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著しい高眼圧の治療に選択的レーザー線維柱帯形成術が短期的に有効であった緑内障の4例

2013年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科30(4):558.560,2013c著しい高眼圧の治療に選択的レーザー線維柱帯形成術が短期的に有効であった緑内障の4例野々村咲子菅原岳史木本龍太三浦玄白戸勝上原淳太郎藤本尚也山本修一千葉大学大学院医学研究院眼科学SelectiveLaserTrabeculoplastyTemporarilyReducedHighIntraocularPressurein4GlaucomaPatientsSakikoNonomura,TakeshiSugawara,RyutaKimoto,GenMiura,SuguruShirato,JuntaroUehara,NaoyaFujimotoandShuichiYamamotoDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicine眼圧30mmHg以上となった4例の緑内障患者に対し,姑息的治療として選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)を施行し,短期的ながら眼圧下降を得た.症例は原発開放隅角緑内障1眼,落屑緑内障3眼である.術前眼圧は30.49mmHgであり,SLT施行4日後には12.21mmHg,7日後には20.25mmHgとなった.その後,2眼では眼圧の再上昇のため,10日後と14日後に線維柱帯切除術を施行した.他の2眼では,1カ月後の眼圧は16mmHgであった.一時的ではあるが,線維柱帯切除術を要するような高眼圧の緑内障に対する姑息的治療としてのSLTの有用性が示唆された.In4glaucomapatientswithintraocularpressure(IOP)higherthan30mmHg,weperformedselectivelasertrabeculoplasty(SLT)andobtainedtemporarilyreductionofIOP.Subjectswere1eyewithprimaryopenangleglaucoma(POAG)and3eyeswithexfoliationglaucoma(EXG).IOP,rangingfrom30.49mmHgbeforetreatment,decreasedmarkedlyatday4afterSLT(range:12.21mmHg)andatday7afterSLT(range:20.25mmHg).Weperformedtrabeculectomyat10daysandat14daysafterSLTin2eyes,duetore-elevationofIOP.Intheother2eyes,IOPwasmaintainedat16mmHgat1monthafterSLT.ThesefindingssuggestthatSLTmaybetemporarilyeffectiveinhigh-IOPglaucomapatientswhorequiredtrabeculectomy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(4):558.560,2013〕Keywords:選択的レーザー線維柱帯形成術,姑息的治療,レーザー治療.selectivelasertrabeculoplasty,palliativetreatment,lasertreatment.はじめに緑内障に対するレーザー治療は,1979年にWiseらがアルゴンレーザー線維柱帯形成術(argonlasertrabeculoplasty:ALT)の有効性を報告し1),その後の調査では原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)に対する眼圧下降率は薬物治療より高いと報告された2).ALTは線維柱帯の有色素細胞・無色素細胞やコラーゲン線維の結合を凝固熱により破壊するため侵襲が大きく3),周辺虹彩前癒着や眼圧上昇などの合併症を伴うことがある4).それに対し選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)は,低エネルギーで選択的に線維柱帯の有色素細胞を破壊するため,ALTと比べると侵襲が小さいといわれている5)が,その作用機序や有効因子など不明な点が多く,適応の基準も定まっていない.SLTをPOAG,落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EXG)に使用した治療成績は数多く報告されており5.10),ある程度の有効性が確認されている.文献を渉猟する限り,眼圧が20.30mmHgのPOAGやEXGに対してSLTを施行した〔別刷請求先〕野々村咲子:〒260-8670千葉市中央区亥鼻1-8-1千葉大学大学院医学研究院眼科学Reprintrequests:SakikoNonomura,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-8-1Inohana,Chuo-ku,Chiba-city260-8670,JAPAN558558558あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(130)(00)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY 治療成績が多くみられている.今回,筆者らは眼圧が30mmHg以上と高値を示したPOAGの1眼とEXGの3眼に対してSLTを施行し,その後の経過を検討した.I対象および方法対象は2008年10月から11月までの間に,千葉大学医学部附属病院眼科でSLTを施行した緑内障3例4眼で,SLT施行時の眼圧が30mmHg以上の症例である.表1に示すように,POAG1眼,EXG3眼であり,全例男性で年齢は64.65歳,術前眼圧は30.49mmHgであった.術前の眼圧下降点眼薬の投薬数は2.4剤であり,1眼では眼圧下降薬の内服も行われていた.また,症例1と2では僚眼の線維柱帯切除術の既往があった.2眼は当科受診時,眼圧が高値を示し,視野障害も高度であったため,早急に線維柱帯切除術が必要と考えられたが,仕事や家庭の諸事情によりすぐには手術が施行できなかったため,インフォームド・コンセントを得た後にSLTを施行した.