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隅角と前房深度は6 年を隔てた経年変化で狭く,浅くなる

2022年7月31日 日曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(7):963.967,2022c隅角と前房深度は6年を隔てた経年変化で狭く,浅くなる橋本尚子*1原岳*1本山祐大*1大河原百合子*1成田正弥*1原孜*1堀江大介*2伊野田悟*3千葉厚*1平出奈穂*1田中誠人*1片嶋優衣*1小池由記*1*1原眼科病院*2亀田総合病院眼科*3自治医科大学眼科学講座CChangesinAnteriorChamberAngleandDepthinNormalHealthySubjectsOvera6-YearPeriodTakakoHashimoto1),TakeshiHara1),YutaMotoyama1),YurikoOkawara1),MasayaNarita1),TsutomuHara1),DaisukeHorie2),SatoruInoda3),AtsushiChiba1),NahoHiraide1),MakotoTanaka1),YuiKatashima1)andYukiKoike1)1)HaraEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KamedaMedicalCenter,3)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversityC目的:隅角,前房深度,中心角膜厚のC6年の経年変化を比較検討する.対象および方法:対象は検査の同意が得られた健常者C40名.男性C10名女性C30名.初回検査時の平均年齢C40.4C±9.5(21.57)歳.右眼を対象とした.全員内眼手術既往なし.2014年C5月とC2020年C8月にCCASIAで隅角(耳側および鼻側CTIA750およびCTIA500),前房深度,中心角膜厚を測定し,比較検討した.結果:2014年の耳側隅角CTIA750はC42.2C±13.2°,TIA500はC44.1C±14.0°,鼻側隅角CTIA750はC38.1C±11.8°,TIA500はC38.8C±12.4°.2020年では耳側隅角CTIA750はC35.7C±12.2°,TIA500はC35.3C±13.9°,鼻側隅角CTIA750はC32.9C±11.5°,TIA500はC34.3C±12.3°.前房深度はC2014年:3.09C±0.3Cmm,2020年:2.99C±0.3mmであった.すべて有意差(p<0.01)が得られた.中心角膜厚はC2014年:533C±26Cμm,2020年:533C±27Cμmで有意差はなかった(p=0.31).結論:6年を隔てた経年変化は,中心角膜厚は変化なく,隅角は狭くなり,前房深度は浅くなっていた.CPurpose:Toinvestigatethe6-yearchangesinanteriorchamberangle(ACA)C,anteriorchamberdepth(ACD)C,andcentralcornealthicknessinnormalhealthysubjects.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved40healthysubjects[10males,30females;meanage:40.4C±9.4years(range:21-57year)]C.InformedconsentwasobtainedfromCallCsubjects,CandConlyCright-eyeCdataCwasCused.CAllCsubjectsChadCnoChistoryCofCintraocularCsurgery.CInCMayC2014andAugust2020,ACA(temporal-andnasal-sideTIA750andTIA500)C,ACD,andcentralcornealthicknesswereCmeasuredCbyCCASIACandCcompared.CResults:InC2014,CtheCtemporal-sideCTIA750CandCTIA500CanglesCwereC42.2±13.2°CandC44.1±14.0°,respectively,andthenasal-sideTIA750andTIA500angleswere38.1±11.8°CandC38.8C±12.4°,Crespectively.CInC2020,CtheCtemporal-sideCTIA750CandCTIA500CanglesCwereC35.7±12.2°CandC35.3±13.9°,Crespectively,CandCtheCnasal-sideCTIA750CandCTIA500CanglesCwereC32.9±11.5°CandC34.3±12.3°,Crespectively.CTheCmeanCACDCwasC3.09±0.3CmmCinC2014CandC2.99±0.3CmmCinC2020.CSigni.cantCdi.erencesCwereCobservedCinCall.ndings(p<0.01)C.Themeancentralcornealthicknesswas533±26μmin2014and533±27μmin2020,withnosigni.cantCdi.erenceobserved(p=0.31)C.CConclusion:AlthoughCnoCchangeCinCcentralCcornealCthicknessCwasCobserved,theACAsnarrowedandtheACDsbecameshalloweroverthe6-yearperiod.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(7):963.967,C2022〕Keywords:隅角,前房深度,中心角膜厚,経年変化,CASIA.angle,anteriorchamberdepth,centralcornealthickness,changeofaging,CASIA.C〔別刷請求先〕橋本尚子:〒320-0861栃木県宇都宮市西C1-1-11原眼科病院Reprintrequests:TakakoHashimotoM.D.,HaraEyeHospital,1-1-11Nishi,Utsunomiya,Tochigi320-0861,JAPANC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(109)C963図1aTIA(trabecular.irisangle)TIA:隅角底(anglerecess:AR)から,angleCopeningCdistance(AOD.図C1b参照)の両端に引いた直線の間の角度.はじめに隅角あるいは前房深度は年齢が上がるに従い,狭く,浅くなると報告されている1.6)が,そのほとんどは特定の期間に幅広い年齢の患者を対象として行った「横断調査」によるものである.隅角あるいは前房深度の経年変化を論じるには,横断調査よりも同一人物の経年変化を測定するのがより有用であると考えられる.Panらは,走査型周辺前房深度計SPAC(タカギセイコー)を用いてC2003年とC2008年にC157人の日本人を対象として初回とC5年後で前房深度の狭小化と前房深度の減少を報告している7).今回筆者らは,前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)SS-1000CASIA(トーメーコーポレーション)を用いてC2014年とC2020年に,初回とC6年後の隅角,前房深度,中心角膜厚を測定した結果を比較検討し,6年の経過で前房深度は浅くなり,隅角は狭くなる,という結果を得たので報告する.CI対象および方法対象は内眼手術既往のない,検査の同意が得られた健常者40名(内訳は男性C10名,女性C30名).初回検査時の平均年齢はC40.4C±9.5(21.57)歳.解析の対象は右眼とした.2014年C5月とC2020年C8月に前眼部COCT(CASIA)を用いて暗室にて計測した.隅角定量は耳側および鼻側のCtrabecu-larCirisangle(TIA)750μmおよびCTIA500μm(図1a,b)を測定8),また前房深度,中心角膜厚を測定した.2014年2020年ともに同一視能訓練士が撮影および解析を行った.2014年とC2020年の測定結果の比較には対応のあるCt検定を図1bAOD(angleopeningdistance)AOD:強膜岬(scleralspur:SS)からC500μm,750Cμmの線維柱帯上の点(T)と,その点から垂直に虹彩に下した線(I)の距離.AOD500が△の間の距離,AOD750が□の間の距離を示す.行った.各パラメータの変化量と年齢の相関に関しては,単回帰分析を行った.両検定ともに有意水準をCp<0.01とした.なお,当該研究は当院倫理委員会の承認(承認番号202116)を得て施行した.CII結果1.測定結果と2014年対2020年の比較隅角のC6年の経時変化では,耳側CTIA750はC42.2C±13.2°からC35.7C±12.2°(p<0.01),耳側CTIA500はC44.1C±14.0°からC35.3C±13.9°(p<0.01)と有意に狭くなっていた.また,鼻側もCTIA750はC38.1C±11.8°からC32.9C±11.5°(p<0.01),TIA500はC38.8C±12.4°からC34.3C±12.3°(p<0.01),と有意に狭くなっていた.前房深度はC3.09C±0.3mmからC2.99C±0.3mm(p<0.01)と有意に浅くなっていた.中心角膜厚はC533±26μmからC533C±27μm(p=0.31)と有意差はなかった(表1).2014年とC2020年の各パラメータの変化量については,単回帰分析の結果,耳側CTIA750のみ有意な年齢との相関を認め,係数はC.0.32(p<0.01,rC2=0.19)であった.耳側TIA500,鼻側CTIA750,TIA500,前房深度,中心角膜厚の変化量は年齢と有意な相関を認めなかった(表2).2014年からC20年にかけての耳側CTIAの変化量(2014年のCTIA750.2020年のCTIA750)は,年齢に対して負の相関を示した(図2).変化量を年代別にみてみると,20歳代では平均C7.86°,30歳代では平均C11.0°,40歳代ではC5.37°,50表12014年と2020年測定結果の比較2014年2020年p値変化量/年年齢(歳)C40.4±9.5C45.9±9.3<0.0000001C1.0隅角耳側CTIA750(°)C42.2±13.2C35.7±12.2<0.0001C.1.08隅角耳側CTIA500(°)C44.1±14.0C35.3±13.9<0.0001C.1.46隅角鼻側CTIA750(°)C38.1±11.8C32.9±11.5<0.0001C.0.87隅角鼻側CTIA500(°)C38.8±12.4C34.3±12.3<0.0001C.0.75前房深度(mm)C3.09±0.3C2.99±0.3<0.0001C.0.02中心角膜厚(μm)C533±26C533±27C0.31C.中心角膜厚以外は有意差が認められた.表22014~2020年の変化量と年齢の相関変化量回帰係数p値隅角耳側CTIA750(°)C6.5±6.9C.0.32<0.01隅角耳側CTIA500(°)C8.8±7.5C.0.31C0.01隅角鼻側CTIA750(°)C5.2±6.7C.0.15C0.17隅角鼻側CTIA500(°)C4.5±6.8C.0.22C0.05前房深度(mm)C0.10±0.07C.0.00039C0.75中心角膜厚(μm)C0.90±11.4C0.10C0.61耳側CTIA750のみ有意な年齢との相関が認められたが,耳側CTIA500,鼻側CTIA750,TIA500,前房深度,中心角膜厚の変化量は年齢との有意な相関を認めなかった.変化量(°)30.025.020.015.010.05.00.0-5.0-10.015105020~3030~4040~5050~60図2耳側TIA750:2014~2020年の変化量と年齢(2014年時)の相関耳側CTIA750の変化量と年齢との間には負の相関が認められた.棒グラフは年代別のTIA750の変化量を示す.30歳代で変化量がもっとも大きくなり,その後は減少していた.変化量(mm)0.300.250.200.150.100.050.00-0.05-0.100.20.1020~3030~4040~5050~60図3前房深度:2014~2020年の変化量と年齢(2014年時)の相関前房深度の変化量と年齢には有意な相関はみられなかった.棒グラフは年代別の前房深度の変化量を示す.30歳代で変化量がもっとも大きくなり,その後減少していた.歳代ではC0.52°であった.2014年から20年にかけての前房深度の変化量は,年齢と有意な相関を認めなかった(図3).変化量を年代別にみてみると,20歳代では平均C0.07Cmm,30歳代では平均C0.14Cmm,40歳代ではC0.12Cmm,50歳代ではC0.08Cmmであった.CIII考按1.本研究の特徴従来,隅角,前房深度は加齢とともに減少すると報告されていたが,そのほとんどは横断調査によるものであり,日本人においては,若い世代(20.30歳代)と高齢者の世代(70歳.80歳)では屈折,眼軸長の平均値も異なるため,加齢による前房深度,隅角の変化を横断調査で評価するには無理があるといわざるを得ない.この点に着目したCWickremas-ingheらは,比較的世代間差のないモンゴル人を対象とした疫学横断調査を行った結果,加齢とともに,前房深度が減少し,水晶体厚が増加することを報告し9),前房深度の減少には水晶体厚の増加が関与していることを示唆している.本研究は,日本人を対象としており,年齢はC20.57歳と若く,有水晶体眼で非緑内障眼のC6年後の経年変化を観察いる点が貴重なデータであると考える.結果として,従来の報告と同様,隅角は経年変化で狭くなり,前房深度は経年変化で浅くなることが確認された.中心角膜厚は変わらなかった.C2.前房深度の経年変化平均C40.4歳時の前房深度は平均C3.09mmで,6年後は2.99Cmmへと有意に減少していた.1年当たりの変化量は.0.02Cmmであった(表1).酒井らは日本人を対象とした横断研究で非緑内障者C89例(10歳代後半からC80歳代前半)の前房深度は年齢と有意な負の相関を示し,1年当たりの変化量は.0.021Cmmであったと報告しており10),本研究の変化量と一致していた.一方,Panら7)は縦断研究としてC2003年とC2008年に走査型周辺前房深度計(SPAC)を用いてC157人の日本人を対象に前房深度と隅角を測定している.対象症例の年齢はC18.95歳,平均C66.7歳であった.前房深度はグレード分類で評価されており,実際の前房深度の定量とは異なるが,5年でグレードが平均C7.2からC6.5に減少していた.彼らはさらに,眼内レンズ挿入眼(26眼)では前房深度,隅角ともにC5年間で有意な変化を示さなかったことから,前房深度,隅角の変化には水晶体が関与していると記している.本研究の対象者は全員が内眼手術既往のない有水晶体眼である.さらに,本研究ではCCASIA-1000を用いることで,より解像度の高い画像を得ることができ,定性的な狭小化の傾向だけでなく,定量的な分析が可能となった.本研究ではC6年における前房深度の変化量と年齢に単回帰分析では有意な相関はみられなかった(表2).ただし,年代別にみてみると(図2),前房深度はC20歳代,30歳代で減少の変化量が高く,30歳代でピークとなり,40歳代,50歳代では変化量が減少していた.水晶体は誕生直後はほぼ全体が核であるが,水晶体上皮細胞の増殖と核の圧縮,移動により,加齢とともに前房側に厚みを増すことが知られている11).本研究における前房深度の変化量が水晶体厚の前房側への増加を反映すると考えた場合,水晶体厚の増加量はC30歳代で大きく,40歳代,50歳代と増加量は漸減することになる.Wickremasingheら9)の報告のなかで,table2に示されている世代別の前房深度,水晶体厚の平均値をみると,50歳代,60歳代,70歳代の増加量よりもC40歳代のほうが増加量が多くなっている.本研究での前房深度の狭小化は生理的な水晶体厚の変化を反映している可能性があると思われた.C3.隅角の経年変化平均C40.4歳時の耳側隅角はCTIA750でC42.2°,TIA500で44.1°あったが,6年後には各々35.7°,35.3°と有意に狭小化していた.1年当たりの変化量はC.1.0.C.1.5°であった(表1).PanらによるCSPACの報告7)ではまた,前房隅角は34.2°からC28.1°に減少し,この変化量を単純に経過年のC5で除すると,変化量はC.1.22°/年となり,本研究の結果と近似した値で矛盾しない.本研究において耳側隅角は,TIA500のほうがC750よりも大きな変化量を示した.Panらは前房深度の減少は中心に比べて周辺で強い,と報告しており,瞳孔よりのCTIA750よりもより周辺のCTIA500で変化量が多いことと矛盾しない.6年間の変化量と年齢の相関を単回帰分析したところ,耳側CTIA750の変化量と年齢には有意な負の相関(C.0.32)が認められた.50歳以上の中国人を対象としたCWangらの縦断調査12)によれば,年齢とともに閉塞隅角の発症率は増加し,水晶体がより厚くなり,隅角がより狭くなり,近視眼の偽落屑により頻度が高くなっていた.本研究では,対象者に偽落屑は含まれていなかった.年代別にみた変化量は前房深度と同様でC30歳代に減少量がピークを示していた.高齢者の原発閉塞隅角症,原発閉塞隅角緑内障の隅角の狭小化には白内障による水晶体厚の増加ならびにCZinn小帯脆弱が要因と考えられている.本研究の対象者は非緑内障眼の有水晶体眼で,白内障による矯正視力の低下がみられていなかった.よって,50歳代における前房深度,隅角の減少が白内障によるものかどうかの評価はしがたい.しかしながら,20.60歳の日本人において,6年の経過で前房深度は浅くなり,隅角が狭小化することは確認することができた.さらに確実なエビデンスになるためには,対象者数,経過観察のポイントの増加が望ましいが,本研究が,今後の原発閉塞隅角症,原発閉塞隅角緑内障,白内障における前房深度,隅角定量における経過観察の研究の一助となれば幸いである.【利益相反】:利益相反公表基準に該当なし文献1)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreportC2:prevalenceCofCprimaryCangleCclosureCandCsec-ondaryglaucomainaJapanesepopulation.OphthalmologyC112:1661-1669,C20052)KashiwagiCK,CTokunagaCT,CIwaseCACetal:UsefulnessCofCperipheralCanteriorCchamberCdepthCassessmentCinCglauco-mascreening.EyeC19:990-994,C20053)加茂純子,佐宗真由美,鶴田真ほか:走査型周辺前房深度計(SPAC)による周辺前房深度の男女別加齢変化.日眼会誌C111:518-525,C20074)ShajariCM,CHerrmannCK,CBuhrenCJCetal:AnteriorCcham-berCangle,Cvolume,CandCdepthCinCaCnormativeCcohort-ACretrospectiveCcross-sectionalCstudy.CCurrCEyeCResC44:C632-637,C20195)HashemiCH,CKhabazkhoobCM,CMohazzab-TorabiCSCetal:CAnteriorCchamberCangleCandCanteriorCchamberCvolumeCinCaC40-toC64-year-oldCpopulation.CEyeCContactCLensC42:C244-249,C20166)LavanyaCR,CWongCTY,CFriedmanCDSCetal:DeterminaC-tionsCofCangleCclosureCinColderCSingaporeans.CArchCOph-thalmolC126:686-691,C20087)PanCZ,CFuruyaCT,CKashiwagiK:LongitudinalCchangesCinCanteriorCcon.gurationCinCeyesCwithCopenCangleCglaucomaCandassociatedfactors.JGlaucomaC21:296-301,C20128)LiuS,YuM,YeCetal:AnteriorchamberangleimagingwithCswept-sourceCopticalCcoherencetomography:anCinvestigationConCvariabilityCofCangleCmeasurement.CInvestCOphthalmolVisSciC52:8598-8603,C20119)WickremasingheS,FosterPJ,UranchimegDetal:OcularbiometryCandCrefractionCinCmongolianCadults.CInvestCOph-thalmolVisSciC45:776-783,C200410)酒井寛,佐藤健雄,鯉淵博ほか:前眼部撮影・解析装置(EAS-1000)を用いた閉塞隅角緑内障眼の前眼部計測.日眼会誌C100:546-550,C199611)AnthonyJB,RameshCT,BrendaJT:Wol.’sAnatomyoftheCEyeCandCOrbit,C8Cedition,Cp432-435,CChapmanC&CHallCmedical,Spain,199712)WangL,HuangW,HuangSetal:Ten-yearincidenceofprimaryangleclosureinelderlyChinese:theLiwanEyeStudy.BrJOphthalmolC103:355-360,C2019***

