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両眼先天性鼻側視神経低形成の2例

2013年11月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科30(11):1639.1643,2013c両眼先天性鼻側視神経低形成の2例山下真理子*1湯川英一*1,2西智*1大萩豊*3,4緒方奈保子*1*1奈良県立医科大学眼科学教室*2ゆかわ眼科クリニック*3西の京病院眼科*4おおはぎ眼科クリニックTwoPatientswithCongenitalBilateralNasalOpticNerveHypoplasiaMarikoYamashita1),EiichiYukawa1,2),TomoNishi1),YutakaOhagi3,4)andNahokoOgata1)1)DepartmentofOphthalmology,NaraMedicalUniversity,2)YukawaEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,NishinokyoHospital,4)OhagiEyeClinic両眼先天性鼻側視神経低形成の2例を経験した.これまでにわが国において松本らが視神経小乳頭の先天性鼻側視神経低形成を報告しているが,今回の症例は2例4眼中3眼で視神経乳頭サイズは正常であり,動的視野検査では両眼とも光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で得られた鼻側網膜神経線維層の菲薄化に一致して,Mariotte盲点に向かう楔形の耳側視野欠損がみられた.2症例とも数年にわたり視野に変化はなく,OCTが本症の補助診断に有用であった.視神経低形成は元来,視神経線維数が減少しているため,将来緑内障を合併しやすいことも考えられる.わが国では正常眼圧緑内障の有病率が高いことも考え合わせると今後も定期的な観察が必要と思われた.Weencountered2patientswithbilateralnasalopticnervehypoplasia.Matsumotoetal.reportedcongenitalnasalopticnervehypoplasiawithsmallopticdiscinJapan,butdiscsizewasnormalin3ofthe4eyesofourpatients.Moreover,dynamicperimetrydisclosedawedge-shapeddefectofthetemporalvisualfieldtowardtheMariotteblindspot,bilaterally,thatcorrespondedtonasalretinalnervefiberlayerthinningobservedonopticalcoherencetomography(OCT).Thevisualfieldsofthepatientshadnotchangedforseveralyears,andOCTwasusefulintheauxiliarydiagnosisofthisdisease.Sincethenumberofopticnervefibersisoriginallydecreasedinopticnervehypoplasia,thecomplicationofglaucomaislikelytooccurinthefuture.Periodicexaminationmaybenecessaryinthesecases,sincetheprevalenceofnormal-pressureglaucomaishighinJapan.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(11):1639.1643,2013〕Keywords:先天性鼻側視神経低形成,楔状耳側視野欠損,乳頭サイズ,網膜神経線維層厚,光干渉断層計.congenitalbilateralnasalopticnervehypoplasia,wedge-shapedtemporalvisualfielddefect,opticdiscsize,retinalnervefiberlayerthickness,opticalcoherencetomography.はじめに視神経低形成は網膜神経節細胞と視神経線維が正常人より減少していることで生じる先天異常であるが1),視神経部分低形成では一般に視力は良好であり,局在的な視野欠損が認められる2,3).そしてこれまでにMariotte盲点に向かう楔状下方視野欠損を示す上方視神経低形成については比較的多くの報告がなされているものの4.7),先天性鼻側視神経低形成についての報告は少ない8.10).今回筆者らは両耳側視野欠損を示し,乳頭サイズが正常な先天性鼻側視神経低形成の2例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕31歳,女性.主訴:視神経乳頭の精査希望.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.現病歴:コンタクトレンズ作製時に視神経乳頭の腫れを指摘されたため,精査目的にて平成21年7月に奈良県立医科大学眼科外来を受診した.初診時所見:矯正視力は右眼(1.5×sph.3.00D),左眼(1.2×sph.2.25D)であり,眼圧は右眼18mmHg,左眼16mmHgであった.