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リパスジル点眼の原発開放隅角緑内障に対する短期成績:眼圧・視神経乳頭血流に対する効果

2016年8月31日 水曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(8):1191?1195,2016cリパスジル点眼の原発開放隅角緑内障に対する短期成績:眼圧・視神経乳頭血流に対する効果杉山哲也清水恵美子中村元宮本和明冨田香子高木史子星野朗子長嶋珠江藤田裕美山田亮三京都医療生活協同組合・中野眼科医院Short-termEfficacyofRipasudilonIntraocularPressureandOpticNerveHeadBloodFlowinPrimaryOpen-angleGlaucomaTetsuyaSugiyama,EmikoShimizu,HajimeNakamura,KazuakiMiyamoto,KaorukoTomita,ChikakoTakagi,AkikoHoshino,TamaeNagashima,HiromiFujitaandRyozoYamadaNakanoEyeClinicofKyotoMedicalCo-operative目的:最近臨床応用されたROCK阻害薬・リパスジル点眼液の緑内障における眼圧,視神経乳頭血流に対する短期成績を検討する.方法:対象は3カ月以上リパスジルを追加継続し,レーザースペックル法による視神経乳頭血流測定を行った原発開放隅角緑内障(広義)27例(平均年齢66.1歳)で,内訳は原発開放隅角緑内障(POAG)15例,正常眼圧緑内障(NTG)12例であった.追加前後に眼圧,血圧,視神経乳頭血流(MV:血管血流,MT:組織血流)を測定した.結果:眼圧は1?3カ月後,有意に下降した.3カ月間の平均眼圧下降幅はPOAG:2.4mmHg,NTG:2.0mmHgであった.3カ月後,視神経乳頭血流はMTのみPOAG,NTGとも有意な増加(5.9%,11.9%)を認めた.結論:短期的検討により,リパスジルは原発開放隅角緑内障(広義)の眼圧を有意に下降させ,視神経乳頭血流,とくに組織血流を有意に増加させた.Purpose:Toinvestigatetheshort-termoutcomeofripasudil,aROCKinhibitorrecentlyapprovedforuseinJapan,onintraocularpressure(IOP)andopticnervehead(ONH)bloodflowinpatientswithglaucoma.Method:IOP,bloodpressureandONHbloodflow(MV:meanvesselbloodflow,MT:meantissuebloodflow)weremeasuredin15patientswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG)and12patientswithnormal-tensionglaucoma(NTG)whenripasudilhadbeenadditionallyprescribedformorethan3months.Results:Inripasudil-treatedeyes,IOPwassignificantlyreducedfrom1to3months.AverageIOPreductionforthisduration(mmHg)was2.4inPOAGand2.0inNTG.MTofONHbloodflowwassignificantlyincreasedby5.9%and11.9%,respectively.Conclusion:Thepresentstudyindicatesthatshort-termtreatmentofripasudilsignificantlyreducesIOPandincreasesONHbloodflow,particularlyoftissuebloodflow,inpatientswithPOAGandNTG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1191?1195,2016〕Keywords:ROCK阻害薬,リパスジル,眼圧,視神経乳頭血流,レーザースペックル法.ROCKinhibitor,ripasudil,intraocularpressure,opticnerveheadbloodflow,laserspeckleflowgraphy.はじめにカルシウムを介さず血管収縮に関与する酵素としてRhoassociatedcoiled-coilformingproteinkinase(ROCK)が知られており,その阻害薬の一つ,ファスジルは,くも膜下出血術後の脳血管攣縮や脳虚血症状の改善の適応症で臨床使用されている1).ファスジルについては慢性脳梗塞患者における脳血流増加作用2)のほか,高血圧ラットにおける網膜血管拡張作用3),糖尿病ラットにおける網膜微小血管障害抑制作用4),家兎視神経乳頭血流増加作用5)やその減少の抑制作用6),さらにはラット網膜虚血再灌流モデルにおける神経保護作用7)について,眼科領域における基礎研究の報告が散見される.一方,緑内障治療薬として近年臨床応用されたROCK阻害薬・リパスジルは,従来のものと異なり,直接的に主経路からの房水流出を促進させて眼圧を下降させることがわかっている8).