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乳癌原発の転移性脈絡膜腫瘍に対し,ベバシズマブ硝子体内投与が奏効した1例

2017年9月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科34(9):1327.1329,2017c乳癌原発の転移性脈絡膜腫瘍に対し,ベバシズマブ硝子体内投与が奏効した1例堀内直樹*1,2,5富田洋平*1,5奥村良彦*2,4,5戸倉英之*3篠田肇*5坪田一男*5小沢洋子*5*1川崎市立川崎病院眼科*2足利赤十字病院眼科*3足利赤十字病院外科*4埼玉メディカルセンター眼科*5慶應義塾大学医学部眼科学教室CACaseofMetastaticChoroidalTumorSecondarytoBreastCancerTreatedbyIntravitrealBevacizumabNaokiHoriuchi1,2,5)C,YoheiTomita1,5)C,YoshihikoOkumura2,4,5)C,HideyukiTokura3),HajimeShinoda5),KazuoTsubota5)CandYokoOzawa5)1)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMunicipalHospital,2)DepartmentofOphthalmology,AshikagaRedCrossHospital,3)DepartmentofSurgery,AshikagaRedCrossHospital,4)DepartmentofOphthalmology,SaitamaMedicalCenter,5)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine乳癌原発の転移性脈絡膜腫瘍に対し,ベバシズマブ硝子体内投与が奏効したC1例を経験したので報告する.症例は67歳,女性で,初診時の矯正視力は右眼(0.5p),左眼(1.2)であり,両眼の眼底に漿液性網膜.離を伴う腫瘍を認めた.乳癌原発の転移性脈絡膜腫瘍と診断され,両眼に放射線療法を施行されたが,右眼は全網膜.離となり,視力は光覚弁となった.左眼の視力は(1.2Cp)を維持していたが腫瘍の大きさは変わらなかった.ベバシズマブC1.25Cmg硝子体内投与を両眼にそれぞれC2回施行した.初回の投与で両眼の網膜下液は減少し,左眼の腫瘍径は縮小した.2回目の投与後には,右眼の網膜下液のさらなる減少と,左眼の網膜下液の消失,および腫瘍による隆起の消失が得られた.本症例ではベバシズマブ硝子体内投与が乳癌原発の転移性脈絡膜腫瘍による滲出性変化の抑制と腫瘍の縮小に効果を示した.CWeCreportCtheCcaseCofCaC67-year-oldCfemaleCwithCbilateralCmetastaticCchoroidalCtumorsCsecondaryCtoCbreastcancertreatedbyintravitrealbevacizumabinjections.At.rstvisit,herbest-correctedvisualacuity(BCVA)was(0.5p)righteyeand(1.2)lefteye.Althoughbotheyeshadreceivedradiation,herrightBCVAdiminishedtolightperceptionduetototalretinaldetachment;herlefteyealsohadretinaldetachmentandtherewasnoreductionintumorCsizeCbutCherCleftCBCVACremained(1.2)atCthisCtime.CSheCtwiceCreceivedCbilateralCintravitrealCbevacizumab(IVB)injections(1.25mg)C.Afterthe.rstinjection,serousretinaldetachmentinbotheyesandtumorsizeinherlefteyedecreased.Afterthesecondinjection,serousretinaldetachmentwasfurtherreducedinbotheyes,andthetumorinherlefteyewas.attened.TheIVBwase.ectiveintreatingchoroidaltumorssecondarytobreastcancer.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(9):1327.1329,C2017〕Keywords:転移性脈絡膜腫瘍,ベバシズマブ,乳癌,滲出性網膜.離,腫瘍縮小.metastaticchoroidaltumor,bevacizumab,breastcancer,exudativeretinaldetachment,tumorregression.Cはじめに転移性脈絡膜腫瘍は,眼内の腫瘍のなかでもっとも頻度が高い1,2).