ムチン様糖蛋白質を有意に増加させた(p<0.01).結膜に対する結果を図4bに示す.角膜同様,N-アセチルシステイン処置により結膜ムチン様糖蛋白質は有意に減少し(p<0.01),1%レバミピド点眼液は減少した結膜ムチン様糖蛋白質を有意に増加させた(p<0.01).3.涙液安定性に対する作用正常眼では均一な涙液層が広がっていた(図5a)のに対し,N-アセチルシステイン処置翌日からドライスポットが(122) ..μ….μ….μ….μ….μ….μ….μ….μ….μ..図3N.アセチルシステイン処置による結膜表面微細構造の障害に対する1%レバミピド点眼液の効果a:正常,b:基剤投与2週間後,c:1%レバミピド点眼液投与2週間後.図1N.アセチルシステイン処置による角膜表面微細構造の変化a:正常,b:処置3日後,c:同1週間後,d:同2週間後...μ….μ….μ….μ..図2N.アセチルシステイン処置による角膜表面微細構造の障害に対する1%レバミピド点眼液の効果a,c:基剤投与2週間後(a:TEM像,c:SEM像).b,d:1%レバミピド点眼液投与2週間後(b:TEM像,d:SEM像).(123)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121149 4,000**##4,0003,0003,000**##ムチン様糖蛋白質量(ng)ムチン様糖蛋白質量(ng)2,0002,0001,0001,00000正常基剤1%レバミピド点眼液N-アセチルシステイン処置図4角膜および結膜のムチン様糖蛋白質量に対する1%レバミピド点眼液の作用a:角膜,b:結膜.各値は10例の平均値±標準誤差を示す.**p<0.01,##p<0.01,対応のないt検定(両側).正常基剤1%レバミピド点眼液N-アセチルシステイン処置図5N.アセチルシステイン処置後の涙液安定性に対する1%レバミピド点眼液の効果a:正常,b:N-アセチルシステイン処置翌日(薬剤投与前)c:基剤投与2週間後,d:1%レバミピド点眼液投与2週間後図中の矢印はドライスポットを示す..(,)出現し,涙液安定性の低下が示唆された(図5b).1%レバミピド点眼液群で観察されたドライスポットは基剤群と比較して軽微であり(図5c,d),レバミピド点眼液による涙液層の安定化が示唆された.III考按ドライアイでは涙液と角結膜上皮の悪循環が生じており,特に,眼表面ムチンの減少や角結膜表面微細構造の障害により生じる涙液安定性の低下はドライアイの発症・増悪におけるコアメカニズムの一つであると考えられている1).実際に,ムチン溶液を点眼することにより角膜上皮障害が改善されることがドライアイ患者10)やモデル動物11)で報告されている.また,結膜上皮の微絨毛/微ひだ構造の不整化がSjogren症候群6)や移植片対宿主病7)によるドライアイ,非Sjogren症候群のドライアイ患者5,8)において報告されている.今回,ウサギの眼表面ムチン被覆障害モデルにおいて,角結膜表面の微絨毛/微ひだの消失,角膜および結膜におけるムチン様糖蛋白質の減少および涙液安定性の低下が認められたことから,本モデルはドライアイの特徴を有するモデルであることが示唆された.さらに,本モデルに対するレバミピド点眼液の作用を検討したところ,レバミピド点眼液は角結膜表面の微絨毛/微ひだを修復させることが明らかとなった.また,ムチンが高分子であることを考慮してゲル濾過により高分子の蛋白質のみを抽出し,ムチン特有の糖鎖と結合することが知られているレクチンを用いてムチン様物質を定量した結果,レバミピド点眼液は角膜および結膜のムチン様糖蛋白質を増加させることが明らかとなり,眼表面のムチンを増加させる作用が示唆された.さらに,レバミピド点眼液は涙液安定性の指標となるドライスポットの出現を抑制したことから,涙液層を安定化させる作用をもつことが示唆された.以上のことから,レバミピド点眼液はドライアイ患者においても角結膜表面の微細構造を修復するとともに,眼表面にムチンを供給することで角結膜上皮表面の親水性を高め,安定な涙液層を形成させることが予想され,臨床の場においてもドライアイ治療薬として有用であると考えられた.1150あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(124) 文献1)横井則彦:ドライアイ.あたらしい眼科25:291-296,20082)NakamuraY,YokoiN,TokushigeHetal:Sialicacidinhumantearfluiddecreasesindryeye.JpnJOphthalmol48:519-523,20043)CorralesRM,NarayananS,FernandezI:Ocularmucingeneexpressionlevelsasbiomarkersforthediagnosisofdryeyesyndrome.InvestOphthalmolVisSci52:83638369,20114)GipsonIK:Distributionofmucinsattheocularsurface.ExpEyeRes783:79-88,20045)RivasL,ToledanoA,AlvarezMIetal:Ultrastructuralstudyoftheconjunctivainpatientswithkeratoconjunctivitissiccanotassociatedwithsystemicdisorders.EurJOphthalmol8:131-136,19986)KoufakisDI,KarabatsasCH,SakkasLIetal:ConjunctivalsurfacechangesinpatientswithSjogren’ssyndrome:atransmissionelectronmicroscopystudy.InvestOphthalmolVisSci47:541-544,20067)TatematsuY,OgawaY,ShimmuraSetal:MucosalmicrovilliindryeyepatientswithchronicGVHD.BoneMarrowTransplant47:416-425,20128)CennamoGL,DelPreteA,ForteRetal:Impressioncytologywithscanningelectronmicroscopy:anewmethodinthestudyofconjunctivalmicrovilli.Eye(Lond)22:138-143,20089)UrashimaH,OkamotoT,TakejiYetal:Rebamipideincreasestheamountofmucin-likesubstancesontheconjunctivaandcorneaintheN-acetylcysteine-treatedinvivomodel.Cornea23:613-619,200410)ShigemitsuT,ShimizuY,IshiguroK:Mucinophthalmicsolutiontreatmentofdryeye.AdvExpMedBiol506:359-362,200211)ShigemitsuT,ShimizuY,MajimaY:Effectsofmucinophthalmicsolutiononepithelialwoundhealinginrabbitcornea.OphthalmicRes29:61-66,1996***(125)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121151