その結果,単独での眼圧下降作用のみならず,プロスタグランジン系緑内障点眼薬やチモロール点眼薬との併用によって,さらなる眼圧下降作用を発揮することが臨床試験によって実証されている9?13).しかし,リパスジルの眼血流に対する報告としては,その硝子体投与がネコ網膜血流(速度と量)を増加させる14)というもののみで,人眼に対するものは今のところ見当たらない.今回は,すでに他の緑内障点眼薬で治療を行っている原発開放隅角緑内障(広義)患者に,片眼のみリパスジル点眼を追加し,眼圧や視神経乳頭血流の短期的な変化を検討した.I対象および方法対象は中野眼科医院で通院加療中の原発開放隅角緑内障(広義)患者のうち,リパスジル(グラナテックR)点眼液を片眼に1日2回(1回1滴),3カ月以上追加継続し,レーザースペックルフローグラフィー(LSFG-NAVITM,ソフトケア)による視神経乳頭血流測定を行った27例(平均年齢66.1歳)で,内訳は原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)15例,正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)12例であった.リパスジルを追加した眼は視野進行などのため,臨床上,緑内障治療の強化が必要だった眼であり,無作為化はしていない.緑内障以外の網膜・視神経疾患,糖尿病,高血圧,治療を要する高脂血症を合併する例や喫煙者は除外し,処方中の緑内障点眼薬はそのまま継続した.なお,本研究は当院倫理委員会の承認を得,対象患者には本研究の趣旨を説明したうえで承諾を得た.対象とした患者の背景,緑内障併用薬の内訳は表1,2のごとくであった.なお,緑内障併用薬は両眼同一であり,追加前後で変更はしなかった.リパスジル追加前に眼圧(Goldmann眼圧計),血圧,視神経乳頭血流を測定し,追加の1,2,3カ月後に眼圧を,3カ月後に血圧,視神経乳頭血流を各々,測定した.各測定はリパスジル点眼の2?3時間後とし,同一患者では同一の時間帯に行った.視神経乳頭血流測定は眼圧測定後に0.5%トロピカミド(ミドリンMR,参天製薬)で散瞳後,LSFGNAVITMを用いて3回ずつ行った.その後,解析ソフト(LSFGAnalyzer,ソフトケア)によって視神経乳頭全体の全血流(meanallbloodflow:MA),血管血流(meanvesselbloodflow:MV),組織血流(meantissuebloodflow:MT)についてmeanblurrate(MBR)値を求め,各々3回分の平均値を算出した.一方,眼灌流圧を2/3平均血圧?眼圧として算出した.各数値は平均値±標準偏差(SD)または平均値±標準誤差(SE)で表記し,統計学的検討には初期値(追加前)と各時点での間でpairedt-testを行い,p<0.05を有意水準とした.II結果リパスジル追加後の眼圧を全例,POAG群,NTG群に分けて検討した結果,いずれも追加眼では1,2,3カ月後に有意な下降を示し,非追加眼では有意な変化を認めなかった(図1~3).リパスジル追加眼において,全例では3カ月後に最大の眼圧下降(降下幅2.2mmHg)を認めた.POAG群では1?3カ月の眼圧下降幅にほとんど差はなかったが,1カ月後に最大の眼圧下降(降下幅2.4mmHg)を認めた.NTG群では3カ月後に最大の眼圧下降(降下幅2.0mmHg)を認めた.また,眼圧下降率(Δ眼圧/追加前眼圧)は両群とも1カ月後から3カ月後の間で有意差はなかったが,NTGでは1カ月後に比べ,3カ月後にもっとも高い傾向(p=0.10)があった(図4).最大の眼圧下降率はPOAG群で14.6%(1カ月後),NTG群では17.0%(3カ月後)であった.眼圧下降率と他の因子との関連を検討した.まずリパスジルが2剤目となる群(14眼)と,3剤目以降となる群(13眼)に分けて眼圧下降率を比較したが,両群間に有意差は認めなかった.つぎに,年齢を66歳未満の群(13眼)と66歳以上の群(14眼)に分けて検討したが,有意差はなかった.さらに,追加前眼圧が14mmHg未満の群(14眼)とそれ以上の群(13眼)に分けて検討したが,やはり有意差を認めなった.視神経乳頭血流は,全例ではMA,MV,MTともリパスジル追加3カ月後に有意な増加を示した(図5).POAG群,NTG群ごとの検討では,両群ともMTでのみ有意な増加を示し,その増加率はNTG群で11.9%,POAG群で5.9%であった(図6).なお,非追加群では有意な変化を認めなかった.眼灌流圧はリパスジル追加後,有意な変化を認めず,眼灌流圧の変化量とMTの変化量との間に有意な相関を認めなかった.今回の27例全例において,投与期間中,リパスジル点眼後に結膜充血がみられたが,いずれも一過性であり,継続可能であった.III考按今回の検討の結果,リパスジルの追加点眼によって,緑内障患者の眼圧は1カ月から3カ月後まで有意に下降し,視神経乳頭血流は3カ月後に有意に増加した.とくに,リパスジルの緑内障眼血流への影響に関しては,筆者らが知る限りまだ報告されておらず,今回が初めてのものと思われる.リパスジルのネコ網膜血流増加作用を示した既報14)は硝子体内投与であり,今回のような点眼ではないが,50μMおよび5mMの50μl(推定硝子体内濃度は1μMと100μM)投与で有意な網膜血流増加が認められたと報告されている.一方,有色家兎にリパスジルを1日2回7日間点眼した際の視神経への移行は337.9ng/mlであったというオートラジオグラフィによる実験結果がある15).リパスジルの分子量(MW:395.9)より計算すると0.85μMであり,上述の網膜血流増加作用があった1μMに近似している.