原発巣としては肺癌や乳癌の比率が高く,両者で80%に及ぶ.眼底所見の特徴は,黄白色の扁平な円形隆起で,進行すると軽度から高度の滲出性網膜.離を伴うことがあり,黄斑部に網膜.離が及ぶと変視や視力低下をきたしうる.ベバシズマブ(AvastinCR,Genentech,USA)は,血管内皮細胞増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfactor:VEGF)に対するモノクローナル抗体で,VEGFファミリーのうち〔別刷請求先〕堀内直樹:〒210-0013神奈川県川崎市川崎区新川通C12-1川崎市立川崎病院眼科Reprintrequests:NaokiHoriuchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KawasakiMunicipalHospital,12-1Shinkawadori,Kawasaki-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa210-0013,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(115)C1327VEGF-Aに結合し,VEGF-Aが受容体(VEGFR-1,VEGFR-2,ニューロピリン)に結合するのを阻害する.この結果,腫瘍血管新生,腫瘍増殖,転移の抑制効果があると考えられている3).眼科領域においてベバシズマブ硝子体内投与は適応外(o.Clabel)使用であるが,糖尿病網膜症4),網膜静脈閉塞症4),未熟児網膜症4),Coats病4)など,その病態に血管新生や血管透過性亢進が関与する疾患に対しての有効性が報告された.しかし,転移性脈絡膜腫瘍に対するベバシズマブ硝子体内投与の有用性を報告する例は,海外,国内ともに少数である5).今回筆者らは,乳癌を原発とする転移性脈絡膜腫瘍および随伴する滲出性網膜.離に対してベバシズマブ硝子体内投与を施行し,早期に滲出性網膜.離の減少および腫瘍の縮小が得られたので報告する.なお,本研究は足利赤十字病院倫理委員会の承認のもとに行われた.CI症例患者:67歳,女性.現病歴:2006年,足利赤十字病院外科で右乳癌と診断された.このときの臨床病期はCT2N0M0であり,化学療法(エ図1初診時の所見a:右眼の眼底写真.下方に広がる漿液性網膜.離を認める.Cb:左眼の眼底写真.アーケード上方,および耳側に円形の隆起病変を認める(.).c:左眼のCBモード超音波断層検査.耳側に充実性の隆起を認める.Cd:左眼のフルオレセイン蛍光眼底造影写真(早期).隆起部に一致して多発点状の過蛍光を認める(.).e:頭部CCT.右眼に充実した腫瘍病変を認める(.).左眼の腫瘍はこのスライスでは描出されていない.Cf:初診時からC1カ月後の左眼のCOCT所見.隆起性病変があり(.),網膜下液が出現し,黄斑部に迫っている.Cピルビシン+ドセタキセル)を施行後,同年C6月に乳房部分切除術+腋窩リンパ節郭清が施行された.病理結果から充実腺管癌と診断され,エストロゲン受容体(+),プロゲステロン受容体(C.),ヒト上皮成長因子受容体タイプC2(humanepidermalgrowthfactorreceptorType2:HER2)(1+)であった.外科手術後はホルモン療法(アロマターゼ阻害薬)後,1年にC1回程度の定期通院をしていた.2014年C2月頃より右眼の視野障害を自覚し,近医眼科で右網膜.離および脈絡膜腫瘍を指摘され,同年C3月に足利赤十字病院眼科を紹介され受診した.初診時所見:最高矯正視力は右眼C0.4(0.5pC×sph+2.25D(cyl.1.25DCAx90°),左眼0.9(1.2pC×(cyl.1.25DCAx80°)で,眼圧は右眼C12CmmHg,左眼C17CmmHgであった.前房内には異常がなく,軽度白内障を認めた.右眼の眼底には下方に広がる漿液性網膜.離を(図1a),Bモードエコー上では内部が均一な,充実性のドーム型の隆起病変を認めた.左眼の眼底には,アーケード耳側,および上方にそれぞれC4乳頭径,3乳頭径程度の黄白色の隆起病変を(図1b),Bモードエコー上では,右眼同様充実性の隆起病変を(図1c)認めた.初診時の左眼のCOCTでは,黄斑部耳側にドーム状の隆起がみられた.フルオレセイン蛍光眼底造影検査では,左眼に早期に腫瘍部に一致した境界明瞭で,内部が不均一な過蛍光を認め,また辺縁部は網膜下液に伴う低蛍光で縁取られていた(図1d).また,前医で施行された頭部CCTでは,両眼に内部均一なドーム状の高吸収域が確認された(図1e).以上の所見より,乳癌を原発とする転移性脈絡膜腫瘍および滲出性網膜.離と診断された.臨床経過:2014年C4月には右眼の網膜.離が進行して黄斑部に至り,最高矯正視力が(0.05)と低下した.左眼の腫瘍は増大し,漿液性網膜.離が増悪した(図1f).乳腺外科で施行された採血検査で血中のCCEAの急激な上昇を認めたため,ホルモン療法(アロマターゼ阻害薬)が再開された.また,両眼に合計C45CGy/25Cfrの放射線療法が施行された.