———————————————————————- Page 1(115)ツꀀ 14130910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(10):1413 1415,2009cはじめに近年,白内障,硝子体手術の進歩に伴い,白内障,硝子体同時手術を行うことが増加している.白内障硝子体同時手術を行う際に挿入する眼内レンズのサイズや安定性により,硝子体手術時の眼底の視認性が影響されることがあり,挿入する眼内レンズの選択には注意が必要である.今回筆者らは,折りたたみ可能な光学部径 7 mm 眼内レンズ,ETERNITYR X-70(参天製薬)を白内障・硝子体同時手術に使用し,眼底視認性,前房深度の変化を観察し白内障・硝子体同時手術における有用性を検討した.I対象および方法対象は 2008 年 5 10 月までに東京慈恵会医科大学附属病院において白内障,硝子体同時手術時に光学部径 7 mm 眼内レンズ ETERNITYRツꀀ X-70 を挿入した 22 例 22 眼である.術後経過観察期間は 3 9 カ月,平均 6.2 カ月であった.白〔別刷請求先〕渡辺朗:〒105-8461 東京都港区西新橋 3-25-8東京慈恵会医科大学眼科学講座Reprint requests:Akira Watanabe, M.D., Department of Ophthalmology, The Jikei University School of Medicine, 3-25-8 Nishi-shinbashi, Minato-ku, Tokyo 105-8461, JAPAN光学部径 7 mm 眼内レンズの白内障・硝子体同時手術 における有用性渡辺朗岡野喜一朗柴田朋宏加藤秀紀常岡寛東京慈恵会医科大学眼科学講座Clinical E cacy of 7 mm Intraocular Lens for Combined Pars Plana Vitrectomy, Phacoemulsiication and Intraocular Lens ImplantationAkira Watanabe, Kiichiro Okano, Tomohiro Shibata, Hideki Kato and Hiroshi TsuneokaDepartment of Ophthalmology, The Jikei University School of Medicine22 例 22 眼の白内障・硝子体同時手術に光学部径 7 mm 眼内レンズ,エタニティーR(参天製薬)を用いて有用性を検討した.白内障手術を 2.4 mm 強角膜切開創から行い眼内レンズを挿入後,23 ゲージシステムにて硝子体手術を行った.13 眼でガス置換を行った.術中の眼底の視認性および,前眼部解析装置 PENTACAMR(OCULUS 社)を用いて術前後の前房深度を測定した.術中の眼底の視認性は良好で,特に周辺部の観察時に良好であった.ガス置換を行った症例では術前の前房深度は平均 3.10 mm,術後 1 日 3.56 mm,1 週間 4.22 mm,1 カ月 4.25 mm となった.ガス置換を行っていない症例では術前の前房深度は平均 2.73 mm,術後 1 日 4.13 mm,1 週間 4.08 mm,1 カ月で 4.05 mm となった.術中の眼底の観察に優れ,硝子体内ガスの有無による術後の前房深度の変化が少ないエタニティーRは白内障・硝子体同時手術において有用である.We evaluated the clinical e cacy of a 7 mm intraocular lens(ETERNITYR, Santen Pharmaceutical Co., Ltd.)for combined pars plana vitrectomy, phacoemulsi cation and intraocular lens implantation. Subjects comprised 22 eyes of 22 cases in whom we observed retinal visibility during vitrectomy and measured anterior chamber depth before and after surgery, using the PENTACAMR. During vitrectomy, retinal visibility ─ especially of the peripheral reti-na ─ wasツꀀ good.ツꀀ Inツꀀ casesツꀀ involvingツꀀ gasツꀀ tamponade,ツꀀ anteriorツꀀ chamberツꀀ depthツꀀ averagedツꀀ 3.10 mmツꀀ preoperatively,ツꀀ and 3.56, 4.22 and 4.25 mm at 1 day, 1 week and 1 month postoperatively. In cases without gas tamponade the respec-tiveツꀀツꀀ guresツꀀ wereツꀀ 2.73,ツꀀ 4.13,ツꀀ 4.08ツꀀ andツꀀ 4.05 mm.