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既知の誘因なく両眼同時発症した急性原発閉塞隅角緑内障の1例

2020年7月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科37(7):878.882,2020c既知の誘因なく両眼同時発症した急性原発閉塞隅角緑内障の1例塚本倫子*1,2福岡秀記*2上野盛夫*2外園千恵*2*1京都市立病院眼科*2京都府立医科大学眼科学教室CBilateralAcutePrimaryAngle-ClosureGlaucomawithNoIdenti.ableCauseMichikoTsukamoto1,2)CHidekiFukuoka2)CMorioUeno2)andChieSotozono2),,1)DepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:急性原発閉塞隅角緑内障(APACG)は,通常片眼性の発症である.両眼性CAPACGの誘因としてCVogt-小柳-原田病を代表とするぶどう膜炎や抗精神薬の内服などがあげられる.既知の誘因のない両眼同時発症のCAPACG症例を経験したので報告する.症例:63歳の女性.10年以上前にCFuchs角膜内皮ジストロフィと診断された.持続する頭痛と眼痛を主訴に休日急病診療所を受診.ピロカルピン点眼およびマンニトールの経静脈投与されたが眼圧下降が得られず,精査加療目的に京都府立医科大学附属病院救急外来を紹介受診した.受診時,視力は右眼(0.5),左眼(0.3)で眼圧は右眼C54CmmHg,左眼C55CmmHg,角膜浮腫,毛様充血,中等度散瞳,浅前房と前房内炎症細胞を認め,両眼性CAPACGと診断した.前医の治療を継続したが瞳孔ブロックは解除しなかった.周辺前房深度が極度に浅かったため,レーザー周辺虹彩切開術ではなく両眼周辺虹彩切除術を施行した.術翌日,眼圧右眼C12CmmHg,左眼C10CmmHgに下降し症状も軽快した.HLAタイピング検査にてCDR4,B51は陰性であった.発症時に認めなかった毛様体脈絡膜.離を術翌日から認めたが,術C25日後には消失した.術C18カ月後の現在,眼圧は右眼C11CmmHg,左眼C12CmmHg,矯正視力は右眼C0.9,左眼C1.2と経過良好である.結論:誘因となる内服歴やぶどう膜炎がなくてもCAPACGを両眼に同時発症することがあり,注意を要する.CBackground:BilateralCacuteprimaryCangle-closureCglaucoma(APACG)isCtypicallyChemilateral.CHowever,CitCcanbecausedbyuveitissuchasVogt-Koyanagi-Haradadisease,orfromtheoraladministrationofantipsychoticdrugs.CHereCweCreportCaCcaseCofCbilateralCAPACGCdueCtoCunknownCcauses.CCaseReport:AC63-year-oldCfemaleCdiagnosed10-yearspreviouslywithFuchscornealendothelialdystrophywasreferredtoourhospitalafterunsuc-cessfultreatmentatanotherclinicwithpilocarpineeye-dropsandmannitolforthetreatmentofheadacheandele-vatedintraocularpressure(IOP).Examinationrevealedacorrectedvisualacuity(VA)of0.5ODand0.3OS,IOPof54CmmHgCODCandC55CmmHgCOS,CcornealCedema,CciliaryChyperemia,CmoderateCmydriasis,CandCin.ammatoryCcellsCinCtheanteriorchambers,andshewasdiagnosedasbilateralAPACG.Additionaltreatmentwasine.ective.Bilateralperipheraliridectomywasperformedduetoshallowperipheralanterior-chamberdepths.At1-daypostoperative,herCIOPCdecreasedCtoC12CmmHgCODCandC10CmmHgCOS,CsymptomsCimproved,CandCHLACtypingCtestsCDR4CandCB51Cwerenegative.Ciliary-bodychoroidaldetachmentnotobservedatonsetwasobservedat1-daypostoperative,yetdisappearedCatC25-daysCpostoperative.CAtC18-monthsCpostoperative,CherCIOPCremainedCatC11CmmHgCODCandC12CmmHgCOS,CandCVACimprovedCtoC0.9ODCandC1.2OS.CConclusions:EvenCifCnoChistoryCofCuveitisCorCmedications,Cbilateral-onsetAPACGcanoccur.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(7):878.882,C2020〕Keywords:両眼性,急性原発閉塞隅角緑内障,周辺虹彩切除術.bilateral,acuteprimaryangleclosureglaucoma,peripheraliridectomy.C〔別刷請求先〕福岡秀記:〒602-8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:HidekiFukuoka,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Hirokoji-agaru,Kawaramachidori,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANC878(104)はじめに急性原発閉塞隅角緑内障(acuteCprimaryCangleCclosureglaucoma:APACG)は,瞳孔ブロックによる隅角閉塞により高眼圧を引き起こす疾患で眼科救急疾患である.元来眼軸長が短い眼において加齢による水晶体の膨化が加わり,相対的瞳孔ブロックが引き起こされる場合と,先天的に虹彩が特徴的な形状をしているプラトー虹彩が原因となる場合が多いといわれている.血液眼関門の破壊と脈絡膜および毛様体液により間接的に瞳孔ブロックが生じることもある1).