‘人工涙液’ タグのついている投稿

VDT作業に伴うドライアイに対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液と人工涙液の効果比較

2014年5月31日 土曜日

《第2回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科31(5):750.754,2014cVDT作業に伴うドライアイに対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液と人工涙液の効果比較浅井景子*1岡崎嘉樹*1御子柴雄司*1中村竜大*2石川浩平*3*1静岡済生会総合病院眼科*2中村眼科医院*3石川眼科医院ComparativeEfficacyof3%DiquafosolTetrasodiumandArtificialTearFluidforDryEyeinVDTUsersKeikoAsai1),YoshikiOkazaki1),YujiMikoshiba1),TatsuhiroNakamura2)andKoheiIshikawa3)1)DepartmentofOphthalmology,ShizuokaSaiseikaiGeneralHospital,2)NakamuraEyeClinic,3)IshikawaEyeClinicドライアイを伴うvisualdisplayterminals(VDT)作業者に対する3%ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液:以下,DQS)と人工涙液(マイティアR:以下,AT)の効果を比較した.点眼開始日から2・4・8週目のいずれかに問診および検査を行ったVDT作業者のドライアイ確定例および疑い患者40例40眼(DQS群19例,AT群21例)を後ろ向きに抽出した.両群間の涙液層破砕時間(tearfilmbreakuptime:BUT),角結膜上皮障害スコアおよび自覚症状12項目について比較検討した.DQS群ではBUTが3.37±1.54秒から5.11±2.47秒(p=0.0002),角結膜上皮障害が1.68±1.29点から0.84±0.83点(p=0.0002),自覚症状累計点が21.00±6.79点から14.78±6.90点(p=0.0002)と有意に減少し,AT群では変化がなかった.最終観察時には群間に有意差がみられた(p=0.0093,p=0.0220,p=0.0229).DQSはVDT作業に伴うドライアイにおける自覚症状・他覚所見の改善に有効と考えられた.Wedidacomparativeexaminationoftheeffectof3%diquafosolsodium(DiqasR:DQAF)andartificialtears(AT)invisualdisplayterminal(VDT)userswhosufferedfromdryeyedisease.Weextractedbackward40VDTusers(40eyes)withdefiniteorprobabledryeyediseaseineitherweek2,4or8afterinitiatingeyedropapplication,andevaluatedtheirtearfilmbreakuptime(BUT),keratoconjunctivalstainingscoreandsubjectivesymptoms.AlthoughDQAFshowedpredominantimprovementinkeratoconjunctivalstainingscore(from1.68±1.29to0.84±0.83;p=0.0002),BUT(from3.37±1.54to5.11±1.54seconds;p=0.0002)andsubjectivesymptoms(from21.00±6.79to14.78±6.90;p=0.0002),ATdidnot.WeconcludethatDQAFiseffectiveinimprovingdryeyediseaseinVDTusers.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(5):750.754,2014〕Keywords:VDT作業,ドライアイ,ジクアホソルナトリウム,人工涙液,効果比較.VDToperation,dryeye,diquafosolsodium,artificialtearfluid,comparativeefficacy.はじめにパーソナル・コンピュータやスマートフォンなどのIT(informationtechnology)機器の使用率の上昇に伴い,VDT(visualdisplayterminals)作業者の割合も増加しており,2008年に行われた厚生労働省の調査結果によると,VDT作業を行っている事業所は全体の97.0%とされている.そのうち,VDT作業に伴う何らかの自覚症状がある作業者は約68.6%であったが,最も多い症状が「目の疲れ・痛み」で,全体の90.8%を占めていた.