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Knapp 法が奏効したDouble Elevator Palsy(DEP)の1 例

2022年1月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(1):123.126,2022cKnapp法が奏効したDoubleElevatorPalsy(DEP)の1例錦織奈美川田浩克日景史人井田洋輔大黒浩札幌医科大学眼科学教室ACaseofDoubleElevatorPalsy(DEP)SuccessfullySurgicallyTreatedbytheKnappProcedure,aFullTendonWidthVerticalTranspositionoftheHorizontalRectiNamiNishikiori,HirokatsuKawata,FumihitoHikage,YosukeIdaandHiroshiOhguroCDivisionofOphthalmology,SapporoMedicalUniversityC背景:手術療法が奏効したCdoubleelevatorpalsy(以下DEP)のC1例を経験したので報告する.症例:4歳,男児.出生時より右眼上転障害および眼瞼下垂に気づいていた.近医眼科を受診し画像検査にて外眼筋の左右差や頭部疾患を認めずCDEPの診断となった.その後手術目的で札幌医科大学附属病院紹介受診となった.当院初診時,視力は右眼(0.7),左眼(1.2).眼位は右眼下斜視C30CΔで,眼球運動は右眼上転制限を認めた.また,外見上右眼眼瞼下垂を認めていた.5歳時,右眼にCKnapp法(水平直筋上方移動術)を施行した.術後眼位は右眼下斜視C4CΔとなり,右眼上転制限や眼瞼下垂の改善も認められた.結論:本症例においてCDEPに対してCKnapp法は非常に有効であった.今後,多くの症例の蓄積によりCKnapp法の有効性の確定および長期予後を検証していくことが重要であると考えられた.CPurpose:Toreportacaseofdoubleelevatorpalsy(DEP)successfullysurgicallytreatedbytheKnappproce-dure,CaCfullCtendonCwidthCverticalCtranspositionCofCtheChorizontalCrecti.CCasereport:AC4-year-oldCboyCwhoChadCupturndisorderandptosisinhisrighteyesincebirthwasreferredtoourdepartmentforsurgicaltreatmentafterbeingdiagnosedwithDEPatalocalclinic.Uponexamination,30prismdiopters(PD)hypotropiaandupturndisor-der,aswellasptosis,weredetectedinhisrighteye,andtheKnappprocedurewasperformed.Postsurgery,thehypotropiaintherighteyewasreducedto4PDandtheupturndisorderandptosiswereimproved.Conclusion:CThiscaseindicatesthattheKnappproceduremightbeverye.ectivesurgicaltreatmentforDEP,however,futurelong-termstudiesinvolvingalargenumberofpatientsisneededtocon.rmthee.ectivenessoftheprocedure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(1):123.126,C2022〕Keywords:DEP,下斜視,上転障害,Knapp法.doubleelevatorpalsy(DEP)C,hypotropia,upturndisorder,Knappmethod.Cはじめに両上転筋麻痺(doubleCelevatorpalsy:DEP)は上直筋および下斜筋の麻痺により起こる単眼性上転障害で,先天性および後天性が報告されている1.3).多くの患者で眼瞼下垂および偽眼瞼下垂の合併が認められる4.6).先天性の発症にかかわる神経機構については,いまだにはっきりと解明されておらず,原因に関しては不明な点が多いが,責任病巣については上直筋から下斜筋に至る核上性線維が近接して走行する視蓋前域との報告がある7).先天性および症状の固定した後天性CDEPに対しては手術が適応となり,麻痺眼の下斜筋の短縮かCtucking,上直筋の短縮,非麻痺眼の上直筋と下斜筋の後転,あるいは上直筋切腱水平筋部分移動術などの手術法がある4,8).今回,筆者らが行ったCKnapp法(水平筋上方移動術)は麻痺した上直筋の付着部位に内直筋と外直筋の付着部を移動させるという術式であり(図1),水平直筋の力を上方向に変換することにより上転障害の改善が期待できる2,4,9,10).