いずれの場合も治療が遅れると失明につながるため,速やかに保存的あるいは観血的に眼圧を下げる治療を行う.通常CAPACGは,片眼性の発症である.抗うつ薬・抗精神病薬・抗CPar-kinson病・抗けいれん薬のような脳神経作動薬の服用歴がある者,またCVogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)などのぶどう膜炎,全身麻酔,未熟児網膜症・Marfan症候群といった疾患の罹患歴のある者は,両眼性CAPACGを引き起こすことがある1.7).両眼同時CAACGの発症率の報告は筆者らが知る限りない.片眼CAPACGの発症率は,40歳以上では約C0.4%で8),両眼発症はそのC10%で9.11),既報はないものの両眼同時発症はまれであると考えられる.今回,既知の誘因のない両眼同時発症のCAPACG症例を経験したので報告する.CI症例患者:63歳,女性.主訴:頭痛,眼痛.既往歴:10年以上前にCFuchs角膜内皮ジストロフィ(Fuchs’endothelialcornealdystrophy:FECD).家族歴:特記すべき事項なし.内服歴:高脂血症に対しロスバスタチンC2.5Cmg内服(内服期間は不明).現病歴:2016年C9月初旬,深夜C3時頃から持続する頭痛と両眼の眼痛を主訴とし同日午前に休日急病診療所を受診,両眼CAPACGの疑いのためC2%ピロカルピン点眼およびC20%CD-マンニトール点滴を投与されたが瞳孔ブロックが解除せず眼圧下降しないため,精査加療目的にC14時頃,京都府立医科大学附属病院眼科へ紹介となった.当院救急外来受診時所見:視力は右眼(0.5C×sph+4.75D(cyl.1.25DCAx90°),左眼(0.3C×sph+3.00D(cyl.2.00DAx90°),Goldmann圧平眼圧計(以下,GAT)による眼圧は右眼C54CmmHg,左眼C55CmmHgであった.両眼の角膜浮腫,毛様充血,対光反応消失,中等度散瞳,浅前房と前房内炎症を認めた.超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)で毛様体浮腫,毛様体脈絡膜.離は認められなかった(図1).角膜浮腫が強いため角膜内皮スペキュラーマイクロスコープによる内皮細胞密度測定は不能であった.眼軸長は,光学的眼軸長検査により右眼C21.08mm,左眼C21.58mmであった.治療経過:両眼CAPACGと診断し前医の治療を継続し,2%ピロカルピン頻回点眼およびC20%CD-マンニトールをC2度経静脈投与するも両眼急性緑内障発作は解除せず,眼圧は右眼C42CmmHg,左眼C48CmmHg(GAT)で眼圧の低下が得られなかった.そこで同日,両眼同時に観血的レーザー周辺虹彩切除術を施行した.結膜切開,止血を行った後,一片C3Cmmの強膜三角一面フラップ弁をダイアモンドナイフとゴルフ刀にて作製した.フラップ下のCSchlemm管を露出させたのち,2時方向の周辺虹彩切除を行った(図2).その後強膜フラップ弁を元の場所へC10-0ナイロン糸にてC3糸縫合し,9-0バイクリル糸にて結膜縫合して手術を終了した.術翌日の眼圧は右眼C12CmmHg,左眼C10CmmHg(GAT)と正常化し,術C2日後にはCSeidel陰性であるものの両眼眼圧C5CmmHg(GAT)と一時的な低眼圧となった.その際行った前眼部光干渉断層像で両眼の毛様体脈絡膜.離の出現を確認できた(図3).その後は術後眼圧下降薬を使用せずに経過し,徐々に眼圧C10.17CmmHg(GAT)へと安定した.両眼の毛様体脈絡膜.離はC1カ月後自然消退し一過性のものであった.発作時の炎症と虚血によると考えられる虹彩後癒着と虹彩萎縮所見が術後しばらくして徐々に出現した(図4).また,隅角開大度は図1初診時前眼部所見両側の瞳孔は中等度散瞳固定であり,毛様充血・角膜浮腫を認める(Ca:右眼,b:左眼).明らかな毛様体浮腫,毛様体脈絡膜.離は認めない(Cc:超音波生体顕微鏡,右眼C3時方向).図2両眼周辺虹彩切除術(術中所見)スプリング剪刀にて結膜切開(Ca)した後,バイポーラにて止血(Cb).その後,一片C3Cmmの強膜三角一面フラップ弁をダイアモンドナイフとゴルフ刀にて作製した(Cc).フラップ下のCSchlemm管を露出させたのちC2時方向の周辺虹彩切除を行った(Cd).その後強膜フラップ弁を元の場所へC10-0ナイロン糸にてC3糸縫合(Ce),9-0バイクリル糸にて結膜縫合し(Cf)終了した.図3術2日後前眼部所見毛様充血・角膜浮腫は認めず,前房深度も深くなっている(Ca:右眼,Cb:左眼).毛様体脈絡膜.離を認める(Cc:前眼部光干渉断層像矢印,右眼C3時方向).図4最終診察時前眼部所見(術18カ月後)両側の虹彩萎縮がみられる.角膜は浮腫を認めない.両眼虹彩上部に虹彩切除部(黄色点線)が確認できる(Ca:右眼,Cb:左眼).隅角はやや開大,周辺虹彩前癒着の範囲は鼻側中心に残存している(Cc:前眼部光干渉断層像,右眼C3時方向).やや開大(Sha.er分類でC0からC1へ開大),周辺虹彩前癒着の範囲は全周から縮小したものの鼻側中心C90°程度残存した.角膜は経過観察中透明性を維持していたが,FECDで多く観察される滴状病変(guttata)を接触型角膜内皮スペキュラーでは術後に確認できた.後日行ったヒト白血球型抗原(humanleukocyteCantigen:HLA)タイピング検査にてDR4,B51は陰性と判明した.術後C18カ月経過し,視力は右眼(1.0C×sph+4.5D),左眼(1.0C×sph+4.0D(cyl.1.75DAx65°)と良好である.CII考按両眼同時発症のCAPACGの報告には,各種脳神経作動薬による瞳孔散大作用やCVKHなどのぶどう膜炎による毛様体浮腫,毛様体脈絡膜.離などによる浅前房に続発する続発性APACGなどがある.ムスカリン受容体拮抗薬,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用を有する抗うつ薬,ゾルミトリプタン(zolmitriptan)などの偏頭痛薬,トピラマート(topiramate)の抗てんかん薬の使用後に急性閉塞隅角緑内障が両眼に同時発症することが報告されている1.7).上記の脳神経作動薬による瞳孔散大作用が誘因となり,虹彩と水晶体の間で房水流出抵抗が上昇することにより後房圧が上昇し,結果虹彩が前方に膨隆して隅角閉塞をきたす相対的瞳孔ブロックの状態となり急激な眼圧上昇をきたしCAPACGを発症する.しかし,今回の症例では,高脂血症薬の内服しかなく,既報にあるような誘因歴がないにもかかわらず,APACGを両眼同時発症したまれな症例と考える.光学的眼軸長検査では,両眼ともにC22Cmm未満であり眼軸長が短いのに加え加齢による水晶体の膨化が加わり,相対的瞳孔ブロックが引き起こされたと推測される.1996年にCKawanoらは浅前房を呈したCVKHのC2症例の前眼部をCUBMで観察し,通常の眼底検査では発見が困難な毛様体脈絡膜.離を両眼の全周に認め,さらに副腎皮質ステロイド全身療法により前房深度の改善と毛様体脈絡膜.