その後COCT上,左眼の漿液性網膜.離は改善したが,腫瘍による隆起は縮小しなかった.5月初旬の受診時には右眼が全網膜.離になり,細隙灯顕微鏡による診察では,.離した網膜が水晶体の後方にまで迫っているのが確認された.その後も定期的な診察が継続されたが,7月の診察時には,右眼の視力は光覚弁となり,全網膜.離の状態に大きな変化はなかった.左眼の矯正視力は(1.2Cp)で,漿液性網膜.離はある程度改善したものの,腫瘍径は縮小しなかった.そこで滲出性変化の抑制および腫瘍径の抑制を期待して,2014年C10月に,インフォームド・コンセントを得たうえで,両眼に対し初回のベバシズマブC1.25Cmg硝子体内投与を施行した.1328あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017(116)投与からC9日目の診察時には,右眼の漿液性網膜.離の丈は低下した.左眼眼底の腫瘍の隆起は縮小傾向であり,OCTにおいても左眼の隆起の縮小が確認された.同年C11月にC2回目のベバシズマブC1.25Cmgの硝子体注射を両眼に施行したところ,2015年C2月の診察時には,眼底所見上は左眼の隆起は消失し(図2a),FAG上では顆粒状の過蛍光の部位が縮小し(図2b),OCTでは,漿液性網膜.離の消失および隆起の平坦化を得た(図2c).このときの最高矯正視力は右眼C30Ccm手動弁(矯正不能),左眼(1.2p)であった.その後定期受診を予定していたが,本人の意向により2015年C4月以降は眼科を受診していない.なお,ベバシズマブ硝子体内投与後の観察期間において細菌性眼内炎,網膜.離,高眼圧,白内障などの眼局所の合併症,および脳血管疾患などの全身の合併症は生じなかった.CII考按本症例では,ベバシズマブ硝子体内投与により乳癌原発の転移性脈絡膜腫瘍に続発した滲出性網膜.離の減少,腫瘍の縮小が得られ,左眼の視力が維持された.Augustineらは,眼内転移性腫瘍に対する抗CVEGF薬の硝子体内投与により,59%の症例で視力の改善を,またC77%で腫瘍径の縮小を,45%で滲出性網膜.離の改善を得られたと報告した6).しかしながら,Maudgilらは,乳癌,肺癌,大腸癌の脈絡膜転移をきたしたC5例に対しベバシズマブの硝子体内投与を施行したが,4例において腫瘍の増悪,および視力の悪化がみられたことを報告している7).理由として,加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫と異なり,転移性腫瘍の場合,網膜色素上皮の障害は比較的軽度であり外側血液網膜関門(outerCblood-retinaCbarrier:outerCBRB)に障害をきたしていないため,ベバシズマブが脈絡膜にある腫瘍本体に到達しない可能性があると推察している7).本症例では漿液性網膜.離を伴っており,outerCBRBに障害をきたしていると考えられ,腫瘍本体へのドラッグデリバリーが良好であった可能性があった.脈絡膜転移は比較的放射線感受性が高いとされており,奏効率はC63.89%とされる8).しかし,本症例の場合,とくに左眼の漿液性網膜.離の進行がある程度抑えられ,視力が維持されたものの,両眼において腫瘍の縮小は得られず,右眼で滲出性変化の増悪を抑制することはできなかった.放射線療法は許容できる照射線量に限界があり,追加の照射をする場合,正常組織への放射線毒性が懸念される9).一方,ベバシズマブの硝子体内投与は繰り返し施行が可能であり,また治療の即効性,効果,副作用および治療の合併症の発症頻度を考えても,検討すべき治療法であるといえる10).現時点では脈絡膜転移は悪性腫瘍の末期における一徴候との認識があるが,従来に比較すると近年では抗癌剤をはじめ(117)図2ベバシズマブ硝子体内投与後(2回目)の所見a:左眼の眼底写真.隆起はほぼ消失している.Cb:左眼のフルオレセイン蛍光眼底造影写真(早期).顆粒状の過蛍光は縮小傾向である.c:左眼のCOCT所見.ほぼ平坦化している.Cとする癌治療の進歩により生命予後が長くなってきた.そのため転移性脈絡膜腫瘍をきたした患者も,その後のCqualityofvision(QOV)の維持や改善の重要性は今後も高まっていくものと考える.ベバシズマブ硝子体内投与が転移性脈絡膜腫瘍の患者のCQOVを改善する治療法の一つとなる可能性を,今後も研究する必要があると考える.文献1)FerryAP,FontRL:Carcinomametastatictotheeyeandorbit.I.Aclinicopathologicstudyof227cases.ArchOph-thalmolC92:276-286,C19742)BlochCRS,CGartnerCS:TheCincidenceCofCocularCmetastaticCcarcinoma.ArchOphthalmolC85:673-675,C19713)LienCS,CLowmanCHB:TherapeuticCanti-VEGFCantibodies.CHandbExpPharmacol181:131-150,C20084)木村修平,白神史雄:【抗CVEGF薬による治療】ベバシズマブのオフラベル投与.