ツꀀ Becauseツꀀ ofツꀀ goodツꀀ visibilityツꀀ duringツꀀ vitrectomyツꀀ andツꀀ stabilityツꀀ forツꀀ gas tamponade, ETERNITYR was useful for triple procedures.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(10):1413 1415, 2009〕Key words:7 mm 眼 内 レ ン ズ, エ タ ニ テ ィーR, 硝 子 体 手 術, 有 用 性.7 mmツꀀ intraocularツꀀ lens,ツꀀ ETERNITYR, vitrectomy, e cacy.———————————————————————- Page 21414あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(116)内障手術は 2.4 mm 強角膜切開創から行い,同じ創口からHOYA E1 カートリッジRに装 した ETERNITYR X-70 を眼内に挿入した.眼内レンズ挿入後,強角膜創からわずかでも漏出がみられた場合は,硝子体手術中の圧迫などによる前房虚脱を避けるため強角膜縫合を行い,23 ゲージシステムにて硝子体手術を行った.強角膜創を縫合した場合は,硝子体手術終了時に抜糸した.硝子体手術の適応となった疾患は,網膜 離 8 眼,黄斑円孔 5 眼,黄斑前膜 4 眼,増殖糖尿病網膜症 5 眼であった.網膜 離と黄斑円孔の 13 眼でガス置換を行った.ガス置換は 20%六フッ化硫黄(SF6)ガスを用い,硝子体腔を全置換した.術後 10 14 日で SF6ガスが消失した症例を対象とした.術中,術後の眼底の視認性および合併症について検討した.さらに,前眼部解析装置 PENTACAMR(OCULUS 社)を用いて術前,術後 1 日,1 週間,1 カ月に前房深度を測定し検討した.術前前房深度は角膜後面から水晶体前面まで,術後前房深度は角膜後面から眼内レンズ前面までの距離とした.II結果ETERNITYRツꀀ X-70 挿入眼では,7 mm 程度に散瞳した症例では瞳孔領を眼内レンズの光学部がほとんど占めるため,硝子体手術時は,光学部の有無により屈折が変化することなく硝子体切除時の視認性はきわめて良好であった.散瞳が8 mm 以上と良好な症例では光学部と瞳孔の間に隙間を生じるが,おもに術操作を行う領域には光学部の有無による屈折の 変 化 は な く, 硝 子 体 切 除 時 の 視 認 性 は 良 好 で あ っ た.ETERNITYR X-70 挿入眼では,後極部の観察時も瞳孔領のほとんどを眼内レンズの光学部が覆っており,明瞭に観察できる範囲が 6.5 mm 光学部径の眼内レンズに比較し広かった.硝子体鉗子を動かしながら把持した黄斑前膜を 離,除去していく場合,6.5 mm 光学部径の眼内レンズでは,鉗子で把持している部位は明瞭に観察できる.しかし,光学部のない周辺部では 離している黄斑前膜の端が明瞭に観察できないことがあったが,ETERNITYR X-70 挿入眼では,鉗子で把持している部位のみではなく, 離している黄斑前膜を端まで,網膜との付着部位を明瞭に確認しながら手術を行うことができた(図 1).周辺部の硝子体切除の際には,6.5 mm 光学部径眼内レンズ挿入眼よりも軽度の強膜圧迫で観察が可能であった(図 2).ガス置換時に眼内レンズの安定性は高く,眼底視認性も良好であった.術中および術後に網膜裂孔を認めた症例が,それぞれ 1 眼あり,術中,術後にレーザー光凝固を裂孔周囲に行った.光学部径が 7 mm あることにより周辺部の観察もしやすく,周辺部の新裂孔の観察やガス残存した状態でのレーザー治療の際にも安定した視認性が得られた(図 3).ガス置換症例でも眼内レンズによる虹彩捕獲や虹彩後癒着がみられた症例はなかった.術後経過観察期間中に明らかなグリスニングの発生や後 切開を要する後発白内障の発生がみられた症例はなかった.PENTACAMRを用いた前房深度の測定では,ガス置換を行った症例では術前の前房深度は平均 3.10±0.34 mm であり, 術 後 1 日 に 3.56±0.36 mm,1 週 間 で 4.22±0.26 mm,1 カ月で 4.25±0.27 mm となった.ガス置換を行っていない図 1後極部の観察6.5 mm 眼内レンズ挿入眼では光学部がない周辺部はピントが合わず不明瞭(矢印).ETERNITYRツꀀ X-70 挿入眼では 6.5 mm眼内レンズより広い範囲が明瞭に観察できる.6.5 mm 眼内レンズ挿入眼ETERNITYR X-70 挿入眼図 2強膜圧迫による周辺部観察ETERNITYR X-70 挿入眼では,光学部の有無によって屈折が変化することによる視認性の低下は少なく,軽度の強膜圧迫で周辺部の観察を行うことが可能であった.6.5 mm 眼内レンズ7 mm 眼内レンズツꀀ 3術後眼底観察術後の眼底マネージメントにおいても 7 mm 光学部径により周辺部の観察もしやすく,周辺部の新裂孔の観察やガス残存した状態でのレーザー治療の際にも安定した視認性が得られた.