他2眼は視野障害は軽度であったが,投薬数が多いにもかかわらず高眼圧であったため,いずれ線維柱帯切除術が必要になる可能性があることを説明した後にSLTを施行した.使用器械はSelectaDuet(㈱日本ルミナス)で,専用コンタクトレンズLatinaSLTLensを用いた.照射条件は波長532nm,スポットサイズ400μm,持続時間3nsec,エネルギー0.7.1.0mJで,全周に約80発照射した.施行前後に1%アプラクロニジンを点眼した.観察期間は1カ月間とし,SLT施行後の短期的効果について検討した.II結果症例の概要を表1に示す.症例1では,術後も点眼を続行して,SLT実施1カ月まで眼圧14.16mmHgで推移した.症例2では,SLTにより眼圧の下降が得られたため内服を中止したが,眼圧が再度上昇したため,SLT20日後に線維柱帯切除術を施行した.症例3の右眼は,点眼を続行して16mmHg前後の眼圧で推移し,左眼は眼圧が再上昇したため,SLT10日後に左線維柱帯切除術を施行した.全例でSLTによる合併症はみられなかった.III考按今回,30mmHg以上の高眼圧を呈したPOAGとEXGの4眼に対し,諸事情により早急に線維柱帯切除術ができなかったため,姑息的治療としてSLTを施行し,一時的ながらも有効な眼圧下降を得ることができた.SLTの成功因子として眼圧のベースラインがあげられており,術前の眼圧が高いほど,下降率が高いとの報告がある11,12).Hodgeらは,SLT施行1年後の,眼圧下降率20%以上の群の術前平均眼圧が26.05mmHgであったのに対し,眼圧下降率20%未満の群では20.97mmHgと有意な差を認めたと報告している11).今回の症例はどれも術前眼圧が非常に高かったため,眼圧下降率も大きく,一時的に手術の延期が可能であった.症例2と3(左眼)では,術後に20mmHg台後半に再上昇したため,線維柱帯切除術を施行した.症例1と3(右眼)については観察期間が短期間であったためか,期間中は手術を要するほどの眼圧の再上昇がなかったが,長期的に観察すれば,いずれは手術が必要になる可能性は否定できない.一般的にSLTは合併症が少なく(4.5.11%)14),ほとんどが一時的な眼圧上昇や虹彩炎といわれている.今回の症例でもSLTによる合併症はみられなかった.今後,さらなる症例数の増加と検討が必要であるが,線維柱帯切除術が必要な高眼圧に対しても,一時的なSLTの有効性が示唆された.また,SLTの適応についても,POAGやEXGだけでなく,トリアムシノロンアセトニドの硝子体内注入後の眼圧上昇に対しても有効との報告があり13),今後の適応症例の拡大が期待される.文献1)WiseJB,WitterSL:Argonlasertherapyforopen-angleglaucoma:Apilotstudy.ArchOphthalmol97:319-322,19792)TheGlaucomaLaserTrialResearchGroup:TheGlaucomaLaserTrial(GLT)andGlaucomaLaserTrialFollowUpStudy:7.Results.AmJOphthalmol120:718-731,19953)KramerTR,NoeckerRJ:Comparisonofthemorphologic表1症例の術前背景と眼圧の経過症例年齢・性病型左右術前投薬数術前のHumphrey視野検査(30-2)MD値(dB)術前4日後眼圧(mmHg)7日後10日後14日後1カ月後12364・男65・男64・男POAGEXGEXGEXG右左右左点眼2剤点眼2,内服1点眼4剤点眼4剤.4.30.1.52.20.93.25.713035424921121221202527手術14手術1616POAG:primaryopenangleglaucoma,EXG:exfoliationglaucoma,MD:meandeviation.(131)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013559 changesafterselectivelasertrabeculoplastyandargonlasertrabeculoplastyinhumaneyebankeyes.Ophthalmology108:773-779,20014)HoskinsHDJr,HetheringtonJJr,MincklerDSetal:Complicationsoflasertrabeculoplasty.Ophthalmology90:796-799,19835)狩野廉,桑山泰明,溝上志朗ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.日眼会誌103:612-616,19996)齋藤代志朗,東出朋巳,杉山和久:原発開放隅角緑内障症例への選択的レーザー線維柱帯形成術の追加治療成績.日眼会誌111:953-958,20077)上野豊広,岩脇卓司,湯才勇ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績.あたらしい眼科25:1439-1442,20088)望月英毅,高松倫也,木内良明:選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の術後6カ月の有効率.あたらしい眼科25:693-696,20089)菅原通孝,井上賢治,若倉雅登ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績.あたらしい眼科27:835-838,201010)南野桂三,松岡雅人,安藤彰ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績.あたらしい眼科26:1249-1252,200911)HodgeWG,DamjiKF,RockWetal:BaselineIOPpredictsselectivelasertrabeculoplastysuccessat1yearpost-treatment:resultsfromarandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol89:1157-1160,200512)AyalaM,ChenE:Predictivefactorsofsuccessinselectivelasertrabeculoplasty(SLT)treatment.ClinOphthalmol5:573-576,201113)RubinB,TaglientiA,RothmanRFetal:Theeffectofselectivelasertrabeculoplastyonintraocularpressureinpatientswithintravitrealsteroid-inducedelevatedintraocularpressure.JGlaucoma17:287-292,200814)LatinaMA,deLeonJM:Selectivelasertrabeculoplasty.OphthalmolClinNorthAm18:409-419,2005***560あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(132)

