‘レボフロキサシン’ タグのついている投稿

薬剤感受性試験で耐性を示したにもかかわらずレボフロキサシン点眼が著効したノカルジア角膜炎の1例

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1545.1549,2018c薬剤感受性試験で耐性を示したにもかかわらずレボフロキサシン点眼が著効したノカルジア角膜炎の1例飯田将元子島良平小野喬森洋斉野口ゆかり岩崎琢也宮田和典宮田眼科病院CACaseofKeratitiswithNocardiaasteroidesHighlyResistanttoLevo.oxacin(LVFX)InVitro,butShowingGoodResponsetoTopicalLVFXInVivoCMasaharuIida,RyoheiNejima,TakashiOno,YosaiMori,YukariNoguchi,TakuyaIwasakiandKazunoriMiyataCMiyataEyeHospitalC症例はC63歳,男性.2週間前に右眼に土が飛入した後,疼痛・視力低下が出現し当院を受診した.右眼に淡い浸潤を伴う角膜潰瘍を認め,角膜塗抹標本のグラム染色で糸状のグラム陽性菌を検出した.セフメノキシム,エリスロマイシン・コリスチンの頻回点眼,エリスロマイシン・コリスチン軟膏の結膜.点入を開始したが,眼所見は改善せず,第C4病日の塗抹標本には糸状のグラム陽性菌が多数残存していた.1.5%レボフロキサシン(LVFX)点眼を追加したところ,角膜病巣は縮小し,以後,再発なく経過した.角膜病変からはCNocardiaasteroidesが分離され,LVFX高度耐性を示した.本症例では,起炎株の薬剤感受性と臨床経過に乖離があった.抗菌点眼薬の選択に際しては総合的に判断することが重要と考えられる.CAC63-year-oldCmaleCvisitedCourChospitalCdueCtoCrightCeyeCpainCwithCdecreasedCvisualCacuity,CtwoCweeksCafterCsoilexposure.Slit-lampexaminationdisclosedpatchycornealulceroftherighteye.Gram-stainedsmearofcornealscrapingCshowedCtheCpresenceCofCmanyCGram-positiveC.laments.CFrequentCtopicalCinstillationCofCcefmenoximeCandCerythromycin/colistinCwasCstarted.CHowever,CocularClesionsCdidn’tCbecomeCsmallCandCmanyC.lamentousCbacteriaCremainedonthecornealsmearobtainedonthe4thclinicalday.Wethereforeaddedtopical1.5%LVFXandthecorneallesionshealed.CNocardiaasteroideswasisolatedandshowedhighresistancetoLVFX.ThiscaseillustratestheCdiscrepancyCbetweenClaboratoryCantibiogramCandCclinicalCe.ectivenessCinCocularCinfection.CSelectionCofCtopicalCantibioticsmustbebasedonintegratedinformationfrompatients,laboratorydataandliterature.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(11):1545.1549,C2018〕Keywords:ノカルジア,感染性角膜炎,薬剤耐性,レボフロキサシン.Nocardia,infectiouskeratitis,drugresis-tance,levo.oxacin.Cはじめにノカルジア属細菌は土壌中に生息し,グラム陽性に染色される菌糸体を形成する.日常診療では,病変の擦過検体は塗抹上では最初に放線菌群として認識され,分離結果に基づき最終同定されている.本菌は健常人の皮膚などの体表面感染症ならびに,免疫抑制状態の患者における肺炎,脳膿瘍を生じる.眼科領域のノカルジア感染として角膜炎,強膜炎,眼内炎が報告されているが1,2),わが国におけるノカルジア角膜炎例の報告は少ない3.5).ノカルジア角膜炎の治療には抗菌点眼薬が用いられる.ニューキノロン系抗菌薬に対する感受性は菌種・菌株で大きく異なり1,6.9),初期治療としては選択しにくい.今回,分離株が薬剤感性試験でレボフロキサシン(LVFX)に高度耐性であったにもかかわらず,臨床的にCLVFX感受性を示したノカルジア感染を伴った角膜炎のC1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕飯田将元:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町C6-3宮田眼科病院Reprintrequests:MasaharuIida,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANC0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(97)C1545cdef図1前眼部病変と擦過塗抹標本a:初診時の前眼部写真.結膜充血および角膜傍中心領域の潰瘍を認める.Cb:病巣部の拡大.膿瘍の形成(.),辺縁部の浸潤病変(.)を認める.Cc:初診時のフルオレセイン染色細隙灯顕微鏡検査.病巣に一致した上皮欠損を認める.Cd:初診時の角膜擦過物の塗抹検鏡.グラム陽性の分岐状糸状菌体とグラム陽性球菌を認める.Ce:治療開始C40日目の細隙灯顕微鏡検査.強い角膜上皮浮腫,実質浮腫を認める.Cf:治療開始C54日目の細隙灯顕微鏡検査.角膜上皮浮腫,実質浮腫の消失を認める.CI症例現病歴:2016年の夏期,草刈り中に右眼に土が飛入した後,徐々に霧視,充血,疼痛,視力低下が進行し,受傷から患者:63歳,男性.約C2週後に当院を受診した.主訴:右眼の視力低下.初診時所見:視力は右眼C0.2(0.7C×cyl.3.0DAx70°),左既往歴:内科的基礎疾患はなく,定期的内服はない.右眼眼C1.0(1.5×+0.50D(cyl.1.5DAx100°)であった.右眼ヘルペス性角膜実質炎にて当院外来通院.には結膜の充血,角膜傍中心部に膿瘍を形成する角膜潰瘍,表1分離菌の薬剤感受性試験結果Nocardiaasteroides分離株コアグラーゼ陰性CStaphylococcus分離株抗菌薬CMIC判定CMIC判定CcefmenoximeC2C8CRCceftriaxone>2CtobramycinCvancomycinCerythromycinCmoxi.oxacinC128C128C18CRCRC64C2C>6C4C64CRCSCRCRCgati.oxacinClevo.oxacinC8C64CR128C>C128CRCRClinezolid<2CS<2CSCimipenemminocyclinC<C0.25C4CSSC<2C8CSCRMIC:minimuminhibitoryconcentration(μg/ml).S:susceptible.R:resistant.潰瘍周辺部の淡い浸潤巣を(図1a~c),前房内に軽度の炎症細胞を認めた.角膜知覚は右眼C20Cmm,左眼C60Cmmと右眼で低下していた.チェックメイトCRヘルペスアイ(わかもと)を用いたイムノクロマト法および,ヘルペス(1・2)FA「生研」,VZV-FA「生研」(デンカ生研)を用いた蛍光抗体法で,単純ヘルペスウイルスC1型・2型,水痘帯状疱疹ウイルス抗原は陰性であった.超音波CBモード断層検査では後眼部の異常は指摘できなかった.経過:所見から感染性角膜炎を疑い,角膜擦過物の塗抹検鏡と培養検査を行った.塗抹標本のグラム染色ではグラム陽性の分岐状糸状菌体とグラム陽性球菌を認めた(図1d).ファンギフローラ染色では真菌は検出せず,放線菌群細菌とグラム陽性球菌による複合感染と診断し,セフメノキシム,エリスロマイシン・コリスチンのC1時間毎点眼,エリスロマイシン・コリスチン軟膏の就寝前C1回,ST合剤内服を開始した.上記点眼を開始するも角膜潰瘍は改善しなかったため,第4病日に再度角膜擦過を行った.塗抹検鏡でグラム陽性球菌はほとんどみられなくなったが,放線菌群菌体は依然として多数残存していた.再度,問診を行ったところ,右眼受傷後に自己判断で手持ちのCLVFXを点眼し,LVFXがなくなり,症状が悪化したため当院を受診したという事実が判明した.同日よりC1.5%CLVFXの毎時点眼を追加後,徐々に潰瘍底は浅くなり,潰瘍周辺部の浸潤巣も消退傾向を認めた.初診時の擦過検体から,Nocardiaasteroidesとメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativeCStaph-ylococcus:CNS)が分離された.LVFXの最小発育阻止濃度(minimumCinhibitoryconcentration:MIC)は両菌とも高値であったが,点眼追加後に角膜所見が改善していることから点眼継続とした(表1).第C27病日には上皮欠損の消失を認めたが,結膜充血,実質浮腫,上皮浮腫は遷延していた.第40病日には実質浮腫,上皮浮腫により右眼視力C20Ccm指数弁と低下したが(図1e),角膜細胞浸潤は軽微であり感染は終息していると考え,消炎を目的にC0.1%フルオロメトロン点眼C4回を追加した.点眼追加後に実質浮腫,上皮浮腫の消退傾向を認め,第C54病日には右眼視力C0.06(0.3C×.5.0D)と改善を認めた(図1f).発症後C9カ月が経過し,角膜病巣3.0D)で角膜炎の再燃C×.5p.は瘢痕化し,右眼視力0.3p(0はなく経過している.CII考按本症例は,角膜へルペスの既往があるものの,全身的な基礎疾患のない成人男性の右眼に,土が飛入した後に発症した細菌性角膜炎のC1例である.角膜病変の擦過標本では,放線菌群の菌とグラム陽性球菌を検出し,細菌培養ではCN.Caster-oidesとCCNSが分離され,当初はこの両者の複合感染による角膜炎と診断した.セフメノキシム,エリスロマイシン・コリスチンの点眼と軟膏,ST合剤の内服により,第C4病日にはグラム陽性球菌はほとんど消失するも,角膜所見はほとんど改善せず,塗抹でも多数の放線菌の残存を認め,角膜病変の主たる起因菌はノカルジアと判断した.ノカルジア分離株はCLVFX高度耐性であったが,病歴より効果があると判断しCLVFXの点眼を開始,潰瘍は縮小した.ノカルジア角膜炎は植物との接触を伴う外傷3,5),コンタクトレンズ装用4),角膜屈折矯正手術2,10)に関連した症例が報告されている.本例では,農作業中の土の飛入が発症の契機となっているが,角膜ヘルペスによる角膜知覚低下のため外傷を認識していなかった可能性もある.これまで報告されているノカルジア角膜炎の眼所見は,上皮欠損を伴うリース状,斑状の角膜細胞浸潤を呈し,真菌性角膜炎に類似しているため,真菌性角膜炎として治療が開始されていた症例が多い1,3,5,8).本例でも草刈り後に発生しており,塗微生物学的検査をもし行わなければ,真菌性角膜炎として治療されてしまう可能性があった.角膜病変の診断と治療においては,微生物学的検査,とくに塗抹検査が重要である.ノカルジア角膜炎を引き起こすノカルジア属細菌は複数報告されているが,とくにCN.asteroidesはノカルジア角膜炎のC19.93%で分離され,原因菌種として占める割合が大きい1,6,7,9).しかし,N.asteroidesの薬剤感受性試験で,ペニシリン系,セファロスポリン系,ニューキノロン系,ST合剤に対して,株間で感受性のばらつきが大きく,N.Casteroi-desは薬剤感受性結果に基づき,さらに細分類されている11).本例の分離株は感受性検査でリネゾリド・イミペネムに感受性を有し,フルオロキノロンに耐性を示したことより,狭義のCN.asteroidesあるいはCN.novaに近い菌種と考えられる.本症例では,臨床的に有効性が期待されたセフメノキシム,エリスロマイシン・コリスチンの点眼では角膜病変は改善せず,高度耐性と判定されたCLVFX点眼が有効であった.わが国の既報においても,薬剤感受性試験で有効性が期待されていた抗菌薬で角膜所見が改善せず,点眼変更を余儀なくされた症例が報告されている3,5).薬剤感受性試験と臨床経過の乖離の原因として,Sridharらは培地のCpHや寒天の種類による変化が一因であると考察している7).また,眼科領域の感染症治療では,抗菌点眼薬が全身投与と比較し非常に高濃度であるため,感受性検査で耐性を示すにもかかわらず臨床的に有効性を示す可能性が指摘されている12,13).感染症の治療では,臨床所見や検鏡の結果から起因菌を類推し,効果があると考えられる抗菌薬を投与するCempirictherapyから開始し,起因菌の同定後は,薬剤感受性結果に基づき,抗菌薬を変更するspeci.ctherapyを行うことが一般的である.しかし,眼科領域では,先に述べたように高濃度製剤を局所投与することより,本例のように臨床上の効果と薬剤感受性試験の結果が乖離することも多い.分離株のCMICのみを根拠として抗菌薬を変更するのでなく,自覚症状や角膜所見の変化を考慮し,抗菌薬変更の必要性について総合的に判断する必要がある.また本例では,実質混濁,角膜上皮浮腫の遷延に対して,感染が終息した後にフルオロメトロンの点眼を追加した.角膜感染症に対するステロイド点眼の併用は,実質融解や新生血管の抑制による角膜混濁の軽減といった利点がある一方,上皮化の抑制や感染の増悪といった問題点がある.細菌性角膜炎に対するステロイド点眼併用のランダム化比較試験では,ノカルジア角膜炎に対する初期からのステロイド点眼の併用は最終的な角膜混濁のサイズを有意に増大させ,視力改善にも関連しない一方,ノカルジア以外の細菌性角膜炎では,ステロイド点眼の併用は最終視力を有意に改善させ,角膜混濁の増加も認めないと報告されている9,14).したがって,ノカルジア角膜炎においては通常の細菌性角膜炎のように,初期からのステロイド点眼の併用を行うことは好ましくないと思われる.しかし,本報告のように感染が終息したと判断し,消炎を目的にステロイドを点眼し,角膜浸潤,実質浮腫の改善を認めたノカルジア角膜炎の報告もあり3),角膜所見の悪化に十分注意する必要はあるものの,治療の終盤に消炎を目的にステロイド点眼を使用することは瘢痕の拡大を防ぐ点で有効である可能性がある.CIII結語今回,分離株の薬剤感受性試験では耐性であったCLVFXが著効したノカルジア角膜炎のC1例を経験した.ノカルジア角膜炎では,分離株の薬剤感受性試験の結果と臨床的な薬剤有効性に乖離がみられることがあり,抗菌薬選択に際しては感受性試験の結果だけで判断せず,注意深く臨床所見を観察し,総合的に判断することが重要である.文献1)DeCroosFC,GargP,ReddyAKetal:Optimizingdiagno-sisCandCmanagementCofCNocardiaCkeratitis,Cscleritis,Candendophthalmitis:11-yearmicrobialandclinicaloverview.OphthalmologyC118:1193-1200,C20112)LalithaP,SrinivasanM,RajaramanRetal:NocardiaCker-atitis:ClinicalCcourseCandCe.ectCofCcorticosteroids.CAmJOphthalmolC154:934-939,C20123)菅井哲也,竹林宏,塩田洋:ノカルジアによる角膜潰瘍の1例.眼臨C91:1708-1710,C19974)竹内弘子,近間泰一郎,西田輝夫:ノカルジアによる角膜放線菌感染症のC1例.眼科C41:301-304,C19995)越智理恵,鈴木崇,木村由衣ほか:NocardiaCasteroidesによる角膜炎のC1例.臨眼C60:379-382,C20066)FaramarziA,FeiziS,JavadiMAetal:BilateralCNocardiaCkeratitisCafterCphotorefractiveCkeratectomy.CJCOphthalmicCVisResC7:162-166,C20067)SridharMS,SharmaS,ReddyMKetal:Clinicomicrobiol-igicalCreviewCofCNocardiaCkeratitis.CCorneaC17:17-22,C19988)SridharMS,SharmaS,GargPetal:Treatmentandout-comeofCNocardiaCkeratitis.CorneaC20:458-462,C20019)PatelNR,ReidyJJ,Gonzalez-FernandezF:Nocardiaker-atitisCafterClaserCinCsitukeratomileusis:clinicopathologicCcorrelation.JCataractRefractSurgC31:2012-2015,C200510)LalithaCP,CTiwariCM,CPrajnaCNVCetal:NocardiaCKerati-tis;species,CdrugCsensitivities,CandCclinicalCcorrelation.CCorneaC26:255-259,C200711)Brown-ElliottCBA,CBrownCJM,CConvilleCPSCetal:ClinicalCandClaboratoryCfeaturesCofCtheCNocardiaCspp.CbasedConCcurrentmoleculartaxonomy.ClinMicrobiolRevC19:259-282,C200612)AiharaM,MiyanagaM,MinamiKetal:AcomparisonofC.uoroquinoloneCpenetrationCintoChumanCconjunctivalCtis-sue.JOculPharmacolTherC24:587-591,C200814)SrinivasanCM,CMascarenhasCJ,CRajaramanCRCetal:The13)TouN,NejimaR,IkedaYetal:Clinicalutilityofantimi-steroidsCforCcornealCulcerstrial(SCUT):SecondaryC12-crobialCsusceptibilityCmeasurementCplateCcoveringCformu-monthCclinicalCoutcomesCofCaCrandomizedCcontrolledCtrial.ClatedCconcentrationsCofCvariousCophthalmicCantimicrobialCAmJOphthalmolC157:327-333,C2014Cdrugs.ClinOphthalmolC10:2251-2257,C2016***

術前に結膜囊より分離されたコリネバクテリウムの薬剤耐性動向調査(2005〜2016 年)

