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白内障水晶体前囊片の過酸化物質総量の測定

2012年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科29(4):563.571,2012c白内障水晶体前.片の過酸化物質総量の測定岡本洋幸新井清美筑田眞獨協医科大学越谷病院眼科ConcentrationofHydroperoxideinCataractousLensHiroyukiOkamoto,KiyomiAraiandMakotoChikudaDepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversityKoshigayaHospital目的:水晶体の過酸化度の判定に,過酸化水素,過酸化脂質の他,核酸や蛋白質の過酸化物も含めた過酸化物質総量を測定し,全身状態との関係を検討した.方法:白内障水晶体前.片の過酸化物質総量は,Freed-ROMs変法で測定し,糖尿病の有無,術前の総コレステロール,中性脂肪,尿酸,尿素窒素,蛋白質総量,年齢との関係を検討した.結果:水晶体前.中の過酸化物質総量は,diabetesmellitus(DM)>非DM,中性脂肪高値群>正常値群,尿酸高値群>正常値群で,各々有意差(各p<0.01)があった.水晶体の過酸化物質総量は,中性脂肪(r=0.41,p<0.05),尿酸値(r=0.50,p<0.01)と正の相関があった.その他は有意な相関および正常値群との差はなかった.結論:DM,中性脂肪高値群,尿酸高値群では水晶体への過酸化反応の密接な影響が今回新たに明らかになった.Weinvestigatedhydroperoxideconcentrationinanteriorcapsulesamples,includinglensepithelialcells(LECs)ofhumancataractouslenses.Theconcentrationofhydroperoxide,whosetotaloxidizedproductsincludehydrogenperoxide,lipidperoxide,oxidizedproteinandpolypeptide,oxidizednucleicacidandnucleotide,wasmeasuredusingaminormodificationoftheFreed-ROMstest(DiacronSrl).Westudieditinrelationtodiabetesmellitus(DM),cholesterol,triglyceride,uricacid,ureanitrogen,totalprotein,agebeforecataractsurgeryandhydroperoxideinthecataractouslens.ThehydroperoxideconcentrationwassignificantlyhigherintheDMgroupthaninthenon-DMgroup.Thehydroperoxideconcentrationinthehightriglycerideandinternaluseofhyperlipidemiatherapeuticagentgroup,andthehighuricacidandinternaluseofantipodagricgroupwerebothsignificantlyhigherthanineachnormalgroup(p<0.01).Thehydroperoxideconcentrationweresignificantlycorrelatedwithtriglyceride(r=0.41,p<0.05)anduricacid(r=0.50,p<0.01).Inothers,therewasnosignificantdifferenceorcorrelation.Itissuggestedthathydroperoxideinthehumancataractouslensisrelatedtopathologicallysystemicoxidation,suchasinDM;hightriglycerideandhighuricacidincreasesystemichydroperoxide.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(4):563.571,2012〕Keywords:過酸化物質,白内障水晶体,糖尿病,中性脂肪,尿酸,過酸化反応.hydroperoxide,cataractouslens,diabetesmellitus,triglyceride,uricacid,oxidation.