離の消失を認めたことを報告し,VKH発病初期の浅前房は毛様体脈絡膜.離がおもな原因であると推測した12).今回の症例では,術前CUBMでは毛様体浮腫,毛様体脈絡膜.離は認めなかったこと,HLAタイピング検査にてCDR4陰性,B51陰性であったことを考慮して,ぶどう膜炎に続発するCAPACGは否定的であった.また,術後のCUBMにて発作時には認めなかった毛様体脈絡膜.離を約C1カ月程度認めた.赤木らは,開放隅角緑内障に対する線維柱帯切開術後の一過性毛様体脈絡膜.離が術後低眼圧と関係することを報告している13).本症例も術後の一過性毛様体機能不全により術後の一過性の低眼圧をきたし,副経路(経ぶどう膜強膜流出路)を介した房水流出が関与した可能性が高い.したがって,ぶどう膜炎による毛様体脈絡膜乖離とは異なっていると考えられた.APACG解除方法には,レーザー周辺虹彩切開術(laserperipheralCiridotomy:LPI),観血的周辺虹彩切除術および水晶体摘出が広く施行されているが,今回は両眼同時周辺虹彩切除術を選択した.瞳孔ブロックを原因とする緑内障に対して,周辺部虹彩を切除し前後房の間の圧差を解消する術式である14).LPIの普及により,観血的周辺虹彩切除術を施行することはまれとなった.しかし,LPI後に晩期に水疱性角膜症が生じ,角膜内皮移植が必要となる症例が数多くある15).LPIを選択しなかった理由としては,ピロカルピン頻回点眼およびC20%CD-マンニトール点滴などの保存的治療により緑内障発解除および眼圧下降が得られず角膜浮腫が存在したこと,角膜周辺の前房深度が極端に浅く角膜内皮との間にCLPIを行うための十分なスペースがなかったこと,過去にCFECDの診断歴があり角膜内皮細胞数のさらなる減少が危惧されたためである.観血的手術である周辺虹彩切除術を両眼同時に施行したが,合併症を生じず良好に経過した.本症例においては,術直後と比較し,視神経の明らかな乳頭陥凹は認めないものの,時間経過により緩やかな網膜神経節細胞複合体厚の菲薄化をきたした.筆者らは,術後C1年以上経過したCAPACG発症症例において,黄斑を中心とする直径C9Cmmの範囲での網膜神経節細胞複合体厚が僚眼と比較し菲薄化し,とくに鼻下側での菲薄化がもっとも顕著であることを過去に報告した16).本症例も同様の変化と考えられた.APACG後の視野変化は上方の欠損が生じることが多いとの報告17)があり,引き続き今後も注意深く経過を観察していく.眼科領域の救急疾患であるCAPACGは,通常片眼性に発症する.しかし,今回の症例のような既知の誘引がなくても両眼CAPACGを同時発症することがあり,注意を要する.文献1)RazeghinejadCMR,CMyersCJS,CKatzLJ:IatrogenicCglauco-masecondarytomedications.AmJMedC124:20-25,C20112)SeeJL,AquinoMC,AduanJetal:Managementofangle-closureglaucoma.IndianJOphthalmolC59(Suppl1):S82-S87,C20113)多田明日美,三浦聡子,植松聡ほか:抗CParkinson病治療薬内服により発症したと推測される両眼性急性閉塞隅角緑内障のC1症例.眼臨紀C9:5-10,C20164)HaddadCA,CArwaniCM,CSabbaghO:ACnovelCassociationCbetweenoxybutyninuseandbilateralacuteangleclosureglaucoma:ACcaseCreportCandCliteratureCreview.CCureusC10:e2732,C20185)LeeCJTL,CSkalickyCSE,CLinML:Drug-inducedCmyopiaCandCbilateralCangleCclosureCsecondaryCtoCzolmitriptan.CJGlaucomaC26:954-956,C20176)JoshiAK,PathakAH,PatwardhanSDetal:Ararecaseoftopiramateinducedsecondaryacuteangleclosureglau-coma.JClinDiagnResC11:ND01-ND03,C20177)ChengMA,TodorovA,Tempelho.Retal:Thee.ectofproneCpositioningConCintraocularCpressureCinCanesthetizedCpatients.AnesthesiologyC95:1351-1355,C20018)DayAC,BaioG,GazzardGetal:Theprevalenceofpri-maryangleclosureglaucomainEuropeanderivedpopula-tions.BrJOphthalmolC96:1162-1167,C20129)HillmanJS:Acuteclosed-angleCglaucoma:anCinvestiga-toinintothee.ectofdelayintreatment.BrJOphthalmolC63:817-821,C197910)BainWE.Thefelloweyeinacuteclosed-angleglaucoma.BrJOphthalmolC41:193-199,C195711)LoweRF.Acuteangle-closureglaucoma:Thesecondeye:CAnCanalysisCofC200CCases.CBrCJCOphthalmolC46:641-650,C196212)KawanoCY,CTawaraCA,CNishiokaCYCetal:UltrasoundCbio-microscopicanalysisoftransientshallowanteriorchamberCinCVogt-Koyanagi-HaradaCsyndrome.CAmCJCOphthalmolC121:720-723,C199613)AkagiT,NakanoE,NakanishiHetal:Transientciliocho-roidaldetachmentafterabinternotrabeculotomyforopen-angleCglaucoma:ACprospectiveCanterior-segmentCopticalCcoherenceCtomographyCstudy.CJAMACOphthalmolC134:C304-311,C201614)谷原秀信,相原一,稲谷大ほか:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:53-56,C201815)OkumuraCN,CKusakabeCA,CKoizumiCNCetal:EndothelialCcellClossCandCgraftCsurvivalCafterCpenetratingCkeratoplastyCforClaserCiridotomy-inducedCbullousCkeratopathy.CJpnJOphthalmologyC62:438-442,C201816)福岡秀記,山中行人:急性原発閉塞隅角緑内障後眼の網膜神経節細胞複合体厚と僚眼との比較:眼科手術C28:280-284,C201517)BonomiL,Marra.aM,MarchiniGetal:PerimetricdefectsafterCaCsingleCacuteCangle-closureCglaucomaCattack.CGrae-fesArchClinExpOphthalmolC237:908-914,C1999***