選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績

2010年6月30日 水曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(121)835《原著》あたらしい眼科27(6):835.838,2010cはじめに1979年にWiseらは,隅角全周の線維柱帯色素帯にアルゴンレーザーを照射するレーザー線維柱帯形成術(argonlasertrabeculoplasty:ALT)によって,眼圧下降が得られることを報告した1).しかし,その後の報告で術後,周辺虹彩前癒着(PAS)が生じたり,線維柱帯の器質的変化が生じ眼圧が上昇するなどの問題点が指摘された2,3).選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)は線維柱帯の有色素細胞を選択的に破砕し,線維柱帯細胞を活性化して房水流出を改善し,眼圧を下降させる方法4)で,照射するエネルギーが少なく,反復照射可能で合併症も少ないことから薬物療法と観血的手術治療の中間の治療として期待されている5,6).SLTを全周照射した治療成績の文献は散見される7.12)が,観察期間が1.3カ月間と短期間のものが多く,国内では菅野らの報告10)の6カ月間が最長であるが,症例数が10例と少ない.そこで今回井上眼科病院においてSLTを施行し,3カ月間以上経過観察ができた39例47眼の治療成績をレトロスペクティブに検討した.〔別刷請求先〕菅原道孝:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3医療法人社団済安堂井上眼科病院Reprintrequests:MichitakaSugahara,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績菅原道孝*1井上賢治*1若倉雅登*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院EfficacyofSelectiveLaserTrabeculoplastyMichitakaSugahara1),KenjiInoue1),MasatoWakakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine目的:当院における選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の治療成績を検討した.対象および方法:2006年11月から2008年2月までにSLTが施行され,3カ月以上経過観察ができた39例47眼を対象とした.病型は原発開放隅角緑内障が33眼,落屑緑内障が12眼,続発緑内障が1眼,高眼圧症が1眼であった.平均年齢は68.3歳,平均経過観察期間は10.9カ月間,術前平均投薬数は3.7剤であった.結果:SLT術前の眼圧は22.1±5.6mmHg,術6カ月後の眼圧は17.2±4.6mmHgで,有意に下降した(p<0.0001).術6カ月後に3mmHg以上眼圧が下降したものは62.9%,同様に20%以上眼圧が下降したものは48.6%であった.重篤な副作用の出現はなかった.結論:SLTは安全で眼圧下降効果が強力で,短期的には有用性が高かったが長期に経過をみる必要がある.Purpose:Weinvestigatedtheeffectivenessofselectivelasertrabeculoplasty(SLT).Methods:FromNovember2006toFebruary2008,weinvestigated47eyesof39patientsinwhomSLTwasappliedto360degreesofthetrabecularmeshwork,withfollow-upformorethan3months.Theseriescomprised33eyeswithprimaryopen-angleglaucoma,12eyeswithexfoliationglaucoma,1eyewithsecondaryglaucomaand1eyewithocularhypertension.Results:Meanpatientagewas68.3yearsandmeanfollow-upperiodwas10.9months;theaveragenumberofanti-glaucomatouseyedropstakenbeforeSLTwas3.7.IOPdecreasedsignificantlyinalleyes,fromapreoperativemeanof22.1±5.6mmHgtoameanof17.2±4.6mmHgat6monthspostoperatively.After6months,IOPreduction≧3mmHgwasseenin62.9%ofeyes,andIOPreductionrate>20%wasseenin48.6%ofeyes.Noseriouscomplicationsoccurredinanyeyes.Conclusion:SLTisasafeandeffectivealternativeforreducingIOPforashorttime.Long-termoutcomesofSLTshouldalsobeevaluated.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(6):835.838,2010〕Keywords:選択的レーザー線維柱帯形成術,緑内障,レーザー治療.selectivelasertrabeculoplasty,glaucoma,lasertherapy.836あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(122)I対象および方法対象は39例47眼(男性20例24眼,女性19例23眼),年齢は68.3±10.5歳(平均±標準偏差)(40.86歳),観察期間は最低3カ月以上とし,10.9±4.7カ月(3.20カ月)であった.