また,過去5年間と比較して「目の疲れを訴えるものが増えた」とする事業所の割合は,肩こりなどの身体的疲労や精神的ストレス,環境面での苦情などと比較すると,2003年の調査と変わらず1番多い割合を占めている1).このことから,VDT作業は特に目にとって多大な負担をかけるものであることが示唆される.ドライアイはさまざまな要因から発症する疾患であるが,特にVDT作業は瞬目回数の減少による開瞼時間の延長から〔別刷請求先〕浅井景子:〒422-8527静岡市駿河区小鹿1-1-1静岡済生会総合病院眼科Reprintrequests:KeikoAsai,DepartmentofOphthalmology,ShizuokaSaiseikaiGeneralHospital,1-1-1Oshika,Suruga-ku,Shizuoka422-8527,JAPAN750750750あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(124)(00)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY 涙液層破砕時間(tearfilmbreakuptime:BUT)を短縮させること2),また作業年数が8.12年とVDT作業が長期にわたる場合は涙液分泌量の減少もみられることが報告されており3),コンタクトレンズ装用などと同じくドライアイ発症の重要な一因となっている4,5).2006年ドライアイ診断基準により,ドライアイの定義は「様々な要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う」と改訂され6),それまで診断基準となっていた涙液の質的・量的な異常および角結膜上皮障害以外に,新たに自覚症状や視機能異常が追加されたことから,近年,眼精疲労や眼不快感など自覚症状を強く訴えるタイプや,高次収差の乱れによる視機能の低下のため見えにくさの訴えが強いタイプのドライアイなどが注目されてきている7,8).VDT作業に伴うドライアイも視力低下や眼精疲労・眼不快感の一因となっていると考えられ,VDT作業者の増加に伴い,治療方法の模索が必要となってきている4,5,9).そこで筆者らは,近年,ドライアイに対する研究の進歩に伴い新しい涙液層の概念が提唱され,それぞれの涙液層に働きかける新しい薬剤としてジクアホソルナトリウム点眼(ジクアスR:以下,DQS点眼)が開発されたことから,今までの涙液成分を補充するのみの作用を持つ人工涙液(マイティアR:以下,AT点眼)と比較して,この新しい薬剤であるDQS点眼がVDT作業に伴うドライアイに対してどの程度有効性が高いかについて検討した.I対象および方法静岡済生会総合病院,中村眼科医院,石川眼科医院の参加3施設において,1日3時間以上のVDT作業に従事しており,調査開始時までにジクアホソルナトリウム点眼の処方経験がなく,2006年ドライアイ診断基準6)においてドライアイ確定もしくは疑いと判定された患者40例40眼(DQS群19眼,AT群21眼)のなかで,薬剤投与開始日より2週目,4週目,8週目のいずれかにおいて再診があり,かつ問診・検査を実施した患者をカルテより後ろ向きに抽出し,DQS群とAT群の点眼投与前と最終受診時を比較検討した.除外基準は,ソフトコンタクトレンズ装用患者,糖尿病・アレルギー・結膜弛緩症の既往がある患者,経過観察期間中に薬剤の変更または追加があった患者,今回の研究に組み入れる3カ月以内に手術既往のある患者,および担当医が不適切と判断した患者とした.観察項目は,フローレス試験紙による染色検査,BUT測定,自覚症状,VDT作業状況の4項目とし,薬剤投与開始日より2週目,4週目,8週目のいずれかにおいて再診がある患者の点眼投与前と最終観察時の状態について,問診票から自覚症状を,カルテから他覚所見を収集した.他覚所見は,フローレス試験紙を用いて角結膜を染色した後,メトロ(125)ノームを用いてBUTを測定し,その後,ブルーフリーフィルターで角結膜を観察し,スコアリングした.染色スコアは,ドライアイ研究会の診断基準6)に従い,結膜鼻側・耳側,角膜上・中・下,各3点ずつ合計15点として算定した.自覚症状は,観察期間中,診察ごとに問診票を用い,「眼精疲労(目が疲れやすい)」「眼痛(目が痛い)」「眼脂(めやにが出る)」,「異物感(目が(,)ゴロゴロする)」,「(,)流涙(涙が出る)」「霧視(物がかすんで見える)」「掻痒感(目がかゆい)」「(,)鈍重感(重たい感じがする)」「(,)充血(目が赤い)」「眼不快(,)感(目に不快感がある)」「乾燥(,)感(目が乾いた感じ(,)がする)」「羞明(光をまぶしく感(,)じる)」の12項目の自覚症状につい(,)て,0:まったくない,1:まれにある,2:時々ある,3:よくある,4:いつもある,の5段階(0.4点)で自己評価させ,点眼投与前と投与後の状態を比較した.統計解析は,Wilcoxon符号付順位検定を用い,有意水準は両側5%(p<0.05)とした.本文中の記述統計量は,原則として平均値±標準偏差の表記法に従った.II結果対象患者の性別は,男性14眼,女性26眼(内訳は,DQS群男性5眼,女性14眼.AT群男性9眼,女性12眼)であった.