はじめに白内障の発症と進行には過酸化反応が関与し1.4),水晶体における過酸化反応についての種々の報告がなされている.しかし,これまでの報告では,過酸化水素・superoxideなど活性酵素や,過酸化脂質,あるいはそれらに対する消去酵素などについて各々ターゲットを絞っての検討であり,全体的な過酸化の程度はいまだ判定されていない.近年,多価不飽和脂肪酸の過酸化物質の分解産物であるアルデヒドのmalondialdehyde(MDA)や4-hydroxyalkenal(HAE),4-hydroxynonenal(HNE)などを,組織中の酸化ストレスの誘導因子や過酸化脂質のマーカーとして使用した報告5,6)もあるが,水晶体中に存在するHNE,HAEの報告は筆者の知る限りヒトではなく,動物モデルのラットのみでの報告である.しかも,MDAやHAE,HNEは,あくまでも脂質過酸化由来のアルデヒド類(-COH)であり,脂質ではないため,過酸化脂質そのものの測定ではなく,また過酸化物質(-OOH)でもないため,脂質の過酸化を間接的に反映する物質にすぎず,過酸化反応全体を反映している物質で〔別刷請求先〕岡本洋幸:〒343-8555越谷市南越谷2-1-50獨協医科大学越谷病院眼科Reprintrequests:HiroyukiOkamoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversityKoshigayaHospital,2-1-50Minami-Koshigaya,KoshigayaCity,Saitama343-8555,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(129)563 はない.また,水晶体のMDAやHAE,HNEと,血液中の脂質,尿酸などの値との関係を検討した報告はない.過酸化反応は脂質だけでなく,蛋白質・核酸など多様な物質に生じることが知られており7),水晶体の過酸化の程度を判定するためには,過酸化水素・過酸化脂質の他,核酸や蛋白質・ポリペプチドの過酸化物質も含めた過酸化物質総量の測定もまた重要と考えられる.そこで,過酸化水素,過酸化脂質の他,核酸・蛋白質・ポリペプチド・ペプチド・アミノ酸などの過酸化物質の総量の測定が可能な方法を用い,一部の過酸化物質に注目するのではなく過酸化物質総量を測定することで,白内障と過酸化反応の関連性の精査を目的とし,白内障眼の水晶体前.片における過酸化物質総量と,術前の糖尿病の有無,総コレステロール,中性脂肪,尿酸,尿素窒素,蛋白質総量,年齢との関係について,それぞれ検討を行った.I対象および方法1.対象対象は,超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を施行した白内障眼の水晶体33例(71.3±8.1歳)で,研究の趣旨を説明し本人の同意を得たうえで研究を行った(獨協医科大学越谷病院生命倫理委員会承諾番号越谷22025).2型糖尿病(diabetesmellitus:以下DM)の有無の2群について,また総コレステロール,中性脂肪,尿酸,尿素窒素については,正常値群と,高値および治療薬内服群の2群に分けて比較検討した.術前に採血し,DM群は空腹時血糖126mg/dl以上,コレステロールの高値群は220mg/dl以上,中性脂肪の高値群はトリグリセライド150mg/dl以上,尿酸の高値群は8.5mg/dl以上,尿素窒素の高値群は22mg/dl以上とした.内訳はDM16例(69.6±8.1歳)・非DM17例(72.9±8.0歳),コレステロール高値および高脂血症薬内服16例(66.7±8.3歳)(そのうち高脂血症薬内服5例71.4±7.3歳,高脂血症薬非内服のコレステロール高値11例64.5±8.2歳)・正常値17例(75.7±4.8歳),中性脂肪高値および高脂血症薬内服20例(71.2±8.2歳)(そのうち高脂血症薬内服5例71.4±7.3歳,高脂血症薬の非内服の中性脂肪高値15例71.1±8.7歳)・正常値13例(71.5±8.2歳),尿酸高値および痛風治療薬内服5例(73.6±5.9歳)(そのうち痛風治療薬内服2例71.0±7.1歳,痛風治療薬非内服の尿酸高値3例75.3±5.8歳)・正常値28例(70.9±8.4歳),尿素窒素高値7例(71.1±7.7歳)・正常値26例(71.4±8.3歳)である.2.方法白内障手術時に摘出した水晶体の前.片は,速やかに窒素ガス充.し,.40℃で測定まで保管した.水晶体の前.