術前投薬数3.7±1.2剤で,内訳は点眼薬・内服未使用が2眼,1剤が1眼,2剤が2眼,3剤が13眼,4剤が17眼,5剤が12眼であった.異なる日に計測した連続する術前2回もしくは3回の眼圧の平均値は22.1±5.6mmHg(12.44mmHg)であった.手術既往は線維柱帯切除術が4眼,線維柱帯切開術が3眼,ALTが4眼,白内障手術が6眼であった.緑内障の病型分類は,原発開放隅角緑内障が33眼,落屑緑内障が12眼,ステロイド緑内障が1眼,高眼圧症が1眼であった.SLTの適応は点眼・内服治療を行っている,もしくは点眼・内服治療にアレルギーがあり使用できない患者で,視野障害の進行を認め,さらなる眼圧下降が必要な症例とした.患者にはインフォームド・コンセントをとり,文書にて同意を得た.SLTのレーザー装置は,ルミナス社製SelectduetRを使用した.照射条件は0.4mJより開始し,気泡が生じる最小エネルギーとした.全例隅角全周に照射した.術前眼圧と術1カ月後,3カ月後,6カ月後の眼圧を比較した(対応のあるt検定).レーザー照射後眼圧が3mmHg以上下降,または眼圧下降率が20%以上を有効例とした.また,眼圧下降率とSLTの治療成績に影響を与える因子(術前眼圧,術前投薬数,総照射エネルギー)とに相関があるか回帰分析で検討した.SLT後に投薬数を増加,緑内障観血的手術施行,SLTを再度施行,あるいは眼圧下降率10%未満が3回続いた場合を死亡と定義し,生存率を検討した.II結果1照射エネルギーは0.78±0.14mJ(0.4.1.0mJ),照射数は103.1±14.1発(75.135発),平均総エネルギーは80.5±17.2mJ(36.4.112mJ)であった.術後眼圧の推移を図1に示す.術前眼圧は22.1±5.6mmHgから1カ月後には18.7±6.5mmHg,3カ月後には16.6±3.1mmHg,6カ月後には17.2±4.6mmHgと眼圧は術前と比較し,どの時期においても有意に下降していた(p<0.0001,t検定).眼圧下降率の推移を図2に示す.眼圧下降率は1カ月後14.6±18.7%,3カ月後17.6±16.6%,6カ月後15.4±19.2%で差がなかった.SLT後の有効率を図3に示す.レーザー照射1カ月後に*:p<0.0001***051015202530術前眼圧(n=47)1カ月(n=47)3カ月(n=39)6カ月(n=35)眼圧(mmHg)観察期間図1術後平均眼圧の推移術前と比較し,どの時期においても眼圧は有意に下降していた.-10-505101520253035401カ月(n=47)3カ月(n=39)6カ月(n=35)眼圧下降率(%)経過観察期間図2眼圧下降率の推移010203040506070有効率(%)観察期間:3mmHg下降:20%下降55.364.162.942.653.848.61カ月(n=47)3カ月(n=39)6カ月(n=35)図3SLT後の有効率術前と比較し3mmHg以上下降したものは6カ月で62.9%,眼圧下降率20%以上のものは6カ月で48.6%であった.00.20.40.60.811.2術前n=47n=39n=39n=351カ月後2カ月後3カ月後6カ月後:累積生存率:発生例図4生存曲線Kaplan-Meier法による累積生存率は3カ月で0.83,6カ月で0.74であった.(123)あたらしい眼科Vol.27,No.6,20108373mmHg以上下降した症例は55.3%,3カ月後は64.1%,6カ月後は62.9%であった.下降率20%以上の症例は1カ月後42.6%,3カ月後は53.8%,6カ月後は48.6%であった.術前眼圧と眼圧下降率(r=0.045,p=0.77),術前投薬数と眼圧下降率(r=0.04,p=0.788),総照射エネルギー量と眼圧下降率(r=0.045,p=0.764)ともに,相関はなかった.SLT6カ月後の転帰は,薬物療法追加3眼,SLT追加が4眼,線維柱帯切除術施行が5眼,ニードリング施行が1眼であった.Kaplan-Meier法による累積生存率は3カ月後で0.83,6カ月後で0.74であった(図4).47眼中12眼でSLT後軽度の虹彩炎を認めたが,術1週間後には全例で消失しており,重篤な合併症はなかった.III考按ALTでは半周照射が一般的であったことからSLTも半周照射で当初は行われていた.最近は全周照射のほうが眼圧下降効果が高いこと10,11)から当院では全例全周照射を行っている.過去の報告からSLTを全周照射したものを抜粋し,眼数,観察期間,術前投薬数,術前眼圧,眼圧下降幅,眼圧下降率をまとめた7.12)(表1).海外の2報告7,8)は眼圧下降率が30%以上である.Lanzettaら7)は術前投薬2.1剤でSLTを全周に照射した6例8眼で6週間後に眼圧は平均10.6mmHg下降し,眼圧下降率は平均39.9%と報告した.Laiら8)は29例の中国人の術前点眼なしの症例で,同一症例の片眼にSLTの全周照射を施行し,僚眼にラタノプロストを使用した.眼圧はSLT眼で平均8.6mmHg下降し,眼圧下降率は平均32.1%で,僚眼との比較で有意差はなかった.これらの報告は,経過観察期間が短いが,SLT半周照射で長期経過をみたものにJuzychらの報告13)がある.術前投薬平均2.5剤でSLTを半周照射した41眼の成績をみたところ5年後の眼圧下降率は27.1%と報告した.人種差も眼圧下降効果に関与していると考えた.一方,国内の報告は成績がばらばらであるが,眼圧下降率は10%台後半から30%台が多い.最も眼圧下降率が低い田中らの報告9)では隅角半周照射33眼と全周照射34眼を比較している.術前投薬数は半周照射群は平均2.7剤,全周照射群は平均3.0剤であった.眼圧下降率は,半周照射群は平均16.1%,全周照射群は11.2%で両者に差はなかった.ただ術前平均眼圧が半周群17.4mmHg,全周群16.1mmHgで他の文献に比べ低いことも関与していると考え,術前眼圧18mmHg以上の症例で検討したところ両者に差はなかった.最も眼圧下降率が高い菅野らの報告10)では隅角半周照射10眼と全周照射10眼を比較している.術前投薬数は半周照射群は平均2.2剤,全周照射群は平均1.8剤であった.6カ月後の眼圧下降率は半周照射群は平均7.9%,全周照射群は31.9%であった.森藤らの報告11)では半周照射44眼と全周照射45眼を比較している.