0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(101)815《原著》あたらしい眼科27(6):815.820,2010cはじめにソフトコンタクトレンズ(SCL)装用に起因する合併症のなかで点状表層角膜症(SPK)は最もよく遭遇するものの一つであり1),通常SCL装用の中止または人工涙液点眼によって治癒する2).しかしながら,SCL装用の中止や人工涙液点眼でも改善しないSPKも散見され,治療に難渋することがある.筆者らはこのようなSCL装用に伴う“難治性”SPKに対して,治療的SCLの装用と人工涙液点眼を行い治癒せしめた2例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕(図1):22歳,女性.主訴:視力低下.既往歴:特記事項なし.〔別刷請求先〕横井則彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学Reprintrequests:NorihikoYokoi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajiicho,Hirokouji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyou-ku,Kyoto602-0841,JAPANソフトコンタクトレンズ装用で生じた難治性点状表層角膜症の2症例松本慎司横井則彦川崎諭木下茂京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学TwoCasesofProlongedSuperficialPunctateKeratopathyResultingfromWearofSoftContactLensShinjiMatsumoto,NorihikoYokoi,SatoshiKawasakiandShigeruKinoshitaDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine背景:ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)の装用で生じた点状表層角膜症(superficialpunctatekeratopathy:SPK)は,通常SCL装用の中止や人工涙液の点眼によって治癒が得られるが,しばしばそれらの治療では治癒困難な症例が存在する.このようなSPKに対しSCLの治療的装用と人工涙液の頻回点眼を併用することでその完全な消失を得たので報告する.症例:症例1は28歳,女性.SCL装用で生じた慢性のSPKに対しSCL装用中止や涙点プラグの挿入などを試みるもSPKは改善しなかった.症例2は18歳,女性.SCL装用で生じた両眼の強いSPKに対しSCL装用中止や抗菌薬,低力価ステロイドおよび人工涙液の点眼を行うもSPKは遷延した.これらの難治性SPKに対しSCLの治療的装用と人工涙液頻回点眼を行ったところ,SPKの完全な消失を得ることができた.結論:SCLの合併症の一つである“難治性”SPKにはSCLの装用と人工涙液の頻回点眼の併用が効果的であると考えられる.Superficialpunctatekeratopathy(SPK)resultingfromthewearingofasoftcontactlens(SCL)isusuallysuccessfullytreatedbythefrequentinstillationofartificialtearsincombinationwithremovaloftheresponsibleSCL.WeexperiencedtwocasesofSPKthatwereunresponsivetothattypeoftraditionaltreatmentregimen.Case1wasa28-year-oldfemaleandCase2wasan18-year-oldfemale,bothsufferingfromSCL-inducedSPKthathadprolongedformorethanacoupleofmonths.DespitethefactthattheSPKinbothcaseswasinitiallycausedbytheSCLwear,reductionoftheSPKwasnotachievedthroughourprescribedtreatmentregimenofremovaloftheSCLscombinedwiththefrequentinstillationofartificialtears.Inbothcases,adifferenttreatmentregimeninvolvingtheuseoftherapeuticSCLscombinedwiththefrequentinstillationofartificialtearssuccessfullyresultedinthenearlycompleteeliminationoftheprolongedSPK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(6):815.