0.002%オミデネパグイソプロピル点眼液(エイベリス)の 6 カ月の眼圧下降効果と安全性の検討

2022年1月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(1):105.111,2022c0.002%オミデネパグイソプロピル点眼液(エイベリス)の6カ月の眼圧下降効果と安全性の検討清水美穂*1池田陽子*2,3森和彦*2,3上野盛夫*3今泉寛子*1吉井健悟*4木下茂*5外園千恵*3*1市立札幌病院眼科*2御池眼科池田クリニック*3京都府立医科大学眼科学*4京都府立医科大学生命基礎数理学*5京都府立医科大学感覚器未来医療学Six-MonthEvaluationoftheSafetyandE.cacyof0.002%OmidenepagIsopropylfortheReductionofIntraocularPressureinPrimaryOpenAngleGlaucomaMihoShimizu1),YokoIkeda2,3)C,KazuhikoMori2,3)C,MorioUeno3),HirokoImaizumi1),KengoYoshii4),ShigeruKinoshita5)andChieSotozono3)1)DepartmentofOphthalmology,SapporoCityGeneralHospital,2)Oike-IkedaEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,4)DepartmentofMathematicsandStatisticsinMedicalSciences,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,5)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC0.002%オミデネパグイソプロピル点眼液(エイベリス)の眼圧下降効果と安全性について検討した.市立札幌病院と御池眼科池田クリニックでエイベリスを投与した広義原発開放隅角緑内障(POAG)患者C56例C56眼のうち新規/追加投与例を追加群,他剤からの切替え例を切替え群とし,投与前,1,3,6カ月後の眼圧と安全性を検討した.6カ月眼圧測定可能であった追加群C19例,切替え群C20例では,追加群で投与前,1,3,6カ月の全期間で有意に下降(p<0.001/<0.001/0.001)し,切替え群はC1カ月後のみ有意に下降(p=0.003)した.中心角膜厚は投与前と比較しC6カ月で有意に肥厚した.球結膜充血例はC14例で点眼継続,1例で中止,虹彩炎C3例と.胞様黄斑浮腫C1例は投与を中止した.CPurpose:ToCevaluateCtheCsafetyCandCe.cacyCofC6-monthComidenepagCisopropylCophthalmicCsolution0.002%(EYBELIS;SantenPharmaceutical)eye-dropinstillationforintraocularpressure(IOP)reductioninJapanesepri-maryopen-angleglaucoma(POAG)patients.Subjectsandmethods:Thisstudyinvolved56eyesof56JapanesePOAGpatientswhowerenewlyadministeredEYBELISforIOPreduction.Thepatientsweredividedintothefol-lowing2groups:.rstadministration/additionaldruggroup,andswitchinggroup.IOPatpre-treatmentandat1-,3-,and6-monthsposttreatmentinitiationandadverseeventswerecomparedbetweenthe2groups.Results:InbothCgroups,CIOPCsigni.cantlyCdecreasedCoverCtheCentireCperiodCinCtheCorderCofCpre-treatment,C1-,C3-,C6-monthsCposttreatmentinitiation,respectively,withsigni.cantIOPdecreaseonlyat1-monthpostinitiation.At6-monthspostCtreatmentCinitiation,CmeanCcentralCcornealCthicknessCwasCsigni.cantlyCincreased.CConclusion:EYBELISCwasCfoundsafeande.ectiveforIOPreduction,yetwasdiscontinuedin5ofthe56patientsduetocysticmacularede-ma,iritis,andconjunctivalhyperemia.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(1):105.111,C2022〕Keywords:オミデネパグイソプロピル,EP2,眼圧下降効果,中心角膜厚,球結膜充血.omidenepagisopropyl,EP2,IOPreductione.ect,centralcornealthickness,conjunctivalinjection.Cはじめに動薬として日本で開発され,緑内障,高眼圧症治療薬の製造オミデネパグイソプロピル(エイベリス,参天製薬)は,販売承認を取得した点眼液である1).その作用機序は,EP22018年C9月に世界で初めて,プロスタノイド受容体CEP2作受容体を介した平滑筋弛緩作用により,おもにぶどう膜強膜〔別刷請求先〕清水美穂:〒060-8604北海道札幌市中央区北C11条西C13丁目C1-1市立札幌病院眼科Reprintrequests:MihoShimizu,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoCityGeneralHospital,1-1,Nishi13-Chome,Kita11-Jo,Chuo-Ku,Sapporo,Hokkaido060-8604,JAPANC流出路から,さらには線維柱帯流出路からの房水排出促進作用により眼圧を下降させ,1日C1回点眼でラタノプロストに非劣性の優れた眼圧下降効果を有するとされている1,2).先に筆者らはC0.002%オミデネパグイソプロピル点眼液(エイベリス)の短期(1カ月)眼圧下降効果と安全性について報告した3).今回はC6カ月の眼圧下降効果と安全性についてレトロスペクティブに検討し報告する.CI対象および方法対象は,市立札幌病院と御池眼科池田クリニックに通院中の広義原発開放隅角緑内障(primaryCopenCangleCglauco-ma:POAG)患者のうちC2018年C12月.2020年C2月にエイベリスを処方した両眼有水晶体患者C56例(男性C11例,女性45例,平均年齢C64.4C±11.7歳)である.エイベリス新規投与を新規群,追加投与を追加群とし,両群合わせて新規投与群と設定,また,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬やその他点眼薬からのC1対C1対応もしくは配合剤からの切替え投与した患者を切替え群とし,投与前,1,3,6カ月後の眼圧,中心角膜厚を測定した.眼圧測定については,エイベリス点眼前の複数回(1.3回)の平均眼圧値をベースライン眼圧として採用した.エイベリスの追加投与は,経過からより眼圧下降が必要と思われる患者に対し,1日C1回で眼圧下降効果が従来型のCPG関連薬と眼局所症状の副作用が出現しないエイベリスについて説明し,エイベリスを希望した患者に処方した.切替え例の場合,従来型のCPG関連薬の副作用である眼局所症状を辛く嫌だと感じている患者にエイベリス点眼について説明し,患者が希望した場合に処方した.片眼投与の場合はその投与眼を,両眼の場合は右眼のデータを選択した.投与前の眼圧下降薬については,合剤は2,内服はC1錠をC1として点眼数をスコア化した.病型別では,狭義CPOAG17例(男性C6例,女性C11例),正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)39例(男性C5例,女性34例)であった(表1a).眼圧解析は,6カ月以内に投与を中止したC13例,来院なしまたは転居のため投与打ち切りとしたC4例を除外した狭義CPOAG10例(男性C4例,女性C6例),NTG29例(男性C4例,女性C25例)で,安全性は全症例(56例)で検討した.眼圧は,各施設とも同一験者が圧平眼圧計で測定し,黄斑の評価は光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)を用いた.測定機器はCOCT,角膜厚の順に,御池眼科池田クリニック:RS-3000Advance(ニデック),EM-3000(トーメーコーポレーション),市立札幌病院:スペクトラリス(ハイデルベルグ社製),CEM-530(ニデック製)を使用した.眼底所見は,受診時には毎回診察し,またエイベリス投与前,投与後1,3,6カ月時点で必ず,および患者が視力低下などの訴えがあった場合にCOCTを実施し,黄斑部の精査確認を行った.眼圧の変化および角膜厚の変化が経過時間で差があるかについて,経過時間を固定効果とし,投与前(0),1,3,6カ月を符号化し,被験者はランダムな効果とする混合モデルにより分析した.また,経過時間を量的データとした混合モデルにより,眼圧および角膜厚の増加または減少の傾向性があるかの傾向性の検定を実施した.統計解析にはCTheCRsoftware(version4.0.3)を用い,有意水準は5%未満とした.なお,この研究はヘルシンキ宣言を基礎として厚生労働省の臨床研究に関する倫理指針に準拠し,市立札幌病院倫理審査委員会,京都府立医科大学倫理審査委員会による研究計画書の承認を得て実施した.症例データに関しては匿名化したのち,臨床にかかわらない共筆者が統計解析を行った.表1a対象の内訳全症例(男/女)56(C11/45)その内C⇒6カ月眼圧測定可能例(男/女)39(C8/31)年齢(歳)C64.4±11.7C60.3±12.3狭義CPOAG17(C6/11)10(C4/6)CNTG39(C5/34)29(C4/25)病型病型表1b6カ月眼圧測定可能例の内訳新規群(男/女)追加群(男/女)切替え群(男/女)17(C4/13)2(0C/2)20(C4/16)年齢(歳)C56.6±14.0C52.5C64.1±10.2狭義CPOAG3(3C/0)1(0C/1)6(1C/5)CNTG14(C1/13)1(0C/1)14(C3/11)POAG:開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障.年齢は平均±標準偏差を示す.C106あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022(106)表2新規投与群の投与前,1,3,6カ月後の眼圧変化期間眼圧(mmHg)p値*投与前C14.1±3.91カ月C11.9±3.1<0.0013カ月C11.7±3.1<0.0016カ月C12.0±2.40.001眼圧は平均±標準偏差を示す.*投与前との比較(混合モデルによる検定).表3a切替え群の内訳ならびに投与前1,3,6カ月後の眼圧変化症例数投与前切替え前眼圧1M後眼圧3M後眼圧6M後眼圧(男/女)(%)点眼数(mmHg)(mmHg)(mmHg)(mmHg)全体20(5/15)C2.0C13.3±3.2C11.8±1.6*C12.7±4.2C12.8±2.7C切替点眼PG11(2/9)C2.0C13.9±1.1C11.4±0.9*C11.6±1.4C11.6±1.5(55.0)Cb5(1/4)C1.0C14.2±5.0C10.5±2.1C13.2±4.3C13.0±1.7(25.0)2(1/1)CPG+b(10.0)C3.0C12.0C13.0C13.0C13.0Ca1刺激薬1(0/1)C1.0C18C18C17C18(5.9)Cab1(1/0)C1.0C11C11C10C10(5.0)PG:プロスタグランジン,Cb:b遮断薬,Cab:ab遮断薬.眼圧は平均C±標準偏差を示す.*p<0.05vs切替前眼圧(混合モデル).表3bPGからの切替え群の内訳ならびに投与前,1,3,6カ月後の眼圧変化PG関連薬内訳ビマトプロストラタノプロストタフルプロストトロボプラスト症例数(男/女)(%)6(0/6)(54.5)3(1/2)(27.3)1(0/1)(9.0)1(0/1)(9.0)投与前点眼数C1.6C2.5C3.0C1.0C切替前眼圧(mmHg)C13.5±2.1C12.3±2.1C19.0C11.0C1カ月後眼圧(mmHg)C12.1±2.0*C11.6±2.5C11.0C11.0C3カ月後眼圧(mmHg)C13.6±3.2C11.6±2.5C10.0C11.0C6カ月後眼圧(mmHg)C13.3±3.0C12.3±3.1C10.0C11.0C眼圧は平均±標準偏差を示す.*p<0.05vs切替前眼圧(混合モデル).II結果対象の背景は,表1に示すように,男女比はC1:3で女性が多く,平均年齢はC64.4C±11.7歳だった.そのうちC6カ月以内に投与を中止したC13例と,打ち切りとしたC4例を除外したC39例についての解析では,新規投与群C19例(うち新規17例,追加C2例),切替え群C20例であり,追加群(2例)についての前投薬は,1%ドルゾラミド塩酸塩,2%カルテオロール塩酸塩がそれぞれC1例ずつだった.切替え群の切替え前の点眼は,PG関連薬C11例(55.0%),b遮断薬C5例(25.0%),PG+b配合剤C2例(10.0%),ab遮断薬C1例(5.0%),Ca1刺激薬C1例(5.0%)であった(表3a).眼圧解析の結果であるが,新規投与群のエイベリス投与前ベースライン眼圧値はC14.1CmmHgであり,投与前に測定できた回数は1回C2例,2回5例,3回C12例,切替え投与群は,ベースライン眼圧値はC13.6CmmHg,投与前測定回数は1回C3例,2回C2例,3回C15例であった.新規投与群(新規+追加)の眼圧は,投与前,1,3,6カ月後の順に,14.1C±25.0p=0.00125.0p=0.159p<0.001p<0.071p<0.001p<0.00320.0眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)15.010.05.00.00.0投与前136(カ月)投与前136(カ月)図1a追加(新規+追加)群での投与前/1/3/6カ月後の眼圧変化図1b切替え群での投与前/1/3/6カ月後の眼圧変化追加群では,全期間で有意な眼圧下降がみられた.切替え群では,投与C1カ月後のみ有意な眼圧下降がみられた.C25.0p=0.177p<0.001p=0.105p=0.004眼圧(mmHg)20.0p=0.019600p=0.001角膜厚(μm)550500n=56n=50n=49n=394500.0投与前136(カ月)p<0.001(傾向性の検定)400図2PG関連薬からの切替えでの投与前/1/3/6カ月後の眼圧変化PG関連薬からの切替えでは,投与C1カ月後のみ有意な眼圧下降がみられた.C3.9/11.9±3.1/11.7±3.1/12.0±2.4CmmHgと全期間において投与前と比べ有意に下降(p<0.001/<0.001/0.001)し(表2,図1a),切替え群は,投与前,1,3,6カ月後の順に,13.3C±3.2/11.8±1.6/12.7±4.2/12.8±2.7CmmHgとC1カ月後のみ有意に下降した(p=0.003/0.071/0.159)(表3a,図1b).切替え群はCPGからの切替えがC11例(55.0%)と最多(表3a)であり,投与前,1,3,6カ月後の順に,13.9C±1.1/11.4±0.9/11.6±1.4/11.6±1.5mmHgとC1カ月後のみ有意に下降した(p=0.019/0.105/0.117)(表3a,図2).エイベリスに切り替えた点眼の詳細は表3bのように,ピマトプロスト54.5%,ラタノプロストC27.3%,タフルプロストC9.0%,トラボプロストC9.0%であり,ビマトプロストでC1カ月後のみ有意な下降を示したが,最終的にはいずれもC6カ月後の眼圧下降に有意差がなかった(表3b).中心角膜厚は,各期間における投与中止/打ち切り症例を除外し,測定値は投与前/1/3/6カ月後の順に,524.0C±44.2/527.0±41.2/530.9±40.4/534.0±41.6Cμmと投与前と比較してすべての期間で有意に肥厚し(p<0.05),傾向検定では,投与前に比べC1,3,6カ月と有意な増加傾向を認めた(p<0.001).投与C6カ月後での平均変化量はC18.0C±14.8Cμm,最大変化量はC64.0μmであった(図3).C108あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022投与前136(カ月)投与前523.9±44.2μm1カ月527.0±41.2μm3カ月530.9±40.4μm6カ月534.0±41.6μm平均変化量14.7±14.5μm最大変化量64.0μm図3全症例での投与前1/3/6カ月後の中心角膜厚の変化投与前と比較してどの期間においても角膜は有意に肥厚した.傾向検定において角膜厚は有意に増加した(p<0.001).副作用について(表4),6カ月投与継続できた症例では,球結膜充血C14例(25.0%),表層角膜炎C8例(14.3%),かゆみC2例(3.6%)であった.眼瞼色素沈着,上眼瞼溝深化の出現はなかった.6カ月時点までで投与中止した症例はC13例(23.2%)で,その内訳は,虹彩炎C3例(5.4%%),頭痛C2例(3.6%),かすみC2例(3.6%),球結膜充血C2例(3.6%),黄斑浮腫C1例(1.8%),眼痛C1例(1.8%),眼瞼炎C1例(1.8%),かゆみC1例(1.8%)であった.なおC4例(3.1%)を来院なしもしくは転居のため打ち切りとした.頭痛,球結膜充血,かすみ,眼痛,眼瞼炎,かゆみは投与中止で速やかに改善し,虹彩炎はエイベリス投与を中止しC0.1%フルオロメトロンC3回/日点眼でC2.3週後に改善した(表5).黄斑浮腫の症例について,本症例は基礎疾患として糖尿病を有していたがルミガンからの両眼切替え投与開始時点でのCHbA1cはC7.2%であり,開始時,投与C1カ月後の時点では糖尿病網膜症は認め(108)表4副作用A)投与継続(2C4例/C56例;4C2.8%)B)投与中止(1C3例/C56例;2C3.2%)中止までの期間(日)球結膜充血14例(2C5.0%)虹彩炎3例(5C.4%)C115表層角膜炎8例(1C4.3%)頭痛2例(3C.6%)C30かゆみ2例(3C.6%)かすみ2例(3C.6%)C22球結膜充血2例(3C.6%)C30眼痛1例(1C.8%)C124眼瞼炎1例(1C.8%)C30黄斑浮腫1例(1C.8%)C90かゆみ1例(1C.8%)C1524例(3C.1%)は来院なし/転居のため打ち切り.表5虹彩炎の経過(3例/56例)症例C1C2C3性別/年齢女C/61男C/67女C/66自覚症状球結膜充血球結膜充血球結膜充血他覚所見前房細胞前房細胞前房細胞角膜後面沈着物角膜後面沈着物角膜後面沈着物発現までの期間(日)C101C119C126治癒までの期間(日)C20C10C14炎症惹起疾患なしなしなし治療0.1%フルオロメトロン0.1%フルオロメトロン0.1%フルオロメトロン3回/日点眼3回/日点眼3回/日点眼表6黄斑浮腫の経過(1例/56例)視力右眼眼圧(mmHg)糖尿病網膜症CHbA1c(%)CUN(mg/dCl)CCr(mg/dCl)CeGFR(mCl/分/C1.73Cm2)浮腫出現前(1C.0)C20なしC7.2C13.8C0.9C66.9浮腫出現時(1C.0)C(投与C3カ月)18単純型(黄斑浮腫出現)C8.6C14.9C0.94C63.5投与中止STTA施行6カ月後(0C.8)C18単純型(黄斑浮腫軽減)C10.1C15.9C0.75C81.3STTA:トリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射,UN:尿素窒素,Cr:クレアチニン,eGFR:糸球体濾過量.ず,OCTで黄斑部網膜を確認したが,浮腫は認めなかった.中止,トリアムシノロンアセトニドのCTenon.下注射後は,しかし,投与開始からC3カ月後の眼底検査時にわずかな網膜浮腫は改善傾向であるが白内障の進行がみられ,視力(0.8)出血,黄斑部に毛細血管瘤がみられる単純型糖尿病網膜症がと若干低下し経過観察中である(表6).出現しており,OCTにて黄斑浮腫を確認した.その時点でのCHbA1cはC8.6%と増悪が認められた.浮腫出現前,出現CIII考按時ともに右眼視力(1.0)で低下はなかった.エイベリス投与本調査の対象について,新規投与群,切替え群ともに圧倒的に女性が多く,切替えの内訳はCPG関連薬が半数以上であった.エイベリスは,PG関連薬の副作用である眼瞼色素沈着や上眼瞼溝深化が出現しない1)とされ,PGからの切替え投与で眼瞼色素沈着や上眼瞼溝深化が改善した報告がある3,4).そのため新規・切替え選択ともに整容面に影響しにくいエイベリスの選択を女性が多く行ったためと考える.第CIII相長期投与試験(RENGEstudy)4.6)では,エイベリスのC52週にわたる単独投与において,ベースライン眼圧(低眼圧群:18.71C±1.68mmHg,高眼圧群:24.06C±2.36mmHg)に比べ,低眼圧群ではC.3.66±0.34CmmHg,高眼圧群ではC.5.64±0.49CmmHgと安定した眼圧下降がみられ,その眼圧変化量はベースライン眼圧が高いほうがより多かったことを報告している.本調査では,追加群において,ベースライン眼圧C14.1C±4.0CmmHgから投与C1カ月後C11.9C±3.1CmmHgとC2.2CmmHgの下降,その後もC6カ月までのどの期間においても投与前比C2CmmHg程度の眼圧下降を保持できたが,既報4.6)よりも少ない変化量であった.本調査はCNTGが多く,ベースライン眼圧の低さが眼圧変化量の少なさに関係した可能性があるが,既報4.6)よりも眼圧変化量は低い値ではあるもののエイベリスのC6カ月にわたる安定した眼圧下降効果が示された結果と考える.一方,Inoue7)らはCNTGを対象としたエイベリス投与C54眼(新規C52,切替えC2眼)の眼圧下降率について,投与前のベースライン眼圧はC15.7C±2.6CmmHgで,その眼圧下降率は投与後C1.2カ月でC10.6C±12.8%,3.4カ月でC12.8C±12.0%と報告している.本調査の対象はCNTGが多く,Inoueら7)との比較のためCNTGかつ追加群のみ(新規C14,追加1)を抽出し同様に眼圧下降率を算出してみると,ベースライン眼圧はC14.0C±12.7CmmHgで,眼圧下降率は投与C1カ月でC14.5C±10.4%,3カ月でC12.2C±11.8%,6カ月でC5.6C±8.6%であった.Inoueら7)の報告と比べ本調査のほうがベースライン眼圧は低いが,その眼圧下降率はC1カ月ではやや高く,3カ月では同等であった.またAiharaら8)は日本人のCPOAG/高眼圧症患者におけるエイベリス投与C4週後にベースライン眼圧C23.8C±1.4CmmHgから24.9%下降したと報告している.この報告はCInoueら7)や本調査よりも眼圧下降率が大きく,ベースライン眼圧が高いことがこの結果に影響していると考えられた.本調査での切替え投与群においては,PG関連薬からの切替え投与でC1カ月後に有意な眼圧下降が得られ,それ以降C6カ月後まで有意差はなかったものの上昇なく眼圧を維持できた.この結果については,第CII相,第CIII相試験(AYAMEstudy)8,10,11)と同様に従来CPG関連薬に対して非劣性であることを示した結果と考える.本調査での安全性について,最多の副作用は球結膜充血(25.0%)で既報12.14)のC22.8%とほぼ同様の結果であったが,中止はC2例のみでありC96.4%で継続投与が可能であった.最新の市販後調査14)において投与継続で軽減したとする報告,Teraoら15)のエイベリス点眼後の充血はC120分後には改善するという報告など,点眼時間の工夫や投与開始前の十分な説明によって患者が自己中断や離脱することなく投与継続可能と考える.同様の調査14)では,3カ月の長期経過観察期間において副作用による中止はC71例/721例(9.8%),本調査ではC13例/56例(23.2%)にみられ,その原因(来院なしを除く)は虹彩炎C3例(5.4%)が最多で,既報のC0.3%14)に比して多い結果であった.このC3例については投与開始からC101.126日後と市販後調査よりやや遅く出現し,これらの自覚症状はC3例とも結膜充血であった.いずれも前房内の細胞数は軽度で全例に微細な角膜後面沈着物が出現していたため,エイベリス投与を中止し,0.1%フルオロメトロン点眼によりC10.20日で改善した.これらの症例では眼圧上昇など視機能への影響はなく,ぶどう膜炎の既往や糖尿病などの炎症を起こしやすい基礎疾患は認めなかった.エイベリスの炎症惹起メカニズムは明らかではなく,本調査で市販後調査に比べ虹彩炎が多かった理由も明確ではないが,既報での注意喚起14)から慎重に前房内の観察を行ったため,ごくわずかな変化も炎症所見としてとらえた可能性はある.しかしながら,炎症の既往のない症例や,球結膜充血の訴えのみの症例であっても,虹彩炎発症の可能性があることを常に念頭に置き,角膜後面沈着物の出現や炎症所見を見逃さないことが大切である.点眼処方に関係なく角膜後面の色素沈着やCguttataのような紛らわしい所見をもつ症例も存在するため,角膜後面沈着物の所見がもともと存在していたものかエイベリス処方後出現したのかを区別するために,エイベリス処方前に角膜内皮面の所見をよく観察し記載しておくことが望ましいと考える.今回の調査では.胞様黄斑浮腫がC1例に出現した.本症例は基礎疾患として糖尿病を有していたが,投与開始時点においてCHbA1c7.2%であり糖尿病網膜症は認めなかった.しかし,投与開始からC3カ月後の眼底検査時にわずかな網膜出血,黄斑部に毛細血管瘤がみられる単純型糖尿病網膜症が出現しており,OCTにて黄斑浮腫を確認した.その時点でのHbA1cはC8.6%と増悪が認められたことから,本症例は短期間の急激な血糖コントロール悪化による糖尿病網膜症出現に伴う黄斑浮腫である可能性が高いと考えた.とくに網膜血管病変をきたしやすい基礎疾患を有する患者への投与については,より注意深いCOCTでの経過観察を行い,万が一黄斑浮腫が出現した際には血液検査データの参照,全身状態の把握に努め,それがエイベリスによるものか基礎疾患の増悪のためかを区別する必要がある.今回の調査では中心角膜厚はエイベリス処方前と比べ全期間で肥厚し,6カ月時点での平均変化量はC14.7C±14.5Cμmであった.Suzukiらが報告したように,中心角膜厚がC10Cμm肥厚すると眼圧はC0.12CmmHg高く測定される16)ことを踏まえると,今回の検討での眼圧変化は平均変化量からの算出でC0.12×1.4=0.17mmHg,最大変量64μmの変化でも0.76CmmHg程度であり,臨床上問題となる眼圧変化ではないと考えられる.しかしながら,本検討においての中心角膜厚は投与開始からC6カ月の間,傾向性の検定で有意に増加傾向を認めている(p<0.001)ため,エイベリス投与継続により中心角膜厚の肥厚がさらに進むのか,どこかでプラトーに達するのか今後も経過観察を要する.今回の検討は後ろ向きの検討で,かつ症例数が少ないこと,症例の性別比に大きな差があること,対象年齢にばらつきが大きいこと,カルテベースであり点眼コンプライアンスなど未確認であることという限界はあるが,追加投与でC6カ月間眼圧下降効果があることが確認できた.また,安全性の面では従来の報告よりも虹彩炎が多いこと,臨床上の問題とはなってはいないが中心角膜厚の肥厚の進行が確認された.これらの要旨は,第C31回日本緑内障学会で発表した.文献1)相原一:EP2受容体作動薬.FrontiersofGlaucomaC57:C54-60,C20192)FuwaCM,CTorisCCB,CFanCSCetal:E.ectCofCaCnovelCselec-tiveEP2receptoragonist,omidenepagisopropyl,onaque-oushumordynamicsinlaser-inducedocularhypertensivemonkeys.JOculPharmacolTherC34:531-537,C20183)清水美穂,池田陽子,森和彦ほか:0.002%オミデネパグイソプロピル点眼液(エイベリス)の短期眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科37:1008-1013,C20204)NakakuraS,TeraoE,FujisawaYetal:Changesinpros-taglandin-associatedCperiorbitalCsyndromeCafterCswitchCfromconventionalprostaglandinF2atreatmenttoomide-nepagCisopropylCinC11CconsecutiveCpatients.CJCGlaucomaC29:326-328,C20205)AiharaH,LuF,KawataHetal:Six-monthresultsfromtheCRENGEstudy:OmidenepagCisopropylClowersCIOPCinCsubjectsCwithCopen-angleCglaucomaCandCocularChyperten-sion.C36thCWorldCOphthalmologyCCongress,CBarcelona,C20186)AiharaCH,CLuCF,CKawataCHCetal:12-monthCe.cacyCandCsafetystudyofanovelselectiveEP2agonistomidenepagisopropylCinCOAGCandOHT:theCRENGECstudy.CAmeri-canAcademyofOphthalmologyannualmeeting,Chicago,20187)InoueCK,CInoueCJ,CKunimatsu-SanukiCSCetal:Short-termCe.cacyCandCsafetyCofComidenepagCisopropylCinCpatientsCwithCnormal-tensionCglaucoma.CClinCOphthalmolC14:C2943-2949,C20208)AiharaCM,CLuCF,CKawataCHCetal:OmidenepagCisopropylCversusClatanoprostCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCandCocularhypertension:theCphaseC3CAYAMECstudy.CAmJOphthalmolC220:53-63,C20209)AiharaCM,CLuCF,CKawataCHCetal:PhaseC2,Crandomized,Cdose-.ndingCstudyCofComidenepagCisopropyl,CaCselectiveCEP2Cagonist,CinCpatientCwithCprimaryCopen-angleCglaucomaCorocularhypertension.JGlaucomaC28:375-385,C201910)LuF,AiharaM,KawataHetal:APhase3trialcompar-ingComidenepagCisopropyl0.002%CwithClatanoprostC0.005%CinCprimaryCopen-angleCglaucomaCandCocularChyperten-sion:theAYAMEstudy.ARVO,Honolulu,201811)AiharaCM,CLuCF,CKawataCHCetal:TheCpivotal,CphaseC3CAYAMEstudy:OmidenepagCisopropyl0.002%CisCnon-inferiorCtoClatanoprost0.005%CinCreducingCintraocularCpressure.C36thCWorldCOphthalmologyCCongress,CBarcelona,C201812)参天製薬株式会社:エイベリス点眼液C0.002%特定使用成績調査中間集計結果.13)参天製薬株式会社:エイベリス点眼液C0.002%第C3回市販後安全性情報.201914)参天製薬株式会社:エイベリス点眼液C0.002%適正使用ガイド.202015)TeraoCE,CNakakuraCS,CFujisawaCYCetal:TimeCcourseCofCconjunctivalhyperemiainducedbyomidenepagisopropylophthalmicCsolution0.002%:aCpilot,CcomparativeCstudyCversusCripasudil0.4%.CBMJCOpenCOphthalmolC5:1-6,C202016)SuzukiCS,CSuzukiCY,CIwaseCACetal:CornealCthicknessCinCanophthalmologicallynormalJapanesepopulation.Ophtal-mologyC112:1327-1336,C2005***