片はビーズホモジナイザーのMagNALyser(ロシュ・ダイアグノスティックス社)でホモジナイズ後,遠心分離し,上清564あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012前.片に生理食塩水を500μl分注↓MagNALyserで破砕(6,500rpm50秒,1分冷却,6,500rpm50秒,2分冷却)↓17,000×g,4℃にて5分遠心分離↓上清を分取↓Freed-ROMs試薬(DiacronSrl社)で過酸化物質総量を測定上清(20μl)+Buffer(125μl)を注入し混和↓Roomtemp.,5分↓クロモゲン呈色液(2μl)注入し1.2秒混和↓37℃,経時的(0,3,5,10,20,30,45,60分)にOD545で測定図1水晶体前.片の過酸化物質総量の測定方法を過酸化物質総量の測定に供した.過酸化物質総量はFreed-ROMstest試薬(DiacronSrl社,Grosseto,Italy)8.10)を用いて測定した.この試薬は過酸化物質に反応して発色するクロモゲン(N,N-ジエチルパラフェニレンジアミン)10)呈色液を用い,血清中の過酸化物質の測定用に開発されているが,20μlの微量容量および5UCARR以下の微量の過酸化物質用に測定方法を一部改変し測定を行った.詳しい測定プロトコルは図1に記載した.この発色色素のクロモゲンは,過酸化水素・過酸化脂質の他,核酸や蛋白質およびポリペプチドの過酸化物も含めた過酸化物質全般に反応し,この原理を応用して過酸化物質総量の測定をしている.水晶体前.片の過酸化物質総量は,術前の糖尿病の有無,総コレステロール,中性脂肪,尿酸,尿素窒素,蛋白質総量,年齢との関係について検討を行った.術前血糖値はヘキソキナーゼ・グルコース-6-リン酸脱水素酵素法(リキテックRグルコース・HK・テスト,ロシュ・ダイアグノスティックス社)11),総コレステロールはコレステロールエステラーゼ・コレステロールオキシダーゼ・ペルオキシダーゼ法(コレステストRCHO,積水メディカル社)12,13),中性脂肪のトリグリセライドはリポプロテインリパーゼ・グリセロールキナーゼ・グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ・ペルオキシダーゼ法(コレステストRTG,積水メディカル社)14),尿酸はウリカーゼ・ペルオキシダーゼ法(デタミナーLUAR,協和メデックス社)15),尿素窒素はウレアーゼUV・アンモニア消去法(デタミナーLUNR,協和メデックス社)16),蛋白質総量はビウレット法(アクアオートRTP-II試薬,カイノス社)17)で各々測定した.結果の解析については,2群の比較は対応のないt検定とPearsonの相関係数を用い,3群比較はKruskal-Wallisの検定を用い,その後の多重比較は(130) Scheffeによる分析を行い,危険率5%以下を有意とした.過酸化物質総量との相関関係ついては,治療薬の内服によりコレステロール,中性脂肪,尿酸の値は内服していない場合より低く抑えられている可能性があるため,コレステロールと中性脂肪は高脂血症薬内服の5例,尿酸は痛風治療薬内服の2例を各々除外して検討した.そのため,過酸化物質総量とコレステロールあるいは中性脂肪との相関関係についての対象は,高脂血症薬内服例を除いた28例(71.3±8.3歳),過酸化物質総量と尿酸との相関関係についての対象は,痛風治療薬内服例を除いた31例(71.4±8.2歳)である.II結果1.水晶体前.における過酸化物質総量の量的比較a.DMの有無での比較水晶体前.中の過酸化物質総量および術前血糖値は,非DM群に比べDM群で有意に高値を示した(p<0.01)(図2-a,b).b.血中脂質の異常の有無での比較①コレステロールコレステロール高値および高脂血症薬内服群の水晶体前.中の過酸化物質総量は,正常値群との有意差はなかった〔図a:過酸化物質総量b:術前血糖値****3.03000.5500DM+DM-**:p<0.010DM+DM**:p<0.01Mean±SD2.5250血糖値(mg/dl)d-ROMs(UCARR)2.0200図2DMの有無による水晶体前.中の過酸化物質総量(a)および術前血糖値(b)の変化1.51501.0100(1)a:過酸化物質総量b:コレステロール濃度**3.02.52.01.51.00.5300250200150100500コレステロール(mg/dl)d-ROMs(UCARR)図3コレステロールの違いによる水晶体前.