‘低侵襲緑内障手術’ タグのついている投稿

眼内レンズ強膜内固定術後に眼圧上昇をきたし,線維柱帯切開術が奏効した2例

2024年8月31日 土曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(8):1008.1011,2024c眼内レンズ強膜内固定術後に眼圧上昇をきたし,線維柱帯切開術が奏効した2例黒川友貴野村英一植木琴美西勝生岡田浩幸黒木翼井口聡一郎石井麻衣水木信久横浜市立大学医学部眼科学教室CTwoCasesofTrabeculotomyforHighIntraocularPressureafterIntrascleralIOLFixationYukiKurokawa,EiichiNomura,KotomiUeki,KatsukiNishi,HiroyukiOkada,TsubasaKuroki,SoichiroInokuchi,MaiIshiiandNobuhisaMizukiCDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicineC緒言:眼内レンズ(intraocularlens:IOL)強膜内固定術後に眼圧上昇をきたし,低侵襲緑内障手術(MIGS)が奏効したC2例を経験したので報告する.症例:症例C1はC45歳,男性.2005年に右白内障手術を施行後,2018年に右眼IOL亜脱臼に対し強膜内固定術を施行された.2020年C12月に右眼の視力低下と眼圧上昇を認め横浜市立大学附属病院眼科を紹介受診した.当院受診時は右眼眼圧C40CmmHgであり,逆瞳孔ブロックの所見は認めず,右眼の隅角には強い色素沈着を認めた.眼内法による線維柱帯切開術を施行され,術後眼圧はC10CmmHg台で経過した.症例C2はC48歳,男性.2019年に右白内障手術を施行され,2022年C3月に右眼CIOL落下に対し強膜内固定術を施行された.同年C4月に右眼痛を主訴に当院に救急搬送され,右眼眼圧はC72CmmHgと著しく高値であった.アセタゾラミド内服下でも右眼眼圧はC41CmmHgであり,逆瞳孔ブロックの所見は認めず,隅角には強い色素沈着を認めた.眼内法による線維柱帯切開術を施行され,術後眼圧はC10CmmHg台で経過した.結語:IOL強膜内固定術後の合併症として眼圧上昇に留意する必要があり,眼内法による線維柱帯切開術が有用な治療法と考えられた.CPurpose:Toreporttwocasesinwhichminimallyinvasiveglaucomasurgery(MIGS)wassuccessfulfortreat-ingCelevatedCintraocularpressure(IOP)afterCintrascleralCintraocularlens(IOL).xation.CCase1:AC45-year-oldCmalewhohadundergoneintrascleralIOL.xationin2018wassubsequentlyreferredtoourhospitalin2020duetodecreasedvisualacuityandelevatedIOPinhisrighteye.Uponexamination,theright-eyeIOPwas40CmmHgandthickCpigmentationCwasCobservedCinCtheCangle.CTrabeculotomyCwasCperformed,CandCIOPCdecreasedCandChasCremainedat10CmmHgpostsurgery.Case2:A48-year-oldmalewhohadundergoneintrascleralIOL.xationinMarch2022,subsequentlypresentedatourhospital1monthlaterduetopaininhisrighteye.Uponexamination,theCright-eyeCIOPCwasC41CmmHgCandCthickCpigmentationCwasCobservedCinCtheCangle.CTrabeculotomyCwasCper-formed,andIOPdecreasedandhasremainedat10CmmHgpostsurgery.Conclusion:Our.ndingsshowwhenele-vatedIOPoccursasacomplicationafterintrascleralIOL.xation,itcane.ectivelybetreatedbyMIGS.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(8):1008.1011,C2024〕Keywords:眼内レンズ強膜内固定術,眼圧上昇,低侵襲緑内障手術,線維柱帯切開術.intrascleralCIOLC.xation,highintraocularpressure,microinvasiveglaucomasurgery(MIGS),trabeculotomy.Cはじめに場し,IOL二次挿入術として選択される機会は増えている白内障手術件数の増加に伴い,Zinn小帯脆弱例や術後のが,その長期経過についてはいまだ不明な点も多い.IOL偏位・脱臼を認める患者へ対応する機会は増えている.今回筆者らはCIOL強膜内固定術後に眼圧上昇をきたし,縫合操作を必要としない術式としてCIOL強膜内固定術が登眼内法による線維柱帯切開術が奏効したC2例を経験したので〔別刷請求先〕黒川友貴:〒236-0004横浜市金沢区福浦C3-9横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YukiKurokawa,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama,Kanagawa236-0004,JAPANC1008(136)図1症例1:右眼の前眼部OCT所見前房深度はC3.4Cmmであり,逆瞳孔ブロックは認めなかった.報告する.CI症例〔症例1〕45歳,男性.2005年に右眼の白内障手術を施行され,2016年より右眼緑内障の診断で近医にて加療を開始された.2018年に右眼IOL亜脱臼に対しフランジ法によるCIOL強膜内固定術が施行され,ラタノプロスト,ブリモニジン酒石酸塩点眼にて右眼眼圧はC10CmmHg台後半で経過していた.2020年C6月の視野検査で視野障害の進行を認めたため,リパスジル塩酸塩水和物点眼が追加となり,眼圧はC15CmmHg程度まで下降した.同年C12月の受診時に右眼眼圧C33CmmHgと高値であり,視力低下も伴っていたため横浜市立大学附属病院眼科(以下,当院)を紹介され受診した.既往歴はアトピー性皮膚炎,気管支喘息であった.初診時の視力は,右眼C0.06(0.3C×sph.3.25D(cyl.2.00DAx85°),左眼C0.04(1.2C×sph.8.75D(cyl.0.25DCAx75°),眼圧は右眼C40CmmHg,左眼C12CmmHgであった.右眼は虹彩C2時方向に周辺虹彩切開が施行されており,IOLはC4時-10時の方向に強膜内固定されていた.前房深度はC3.4Cmmであり,前眼部光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)では逆瞳孔ブロックは認められなかった(図1).虹彩動揺がみられ,隅角には全周性に強い色素沈着(Scheie分類CgradeIII.IV),下方には周辺虹彩前癒着(peripheralCanteriorsynechia:PAS)がみられた(図2).静的量的視野検査,動的量的視野検査を施行すると,右眼はすでに中心視野障害をきたしていた(図3).線維柱帯への色素沈着が強く,若年であることから眼内法による線維柱帯切開術(谷戸氏Cabinternoトラベクロトミーマイクロフック使用)を施行された.術後眼圧はC10.17CmmHgで推移し,その後眼圧上昇はみられなかった.〔症例2〕48歳,男性.図2症例1:右眼の隅角所見(下方)全周性に色素沈着がみられ,下方には周辺虹彩前癒着(peripher-alanteriorsynechia:PAS)がみられた.2019年に右眼の白内障手術を施行され,2022年C1月に右眼CIOL落下を認めCIOL摘出およびフランジ法による強膜内固定術を施行された.術後経過は良好であったが,同年C4月に右眼痛と嘔気を認め,近医救急科を受診し精査されたが明らかな異常は指摘されず,眼科疾患を疑われ当院に転院搬送となった.受診時,右眼眼圧はC72CmmHgと著しく高値であり,D-マンニトール点滴を施行し眼圧はC28CmmHgまで下降した.夜間であったため一度帰宅とした.翌日再診時の視力は,右眼C0.15(1.2C×sph.2.25D(cyl.0.50DAx145°),左眼C0.06(1.2C×sph.5.25D(cyl.0.75DAx30°),眼圧は右眼44mmHg,左眼C13CmmHgであった.右眼は虹彩C2時方向に周辺虹彩切開を施行されており,IOLはC4時-10時の方向に強膜内固定されていた.前房深度はC3.5Cmmであり,前房内には色素性の微塵浮遊がみられ,前眼部COCTでは逆瞳孔ブロックの所見は認められなかった(図4).虹彩動揺と隅角には下方優位に全周性に強い色素沈着(Scheie分類CgradeIII.IV)がみられた(図5).線維柱帯への色素沈着が強く,若年であることから眼内法による線維柱帯切開術(谷戸氏Cabinternoトラベクロトミーマイクロフック使用)を施行した.術後眼圧はC10.15CmmHgで推移し,その後眼圧上昇はみられていない.高眼圧をきたしてから手術までの期間は約C1週間であり,術後施行した視野検査では明らかな視野障害は認められなかった.CII考按無水晶体眼やCIOL偏位・脱臼例に対するCIOL固定法として,従来はCIOL毛様溝縫着術が行われてきたが,2007年のGaborによる報告以降,IOL強膜内固定術が発展してきた1).2014年に山根らが,ダブルニードルテクニックを報告してから国内でも広く施行されるようになり,年々施行件数は増図3症例1:右眼の静的量的視野検査中心30-2プログラムおよび動的量的視野検査すでに中心視野障害をきたしており,MD値はC.12.02CdBであった.図4症例2:右眼の前眼部OCT所見前房深度はC3.5Cmmであり,逆瞳孔ブロックは認めなかった.加している2).従来の縫着術と比較し,IOL偏位や傾斜が少なく,縫合操作が不要であり,より短時間で行えるなどの利点がある一方で,問題点としては支持部の破損や変形,強膜からの露出の可能性,長期経過が不明である点などがあげられる3).