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1536.1539,2018c術前に結膜.より分離されたコリネバクテリウムの薬剤耐性動向調査(2005.2016年)神山幸浩*1北川和子*1萩原健太*1,2柴田伸亮*1佐々木洋*1*1金沢医科大学眼科学講座*2公立宇出津総合病院眼科CAntibacterialResistanceofCorynebacteriumsp.DetectedfromCul-de-sacbeforeOcularsurgeries,2005.2016CYukihiroKoyama1),KazukoKitagawa1),KentaHagihara1,2),ShinsukeShibata1)andHiroshiSasaki1)1)DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,UshitsuGeneralHospitalC術前に結膜.より分離されたコリネバクテリウムの薬剤耐性について,2005.2007年までのC3年間(前期群)と2014年C1月.2016年C6月までのC2年半(後期群)を比較した.前期群,後期群ともペニシリン,セフェム,カルバペネム,テトラサイクリン,アミノ配糖体では感受性が良好であったが,マクロライド,クロラムフェニコールには耐性株が高率にみられた.フルオロキノロンを代表してレボフロキサシンに対する感受性を検討したが,耐性率は後期群で有意に増加していた(前期群:40.1%,後期群:56.7%).コリネバクテリウム耐性株が増加する因子として年齢が関係したが,性別,糖尿病診断歴,およびC1年以内の眼科受診歴については,有意な差は認められなかった.CWeexaminedthedrugresistanceofCCorynebacteriumsp.isolatedfromthecul-de-sacsofpatientsbeforeeyesurgeryduringtheC.rstterm(2005.2007)andthelatterterm(2014.2016),respectively.Duringbothterms,thesensitivitytopenicillins,cephems,carbapenem,tetracyclineandaminoglycosidewasgood.TheresistanceratewashighCinCmacrolideCandCchloramphenicol.CAsCregardsC.uoroquinolones,CweCexaminedCsensitivityCtoClevo.oxacin.CTheCrateofresistancewashighduringbothterms,therateincreasingduringthelatterterm(from40.1%to56.7%).WhenCexaminingCprobableCfactorsCrelatingCtoCthisCincrease,ConlyCagingCwasCsigni.cant,CwithCnoCmeaningfulCdi.erenceregardingsex,presenceofdiabetesorhistoryofeyedoctorconsultationwithinthepreviousyear.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(11):1536.1539,C2018〕Keywords:コリネバクテリウム,レボフロキサシン,薬剤耐性,結膜.常在菌,周術期感染予防,糖尿病.Cory-nebacteriumsp.,levo.oxacin,drugresistancy,bacterialC.oraincul-de-sac,preventionofperioperativeperiodinfec-tion,diabetes.Cはじめに白内障術後眼内炎の起炎菌は術前結膜.分離菌と一致することが多く,その薬剤感受性を知ることは眼内炎予防策として重要である.フルオロキノロン系抗菌薬としてオフロキサシン(OFLX)がわが国で初めて上市されたのはC1987年であり,その後さまざまなフルオロキノロン点眼薬が登場している.グラム陽性菌,グラム陰性菌に広い抗菌スペクトルを有していることにより,周術期における結膜.の減菌を目的として単独投与されることが多い1).コリネバクテリウムはグラム陽性桿菌でヒトの皮膚,粘膜,腸内に存在し,結膜.の常在細菌叢として高頻度に認められ,その病原性は低いといわれてきたが,近年結膜炎,眼瞼結膜炎,術後眼内炎などを引き起こすことが報告されており2,3),かつコリネバクテリウムのフルオロキノロン系抗菌薬に対する耐性化が問題となっている4).今回,金沢医科大学病院においてC2005.2007年,2014.2016年の期間に術前患者より分離されたコリネバクテリウムついて,薬剤感受性の経年変化,耐性化率の推移について検討するとともに,耐性株が増加する因子として患者側の要因(年齢,性別,糖尿病診断歴,眼科受診歴)についても着目し,それによる耐性化増加の有無も比較したの〔別刷請求先〕神山幸浩:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学C1-1金沢医科大学眼科学講座Reprintrequests:YukihiroKoyama,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,1-1Daigaku,Uchinada,Kahoku,Ishikawa920-0293,JAPANC1536(88)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(88)C15360910-1810/18/\100/頁/JCOPYで報告する.CI対象および方法1.対象本研究は後方視的観察研究であり,2005年C1月.2007年12月のC3年間(前期群),およびC2014年C1月.2016年C6月のC2年半の間(後期群)に金沢医科大学病院(以下,当院)において術前検査でコリネバクテリウムが検出された患者を対象とした.患者数は,前期群C495名(男性C234名,女性C261名,平均年齢C74.2C±10.1歳)756眼,後期群C85名(男性C43名,女性C42名,平均年齢C77.9C±8.2歳)98眼であった.C2.方法患者カルテより情報を収集した.まず,細菌学的検査でコリネバクテリウムおよびその薬剤感受性について調査した.ちなみに当院での検査法は以下のとおりである.輸送培地(改良アミーズ半流動培地)のスワブを滅菌生理食塩水で湿らせ下結膜.内を拭い,検体を採取した.菌の同定は,増菌培養後のグラム染色でのグラム陽性桿菌の形態確認と,カタラーゼ試験陽性の有無で判定した.薬剤感受性はディスク法で検査し,当院施設基準に基づく阻止円直径値に照らし,感受性(susceptible,17Cmm以上),中間感受性(intermedi-ate,14.16Cmm),耐性(resistant,13Cmm以下)の判定をした.耐性,中間感受性を合わせて耐性率を算出した.当院検査部で採用されている薬剤(抗菌薬名と略号)は以下のとおりであるが,検査時期により若干種類が異なる.なお,上記の患者に対して併せて糖尿病罹患歴の有無および過去C1年以内の眼科受診歴の有無も調査した.統計解析にはCc2検定,多変量ロジスティック回帰分析を用い,解析ソフトはCSPSS(IBMSPSSStatistics,versionC24)を使用した.本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,金沢医科大学医学研究倫理審査委員会の許可を受けて行った(No.1288).C3.検討抗菌薬一覧アンピシリン(ABPC),アンピシリン/スルバクタム(ABPC/SBT),セファクロル(CCL),セフォタキシム(CTX),セフトリアキソン(CTRX),メロペネム(MEPM),ゲンタマイシン(GM),エリスロマイシン(EM),テトラサイクリン(TC),レボフロキサシン(LVFX),クロラムフェニコール(CP),ST合剤(ST).CII結果分離されたコリネバクテリウムの株数は前期群でC756株,後期群でC98株であったが,前期群,後期群ともに各C1株ずつ感受性試験が行えなかったため,薬剤感受性試験に供されたのはそれぞれC755株,97株となった.当院検査部で採用されている薬剤ごとの耐性率を図1に示す.薬剤感受性検査はC2014年C6月C1日にCCPが削除され,バンコマイシン(VCM)が追加されているため,後期群ではCCPについては4例と少数であった.前期群でのそれぞれの抗菌薬に対する耐性率(耐性+中間感受性)は,ABPC:4.2%,ABPC/SBT:0.5%,CCL:0.5%,CTX:1.1%,CTRX:1.1%,MEPM:0.1%,GM:6.9%,EM:52.4%,TC:1.5%,LVFX:40.1%,CP:27.7%,ST:12.3%であった.耐性率の高かったものはCEM(52.4%),LVFX(40.1%),CP(27.7%),ST(12.3%)であり,ペニシリン系およびセフェム系抗菌薬のほとんどに感受性が高かった.後期群ではCABPC:C4.1%,ABPC/SBT:0%,CCL:0%,CTX:0%,CTRX:0%,MEPM:0%,GM:8.2%,EM:63.9%,TC:0%,LVFX:56.7%,CP:75.0%,ST:11.3%,VCM:0%であった.耐性率が高かったものは前期群と同様EM(63.9%),LVFX(56.7%),CP(75.0%),ST(11.3%)であった一方,CCL,CTX,CTRXなどのセフェム系抗菌薬,MEPM,TC,VCMには耐性株はまったく認めなかった.EM,LVFX,CPの耐性率は後期群のほうが有意に高かった(Cc2検定,それぞれp<0.05,p<0.001,p<0.05).年度別にみたCLVFX耐性率を図2に示す.2005年C48.6%,2006年C36.0%,2007年C41.7%であり,前期群全体としては40.1%であったのに対し,後期群ではC56.7%と,有意に増加した(Cc2検定,p<0.05).前期,後期を通してC4つの因子(年齢,性別,糖尿病診断歴,眼科受診歴)およびCLVFX耐性率との関連を多変量ロジスティック回帰分析で解析したところ,年齢のみがリスク因子となった(表1).年齢がC1歳増加することによる調整オッズ比はC1.026(95%信頼区間:1.011.1.042,p=0.001)であった.たとえば,50歳に比べC70歳でのCLVFX耐性化のリスクは約C1.7倍になる.性別(男性),糖尿病診断歴,眼科受診歴の調整オッズ比はそれぞれC0.980(95%信頼区間:0.743.1.292,p=0.884),0.871(95%信頼区間:0.625.1.214,p=0.415),0.802(95%信頼区間:0.558.1.152,Cp=0.232)で,いずれも有意な関連はみられなかった.CIII考按白内障手術をはじめとする内眼手術における細菌性眼内炎の発症原因のほとんどは,術前の消毒により完全に除去されなかった眼瞼皮膚,睫毛,結膜の常在細菌が,手術操作に伴い眼内に侵入し増殖することによるといわれている1,5,6).周術期の感染予防目的として強力な殺菌作用と広い抗菌スペクトルをもつフルオロキノロン系抗菌薬が日常的に使用されているが,常在菌の一つであるコリネバクテリウムのキノロン耐性化の増加が近年問題となっている4).フルオロキノロン薬剤の作用機序は,DNAジャイレース,トポイソメラーゼIVの阻害によるものであり,これにより細胞の増殖を阻害するが,コリネバクテリウムにはCDNAジャイレースだけが(89)あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018C1537前期群100%■耐性(R)■中間(I)■感受性(S)100%80%80%60%60%40%20%40%0%20%0%48.6%36.0%41.7%56.7%2005年2006年2007年2014~2016年前期群後期群後期群100%80%60%40%20%42株0%■耐性(R)■中間(I)■感受性(S)■耐性(R)■中間(I)■感受性(S)■耐性(R)■感受性(S)図2年度別LVFX耐性率の推移および前期・後期別LVFX耐性率の比較図1薬剤感受性(前期群・後期群)前期群,後期群ともにペニシリン系,セフェム系,テトラサイクリン,バンコマイシンに対してはほぼすべて感受性であったが,ゲンタマイシン,ST合剤で少数耐性,エリスロマイシン,レボフロキサシン,クロラムフェニコールでの耐性率は高度であった.※略語:ABPC(アンピシリン),ABPC/SBT(アンピシリン/スルバクタム),CCL(セファクロル),CTX(セフォタキシム),CTRX(セフトリアキソン),MEPM(メロペネム),GM(ゲンタマイシン),EM(エリスロマイシン),TC(テトラサイクリン),LVFX(レボフロキサシン),CP(クロラムフェニコール),ST(ST合剤),VCM(バンコマイシン).存在することにより,このアミノ酸が変異して耐性メカニズムを獲得しやすいとされる7).今回の検討でも,コリネバクテリウムのCLVFXに対する耐性率は,2005年からのC3年間ではC40.1%,2014年からのC2年半ではC56.7%と有意に増加していたことにより,耐性率が年々増加している可能性が示唆された.フルオロキノロン系抗菌点眼薬の使用はC1987年のCOFLXに始まる.OFLXはラセミ体であり,薬理学的活性体であるCLVFX(50%)とその鏡像異性体であるデキストロフロキサシン(50%)を含んでいることにより,2000年よりCLVFX単独製剤である点眼薬が登場した.その抗菌活性はCOFLXのC2倍となる.OFLXについでCLVFXの薬剤耐性率に関してコリネバクテリウムを含む術前分離菌を検討した報告では,1995.1999年のCOFLX耐性率はC13.5%からC32.8%へと有意に増加,LVFX耐性率はC2000年でC14.5%,2002年にはC20.5%とやはり増加の傾向がみられている8,9).コリネバクテリウムのCLVFX耐性率については結膜炎を含めた前眼部感染症眼からの分離菌の検討(2003.2004年)でC57.1%10),同じ施設の白内障術前分離菌の検討ではC44.3%(2012.2013年)11)であった.術前患者の耐性率に関しては当院の検討結果と併せて鑑みると,2010年代になってもさらに増加傾向にあることが示唆されたが,感染症眼では耐性率がさ上段:LVFX耐性率の年度別比較を示す.2005,2006,2007年度におけるCLVFX耐性率と比較し,2014.2016年では高率に耐性化が増加した(56.7%).下段:前期群と後期群のCLVFX耐性率の比較を示す.前期群は40.1%,後期群はC56.7%と,有意に増加した(Cc2検定,p<0.05).表1リスク因子ごとの多変量ロジスティック回帰分析オッズ比95%信頼区間p値年齢C1.0261.011.C1.042C0.001性別(男性)C0.9800.743.C1.292C0.884糖尿病診断歴C0.8710.625.C1.214C0.415眼科受診歴C0.8020.558.C1.152C0.232Cらに高くなる可能性が考えられた.その理由の一つとして,感染症眼ではフルオロキノロンを中心とする抗菌薬がすでに投与されていることが考えられた.コリネバクテリウムはCLVFX以外ではCEMに対しても高率に耐性菌が存在し,しかも後期群で有意に増加していた(前期群:52.4%,後期群:63.9%).CPに対しても高率に耐性株がみられたが,後期群では検査薬の変更のためC4株のみの検討であることより,増加の可能性が疑われるにとどまった(前期群:27.7%,後期群:75.0%).フルオロキノロン以外にもコリネバクテリウムのCEM耐性率が高いことについては以前から報告されている9,10).今回,前期群,後期群を通してセフェム系薬剤が高い感受性を示したが,これもコリネバクテリウムのセフェム系薬剤に対する高い感受性,フルオロキノロン系薬剤に対する耐性傾向を述べた秦野らの報告4)と一致するものだった.リスク要因として,年齢,性別,糖尿病診断歴,眼科受診歴を選び,コリネバクテリウムのCLVFX耐性率との関係を検討した.性別,糖尿病診断歴,眼科受診歴のいずれにも有意な関連はみられず,唯一年齢のみが有意なリスク因子とな(90)った.既報でも,糖尿病患者においてフルオロキノロン耐性株を多く認めるものの有意でないことが示され10,11),また,80歳以上の群でCLVFX耐性化率が有意に上昇する報告11)がある.今回の結果もそれらと一致するものであった.糖尿病は易感染性が指摘される疾患であるが,コリネバクテリウム耐性化との関係はなく,また眼科受診により菌への接触リスク,抗菌薬投与による耐性化誘発の可能性が予測されたが,今回の結果では否定された結果となった.コリネバクテリウムの保菌リスクとしては,年齢,性別(男性),緑内障点眼薬の使用が独立した保菌リスク因子であるとする報告12)もあり,年齢が保菌リスクとともに耐性リスクを高める因子と考えられた.今回の検討時期はC2005年からのC3年間(前期群)とC2014年からのC2年半(後期群)であるが,このC10年余に分離されたコリネバクテリウムの株数を比較すると前期群のC755株から後期群のC97株へと減少している.この間に培養方法,同定方法,培養期間に変更はないが,眼科での全分離菌を対象とした当院中央検査室のデータでは前期群ではC30.40%を超えてコリネバクテリウムが分離され,後期群ではC10数%台であったことが,その原因と考えられた.分離率になぜそのような変動がみられたのか不明であるが,もともとコリネバクテリウム検出頻度は施設,検査時期により非常にばらつきが大きい13).2016年のCWattersらの同報告では,コリネバクテリウムを含めた主要細菌の分離率をC10編以上の論文を引用して示しておりコリネバクテリウムの比率はC1980.1990年代ではC40.60%以上であったが,2010年代ではC11%,7.6%と低下している13).本研究でも同様に,時代とともに宿主のコリネバクテリウム保菌率の低下していることが示された結果となったが,低下の理由として生活環境の変動とともに結膜.細菌叢に変化が生じた可能性が考えられた.内眼手術の大部分を占める白内障手術は高齢者に行うことが多い手術であることより,結膜.常在菌に対し適切な抗菌薬を選択し,周術期に投与することは術後眼内炎発症の一つの対策として重要である.抗菌薬としてフルオロキノロン系点眼薬が使用される頻度が高いが5),今回の検討結果ではコリネバクテリウムでは半数以上が耐性であった.しかも耐性率は経年的に有意に増加している.ブドウ球菌においてもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(MRSE)ではC60.80%が耐性であることが判明している11).これらの結果は術前の薬剤感受性結果に基づいて周術期の抗菌薬を選択することの重要性を示すものである.当院ではほぼ全例に術前抗菌薬点眼としてモキシフロキサシン(MFLX)を用いているが,コリネバクテリウムがフルオロキノロン耐性である場合には,感受性のあるセフェム系薬剤を併用している.フルオロキノロン耐性化率はその使(91)用頻度と関連していることより,今後も次第に高率となっていく可能性があるが,上記に示した手順を確実に行うことがコリネバクテリウム関連の眼内炎発症予防に有用であると考える.本論文の要旨はC2017年第C54回日本眼感染症学会(大阪)にて発表した.文献1)矢口智恵美,佐々木香る,子島良平ほか:ガチフロキサシンおよびレボフロキサシンの点眼による白内障周術期の減菌効果.あたらしい眼科C23:499-503,C20062)JosephCJ,CNirmalkarCK,CMathaiCACetal:ClinicalCfeatures,CmicrobiologicalCpro.leCandCtreatmentCoutcomeCofCpatientsCwithCorynebacteriumendophthalmitis:reviewofadecadefromCaCtertiaryCeyeCcareCcentreCinCsouthernCIndia.CBrJOphthalmolC100:189-194,C20163)井上幸次,大橋裕一,秦野寛ほか:前眼部・外眼部感染症における起炎菌判定:日本眼感染症学会による眼感染症起炎菌・薬剤感受性多施設調査(第一報).日眼会誌C115:C801-813,C20114)秦野寛,井上幸次,大橋裕一ほか:前眼部・外眼部感染症起炎菌の薬剤感受性日本眼感染症学会による眼感染症起炎菌・薬剤感受性多施設調査(第二報).日眼会誌C115:C814-824,C20115)片岡康志,佐々木香る,矢口智恵美ほか:白内障手術予定患者の結膜.内常在菌に対するガチフロキサシンおよびレボフロキサシンの抗菌力.あたらしい眼科C23:1062-1066,C20066)河原温,五十嵐羊羽,今野優:白内障手術術前患者の結膜.常在細菌叢の検討.臨眼C60:287-289,C20067)長谷川麻里子,江口洋:【眼感染症の治療-最近のトピックス-】細菌感染症コリネバクテリウム感染症「キノロン耐性との関係」.医学と薬学C71:2243-2247,C20148)KurokawaN,HayashiK,KonishiMetal:Increasingo.ox-acinCresistanceCofCbacterialC.oraCfromCconjunctivalCsacCofCpreoperativeophthalmicpatientsinJapan.JpnJOphthal-molC46:586-589,C20029)櫻井美晴,林康司,尾羽澤.実ほか:内眼手術術前患者の結膜.細菌叢のレボフロキサシン耐性率.あたらしい眼科C22:97-100,C200510)松尾洋子,柿丸晶子,宮崎大ほか:鳥取大学眼科における分離菌の薬剤感受性・患者背景に関する検討.臨眼C59:C886-890,C200511)大松寛,宮崎大,富長岳史ほか:白内障手術前患者における通常培養による結膜.内細菌検査.臨眼C68:637-643,C201412)HoshiCS,CHashidaCM,CUrabeK:RiskCfactorsCforCaerobicCbacterialconjunctivalC.orainpreoperativecataractpatients.Eye(Lond)C30:1439-1446,C201613)WattersCGA,CTurnbullCPR,CSwiftCSCetal:OcularCsurfaceCmicrobiomeCinCmeibomianCglandCdysfunction.CClinCExpCOphthalmolC45:105-111,C2017あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018C1539