中の過酸化物質総量0高値および高脂正常値群高値および高脂正常値群(a)および各群の血液中のコレ血症薬内服群血症薬内服群**:p<0.01ステロール濃度(b)の変化コレステロールMean±SD(1)コレステロール高値および高脂血症薬内服群と,コレステロール正(2)a:過酸化物質総量b:コレステロール濃度常値群との2群比較.****(2)コレステロール高値群(高脂血症3.0コレステロール(mg/dl)300*薬内服例),高脂血症薬内服群,コレステロール正常値群との3群比較.d-ROMs(UCARR)2.52.01.51.00.52502001501005000高値群高脂血症薬正常値群高値群高脂血症薬正常値群(内服例削除)内服群(内服例削除)内服群*:p<0.05*:p<0.05.**:p<0.01Mean±SDコレステロール(131)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012565 3(1)-a〕.しかし,高脂血症薬内服の有無について分け,コレステロール高値群,高脂血症薬内服群,コレステロール正常値群の3群比較を行ったところ有意差があり(p<0.05)〔図3(2)-a〕,その後の多重比較で,コレステロール高値群と高脂血症薬内服群,コレステロール正常値群と高脂血症薬内服群で有意差があり(各p<0.05),高脂血症薬内服群で水晶体前.中の過酸化物質総量が有意に高値であった〔図3(2)-a〕.各群のコレステロール濃度は,コレステロール高値および高脂血症薬内服群と正常値群の2群比較で有意差があり(p<0.01)〔図3(1)-b〕,コレステロール高値群,高脂血症薬内服群,正常値群の3群比較でもp<0.01で有意差があり,その後の多重比較で,コレステロール高値群と正常値群(p<0.01),高脂血症薬内服群と正常値群(p<0.05)で有意差があった〔図3(2)-b).②中性脂肪中性脂肪高値および高脂血症薬内服群の水晶体前.中の過酸化物質総量は,正常値群に比べ有意に高値を示した(p<0.01)〔図4(1)-a〕.また,高脂血症薬内服の有無についても分けて,中性脂肪高値群,高脂血症薬内服群,中性脂肪正常値群の3群比較では有意差があり(p<0.01)(図4(2)-a〕,(1)a:過酸化物質総量**3.0350その後の多重比較で,中性脂肪正常値群と中性脂肪高値群(p<0.01),中性脂肪正常値群と高脂血症薬内服群(p<0.05)の水晶体前.中の過酸化物質総量に有意差があった〔図4(2)-a〕.各群の中性脂肪の濃度は,中性脂肪高値および高脂血症薬内服群と中性脂肪正常値群の2群比較では,中性脂肪高値および高脂血症薬内服群が,中性脂肪正常値群に比べ有意に高値であった(p<0.01)〔図4(1)-b〕.中性脂肪高値群,高脂血症薬内服群,中性脂肪正常値群の3群比較で有意差があり(p<0.01)〔図4(2)-b〕,その後の多重比較で,中性脂肪正常値群と高脂血症薬内服群は有意差はないが,高脂血症薬内服群と中性脂肪高値群(p<0.05),中性脂肪正常値群と中性脂肪高値群(p<0.01)で有意差があった〔図4(2)-b〕.c.血中尿酸および尿素窒素の異常の有無での比較①尿酸尿酸高値および痛風薬内服群の水晶体前.中の過酸化物質総量は,正常値群に比べ有意に高値を示した(p<0.01)(図5(1)-a〕.尿酸高値および通風薬内服群のうち,尿酸高値群(痛風薬内服例削除)と,通風薬内服群では,過酸化物質総量の有意差はなく,尿酸高値群,通風薬内服群,尿酸正常値群の3群比較では,有意差があった(p<0.05)(図5(2)-a〕.b:中性脂肪濃度**中性脂肪(mg/dl)d-ROMs(UCARR)2.52.01.51.00.530025020015010050高値および高脂正常値群0高値および高脂正常値群図4中性脂肪の違いによる水晶体前血症薬内服群**:p<0.01血症薬内服群**:p<0.01.中の過酸化物質総量(a)およMean±SDび各群の血液中の中性脂肪濃度中性脂肪(b)の変化(2)a:過酸化物質総量b:中性脂肪濃度(1)中性脂肪高値および高脂血症薬内服群と,中性脂肪正常値群との2****群比較.**(2)中性脂肪高値群(高脂血症薬内服3.0350中性脂肪(mg/dl)d-ROMs(UCARR)例削除),高脂血症薬内服群,中300性脂肪正常値群との3群比較.25020015010050高値群高脂血症薬正常値群0高値群高脂血症薬正常値群(内服例削除)内服群(内服例削除)内服群*:p<0.05.**:p<0.01*:p<0.05.**:p<0.01Mean±SD中性脂肪566あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(132) (1)a:過酸化物質総量b:尿酸濃度3.5**3.02.52.01.51.00.5高値および121086420尿酸(mg/dl)d-ROMs(UCARR)0高値および正常値群正常値群図5尿酸の違いによる水晶体前.