1036あたらしい眼科Vol.5107,22,No.3(00)1036(114)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第3回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科32(7):1036.1040,2015cはじめに眼科領域の手術,治療の進歩はめざましいものがあり,そのキーワードは「可視化」であった.しかしながら涙道疾患の治療にあっては,流涙症が眼科を受診する患者の主訴の上位にあるにもかかわらず,「可視化」とは程遠い「盲目的」治療が長く続けられていた.また,手術療法は涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)が効果的であるが,患者の負担も大きかった.ヌンチャク型シリコーンチューブ(N-ST)によるdirectsiliconeintubation(DSI)1)はDCRに比較し格段に手術侵襲が少なく術式の習得も容易であったため,わが国で広く普及しつつある.そして近年では涙道内視鏡を使用した涙管チューブ挿入術(以下,チューブ留置)が主流になりつつある.涙道内視鏡は20世紀末に涙道内の検査器具として栗原2)が試作し,さらに佐々木3)が乳管穿刺針を涙道内視鏡用に改良し涙道内の観察を容易にし,その知見を広めた.また,内視鏡直接穿破法(directendoscopicprobing:DEP)4)の登場により検査だけでなく治療器具としても使用されるようになった.涙道内視鏡にシースを被せて閉塞部を穿破するシース誘導内視鏡下穿破法(sheathguid-edendoscopicprobing:SEP)5)はさらに涙道治療の「可視化」を加速させた.SEPに使用したシースをそのままガイドとして使用しチューブを挿入するシース誘導チューブ挿入術(sheathguidedintubation:SGI)6)の登場は閉塞部の開放とチューブ留置に連続性をもたせ,盲目的操作がほぼなくな〔別刷請求先〕佐藤浩介:〒041-0851函館市本通2丁目31-8吉田眼科病院Reprintrequests:KosukeSato,M.D.,YoshidaEyeHospital,2-31-8Hondori,Hakodate,Hokkaido041-0851,JAPAN涙道内視鏡導入後の涙道閉塞症121側の治療成績佐藤浩介吉田紳一郎吉田眼科病院Outcomeof121SitesofLacrimalPassageObstructionafterIntroductionofaDacryoendoscopeKosukeSatoandShinichiroYoshidaYoshidaEyeHospital涙道内視鏡下チューブ挿入術を開始した術者(涙道内視鏡未経験)が約1年間にこの治療を82例121側に施行し,その治療成績を検討した.涙道閉塞121側のうち111側(91.7%)がチューブ挿入可能であった.予後は治癒が73側(66%),改善が13側(12%),不変が25側(22%)であった.閉塞部位別の治癒率は総涙小管閉塞が88%ともっとも良く,鼻涙管閉塞では47%であった.予後不良例の半数以上は慢性涙.炎を合併していた.涙道内視鏡初心者は術中に盲目的操作が多くなるため涙道を損傷し,予後が悪化する可能性があるので工夫が必要である.Inthisstudy,weexaminedthetreatmentoutcomesovera1-yearperiodofendoscopicnasolacrimalductintu-bationperformedbyasurgeonwithnoexperienceintheuseofadacryoendoscopein82casesoutof121sites.Amongthe121sitesoflacrimalpassageobstruction,111sites(91.7%)wereabletobeinsertedwiththetube.Theresultsshowedthat73sites(66%)hadhealed,13sites(12%)hadimprovement,and25sites(22%)hadnochange.Asforthecureratebyocclusionsite,thebestresultswereobservedincommoncanalicularobstruction(88%curerate)andinnasolacrimalductobstruction(47%curerate