平均年齢は,DQS群53.1±15.3歳,AT群51.1±13.1歳であった.平均観察期間は,DQS群で43.4±19.7日,AT群で38.4±18.3日,平均VDT時間は,DQS群で平均4.63時間,AT群で6.02時間であった(p=0.2148).1.他覚所見角結膜上皮障害は,点眼開始前と最終観察時を比較して,DQS群で1.68±1.29点から0.84±0.83点と有意な改善がみられた(p=0.0002)が,AT群では2.24±1.87点から1.67±1.80点と有意差はみられなかった(図1).BUTも同じく,点眼開始前と最終観察時を比較して,DQS群では3.37±1.54秒から5.11±2.47秒と有意な延長がみられた(p=0.0002)が,AT群では3.43秒±1.29秒から3.62±2.97秒と有意差はみられなかった(図2).2.自覚症状DQS群では,点眼開始前と最終観察時を比較して,「眼精疲労」が3.00±0.82点から2.06±1.06点(p=0.0093),「眼痛」が1.89±1.23点から1.22±1.00点(p=0.0088),「眼脂」が0.72±0.75点から1.00±0.84点,「異物感」が1.89±1.08点から1.06±0.80点(p=0.0002),「流涙」が0.83±0.71点から0.94±0.64点,「霧視」が1.89±1.08点から1.39±1.14点(p=0.0332)「掻痒感」が1.11±0.90点から0.72±0.96点,「鈍重感」が1.(,)89±1.28点から1.17±0.92点(p=0.0088),「充血」が1.00±1.08点から0.83±0.79点,「眼不快感」が2.44±1.15点から1.61±1.04点(p=0.0039)「乾燥感」が2.61±1.24点から1.67±1.14点(p=0.0103「羞明」が),(,)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014751 *:p<0.05Wilcoxonの1標本検定10*:p<0.05対応のあるt検定:DQS■:AT3.375.113.433.62p=0.0134981.680.842.241.67:DQS■:ATp=0.00221角膜上皮障害スコア(点)7BUT(秒)654310.50開始時最終観察時0点眼開始時最終観察時図1角膜上皮障害スコアの比較図2BUTの比較3.5*:p<0.05Wilcoxonの1標本検定3.001.890.721.890.801.891.111.891.002.442.611.722.061.221.001.060.91.390.721.170.831.611.671.11眼疲労感眼痛眼脂異物感流涙霧視眼掻痒感鈍重感眼充血眼不快感眼乾燥感羞明感:点眼開始前■:最終観察時自覚症状スコア(点)32.521.510.50図3DQSにおける自覚症状12項目の比較1.72±1.41点から1.11±1.08点(p=0.0176)と,DQS群で1)p<0.01Wilcoxonの1標本検定は8項目で点眼投与前と最終観察時で有意差がみられた(図502)p<0.05Wilcoxonの2標本検定p=0.0021):DQS■:AT21.0014.7815.6713.67点眼開始前最終観察時45自覚症状累計スコア(点)3)が,AT群では「眼精疲労」が2.62±0.74点から2.38±401.07点,「眼痛」が1.00±1.18点から0.86±1.20点,「眼脂」35が0.76±0.94点から0.57±0.87点,「異物感」が1.48±1.40302520点から1.00±1.14点,「流涙」が0.81±1.08点から0.57±1.03点,「霧視」が1.38±0.97点から1.57±1.08点,「掻痒15感」が0.71±1.06点から0.52±0.93点,「鈍重感」が0.95±101.24点から0.81±1.25点,「充血」が1.33±1.49点から1.4350±1.25点,「眼不快感」が1.71±1.35点から1.48±1.29点,「乾燥感」が1.81±1.54点から1.52±1.17点,「羞明」が図4自覚症状累計スコア1.10±1.30点から0.95±1.24点と,すべての項目において,点眼投与前と最終観察時で有意差はみられなかった.752あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(126) また,最終観察時のDQS群とAT群の群間においても,「眼精疲労」では,DQS群が2.06±1.06点に対し,AT群では2.38±1.07点(p=0.0093),「霧視」では,DQS群が1.39±1.14点に対し,AT群では1.57±1.08点(p=0.0220),「鈍重感」ではDQS群が1.17±0.92点に対し,AT群では0.81±1.25点(p=0.0249)と,以上の3項目では有意差がみられた.自覚症状12項目の累計点は,DQS群で21.00点から14.78点と有意な減少がみられたが(p=0.0002),AT群では15.67点から13.67点と有意差はみられなかった.