先天性眼瞼下垂の弱視関連因子についての検討

2014年3月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科31(3):465.472,2014c先天性眼瞼下垂の弱視関連因子についての検討秋山智恵*1中原尚美*1森紀和子*1野口昌彦*2北澤憲孝*1*1長野県立こども病院眼科*2同形成外科ClinicalFactorsAssociatedwithAmblyopiainPatientswithCongenitalBlepharoptosisTomoeAkiyama1),NaomiNakahara1),KiwakoMori1),MasahikoNoguchi2)andNoritakaKitazawa1)1)DepartmentofOphthalmology,2)DepartmentofPlasticSurgery,NaganoChildren’sHospital2002.2012年までの10年間に長野県立こども病院眼科を受診した先天性眼瞼下垂133例159眼(片眼性107例107眼,両眼性26例52眼)を対象とし,弱視関連因子について検討した.代償頭位は両眼性眼瞼下垂と片眼性眼瞼下垂中等度例に顎上げ傾向がみられた.調節麻痺下屈折検査は85例97眼(片眼性73例73眼,両眼性12例24眼)に施行できた.屈折異常は遠視性複乱視の占める割合が最も高かった.屈折異常の程度は97眼中78眼(80.4%)が軽度であった.乱視は片眼性眼瞼下垂よりも両眼性眼瞼下垂で有意に強く,また両眼性眼瞼下垂では重度例で有意に強かった.片眼性眼瞼下垂の健眼と患眼の比較では患眼に有意に強い遠視と乱視が認められた.片眼性眼瞼下垂73例中29例(39.7%)に1.0D以上の遠視性不同視を認めた.全眼瞼下垂133例中15例(11.3%)に斜視を認めた.先天性眼瞼下垂の弱視関連因子として,乱視,遠視性不同視,斜視を高頻度に認めた.治療は手術のみならず,屈折異常および斜視の適切な早期管理が推奨される.Thefactorsofamblyopiawerestudiedthrough10yearsofourexperience,from2002to2012.Subjectsconsistedof159eyes(133cases)withcongenitalblepharoptosis,comprising107unilateraland26bilateralcases.Typicalcompensatoryheadposturewasjawupward,mainlyobservedinbilateralandmildunilateralblepharoptosis.Hyperopiccompoundastigmatismwasobservedatthehighestrateasrefractoryerror.Mildrefractoryerrorswereobservedin78eyesof97cases.Thegradeofastigmatismwashigherinunilateralthaninbilateralblepharoptosisandwassignificantlyhighinseverebilateralblepharoptosis.Inthecasesofunilateralblepharoptosis,comparisonbetweenunaffectedandaffectedeyesshowedthattheaffectedeyeshadhigherhyperopicdegreeandastigmaticdegree.Hyperopicanisometropiaofnotlessthan1.0diopterwasseenin29of73casesofunilateralblepharoptosis.Strabismuswasseenin15ofthe133casesofblepharoptosis.Incongenitalblepharoptosis,inadditiontosurgery,itisrecommendedthatrefractiveerrorandstrabismusbeappropriatelymanagedfromanearlyage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(3):465.472,2014〕Keywords:先天性眼瞼下垂,片眼性,両眼性,下垂の程度,乱視,遠視性不同視.congenitalblepharoptosis,unilateralptosis,bilateralptosis,gradeofptosis,astigmatism,hyperopicanisometropia.はじめに小児でみられる眼瞼下垂には先天性眼瞼下垂(単純型),先天性外眼筋線維化症候群,動眼神経麻痺,重症筋無力症,Horner症候群,眼瞼縮小症候群,MarcusGunn症候群などがある.なかでも単純型先天性眼瞼下垂は小児で最もよくみられる下垂であり,眼瞼挙筋の変性と筋周囲の線維化のため眼瞼可動域が狭く,上方視時に上眼瞼が下がり,下方時にはむしろ上眼瞼があがっているのが病態である1).また,先天性眼瞼下垂は視性刺激遮断による弱視だけでなく,斜視,屈折異常,特に乱視による弱視を伴うことが多いと報告されている2.4).今回,片眼性および両眼性の単純型先天性眼瞼下垂を対象とし,弱視関連因子と考えられる代償頭位,屈折異常,斜視の合併について検討したので報告する.I対象および方法対象は,2002.2012年までの10年間に長野県立こども〔別刷請求先〕秋山智恵:〒399-8288長野県安曇野市豊科3100長野県立こども病院眼科Reprintrequests:TomoeAkiyama,DepartmentOphthalmology,NaganoChildren’sHospital,3100Toyoshina,Azumino,Nagano399-8288,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(161)465 病院眼科を受診した先天性眼瞼下垂133例159眼である.内訳は,片眼性107例107眼,両眼性26例52眼で,性別は男児72例(片眼性60例,両眼性12例),女児61例(片眼性47例,両眼性14例)であった.これら対象について,1.初診時年齢,2.