中の痛風薬内服群**:p<0.01痛風薬内服群過酸化物質総量(a)および各群のMean±SD血液中の尿酸濃度(b)の変化尿酸(1)尿酸高値および痛風薬内服群と,尿酸正常値群との2群比較.(2)a:過酸化物質総量b:尿酸濃度(2)尿酸高値群(痛風薬内服例削除),痛3.5**0高値群痛風薬内服群正常値群121086420尿酸(mg/dl)高値群d-ROMs(UCARR)d-ROMs(UCARR)風薬内服群,正常値群との3群比較.図6尿素窒素の違いによる水晶体前.中の過酸化物質総量(a)および各群の血液中の尿素窒素濃度(b)の変化3.02.52.01.51.00.5痛風薬内服群正常値群(内服例削除)*:p<0.05(内服例削除)*:p<0.05Mean±SD尿酸a:過酸化物質総量b:尿酸窒素濃度3.035**尿素窒素(mg/dl)302.52.01.51.00.52520151050高値群各群の尿酸濃度は,高値および痛風薬内服群と正常値群の2群比較では有意差はなかった〔図5(1)-b〕が,尿酸高値群,痛風薬内服群,正常値群の3群比較では有意差があり(p<0.05)〔図5(2)-b〕,その後の多重比較で,尿酸高値群(痛風薬内服例削除)が正常値群に比べ有意に高値であった〔図5(2)-b〕.②尿素窒素尿素窒素については,血液中の尿素窒素の濃度は,尿素窒素高値群と正常値群で有意差があった(p<0.01)が,水晶体前.中の過酸化物質総量は,尿素窒素高値群と正常値群で有意差はなかった(図6-a,b).(133)正常値群0高値群正常値群**:p<0.01Mean±SD尿素窒素2.水晶体前.中の過酸化物質総量と,血液中の脂質・尿酸など各測定項目および年齢との相関関係水晶体前.中の過酸化物質総量と血液中の各測定項目および年齢との相関関係については,水晶体前.中の過酸化物質総量と血液中の中性脂肪(r=0.41,p<0.05),過酸化物質総量と尿酸値(r=0.50,p<0.01)は,各々正の相関がみられた(図7-b,c).水晶体前.中の過酸化物質総量は,血液中の総コレステロール,尿素窒素,蛋白質総量,年齢との相関はなかった(図7-a,d.f).あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012567 abcd-ROMs(UCARR)3.02.52.01.51.00.500100200300400コレステロール(mg/dl)3.02.52.01.51.00.50d-ROMs(UCARR)0100200300400中性脂肪(mg/dl)3.53.02.52.01.51.00.50d-ROMs(UCARR)0246810246810尿酸(mg/dl)00102030403.02.52.01.51.00.50d-ROMs(UCARR)0e3.02.52.01.51.00.50d-ROMs(UCARR)405060708090100fr=0.41p<0.05r=0.50p<0.01d3.0d-ROMs(UCARR)2.52.01.51.00.5尿素窒素(mg/dl)蛋白質総量(g/dl)年齢(歳)図7血液中のコレステロール(a),中性脂肪(b),尿酸(c),尿素窒素(d),蛋白質総量(e)および年齢(f)と,水晶体前.中の過酸化物質総量との相関関係III考按糖尿病白内障の水晶体では高血糖の持続によりglycationが進行し,スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)など抗酸化酵素もglycationされて不活性化するため過酸化反応が進行しやすく,glycationの後期反応産物であるadvancedglycationendproducts(AGEs)のうち,glycationにoxidationが関与して産生されるglycoxidationの産物であるペントシジンの増加が報告されている18).また,糖尿病白内障では加齢白内障に比べ過酸化脂質や過酸化水素が高値であること1,19)や,水晶体の過酸化脂質は,糖尿病白内障では同年齢層の加齢白内障に比較して約2倍に増量している報告もある20).核酸も過酸化反応により非特異的な切断・変異などが生じることが知られており,核酸の過酸化物質としては,DNAの構成塩基の一種であるデオキシグアノシンの過酸化物の一種である8-OHdG(8-hydroxydeoxyguanosine)がよく知られている.8-OHdGは過酸化反応によるDNA損傷の指標としてさまざまな報告があり,ヒト水晶体上皮細胞でもDNA損傷のマーカーとして用いられている21).