).Inmorethan50%ofthecaseswithpoorresults,thecaseswerecomplicatedbychronicdacryocystitis.Ourfindingsshowthatdacryoendoscopyperformedbyasurgeonwithlimitedornoexperienceisoftenperformedblindlyduringsurgery,thuspossiblydamagingthelacrimalpassageandresultinginpoortreatmentoutcomes.Furtherstudyisneededtodeviseasolution.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(7):1036.1040,2015〕Keywords:涙道閉塞,涙道内視鏡,涙管チューブ挿入術,仮道形成,涙小管損傷.lacrimalpassageobstruction,dacryoendoscope,nasolacrimalductintubation,falselacrimalpassage,canaliculardamage.(00)1036(114)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY《第3回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科32(7):1036.1040,2015cはじめに眼科領域の手術,治療の進歩はめざましいものがあり,そのキーワードは「可視化」であった.しかしながら涙道疾患の治療にあっては,流涙症が眼科を受診する患者の主訴の上位にあるにもかかわらず,「可視化」とは程遠い「盲目的」治療が長く続けられていた.また,手術療法は涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)が効果的であるが,患者の負担も大きかった.ヌンチャク型シリコーンチューブ(N-ST)によるdirectsiliconeintubation(DSI)1)はDCRに比較し格段に手術侵襲が少なく術式の習得も容易であったため,わが国で広く普及しつつある.そして近年では涙道内視鏡を使用した涙管チューブ挿入術(以下,チューブ留置)が主流になりつつある.涙道内視鏡は20世紀末に涙道内の検査器具として栗原2)が試作し,さらに佐々木3)が乳管穿刺針を涙道内視鏡用に改良し涙道内の観察を容易にし,その知見を広めた.また,内視鏡直接穿破法(directendoscopicprobing:DEP)4)の登場により検査だけでなく治療器具としても使用されるようになった.涙道内視鏡にシースを被せて閉塞部を穿破するシース誘導内視鏡下穿破法(sheathguid-edendoscopicprobing:SEP)5)はさらに涙道治療の「可視化」を加速させた.SEPに使用したシースをそのままガイドとして使用しチューブを挿入するシース誘導チューブ挿入術(sheathguidedintubation:SGI)6)の登場は閉塞部の開放とチューブ留置に連続性をもたせ,盲目的操作がほぼなくな〔別刷請求先〕佐藤浩介:〒041-0851函館市本通2丁目31-8吉田眼科病院Reprintrequests:KosukeSato,M.D.,YoshidaEyeHospital,2-31-8Hondori,Hakodate,Hokkaido041-0851,JAPAN涙道内視鏡導入後の涙道閉塞症121側の治療成績佐藤浩介吉田紳一郎吉田眼科病院Outcomeof121SitesofLacrimalPassageObstructionafterIntroductionofaDacryoendoscopeKosukeSatoandShinichiroYoshidaYoshidaEyeHospital涙道内視鏡下チューブ挿入術を開始した術者(涙道内視鏡未経験)が約1年間にこの治療を82例121側に施行し,その治療成績を検討した.涙道閉塞121側のうち111側(91.7%)がチューブ挿入可能であった.予後は治癒が73側(66%),改善が13側(12%),不変が25側(22%)であった.閉塞部位別の治癒率は総涙小管閉塞が88%ともっとも良く,鼻涙管閉塞では47%であった.予後不良例の半数以上は慢性涙.炎を合併していた.