820,2010〕Keywords:ソフトコンタクトレンズ,点状表層角膜症,人工涙液点眼.softcontactlens,superficialpunctatekeratopathy,artificialtears.816あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(102)現病歴:2年間のSCLの装用歴があり,近医にてSCL装用の中止とともに,SPKに対して人工涙液点眼とヒアルロン酸ナトリウム点眼で治療されていたが,SPKが改善しないため,平成16年3月26日当科へ紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.07(1.0p×sph.8.0D(cyl.0.50DAx180°),左眼0.07(0.8×sph.7.0D(cyl.2.0DAx180°)と比較的良好であった.前眼部所見としては,両眼にSPKを認め,右眼は角膜上皮障害のA(area:範囲)D(density:密度)分類にて3)A3D2,左眼はA3D2の状態であった(図2).涙液分泌については,SchirmerI法にて右眼は25mm,左眼は34mmと異常を認めなかった.両眼に軽度のマイボーム腺炎を認めた.経過:SCLについては装用中止の状態を継続し,マイボーム腺炎に対しクラリスロマイシン(クラリスR)内服視力低下角膜浸潤流涙充血羞明眼痛人工涙液レボフロキサシン点セフメノキシム点0.1%フルオロメトロン点オフロキサシン点クラリスロマイシン錠右眼涙点プラグ左眼涙点プラグH16/4/138/68/20H17/8/271/112/256/289/30H18/2/77/288/18H21/7/28A1D3A0D0SCL装用SCL装用人工涙液クラリスロマイシン錠7/1通院中断人工涙液左眼SPKA3D3A3D3A2D3A2D2A1D2A2D3A2D2A2D2A1D2A1D1A1D2A1D3A0D0右眼SPKA3D3A3D3A3D2A2D2A2D3A2D3A1D2A2D2A1D1A0D0A1D2(自然脱落)(自然脱落)図1症例1の治療経過図2症例1の初診時の前眼部所見左:右眼前眼部写真.マイボーム腺炎を認める.右:右眼フルオレセイン染色写真.点状表層角膜症(A3D3)を認める.(103)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010817(400mg)を,また水分補充のため1日7.10回の人工涙液(ソフトサンティアR)点眼を行った.しかし4カ月経過(平成16年8月20日)後にもSPKは改善せず,また左眼に角膜浸潤を認めたため,抗菌薬(クラビットRおよびベストロンR)点眼,低力価ステロイド(フルメトロン0.1R)点眼を追加した.1週間で角膜浸潤は治癒し,視力は右眼0.03(1.0×sph.9.5(cyl.1.0DAx10°),左眼0.04(1.2×sph.9.0)に改善したが,SPKの消失は得られなかった.その後両眼の上・下涙点に涙点プラグの挿入や,抗菌薬点眼,低力価ステロイド点眼の投与などを試みたが,10カ月経過後にもSPKの消失には至らなかった.そこで平成17年7月1日より治療目的にて両眼にSCL(O2オプティクス)の連続装用を開始したところ,11日後には右眼のSPKは消失し,左眼のSPKの状態はA1D2へと劇的に改善し,7カ月後にはA1D1となった.その後SCLを他の種類(ワンデーアキュビューモイストR)に変更し,装用時間を1日5時間に短縮したが著明な悪化はみられなかった.平成18年7月28日より通院を自己中断し,SCL装用も自己判断で中止していたが,約1年4カ月後に眼痛と羞明にて来院し両眼のSPKの悪化が認められた.再度人工涙液点眼を処方し治療的SCL(プロクリ眼痛視力低下眼脂角膜浸潤充血羞明ガチフロキサシン点0.1%フルオロメトロン点人工涙液PHMB点セフメノキシム点ベタメタゾン錠H21/5/155/225/265/296/96/166/237/38/11SCL装用右眼SPKA3D2A3D2A3D2A3D2A3D2A3D1A2D2A3D2A0D0左眼SPKA3D3A3D2A3D2A3D3A3D2A3D2A3D1A3D2A0D0図4症例2の治療経過図3症例1のSCL装用治療前後の前眼部写真左:SCL装用治療前の右眼のフルオレセイン染色写真.A1D2の点状表層角膜症を認める.右:SCL装用治療後の右眼のフルオレセイン染色写真.点状表層角膜症は消失している.818あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(104)アワンデーR)の1日5時間装用を行ったところ,3週間後には両眼ともにSPKは消失した(図3).〔症例2〕(図4):18歳,女性.主訴:両眼の充血,羞明,疼痛および開瞼困難.既往歴:流行性角結膜炎,喘息.現病歴:2年間のSCLの装用歴があり,充血,羞明,SPKが著明であったため,平成21年4月13日よりSCL装用を中止していた.近医で抗アレルギー薬点眼,ヒアルロン酸ナトリウム点眼,人工涙液点眼を投与されていたが,症状は改善せず平成21年5月15日当院紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.3(矯正不能),左眼は0.2(矯正不能)であった.