今回は7日間以上点眼を継続しているので,より高濃度になった可能性もあり,部位はやや異なるものの視神経乳頭血流を増加させたとしても矛盾はないと考えられる.また,今回の結果ではMVよりもMTが有意に増加しており,眼灌流圧に有意な変化がなく,眼灌流圧の変化量とMTの変化量との間に有意な相関を認めなかったことより,末梢血管の血管抵抗減少により組織血流が増加したと推察される.上述したネコを用いた基礎研究において,網膜の血管径でなく血流速度を有意に増加させた,すなわち,より末梢の血管を拡張させたという結果14)とも合致している.さらに,今回の結果ではPOAGよりもNTGで血流の増加率が高く,その理由として,1)追加前の血流がNTGのほうがより低下していたため,2)NTGのほうがリパスジルに対する反応性が高かったため,などの可能性が考えられるが,今のところ不明である.なお,今回の検討は追加眼について無作為化しておらず,臨床上,片眼にのみ追加が必要だった例を対象としている.その結果,追加前のMTが追加側のほうが明らかに低かった可能性が高く,結果の解釈には限界がある.リパスジルの神経保護作用16)とともに緑内障の眼血流への作用については,今後,無作為化試験などさらなる検討を要する.一方,今回の結果におけるリパスジルの眼圧下降効果について過去の報告と比べて検討する.今回はすでに緑内障点眼薬で加療中の患者が対象であり,併用点眼薬数やその種類はさまざまなので,これまでに行われた臨床試験と単純に比較することはできないが,比較的近いものとしてチモロールあるいはラタノプロストとの併用試験13)の結果と比較してみる.チモロールあるいはラタノプロストで治療中の原発開放隅角緑内障・高眼圧症(治療下で眼圧が18mmHg以上,平均で20mmHg弱)患者に8週間リパスジルを追加した結果,追加前に対する眼圧下降幅はチモロールの場合に2.9mmHg,ラタノプロストの場合に3.2mmHgと報告されている.今回は半数近くの症例にすでに2剤以上の緑内障点眼薬が使用されていたこと,NTGも多く含まれ,追加前眼圧がこの臨床研究より明らかに低かったことを考えると,2.2mmHgという眼圧下降幅はそれほど矛盾しない結果と考えられる.眼圧下降率がNTGでは3カ月後にもっとも大きいという結果であったのは,ROCK阻害薬の眼圧下降機序の一つとして推測されている線維柱帯細胞の細胞骨格変化17)などにある程度の期間を要するためかもしれないが,さらなる検討が必要である.また,今回の結果では追加前の点眼薬数で眼圧下降率に差がなかったこと,追加前眼圧の高低で明らかな差がなかったことより,リパスジルの追加点眼はさまざまな状況でさらなる眼圧下降を図る際に考慮してよいのではないかと考えられるが,今後さらに検討を要する.以上,新しく臨床応用されたROCK阻害薬・リパスジルの原発開放隅角緑内障(広義)における短期的な追加効果を検討した結果,有意な眼圧下降に加え,視神経乳頭組織血流の有意な増加が認められることを明らかにした.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ShibuyaM,SuzukiY,SugitaKetal:EffectofAT877oncerebralvasospasmafteraneurysmalsubarachnoidhemorrhage.Resultsofaprospectiveplacebo-controlleddouble-blindtrial.JNeurosurg76:571-577,19922)NagataK,KondohY,SatohYetal:Effectsoffasudilhydrochlorideoncerebralbloodflowinpatientswithchroniccerebralinfarction.ClinNeuropharmacol16:501-510,19933)OkamuraN,SaitoM,MoriAetal:Vasodilatoreffectsoffasudil,aRho-kinaseinhibitor,onretinalarteriolesinstroke-pronespontaneouslyhypertensiverats.JOculPharmacolTher23:207-212,20074)AritaR,HataY,NakaoSetal:Rhokinaseinhibitionbyfasudilamelioratesdiabetes-inducedmicrovasculardamage.Diabetes58:215-226,20095)TokushigeH,WakiM,TakayamaYetal:EffectsofY-39983,aselectiveRho-associatedproteinkinaseinhibitor,onbloodflowinopticnerveheadinrabbitsandaxonalregenerationofretinalganglioncellsinrats.CurrEyeRes36:964-970,20116)SugiyamaT,ShibataM,KajiuraSetal:Effectsoffasudil,aRho-associatedproteinkinaseinhibitor,onopticnerveheadbloodflowinrabbits.InvestOphthalmolVisSci52:64-69,20117)SongH,GaoD:Fasudil,aRho-associatedproteinkinaseinhibitor,attenuatesretinalischemiaandreperfusioninjuryinrats.IntJMolMed28:193-198,20118)IsobeT,MizunoK,KanekoYetal:EffectsofK-115,arho-kinaseinhibitor,onaqueoushumordynamicsinrabbits.CurrEyeRes39:813-822,20149)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal;K-115ClinicalStudyGroup:Phase1clinicaltrialsofaselectiveRhokinaseinhibitor,K115.JAMAOphthalmol131:1288-1295,201310)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal;K-115ClinicalStudyGroup:Phase2randomizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,K-115,inprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol156:731-736,201311)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal;K-115ClinicalStudyGroup:Intra-ocularpressure-loweringeffectsofaRhokinaseinhibitor,ripasudil(K-115),over24hoursinprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension:arandomized,open-label,crossoverstudy.ActaOphthalmol93:e254-e260,201512)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal;K-115ClinicalStudyGroup:One-yearclinicalevaluationof0.4%ripasudil(K-115)inpatientswithopen-angleglaucomaandocularhypertension.ActaOphthalmol94:e26-e34,201613)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal;K-115ClinicalStudyGroup:Additiveintraocularpressure-loweringeffectsoftheRhokinaseinhibitorripasudil(K-115)combinedwithtimololorlatanoprost:Areportof2randomizedclinicaltrials.JAMAOphthalmol133:755-761,201514)NakabayashiS,KawaiM,YoshiokaTetal:EffectofintravitrealRhokinaseinhibitorripasudil(K-115)onfelineretinalmicrocirculation.ExpEyeRes139:132-135,201515)http://www.pmda.go.jp/drugs/2014/P201400129/index.html.リパスジル塩酸塩水和物申請資料概要CTD2.6.4薬物動態試験の概要文p2916)YamamotoK,MaruyamaK,HimoriNetal:ThenovelRhokinase(ROCK)inhibitorK-115:anewcandidatedrugforneuroprotectivetreatmentinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci55:7126-7136,201417)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:EffectsofrhoassociatedproteinkinaseinhibitorY-27632onintraocularpressureandoutflowfacility.lnvestOphthalmolVisSci42:137-144,2001〔別刷請求先〕杉山哲也:〒604-8404京都市中京区聚楽廻東町2中野眼科医院Reprintrequests:TetsuyaSugiyama,M.D.,Ph.D.,NakanoEyeClinicofKyotoMedicalCo-operative,2Jurakumawari-higashimachi,Nakagyo-ku,Kyoto604-8404,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(109)1191表1患者背景(n=27)全例POAGNTG年齢(歳)66.1±10.967.0±12.165.1±9.7男:女12:158:74:8併用点眼薬数1.8±0.92.0±0.81.5±1.0屈折(D)?2.5±3.5(?2.6±3.5)?2.6±2.9(?2.6±2.3)?2.4±4.2(?2.4±4.6)MD(dB)?11.6±6.9(?7.5±5.7)?12.7±6.4(?7.0±4.6)?10.2±7.6(?8.2±7.0)括弧内:リパスジル非追加側.いずれもmean±SD.