図5症例2:右眼の隅角所見(下方)下方優位に全周性に強い色素沈着がみられた.強膜内固定術後の合併症として,瞳孔捕獲,IOL偏位,黄斑浮腫,硝子体出血,前房出血,一過性の低眼圧・高眼圧などが報告されている4,5).近年,強膜内固定術後の逆瞳孔ブロックにより高眼圧をきたした症例が報告されており,硝子体手術後の無硝子体眼に発生しやすく,レーザー虹彩切開術が有効であるとされている6,7).強膜内固定術後に逆瞳孔ブロックを生じる機序については,虹彩裏面とCIOL間の距離の減少との関連が示唆されており,無硝子体眼,虹彩動揺,隅角色素がリスク因子であることが報告されている6).深前房,虹彩の後方弯曲,瞳孔縁のCIOLとの接触が逆瞳孔ブロックの特徴的な所見であるが,今回のC2症例ではすでに周辺虹彩切開が施行されており,前眼部COCTでも逆瞳孔ブロックの所見は認められなかった.今回のC2症例においては共通して隅角に強い色素沈着と虹彩動揺の所見がみられた.虹彩動揺はCIOL脱臼・落下に対しCIOL抜去,強膜内固定術を施行された際の虹彩付近での操作や手術侵襲により生じたものと考えられた.強膜内固定術ではCIOL支持部端をC2.3Cmm強膜内に埋没させるため,光学面は安定する一方で支持部に引き伸ばされる力が加わるとされる2).そのためCIOL支持部は破損しにくい材質が望ましい.ポリメチルメタクリレート(PMMA)製の支持部は先端を把持した際に破損することがあり,剛性ゆえに眼内操作での自由度も低いため,ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製が扱いやすいとされる5).また,固定後の安定性はCIOL全長の長いもののほうがよいことから,光学部径C7.0mmでPVDF製支持部を有し支持部間距離C13.2CmmであるエタニティーCX-70S(参天製薬),エタニティーナチュラルCNX-70S(参天製薬)が選択されることが多い.これらのCIOLは支持部角度がC7°に設計されているため,IOL支持部の伸展により虹彩裏面とCIOL光学部間の距離は近くなるものと考えられる.角膜径が大きい場合,支持部にかかる伸展力は強まりさらに近接すると考えられるが,今回のC2症例では角膜水平径はC11.7Cmm,12.3Cmmと正常範囲内であり,虹彩裏面とCIOL光学部の接近量は少なめで逆瞳孔ブロックまでは至らなかった可能性がある.しかし,逆瞳孔ブロックまで至らない場合も,一定量の虹彩裏面とCIOL光学部間の接近により,虹彩の緊張度が乏しい患者では眼球運動に伴い虹彩裏面とCIOLの摩擦は生じやすくなると考えられる.摩擦により散布された色素が線維柱帯に沈着し,色素性緑内障の病態を生じることで眼圧上昇をきたす可能性が示唆された.前立腺肥大症の内服治療患者,外傷や術後で瞳孔偏位や虹彩の緊張低下がみられる患者ではより慎重な経過観察が必要と考えられる.今回のC2症例では谷戸氏Cabinternoトラベクロトミーマイクロフックを用いた線維柱帯切開術の施行により眼圧下降が得られた.IOL縫着術後や硝子体手術後の患者においては,より確実な眼圧下降が必要な場合や目標眼圧が低い場合は線維柱帯切除術が選択されることも多い8).しかし,術後合併症として濾過胞感染のリスクがあることに加え,硝子体手術後の患者では結膜状態や術中の眼球虚脱により手術難度が高くなる,駆逐性出血のリスクが高まるなどのデメリットがある.IOL縫着術後や強膜内固定術後の患者における線維柱帯切開術では,前房出血が硝子体腔に回ることが術後合併症の一つであるが,IOLが隔壁となるので回る量は少量であることが多く,今回のC2症例においても術後数週間で自然に消退が得られた.隅角色素が眼圧上昇機序の主因であると考えられる患者においては,線維柱帯切開術が奏効する可能性があり,低侵襲な術式から治療方針を考慮することが望ましいと考えられた.今回筆者らは,IOL強膜内固定術後に逆瞳孔ブロックを伴わない眼圧上昇を認めたC2例を経験した.IOL強膜内固定術後の合併症として眼圧上昇に留意する必要があり,眼内法による線維柱帯切開術が有用な治療法となる可能性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GaborSGB,PavlidisMM:SuturelessintrascleralposteriorchamberCintraocularClensC.xation.CJCCataractCRefractCSurgC33:1851-1854,C20072)YamaneCS,CInoueCM,CArakawaCACetal:SuturelessC27-gaugeCneedle-guidedCintrascleralCintraocularClensCimplan-tationCwithClamellarCscleralCdissection.COphthalmologyC121:61-66,C20143)太田俊彦:眼内レンズ強膜内固定術:T-.xationtechnique.眼科グラフィック6:45-53,C20174)LiuJ,FanW,LuXetal:Suturelessintrascleralposteriorchamberintraocularlens.xation:Analysisofclinicalout-comesCandCpostoperativeCcomplications.CJCOphthalmol2021:8857715,C20215)蒔田潤,小堀朗:眼内レンズ強膜内固定法の合併症,あたらしい眼科32:1569-1570,C20156)BangCSP,CJooCCK,CJunJH:ReverseCpupillaryCblockCafterCimplantationofascleral-suturedposteriorchamberintra-ocularlens:aretrospective,openstudy.BMCOphthalmolC17:35,C20177)BharathiCM,CBalakrishnanCD,CSenthilS:C“PseudophakicCReverseCPupillaryCBlock”followingCyamaneCtechniqueCscleral-.xatedCintraocularClens.CJCGlaucomaC29:e68-e70,C20208)庄司信行:硝子体手術後の続発緑内障はこう治す.あたらしい眼科26:331-336,C2009***

水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術(iStent inject W)の術後12カ月成績

2024年8月31日 土曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(8):1003.1007,2024c水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術(iStentinjectW)の術後12カ月成績半田壮大塚眼科医院CSurgicalOutcomesat12MonthsafterCombinediStentinjectWSecond-GenerationTrabecularMicro-BypassStentImplantationandPhacoemulsi.cationSoHandaCOtsukaEyeClinicC目的:iStentCinjectW(Glaukos社)を用いた水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術の術後C12カ月成績について検討する.対象および方法:大塚眼科医院でC2021年C4月.2022年C4月に同一術者によりCiStentinjectWを挿入し,12カ月以上経過観察が可能であった広義原発開放隅角緑内障患者を対象とした.視力,眼圧,点眼スコア,角膜内皮細胞密度,術後合併症について後ろ向きに検討した.結果:症例はC40例C68眼(72.7C±6.0歳).矯正視力(logMAR)は術前C0.16±0.17,術後C1カ月C.0.07±0.12,術後C12カ月C.0.11±0.07と術前より有意に向上していた(p<0.0001).眼圧は術前C15.8C±3.0CmmHg,術後C12カ月C12.5C±2.5CmmHgと有意に下降し,点眼スコアは術前C1.2C±0.6,術後C12カ月C0.1C±0.4と有意に減少していた(p<0.0001).角膜内皮細胞密度は術前C2,697C±338Ccells/mm2,術後C1カ月でC2,513C±533Ccells/mm2,術後C12カ月C2,501C±402Ccells/mm2と有意な減少(p<0.001)を認めたが,術後C1カ月と術後C12カ月では有意な減少は認めなかった.術後合併症としてニボーを伴う前房出血をC3眼(4.4%),術後C30CmmHg以上の一過性眼圧上昇をC4眼(5.8%),周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)をC5眼(7.3%)に認めた.