‘伝染性軟属腫’ タグのついている投稿

濾胞性結膜炎を伴う眼瞼伝染性軟属腫の2 例

2023年7月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科40(7):968.972,2023c濾胞性結膜炎を伴う眼瞼伝染性軟属腫の2例奥野周蔵*1原祐子*2鳥山浩二*2細川寛子*3竹澤由起*2北澤荘平*4井上康*5白石敦*2*1松山赤十字病院眼科*2愛媛大学医学部眼科学教室*3南松山病院眼科*4愛媛大学医学部病理学教室*5井上眼科CTwoCasesofFollicularConjunctivitisComplicatedbyMolluscumContagiosumontheEyelidMarginShuzoOkuno1),YukoHara2),KojiToriyama2),HirokoHosokawa3),YukiTakezawa2),SoheiKitazawa4),YasushiInoue5)andAtsushiShiraishi2)1)DepartmentofOphthalmology,MatsuyamaRedCrossHospital,2)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,MinamiMatsuyamaHospital,4)CEhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,5)InoueEyeClinicCDepartmentofMolecularPathology,濾胞性結膜炎の原因は感染性および非感染性に分けられ,感染性濾胞性結膜炎の原因微生物としてはクラミジアやアデノウイルス,ヘルペスウイルス,伝染性軟属腫ウイルス(Molluscumcontagiosumvirus:MCV)などが知られている.今回筆者らは,眼瞼伝染性軟属腫に伴う濾胞性結膜炎のC2例を経験したので報告する.2例とも眼瞼縁にC2Cmm大の腫瘍を認め,腫瘍の切除のみで濾胞性結膜炎は軽快した.切除した病変の組織内には伝染性軟属腫小体(Hender-son-Pattersonbodies)を認めた.さらに,伝染性軟属腫ウイルスCDNAのCPCR検査およびCSangerシーケンス法による解析により,両病変内へのCMCV1の存在が示唆された.伝染性軟属腫ウイルスはCMCV1.4のC4種が報告されているが,臨床的な意義は未だほとんど不明であるため,さらなる検討が必要である.CBackground:Infectiousfollicularconjunctivitiscanbecausedbychlamydia,adenovirus,herpessimplexvirus,andthemolluscumcontagiosumvirus(MCV),etc.Herein,wereporttwocasesofinfectiousfollicularconjunctivitiscomplicatedCbyCmolluscumcontagiosum(MC)onCtheCeyelidCmargin.CCasereports:InCbothCcases,CsmallCroundedC2Cmm-diameterCpapulesCwereCobservedConCtheCeyelidCmargin.CAfterCsurgicalCexcisionCofCtheCpapules,CtheCfollicularCconjunctivitisdisappearedinbothcases.Examinationofthetissueoftheresectedlesionsrevealedmolluscumbod-ies,CalsoCknownCasCHenderson-PattersonCbodies,CconsistentCwithCtheC.ndingsCinCpreviousCreports,CandCpolymeraseCchainreactionandSangersequencingrevealedthepresenceofMCV1inbothlesions.Conclusions:AlthoughfourtypesofMCV(i.e.,MCV1-4)havebeenreported,littleisknownabouttherelationshipbetweenthevarioustypesofMCVandclinical.ndings,sofurtherresearchisnecessary.