涙道内視鏡初心者は術中に盲目的操作が多くなるため涙道を損傷し,予後が悪化する可能性があるので工夫が必要である.Inthisstudy,weexaminedthetreatmentoutcomesovera1-yearperiodofendoscopicnasolacrimalductintu-bationperformedbyasurgeonwithnoexperienceintheuseofadacryoendoscopein82casesoutof121sites.Amongthe121sitesoflacrimalpassageobstruction,111sites(91.7%)wereabletobeinsertedwiththetube.Theresultsshowedthat73sites(66%)hadhealed,13sites(12%)hadimprovement,and25sites(22%)hadnochange.Asforthecureratebyocclusionsite,thebestresultswereobservedincommoncanalicularobstruction(88%curerate)andinnasolacrimalductobstruction(47%curerate).Inmorethan50%ofthecaseswithpoorresults,thecaseswerecomplicatedbychronicdacryocystitis.Ourfindingsshowthatdacryoendoscopyperformedbyasurgeonwithlimitedornoexperienceisoftenperformedblindlyduringsurgery,thuspossiblydamagingthelacrimalpassageandresultinginpoortreatmentoutcomes.Furtherstudyisneededtodeviseasolution.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(7):1036.1040,2015〕Keywords:涙道閉塞,涙道内視鏡,涙管チューブ挿入術,仮道形成,涙小管損傷.lacrimalpassageobstruction,dacryoendoscope,nasolacrimalductintubation,falselacrimalpassage,canaliculardamage.り,ようやく最近のトレンドに追いついた感はある.このような背景のなかでSEP+SGIは現在のチューブ留置による涙道疾患治療でもっとも可視的な術式であり,標準的な術式になりつつある.当院でも涙道内視鏡導入以前は,涙道閉塞症に対してN-STによるDSIを施行しており,DCRに頼らなくても治癒するケースが増えてきた.しかし,N-STが留置されているにもかかわらず流涙症が改善しないケースも少なくはなかった.当院では2012年10月から涙道内視鏡を導入した.涙道内視鏡未経験の術者が涙道内視鏡下チューブ挿入術を開始しある程度の症例数を経験したので,涙道内視鏡初心者の治療成績を検討し,陥りやすい傾向とその対策について報告する.I対象および方法対象は2012年10月.2013年11月の約1年間に涙道内視鏡下でチューブを施行した82例121側である.平均年齢は75.3±9.8歳で,男性26側,女性95側(男性21.5%:女性78.5%)であった.麻酔は全例に2%塩酸リドカイン(キシロカインR)の滑車下神経ブロックと4%キシロカインRの涙道内注入を行っている.術前の鼻内処置には2%キシロカインRと0.1%エピネフリン(ボスミンR)の1:1混合液を使用して鼻粘膜麻酔と血管収縮を行った.十分な涙点拡張の後,涙道内視鏡(ファイバーテック社,プローブは外径0.9mm)と鼻内視鏡(ファイバーテック社,外径2.7mm,視野角30°の硬性鏡)の映像をモニターしながら手術を行った.初期の8側は内視鏡直接穿破法DEPの後DSIを行い,鼻内視鏡で正しく下鼻道に留置されているか確認した.その後の103側はSEP+SGI(テルモ社サーフローRF&F,18ゲージ64mmをシースとして使用)にて施行した.シースの抜去は鼻内視鏡下で施行した.挿入したチューブはシラスコンRN-Sチューブ8側,PFカテーテルR71側,LACRIFASTR32側である.術後の経過観察はチューブ留置中には2週間ごとに経過観察を行い,そのつど涙.洗浄を施行した.チューブ抜去後は2週間.4週間で適宜涙.洗浄を施行した.