下垂の程度および代償頭位,3.手術,4.屈折異常,5.斜視の合併率について検討した.眼瞼下垂の程度は,片眼性では,正常頭位で瞳孔領が完全に露出しているものを軽度,瞳孔領の一部が隠れているものを中等度,完全に隠れているものを重度とした.また,両眼性では,正常頭位で両眼ともに瞳孔領が完全に露出しているものを軽度,両眼ともに瞳孔領の一部が隠れているものおよび両眼の瞳孔領の露出に左右差があるものを中等度,両眼ともに瞳孔領が完全に隠れているものを重度とした.なお,屈折異常の検討においては,両眼性も片眼性と同様に単眼ずつ下垂の程度判定を行った.屈折検査は,トロピカミド・塩酸フェニレフリン,塩酸シクロペントラートもしくは硫酸アトロピン点眼による調節麻痺下で,ライト社製ハンディ型オートレフラクトケラトメータRightonRetinomaxK-plus3Rを使い測定した.屈折異常の分類は,等価球面度数で.0.25D以上+0.25D以下を正視とし,乱視度は強主経線と弱主経線での屈折度の差をとり,絶対値で0.25D以下のものを乱視なしとして表した.乱視軸は,臨床的分類に従い5),弱主経線が180±30°を直乱視,90±30°を倒乱視,それ以外を斜乱視として分類した.屈折異常の程度は,等価球面度数で+3.0D以下を軽度遠視,+6.0D以上を強度遠視,この間を中等度遠視とし,同様に.3.0D以下を軽度近視,.6.0D以上を強度近視,この間を中等度近視とした.不同視は等価球面度数の差で算出した.眼瞼下垂の手術は当院形成外科にて施行された.解析には,片眼性と両眼性の2群間および健眼と患眼の2群間の比較ではMann-WhitneyU-test(以下,検定Iとする)を用いた.下垂の程度別での比較ではKruskal-Wallistest(以下,検定IIとする)を用い,有意差ありと認められた場合は多重比較Steel-Dwass法(以下,検定IIIとする)を行った.代償頭位,手術適応,屈折異常の分類データの比較ではc2検定(以下,検定IVとする)を用いた.屈折異常の程度の比較ではSpearman’scorrelationcoefficientbyranktest(以下,検定Vとする)を用いた.有意水準はいずれもp<0.05とした.統計処理はExcelアドインソフトStatcel3で行った.II結果1.初診時年齢初診時年齢は0歳0カ月.6歳11カ月で中央値1歳5カ月(平均1歳11カ月)であった.内訳は,片眼性0歳0カ月.6歳11カ月で中央値1歳2カ月(平均1歳10カ月),466あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014両眼性0歳0カ月.6歳6カ月で中央値2歳3カ月(平均2歳6カ月)であった.片眼性症例の初診時年齢が有意に低かった(p<0.05,検定I).下垂の程度別にみると,片眼性では軽度0歳3カ月.6歳11カ月で中央値1歳8カ月(平均2歳1カ月),中等度0歳0カ月.6歳6カ月で中央値1歳5カ月(平均1歳11カ月),重度0歳0カ月.5歳2カ月で中央値9カ月(平均1歳1カ月)であった.3群間に統計学的有意差が認められ(p<0.05,検定II),重度例は中等度例に比して初診時年齢が有意に低かった(p<0.05,検定III).両眼性では軽度1歳3カ月.5歳3カ月で中央値2歳2カ月(平均2歳8カ月),中等度0歳3カ月.4歳6カ月で中央値2歳3カ月(平均2歳3カ月),重度0歳7カ月.6歳6カ月で中央値2歳9カ月(平均3歳2カ月)で,統計学的に有意差は認められなかった(p=0.59,検定II).2.下垂の程度および代償頭位下垂の程度は,片眼性107例では軽度31例(29.0%),中等度51例(47.7%),重度23例(21.5%),不明2例(1.9%)であった.両眼性26例では軽度4例(15.4%),中等度11例(42.3%),重度7例(26.9%),不明4例(15.4%)であった.顎上げの代償頭位をとっていた症例は,片眼性では30例(28.0%),両眼性では19例(73.0%)であった.代償頭位をとっていた症例を下垂の程度別にみると,片眼性では軽度31例中4例(12.9%),中等度51例中21例(41.2%),重度23例中5例(21.7%)で,中等度例に顎上げ傾向がみられた.統計学的にも下垂の程度と代償頭位に関連性が認められた(p<0.05,検定IV).両眼性では,軽度4例中4例(100%)中等度11例中9例(81.8%),重度7例中6例(85.7%)で,(,)下垂の程度にかかわらず顎上げ傾向がみられた.統計学的にも下垂の程度と代償頭位の関連性は認められなかった(p=0.66,検定IV).3.手術手術適応となったのは,片眼性107例のうち89例(83.2%),両眼性26例のうち23例(88.5%)であった.下垂の程度別にみると,片眼性では軽度31例中22例(71.0%),中等度51例中45例(88.2%),重度23例中20例(87.0%),不明2例中2例(100%)であった.両眼性では軽度4例中4例(100%),中等度11例中10例(90.9%),重度7例中7例(100%),不明4例中2例(50.0%)であった.片眼性,両眼性ともに手術適応と下垂の程度に関連性は認められなかった(片眼性p=0.11,両眼性p=0.59,検定IV).手術の未施行例の理由としては,片眼性18例では,手術を予定されているもの3例,経過観察中6例,希望なし4例,自己中断5例であった.両眼性3例では,手術を予定されているもの1例,経過観察1例,主疾患により全身麻酔下手術不能なもの1例であった.(162) 手術時年齢は,0歳3カ月.10歳3カ月で中央値2歳1カ月(平均2歳8カ月)であった.内訳は,片眼性0歳3カ月.10歳3カ月で中央値2歳0カ月(平均2歳6カ月),両眼性0歳11カ月.6歳10カ月で中央値3歳3カ月(平均3歳6カ月)であった.片眼性症例の手術時年齢が有意に低かった(p<0.05,検定I).初診から手術までの期間は,片眼性0.45カ月で中央値7カ月(平均8.5カ月),両眼性0.58カ月で中央値8カ月(平均11.7カ月)であった.片眼性と両眼性の手術までの期間に統計学的有意差は認められなかった(p=0.63,検定I).下垂の程度別にみると,片眼性では軽度3.40カ月で中央値8.5カ月(平均10.4カ月),中等度0.45カ月で中央値7.0カ月(平均8.0カ月),重度1.17カ月で中央値6.5カ月(平均7.1カ月)であった.両眼性では軽度3.33カ月で中央値8.5カ月(平均1歳1カ月),中等度1.14カ月で中央値8カ月(平均6.8カ月),重度0.58カ月で中央値6カ月(平均1歳1カ月)であった.片眼性,両眼性ともに下垂の程度によって手術までの期間に統計学的有意差は認められなかった(片眼性p=0.21,両眼性p=0.79,検定II).手術方法は,片眼性89例89眼では,筋膜移植術80例80眼(89.9%),眼瞼挙筋前転術8例8眼(9.0%),眼瞼挙筋瞼板固定術1例1眼(1.1%)であった.両眼性23例46眼では,筋膜移植術22例42眼(91.3%),眼瞼挙筋前転術3例4眼(8.7%)であった.