あたらしい眼科C32:1083-1088,C20155)稲垣絵海,篠田肇,内田敦郎ほか:滲出性網膜.離に対してベバシズマブ硝子体内投与が奏効した転移性脈絡膜腫瘍のC1例.あたらしい眼科C28:587-592,C20116)AugustineCH,CMunroCM,CAdatiaCFCetCal:TreatmentCofocularCmetastasisCwithCanti-VEGF:aCliteratureCreviewCandcasereport.CanJOphthalmolC49:458-463,C20147)MaudgilCA,CSearsCKS,CRundleCPACetCal:FailureCofCintra-vitrealCbevacizumabCinCtheCtreatmentCofCchoroidalCmetas-tasis.Eye(Lond)C29:707-711,C20158)荻野尚,築山巌,秋根康之ほか:脈絡膜転移の放射線治療.癌の臨床C37:351-355,C19919)ZamberCRW,CKinyounCJL:RadiationCretinopathy.CWestCJCMedC157:530-533,C199210)山根健:Therapeutics抗CVEGF薬でみる硝子体内薬物注射の基本硝子体注射によって起こりうる副作用・合併症.眼科グラフィックC2:165-168,C2013あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017C1329

転移性結膜腫瘍の1例

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(125)14530910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14531456,2008cはじめに近年悪性新生物の罹患率が上昇し,また一方で5年生存率が向上しており1),これに伴い全身諸臓器への転移巣が発見される機会も増加している26).眼部腫瘍のなかで転移性腫瘍は近年増加しており,Shieldsらの報告によれば7%を占めている3).原発巣として男性では肺癌が,女性では乳癌が最多とされ,眼部の転移巣としてはぶどう膜,ついで眼窩が多く,結膜転移はまれである4).今回筆者らは,乳癌の転移性結膜腫瘍の症例を経験し,原発巣と転移巣の組織像を比較検討したので報告する.I症例患者:55歳,女性.主訴:右眼異物感.現病歴:2007年5月22日右眼の異物感を自覚し,近医眼科を受診したところ右眼球結膜に腫瘤を指摘され,同年6月8日当科を紹介受診した.既往歴:2005年2月に左乳癌に対し乳房切除術を受け,2007年2月に胸腰椎・肝・肺転移と診断され,化学療法を施行されていた.〔別刷請求先〕高山圭:〒664-0012伊丹市緑ヶ丘6-46-1-1-201Reprintrequests:KeiTakayama,M.D.,46-1-1-201-6-chome,Midorigaoka,Itami-shi,Hyogo664-0012,JAPAN転移性結膜腫瘍の1例高山圭*1鷲尾紀章*1小島照夫*1若栗隆志*1勝本武志*1石田政弘*1西川真平*1沖坂重邦*1,2*1防衛医科大学校眼科学教室*2眼病理教育研究所ACaseofMetastaticConjunctivalTumorKeiTakayama1),NoriakiWashio1),TeruoKojima1),TakashiWakaguri1),TakeshiKatsumoto1),MasahiroIshida1),ShimpeiNishikawa1)andShigekuniOkisaka1,2)1)DepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollege,2)LaboratoryofOphthalmicPathologyEducation乳癌の転移性結膜腫瘍の1症例を経験した.症例は55歳,女性.右眼の異物感を自覚し近医で右結膜腫瘤を指摘され,2006年6月紹介受診した.既往歴として,2005年2月左乳癌に対し左乳房切除術を施行され,2007年2月に胸腰椎・肝・肺転移の診断を受け化学療法が施行されている.初診時,右眼上耳側に結膜腫瘤を認め,弾性硬,境界明瞭で可動性があった.右結膜腫瘤摘出術を施行.腫瘤は結膜下組織にあり,Tenon・強膜に癒着はなく一塊として摘出された.腫瘤はマクロでは黄色調,弾性硬であり,ミクロでは胞巣は腺管構造を形成し,索状・小塊状・篩状増殖を呈し組織全体に浸潤した低分化腺癌を示し,原発巣の乳癌のものと一致したため転移性腫瘍と診断した.乳癌の眼部への転移先には,ぶどう膜が最も多く,ついで眼窩,視神経であり結膜転移はまれである.