結論:iStentCinjectWは術後C12カ月では有意な視力の向上,眼圧の下降,点眼スコアの減少を示し,挿入後の角膜内皮細胞への影響や合併症も少なく,安全性の高いデバイスである可能性が示唆された.CPurpose:Toevaluatethesurgicaloutcomesat12-monthsaftercombinediStentinjectW(Glaukos)implanta-tionCandCphacoemulsi.cationCforCtheCtreatmentCofprimaryCopen-angleCglaucoma(POAG)C.CMethods:InCthisCretro-spectivestudy,wereviewedthemedicalrecordsof68eyesof40POAGpatients(meanage:72.7C±6.0years)whounderwentcombinediStentinjectWimplantationandphacoemulsi.cationbythesamesurgeonfromApril2021toApril2022atOtsukaEyeClinicandwhocouldbefollowedupforatleast12-monthspostoperative.Visualacuity(VA),intraocularpressure(IOP)C,glaucomamedicationscores,cornealendothelialcell(CEC)density,andpostop-erativeCcomplicationsCwereCevaluated.CResults:CorrectedVA(logMAR)atCpriorCtoCsurgeryCandCatC1-andC12-monthsCpostoperative,Crespectively,CwasC0.16±0.17,C0.07±0.12,CandC.0.11±0.07,CthusCshowingCsigni.cantCimprovementCpostsurgery(p<0.0001)C.CBeforeCsurgeryCandCatC12-monthsCpostoperative,Crespectively,CmeanCIOPCwas15.8±3.0CmmHgand12.5±2.5CmmHg,thusshowingsigni.cantreductionpostsurgery,andthemeanglauco-maCmedicationCscoreCwasC1.2±0.6CandC0.1±0.4,CalsoCshowingCsigni.cantCreductionCpostsurgery(p<0.0001)C.CTheCmeanCCECCdensityCwasC2,697±338Ccells/mm2CatCbeforeCsurgery,C2,513±533Ccells/mm2CatC1-monthCpostoperative,CandC2,501±402Ccells/mm2CatC12-monthsCpostoperative,CthusCshowingCaCsigni.cantCdecreaseCatC1-andC12-monthsCpostoperativecomparedtoatbeforesurgery(p<0.001)butnosigni.cantdecreasebetweenat1-and12-monthspostoperative.Postoperativecomplicationsincludedanteriorchamberhemorrhagein3eyes(4.4%)C,transientIOPelevationCaboveC30CmmHgCinC4eyes(5.8%)C,CandCperipheralCanteriorCsynechiaeCinC5eyes(7.3%)C.CConclusions:CiStentinjectWimplantationandphacoemulsi.cationresultedinasigni.cantimprovementinVA,decreaseinIOP,anddecreaseofglaucomamedicationscorewithfewcomplicationsandminimallossofCECdensityat12-monthspostoperative,thisindicatingthatitisasafeande.ectiveprocedure.C〔別刷請求先〕半田壮:〒870-0852大分県大分市田中町C3-12-69大塚眼科医院Reprintrequests:SoHanda,M.D.,OtsukaEyeClinic,3-12-69Tanaka-machi,Oita-shi,Oita870-0852,JAPANC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(131)C1003〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(8):1003.1007,C2024〕Keywords:iStent,水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術,低侵襲緑内障手術,眼圧.iStent,combinetediStentinjectWimplantationandphacoemulsi.cation,minimallyinvasiveglaucomasurgery,intraocularpressure.CはじめにiStent(Glaukos社)は近年,急速に普及しつつある低侵襲緑内障手術(minimallyinvasiveglaucomasurgery:MIGS)で使用するデバイスの一つである.わが国ではC2016年にC1個挿入型の第一世代のCiStentが保険適用になり,2020年にはC2個挿入型のCiStentinjectWが使用可能となった.iStentinjectWはすでに海外で使用されていたCiStentinjectのフランジ部を幅広くし,視認性の向上させ,ステントが線維柱帯に深く埋もれないように改良されたものである.ステントを線維柱帯に垂直に打ち込んで挿入し,線維柱帯からCSch-lemm管までの房水流出抵抗の高い箇所をバイパスし眼圧下降を図る.適応は「白内障手術併用眼内ドレーン使用要件等基準」の第C2版1)を遵守する必要がある.大塚眼科(以下,当院)での適応基準は白内障を合併しているCmeandeviation(MD)値がC.6dB以下の初期の広義原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG)で,緑内障点眼を1剤以上使用しており,眼圧がC25CmmHg以下の患者としている.武川ら2)はCiStentCinjectWを用いた水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術と,水晶体再建術にマイクロフックを用いた線維柱帯切開術を併施した緑内障症例の術後C6カ月の成績と術後合併症を検討しており,両術式とも有意な眼圧下降を認め,重篤な合併症は認めなかったとしているが,現時点で筆者の知る限りCiStentinjectWの術後成績の報告は少ない.そこで筆者はCiStentinjectWを用いた水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術を施行した広義CPOAGの術後C12カ月の成績と有害事象について検討した.CI対象および方法2021年C4月.2022年C4月に当院で同一術者によりCiStentCinjectWを用いた水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術を施行し,12カ月以上の経過観察が可能であった広義CPOAG40例C68眼を対象とした.対象の半数以上が前医からすでに緑内障点眼を処方されており,無点眼時のベースライン眼圧が不明であったため,本研究では正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)と狭義CPOAGの病型分類はせず,対象はすべて広義CPOAGとして検討した.本研究は診療録から後ろ向きに検討した.緑内障点眼数の評価には単剤をC1点,配合剤をC2点としてその合計を点眼スコアとした.術後1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,12カ月の各時点での眼圧,点眼スコア,有害事象を,術後C1カ月とC12カ月で視力と角膜内皮細胞密度を評価した.生存率はCKaplan-Meier分析による生存解析を行い,エンドポイントはC2回連続で術前より眼圧が高値,または術後に緑内障点眼の再開と定義した.眼圧はCGoldmann圧平眼圧計での測定値を用いた.術前に使用した視野計はCHumphrey自動視野計(CarlCZeissCMeditec社)のCSwedishCInteractiveCThresholdingCAlgorithm-stan-dard(SITA)24-2を用いた.角膜内皮細胞密度の計測にはスペキュラーマイクロスコープCE530(ニデック)を用いた.統計解析にはCpairedt検定を使用し,p<0.05の場合に有意と判定した.本研究はヘルシンキ宣言に基づき,大塚眼科医院の倫理委員会の承認を得て行った.水晶体再建術は角膜切開で行った.眼内レンズ挿入後に粘弾性物質で前房を確保し,隅角鏡にて線維柱帯を確認後に耳上側の角膜サイドポート部より鼻下側方向の線維柱帯にCiStentCinjectWをC2個留置した.iStentCinjectWが適正な位置で留置されていることを確認し,前房内の洗浄を行った.0.4%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム注射液C2mgを結膜下注射し手術終了とした.術後点眼はC0.5%モキシフロキサシン塩酸塩をC1日C4回,0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムをC1日C4回,ブロムフェナクナトリウム水和物液をC1日C2回とし,適宜主治医(執刀医)の判断で中止した.緑内障点眼は術後に全例中止とし,適宜再開とした.CII結果対象となったのは男性がC17例C27眼,女性がC23例C41眼であった(表1).平均年齢はC72.7C±6.0歳,術前の平均矯正視力(logMAR)はC0.16C±0.17,平均CMD値は-3.7C±2.9CdBであり,対象はすべて初期の広義CPOAGであった.すべての患者が内眼手術やレーザー治療などの既往がなく,緑内障点眼をC1剤以上使用していた.術前の平均眼圧はC15.8C±3.0mmHgで術後C1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,12カ月の各時点の眼圧はそれぞれC12.8C±2.1CmmHg,11.6C±2.2CmmHg,C12.1±2.1CmmHg,12.3C±2.3CmmHg,12.5C±2.5mmHgであり,術前の眼圧と比較するとすべての時点で有意に眼圧下降を認めた(p<0.0001)(図1).術後C12カ月での眼圧下降率はC20.8%であった.点眼スコアは術前C1.2C±0.6で術後1カ月,3カ月,6カ月,9カ月,12カ月はそれぞれC0.2C±0.5,C0.3±0.6,0.1C±0.6,0.1C±0.6,0.1C±0.4ですべての時点で有表1症例背景1815.8症例数40例68眼C16年齢C72.7±6.0歳**眼圧(mmHg)14性別(男性/女性)17/23人術前視力(logMAR)C0.16±0.17C術前CMD値(SITA24-2)C.3.7±2.9CdB術前眼圧C15.8±3.0CmmHgC術前点眼スコアC1.2±0.6術前角膜内皮細胞密度C2,697±338Ccells/mm2C12108平均値±標準偏差C6術前1369121.6n=68n=68n=68n=68n=68n=681.41.2観察期間(カ月)1.2図1眼圧経過1.00.8眼圧は各時点で術前より有意な下降を得られた(p<0.0001C0.6*pairedt検定).