チューブ抜去後1カ月までは,点眼液は1.5%レボフロキサシン(1.5%クラビットR)および0.1%フルオロメトロン(0.1%フルメトロンR)を日に4回とした.留置したチューブは2.3カ月で抜去した.予後はチューブ抜去後,術後3カ月の時点で判定した.予後の判定基準は通水良好で流涙がほぼ消失したものを治癒とした.通水はあるが流涙症の訴えが残存するものを改善,通水を認めないものを不変とした.閉塞部位を涙小管,総涙小管,鼻涙管,複数部位の4部位に分類し予後を判定した.また,他覚的な検査として,チューブが挿入可能であった全(115)図1前眼部光干渉計(CASIAR)による涙液メニスカス高(TMH)の計測例に対して,涙液メニスカス高(tearmeniscusheight:TMH)を前眼部光干渉断層計CASIAR(以下前眼部OCT)を用いて,術前と術後3カ月で計測し予後判定の参考とした(図1).II結果チューブを留置し手術を完了できた症例は涙道閉塞121側中111側であり手術完了率は91.7%であった.10側(8%)はチューブ留置が不可能であった.チューブ留置可能であった111側の閉塞部位は,鼻涙管閉塞が51側(42%)ともっとも多く,ついで総涙小管閉塞が多く43側(36%)であった.涙小管単独の閉塞は6側(5%),複数部位閉塞が11側(9%)であった(図2).121側全体の予後は治癒が73側(60%),改善13側(11%),不変25側(21%),チューブ留置不可能10側(8%)と分類された.治癒と改善を成功とし不変とチューブ留置不可能を不成功とすると,成功は71%で不成功は29%という結果であった(図3).閉塞部位別の予後は総涙小管閉塞の治癒が43側中38側で88.4%ともっとも良く,鼻涙管閉塞は治癒が51側中24側47%で50%以下の治癒率であった(図4,表1).予後が不変であった25側は鼻涙管閉塞が18側(72%)ともっとも多かった.総涙小管閉塞は3側,複数部位閉塞は4側であった.予後が不変であった鼻涙管閉塞では18側のうち13側(72%)は,術前から涙点からの涙.内貯留物の排出を認めたり,涙道内視鏡検査では涙.内貯留物が存在し涙.および鼻涙管内腔粘膜が白色綿状の物質で覆われており,慢性涙.炎を合併している状態であった.総涙小管閉塞ではチューブ早期抜去,涙小管炎の合併,術中の涙小管穿孔などがあった.複数部位閉塞では仮道形成の症例があった.また,チューブ留置が不可能であった10側中6側は,涙道内視鏡によって涙小管を穿孔してしまったため眼瞼の水腫が起き,患者の疼痛の増強や視界があたらしい眼科Vol.32,No.7,201510371038あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(116)不明瞭になったため中断した.10側中4側は鼻涙管の仮道に入り下鼻道に内視鏡を出すことができなかった.また,全体の121側のうち16側(13%)は術中に涙道内視鏡による涙小管穿孔のため眼瞼の水腫を生じたが,そのうち10側(63%)はチューブ留置が可能であった.チューブ留置できた10側(37%)の予後は治癒が4側(25%)にとどまり,改善2側13%,不変4側25%であった.6側(37%)はチューブ留置が不可能であった(図5).術前のTMHの平均は578±254μmで術後3カ月の平均は346±148μmとなり有意に減少した.術前TMHのピーク値は1,486μmであった.閉塞部位別にみた術前後のTMHの比較では,涙小管閉塞(p<0.05),総涙小管閉塞(p<0.001),鼻涙管閉塞(p<0.001)に有意差を認めた.複数部位閉塞では有意差を認めなかった(図6).III考按かつてはプロービングとチューブ留置はそれぞれが独立した操作であったが,SEP+SGIはシースを使用することでプロービングとチューブ留置が連続してできるようになった.筆者は盲目的操作がきわめて少ないという点で現在のところもっとも「可視的に」涙道疾患を治療できるSEP+SGIが現在のところもっとも洗練された涙道治療で今後さらに普及すると考え,その習得をめざした.