線維柱帯切開術を施行したDown症候群を伴う発達緑内障の1例

2016年1月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科33(1):133.139,2016c線維柱帯切開術を施行したDown症候群を伴う発達緑内障の1例小澤由明*1,2東出朋巳*1杉山能子*1杉山和久*1*1金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学*2南砺市民病院眼科TrabeculotomyinaCaseofDevelopmentalGlaucomawithDownSyndromeYoshiakiOzawa1,2),TomomiHigashide1),YoshikoSugiyama1)andKazuhisaSugiyama1)1)DepartmentofOphthalmology&VisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,2)DepartmentofOphthalmology,NantoMunicipalHospital目的:まれなDown症候群を伴う発達緑内障に対し線維柱帯切開術を施行した1例を経験したので報告する.症例:生後6カ月,女児.抗緑内障薬物治療に抵抗性を示し角膜浮腫を伴っていた.全身麻酔下検査で眼圧は右眼34mmHg,左眼33mmHg,陥凹乳頭径比は両眼0.7,角膜径は両眼13mm,隅角検査で虹彩高位付着を認めた.両眼に線維柱帯切開術を施行後,両眼とも角膜浮腫は消失し陥凹乳頭径比は0.3に改善した.術後111カ月間の測定眼圧は,薬物治療の追加なしで両眼12mmHg程度に安定した.中心角膜厚は両眼400μm以下,眼軸長は両眼25mm以上であった.考察と結論:Down症候群を伴う両眼の発達緑内障に対し線維柱帯切開術が長期に奏効している.角膜が菲薄化し強度近視になったのは,乳児期の高眼圧だけでなくDown症候群に伴う膠原線維異常が関与した可能性がある.Purpose:WereportararecaseofdevelopmentalglaucomawithDownsyndromethatreceivedtrabeculotomy.Case:A6-month-oldfemalewithDownsyndromeandbilateralcornealedemawasresistanttoanti-glaucomatousmedicaltherapy.OcularexaminationundergeneralanesthesiashowedIOP(intraocularpressure)R.E.:34mmHg,L.E.:33mmHg;cup-to-discratio0.7andcornealdiameter13mm;gonioscopyrevealedanterioririsinsertionsineacheye.Aftertrabeculotomyonbotheyes,cornealedemadisappeared,andcup-to-discratioreducedto0.3.For111monthssincesurgery,measuredIOPshavebeenmaintainedaround12mmHgineacheyewithoutmedication.Centralcornealthicknesshasremainedlessthan400μmandaxiallengthhasexceeded25mmineacheye.Discussion:TrabeculotomyhasbeensuccessfulfordevelopmentalglaucomawithDownsyndromeforalongterm.Thinnercorneaandhighmyopiaarepossiblytheresultnotonlyofocularhypertensionduringinfancy,butalsoofcollagenfiberabnormalityinassociationwithDownsyndrome.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(1):133.139,2016〕Keywords:ダウン症候群,発達緑内障,線維柱帯切開術,眼圧,中心角膜厚.Downsyndrome,developmentalglaucoma,trabeculotomy,intraocularpressure,centralcornealthickness.はじめに発達緑内障は,胎生期における前房隅角の形成異常が原因で眼圧上昇をきたす緑内障で,早発型,遅発型と他の先天異常を伴う発達緑内障の3型に分類される1).早発型は,生後早期からの高度な眼圧上昇に伴って,角膜浮腫・混濁,Haab’sstriae(Descemet膜破裂)を認めるだけでなく,組織柔軟性に起因した眼軸長の伸長,角膜径の増大,角膜厚の菲薄化などの特徴的な所見を示す2).遅発型は前房隅角の形成異常が軽度なために3.4歳以降に初めて眼圧上昇を認めるため,早発型のような特徴的な徴候を欠き,視野進行を認めるまで気づかれないことが多く,成人になってから発症することさえある3).他の先天異常を伴う発達緑内障には,無虹彩症,Axenfeld-Rieger症候群,Peters奇形,SturgeWeber症候群,神経線維腫症,PierreRobin症候群,Rubinstein-Taybi症候群,Lowe症候群,Stickler症候群,先天小角膜,先天風疹症候群などがあり,発達緑内障のほか〔別刷請求先〕小澤由明:〒920-8641金沢市宝町13番1号金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学Reprintrequests:YoshiakiOzawa,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,13-1Takara-machi,Kanazawa,Ishikawa920-8641,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(133)133 に特徴的な眼合併症を伴う3,4).発達緑内障は約80%が生後1年以内に診断され3,5,6),発症頻度は国や人種によって差があるが,わが国では早発型と遅発型を合わせたものが約11万人に1人,Peters奇形が約40万人に1人,AxenfeldRieger症候群とSturge-Weber症候群がそれぞれ約60万人に1人,無虹彩症と角膜ぶどう腫が各々約121万人に1人との報告5)がある.Down症候群に緑内障が合併する頻度ついては,わが国で0%との報告7)があり,海外でも多くの報告が1%以下であるとしている8.12).しかし一部に6.7%(4人)13),5.3%(10人)14),1.9%(3人)15)という報告もあるので緑内障の合併には注意が必要であるが,Down症候群児の出生が600.800人に1人であることから,発症率は0.01%以下と推定される.一方,Down症候群に伴う眼合併症には,瞼裂異常,屈折異常,眼球運動障害,涙道疾患,白内障のほか,円錐角膜16,17)やBrushfield斑17,18)といった膠原線維異常に起因した所見の報告が多い7.17)が,緑内障の合併はまれなこともあり,前述の疫学調査に含まれた症例のほかに症例報告がわずかにあるのみである.一般的に,発達緑内障は薬物療法に抵抗性を示し,眼球成長期の持続的な高眼圧が視機能障害の原因となるため,診断後早急に手術加療する必要がある3,4).視機能障害として,強度軸性近視のほか,菲薄化した角膜も術後の眼圧管理において注意すべき問題である.今回筆者らは,Down症に伴う両眼性の発達緑内障というまれな症例に対し,生後早期の線維柱帯切開術が奏効し,長期に良好な経過が得られている1例を経験したので報告する.I症例患児:6カ月,女児.家族歴:特記事項なし.現病歴:2005年6月20日,在胎38週,体重3,242gで出生した.生後1カ月検診でDown症候群を指摘され,眼科的精査のため同年10月19日に前医へ紹介された.軽度の筋緊張低下と巨舌を認めたが,心疾患や白血病などの重大な全身合併症は認めなかった.両眼に角膜浮腫および角膜混濁を認め眼圧が32.57mmHgであったため,0.5%チモロ上方左眼下方右眼図1全身麻酔下検査時(2006年2月21日,生後8カ月)の前眼部写真手術顕微鏡での前眼部観察のため上方が足側で下方が頭側,左側が右眼で右側が左眼である.下段はスリット照明による観察.両眼に軽度の角膜浮腫を認める.134あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016(134) 図2全身麻酔下検査時(2006年2月21日,生後8カ月)の隅角写真右眼下方の隅角.虹彩高位付着と一部に虹彩突起を認める.図4全身麻酔下検査時(2007年9月11日,2歳2カ月,術後19カ月)の左眼散瞳下検査上耳側の水晶体に混濁を認めた.手術顕微鏡での観察のため倒像.ール両眼2回を処方されたが,その後の眼圧も右眼39mmHg,左眼28mmHgと高値のため,2006年1月11日に金沢大学附属病院眼科へ紹介された.初診時所見:トリクロホスナトリウムによる催眠鎮静下で,眼圧は右眼32mmHg,左眼24mmHg(トノペンR)であった.手持ち細隙灯顕微鏡検査では,右眼に角膜浮腫・混濁を認め,左眼は角膜清明で,両眼とも前房は深く前房内に炎症所見は認めなかった.眼底検査では,両眼とも視神経乳頭に同心円状陥凹(陥凹乳頭径比0.7)を認めた.経過:乳幼児への安全性を考慮し,当科初診時に0.5%チモロール両眼2回をイソプロピルウノプロストン両眼2回とプリンゾラミド両眼2回に変更したうえで,2006年2月21日(生後8カ月)に全身麻酔下での眼科的精査を施行した.(135)図3全身麻酔下検査時(2006年2月21日,生後8カ月)の超音波生体顕微鏡検査上段が右眼耳側,下段が左眼下側の隅角.両眼とも虹彩の平坦化および菲薄化を認め,前房深度は深く,隅角は開大している.毛様体の扁平化と角膜の菲薄化も認める.眼圧は,右眼34mmHg,左眼33mmHg(トノペンR)で,両眼とも軽度の角膜浮腫を認めた(図1).両眼の角膜径は13×13mm(横径×縦径),中心角膜厚(centralcornealthickness:CCT)は,右眼468μm,左眼504μm,隅角所見では虹彩高位付着を認めた(図2).超音波生体顕微鏡では,前房深度が深く虹彩が平坦化(図3)していた.眼底所見は,両眼とも視神経乳頭に同心円状陥凹を認め,陥凹乳頭径比は両眼とも0.7であった.非散瞳下では中間透光体に明らかな異常は認めなかった.以上の所見から手術加療が必要と判断し,全身麻酔下検査に引き続き両眼の線維柱帯切開術を施行した.手術は右眼,左眼の順に施行した.手術手技:両眼とも同様に,①円蓋部基底で結膜切開し,②12時の強膜を止血して4×4mmの2重強膜弁を作製した後,③Schlemm管を開放し,④両側に径15mmのトラベクロトームを挿入後,⑤ゴニオプリズムでトラベクロトームの位置を確認して回転・抜去し,⑥深層弁を切除して浅層弁を10-0ナイロンRで2糸縫合後,結膜縫合した.術後経過:術後10日目のトリクロホスナトリウムによる催眠鎮静下での眼圧は,眼圧下降薬を使用することなく両眼15mmHg(トノペンR)であり,角膜浮腫も消失していた.あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016135 図5全身麻酔下検査時(2007年9月11日,2歳2カ月,術後19カ月)の右眼視神経乳頭手術顕微鏡下でスリット照明と硝子体レンズを使用して観察(倒像).手術時と比較し陥凹乳頭径比が0.3に減少していた.051015202530354045-1012345678910眼圧(mmHg)右眼(mmHg)左眼(mmHg)術後年数(year)図7眼圧経過生後246日,全身麻酔下で精査後,両眼TLO施行.術前までは,イソプロピルウノプロストンとプリンゾラミドを点眼していたが,術後より111カ月間,眼圧下降薬の点眼なしで,右11.6±3.0mmHg,左11.8±3.2mmHgを維持している.矢印:両眼トラベクロトミー施行,術後は両眼に眼圧下降薬の追加はしていない.その後も催眠鎮静下での測定眼圧は良好のまま経過し,外来通院にて経過観察を継続した.2007年9月11日(2歳2カ月,術後19カ月)に再び全身麻酔下で精査を行ったところ,角膜径は,右眼12.5mm(横径),左眼12.5mm(横径)と角膜径の増大は認めなかった.CCTは,右眼363μm,左眼369μmであり,術前に認めた角膜浮腫の影響がなくなったことで著明な菲薄化が確認された.眼軸長は右眼24.76mm,左眼24.80mm,屈折値は右136あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016図6眼底写真(2012年10月4日,7歳3カ月,術後79カ月)上段が右眼,下段が左眼の視神経乳頭写真.右眼陥凹乳頭径比はさらに減少した.眼:.11.50D(cyl.0.75DAx75°,左眼:.10.00D(cyl.3.00DAx90°(トロピカミド+フェニレフリン塩酸塩による調節麻痺下)と強度の軸性近視が認められた.この時期のTAC(TellerAcuityCards)による両眼視力は(0.02)であったため,屈折矯正眼鏡による弱視治療を開始した.また,左眼の瞳孔領から離れた白内障(図4)以外には,両眼とも中間透光体に明らかな異常は認めなかった.全身麻酔下の眼圧は,右眼10mmHg,左眼11mmHg(トノペンR)であり,陥凹乳頭径比は両眼0.3(右眼:図5)に減少していた.2010年11月4日(5歳4カ月,術後56カ月)に再び施行した全身麻酔下での精査では,角膜径は右眼12.5mm(横径),左眼12.5mm(横径)と変化は認めず,CCTは右眼395μm,左眼373μm,眼軸長は右眼25.62mm,左眼26.26mmであった.2012年10月4日(7歳3カ月,術後79カ月)に,トリク(136) ロホスナトリウムによる催眠鎮静下で検査を施行し,眼圧は右眼11mmHg,左眼12mmHg,陥凹乳頭径比は0.3であった(図6).この時期の屈折値は右眼:.12.00D(cyl.2.00DAx90°,左眼:.9.00D(cyl.1.00DAx90°(シクロペントレート調節麻痺下)であった.発達遅延のためLandolt環による視力検査はできなかったが,絵視標によるこの時期の視力は,VD=(0.1),VS=(0.1)であった.最終観察時である2015年6月4日(9歳11カ月,術後111カ月)にトリクロホスナトリウムによる催眠鎮静下で施行した検査では,眼圧が右眼12mmHg,左眼12mmHg,陥凹乳頭径比は0.3のままであった.この時期の屈折値は右眼:.12.50D(cyl.3.00DAx90°,左眼:.11.00D(シクロペントレート調節麻痺下)であった.絵視標によるこの時期の視力は,VD=(0.15),VS=(0.15)であった.術後111カ月間の眼圧は,眼圧下降薬の使用なしで,右眼11.6±3.0mmHg,左眼11.8±3.2mmHg(トノペンRおよびicareR)に安定していた(図7).II考按Down症候群は,21番染色体のトリソミーを呈する常染色体異常症で,わが国でも出生600.700人に対し1人と発症頻度が高く,多彩な全身合併症17)が知られており,眼合併症状も多岐にわたる7.17).緑内障の合併に関して,LizaSharminiらが6.7%(4例)と報告13)しているが,彼らの報告のなかの4例のうち,2例は発達緑内障,1例は緑内障疑い,1例は慢性ぶどう膜炎に伴う続発性緑内障であったと考察で述べている.Caputoらは5.3%(10例)と報告14)しているが詳細は不明であり,他の疫学調査報告8.10,12,15)も発達緑内障と記載されているものもあるが詳細不明である.一方で所見や治療経過などについて書かれた症例報告は,筆者らが調べた限りでは,Down症候群以外の先天異常を合併しないものでは,Traboulsiらの5症例の報告19),白柏らの1症例の報告20),McClellanらの1症例の報告21),およびJacobyらの1症例の報告22)のみである.しかし,McClellanらの症例は47歳で発症した毛様体ブロック緑内障,Jacobyらの症例は42歳で発症した悪性緑内障であり,どちらも発達緑内障ではない.また,Down症候群以外の先天異常も伴うものでは,Rieger奇形を伴っていたDarkらの報告23)と,ICE症候群を伴っていたGuptaらの報告24)があるが,どちらの報告もDown症候群ではないほうの先天異常に特徴的な所見が原因で緑内障を発症している.筆者らの症例のように,Down症候群以外の先天異常を伴わない発達緑内障であるTraboulsiらの5症例と白柏らの1症例について以下で比較検討してみる.なお,本症例を含め全症例でステロイド治療歴はない.隅角所見については,Traboulsiらの報告では1症例での(137)みで記載されており,両眼に虹彩根部からSchwalbe線に至る半透明膜を認め,右眼に線維柱帯から虹彩根部に伸びる白い虹彩歯状突起を認めたと記されている.また,白柏らの症例では右眼の虹彩高位付着と色素沈着と記されている.筆者らの症例も両眼の虹彩高位付着であった.治療に関して,Traboulsiらの症例は,4例が両眼でgoniotomyを施術され,1例が両眼でトラベクロトミーを施術されてすべて有効であったと記されている.白柏らの症例は,右眼のみの発症でND:YAGレーザー隅角穿刺術とbブロッカー点眼でいったん眼圧は正常化したが,再び上昇してトラベクロトミーを施術され,その後は緑内障点眼なしで経過良好であったと記されている.筆者らの症例もトラベクロトミーが奏効した.したがって,Down症候群の隅角異常は染色体異常との因果関係は不明だが,隅角所見と手術成績から他の発達緑内障と共通するものと考えられる.Catalanoはその希少性から染色体異常とは無関係に発症するものと考えている17).角膜厚について,Down症候群児では正常小児のCCT(500.600μm程度)より50μm程度薄いことが知られているが25,26),本症例での術後19カ月でのCCT(右眼363μm,左眼369μm)は,Down症候群児のCCTの平均値(約490μm)と比べて約25%も菲薄化していた.Traboulsiらの報告も白柏らの報告も角膜厚についての記載はなかった.薄い角膜厚によって眼圧測定値が過小評価されることが報告されており,角膜厚による眼圧補正に関して,Kohlhaasら27)が前房カニューラとGoldmann眼圧計を用いて導いた健常成人に対する眼圧補正回帰式ΔIOP=(.0.0423×CCT+23.28)mmHgを報告している.これによると,CCTが550μmよりも100μm薄いと約4mmHg眼圧が低く測定されることになる.しかし,これはCCTが462.705μmの範囲で決められたものであるうえ,Down症候群児では角膜性状が健常児と同等とは限らず,本症例に適用することはできない(本症例ではさらに眼圧測定にトノペンRおよびi-careRを使用した).したがって,先天異常を伴う発達緑内障では,角膜性状が先天異常の種類によってもまたDown症候群児間でも同等とは限らず,角膜厚もさまざまであるので,眼圧測定値を過去の文献データなどとは単純には比較できず,病状管理には眼圧以外の指標も重要である.本症例では,術後の乳頭陥凹の回復28)が維持されていたことから,術後の眼圧コントロールは良好であったと考えられる.白柏らの症例は20歳で発見された片眼の症例であるが,術後に乳頭陥凹が回復したことを乳頭形状立体解析装置(TopconIMAGEnet)によって証明している.乳頭陥凹の回復に関しては健常成人での報告もあり29,30),組織柔軟性が高い小児では陥凹乳頭径比が眼圧コントロールのよい指標である.しかし,早発型発達緑内障の術後で乳頭陥凹を認めない場合でも著明な眼軸伸長を認めた症例を松岡らが報告31)しており,眼軸長にも注あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016137 意が必要である.本症例では,2歳2カ月(術後19カ月)での眼軸長が25mm弱と,健常児の21.22mm32)に比べると3mm程度も長く,等価球面度数で.11.00D以上の強度軸性近視となっていた.Down症候群児に屈折異常が多いことは数多く報告されているが7.15,33),わが国において,富田らの報告では,健常児と同様に遠視が多いことが示されている一方で近視側には幅広い分布を示すことが示されており,.6D以上の強度近視が4.0%,そのうち.10D以上の強度近視も413眼中12眼(2.9%)に認めたと記されている7).また,伊藤らの報告も同様の傾向を示しており,.6.0D以上の強度近視が278眼中6眼(2.2%)に認めたと記されている33).彼らの報告にはどちらも緑内障の合併例はない.一方,発達緑内障を合併したDown症候群では,Traboulsiらの症例5例10眼中4例7眼が.8.00D以上の強度近視であった.したがって,Down症候群児では何らかの近視化要因があるために,早発型の発達緑内障を合併すると高眼圧による眼球伸展によってより高度の近視となる可能性がある.その機序として,薄い角膜,円錐角膜やBrushfield斑に関連する膠原線維異常が強膜にも存在し,眼圧負荷による眼球伸展が起こりやすいことが示唆される.本症例では,眼圧下降後の2歳2カ月(術後19カ月).5歳4カ月(術後57カ月)の38カ月間での眼軸伸長は,右眼で+0.86mm,左眼で+1.46mmであった.健常児の成長曲線31)によるとこの年齢では約+0.7±0.9mm(平均±標準偏差)の眼軸伸長があることから,本症例での眼軸伸長は健常児の2標準偏差以内にあり,眼軸伸長から推測すると眼圧経過は良好であったと考えられる.一方,弱視治療開始前の最高両眼視力(0.02)(TACで両眼視力しか測定できず)に対し,弱視治療開始から最終観察時までの絵視標による視力は,VD=(0.15),VS=(0.15)と向上していたが,こうした高度の軸性近視は弱視だけでなく網膜.離のリスクも高くなるので,強度近視に伴う眼底疾患にも注意が必要である.前述のTraboulsiらの5症例の報告では,強度近視の4例中,長期に経過観察できた2例が最終的には網膜.離により高度の視力障害を残したと記されている19).おわりに今回筆者らは,Down症候群を伴う両眼性の発達緑内障というまれな症例に対し,生後早期の線維柱帯切開術が奏効し10年という長期にわたり良好な経過が得られている1例を報告し,現在も経過観察中である.Down症候群では膠原線維異常も認められるが,1歳未満の急激な眼球成長期における高眼圧曝露が角膜の菲薄化と強度軸性近視を残したと考えられるため,できる限り早期に眼圧を正常化し,こうした視機能障害を軽減させることが重要である.138あたらしい眼科Vol.33,No.1,2016文献1)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン.日眼会誌116:1-46,20122)HenriquesMJ,VessaniRM,ReisFAetal:Cornealthicknessincongenitalglaucoma.JGlaucoma13:185-188,20043)前田秀高,根木昭:小児緑内障.眼科43:895-902,20014)勝島晴美:先天緑内障の治療.臨眼56:241-244,20025)滝沢麻里,白土城照,東郁郎:先天緑内障全国疫学調査結果(1992年度).あたらしい眼科12:811-813,19956)BardelliAM,HadjistilianouT,FrezzottiR:Etiologyofcongenitalglaucoma.Geneticandextrageneticfactors.OphthalmicPaediatrGenet6:265-270,19857)富田香,釣井ひとみ,大塚晴子ほか:ダウン症候群の小児304例の眼所見.日眼会誌117:749-760,20138)RoizenNJ,MetsMB,BlondisTA.:OphthalmicdisordersinchildrenwithDownsyndrome.DevMedChildNeurol36:594-600,19949)WongV,HoD:OcularabnormalitiesinDownsyndrome:ananalysisof140Chinesechildren.PediatrNeurol16:311-314,199710)KimJH,HwangJM,KimHJetal:CharacteristicocularfindingsinAsianchildrenwithDownsyndrome.Eye(Lond)16:710-714,200211)FimianiF,IovineA,CarelliRetal:IncidenceofocularpathologiesinItalianchildrenwithDownsyndrome.EurJOphthalmol17:817-822,200712)CreavinAL,BrownRD:OphthalmicabnormalitiesinchildrenwithDownsyndrome.JPediatrOphthalmolStrabismus46:76-82,200913)Liza-SharminiAT,AzlanZN,ZilfalilBA:OcularfindingsinMalaysianchildrenwithDownsyndrome.SingaporeMedJ47:14-19,200614)CaputoAR,WagnerRS,ReynoldsDRetal:Downsyndrome.Clinicalreviewofocularfeatures.ClinPediatr28:355-358,198915)KarlicaD,SkelinS,CulicVetal:TheophthalmicanomaliesinchildrenwithDownsyndromeinSplit-DalmatianCounty.CollAntropol35:1115-1118,201116)CullenJF,ButlerHG:Mongolism(Down’ssyndrome)andkeratoconus.BrJOphthalmol47:321-330,196317)CatalanoRA:Downsyndrome.SurvOphthalmol34:385-398,199018)DonaldsonDD:Thesignificanceofspottingoftheirisinmongoloids(Brushfield’sspots).ArchOphthalmol65:26-31,196119)TraboulsiEI,LevineE,MetsMBetal:InfantileglaucomainDown’ssyndrome(trisomy21).AmJOphthalmol105:389-394,198820)白柏麻子,白柏基宏,高木峰夫ほか:発育異常緑内障と種々の眼疾患を合併したダウン症候群の1例.眼紀41:21082111,199021)McClellanKA,BillsonFA:SpontaneousonsetofciliaryblockglaucomainacutehydropsinDown’ssyndrome.AustNZJOphthalmol16:325-327,1988(138) 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ソフトコンタクトレンズ装用眼に対するアイケア手持眼圧計の眼圧測定精度