点眼スコア****0.10800.40.2100術前136912n=68n=68n=68n=68n=68n=68観察期間(カ月)図2点眼スコア点眼スコアは各時点で術前より有意に減少していた(p<0.0001生存率(%)604020pairedt検定).意に点眼スコアの減少を認めた(p<0.0001)(図2).術後12カ月の点眼減少数はC1.1,減少率はC91.6%で,緑内障点眼をC1剤も使用していない症例はC88.2%であった.矯正視力(logMAR)は術前がC0.16C±0.17,術後C1カ月,12カ月でそれぞれC.0.07±0.12,C.0.11±0.07と術前より有意に向上していた(p<0.0001).術前の角膜内皮細胞密度はC2,697±338cells/mm2,術後1カ月で2,513C±533Ccells/Cmm2,術後C12カ月でC2,501C±402Ccells/mm2であり術前と比較するとそれぞれ有意に減少(p<0.001)を認めたが,術後1カ月と術後C12カ月の角膜内皮細胞密度の有意な減少は認めなかった(p=0.79).2回連続で術前眼圧より高値,または術後に緑内障点眼の再開をエンドポイントとした場合の生存率は,術後C12カ月でC88.2%であった(図3).明らかな術中の合併症は認めなかった.術翌日にニボーを形成する前房出血をC3眼(4.4%)で認めたが,すべてC1週間ほどの保存的な経過観察で消退した.30CmmHg以上の一過性高眼圧はC4眼(5.8%)に認めた.このうちC2眼は前房出血の症例で,術後数日で前房出血の消退とともに眼圧も下降した.残りのC2眼は術後のステロイド点眼を中止したところ速やかに眼圧下降を認めた.術後C1カ月の時点で周辺虹彩前癒0観察期間(カ月)図3生存率曲線Kaplan-Meier分析による生存率.エンドポイントはC2回連続で術前より眼圧が高値,または術後に緑内障点眼を再開したものとした.着(peripheralCanteriorsynechia:PAS)をC5眼(7.3%)に認めた.CIII考按今回の検討において対象はすべて初期の広義CPOAGであった.眼圧は各時点で有意に下降しており,術前C15.8mmHg,術後C12カ月でC12.5CmmHg(下降率C20.8%,p<0.0001)の下降を認めた.点眼スコアも各時点で有意に減少しており,術前C1.2,術後C12カ月でC0.1(減少率C91.6%,p<0.0001)の減少を認め,術後C12カ月で緑内障点眼をC1剤も使用していない症例の割合はC88.2%であった.現時点で筆者の知る限りCiStentinjectWの既報は少なく,CiStentinjectを用いた報告が多い.Shalabyら3)は,POAGにCiStentinjectを用いた水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入24681012術の検討で,術前眼圧がC15.6mmHg,術後C12カ月で14.0mmHg(眼圧下降率C10.0%,p=0.02)の下降を認め,点眼スコアは術前C1.9,術後C12カ月でC1.5(減少率C21%,p=0.02)減少したとしている.また,Salimiら4)はCNTGにCiStentinjectを用いた水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術の検討で,術前眼圧がC15.8mmHg,術後C12カ月でC12.3mmHg(下降率C22%,p<0.001)の下降を認め,点眼スコアは術前C1.5,術後C12カ月でC0.45(減少率C70%,p<0.001)減少したとしており,いずれも本研究と同様に眼圧下降および点眼スコアの減少を認めている.高齢になるにつれ緑内障の罹患率は上昇する.近年の高齢化に伴い緑内障患者の高齢化や認知症の増加が予想される.緑内障患者の点眼不成功の原因は加齢,視機能,身体・認知機能障害などが関連する5,6).また,緑内障点眼の本数が増えるほど点眼アドヒアランスは低下し7),点眼アドヒアランスが低下するほど視野の進行速度は速くなる8).本研究では術後C12カ月の時点で点眼減少数はC1.1であり,88.2%の症例で緑内障点眼を使用せずに経過している.緑内障点眼を一生涯継続することは高齢になるほど困難となる.白内障手術時に併用する本術式で得られる眼圧下降や緑内障点眼の減少は大きな利点と考える.本研究の術前の角膜内皮細胞密度はC2,697C±338Ccells/mm2であり,術後C1カ月と術後C12カ月はそれぞれC2,513C±533Ccells/mm2,2,501C±402Ccells/mm2で術前と比較すると両時点も有意に減少(p<0.001)を認めるも,術後C1カ月と術後12カ月では有意な減少を認めなかった.Ahmedら9)はCiStentinjectを用いた水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術群と水晶体再建術単独群との比較で,角膜内皮細胞密度は術後早期に両群とも内眼手術とほぼ同等の減少を認めるも,その後C60カ月にわたり両群の角膜内皮細胞密度の減少に有意差は認めなかったとしている.角膜内皮細胞密度の推移は今後も長期にわたり経過をみる必要がある.本研究の術後合併症としてニボーを形成する前房出血をC3眼(4.4%),30CmmHg以上の一過性高眼圧をC4眼(5.8%)に認めた.iStentinjectの術後合併症として,Angら10)は前房出血C1眼(3.3%),21mmHg以上の一過性眼圧上昇はC2眼(6.7%),Rhoら11)は前房出血C3眼(8.3%),25CmmHg以上の一過性眼圧上昇はC2眼(5.6%)としており,単純比較はできないが本研究とほぼ同様の報告をしている.他のCMIGSであるマイクロフックやCKahookCDualCBradeを使用した線維柱帯切開術とCiStentCinjectW,iStentCinjectとの比較では,いずれも術後の出血性合併症はCiStentinjectW,iStentinjectのほうが少なかった2,12).iStentCinjectCWやCiStentinjectは,線維柱帯を切開するCMIGSと異なり線維柱帯に垂直に挿入する操作なので,線維柱帯への侵襲が少なく術後の出血性合併症が少ないと考える.本研究では術後のCPASをC5眼(7.3%)に認めた.Popovicら13)はCiStentinjectを挿入後のCPASをC7.4%に認めたとしている.術後のCPAS形成には炎症細胞やフィブリンなどが関与している14)と考えられているが,Matsuoら15)はマイクロフックを用いた線維柱帯切開術眼内法後のCPAS形成について,線維柱帯切開に伴う房水流出が増大することで虹彩が線維柱帯に物理的に引き寄せられCPASを形成する可能性があるとしている.本研究の術後にCPASを形成した症例のうちC2眼は前房出血を生じた症例であった.これらの症例は炎症細胞や出血性のフィブリンなどでCPASが形成された可能性はあるが,他のC3眼はステント部の局所的な房水流出の増大による影響で,虹彩が物理的にステントに引き寄せられPASを形成した可能性がある.本研究のCPASを形成した症例のうち,留置したCiStentinjectWの双方にCPASを生じた症例はなく,いずれも術前より眼圧下降を認めているので隅角癒着解離術やレーザー隅角形成術などの追加処置はしていない.これらをふまえると,iStentCinjectW挿入術は白内障を合併している初期の広義CPOAG患者や,緑内障点眼の本数を減らしたい症例などに良い適応があると考えられ,術後の合併症は他のCMIGSより少なく,安全性が高いことが示唆される.ただし,本研究は日本人に多いとされるCNTGを含んだ病型の分類をしておらず,症例数も少なく観察期間が12カ月と短期であるので,今後も症例数を増やし長期的に検討する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)白内障手術併用眼内眼内ドレーン使用要件等基準(第C2版).日眼会誌124:441-443,C20202)武川修治,北原潤也,知久喜明ほか:白内障手術併用眼内ドレーン挿入術(iStentinjectW)とCMicrohook線維柱帯切開術の術後短期成績.臨眼C76:1387-1392,C20223)ShalabyCWS,CLamCSS,CArbabiCACetal:iStentCversusCiStentCinjectCimplantationCcombinedCwithCphacoemulsi-.cationinopenangleglaucoma.CIndianJOphthalmolC69:C2488-2495,C20214)SalimiCA,CClementCC,CShiuCMCetal:Second-generationCtrabecularmicro-bypass(iStentinject)withcataractsur-geryCinCeyesCwithCnormal-tensionglaucoma:OneCyearCoutcomesCofCaCmulti-centreCstudy.COphthalmolCTherC9:C585-596,C20205)TathamAJ,SarodiaU,GatradFetal:Eyedropinstilla-tionCtechniqueCinCpatientsCwithglaucoma.CEye(Lond)C27:1293-1298,C20136)KashiwagiCK,CMatsudaCY,CItoCYCetal:InvestigationCofCvisualCandCphysicalCfactorsCassociatedCwithCinadequateCinstillationCofCeyedropsCamongCpatientsCwithCglaucoma.CPLOSONEC16:1-13,C20217)DjafaniCF,CLeskCMR,CHarasymowyczCPJCetal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20098)Newman-CaseyCPA,CNiziolCLM,CGillespieCBWCetal:TheCAssociationCbetweenCMedicationCAdherenceCandCVisualCFieldCProgressionCinCtheCCollaborativeCInitialCGlaucomaCTreatmentStudy(CIGTS)C.OphthalmologyC127:477-483,C20209)AhmedCIIK,CSheybaniCA,CDeCFrancescoCTCetal:Long-termCendothelialCsafetyCpro.leCwithCiStentCinjectCinCpatientsCwithCopen-angleCglaucoma.CAmCJCOpthalmolC252:17-25,C202310)AngCBCH,CChiewCW,CYipCVCHCetal:ProspectiveC12-monthCoutcomesCofCcombinedCiStentCinjectCimplantationCandCphacoemulsi.cationCinCAsianCeyesCwithCnormalCten-sionglaucoma.EyeVis(Lond)C9:1-11,C202211)RhoS,LimSH:Clinicaloutcomeaftersecond-generationtrabecularCmicrobypassstents(iStentCinjectR)withCphacoemulsi.cationCinCKoreanCpatients.COphthalmolCTherC10:1105-1117,C202112)BarkanderCA,CEconomouCMA,CJohannessonCGCetal:Out-comesCofCiStentCinjectCvsCKahookCdualCbradeCsurgeryCinCglaucomapatientsundergoingcataractsurgery.CJGlauco-maC32:121-128,C202313)PopovicCM,CCampos-MollerCX,CSahebCHCetal:E.cacyCandCadverseCeventCpro.leCofCtheCiStentCandCiStentCinjectCtrabecularCmicro-bypassCforopen-angleCglaucoma:ACmeta-analysis.JCurrGlaucomaPractC12:67-84,C201814)RouhiainenCHJ,CTerasvirtaCME,CTuovinenCEJCetal:CPeripheralCanteriorCsynechiaeCformationCafterCtrabeculo-plasty.ArchOphthalmolC106:189-191,C198815)MatsuoCM,CInomataCY,CKozukiCNCetal:CharacterizationCofperipheralanteriorsynechiaeformationaftermicrohookCab-internotrabeculotomyusinga360-degreegonio-cam-era.ClinOphthalmolC15:1629-1638,C2021***

iStent inject W リカバリー器具の試用

2022年6月30日 木曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(6):818.822,2022ciStentinjectWリカバリー器具の試用安岡恵子多田憲太郎安岡一夫安岡眼科CClinicalTrialofiStentinjectWRecoveryDeviceKeikoYasuoka,KentaroTadaandKazuoYasuokaCYasuokaEyeClinicC目的:当院で考案したCiStentinjectW(以下,iStent)のリカバリー器具;iStentSaverの試用結果を報告する.対象および方法:対象はC2020年C10月.2021年C7月に安岡眼科でCiStentSaverを用いて脱落したCiStentを回収したC5症例.作製と使用方法は,22ゲージ静脈留置針の内針を抜き,カテーテルを約C12Cmmに切り,2.5Cmlのシリンジを装着する.耳側角膜創より前房へ挿入し,先端口を脱落したCiStentに近づけ,シリンジの内筒を引きCOVDとともに吸引し,眼外のCBSS入りの容器へ回収する.回収したCiStentは顕微鏡下でインジェクターに再装着し,線維柱帯に再度挿入する.結果:全例において安全に眼外への回収に成功した.結論:iStentSaverは有用なCiStentのリカバリー器具である.CPurpose:ToCinvestigateCtheCsafetyCandCe.cacyCofCusingCtheCiStentCSaverCdeviceCforCrecoveryCofCdislocatedCiStentCinjectCW.CTrabecularCMicro-BypassDevice(GlaukosCorporation).CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolved5eyesinwhichtheiStentSaverwasusedfortherecoveryofapreviouslyimplantedandsubsequentlydislocatedCiStentCinjectCWCatCYasuokaCEyeCClinic,CfromCOctoberC2020CtoCJulyC2021.CFirst,CtheCmetalCneedleCwasCremovedCfromCtheCouterCtube.CTheCtubeCwasCthenCcutCtoCaCcornealCdiameterCofCapproximatelyC12CmmCandCthenCattachedtoa2.5CmlCsyringe.Thetipofthetubewastheninsertedthroughthecornealincision,placedclosetothedislocatedCiStent,CandCsuctionCwasCapplied.CTheCtubeCwasCthenCremovedCandC.ushedCintoCanCexternalCcontainer.CNext,theinjectorreattachedunderamicroscopewiththeremovediStentinjectW,wasreinsertedintotheanteri-orchamberthroughthecornealincisionandre-implantedintotheSchlemm’scanal.Results:Inall5treatedeyes,thedislocatediStentinjectWwassafelyandsuccessfullyretrievedandre-implanted.Conclusion:TheiStentSav-erCwasfoundtobeasafeande.ectiverecoverydeviceforadislocatediStentinjectW.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(6):818.822,C2022〕Keywords:緑内障,低侵襲緑内障手術,白内障手術併用眼内ドレーン(iStentinject)挿入術,22CG静脈留置針.Cglaucoma,iStentinjectW,microinvasiveglaucomasurgery(MIGS),secondgenerationtrabecularmicro-bypassCstent,22CGintravenouscannula.CはじめにiStentCinjectw(グラウコス社)はC2本のステントを備えた,世界最小サイズ(360Cμm)の改良型金属デバイスである.低侵襲緑内障手術(microCinvasiveCglaucomasurgery:MIGS)のなかでもっとも侵襲が少ない手術として,近年その施行数は増加している.安岡眼科(以下,当院)でもC2020年C10月より使用を開始した.しかし,iStent挿入時に線維柱帯からはずれ前房隅角に浮遊した際に,極小サイズのために見失いやすく,また金属硬性のため,iStentの捕捉に難渋し眼内落下の危険を経験した.今回,筆者らは,不確実な眼内操作ではなく,22ゲージ(G)静脈留置針(セーフレットキャス,ニプロ製)とC2.5Cmlのシリンジを使用し,吸引でいったん眼外に回収したあとに顕微鏡下でCiStentのインジェクターに再装着し,線維柱帯に再挿入するためのリカバリー器具CiStentSaver(以下,iStentSaver)を考案し試用したので,その結果を報告する.本研究は高知大学より倫理審査不要との回答があり,手術後に全患者からCiStentSaverの使用と研究参加への同意を得ている.〔別刷請求先〕安岡恵子:〒780-0901高知市上町C2-2-9安岡眼科Reprintrequests:KeikoYasuokaM.D.,YasuokaEyeClinic,2-2-9Kamimachi,Kochi-city,Kochi780-0901,JAPANC818(122)図1iStentSaver作製方法a:22CG静脈留置針とC2.5Cmlシリンジ.b:金属針を抜去する.c:カテーテルを約C12Cmmに切る.丸枠内はカテーテルの先端の形状.d:2.5Cmlのシリンジに連結する.CI対象および方法対象はC2020年C10月.2021年C7月に,当院で施行したiStent挿入術C41症例C82ショットのうち,正しく線維柱帯に挿入できず,前房へ脱落したCiStentの回収にCiStentCSaverを使用したC5症例C5眼である.図1にCiStentSaverの作り方を示した.材料はC22CG静脈留置針とC2.5Cmlのシリンジ(図1a)で,22CG静脈留置針の金属内針を抜去し(図1b),テフロン性外筒チューブ(以下,カテーテル)を角膜径(whitetowhite)の約C12Cmmにカットして(図1c),2.5Cmlのシリンジに直接つなげる(図1d).図2に模型眼を用いて使用方法を示した.左手でヒル式オープンアクセス隅角鏡を角膜に置き隅角を視野に入れ,右手でCiStentSaverを耳側角膜切開創から挿入する.カテーテルの先端をCiStentに近づけ(図2a),シリンジの内筒を引き粘弾性物質(ophthalmicvisco-elasticdevice:OVD)とともにCiStentをシリンジ内腔へ吸引した後に(図2b),カテーテル部を角膜創から抜き,シリンジ内筒を押し,フラッシュしてCiStentをCBSS(balancedCsaltsolution)を入れた清潔容器に回収する.