2013年に細菌性角膜炎を疑った病変部からの分離細菌のレボフロキサシン耐性率

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):584〜588,2016©2013年に細菌性角膜炎を疑った病変部からの分離細菌のレボフロキサシン耐性率石山惣介岩崎琢也野口ゆかり森洋斉子島良平宮田和典宮田眼科病院LevofloxacinResistanceinBacteriaIsolatedfromLesionsofSuspectBacterialKeratitisin2013SosukeIshiyama,TakuyaIwasaki,YukariNoguchi,YosaiMori,RyoheiNejimaandKazunoriMiyataDepartmentofOphthalmology,MiyataEyeHospital目的:2013年に細菌性角膜炎を疑った症例の病変部擦過検体より分離された細菌のレボフロキサシン耐性率を明らかにする.方法:2013年に宮田眼科病院を受診し,細菌性角膜炎を疑った122例123眼を対象とした.初診時に角膜病変擦過物の塗抹鏡検と培養検査を行い,グラム染色所見・分離菌種・レボフロキサシンの薬剤耐性を検討した.結果:塗抹鏡検は38眼(30.9%)が陽性となった.その内訳は,グラム陽性球菌が20眼(51.3%),グラム陽性桿菌が15眼(38.5%),グラム陰性球菌が1眼(2.6%),グラム陰性桿菌が3眼(7.7%)であった.細菌培養は92眼(74.8%)が陽性となり,147株を分離した.内訳は,Propionibacteriumacnes(P.acnes)57株(38.8%),Staphylococcusepidermidis(SE)26株(17.7%),coagulase-negativestaphylococcus(CNS)21株(14.3%),Staphylococcusaureus(SA)18株(12.2%),Corynebacterium属10株(6.8%),その他の細菌が15株(10.2%)であった.レボフロキサシン耐性率はP.acnes5.3%,SE57.7%,CNS28.6%,methicillin-susceptibleSA25.0%,methicillin-resistantSA100.0%,Corynebacterium属60.0%であった.結論:細菌性角膜炎の疑い症例におけるP.acnesを除く主要分離菌におけるレボフロキサシン耐性の増加が示唆された.起因菌の薬剤耐性の傾向を把握することが,適切な抗菌薬選択において重要である.Purpose:Torevealthelevofloxacinresistanceofisolatesfromcorneallesionsofsuspectbacterialkeratitisofpatientswhovisitedin2013.Subjectsandmethods:123corneallesionsof122patientswerescrapedforcytologicalexaminationandforbacterialisolation.IsolatedbacteriawereassessedforlevofloxacinsusceptibilityusingtheClinicalandLaboratoryStandardsInstitutestandard.Results:Microscopicexaminationrevealedbacterialpresencein38lesions(30.9%):Gram-positivecocciin20lesions(51.3%),Gram-positivebacilliin15lesions(38.5%),Gram-negativecocciin1lesion(2.6%)andGram-negativebacilliin3lesions(7.7%).Bacterialexaminationresultedin147isolatesfrom92corneallesions(74.8%):57isolatesofPropionibacteriumacnes(P.acnes)(38.8%);26Staphylococcusepidermidis(SE)(17.7%);21coagulase-negativestaphylococcus(CNS)(14.3%);18Staphylococcusaureus(SA)(12.2%);10Corynebacteriumsp(6.8%);and15otherspecies(10.2%).Levofloxacinresistancesoftheisolatesfromthecorneallesionswere:P.acnes5.3%,SE57.7%,CNS28.6%,methicillin-susceptibleSA25.0%,methicillin-resistantSA100.0%andCorynebacteriumspp.60.0%.Conclusion:Themajoragentscausingbacterialkeratitisshowedincreasedresistancetolevofloxacininpatientswhovisitedin2013.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):584〜588,2016〕Keywords:細菌性角膜炎,検出菌,レボフロキサシン,抗菌薬耐性.bacterialkeratitis,isolatedbacteria,levofloxacin,antibioticresistanceはじめに耐性菌の出現は感染症を扱うすべての科に共通した問題である.抗菌薬の使用により耐性菌が選択的に増殖することが知られ,眼科領域においても抗菌点眼薬の反復投与による耐性菌の出現が報告されている1,2).米国のClinicalandLaboratoryStandardsInstitute(CLSI)は2008年に肺炎球菌について,髄膜炎と非髄膜炎とで異なるペニシリン感受性判定基準を提唱した3).これは,感染臓器が血液脳関門で守られている中枢神経系の場合,薬剤移行性が悪く,通常の量の抗菌薬では濃度が不十分となり,治療に失敗する可能性がある細菌が存在することを示している.つまり,病巣における抗菌薬濃度が不十分であれば,軽度耐性菌に対しても治療はうまくいかない可能性が高くなる.眼科においては,福田らがキノロン系点眼抗菌薬の眼内移行率について定量的に解析しているが4),眼科領域の抗菌薬の薬物動態についての情報は乏しい.薬剤の抗菌作用だけでなく,薬剤の組織移行性が治療の成否(臨床的な薬剤感受性)にかかわる重要な要素であることが認識されている.耐性菌の全国における発生状況については,厚生労働省が2007年より院内感染対策サーベイランスを実施し,サーベイランス事業に参加医療機関で分離された細菌の情報を把握し,その情報を提供している5).このサーベイランスは,全国的な耐性菌の発生状況を表わしているので,耐性菌を考慮した抗菌薬の選択を適切に行うためには,地域ごとに耐性菌の分離状況を把握する必要がある.眼科領域において細菌感染症の治療薬として広く用いられているのは,キノロン系点眼抗菌薬であり6),オフロキサシン・ノルフロキサシン・ロメフロキサシン・トスフロキサシン・レボフロキサシン・ガチフロキサシン・モキシフロキサシンと,7種類の製剤が入手可能である.本研究では,2013年に宮崎県都城市にある宮田眼科(以下,当院)外来を受診し,細菌性角膜炎を疑い,角膜病変を擦過し,塗抹ならびに細菌分離を行った症例の分離した細菌とそのレボフロキサシン耐性率を検討した.I対象および方法1.対象2013年1月1日〜12月31日に当院を受診した患者のうち,角膜上皮障害と角膜実質内細胞浸潤の存在より,臨床的に細菌性角膜炎を疑った122例123眼を対象とした.症例の性別は男性55例,女性67例.平均年齢は52.4±22.7歳であった.単純ヘルペスウイルス・アカントアメーバ・真菌感染の確定診断例は除外した.2.方法初診時に以下の方法を用いて,細菌学的解析のための検体を角膜病変より採取した.0.4%オキシブプロカイン塩酸塩(ベノキシール®)にて表面麻酔を行い,実体顕微鏡下でスパーテルを用いて上皮を剝離し,病巣を擦過した.院内検査室で塗抹標本を作製し,グラム染色後に鏡検した.培養検査は阪大微生物病研究会に依頼した.感受性の判定はCLSIの基準に準拠した.この基準では薬剤感受性についてはMIC値より判断し,S(感受性)・I(中間)・R(耐性)の3カテゴリに分類する.本研究ではIとRは耐性菌と判断した.レボフロキサシン耐性率を(I+R)/(S+I+R)×100%と定義した.II結果1.角膜病変の擦過検体の形態学的解析123眼の擦過塗抹標本をグラム染色後に鏡検した.38眼(30.9%)の検体に細菌を検出した.1眼の検体では2種類の菌形状(グラム陽性球菌とグラム陰性桿菌)を認めた.その他の眼では1検体につき1つの菌形状を検出した.その内訳は,グラム陽性球菌とグラム陽性桿菌の検出率が高く,グラム陰性球菌とグラム陰性桿菌の検出率は5%未満であった(表1).2.角膜病変の擦過検体からの細菌分離123眼中92眼(74.8%)の角膜擦過検体より細菌が分離された.分離株総計は147株であった.嫌気性菌であるグラム陽性桿菌のPropionibacteriumacnesがもっとも多く分離され(n=57),ついでStaphylococcusepidermidis(n=26),その他のcoagulase-negativeStaphylococcus(CNS)(n=21),Staphylococcusaureus(n=11)(うち6株がmethicillin-resistantS.aureus)と,分離株におけるグラム陽性球菌の割合は半数近くを占めている.グラム陽性桿菌のCorynebacterium属は10検体より分離された.これ以外に,Streptococcus属,Enterococcusfaecalis,Streptococcuspneumoniae,Micrococcus属,Bacillus属,Neisseriagonorrhoeae,Serratia属,Pseudomonasaeruginosaが分離された(表2).3.角膜病変の塗抹鏡検所見と分離菌の一致率グラム陽性球菌が塗抹検体に検出された場合,75%の症例でグラム陽性球菌が分離された.塗抹標本にグラム陽性桿菌を検出した場合のグラム陽性桿菌の分離率は低く,3例はCorynebacterium属,1例はP.acnesであり,グラム陽性球菌が分離される頻度が高かった(66.6%).グラム陰性球菌が塗抹検体で検出された1例はN.gonorrhoeaeが分離され,両者が一致していた.グラム陰性桿菌の例では1例が一致し,P.aeruginosaが分離され,残りの2例ではグラム陽性球菌が分離されている(表3).4.分離細菌のレボフロキサシン耐性率主要分離細菌のレボフロキサシン耐性率はmethicillinresistantS.aureus(MRSA)の全分離株が耐性菌であり,S.epidermidisとCorynebacterium属,Serratia属は半数以上が耐性であり,coagulase-negativeStaphylococcusとmethicillin-susceptibleS.aureus(MSSA)は20%台の耐性,P.acnesは5%台であった(表4).III考按2013年の当院において細菌性角膜炎を疑った123眼の角膜病変中74.8%が培養陽性であり,約4分の1の症例が分離陰性であった.微生物性角膜炎の病変部からの細菌分離の陽性率は1955〜1979年のNewYorkでは49%7),1985〜1989年のBaltimoreでは40%,1977〜1996年の熊本県では83.3%9),1999〜2003年の栃木県では49.2%10)(真菌感染を除いて算定),2002〜2007年の愛媛県では60%であり11),さらに2003年のわが国の感染性角膜炎サーベイランスでは43.3%(261例中113例)であった6).細菌性角膜炎を臨床的に疑っても病原体が全例より分離できない背景として,分離率が異なる背景として角膜病変が小さいこと,角膜ゆえの過剰の擦過が困難なこと,検査前の抗生物質投与があげられている6,10〜12).本研究で分離された菌種は,それぞれの分離率は異なるものの,これまでの報告とほぼ類似し,2013年の当院における細菌性角膜炎の起因菌は他の年代あるいは他の地域と大幅に異なってはいなかったが,S.pneumoniaeは1例と少なく,Moraxellaは分離されていない.竹澤ら10),木村ら11)の報告でもS.pneumoniaeは少なく,最近の傾向のようである.Moraxella例は熊本大の宮嶋らの解析でも少なく,その理由として地域特異性を挙げている9).本研究で分離されたS.epidermidisのレボフロキサシン耐性率は57.7%であった.2003年の感染性角膜炎全国サーベイランスにおけるS.epidermidisのレボフロキサシン耐性率は22.2%であり13),2013年の当院におけるS.epidermidis分離株のレボフロキサシン耐性率の増加とともに,S.epidermidis以外のCNS,MSSA,Corynebacterium属の耐性菌の割合も増加していた.一方で,2004〜2009年にかけて行われた細菌性結膜炎の5年間の動向調査では,レボフロキサシン耐性菌の増加はないと報告されているが14),木村らの2002〜2009年の解析ではレボフロキサシン耐性菌の増加が指摘されている11).今回の結果と過去の報告の違いは,レボフロキサシン耐性菌の近年における増加を示唆している.その原因としては,キノロン系点眼抗菌薬の使用量の増加があげられる.眼科においてキノロン系点眼抗菌薬の多用と,点眼薬が長期に投与される例の増加が背景と推定されている1).本研究において,角膜病変からもっとも分離されたのはP.acnesであった.しかし,眼表面は好気的環境であり,絶対的嫌気性菌の発育には不適と考えられる.事実,P.acnesが起因と判断した角膜炎の報告は少なく15,16),Underdahlらの報告例は外傷などにより脆弱化した角膜に感染し,視力障害を生じた特殊な例であった.P.acnesはMeibom腺に常在し,眼表面の一過性常在菌であり,本研究において分離されたP.acnesの大多数は一過性に角膜上を通過した細菌で,角膜炎の起因菌ではない可能性が高い.なお,P.acnesのレボフロキサシン耐性率は以前の報告に比較し,ほとんど変化しておらず,前述の他の眼表面常在菌とは抗菌薬感受性に関して異なる推移を示しており,この点について検討する必要性を感じた.上記のP.acnesのように,眼表面には常在細菌叢が存在し,病巣擦過検体に常に紛れ込む可能性を考慮する必要がある.本研究における角膜病巣擦過の培養陽性率は74.8%であったが,塗抹鏡検陽性率は30.9%にすぎなかった.塗抹鏡検陰性のとき,分離細菌株が起因菌か常在細菌かを区別することは難しい.塗抹標本と分離細菌が一致したグラム陰性球菌(N.gonorrhoea)とグラム陰性桿菌(P.aeruginosa)の例では分離細菌を起因菌と判断することに問題はないが,グラム陽性細菌の場合は臨床像を踏まえて総合的に判断する必要を感じる.一方,本来眼表面細菌叢に存在しない細菌が分離された場合は,塗抹標本陰性でも起因菌である可能性は高くなる.感受性菌が起因菌であっても,病変に混在していた耐性をもつ常在菌が分離されることは防げない.今回の研究では受診前の点眼薬を解析していないが,診察前に抗菌薬の点眼を受けていたような細菌性角膜炎例では,耐性菌のみが分離される可能性があり,このような症例で耐性をもつ細菌を起因菌と判定してしまうと,不適切な抗菌薬を選択することが起こりうる.今回の解析では2013年の細菌性角膜炎疑い症例において,起因菌あるいは病変に混入した眼表面細菌叢由来の細菌において,レボフロキサシン耐性率が増加しつつあることが明らかにされた.このような状況下では,起因菌を確定し,その感受性を把握することが重要である.感染性角膜炎の起因菌の診断精度を上げるため,頻回の塗抹鏡検と培養検査は非常に重要と考える.IV結論細菌性角膜炎において,P.acnesを除く主要分離菌におけるレボフロキサシン耐性率の増加が示唆された.キノロン系点眼薬が角膜炎の治療として妥当かは,医療施設のある地域の耐性菌分離状況によって判断すべきである.耐性菌分離率が上昇した場合,塗抹鏡検・培養検査を行い,起因菌とその薬剤感受性を把握することが,適切な抗菌薬選択において重要となる.文献1)FintelmannRE,HoskinsEN,LietmanTMetal:Topicalfluoroquinoloneuseasariskfactorforinvitrofluoroquinoloneresistanceinocularcultures.ArchOphthalmol129:399-402,20112)KimSJ,TomaHS:Antimicrobialresistanceandophthalmicantibiotics:1-yearresultsofalongitudinalcontrolledstudyofpatientsundergoingintravitrealinjections.ArchOphthalmol129:1180-1188,20113)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute:PerformanceStandardsforAntimicrobialSusceptibilityTesting;24thInformationalSupplement.CLSIdocumentM100-S24,20144)FukudaM,SasakiH:CalculationofAQCmax:Comparisonoffiveophthalmicfluoroquinolonesolutions.CurrMedResOpin24:3479-3486,20085)厚生労働省院内感染対策サーベイランスhttp://www.nihjanis.jp/report/index.html6)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス:分離菌・患者背景・治療の現況.日眼会誌110:961-972,20067)AsbellP,StensonS:Ulcerativekeratitis:Surveyof30years’laboratoryexperience.ArchOphthalmol100:77-80,19828)WahlJC,KatzHR,AbramsDA:InfectiouskeratitisinBaltimore.AnnOphthalmol23:234-237,19919)宮嶋聖也,松本光希,奥田聡哉ほか:熊本大学における過去20年間の細菌性角膜潰瘍の検討.あたらしい眼科15:223-226,199810)竹澤美貴子,小幡博人,中野佳希ほか:自治医科大学における過去5年間の感染性角膜潰瘍の検討.眼紀56:494-497,200511)木村由衣,宇野俊彦,山口昌彦ほか:愛媛大学眼科における細菌性角膜炎症例の検討.あたらしい眼科26:833-837,200912)三木篤也,井上幸次,大黒伸行ほか:大阪大学眼科における角膜感染症の細菌の動向.あたらしい眼科17:839-843,200013)砂田淳子,上田安希子,井上幸次ほか:感染症角膜炎全国サーベイランス分離菌における薬剤感受性と市販点眼薬のpostantibioticeffectの比較.日眼会誌110:973-983,200614)小早川信一郎,井上幸次,大橋裕一ほか:細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間の動向調査(多施設共同研究).あたらしい眼科28:679-687,201115)UnderdahlJP,FlorakisGJ,BraunsteinREetal:Propionibacteriumacnesasacauseofvisuallysignificantcornealulcers.Cornea19:451-454,200016)OvodenkoB,SeedorJA,RitterbandDCetal:TheprevalenceandpathogenicityofPropionibacteriumacneskeratitis.Cornea28:36-39,2009〔別刷請求先〕石山惣介:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町6街区3号宮田眼科病院Reprintrequests:SosukeIshiyama,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo-shi,Miyazaki885-0051,JAPAN0598140-181あ0/た160910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(103)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016585表12013年に細菌性角膜炎を疑った角膜病変部(n=123)の擦過標本の細菌検出陽性眼数検出率(%)*検出菌における割合(%)**グラム陽性球菌2016.351.2グラム陽性桿菌1512.238.5グラム陰性球菌10.82.6グラム陰性桿菌32.47.7計3930.9100*検出率:陽性例/解析眼数(n=123).**検出菌における割合:グラム染色で検出された菌における割合.表22013年に細菌性角膜炎を疑った角膜病変からの分離菌(n=147)株数%*%**好気性グラム陽性球菌7047.677.8Staphylococcusepidermidis2617.728.9coagulase-negativeStaphylococcus***2114.323.3Staphylococcusaureus****1812.220Streptococcus属21.42.2Enterococcusfaecalis10.71.1Streptococcuspneumoniae10.71.1Micrococcus属10.71.1好気性グラム陽性桿菌1510.216.7Corynebacterium属106.811.1Bacillus属42.74.4未同定10.71.1好気性グラム陰性球菌10.71.1Neisseriagonorrhoeae10.71.1好気性グラム陰性桿菌42.74.4Serratia属21.42.2Pseudomonasaeruginosa21.42.2嫌気性菌5738.8Propionibacteriumacnes5738.8*全分離菌における割合.**Propionibacteriumacnesを除いた分離菌における割合.***Staphylococcusepidermidisを除く.****6株がmethicillin-resistantStaphylococcusaureus.表32013年に細菌性角膜炎を疑った角膜病変の塗抹鏡検陽性例(n=39)における細菌分離塗抹陽性菌塗抹陽性眼数aGPC分離aGPR分離aGNC分離aGNR分離嫌気性菌分離分離なしグラム陽性球菌201510022グラム陽性桿菌151030011グラム陰性球菌1001000グラム陰性桿菌3200100aGPC:好気性グラム陽性球菌,aGPR:好気性グラム陽性桿菌,aGNC:好気性グラム陰性球菌,aGNR:好気性グラム陰性桿菌.586あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(104)表42013年に細菌性角膜炎を疑った角膜病変からの分離菌(n=147)のレボフロキサシン耐性率菌種SIR耐性率(%)好気性グラム陽性球菌Staphylococcusepidermidis1101557.7coagulase-negativeStaphylococcus151528.6methicillin-susceptibleStaphylococcusaureus90325.0methicillin-resistantStaphylococcusaureus006100Streptococcus属2000Enterococcusfaecalis1000Streptococcuspneumoniae1000Micrococcus属010100好気性グラム陽性桿菌Corynebacterium属41560.0Bacillus属4000未同定1000好気性グラム陰性球菌Neisseriagonorrhoeae001100好気性グラム陰性桿菌Serratia属11050.0Pseudomonasaeruginosa2000嫌気性菌Propionibacteriumacnes54035.3(105)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016587588あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(106)

In Vitro眼組織中濃度シミュレーションモデルにおける黄色ブドウ球菌および緑膿菌の殺菌ならびにレボフロキサシン耐性化に対する0.5%あるいは1.5%レボフロキサシンの影響