術前投薬数は半周照射群は平均2.5剤,全周照射群は平均2.3剤であった.1カ月後の眼圧下降率は半周照射群は平均10.9%,全周照射群は18.3%であった.眼圧下降率20%以上の症例は半周群18.2%,全周群40.0%と全周群が有意に多かった.Kaplan-Meier生存分析による1年生存率は半周群57.4%,全周群82.2%,2年生存率は半周群44.0%,全周群58.0%と全周群が高かった.山崎らの報告12)では全周照射した20眼の成績を検討している.術前投薬数は2.6剤で,眼圧下降率は平均15.1%であった.本報告でのSLTの眼圧下降率は15.4%と他の文献よりやや低いと思われるが,その理由として術前投薬数が3.7剤と多いため,眼圧下降効果が弱まったのではないかと考えた.実際術前投薬数と眼圧下降率に相関はなかったが,今後は術前投薬数が2剤もしくは3剤の段階でSLTを施行し眼圧の変動をみるとともに,SLTの有効性を推測する予測因子を検討する必要があると考えた.SLTは点眼・内服でコントロール不良の症例に行うことが多いと思うが,点眼で2剤もしくは3剤使用後でまだ眼圧コントロール不良例に使用する頻度が高い塩酸ブナゾシン点眼薬と今回の筆者らの症例とを比較検討してみた.花輪ら14)はプロスタグランジン関連薬およびb遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬の点眼を投与している緑内障患者39例59眼に塩酸ブナゾシン点眼薬を追加し,6カ月後の成績を検討した.塩酸ブナゾシン点眼24週後の平均眼圧下降値は4.3mmHgで有意(p<0.01)に眼圧下降を示した.全体の約70%の症例で眼圧下降を認めた.岩切ら15)はプロスタグランジン関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬を点眼している原発開放隅角緑内障25眼に塩酸ブナゾシン点眼薬を追加投与したところ12週後で平均2.0mmHgと有意に眼圧が下降し,また治療前眼圧に比し,2mmHg以上下降した割合は12週後で塩酸ブナゾシン点眼薬投与群は60%であった.徳田ら16)は原発開放隅角緑内障患者で点眼中の患者に塩酸ブナゾシン点眼薬追加投与による眼圧下降効果を検討しており,3剤併表1SLT全周照射の成績著者眼数観察期間(月)術前投薬数術前眼圧(mmHg)眼圧下降幅(mmHg)眼圧下降率(%)Lanzettaら7)81.52.126.610.638.0Laiら8)2960026.88.632.1田中ら9)3413.016.11.911.2菅野ら10)1061.822.67.631.9森藤ら11)4512.319.13.718.3山崎ら12)2032.621.23.215.1本報告4763.722.13.415.4838あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(124)用症例は平均約0.8mmHgの下降にとどまった.館野ら17)は塩酸ブナゾシン点眼薬を併用した緑内障患者の併用薬剤数と眼圧下降効果について検討したところ,点眼開始6カ月後の眼圧下降率は併用前3剤使用の患者で7.8%であった.以上の結果よりSLTは塩酸ブナゾシン点眼薬に比し,多剤併用時は同等もしくはそれ以上の眼圧下降を有するものと考えた.また,SLTの合併症は軽度の虹彩炎以外認めなかった.森藤らは2眼に一過性眼圧上昇,1眼に隅角出血がみられたが虹彩前癒着などの器質的な変化を生じたものは認めなかった.他の文献でも軽度の虹彩炎,軽微な眼圧上昇は認めたが,重篤な合併症はなかったことから,SLTは薬物治療で十分な眼圧下降が得られない症例に対し,観血的治療の前段階の治療として効果も安全性も期待できる治療と考えた.今回SLTを全周照射した47眼について治療成績を検討した.術前の眼圧は22.1±5.6mmHgで,術後6カ月で17.2±4.6mmHgと有意に眼圧は下降していた.また,術6カ月後に3mmHg以上眼圧が下降した症例は62.9%,同様に20%以上眼圧が下降した症例は48.6%であった.経過中重篤な副作用の発現もみられなかった.SLTは安全で眼圧下降効果が強力であり,6カ月間という短期的には有用性が高かったが,今後はさらに長期に経過をみる必要がある.文献1)WiseJB,WitterSL:Argonlasertherapyforopen-angleglaucoma:Apilotstudy.ArchOphthalmol97:319-322,19792)HoskinsHDJr,HetheringtonJJr,MincklerDSetal:Complicationsoflasertrabeculoplasty.Ophthalmology90:796-799,19833)LeveneR:Majorearlycomplicationsoflasertrabeculoplasty.OphthalmicSurg14:947-953,19834)LatinaMA,ParkC:Selectivetargetingoflasermeshworkcells:invitrostudiesofpulsedandCWlaserinteractions.ExpEyeRes60:359-371,19955)KramerTR,NoeckerRJ:Comparisonofthemorphologicchangesafterselectivelasertrabeculoplastyandargonlasertrabeculoplastyinhumaneyebankeyes.Ophthalmology108:773-779,20016)LatinaMA,SibayanSA,ShinDHetal:Q-switched532-nmNd:YAGlasertrabeculoplasty(selectivelasertrabeculoplasty):amulticenter,pilot,clinicalstudy.Ophthalmology105:2082-2088,19987)LanzettaP,MenchiniU,VirgiliG:Immediateintraocularpressureresponsetoselectivelasertrabeculoplasty.BrJOphthalmol83:29-32,19998)LaiJS,ChuaJK,ThamCCetal:Five-yearfollowupofselectivelasertrabeculoplastyinChineseeyes.ClinExpOphthalmol32:368-372,20049)田中祥恵,今野伸介,大黒浩:選択的レーザー線維柱帯形成術における180°照射と360°照射の比較.