顕微鏡下でiStentをインジェクターに再装着したのち,再度前房内に入れて線維柱帯に再挿入する.図2cのごとく前房出血に見立てたインドシアニングリーン(indocyaninegreen:ICG)に紛れてCiStentが見えない場合は,血液とCOVDとともにiStentを吸引回収する(図2c).(123)II結果表1にCiStentSaverの使用結果を示した.5症例すべてにおいて,脱落したCiStentを損傷なくシリンジ内腔へ吸引し眼外へ回収できた(100%).また,前房に逆流出血がありiStentの視認性が悪い場合でも,吸引による前房の虚脱はなかった.症例C1は眼外のCBSS入り容器への回収に成功したが,インジェクターへ再装着をするときに,液体の中で跳ねて紛失し再挿入はできなかった.この症例は最初に留置したCiStent1個の設置で手術を終了した.それ以降,眼外に回収したCiStentをCLASIKで使用するスポンジドレーン(ChayetLASIKCEyeDrain,BeaverCVisitecinternational社製.以下,LASIKドレーン)の上に置き,顕微鏡下でCiStentのインレットにインジェクターのトロッカーを穿刺しCiStentを再装着する方法(図2d)に変更した.以後は症例C2.5の全症例においてインジェクターへの再装着に成功し,iStentの再挿入にも成功した.術後の角膜内皮細胞減少数は平均C243.4±154.5/mm2(9.4%)で,当院でCiStentSaverを使用しなかった同手術症例の平均C244.8±194.2(6.8%)と有意差はなかった(t-test).また,iStentSaverの使用症例において,角膜内皮機能障害による角膜混濁などの重篤な術後合併症は認められなかった.あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022819d図2iStentSaverの使用法(模型眼)とiStentの再装着方法a:カテーテルの先端をCiStentに近づける.Cb:カテーテル内へCiStent(.)を吸引.Cc:血液(ここではCICG)とともにiStent(.)を吸引する.Cd:iStentをドレーンの上に置いて,トロッカーで再装着する.表1iStentSaverの使用結果角膜内皮細胞症例番号iStent回収再装着/使用器具再挿入減少数/mmC2(%)1CSF/液体容器CF270(C10)C2CSS/LASIKドレーンCS425(C18)C3CSS/LASIKドレーンCS292(C10)C4CSS/LASIKドレーンCS230(9)C5CSS/LASIKドレーンCS0(0)III考按iStentCinjectWは,わが国ではC2019年に承認1)されたC2個のステントを有する,従来型のCiStentより強い眼圧下降効果が期待できる第二世代の世界最小サイズの眼内ドレーンデバイスである.すでに安全性や眼圧下降効果につき多くの良好な報告2.6)があり,MIGSのなかでもっとも侵襲が少ない手術として近年,施行数が増加している.一方,従来型iStentのサイズC1CmmのCL字型形状から,サイズC360Cμmに小型化し,形状も弾丸型に変わったため,前房内に脱落したS:success,F:failure.際に見失いやすく,かつ従来型CiStentの鑷子形状のインサーターや硝子体手術用の金属鑷子での把持は著しくむずかしくなった.当院では,2020年C10月からCiStentinject挿入術を開始したが,線維柱帯挿入に失敗した際に,前房内でインジェクターのトロッカーの先端での再装着や硝子体手術用の鑷子を使い,脱落したCiStentの再捕捉を試みた.しかし,金属性のCiStentを損傷する危険や,捕獲できず眼内落下や迷入などの重篤な合併症を起こしかねない事態を経験した.そこで筆者らは,不安定な眼内操作ではなく,脱落したiStentをいったん眼外に回収し,顕微鏡下でインジェクターに再装着する方法が安全ではないかと考えた.その材料として,サイズC360Cμmの金属製CiStentを傷めない柔らかい素材で,内腔C650Cμmの十分な大きさを有するC22CG静脈留置針の外筒チューブカテーテルに着目した.吸引回収する器具として片手で操作がしやすく,白内障手術のハイドロダイセクションで使い慣れているC2.5Cmlのシリンジを選択した.このカテーテルとシリンジを連結した試作品を用いて模型眼で実験(図2)をしたが,カテーテル部分が長過ぎてフロッピーとなり,眼内操作が不安定で困難であった.そこで,カテーテルを角膜径の約C12Cmmにカットして使用したところ,角膜創の通過や眼内での操作が著しく改善した.また,原型と同じ形状のベベル(図1cの枠内)を作らずに垂直にカットしたほうが,鋭な先端で隅角を損傷しないために安全であると考えている.実際の手術において使用したが,模型眼での検証結果と同様に,カテーテルチューブの先端がCiStentと離れていても,近づけてシリンジ内筒を引き吸引をかけるだけで(図2a)iStentが容易にカテーテル内を通過し,シリンジ内腔へ入った(図2b).この操作は片手操作となるため,使用前にシリンジ内筒を前後に動かし動きを滑らかにしておき,力を加減しながら,ゆっくりと内筒を引くことで急激な吸引過剰による前房虚脱が防止できる.静脈留置針のカテーテルは乳白色と透明帯が縦縞模様になっており(図1cの枠内),iStentが通過する様子が透けて確認でききて(図2b)非常に便利であった.また,前房出血に見立てたCICGをiStentに覆い被せた回収実験においても,カテーテルをCICG塊の手前に置き,シリンジ内筒をゆっくり引くと,iStentがICG,OVDとともにカテーテル内を通過し(図2c),シリンジ内へ回収された.カテーテルの内腔が大きくなれば,前房内が過剰吸引により前房虚脱のリスクが高くなるため,22CG静脈留置針のカテーテルがもっともCiStentの回収に適当であると考えている.症例C1はCBSS入りの容器へ回収できたが液体容器内でiStentが帯電したように逃げる動きをしインジェクターへのiStent再装着に失敗し紛失したため,2個目のCiStentの設置ができなかった.後日,眼科用吸水スポンジのCMQAを湿潤させて再装着を試したが,素材が固くトロッカーの先端を損傷したり,MQAの線維が混入してしまうため不適当と判断した.そこで,当院にはCLASIKの設備があるため,LASIKで角膜フラップ下に血液や異物の侵入防止目的で使用するLASIK用スポンジドレーンが柔らかく,線維がないので適当であると考えた.LASIKドレーンは,液体で濡れると柔らかいスポンジ状に膨潤するが,ドレーンの上でCiStentが浸水していると症例C1と同様に流動するので,表面に細かな凹凸ができる程度にCMQAで余分な水分を吸い取ると,トロッカーですくいやすいようにCiStentの向きを変える操作や再装着が確実となる(図2d).また,LASIKドレーンは単価約C290円で安価で入手しやすいうえに,1/2に切っても十分使用可能な大きさがあった.以上より,iStentの再装着にはCLASIKドレーンの使用が有用だと考えている.インジェクターは合計C4回まで発射できるが,インジェクターのトロッカーでCiStentを穿刺したあと,顕微鏡を高拡大にし,インサーションチューブのウィンドウから正しくCiStentが装.されていることを確認したあとにスリーブを被せることが非常に重要である.症例C4では,iStent挿入時に線維柱帯の穿刺部からの逆流出血により視認性が悪くなり,出血を移動させるためにOVDを注入したところ隅角離断を起こした.出血で線維柱帯の同定が困難な場合には,過剰なCOVD注入が隅角に強い圧をかけCSchlemm管を損傷するリスクが高くなるため,まずCiStentSaverで隅角部の出血を吸引除去してから,OVDを置換注入するほうが安全である.今回,iStentSaver使用による角膜内皮障害は認められなかった.外筒カテーテルは滅菌済みで材質はエチレンテトラフルオロエチレンであるので,前房内挿入は問題がないと思われる.過去にも静脈留置針を使用した眼内手術の報告7,8)があるが,安全性についての検証はされておらず,目的以外の使用になる点に留意したい.現在CiStent挿入術は,水晶体再建手術と同時手術のみ健康保険の算定が可能である.そのためCiStentが挿入ができずに白内障単独手術に変更になった場合,その後CiStent挿入術は緑内障手術式として選択できなくなる.患者背景や緑内障病期などを考慮し,従来型のCiStentかCiStentinjectWかの使用選択を術前に十分検討しておくことが重要である.CiStentSaverの有用性をまとめると,1)医療施設で常備している既製品のシリンジ(単価:約C30円)と静脈留置針(単価:約C130円)を使用するため安価,2)静脈留置針のカテーテルをカットしてシリンジに連結するだけの簡便性,3)iStentを傷めずに眼外へ回収できる安全性,4)前房出血の吸引で,線維柱帯の視認性回復にも使用可能,のC4点があげられる.以上より,iStentSaverはCiStentCinjectWのリカバリーに有用な器具である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)白内障手術併用眼内ドレーン会議:白内障手術併用眼内ドレーン使用要件基準(第2版).日眼会誌C124:441-443,C20202)GonnermannJ,BertelmannE,PahlitzschMetal:Contra-lateralCeyeCcomparisonCstudyCinCMICSC&MIGS:Trabec-tomeRCvs.CiStentCinjectR.GraefesCArchCClinCExpCOphthal-molC255:359-365,C20173)HengererCFH,CAu.arthCGU,CRi.elCCCetal:Prospective,Cnon-randomized,C36-monthCstudyCofCsecond-generationCtrabecularCmicro-bypassCstentsCwithCphacoemulsi.cationCineyeswithvarioustypesofglaucoma.OphthalmolTherC7:405-415,C20184)PopovicCM,CCampos-MollerCX,CSahebCHCetal:E.cacyCandCadverseCeventCpro.leCofCtheCiStentCandCiStentCinjectCtrabecularCmicro-bypassCforopen-angleCglaucoma:ACmeta-analysis.JCurrGlaucomaPractC12:67-84,C20185)ManningD:Real-worldCcaseCseriesCofCiStentCorCiStentCinjecttrabecularmicro-bypassstentscombinedwithcata-ractsurgery.OphthalmolTherC8:549-561,C20196)LindstromR,SarkisianSR,LewisR:Four-yearoutcomesofCtwoCsecond-generationCtrabecularCmicro-bypassCstentsCinCpatientsCwithCopen-angleCglaucomaConConeCmedication.CClinOphthalmolC14:71-80,C20207)濱島紅,佐藤孝樹,家久来啓吾ほか:サーフロー外筒を用いた対面通糸法による虹彩離断整復.眼科手術C26:117-120,C20138)上本利世,水木信久:市販の静脈留置針を使用したC27CGシャンデリアイルミネーション挿入法.眼臨紀C2:1084-1085,C2009C***