図2涙道閉塞121側の閉塞部位涙小管閉塞6側5%総涙小管閉塞43側36%鼻涙管閉塞51側42%複数部位閉塞11側9%チューブ留置不可10側8%図3涙道内視鏡下チューブ留置121例全体の予後成功(治癒と改善):71%不成功(不変とチューブ留置不可):29%治癒73側60%改善13側11%不変25側21%チューブ留置不可10側8%図4閉塞部位と予後側0102030405060涙小管総涙小管鼻涙管複数部位■治癒■改善■不変表1閉塞部位と予後閉塞部位治癒改善不変涙小管6側5側(83.3%)1側総涙小管43側38側(88.4%)2側3側鼻涙管51側24側(47.1%)9側18側複数部位11側6側(54.5%)1側4側111側73側(65.8%)13側25側図5涙道内視鏡による涙小管穿孔のため眼瞼の水腫を生じた16側の予後チューブ留置不可37%治癒25%改善13%不変25%図6術前後のTMH01002003004005006007008009001,000涙小管総涙小管鼻涙管複数部位全体■術前■術後TMH(μm)p<0.05p<0.001p<0.001t-testp<0.001p>0.05(116)不明瞭になったため中断した.10側中4側は鼻涙管の仮道に入り下鼻道に内視鏡を出すことができなかった.また,全体の121側のうち16側(13%)は術中に涙道内視鏡による涙小管穿孔のため眼瞼の水腫を生じたが,そのうち10側(63%)はチューブ留置が可能であった.チューブ留置できた10側(37%)の予後は治癒が4側(25%)にとどまり,改善2側13%,不変4側25%であった.6側(37%)はチューブ留置が不可能であった(図5).術前のTMHの平均は578±254μmで術後3カ月の平均は346±148μmとなり有意に減少した.術前TMHのピーク値は1,486μmであった.閉塞部位別にみた術前後のTMHの比較では,涙小管閉塞(p<0.05),総涙小管閉塞(p<0.001),鼻涙管閉塞(p<0.001)に有意差を認めた.複数部位閉塞では有意差を認めなかった(図6).III考按かつてはプロービングとチューブ留置はそれぞれが独立した操作であったが,SEP+SGIはシースを使用することでプロービングとチューブ留置が連続してできるようになった.筆者は盲目的操作がきわめて少ないという点で現在のところもっとも「可視的に」涙道疾患を治療できるSEP+SGIが現在のところもっとも洗練された涙道治療で今後さらに普及すると考え,その習得をめざした.図2涙道閉塞121側の閉塞部位涙小管閉塞6側5%総涙小管閉塞43側36%鼻涙管閉塞51側42%複数部位閉塞11側9%チューブ留置不可10側8%図3涙道内視鏡下チューブ留置121例全体の予後成功(治癒と改善):71%不成功(不変とチューブ留置不可):29%治癒73側60%改善13側11%不変25側21%チューブ留置不可10側8%図4閉塞部位と予後側0102030405060涙小管総涙小管鼻涙管複数部位■治癒■改善■不変表1閉塞部位と予後閉塞部位治癒改善不変涙小管6側5側(83.3%)1側総涙小管43側38側(88.4%)2側3側鼻涙管51側24側(47.1%)9側18側複数部位11側6側(54.5%)1側4側111側73側(65.8%)13側25側図5涙道内視鏡による涙小管穿孔のため眼瞼の水腫を生じた16側の予後チューブ留置不可37%治癒25%改善13%不変25%図6術前後のTMH01002003004005006007008009001,000涙小管総涙小管鼻涙管複数部位全体■術前■術後TMH(μm)p<0.05p<0.001p<0.001t-testp<0.001p>0.05涙道内視鏡を使用しないチューブ留置の仮道形成にはいくつかの報告がある.井上ら7)はシリコーンチューブ留置を行った慢性涙.炎の予後不良群33例に涙道内視鏡を行った結果,9例に仮道形成が認められ,藤井ら8)は鼻涙管閉塞症に対して行われたシリコーンチューブ留置の21.5%に仮道形成があったと報告している.佐々木3)は内視鏡用に改良したトロカールを用いて涙道内視鏡による検査を行った結果,68%が上方に偏位しており,直のブジーでプロービングした場合,涙.鼻涙管移行部の背側に仮道を作る可能性が高いと報告している.Nariokaら9)は遺体を解剖し鼻涙管の矢状断における傾きをanteriortypeとposteriortypeに分類した結果,46側中33側72%がanteriortypeであったとしており,佐々木3)の報告とほぼ一致している.仮道の好発部位については井上ら7),藤井ら8)も同様の報告をしている.また,井上4)はチューブとチューブの間に粘膜が介在する粘膜ブリッジ形成がSEPおよびSGI導入後は大きく減少したと報告している.このことから,涙道内視鏡を使用することにより仮道形成や粘膜ブリッジなどの合併症を回避できる可能性が高いと思われる.SEPの最大の利点は閉塞部を直視下に穿破できることであるが,これはシースの透明性と素材がもつフレキシビリティーが貢献していると考えられる.しばしば鼻涙管が極端に腹側もしくは背側に偏位している症例に遭遇する.