蛋白質・ポリペプチド・ペプチド・アミノ酸の過酸化物質については,システイン・メチオニン・チロシン・トリプトファン残基が,活性酸素による非酵素的・非特異的な変成,切断,凝集などによりさまざまな過酸化物が生じる.血液中には血漿蛋白質由来のadvancedoxidationproteinproducts(AOPP)11)などの他,さまざまな蛋白質の過酸化物が存在し,過酸化反応によるリジン・アルギニン残基のカルボニル化修飾も知られ,蛋白質だけでなく,酸化型のポリペプチドやアミノ酸も存在する.水晶体では,SH基を含む含硫アミノ酸のシステイン・メチオニン残基については,コントロール群に比べ白内障群のSH基の有意な低下22)や,過酸化反応による蛋白質・ペプチドの含硫アミノ酸の低下とS-S結合性架橋の増加と蛋白質の不水溶化,トリペプチドの還元型グルタチオン(GSH)から酸化型グルタチオン(GS-SG)への移行など,SH基の過酸化によるさまざまな報告23)がある.その他,トリプトファン残基の過酸化などによる水晶体の自発蛍光の増加と不水溶性蛋白質の増加23,24)や,リジン・アルギニン残基の過酸化によるカルボニル化修飾としてAGEs性架橋物質の一種のペントシジンも白内障眼の水晶体に存在18)し,過酸化反応によりS-S結合性架橋に加えAGEs性架橋も増加することが蛋白質の凝集による不水溶化など酸化変性を生じる一因と考えられている.このようにさまざまな過酸化反応の指標や現象が,各々個別あるいは数種を組み合わせての報告はなされているが,脂質・蛋白質・ペプチド・核酸などに生じたさまざまな過酸化物質の各々の値ではなく,totalとして全体的な過酸化の程度を捉えることも非常に重要であると考え,今回筆者らは白内障水晶体の過酸化物質の総量を初568あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(134) めて明らかにした.本研究結果から,DM群では,水晶体前.片における過酸化物質総量が非DM群に比較し有意に高値であることが確認された.そのため,水晶体の前.においても過酸化反応が進行し,過酸化脂質・過酸化水素だけでなく,核酸や蛋白質・ポリペプチドの過酸化物質も増加している可能性が高いと考えられる.「はじめに」に記載した水晶体中に存在するHNE,HAEについての動物モデルのラットの報告では,ストレプトゾトシン誘発の糖尿病ラットの水晶体中のMDA,あるいはMDAとHAEは,双方ともコントロールに比べ有意に高値であること5)や,抗酸化酵素の低下により活性酸素が発生しやすいラットで,水晶体中のHNEがコントロールに比べて有意に多く存在すること6)などが報告されている.そのラットは,ガラクトース白内障モデルのラットからグルコースの調節を上昇させて血糖値は正常であるが,ヘキソース輸送ポートの変異機能があり,活性酸素の亢進により細胞内にグルコースその他の六単糖が蓄積するといわれている.これらの報告と本検討では種が異なり,また前述のようにMDA,HNE,HAEは過酸化脂質の代謝産物のアルデヒドで,過酸化物質そのものではないため,過酸化物質の全体の量について検討した本研究結果と直接の比較はできないが,同様の傾向を示し,特に,その抗酸化酵素の低下しているラットでは,過酸化反応により断片化し変性したDNAの増加も確認されていて,細胞内の高レベルの活性酸素により,酸化された蛋白質,過酸化脂質,DNAの酸化変性によって細胞の構造や機能が障害され白内障になると考えられており6),本研究結果を裏付ける報告と考えられる.つぎに全身状態の水晶体に与える影響についてであるが,中性脂肪が高値である高脂血症や動脈硬化などでは過酸化反応が進行することが知られており25),今回の水晶体前.片の過酸化物質総量が血中の中性脂肪と正の相関を示し,中性脂肪高値・高脂血症薬内服群で正常値群に比べ有意に高値であるという結果は,血中の中性脂肪が高値であるほど水晶体前.片の過酸化物質総量が高値であり,水晶体の過酸化の程度は全身の過酸化反応の影響を密接に受けているものと考えられた.コレステロールについては,対象全体の検討では水晶体前.中の過酸化物質総量との相関はなかったが,高脂血症薬内服群で水晶体前.中の過酸化物質総量が有意に高値であるという興味深い結果が得られた〔図3(2)-a〕.高脂血症薬内服群では,中性脂肪に着目して分けた場合も,水晶体前.中の過酸化物質総量が正常値群に比較して有意に高値であるという同様の結果が得られており,高脂血症薬の内服が必要となるほど血中脂質が高値であった場合は,水晶体前.でも過酸化がかなり進行していることが示唆された.