眼圧は右眼が15mmHg,左眼は測定不能であった.両上眼瞼結膜に乳頭増殖を認め,両角膜周辺部の10時から2時にかけて5個の小円形角膜浸潤を認めた.また,両眼ともに上方輪部は肥厚し,両眼中央部に強いSPKが認められた(図5).両眼の球結膜は充血し,白色の眼脂が認められ,また,涙液メニスカスの低下も認められた.偽樹枝状病変や放射状角膜神経炎は認めなかった.経過:角膜浸潤の原因として常在細菌による感染アレルギーを疑い,抗菌薬(ガチフロR)点眼,低力価ステロイド(フルメトロン0.1R)点眼,人工涙液(ソフトサンティアR)点眼,ステロイド内服(リンデロンR,1mg)を投与した.治療に対する反応が得られなかったため,アカントアメーバ角膜炎を疑い低力価ステロイド点眼を中止し,塩酸ポリヘキサニド(PHMB)点眼と抗菌薬点眼に切り替えたが,角膜浸潤の改善は得られなかった.そこで再度上記治療に戻したところ,2週間後には眼痛,眼脂,充血,羞明,角膜浸潤は消失した.しかしながらSPKの消失は得られず,さらに人工涙液点眼の追加投与を行ったが,1カ月経過後にもSPKの消失は得られなかった.そこで,治療目的にてSCL(プロクリアワン図5症例2の初診時の前眼部写真左:右眼前眼部写真.角膜周辺部の10時から2時にかけて5個の小円形角膜浸潤,上方輪部の肥厚所見を認める.右:右眼フルオレセイン染色写真.中央部に強い点状表層角膜症(A3D2)を認める.図6症例2のSCL装用治療前後の前眼部写真左:SCL装用治療前の右眼のフルオレセイン染色写真.A3D2の点状表層角膜症を認める.右:SCL装用治療後の右眼のフルオレセイン染色写真.点状表層角膜症は消失している.(105)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010819デーR)の1日5時間装用と人工涙液点眼,抗菌薬点眼,低力価ステロイド点眼を投与したところ,1カ月後には両眼ともに点状表層角膜症の完全消失が得られた(図6).なお,症例2では症例1で涙点プラグの効果が得られなかった経験から涙点プラグの挿入を行わなかった.II考按症例1ではSCL装用を中止し,抗菌薬点眼,低力価ステロイド点眼の投与により比較的速やかに眼表面の消炎が得られたが,SPKは消失せず,さらに人工涙液点眼の投与や涙点プラグの挿入を行ったにもかかわらず約10カ月間SPKが遷延した.また,治療的SCL装用によりSPKが改善した後にも,SCL装用を自己中断したためにSPKが再燃したことから,むしろSCLを装用しているほうが眼表面の健全な状態を保つことができていたのではないかと考えられる.症例2でもSCL装用の中止に加え,抗菌薬点眼,低力価ステロイド点眼,ステロイド内服の投与によって眼表面の消炎が得られたが,SPKは消失せず,さらに人工涙液点眼を追加した後にも約1カ月間SPKが遷延した.SCL装用で生じるこのような“難治性”SPKについてはこれまで報告はなく,その発症メカニズムと治療について確立したものはない.眼表面の知覚神経である三叉神経が障害されると神経麻痺性角膜症を生じることは広く知られている4).角膜知覚が低下すると瞬目回数が減少し5),反射性に分泌される涙液量も低下する6).また角膜上皮細胞の分裂,分化,伸展に促進的に働いているサブスタンスPやIGF-1(インスリン様成長因子-1)3)などの三叉神経由来の栄養物質の量が低下することが知られており7),これら3つの理由から角膜上皮障害が遷延するものと考えられている.SCL長期装用者においては角膜上皮下の神経線維密度低下8)ならびに角膜知覚低下が報告されており9),三叉神経麻痺と類似のメカニズムでSPKが遷延しやすい状況にあるのかもしれない.実際,症例1では涙点プラグの挿入により十分に眼表面に涙液が満たされていたにもかかわらずSPKが遷延したことから,少なくともこの症例については涙液不足がSPKの遷延化の主原因とは考えにくく,上記の三叉神経に関連した要素などが強く関与していた可能性が推察される.今回筆者らの経験した2症例ではSCL装用が遷延化したSPKの治療に有効であった.SCL装用で生じたSPKに対しSCLを装用することは一見矛盾しており,一般的には勧められない治療と考える向きもある.しかし,SCL装用には涙液の眼表面への保持と眼瞼の機械的刺激からの保護,角膜上皮の脱落抑制ならびに角膜上皮の接着促進などの治療的メリットが認められ10),デメリットを最小化することができれば治療効果を得られる可能性がある.SCL装用に伴うデメリットとしては,酸素不足,ドライアイの悪化,SCL自体の機械的刺激ならびにレンズ表面への汚れの蓄積による角膜障害などがあげられ,これらを最小化するにはSCLの選択が重要であると考えられる.治療的SCLとして広く使用されているプラノB4Rは酸素透過性が低いためあまり勧められず,酸素透過性の高いものが望ましい.また,ドライアイの悪化については人工涙液の頻回点眼である程度緩和できる可能性が高い.今回症例1では,酸素透過性が非常に高く連続装用可能なシリコーンハイドロゲルレンズ(O2オプティクス)を使用した.その後,酸素透過性が高く,保湿効果が高い1日使い捨てSCLのワンデーアキュビューモイストRに変更したが,こちらでも十分な治療効果が得られた.