あたらしい眼科24:527-530,200710)菅野誠,永沢倫,鈴木理郎ほか:照射範囲の違いによる選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.臨眼61:1033-1037,200711)森藤寛子,狩野廉,桑山泰明ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の照射範囲による治療成績の違い.眼臨紀1:573-577,200812)山崎裕子,三木篤也,大鳥安正ほか:大阪大学眼科における選択的レーザー線維柱帯形成術の成績.眼紀58:493-498,200713)JuzychMS,ChopraV,BanittMRetal:Comparisonoflong-termoutcomesofselectivelasertrabeculoplastyversusargonlasertrabeculoplastyinopen-angleglaucoma.Ophthalmology111:1853-1859,200414)花輪宏美,佐藤由紀,末野利治ほか:抗緑内障点眼薬多剤併用患者に対する塩酸ブナゾシン点眼薬の効果.あたらしい眼科22:525-528,200515)岩切亮,小林博,小林かおりほか:多剤併用におけるブナゾシンのラタノプロストへの併用効果.臨眼58:359-362,200416)徳田直人,井上順,青山裕美子:塩酸ブナゾシンの降圧効果と角膜に及ぼす影響.PharmaMedica22:129-134,200417)館野泰,柏木賢治:塩酸ブナゾシン点眼薬の併用眼圧下降効果.あたらしい眼科25:99-101,2008***

選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の術後6 カ月の有効率

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(117)6930910-1810/08/\100/頁/JCLS18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(5):693696,2008cはじめに選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)は,線維柱帯細胞のうち色素を含有する細胞のみを選択的に障害する新しい緑内障レーザー治療として1995年にLatinaら1)によって報告された.低エネルギーであり線維柱帯の器質的変化をきたすことが少ないため,アルゴンレーザー線維柱帯形成術(ALT)に代わる緑内障レーザー治療として注目され,以来,広く臨床使用されるに至っている.その成績は開放隅角緑内障や落屑緑内障を対象として,primarytreatmentとして使用した場合,80%以上の有効率2,3)を示し,ラタノプロストに匹敵する降圧作用2,4)があると報告されている.しかし実地臨床では,点眼加療で眼圧下降が不十分な例に手術回避を目的として施行されるなど,second-linetherapyとして使われることが多く,また,ぶどう膜炎に続発する緑内障や閉塞隅角緑内障を除くさまざまな緑内障病型にも用いられる場合がままある.〔別刷請求先〕望月英毅:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学Reprintrequests:HidekiMochizuki,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima-shi734-8551,JAPAN選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の術後6カ月の有効率望月英毅高松倫也木内良明広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学ResponderRateatSixMonthsafterSelectiveLaserTrabeculoplastyHidekiMochizuki,MichiyaTakamatsuandYoshiakiKiuchiDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の治療成績を後ろ向きに検討した.対象はSLTを受けた緑内障患者連続55例58眼であった.内訳けは,開放隅角緑内障が36眼,落屑緑内障11眼,その他の続発緑内障および緑内障手術既往眼が11眼で,点眼薬剤数2.3±1.0剤,治療前眼圧は20.4±4.1mmHg.総エネルギー量は28.2±6.8mJ,下方半周を凝固した.照射後6カ月で3mmHg以上の下降を示したものは全58眼中24眼(41%)であった.この24眼中での下降幅中央値は5.0mmHgであった.同様に6カ月後に20%以上眼圧が下降したものは21眼(36%)あり,この21眼で,下降率の中央値は27.4%であった.術前眼圧は有効率と相関があった(r=0.5,p=0.012).落屑以外の続発緑内障と緑内障手術既往眼では成績が悪かった.比較的術前眼圧が高い開放隅角緑内障および落屑緑内障で,緑内障手術既往のない眼が良い適応と考えた.Wereviewedaseriesof58eyesof55patientswhohadbeentreatedwithselectivelasertrabeculoplasty(SLT).Ofthe58eyes,36hadopen-angleglaucoma(includingnormal-tensionglaucoma),11hadexfoliativeglau-comaand11hadothersecondaryglaucomaorahistoryofglaucomasurgery.Theaveragenumberofanti-glauco-mamedicationsusedwas2.3±1.0andthemeanbaselineintraocularpressure(IOP)was20.4±4.1mmHg.Theinferior180degreesofmeshworkreceivedenergyof28.2±6.8mJ.Theresponderratefor20%pressurereductionwas36%andthatfor3mmHgIOPreductionwas41%at6-monthsfollow-up.ThebaselineIOPcorrelatedwithanSLTsuccessof20%IOPreduction(r=0.5,p=0.012).Eyeswithsecondaryglaucomaorahistoryofglaucomasurgerydidnotrespond.SLTwasfoundtobeecaciousforopen-angleglaucomaorexfoliativeglaucomawithoutahistoryofglaucomasurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(5):693696,2008〕Keywords:選択的レーザー線維柱帯形成術,緑内障,レーザー治療.selectivelasertrabeculoplasty,glaucoma,lasertherapy.