前眼部,中間透光体に異常は認められ〔別刷請求先〕湯川英一:〒635-0825奈良県北葛城郡広陵町安部236-1-1ゆかわ眼科クリニックReprintrequests:EiichiYukawa,M.D.,YukawaEyeClinic,236-1-1Abe,Koryo-cho,Kitakatsuragi-gun,Nara635-0825,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(147)1639 ab右眼左眼右眼左眼c左眼右眼図1症例1a:眼底写真.DM/DD比は右眼2.8,左眼2.8であり,右眼の視神経乳頭鼻側は軽度の偽乳頭浮腫を呈している.b:光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)所見.両眼ともに鼻側網膜神経線維層の菲薄化が認められる.c:動的視野結果.両眼ともにMariotte盲点に向かう楔形の耳側視野欠損が認められる.なかった.眼底所見では右眼の視神経乳頭鼻側は軽度の偽乳として測定するDM/DD(distancebetweenthecentersof頭浮腫を呈していた(図1a).視神経乳頭サイズの評価法とthediscandthemacula/discdiameter)比については,右してWakakuraら11)の提唱した乳頭径を横径と縦径の平均眼2.8,左眼2.8であった.光干渉断層計(opticalcoherence1640あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(148) ab右眼左眼右眼左眼c左眼右眼図2症例2a:眼底写真.DM/DD比は右眼3.0,左眼3.4であり,両眼の視神経乳頭鼻側は軽度の偽乳頭浮腫を呈している.b:光干渉断層計(OCT)所見.両眼ともに鼻側網膜神経線維層の菲薄化が認められる.c:動的視野結果.両眼ともにMariotte盲点に向かう楔形の耳側視野欠損が認められる.tomography:OCT)にて視神経乳頭周囲の網膜神経線維層は両眼ともOCTで得られた網膜神経線維層の菲薄化に一致厚を測定したところ,両眼ともに鼻側網膜神経線維層の菲薄して,Mariotte盲点に向かう楔形の耳側視野欠損がみられ化が認められた(図1b).同時期に施行した動的視野検査でた(図1c).頭部磁気共鳴画像(magneticresonanceimag(149)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131641 ing:MRI)では視交叉の低形成や透明中隔欠損は認めなかった.経過:その後,約4年にわたって経過観察しているが,初診時と比較して視野に変化はなく,これらの所見から先天性鼻側視神経低形成と診断した.〔症例2〕52歳,女性.主訴:眼圧の精査希望.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.現病歴:検診にて眼圧が高いことを指摘され,精査目的にて平成20年1月に西の京病院眼科外来を受診した.初診時所見:矯正視力は右眼(1.2×sph.5.00D(cyl.1.00DAx180°)左眼(1.2×sph.5.75D(cyl.1.00DAx10°)であり圧は右眼20mmHg,左眼21mmHgであった.前眼部,中間透光体に異常は認められなかった.眼底所見では両眼の視神経乳頭鼻側は軽度の偽乳頭浮腫を呈していた(図2a).DM/DD比は右眼3.0,左眼3.4であった.OCTにて視神経乳頭周囲の網膜神経線維層厚を測定したところ,両眼ともに鼻側網膜神経線維層の菲薄化が認められた(図2b).同時期に施行した動的視野検査では両眼ともOCTで得られた網膜神経線維層の菲薄化に一致して,Mariotte盲点に向かう楔形の耳側視野欠損がみられた(図2c).頭部MRIでは視交叉の低形成や透明中隔欠損は認めなかった.経過:その後,5年にわたって経過観察しているが,初診,眼(,)時と比較して視野に変化はなく,これらの所見から先天性鼻側視神経低形成と診断した.II考按視神経低形成は先天的に網膜神経節細胞と視神経線維が減少しており1),小乳頭と高度な視機能障害を示す先天異常とされ,小児の視力障害となる原因疾患の一つではあるが,なかには視力が良好で視野が局在的に欠損する視神経部分低形成が存在する.視力が良好な先天性視神経乳頭鼻側低形成についてはBuchananら8)が耳側視野欠損を示す先天性視神経乳頭低形成として報告し,さらに松本ら9)は視神経乳頭サイズが小さな3症例を報告している.今回,筆者らが示した症例は,Wakakuraらが提唱するDM/DD比をみると3.2以上を小乳頭,2.2以下を巨大乳頭としており,2例4眼中3眼で視神経乳頭サイズは正常であった.そして高木ら12)は視神経低形成と乳頭低形成は異なる疾患単位であることを強調している.すなわち前者は視神経軸索が生来欠落し,その部位が視野検査にて視野欠損として検出される一方で,後者は検眼鏡的に小乳頭など視神経乳頭の形成不全として観察される.そのため両者は合併することも単独で生じることもあると述べている.今回筆者らが提示した2例でも乳頭サイズが正常であった3眼中2眼で軽度ではあるが鼻側に偽乳頭浮腫がみられた.このことはたとえ乳頭サイズが正常であったと1642あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013しても網膜神経節細胞や視神経線維の先天的な形成異常が生じている結果であるとも考えられる.