また,最終観察時のDQS群とAT群との群間に有意差がみられた(p=0.0267)(図4).III考按はじめにも述べたが,VDT作業に伴うドライアイにはBUT短縮型ドライアイが多く認められることから,このタイプのドライアイの治療薬として,ムチンの異常を改善し,涙液の安定性の低下を改善する働きをするDQSは,非常に有効性が高いものであると考えられる.従来ドライアイに対して用いられてきた治療薬であるATは,一時的な水分および電解質の補充の効果のみが期待できるものであり,またヒアルロン酸ナトリウム点眼(ヒアレインR,以下HA)は,角膜上皮の接着および伸展作用と保水作用を有し,ドライアイを含めた角結膜上皮障害改善薬としての効果が認められているが,両者ともにムチンの分泌促進能は認められず,ムチンの被覆度が低下している症例に対しての効果が弱いと考えられている10).HAとDQSを比較したラット眼窩外涙腺摘出ドライアイモデルにおける角膜上皮障害に対する調査では,点眼6週間後にはDQS群ではHA群に比べて有意に角膜染色スコアが改善したとの報告,また,多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験でもHAに対してDQSは非劣性を示したとの報告がある11).今回の検討では,対象者はAT群,DQS群ともにBUTが短縮しているが,角結膜上皮障害の軽度なドライアイ,つまりBUT短縮型ドライアイが大きな割合を占めていることから,やはりVDT作業に伴うドライアイにはBUT短縮型ドライアイが多いことがわかった.DQS群では,点眼開始前と最終観察時で,BUTの延長および角結膜上皮障害の改善の程度に有意差がみられたが,ATでは有意差がみられなかったことから,DQSはVDT作業に伴うドライアイの治療に対して有効であることがわかった.また,BUTの延長によって「乾燥感」の軽減,角結膜上皮障害の改善効果で「眼痛」や「異物感」の軽減,両者によって「羞明」の軽減が認められたと推察されるが,最終観察時のAT群とDQS群の群間に有意差が出たことから,特にDQSによるムチンや水分の分泌促進能などにより涙液層の安定性の低下が改善されたことによって「眼精疲労」「霧視」「鈍重感」が軽減したと考えられた.涙液層は,マイボーム腺より分泌される脂による油層と,涙腺・結膜から分泌される水層の2層でできており,水層に濃度勾配をもって結膜杯細胞から発現した分泌型ムチンが含まれている12).この分泌型ムチンの一種であるMUC5ACは,涙液水層の表面張力を低下させ,涙液水層を角膜上皮表面に広がりやすくさせる働きをしていることがわかっている13,14).また,角膜および角膜上皮表層には,角膜上皮由来の膜型ムチンが存在しているが15),この膜型ムチンは上皮表面を親水性に変える働きを持っているため,この膜型ムチンに異常が起こると上皮の水濡れ性の低下が引き起こされ,涙液層の安定性が低下する原因となる12,16).平均VDT時間が8時間以上のVDT作業従事者を対象に行われた調査では,非ドライアイ群に対して,ドライアイ群では涙液中のMUC5AC濃度が減少しており,それは5時間未満の群に比べて7時間以上の群で有意に低かったことが報告されていることから涙液中のMUC5ACがドライアイに強い影響を及ぼしていることが示唆されるとともに,VDT作業がドライアイを引き起こす原因の一つとなっていることがわかる16).DQSは結膜細胞膜上のP2Y2受容体に結合し,細胞内カルシウムイオン濃度の上昇を介して眼表面へのMUC5ACの分泌促進作用を有することがわかっており17.20),このことからもDQSはVDT作業に伴うドライアイに対して有効であると考えられる.DQSは,ムチンの異常が大きく関係していると考えられるBUT短縮型ドライアイに対する治療効果が高いと推察され,VDT作業に伴うドライアイ治療に対し有効であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)厚生労働省:平成20年技術革新と労働に関する実態調査,20082)TsubotaK,NakamoriK:Dryeyesandvideodisplayterminals.NEnglJMed328:584,19933)NakamuraS,KinoshitaS,YokoiNetal:Lacrimalhypo-functionasanewmechanismofdryeyeinvisualdisplayterminalusers.PLoSOne5:el1119,20104)横井則彦:蒸発亢進型ドライアイの原因とその対策.