過去にKnapp法により良好な成績が得られた報告が散見されるが,〔別刷請求先〕錦織奈美:〒060-8556札幌市中央区南C1条西C17丁目札幌医科大学眼科学教室Reprintrequests:NamiNishikiori,M.D.,Ph.D.,DivisionofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,East17,S1,Chuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8556,JAPANC上直筋右眼図1Knapp法上直筋の付着部位に,内直筋と外直筋の付着部を移動させる.今回筆者らは先天性のCDEPに対してCKnapp法を施行し,同様に良好な結果を得た症例を経験したので報告する.CI症例患者:4歳,男児.主訴:右眼上転障害,右眼眼瞼下垂.現病歴:出生時より右眼の上転障害と眼瞼下垂に気づいていた.4歳時近医眼科を受診し右眼弱視およびCDEPの診断となった.近医初診時,視力は右眼C0.3(0.4×+2.50D),左眼C0.6(0.8×+3.00D)でありC1年半ほど左眼C3時間遮閉の弱視治療を行っていた.その後視力は右眼C0.5(0.7×+3.75D(cyl.2.75DAx170°),左眼C1.0となり,DEP手術目的で札幌医科大学病院眼科(以下,当科)紹介受診となった.既往歴:特記すべきことなし.家族歴:特記すべきことなし.札幌医科大学附属病院眼科(以下,当科)初診時所見:視力は右眼C0.6(0.7×+1.5D),左眼C1.0(1.2×+1.75D(cylC.0.75DAx20°).眼位は角膜反射法にて,左眼固視で正面視,外転時,内転時とも右眼下斜視C15°,近遠方視での交代プリズム遮閉試験(alternateCprismCcovertest:APCT)にて右眼下斜視C30CΔで,眼球運動は右眼の全方向における上転制限を認めた.右眼の内転,下転,外転は良好で,左眼に眼球運動障害を認めなかった.右眼眼瞼下垂も認め,瞼裂幅は右眼C2.5Cmm,左眼C9Cmmであった(図2).前眼部,中間透光体,眼底に異常はなく,屈折値はトロピカミド,フェニレフリン塩酸塩点眼+シクロペントラート点眼下にて右眼+1.0D,左眼+1.5Dであった.前医療機関で行ったCT検査にて,画像上外眼筋の左右差や欠損はなく,また頭蓋内病変も認められなかった(図3).診断:以上の所見より,右眼のCDEPと診断した.Bell現象は陽性であったことから,核上性麻痺と考えられた.経過:右眼上転障害改善のため,5歳時にCKnapp法を施行した.手術中の右眼の上転方向への牽引試験は陰性であった.術後C2週間の眼位はC4CΔ下斜視と良好な結果が得られ,右眼の内上転および外上転制限や眼瞼下垂の改善が認められた.術後の眼位および眼瞼下垂の推移として,術後C4カ月でC0.4CΔ下斜視,術後C8カ月でC4CΔ下斜視ときわめて安定した結果が得られている.また,内上転制限,外上転制限も改善を認め,瞼裂幅も右眼C7Cmm,左眼C9Cmmで,眼瞼下垂に関しても整容的治癒が得られ,良好な結果を得ることができた(図4).CII考察DEPは向き眼位にて上転障害に変化のない上直筋および下斜筋の麻痺により起こる単眼性上転障害である.後天性も報告されているが先天性が多く認められる2).今回,筆者らが経験した症例は,単眼性の上転障害に眼瞼下垂を伴う先天性のCDEPと診断した.責任病巣に関してはその部位は特定されてはいないが,CT検査で頭蓋内病変はなく,Bell現象が陽性であったことから,核上性麻痺に伴う上転制限を呈する先天性CDEPであると考えられた.また,DEPの多くの患者で眼瞼下垂および偽眼瞼下垂の合併が認められる4.6).本症例も,Knapp法施行後,患眼の眼瞼下垂は軽減したものの,健眼と比較して下垂の残存が認められたことから,眼瞼下垂と偽眼瞼下垂が合併していたものと予想される.一般的に,術前の眼瞼下垂および偽眼瞼下垂の鑑別として,偽眼瞼下垂は,患眼固視時に患眼の眼瞼下垂の改善を認めることで区別されるが5,6),Knapp法施行後の眼瞼下垂改善の予測および眼瞼下垂手術の追加の検討をするうえでも,術前に眼瞼下垂と偽眼瞼下垂の鑑別,ないし合併を確認しておくことが望ましいと考えられた.興味深いことに,CalderiaはC10症例の報告のうちC8症例で麻痺眼が右眼であり11),過去の報告でも同様に麻痺眼が右眼である症例が多いことを報告している.Knapp法を施行した母坪らのC2症例4),光辻らのC1症例5),牧野らのC2症例12),森らのC1症例6)も麻痺眼は右眼であった.今回の筆者らの症例も同様に麻痺眼は右眼であり,先天性CDEPの原因として,責任病巣の局在を示唆する可能性も考えられる.Knapp法の治療効果として,KnappらによるC15例の報告ではC38CΔ(21.55CΔ)の矯正効果があると報告されている1).また,WatsonらのC2症例ではC30CΔ13),CooperらのC4例ではC25CΔ9),Barsoum-HomsyらのC2例ではC29CΔ10),BurkeらのC13例ではC21.1CΔであり14),CalderiaのC10例による報告ではC36.3CΔの矯正効果があったと報告されている11).本症例ではC26CΔの矯正効果が認められ,過去のCKnapp手術の矯正効果と同等なものであった.これはCKnapp法の矯正効果が比較的安定したものであることを示唆すると思われる.今回の症例のみでは断言できないが,偏位量がC30CΔを図2術前眼位眼球運動は右眼上転制限を認めた(上右,上中央,上左).