2015年8月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科32(8):1213.1217,2015cソフトコンタクトレンズ装用眼に対するアイケア手持眼圧計の眼圧測定精度浪口孝治*1白石敦*1川崎史朗*2溝上志朗*1大橋裕一*1*1愛媛大学大学院医学系研究科感覚機能医学講座視機能外科学分野*2かわさき眼科AccuracyofIntraocularPressureMeasurementbyICareRReboundTonometerforSubjectsWearingSoftContactLensesKojiNamiguchi1),AtsushiShiraishi1),ShiroKawasaki2),ShiroMizoue1)andYuichiOhashi1)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversity,GraduateSchoolofMedicine,2)Kawasakieyeclinic目的:アイケア手持眼圧計(フィンランド,ティオラト社:アイケア)は,簡便に測定が可能な点眼麻酔不要の接触型眼圧計である.今回筆者らはソフトコンタクトレンズ(SCL)装用時のアイケアの眼圧測定精度を非接触型空気式眼圧計(NCT),Goldmann圧平眼圧計(GAT)と比較検討した.対象および方法:対象は,眼疾患を有しない健康ボランティア20例20眼,男性8例,女性12例,平均年齢29.6±9.1歳(平均±標準偏差).裸眼でNCT,アイケア,GATで眼圧を測定し,次にSCL装用時に,NCT(SCL-NCT),アイケア(SCL-アイケア)で眼圧を測定した.各条件での眼圧値を比較検討した.結果:裸眼での眼圧は,NCTが13.6±2.1mmHg(平均±標準偏差),アイケアが14.2±2.7mmHg,GATが13.4±2.1mmHgであり,いずれの群間において有意差を認めなかった.SCL-NCT,SCL-アイケアの眼圧値はそれぞれ12.6±1.7mmHg(p=0.003061)と13.1±1.9mmHg(p=0.01308)で,いずれも裸眼と比較して有意に眼圧が低かった.SCL-NCT,SCL-アイケアと,GATの比較においては,SCL-NCTとGAT(r=0.7801,p<0.001),SCL-アイケアとGAT(r=0.6063,p<0.001)のいずれにおいても強い相関が認められた.結論:SCLNCT,SCL-アイケアの眼圧値はいずれも裸眼に比べ有意に低値であった.SCL-NCT,SCL-アイケアは,いずれにおいてもGATと強い相関が認められた.SCL装用時の眼圧測定として,アイケアは有効な手段であることが示唆された.Purpose:TheICareRReboundTonometer(ICareFinlandOy,Vantaa,Finland)isahand-heldcontact-typetonometerthatallowsforeasymeasurementofintraocularpressure(IOP)withouttheuseofanesthesia.ThepurposeofthisstudywastocomparetheaccuracyofIOPmeasurementbetweentheICareR,anon-contacttonometer(NCT),andaGoldmannapplanationtonometer(GAT)insubjectswearingsoftcontactlenses(SCLs).Patientsandmethods:Thisstudyinvolved20normalsubjects(8malesand12females,meanage:29.6±9.1years).First,wemeasuredIOPusingtheICareR,NCT,andGATinallsubjectswithoutSCLsbeingworn.Then,wemeasuredIOPusingtheIcareR,NCT,andGATinallsubjectswithSCLsbeingworn.WethencomparedtheIOPineachcondition.Results:WithoutSCLs,nosignificantdifferenceinmeanIOPwasfoundbetweenICareR(14.2±2.7mmHg),NCT(13.6±2.1mmHg),andGAT(13.4±2.1mmHg).WithSCLs,themeanIOPwaslowerbyeachtonometerthanthatbyICareRandNCTwithoutSCLs.AstrongcorrelationwasfoundbetweenSCL-NCTandGAT,andbetweenSCL-ICareRandGAT.Conclusion:TheICareRwasfoundtobeandaccurateandeffectivedeviceforthemeasurementofIOPinsubjectswhowearSCLs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1213.1217,2015〕Keywords:アイケア,眼圧,ソフトコンタクトレンズ,Goldmann圧平眼圧計,非接触型空気式眼圧計,中心角膜厚.ICare,intraocularpressure,softcontactlens,Goldmannapplanationtonometer,non-contacttonometer,centralcornealthickness.〔別刷請求先〕浪口孝治:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科感覚機能医学講座視機能外科学分野Reprintrequests:KojiNamiguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversity,GraduateSchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon-city,Ehime791-0295,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(147)1213 はじめにソフトコンタクトレンズ(SCL)装用者人口の増加とともに,点眼麻酔を必要とするGoldmann圧平眼圧計(GAT)での眼圧測定は,煩雑であり,1日タイプのディスポーザブルSCLは破棄しないといけないなどの理由から,SCL装用者に対する眼圧測定では,非接触型空気式眼圧計(non-contacttonometer:NCT)の有用性が報告されてきた1).一方で,角膜移植後やアルカリ外傷などの重症眼表面疾患の治療・経過観察過程では,拒絶反応予防,消炎目的にステロイド点眼を長期使用していることが多く,眼圧の経過観察が必須とされている.しかしながらそれらの症例では,角膜上皮保護の目的からSCLを装用していることが多く,開瞼不全や涙液過多などのためNCTでの測定ですら困難な症例も多い.こうしたことから,筆者らの施設では,眼表面疾患例の眼圧測定に,NCTに代わりアイケア手持眼圧計(フィンランド,ティオラト社:アイケア)を使用する頻度が多くなっている.アイケアは簡便で,瞼裂が狭くても測定が可能な点眼麻酔不要の手持ち接触型眼圧計で,発射されたプローブが角膜と接触して眼圧測定を行う.プローブと角膜とが接触する瞬間のプローブの接近速度は,眼圧の高さに従って減速する仕組みとなっている.眼圧が高くなるほど,プローブはより素早く減速を開始する.また,眼圧が高くなるほどプローブと角膜の接触時間は短くなり,眼圧が低くなるほど長くなるように設計されている.しかしながら,SCL非装用時のアイケア,NCT,GATを比較した報告はいくつかあるが,SCL装用時のアイケアの眼圧測定精度をNCT,GATと比較検討した報告はない.本報告では,SCL装用時の眼圧をアイケア,GAT,NCTの3方法で測定し,測定精度について比較検討した.また,20**18*1614121086420図1各測定機器による眼圧値の比較GATとSCL-NCTに有意差を認める(p=0.02268).NCTとSCL-NCT,アイケアとSCL-アイケアに有意差を認める(それぞれp=0.003061,p=0.01308).(*p<0.05,対応のあるt検定)1214あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015裸眼でのアイケア,NCT,GATによる眼圧と中心角膜厚(centralcornealthickness:CCT)についても比較検討した.I対象および方法インフォームド・コンセントを得られた眼疾患を有しない健康ボランティア20例20眼(右眼)を対象とした.(男性8例,女性12例,平均年齢29.6±9.1歳:平均±標準偏差).まず,SCL非装用時にNCT(CT90,TOPCON社)→アイケア→GATの順で,それぞれ眼圧を3回ずつ測定した.次にSCLを装用し,NCT→アイケアの順で,それぞれ眼圧を3回ずつ測定した.マッサージ効果による眼圧への影響を考慮し,各眼圧測定は30分間隔で行われた.SCLはアキュビューR:Johnson&Johnson(etafilconA,含水率:58%,酸素透過係数:28,レンズパワー:.0.50D;BC8.8mm,中心厚0.07mm)を使用した.いずれの眼圧測定値も3回の平均値を用いた.CCTはスペキュラーマイクロスコピー(SP3000P,TOPCON社)に搭載されている角膜厚計測機能を用いて計測を行った.検討項目は1)SCL非装用時のNCT,アイケア,GATの眼圧を比較2)SCL非装用時のNCT,アイケアとSCL装用時のNCT(SCL-NCT),アイケア(SCL-アイケア)の眼圧を比較3)SCL非装用時のGATとSCL-NCT,SCL-アイケアの眼圧を比較4)NCT,アイケア,GATの眼圧値の相関関係5)SCL-NCT,SCL-アイケアとGATの眼圧値の相関関係6)SCL非装用時のNCT,アイケア,GATの眼圧値とCCTの相関関係以上の6項目とした.1).3)の項目には対応のあるt検定を使用し,4).6)の項目では,Spearmanの順位相関係数を求めた.いずれの統計学的解析においても有意水準をp<0.05とした.II結果1)SCL非装用時の眼圧は,NCTが13.6±2.1mmHg(平均±標準偏差),アイケアが14.2±2.7mmHg,GATが13.4±2.1mmHgと,いずれの群間においても有意差を認めなかった.2)SCL-NCT,SCL-アイケアの眼圧値はそれぞれ12.6±1.7mmHg(p=0.003061)と13.1±1.9mmHg(p=0.01308)で,いずれも裸眼に比べ眼圧が有意に低値であった.3)SCL-NCTおよびSCL-アイケアと,GATの眼圧値を比較すると,SCL-NCTとGAT(p=0.02268)で有意な低下を認めた.SCL-アイケアとGATでは有意差を認めなかった(p>0.05)(図1).4)NCT,アイケアと,GATの相関をみたところ,NCTと(148) 191917171515r=0.7338,p<0.001r=0.7610,p<0.001NCT(mmHg)GAT(mmHg)GAT(mmHg)GAT(mmHg)アイケア(mmHg)GAT(mmHg)アイケア(mmHg)GAT(mmHg)13119131197755NCT(mmHg)アイケア(mmHg)図2NCTとGATの相関図3アイケアとGATの相関231921r=0.7946,p<0.0011719510152025510152025r=0.7801,p<0.0011715151313119119757510152025NCT(mmHg)5図4NCTとアイケアの相関SCL-NCT(mmHg)図5SCL.NCTとGATの相関19195101520r=0.6063,p<0.001r=0.2961,p>0.056005505001715131197171513119540045077911131517SCL-アイケア(mmHg)CCT(μm)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151215(149)図6SCL.アイケアとGATの相関r=0.4964,p<0.05CCT(μm)600550500450400252015105図8アイケアとCCTの相関図7GATとCCTの相関CCT(μm)600550500450400255図9NCTとCCTの相関r=0.6978,p<0.05201510 GAT(r=0.7338,p<0.001),アイケアとGAT(r=0.7610,p<0.001),アイケアとNCT(r=0.7946,p<0.001)いずれにおいても強い相関が認められた.(図2~4)5)SCL-NCT,SCL-アイケアと,GATの相関をみたところ,SCL-NCTとGAT(r=0.7801,p<0.001),SCL-アイケアとGAT(r=0.6063,p<0.001)いずれにおいても強い相関が認められた(図5,6).6)CCTの平均は515.7±39.9μm(平均±標準偏差)であった.GATとCCTとの間には相関を認めなかった(r=0.2961,p>0.05)が,アイケアとCCTにやや弱い相関を認め,(r=0.4964,p<0.05)NCTとCCTには強い相関を認めた(r=0.6978,p<0.001)(図7~9).III考察アイケアは,スイッチを押すとプローブが発射され,角膜と接触する.プローブと角膜が接触した瞬間にプローブの速度は,眼圧の高さに従って減速する.その減速度を分析し眼圧を測定する仕組みになっている.アイケアの測定精度について正常群および緑内障群を対象に行われた豊原らの報告では,アイケアとGATによる眼圧値には正常群,緑内障群ともに強い有意な相関がみられたとしている(正常群:r=0.785,p<0.001,緑内障群:r=0.761,p<0.001)2).また,アイケアとNCTによる眼圧値には正常群,緑内障群ともに強い有意な相関がみられたと報告されている(正常群:r=0.786,p<0.001,緑内障群:r=0.886,p<0.001).今回正常群を対象とした筆者らの報告でも,アイケアとGAT(r=0.7610,p<0.001),アイケアとNCT(r=0.7946,p<0.001)による眼圧値では強い相関が認められた.また,アイケアの眼圧値の平均はGATと比較してアイケアのほうがGATより高いとの報告もあるが2,3),今回の筆者らの報告ではアイケアとGATの眼圧値に有意差は認めなかった(p=0.4253).今回アイケアとGATの眼圧値に有意差を認めなかった理由としては,既報の角膜厚の平均が552.6±29.6(496.613)μmであったのに対して,今回検討を行った対象症例では角膜厚の平均が515.7±39.9(463.565)μmと比較的角膜厚が薄かったことが考えられる.以前よりNCT,アイケアの眼圧値においてCCTによる影響が指摘されているが,最近の報告では角膜曲率半径・角膜粘弾性が眼圧値に強く影響するという報告もある4).Gulerらは,NCTとCCT(r=0.327,p<0.001),アイケアとCCT(r=0.212,p<0.05)に相関を認め,CCTが10μm厚くなるとNCTは0.33mmHg,アイケアは0.18mmHg眼圧値が上昇すると報告している5).筆者らの報告でも,NCTとCCT(r=0.4964,p<0.05),アイケアとCCT(r=0.6978,p<0.05)に相関が認められた.圧平原理に基づく眼圧測定においては,角膜の変形しやす1216あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015さが眼圧測定の正確さに反映される.角膜の変形しやすさは,おもに角膜曲率半径・中心角膜厚・角膜粘弾性などの角膜因子の個体差によって影響される6).水分含有量の多い生体組織である角膜は,外力に対して瞬間的には弾性の反応を示すが,時間依存的には弾性ではなく粘性も併せもつ粘弾性という特性をもっている.短時間で角膜を圧平した場合は硬くて変形しにくいが,比較的長時間連続して力を加えるとゆっくり変形し,力を緩めるとゆっくり元に戻る.そのため,瞬間的に角膜を圧平するNCTやアイケアではGATより角膜粘弾性の影響を受けやすいと考えられる.CCTの眼圧値への影響については,GAT<アイケア<NCTの順で影響を受けやすいという報告が多い.NCTではairpulseを数ミリ秒単位で噴出し,角膜を圧平するが,その平坦面が直径3.60mmの円になるのに要する時間を測定し,眼圧を算出している.そのため,アイケアに比較して圧平面積が大きく,角膜厚や角膜粘弾性の影響を受けやすくなると考えられる.今回の報告でもCCTとの間にNCTのほうがアイケアより強い相関を認め,既報と同様にアイケアよりNCTのほうがCCTによる影響を受けやすい可能性が示唆された.アイケア,NCTそれぞれのSCL装用眼での眼圧値についてはさまざまな報告がなされている.NCTではSCL装用時に眼圧値は低下し,その値はレンズパワーやSCLの素材によっても変化すると報告されている7).Zeriらはアイケアの眼圧値はシリコーンハイドロゲルのSCLでは差がなく,ハイドロゲルのSCLでは眼圧値が低下すると報告しており,NCTと同様にSCLの素材とレンズパワーによって眼圧値が変化するとしている8).稲葉らは含水率による影響についても言及しており,低含水率のハイドロゲルレンズでは眼圧値に差がない,高含水率のハイドロゲルレンズでは眼圧値が低下すると報告している7).NCT,アイケアでSCL装用時に眼圧値が変化した要因としては,SCLを装用することにより眼表面の曲率半径が変化したこと,SCL装用により見かけ上の角膜厚が変化したこと,SCLを含めた角膜表面の剛性が変化したことにより角膜粘弾性が変化したこと,などが考えられている.自験例でも既報と同様に高含水率のハイドロゲルSCLを使用しNCT・アイケアの眼圧値が低下した.SCL装用により角膜全体の厚みは増したはずであるが,眼圧値は低下している.この理由としては,SCL装用による角膜全体の厚みの増加による影響よりも,角膜曲率半径が低下したこと,角膜粘弾性が変化したことなどが眼圧値に影響したからではないかと考えられる.SCL装用後のアイケアとGATに有意差は認めなかったが,SCL装用後のNCTの測定値はGATに比較して有意に低下することがわかった.この理由としては,SCL非装用(150) 時と同様にNCTに比べアイケアは,圧平面積が小さく,角膜厚,曲率半径,角膜粘弾性の影響を受けにくくなっていることなどが理由として考えられる.今回筆者らはSCL装用前と装用後の曲率半径を測定しなかったが,UlfaらはSCL装用時と非装用時の曲率半径を計測し.5.0D,.0.5D,SCL非装用時,+5.0Dにおいて,それぞれ角膜曲率半径が8.3±0.86,7.59±0.73,7.52±0.58,6.94±0.6と変化すると報告している9).SCL非装用時と.0.5DのSCL装用時の曲率半径の差はわずかであり,今回の筆者らの報告では曲率半径が眼圧値にどの程度影響を与えたのか考えることはむずかしい.曲率半径の眼圧値への影響を詳細に示すためには今後さまざまなレンズパワーを用いて眼圧を測定し,曲率半径と眼圧値との相関をみる必要がある.以上,まとめとしてアイケア,NCT,GATを比較して眼圧値には強い相関が認められた.アイケアは眼圧測定において有用であることがわかった.また,SCL装用眼ではアイケアの眼圧値は装用前に比べて低下するが,GATの測定値と比べて有意差はなく,SCL装用時の眼圧測定としてもアイケアは有用である可能性が示唆された.文献1)LiuYC,HuangJY,WangIJ:Intraocularpressuremeasurementwiththenoncontacttonometerthroughsoftcontactlenses.JGlaucoma20:179-182,20112)豊原勝利,井上賢治,若倉雅登ほか:アイケア手持ち眼圧計,Goldmann圧平式眼圧計,ノンコンタクト眼圧計の比較.あたらしい眼科24:355-359,20073)FernandesP,Diaz-ReyJA,QueirosA:ComparisonoftheICarereboundtonometerwiththeGoldmanntonometerinanormalpopulation.OphthalmicPhysiolOpt25:436-440,20054)ShinJ,LeeJW,KimEA:Theeffectofcornealbiomechanicalpropertiesonreboundtonometerinpatientswithnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol159:144154,20155)GulerM,BilakS,BilginB:ComparisonofintraocularpressuremeasurementsobtainedbyIcarePROreboundtonometer,andGoldmannapplanationtonometerinhealthysubjects.JGlaucoma,2014Sep26(Epubaheadofprint)6)鈴木克佳,相良健,西田輝夫:眼圧測定の問題点真の眼圧値を求めて.臨眼63:1571-1576,20097)稲葉昌丸:コンタクトレンズ上の眼圧測定.あたらしい眼科25:945-947,20088)ZeriF,CalcatelliP,DoniniB:Theeffectofhydrogelandsiliconehydrogelcontactlensesonthemeasurementofintraocularpressurewithreboundtonometry.ContLensAnteriorEye34:260-265,20119)RimayantiU,KiuchiY,UemuraS:Ocularsurfacedisplacementwithandwithoutcontactlensesduringnon-contacttonometry.PLoSONE9:e96066,2014***(151)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151217