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(7):968.972,C2023〕Keywords:濾胞性結膜炎,伝染性軟属腫,ポックスウイルス.follicularconjunctivitis,molluscumcontagiosum,poxvirus.Cはじめに濾胞性結膜炎の原因は感染性および非感染性に分けられる.感染性濾胞性結膜炎の原因微生物としてクラミジアやアデノウイルス,ヘルペスウイルス,伝染性軟属腫ウイルス(MolluscumCcontagiosumvirus:MCV)などが知られている.伝染性軟属腫は,小児や免疫不全者,アトピー性皮膚炎患者などに好発し,中心に臍窩を伴う乳白色の良性腫瘍が皮膚や粘膜組織に生じる.接触や性交渉により伝播するが,多くの場合は数カ月から数年程度で自然軽快するため,整容上の理由以外では積極的な治療はあまり行われない1).しかし,眼瞼縁病変では慢性濾胞性結膜炎の原因となりうることも古くから知られており2.4),外科的治療法として切除や切開掻〔別刷請求先〕奥野周蔵:〒790-8524愛媛県松山市文京町1松山赤十字病院眼科Reprintrequests:ShuzoOkuno,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MaatsuyamaRedCrossHospital,1Bunkyocho,Matsuyama-city,Ehime798-8510,JAPANC968(120)爬,冷凍凝固,焼灼,圧搾,レーザーなど,保存療法として局所薬物療法や内服薬などが報告されている3,5,6).今回筆者らは,伝染性軟属腫の眼瞼縁病変切除のみで軽快した,濾胞性結膜炎のC2例を経験した.また,うちC1例の病変切除後に病理組織学的検査を,2例ともに分子生物学的検査を施行し,病変内へのCMCVの存在を確認し遺伝子型を同定したので報告する.CI症例[症例1]35歳,男性.主訴:右眼充血.既往歴:梅毒(24歳).現病歴:1カ月前からの右眼充血を主訴にCXX年CX月に近医眼科を受診した.右眼アレルギー性結膜炎の診断でオロパタジン点眼液C0.1%とフルオロメトロン点眼液C0.02%が処方された.1カ月で改善し点眼中止したが,再度増悪し同年9月に再診した.眼球結膜・眼瞼結膜の充血と高度の濾胞形成,白色眼脂を認め,クラミジア結膜炎を疑い,結膜ぬぐい液CPCR検査,血清抗体検査を施行したが,ともに陰性であった.涙液総CIgE測定試験(アレルウォッチ)を施行したところ弱陽性であったため,アレルギー性結膜炎として前述の点眼治療が再開されたが改善が認められず,XX+1年X月に愛媛大学附属病院を紹介受診した.初診時所見:右眼視力C0.4(1.2C×sph.0.50D(cyl.1.75DCAx90°),左眼視力C0.4(1.2C×sph.0.75D(cyl.1.50DAx90°),右眼眼圧C17mmHg,左眼眼圧C17mmHgであった.右眼毛様充血および結膜充血が強く,下眼瞼結膜には濾胞を伴っていた(図1a).また,右上眼瞼縁中央部にC2Cmm大の腫瘍を認めた(図1b).腫瘍の性状は境界明瞭な乳白色の小丘疹であった(図1c).左眼には特記すべき所見を認めず,その他の部位に同様の小丘疹は認めなかった.経過:細隙灯顕微鏡所見より伝染性軟属腫による濾胞性結膜炎を疑い,右上眼瞼縁の小丘疹を点眼麻酔下に剪刀で切除し,点眼はすべて中止し経過観察を行った.切除後C2週間の時点で結膜濾胞は消失(図1d),充血も改善した.切除後C4カ月でも腫瘍や濾胞性結膜炎の再発はなかった(図1e).[症例2]6歳,女児.主訴:右眼充血.既往歴:なし.現病歴:皮膚科で眼周囲伝染性軟属腫の診断を受け,充血を伴う眼瞼病変を伴うことから眼科受診を勧められて,XX年CX月に井上眼科を受診した.初診時所見:右眼に濾胞性結膜炎と眼球結膜充血,下眼瞼縁中央部にC2Cmm大の腫瘍を認めた(図2a,b).眼周囲にも複数の同様の伝染性軟属腫病変を認めた.経過:下眼瞼縁中央部の腫瘍を無麻酔下に鑷子で除去し,点眼薬は使用せず経過観察とした.2週間後の再診時に腫瘍の再発はなく,濾胞性結膜炎および結膜充血は軽快していた(図2c).切除後C1カ月時点でも腫瘍の再発は認められていない(図2d).眼瞼以外の皮膚病変は皮膚科で切除され,ベタメタゾン・ゲンタマイシン配合軟膏の処方を受けていた.CII採取組織の解析方法症例C1から切除した病変はヘマトキシリン・エオジン染色,抗CCD3抗体免疫染色を行った.また,症例C1およびC2の組織片からCDNA抽出を行い,MCVのCDNAに反応するよう設計したプライマーを用いてCPCR法により増幅した.