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091415(117)症例では,術前の前房深度は平均 2.73±0.32 mm であり,術後 1 日に 4.13±0.55 mm,1 週 間 で 4.08±0.47 mm,1 カ月で 4.05±0.41 mm となった.ガス置換の有無により術後 1日の前房深度に差はあるが,眼内ガスが約 40%残った術後1 週間以降ではガス置換の有無による前房深度の差はなくなった(図 4).III考按眼内レンズ眼は一般的に眼内視認性が低下することが知られており,その原因は後発白内障や,眼内レンズに発生したグリスニングやヘイズ,混濁,前 の混濁,収縮などがあげられる.このようなレンズの透明性の低下によるもの以外にも,眼内レンズの光学部がヒト水晶体より小さいために瞳孔領に眼内レンズの光学部により覆われない隙間が生じ,光学部の有無により屈折が変化し,その境目では視認性が低下する.また,ループやレンズエッジが観察の邪魔をしたりすることもある.7 mm 光学部径の眼内レンズは 6 mm 眼内レンズに比較し光学部面積は 36%,6.5 mm 眼内レンズより 16%増加する.周辺部の眼底視認性に影響する光学部と瞳孔との隙間は,瞳孔径が 8 mm の場合,6 mm 眼内レンズで 46.5%,6.5 mm 眼 内 レ ン ズ で 30.8% 減 少 す る. こ れ に よ り7 mm 眼内レンズを挿入すると,硝子体手術を行う際に眼底視認性が 6 mm 眼内レンズや 6.5 mm 眼内レンズに比較して向上すると考えられる.3 9 カ月の短期間の経過観察期間ではあるが,明らかなグリスニングや著明な後発白内障がみられた症例はなく,7 mm 光学部径を有する ETERNITYR X-70 は硝子体手術中,術後の良好な眼底の視認性への貢献が期待できると考えられた.硝子体手術時には,疾患や術中合併症により硝子体腔を 液-ガス置換することがあるが,その際に眼内レンズの安定性は眼底視認性や虹彩捕獲の発生に影響する1).今回,白内障・硝子体同時手術の術翌日に測定した前房深度は,ガス置換をした症例のほうが浅かった.これはガス置換により眼内レンズが圧迫され前方に移動するためと考えられる.ETER-NITYR X-70 では,眼内にガスが約 40%貯留した状態である手術後 1 週間では前房深度にガス置換の有無による差はなくなった.アクリル 1 ピース眼内レンズの場合手術後 1 週間ではガス置換の有無により前房深度に差があることが報告されている2)が,今回用いた ETERNITYR X-70 ではガス置換を行っても前房深度の変化が少なく早期に安定するものと考えられた.虹彩捕獲の発生は,ガスタンポナーデによる眼内レンズの前方移動や眼内レンズの光学部径に比較し,大きな前 切開が一因と考えられており1,3),ガスタンポナーデによる前方移動の程度が少なく,7 mm の光学部径を有するETERNITYR X-70 は虹彩捕獲の発症が低下すると考えられた.眼内レンズの安定性には,眼内レンズの光学部径のサイズばかりではなく,ETERNITYR X-70 光学部素材が硬いことが眼内安定性に貢献しているものと思われた.以上,眼底視認性や眼内安定性にすぐれた光学部径 7 mmを有する ETERNITYR X-70 は,白内障・硝子体同時手術において有用であると考えられた.文献 1) 西口文,南政宏,植木麻理ほか:白内障と硝子体同時手術の虹彩捕獲.IOL&RS 18:299-303, 2004 2) Iwase T, Sugiyama K:Investigation of the stability of one-piece acrylic intraocular lenses in cataract surgery and in combined vitrectomy surgery. Br J Ophthalmol 90:1519-1523, 2006 3) Rahman R, Rosen PH:Pupillary capture after combined management of cataract and vitreoretinal pathology. J Cataract Refract Surg 28:1607-1612, 2002***54.54.3.53.2.521.5術前術後1日術後1週間術後1カ月前房深度(mm):ガス置換:ガス置換なし図 4白内障・硝子体同時手術による前房深度の変化ガス置換の有無により術後 1 日の前房深度に差はあるが,眼内に約 40%残った術後 1 週間ではガス置換の有無による前房深度の差はなくなった(t 検定 p<0.01).