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COVID-19 のワクチン接種後の両眼同時発症 急性原発閉塞隅角症

2024年7月31日 水曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(7):843.846,2024cCOVID-19のワクチン接種後の両眼同時発症急性原発閉塞隅角症桑野和沙渡邉友之小川俊平渡邉朗中野匡東京慈恵会医科大学眼科学講座CACaseofBilateralAcutePrimaryAngleClosureFollowingCOVID-19VaccinationKazusaKuwano,TomoyukiWatanabe,SyunpeiOgawa,AkiraWatanabeandTadashiNakanoCDepartmentofOphthalmology,JikeiUniversitySchoolofMedicineC緒言:近年,COVID-19関連眼炎症性疾患発症の報告が散見される.今回筆者らはCCOVID-19ワクチン接種翌日に両眼同時発症した急性原発閉塞隅角症(APAC)の症例を経験したので報告する.症例:69歳,女性.4回目ワクチン接種翌日に右眼の羞明,痛みを自覚し,前医を受診した.眼圧は両眼C62CmmHg,浅前房,中等度散瞳を認め,両眼APACの診断で当院に紹介受診となった.眼軸長は両眼C24Cmm程度で,続発性を考慮して薬物治療を行い,発作は解除されたが,X+13日に右眼CAPACが再発し,同日右眼水晶体再建術を施行した.左眼はC1カ月後に左眼水晶体再建術を施行し,APACの再発はない.原因検索目的の血液検査,胸部CX線写真では異常所見を認めなかった.考察:両側同時発症のCAPACはまれで,既報の多くが続発性である.本症例は明らかな誘因を指摘できずCCOVID-19のワクチンの影響が否定できない.明確な因果関係については今後のデータの集積が必要である.CPurpose:Toreportacaseofbilateralacuteprimaryangleclosure(APAC)followingCOVID-19vaccination.Case:ThisCstudyCinvolvedCaC69-year-oldCfemaleCpatientCinCwhomCanCintraocularCpressureCofC62CmmHg,CshallowCanteriorchambers,andmoderatemydriasiswereobservedinbotheyesat1dayafterherfourthCOVID-19vacci-nation.ShewasreferredtoourhospitalwithadiagnosisofAPACinbotheyes.HerseizureswereresolvedwithdrugtreatmentinconsiderationofsecondaryAPAC,yet13dayslater,recurrenceofAPACwasobservedinherrighteyeandphacoemulsi.cationsurgerywasperformed.Onemonthlater,phacoemulsi.cationsurgerywasper-formedonherlefteye.Noabnormal.ndingswerefoundinbloodtestsandchestX-raysperformedtoelucidatethecause.Conclusion:Nocleartriggercouldbeidenti.edinthiscase,yetthein.uenceoftheCOVID-19vaccinecannotberuledout.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(7):843.846,C2024〕Keywords:COVID-19,ワクチン,両眼同時発症,APAC.COVID-19,vaccination,bilateralsimultaneousonset,APAC.Cはじめに急性原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureCglauco-ma;PACG)および急性原発閉塞隅角症(acuteCprimaryCangleclosure;APAC)では,しばしば眼圧が著しい高値となり,視力低下,霧視,虹視症,眼痛,頭痛,悪心・嘔吐,対光反射の減弱・消失などの症状を呈する.対応が遅れると重篤な視野障害や,失明に至る.このため早期に原因を特定し,眼圧を低下させる必要がある.通常CAPACはその特徴的な症状と所見から診断は容易であるが,両側同時発症のAPACはまれであり,これまでの報告でも多くが続発性であり,原因検索が必要となる.これまでCVokt-Koyanagi-Haradasyndrome(VKH)に続発するもの,薬物性,手術麻酔後,ウイルス感染,Weill-Marchesani症候群,両眼虹彩.胞,小眼球症に続発するもの,および蛇咬傷などの報告がある.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン接種後の眼合併症としては,視神経障害,ぶどう膜炎,ヘルペス性角膜炎,角膜移植拒絶反応,網脈絡膜炎などが報告されている.