表2緑内障併用薬の内訳(n=27)POAG(例)NTG(例)合計(例)1剤5(PG:4,b:1)9(PG:6,a1:2,b:1)142剤5(PG+b:4,b+CAI:1)1(PG+b)63剤5(PG+b+CAI:4,PG+b+a1:1)1(PG+b+CAI)64剤1(PG+b+CAI+a2)1PG:プロスタグランジン関連薬,b:b遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬,a1:a1遮断薬,a2:a2刺激薬,PG+b,b+CAIの一部は配合剤.1192あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(110)図1全例における眼圧の変化●:リパスジル追加眼,○:非追加眼,各n=27,平均値±標準誤差.リパスジル追加眼でのみ1?3カ月後に有意な下降を認めた(*:p<0.0001,対応のあるt検定,対追加前).図2POAGにおける眼圧の変化●:リパスジル追加眼,○:非追加眼,各n=15,平均値±標準誤差.リパスジル追加眼でのみ1?3カ月後に有意な下降を認めた(**:p<0.01,対応のあるt検定,対追加前).図3NTGにおける眼圧の変化●:リパスジル追加眼,○:非追加眼,各n=12,平均値±標準誤差.リパスジル追加眼でのみ1?3カ月後に有意な下降を認めた(***:p<0.001,**:p<0.01,対応のあるt検定,対追加前).図4POAG,NTGにおける眼圧下降率(Δ眼圧/リパスジル追加前眼圧)□:POAG(n=15),■:NTG(n=12),平均値±標準誤差.NTGの1カ月後と3カ月後の間に差のある傾向を認めた(†:p=0.1,対応のあるt検定).図5全例における視神経乳頭血流の変化●:リパスジル追加眼,○:非追加眼,各n=27,平均値±標準誤差.MA,MV,MTとも有意な増加を認めた(***:p<0.001,**:p<0.01,対応のあるt検定,対追加前).(111)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161193図6POAG,NTGにおける視神経乳頭血流MT値の変化●:リパスジル追加眼,○:非追加眼,POAG:n=15,NTG:n=12,平均値±標準誤差.両群とも有意な増加を認めた(**:p<0.01,*:p<0.05,対応のあるt検定,対追加前).1194あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(112)(113)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161195

タフルプロスト連続点眼の正常眼視神経乳頭血流に与える影響:点眼後24 時間の検討

2013年8月31日 土曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(8):1147.1150,2013cタフルプロスト連続点眼の正常眼視神経乳頭血流に与える影響:点眼後24時間の検討岡本美瑞*1間山千尋*1石井清*2新家眞*1,3*1東京大学医学部附属病院眼科*2さいたま赤十字病院眼科*3公立学校共済組合関東中央病院EffectandDurationofTopicalTafluprostonOpticNerveHeadBloodFlowinHealthyVolunteersMizuOkamoto1),ChihiroMayama1),KiyoshiIshii2)andMakotoAraie1,3)1)DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoGraduatesSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,SaitamaRedCrossHospital,3)KantoCentralHospital,TheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers目的:タフルプロスト点眼後の視神経乳頭(ONH)血流を点眼後24時間にわたり評価し,ONH血流に与える影響と持続時間を検討する.対象および方法:健常人6名(28.5±3.4歳,等価球面度数.3.1±2.1diopter;平均±標準偏差)を対象とし,無作為に選んだ片眼にタフルプロスト(0.0015%)を12時に1日1回14日間連続点眼した.最終点眼の直前,4,24時間後に両眼のONH血流をレーザースペックル法を用いてnormalizedblur(NB)値として眼圧,血圧,心拍数と同時に測定し,点眼前の同時刻または非点眼側の測定値と比較検討した.結果:点眼側NB値は,最終点眼直前,4時間後に点眼前同時刻の値より20.9±18.9%(平均±標準偏差),20.8±15.9%有意に増加し(p<0.05),NB変化率は最終点眼24時間後に有意な変化のなかった対照眼と有意差を認めた(p<0.05).