2013年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科30(12):1754.1760,2013cInVitro眼組織中濃度シミュレーションモデルにおける黄色ブドウ球菌および緑膿菌の殺菌ならびにレボフロキサシン耐性化に対する0.5%あるいは1.5%レボフロキサシンの影響長野敬川上佳奈子河津剛一阪中浩二坪井貴司中村雅胤参天製薬株式会社研究開発本部Effectof0.5%or1.5%LevofloxacinOphthalmicSolutiononBactericidalActivityandEmergenceofLevofloxacinResistanceinStaphylococcusaureusandPseudomonasaeruginosainanInVitroSimulationModelTakashiNagano,KanakoKawakami,KouichiKawazu,KojiSakanaka,TakashiTsuboiandMasatsuguNakamuraResearchandDevelopmentDivision,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.Invitro眼組織中濃度シミュレーションモデルを用いて,黄色ブドウ球菌および緑膿菌に対する殺菌ならびにレボフロキサシン(LVFX)耐性化に及ぼす0.5%あるいは1.5%LVFX点眼液の影響を検討した.白色ウサギに0.5%あるいは1.5%LVFX点眼液を単回点眼したときの球結膜あるいは角膜中LVFX濃度推移を測定し,その濃度推移をもとに1日3回点眼のシミュレーションで24時間培地中にこれを再現した.LVFX曝露による菌株の生菌数の変化,LVFX感受性の変化を薬剤感受性ポピュレーション解析により評価した.0.5%LVFX点眼液での結膜濃度シミュレーション条件下の黄色ブドウ球菌株,角膜濃度シミュレーション条件下の緑膿菌株ともに,菌の増殖がみられ,LVFX感受性低下を認めた.一方,1.5%LVFX点眼液での結膜濃度および角膜濃度のシミュレーション条件下では,黄色ブドウ球菌株で静菌作用,緑膿菌株で殺菌作用がみられ,LVFX感受性に変化を認めなかった.1.5%LVFX点眼液は,0.5%LVFX点眼液に比較して,黄色ブドウ球菌と緑膿菌の殺菌および耐性菌出現防止に効果的であることが示唆された.Weevaluatedtheeffectoflevofloxacin(LVFX)ophthalmicsolutiononbactericidalactivityandLVFXresistancedevelopmentinStaphylococcusaureusandPseudomonasaeruginosabysimulatingrabbitoculartissueconcentrationafterinstillationof0.5%or1.5%LVFXophthalmicsolution,inaninvitrosimulationmodel.InamodelsimulatingbulbarconjunctivalorcornealtissueLVFXlevelforonedayfollowing3xdailyinstillationofLVFXophthalmicsolutionsinJapanesewhiterabbits,thechangeinviablebacterialcountorLVFXsusceptibilityofS.aureusorP.aeruginosaafterLVFXexposureintheculturebrothwasdeterminedbypopulationanalysis.The0.5%LVFXsimulationmodelsshowedbothincreasedviablebacterialcountsanddecreasedLVFXsusceptibilitiestoS.aureusinconjunctivaandtoP.aeruginosaincornea.Ontheotherhand,inthe1.5%LVFXsimulationmodel,potentbactericidalactivitieswereshownandnoLVFX-resistantsubpopulationsweredetectedineitherS.aureusorP.aeruginosa.Theseresultsshow1.5%LVFXophthalmicsolutiontobemoreeffectivethan0.5%LVFXophthalmicsolutionforsterilizationandforpreventionofLVFXresistancedevelopmentinbothS.aureusandP.aeruginosa.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(12):1754.1760,2013〕Keywords:invitroシミュレーションモデル,黄色ブドウ球菌,緑膿菌,レボフロキサシン,耐性化.invitrosimulationmodel,Staphylococcusaureus,Pseudomonasaeruginosa,levofloxacin,resistance.〔別刷請求先〕長野敬:〒630-0101奈良県生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社研究開発本部Reprintrequests:TakashiNagano,ResearchandDevelopmentDivision,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayama-cho,Ikoma,Nara630-0101,JAPAN175417541754あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(106)(00)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY はじめにレボフロキサシン(LVFX)は,好気性および嫌気性のグラム陽性菌ならびに陰性菌に対し,広い抗菌スペクトルと強い抗菌力を示す.そのLVFXを主成分とするクラビットR点眼液0.5%は2000年に日本で発売されて以降,その優れた抗菌力と高い安全性から,細菌性眼感染症治療薬として臨床現場で最も汎用されている.しかし近年,一部医療機関からLVFXに対する感受性低下を示唆する結果や入院患者における耐性率上昇が報告されるなど,LVFX耐性菌の出現が問題になりつつある1,2).近年,抗菌薬のPK-PD(薬物動態学-薬力学)に関する研究から,抗菌薬の有効性と薬物動態が密接に関連することが明らかとなってきた.全身薬においては,キノロン系抗菌薬の治療効果に相関する主要なPK-PDパラメータは「血中AUC(濃度-時間曲線下面積)とMIC(最小発育阻止濃度)の比」であり3.6),キノロン系抗菌薬に対する耐性化の抑制には「血中Cmax(最高濃度)とMICの比」が相関する7.10)との報告がある.したがって,安全性面で問題がない限り,血中濃度が高まる高用量で治療することが耐性菌の出現を抑制する観点から望ましい.一方眼科領域では,治療効果や耐性化抑制効果に相関するPK-PDパラメータが明らかにされていないが,細菌に対する殺菌作用や耐性化抑制作用は曝露されるキノロン系抗菌薬の濃度に依存することから,感染組織中のAUCやCmaxが治療効果や耐性化抑制効果に最も相関すると推察される.高濃度LVFX点眼液の眼への影響を検討したClarkらの報告11)によると,サルの角膜上皮創傷治癒モデルにおいて3%LVFX点眼液の1日4回点眼は角膜上皮創傷治癒を遅延させた.また,ウサギの角膜上皮創傷治癒モデルにおいては3%以上のLVFX点眼液が角膜線維芽細胞の消失および角膜浮腫をひき起こし,6%LVFX点眼液が角膜上皮創傷治癒を遅延させた12).しかし,1.5%以下のLVFX点眼液はサルやウサギでみられたそれらの副作用を生じない.したがって,クラビットR点眼液0.5%と同等の眼組織の安全性を確保しつつ,殺菌作用の向上および耐性菌の出現抑制作用が期待できるLVFXの上限濃度は1.5%であると推察された.本試験では,0.5%と1.5%のLVFX点眼液の間で殺菌効果および耐性菌出現抑制効果に差異が認められるかを明らかにする目的で,invitro眼組織中濃度シミュレーションモデルを用いて,黄色ブドウ球菌および緑膿菌に対する0.5%LVFX点眼液および1.5%LVFX点眼液の殺菌効果および耐性菌出現抑制効果を比較検討した.I実験材料および方法1.使用菌株外眼部細菌感染症のなかでも発症頻度が高い結膜炎と重篤(107)な症状を呈する角膜炎の主要起炎菌であるメチシリン感受性黄色ブドウ球菌,緑膿菌を対象菌種とし,2007年から2009年に細菌性眼感染症患者より単離された菌株から使用菌株を選択した.黄色ブドウ球菌株は,LVFXのMICが0.5μg/mLの1株(HSA201-00027株),緑膿菌株は,LVFXのMICが0.5μg/mLおよび1μg/mLの2株(HSA201-00089株およびHSA201-00094株)を使用した.2.使用動物雄性日本白色ウサギは北山ラベス株式会社より購入し,1週間馴化飼育後,試験に使用した.本研究は,「動物実験倫理規程」,「参天製薬の動物実験における倫理の原則」および「動物の苦痛に関する基準」の参天製薬株式会社社内規程を遵守し実施した.3.使用薬剤LVFXは第一三共株式会社製を使用し,ウサギ単回点眼時眼組織分布試験には参天製薬で製造した1.5%LVFX点眼液(クラビットR点眼液1.5%)および0.5%LVFX点眼液(クラビットR点眼液0.5%)を用いた.4.実験方法a.ウサギ単回点眼時の眼組織分布日本白色ウサギに0.5%あるいは1.5%LVFX点眼液を50μLずつ片眼に単回点眼し,点眼0.25,0.5,1,2,4,6および8時間後にペントバルビタールナトリウムの過麻酔により安楽殺した後,眼球結膜および角膜を採取した(各時点5.6例).湿重量を秤量後,1%酢酸/メタノール=(30/70)1mLを加えビーズ式多検体細胞破砕装置(ShakeMasterAuto,BMS)で均質化後,遠心分離により上清(ホモジネート上清)を得た.内標準溶液〔250ng/mLロメフロキサシン水/アセトニトリル=(10/90)溶液〕200μLを加えた除蛋白プレート(StrataImpactProteinPrecipitationplate,Phenomenex社)に,ホモジネート上清50μLと0.2%酢酸5μLを加えて遠心分離し,濾過された溶出液を溶媒留去した.残渣に移動相75μLを加えて溶解させ,超高速液体クロマトグラフィー(UPLC,Waters)に注入してLVFX濃度を測定した.b.シミュレーションモデルの設定1日3回(8時間間隔)点眼時のウサギ眼組織中濃度シミュレーションモデルでは,日本白色ウサギに0.5%あるいは1.5%LVFX点眼液を単回点眼投与したときの眼球結膜および角膜中LVFX濃度推移が,8時間おきに3回繰り返されるものとして設定した.各組織のLVFX濃度推移を培地中に再現(各組織中LVFX濃度μg/gをμg/mLに換算)し,菌株に24時間曝露させた.点眼時の眼組織中LVFX濃度推移は,経口投与時の血中LVFX濃度推移に比べ変化が著しいことから,速やかに曝露濃度を変更できるよう,種々濃度のLVFX溶液を準備し,菌株を封入した寒天ゲルを順次移しあたらしい眼科Vol.30,No.12,20131755 変える手法で検討した.なお,培養液に懸濁した菌株と寒天ゲルに封入した菌株に,LVFXを作用させたときのtime-killcurveは同一であったことから,LVFXは寒天ゲル内に速やかに浸透し,両条件の曝露量に差異はないと考えられた.c.殺菌作用の検討35℃,19時間,ミューラーヒントン(Muller-Hinton)II寒天培地で好気条件下培養した黄色ブドウ球菌株あるいは緑膿菌株をマクファーランド0.5(約1.2×108CFU/mL)で懸濁し,接種菌液とした.この菌液と固化していない2%寒天溶液を等量混合した後,滅菌シャーレ上に200μLずつ滴下し,室温に静置して固化させた.菌株を封入したこの寒天ブロックをシミュレーションモデルのサンプルとし,シミュレーション開始0,8,16および24時間LVFXを曝露した後,回収した(n=3).滅菌マイクロチューブ内で破砕後,生理食塩液を添加し十分混和させた.適宜希釈後,その一定量をミューラーヒントン寒天(MHA)平板上に塗布し,35℃,1日,好気培養した.MHA上のコロニー数を計測して生菌数を算出した.検出限界は20CFU/mLとした.d.ポピュレーション解析シミュレーション開始24時間後の寒天ブロックから調製された菌液を適宜希釈後,LVFX非含有MHA平板および1.16×MICのLVFX含有MHA平板に塗布した.35℃,1日,好気培養後,MHA平板上のコロニー数を測定した.シミュレーション開始前の菌株についても同様の操作を行い,LVFX曝露前後のLVFX感受性ポピュレーションを比較し,感受性の変化を検討した.II結果1.単回点眼投与時の眼球結膜および角膜中LVFX濃度推移0.5%あるいは1.5%LVFX点眼液をウサギに50μL単回投与したときの眼球結膜および角膜中LVFX濃度推移を図1に,薬物動態パラメータを表1に示す.0.5%あるいは1.5%LVFX点眼液の眼球結膜中濃度のTmax(最高血中濃度到達時間)はともに投与後0.25時間で,Cmaxはそれぞれ3.19,14.67μg/gであった.角膜中濃度のTmaxも0.25時間であり,Cmaxは9.02,32.54μg/gであった.0.5%LVFX点眼液と比較して,1.5%LVFX点眼液では,眼球結膜におけるCmaxは約5倍の増加を示し,角膜では約3.5倍の増加がみられた.眼球結膜および角膜におけるAUC0-8hrは点眼液濃度の増加に伴い,3.4倍の増加を示した.2.シミュレーションモデルにおける殺菌作用ウサギ眼組織中濃度シミュレーションモデルでは,寒天ゲルを浸漬させる各LVFX溶液の濃度と時間を,ウサギ眼組1756あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013a282420161284002468点眼後時間(時間):0.5%LVFX:1.5%LVFXb403530252015105002468点眼後時間(時間):0.5%LVFX:1.5%LVFX図1ウサギ単回点眼時の眼球結膜および角膜中LVFX濃度各値は5.6例の平均値を示す.a:眼球結膜LVFX濃度推移,b:角膜LVFX濃度推移.表10.5%あるいは1.5%LVFX点眼液点眼後の眼組織中LVFX濃度の薬物動態パラメータLVFX濃度(μg/g)LVFX濃度(μg/g)薬物動態パラメータ組織CmaxTmaxt1/2AUC0-8hr(μg/g)(hr)(hr)(μg・hr/g)0.5%LVFX眼球結膜3.190.25NC3.10点眼液角膜9.020.251.7016.311.5%LVFX眼球結膜14.670.25NC11.10点眼液角膜32.540.251.4343.26各値は5.6例の平均値を示す.T:最高濃度到達時間.t1/2:消失半減期.NC:Notcalculated,(max)消失相が特定できなかったため算出していない.織中LVFX濃度推移実測値のCmaxおよびAUCと等しくなるように,また移し変え前後のLVFX溶液の濃度変化幅が2倍以上とならないように,最小単位を10分として設定し(図2),24時間曝露後の殺菌効果,耐性菌出現抑制効果を調べた.a.黄色ブドウ球菌HSA201-00027株の生菌数変化を図3に示す.0.5%(108) 100a10108:組織中濃度推移:シミュレーション濃度推移6:0.5%LVFX:1.5%LVFX:LVFX非含有組織中LVFX濃度(μg/g)生菌数(logCFU/mL)10.142検出限界0.01024680081624時間(時間)培養時間(時間)図2ウサギ眼組織中のLVFX濃度推移を培地中に再現させ:0.5%LVFX:1.5%LVFXたときの濃度推移b10:LVFX非含有1.5%LVFX点眼液,単回点眼時のウサギ眼球結膜組織中濃度推移のシミュレーションを例に示した.組織中濃度推移(実線)生菌数(logCFU/mL)8を反映させつつ,CおよびAUCが等しくなるように,ステップワイズの濃度と曝(max)露時間を設定(点線)した.この濃度推移のLVFX曝露を3回繰り返し,24時間の曝露を行った.642検出限界0培養時間(時間)生菌数(logCFU/mL)1086420:0.5%LVFX:1.5%LVFX:LVFX非含有081624図4緑膿菌HSA201.00089株およびHSA201.00094株に対する種々濃度LVFXの殺菌効果各値は3例の平均値を示す.検出限界は20CFU/mL.a:HSA201-00089株,b:HSA201-00094株081624培養時間(時間)HSA201-00089株よりもLVFX感受性の低いHSA201図3黄色ブドウ球菌HSA201.00027株に対する種々濃度LVFXの殺菌効果各値は3例の平均値を示す.CFU:colonyformingunit.LVFX点眼液の結膜濃度シミュレーションモデルでは,曝露直後から生菌数が増加し24時間後まで増加し続け,殺菌作用は認められなかった.一方,1.5%LVFX点眼液の結膜濃度シミュレーションモデルは生菌数が増加せず,静菌作用が認められた.b.緑膿菌HSA201-00089株およびHSA201-00094株の生菌数変化を図4に示す.LVFXに比較的感受性の高いHSA20100089株(LVFXMIC:0.5μg/mL)では,0.5%LVFX点眼液の角膜濃度をシミュレーションして曝露させると,8時間後に生菌数が約1/103まで減少するが,その後増殖し24時間後には初期菌数と同程度になった.一方1.5%LVFX点眼液のシミュレーションでは,8時間後に検出限界以下まで減少し,その後わずかに増殖したが,0.5%LVFX点眼液よりも強い殺菌作用が示された.(109)00094株(LVFXMIC:1μg/mL)においてもほぼ同様の結果で,0.5%LVFX点眼液では,曝露直後に生菌数は約1/102に減少するがその後増殖し,24時間後には初期菌数以上に増加した.一方1.5%LVFX点眼液のシミュレーションでは,16時間後までは検出限界以下で推移し,24時間後にわずかな増殖がみられるのみで,0.5%LVFX点眼液よりも非常に強い殺菌作用が示された.3.曝露24時間後の菌液のポピュレーション解析a.黄色ブドウ球菌HSA201-00027株のポピュレーション解析の結果を図5に示す.0.5%LVFX点眼液の結膜濃度シミュレーションモデルでは,8μg/mLLVFX含有MHA平板でコロニーを形成する株が出現し,使用菌株のLVFX感受性が曝露前に比べて顕著に低下した.一方,1.5%LVFX点眼液の結膜濃度シミュレーションモデルではLVFX感受性が低下したコロニーは観察されず,使用菌株のLVFX感受性の低下を認めなかった.b.緑膿菌HSA201-00089株およびHSA201-00094株のポピュレーあたらしい眼科Vol.30,No.12,20131757 108:0.5%LVFX:1.5%LVFX:LVFX作用前64200LVFX濃度(μg/mL)0.5124検出限界8生菌数(logCFU/mL)図5LVFX曝露24時間後の黄色ブドウ球菌HSA201.00027HSA201-00094株でも,0.5%LVFX点眼液ではLVFX感受性が低下したコロニーが出現したが,1.5%LVFX点眼液ではLVFX感受性が低下したコロニーの出現は認めなかった.III考察キノロン系抗菌薬においては,invitro血中濃度シミュレーションモデルや免疫抑制動物の局所感染モデルにおける検討ならびにヒトでの臨床試験の成績から,治療効果に相関する主要なPK-PDパラメータはAUC/MICであり3.6),耐性化の抑制にはCmax/MICが相関すると報告されている7.10).株のポピュレーション解析各値は3例の平均値を示す.検出限界は20CFU/mL.今回,LVFX濃度の違いによる殺菌効果および耐性菌出現抑制効果の差異を調べる目的で,invitroシミュレーションモデルを用いて0.5%あるいは1.5%LVFX点眼液のウサギa8:0.5%LVFX:1.5%LVFX:LVFX作用前642検出限界0LVFX濃度(μg/mL)00.51248における眼組織中濃度をinvitro系に再現し,黄色ブドウ球菌および緑膿菌に対する殺菌作用ならびにLVFX曝露後の耐性菌出現の有無を検討した.その結果,1.5%LVFX点眼液のシミュレーションでは黄色ブドウ球菌に対する静菌効果およびLVFX感受性が低下したポピュレーションの出現抑制効果を示し,そのときのAUC/MIC,Cmax/MICはそれぞれ66.6,29.3であった.一方,殺菌作用がみられず,曝露後に耐性化を生じた0.5%LVFX点眼液のシミュレーションのAUC/MIC,Cmax/MICは18.6,6.4であった.また緑膿菌(LVFXMIC:1μg/mL)の検討では,高い殺菌効果およびLVFXの感受性低下ポピュレーションの出現抑制効果を生菌数(logCFU/mL)生菌数(logCFU/mL)b8642検出限界0LVFX濃度(μg/mL):0.5%LVFX:1.5%LVFX:LVFX作用前0124816図6LVFX曝露24時間後の緑膿菌HSA201.00089株およ示した1.5%LVFX点眼液のシミュレーションのAUC/MICおよびCmax/MICはそれぞれ129.8,32.5で,菌が増殖し,曝露後に耐性化を生じた0.5%LVFX点眼液のシミュレーションのAUC/MIC,Cmax/MICは48.9,9.2であった.Invitroシミュレーションモデルを用いたOonishiらの報告13)によると,黄色ブドウ球菌株のLVFX耐性菌の出現を抑制するのに必要なCmax/MICは10以上であり,今回の筆者らの結果はそれと一致する.今回検討に用いた黄色ブドウ球菌はLVFXに対する累積発育阻止率曲線14)においてMIC80株に相当し,緑膿菌はMIC50株およびMIC80株に相当する眼科新鮮臨床分離株でびHSA201.00094株のポピュレーション解析各値は3例の平均値を示す.検出限界は20CFU/mL.a:HSA201-00089株,b:HSA201-00094株.ション解析の結果を図6に示す.HSA201-00089株において,0.5%LVFX点眼液の角膜濃度シミュレーションモデルで4μg/mLLVFX含有MHA平板でコロニーを形成する株が出現し,使用菌株のLVFX感受性が曝露前に比べて顕著に低下することが示された.1.5%LVFX点眼液では,LVFX感受性が低下したコロニーの出現を認めなかった.1758あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013ある.したがって,1.5%LVFX点眼液であれば,黄色ブドウ球菌株および緑膿菌株の多くで耐性化を防止できる可能性が示唆された.他方,黄色ブドウ球菌のMIC50相当株やメチシリン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌のMIC50およびMIC80相当株について角膜濃度あるいは結膜濃度シミュレーションモデルで検討したところ,それら菌株においては0.5%および1.5%LVFX点眼液のシミュレーションのいずれもLVFX感受性の低下を生じなかった(データ示さず).汎用されている評価系の本シミュレーションモデルでは原因細菌が存在する角膜組織や結膜組織のLVFX濃度推移に(110) 基づき曝露濃度を設定した.ヒトの角膜および結膜組織の濃度推移データを取得することは困難であるため,ウサギの角膜および結膜組織のLVFX濃度推移を代用しており,今回の結果をヒトに外挿することには議論の余地がある.しかしながら,ウサギに0.5%および1.5%LVFX点眼液を単回点眼したときの角膜LVFX濃度は,15分後にそれぞれ約9μg/gおよび33μg/gを示し,角膜摘出の約15分および約10分前に0.5%あるいは1.5%LVFX点眼液を2回点眼したときのヒト角膜LVFX濃度はそれぞれ約18μg/gおよび約65μg/gであった15,16)ことから,点眼回数の違いを考慮すると角膜濃度推移にヒトとウサギで大きな種差はないと推測された.また,ウサギに0.5%LVFX点眼液を単回点眼したとき眼球結膜LVFX濃度が15分後に約3.2μg/gである一方,ヒトに0.5%LVFX点眼液を単回点眼したときの20分後の眼球結膜LVFX濃度は約2.3μg/gであった17)ことから,眼球結膜濃度についてもヒトとウサギで大きな種差はないと推測された.以上から,ウサギの角膜および結膜濃度で示された耐性化抑制の結果は,ヒトにおいても1.5%LVFX点眼液のほうが0.5%LVFX点眼液よりも耐性化抑制に貢献できることを支持するデータであると推察された.2000年から2004年に実施された薬剤感受性全国サーベイランスでは,LVFXに対する眼感染症由来臨床分離株のMICについて顕著な上昇は認められていないものの,一部の菌種では感受性低下が認められており,引き続き慎重な観察が必要とされている14,18,19).本サーベイランスデータを年齢別に解析したところ,高齢者の黄色ブドウ球菌および緑膿菌のLVFX耐性化率は非高齢者よりも高値であった.さらに,一部の医療機関ではLVFX耐性化が進み,高齢者や老人施設などの一部の患者でLVFX耐性率の上昇が報告されている1,2).したがって,抗菌点眼液の使用頻度が高く,集団生活や全身疾患の影響などにより耐性菌を保菌しやすい患者層を中心に,今後LVFX耐性菌が拡大することが危惧される.耐性菌の出現が大きな問題となっている全身領域では,クラビットR錠500mgのように高濃度製剤が上市され,「highdose,shortduration」といった抗菌薬の適正使用により,耐性菌の出現防止が進められている.LVFX耐性菌の出現および拡大が懸念される眼科領域においても耐性化防止が最重要課題である.今回の検討結果より,1.5%LVFX点眼液は,0.5%LVFX点眼液に比較して,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌および緑膿菌の耐性菌出現防止に効果的である可能性が示唆された.新規抗菌薬の創出がむずかしい現況では,細菌性眼感染症治療薬として最も汎用されているクラビットR点眼液0.5%の高濃度製剤として2011年に発売されたクラビットR点眼液1.5%が医療現場で使用され,よりいっそう適正使用が推進されることにより,将来にわたってLVFX点眼液の有効性を維持し続けることが重要であると(111)考えられる.謝辞:本研究に対するご指導,ご助言を賜りました愛媛大学医学部眼科学教室の大橋裕一教授に深謝いたします.文献1)櫻井美晴,林康司,尾羽澤実ほか:内眼手術術前患者の結膜.細菌叢のレボフロキサシン耐性率.あたらしい眼科22:97-100,20052)村田和彦:眼脂培養による細菌検査とレボフロキサシン耐性菌の検討.臨眼61:745-749,20073)LacyMK,LuW,XuXetal:Pharmacodynamiccomparisonsoflevofloxacin,ciprofloxacin,andampicillinagainstStreptococcuspneumoniaeinaninvitromodelofinfection.AntimicrobAgentsChemother43:672-677,19994)AndesD,CraigWA:Animalmodelpharmacokineticsandpharmacodynamics:acriticalreview.IntJAntimicrobAgents19:261-268,20025)CraigWA:Pharmacokinetic/pharmacodynamicparameters:rationaleforantibacterialdosingofmiceandmen.ClinInfectDis26:1-12,19986)CraigWA:Doesthedosematter?ClinInfectDis33(Suppl3):S233-237,20017)Madaras-KellyKJ,DemastersTA:Invitrocharacterizationoffluoroquinoloneconcentration/MICantimicrobialactivityandresistancewhilesimulatingclinicalpharmacokineticsoflevofloxacin,ofloxacin,orciprofloxacinagainstStreptococcuspneumoniae.DiagnMicrobiolInfectDis37:253-260,20008)PrestonSL,DrusanoGL,BermanALetal:Pharmacodynamicsoflevofloxacin:anewparadigmforearlyclinicaltrials.JAMA279:125-129,19989)BlondeauJM,ZhaoX,HansenGetal:MutantpreventionconcentrationsoffluoroquinolonesforclinicalisolatesofStreptococcuspneumoniae.AntimicrobAgentsChemother45:433-438,200110)BlaserJ,StoneBB,GronerMCetal:ComparativestudywithenoxacinandnetilmicininapharmacodynamicmodeltodetermineimportanceofratioofantibioticpeakconcentrationtoMICforbactericidalactivityandemergenceofresistance.AntimicrobAgentsChemother31:1054-1060,198711)ClarkL,BezwadaP,HosoiKetal:Comprehensiveevaluationofoculartoxicityoftopicallevofloxacininrabbitandprimatemodels.JToxicolCutaneousOculToxicol23:1-18,200412)梶原悠,長野敬,中村雅胤:ウサギ角膜上皮.離後の角膜上皮創傷治癒および前眼部症状に及ぼすレボフロキサシン点眼液の影響.あたらしい眼科29:1003-1006,201213)OonishiY,MitsuyamaJ,YamaguchiK:EffectofGrlAmutationonthedevelopmentofquinoloneresistanceinStaphylococcusaureusinaninvitropharmacokineticmodel.JAntimicrobChemother60:1030-1037,200714)小林寅喆,松崎薫,志藤久美子ほか:細菌性眼感染症患者より分離された各種新鮮臨床分離株のLevofloxacin感受あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131759 性動向について.あたらしい眼科23:237-243,200615)HealyDP,HollandEJ,NordlundMLetal:Concentrationsoflevofloxacin,ofloxacin,andciprofloxacininhumancornealstromaltissueandaqueoushumoraftertopicaladministration.Cornea23:255-263,200416)HollandEJ,McCarthyM,HollandS:Theocularpenetrationoflevofloxacin1.5%andgatifloxacin0.3%ophthalmicsolutionsinsubjectsundergoingcornealtransplantsurgery.CurrMedResOpin23:2955-2960,200717)WagnerRS,AbelsonMB,ShapiroAetal:Evaluationofmoxifloxacin,ciprofloxacin,gatifloxacin,ofloxacin,andlevofloxacinconcentrationsinhumanconjunctivaltissue.ArchOphthalmol123:1282-1283,200518)松崎薫,小山英明,渡部恵美子ほか:眼科領域における細菌感染症起炎菌のlevofloxacin感受性について.化学療法の領域19:431-440,200319)松崎薫,渡部恵美子,鹿野美奈ほか:2002年2月から2003年6月の期間に細菌性眼感染症患者より分離された各種新鮮臨床分離株のLevofloxacin感受性.あたらしい眼科21:1539-1546,2004***1760あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(112)