中心角膜厚と相関する要因の検討

2013年1月31日 木曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(1):103.106,2013c中心角膜厚と相関する要因の検討西野和明吉田富士子新田朱里齋藤三恵子齋藤一宇回明堂眼科・歯科RelatingFactorsAssociatedwithCentralCornealThicknessKazuakiNishino,FujikoYoshida,AkariNitta,MiekoSaitoandKazuuchiSaitoKaimeidoOphthalmic&DentalClinic目的:中心角膜厚(centralcornealthickness:CCT)と相関する要因につき.その再現性を確認すること.対象および方法:2007年1月.4月までの間,当院にて白内障手術前にCCT(TOPCON,SP-3000P),眼圧,平均角膜屈折力(K値),眼軸長(IOLマスター)を測定した100例100眼.男性38眼,女性62眼.平均年齢(±標準偏差)72.5±8.8歳.患者の選択は連続とし,患者の重複を避けるため右眼のみの手術眼を選択.除外基準は過去のレーザー治療を含む眼科手術歴,外傷や角膜疾患の既往,網膜浮腫などのある眼球とした.緑内障点眼薬の未使用眼の眼圧(n=77),K値,眼軸長,年齢を説明変数,CCTを目的変数として単回帰分析を行った.緑内障(23眼),糖尿病(24例)をそれぞれ有する群とない群の2群に分けStudentttestで比較分析を行った.結果:各測定値の平均値(±標準偏差)はCCT510.7±30.6μm,眼圧13.6±2.6mmHg,K値44.6±1.4diopters,眼軸長23.8±1.6mm.CCTと眼圧のみに有意な正の相関(r2=0.0896,p=0.0082)がみられ,K値,眼軸長,年齢との相関(各p=0.49,p=0.77,p=0.25)を認めなかった.緑内障,糖尿病の有無による2群間のCCTでも有意差(各p=0.397,p=0.601)を認めなかった.結論:CCTとの相関は眼圧のみで再確認された.年齢に相関がみられなかったのは,研究サンプルの平均年齢が70歳以上と偏っていたためと考えられる.Purpose:Toexaminetheassociationbetweencentralcornealthickness(CCT)andvariousrelatingfactorsinourclinic.Methods:Thestudygroupcomprised100eyesof100recipientsofpreoperativecataractsurgery,including24withdiabetesmellitusand23withglaucoma.Themean(±standarddeviation)ageofthestudysamplewas72.5±8.8years;38eyeswereofmales,62eyeswereoffemales.Noindividualshadundergonepreviousintraocularsurgeryorhadothersignificantocularpathology.TheCCT,intraocularpressure(IOP),averagecornealcurvature(K)andaxiallength(AL)weremeasuredinallsubjects,respectivelyusingspecularmicroscope(TOPCON,SP-3000P),Goldmannapplanationtonometer,keratometerandA-scanultrasoundbiometer.CorrelationbetweenCCTandotherfactorswereestimatedstatistically.Results:MeanCCTwas510.7±30.6μm,IOP13.6±2.6mmHg,Kwas44.6±1.4dioptersandALwas23.8±1.6mm.SignificantpositivecorrelationwasnotedbetweenCCTandIOP(p=0.0082).NosignificantcorrelationswereidentifiedbetweenCCTandK(p=0.49),AL(p=0.77)orage(p=0.25).CCTwasnotassociatedwithglaucoma(p=0.397)ordiabetesmellitus(p=0.601).Conclusions:OnlyIOPwasfoundtobeassociatedwithincreasedCCT.AgefactorwasnotcorrelatedwithCCT,presumablyduetothehigheragesample.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(1):103.106,2013〕Keywords:中心角膜厚,眼圧,平均角膜曲率半径(平均角膜屈折力),眼軸長,年齢.centralcornealthickness(CCT),intraocularpressure(IOP),averagecornealcurvature,axiallengh,age.はじめにCCT)の影響を受けることはよく知られている1).つまり眼圧の実測値はGoldmann圧平眼圧計であれ,非接触型CCTが大きくなるほど眼圧の実測値は大きくなる傾向があ眼圧計であれ,中心角膜厚(centralcornealthickness:る.したがって緑内障診療において,CCTの大小が眼圧に〔別刷請求先〕西野和明:〒062-0020札幌市豊平区月寒中央通10-4-1回明堂眼科・歯科Reprintrequests:KazuakiNishino,M.D.,KaimeidoOphthalmic&DentalClinic,10-4-1Tsukisamuchu-o-dori,Toyohira-ku,Sapporo062-0020,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(103)103 どの程度影響するかを理解することはもちろん重要であるが,近年CCTの増減に影響する要因にはどのようなものがあるかが検討されるようになってきており,それらの理解も必要である.現在までにCCTの増加と関係する全身要因として糖尿病,肥満などが知られ2,3),一方,加齢はCCT減少の要因として報告されている2,4,5).また,眼科的要因としては眼圧上昇,緑内障,角膜曲率半径の増加がCCT増加の要因になるという2,6.8).今回筆者らは回明堂眼科・歯科(当院)においてそれらの要因とCCTの相関について,再現性が認められるかどうかを検討した.さらに,過去にはほとんど報告がみられなかった眼軸長についても2),合わせて検討した.I対象および方法2007年1月.4月までの間,当院にて白内障手術前にCCT(TOPCON,SP-3000P),眼圧(Goldmann圧平眼圧計),平均角膜曲率半径(オートレフラクトメータによる平均角膜屈折力=K値),眼軸長(IOLマスター)を測定した100例100眼.男性38眼,女性62眼.平均年齢(標準偏差)72.5±8.8歳.緑内障23眼,糖尿病24例を含む.緑内障23眼の内訳は原発として,狭義の原発開放隅角緑内障(POAG)と正常眼圧緑内障(NTG)を合わせた広義の原発開放隅角緑内障11眼,原発閉塞隅角緑内障3眼,続発としては落屑緑内障7眼,現在発作の起きていないPosner-Schlossmann症候群の既往眼1眼,現在炎症が鎮静化している虹彩毛様体炎1眼である.また,本研究の糖尿病の定義は,現在内科へ通院中で何らかの治療を指示されているものとした.患者の選択は連続とし,患者の重複を避けるため,右眼のデータのみを選択した.除外基準は各測定値に影響を与える因子,つまり過去のレーザー治療を含む眼科手術歴,外傷や角膜疾患の既往,網膜浮腫などのある眼球とした.登録した100眼すべてを対象とし眼圧,K値,眼軸長,年齢を説明変数,CCTを目的変数としてそれぞれの項目について単回帰分析を行った.ただし,緑内障患者ではすでに緑内障点眼薬の使用により眼圧が低下しているため,それ以外の未使用眼から得られた77眼の眼圧のみを選択し追加で検討した.また,緑内障,糖尿病の検討では,それらの有無で2群に分けStudentttestで比較検討を行った.II結果CCTの平均値(標準偏差)は510.7±30.6μm,男性513.4±27.7μm,女性509.1±31.8μmであった.男性の値がやや高い結果が得られたが,統計的な有意差は認められなかった(p=0.485:Welchのt検定).その他の平均値はそれぞれ眼圧14.1±3.1mmHg,K値44.6±1.4diopters,眼軸長23.8±1.6mm,年齢72.5±8.8歳であった.緑内障以外の77眼での平均眼圧は13.6±2.6mmHgであった.CCTと有意な相関が認められたのは眼圧(r2=0.09,p=CCT(μm)CCT(μm)650600550500450400450500550600650384042444648CCT(μm)4000510152025眼圧(mmHg)K値(diopters)図1CCTと眼圧図2CCTとK値y=3.35x+463.76,r2=0.0896,p=0.0082.y=.1.51x+578.39,r2=0.0049,p=0.49.650600550500450CCT(μm)4004505005506006504050607080904001520253035眼軸長(mm)年齢(歳)図3CCTと眼軸長図4CCTと年齢y=0.56x+498.33,r2=0.00087,p=0.77.y=0.41x+498.33,r2=0.013,p=0.25.104あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(104) p=0.397p=0.601p=0.601CCTの程度CCTの程度緑内障あり緑内障なし23眼77眼図5緑内障の有無によるCCTの比較0.0024)のみで,追加検討した緑内障以外の77眼の相関(r2=0.0896,p=0.0082)について図1に示した.K値(p=0.49),眼軸長(p=0.77),年齢(p=0.25)との相関は認められなかった(図2.4).緑内障(p=0.397),糖尿病(p=0.601)の有無による2群間のCCTでも有意差を認めなかった(図5,6).III考按CCTは眼圧をはじめとするさまざまな要因と相関することが知られている1.8).それらのなかで眼圧以外の要因として,全身的なものでは糖尿病,肥満,喫煙がCCTの増加と相関することや,眼科的にはK値の減少がCCTの増加と相関することなどが報告されている.そこで当院においても,それらの因果結果の再現性を確認する目的で臨床研究することを計画したが,一民間病院においては,患者の同意を得ることなど容易ではなかった.そこで白内障手術前の患者であれば,必ず術前にスペキュラーマイクロスコープによる角膜内皮細胞密度を測定しなければならず,その際に測定機種のTOPCON,SP-3000Pで同時にCCTを測定することが可能である.したがって,臨床研究に必要なCCTのデータが無理なく容易に取得することができる.しかも連続症例で検討することができるという利点もある.これらの理由により本研究の対象として白内障手術前の患者のデータを選択した.本研究においてCCTが眼圧と相関したというのは,過去の研究の追試にすぎないが,異なる点はCCTの平均値が他の研究に比べ,低い値であったこと,CCTと年齢との相関がみられなかったことである.これにはいくつかの理由が考えられる.まず一つには今回使用したCCTの測定機種がスペキュラーマイクロスコープであり,一般的に超音波法による540μm前後の値よりも低い値になることが知られていることである4,5,7,8.10).ちなみに多治見市内で一般住民を対象として行われた正常な日本人のスクリーニング検査(多治見スクリーニング)でもスペキュラーマイクロスコープ(TOP(105)糖尿病あり糖尿病なし24例76例図6糖尿病の有無によるCCTの比較CON,SP-2000P)が使用され,そのCCTの平均値は517.5±29.8μm,男性521.5±30.3μm,女性514.4±29μmと7),本研究はそれと類似する結果であった.しかしながら,それでもなお本研究のCCTの平均値510.7±30.6μmは,多治見スクリーニングの平均値よりもさらに低い.これは本研究が白内障手術前の患者をサンプルとして採用しており,平均年齢が70歳以上と高齢であったことが,原因と考えられる.過去の報告でも10歳進むごとにCCTは5μm減少することが知られている4,5).このように本研究ではスペキュラーマイクロスコープを測定機種として採用したことや,対象としたサンプルに年齢的な偏りがあったことが,過去の研究よりも低いCCTの実測値が得られた原因であろうと考えた.また,CCTが年齢と相関しなかった理由も同様にサンプルの選び方が原因と考えたが,それを実証するためには,今後は若い年齢層との比較検討が必要である.今後このような研究でさらに精度を上げるためにはいくつかの工夫が必要である.まずは,今回の研究では定義としてプロスタグランジン関連薬の使用の有無を差別化しなかった点である.その理由は,プロスタグランジン関連薬を使用している眼球では,CCTが減少するという報告がみられるものの11,12),それらの多くは10μm前後と大きくなく,しかも施設,研究デザイン,経過観察期間の違いで結果が異なることからである.しかしながら,今後さらに厳密なデザインによるデータを得るためには,プロスタグランジン関連薬の影響を考慮しつつ,患者の組み入れを工夫する必要性があるかもしれない.それ以外にも緑内障の扱いに関して,緑内障の種類別でCCTが異なる場合もあり6),それらを区別しながら比較検討する必要がある.さらに緑内障関連以外で今回検討できなかった因子は肥満である.それは今回の研究が後ろ向きであったため,手術前に体重は測定していたものの,身長は全員に確認していなかったことからbodymassindex(BMI)を計算できなかったためである.現在は全員の身長を確認しており,今後の研究では相関関係を検討していく予あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013105 定である.糖尿病に関してもその程度とCCTの相関なども合わせて検討していきたい.今回の研究では,CCTと相関する可能性の要因を過去の報告からリストアップし,当院においても再現性がみられるかどうか検討した.前述のごとく研究デザインにいくつかの不十分な点はあったものの,CCTと年齢の相関を考えるうえで今後の参考になるデータは得られた.今後は他の研究報告をさらに検討し,研究の精度を高めていくとともに,施設や機種などによる結果のばらつきを補正する目的で,さらに複数多施設での症例の集積と比較検討が必要と考えた.また,近年CCTに影響を及ぼす因子として遺伝的な研究報告もみられるようになり,今後の発展が注目される13.15).利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DoughtyMJ,ZamanML:Humancornealthicknessanditsimpactonintraocularpressuremeasures:areviewandmeta-analysisapproach.SurvOphthalmol44:367408,20002)WangD,HuangW,LiYetal:Intraocularpressure,centralcorneathicknessandglaucomainchineseadults:theliwaneyestudy.AmJOphthalmol152:454-462,20113)NishitsukaK,KawasakiR,KannoMetal:DeterminantsandriskfactorsforcentralcorneathicknessinJapanesepersons:theFunagatastudy.OphthalmicEpidemiol18:244-249,20114)WolfsRC,KlaverCC,VingerlingJRetal:Distributionofcentralcornealthicknessanditsassociationwithintraocularpressure:TheRotterdamStudy.AmJOphthalmol123:767-772,19975)HahnS,AzenS,Ying-LaiMetal:CentralcornealthicknessinLatinos.InvestOphthalmolVisSci44:1508-1512,20036)PangCE,LeeKY,SuDHetal:CentralcornealthicknessinChinesesubjectswithprimaryangleclosureglaucoma.JGlaucoma20:401-404,20117)SuzukiS,SuzukiY,IwaseAetal:CornealthicknessinanophthalmologicallynormalJapanesepopulation.Ophthalomol112:1327-1336,20058)TomidokoroA,AraieM,IwaseAetal:Cornealthicknessandrelatingfactorsinapopulation-basedstudyinJapan:theTajimistudy.AmJOphthalmol144:152154,20079)ModisLJr,LangenbucherA,SeitzB:Scanning-slitandspecularmicroscopicpachymetryincomparisonwithultrasonicdeterminationofcornealthickness.Cornea20:711-714,200110)SuzukiS,OshikaT,OkiKetal:Corneathicknessmeasurements:scanning-slitcornealtopographyandnoncontactspecularmicroscopyversusultrasonicpachymetry.JCataractRefractSurg29:1313-1318,200311)BirtCM,BuysYM,KissAetal:Theinfluenceofcentralcornealthicknessonresponsetotopicalprostaglandinanaloguetherapy.CanJOphthalmol47:51-54,201212)ZhongY,ShenX,YuJetal:Thecomparisonoftheeffectsoflatanoprost,travoprost,andbimatoprostoncentralcornealthickness.Cornea30:861-864,201113)VitartV,BencicG,HaywardCetal:NewlociassociatedwithcentralcornealthicknessincludeCOL5A1,AKAP13andAVGR8.HumMolGenet19:4304-4311,201014)VithanaEN,AungT,KhorCCetal:Collagen-relatedgenesinfluencetheglaucomariskfactor,centralcornealthickness.HumMolGenet20:649-658,201115)CornesBK,KhorCC,NongpiurMEetal:Identificationoffournovelvariantsthatinfluencecentralcornealthicknessinmulti-ethnicAsianpopulations.HumMolGenet21:437-445,2012***106あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(106)

中心角膜厚測定値の測定方法による違い

2012年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科29(4):541.544,2012c中心角膜厚測定値の測定方法による違い古橋未帆福地健郎市村美香栂野哲哉樺沢優長谷川真理小林美穂本間友里恵阿部春樹新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)CentralCornealThicknessMeasuredby3DifferentInstrumentsMihoFuruhashi,TakeoFukuchi,MikaIchimura,TetsuyaTogano,YuuKabasawa,MariHasegawa,MihoKobayashi,YurieHonmaandHarukiAbeDivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduatedSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity目的:3種類の異なった測定方法による中心角膜厚測定値の差について検討した.対象および方法:対象は明らかな眼疾患をもたない正常眼62例124眼である.平均年齢は33.6±10.5歳で,男性60眼,女性64眼である.各眼の中心角膜厚を超音波法,スペキュラーマイクロスコープ(スペキュラー)法,前眼部光干渉断層(OCT)法の3種類の方法で測定した.すべての症例について同一機会に3種類の方法による測定を連続して行った.いずれの測定値も3回の平均値とした.結果:各方法による中心角膜厚測定値は,超音波法558.1±34.8μm,スペキュラー法553.8±33.7μm,OCT法538.2±32.0μmであった.OCT法では超音波法,スペキュラー法よりも薄く計測され有意な差がみられた(p=0.001および<0.001,Tukey法による多重比較検定).各測定方法間の相関に関する決定係数は0.5195,0.4532,0.7054と高度から中等度の相関を示した.角膜が厚いほど各測定方法間の差が大きくなる傾向がみられた.各方法の測定再現性は,変動係数でみると超音波法1.8%,スペキュラー法4.2%,OCT法2.4%と良好であった.結論:中心角膜厚測定値には3種類の測定方法で差がみられた.各測定方法の特徴を理解し,その測定値を評価する際には,それがいずれの方法を用いたものなのかという点にも留意する必要がある.Purpose:Tomeasureandcomparecentralcornealthickness(CCT)using3differentinstruments.Patientsandmethods:Subjectsofthisstudycomprised124eyesof62normalvolunteers(60males,64females)withnooculardiseases.Meanagewas33.6±10.5years.CCTwasmeasuredviaultrasoundpachymeter(UP),specularmicroscope(SP)andanteriorsegmentopticalcoherencetomograph(OCT)inrandomturnsatthesameexamination.Eachmeasurementwasrepeated3timesandaveraged.Results:CCTmeasurementwas558.1±34.8μmwithUP,553.8±33.7μmwithSPand538.2±32.0μmwithOCT.MeasurementswithOCTweresmallerstatisticallysignificantlythanthosewithSP(p=0.001,Tukey’smethod)andUP(p<0.001).Coefficientsofdeterminationforthemethodswere0.5195,0.4532and0.7054,respectively,showinghighormiddlecorrelationamongthe3methods.Differencestendedtobecomegreaterasthecorneabecamethicker.Reproducibilitywas1.8%withUP,4.2%withSPand2.4%withOCT.Conclusions:CCTmeasurementsdifferedamongthe3instruments.WemustunderstandthecharacteristicsofeachmethodandtakecareastowhichinstrumentisusedformeasurementinCCTevaluation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(4):541.544,2012〕Keywords:中心角膜厚,超音波法,スぺキュラーマイクロスコープ法,前眼部光干渉断層法.centralcornealthickness,ultrasoundpachymeter,specularmicroscope,anteriorsegmentopticalcoherencetomography.はじめに価,角膜内皮細胞機能の評価などの点で臨床的に重要であ中心角膜厚は角膜屈折矯正手術時の手術適応の決定,る1).緑内障に関しては,眼圧測定値のずれにかかわるだけGoldmann型圧平式眼圧計を用いた眼圧測定値のずれの評でなく,薄い中心角膜厚が開放隅角緑内障の発症や進行のリ〔別刷請求先〕福地健郎:〒951-8510新潟市中央区旭町通1-757新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)Reprintrequests:TakeoFukuchi,M.D.,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduatedSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,1-757Asahimachi-dori,Chuo-ku,Niigata951-8510,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(107)541 スクファクターの一つである,との報告2,3)が散見され,その測定は緑内障診療の標準検査の一つとなっている.当初は中心角膜厚の測定に関して,超音波パキメータを標準として測定された.その後Scheimpflug法によるペンタカムR(OCULUSOptikgerateGmbH.,Wetzlar,Deutschland)やスリットスキャン方式を用いたオーブスキャンR(Bausch&LombTechnolasGmbH,Feldkirchen,Deutschland)などの新規の測定方法・機器が紹介され,これらによる測定値は超音波パキメータの測定値とほぼ一致し,中心角膜厚の測定方法として適している,という多数の報告がみられた4.8).しかし,最近では同一被検者の中心角膜厚を測定すると,測定方法によって測定値が異なる,という報告がされている9).そこで,今回,筆者らは,同一被検者の中心角膜厚を,3種類の異なった測定方法で測定し,測定値の差,およびその傾向について検討した.I対象および方法対象は正常被検者62例で,男性30例,女性32例である.平均年齢33.6±10.5(21.64歳),他覚的屈折値(等価球面値).3.8±3.2(+1.25..12.0)ジオプトリーである.いずれの被検者も視力は矯正1.2以上で,眼圧測定に影響を及ぼす角膜疾患,およびその既往はない.また,白内障などの中間透光体の混濁や,視神経乳頭,黄斑部を含む眼底の異常は認められなかった.同一被検者に対し,1)超音波法,2)スペキュラーマイクロスコープ法(以下,スペキュラー法),3)前眼部光干渉断層法(以下,OCT法)の3種類の測定方法により,中心角膜厚の測定を行った.同一検者が同一機会にそれぞれ3回以上測定し,全測定値のなかから無作為に選択した3種類の測定値の平均値を測定値とした.3種類の方法による測定の順番は,まず,非接触検査であるスペキュラー法もしくはOCT法による測定を行い,最後に接触検査である超音波法で計測を行った.スペキュラー法とOCT法の順番は症例によって異なり,ランダムに行われた.超音波法にはTOMEYPACHYMETER-2000R(トーメー社,日本)を,スペキュラー法にはTOMEYEM-3000R(トーメー社,日本)を,OCT法にはSL-OCT(HeidelbergEngineering,Heidelberg,Deutschland)を用いた.超音波法は点眼麻酔を行ったうえでプローブを角膜表面に対し垂直に当て測定し,スペキュラー法は撮影光の涙液層の反射と角膜内皮層の反射との距離で測定し,OCT法は計測光と参照光の干渉現象によって測定している.まず,3種類の測定方法による測定値の再現性を検討した.つぎに各測定方法間の相関と比較を行った.3群の平均の比較はTukey法による多重比較検定によって行った.危険率5%未満を統計学的有意差とした.II結果中心角膜厚測定値は,超音波法で558.1±34.8μm,スペキュラー法で553.8±33.7μm,OCT法で538.2±32.0μmであった(表1).Tukey法による多重比較検定の結果で,スペキュラー法と超音波法の間でp=0.501,超音波法とOCT法の間でp<0.001,OCT法とスペキュラー法との間でp=0.001で,超音波法とOCT法の間,OCT法とスペキュラー法の間で統計学的に有意な差がみられた.各測定方法間の相関に関する決定係数はスペキュラー法と超音波法の間でR2=0.4532,超音波法とOCT法の間でR2=0.7054,OCT法とスペキュラー法の間でR2=0.5195と,超音波法とOCT法の間では高い相関を示したが,スペキュラー法と超音波法,OCT法とスペキュラー法の間の相関は中等度であった(表2).回帰直線は,スペキュラー法と超音波法の間でy=0.6963x+172.52,超音波法とOCT法の間でy=0.915x+65.727,OCT法とスペキュラー法の間でy=0.7592x+145.24であった(図1).いずれの測定方法の間でも中心角膜厚のいわゆる正常範囲内では,角膜厚が厚くなるほど,違いが大きくなる傾向がみられ,その傾向はスペキュラー法と超音波法の間で最も顕著であった.3種類の方法の再現性は,超音波法1.8%,スペキュラー法4.2%,OCT法2.4%と,スペキュラー法が若干低いものの,比較的良好であった(表1).表1各測定方法の結果測定法超音波法スペキュラー法OCT法測定機器PACHYMETER-2000EM-3000SL-OCT測定値(μm)558.1±34.8553.8±33.7538.2±32.0再現性1.8%4.2%2.4%表2各測定方法間の相関・比較測定方法スペキュラー法と超音波法超音波法とOCT法OCT法とスペキュラー法回帰直線y=0.6963x+172.52y=0.915x+65.727y=0.7592x+145.24決定係数0.45320.70540.5195多重比較検定(Tukey法)p=0.501p<0.001p=0.001542あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(108) a:スペキュラー法と超音波法法の間の相関は中等度であった.また,それぞれの間の回帰y=0.6963x+172.52R2=0.4532直線の傾きは0.7592,0.6963,0.915であり,各方法によっ650.0て測定値に差がみられるだけでなく,各測定装置の特性と測超音波法(μm)定原理の違いを考慮する必要を示唆していると考えられた.今回,検討した3種類の測定方法の原理には以下のような600.0550.0違いがある.まず超音波法は,測定プローブの先端から超音波を発信し,角膜後面で反射した超音波エコーを測定してい500.0る.スペキュラー法は,涙液層の反射と角膜内皮層の反射と450.0450.0500.0550.0の距離で測定している.OCT法は,計測光と参照光の干渉現象によって測定される.いずれも角膜厚の測定原理がまったく異なる.超音波法には,プローブを当てる位置によっ600.0650.0スペキュラー法(μm)b:超音波法とOCT法て,周辺部を含めたさまざまな部位での測定ができる,測定y=0.915x+65.727R2=0.7054650.0に可視光を用いないため角膜混濁があっても測定可能であOCT法(μm)600.0550.0500.0450.0450.0500.0550.0c:OCT法とスペキュラー法600.0650.0超音波法(μm)スペキュラー法(μm)る,機器が比較的安価である,などの利点がある.スペキュラー法では,現在では非接触のオート撮影の機種が一般的であり,測定は簡便であるという利点がある.さらに,OCT法は,測定に赤外光を用いているため,羞明を最小限に抑えて測定することができ,混濁の影響を受けにくいことが利点としてあげられる.また,角膜厚だけでなく,前房深度や隅角の角度などの計測が可能な点も利点としてあげられる.一方,欠点としては,超音波法は接触検査であり,点眼薬による麻酔を要し,感染や角膜上皮障害の危険性を考慮する必要がある.正確な測定には角膜に対してプローブを垂直に接触させることが必須で,プローブの接触位置や角度によって測定値が変動する可能性がある.つまり,正確で安定した測定値を得るためには,ある程度の熟練が必要である.スペキュラー法は,角膜全層を透過する必要があり,したがって角膜混濁,浮腫のある症例では測定が不可能,もしくは不正確となることが欠点としてあげられる.また,OCT法は測定角度や位置のずれによって誤差が生ずる可能性がある.特に今回用いたSL-OCTは一般の細隙灯に付属し操作が容易である反面,患者が正面視していること,角膜中央を,かつ垂直に測定していることをモニターする装置は付属しておらず,650.0y=0.7592x+145.24R2=0.5195600.0550.0500.0450.0450.0500.0550.0600.0650.0OCT法(μm)図1各測定方法間の相関と比較相関は各機種間の相関係数を算出し,プロット.回帰直線,決定係数を示す.測定精度保証の点で若干の問題がある.これまでにも超音波パキメータを始めとするさまざまな測定方法,測定装置による中心角膜厚に関する報告がみられる.これらの報告のほとんどで,超音波法によって測定した正常眼の中心角膜厚は478.8.545.6μm8.11)で,スペキュラIII考按今回の研究では,正常眼の中心角膜厚を超音波法,スペキュラー法,OCT法の3種類の異なる方法で測定し,その測定値の差について検討した.結果として中心角膜厚測定値は3種類の測定方法によって差がみられ,特に超音波法に対してスペキュラー法では統計学的に明らかに有意に薄く計測された.いずれの方法の測定値の間に,当然,相関がみられるものの,超音波法とOCT法では0.7054と高い相関がみられ,スペキュラー法と超音波法,OCT法とスペキュラー(109)ー法では薄めに測定されるとの報告がある12,13).また,筆者らと類似の研究として,細田らは同様に3種類の測定方法で正常眼の中心角膜厚を測定,比較した.結果,超音波法では526.5±33.9μmに対して,スペキュラー法512.7±38.7μm,Scheimpflug法534.3±35.6μmで,やはりスペキュラー法で薄く測定されていた1).結果として,中心角膜厚測定値は測定方法によって異なると認識する必要がある.その理由としてはどのようなことがあたらしい眼科Vol.29,No.4,2012543 考えられるだろうか?厳密に考えると,これらの測定装置のいずれを用いたとしても,実際に測定されたポイントや角度のずれの再現性を保証する方法は付属していない.また,測定方法や装置に対する検者の慣れや熟練度が影響する可能性がある.たとえば,説田らは,超音波法はOCT法に比較して再現性が低いと報告している10).しかし,今回の筆者らの結果ではむしろ超音波法で最も再現性が高かった.同じ測定原理,方法でも装置(機種)の違いや検者の熟練度の差によって結果が異なる可能性がある.それぞれの方法の測定原理の特徴についても考慮する必要がある.たとえば,超音波法は測定プローブで涙液層を圧排し,角膜上皮層から角膜内皮層までを測定していると考えられている.それに対してスペキュラー法とOCT法は,涙液層から角膜内皮層までを測定すると考えられている.しかし,スペキュラー法に対して超音波法のほうが厚めに測定されるとの報告が多く,この理由の正否には疑問が残る.おそらく,測定方法や装置ごとの測定原理の差とともに,キャリブレーションの方法の違いなども考慮する必要があるかもしれない.さらに厚い角膜ほど測定値の誤差が大きい傾向がみられた.最後に,臨床の現場においては,中心角膜厚測定値は測定方法によって差があること,各方法の特性に違いがあることについて理解し,意識しながら中心角膜厚の評価を行うことが勧められる.可能ならば自ら用いている測定装置による平均値と正常値を自ら測定し,算出したうえで使用していくことが望ましい.文献1)細田進悟,結城賢弥,佐伯めぐみほか:非接触型前眼部測定装置ペンタカムRと超音波法,スペキュラ法による開放隅角緑内障患者の中心角膜厚測定値の比較.臨眼63:1777-1781,20092)BrandtJD:Centralcornealthicknessasariskfactorforglaucoma.FrontiersinGlaucoma10:198,20103)LinW,AoyamaY,KawaseKetal:Relationshipbetweencentralcornealthicknessandvisualfielddefectinopen-angleglaucoma.JpnJOphthalmol53:477-481,20094)坂西良彦,坂西涼子,坂西三枝子:Scheimpflug式前眼部3D解析装置と超音波測定法による角膜厚の比較.眼臨100:719,20065)田口浩司:各種中心角膜厚測定の比較.あたらしい眼科23:477-478,20066)鈴木茂伸:角膜厚の評価.眼科診療プラクティス89:98-99,20027)本田紀彦,天野史郎:角膜厚測定.眼科49:1307-1311,20078)川名啓介,加治優一,大鹿哲郎ほか:3種類の角膜厚測定方式の比較.眼臨97:1044,20039)相良健,高橋典久,小林泰子ほか:レーザー光線による非接触型角膜厚測定器の精度について.日眼会誌108(臨増):288,200410)説田雅典,吉田有岐,青木喬司ほか:4種類の角膜厚測定機器の比較.眼科52:1721-1725,201011)徳江裕佳,北善幸,北律子ほか:スペクトラルドメイン光干渉断層計と超音波角膜厚測定装置による中心角膜厚の比較.あたらしい眼科27:91-94,201012)藤岡美幸,辰巳泰子,楠原あづさほか:前房深度に対する機種間中心角膜厚の一致性.日眼会誌110(臨増):170,200613)天野由紀,本田紀彦,天野史郎ほか:各種角膜厚測定法の比較.日眼会誌109(臨増):172,2005***544あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(110)