結論:タフルプロストの点眼後,健常人眼のONH血流は点眼側で有意に増加し,その効果は点眼後24時間にわたり維持される可能性が示唆された.Purpose:Toevaluateeffectanddurationoftopicaltafluprostonopticnervehead(ONH)bloodflowinhumannormaleyes.Method:Adropof0.0015%tafluprostwasinstilledonce-daily(12o’clock)for14daysunilaterallyin6healthyvolunteers.TissuebloodvelocityintheONH(NBONH)wasmeasuredusingthelaserspecklemethodat0,4and24hafterinstillationandcomparedwithmeasurementsbeforeinstillationinthesametimecourse,orbetweenfelloweyes.Results:NBONHincreasedsignificantlyinthetreatedeyesonly(by20.9±18.9%,20.8±15.9%;mean±standarddeviation;p<0.05)at0and4hafterinstillation.TherewasasignificantdifferenceinNBONHchangebetweenfelloweyesat24hafterinstillation(p<0.05).Conclusions:TopicaltafluprostsignificantlyincreasedONHbloodflowinhumaneyesfor24hafterinstillation,suggestingthattheeffectcanbemaintainedalldaywithonce-dailyapplication.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1147.1150,2013〕Keywords:タフルプロスト,眼血流,視神経乳頭,レーザースペックル法,緑内障.tafluprost,ocularbloodflow,opticnervehead,laserspecklemethod,glaucoma.はじめに緑内障眼において視神経乳頭(ONH)の循環障害があることが推測されており,眼圧下降以外の緑内障治療の機序として,点眼薬による眼循環の改善,眼血流の増加作用が期待されている.これまでに多くの緑内障治療薬で眼血流増加作用が報告され,そのなかには現在緑内障治療の第一選択薬となっているプロスタグランジン(PG)関連薬も含まれる1.5)が,多くは単回点眼や点眼後短時間の検討にとどまり,連続点眼の効果や血流への作用持続時間に関しての検討は少ない.今回筆者らは,健常人眼において,タフルプロストの14日間連続点眼後のONH血流を点眼後24時間にわたり評価し,眼血流に与える影響とその持続時間を検討した.〔別刷請求先〕岡本美瑞:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:MizuOkamoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoGraduatesSchoolofMedicine,7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(103)1147 :測定:タフルプロスト点眼12時16時12時12時16時12時(0h)(4h)(24h)(0h)(4h)(24h)2日目初回点眼1日目16日目最終点眼15日目3~14日目……図1点眼・測定のスケジュールI対象および方法本研究は研究実施施設における治験審査委員会の承認を得て実施した.対象の選択基準は両眼で.8diopter(D)<等価球面度数<+3D,矯正視力≧0.8,同意取得時の年齢が20.60歳の日本人で,本試験の参加にあたり十分な説明を受け本人の自由意思による文書同意が得られたものである.除外基準は,眼圧≧21mmHg,眼疾患・内眼手術の既往,眼圧・眼血流に影響しうる全身疾患・薬剤使用の既往,習慣的な喫煙,妊娠・授乳中の女性とした.1日目午前中に事前に募集した12名のボランティアに対して,スクリーニング検査として問診,血圧,屈折,視力,眼圧,眼軸長,角膜厚の測定,前眼部細隙灯顕微鏡検査,眼底検査を施行し,前述の基準を満たし固視の良好な6名の男性を対象として選択した.1日目午後に,12時(午後0時)を基準として0,4,24時間後に両眼のONH血流,およびその直後に眼圧,血圧・心拍数をこの順で測定した.2日目12時の測定終了後に,症例ごとに無作為に選ばれた片眼にタフルプロスト(0.0015%)の点眼を開始した.点眼方法を説明した後,翌日より通常の生活下で1日1回12時に片眼に自己点眼を継続し,9日目に点眼方法の確認,診察・問診による点眼薬の副作用と有害事象の確認,点眼薬の残量確認を行った.15日目に点眼せずに来院し,副作用と有害事象の確認後,12時に点眼直前の測定をした後に最終点眼を行い,4,24時間後に1.2日目と同様のスケジュールと方法値として,ONHのrimの表面血管のない部位で点眼側を知らされていない検者が測定した(NBONH).眼圧はpneuma-tonograph(PTG,Model30Classicpneumotonometer,ReichertTechnologies,Depew,NY),血圧・心拍数は自動血圧計(HEM-773DE,オムロンヘルスケア,京都),角膜厚は(SP-100,TOMEY,名古屋),眼軸長は(AL-2000,1148あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013TOMEY,名古屋)を用いて測定し,平均血圧を(拡張期血圧)+1/3×(収縮期血圧.拡張期血圧)として算出した.各項目において,点眼開始前の測定値を基準として同時刻の点眼前後での変化,あるいは各時点での両眼(点眼側と非点眼側)の変化率の差を検討した.