日本の眼科74:867-870,20035)内野美樹,内野裕一,横井則彦ほか:VDT作業者におけるドライアイの有病率と危険因子.FrontiersinDryEye7:36,20126)島﨑潤:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,2007(127)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014753 7)GotoE,YagiY,MatsumotoYetal:Impairedfunctionalvisualacuityofdryeyepatients.AmJOphthalmol133:181-186,20028)IshidaR,KojimaT,DogruMetal:Theapplicationofanewcontinousfunctionalvisualacuitymeasurementsystemindryeyesyndromes.AmJOphthalmol139:253258,20059)TodaI,FujishimaH,TsubotaK:Ocularfatigueisthemajarsymptomofdryeye.ActaOphthalmol71:347352,199310)ShimmuraS,OnoM,ShinozakiKetal:Sodiumhyaluronateeyedropsinthetreatmentofdryeyes.BrJOphthalmol79:1007-1011,199511)藤原豊博:ドライアイ研究会:ドライアイの治療に革新をもたらしたジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%)の基礎と臨床.薬理と治療39:563-584,201112)ArguesoP,Gipdon,IK:Epithelialmucinsoftheocularsurface:structure,biosynthesisandfunction.ExpEyeRes73:281-289,200113)渡辺仁:ムチン層の障害とその治療.あたらしい眼科14:1633-1647,199714)DillyPN:Structureandfunctionofthetearfilm.AdvExpMedBiol350:239-247,199415)ButovichIA:TheMeibomianpuzzle:combiningpiecestogether.ProgRetinEyeRes28:483-498,200916)YokoiN,SawaH,KinoshitaS:Directobservationoftearfilmstabilityonadamagedcornealepithelium.BrJOphthalmol82:1094-1095,199817)坪田一男:日本の最新疫学データ!「OsakaStudy」とは?FrontiersinDryEye7:47-48,201318)七條優子,阪本明日香,中村雅胤:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのMUC5AC分泌促進作用.あたらしい眼科28:261-265,201119)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用.あたらしい眼科28:543-548,201120)七篠優子,村上忠弘,中村雅胤:正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウムの涙液分泌促進作用.あたらしい眼科28:1029-1033,2011***754あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(128)

ハードコンタクトレンズの動きの経時的変化

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(131)883《原著》あたらしい眼科28(6):883.885,2011cはじめにハードコンタクトレンズ(HCL)は,ソフトコンタクトレンズ(SCL)と比較して,酸素透過性が高い,光学性に優れる,耐久性が高い,および,重篤な角膜障害を生じにくいなど多くの利点を有している1).しかしながら,使い捨てSCLや頻回交換SCLの急速な普及に伴い,近年HCLの処方頻度は減少傾向にある.HCLが敬遠される最大の原因の一つに初装時の異物感があげられ2),イニシャルのトライアルレンズを装用した時点で強い異物感によりドロップアウトする症例も多い.このため,特にイニシャルのトライアルレンズには異物感の極力少ないレンズを選択することが大変重要である3).異物感の原因には,レンズの大きさ,べベル部分のデザイン,角膜の神経終末の分布などさまざまな要因が関与している.レンズの動きが大きすぎることも,異物感の大きな原因となり,見え方の安定感を欠く原因にもなる.逆に,レンズの動きが小さすぎることは,レンズの固着,涙液交換の低下,装用感の悪化およびレンズの外しにくさにつながり,角膜障害の原因となることもある.このように,瞬目時のレンズの動きを正確に評価することは大変重要であると考えられる.しかし,レンズの動きは,細隙灯顕微鏡により,mm単位で測定されているのが現状であり,検者個人の感覚によるところが大きく,これまで適切な評価方法がなかった.そこで今回筆者らは,画像解析を用いて,レンズの動きの新しい評価方法を考案し,HCL装用時の瞬目に伴うレンズの動きを経時的に検討した.