スウェプトソース前眼部OCT CASIA® と回転式シャインプルーフカメラPentacam® による前眼部測定値の比較検討

2010年11月30日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(83)1565《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(11):1565.1568,2010cはじめに最近の眼科領域における画像解析装置の進歩は著しい.その代表である後眼部OCT(光干渉断層計)は,現在では網膜硝子体疾患の病態評価および治療効果の判定に必須のものとなりつつある.前眼部画像解析装置も数多く存在するが,緑内障分野においては隅角,虹彩および毛様体の評価が可能であることが重要である.その代表として,まず超音波生体顕微鏡検査(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)があげられる.UBMは高解像度で隅角,虹彩および毛様体の評価が可能であり,前眼部の各種測定値の基準となる検査である.しかしながら,UBMは接触検査であることに加え,検査にある程度の熟練が必要なため検者間での測定値の再現性が低く1,2),仰臥位でしか検査ができないなどの問題点もある.そのため,UBMは隅角,虹彩および毛様体の評価には必須の検査ではあるが,日常診療でスクリーニングとして行う検査にはなりえないと考えられる.広く普及しスクリーニング検査としても使用できるためには,検査は非接触式かつ短時間で施行可〔別刷請求先〕伴紀充:〒220-0012横浜市西区みなとみらい3-7-3けいゆう病院眼科Reprintrequests:NorimitsuBan,M.D.,KeiyuHospital,3-7-3Minatomirai,Nishi-ku,Yokohama-shi220-0012,JAPANスウェプトソース前眼部OCTCASIARと回転式シャインプルーフカメラPentacamRによる前眼部測定値の比較検討伴紀充*1坂詰明美*2林康司*2秦誠一郎*2*1けいゆう病院眼科*2スカイビル眼科医院ComparisonofAnteriorChamberMeasurementsbySwept-sourseAnteriorSegmentOpticalCoherenceTomographyCASIARandRotatingScheimpflugCameraPentacamRNorimitsuBan1),AkemiSakazume2),KojiHayashi2)andSeiichiroHata2)1)DepartmentofOphthalmology,KeiyuHospital,2)YokohamaSkyEyeClinic正常有水晶体眼50例50眼(46.6±17.1歳)に対しTOMEY社製スウェプトソース前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopticalcoherencetomography:AS-OCT)SS-1000CASIARとOculus社製回転式シャインプルーフ(Scheimpflug)カメラPentacamRにより中心角膜厚,中心前房深度,隅角角度を測定し比較した.CASIARおよびPentacamRによる測定値はそれぞれ,中心角膜厚530±36μmおよび543±37μm(相関係数r=0.90),中心前房深度2.81±0.46mmおよび2.91±0.49mm(r=0.97),隅角角度29.7±11.0°および36.2±10.5°(r=0.59)であった.すべての測定項目でCASIARの測定値がPentacamRの測定値より有意に小さかった(p<0.01).また,中心角膜厚および中心前房深度における両者の相関係数が高かったのに対し,隅角角度では相関係数は低かった.Tocomparecentralcorneathickness(CCT),centralanteriorchamberdepth(ACD)andanteriorchamberangle(ACA)asmeasuredbyswept-sourseanteriorsegmentopticalcoherencetomography(AS-OCT)SS-1000CASIARandbyrotatingScheimpflugcameraPentacamR,50phakiceyesof50normalsubjects(46.6±17.1y/o)wereenrolled.MeanmeasurementsbyCASIARandPentacamRwere,respectively,CCT530±36μmand543±37μm(Correlationcoefficientr=0.90),ACD2.81±0.46mmand2.91±0.49mm(r=0.97),ACA29.7±11.0°and36.2±10.5°(r=0.59).StatisticallysignificantdifferencewasfoundbetweenallanteriormeasurementsbyCASIARandPentacamR(p<0.01).AlthoughthecorrelationcoefficientwasveryhighinCCTandACD,itwassignificantlylowerinACA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(11):1565.1568,2010〕Keywords:スウェプトソース前眼部OCT,CASIAR,PentacamR,中心角膜厚,中心前房深度,隅角角度.swept-sourseanteriorsegmentOCT,CASIAR,PentacamR,centralcorneathickness,centralanteriorchamberdepth,anteriorchamberangle.1566あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(84)能であることが必須条件である.非接触式の前眼部画像解析装置の一つとしてOculus社製PentacamR(以下,Pentacam)があり,光源を180°回転させることにより複数のシャインプルーフ(Scheimpflug)像を撮影できる回転式シャインプルーフカメラで,角膜形状や角膜厚だけではなく,屈折補正を加えることで前房形状解析も行うことができる装置である.これまでにも狭隅角眼のスクリーニング3,4)やレーザー虹彩切開術(LI)前後の前房形状の変化の測定4~6)にも使用されてきた.しかしながら,Pentacamは組織深達度の問題から隅角や毛様体を直接描出することはできず,そのためPentacamを用いて前房形状を評価する場合には前房深度や前房容量が用いられてきた経緯があり,緑内障分野における前眼部画像解析装置としては十分ではない.そこで,UBMに替わる前眼部画像解析装置として期待されているのが前眼部OCTである.前眼部OCTはUBMと同等の隅角解析能力をもつと報告されている7,8)が,これまでタイムドメイン方式のもの(VisanteR,CarlZeiss)しか実用化されておらず,測定速度が遅いことが問題であった.最近になりTOMEY社製スウェプトソース前眼部OCTSS-1000CASIAR(以下,CASIA)が製品化され,フーリエ(Fourier)ドメイン方式の一つであるスウェプトソースの採用により測定時間が大幅に短縮された.CASIAは後眼部OCTよりも長い1.3μm波長の光源を使用しているため組織深達度が高く,さらに屈折補正を加えることで隅角,虹彩および毛様体を解像度10μm程度という高い精度で定量解析が可能である.これはUBMの解像度である50μmよりも高精度である.このように,検査の簡便性と3次元解析を含めた高い解析能力により,CASIAは今後広く普及する可能性を秘めていると考えられるが,まだその測定値の特徴については報告が少ない.今回筆者らはCASIAとPentacamによる正常眼の各種前眼部測定値を比較検討したので報告する.I対象および方法スカイビル眼科医院を受診した角膜疾患のない開放隅角有水晶体眼の症例のうち,本研究の趣旨を理解し文書で同意が得られた50例50眼(男性25例,女性25例,平均年齢47.2±17.4歳,21~89歳)に対し,CASIAおよびPentacamにより右眼の中心角膜厚,中心前房深度,隅角角度を測定し比較した.開放隅角の判定はvanHerick法により周辺部における前房深度/角膜厚比が2分の1以上のものとした.測定は無散瞳下で同一日に同一暗所で行い,隅角角度は耳側を測定した.中心前房深度は角膜後面から水晶体前面までの距離と定義した.y=0.8666x+0.05840.650.60.550.50.450.450.50.55Pentacam(mm)0.60.65CASIA(mm)図1中心角膜厚の相関y=0.8938x+0.205654321123Pentacam(mm)45CASIA(mm)図2中心前房深度の相関y=0.6171x+7.3564605040302010102030405060Pentacam(°)CASIA(°)図3隅角角度の相関表1CASIAとPentacamによる測定値CASIAPentacam相関係数p値中心角膜厚(μm)530±36543±37r=0.90p<0.01中心前房深度(mm)2.81±0.462.91±0.49r=0.97p<0.01隅角角度(°)29.7±11.036.2±10.5r=0.59p<0.01(85)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101567II結果CASIAおよびPentacamによる測定値は,中心角膜厚530±36μmおよび543±37μm(相関係数r=0.90),中心前房深度2.81±0.46mmおよび2.91±0.49mm(r=0.97),隅角角度29.7±11.0°および36.2±10.5°(r=0.59)であった(表1).すべての測定項目でCASIAのほうが有意に小さく測定された(p<0.01:Studentt-test).また,中心角膜厚および中心前房深度は両者の相関係数が高かったのに対し(図1,2),隅角角度では相関係数は低かった(図3).III考察今回3つの測定項目すべてでCASIAのほうが有意に小さく測定された(p<0.01).ここではそれぞれの測定値で有意差が出た原因を中心に考察する.まず中心角膜厚および中心前房深度の有意差に関して考察する.両者の測定値の違いの原因として,CASIAとPentacamでは角膜厚および前房深度の測定部位が異なることがあげられる.図4にCASIAの測定結果表示画面を示すが,CASIAでは隅角底を結ぶラインの垂線上の角膜厚,前房深度を測定しているのに対し,Pentacamでは視軸上の角膜厚,前房深度を測定しており,これが有意差の最大の原因であると考えられる.しかしながら,中心角膜厚および中心前房深度ともに両者の測定値には非常に高い相関があり,この有意差は両者の測定値の一定の傾向としてとらえることができ,互いに互換性のあるものと考えてよい結果である.つぎに隅角角度について考察する.タイムドメイン方式の前眼部OCTとPentacamによる隅角角度測定の報告9)でも今回と同様の結果が得られており,両者の測定値は比較可能なものではないと結論づけられているが,今回筆者らは測定値の有意差の原因として以下の2つの理由を考えた.まずはじめに,測定条件の違いが有意差の原因となった可能性が考えられる.今回の測定は同一日に同一暗室で行ったが,Pentacamは測定時に発光するため実際の測定条件は厳密には同じではない.他の部位と比較して隅角は測定条件により敏感に構造が変化する部位である.つまり,Pentacamの測定時の発光により縮瞳し隅角角度が変化したため,両者で異なる測定値が出た可能性が考えられる.これに関しては,隅角という動的に変化しうる構造物をどのように定量的に評価していくかが今後の大きな課題となると考えられる.つぎに,Pentacamによる隅角角度の測定そのものが不正確であるため測定値に有意差が出た可能性が考えられる.前述のようにPentacamは組織深達度の問題から隅角を直接描出することはできず,撮影されたシャインプルーフ像に自動的に角膜後面の接線と虹彩根部を通過する虹彩前面の接線が引かれ隅角角度が算出される.つまり,Pentacamの隅角角度は測定値ではなくあくまで計算値であり,直接隅角を測定可能な前眼部OCTの値と比較すると信頼性が低く不正確である.Kuritaらの報告3)では,Shaffer分類grade2以下の狭隅角眼ではPentacamで測定した隅角角度とUBMで測定した隅角角度の相関が低く,Pentacamによる隅角評価の限界が示されている.また,岡らの報告4)でもPentacamで狭隅角群とレーザー虹彩切開術(LI)施行後群の前房形状解析を行い,周辺前房深度および前房容量はLI施行後群で有意に増加するのに対し,隅角角度は狭隅角群よりもLI施行後群のほうが減少するという矛盾した結果となり,Pentacamによる隅角角度の測定精度は低いと結論づけている.以上より,今回の比較検討でもPentacamの隅角測定精度が低いことが両者の測定値の有意差の原因となった可能性が高いと考えるが,今後はさらにCASIAと隅角鏡所見やUBMなどの他の測定機器の測定値との比較検討が必要であると考えられる.また,前述のように前眼部OCTはスクリーニング検査としての利用も期待されており,そのなかでもわが国においては狭隅角のスクリーニングが最も重要であると考えられるが,タイムドメイン方式の前眼部OCTは特異度の点で狭隅角のスクリーニングには向いていないとの報告10)があり,同様の検討をCASIAでも行う必要があると考える.今回検討したCASIAの前房形状解析において,中心角膜厚と中心前房深度はPentacamの測定値との相関が高く,妥当な計測が行われていると考えられた.隅角角度は測定理論上CASIAはPentacamと比較し高い精度で隅角角度を計測できる可能性が高いと考えられるが,正確な評価のためにはさらなる比較検討が必要である.文献1)TelloC,LiebmannJ,PotashSDetal:MeasurementofCCT=585[μm]ACD=2.89[mm]ACD-LCCT-FCCT-B※1AR1AR2※2図4CASIAの測定部位(※1)とPentacamの測定部位(※2)の違い(中心前房深度)1568あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(86)ultrasoundbiomicroscopyimages:intraobserverandinterobserverreliability.InvestOphthalmolVisSci35:3549-3552,19942)UrbakSF,PedersenJK,ThorsenTT:Ultrasoundbiomicroscopy.II.Intraobserverandinterobserverreproducibilityofmeasurements.ActaOphthalmolScand76:546-549,19983)KuritaN,MayamaC,TomidokoroAetal:Potentialofthepentacaminscreeningforprimaryangleclosureandprimaryangleclosuresuspect.JGlaucoma18:506-512,20094)岡奈々,大鳥安正,岡田正喜ほか:前眼部3D解析装置PentacamRにおける閉塞隅角緑内障眼の前眼部形状.日眼会誌110:398-403,20065)Lopez-CaballeroC,Puerto-HernandezB,Munoz-NegreteFJetal:QuantitativeevaluationofanteriorchamberchangesafteriridotomyusingPentacamanteriorsegmentanalyzer.EurJOphthalmol20:327-332,20106)AntoniazziE,PezzottaS,DelfinoAetal:AnteriorchambermeasurementstakenwithPentacam:anobjectivetoolinlaseriridotomy.EurJOphthalmol20:517-522,20107)RadhakrishnanS,GoldsmithJ,HuangDetal:Comparisonofopticalcoherencetomographyandultrasoundbiomicroscopyfordetectionofnarrowanteriorchamberangles.ArchOphthalmol123:1053-1059,20058)DadaT,SihotaR,GadiaRetal:Comparisonofanteriorsegmentopticalcoherencetomographyandultrasoundbiomicroscopyforassessmentoftheanteriorsegment.JCataractRefractSurg33:837-840,20079)DincUA,OncelB,GorgunEetal:AssessmentofanteriorchamberangleusingVisanteOCT,slit-lampOCT,andPentacam.EurJOphthalmol20:531-537,201010)LavanyaR,FosterPJ,SakataLMetal:Screeningfornarrowanglesinthesingaporepopulation:evaluationofnewnoncontactscreeningmethods.Ophthalmology115:1720-1727,2008***