電気泳動後に目的のバンドからCDNAを抽出して精製し,Sangerシーケンス法を用いて塩基配列を決定し,NCBI(NationalCCenterCforCBiotechnologyInformation)データベースでのCAlignment解析により遺伝子型検索を行った.CIII結果症例C1から採取した検体の病理組織学的検査では,既報と同様の伝染性軟属腫を示唆する好酸性の細胞質内封入体(Henderson-Pattersonbodies:伝染性軟属腫小体)が認められた(図3a)3,7),CD3抗体による免疫染色でCTリンパ球の浸潤が確認された(図3b)8).また,両症例から抽出したCDNAを鋳型としてCPCR法を施行した結果,いずれも予測される長さ(638Cbps)の反応産物が得られた(図4).PCR産物のCDNA配列についてCNCBIデータベースを使用して解析を行った結果,いずれの配列もGenBankに登録されているCMCV1のCDNA配列(GenBankAccession:MH320554)と一致した.CIV考按伝染性軟属腫の眼瞼縁病変に合併する濾胞性結膜炎のC2例を経験した.濾胞性結膜炎は,ウィルス,クラミジアなどの感染症や,アレルギー性結膜炎,薬剤性結膜炎など,さまざまな原因により発症し,鑑別に難渋することも多い.症例C1でも,アレルギー性結膜炎と診断されて約半年間加療されたが寛解しないという経過をたどっている.アレルギー性結膜炎と診断した根拠であるアレルウオッチは,涙液中のCIgEを簡単に測定可能であり,有病正診率C73.6%,無病正診率はC100%と診断精度も高いため,日常診療でも頻用されている.しかし,近年の調査では,国内のアレルギー性結膜炎有病率はC48.7%と高頻度であることが明らかになっており9),アレルギー性結膜炎を合併している患者が多いことを考慮する必要がある.今回のC2症例はいずれも伝染性軟属腫に特徴的な腫瘍が眼瞼縁に認められた.結膜炎の診察では,ともすれば眼表面や瞼結膜,場合によって眼内も含む診察にとどまりかねないが,眼瞼まで含めた詳細な診察を行うことが大切であることが示唆された.眼部伝染性軟属腫に伴う濾胞性結膜炎のC40%は初診で診断されていないとの報告もあるため8),眼球や結膜以外の部位も含めた広範な診察や丁寧な病歴聴取を心がける必要があると考えられる.伝染性軟属腫に合併する濾胞性結膜炎の発症機序は,眼瞼縁の腫瘍からウイルス蛋白が涙液層に流れ込み,慢性的な濾胞反応や上皮下混濁,パンヌスなどの二次的な過敏性反応を引き起こすためと考えられている3).これらの二次的な症状が出現したあとでも,腫瘍消失後には急速に改善することが図1症例1の外眼部写真a:初診時,下眼瞼結膜に多数の濾胞を認めた.Cb:眼球結膜の充血と上眼瞼縁中央部にC2Cmm大の腫瘍を認めた.Cc:境界明瞭な乳白色の腫瘍を認めた.Cd:切除後C2週間.結膜濾胞は消失した.Ce:切除後C4カ月.充血は改善し腫瘍再発もない.知られている3).今回のC2症例では,眼瞼の腫瘍切除のみで濾胞性結膜炎は消失した.眼部伝染性軟属腫に対しては,外科的治療法として切除や切開掻爬,冷凍凝固,焼灼,圧搾,レーザーなど,保存療法としてサリチル酸やイミキモド,グリコール酸などの局所薬物療法やシメチジンの内服などが報告されているが1,3,5,6),本症例では腫瘍の切除のみで濾胞性結膜炎が軽快し,再発はみられなかった.切除は,低コストかつ短時間で治療が終了する点や,薬物アドヒアランスや副作用を心配す図2症例2の外眼部所見a,b:初診時,下眼瞼縁中央部に腫瘍あり,濾胞性結膜炎を認めた.Cc:切除後C2週間.結膜炎は軽快した.Cd:切除後C1カ月.濾胞性結膜炎は軽快し腫瘍再発はない.図3症例1の病理組織標本a:びまん性のリンパ球浸潤と,好酸性の細胞質内封入体(伝染性軟属腫小体:Henderson-Pattersonbodies)()がみられる.b:CD3陽性のCTリンパ球浸潤がみられる().る必要がない点などにおいて保存療法に対して優位性がある(Henderson-Pattersonbodies)と多数のCTリンパ球の浸潤と考えられる.一方,切除以外の外科的治療との比較に関しがみられ,Serinらの報告と一致する所見であった3).ては,さらなる検討が必要である.MCVには,MCV1からCMCV4のC4種の遺伝子型がある本症例では病理組織学的検査において伝染性軟属腫小体ことが知られている10)が,過去の報告ではC76.97%が(bps)症例1陰性対照(bps)症例2陰性対照1,0001,000500500図4PCR反応後の電気泳動写真症例C1,2ともにC638CbpsのCPCR産物が確認された.