また,レンズ処方時にレンズの動きを評価するタイミング,および,人工涙液によるレンズの動きの変化についても検討した.I対象および方法被検者はHCLの装用歴があり,近視または近視性乱視以外に眼疾患を有しない5例10眼(男性1例2眼,女性4例〔別刷請求先〕藤田博紀:〒270-1132千葉県我孫子市湖北台1-1-3藤田眼科Reprintrequests:HirokiFujita,Ph.D.,FujitaEyeClinic,1-1-3Kohoku-dai,Abiko-shi,Chiba270-1132,JAPANハードコンタクトレンズの動きの経時的変化藤田博紀*1,2馬場富夫*2田中直*2佐野研二*3*1藤田眼科*2桑野協立病院眼科*3あすみが丘佐野眼科TimeCourseChangesinHardContactLensMovementHirokiFujita1,2),TomioBaba2),TadashiTanaka2)andKenjiSano3)1)FujitaEyeClinic,2)KuwanoKyoritsuHospital,3)AsumigaokaSanoEyeClinicハードコンタクトレンズ(HCL)装用者5例10眼において,レンズ装用時のレンズの動きを録画し,1/30秒ごとに解析処理して,レンズの動きを数値的に評価した.HCL装用後のレンズの動きは,徐々に小さくなり,特に装用5分後までは,レンズの動きは急激に変化した.しかし,装用30分後のレンズの動きは,長時間装用後と比較して有意差がなかった.HCLのフィッティングの評価は,装用直後には避け,装用30分経過した後が望ましいと考えられた.また,人工涙液点眼により,レンズの動きは,人工涙液点眼前と比較して有意に大きくなった.Changesinthemovementofhardcontactlenses(HCL)duringwearwereanalyzedbymonitoringtheHCLevery1/30secondin10eyesof5HCLwearers.ResultsshowedthatalthoughHCLmovementdecreasedwithtimeafterHCLinsertion,significantchangeinmovementwasobservedwithin5minutesafterinsertion.However,therewasnostatisticallysignificantdifferencebetweenlensmovementat30minutesandat8hoursafterHCLinsertion.TheanalyticalresultsindicatethatinHCLwearers,HCLfitshouldnotbeevaluatedimmediatelyafterlensinsertion,butatleast30minutesafter.HCLmovementwassignificantlyincreasedbyuseofartificialtears.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):883.885,2011〕Keywords:ハードコンタクトレンズ,レンズの動き,人工涙液.hardcontactlens,lensmovement,artificialteardrops.884あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(132)8眼)であり,平均年齢は35.2±11.2歳(25.47歳)であった.被検者には十分なインフォームド・コンセントを行った.今回用いたHCLは,サンコンマイルドIIR(サンコンタクトレンズ社製)で,直径8.8mmの球面レンズである.レンズの周辺部の6カ所にMETORONMARKER(PermanentInks社製)を用いてマーキングを施した(図1).ベースカーブについては,オートレフケラトメーターにて測定した角膜曲率半径をもとにトライアルエンドエラーでパラレルフィッティングに決定した.レンズ度数は+3.25..9.00Dであった.本レンズを用いて,レンズ装用直後,5分後,10分後,20分後,30分後,および8時間後のレンズの動きを録画した.この録画した画像を,デジモ社の画像解析ソフトであるイメージトラッカー(PTV)を用いて1/30秒ごとに解析処理し,レンズの動きを数値的に評価した(図2).レンズの動きは,以下のようにして求めた.まず,図2のように任意のマーキングした2点AとBの中点であるCをレンズ上の固定点とした.瞳孔中心(D)を眼球上の固定点とし,レンズの位置Eは座標C─Dにより求めた.画像を1/30秒ごとにコマ送りすることにより,レンズの最も高いレンズ位置Emaxと最も低いレンズ位置Eminを求め,EmaxとEminの距離を測定した(図3).最後に,眼瞼にスケールを置いて撮影し,EmaxとEminの距離を実際の長さに換算し,レンズの動きと定義した(図4).また,長時間レンズ装用後における人工涙液点眼直後のレンズの動きについても,同様の方法にて検討した.図1マーキングしたレンズレンズの周辺部の6カ所にマーキングを施した.0.00.51.01.52.0直後5分10分20分30分長時間***NS経過時間レンズの動き(mm)図4レンズの動きの経時的変化装用30分後のレンズの動きは,長時間装用後と比較して有意差がなかった.