片眼性,両眼性ともに下垂の程度が重度で手術適応になった例はすべて筋膜移植術の適応であった.4.屈折異常対象のうち,術前に調節麻痺下屈折検査が施行できた85例(片眼性73例73眼,両眼性12例24眼)の屈折異常について検討した.下垂の程度分布は,片眼性73眼では軽度21眼(28.8%),中等度36眼(49.3%),重度16眼(21.9%)であった.両眼性24眼では軽度4眼(16.7%),中等度5眼(20.8%),重度15眼(62.5%)であった.a.屈折異常の分類屈折異常の分類を表1に示す.屈折異常の分類では遠視性複乱視の占める割合が最も高かった.屈折異常の分類について,下垂の程度別および両眼性と片眼性で比較しても傾向は変わらず,統計学的有意差は認められなかった(下垂の程度別の比較p=0.27,両眼性と片眼性の比較p=0.93,検定IV).また,片眼性眼瞼下垂の健眼と患眼の比較でも傾向は変わらず,統計学的にも差は認められなかった(p=0.16,検定IV).b.屈折異常の程度屈折異常の程度分布および平均等価球面度数を表2に示す.屈折異常の程度としては軽度遠視の占める割合が最も高かった.屈折異常の程度について,下垂の程度別および両眼性と片眼性で比較しても傾向は変わらず,統計学的有意差は認められなかった(下垂の程度別の比較p=0.41,両眼性と片眼性の比較p=0.24,検定V).また,片眼性眼瞼下垂の表1屈折異常の分類全眼瞼下垂両眼性眼瞼下垂片眼性眼瞼下垂患眼健眼軽中重全軽中重全軽中重全25眼41眼31眼97眼4眼5眼15眼24眼21眼36眼16眼73眼73眼遠視性1626125435513132174126複乱視(64.0)(63.4)(38.7)(55.7)(75.0)(100)(33.3)(54.2)(61.9)(58.3)(43.8)(56.2)(35.6)遠視性425111023323814単乱視(16.0)(4.9)(16.1)(11.3)(25.0)(13.3)(12.5)(14.3)(5.6)(18.8)(11.0)(19.2)遠視002(6.5)2(2.1)0000002(12.5)2(2.7)5(6.8)正視1(4.0)1(2.4)02(2.1)00001(4.8)1(2.8)02(2.7)6(8.2)近視01(2.4)01(1.0)000001(2.8)01(1.4)2(2.7)近視性2358003303256単乱視(8.0)(7.3)(16.1)(8.2)(20.0)(12.5)(8.3)(12.5)(6.8)(8.2)近視性255120033252910複乱視(8.0)(12.2)(16.1)(12.4)(20.0)(12.5)(9.5)(13.9)(12.5)(12.3)(13.7)雑性2327002223054乱視(8.0)(7.3)(6.5)(7.2)(13.3)(8.3)(9.5)(8.3)(6.8)(5.5)()内は%を示す.(163)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014467 表2屈折異常の程度分布と平均等価球面度数全眼瞼下垂両眼性眼瞼下垂片眼性眼瞼下垂患眼健眼軽中重全軽中重全軽中重全25眼41眼31眼97眼4眼5眼15眼24眼21眼36眼16眼73眼73眼強度遠視002(6.5)2(2.1)002(13.3)2(8.3)00000中等度446140000446144遠視(16.0)(9.8)(19.4)(14.4)(19.0)(11.1)(37.5)(19.2)(5.5)軽度1625115245514131963840遠視(64.0)(61.0)(35.5)(53.6)(100)(100)(33.3)(58.3)(61.9)(52.8)(37.5)(52.1)(54.8)正視3(12.0)4(9.8)1(3.2)8(8.2)00002(9.5)5(13.9)1(6.3)8(11.0)14(19.2)軽度2791800662731214近視(8.0)(17.1)(29.0)(18.6)(40.0)(25.0)(9.5)(19.4)(18.8)(16.4)(19.2)中等度近視01(2.4)01(1.0)000001(2.7)01(1.4)1(1.4)強度近視002(6.5)2(2.1)002(13.3)2(8.3)00000Mean1.631.141.561.401.971.601.261.471.561.181.801.380.67±SD1.611.812.852.131.070.723.472.691.701.912.331.951.57()内は%を示す.表3乱視の程度分布と平均乱視度数全眼瞼下垂両眼性眼瞼下垂片眼性眼瞼下垂患眼健眼73眼軽25眼中41眼重31眼全97眼軽4眼中5眼重15眼全24眼軽21眼中36眼重16眼全73眼<0.251(4.0)2(4.9)2(6.5)5(5.2)00001(4.8)2(5.6)2(12.5)5(6.8)13(17.8)<1.06(24.0)19(46.3)8(25.8)33(34.0)1(25.0)4(80.0)1(6.7)6(25.0)5(23.8)15(41.7)7(43.8)27(37.0)30(41.1)<2.014(56.0)11(26.8)12(38.7)37(38.1)1(25.0)1(20.0)7(46.7)9(37.5)13(61.9)10(27.8)5(31.3)28(38.4)24(32.9)<3.03(12.0)6(14.6)4(12.9)13(13.4)2(50.0)04(26.7)6(25.0)1(4.8)6(16.7)07(9.6)4(5.5)<4.01(4.0)3(7.3)5(16.1)9(9.3)003(20.0)3(12.5)1(4.8)3(8.3)2(12.5)6(8.2)2(2.7)Mean±SD1.230.691.170.831.330.961.230.831.500.660.700.211.870.971.590.921.140.681.240.861.020.941.160.830.910.76健眼と患眼の比較でも傾向は変わらず,統計学的にも差は認められなかった(p=0.24,検定V).c.乱視の程度乱視の程度分布および平均乱視度数を表3に示す.乱視は468あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014()内は%を示す.全眼瞼下垂眼97眼中92眼(94.8%)に合併していたが,そのほとんどが2.0D未満の軽度乱視であった.下垂の程度別に乱視の程度を比較したところ,下垂の程度が増すほど3.0D以上の乱視合併率が高い傾向にみえたが,統計学的に関連性(164) 表4乱視軸の分類全眼瞼下垂両眼性眼瞼下垂片眼性眼瞼下垂患眼健眼軽中重全軽中重全軽中重全24眼39眼29眼92眼4眼5眼15眼24眼20眼34眼14眼68眼60眼直乱視13(54.2)13(33.3)11(37.9)37(40.2)3(75.0)3(60.0)8(53.3)14(58.3)10(50.0)10(29.4)3(21.4)23(33.8)32(53.3)倒乱視5(20.8)18(46.2)12(41.4)35(38.1)1(25.0)1(20.0)4(26.7)6(25.0)4(20.0)17(50.0)8(57.1)29(42.6)16(26.7)斜乱視6(25.0)8(20.5)6(20.7)20(21.6)01(20.0)3(20.0)4(16.7)6(30.0)7(20.6)3(21.4)16(23.5)12(20.0)は認められなかった(p=0.61,検定V).