———————————————————————-Page2694あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(118)から4まで分類判定したものを用いた.II結果術後16カ月後の有効率を図1に示す.レーザー照射後6カ月で3mmHg以上の下降を示したものは全58眼中24眼(41%)であった.この24眼中での下降幅の中央値は5.0mmHg,2575%点は4.36.8mmHg,最大値は10.3mmHgであった(図2a).同様に6カ月後に下降率20%以上を示したものは21眼(36%)あり,この21眼で,下降率の中央値しかしながらこうした場合,従来の報告どおりの効果が期待できるのかはわからない.そこでSLTの日常臨床での成績を検討した.I対象および方法1.対象広島大学眼科緑内障外来でSLTを受けた緑内障患者連続58例62眼のうち全身状態悪化などで受診が途絶えた3例4眼を除いた,55例58眼を対象にレトロスペクティブに検討した.対象は男性30例32眼,女性25例26眼で,年齢は平均62.3±11.2歳(4386歳)であった.異なる日に計測した連続する術前2回の眼圧の平均値は,20.4±4.1mmHgであった.術前の眼圧下降薬の点眼数は2.3±1.0本で,内訳は,点眼薬を使用していないものが3眼,1剤が10眼,2剤が14眼,3剤が26眼,4剤が5眼であった.眼圧下降薬の内服はなかった.観察期間は6カ月とした.対象の緑内障病型の内訳は表1に示すとおり,広義原発開放隅角緑内障で術前眼圧が16mmHg以下の群,16mmHgより大きい群,落屑緑内障,その他の緑内障群とした.その他の群にはaphakicglaucomaなど落屑緑内障以外の続発開放隅角緑内障および,トラベクレクトミー既往眼が4眼,トラベクロトミー既往眼が1眼含まれている.ALT既往眼はなかった.2.方法レーザーはLuminus社製SelectaIIを用い,照射の方法はこれまでの報告57)と同様,0.8mJ/発前後から始め,気泡の出ない最大のエネルギーを使用し,全例下方線維柱帯半周180°に照射した.平均総エネルギーは28.2±6.8mJ(平均±SD),照射数は56.3±6.0発であった.下降幅3mmHg以上,または下降率20%以上を有効と判定した.経過観察期間中に点眼を追加された1眼,緑内障手術を受けた10眼は無効例とした.隅角色素は下方象限の色素をScheieの分類でグレード0表1対象患者の緑内障病型の内訳病形眼数術前眼圧(平均±SDmmHg)開放隅角緑内障(≦16mmHg)614.8±1.5開放隅角緑内障(>16mmHg)3019.9±2.9落屑緑内障1124.0±4.4その他1121.5±3.9開放隅角緑内障(≦16mmHg)は術前2回の受診時眼圧の平均値が16mmHg以下の広義原発開放隅角緑内障.開放隅角緑内障(>16mmHg)は同様に術前眼圧が16mmHgより大きい広義原発開放隅角緑内障.その他の群には緑内障手術既往眼(レクトミー後4例,ロトミー後1例)およびaphakicglaucomaなど,その他の続発開放隅角緑内障を含む.:3mmHg下降:20%下降1009080706050403020100有効率(%)1カ月3カ月術後月数6カ月図1SLT後1~6カ月の有効率実線は有効判定基準を眼圧下降幅3mmHg以上としたもの,破線は有効判定基準を眼圧下降率20%以上としたもの.02468101201020304050ab眼圧下降幅(mmHg)眼圧下降率(%)図2SLT有効例の箱ヒゲ図a:レーザー照射後6カ月で3mmHg以上の下降を示した24眼の下降幅の分布.b:同様に6カ月後に下降率20%以上を示した21眼の下降率の分布.:無効例:有効例35302520151050眼数OAG≦16mmHg15110OAG>16mmHg1317落屑緑内障65その他図3照射後6カ月での病型別有効例数(眼圧下降率20%以上)OAG:開放隅角緑内障.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008695(119)むね50%程度の有効率があったが,眼圧16mmHg以下の開放隅角緑内障および,緑内障手術既往のある群や無水晶体性緑内障などの続発緑内障では有効率は低かった.今回の対象では手術既往のある眼は,トラベクレクトミー後で特に成績が悪かった.レクトミー後はSchlemm管が狭窄化しており9),レクトミー既往眼にはロトミーは効果が少ない10)ことから,一般にレクトミー後は房水流出路が萎縮するものと考えられている.SLTも同様の理由でレクトミー後は無効であるものと推察される.また,術前眼圧16mmHg以下の開放隅角緑内障の群では反応例が少なく,やはり術前眼圧の高いものが反応しやすいものと考える.落屑緑内障にやや反応例が多かったのも術前眼圧が高かった影響があるのかもしれない.色素含有細胞のみを選択的に障害するとされているSLTの作用機序からは隅角色素が多い眼のほうが有効性は高いものと予想されるが,SLTでは隅角色素と術後成績の間に相関がない5,11)と報告されている.自験例でも相関はみられなかった.この事象に関しては考察が困難であり,これまでにも納得のできる説明はなされていない.Songら8)は個々の緑内障点眼薬が成績に及ぼす影響を検討し,プロスタグランジン製剤,b遮断薬,炭酸脱水素酵素阻害薬のいずれも有効率に差は検出されなかったとしているが,Songらの対象では複数の点眼が処方されている例が多く,はたして正確に個々の点眼の影響を検討できるのか疑問が残る.筆者らの症例においても,多くの症例でラタノプロストが処方されており,個々の点眼薬の影響を検討することは困難であったので,今回は検討していない.