陰性対照(鋳型CDNAなし,PCR反応あり)では遺伝子増幅は確認されなかった.MCV1でもっとも多く,ついでCMCV2が多い7,11).MCV3とCMCV4はきわめてまれであり,全ゲノム配列がCGenBankデータベースに公開されているのはCMCV1とCMCV2のみである.今回筆者らが経験した症例はいずれもCMCV1であることが確認されたが,濾胞性結膜炎の原因となった眼部伝染性軟属腫の遺伝子型についてはいまだほとんど報告されていない.遺伝子型と臨床症状との関連については,成人女性ではCMCV2への感染が多いこと,非性器部位ではCMCV1が多いことなどの限られた報告11)はあるものの,未だほとんど不明であるため,今後さらなる検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)Meza-RomeroCR,CNavarrete-DechentCC,CDowneyC:Mol-luscumcontagiosum:anCupdateCandCreviewCofCnewCper-spectivesCinCetiology,Cdiagnosis,CandCtreatment.CClinCCos-metInvestigDermatolC12:373-381,C20192)MagnusJA:UnilateralCfollicularCconjunctivitisCdueCtoCmolluscumCcontagiosum.CBrCJCOphthalmolC28:245-248,C19443)SerinC.,CBozkurtCO.azCA,CKaraba.l.CPCetal:EyelidCmol-luscumcontagiosumlesionsintwopatientswithunilateralCchronicCconjunctivitis.CTurkCJCOphthalmolC47:226-230,C20174)亀山和子,吉川啓司,林皓三郎:濾胞性結膜炎を伴った眼部伝染性軟属腫.眼科C20:141-144,C19785)KarabulutGO,OzturkerC,KaynakPetal:TreatmentofextensiveCeyelidCmolluscumCcontagiosumCwithCphysicalCexpressionCaloneCinCanCimmunocompetentCchild.CTurkCOftalmolojiDergisiC44:158-160,C20146)ScheinfeldN:TreatmentCofCmolluscumcontagiosum:aCbriefreviewanddiscussionofacasesuccessfullytreatedwithadapelene.DermatolOnlineJC13:15,C20077)ChenCX,CAnsteyCAV,CBugertJJ:MolluscumCcontagiosumCvirusinfection.LancetInfectDisC13:877-888,C20138)CharterisDG,BonshekRE,TulloAB:Ophthalmicmollus-cumcontagiosum:clinicalCandCimmunopathologicalCfea-tures.BrJOphthalmolC79:476-481,C19959)MiyazakiCD,CFukagawaCK,CFukushimaCACetal:AirCpollu-tionCsigni.cantlyCassociatedCwithCsevereCocularCallergicCin.ammatorydiseases.SciRepC9:18205,C201910)NakamuraCJ,CMurakiCY,CYamadaCMCetal:AnalysisCofCmolluscumcontagiosumvirusgenomesisolatedinJapan.JMedVirolC46:p339-348,C1995C11)TCr.koCK,CHo.njakCL,CKu.arCBCetal:Clinical,Chistopatho-logical,CandCvirologicalCevaluationCofC203CpatientsCwithCaCclinicalCdiagnosisCofCmolluscumCcontagiosum.COpenCForumCInfectDisC5:ofy298,C2018***