片眼性では2.0D未満の軽度乱視の占める割合が高かったが,両眼性では乱視の程度にばらつきがあった.片眼性と両眼性の乱視の程度に統計学的有意差が認められた(p<0.05,検定I).また,片眼性眼瞼下垂の健眼と患眼の比較では,患眼のほうが中等度乱視の合併率が高い傾向がみられた.健眼と患眼の乱視の程度に統計学的にも有意差が認められた(p<0.05,検定I).d.乱視軸乱視が合併していた下垂眼92眼(片眼性68眼,両眼性24眼)および片眼性眼瞼下垂の健眼60眼の乱視軸の分類を表4に示す.下垂眼,健眼ともに直乱視が最も多く,斜乱視が2割前後と似た傾向であった.統計学的にも全眼瞼下垂眼と健眼の乱視軸の分類に有意差を認めなかった(p=0.24,検定IV).片眼性眼瞼下垂の中等度と重度においては倒乱視の割合が高かったが,下垂の程度と乱視軸の分類に関連性は認められなかった(p=0.09,検定II).また,片眼性眼瞼下垂眼では倒乱視の割合が最も高く,健眼では直乱視の割合が最も高かったが,統計学的には有意差が認められなかった(p=0.07,検定IV).e.屈折度数全眼瞼下垂眼97眼の平均屈折度数は,等価球面度数1.40±2.13D,乱視度数1.23±0.83Dであった.これらを下垂の程度別に比較したところ,等価球面度数,乱視度数ともに統計学的有意差は認められなかった(等価球面度数p=0.61,乱視度数p=0.56,検定II).両眼性眼瞼下垂の屈折度数分布を図1に示す.両眼性眼瞼下垂24眼の平均屈折度数は,等価球面度数1.47±2.69D,乱視度数1.59±0.92Dであった.これらを下垂の程度別に比較したところ,等価球面度数は統計学的有意差が認められなかった(p=0.15,検定II).乱視度数は統計学的有意差が認められ(p<0.05,検定II),重度例は中等度例に比して乱視度数が有意に強かった(p<0.05,検定III).片眼性眼瞼下垂の屈折度数分布を図2に示す.片眼性眼瞼(165)()内は%を示す.下垂73眼の屈折度数を下垂の程度別に比較したところ,等価球面度数,乱視度数ともに統計学的有意差は認められなかった(等価球面度数p=0.54,乱視度数p=0.38,検定II).両眼性眼瞼下垂眼と片眼性眼瞼下垂眼の屈折度数を比較すると,等価球面度数では統計学的有意差を認めず(p=0.29,検定I),乱視度数では両眼性が片眼性に比して有意に強かった(p<0.05,検定I).片眼性眼瞼下垂の健眼と患眼の屈折度数分布を図3に示す.健眼の平均屈折度数は,等価球面度数0.67±1.57D,乱視度数0.91±0.76Dであった.患眼の平均屈折度数は,等価球面度数1.38±1.95D,乱視度数1.16±0.83Dであった.健眼と患眼の屈折度数を比較したところ,等価球面度数では患眼のほうが遠視側に有意に強く,また,乱視度数も患眼のほうが有意に強かった(等価球面度数p<0.05,乱視度数p<0.05,検定I).f.不同視1.0D以上の不同視差を認めた例が,片眼性眼瞼下垂では73例中29例(39.7%),両眼性眼瞼下垂では12例中2例(16.7%)みられた.片眼性眼瞼下垂29例のうち26例が患眼の遠視性不同視であった.26例の不同視差の内訳は,1.0D以上2.0D未満18例(69.2%),2.0D以上3.0D未満5例(19.2%),3.0D以上4.0D未満3例(11.5%)であった.両眼性眼瞼下垂2例は1.5D未満の不同視差であった.なお,この2例は左右眼ともに重度下垂であった.5.斜視の合併率斜視は,片眼性眼瞼下垂107例中12例(11.2%),両眼性眼瞼下垂26例中3例(11.5%)に合併していた.軽度下垂症例には斜視は合併していなかった.斜視の種類は,片眼性眼瞼下垂では,間欠性外斜視5例,恒常性外斜視4例,恒常性内斜視2例,上下斜視6例(重複あり)であった.両眼性眼瞼下垂では,間欠性外斜視1例,恒常性外斜視1例,恒常性内斜視1例であった.あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014469 軽度中等度重度963乱視度数(D)001234-3-6等価球面度数(D)-9図1両眼性眼瞼下垂の屈折度数分布(下垂程度別)6.004.002.000.00-2.00-4.00患眼健眼01234等価球面度数(D)乱視度数(D)図3片眼性眼瞼下垂の屈折度数分布(健眼と患眼の比較)III考按一般に弱視の発生率はおよそ3%といわれている6,7).それに対し,眼瞼下垂眼における弱視の発生は19.37.5%と高率である6.10).かつては,先天性眼瞼下垂は,明視が妨げられて両眼視機能の正常な発達を障害し弱視や斜視に陥る可能性があることから,発見しだい早期の手術が勧められていた11).一般に乳幼児における瞳孔が隠れるほどの眼瞼下垂では,弱視が発生する危険がある.しかし,片眼性先天性眼瞼下垂眼においては,その眼瞼挙筋が薄くて,ほとんど横紋筋線維が認められないため,下方視時に伸展が悪く,かえって瞼裂幅の相対的拡大が起こる特徴があるため視性刺激遮断弱視は起こらないとの報告もある4).また,視性刺激を得やすくするために,顎上げの代償頭位をとる症例もいる12).視性刺激遮断となるか否かはこのような代償頭位も無視できない要因である.470あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014図2片眼性眼瞼下垂の屈折度数分布(下垂程度別)軽度中等度重度-4-2024601234等価球面度数(D)乱視度数(D)当院における先天性眼瞼下垂症例の顎上げ代償頭位の有無をみると,両眼性眼瞼下垂症例および片眼性眼瞼下垂の中等度例が代償頭位をとり,片眼性眼瞼下垂の軽度例と重度例が代償頭位をとらない傾向であった.片眼性眼瞼下垂の軽度例は,平常で角膜反射が出ており視性刺激が遮断されないため,代償頭位の有無が視力予後に影響するとは考えにくい.つぎに,片眼性眼瞼下垂の重度例であるが,下方視時に視性刺激があるとはいえ,代償頭位がなければ,視性刺激の全体量としては健眼より劣ることが予想され,やはり視性刺激遮断弱視の発生が危惧されるのではなかろうかと考えた.対象の初診時年齢をみると,両眼性眼瞼下垂より片眼性眼瞼下垂のほうが有意に低く,さらに片眼性眼瞼下垂では下垂程度が重度例で有意に低いという結果であった.片眼性眼瞼下垂は重症度が増すほど健眼と患眼の比較により病識が得られやすい.結果,より早期の医療機関への受診となったのではないかと推察された.視性刺激遮断弱視となるリスクがより高い症例に対し,より早期に診断できることは視力予後を改善する可能性があると考えられる.