ウサギ角膜上皮剝離後の角膜上皮創傷治癒および前眼部症状に及ぼすレボフロキサシン点眼液の影響

2012年7月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科29(7):1003.1006,2012cウサギ角膜上皮.離後の角膜上皮創傷治癒および前眼部症状に及ぼすレボフロキサシン点眼液の影響梶原悠長野敬中村雅胤参天製薬株式会社眼科研究開発センターEffectofLevofloxacinOphthalmicSolutiononCornealEpithelialWoundHealingandAnteriorSegmentSymptomsinRabbitsYuKajiwara,TakashiNaganoandMasatsuguNakamuraOphthalmicResearchandDevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.レボフロキサシン(LVFX)点眼液の一日3回点眼で前眼部に対する安全性に懸念がないLVFX濃度を明らかにする目的で,n-heptanolによるウサギ角膜上皮.離モデルにおける角膜上皮創傷治癒および前眼部症状に及ぼす種々濃度LVFX点眼液の影響を検討した.ウサギの角膜上皮をn-heptanolで.離し,LVFX点眼液基剤,0.5%,1.5%,3.0%および6.0%LVFX点眼液を一日3回点眼した..離直後,.離24および48時間後に角膜上皮創傷部位面積の変化および前眼部症状を評価した.0.5%および1.5%LVFX点眼液はLVFX点眼液基剤と同様,角膜上皮.離後の創傷治癒および前眼部症状に影響を及ぼさなかった.一方,3.0%以上のLVFX点眼液では結膜充血が認められ,6.0%では創傷治癒の遅延および角膜混濁などの悪影響が認められた.以上,一日3回点眼において前眼部の安全性が確保されるLVFX点眼液の最高濃度は1.5%であることが示唆された.Toevaluatethesafetydosesoflevofloxacin(LVFX)ophthalmicsolutionthreetimesaday,weexaminedtheeffectsofLVFXophthalmicsolutionsoncornealwoundhealingandanteriorsegmentsymptomsinarabbitn-heptanolinducedcornealepithelialdefectmodel.Afterrabbitcornealepitheliumremovalthroughexposureton-heptanol,theeyesweretreatedwithvehicleonly(0%)or0.5,1.5,3.0or6.0%LVFXophthalmicsolutionthreetimesaday.Changesincornealepithelialwoundareaandanteriorsegmentsymptoms,immediatelyandat24and48hoursafterdebridement,wereevaluated.Theadministrationof0,0.5%and1.5%LVFXophthalmicsolutionhadnoeffectonepithelialwoundclosureoranteriorsegmentsymptoms.Incontrast,LVFXophthalmicsolutionat3.0%ormorecausedhyperemia,and6.0%LVFXcauseddelayinwoundclosure,andcornealopacity.Theseresultssuggestthat1.5%LVFXophthalmicsolutionmightbethehighestdosehavingnoadverseeffectontheanteriorsegment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):1003.1006,2012〕Keywords:ウサギ,角膜上皮創傷治癒,前眼部症状,レボフロキサシン.rabbit,cornealepithelialwoundhealing,anteriorsegmentsymptom,levofloxacin.はじめにレボフロキサシン(LVFX)は,好気性および嫌気性のグラム陽性菌ならびに陰性菌に対し,広い抗菌スペクトルと強い抗菌力を示す.そのLVFXを主成分とするクラビットR点眼液0.5%は2000年に日本で発売されて以降,その優れた抗菌力と高い安全性から,細菌性眼感染症治療薬として臨床現場で最も汎用されている.近年,抗菌薬のPK-PD(薬物動態学-薬力学)に関する研究から,抗菌薬の有効性と薬物動態が密接に関連することが明らかとなってきた.全身薬においては,キノロン系抗菌薬の治療効果に相関する主要なPK-PDパラメータは「血中AUC(濃度-時間曲線下面積)とMIC(最小発育阻止濃度)の比」であり,キノロン系抗菌薬に対する耐性化の抑制には「血中Cmax(最高濃度)とMICの比」が相関するとの報告が〔別刷請求先〕梶原悠:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社眼科研究開発センターReprintrequests:YuKajiwara,OphthalmicResearchandDevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayama-cho,Ikoma,Nara630-0101,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(127)1003 ある1,2).したがって,安全性面で問題がない限り,血中濃度が高まる高用量で治療することが治療効果を高め,耐性菌の出現を抑制する観点から望ましい.一方,眼科領域では,治療効果や耐性化抑制効果に相関するPK-PDパラメータの研究があまり進んでいないが,細菌に対する殺菌作用や耐性化抑制作用は曝露されるキノロン系抗菌薬の濃度に依存することから,感染組織中のAUCやCmaxが治療効果や耐性化抑制効果に最も相関すると推察される.種々濃度LVFX点眼液の角膜への影響を検討したClarkらの報告3)によると,サルの角膜上皮.離モデルに3.0%LVFX点眼液を一日4回点眼すると角膜上皮創傷治癒が遅延した.また,ウサギの角膜上皮.離モデルにおいては3.0%以上のLVFX点眼液が角膜線維芽細胞の消失および角膜浮腫をひき起こし,6.0%LVFX点眼液は角膜上皮創傷治癒を遅延させた.一方,1.5%以下のLVFX点眼液は,サルやウサギでみられた副作用を生じなかった.したがって,既存のクラビットR点眼液0.5%と同等の角膜の安全性を確保しつつ,殺菌作用の向上および耐性菌出現の抑制が期待できるLVFXの上限濃度は1.5%であると推察された.しかしながら,クラビットR点眼液の標準的な用法である一日3回点眼において,角膜を含めた前眼部の安全性に懸念を生じないLVFXの上限濃度については,これまで十分に検討されていない.本試験では,LVFX点眼液の一日3回点眼において,前眼部の安全性に問題のないLVFX濃度を明らかにする目的で,ウサギの角膜上皮.離モデルにおける角膜上皮創傷治癒および前眼部症状に及ぼす0%,0.5%,1.5%,3.0%および6.0%LVFX点眼液の影響を比較検討した.I実験材料および方法1.使用動物日本白色ウサギは北山ラベス株式会社より購入し,1週間馴化飼育後,試験に使用した.本研究は,「動物実験倫理規程」,「参天製薬の動物実験における倫理の原則」,「動物の苦痛に関する基準」の参天製薬株式会社社内規程を遵守し実施した.2.被験点眼液LVFXは第一三共株式会社製を用いた.LVFX点眼液基剤,1.5%,3.0%および6.0%LVFX点眼液は終濃度2.2g/100mLの濃グリセリン水溶液にLVFXを溶解後,pHを中性に調整した.0.5%LVFX点眼液はクラビットR点眼液0.5%と同じ製剤とした.3.実験方法a.ウサギ角膜上皮.離モデルの作製および創傷面積評価ウサギ角膜上皮.離モデルは,日本白色ウサギを全身麻酔し,両眼の角膜表層にn-heptanolを染み込ませた6mm径の濾紙を1分間接触させた後,生理食塩液で洗眼することで作製した4).その後,LVFX点眼液基剤,0.5%,1.5%,3.0%および6.0%LVFX点眼液を,一日3回,一眼50μLずつ両眼に点眼した(各群,4匹8眼)..離直後,.離24および48時間後に角膜創傷部位を2.0%フルオレセイン生理食塩液で染色後,創傷部位の写真を撮影し,画像解析ソフトにて創傷面積を測定した..離直後の創傷面積を100%として.離24および48時間後の創傷面積率(%)を算出した.b.ウサギ前眼部症状観察ウサギ角膜上皮.離前,.離24および48時間後に前眼部症状観察を行い,異常所見(充血,眼瞼腫脹,眼脂,角膜混濁)を記録した.c.統計解析角膜上皮.離後の創傷面積率の検討では,各.離後時間におけるLVFXの影響を点眼液基剤に対するSteelの多重比較検定法にて,5%を有意水準として解析した.II結果1.ウサギ角膜上皮創傷治癒に及ぼすLVFX点眼液の影響n-heptanolによるウサギ角膜上皮.離後の上皮創傷面積率に及ぼす種々濃度LVFX点眼液,一日3回点眼の影響について,.離24時間後の典型的なフルオレセイン染色写真を図1に,創傷面積率で表したグラフを図2に示す.0.5%,1.5%および3.0%LVFX点眼液群の角膜上皮.離24時間後の創傷は,LVFX点眼液基剤群のそれと大きさに差はみられなかったが,6.0%LVFX点眼液群の創傷は,明LVFX基剤0.5%LVFX1.5%LVFX3.0%LVFX6.0%LVFX図1角膜上皮.離24時間後のフルオレセイン染色写真1004あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(128) 創傷面積率(%)100806040200:LVFX基剤:0.5%LVFX:1.5%LVFX:3.0%LVFX:6.0%LVFX02448**.離後時間(時間)図2角膜上皮創傷治癒に及ぼすLVFX点眼液の影響各値は8例の平均値±標準誤差を示す..離直後の創傷面積に対する.離24および48時間後の創傷面積率(%)を算出した.**:p<0.01vsLVFX基剤.らかに大きかった(図1).また,0.5%,1.5%および3.0%LVFX点眼液群の.離24時間後の創傷面積率は,LVFX点眼液基剤群のそれと比較して差を認めなかったが,6.0%LVFX点眼液群の創傷面積率はLVFX点眼液基剤に比べ,有意に高値を示した.一方,.離48時間後の創傷面積率においてはすべての群間に差はみられなかった(図2).以上より,本試験系において,0.5%,1.5%および3.0%LVFX点眼液,一日3回点眼は角膜上皮創傷治癒に影響を及ぼさないが,6.0%LVFX点眼液は創傷治癒を遅延させることが示唆された.2.ウサギ角膜上皮.離後の前眼部症状に及ぼすLVFX点眼液の影響n-heptanolによるウサギ角膜上皮.離後の前眼部症状に及ぼす種々濃度LVFX点眼液,一日3回点眼の影響を表1に示す.0.5%および1.5%LVFX点眼液群では,LVFX点眼液基剤群と同様,観察期間中に前眼部の異常所見は認められなかった.一方,3.0%LVFX点眼液群では,.離48時間後に全例(8眼中8眼)で充血が認められた.さらに,6.0%LVFX点眼液群では.離24時間後に充血(8眼中7眼)眼瞼腫脹(8眼中4眼)および眼脂(8眼中2眼)が認められ,(,)48時間後には充血(8眼中8眼)および角膜混濁(8眼中5眼)がみられた.以上より,本試験系において,0.5%および1.5%LVFX点眼液,一日3回点眼は角膜上皮.離後の前眼部症状に影響を及ぼさないが,3.0%以上の濃度では前眼部に悪影響を及ぼすことが示唆された.III考察クラビットR点眼液0.5%の適応とされる細菌性眼感染症表1角膜上皮.離後の前眼部症状に及ぼすLVFX点眼液の影響被験薬剤前眼部症状(全8眼中の眼数).離24時間後.離48時間後LVFX点眼液基剤異常所見なし異常所見なし0.5%LVFX点眼液異常所見なし異常所見なし1.5%LVFX点眼液異常所見なし異常所見なし3.0%LVFX点眼液異常所見なし充血(8眼)6.0%LVFX点眼液充血(7眼)眼瞼腫脹(4眼)眼脂(2眼)充血(8眼)角膜混濁(5眼)においては,眼表面に生じた障害のため前眼部における薬剤毒性が正常時よりも強くなることが予想される.そこで,n-heptanolによりウサギの角膜上皮を.離し,.離後の角膜上皮創傷治癒あるいは前眼部症状に及ぼす種々濃度のLVFX点眼液の影響を調べ,クラビットR点眼液の標準的な用法である一日3回点眼で前眼部に対する安全性が確保される最高濃度を検討した.その結果,1.5%以下のLVFX点眼液は角膜上皮創傷治癒および前眼部症状に影響を及ぼさなかったが,3.0%LVFX点眼液では結膜に対する充血が,6.0%LVFX点眼液では角膜上皮創傷治癒の遅延と角膜混濁などの前眼部への悪影響が認められた.Clarkらの一日4回点眼の報告3)によると,ウサギ角膜上皮.離モデルに対して3.0%以上のLVFX点眼液は角膜線維芽細胞の消失および角膜浮腫をひき起こし,6.0%LVFX点眼液は角膜上皮創傷治癒を遅延させるが,1.5%以下のLVFX点眼液は副作用を生じないとされている.したがって,本結果と合わせて考えると,角膜を含めた前眼部の安全性に懸念がないLVFX点眼液の最高濃度は1.5%であることが示唆された.実際の臨床現場でLVFX点眼液が投与される期間は,本検討で設定した2日間よりも長期になると予想されるが,サル角膜上皮.離モデルに対する5日間の一日4回点眼においても,1.5%のLVFX点眼液は角膜創傷治癒および角膜厚に影響を及ぼさなかったと報告されている3).また,本試験では標準的な用法である一日3回点眼で検討を行っているが,重症の細菌性角膜炎では1時間間隔の頻回点眼が感染性角膜炎診療ガイドラインで推奨されており,その用法における本モデルでの影響については,今後検討すべき課題である.しかしながら,2007年より細菌性角膜潰瘍治療剤として1.5%LVFX点眼液(商品名IQUIXR)が使用されているアメリカで重篤な副作用はこれまでに報告されていない.さらに,細菌性角膜炎,結膜炎患者を対象とした日本の第III相臨床試験においても重篤な副作用はみられていない5).したがって,1.5%LVFX点眼液の長期投与または頻回投与においても安全性に大きな懸念はないものと考えられる.(129)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20121005 一般にキノロン系抗菌薬は安全性面で問題がない限り,組織中濃度を最大限に高めることが治療効果向上の観点から望ましいとされており,濃度依存的な眼内移行性を示す6)LVFX点眼液では,高濃度化が治療効果向上につながる可能性もある.実際に1.5%LVFX点眼液の第III相オープンラベル多施設共同試験では,細菌性の角結膜炎に対して検出菌および主症状の速やかな消失が示され,高い治療効果が認められた5).他方,安全性面に関しては,種々キノロン系抗菌薬の原末を用いて細胞障害性を比較した検討において,不死化ヒト角膜上皮細胞7),ウサギ角膜実質細胞7)およびウシ角膜内皮細胞8)に対して,LVFXは最も高い安全性を有することが報告されている.また,市販点眼液を用いた細胞障害性の比較試験においても,クラビットR点眼液0.5%の角膜上皮細胞への障害性は0.3%ガチフロキサシン点眼液や0.5%モキシフロキサシン点眼液といった他のキノロン系抗菌点眼液のそれよりも低いと報告されている9).LVFXは中性pHでも高い溶解性を有し10),高濃度製剤化に界面活性剤などの特別な添加剤を必要としない.高濃度製剤である1.5%LVFX点眼液が0.5%LVFX点眼液と同様,角膜上皮.離モデルで治癒遅延や充血などの悪影響を及ぼさなかったのは,このような高い安全性と製剤化の容易さというLVFXの特性によるものと推察される.一方で,1.5%LVFX点眼液の眼内移行性は0.5%LVFX点眼液よりも高くなるため,メラニン含有眼組織への安全性が懸念されるが,有色ウサギに3.0%LVFX点眼液を一日4回,26週間点眼しても虹彩,毛様体および網膜に異常は認められていない3)ことから,1.5%LVFX点眼液においても安全性への懸念はないと考えられた.以上,1.5%LVFX点眼液は,細菌性眼感染症治療薬として最も汎用されているクラビットR点眼液0.5%に安全性で劣ることなく,早期の起炎菌消失および症状の軽減を期待できることから,軽症から重症まで幅広い症例に治療初期から用いることが可能である.そのなかでも,速やかな治療効果が望まれる重症例や,無菌化が要求される眼手術患者が,本剤のより適した症例と考えられる.さらに,「highdose,shortduration」の治療を可能とする本剤は抗菌薬の適正使用にも貢献でき,キノロン耐性菌出現防止という観点からも医療現場での治療満足度をさらに高める薬剤になるものと期待される.謝辞:本研究にご協力いただきました参天製薬株式会社堂田敦義博士,玉木修作修士に深謝いたします.文献1)佐藤玲子,谷川原祐介:2.抗菌薬のPK/PD.医薬ジャーナル41:67-74,20052)PrestonSL,DrusanoGL,BermanALetal:Pharmacodynamicsoflevofloxacin:Anewparadigmforearlyclinicaltrials.JAMA279:125-129,19983)ClarkL,BezwadaP,HosoiKetal:Comprehensiveevaluationofoculartoxicityoftopicallevofloxacininrabbitandprimatemodels.JToxicolCutaneousOcularToxicol23:1-18,20044)CintronC,HassingerL,KublinCLetal:Asimplemethodfortheremovalofrabbitcornealepitheliumutilizingn-heptanol.OphthalmicRes11:90-96,19795)大橋裕一,井上幸次,秦野寛ほか:細菌性結膜炎および細菌性角膜炎に対する1.5%レボフロキサシン点眼液(DE108点眼液)の第III相臨床試験.あたらしい眼科29:669678,20126)河嶋洋一,高階秀雄,臼井正彦:オフロキサシンおよびレボフロキサシン点眼液の薬動力学的パラメーター.あたらしい眼科12:791-794,19957)櫻井美晴,羽藤晋,望月弘嗣ほか:フルオロキノロン剤が角膜上皮細胞および実質細胞に与える影響.あたらしい眼科23:1209-1212,20068)加治優一,大鹿哲郎:各種フルオロキノロン剤による角膜内皮細胞毒性の比較.あたらしい眼科24:1229-1232,20079)TsaiTH,ChenWL,HuFR:Comparisonoffluoroquinolones:cytotoxicityonhumancornealepithelialcells.Eye24:909-917,201010)三井幸彦,大石正夫,佐々木一之ほか:点眼液の薬動力学的パラメーターとしてのAQCmaxの提案.あたらしい眼科12:783-786,1995***1006あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(130)