脂質の組織への輸送は正常な視機能の維持のために必須であるといわれ(135)ており,血液中の脂質は水溶性のアポ蛋白質と結合したリポ蛋白質として輸送され,リポ蛋白質のうちのHDL(高比重リポ蛋白質)はヒト房水中で存在が確認されている26).本学でも白内障眼の房水と水晶体でリポ蛋白質の一種のLp(a)の存在27)や,水晶体では加齢白内障に比べ糖尿病白内障でLDL(低比重リポ蛋白質)とVLDL(超低比重リポ蛋白質)が増加していることを報告している28).ヒトの血漿リポ蛋白質のおもな脂質はすべて房水中にも存在し,ヒト白内障眼の房水中では,中性脂肪のトリグリセライド2.0mg/dl,遊離型とエステル型を含めた総コレステロール10.7mg/dlの他,リン脂質2.5mg/dlや脂肪酸1.1mg/dlの存在が報告されている29).糖尿病では血液中の中性脂肪のコントロールが悪い例が多く30),高頻度に高脂血症を伴い,動脈硬化性疾患を合併しやすいこと31),健常者に比べトリグリセライドが有意に高いことも報告されており32),高カロリー・高脂質の状態では,肥大した脂肪細胞から遊離脂肪酸,TNF-a(腫瘍壊死因子a),resistenなどのインスリン抵抗性を惹起する分子の大量生産と分泌が生じ,肝細胞への脂肪蓄積によりインスリン抵抗性が増して肝機能および脂質代謝の異常を惹起することが知られ,糖尿病における高脂血症および肝機能障害33)も報告されており,これらの生活習慣病が水晶体においても,単独あるいは相互に水晶体の過酸化状態に影響を与えていることが本研究結果から明らかとなった.痛風など尿酸が高値であるものでは,過酸化反応の進行が報告されており34),本研究結果においても,水晶体の前.片の過酸化物質総量と血中の尿酸値が有意な正の相関を示し,尿酸高値・痛風薬内服群が正常値群に比べ過酸化物質総量が有意に高値であったことは,糖尿病,中性脂肪と同様に,尿酸についても全身の過酸化反応の影響が水晶体にも及んでいることが考えられる.例数が少ないため,参考資料としてであるが,尿酸高値群,痛風薬内服群,尿酸正常値群で有意差があったことも,尿酸と水晶体の過酸化反応との関連を支持する結果であると考えられる.一方,尿酸は抗酸化物質の一種ともいわれていて,尿酸の抗酸化の機序としては,尿酸はFe3+の鉄イオンと安定な複合体を形成して遊離のFe3+が触媒するl-アスコルビン酸の酸化や脂質の過酸化を阻止し35),遊離の鉄イオンが触媒するフェントン反応により発生するHO・や,一重項酸素などの生成の抑制も示唆されている.しかし,尿酸の抗酸化作用の報告はほとんどがinvitroの系であり,生体内でのinvivoの系としてはまだ見解が定まっていない.その大きな要因としては,尿酸はその生成段階で,フリーラジカルの一種のsuperoxideを産生してしまうため,単純に抗酸化物質として捉えることはできない.尿酸は,血液・尿・肝臓などに含まれる酸化プリンを尿酸に変化させる酸化酵素のキサンチンあたらしい眼科Vol.29,No.4,2012569 オキシダーゼによってヒポキサンチンやキサンチンから生成され,この過程で同時に産生されるsuperoxideや,さらにsuperoxideから派生した一重項酸素の過酸化反応により過酸化脂質の生成が認められており36),血清過酸化脂質量が多いほど血清尿酸値も高値を示すと報告されている34).水晶体では,鉄イオンだけでなく,同様に過酸化反応を進行させる銅イオンと白内障の混濁部位との関係が報告されており37),糖尿病者の白内障水晶体では,銅イオンの増加も報告されている38).銅イオンはグルタチオンと錯体を形成し,そのグルタチオンの銅錯体は糖尿病者の白内障水晶体からも検出されている39).遊離の銅イオンは,鉄イオンと同様に,HO・を生成するフェントン様反応やl-アスコルビン酸の酸化や脂質の過酸化反応を触媒するが,グルタチオンによる銅との錯体の形成でこれらの過酸化反応の進行が阻止され,尿酸による鉄イオンとの複合体形成による抗酸化作用と似ている.しかし,決定的に異なる点は,尿酸はその形成過程でsuperoxideが産生されてしまうが,還元型グルタチオンはそれ自体がsuperoxide消去物質の一種で,グルタチオン-銅錯体になるとさらに高いsuperoxide消去能をもつ強力な抗酸化剤である40)というところで,糖尿病白内障では還元型グルタチオンの低下も報告されている1,19).これらの報告から,尿酸は房水を介して,水晶体内で増加した鉄イオンに対処するため能動輸送,あるいは非能動的な流入が考えられるが,尿酸の形成過程でsuperoxideが産生され,そこから派生した一重項酸素などによりさらに過酸化反応が進行し,水晶体前.