今回の2例はともに両耳側視野欠損が認められた.鑑別診断として視交叉付近の病変が考えられたが,動的視野検査からはMariotte盲点に向かう視野欠損であり,OCTで得られた鼻側網膜神経線維層の菲薄化所見が補助診断に有用であった.また橋本ら13)は両耳側視野欠損を示し,頭部MRIにて著明に菲薄化した視交叉と透明中隔欠損がみられたseptoopticdysplasiaを先天性視交叉低形成として報告しているが,筆者らの症例ではともにそれらの所見は認めなかった.ただし症例1では左後頭葉白質に頭部MRIにて高信号領域を認めており,神経内科にて膠原病,代謝性疾患,ミトコンドリア関連疾患などが疑われ,精査されるも現在のところ明らかな異常は認めず,経過観察中である.視神経部分低形成の一つである上方視神経低形成についてはわが国では正常眼圧緑内障の有病率が高いことから,緑内障検診の普及とともにその鑑別が重要となっている.さらに視神経低形成は元来,視神経線維数が減少しているため,将来緑内障を合併しやすいことも考えられる14).またOhguroら10)は鼻側視神経低形成症例,緑内障を伴った鼻側視神経低形成症例,および耳側視野欠損を示す緑内障症例を詳細に検討した結果,鼻側視神経低形成症例では緑内障合併の有無にかかわらず,12眼中11眼で小乳頭が認められた一方で,耳側視野欠損を示す緑内障症例では3眼すべてで乳頭サイズは正常であったことを報告している.このことを考えると,耳側視野欠損を示す症例に対しては乳頭サイズが鼻側視神経低形成なのかあるいは緑内障であるのかを判断する一つの指標となりうるのかもしれない.そして今回の症例1では緑内障性乳頭陥凹は認められないものの,両眼とも乳頭サイズは正常であることから,さらなる長期経過により耳側視野欠損が進行する可能性も否定できない.さらに症例2において初診時眼圧はGoldmann圧平眼圧計にて右眼20mmHg,左眼21mmHgであり,その後は両眼とも17mmHgから22mmHgにて推移している.現在のところ先天性鼻側視神経低形成に高眼圧症が合併しているということになるが,両症例とも今後も定期的に動的視野検査とHumphrey視野検査を組み合わせて測定することで緑内障の発症につき十分に注意を払っていく必要があると思われた.文献1)WhineryR,BlodiF:Hypoplasiaoftheopticnerve:Aclinicalandhistopathologicalcorrelation.TransAmAcadOphthalmolOtolaryngol67:733-738,19632)GardnerHB,IrvineA:Opticnervehypoplasiawithgoodvisualacuity.ArchOphthalmol88:255-258,19723)BjorkA,LaurellC,LaurellU:Bilateralopticnervehypoplasiawithnormalvisualacuity.AmJOphthalmol86:(150) 524-529,19784)PurvinVA:Superiorsegmentalopticnervehypoplasia.JNeuro-Ophthalmol22:116-117,20025)UnokiK,OhbaN,HoytWF:Opticalcoherencetomographyofsuperiorsegmentaloptichypoplasia.BrJOphthalmol86:910-914,20026)YamamotoT,SatoM,IwaseA:SuperiorsegmentaloptichypoplasiawithfoundinTajimiEyeHealthCareProjectparticipants.JpnJOphthalmol48:578-583,20047)小澤摩記,平野晋司,藤津揚一朗ほか:上方視神経低形成の5例.あたらしい眼科24:115-120,20078)BuchananTAS,HoytWF:Temporalvisualfielddefectsassociatedwithnasalhypoplasiaoftheopticdisc.BrJOphthalmol65:636-640,19819)松本奈緒美,橋本雅人,今野伸介ほか:先天性視神経乳頭鼻側低形成の3例.あたらしい眼科22:1009-1012,200510)OhguroH,OhguroI,TsurutaMetal:Clinicaldistinctionbetweennasalopticdischypoplasia(NOH)andglaucomawithNOH-liketemporalvisualfielddefects.ClinOphthalmol4:547-555,201011)WakakuraM,AlvarezE:Asimpleclinicalmethodofassessingpatientswithopticnervehypoplasia.Thedisc-maculadistancetodiscdiameterratio(DM/DD).ActaOphthalmolScand65:612-617,198712)高木峰夫,阿部春樹:視神経部分低形成の概念.神眼24:379-388,200713)橋本雅人,鈴木康夫,大塚賢二:先天性視交叉低形成の1例.あたらしい眼科19:249-251,200514)藤本尚也:視神経低形成と緑内障との鑑別と合併.神眼24:426-432,2007***(151)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131643