今回筆者らは,COVID-19ワクチン接〔別刷請求先〕桑野和沙:〒105-8461東京都港区西新橋C3-25-8東京慈恵会医科大学眼科学講座Reprintrequests:KazusaKuwano,DepartmentofOphthalmology,JikeiUniversitySchoolofMedicine,3-25-8Nishi-Shimbashi,Minato-ku,Tokyo105-8461,JAPANC図1来院時の前眼部光干渉計所見CASIA2(トーメーコーポレーション)にて,浅前房(上段),iridotrabecularcontact(ITC)にて広範囲な隅角閉塞(下段)を認める.種の翌日に,両眼同時に著明な高眼圧,浅前房,中等度散瞳を呈したCAPAC症例を経験した.原因検索のための採血,胸部CX線ではぶどう膜炎を疑う所見はみられず,COVID-19ワクチンとの関連を否定できなかった.今回の症例について,既報のワクチン関連眼疾患の考察を加え報告する.CI症例症例はC69歳,女性で,X-1日,COVID-19ワクチン(ファイザー社)のC4回目を接種した.X日,深夜C1時ころテレビを見ている際に右眼の羞明,痛みを自覚するも様子をみていた.X+1日,症状が改善しないため前医を受診した.視力は右眼C0.07(0.5C×sph.4.50D(cyl.0.50DAx125°),左眼0.01(1.0C×sph.3.25D(cyl.0.75DAx50°)で,両眼の眼圧はC62CmmHgであった.急性緑内障発作が疑われグリセオール点滴後に当院へ紹介受診となった.当院の来院時眼圧は右眼C56CmmHg,左眼C19CmmHgで,両眼ともに浅前房と中等度散瞳を認めた.前眼部光干渉断層計CCASIA2(トーメーコーポレーション)(図1)では両眼ともに浅前房がみられ,前房深度は右眼C1.59Cmm,左眼C1.65Cmm,iridotrabecularcontact(ITC)indexは右眼C92.8%,左眼C80.0%,LT(lensthickness)は右眼C5.43mm,左眼C5.47mm,LV(lensvault)は右眼C0.87mm,左眼C0.81mm,眼軸長は右眼C24.09mm,左眼C23.84Cmmであった.両眼ともに眼底には,漿液性網膜.離や脈絡膜肥厚,波打ち所見などを認めず,VKHは否定的であった.右眼眼底(図2)には耳側網膜に白色病変を認め,同日に施行したフルオレセイン/インドシアニングリーン蛍光造影検査(FA/ICGA)では同部位からの蛍光漏出を認めたが,その他炎症所見などを認めなかった.原因検索のための採血では有意な所見はなく,胸部CX線では肺門部リンパ節腫脹などサルコイドーシスを疑う所見を認めなかった.続発性のCAPACと診断しCD-マンニトール点滴,ピロカルピン塩酸塩点眼,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼薬物治療で眼圧下降を試みた.X+2日発作が解除されないためピロカルピン塩酸塩点眼からアトロピン硫酸塩水和物点眼に切り替えたところ発作は解除された.視力は右眼(0.9C×sph.3.25D(cyl.0.50DAx100°),左眼C0.01(1.0C×sph.2.50D(cyl.0.50DAx65°),眼圧は右眼11mmHg,左眼C13CmmHgに下降した.前房深度は右眼C1.76Cmm,左眼はC1.69Cmm,ITCIndexは右眼C39.2%,左眼C44.7%に改善した(図3).病状や網膜視神経の状態を経時的に観察し,原因疾患を探索した.X+11日再発を認めないためアトロピン硫酸塩水和物点眼を中止したところCX+13日に右眼の視力低下,頭重感で受診し,視力は右眼(1.0C×sph.3.50D(cyl.1.25DAx90°),右眼眼圧40mHg,前房深度1.62mm,ITCIndex右眼C33.6%であった.発作解除時と比較して浅前房化しておりCAPACの再発と判断して,右眼水晶体再建術を行い発作の解除とその後の眼圧下降を得た.また,左眼に対しては,X+1CM,左水晶体再建術を施行し経過観図2右眼の眼底写真と蛍光造影写真眼底写真(Ca)では,右眼耳側網膜に白色病変を認める.視神経乳頭陥凹拡大は認めない.蛍光造影写真(Cb)では同部位に軽度の蛍光漏出を認めるが,その他に血管炎などは指摘できない.図3X+2日の前眼部光干渉計所見CASIA2にて前房深度の拡大(上段),ITCにて図C1と比べて閉塞範囲(下段)の改善を認める.察を行ったがCAPACの再発は認められなかった.どう膜炎,中心性漿液性脈絡網膜症(CSCR),VKH再活性CII考察化,急性帯状性潜在性外網膜症(AZOOR)および多発性脈絡膜炎などがある1.3).一般的に両眼同時発症のCAPACは稀COVID-19ワクチン接種後に報告された眼の合併症には,であるが,これまでに複数の症例報告されており,その多く外転神経麻痺,動眼神経麻痺,顔面神経麻痺/ベル麻痺,多が続発性であるため本症例においてもぶどう膜炎,薬剤性,発性脳神経麻痺,ヘルペス性角膜炎,急性黄斑神経網膜症ウイルス感染など,APACの誘因を検索したが,原因の特(AMN),傍中心性急性中部黄斑症(PAMM),上眼静脈血定には至らなかった.