の過酸化物質総量と正の相関を示した可能性が考えられる.また,水晶体では尿酸だけでは増加した鉄イオンと複合体を形成しきれなくて遊離のFe3+が発生し,そのFe3+を介してl-アスコルビン酸の酸化や脂質の過酸化,フェントン反応によるHO・の発生や,一重項酸素の増加により,過酸化反応が脂質・核酸・蛋白質・ポリペプチドなど広範囲に進行した可能性も推察された.このことから,血液中の尿酸値と水晶体の過酸化物質総量が有意な相関を示したと考えられる.一方,血液中の尿酸がどのようにして血液を介さない水晶体に影響するかであるが,水晶体は,代謝維持のために物質を水晶体内で生合成するほかに,硝子体や房水の影響を強く受けている1).白内障ではなく,正常値群での検討であるが,尿酸の血漿中濃度は3.3.6.5mMで,房水中の濃度は4.1mMと報告されており41),正常時には,房水中の尿酸濃度は血漿濃度の範囲内にあるようである.また,正常者では房水中のグルコース濃度は血漿中の60.70%と報告されている41).しかし,房水は血液の影響を強く受けるため,種々の病的因子により血液成分が変動すると房水の組成も変化する42).血液網膜柵や血液房水柵が老化や炎症などにより破綻すると,硝子体,570あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012房水への物質移動調整機構は崩壊し,糖尿病では血液房水柵が破綻していることが多く,房水中に移行しやすいとも報告されている38),非糖尿病でも過酸化反応が進行すると,oxidationにより血液房水柵が破綻する可能性が高いと考えられるため,今回,血液中の尿酸値が高値であった例では,同様に房水中の尿酸値も高くなっている可能性が高いと考えられる.一方,血液房水柵が破綻していない場合としては,房水内あるいは水晶体内での過酸化反応消去過程の一環として尿酸が関与し,眼外への排出過程として血液中に尿酸が排出されている可能性も考えられる.水晶体内で進行した過酸化反応の程度を反映して水晶体における過酸化物質の総量が増加し,その過酸化反応に対するフィードバック作用として,l-アスコルビン酸の酸化や脂質過酸化を抑制するためにFe3+の鉄イオンと複合体を形成する尿酸の水晶体中の濃度が増加し,鉄イオンと複合体を形成した尿酸を,房水-血液を介して体外へ排出するための過程として,血液中の尿酸の濃度が増加していることも考えられ,水晶体中の過酸化反応の程度と血液中の尿酸の関連性がみられた可能性も推察される.以上,水晶体での過酸化物質総量は,DM群,中性脂肪・尿酸の高値群で有意に高値で,中性脂肪・尿酸値と正の相関があり,DM32)や中性脂肪25)・尿酸36)の高い例では,全身的に過酸化反応が進行しているといわれているため,全身的な過酸化の状態と,水晶体前.における過酸化物質の変動は密接に関与していることを本研究にて新たに明らかにした.稿を終えるにあたり,本研究において御教示賜りました獨協医科大学越谷病院眼科門屋講司准教授,原眼科病院原岳先生,ローマ大学のEugenioLuigiIorio名誉教授に深謝致します.本論文の要旨は第49回日本白内障学会総会において報告した.文献1)小原喜隆:活性酵素・フリーラジカルと白内障.日眼会誌99:1303-1341,19952)TruscottRJ:Age-relatednuclearcataract-oxidationisthekey.ExpEyeRes80:709-725,20053)BosciaF,GrattaglianoI,VendemialeGetal:Proteinoxidationandlensopacityinhumans.InvestOphthalmolVisSci41:2461-2465,20004)門屋講司:酸化ストレスと水晶体混濁.あたらしい眼科15:631-634,19985)ObrosovaIG,FathallahL:Evaluationofanaldosereductaseinhibitoronlensmetabolism,ATPasesandantioxidativedefenseinstreptozotocin-diabeticrats:aninterventionstudy.Diabetologia43:1048-1055,20006)StefaniaM,RudolfIS,CraigAetal:Cataractformationinastrainofratsselectedforhighoxidativestress.ExpEyeRes79:595-612,2004(136) 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