*p<0.05,**p<0.01,NS:notsignificant.ABCD図2レンズの位置の決定方法任意のマーキングした2点AとBの中点であるCをレンズ上の固定点とした.瞳孔中心(D)を眼球上の固定点とし,レンズの位置Eは座標C─Dにより求めた.EminEmax図3レンズの動きの量の測定方法レンズの最も高いレンズ位置Emaxと最も低いレンズ位置Eminを求め,EmaxとEminの距離を測定した.(133)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011885II結果レンズ装用直後,5分後,10分後,20分後,30分後,および8時間後のレンズの動きは,それぞれ1.59±0.67mm,1.15±0.59mm,1.01±0.50mm,0.98±0.50mm,0.76±0.37mm,0.58±0.25mmであり,経時的に小さくなった(図4).装用直後と5分後,および,装用20分後と8時間後では,pairedt検定にて,それぞれレンズの動きに有意差があった.しかし,装用30分後と8時間後ではレンズの動きに有意差がなかった.また,人工涙液点眼により,レンズの動きは1.70±0.62mmであり,人工涙液点眼前と比較して有意に大きくなった(図5).III考察現在HCLのフィッティングマニュアルでは,レンズの動きに関しては,適正な数値が示されていないことも多い.今回筆者らは,直径8.8mmの球面というわが国では一般的なデザインであるHCLのレンズ周辺に特殊な色素でマーキングを施し,そのマーキングを1/30秒で追随するという新しい方法で,レンズの動きを精密に測定した.今回得られたデータでは,レンズの動きは経時的に徐々に小さくなり,特に装用5分後までは,レンズの動きは急激に変化した.また,装用30分後のレンズの動きは,長時間装用後と比較して有意差がなくなった.臨床の現場では,HCL処方の際,レンズの動きの評価は,装用して間もなく行われることもある.しかし,以上の結果から,トライアルレンズ装用時のフィッティングの評価は,装用直後には避け,装用30分経過した後が望ましいと考えられた.特に,装用後短時間でフィッティングを評価し,実際に装用を開始してから装用感の不良などを訴える症例に対しては,定期検査の際,長時間装用した状態でのフィッティングも再評価する必要があると考えられた.ところで,HCL装用者のなかには長時間の装用や乾燥感に伴い,レンズが取り外しにくいと訴える症例が多い.その対処方法として,人工涙液点眼が推奨されている.人工涙液点眼がレンズの動きへ及ぼす影響については,SCLの装用時には,レンズの中心厚が厚くなり,また,レンズ下の涙液層が薄くなることによって,レンズの動きは小さくなるという報告もある4).しかし,今回の結果から,HCLの装用時には,人工涙液点眼はレンズの動きを大きくする効果があることが確認された.このため,HCLの動きの少なかったり,固着しやすかったりする症例に対し,積極的に人工涙液の点眼を指導しても良いと考えられた.ただし,人工涙液点眼のレンズの動きへの影響は,一時的な対処法にすぎず,レンズの修正など根本的な対処も必要である.今回のように,レンズの動きを正確に評価できる方法を確立することはCLの研究において大変意義深く,本方法はさまざまなレンズの評価研究に応用できると考えている.今後の課題としては,1)レンズのデザイン(直径や球面,非球面など),2)涙液交換率,3)レンズの装用感,4)qualityofvision,および5)角膜形状(角膜乱視),それぞれとレンズの動きとの関係などについても精査の予定である.使い捨てSCLや頻回交換SCLが主流となった現在でも,HCLにおいても,さまざまなレンズが開発され,装用感やqualityofvisionの改善が図られている.これらのレンズの動きを評価する際にも,本方法は新しい方法として大変有用である.ただし,本方法は,解析に多大な時間を要するため,マーキングなしで解析できる簡便な方法を開発する必要もある.文献1)藤田博紀:ハードコンタクトレンズ.眼科診療プラクティス27,標準コンタクトレンズ診療(坪田一男編),p262-272,文光堂,20092)FujitaH,SanoK,SasakiSetal:Oculardiscomfortattheinitialwearingofrigidgaspermeablecontactlenses.JpnJOphthalmol48:376-379,20043)藤田博紀,馬場富夫,佐野研二ほか:非球面大直径ハードコンタクトレンズの初装時における異物感の評価.あたらしい眼科24:835-837,20074)NicholsJJ,SinnottLT,King-SmithPEetal:Hydrogelcontactlensbindinginducedbycontactlensrewettingdrops.OptomVisSci85:236-240,2008***0.00.51.01.52.0長時間点眼後*レンズの動き(mm)図5人工涙液点眼によるレンズの動きの変化人工涙液点眼により,レンズの動きは有意に大きくなった.*p<0.01.