細菌性結膜炎および細菌性角膜炎に対する1.5%レボフロ キサシン点眼液(DE-108点眼液)の第III相臨床試験

2012年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科29(5):669.678,2012c細菌性結膜炎および細菌性角膜炎に対する1.5%レボフロキサシン点眼液(DE-108点眼液)の第III相臨床試験大橋裕一*1井上幸次*2秦野寛*3外園千恵*4*1愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学分野*2鳥取大学医学部視覚病態学*3ルミネはたの眼科*4京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学PhaseIIIClinicalTrialof1.5%LevofloxacinOphthalmicSolution(DE-108)inBacterialConjunctivitisandBacterialKeratitisYuichiOhashi1),YoshitsuguInoue2),HiroshiHatano3)andChieSotozono4)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,3)HatanoEyeClinic,4)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:細菌性結膜炎および細菌性角膜炎患者における1.5%レボフロキサシン点眼液(1.5%LVFX点眼液,DE-108点眼液)の有効性と安全性を検討する.対象および方法:細菌性結膜炎患者221例,細菌性角膜炎患者17例を対象にオープンラベルで多施設共同試験を実施した.有効性は抗菌点眼薬臨床評価のガイドラインおよび日本眼感染症学会の効果判定基準に従い臨床効果より,安全性は副作用の発現率より評価した.結果:有効率は細菌性結膜炎で100.0%(170/170例),細菌性角膜炎でも100.0%(6/6例)であった.著効率は細菌性結膜炎で90.6%(154/170例),細菌性角膜炎で100.0%(6/6例)であった.副作用発現率は2.9%(7/238例)で,重篤な副作用は認められなかった.結論:1.5%LVFX点眼液は外眼部感染症に対して高い有効性と安全性を示した.また,高い著効率から,早期のqualityoflife改善が期待される.Purpose:Toevaluatetheefficacyandsafetyof1.5%levofloxacin(LVFX)ophthalmicsolutionintreatingbacterialconjunctivitis(BC)andbacterialkeratitis(BK).SubjectsandMethods:221patientswithBCand17patientswithBKenrolledinanopen-labeled,multicenterstudy.Efficacyandsafetywereevaluatedonthebasisofclinicalefficacyandtheincidenceofadversedrugreactions(ADR),respectively.Result:Theefficacyratewas100.0%forbothBCgroup(170/170)andBKgroup(6/6).Therespectivemarkedefficacyrateswere90.6%(154/170)and100.0%(6/6).TheoverallincidenceofADRwas2.9%(7/238).NoseriousADRwasobserved.Conclusion:Theseresultsindicatethat1.5%LVFXophthalmicsolutionishighlyeffectiveagainstmajorbacterialinfectionsoftheexternaleye,withgoodsafety.Inaddition,thehighmarkedefficacyratesuggeststhat1.5%LVFXophthalmicsolutionmightimprovepatientqualityoflifeduringtheearlyperiodofdisease.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(5):669.678,2012〕Keywords:細菌性結膜炎,細菌性角膜炎,レボフロキサシン,キノロン系,第III相臨床試験.bacterialconjunctivitis,bacterialkeratitis,levofloxacin,quinolone,phaseIIIclinicaltrial.はじめに広い抗菌スペクトル,強い抗菌力,そして良好な組織移行性から,キノロン系抗菌点眼薬が外眼部感染症治療の第一選択薬として使用されている.これまでに数多くのキノロン系抗菌点眼薬が開発されているが,そのなかでも,レボフロキサシン(levofloxacin:LVFX)は,中性付近での水溶性が高く,良好な眼内移行を示すことから最も点眼液に適しており1,2),0.5%LVFX点眼液(クラビットR点眼液0.5%)として2000年に発売されて以来,高い有効性と安全性をもとに汎用されてきた.〔別刷請求先〕大橋裕一:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学分野Reprintrequests:YuichiOhashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(89)669 キノロン系抗菌薬は,細菌のDNAジャイレースおよびト表2試験実施医療機関一覧(試験実施時,順不同,敬称略)ポイソメラーゼIVを阻害することによりDNA複製を阻止することで抗菌力を示す.PK-PD(PharmacokineicsPharmacodynamics)理論からは濃度依存的な薬剤に分類されており,安全性面で問題がない限りにおいて,眼組織中濃度を最大限に高めることで治療効果のさらなる向上と耐性菌の出現抑制も期待できるとされている3,4).1.5%LVFX点眼液は,LVFXの高い水溶性を活かし,従来の0.5%LVFX点眼液を高濃度化した製剤である.ウサギでの検討において用量依存的な眼組織移行を示すことが確認されており1),ヒトにおいても高い眼組織移行が期待されるほか,その非臨床試験結果から,クラビットR点眼液0.5%と同等の安全性を確保できると推察されている5).実際,アメリカではすでに,1.5%LVFX点眼液(販売名IQUIXR)が,2007年より角膜潰瘍を対象疾患として医療現場で使用されており,多数例において,その有効性および安全性が確認されているところである6).わが国ではこれまで治療効果の向上および耐性菌出現抑制を目的とした高濃度キノロン系抗菌点眼薬の臨床試験の報告はない.今回,高濃度製剤化した1.5%LVFX点眼液について,細菌性結膜炎および細菌性角膜炎を対象とし,有効性と安全性をオープンラベルの多施設共同試験で検討したので報告する.I対象および方法本試験は,ヘルシンキ宣言に基づく原則に従い,薬事法第14条第3項および第80条の2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し,以下の対象および方法で実施された.1.対象おもな選択基準・除外基準は表1に示した.対象は全国24医療機関(表2)において受診した細菌性結医療機関名試験責任医師名医療法人社団さくら有鄰堂板橋眼科医院板橋隆三さど眼科佐渡一成堀之内駅前眼科黒田章仁医療法人社団博陽会おおたけ眼科つきみ野医院大竹博司医療法人湘陽会ルミネはたの眼科秦野寛医療法人社団秀光会かわばた眼科川端秀仁医療法人社団富士青陵会なかじま眼科中島徹むらまつ眼科医院村松知幸たはら眼科田原恭治医療法人仁志会西眼科病院岩西宏樹医療法人社団景和会大内眼科大内景子医療法人幸友会岡本眼科クリニック岡本茂樹医療法人聖光会鷹の子病院眼科島村一郎医療法人社団馨風会徳島診療所中川尚高田ようこアイクリニック高田洋子金井たかはし眼科高橋義徳東京女子医科大学東医療センター眼科松原正男医療法人社団シー・オー・アイいしだ眼科石田玲子医療法人創正会イワサキ眼科医院岩崎直樹杉浦眼科杉浦寅男医療法人財団神戸海星病院眼科片上千加子医療法人出田会出田眼科病院佐々木香る医療法人社団松六会道玄坂糸井眼科医院糸井素純特定医療法人財団明徳会総合新川橋病院眼科薄井紀夫膜炎および細菌性角膜炎患者であり,選択基準は7歳以上の性別および入院・外来を問わない患者で,細菌性結膜炎患者の場合は眼脂および結膜充血のスコアがそれぞれ(+)以上,細菌性角膜炎患者の場合は角膜浸潤のスコアが(+)以上の症例とした.試験開始前にすべての被験者に対して試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.表1おもな選択基準および除外基準1)おもな選択基準(1)7歳以上である(2)臨床所見より細菌性結膜炎または細菌性角膜炎と診断された患者で,以下の基準を満たす①細菌性結膜炎:眼脂および結膜充血のスコアがそれぞれ(+)以上②細菌性角膜炎:角膜浸潤のスコアが(+)以上2)おもな除外基準(1)臨床所見より,細菌以外による眼感染またはこれらの混合感染が否定できない(2)臨床所見より,アレルギー性結膜炎が疑われる,または試験期間中に症状が発現する恐れがある(3)同意取得3カ月以内に内眼手術(レーザー治療を含む)および角膜屈折矯正手術の既往を有する(4)試験期間中に使用する予定の薬剤に対し,薬物アレルギーの既往歴がある(5)同意取得前1週間以内に抗生物質,合成抗菌薬が投与された(6)同意取得前1週間以内に副腎皮質ステロイド剤(眼瞼以外への皮膚局所投与は可とする)が投与された(7)コンタクトレンズの装用が必要である670あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(90) 表3検査・観察スケジュール有害事象については,被験薬との因果関係は問わず,被験0日目3日目7日目14日目試験中止時薬投与後に観察されたすべての自覚症状の発現・悪化および試験責任医師・分担医師が医学的に有害と判断した他覚所見被験者背景○の発現・悪化を有害事象とした.また,有害事象のうち,被点眼遵守状況○○○○自覚症状○○○○○験薬との因果関係が明確に否定できないものを副作用とし他覚所見○○○○○た.視力検査○○○臨床検査については0日目および試験終了時または中止時臨床検査○○○に,血液学的検査,血液生化学検査および尿検査を実施し,細菌検査○○○○○臨床検査値の異常変動の有無を確認した.有害事象○○○○○眼科的検査については0日目および試験終了時または中止時に,5m試視力表(またはそれに相当するもの)を用いて2.試験方法視力を測定し,その推移について検討した.a.試験薬剤4.併用薬剤および併用療法被験薬である1.5%LVFX点眼液として,1ml中にLVFX試験期間中の併用薬剤に関しては,被験薬以外の抗菌薬水和物15mg含有する防腐剤を含まない微黄色.黄色澄明(抗生物質,合成抗菌薬),副腎皮質ステロイド剤(眼瞼を除な水性点眼液を用いた.く皮膚局所投与は可)およびすべての眼局所投与製剤を禁止b.試験デザイン・投与方法した.ただし,細菌性角膜炎に対する散瞳剤の点眼は認め本試験はオープンラベルによる多施設共同試験として実施た.した.また,試験期間中の併用療法に関しては,眼に対するレー被験者から文書による同意取得後,試験期間に移行した.ザー手術,観血的手術およびコンタクトレンズの装用を禁止被験薬の用法用量は細菌性結膜炎については1回1滴,1した.日3回とし,細菌性角膜炎については1回1滴,1日3.85.評価方法回(症状に応じて適宜増減可)とした.点眼期間は14日間a.有効性(許容範囲17日以内)とした.ただし,すべての自覚症状・主要評価項目は,臨床効果とし,抗菌点眼薬臨床評価のガ他覚所見が消失した場合には7日目で終了可とした.イドライン(案)および日本眼感染症学会の制定した効果判試験開始時(0日目),3日目,7日目,14日目の来院時に定基準(1985年)に基づき,「著効」,「有効」,「無効」,「悪表3のスケジュールに定められた検査・観察を実施した.化」の4段階に分類し,本剤の評価を行った(表4).3.検査・観察項目および検査・観察時期副次評価項目は,検出菌の消失日数,主症状の消失日数,被験者背景については年齢,性別および眼の合併症の有無主症状,自覚症状・他覚所見の合計スコアの推移とした.などに関する情報を収集した.両眼が細菌性結膜炎または細菌性角膜炎を罹患していた場自覚症状については異物感,流涙,眼痛,眼掻痒感および合には,選択基準を満たし,かつ主症状の点数が高いほうの羞明について,その症状の程度を確認し(.).(+++)点で点眼を評価対象眼とし,主症状の点数が同じ場合には,自覚症数化した.他覚所見については眼脂,結膜充血,結膜浮腫,状・他覚所見の点数の合計が高いほうの眼とした.また,合眼瞼腫脹,角膜浸潤,角膜上皮欠損,前房内炎症,角膜浮腫計スコアも同じ場合には,右眼を評価対象眼とした.および毛様充血について,その所見の程度を確認し(.).初診時の細菌検査で複数の菌が検出された場合において(+++)点で点数化した.自覚症状,他覚所見の点数化の基準は,特定菌(Haemophilusinfluenzae,Moraxellaspecies,は以下のとおりとした.Pseudomonasaeruginosa,Streptococcuspneumoniae,(+++):症状・所見が高度のものStaphylococcusaureus)が検出された場合はこれを起炎菌と(++):症状・所見が中等度のものし,特定菌以外の菌のみが検出された場合は検出された菌す(+):症状・所見が軽度のものべてを起炎菌として取り扱った.(±):症状・所見がほぼないものb.安全性(.):症状・所見がないもの安全性は,有害事象および副作用,臨床検査値の異常変細菌検査については評価対象眼の患部を綿棒で擦過して検動,眼科的検査(視力検査)結果の推移をもとに評価した.体を採取し,カルチャースワブに封入し,三菱化学メディエ6.解析方法ンス株式会社が分離,同定および薬剤感受性試験を実施し有効性の解析対象集団の検討には,最大の解析対象集団た.(FAS:FullAnalysisSet)を対象とし,診断名別に解析を(91)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012671 表4臨床効果判定基準著効:3日目の観察までに検出菌が消失し,かつ7日目の観察までに主症状が消失しているもの.ただし7日目の観察までに自覚症状・他覚所見の合計スコアが1/4以下にならないものは有効とする.有効:以下1.3のいずれかを満たすもの.1.7日目の観察までに検出菌が消失し,かつ14日目の観察までに主症状が消失しているもの.ただし14日目の観察までに自覚症状・他覚所見の合計スコアが1/4以下にならないものは無効とする.2.3日目の観察までに検出菌が消失し,かつ7日目の観察までに自覚症状・他覚所見の合計スコアが1/2以下になったもの.3.検出菌が消失しなくても,7日目の観察までに自覚症状・他覚所見の合計スコアが1/3以下になったもの.無効:有効以上に該当する効果を示さなかったもの.悪化:有効以上に該当する効果を示さず,かつ主症状または自覚症状・他覚所見の合計スコアが0日目の観察より悪化したもの.検出菌の消失とは,以下のいずれかを満たす場合とする.①0日目の細菌検査で,特定菌(インフルエンザ菌,モラクセラ菌,緑膿菌,肺炎球菌,黄色ブドウ球菌)が検出され,以降の細菌検査でその特定菌が検出されなかった場合(特定菌以外の菌の有無は問わない).②0日目の細菌検査で,特定菌が検出されないが,特定菌以外の菌が検出され,以降の細菌検査でその菌が検出されなかった場合.行った.主要評価項目である臨床効果については,分布を集計し,有効率の95%信頼区間を算出した.副次評価項目のうち,検出菌の消失日数および主症状の消失日数については,3日目,7日目,14日目,消失せずに分類し,分布を集計した.主症状および自覚症状・他覚所見の合計スコアの推移については,時期別の測定値を示し,0日目に対する前後比率の集計を行い,対応あるt検定を行った.安全性の解析対象集団の検討には,被験薬を少なくとも1回点眼し,安全性に関する何らかの情報が得られている被験者を対象とし,診断名別に解析を行った.安全性の解析のうち,有害事象および副作用については,発現例数と発現率を集計した.また,臨床検査値については,各検査項目別の異常変動の発現例数と発現率を集計し,連続量データについては,対応のあるt検定を,順序尺度データに関しては符号検定を行った.視力検査については,対応のあるt検定を行った.検定の有意水準は両側5%とし,信頼区間は両側95%とした.解析ソフトはSASversion9.1(SASInstituteInc.,Cary,NC)を用いた.II結果1.被験者背景文書同意が得られ,試験に組み入れられた症例は238例(細菌性結膜炎221例,細菌性角膜炎17例)であった.そのうち,菌陰性例などを除く176例(細菌性結膜炎170例,細菌性角膜炎6例)が有効性解析対象集団としてFASに採用された.また,238例(細菌性結膜炎221例,細菌性角膜炎17例)すべてが安全性解析対象集団として採用された(図1).FASにおける被験者背景を表5に示す.年齢の平均は50.8±22.2歳,8.87歳の幅広い患者層が組み入れられた.2.有効性a.臨床効果本剤の点眼による臨床効果を疾患別に図2に示した.有効率(著効または有効であった症例の割合)は,細菌性有効性解析対象(FAS)の被験者:176例細菌性結膜炎:170例細菌性角膜炎:6例安全性解析対象の被験者:238例細菌性結膜炎:221例細菌性角膜炎:17例文書同意を得た被験者:238例細菌性結膜炎:221例細菌性角膜炎:17例安全性解析対象除外:0例細菌性結膜炎:0例細菌性角膜炎:0例有効性解析対象(FAS)除外:62例細菌性結膜炎:51例細菌性角膜炎:11例図1有効性および安全性の解析対象集団の内訳672あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(92) 表5被験者背景項目分類細菌性結膜炎細菌性角膜炎合計例数1706176性別男性女性83(48.8)87(51.2)2(33.3)4(66.7)85(48.3)91(51.7)年齢Minimum.MaximumMean±SD15歳未満(小児)15歳以上(非小児)65歳未満(非高齢者)65歳以上(高齢者)8.8750.4±22.14(2.4)166(97.6)105(61.8)65(38.2)27.8362.8±24.20(0.0)6(100.0)2(33.3)4(66.7)8.8750.8±22.24(2.3)172(97.7)107(60.8)69(39.2)眼の合併症の有無なしあり122(71.8)48(28.2)4(66.7)2(33.3)126(71.6)50(28.4)例数(%).■:著効:有効全体(n=176)90.9%9.1%細菌性結膜炎90.6%9.4%(n=170)細菌性角膜炎(n=6)100.0%0102030405060708090100割合(%)図2臨床効果細菌性結膜炎および細菌性角膜炎の著効率はそれぞれ90.6%および100.0%,有効率はいずれも100.0%であった.結膜炎で100.0%(170/170例),細菌性角膜炎でも100.0%(6/6例)であり,無効例および悪化例は認められなかった.著効率(著効であった症例の割合)は,細菌性結膜炎で90.6%(154/170例),細菌性角膜炎で100.0%(6/6例)であった.b.初診時検出菌消失日数初診時検出菌の消失日数を表6に示した.3日目までに検出菌が消失した症例の割合は,細菌性結膜炎で95.3%(162/170例),細菌性角膜炎で100.0%(6/6例)であった.細菌性結膜炎の1例(検出菌:Corynebacteriumspecies,a-hemolyticstreptococci)を除くすべての症例において,7日目までに検出菌の消失を認めた.c.主症状消失日数主症状の消失日数を表7に示した.7日目までに主症状が消失した症例の割合は,細菌性結膜炎で96.5%(164/170例),細菌性角膜炎で100.0%(6/6例)であった.細菌性結膜炎の2例を除くすべての症例において,14日目までに主症状の消失を認めた.(93)表6初診時検出菌消失日数分類例数3日目7日目14日目消失せず細菌性結膜炎170162(95.3)7(4.1)0(0.0)1(0.6)細菌性角膜炎66(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)全体176168(95.5)7(4.0)0(0.0)1(0.6)例数(%).表7主症状消失日数分類例数3日目7日目14日目消失せず細菌性結膜炎170115(67.6)49(28.8)4(2.4)2(1.2)細菌性角膜炎64(66.7)2(33.3)0(0.0)0(0.0)全体176119(67.6)51(29.0)4(2.3)2(1.1)例数(%).d.主症状スコア,自覚症状・他覚所見の合計スコアの推移主症状スコアの推移を図3に示した.細菌性結膜炎および細菌性角膜炎のいずれにおいても,主症状スコアは,0日目と比較して3日目から有意な改善を認めた.(細菌性結膜炎:3日目,7日目および14日目いずれもp<0.001,細菌性角膜炎:3日目および7日目ではp<0.001,14日目ではp値算出不能)自覚症状・他覚所見の合計スコアの推移を図4に示した.細菌性結膜炎および細菌性角膜炎のいずれにおいても,自覚症状・他覚所見の合計のスコアは,0日目と比較して3日目から有意な改善を認めた.(細菌性結膜炎:3日目,7日目および14日目いずれもp<0.001,細菌性角膜炎:3日目および7日目ではp<0.001,14日目ではp=0.007)e.臨床分離株の薬剤感受性試験に登録された238例より分離された菌株数は330株であった.おもな検出菌はグラム陽性球菌が44.5%(147/330株),グラム陽性桿菌が27.3%(90/330株)であった.臨床あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012673 ***************:細菌性結膜炎:細菌性角膜炎***************:細菌性結膜炎:細菌性角膜炎162.014120日目***********:細菌性結膜炎:細菌性角膜炎合計スコア1.5主症状スコア108641.00.520******0.03日目7日目14日目0日目3日目7日目14日目n=(170)(170)(167)(70)(6)(6)(6)(2)図3主症状スコアの推移(実測値)細菌性結膜炎および細菌性角膜炎のいずれにおいても,主症状スコアは,0日目と比較して3日目から有意な改善を認めた.(***:p<0.001,対応あるt検定)分離株のLVFXに対する薬剤感受性を表8に示した.特定菌に分類される菌種に対するLVFXのMIC90(90%最小発育阻止濃度)は,Staphylococcusaureus(MSSA)で0.5μg/ml,Streptococcuspneumoniaeで1μg/ml,Haemophilusinfluenzaeで≦0.06μg/mlであった.また,Corynebacteriumspecies,Staphylococcusepidermidis(MRSE)およびStaphylococcusepidermidis(MSSE)に対するLVFXのMIC90について,Corynebacteriumspeciesで128μg/ml,Staphylococcusepidermidis(MRSE)で4μg/ml,Staphylococcusepidermidis(MSSE)で0.25μg/mlであった.f.初診時検出菌別の臨床効果本試験より初診時に検出された菌の初診時検出菌別の臨床効果を表9に示した.MIC90が比較的高値であったCorynebacteriumspeciesを含め,検出されたすべての菌種において有効率100.0%であった.3.安全性a.有害事象および副作用本試験に登録した238例,全例が安全性解析対象集団として採用された.試験期間中に発現した有害事象および副作用の発現率を表10に,副作用一覧を表11に示した.有害事象の発現率は10.9%(26/238例,28件)で,副作用の発現率は2.9%(7/238例,7件)であった.最も多く認められた副作用は「眼刺激」1.3%(3/238例,3件)であった.0.5%LVFX点眼液から1.5%LVFX点眼液に高濃度化することにより新たに認められた副作用は,軽度の「味覚異常(苦味)」0.8%(2/238例,2件)のみであった.有害事象の発現による中止例は2.1%(5/238例,5件)で認められた.そのうち副作用の発現による中止例は「じんま674あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012n=(170)(170)(167)(70)(6)(6)(6)(2)図4自覚症状・他覚所見の合計スコアの推移(実測値)細菌性結膜炎および細菌性角膜炎のいずれにおいても,自覚症状・他覚所見の合計のスコアは,0日目と比較して3日目から有意な改善を認めた.(***:p<0.001,**:p<0.01,対応あるt検定)疹(両大腿部の湿疹および四肢の掻痒感)」の1例のみであった.本事象は軽度であり被験薬投与中止後に速やかに消失した.本事象を含め,認められたすべての副作用の程度は軽度であり,試験期間中または試験期間終了後に速やかに回復した.また,年齢や性別による,副作用の発現率および重症度の差はみられなかった.b.臨床検査値の異常変動薬剤との因果関係が否定できない臨床検査値の異常変動は認められなかった.c.眼科的検査(視力検査)臨床的に問題となる視力の変動は認められなかった.III考察今回,0.5%LVFX点眼液を高濃度製剤化した1.5%LVFX点眼液の有効性と安全性を,細菌性結膜炎および細菌性角膜炎を対象としたオープンラベルの多施設共同試験により検討した.細菌性結膜炎および細菌性角膜炎に対する有効率は,いずれも100.0%であり,高い臨床効果が認められた.細菌性結膜炎および細菌性角膜炎でそれぞれ90.6%および100.0%と非常に高い著効率を示し,早期からQOL(qualityoflife)の改善が期待できる薬剤であることがうかがわれた.過去にも,本試験と同様の有効性評価基準を用いて,多くのキノロン系抗菌点眼薬が臨床試験において評価されてきた7.19)が,小児対象の試験のように患者層が限定されているケースや症例数が少数のケースを除き,有効率100.0%を示した報告はこれまでにない.過去に実施された臨床試験(第II相試験,第III相試験,一般臨床試験の累計)での0.5%(94) 表8臨床分離株のLVFXに対する薬剤感受性分類菌名株数薬剤MICrangeMIC50MIC80MIC90Staphylococcusaureus(MSSA)35LVFX0.12.0.50.250.250.5Staphylococcusaureus(MRSA)1LVFX8.8───Staphylococcusepidermidis(MSSE)32LVFX≦0.06.20.250.250.25Staphylococcusepidermidis(MRSE)26LVFX0.12.8444グラム陽性球菌Coagulasenegativestaphylococci10LVFX0.12.10.250.50.5Streptococcuspneumoniae27LVFX0.25.10.511GroupGstreptococci2LVFX0.25.0.5───a-hemolyticstreptococci10LVFX0.12.2111Enterococcusfaecalis4LVFX0.5.1111グラム陽性桿菌Corynebacteriumspecies90LVFX≦0.06.>1280.564128Klebsiellaoxytoca2LVFX≦0.06.≦0.06───Enterobacteraerogenes1LVFX≦0.06.≦0.06───Enterobacterspecies1LVFX≦0.06.≦0.06───Serratiamarcescens2LVFX≦0.06.0.12───Proteusmirabilis1LVFX1.1───Proteusvulgaris1LVFX≦0.06.≦0.06───Providenciarettgeri1LVFX0.25.0.25───Pantoeaagglomerans5LVFX≦0.06.≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06Citrobacterkoseri1LVFX≦0.06.≦0.06───グラム陰性桿菌Burkholderiacepacia1LVFX0.5.0.5───Stenotrophomonasmaltophilia1LVFX1.1───Acinetobactercalcoaceticus1LVFX≦0.06.≦0.06───Acinetobacterspecies2LVFX0.5.0.5───Alcaligenesxylosoxidans10LVFX1.2122Alcaligenesfaecalis1LVFX1.1───Comamonasacidovorans4LVFX0.12.0.120.120.120.12Sphingomonaspaucimobilis1LVFX0.25.0.25───Nonglucosefermentativegram-negativerods6LVFX≦0.06.20.250.52Haemophilusinfluenzae19LVFX≦0.06.≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06嫌気性グラム陽性菌Propionibacteriumacnes30LVFX0.5.0.50.50.50.5Anaerobicgram-positiverods1LVFX0.25.0.25───嫌気性グラム陰性菌Prevotellaspecies1LVFX0.25.0.25───全体330LVFX≦0.06.>1280.518※3株未満の場合はMIC値を算出せず.LVFX点眼液(クラビットR点眼液0.5%)の著効率は,細菌性結膜炎および細菌性角膜炎に対して,それぞれ64.5%および71.4%であり,今回の1.5%LVFX点眼液の著効率はこれらの値を大きく上回っている.さらに,これまでに報告されている他のキノロン系抗菌点眼薬の著効率についてみても,0.3%ガチフロキサシン点眼液の細菌性結膜炎に対する57.6%10),細菌性角膜炎に対する44.4%11),0.5%モキシフ(95)ロキサシン点眼液の細菌性結膜炎に対する46.0%17)および53.8%19),細菌性角膜炎に対する30.0%18),0.3%トスフロキサシン点眼液の細菌性結膜炎に対する37.5%14)および38.0%15),細菌性角膜炎に対する36.4%14)の数値を1.5%LVFX点眼液の著効率は凌駕している.同様の傾向は,菌あるいは症状消失率にもうかがえる.たとえば,1.5%LVFX点眼液の場合,初診時検出菌が3日目あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012675 表9初診時検出菌別臨床効果臨床効果疾患名菌名例数著効有効無効悪化有効率Staphylococcusaureus(MSSA)3433(97.1)1(2.9)0(0.0)0(0.0)100.0Staphylococcusaureus(MRSA)11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Staphylococcusepidermidis(MSSE)3028(93.3)2(6.7)0(0.0)0(0.0)100.0Staphylococcusepidermidis(MRSE)2322(95.7)1(4.3)0(0.0)0(0.0)100.0Coagulasenegativestaphylococci87(87.5)1(12.5)0(0.0)0(0.0)100.0Streptococcuspneumoniae2520(80.0)5(20.0)0(0.0)0(0.0)100.0GroupGstreptococci22(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0a-hemolyticstreptococci87(87.5)1(12.5)0(0.0)0(0.0)100.0Enterococcusfaecalis44(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Corynebacteriumspecies7463(85.1)11(14.9)0(0.0)0(0.0)100.0Klebsiellaoxytoca22(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Enterobacteraerogenes11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Enterobacterspecies11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0細菌性結膜炎Serratiamarcescens11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Proteusmirabilis11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Proteusvulgaris11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Pantoeaagglomerans44(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Citrobacterkoseri11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Burkholderiacepacia11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Acinetobactercalcoaceticus11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Alcaligenesxylosoxidans77(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Comamonasacidovorans33(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Nonglucosefermentativegram-negativerods22(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Haemophilusinfluenzae1716(94.1)1(5.9)0(0.0)0(0.0)100.0Propionibacteriumacnes1310(76.9)3(23.1)0(0.0)0(0.0)100.0Anaerobicgram-positiverods10(0.0)1(100.0)0(0.0)0(0.0)100.0Prevotellaspecies11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Staphylococcusaureus(MSSA)11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0細菌性角膜炎Staphylococcusepidermidis(MSSE)11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Corynebacteriumspecies55(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Serratiamarcescens11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0例数(%).表10有害事象および副作用の発現率項目細菌性結膜炎細菌性角膜炎合計例数22117238有害事象24(10.9)2(11.8)26(10.9)副作用6(2.7)1(5.9)7(2.9)例数(%).676あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012までに消失した症例の割合は,細菌性結膜炎で95.3%,細菌性角膜炎で100.0%,主症状が7日目までに消失した症例の割合は,細菌性結膜炎で96.5%,細菌性角膜炎で100.0%であったが,他方で,過去に実施されたクラビットR点眼液0.5%の臨床試験(第II相試験,第III相試験,一般臨床試験の累計)における,3日目までに初診時検出菌が消失した症例の割合は,細菌性結膜炎で84.1%,細菌性角膜炎で90.0%,主症状が7日目までに消失した症例の割合は,細菌性結(96) 表11副作用発現率一覧細菌性結膜炎細菌性角膜炎全体器官大分類(SOC)基本語(PT)発現率:6/221(2.7)重症度発現率:1/17(5.9)重症度発現率:7/238(2.9)重症度軽度中等度高度軽度中等度高度軽度中等度高度眼刺激2(0.9)──1(5.9)──3(1.3)──眼障害眼掻痒症1(0.5)─────1(0.4)──小計3(1.4)──1(5.9)──4(1.7)──味覚異常2(0.9)─────2(0.8)──神経系障害小計2(0.9)─────2(0.8)──皮膚およびじんま疹1(0.5)─────1(0.4)──皮下組織障害小計1(0.5)─────1(0.4)──合計(件数)6──1──7──例数(%).膜炎で78.0%,細菌性角膜炎で86.7%にとどまっている.また,0.5%モキシフロキサシン点眼液についても,3日目までに初診時検出菌が消失した症例の割合は,細菌性結膜炎で76.3%17)および82.3%19),細菌性角膜炎で70.0%18),主症状が7日目までに消失した症例の割合は,細菌性結膜炎で60.4%17)および70.0%19),細菌性角膜炎で40.0%18)であり,1.5%LVFX点眼液には及ばない.このように,1.5%LVFX点眼液による早期の菌消失は視機能の維持・改善に,早期の症状消失は患者のQOL向上につながることが大いに期待される.本試験における初診時検出菌については,グラム陽性菌の割合が高く,細菌性結膜炎の場合,Corynebacteriumspecies,Staphylococcusepidermidis,Staphylococcusaureus,Propionibacteriumacnes,Streptococcuspneumoniae,Haemophilusinfluenzaeが上位を占めた.1.5%LVFX点眼液はグラム陰性菌のほか,MIC90が比較的高値を示したCorynebacteriumspeciesを含むグラム陽性菌に対しても高い臨床効果を示しており,すべての菌種に対して有効以上であった.なお,本試験で臨床分離された菌株の薬剤感受性を,クラビットR点眼液0.5%の発売後の5年間(2000年5月から2004年12月まで)で実施された全国サーベイランスの薬剤感受性結果20.22),ならびにCOI(Core-NetworkofOcularInfection)による細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間(2004年11月から2009年12月まで)の動向調査23)と比較しても顕著な低下はない.ただし,MICが高値を示す菌種も一部検出されており,これについては引き続きその動向を慎重に追跡していく必要がある.1.5%LVFX点眼液の副作用の発現頻度は2.9%であり,他の抗菌点眼薬の副作用発現率(1.69.5.83%:クラビットR(97)点眼液0.5%,ガチフロR点眼液0.3%,ベガモックスR点眼液0.5%およびオゼックスR点眼液0.3%の添付文書より)と比較して同程度の安全性であった.投与中止に至った副作用として「じんま疹」1例がみられたが,これは,クラビットR点眼液0.5%およびその他のキノロン系抗菌点眼薬でもこれまで認められている範疇のものである.その他の副作用の程度はすべて軽度であり,高濃度化することにより新たに認められた副作用は,LVFXの原薬の苦味に由来すると思われる軽度の「味覚異常(苦味)」2例のみであり,また,副作用の発現率や重症度について,年齢および性別による差はみられなかった.米国ではすでに2007年より,角膜潰瘍を対象疾患として1.5%LVFX点眼液(販売名IQUIXR)が,医療現場で使用されているが,安全性に関する問題は特に認められていない.一方で,今回の対象疾患は細菌性結膜炎および細菌性角膜炎に限定されているため,今後は,他の疾患での安全性の確認は必要である.近年,PK-PD理論のもと,抗菌薬の有効性は薬物動態と密接に関連することが示されている.全身薬の領域では,高用量製剤であるクラビットR錠500mgが2009年7月より販売されており,PK-PDの観点から,高い治療効果と耐性菌の出現抑制に期待が寄せられている.本剤についても,invitroシミュレーションモデルにおいて,0.5%LVFX点眼液よりも優れた,Staphylococcusaureus(MSSA)およびPseudomonasaeruginosaに対する耐性化の抑制効果を有することが確認されている.細菌性眼感染症の診療においては,起炎菌が特定できない場合,疾患・菌種によっては症状の進行が急速で予後不良の場合もあるため24.27),重症化を阻止するには,早期診断に加えて早期治療を確実かつ効果的に行うことが肝要である.幅広い菌種に対して高い有効性と安全性を併せ持つ1.5%あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012677 LVFX点眼液の登場により,重症患者への治療もより効率的となり,結果として,医療現場での満足度が高まることが期待される.ただし,世界的に抗菌薬の創出が困難な状況下では,無用な耐性菌の出現を抑制するために,本剤の適正使用を推進していくことが重要である.文献1)河嶋洋一,高階秀雄,臼井正彦:オフロキサシンおよびレボフロキサシン点眼液の薬動力学的パラメーター.あたらしい眼科12:791-794,19952)佐々木一之,三井幸彦,福田正道ほか:点眼用抗菌薬の眼内薬動力学的パラメーターとしてのAQCmaxの測定.あたらしい眼科12:787-790,19953)佐藤玲子,谷川原祐介:2.抗菌薬のPK/PD.医薬ジャーナル41:67-74,20054)PrestonSL,DrusanoGL,BermanALetal:Pharmacodynamicsoflevofloxacin:anewparadigmforearlyclinicaltrials.JAMA279:125-129,19985)ClarkL,BezwadaP,HosoiKetal:Comprehensiveevaluationofoculartoxicityoftopicallevofloxacininrabbitandprimatemodels.JToxicolCutanOculToxicol23:1-18,20046)McDonaldMB:Researchreviewandupdate:IQUIX(levofloxacin1.5%).IntOphthalmolClin46:47-60,20067)臼井正彦:レボフロキサシン点眼液の臨床第二相試験─多施設二重盲検法─.あたらしい眼科14:299-307,19978)臼井正彦:レボフロキサシン点眼液の臨床第III相試験─多施設二重盲検法─.あたらしい眼科14:641-648,19979)臼井正彦:レボフロキサシン点眼液の第三相一般臨床試験.あたらしい眼科14:1113-1118,199710)大橋裕一,秦野寛:細菌性結膜炎に対するガチフロキサシン点眼液の臨床第III相試験(多施設無作為化二重盲検比較試験).あたらしい眼科22:123-131,200511)大橋裕一,秦野寛:0.3%ガチフロキサシン点眼液の多施設一般臨床試験.あたらしい眼科22:1155-1161,200512)秦野寛,大橋裕一,宮永嘉隆ほか:小児の細菌性外眼部感染症に対するガチフロキサシン点眼液の臨床成績.あたらしい眼科22:827-831,200513)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の急性細菌性結膜炎を対象としたプラセボとの二重遮蔽比較試験.あたらしい眼科23(別巻):55-67,200614)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭ほか:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の細菌性外眼部感染症を対象とするオープン試験.あたらしい眼科23(別巻):68-80,200615)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭ほか:ニューキノロン系抗菌点眼液TN-3262a(0.3%トシル酸トスフロキサシン点眼液)の細菌性結膜炎を対象としたレボフロキサシンとの二重遮蔽比較多施設共同試験.あたらしい眼科23(別巻):95-110,200616)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭ほか:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の小児の細菌性外眼部感染症を対象とする非対照非遮蔽多施設共同試験.あたらしい眼科23(別巻):118-129,200617)下村嘉一,大橋裕一,松本光希ほか:細菌性結膜炎に対するMoxifloxacin点眼液の臨床第III相比較試験─多施設無作為化二重遮蔽比較試験─.あたらしい眼科24:1381-1394,200718)松本光希,大橋裕一,臼井正彦ほか:細菌性角膜炎(角膜上皮炎,角膜潰瘍)に対するMoxifloxacin点眼液の臨床第III相試験─多施設共同試験─.あたらしい眼科24:13951405,200719)岡本茂樹,大橋裕一,臼井正彦ほか:細菌性外眼部感染症に対するMoxifloxacin点眼液の臨床第III相試験(多施設共同試験).あたらしい眼科24:1661-1674,200720)松崎薫,小山英明,渡部恵美子ほか:眼科領域における細菌感染症起炎菌のlevofloxacin感受性について.化学療法の領域19:431-440,200321)松崎薫,渡部恵美子,鹿野美奈ほか:2002年2月から2003年6月の期間に細菌性眼感染症患者より分離された各種新鮮臨床分離株のLevofloxacin感受性.あたらしい眼科21:1539-1546,200422)小林寅喆,松崎薫,志藤久美子ほか:細菌性眼感染症患者より分離された各種新鮮臨床分離株のLevofloxacin感受性動向について.あたらしい眼科23:237-243,200623)小早川信一郎,井上幸次,大橋裕一ほか:細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間の動向調査(多施設共同研究).あたらしい眼科28:679-687,201124)松本光希:2.感染症細菌性角膜潰瘍.眼の感染・免疫疾患正しい診断と治療の手引き,p28-33,メジカルビュー社,199725)井上幸次,大橋裕一,浅利誠志ほか:感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌111:769-809,200726)松本光希:細菌性角膜炎の起炎菌別の特徴のポイントは?.あたらしい眼科26(臨増):20-22,200927)北川和子:細菌性角膜炎の治療のポイントは?あたらしい眼科26(臨増):32-34,2009***678あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(98)