ダイアモンドダストスイーパーを使用した流出路再建術(Gonio Scrub)

2020年8月31日 月曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(8):1003.1007,2020cダイアモンドダストスイーパーを使用した流出路再建術(GonioScrub)横山光伸*1木内良明*2徳毛花菜*2三好輝行*3吉田博則*3*1レチナクリニック横山眼科*2広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学*3三好眼科CGonioScrub─ANewTrabeculotomyMethodUsingaDiamondDustSweeperMitsunobuYokoyama1),YoshiakiKiuchi2),KanaTokumo2),TeruyukiMiyoshi3)andHironoriYoshida3)1)YokoyamaRetinaClinic,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity,3)MiyoshiEyeClinicC目的:ダイアモンドダストスイーパーC23CG(DORC製)を使用した流出路再建術(GonioScrub)を行ったC3例を報告する.対象および方法:開放隅角緑内障C1眼,落屑緑内障C1眼,ステロイド緑内障C1眼に白内障手術を併用してCGonioScrubを行い,12カ月間経過観察を行った.GonioScrubとはダイアモンドダストスイーパーで線維柱帯の表面の付着物質を擦過,除去して房水流出抵抗を軽減する方法である.結果:術後C12カ月で眼圧は開放隅角緑内障眼で26CmmHgからC14CmmHgに下降した.落屑緑内障眼はC18CmmHgからC14CmmHgに下降した.ステロイド緑内障眼は30CmmHgからC15CmmHgに下降した.結論:GonioScrubはCSchlemm管を切開しないで眼圧を下降させる流出路再建術となる可能性がある.CPurpose:ToCreportC3CcasesCofCaqueous-out.ow-tractreconstruction(GonioScrub)usingCaC25-guageCdia-mond-dustsweeper(D.O.R.C.International)C.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC1Copen-angleCglaucoma(OAG)eye,C1CexfoliationCglaucomaCeye,CandC1CsteroidCglaucomaCeyeCthatCunderwentCGonioScrub(aCmethodCofCreducingtheresistancetoout.owofaqueoushumorbyscrubbingtheadheringsubstancesonthesurfaceoftheSchlemm’sCcanalCwithCaCdiamond-dustsweeper)combinedCwithCcataractCsurgery,CandCthatCwereCfollowedCforC12-monthsCpostoperative.CResults:AtC12-monthsCpostoperative,Cintraocularpressure(IOP)hadCdroppedCfromC26CmmHgCtoC14CmmHgCinCtheCOAGCeye,CfromC18CmmHgCtoC14CmmHgCinCtheCexfoliationCglaucomaCeye,CandCfromC30CmmHgCtoC15CmmHgCinCtheCsteroidCglaucomaCeye.CConclusion:GonioCScrubCmayCbeCanCe.ectiveCnewCaqueous-out.ow-tractreconstructionprocedureforthedecreaseofIOPwithoutSchlemm’s-canalincision.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(8):1003.1007,C2020〕Keywords:低侵襲緑内障手術,線維柱帯,ダイアモンドダストスイーパー.minimallyinvasiveglaucomasur-gery,trabecularmeshwork,diamonddustsweeper.Cはじめに開放隅角緑内障は線維柱帯の房水流出抵抗が増大して,眼圧が上昇する病態である.病的な線維柱帯の房水流出抵抗を軽減する術式としてトラベクロトミーがある.近年,緑内障手術は侵襲の少ない低侵襲緑内障手術(minimallyinvasiveglaucomasurgery:MIGS)が注目を浴びている.MIGSとはCTrabectome1)をはじめCsutureCtrabeculotomyCabCinter-no2),KahookCDualCBlade3),Micro-hookCtrabeculotomy4),Ci-Stent5)など前房から線維柱帯にアプローチする術式の総称である.これらは眼球外に強膜弁を作り,Schlemm管にアプローチする旧来のCtrabeculotomyと同様に,Schlemm管への流出抵抗を減弱させる操作を前房から行うことで眼圧下降効果を期待する術式である.MIGSは結膜・強膜を切開することなく角膜サイドポートから器具を挿入し,隅角鏡で観察することにより直接線維柱帯に操作する術式である.すべての術式において線維柱帯を穿孔するため,Schlemm管から前房内に血液が逆流し,術後に一過性の眼圧上昇をきたす恐れがある.しかも手術範囲の線維柱帯は破壊されてしま〔別刷請求先〕横山光伸:〒730-0053広島市中区東千田町C1-1-53hitoto広島ナレッジスクエアC1Fレチナクリニック横山眼科Reprintrequests:MitsunobuYokoyama,YokoyamaRetinaClinic,hitotoHiroshimaKnowledgeSquare1F,1-1-53Higashisenda-machi,Naka-ku,Hiroshima730-0053,JAPANC図1先端を10mmほど120°に曲げたダイアモンドダストスイーパー図3実際の術中写真う.今回,筆者らは線維柱帯の構造を温存し,線維柱帯を穿孔せずに前房側に付着した物質を擦って取り除くだけでも房水流出抵抗が軽減し眼圧下降が得られるのではないかと考えた.この術式をCGonioScrub(GS)と命名し白内障手術を併用してC3例に行った.術後C12カ月間の経過観察を行いC3例とも良好な眼圧下降が得られたので報告する.CI術式GSを白内障手術(超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術)と併用して行った.使用する器具はダイアモンドダストスイーパー(23G,DORC製)で,操作しやすいよう先端からC10mmほどの位置で約C120°に折り曲げておく(図1).これを白内障手術の前.切開後,白内障手術時に作製した角膜サイドポートから前房内に挿入する.粘弾性物質を角膜上に置き,隅角鏡(森ゴニオトミーレンズ:図2)を当てて隅角を観察する.ダイアモンドダストスイーパーの先端で線維柱帯の色素帯の前房側を軽くC5回ほど擦過して線維柱帯前房側の付着物を除去する(図3).手術範囲は線維柱帯の約C1/3(120°)図2森式ゴニオトミーレンズによる隅角の観察図4手術範囲角膜サイドポートよりダイアモンドダストスイーパーを挿入し,対側の線維柱帯をC120°(1/3)の範囲でC5.6回ほど擦って付着物を除去する.に行う(図4).その後は通常どおりの白内障手術を行い,眼内レンズを挿入し粘弾性物質を除去して手術を終える.CII症例〔症例1〕60歳,男性.両眼開放隅角緑内障.主訴:右眼がなんとなく見えづらい.家族歴:特記すべきことなし.既往歴:2008年に右眼の網膜赤道部変性に対してレーザー光凝固治療を,左眼は網膜.離のために白内障+硝子体手術を行った.現病歴:眼圧が高いため現在は両眼にタフルプロスト点眼治療中である.術前所見:VD0.05(0.7C×.7.0D(.0.5DAx70°),VS0.06(1.2pC×.5.0D).眼圧は右眼26mmHg,左眼C18mmHg.両眼の角膜は透明で前房深度は正常であった.右眼は皮質白内障があり左眼は眼内レンズ挿入眼であった.眼底は両眼にレーザー光凝固斑がみられた.左眼は網膜.離手術後であった.右眼の隅角所見で虹彩癒着はなく色素沈着はCGrade4(図5)であった.2018年C4月C23日に右眼に白内障手術とCGSを行った.手術翌日は眼内レンズの固定はよく,前房深度は正常で出血はなかったが,眼圧がC32CmmHgに上昇していたため前房穿刺を行った.5日目には眼圧はC18CmmHgに下がり,6カ月目図5症例1の術前隅角写真Grade4の色素沈着がみられる.図7症例2の術前隅角写真Grade3の色素沈着がみられる.にはC14CmmHgとなり術前より継続していたタフルプロスト点眼治療を中止した.12カ月後の視力はC0.1(1.2C×.4.0D(.0.5DAx90°),眼圧は14mmHgであった.