症例2では1日使い捨てでかつ,材質に濡れ性の良い保水成分MPC(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)を含むとされるプロクリアワンデーRを使用し,SPKの治癒が得られた.レンズ表面の特に脂質についての汚れという観点からは,ワンデーアキュビューモイストRやプロクリアワンデーRのほうが他のタイプのSCLよりも優れていると考えられる.一方でSCLの取り扱いに不安のある患者の場合は,連続装用可能なシリコーンハイドロゲルレンズが適していると思われる.SCL自体による機械的刺激に対しては,装用方法の指導を徹底的に行うとともにフィッティングを最適化することが重要である.また,レンズ表面の汚れの蓄積は治療効果も減弱させる可能性が高いため,1日使い捨てタイプのSCLを必ず毎日交換するように指導する必要がある.以上のようにSCL装用によるデメリットを最小化し,メリットを最大化することで今回SPKの消失が得られたのではないかと推察される.今回筆者らはSCL装用中止,人工涙液点眼や涙点プラグでも治癒しない難治性のSPKを経験した.これまで治療的SCLの装用の適応疾患とされているものには,遷延性上皮欠損,再発性角膜上皮びらん,水疱性角膜症,角膜上皮形成術後,角膜熱傷・化学外傷後,神経麻痺性角膜炎,上輪部角結膜炎などがある11.13).今回,SCLの装用を中止ならびに人工点眼による点眼治療や涙点プラグの挿入に抵抗する難治性SPKを経験し,その存在を報告するとともに,このようなSCL装用で生じる難治性SPKにもSCLの治療的使用が効果的である可能性を本報告で示唆した.今回の治療方法が真に妥当で,有用であるかどうかは,今回の2症例のみで断定はできない.その治療メカニズムの詳細な解明も含め,今後多症例での検討が必要と考えられる.文献1)HamanoH,WatanabeK,HamanoTetal:Astudyofthecomplicationsinducedbyconventionalanddisposablecontactlenses.CLAOJ20:103-108,19942)WatanabeK,HamanoH:Thetypicalpatternofsuper820あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(106)ficialpunctatekeratopathyinwearersofextendedweardisposablecontactlenses.CLAOJ23:134-137,19973)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20034)PushkerN,DadaT,VajpayeeRBetal:Neurotrophickeratopathy.CLAOJ27:100-107,20015)CollinsM,SeetoR,CampbellLetal:Blinkingandcornealsensitivity.ActaOphthalmol(Copenh)67:525-531,19896)XuKP,YagiY,TsubotaK:Decreaseincornealsensitivityandchangeintearfunctionindryeye.Cornea15:235-239,19967)MullerLJ,MarfurtCF,KruseFetal:Cornealnerves:structure,contentsandfunction.ExpEyeRes76:521-542,20038)LiuQ,McDermottAM,MillerWL:Elevatednervegrowthfactorindryeyeassociatedwithestablishedcontactlenswear.EyeContactLens35:232-237,20099)PatelSV,McLarenJW,HodgeDOetal:Confocalmicroscopyinvivoincorneasoflong-termcontactlenswearers.InvestOphthalmolVisSci43:995-1003,200210)Coral-GhanemC,GhanemVC,GhanemRC:TherapeuticcontactlensesandtheadvantagesofhighDkmaterials.ArqBrasOftalmol71:19-22,200811)AquavellaJV:Newaspectsofcontactlensesinophthalmology.AdvOphthalmol32:2-34,197612)McDermottML,ChandlerJW:Therapeuticusesofcontactlenses.SurvOphthalmol33:381-394,198913)MondinoBJ,ZaidmanGW,SalamonSW:Useofpressurepatchingandsoftcontactlensesinsuperiorlimbickeratoconjunctivitis.ArchOphthalmol100:1932-1934,1982***