レボフロキサシンの薬剤感受性結果とガチフロキサシン・モキシフロキサシン・セフメノキシムの感受性相関

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(121)1025《原著》あたらしい眼科28(7):1025?1028,2011cはじめに眼感染症治療薬として,抗菌スペクトルの広さからキノロン系点眼薬がエンピリック・セラピーとして用いられることが多く1~4),なかでもレボフロキサシン(LVFX)は安全性と組織移行性より第一選択薬として汎用されている.しかし,起因菌が確認されず,薬剤感受性試験の結果も判明していない状態での「とりあえずキノロン」といった安易な抗菌薬濫用は,耐性菌の誘導を招き,治療失敗となる原因の一つである.LVFXなどのキノロン薬耐性化に伴い3,5),より抗菌力の強いキノロン薬としてガチフロキサシンン(GFLX)やモキシフロキサシン(MFLX)が開発され2,5),キノロン系点眼薬の選択肢は増加した.その結果,抗菌力の強さに期待し,LVFXに耐性であった場合の第二選択薬としてGFLXやMFLXが選択されることもあり,最新のサンフォード感染〔別刷請求先〕木村圭吾:〒565-0871吹田市山田丘2-15大阪大学医学部附属病院臨床検査部Reprintrequests:KeigoKimura,LaboratoryforClinicalInvestigation,OsakaUniversityHospital,2-15Yamadaoka,Suita-city,Osaka565-0871,JAPANレボフロキサシンの薬剤感受性結果とガチフロキサシン・モキシフロキサシン・セフメノキシムの感受性相関木村圭吾*1西功*1豊川真弘*1砂田淳子*1上田安希子*1坂田友美*1井上依子*1浅利誠志*1,2*1大阪大学医学部附属病院臨床検査部*2同感染制御部SusceptibilityTestingofLevofloxacinandItsCorrelationtoGatifloxacin,MoxifloxacinandCefmenoximeKeigoKimura1),IsaoNishi1),MasahiroToyokawa1),AtsukoSunada1),AkikoUeda1),TomomiSakata1),YorikoInoue1)andSeishiAsari1,2)1)DivisionofClinicalMicrobiology,2)InfectionControlTeam,OsakaUniversityMedicalHospital眼科材料由来(61株)および他の臨床材料由来(19株)の計80株に対してレボフロキサシン(LVFX),ガチフロキサシン(GFLX),モキシフロキサシン(MFLX),セフメノキシム(CMX)の薬剤感受性を測定し,特にキノロン系抗菌薬3剤の相関関係を検討した.キノロン3剤の感受性結果は73株(91.3%)が一致し,LVFXが中等度耐性もしくは耐性を示した株(34株)のうちGFLX・MFLXの少なくとも1剤がLVFXに比し良好な感受性を示した株は6株(17.6%)であった.一方CMXに対しては,methicillin-susceptibleStaphylococcusspp.,Streptococcusspp.,Corynebacteriumspp.の90%以上が感受性を示した.したがってLVFX耐性時のGFLX・MFLXの安易な使用は避けるべきであり,上記細菌群に対してはむしろCMXが推奨された.Wecarriedoutsusceptibilitytestingoflevofloxacin(LVFX),gatifloxacin(GFLX),moxifloxacin(MFLX)andcefmenoxime(CMX)against61strainsfromocularclinicalisolatesand19strainsfromotherclinicalspecimens.Thecorrelationsbetweenthethreequinoloneantibioticswerealsostudied.Ofthe80strainsintotal,73strains(91.3%)exhibitedcommonresultsregardingthethreequinolones.Sixoutof34strainsshowedthatGFLXand/orMFLXweremorepotentthanLVFX,whichwasinterpretedasintermediatesusceptibilityorresistancetoLVFX.Ontheotherhand,over90%ofthemethicillin-susceptibleStaphylococcusspp.,Streptococcusspp.andCorynebacteriumspp.strainsweresusceptibletoCMX.CMXwasthereforerecommended,ratherthanthethreequinolones,againstthesestrains.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(7):1025?1028,2011〕Keywords:レボフロキサシン,ガチフロキサシン,モキシフロキサシン,セフメノキシム,キノロン系抗菌薬.levofloxacin,gatifloxacin,moxifloxacin,cefmenoxime,quinolone.1026あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(122)症治療ガイド6)では,急性の細菌性角膜炎に対しては両薬剤が第一・第二選択薬として推奨されているが,はたして,LVFX治療無効後のGFLX・MFLXの使用は真に適切であるといえるであろうか.今回筆者らは,LVFX耐性時のGFLX・MFLXの有効性を検証し,「実際に,GFLX・MFLXの2剤は使用可能なのか」という眼科医の疑問に回答するため,眼科材料由来の検出菌株を中心にLVFX・GFLX・MFLXの3剤およびセフェム系唯一の点眼薬であるセフメノキシム(CMX)の薬剤感受性を比較検討した.特にキノロン系点眼薬の3剤の使用方法に関して一つの提言をしたい.I対象および方法1.検査対象菌株2003年に実施された感染性角膜炎全国サーベイランス7)にて収集された分離菌および当院で検出された眼科材料由来の検出菌より,methicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA)を8株,methicillin-susceptibleStaphylococcusaureus(MSSA)を4株,methicillin-resistantStaphylococcusepidermidis(MRSE)を6株,methicillin-susceptibleStaphylococcusepidermidis(MSSE)を7株,Pseudomonasaeruginosa(P.aerugonosa)を7株,Streptococcuspneumoniae(S.pneumoniae)を9株,S.peumoniaeを除くStreptococcusspp.を10株,Corynebacteriumspp.を10株使用した.さらに当検査室保存株より血液由来株15株(MRSA:2株,MSSA:6株,MRSE:4株,MSSE:3株),髄液由来株1株(S.pneumoniae),およびキノロン耐性のP.aeruginosaとしてmultidrugresistantP.aeruginosa(MDRP)を3株加え,合計80株を検査対象菌株とした.また,精度管理株はStaphylococcusaureusATCC25,923株,P.aeruginosaATCC27,853株,EscherichiacoliATCC25,922株を用いた.2.試験薬剤LVFX,GFLX,MFLXおよびCMXの4薬剤を使用した.3.薬剤感受性試験方法センシ・ディスクTM(BD)を用いたKirby-Bauer法にて感受性試験を実施した.試験用培地は,Staphylococcusspp.およびP.aeruginosaに対してはMuellerHintonAgar(BD)を,一方S.pneumoniae,Streptococcusspp.およびCorynebacteriumspp.に対してはMuellerHintonAgarwith5%SheepBlood(BD)を使用した.各薬剤の感受性判定は,センシ・ディスクTMの添付文書(判定表)に従い判定した.判定基準の記載のないP.aeruginosa,Streptococcusspp.に対するMFLXの感受性結果,およびCorynebacteriumspp.に対する4剤の感受性結果は,すべてS.pneumoniaeの判定基準を用いて判定を行った.II結果1.キノロン3剤(LVFX・GFLX・MFLX)の感受性相関(表1)全80株のうち73株(91.3%)がキノロン3剤の感受性結果(感受性:S,中等度耐性:I,耐性:R)が一致した.MRSAは,10株すべてがキノロン3剤にRを示した.MSSAは1株(No.15)のみLVFX:Rであり,その株はMRSA同様3剤ともRであった.残り9株はキノロン3剤がすべてSで一致した.MRSEは,今回検証した菌株のうちキノロン3剤の感受性結果に最も差が生じた細菌群であり,3株(No.22,23,28)においてLVFXに比しGFLXまたはMFLXが有効である結果が得られた.この3株の感受性結果はLVFX/GFLX/MFLXの順にR/I/I,I/S/S,R/R/Iであった.一方,他の3株(No.27,29,30)はキノロン3剤ともRで一致,1株(No.21)はIで一致,残り3株はSで一致した.MSSEは,3剤の感受性結果に差が生じた株は存在せず,3株(No.33,34,38)はRで一致,1株(No.32)はIで一致,残り6株はSで一致した.P.aeruginosaは,LVFXおよびGFLXがI,MFLXがRという他菌種とは異なる結果を示した株(No.46)が1株確認された.MDRP(No.48,49,50)については3株すべてキノロン3剤に耐性を示し,GFLXおよびMFLXの有効性は示されず,残り6株はSで一致した.Streptococcusspp.は3株(No.51,59,60)がキノロン3剤ともRで一致,残り7株はSで一致した.S.pneumoniaeは1株(No.62)のみLVFX:Rであり,この株はGFLX:R,MFLX:Iであった.残り9株はSで一致した.Corynebacteriumspp.は,キノロン3剤の感受性結果に差が生じた株が2株(No.71,72)確認され,この2株の感受性結果はLVFX/GFLX/MFLXの順にI/S/S,R/R/Iであった.一方,他の2株(No.73,79)はRで一致,残り6株はSで一致した.2.CMXの感受性結果(表1)CMXは,MRSA,MRSE,P.aeruginosaを除く細菌群50株のうち49株(98%)において感受性を示した.III考察キノロン系点眼薬は,眼感染症治療や術前後の感染予防に広く使用されている.オフロキサシンなどのolderfluoroquinolonesとよばれるキノロン系抗菌薬の耐性化が問題視された後,LVFX,GFLXそしてMFLXが開発され点眼薬として承認されてきた経緯がある.なかでも特にLVFXは使用頻度が高いが,MRSAに対しては感受性率0%,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌に対しては感受性率10%との報告1,2)も存在し,その使用には注意が必要であり,感受性試験実施の重要性が指摘されている.(123)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111027今回筆者らは,LVFX:Rのとき,GFLXやMFLXをその代替薬として使用できるかを確認するため,各菌種に対する薬剤感受性試験を実施した.LVFXがIもしくはRを示した株(34株)のうち,GFLXおよびMFLXのうち少なくとも1剤がLVFXに比し良好な感受性を示した株は6株(17.6%)であった.今回は最小発育阻止濃度(MIC)を測定していないため,各キノロン薬の詳細なMIC値による優劣比較は困難であるが,少なくともGFLXおよびMFLXはLVFXに比し特にグラム陽性菌に対して有意に抗菌力が強いとの多くの報告1,2,5,8)とは異なる結果であり,LVFX耐性時のGFLXおよびMFLXの使用を推奨できる結果ではなかった.グラム陰性菌に対するGFLX・MFLXの抗菌力は,グラム陽性菌の場合と同様,LVFXと同等であり,特にこの2剤が優れているという結果は得られなかった.グラム陰性菌に対し,キノロン3剤の間に優劣は認められなかったという筆者らの報告は,Matherら1),Kowalskiら2)の報告と一致する.キノロン系抗菌薬は,DNA複製に関与するDNAジャイレースとトポイソメラーゼⅣを阻害することにより作用する.したがって,細菌がキノロン耐性を獲得するためには,細菌DNAのキノロン耐性決定領域に存在するDNAジャイレースのサブユニットA遺伝子(gyrA)およびトポイソメラーゼⅣのサブユニットC遺伝子(parC)に変異が加わる必要があるといわれている.細菌がGFLX・MFLXに耐性となるためには,gyrAおよびparC両者の同時変異が必要であるため,LVFXに比し耐性は獲得しにくく,感受性の低下も少ないと考えられている2,4,8,9).しかし,今回の検討では,LVFX:Rの株(29株)のうち25株(86.2%)が他2剤のキノロンも同様にRであった.これは,薬剤間の交差耐性機構などによりすでに両遺伝子に変異を有している株が多く存在している可能性が高いことを強く示唆しているため,LVFX:Rの株に対して安易にGFLXやMFLXを使用すべきではないとの結論となる.通常の薬剤感受性検査では,多種類の抗菌薬を同時に測定するため代表薬剤であるLVFX以外のキノロン系薬剤を複数同時に測定することはルーチン検査ではきわめて煩雑である.このため臨床からは,「LVFX:Rのとき,GFLXやMFLXは使用可能なのか.その2剤の感受性試験も追加で実施してほしい」との問い合わせが多く,今回の検討はそのような検査依頼に応えるため実施したものである.GFLXお表1LVFX,GFLX,MFLX,CMXの感受性結果一覧MRSAMSSAMRSEMSSENo.LVFXGFLXMFLXCMXNo.LVFXGFLXMFLXCMXNo.LVFXGFLXMFLXCMXNo.LVFXGFLXMFLXCMX1RRRR11SSSS21IIIR31SSSS2RRRR12SSSS22RIIR32IIIS3RRRR13SSSS23ISSR33RRRS4RRRR14SSSS24SSSR34RRRS5RRRR15RRRS25SSSR35SSSS6RRRR16SSSS26SSSR36SSSS7RRRR17SSSS27RRRR37SSSS8RRRR18SSSS28RRIR38RRRS9RRRR19SSSS29RRRR39SSSS10RRRR20SSSS30RRRR40SSSSP.aeruginosaStreptococcusspp.(S.pneumoniaeを除く)S.pneumoniaeCorynebacteriumspp.No.LVFXGFLXMFLXCMXNo.LVFXGFLXMFLXCMXNo.LVFXGFLXMFLXCMXNo.LVFXGFLXMFLXCMX41SSSI51RRRS61SSSS71ISSS42SSSI52SSSS62RRIS72RRIS43SSSI53SSSS63SSSS73RRRS44SSSI54SSSS64SSSS74SSSS45SSSI55SSSS65SSSS75SSSS46IIRR56SSSS66SSSS76SSSS47SSSI57SSSS67SSSS77SSSS48RRRR58SSSS68SSSS78SSSS49RRRR59RRRS69SSSS79RRRR50RRRR60RRRS70SSSS80SSSS感受性(S),中等度耐性(I),耐性(R)と表記し,各菌に対するLVFX,GFLX,MFLXおよびCMXの感受性結果を示した.キノロン3剤の結果に乖離のみられた菌については■で表現した.1028あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(124)よびMFLXがLVFXに比し有効である場合はむしろ少なく,比較検討した80株中73株(91.3%)がLVFXと同様の感受性結果であったため,GFLXおよびMFLXの感受性結果は,LVFXの結果から十分推定可能であることが示唆された.したがって,微生物検査室の対応として,国内で使用可能なキノロン系点眼薬6種すべての感受性を試験する必要はなく,広く使用されているLVFXを試験することで十分であると思われた.前述の眼科医からの依頼に対する回答としては,「LVFX:Rのとき,GFLXおよびMFLXも80%以上同様にRですので,感受性結果は同一と考えてください.」との回答が適当と考える.一方CMXは,MSSA,MSSE,Streptococcusspp.,S.pneumoniaeおよびCorynebacteriumspp.の各々に対して90%以上の感受性を示した.キノロン3剤がIもしくはR,しかしCMX:Sを示す株も11株存在し,キノロン薬以上の有効性が期待できる場合があることが示唆された.加茂ら9)はCorynebacteriumspp.,MSSA,Streptococcusspp.に対して,CMXはLVFX・GFLXに比し同等以上の感受性を有していたと報告しており,渡邉ら4),宇野ら10)は上記の同様の菌種に対して,CMXがLVFX・GFLX・MFLXに比し同等かそれ以上に低いMIC90を示した,と報告している.菌種によっては,CMXがキノロン薬以上の有効性を示した筆者らの結果と一致する.以上,キノロン3剤の薬剤感受性センシ・ディスクTM(BD)を用いたKirby-Bauer法にて比較検討した結果,90%以上の株で感受性結果が一致しており,GFLXおよびMFLXの2剤が特に有用性が高いとは言い難い結果であった.眼感染症治療に際しては,基本に戻り,塗抹・培養検査を実施し起因菌の特定と薬剤感受性試験の実施が重要である.文献1)MatherR,KarenchakLM,RomanowskiEGetal:Fourthgenerationfluoroquinolones:newweaponsinthearsenalofophthalmicantibiotics.AmJOphthalmol133:463-466,20022)KowalskiRP,DhaliwalDK,KarenchakLMetal:Gatifloxacinandmoxifloxacin:aninvitrosusceptibilitycomparisontolevofloxacin,ciprofloxacin,andofloxacinusingbacterialkeratitisisolates.AmJOphthalmol136:500-505,20033)BlondeauJM:Fluoroquinolones:mechanismofaction,classification,anddevelopmentofresistance.SurvOphthalmol49:S73-S78,20044)渡邉雅一,石塚啓司,池本敏雄:モキシフロキサシン点眼液(ベガモックス点眼液TM0.5%)の薬理学的特性および臨床効果.日本薬理学雑誌129:375-385,20075)DuggiralaA,JosephJ,SharmaSetal:Activityofnewerfluoroquinolonesagainstgram-positiveandgram-negativebacteriaisolatedfromocularinfections:aninvitrocomparison.IndianJOphthalmol55:15-19,20076)戸塚恭一,橋本正良:サンフォード感染症治療ガイド2010,第40版,p26,ライフサイエンス出版,20107)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現状─.日眼会誌110:961-972,20068)HwangDG:Fluoroquinoloneresistanceinophthalmologyandthepotentialrolefornewerophthalmicfluoroquinolones.SurvOphthalmol49:S79-S83,20049)加茂純子,山本ひろ子,村松志保:病棟・外来の眼科領域細菌と感受性の動向2001~2005年.あたらしい眼科23:219-224,200610)宇野敏彦,大橋裕一,下村嘉一ほか:外眼部細菌性感染症由来の臨床分離株に対するモキシフロキサシンの抗菌活性.あたらしい眼科23:1359-1367,2006***