このような場合,無理に内視鏡を鼻内に出そうとすると,鼻涙管を傷つけるだけでなく内視鏡の損傷の可能性も高い.このような場合,被せたシースのみを偏位している鼻涙管に滑り込ませると,たわんでくれるので鼻涙管の偏位例でも内視鏡を損傷することなくプロービングとチューブ留置ができる.その一方で短所も存在する.涙道内視鏡にシースを被せると径が太くなり,涙道内視鏡に不慣れな術者には操作性が極端に悪化するように感じられた.涙道内での可動性が低下するので,管腔を見つけるのに苦労した.この傾向は涙小管でとくに強く,管腔が見つからず無理に涙道内視鏡を進めてしまい涙小管壁を穿破してしまうこともあった.このような涙小管損傷をきたした症例が当報告では121側中16側に認められ,とくに涙道内視鏡導入初期に多く発生し手術完了率を低下させた.シースを被せた状態で涙.に到達するのが最大の難関であるように感じたので,まずシースを被せず内視鏡を涙.まで挿入しリハーサルした.このリハーサルのときに内視鏡が引っかかりやすい場所や狭窄部を検査し挿入しやすい角度なども記憶しておいた.涙小管涙.移行部の形状や出血点なども良い指標になった.シースを被せたとき,リハーサルの視界と大きく異なる場合は無理に内視鏡を進めず再度リハーサルし,所見が一致するまで繰り返すことでかなりの割合で涙小管の損傷を回避できるようになった.また,術者の手や患者の眼瞼に水分があると眼瞼に十分にテンションが(117)かからないのでガーゼでそれぞれの水分をこまめに除去した.涙.以降の操作性はシース装着時でも悪化はしなかった.シースの抜去は鼻内視鏡下で麦粒鉗子にて行っているが,不慣れな時期には麦粒鉗子が鼻内視鏡に干渉し鉗子と内視鏡で鼻粘膜を損傷してしまうことがあった.このような場合,出血と鼻粘膜の腫脹のため視認性が著しく低下し,その後の操作性がますます悪化した.下鼻道が狭い症例ではとくにこの傾向が顕著であった.この対策として,麦粒鉗子が鼻内視鏡より少し先行した状態を鼻外であらかじめ作り,鼻内視鏡の映像の端に鉗子が映っている状態を保ちながら徐々に下鼻道に入り鼻涙管開口部にアプローチする方法を考案した.麦粒鉗子と鼻内視鏡が途中まで一つのユニットとして使用することでイレギュラーな動きが生じにくかった.もともと眼科医は鼻内操作に不慣れではあるが,より確実なチューブ留置を望むなら鼻内視鏡による鼻涙管開口部の観察は欠かせない.とくに鼻涙管の屈曲が強い症例ではシースのみを盲目的に鼻腔内に出さざるをえない場合があり,鼻内視鏡を使用することで正しく開口部にシースが出ていることを確認することができる.また,涙道内視鏡操作時に出血や仮道形成などで鼻涙管開口部が確認しづらい場合でも,鼻内視鏡で涙道内視鏡のライトの位置を指標に,正しい開口部に誘導ができるという点も有利である.この治療の場合は作業範囲が下鼻道に限局しているので,下鼻甲介の解剖学的な位置を把握する必要があるが,中鼻甲介との位置関係に習熟すればむずかしくはない.宮久保ら10)は涙道内視鏡所見から,総涙小管閉塞の所見を膜状閉塞,管状閉塞,涙.虚脱に大別しており,それぞれの手術完了率に大きな差が出ていることを報告している.鈴木ら11)は鼻涙管閉塞症を流涙発症から手術までの期間によりstage1からstage3まで分類し,罹病期間が長いほど手術完了率が低く再発リスクが高い傾向があったとしている.のちの杉本ら12)の報告ではこのstage分類での長期生存率は有意差が出なかったと報告している.このように涙道閉塞症の分類と予後は多岐に及んでいるので,当報告での閉塞部位の分類では,ある程度の傾向は出ているものの閉塞の程度やその性状が加味されておらず,もっと細分化して予後を検討する必要があると思われる.また,鈴木ら10)は鼻涙管閉塞症のチューブ留置の術後の内視鏡所見ではほとんどの症例で再狭窄がみられたと報告しており,チューブ留置は鼻涙管粘膜の異常を根本的に直す治療ではないので,早期発見と早期のチューブ留置が予後を良くする有効策としている.当報告でも鼻涙管閉塞の治癒率は短期成績でさえ47%と低く,また予後不良例の多くは慢性涙.炎であった.鶴丸ら13)の報告では鼻涙管完全閉塞の術後375日のKaplan-Meier法による生存率は18.0%となっており,いかに涙道内視鏡で正しくチューブを留置しても鼻涙あたらしい眼科Vol.32,No.7,20151039管粘膜の異常を治療できないので根治には至らない可能性があると考えられる.当報告でとくに強調したいことは,涙道内視鏡初心者にありがちな涙小管の穿孔はその後の操作性を著しく悪化させチューブ留置をむずかしくさせるだけでなく,チューブを留置できたとしても外傷の機転が働き再閉塞しやすいということである.