結膜腫瘤を認め,悪性腫瘍の既往歴がある際は転移性腫瘍の可能性を考慮すべきである.Wereportacaseofmetastaticconjunctivaltumorina55-year-oldfemalewhopresentedwithforeign-bodysensationinherrighteye.Shehadundergonesurgeryforleft-breastcancerinwhichmultiplemetastaseswerediscovered,andhadbeentreatedwithchemotherapy.Thepresenttumorwasfoundinthesuperotemporalcon-junctivaofherrighteyeandwasnotadherenttothebulbarconjunctivaortheunderlyingsclera.Thetumorwasyellowincolor,plateaushapedandmobile.Pathologicalexaminationshowedthetumortobepoorlydierentiatedadenocarcinoma,thesameasinthebreastcarcinomaexcised2yearspreviously.Metastasestotheeyeandadnexaaregenerallyfoundintheintraocularstructureandorbit;metastasestotheconjunctivaareextremelyrare.Thepresenceofaconjunctivalmassshouldalerttheophthalmologisttothepossibilityofconjunctivalmetastasis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14531456,2008〕Keywords:結膜腫瘍,乳癌,転移.conjunctivaltumor,breastcancer,metastasis.———————————————————————-Page21454あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(126)家族歴:特記事項はなし.初診時所見:視力は右眼(1.2×1.00D(cyl1.75DAx90°),左眼(1.2×+0.25D(cyl2.50DAx85°).眼圧は右眼14mmHg,左眼15mmHg.眼位・眼球運動に異常はみられなかった.右眼上耳側の球結膜に約10×6mm大の腫瘤があり(図1),弾性硬,境界明瞭,可動性良好であり,腫瘤上の結膜血管の拡張が観察された.中間透光体および眼底には異常がなかった.経過:複数臓器への転移があることから乳癌の結膜転移の可能性が最も考えられた.本人が異物感の改善のみを希望したため,2007年6月15日単純切除術を施行した.術中所見では,腫瘤は結膜下組織中にありTenon・強膜との癒着はなかった.組織病理所見:結膜腫瘤は大きさが10×6×5mmで黄色調,弾性硬であった(図2).胞巣構造の腫瘍細胞塊が標本全体に認められ,一部で篩状・索状を呈していた(図3a).索状の浸潤部では,腫瘍細胞の間に線維性間質を認め,硬性癌の組織像を呈していた.塊状を呈している部分では核の異型性が強く,有糸様分裂も多く認められた(図3b).腫瘍の中央に壊死も認められた.これら病理所見は浸潤性乳管癌の転移として矛盾しない所見であった.平成17年に切除された原発巣である乳癌の病理所見(図4)は,腫瘍細胞が管状・塊状となり,胞巣構造を呈している部分と硬性癌を呈している部分が混在していた.Her-2/neu(3+),estrogenrecep-tor(ER)(),progesteronereceptor(PgR)()の乳管癌であり,今回の組織病理所見と一致していた.結膜腫瘍の病理所見が原発巣と一致したこと,乳癌が肺・肝・骨に転移していることから乳癌の結膜転移と診断した.術後,主訴は消失し,その後外科で化学療法を増量し外来で経過観察を行っているが,術後6カ月(2007年1月末)の段階で眼局所の明らかな再発はみられていない.図1右外眼部写真上耳側結膜下に10×6mmの黄色調,弾性硬,境界明瞭な腫瘤を認め,可動性は良好であった.図2摘出した結膜腫瘍の実体顕微鏡写真10×6×5mmの黄色調,弾性硬であった.ab図3結膜腫瘍の病理組織の拡大像(HE染色)a:弱拡大では腫瘍細胞が結膜上皮下組織全体に認められ,小塊状,一部で篩状・索状を呈していた.b:強拡大では塊状を呈している胞巣部分では核の異形性が強く有糸核分裂も多数認められる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081455(127)II考按眼部への転移性悪性腫瘍は1872年に最初の報告があり,眼部腫瘍の8%を,眼部悪性腫瘍の約19%を占める5).悪性腫瘍の眼部への転移巣として,Castroらの報告6)によるとぶどう膜が最多(64%),つぎに眼窩(29%),視神経(3%)であり,結膜転移はその他(2%)の一部でまれな転移巣である.原発巣として乳癌が最多であり,ついで肺,消化管,腎,皮膚,前立腺との報告がある4).今回の症例では,既往に乳癌がありすでに複数臓器に転移が認められていたこと,病理所見で以前切除した乳癌と一致したことから乳癌の結膜転移と診断した.