術前抗生物質投与におけるレボフロキサシン点眼液と ガチフロキサシン点眼液の比較検討

2010年4月30日 金曜日

———————————————————————-Page1(107)5230910-1810/10/\100/頁/JCOPY46回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科27(4):523526,2010cはじめに1987年にオフロキサシン(OFLX)点眼液(タリビッドR点眼液)が上市されて以来,フルオロキノロン系点眼薬はその強力な殺菌作用と広い抗菌スペクトルから,感染症治療のみならず,周術期の感染予防目的でも日常的に使用されている.他方,臨床の場でキノロン耐性菌の出現も問題になりつつあり,2000年に発売された,いわゆる第3世代キノロン製剤であるレボフロキサシン(LVFX)点眼液にも耐性菌がみられるようになってきた1).2004年に発売されたガチフロキサシン(GFLX)点眼液はdualinhibitionを特徴とする第4世代キノロンで,耐性菌が出現しにくいとされている.今回筆者らは,周術期の感染予防目的で使用した場合,LVFXとGFLXの有効性に差があるかについて,一般の中核市中病院に通院する患者を対象に一般病院で通常施行されている結膜細菌培養と薬剤感受性試験を行い,検討したので報告する.〔別刷請求先〕末吉理恵:〒673-8501明石市鷹匠町1-33明石市立市民病院眼科Reprintrequests:MasaeSueyoshi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AkashiMunicipalHospital,1-33Takashomachi,AkashiCity,Hyogo673-8501,JAPAN術前抗生物質投与におけるレボフロキサシン点眼液とガチフロキサシン点眼液の比較検討末吉理恵辻村まり明石市立市民病院眼科ComparisonofLevoloxacinandGatiloxacinasPreoperativeTopicalAntibioticAgentsMasaeSueyoshiandMariTsujimuraDepartmentofOphthalmology,AkashiMunicipalHospital2005年4月から2007年3月までに内眼手術予定の1,217眼を対象とし,一般病院で通常施行されている結膜細菌培養と薬剤感受性試験を行った.分離培養された菌に対してレボフロキサシン(LVFX)とガチフロキサシン(GFLX)の最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration:MIC)を測定し,薬剤感受性を比較検討した.1,217眼中39眼(3.2%)から42株の菌が検出された.グラム陽性菌が21株であり,その15株がStaphylococcusaureus(うちメチシリン耐性黄色ブドウ球菌:MRSAが5株)であった.グラム陰性菌が21株で,その7株がHaemophilusinuenzaeであった.MICからはLVFXとGFLXの感受性に明らかな差はなく,耐性菌は両剤ともに低感受性を示した.グラム陽性菌Staphylococcusaureus(そのうち特にMRSA)およびStaphylococcusepidermidisについては両剤ともに耐性菌が認められており,注意が必要と考えられた.FromApril2005toMarch2007,wepreoperativelyinvestigatedthebacterialoraintheconjunctivalsacsof1,217eyesofpatientswhoweretoundergosurgery.Wecomparedlevooxacin(LVFX)withgatioxacin(GFLX)onthebasisofminimuminhibitoryconcentration(MIC).Atotalof42strainswereisolatedfrom39eyes(3.2%)bydirectisolation.Ofthe42strains,21weregram-negativecocci;ofthose,15strainswereStaphylococcusaureus,including5strainsofmethicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA).Theother21strainsweregram-nega-tiverods;ofthose,7strainswereHaemophilusinuenzae.RegardingMICdistribution,nosignicantdierencewasnotedbetweenLVFXandGFLX.Theuoroquinolone-resistantstrainswerefoundinthegram-positivebacte-ria.WemustpayattentiontoMRSAandStaphylococcusepidermidis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(4):523526,2010〕Keywords:結膜内細菌叢,薬剤感受性,レボフロキサシン,ガチフロキサシン,最小発育阻止濃度.bacterialoraintheconjunctivalsacs,drugsensitivity,levooxacin,gatioxacin,minimuminhibitoryconcentration(MIC).———————————————————————-Page2524あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(108)I対象および方法術前に明らかな急性結膜炎の所見を認めず,2005年4月1日から2007年3月31日の期間に当科で内眼手術を施行した27101歳の症例1,217眼(男性447眼;平均年齢72.04歳,女性770眼;平均年齢74.89歳,合計1,217眼;平均年齢73.84歳)を対象とした.手術の約1カ月前に外来で,術前検査の一環として,結膜擦過物の細菌学的検査を行った.具体的には,カルチャースワブプラスR(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)を用い,眼科医師が結膜を擦過して検体採取し検体保存輸送用培地に入れ,当院(市立病院)の細菌検査室に提出した.5%ヒツジ血液寒天培地とチョコレート寒天培地で35℃48時間の好気条件,直接分離培養を行った.検出された菌は,院内でも薬剤感受性検査を行うとともに,(株)三菱化学メディエンスに提出し,すべての菌株に対してLVFXとGFLXの最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration:MIC)を微量液体希釈法にて測定し,比較検討した.結果について,下記の項目を検討した.(1)直接分離培養で検出された細菌検出株数,検出頻度,性別および年齢(2)MICの観点からみた検出された菌に対するLVFXとGFLXの抗菌力MIC値が4μg/ml以上のものを耐性菌とみなした(院内での薬剤感受性検査で耐性と判定された株のMIC値を採用した).検出された株数が少なかったため,統計学的解析は行っていない.II結果1,217眼中39眼(3.2%)から菌が検出された.男性19眼:平均年齢74.58歳,女性20眼:平均年齢75.10歳,合計39眼:平均年齢74.85歳であった.39眼中37眼において検出された菌は1種類であったが,2種類の菌を検出したものが1眼(76歳,男性),3種類の菌を検出したものが1眼(76歳,女性)あった.菌が検出された症例については術前に適切な抗生物質点眼を行い,減菌した後に手術を施行した.術後眼内炎を発症した症例は認めなかった.菌が検出された症例の性別および各年代別の検出率は,図1に示すとおりで,高齢者に多いというような一定の傾向は認めなかった.検出された菌は,グラム陽性菌が21株であり,その15株がStaphylococcusaureus(うちメチシリン耐性黄色ブドウ球菌:MRSAが5株)であった.グラム陰性菌が21株で,Haemophilusinuenzaeが最も多く7株,ついでCitrobacterkoseriが4株認められた.検出されたグラム陽性菌の内訳と各MICは表1に,グラム陰性菌の内訳と各MICは表2に示すとおりで,耐性菌はLVFXとGFLXの両剤ともに低感受性であった.全分離株に対する両剤の累積発育阻止率曲線は図2に示すとおりである.Staphylococcusaureusに対する両剤の累積発育阻止率曲線を図3に示した.なお,LVFXとGFLXの両剤ともに低感受性であった菌はすべて,院内の薬剤感受性検査でアルベカシン(ABK)およびバンコマイシン(VCM)に感受性があり,これらを用いて手術前に減菌した.III考察結膜内常在菌の菌検出率は,これまでに53.185%との報告がある28).当院の検査室において通常施行している病原菌を対象とした培養検査の検出率は3.2%であった.専門的施設で結膜症例数05010015020025030035040020代男性20代女性30代男性30代女性40代男性40代女性50代男性50代女性60代男性60代女性70代男性70代女性80代男性80代女性90代男性90代女性100代男性100代女性:検出:検出5%7.9%2.8%0.7%4%3%5.9%2.1%8.3%100%図1菌が検出された症例の性別および各年代別の検出率———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010525(109)表2グラム陰性菌の内訳と各MIC(μg/ml)およびAQCmaxMIC菌株平均年齢(歳)MICAQCmax/MICLVFXGFLXLVFXGFLXPseudomonasaeruginosa(1例)690.50.56.784.6Serratiamarcescens(1例)580.120.2528.259.2Haemophilusinuenzae(7例)76.71≦0.06≦0.06≧56.5≧38.3Proteusmirabilis(2例中1例)84≦0.06≦0.06≧56.5≧38.3Proteusmirabilis(2例中1例)70≦0.060.25≧56.59.2Citrobacterkoseri(4例)78.75≦0.06≦0.06≧56.5≧38.3Citrobacterfreundii(1例)700.120.2528.259.2Enterobactercloacae(1例)82≦0.06≦0.06≧56.5≧38.3Escherichiacoli(1例)86≦0.06≦0.06≧56.5≧38.3Morganellamorganii(2例)73.5≦0.06≦0.06≧56.5≧38.3Moraxellacatarrhalis(1例)82≦0.06≦0.06≧56.5≧38.3表1グラム陽性菌の内訳と各MIC(μg/ml)およびAQCmaxMIC菌株平均年齢(歳)MICAQCmax/MICLVFXGFLXLVFXGFLXStaphylococcusaureus(15例中8例)74.250.12≦0.0628.25≧38.3Staphylococcusaureus(15例中1例)700.250.1213.5619.17Staphylococcusaureus(15例中1例)70211.6952.3Staphylococcusaureus(15例中2例)MRSA71.5420.84751.15Staphylococcusaureus(15例中1例)MRSA57>12832<0.0030.071875Staphylococcusaureus(15例中2例)MRSA78>12864<0.0030.036Staphylococcusepidermidis(2例中1例)760.12≦0.0628.25≧38.3Staphylococcusepidermidis(2例中1例)69820.423751.15Streptococcuspneumoniae(2例中1例)7610.253.399.2Streptococcuspneumoniae(2例中1例)8010.53.394.6GroupGStreptococcus(1例)800.250.1213.5619.17Enterococcusfaecalis(1例)760.50.256.789.2MIC(μg/ml)0累積発育阻止率(%)102030405060708090100:LVFX:GFLX≦0.060.120.250.51248163264>128図2全分離株に対する累積発育阻止率曲線累積発育阻止率図3S.aureusに対する累積発育阻止率曲線———————————————————————-Page4526あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(110)内常在菌を調査するのではなく,一般病院で通常施行されている培養検査の検出率については,これまでにあまり多数の報告がないが,臨床の場で通常行われている方法であると思われ,今回これについて報告する.遅発性眼内炎の起炎菌として同定されているPropionibac-teriumacnesなどは今回の検討例では検出されていないが,検出された菌は術後早期の眼内炎の起炎菌として報告されている菌種9,10)と類似しており,今回はこれに対して検討した.GFLXは,キノロン骨格1位のシクロプロピル基に加えて,キノロン骨格8位にメトキシ基をもつことで,細菌の標的酵素であるDNAジャイレースとトポイソメレースⅣの両酵素を強力に同程度阻害(dualinhibition)する特徴がある.そこで,LVFXに低感受性であっても,GFLXに感受性の高い菌が多数ある可能性があると考えた.今回の検討で,すべてのグラム陽性菌においてGFLXのMICがLVFXより低かったが,LVFXに耐性をもつ菌株ではGFLXの感受性も低くこれらの菌に対してGFLXによる減菌効果は少ないと考えられた.グラム陰性菌においてはLVFXとGFLXのMICは同じであるものが多く,GFLXのMICがLVFXより高い菌株も認められた.また,術後眼内炎を予防するためには,前眼部へ効率よく移行する点眼薬が求められる.薬動力学的パラメータとして,房水内最高濃度(AQCmax)とMICを組み合わせたAQCmax/MICが臨床での有効性を反映するとの概念が提唱されており,この値が大きいほど有効性が高いと考えられている11).0.5%LVFX点眼液および0.3%GFLX点眼液のAQCmaxは,それぞれ3.39μg/mlおよび2.30μg/mlと報告されている12).検出された菌のAQCmax/MICは,表1(グラム陽性菌),表2(グラム陰性菌)に示すとおりである.グラム陽性菌に対しては,すべての菌株においてGFLXが勝っている.グラム陰性菌に対しては,すべての菌株においてLVFXが勝っている.両剤の有用性について差は少ないと考えられた.近年,細菌の薬剤耐性化が進んでおり,特にニューキノロン薬に対する耐性化が報告されている13).GFLXは新たに開発され,まだあまり使用されていないが,すでに交差耐性となっている菌株も認められている.今回の全分離株のうち,MIC値が4μg/ml以上の株を耐性菌とみなすと,LVFXで6株(約14.3%),GFLXで3株(約7.1%)のみが耐性と判断され,両剤は今のところ周術期の感染予防に有効であると思われた.しかしながら,これまでの報告とも一致するが,術後眼内炎の主要な起炎菌であるグラム陽性菌Staphylococcusaureus(そのうち特にMRSA)およびStaphylococcusepidermidisについては,両剤ともに低感受性を示す株があり,特に注意が必要であると考えられた.文献1)櫻井美晴,林康司,尾羽澤実ほか:内眼手術術前患者の結膜細菌叢のレボフロキサシン耐性率.あたらしい眼科22:97-100,20052)白井美惠子,西垣士朗,荻野誠周ほか:術後感染予防対策としての術前結膜内常在菌培養検査.臨眼61:1189-1194,20073)片岡康志,佐々木香る,矢口智恵美ほか:白内障手術予定患者の結膜内常在菌に対するガチフロキサシンおよびレボフロキサシンの抗菌力.あたらしい眼科23:1062-1066,20064)岩﨑雄二,小山忍:白内障術前患者における結膜内細菌叢と薬剤感受性.あたらしい眼科23:541-545,20065)志熊徹也,臼井正彦:白内障術前患者の結膜内常在菌と3種抗菌点眼薬の効果.臨眼60:1433-1438,20066)丸山勝彦,藤田聡,熊倉重人ほか:手術前の外来患者における結膜内常在菌.あたらしい眼科18:646-650,20017)秋葉真理子,坂上晃一,秋葉純:高齢者の結膜内常在菌と薬剤耐性.臨眼53:773-776,19998)大秀行,福田昌彦,大鳥利文:高齢者1,000眼の結膜内常在菌.あたらしい眼科15:105-108,19989)秦野寛:白内障術後眼内炎:起炎菌と臨床病型.あたらしい眼科22:875-879,200510)原二郎:眼科手術と術後眼内炎─起炎菌の変遷と術前消毒の効果.眼科手術11:159-164,199811)佐々木一之,三井幸彦,福田正道ほか:点眼用抗菌薬の眼内薬動力学的パラメーターとしてのAQCmaxの測定.あたらしい眼科12:787-790,199512)福田正道,高橋信夫:ガチフロキサシン点眼薬の家兎眼内移行動態─房水内最高濃度値(AQCmax)の測定─.あたらしい眼科21:1109-1112,200413)松尾洋子,柿丸晶子,宮崎大ほか:鳥取大学眼科における分離菌の薬剤感受性・患者背景に関する検討.臨眼59:886-890,2005***

a 溶血レンサ球菌による白内障術後眼内炎と当院におけるレボフロキサシン耐性率

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1(105)3870910-1810/09/\100/頁/JCLS45回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科26(3):387389,2009cはじめにa溶血レンサ球菌(以下,a溶連菌)は緑色レンサ球菌ともよばれ,おもに口腔内の常在菌である.内科領域では心内膜炎の起炎菌として重要であるが,結膜からも常在菌としてしばしば分離され,急性結膜炎や涙炎などの起炎菌にもなる1,2).白内障術後眼内炎の起炎菌ではブドウ球菌や腸球菌が有名であるが,レンサ球菌属もしばしば分離される3).しかしながら,a溶連菌が起炎菌となった術後眼内炎についての報告は少ない4).今回筆者らはa溶連菌による予後不良な白内障術後眼内炎を経験したので,当院での本菌の分離状況とレボフロキサシン耐性状況も含めて報告する.II症例患者:78歳,女性.2007年2月19日に他院にて右眼に耳側角膜切開による超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を2泊入院にて施行された.術後経過は良好であったが,2月28日に右眼眼痛と充血を自覚し,翌日3月1日に眼科受診したところ眼内炎と診断され,当院紹介受診となった.3月〔別刷請求先〕星最智:〒780-0935高知市旭町1-104町田病院Reprintrequests:SaichiHoshi,M.D.,Ph.D.,MachidaHospital,1-104Asahimachi,Kochi-shi,Kochi780-0935,JAPANa溶血レンサ球菌による白内障術後眼内炎と当院におけるレボフロキサシン耐性率星最智大塚斎史北澤耕司橋田正継卜部公章町田病院Alpha-HemolyticStreptococcalEndophthalmitisafterCataractSurgeryandPrevalenceofLevooxacinResistanceinMachidaHospitalSaichiHoshi,YoshifumiOhtsuka,KojiKitazawa,MasatsuguHashidaandKimiakiUrabeMachidaHospital症例は78歳,女性.他院で右眼白内障手術後眼内炎と診断され当院紹介受診となる.初診時右眼視力は光覚弁であり重度の前房蓄膿とびまん性の角膜浮腫を認めた.ただちに硝子体手術と眼内レンズ摘出を行ったが,網膜障害が強く予後不良であった.術中硝子体液からはa溶血レンサ球菌(以下,a溶連菌)が分離され,感受性検査ではアミノグリコシド系に耐性,セフェム系およびレボフロキサシンとガチフロキサシンに中間耐性を示した.2006年1月から2007年12月までに当院外来受診患者から分離培養された3,193株のうち3.0%がa溶連菌であった.レボフロキサシンに中間または耐性を示す株の割合は18.1%であり,腸球菌の7.3%よりも高かった.A78-year-oldfemalewasreferredtoourhospitalwiththediagnosisofendophthalmitisaftercataractsurgeryinherrighteye.Atrstexamination,rightvisualacuitywaslightperception;severehypopionanddiusecornealedemawerealsoobserved.Althoughvitrectomyandintraocularlensextractionwereperformed,visualoutcomewaspoorbecauseofsevereretinaldamage.Alpha-hemolyticstreptococcuswasrecoveredfromthevitreoussam-ple.Susceptibilitytestingshowedthisstraintoberesistanttoaminoglycosideantibioticsandintermediatelyresis-tanttocefemantibiotics,levooxacinandgatioxacin.FromJanuary2006toDecember2007atourhospital,3,193strainswereisolatedfromocularsamplesofoutpatients.Ofthesestrains,3.0%comprisedalpha-hemolyticstrepto-coccus;theresistancerateagainstlevooxacinwas18.1%inthealpha-hemolyticstreptococcus,higherthanthe7.3%inEnterococcusfaecalis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):387389,2009〕Keywords:眼内炎,緑色レンサ球菌,a溶血レンサ球菌,レボフロキサシン,耐性菌.endophthalmitis,viridansstreptococcus,alpha-hemolyticstreptococcus,levooxacin,antibiotics-resistance.———————————————————————-Page2388あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(106)1日当院初診時,右眼視力は光覚弁であり,右眼眼圧は30.7mmHgと高値であった.眼瞼浮腫と結膜充血を認めるが,疼痛の自覚はなかった.細隙灯検査では前房蓄膿と角膜切開部の浸潤および広範な角膜浮腫を認め,眼底透見不能な状態であった(図1a).ただちにバンコマイシンとセフタジジム灌流下で硝子体手術と眼内レンズ摘出を施行した.術中所見として硝子体混濁と網膜血管の白鞘化を認めた.術後はフロモキセフ2g/日の点滴を2日間とモキシフロキサシン400mg内服を2日間投与した.局所投与ではモキシフロキサシンとセフメノキシムの頻回点眼と0.1%ベタメタゾン点眼4/日,1%アトロピン点眼2/日を行った.また,術翌日も前房炎症が高度であったため,3月2日と3日にバンコマイシンとセフタジジム添加灌流液により前房洗浄を施行した.その後,次第に角膜浮腫と前房炎症は軽快し,3月22日には眼底検査にて網膜点状出血と網膜動脈の白線化が確認できる程度まで改善し,3月26日退院となった(図1b).8月14日の当院最終受診時の右眼矯正視力は0.03であり,失明は免れたものの予後不良な状態であった.術中採取した硝子体液からはa溶連菌が多数検出され,薬剤感受性検査ではアミノグリコシド系に耐性,セフェム系およびレボフロキサシンとガチフロキサシンに中間耐性を示した.つぎに,起炎菌であるa溶連菌がレボフロキサシンに中間耐性だったことから,a溶連菌のレボフロキサシン耐性化状況を把握するため,当院における外来患者の眼部から分離されたa溶連菌について調査を行った.対象は2006年1月から2007年12月までの当院外来受診患者の眼部培養3,193検体である.検体は眼感染症のほか,内眼手術前の結膜監視培養も含まれる.2,377検体が培養陽性であり,3,474株の細菌が分離された.全分離株のうちa溶連菌は105株(3.0%)であり,腸球菌95株(2.7%)と類似していた.ディスク法による薬剤感受性検査ではレボフロキサシンに中間または耐性を示す株はa溶連菌が18.1%であり,腸球菌の7.3%よりも多かった(表1).一方,a溶連菌のセフメノキシムに対する感受性は99.1%と良好であった.II考按a溶連菌は口腔内の常在菌で血液寒天培地の溶血環が緑色を呈することから緑色レンサ球菌ともよばれ,Streptococcus(S.)mutans,S.mitis,S.sanguinis,S.anginosus,S.sali-variusなどが含まれる.白内障術後眼内炎に関する過去の表1当院で分離されたa溶連菌と腸球菌の各種抗菌薬耐性率菌種株数分離割合(%)耐性率(%)SBPCCMXGMTOBEMCPTFLXLVFXGFLXa溶連菌1053.04.70.931.467.635.21.967.618.113.3腸球菌952.710010010010074.710.589.47.33.1SBPC:スルベニシリン,CMX:セフメノキシム,GM:ゲンタマイシン,TOB:トブラマイシン,EM:エリスロマイシン,CP:クロラムフェニコール,TFLX:トスフロキサシン,LVFX:レボフロキサシン,GFLX:ガチフロキサシン.ab1初診時前眼部と術後眼底写真a:前房蓄膿と耳側角膜切開部に実質内浸潤(矢印)を認める.b:網膜血管の白線化を認める.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009389(107)調査では眼内炎の起炎菌としてブドウ球菌属や腸球菌についでレンサ球菌属がさらに分離されている3).この調査では起炎菌を確定できない症例も多く,ESCRS(ヨーロッパ白内障・屈折手術学会)スタディのように眼内液のpolymerasechainreaction(PCR)による菌種同定も行えば緑色レンサ球菌が分離されてくる可能性がある5).また,本症例や過去の報告からa溶連菌の眼内炎は網膜や血管への障害を強く起こす可能性があり,同じく予後不良といわれている腸球菌と同程度に注目すべき微生物と考えて疫学的分離状況や薬剤感受性傾向を把握する必要がある4).本症例の感染経路に関しては術中感染か術後感染かを明確にすることはできない.手術から1週間以上経過して発症していることや角膜切開創に浸潤を認めたことから,術後早期の脆弱な角膜切開創を経由して菌が眼内に侵入した可能性は否定できない.さらにa溶連菌は口腔内の常在菌であることから,術後の飛沫による眼表面の汚染の可能性も考えられる.人工喉頭を設置した患者の白内障術後眼内炎で,眼内と眼瞼皮膚からa溶連菌が分離されたという自身の飛沫によると考えられる報告がある4).白内障術後には感染予防として抗菌点眼薬を用いるが,点眼後12時間以上経過した状態では眼表面に存在する抗菌薬はわずかである6).したがって飛沫などにより一過性に眼表面が汚染されると抗菌点眼薬を用いる前に細菌が眼内に侵入する可能性があり,十分な感染予防効果が期待できないのかもしれない.したがって,術後数日間は抗菌薬点眼のほかに飛沫予防のための保護眼鏡を常時装用するなどして,眼表面の一過性の汚染を予防する対策が必要と考えられる.つぎに,本症例から分離されたa溶連菌はレボフロキサシンに中間耐性を示した.当院の外来患者の眼部から分離された菌株を調査したところ,全分離株の3.0%と腸球菌の分離率とほぼ同程度であったものの,レボフロキサシンの耐性率はa溶連菌が18.1%であり,腸球菌の7.3%よりも高かった.眼科における過去の報告ではa溶連菌のレボフロキサシン耐性率は8%程度であるため,直接的な比較はできないが耐性率が増加してきている可能性も考えられる7,8).さらに末梢血幹細胞移植後の好中球減少時にレボフロキサシンを予防投与した際,敗血症を呈した患者の起炎菌を調べたところ,レボフロキサシン耐性S.mitisが多く認められたという他科からの報告がある9).S.mitisは緑色レンサ球菌の一種であるが,系統的には肺炎球菌に非常に近い菌種である10).今回の症例や調査で分離されたa溶連菌の菌種同定はできていないため,レボフロキサシン耐性株がS.mitisかどうかは不明であるが,フルオロキノロン系抗菌点眼薬が眼科領域で頻繁に用いられている以上,レンサ球菌属のフルオロキノロン耐性化は重要な問題である.今後は菌種の同定も含めたさらなる調査が必要と考えられる.文献1)CavuotoK,ZutshiD,KarpCLetal:UpdateonbacterialconjunctivitisinSouthFlorida.Ophthalmology115:51-56,20072)BharathiMJ,RamakrishnanR,ManekshaVetal:Com-parativebacteriologyofacuteandchronicdacryocystitis.Eye22:953-960,20073)薄井紀夫,宇野敏彦,大木孝太郎ほか:白内障に関連する術後眼内炎全国症例調査.眼科手術19:73-79,20064)MatsuuraT,IshibashiH,YukawaEetal:Endophthalmi-tisfollowingcataractsurgeryconsideredtobeduetoanoralpathogen.JournalofNaraMedicalAssociation57:51-55,20065)ESCRSEndophthalmitisStudyGroup:Prophylaxisofpostoperativeeodophthalmitisfollowingcataractsur-gery:resultsoftheESCRSmulticenterstudyandidenticationofriskfactors.JCataractRefractSurg33:978-988,20076)和田智之,多鹿哲也,高橋浩昭ほか:点眼投与を想定したガチフロキサシンのPostantibioticEect.あたらしい眼科21:1520-1524,20047)加茂純子,山本ひろ子,村松志保ほか:病棟・外来の眼科領域細菌と感受性の動向20012005年.あたらしい眼科23:219-224,20068)加茂純子,喜瀬梢,鶴田真ほか:感受性からみた年代別の眼科領域抗菌薬選択2006.臨眼61:331-336,20079)RazonableRR,LitzowMR,KhaliqYetal:Bacteremiaduetoviridansgroupstreptococciwithdiminishedsus-ceptibilitytolevooxacinamongneutropenicpatientsreceivinglevooxacinprophylaxis.ClinInfectDis34:1469-1474,200210)河村好章:ブドウ球菌とレンサ球菌の分類─この10年の変遷.モダンメディア51:313-327,2005***