統計学的検討は対応のあるt検定を用い,p<0.05を統計学的有意水準として採用した.II結果対象は6例12眼,年齢28.5±3.4歳(平均±標準偏差),等価球面度数.3.1±2.1D(両眼での平均±標準偏差,以下同様),眼軸長24.9±0.6mm,中心角膜厚525.3±16.9μmであり,各因子においてタフルプロスト点眼側と非点眼側との間に有意な差は認めなかった(p>0.45)(表1).タフルプロストの点眼後,眼圧は非点眼側では有意な眼圧の変化を認めなかった(p>0.16)のに対し,タフルプロスト点眼側では表1症例の背景因子タフルプロスト点眼側非点眼側両眼等価球面度数(D)眼軸長(mm)中心角膜厚(μm).3.1±2.124.9±0.5524.2±21.4.3.1±2.1.3.1±2.124.9±0.724.9±0.6526.3±12.9525.3±16.9平均±標準偏差.2015*眼圧(mmHg)で測定を行った(図1).各種測定は事前に0.5%トロピカミド(ミドリンMR,参天製薬,大阪)を1回点眼し散瞳した状態で行った.ONH血流はレーザースペックル法6)を用いて既報にならい,組織血流速度の相対的指数であるnormalizedblur(NB)**105012時16時12時12時16時12時1日目2日目15日目16日目図2眼圧の変化◯:対照,▲:タフルプロスト点眼側(n=6),値は平均値±標準偏差.*:p<0.05,対応のあるt検定,対点眼前の同時刻の測定値.(104) %NBONH140**120†12時16時12時12時16時12時1日目2日目15日目16日目図3視神経乳頭血流の変化%NBONH:レーザースペックル法で測定した視神経乳頭血流.1日目12時の測定値を100として標準化して表す.◯:対照,▲:タフルプロスト点眼側(n=6),値は平均値±標準偏差.*:p<0.05,対応のあるt検定,対点眼前の同時刻の測定値.†:p<0.05,対応のあるt検定,対照との比較.最終点眼直前,4時間後,24時間後で22.0±17.9%(p=0.02),19.9±13.1%(p=0.01),23.0±4.7%(p<0.001)と,すべての測定時点で点眼前の同時刻の値より有意な眼圧下降を認めた(図2).NBONHはタフルプロスト点眼側で最終点眼の直前および4時間後の時点で点眼開始前よりそれぞれ20.9±18.9%(p=0.04),20.8±15.9%(p=0.03)と有意に増加した.各時点での両眼のNBONHの変化率では,最終点眼24時間後に有意差を認めた(p=0.04)(図3).平均血圧・心拍数にはともに点眼開始前後で有意な変化を認めなかった(p>0.05).III考按ラタノプロストに代表されるプロスト系のPG関連薬は,眼圧下降効果の持続時間が長いために1日1回の点眼で24時間の眼圧下降効果作用が維持できる.タフルプロストは炭素15位の水酸基が2つのフッ素で置換されているために安定性が高いと考えられ5,7),その眼圧下降作用はラタノプロストと同等と報告されている8).長期点眼の効果を検討するためにはできるだけ長い点眼期間が望ましいが,タフルプロスト4週間点眼後の副作用発現率は40%と報告されており8),本研究の対象は健常人であることも踏まえて点眼期間は14日間とした.PG関連薬のONH血流に与える影響について,Ishiiら1)は健常人眼において0.005%ラタノプロストの1日1回7日間点眼後,点眼側のONH血流量が点眼後270分まで有意に増加したと報告している.しかし,点眼直前(点眼24時間後)の時点では有意な変化を認めておらず,ラタノプロスト(105)のONH血流に対する効果は24時間持続しないと考えられる.Ohashiら2)は,家兎において7日間の点眼後,トラボプロストでは点眼後24時間,ウノプロストンでは点眼後12時間にわたり点眼前に比べてONH血流量が有意に増加したと報告している.血流増加の機序は不明だが,血管平滑筋細胞内へのカルシウムイオン流入の阻害9,10),エンドセリン-1の阻害5),また,内因性PG産生機序の関連1.3)が推測されている.本研究ではタフルプロスト点眼後に血圧,心拍数の有意な変化は認めなかった.眼灌流圧について(眼灌流圧)=2/3(上腕平均血圧).(眼圧)として計算すると,点眼側の眼灌流圧は,点眼後すべての時点で,非点眼側に比べ有意に大きかった(p≦0.004)が,点眼前後で有意な変化を認めなかった(p>0.5).少なくとも正常眼において,通常の眼圧,血圧の範囲内でONH血流には自動調節能があると考えられ11),また,サル緑内障モデルを用いた既報においてはタフルプロスト点眼後に眼灌流圧に影響されないONH血流の増加がみられた3)ことから,タフルプロスト点眼によるONH血流増加作用は後眼部に到達した薬剤による局所の直接的な薬理作用によるものと推測される.タフルプロストに関しては,Mayamaら3)が,サルにおいて0.0015%タフルプロストの1日1回7日間点眼後,60分後に点眼前に比べてONH血流量の有意な増加を認めたと報告している.Akaishiら4)は,家兎において0.005%ラタノプロスト,0.004%トラボプロスト,0.0015%タフルプロストの1日1回28日間の片眼点眼後,0,30,60分後にすべての投与群でONH血流の増加を認めており,60分後の時点ではタフルプロストの作用が最も強かったと報告している.Kurashimaら5)は家兎眼においてタフルプロスト,ラタノプロスト,トラボプロストの,エンドセリン-1による毛様動脈収縮に対する抑制効果の持続時間を検討し,タフルプロストが点眼後最も長時間(240分までの検討)にわたって抑制効果を示すことを報告している.