最近レトロスペクティブな検討12)で,プロスタグランジン製剤点眼を使用している患者群のほうが,その他の緑内障点眼を使用している群よりSLTの効果が高いとの報告がなされたものの,今のところその他にSLTと相乗効果のある緑内障点眼薬があるのかどうかは不明である.以上を要するに,SLTでは比較的術前眼圧が高い開放隅角緑内障および落屑緑内障で,レクトミーの既往のない眼がよい適応であり,隅角色素は効果には無関係と考える.SLTは比較的合併症の少ない治療ではあるが,点眼と比べて患者にかなりの経済的負担(平成18年10月版医科点数表の解釈によると隅角光凝固術8,970点)を強いるものである.病型を選ばずに,点眼加療中の緑内障患者にSLTを行うと,既報の成績よりも反応性が悪くなる可能性があることを念頭に適応を決する必要があるものと考える.文献1)LatinaMA,ParkC:Selectivetargetingoftrabecularmeshworkcells:invitrostudiesofpulsedandCWlaserinteractions.ExpEyeRes60:359-371,1995は27.4%,2575%点は2533%,最大値は42%であった(図2b).照射後6カ月で,下降率20%以上を示した例の数を病型別に図3に示す.術前眼圧16mmHgより大きい開放隅角緑内障と落屑緑内障の群で比較的良好な反応が得られたが,16mmHg以下の開放隅角緑内障とその他の群では反応性に乏しかった.緑内障手術既往のある眼では,トラベクレクトミー既往眼は4眼すべてで無効で,ロトミー既往眼1眼は術後3カ月までは有効であったが,6カ月目に無効となった.つぎに成績に影響を与える因子を検討した.有効例(下降率20%以上)における眼圧下降値と術前眼圧は単回帰にてr=0.5と弱い相関があった(図4).3mmHg下降,および20%下降で判定した有効例群と無効例群における隅角色素のScheie分類のグレード数をMann-Whitney-Utestを用いて比較したところ,いずれの判定基準においても差は検出されなかった(順にp=0.89,p=0.59).同様に術前の眼圧下降薬の点眼数を比較したが,差は検出されなかった(順にp=0.17,p=0.11).III考按今回は,すでに点眼加療がなされているさまざまな緑内障病型に対してSLTを行った結果を検討した.これまでの報告2,3)ではSLTはprimarytreatmentとしては80%以上の有効率を示すとされている.しかしながら,今回得られた有効率はこれらと比べても低い値であった.筆者らと同様に点眼加療を行っている患者に対する治療の報告8)をみると,50%前後の有効率であり,筆者らの結果よりやや良いもののおおむね同様である.今回の検討では術前の点眼数と有効性の関係は検出されなかったものの,日常臨床でSLTの適応を決定する場合に注意を要する結果といえる.対象患者の病型の内訳をみてみると,術前眼圧が16mmHgより大きい開放隅角緑内障,および落屑緑内障ではおおr=0.50p=0.0121110987654315202530術前眼圧(mmHg)眼圧下降幅(6カ月後)(mmHg)図4有効例(眼圧下降率20%以上)における眼圧下降幅と術前眼圧の単回帰分析———————————————————————-Page4696あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(120)維柱帯形成術のアルゴンレーザー線維柱帯形成術の効果比較.眼臨99:633-637,20058)SongJ,LeePP,EpsteinDLetal:Highfailurerateassoci-atedwith180degreesselectivelasertrabeculoplasty.JGlaucoma14:400-408,20059)JohnsonDH,MatsumotoY:Schlemm’scanalbecomessmalleraftersuccessfulltrationsurgery.ArchOphthal-mol118:1251-1256,200010)禰津直久,永田誠:天理病院トラベクロトミーの統計学的観察その1病型・術前手術.眼臨80:2120-2123,198611)HodgeWG,DamjiKF,RockWetal:BaselineIOPpre-dictsselectivelasertrabeculoplastysuccessat1yearpost-treatment:resultsfromarandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol89:1157-1160,200512)SchererWJ:Eectoftopicalprostaglandinanaloguseonoutcomefollowingselectivelasertrabeculoplasty.JOculPharmacolTher23:503-512,20072)McIlraithI,StrasfeldM,ColevGetal:Selectivelasertrabeculoplastyasinitialandadjunctivetreatmentforopen-angleglaucoma.JGlaucoma15:124-130,20063)MelamedS,BenSimonGJ,Levkovitch-VerbinH:Selec-tivelasertrabeculoplastyasprimarytreatmentforopen-angleglaucoma:aprospective,nonrandomizedpilotstudy.ArchOphthalmol121:957-960,20034)NagarM,OgunyomadeA,O’BrartDPetal:Aran-domised,prospectivestudycomparingselectivelasertra-beculoplastywithlatanoprostforthecontrolofintraocularpressureinocularhypertensionandopenangleglaucoma.BrJOphthalmol89:1413-1417,20055)狩野廉,桑山泰明,溝上志朗ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.日眼会誌103:612-616,19996)加治屋志郎,早川和久,澤口昭一:選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績.日眼会誌104:160-164,20007)佐々木誠,原岳,橋本尚子ほか:選択的レーザー線***