原発巣の腫瘍細胞はHer-2/neu(3+),ER(),PgR()であった.Her-2/neuの遺伝子増幅ないし蛋白過剰発現を示す乳癌は,臨床的に予後が不良であり,Her-2/neuが陽性で7),ER・PgR陰性である癌は治療抵抗性が高いこと8)が知られており,今回の症例は原発巣術後より2年3カ月で肺・肝・骨に転移をきたしており,病理学的にも臨床的にも悪性度が高いと考えられる.眼部転移を初発とし診断的切除と全身精査により原発巣が判明した症例911)も報告されており,結膜に腫瘤がみられた場合には,悪性腫瘍の既往を問うのはもちろんであるが,診断的切除を行い転移性が疑われる結果であった場合はおもに胸部・腹部を中心とした全身精査を行う必要がある.結膜に転移性腫瘍が認められた場合は他臓器へも転移をきたしている場合が多く,1996年の報告では結膜転移発見後の平均余命は9カ月であった12)が,2006年の報告では切除・放射線治療・分子標的薬による化学療法などを施行することにより5年生存率が72%,10年生存率が38%としていることもあり13),悪性度や原発巣を精査した後にQOL(qualityoflife)を高めるために適切な治療を行うことが必要であると考える.本症例では,患者の希望により放射線療法は施行されずに,化学療法が継続された.結膜下に腫瘤を認めた際には,まず局所原発性腫瘍の検索を行うが,転移性腫瘍の可能性が考えられる場合にはさらに全身検索を行う必要がある.稿を終えるにあたり,原発巣の病理標本の借用に快諾していただいた三井病院秦怜志先生に深謝いたします.文献1)国立がんセンター中央病院:主要部位別・病期別生存率.がん統計’05,p25-26,20052)工藤麻里,後藤浩,村松大弐:転移性眼窩腫瘍17例の検討.眼臨101:450-453,20073)ShieldsJA,ShieldsCL,ScartozziR:Surveyof1264patientswithorbitaltumorsandsimulatinglesion.Oph-thalmology111:997-1008,20044)FerryAP,FontRL:Carcinomametastatictotheeyeandorbit.ArchOphthalmol92:276-286,19745)高村浩:日本での眼科領域の腫瘍の現状と国際比較.あたらしい眼科19:535-541,20026)CastroPA,AlbertDM,WangWJetal:Tumormetasta-tictotheeyeandadnexsa.IntOphthalmolClin38:189-223,1982図4原発巣である乳癌の病理組織像a:腫瘍は胞巣構造の部分と硬性癌の部分が混在する乳管癌である(HE染色).b:胞巣部分では核の異型性が強くみられる(HE染色).c:胞巣構造から硬性癌に移行している部分では,腫瘍細胞はHer-2/neu免疫染色に強陽性(3+)であった.abc———————————————————————-Page41456あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(128)7)TsudaH:Prognosticandpredictivevalueofc-erb-2(HER-2/neu)geneamplicationinhumanbreastcancer.BreastCancer8:10-15,20018)ElledgeRM,GreenS,PughRetal:Estrogenreceptor(ER)andprogesteronereceptor(PgR),byligand-bindingassaycomparedwithER,PgR,pS2byimmuno-his-tochemistryinpredictingresponsetotamoxifeninmeta-staticbreastcancer:aSoutheastOncologyGroupStudy.IntJCancer89:111-117,20009)ShieldsJA,GunduzK,ShieldsCLetal:Conjunctivalmetastasisastheinitialmanifestationoflungcancer.AmJOphthalmol124:399-400,199710)ShieldsCA,ShieldsJA,GrossNAetal:Surveyof520eyeswithuvealmetastases.Ophthalmology104:1265-1276,199711)森英恵,前川直子,里田直樹ほか:眼窩内転移による症状を初発として発見された原発性肺癌の1例.日呼吸会誌41:19-24,200312)KiratliH,ShieldsCL,ShieldsJAetal:Metastaticstumorstotheconjunctiva:reportof10cases.BrJOph-thalmol80:5-8,199613)MehtaJS,Abou-RayyahY,RoseGE:Orbitalcarcinoidmetastases.Ophthalmology113:466-472,2006***