眼圧値に対するハードコンタクトレンズ装用の影響

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(139)999《原著》あたらしい眼科27(7):999.1003,2010cはじめに眼圧測定値は,その測定原理から角膜形状(角膜曲率半径,角膜厚)の影響を受け測定誤差を生じることが明らかになっている.角膜曲率半径が小さいほど,また角膜厚が厚いほど測定された眼圧値は過大評価され,この逆は過小評価されると報告1.5)されている.さらに,ハードコンタクトレンズ(HCL)の装用は角膜の形状や形態,生理的機能にさまざまな影響を及ぼす6)ことはよく知られている.このうち角膜形状についてはHCL装用に伴う角膜曲率の変化7,8)や,浮腫による角膜厚の増大,慢性的低酸素状態に基づく角膜実質の菲薄化6,9)などが報告され,これらは短期的,可逆的な角膜の変形と考えられている10).これらのことからHCL脱後に測定される眼圧値は,HCL装用による角膜形状変化により誤差が生じている可能性が考えられるが,その詳細は検討されていない.そこで今回HCL装用者を対象とし,HCL脱直後から経時的に眼圧値,角膜曲率半径,中心角膜厚の測定を行い,HCL装用による角膜形状変化が眼圧値に及ぼす影響について検討したので報告する.I対象および方法対象は,HCL常時装用者(HCL装用群)17名34眼(男性〔別刷請求先〕藤村芙佐子:〒228-8555相模原市北里1-15-1北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学専攻Reprintrequests:FusakoFujimura,DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,1-15-1Kitasato,Sagamihara,Kanagawa228-8555,JAPAN眼圧値に対するハードコンタクトレンズ装用の影響藤村芙佐子加藤紗矢香山田やよい庄司信行北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学InfluenceofHardContactLensonIntraocularPressureFusakoFujimura,SayakaKatou,YayoiYamadaandNobuyukiShojiDepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversityハードコンタクトレンズ(HCL)による角膜形状変化が眼圧値に及ぼす影響について検討した.対象は眼科的疾患を有さない健常青年22名44眼とした.HCL脱後の角膜曲率半径,中心角膜厚,眼圧を経時的(脱直後,脱後5分,10分,20分,30分,1時間,24時間)に測定し,統計学的検討を行った.結果,眼圧値は脱直後と比較し,脱後10分,20分に有意な低下を認めた(p=0.0016,p=0.0267).角膜曲率半径は各測定時間と比較し,脱後24時間のみ有意な低下を認めた(脱後30分.24時間:p<0.0133,1時間.24時間:p<0.01,他時間.24時間:p<0.001).中心角膜厚は変化を認めなかった.HCL脱後に角膜形状変化を認めたが,眼圧値への影響は無視できる程度であり,脱後の眼圧下降はHCL装脱時の眼球圧迫によるマッサージ効果によるものと考えられ,眼圧測定はHCL脱後30分以降に行うべきと考えた.Weinvestigatedtheinfluenceofcornea-shapinghardcontactlens(HCL)onintraocularpressure(IOP).Participatinginthestudywere22younghealthyvolunteers.Cornealcurvature,centralcornealthicknessandIOPweremeasuredjustafterHCLremovalandat5,10,20,30minutes,1hourand24hoursafter.IOPshowedasignificantdecreaseat10and20minutes,comparedwithjustafterremoval(p=0.0016,p=0.0267,respectively).Cornealcurvatureshowedasignificantdecreaseonlyat24hours(30minutes.24hours:p<0.0133,1hour.24hours:p<0.01,alltheothertime.24hours:p<0.001).Centralcornealthicknessshowednochange.IOPmeasurementisnotaffectedbycornealshapechange.TheresultssuggestthattheIOPdecreasewascausedbythemassagingoftheeyeballwhentheHCLwasremoved.IOPshouldbemeasuredatleast30minutesafterHCLremoval.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):999.1003,2010〕Keywords:ハードコンタクトレンズ,眼圧,角膜形状,角膜曲率半径,中心角膜厚,マッサージ効果.hardcontactlens,intraocularpressure,cornealshape,cornealcurvature,centralcornealthickness.1000あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(140)1名,女性16名)であった.平均年齢は20.7±1.3歳(19.24歳),平均自覚的屈折値(等価球面値)は.3.81±2.93D(+2.25..9.50D)であった.対照としてCL非装用者(CL非装用群)5名10眼(女性5名)を対象とした.平均年齢は21.6±0.55歳(21.22歳),平均自覚的屈折値(等価球面値)は.0.40±0.96D(+0.50..2.25D)であった.全例,屈折異常以外に眼科的疾患を有さない健常青年22名である.なお,HCL装用群においては測定前1週間以上のHCL終日装用,および測定当日の3時間以上の装用を条件とした.対象者には研究の主旨とその意義に関する説明を十分に行い,文書による同意を得た後,測定を開始した.測定方法は以下のとおりである.HCL脱直後,脱後5分,10分,20分,30分,1時間,24時間に眼圧,角膜曲率半径,中心角膜厚の測定を行った.測定による角膜形状への影響を最小限にするために,すべて非接触で測定可能な機器を用い,角膜曲率半径,中心角膜厚,眼圧の順で測定した.角膜曲率半径の測定にはオートレフケラトメーターARK-730A(NIDEK社),中心角膜厚測定には前眼部解析装置PentacamTM(OCULUS社),眼圧測定には非接触眼圧計NT-3000(NIDEK社)を使用し,各測定は少なくとも3回以上行い,安定した3つの値の平均値を代表値とした.また,角膜曲率半径は弱主経線と強主経線から求められる平均値をその角膜曲率半径とした.さらに日内変動の影響を最小限に抑えるため,測定開始時刻は午前10時に統一した.CL非装用群においてもHCL装用群と同時刻に同様の方法にて眼圧測定を行った.得られた結果を用い,以下の3つの項目について検討を行った.検討①:HCL装用群における測定項目の経時的変化.検討②:HCL装用群における眼圧と角膜曲率半径,眼圧と中心角膜厚の相関.検討③:CL非装用群における眼圧の経時的変化.統計学的解析検討は,検討①③にはScheffetest,検討②には単回帰分析を用い,有意水準を5%未満とした.なお,本研究は北里大学医療衛生学部倫理委員会の承認を得てから開始した(承認番号2009-009).II結果検討①:HCL装用群における測定項目の経時的変化眼圧はHCL脱直後に比べ脱後10分(p=0.0016),脱後20分(p=0.0267)に有意な低下が認められた(図1a).角膜曲率半径は,脱後24時間に減少しており,HCL脱直後と脱後24時間(p<0.001),脱後5分と脱後24時間(p<0.001),脱後10分と脱後24時間(p<0.001),脱後20分と脱後24時間(p<0.001),脱後30分と脱後24時間(p=0.0133),脱後1時間と脱後24時間(p<0.01)に有意な差を認めた(図1b).中心角膜厚には経時的変化は認めなかった(図1c).8.38.28.18.07.97.87.77.67.5角膜曲率半径(mm)直後5分10分20分30分1時間24時間HCL脱後時間***************n=34Scheffetest:*p=0.0133,**p<0.01,***p<0.001図1bHCL脱後の角膜曲率半径の経時的変化(平均値±標準偏差)HCL脱直後,脱後5分,10分,20分と比較し,脱後24時間の角膜曲率半径は有意に低下していた(p<0.001).同様に,脱後30分より脱後24時間(p=0.0133),脱後1時間より24時間(p<0.01)に有意な低下を認めた(Scheffetest).600580560540520500中心角膜厚(μm)直後5分10分20分30分1時間24時間HCL脱後時間n=34図1cHCL脱後の中心角膜厚の経時的変化(平均値±標準偏差)中心角膜厚には経時的変化は認めなかった(Scheffetest).15141312111098眼圧(mmHg)直後5分10分20分30分1時間24時間HCL脱後時間***n=34Scheffetest:*p=0.0267,**p=0.0016図1aHCL脱後の眼圧の経時的変化(平均値±標準偏差)HCL脱直後と比較し,脱後10分,脱後20分の眼圧は有意に低下していた(それぞれp=0.0016,p=0.0267).30分以降の眼圧は,脱直後の眼圧と有意差は認めなかった(Scheffetest).(141)あたらしい眼科Vol.27,No.7,20101001検討②:HCL装用群における眼圧と角膜曲率半径,眼圧と中心角膜厚の相関検討①において,眼圧はHCL脱直後に比べ,脱後10分および脱後20分に有意な低下を認めたことから,HCL脱直後と脱後10分および脱直後と脱後20分の間の眼圧,角膜曲率半径,中心角膜厚それぞれの変化量を算出し,眼圧変化量と角膜曲率半径変化量,眼圧変化量と中心角膜厚変化量の相関について検討を行った.結果,HCL脱直後と脱後10分での眼圧変化量と角膜曲率半径変化量に相関は認めなかった(図2a)が,脱直後と脱後20分での眼圧変化量と角膜曲率半径変化量はわずかに有意な相関が認められた(単回帰分析y=36.044x+0.8496,r=0.356,p=0.0387)(図2b).また,眼圧変化量と中心角膜厚変化量は両時間とも相関は認めなかった(図3a,b).5.04.03.02.01.00.0眼圧変化量(mmHg)0.000.010.02角膜曲率半径変化量(mm)n=340.030.04図2aHCL脱直後と脱後10分:眼圧変化量.角膜曲率半径変化量との相関HCL脱直後と脱後10分での眼圧変化量と角膜曲率半径変化量に,有意な相関は認めなかった(単回帰分析).5.04.03.02.01.00.0眼圧変化量(mmHg)0510中心角膜厚変化量(μm)n=341520図3aHCL脱直後と脱後10分:眼圧変化量.中心角膜厚変化量との相関HCL脱直後と脱後10分での眼圧変化量と中心角膜厚変化量には,有意な相関は認めなかった(単回帰分析).1615141312111010:0010:0510:1010:2010:3011:00時間n=10眼圧変化量(mmHg)図4くり返し眼圧測定を行ったCL非装用群の眼圧の経時的変化(平均値±標準偏差)CL非装用者に対し,検討①と同様の時間帯で非接触眼圧計による複数回の眼圧測定をくり返したが,眼圧は有意な経時的変化を示さなかった(Scheffetest).5.04.03.02.01.00.0眼圧変化量(mmHg)0.000.010.02角膜曲率半径変化量(mm)n=340.030.04図2bHCL脱後と脱後20分:眼圧変化量.角膜曲率半径変化量との相関HCL脱直後と脱後20分での眼圧変化量と角膜曲率半径変化量には,わずかに有意な相関が認められた(y=36.044x+0.8496,r=0.356,p=0.0387)(単回帰分析).5.04.03.02.01.00.0眼圧変化量(mmHg)0510中心角膜厚変化量(μm)n=341520図3bHCL脱直後と脱後20分:眼圧変化量.中心角膜厚変化量との相関HCL脱直後と脱後20分での眼圧変化量と中心角膜厚変化量には,有意な相関は認めなかった(単回帰分析).1002あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(142)検討③:CL非装用群における眼圧の経時的変化HCL装用者と同様の方法にて,くり返し眼圧測定を行ったCL非装用者の眼圧値には有意な経時的変化は認められなかった(図4).III考按検討①の結果において,眼圧の経時的変化は,脱直後と比べ脱後10分および20分に有意な低下がみられた.これに対し,検討②:眼圧と角膜曲率半径,眼圧と角膜厚の関連性について,相関が認められたのは,脱直後と脱後20分における眼圧変化量と角膜曲率半径変化量のみであった.このことから,HCL脱後の眼圧下降に対する角膜曲率半径および中心角膜厚の影響は無視できる程度であると考えられた.野々村ら11)は,成熟白色家兎20匹を用いた動物実験において,眼瞼の上から15分間の指の圧迫によるマッサージを施行し,全例に眼圧値の顕著な低下を認めている.これより,今回のHCL脱後の眼圧低下にもマッサージ効果が関与している可能性が推測される.このマッサージ効果を生じる要因の一つとしてくり返しの眼圧測定が考えられる.今回の眼圧測定に用いた非接触眼圧計NT-3000(NIDEK社)は,空気圧平型の眼圧計である.これは空気の噴射によって角膜の一定面積が圧平されるまでの時間から眼圧を求める機械である.噴射される空気圧は微弱であり,本来は眼圧に影響を及ぼすには至らないことが前提となっている.しかしながら,HCL脱直後の測定開始から脱後10分の測定終了までは,短時間の間に何度も測定を行わなければならなかった.1回の空気圧は微弱ではあるが,これがくり返されたことで,前述のようなマッサージ効果が生じた可能性が考えられる.マッサージ効果を生じる他の要因としては,HCL装脱時における,指による眼瞼および眼球への圧迫によるものが考えられる.HCLをはずす場合は指で目尻を押さえ,その指を耳側やや上方へ引っ張り,軽く瞬目してはずす方法や,上下眼瞼を両手人差し指で押さえ,レンズを固定しながら両眼瞼ではじき出す方法が一般的である12).マッサージ効果を生じ得る,これら2つの要因の両者,もしくは一方により眼圧が低下した可能性が考えられるが,検討③の結果から,HCL装用者,CL非装用者の測定方法が同様であるにもかかわらず,CL非装用者の眼圧値に有意な変化を認めなかったことから,HCL脱後の眼圧低下は,眼圧測定時の空気圧によるものではなく,HCL装脱時の眼球圧迫によるマッサージ効果の影響によるものと判断した.さらに,HCL脱後30分以降には眼圧に有意な低下がみられなかったことから,脱後30分以降にはマッサージ効果が減弱するとともに,眼圧値が緩やかに上昇し,安定したと考える.HCL脱後の角膜曲率半径の変化は,眼圧値に影響を及ぼすには至らない程度であったと述べた.しかしながら,結果から角膜曲率半径は,各測定時間と比較し,HCL脱後24時間のみに有意な低下を認めた.CL装用による角膜曲率の長期的変化については急峻化,不変,扁平化の3通りの報告8,9,13,14)がある.石川ら15)によるとHCL長期装用例において角膜の扁平化を認め,従来いわれているmoldingeffect13,14)によるものであると説明している.またWilsonら10)は,HCLにより角膜が変形した眼では,レンズの装用中止後にTopographicModelingSystem(TMS)所見上で角膜形状が正常に回復するまでには,酸素透過性(RGP)HCLでは平均10週間,PMMA(ポリメチルメタクリレート)HCLでは15週間を要すると報告している.これらのことを踏まえると,今回も同様にHCL装用により角膜が扁平化し,さらにHCLを排除することで,HCLによる圧迫が除外され,本来の角膜形状に回復する過程でHCL脱後24時間に有意な急峻化を認めたと考えられる.また,検討②:眼圧と角膜曲率半径の変化量との関連性を検討した結果では,脱直後と脱後20分のみではあるが,両者の変化量は,わずかに有意な相関が認められた.藤田ら16)は,円錐角膜を有する8名10眼を対象とし,HCL脱後の角膜形状の経時的変化を検討し,HCL脱直後から20分後まで有意な変化がみられたと報告しており,円錐角膜に対するorthokeratology効果の評価は少なくともHCL脱後20分以降に行うべきであるとしている.このことから,HCL脱後の曲率半径が大きな変化を生じる対象には眼圧測定時間を考慮すべきであり,眼圧測定はHCL脱後20分以降に行う必要があると推察される.HCL装用に伴う角膜厚の変化について,短期的にはCL装用が原因して起こる浮腫による角膜厚増大,長期的には慢性的低酸素状態に基づく実質の菲薄化6,9,17)が報告されている.特に長期装用例ではCL脱直後に角膜厚を測定すると,これらの変化が相殺され見かけ上の変化を示さない可能性がある17).今回の角膜厚測定に際し,このような角膜厚の変化が相殺された状態を測定した可能性は否定できず,結果に有意な変化を認めなかった要因となりうると考えられる.前述の濱野ら7)は,同研究においてPMMAレンズ装用眼の角膜厚肥厚率は6.9%であったのに対し,RGPレンズ装用眼では変化を認めなかったとし,HCLの材質による角膜厚への影響の差についても報告している.本検討を行うにあたり,使用するHCLは指定せず対象が常用しているHCLを用い,材質は考慮していない.このことが結果に影響を及ぼした可能性もあり,今後,材質による角膜厚への影響についてもさらなる検討が必要と考える.今回HCLによる角膜形状変化が眼圧値に及ぼす影響について検討を行った.HCL脱後の眼圧は有意な低下を認めたが,角膜曲率半径および中心角膜厚の変化が眼圧値へ及ぼす影響は小さく,HCL装脱時の眼球圧迫によるマッサージ効果が原因であると考えられた.またその効果はHCL脱後20(143)あたらしい眼科Vol.27,No.7,20101003分まで持続し,眼圧測定値が変動しやすく本来の眼圧値より誤差を生じる可能性が示唆された.HCL装用者の眼圧測定において,より安定した値を得るためには脱後30分以降に測定することが望ましいと考えられた.文献1)MarkHH:Cornealcurvatureinapplanationtonomertry.AmJOphthalmol76:223-224,19732)松本拓也,牧野弘之,新井麻美子ほか:開放隅角緑内障と高眼圧症眼の角膜形状が眼圧測定に及ぼす影響.臨眼52:177-182,19983)EhlersN,BramsenT,SperlingS:Aplanationtonometryandcentralcornealthickness.ActaOphthalmol53:34-43,19754)SuzukiS,SuzukiY,IwaseAetal:CornealthicknessinanophthalmologicallynormalJapanesepopulation.Ophthalmology112:1327-1336,20055)MichaelJD,MohammedLZ:Humancornealthicknessanditsimpactofintraocularpressuremeasures:Areviewandmeta-analysisapproach.SurvOphthalmol44:367-408,20006)LiesegangTJ:Physiologicchangesofthecorneawithcontactlenswear.CLAOJ28:12-27,20027)濱野光,前田直之,濱野保ほか:TMSデータを利用した角膜形状変化の解析─ハード系コンタクトレンズ装用による影響─.日コレ誌34:204-210,19928)LevensonDS:ChangeincornealcurvaturewithlongtermPMMAcontactlenswear.CLAOJ9:121-125,19839)LiuZ,PflugfelderSC:Theeffectoflong-termcontactlenswearoncornealthickness,curvature,andsurfaceregularity.Ophthalmology107:105-111,200010)WilsonSE,LinDT,KlyceSDetal:Topographicchangesincontactlens-inducedcornealwarpage.Ophthalmology97:734-744,199011)野々村正博:眼球マッサージの毛様体におよばす影響.日眼会誌89:214-224,198512)植田喜一:コンタクトレンズの装脱.眼科診療プラクティス94:88-91,200313)Ruiz-MontenegroJ,MafraCH,WilsonSEetal:Cornealtopographicalterationsinnormalcontactlenswearers.Ophthalmology100:128-134,199314)SanatyM,TemelA:Cornealcurvaturechangesinsoftandrigidgaspermeablecontactlenswearersaftertwoyearsoflenswear.CLAOJ22:186-188,199615)石川明,片倉桂,高橋里美ほか:コンタクトレンズ装用者におけるORBSCANIIによる角膜経常の検討.日コレ誌47:124-133,200516)藤田博紀,佐野研二,北澤世志博ほか:HCL除去後1時間までの円錐角膜の形状変化.あたらしい眼科15:1299-1302,199817)HoldenBA,SweeneyDF,VannasAetal:Effectsoflong-termextendedcontactlenswearonthehumancornea.InvestOphthalmolVisSci26:1489-1501,1985***

Dynamic Contour Tonometer(DCT)とGoldmann 圧平眼圧計,非接触型眼圧計の比較

2008年7月31日 木曜日

———————————————————————-Page11022あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(00)18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(7):10221026,2008cはじめに現在,眼圧測定のゴールデンスタンダードはGoldmann圧平眼圧計(GAT)を用いた測定である.しかしながらGATによる眼圧測定は角膜厚,眼球壁剛性など角膜の物理的特性の影響を受けることが知られている.また日常臨床で広く用いられている非接触型眼圧計(NCT)による眼圧測定〔別刷請求先〕冨山浩志:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学医学部高次機能医科学講座視覚機能制御学分野Reprintrequests:HiroshiTomiyama,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,RyukyuUniversity,207Uehara,Nishihara,Nakagami,Okinawa903-0215,JAPANDynamicContourTonometer(DCT)とGoldmann圧平眼圧計,非接触型眼圧計の比較冨山浩志*1,2石川修作*2新垣淑邦*1酒井寛*1澤口昭一*1*1琉球大学医学部高次機能医科学講座視覚機能制御学分野*2中頭病院眼科ComparisonofIntraocularPressureasMeasuredbyDynamicContourTonometer,GoldmannApplanationTonometerandNon-ContactTonometerHiroshiTomiyama1,2),ShusakuIshikawa2),YoshikuniArakaki1),HiroshiSakai1)andShoichiSawaguchi1)1)DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,RyukyuUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,NakagamiHospital目的:Dynamiccontourtonometer(DCT)とGoldmann圧平眼圧計(GAT),非接触型眼圧計(NCT)で測定した各眼圧値を比較し,影響する因子について検討した.対象および方法:内眼手術の既往のない105例,207眼を対象とし,眼圧をDCT,GAT,NCTで測定した.角膜曲率半径,等価球面度数,中心角膜厚についても測定した.GATで測定した眼圧値はさらに中心角膜厚でも補正し検討した.結果:眼圧値はそれぞれDCTで18.4±3.0mmHg,NCTで16.1±4.2mmHg,GATで16.8±4.0mmHg,補正GATでは16.9±3.6mmHgであった.DCTで測定した眼圧値は有意に高値を示した.DCT,NCT,GAT,補正GATの各眼圧間にはそれぞれ相関を認めた.NCT,GATにおける眼圧値は中心角膜厚との間に有意な相関を認めたが,DCT測定値は中心角膜厚と相関を認めなかった.NCTとGAT(および補正GAT)測定値は等価球面度数,角膜曲率半径と相関を認めなかったが,DCT測定値は角膜曲率半径と負の相関(r=0.25,p=0.0002)を認めた.結論:GAT,NCT測定眼圧値は中心角膜厚の影響を受けるが,DCTによる測定はその影響を受けない.Wecomparedintraocularpressure(IOP)measurementstakenby3instruments:Dynamiccontourtonometer(DCT),Goldmannapplanationtonometer(GAT)andnon-contacttonometer(NCT).Thesubjectscomprised207eyesof105outdoorpatientswithnohistoryofeyesurgery.TheIOPofeachsubjectswasmeasuredbyDCT,GATandNCT.Centralcornealthickness(CCT),refractivesphericalequivalentandcornealradialcurvaturewerealsomeasuredforfurtheranalysis.GAT-measuredIOPvalueswerealsocorrectedbyCCT(correctedGAT).MeanIOPsmeasuredwere18.4±3.0mmHgbyDCT,16.1±4.2mmHgbyNCT,16.8±4.0mmHgbyGATand16.9±3.6mmHgbycorrectedGAT.IOPsasmeasuredbyNCTandGATweresignicantlycorrelatedwithCCT,whileDCTmeasurementswerenot.NeithersphericalequivalentvaluenorcornealradialcurvatureaectedIOPwhenmeasuredbyNCT,GATandcorrectedGAT.IOPmeasuredbyDCTwasalsonotaectedbysphericalequivalentvalue,thoughweakcorrelationwasnotedwithcornealradialcurvature(r=0.25,p=0.0002).IOPasmeasuredbyGATandNCTwereaectedbyCCT,whileDCTmeasurementswerenot.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(7):10221026,2008〕Keywords:中心角膜厚,ダイナミックカンタートノメーター,Goldmann圧平眼圧計,非接触型眼圧計.centralcornealthickness,Dynamiccontourtonometer,Goldmannapplanationtonometer,non-contacttonometer.0910-1810/08/\100/頁/JCLS1022(118)———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.25,No.7,20081023(119)も同様に影響を受けるとされている.近年開発され,臨床応用されたZeimerOphthalmic社のdynamiccontourtonom-eter(PascalR,以下,DCT)はこのような角膜の物理的特性に影響を受けずに眼圧測定が行える検査機器として注目,期待されている.今回筆者らはDCTとGAT,さらにNCTを用いてそれぞれ眼圧測定を行い,測定方法の違いによる眼圧値の比較,眼圧値に影響を与える因子について検討した.I対象および方法2006年11月から2007年4月の間に,中頭病院眼科外来を受診した内眼手術の既往のない105例,207眼(男性55例108眼,女性50例99眼)を対象とした.対象者の年齢は2590歳で平均60.9±11.2歳(平均±標準偏差)であった.対象の内訳は,緑内障と緑内障疑い(視神経乳頭陥凹拡大,高眼圧症,閉塞隅角症)が93%(189眼),非緑内障が9%(8眼)であった.緑内障患者のなかには点眼加療中の者も含まれていた.測定検査項目として眼圧値はDCT,GAT(Haag-Streit社),NCT(TOPCON,CT90-A)で測定した.NCT,GAT,DCTは同日測定し,NCT,GAT,DCTの順で測定した.各測定は10分以上の間隔をあけて測定し,NCTは3回の平均測定結果,GATとDCTは1回の測定結果を使用した.DCTは信頼性高い(Q値が13の)測定結果が得られなければ計測し直し,測定不能であった患者は検討から除外した.角膜曲率半径(NIDEK,ARK-730A)と屈折値(NIDEK,ARK-730A)を測定し,屈折値は等価球面度数を算出し検討に用いた.中心角膜厚(CCT)は超音波角膜厚測定装置(TOMEY,SP-3000)により測定した.GATで測定した眼圧値は「補正GAT=実測GAT(CCT平均CCT)×回帰係数」により補正した眼圧値(以下,補正GAT)とし,比較・検討に用いた.なお,回帰係数は直線回帰分析より求めた.いずれの統計学的解析において検定の有意水準は5%とした.II結果1.各測定方法による眼圧についての検討眼圧値はDCTでは18.4±3.0mmHg(平均+標準偏差),NCTでは16.1±4.2mmHg,GATでは16.8±4.0mmHgであった.また前述の式により求められた補正GATは16.9±3.6mmHgであった.NCT,GAT,DCT,補正GATの各眼圧値の相関を直線回帰分析によって解析し,Pearsonの相関係数を求めた.NCT-GATは強い有意な相関を認めた(ra)NCT-GAT0510152025303505101520253035NCT(mmHg)GAT(mmHg)b)NCT-DCT0510152025303505101520253035NCT(mmHg)DCT(mmHg)c)GAT-DCT0510152025303505101520253035GAT(mmHg)DCT(mmHg)d)補正GAT-DCT0510152025303505101520253035補正GAT(mmHg)DCT(mmHg)y=0.505x+9.8855r2=0.4363y=0.4604x+9.7704r2=0.2843y=0.3545x+12.664r2=0.2463y=0.6884x+5.7211r2=0.5428図1各眼圧の相関———————————————————————-Page31024あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(120)=0.74,p<0.0001,図1a).NCT-DCT,GAT-DCT,補正GAT-DCTは中等度の有意な相関を認めた(それぞれr=0.50,p<0.0001,r=0.66,p<0.0001,r=0.66,p<0.0001,図1bd).NCT,GAT,補正GAT,DCTのそれぞれの眼圧値の比較ではDCTがNCT,GAT,補正GATに対して有意に高値であった(Turkey-Kramer法,p<0.05).またNCT,GAT,補正GATの間にそれぞれ有意差は認めなかった.2.中心角膜厚と各眼圧値の相関対象のCCTは543±36μm(平均±標準偏差)であった.CCTとNCT,GAT,DCTの各眼圧値の相関を直線回帰分析によって解析し,Pearsonの相関係数を求めた.NCT,GATの眼圧値とCCTはそれぞれ有意な相関を認めた(それぞれr=0.54,p<0.0001,r=0.39,p<0.0001,図2a,b).しかしCCTとDCTの眼圧値は有意な相関を認めなかった(r=0.12,p=0.0875,図2c).3.各眼圧値に影響する中心角膜厚以外の因子の検討CCT以外の因子として等価球面度数と角膜曲率半径を測定し,NCT,GAT,DCTの各眼圧値の相関を直線回帰分析にて解析し,Pearsonの相関係数を求めた.対象の等価球面度数は0.58±2.52D(平均±標準偏差),角膜曲率半径は7.71±0.24mm(平均±標準偏差)であった.等価球面度数はNCT,GAT,DCTによる測定眼圧値といずれも有意な相関を認めなかった.角膜曲率半径はNCT,GATとは有意な相関を認めなかった(それぞれr=0.08,p=0.23,r=0.11,p=0.12)が,DCT測定値とは弱いが有意な相関を認めた(r=0.25,p=0.0002).III考按現在,臨床上最も標準とされている眼圧測定装置はGold-mann圧平眼圧計(GAT)である.GATは角膜を直径3.06mmで圧平したときにImbert-Fickの法則が成立すると仮定し,眼圧値を求めるものである.そのため中心角膜厚などの要因に測定値が影響されることが指摘されている1,2).角膜厚に関しては高眼圧症では正常者や緑内障患者に比べCCTが厚く,一方,正常眼圧緑内障患者ではCCTが薄いことが報告されている27).今回得られた中心角膜厚(平均543μm)はIwaseらの報告7)とほぼ同様であった.近年,緑内障患者におけるCCTの重要性,CCTによる眼圧値の補正の重要性が評価されはじめている.しかしながらCCTのGAT測定眼圧値への影響についてこれまでの報告は0.17mmHg/10μm0.71mmHg/10μmと非常にばらつきが大きく問題となっている2,4,812).DCTは角膜形状に合わせた凹型のチップを用いることで圧平時の角膜の歪みや変形を最小限にして,角膜厚・角膜剛性といった角膜の物理的特性に影響されにくい眼圧測定装置として開発された.今回の検討ではDCT,GAT,NCTの測定に加えてCCTの平均値と,GATとCCTの回帰係数による補正式を用いて算出した補正GATによる眼圧値も比較した.今回の検討では,NCT,GAT,DCTの各測定機器の眼圧値はそれぞれ有意に相関した.対象患者のCCTの平均は543±36μm(平均±標準偏差)でGATとCCTの関係は0.43mmHg/10μmとなった(図2b).この値より「補正GAT=実測GAT(CCT543)×0.043」という補正式から補正GAT値を計算した.DCTの眼圧値はNCT,GAT,補正GATの眼圧値に比べ有意に高値となり,DCTとの平均値の差はNCT(+2.3mmHg),GAT(+1.6mmHg),補正GAT(+1.5mmHg)であった.DCTとGATの測定値では有意にDCTが高いとする報告が多く911,1320),その差も0.73.9mmHgと幅があるが,その差は約2mmHg前後という報告が大部分であり,今回の筆者らの検討とほぼ同等であった.DCTは開発時に死体眼を用いてキャリブレーションされてa)NCT05101520253035NCT(mmHg)b)GAT051015202530400450500550600650400450500550600650400450500550600650中心角膜厚(?m)中心角膜厚(?m)中心角膜厚(?m)GAT(mmHg)y=0.0639x-18.524r2=0.2914y=0.0429x-6.4352r2=0.1504c)DCTy=0.0101x+12.924r2=0.014205101520253035DCT(mmHg)図2各眼圧と中心角膜厚の相関———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.25,No.7,20081025(121)おり,Kniestedtら21)は同様の摘出眼を用いた検討で,直接測定した内眼圧とDCTの差は+0.58mmHgで有意差が認められなかったのに対し,GATとpneumatonometry(PTG)ではそれぞれ4.01mmHg,5.09mmHgであったと報告している.これらのことからDCTはGATより高い眼圧値を示していることがわかる.また補正GATの値とDCTの間に有意差が認められたことに関しては角膜剛性などCCT以外の要因や,補正式そのものの問題が影響していることが考えられた.今回の検討ではNCT,GATの眼圧値とCCTの間にそれぞれ有意な相関を認めたが,CCTとDCT値に関しては有意な相関を認めず,DCTの測定値は角膜の厚みに影響されないことがこれまでの報告1013,20,2224)と同様明らかであった.一方,GATより弱いがDCTもCCTと相関するという報告もある9,14,16,17).角膜屈折矯正(LASIK)術前・後の眼圧を比較したSiganosら25)の研究ではGATで術後1週目に平均4.9mmHg,術後4週目で平均5.4mmHg低い値を示し,NCTでも同様の低値を示すのに対し,DCTでは術前,術後の眼圧値に有意差を認めなかったと報告しており,他のLASIKの術前・後でも同様の報告が相ついでいる26,27).今回,CCT以外の因子として屈折値(等価球眼度数)と角膜曲率半径を検討した.DCTと屈折値は相関を認めなかったが,角膜曲率半径とは有意な負の相関を認めた(r=0.25,p=0.0002).これまで角膜曲率半径とDCTは相関がないとする報告11,13,21)と,今回の筆者らの結果と同様に負の相関を認めるという報告14,23)がみられる.後者ではその理由として曲率半径の短い(急峻な)角膜では圧平する力が強くなり,結果として眼圧が高く測定される可能性が示唆されている.しかしながらこれまでの報告を含めて,その相関は強くなく,臨床的に問題になるかどうかは今後の検討が必要と考えられる.また今回は検討していないが角膜乱視,前房深度,眼軸長,屈折とDCTとの間に相関はなかったとの報告もある13,21).以上から,DCTはNCT,GATと比較して角膜厚に影響を受けにくく,より正確に眼内圧を反映している眼圧計であると考えられた.実際の診療に関してDCTはおよそ510秒の連続した角膜への接触が必要であり,視力低下例,若年者や高齢者などで中心固視不良者や協力が得にくい症例ではGATで測定可能例でもDCTでは困難な場合も多い.GATより眼圧値が平均して高く測定されるため,現状ではこれまで眼圧測定の標準であるGATにとって代わるのは困難と考えられる.しかしながらLASIK術後などで角膜厚が変化している症例や,高眼圧症例,正常眼圧緑内障患者など角膜厚によりGAT測定値が影響されるような症例ではDCTによる眼圧測定は有用と考えられる.文献1)GunvantP,BaskaranM,VijayaLetal:EectofcornealparametersonmeasurementsusingthepulsatileocularbloodowtonographandGoldmannapplanationtonome-ter.BrJOphthalmol88:518-522,20042)WolfsRC,KlaverCC,VingerlingJRetal:Distributionofcentralcornealthicknessanditsassociationwithintraocu-larpressure:TheRotterdamStudy.AmJOphthalmol123:767-772,19973)GordonMO,BeiserJA,BrandtJDetal,TheOcularHypertensionTreatmentStudy:baselinefactorsthatpre-dicttheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.ArchOphthalmol120:714-720,20024)ShahS,ChatterjeeA,MathaiMetal:Relationshipbetweencornealthicknessandmeasuredintraocularpres-sureinageneralophthalmologyclinic.Ophthalmology106:2154-2160,19995)HerndonLW,WeiserJS,StinnettSS:Centralcornealthicknessasariskfactorforadvancedglaucomadamage.ArchOphthalmol122:17-21,20046)CoptRP,ThomasR,MermoudA:Cornealthicknessinocularhypertension,primaryopen-angleglaucoma,andnormaltensionglaucoma.ArchOphthalmol117:14-16,19997)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese.Ophthalmology111:1641-1648,20048)StodtmeisterR:Applanationtonometryandcorrectionaccordingtocornealthickness.ActaOphthalmolScand76:319-324,19989)KotechaA,WhiteET,ShewryJMetal:TherelativeeectsofcornealthicknessandageonGoldmannapplana-tiontonometryanddynamiccontourtonometry.BrJOphthalmol89:1572-1575,200510)KniestedtC,LinS,ChoeJetal:Clinicalcomparisonofcontourandapplanationtonometryandtheirrelationtopachymetry.ArchOphthalmol123:1532-1537,200511)SchneiderE,GrehnF:Intraocularpressuremeasure-ment-comparisonofdynamiccontourtonometryandGoldmannapplanationtonometry.JGlaucoma15:471-474,200612)KniestedtC,LinS,ChoeJetal:Correlationbetweenintraocularpressure,centralcornealthickness,stageofglaucoma,anddemographicpatientdata:prospectiveanalysisofbiophysicalparametersintertiaryglaucomapracticepopulations.JGlaucoma15:91-97,200613)KaufmannC,BachmannLM,ThielMA:ComaprisonofdynamiccontourtonometrywithGoldmannapplanationtonometry.InvestOphthalmolVisSci45:3118-3121,200414)FrancisBA,HsiehA,LaiMYetal:Eectsofcornealthickness,cornealcarvature,andintraocularpressurelevelonGoldmannapplanationtonometryanddynamiccontourtonometry.Ophthalmology114:20-26,200715)OzbekZ,CohenEJ,HammersmithKMetal:Dynamiccontourtonometry:anewwaytoassessintraocular———————————————————————-Page51026あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(122)pressureinectaticcorneas.Cornea25:890-894,200616)WeizerJS,AsraniS,StinnettSSetal:Theclinicalutilityofdynamiccontourtonometryandocularpilseamplitude.JGlaucoma16:700-703,200717)GrieshaberMC,SchoetsauA,ZawinkaCetal:EectofcentralcornealthicknessondynamiccontourtonometryandGoldmannapplanationtonometryinprimaryopen-anglegla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Optical Low-Coherence Reflectometry パキメータによる中心角膜厚および角膜上皮厚測定の検討