今回121側のうち16側13%にこの事実があったことはとくに反省すべき点である.鈴木14)はTMHは高齢者の症例で結膜弛緩症の影響が無視できないとして,前眼部OCTで手術前後の下方涙液メニスカスの断面積(cross-sectionalarea:XSA)を測定することは流涙症の定量的評価に有用であったとしている.当報告でも閉塞部位ごとに前眼部OCTで計測した術前後の平均TMHの比較で涙小管閉塞,総涙小管閉塞,鼻涙管閉塞で有意差を認めたが,個々に症例をみていくとOCTで測定したTMH値と通水所見が食い違う症例が多数認められた.その原因としてアレルギー性結膜炎やドライアイなどのために涙液分泌が亢進していたり,結膜弛緩症の存在も無視できないので,これらの要因を排除してから検査を施行するべきだと思われる.涙道内視鏡には本来の内視鏡としての使用法とプローブとしての側面があり,とくに不慣れなうちはシースを被せて内視鏡を涙小管に挿入するとその可動域の狭さから涙小管壁しか見えない状態に陥りやすく,そのまま進んでしまうと盲目的なプロービングのように仮道形成の危険性があがる.治療はすべて可視的な操作のみではできないのは事実ではあるが,可能な限り可視的な操作の割合を増やす努力をすることで予後の改善につながると考える.また,本報告は涙道内視鏡初心者の短期成績であるので,長期成績になるとさらに治癒率が低下すると考えられるが,症例を重ねることにより手術完了率も高くなると思われる.そして今後は長期的な予後も検討するべきであると考える.涙道内視鏡下チューブ留置術は涙道内視鏡を使用することで確実性は高まっており有効な治療法であるが,チューブ留置が本質で涙.炎そのものを治療できないことには変わりはない.涙道内視鏡は基本的には検査器具であるので涙道疾患の分類に役立ち,ひいては治療法の選択に役に立つ.また,予後不良例に慢性涙.炎が多く含まれていたことから,術前から涙.内貯留物の排出が認められる場合には初回手術からDCRを選択するなど,術前の所見によりチューブ留置かDCRか適宜選択することで初回手術の予後が改善すると考える.涙道疾患全体の予後を改善するにはチューブ留置とDCRの両立が必須なので今後はDCRの習得が課題である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)栗橋克昭:ヌンチャク型シリコーンチューブ.新しい涙道手術のために.あたらしい眼科12:1687-1695,19992)栗原秀行:涙小管内視鏡(栗原式涙道内視鏡).眼科手術12:307-309,19993)佐々木次壽:涙道内視鏡所見による涙道形態の観察と涙道内視鏡併用シリコーンチューブ挿入術.眼科41:15871591,19994)鈴木亨:内視鏡を用いた涙道手術(涙道内視鏡手術).あたらしい眼科16:485-491,20035)杉本学:シースを用いた新しい涙道内視鏡下手術.あたらしい眼科24:1219-1222,20076)井上康:テフロン製シースでガイドする新しい涙管チューブ挿入術.あたらしい眼科25:1131-1133,20087)井上康,杉本学,奥田芳昭ほか:慢性涙.炎に対する涙道内視鏡を用いたシリコーンチューブ留置再建術.臨眼58:735-739,20048)藤井一弘,井上康,杉本学ほか:シリコンチューブ挿入術による仮道形成とその対策.臨眼59:635-637,20059)NariokaJ,MatsudaS,OhashiY:Inclinationofthesuperomedialorbitalriminrelationtothatofthenasolacrimaldrainagesystem.OphthalmicSurgLasersImaging39:167-170,200810)宮久保純子,岩崎明美,宮久保寛:涙道内視鏡下でのヌンチャク型シリコーンチューブ挿入術の手術成績.臨眼62:1643-1647,200811)鈴木亨,野田佳宏:鼻涙管閉塞症のシリコーンチューブ留置術の手術時期.眼科手術20:305-309,200712)杉本学,井上康:鼻涙管閉塞症に対する涙道内視鏡下チューブ挿入術の長期成績.あたらしい眼科27:12911294,201013)鶴丸修士,野田理恵,山川良治:鼻涙管完全閉塞に対するチューブ挿入術の検討.臨眼66:1175-1179,201214)鈴木亨:光干渉断層計を用いた涙小管閉塞症術前後の涙液メニスカス断面積の測定.臨眼65:641-645,2011***(118)