ヒト眼では,杉山ら12)が緑内障眼において6カ月点眼後のラタノプロストとタフルプロストの比較を行い,眼圧下降においては両者に差はなかったが,タフルプロスト点眼群でのみONH血流が有意に増加したと報告している.すなわち,タフルプロストの作用時間は他のPG関連薬に比べ長いことが期待されるが,眼血流に対する効果の持続時間および持続的な効果を発揮するために必要な点眼回数についての検討はほとんどみられない.本研究では,6名という少ない対象症例数だが0.0015%タフルプロストの1日1回14日間の連続点眼後,点眼後24時間にわたって点眼前より有意なONH血流の増加,あるいは非点眼側に比べて有意に高いONH血流変化率を認めた.通常の眼圧下降治療と同じ1日1回点眼により眼血流への効あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131149 果が24時間にわたり持続する可能性が示唆されたことの臨床的意義は大きい.今後緑内障患者を対象として,視機能に与える影響の評価を含めた長期間の検討が行われることが期待される.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)IshiiK,TomidokoroA,NagaharaMetal:Effectsoftopicallatanoprostonopticnerveheadcirculationinrabbits,monkeys,andhumans.InvestOphthalmolVisSci42:2957-2963,20012)OhashiM,MayamaC,IshiiKetal:Effectsoftopicaltravoprostandunoprostoneonopticnerveheadcirculationinnormalrabbits.CurrEyeRes32:743-749,20073)MayamaC,IshiiK,SaekiTetal:Effectsoftopicalphenylephrineandtafluprostonopticnerveheadcirculationinmonkeyswithunilateralexperimentalglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:4117-4124,20104)AkaishiT,KurashimaH,Odani-KawabataNetal:Effectsofrepeatedadministrationsoftafluprost,latanoprost,andtravoprostonopticnerveheadbloodflowinconsciousnormalrabbits.JOculPharmacolTher26:181-186,20105)KurashimaH,WatabeH,SatoNetal:EffectsofprostaglandinF2aanaloguesonendothelin-1-inducedimpairmentofrabbitocularbloodflow:Comparisonamongtafluprost,travoprost,andlatanoprost.ExpEyeRes91:853-859,20106)TamakiY,AraieM,KawamotoEetal:Non-contact,two-dimensionalmeasurementoftissuecirculationinchoroidandopticnerveheadusinglaserspecklephenomenon.ExpEyeRes60:373-383,19957)AiharaM:Clinicalappraisaloftafluprostinthereductionofelevatedintraocularpressure(IOP)inopen-angleglaucomaandocularhypertension.ClinOphthalmol4:163170,20108)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第Ⅲ相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20089)AbeS,WatabeH,TakasekiSetal:TheeffectsofprostaglandinanaloguesonintracellularCa2+incillaryarteriesofwild-typeandprostanoidreceptor-deficientmice.JOculPharmacolTher29:55-60,201310)DongY,WatabeH,SuGetal:Relaxingeffectandmechanismoftafluprostonisolatedrabbitciliaryarteries.ExpEyeRes87:251-256,200811)TakayamaJ,TomidokoroA,IshiiKetal:Timecourseofthechangeinopticnerveheadcirculationafteranacuteincreaseinintraocularpressure.InvestOphthalmolVisSci44:3977-3985,200312)杉山哲也,柴田真帆,小嶌祥太ほか:タフルプロスト点眼による原発開放隅角緑内障眼の視神経乳頭血流変化.臨眼65:475-479,2011***1150あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(106)