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(143)7190910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(5):719723,2008c〔別刷請求先〕松永次郎:〒811-5132壱岐市郷ノ浦町東触1626壱岐市立壱岐市民病院眼科Reprintrequests:JiroMatsunaga,M.D.,IkiMunicipalIkiCitizenHospital,1626Higashifure,Gonouramachi,Iki,Nagasaki811-5132,JAPANOpticalLow-CoherenceReectometryパキメータによる中心角膜厚および角膜上皮厚測定の検討松永次郎宮井尊史南慶一郎尾方美由紀本坊正人子島良平大谷伸一郎宮田和典宮田眼科病院CentralCornealThicknessandCornealEpithelialThicknessMesurementUsingOpticalLow-CoherenceReectometryPachymeterJiroMatsunaga,TakashiMiyai,KeiichiroMinami,MiyukiOgata,MasatoHonbo,RyoheiNejima,ShinichiroOhtaniandKazunoriMiyataMiyataEyeHospitalOpticallow-coherencereectometryパキメータ(以下,OLCR)の中心全角膜厚(以下,CCT)測定の他の方法との互換性と,角膜上皮厚測定の再現性を評価した.対象は健常人35例70眼である.OLCR,超音波パキメータ,回転式ScheimpugカメラでCCTを測定し,その相関を求め互換性を評価した.同一対象にOLCRで2名の検者(検者A,B)が各々3回角膜上皮厚を測定し,検者別の各回の測定値の絶対差と級内相関係数(以下,ICC),検者間の絶対差とICCを検討し再現性を評価した.OLCRのCCT測定は他の2方法と有意な正の相関を認めた(p<0.001).角膜上皮厚測定での絶対差は検者Aが4.0±5.3μm,検者Bが2.8±3.1μm,ICCは検者Aが0.81,検者Bが0.90となった.検者間の絶対差は4.4±6.3μm,ICCは0.72であった.また,測定の反復により再現性は向上し,熟練すればICCで0.90以上の再現性が達成された.OLCRのCCT測定は他の方法と高い互換性があった.角膜上皮厚測定は,熟練により高い再現性が得られた.Toassessopticallow-coherencereectometrypachymeter(OLCR)compatibilitywithconventionalmethodsofmeasuringcentralcornealthickness(CCT)andtoexamineOLCRrepeatabilityandreproducibilityinmeasuringcornealepithelialthickness,wemeasuredCCTwithOLCR,ultrasonicpachymeter,andarotatingScheimpugcamerain70eyesof35healthysubjects.CompatibilitybetweenOLCRandtheothermethodswasevaluatedbycalculatingthecorrelationamongthem.CornealepithelialthicknesswasmeasuredthreetimeswiththeOLCRby2examinersexaminingthesamesubjects.Repeatabilityforeachexaminerandreproducibilitybetweenexaminersweredeterminedfromabsolutedierenceandintraclasscorrelationcoecient(ICC).Thereweresignicantlyposi-tivecorrelationsbetweenOLCRandeachoftheothermethodsinCCTmeasurement(p<0.001).Repeatabilityforeachexaminerincornealepithelialthicknessmeasurementwasevaluatedasanabsolutedierenceof4.0±5.3μmand2.8±3.1μm,withICCsof0.81and0.90.Reproducibilitybetweentheexaminerswasevaluatedasanabsolutedierenceof4.4±6.3μmandanICCof0.72.Asthenumberofmeasurementsincreased,repeatabilityandrepro-ducibilityimproved.Withanexperiencedexaminer,anICCofover0.9couldbeexpected.OLCRshowedhighcom-patibilitywithotherconventionalmethodsofCCTmeasurement.Incornealepithelialthicknessmeasurement,repeatabilityandreproducibilitywereimprovedbyexperiencetosucientlyhighlevels.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(5):719723,2008〕Keywords:OLCRパキメータ,角膜上皮厚,中心角膜厚,パキメータ.OLCRpachymeter,cornealepithelialthickness,centralcornealthickness,pachymeter.———————————————————————-Page2720あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(144)角膜厚を測定し,各方法間の測定値の比較,相関関係,測定値の差を検討することで評価した.角膜上皮厚測定の再現性を評価するために,2名の検者(検者A,B)がOLCRパキメータで各眼に対し,3回角膜上皮厚を測定した.再現性は各検者における反復性を表すrepeatability(検者内差)と,検者間での差を表すreproduc-ibility(検者間差)に分けて評価した.Repeatabilityの評価は以下の3指標で行った.1)検者別の同一被検眼に対する3回の測定値間の絶対差の最大値(以下,最大絶対差)2)検者別の同一被検眼に対する最大絶対差が測定値の平均に占める割合(以下,変化率.たとえば1回目と2回目の測定値(x1,x2)の絶対差が最大絶対差ならば変化率は,│x1x2│/[(x1+x2)/2]×100)3)検者別の測定値の級内相関係数(intraclasscorrelationcoecient:ICC).ICCは再現性を評価する指標であり,0(不一致)1(完全一致)の範囲の値をとる.ICCは一対の観察値間の変動の比率を示し,その一対の間に系統的な差の根拠がない場合には,Pearsonの相関係数としてICCを計算することができる.ICC(Pear-sonの相関係数)は次式で表される.”"t<z,?z’(?{,?{‘(1z,?z’(4{,?{‘(4??(x,y:変数x′,y′:平均値)7)Reproducibilityの評価も,同様に以下の3指標で行った.1)2検者の同一測定回(測定1回目3回目)の測定値の検者間絶対差の最大値(以下,最大絶対差.たとえば測定1回目の検者間絶対差が測定2,3回目の差より大きければ測定1回目の検者間絶対差が最大絶対差となる)2)2検者の最大絶対差が測定値の平均に占める割合(以下,変化率)3)2検者の測定値のICCさらに,検者の熟練度が再現性に影響する可能性を考慮し,測定を前半35眼と後半35眼に二分し,測定前後半でのrepeatabilityおよび,reproducibilityを比較検討した.統計学的解析として,中心角膜厚測定の測定値の比較にはone-wayANOVA(analysisofvariance),相関の検討には単回帰分析,各方法間の測定値の差の検討にはBland-Alt-manplotsを使用した.角膜上皮厚測定の測定前半と後半の最大絶対差の比較はpaired-t検定を使用した.また,すべての検定でp<0.05を統計学的に有意とした.II結果1.OLCRパキメータの中心角膜厚測定の他機種との互換性中心角膜厚の測定ではOLCR群は,US群(r=0.98)およはじめに角膜厚の測定は,超音波パキメータによる測定が一般的である.しかし,超音波パキメータは接触式であるため,感染や角膜上皮障害の危険性がある.また,プローブの角膜への接触位置や角度により,測定値が変動する可能性がある.近年,非接触式のパキメータであるopticallow-coherencereectometryパキメータ(以下,OLCRパキメータ)が開発された.同機器は中心角膜厚と角膜上皮厚を測定することができ,その測定原理としてはMichelson干渉計の原理を応用している1).Michelson干渉計では照射したビームが二分し,一方は被測定物,一方は鏡に向かう.これら2つのビームの反射光が再び重なりあうときに,鏡の位置を動かすことにより光路長を変化させ,被測定物までの光路長と鏡までの光路長が一致すると干渉を起こすことができる.この干渉時の鏡の位置を測ることにより被測定物の厚みを知ることができる.測定光として低干渉性ビームを利用することで,分解能は1.4μmと高く,測定時間も短いため測定は簡易である.さらに同機器では,エイミング光が瞳孔中心部の角膜に垂直に入射すると自動的に角膜厚測定が行われるため,角膜中心を高い精度で捉えることができる.中心角膜厚の測定では高い再現性が得られることが報告されている2).一方,角膜上皮厚の測定は,涙液層の変動や角膜屈折矯正手術後の創傷治癒の指標になる可能性があり,その測定方法の確立は重要な課題である.角膜上皮厚は,涙液層変動の影響を受け3),ドライアイ眼では薄くなる4).また,laserinsitukeratomileusis(LASIK)やphotorefracivekeratectomy(PRK)の術後は,角膜上皮の過形成が起こり5),LASIKにより角膜上皮厚が増加することも報告されている6).しかし,角膜上皮厚を臨床現場で測定できる方法はまだ確立されていない.今回筆者らは,OLCRパキメータを使って健常眼の中心角膜厚および,角膜上皮厚を測定し,中心角膜厚測定について他の測定方法との互換性と,角膜上皮厚測定の再現性を評価したので報告する.I対象および方法対象は屈折異常以外の眼疾患歴および,屈折矯正手術歴をもたない健常人35例70眼で,男性5例10眼,女性30例60眼である.年齢は36.8±10.4(平均値±標準偏差)歳(1456歳),自覚等価球面度数は0.1±0.5D(1.0+1.0D)であった.また,コンタクトレンズ装用者は対象から除外した.OLCRパキメータによる中心角膜厚測定の他の測定方法との互換性については,OLCRパキメータ(H/SPachymmeterR,HAAG-STREIT)(以下,OLCR群),超音波パキメータ(UP-2000R,NIDEK)(以下,US群),回転式Schei-mpugカメラ(PentacamR,Oculus)(以下,PC群)で中心———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008721(145)り,測定回数を重ねることで差は小さくなる傾向にあった.測定前半では,最大絶対差,変化率,ICCは各々6.1±6.7μm,9.5±10.1%,0.67であったが,測定後半では,最大絶対差は1.8±1.6μmと有意に小さくなり(p<0.05),変化率とICCも各々3.1±2.7%,0.97と測定前半より改善した.検者Bの平均角膜上皮厚は60.5±9.5μmで,最大絶対差,変化率,ICCは各々2.8±3.1μm,4.5±5.1%,0.90であった.最大絶対差は測定前半では15μmを超えるのに対し,測定後半では10μm以下と小さくなる傾向にあった.測定前半では,最大絶対差,変化率,ICCは各々3.5±3.9μm,5.4±4.4%,0.83であったが,測定後半では,最大絶対差は2.2±2.0μmと,有意に小さくなり(p<0.05),変化率とICCも各々3.5±3.0%,0.95と,検者Aと同様に測定後半でrepeatabilityは向上した.Reproducibilityについては,検者A,Bを合わせた平均角膜上皮厚は61.1±10.1μmで,び,PC群(r=0.94)のいずれとも有意な(p<0.001)正の相関を認めた(図1,2).Bland-AltmanplotsではOLCR群US群の差は平均5.0±5.3μm(図3),OLCR群PC群の差は平均2.5±10.2μmであった(図4).いずれの差の平均もおよそゼロに近く,測定値の差は平均軸の周辺を不規則に分布しており(図3,4),各方法での測定値間には良好な一致性を認めることが示唆された.また,OLCR群PC群はOLCR群US群に比べ,差の変化幅は大きい傾向にあった(図3,4).平均中心角膜厚はOLCR群が530.6±26.1μmであり,US群および,PC群と有意差はなかった.2.角膜上皮厚測定の再現性Repeatabilityについては,検者Aの平均角膜上皮厚は61.8±10.7μmで,最大絶対差,変化率,ICCは各々4.0±5.3μm,6.3±8.0%,0.81であった.最大絶対差は測定前半で30μmを超えるのに対し,測定後半では10μm以下にな600550500450450500550600OLCRパキメータ(μm)超音波パキメータ(μm)図1OLCRパキメータと超音波パキメータの中心角膜厚の相関両者の間には正の有意な相関があった(y=0.9805x+5.5022,r=0.98,p<0.001).450500550600OLCRパキメータ(μm)回転式Scheimpugカメラ(μm)600550500450図2OLCRパキメータと回転式Scheimpugカメラの中心角膜厚の相関両者の間には正の有意な相関があった(y=0.9046x+52.932,r=0.94,p<0.001).3020100-10-20-30450500550600650Mean+2SDMeanMean-2SD中心角膜厚差(OLCRパキメータ-超音波パキメータ)(?m)平均中心角膜厚(?m)図3OLCRパキメータと超音波パキメータの中心角膜厚の差グラフの縦軸はOLCRパキメータと超音波パキメータの中心角膜厚の差を示している.差はおよそゼロを中心に不規則に分布している.3020100-10-20-30450500550600650Mean+2SDMeanMean-2SD中心角膜厚差(OLCRパキメータ-回転式Scheimp?ugカメラ)(?m)平均中心角膜厚(?m)図4OLCRパキメータと回転式Scheimpugカメラの中心角膜厚の差グラフの縦軸はOLCRパキメータとScheimpugカメラの中心角膜厚の差を示している.差はおよそゼロを中心に不規則に分布している.———————————————————————-Page4722あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(146)た,先に述べたようにOLCRパキメータは非接触式の測定方法であり,測定時間も短いため,TSCMよりも簡易性に勝り,より臨床的な検査法と考えられる.一方,OLCRパキメータによる角膜上皮厚の測定値の妥当性については検討すべき点もある.健常眼の角膜上皮厚の測定報告では,conforcalmicroscopyによる測定でLiら11)は50.6±3.9μm,石川ら12)は46.9±2.7μm,OCTによる測定でFengら3)は61.7±2.0μm,Sinら10)は52.0±3.0μmであったとしている.これらと比べると,今回の結果ではOLCRパキメータでの測定値は61.1±10.1μmであり,標準偏差が顕著に大きかった.また,測定後半では再現性は向上したものの,検者A,Bを合わせた測定後半の平均角膜上皮厚は60.7±10.4μmであり,やはり標準偏差は大きく,標準偏差と測定の熟練とは無関係と考えられた.OLCRは角膜からの反射光を測定する方法であるため,角膜上皮以外の部位,たとえば涙液層2)などが測定値に影響をしている可能性がある.被検者の涙液層の差異により測定値がばらつき,標準偏差が大きくなったのではないかと考えられた.OLCRパキメータは角膜厚測定において,従来の方法と高い互換性があり臨床上有効な方法であることがわかった.また,角膜上皮厚測定については35眼程度の比較的少ない使用経験で熟練することができ,再現性は高くなる.また,測定自体も簡易であるため,今後,測定値のばらつきを軽減することができれば,十分に角膜上皮厚測定において臨床応用可能と考えられた.本論文の要旨は第31回角膜カンファランスにて発表した.文献1)GenthU,MrochenM,WaltiRetal:Opticallowcoher-encereflectometryfornoncontactmeasurementofflapthicknessduringlaserinsitukeratomileusis.Ophthalmolo-gy109:973-978,20022)BarkanaY,GerberY,ElbazUetal:CentralcornealthicknessmeasurementwiththePentacamScheimpflugsystem,opticallow-coherencereectometrypachymeter,andultrasoundpachymetry.JCataractRefractSurg31:1729-1735,20053)FengY,VarikootyJ,SimpsonTL:Diurnalvariationofcornealepithelialthicknessmeasuredusingopticalcoher-encetomography.Cornea20:480-483,20014)ErdelyiB,KraakR,ZhivovAetal:Invivoconforcallaserscanningmicroscopyofthecorneaindryeye.Graef-esArchClinExpOphthalmol245:39-44,20075)西田幸二:屈折矯正手術と創傷治癒.眼科手術19:151-157,20066)PatelSV,ErieJC,McLarenJWetal:Conforcalmicrosco-pychangesinepithelialandstromalthicknessupto7yearsafterLASIKandphotorefractivekeratectomyfor検者間の最大絶対差,変化率,ICCは各々4.4±6.3μm,7.1±6.1%,0.72であった.最大絶対差は測定前半で30μmを超えるのに対し,測定後半では15μm以下と小さくなる傾向があった.測定前半は,最大絶対差,変化率,ICCは各々6.4±8.1μm,2.5±3.1%,0.50であったが,測定後半では,最大絶対差は2.5±2.7μmと有意に小さくなり(p<0.01),変化率とICCも各々1.0±1.1%,0.94と改善した.III考按OLCRパキメータの中心角膜厚測定の他の測定方法との互換性に関しては,いくつかの報告で検討されている1,2,8,9).OLCRパキメータの測定値は超音波パキメータよりも大きく,その差は520μm程度と報告されている2,8,9)が,逆に超音波パキメータの測定値のほうが約25μmほど大きいとの報告もある1).今回の結果ではOLCRパキメータと超音波パキメータ間には有意な差はみられなかった.また,OLCRパキメータと回転式Scheimpugカメラとの比較では,両者間に有意な差はないと報告されており2),今回の結果と合致するものであった.測定方法の違いによる差は涙液層の影響2)や,各機器の測定光の角膜屈折率や超音波の音速などの設定の違いが寄与しているため8),単純に他の報告と比較することは困難である.また,測定値の相関については筆者らの示した結果では,OLCRパキメータは超音波パキメータや回転式Scheimpugカメラと高い相関があったが,既報においても同様の結果が示されている1,2,8,9).今回の結果からは,中心角膜厚測定においてOLCRパキメータは従来の方法と高い互換性があると考えられた.現在,角膜上皮厚測定を行うことができる機器としては,opticalcoherencetomography(以下OCT)やconforcalmicroscopyなどが代表的である.OCTの角膜上皮厚測定の再現性について,Sinら10)はHumphrey-ZeissOCTR(Hum-phreySystems)で角膜上皮厚測定を行った結果,測定のrepeatabilityは高くなかった(ICC=0.73)としている.一方,conforcalmicroscopyの再現性については,Liら11)はTandemScanningConforcalMicroscopyR(以下,TSCM,TandemScanning)では高いrepeatabilityがあったとしている.しかし,TSCMは接触式であり,測定時間も長いため簡易に角膜上皮を測定することができず,一般的な検査法とはいえない.今回の結果では,OLCRパキメータの再現性は測定後半で向上し,repeatability,reproducibility双方においてICCは0.90を超えた.この値は,前述したOCTで示されたICC(0.73)10)よりも高いものであった.また,最大絶対差,変化率においてもrepeatability,reproducibility双方とも測定後半で向上していることから,OLCRパキメータの角膜上皮厚測定は約35眼程度の使用経験で,OCTよりも高い再現性を期待することができることが示唆された.ま———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008723(147)10)SinS,SimpsonTL:Therepeatabilityofcornealandcor-nealepitherialthicknessmeasurementscoherencetomog-raphy.OptomVisSci83:360-365,200611)LiHF,PetrollWM,Moller-PedersenTetal:Epithelialandcornealthicknessmeasurementsbyinvivoconforcalmicroscopythroughfocusing(CMTF).CurrEyeRes16:214-221,199712)石川隆,田中稔:コンフォスキャンRによる角膜の計測と観察の問題点.臨眼53:1279-1285,1999myopia.JRefractSurg23:385-392,20077)PetrieA,SabinC,吉田勝美:一致性を評価する.一目でわかる医学統計学,p95-98,メディカル・サイエンス・インターナショナル,20068)MuchMM,HaigisW:Ultrasoundandparticalcoherenceinterferometrywithmeasurementofcentralcornealthickness.JRefaractSurg22:665-670,20069)GillisA,ZeyenT:Comparisonofopticalcoherencereec-tometryandultrasoundcentralcornealpachymetry.BullSocBelgeOphtalmol292:71-75,2004***