近年,先天性眼瞼下垂の視力不良の原因は視性刺激遮断ではなく,むしろ屈折異常や斜視によるものだという報告があり2.4),屈折異常については,特に乱視合併の報告が多くみられる3,4,6,8.11,13.15).下垂眼に合併する乱視の程度については,平田13)が強い傾向があると述べる一方で,宮下ら14)はそのような傾向は認められないとするなど報告にばらつきがある.本症例でも,全眼瞼下垂眼の94.7%と高率に乱視が合併していた.ただし,そのうち2.0D以上の乱視合併率は22.2%と少数で,宮下ら14)の報告と同じく乱視の程度は弱い傾向であった.これら乱視が眼瞼下垂に関連したものかを検討するために,片眼性眼瞼下垂症例の健眼と患眼の乱視を比(166) 較した.結果,患眼のほうが中等度乱視の合併率が高く,また乱視度数も有意に強い結果が得られた.乱視度数としては必ずしも強いとはかぎらないが,眼瞼下垂と乱視の関連性が示唆された.また,下垂の程度との関連性については,乱視合併率と乱視度数についての報告があり,乱視合併率については下垂の中等度および重度例で高くなるという報告が多数みられる3,8,14,15).また,乱視度数については高橋15)が下垂中等度以上で乱視度数が強くなると報告する一方で,山下ら10)が下垂の程度で乱視度数は変わらないと報告し,一致した見解は得られていない.今回,筆者らの検討では,乱視合併率は下垂の程度で変わらなかった.乱視度数については,片眼性では下垂の程度と関連性がみられず,両眼性では下垂重度例で有意に強い結果であった.また,片眼性より両眼性のほうが有意に強い結果であった.両眼性眼瞼下垂で特に下垂の重度例では乱視に注意が必要であることが示唆された.つぎに乱視軸であるが,下垂眼特有の乱視軸は認められなかった.過去にもいくつか乱視軸の分類に触れている報告があるが3,8,10,14,15),直乱視,倒乱視,斜乱視のいずれの指摘もあり,一致した見解は得られていない.つぎに屈折分布についてであるが,全眼瞼下垂眼の70.5%が遠視側であった.これは下垂眼に限ったことではなく,片眼性眼瞼下垂の健眼もまた遠視側に偏った屈折分布であった.乳幼児の平均屈折度については1歳児でsph+2.0D,2.3歳児でsph+1.0Dと報告されている16).今回,調査対象は乳幼児を主体としており,屈折異常の遠視傾向はそのことも影響していると思われた.しかし,片眼性眼瞼下垂の健眼と患眼との比較では患眼に有意に強い遠視が認められ,遠視性不同視の合併が強く疑われた.過去に,軽度ではあるが遠視性の不同視の合併を指摘している報告2,4,14)もあり,遠視性不同視の検討をしたところ,片眼性眼瞼下垂73例中26例(35.6%)に1.0D以上の不同視を認めた.多くは軽度の不同視であったが,弱視の発生リスクが高くなるとされる3.0D以上の不同視17)を認めた例も26例中3例(11.5%)いた.今回,筆者らの調査では調節麻痺下での屈折検査とはいえ,トロピカミド・塩酸フェニレフリン,塩酸シクロペントレート,硫酸アトロピンと使用薬剤が混在している.全症例に調節麻痺効果がより期待できる塩酸シクロペントレートもしくは硫酸アトロピン点眼下での屈折検査が施行できていれば健眼と患眼とでさらなる差が認められたかもしれない.また,対象の年齢が低いため,最低限としてTellerAcuitycardsにおける裸眼視力検査は施行しているものの,矯正視力検査までできた症例は少なく,弱視の検討ができなかった.つぎに合併症についてであるが,全眼瞼下垂133例中15例(11.3%)に斜視が合併していた.過去の報告においても2,4,6.10,15),眼瞼下垂における斜視の発生は10.3.57%と高率で,また,斜視の種類については外斜視の割合が高い.こ(167)れらの報告のなかでは最も低い斜視合併率となったが,一般的な斜視発生率が1.5%とされているので6,7),本症例の斜視合併も高率といえよう.また,本症例においても外斜視の割合が高かった.先天性眼瞼下垂の弱視の原因は,以前は視性刺激遮断弱視を中心に指摘されていたが,近年では屈折異常や斜視とする報告が多い.筆者らの調査においても,屈折異常,特に乱視や遠視性不同視,斜視の合併が認められた.また,過去の報告は,対象年齢が下限はほぼ0歳であるが,上限については15歳以下3,9,10)または15歳以下を主体としているものの最長は24.70歳と成人も含まれるなど2,4,13.15),対象年齢に幅がある.屈折異常の分布は,新生児,幼児,学童期,成人の各時期において大きく変化するといわれている18).本調査の対象年齢は乳幼児が主体であった.そのため,屈折異常の経年変化の影響も少なく,また,対象年齢がいわゆる視覚の感受性期間に属すことから,今回の調査で得られた結果は弱視要因に直接関係すると考えられる.これらの視機能に対する影響を考慮し,できるだけ早期に対応する必要がある.先天性眼瞼下垂においては,適切な手術と同様に,術前,術後を通しての注意深い屈折異常の管理,そして斜視および両眼視機能の管理が重要であると考えられた.文献1)根本裕次:眼瞼下垂,眼瞼内反.眼科プラクティス20小児眼科診療(樋田哲夫編),p114-117,文光堂,20082)粟屋忍,安間正子,菅原美雪ほか:片眼性眼瞼下垂症例における視機能について.眼紀30:195-201,19793)永井イヨ子:片眼性先天眼瞼下垂における視力低下の原因について.眼科27:63-73,19854)安間正子,栗屋忍:片眼性先天眼瞼下垂の視機能に関する研究.眼紀36:1510-1517,19855)西信元嗣:II屈折・調節の異常.視能矯正学(丸尾敏夫ほか編),p98-100,金原出版,19946)太田有夕美,目黒泰彦,針谷春菜ほか:手術を施行した片眼先天性眼瞼下垂症例の視機能の検討.臨眼64:12991302,20107)Berry-BrincatA,WillshawH:Paediatricblepharoptosi:a10-yearreview.Eye23:1554-1559,20098)SrinageshV,SimonJW,MeyerDRetal:Theassociationofrefractiveerror,strabismus,andamblyopawithcongenitalptosis.JAAPOS15:541-544,20119)山本節,金川美枝子:先天性眼瞼下垂の手術と視機能.臨眼36:1377-1380,198210)山下力,四宮加容,岡本理江ほか:先天性眼瞼下垂症例の視機能.眼臨紀1:161-165,200911)丸尾敏夫:小児の眼瞼下垂.臨眼24:1349-1352,197012)羅錦營:眼瞼下垂.眼科学I(丸尾敏夫ほか編),p14-15,文光堂,200213)平田寿雄:先天性眼瞼下垂における視機能について.眼臨76:393,198214)宮下公男,上村恭夫:単純型片眼先天性眼瞼下垂の視力,あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014471 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