このため,COVID-19のワクチンの栓症(SOVT),角膜移植拒絶反応,前部ぶどう膜炎,汎ぶ影響を否定できない.Singhら4)は,米国のワクチン有害事象報告システムCVaccineCAdverseCEventCReportingCSystem(VAERS)を用いてCCOVID-19のワクチン接種後に緑内障が増加したかを検討し報告した.この際の緑内障は,緑内障(タイプ不明),閉塞隅角緑内障,開放隅角緑内障,ぶどう膜炎による緑内障を含めて発生率が検討されたが発生は非常に稀であった.ワクチン接種後の緑内障の特徴として,投与後1週間以内のC50.70代の女性に多く認められたが,その因果関係に関してはさらなる評価が必要と結論している.COVID-19ワクチン接種後の眼の炎症反応を説明するメカニズムとして,ワクチンとぶどう膜ペプチドの分子相同性,III型過敏反応,およびワクチン接種によって誘発されるその他の自然免疫反応によって二次的に生成される抗原の活性化などが示唆されている5,6).また,既報によれば,COVIDワクチンのC2回目の投与後にぶどう膜炎を発症した症例が多く,これは用量依存性の高い反応がその一因であると考察されている7).APACの成因としては,①相対的瞳孔ブロック,②プラトー虹彩,③水晶体因子,④水晶体後方因子(毛様体因子など),が複合的に関与している可能性が高い8).また,APAC発症の解剖学的リスク因子には,浅前房,浅い虹彩角膜角,水晶体膨隆に伴う水晶体肥厚,短眼軸があげられる9).本症例はそのうち前者C3項目を満すCAPACのハイリスク群で,そこにCCOVID-19ワクチンが発症機転となって,①.④が複合的に関与し,両眼同時にCAPACが発症した可能性がある.ぶどう膜炎の際に近視化がみられる機序として,Zinn小体弛緩と水晶体凸面の増加が報告されている10).またAPAC発症時には水晶体の前方移動による近視化が認められることがある.本症例では発作時には右眼C.1.25D,左眼C.0.75Dの近視化を認め,水晶体凸面のパラメータの一つであるCLVは右眼C0.87mm,左眼0.81mmと高値であった.両者は,発作解除時には,屈折の近視は軽減し,LVも右眼0.65Cmm,左眼C0.46Cmmと軽減していた.しかし,このような近視化がCAPACの誘因・原因であるのか,結果であるのかは不明であり,今後,さらにCAPACの発症機序については検討が必要と思われた.CIII結論両側同時発症のCAPACはまれで,既報の多くが続発性である.本症例は,解剖学的なリスクを有したが他にCAPACの明らかな誘因を指摘できず,COVID-19ワクチンの影響が否定できない.両者の明確な因果関係を立証するには,今後のデータの集積,解析が必要である.文献1)IchhpujaniCP,CParmarCUPS,CDuggalCSCetal:COVID-19Cvaccine-associatedCocularCadversee.ects:anCoverview.Vaccines(Basal)C10:1879,C20222)Habot-WilnerCZ,CNeriCP,COkadaCAACetal:COVIDCvac-cine-associatedCuveitis.COculCImmunolCIn.ammC6:1198-1205,C20233)WangMTM,NiedererRL,McGheeCNJetal:COVID-19vaccinationandtheeye.AmJOphthalC240:79-98,C20224)SinghCRB,CParmarCUPS,CChoCWCetal:GlaucomaCcasesCfollowingCSARS-CoV-2vaccination:VAERS.CVaccines(Basel)C10:1630,C20225)WatadCA,CDeCMarcoCG,CMahajnaCHCetal:Immune-medi-atedCdiseaseC.aresCorCnew-onsetCdiseaseCinC27CsubjectsCfollowingmRNA/DNASARS-CoV-2vaccination.Vaccines(Basel)C9:435,C20216)TeijaroCJR,CFarberDL:COVID-19vaccines:modesCofCimmuneactivationandfuturechallenges.NatRevImmu-nolC4:195-197,C20217)LiS,HoM,MakAetal:Intraocularin.ammationfollow-ingCOVID-19vaccination.IntOphthalmolC8:2971-2981,C20238)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障ガイドライン(第C5版).日眼会誌126:98,C20229)LeeCHS,CParkCJW,CParkSW:FactorsCa.ectingCrefractiveCoutcomeaftercataractsurgeryinpatientswithahistoryofCacuteCprimaryCangleCclosure.CJpnCJCOphthalmolC58:C33-39,C201410)HerbortCCP,CPapadiaCM,NeriCP:MyopiaCandCin.ammation.CJOphthalmicVisResC6:270-283,C2011***