正面視で右眼下斜視C30CΔ,瞼裂幅は右眼C2.5Cmm,左眼C9Cmmで右眼眼瞼下垂を認めた(中央).図34歳時頭部眼窩部CT検査外眼筋の左右差,および欠損は認めなかった.超えるような先天性CDEP症例に対してはCKnapp法を第一選択としてよいと考えられる.しかしながら,長期予後としては術後経過とともに矯正量が増えていく場合があり,最終的には過矯正となる報告もある11).また,上直筋に萎縮のない症例において,経過観察期間とともに矯正効果が増加したという報告もある12).逆に,図4術後眼位眼球運動は右眼上転制限の改善を認めた.正面視で右眼下斜視C4CΔ,瞼裂幅は右眼C7Cmm,左眼C9Cmmで右眼眼瞼下垂の改善を認めた.変動する術後経過に対して,先行するCKnapp法に加えて非麻痺眼に対する外直筋後転内直筋前転術および上直筋後転術など複数の手術を行うことで良好な結果を得た症例報告もある6).本症例では,8カ月経過した現在でも上下の眼位ずれがC4Δ以下,水平斜視C4CΔ以下と良好な結果を維持しているが,先述のように,長期的経過観察中における眼位の変動が多数報告されており,本症例も長期にわたる十分な経過観察をしたうえで,必要に応じて追加手術を検討していきたいと考えている.今後,上下斜視の追加手術が必要な場合は垂直直筋の前後転術で対応する予定である.また,水平斜視の合併時では,Knapp法で水平筋を移動しているため,非麻痺眼での水平筋手術により水平眼位を矯正するなどの術式を検討していく必要があると思われる6,15).以上のように,DEPに対する手術治療としてCKnapp法を最初に選択することが望ましいと考えられるが,複数回の手術が必要であった報告も認められれるため,今後の推移に十分な経過観察が必要であると思われた.CIII結語上下偏位量がC30CΔを超えるような先天性CDEP症例に対しては,Knapp法を第一選択としてよいと考えられる.文献1)KnappP:TheCsurgicalCtreatmentCofCdouble-elevatorCparalysis.TransAmOphthalmolSocC67:304-323,C19692)坂上達志,岩重博康,久保田伸枝ほか:DoubleCelevatorpalsyとその手術.眼臨C82:2355-2365,C19883)三村治:DoubleCelevatorCpalsy.神経眼科C1:452-453,C19844)母坪雅子,木井利明,稲場深里ほか:先天性CDoubleEleva-torPalsy2症例の手術経験.臨眼C95:637-639,C20015)光辻辰馬,菅澤淳,江富朋彦:Knapp法および上下直筋の後転短縮術を施行した先天性CdoubleCelevatorpalsyのC1例.臨眼C101:888-890,C20076)森真喜子,中馬秀樹,河野尚子ほか:手術療法が奏効したCdoubleelevatorpalsyの一例.眼紀C6:195-198,C20137)沼田このみ,狩野俊哉:DoubleCelevatorpalsyのC1例.眼紀C39:1456-1462,C19888)BrooksSE,OlitskySE,deBarrosRibeiroG:AugmentedHummelsheimprocedureforparalyticstrabismus.JPedi-atrOphthalmolStrabismusC37:189-195,C20009)CooperCEL,CGreenspanJ:OperationCforCdoubleCelevatorCparalysis.JPediatrOphthalmolStrabismusC8:8-14,C197110)Barsoum-HomsyM:CongentialCdoubleCelevatorCpalsy.CJPediatrOphthalmolStrabismusC20:185-191,C198311)CalderiaJA:VerticalCtranspositionCofCtheChorizontalCrec-tusCmusclesCforCcongenital/earlyConset“acquired”doubleCelevatorpalsy:ACretrospectiveClongCtermCstudyCofC10CconsecutiveCpatients.CBinoculCVisCStrabismusCQC15:C29-38,C200012)牧野伸二,木野内理恵子,保沢こずえほか:DoubleCeleva-torpalsyにおけるCKnapp法の手術成績と上直筋の画像所見.臨眼C100:659-663,C200613)WatsonAG:Anewoperationfordoubleelevatorparesis.TransCanOphthalmolStrabismusC8:8-14,C197114)BurkeCJP,CRubenCJB,CScottWE:VerticalCtranspositionCofCtheChorizontalrecti(KnappCprocedure)forCtheCtreatmentCofdoubleelevatorpalsy:e.ectivenessandlong-termsta-bility.BrJOphthalmolC76:734-737,C199215)仁科幸子,鎌田裕子,平形恭子:水平筋上方移動術施行例の検討.臨眼C99:320-325,C2005***