隅角の色素沈着はCGrade2(図6)で,周辺虹彩癒着はなかった.〔症例2〕68歳,男性.右眼落屑緑内障.主訴:右眼の視力低下.家族歴:特記すべきことなし.既往歴:平成C14年から右眼緑内障.現病歴:平成C18年より右眼に緑内障点眼治療を開始した.現在はラタノプロスト+チモロールマレイン酸塩配合薬を点眼治療中である.術前所見:VD=0.2(0.8C×.2.75D(.0.5DAx75°),VS=0.4(0.9C×.4.0D(.1.75DCAx173°),眼圧は右眼C18mmHg,左眼C14CmmHgであった.両眼の角膜は透明で前房深度は正常.右眼は中等度の皮質白内障,左眼は軽度の皮質白内障であった.両眼の瞳孔縁に偽落屑がみられた.右眼の隅角所見で虹彩癒着はなく,色素沈着はCGrade3(図7)であった.図6症例1の術後の隅角写真色素沈着はCGrade2に軽減している.図8症例2の術後隅角写真色素沈着はCGrade2に軽減している.2018年C5月C16日に右眼に白内障手術とCGSを行った.手術翌日は眼内レンズの固定はよく,前房深度は正常で出血はなかった.12カ月後はCVD=0.1(1.0C×.2.0D(.1.5DAx70°),眼圧はC14mmHgであった.隅角の色素沈着はGrade2(図8)で,周辺虹彩癒着はなかった.点眼は術前と変わりなかった.〔症例3〕66歳,男性.両眼開放隅角緑内障(ステロイド緑内障).主訴:急激な右眼の眼圧上昇と視力低下.家族歴:特記すべきことなし.既往歴:13歳からネフローゼ症候群があり,現在は隔日でプレドニン(5mg)をC1.25錠内服中である.現病歴:平成C24年から眼圧が高くなり緑内障点眼治療を開始した.現在はタフルプロスト+チモロールマレイン酸塩合薬,ブリモニジン,リパスジル,ブリンゾラミド点眼,アセタゾラミドC2錠内服中である.術前所見:眼圧上昇前はCVD=0.04(1.2C×.8.0D(.0.75CDAx90°),VS=0.03(0.2C×.5.5D(.1.0DAx110°).手図9症例3の術前隅角写真Grade2の色素沈着がみられる.術直前の眼圧は右眼C30CmmHg,左眼C18CmmHg.右眼の角膜には浮腫がみられ前房深度は正常.両眼に軽度の皮質白内障があった.右眼の隅角所見で虹彩癒着はなく色素沈着はGrade2(図9)であった.2018年C5月C30日に右眼に白内障手術とCGSを行った.手術翌日は眼内レンズの固定はよく前房深度は正常で出血はなかった.手術の翌日より緑内障点眼,内服をすべて中止したためC2週間は眼圧がC30CmmHgであったが,タフルプロスト+チモロールマレイン酸塩配合薬,ブリモニジン,リパスジル,ブリンゾラミド点眼を再開後はC12CmmHgに下降した.経過途中で点眼薬をビマトプロスト,リパスジル,ブリンゾラミド+チモロールマレイン酸塩配合薬に変更した.12カ月後の視力はCVD=0.05(0.6C×.2.75D(.1.0DAx95°),眼圧は15mmHgであった.隅角の色素沈着はGrade2(図10)で,周辺虹彩癒着はなかった.CIII考按MIGSの一手技としてダイアモンドダストスイーパーで線維柱帯前房側を擦過して線維柱帯前房側の付着物を除去するGSという新しい術式を白内障手術と併用してC3眼に行い,12カ月の経過観察期間後ですべての症例で眼圧下降が得られた.落屑緑内障ではその眼圧上昇機序として線維柱帯にプロテオグリカンなどの落屑物質が沈着するからという報告がある6).開放隅角緑内障ではCjuxtacanaliculartissueにグリコサミノグリカンであるコンドロイチン硫酸が増えているという報告がある7).ステロイド緑内障では基底膜に似た物質が蓄積していることが報告されている8).筆者らは,線維柱帯の前房側に付着したこれらの物質を除去することで線維柱帯の流出抵抗を減らし眼圧を下降できるのではないかと考えた.1995年にCJacobiらがCTrabecularAspirationという術図10症例3の術後隅角写真色素沈着はCGrade2である.式を報告している9).Irrigation-aspirationdeviceを使って落屑緑内障の線維柱帯に付着した物質を吸引除去するといった方法であった.眼圧下降効果はあったようだが,不確実性のためか現在も行っているという報告はない.筆者らは,さらに確実にこの物質を除去するための器具として,硝子体手術で使用していたダイアモンドダストスイーパーに注目した.これはC1997年にCTanoら10)が硝子体手術中に網膜上膜を除去するために開発したものである.これを使用すると網膜に傷をつけることなく,通常の方法では除去が不可能な薄い網膜上膜や硝子体皮質を除去できる.今回,開放隅角緑内障C1眼,落屑緑内障C1眼,ステロイド緑内障C1眼の合計C3眼にCGSを行った.眼圧はすべての症例で術後C1年間持続して下降した.開放隅角緑内障眼に行った白内障手術で全体のC48%の症例にC20%以上の眼圧下降が得られたとCSamuelsonらが報告しており11),3例とも白内障手術を併用しているためCGS純粋の眼圧下降値はもう少し少ないと思われる.現在,報告されている種々のCMIGSの結果と比較してみる.2006年のCMincklerら1)のCTrabecutomeの報告はC30カ月の経過観察期間で術前平均眼圧C27.6CmmHgからC40.9%の眼圧下降が得られていた.2015年のCSatoら2)のC360°Csuturetrabecurotomyabinternoの報告ではC6カ月で術前平均眼圧C19.4CmmHgからC28.9%の眼圧下降が得られていた.2009年のCSpiegelら5)の白内障手術を併用したi-Stentの報告では,12カ月の経過観察期間で術前平均眼圧21.7CmmHgからC19.8%の眼圧下降が得られていた.2017年のCTanitoら4)のCmicrohookの報告では約C6カ月の経過観察期間で術前平均眼圧C25.9CmmHgからC43.2%の眼圧下降が得られていた.2017年のCGreenwoodら3)の白内障手術を併用したCKahookDualBladeの報告ではC6カ月の経過観察期間で術前平均眼圧C17.4CmmHgからC26.4%の眼圧下降が得られていた.今回のCGSの結果は,症例C1では術前府眼圧C26CmmHgから手術C1年後にC14CmmHgとなりC50.0%の眼圧下降が得られている.緑内障治療薬点数はC1からC0に減った.症例C2では術前眼圧C18CmmHgから手術C1年後にC14CmmHgとなり眼圧下降はC22.2%で点数はC2からC2と不変であった.症例C3では術前眼圧C30CmmHgから手術C1年後にC15CmmHgとなり眼圧下降はC53.3%で点数はC9からC3であった.いずれの症例も前房出血の合併症はなく,他のCMIGSの報告と比較しても十分な眼圧下降効果が得られていると思われる.症例C1で術翌日に一過性の眼圧上昇がみられたが,手術直後は緑内障点眼ができないことと白内障手術で使用する粘弾性物質が残存していたためと推測している.GSは線維柱帯を切開しない術式のため,十分な眼圧下降が得られなくても追加手術として線維柱帯を切開する術式が可能である.さらにCGSは結膜を切開しないCMIGSであるため,他のCMIGSと同様に眼圧下降効果が少ない場合の追加手術となる濾過手術には影響を及ぼさない.このような結果を踏まえて考えると,GSという術式は観血的緑内障手術のなかで,最初に行ってよい術式になる可能性を秘めていると考える.症例数が少なく経過観察期間が短いため有効性はまだ不明であるが.GSという術式が確立するためには,白内障手術併用だけでなくCGS単独手術の眼圧下降効果も調査する必要がある.今後はより多くの症例にCGSを行い,さまざまな緑内障タイプでの比較検討と眼圧下降効果の統計学的分析,さらに長期予後を調べていく必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MincklerCD,CBaerveldtCG,CRamirezCMACetal:ClinicalresultswithTrabectome,anovelsurgicaldevicefortreat-mentofopen-angleglaucoma.TransAmOphthalmolSocC104:40-50,C20062)SatoCT,CMizoguchiT:Prospective,Cnoncomparative,Cnon-randomizedCcaseCstudyCofCshort-termCoutcomesCofC360°CsutureCtrabeculotomyCabCinternoCinCpatientsCwithCopen-angleglaucoma.ClinOphthalmolC9:63-68,C20153)GreenwoodCMD,CSeiboldCLK,CRadcli.eCNMCetal:Gonioto-myCwithCaCsingle-useCdualblade:Short-termCresults.CJCataractRefractSurgC43:1197-1201,C20174)TanitoCM,CSanoCI,CIkedaCYCetal:Short-termCresultsCofCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomy,CaCnovelCminimallyCinvasiveCglaucomaCsurgeryCinCJapaneseeyes:initialCcaseCseries.ActaOphthalmolC95:354-360,C20175)SpiegelD,WetzelW,NeuhannTetal:Coexistentprima-ryopen-angleglaucomaandcataract:interimanalysisofaCtrabecularCmicro-bypassCstentCandCconcurrentCcataractCsurgery.EurJOphthalmolC19:393-399,C20096)Schlotzer-SchrehardtCU,CDor.erCS,CNaumannGO:Immu-nohistochemicalClocalizationCofCbasementCmembraneCcom-ponentsCinCpseudoexfoliationCmaterialCofCtheClensCcapsule.CCurrEyeResC11:343-345,C19927)KnepperPA,GoossensW,PalmbergPF:Glycosaminogly-canCstrati.cationCofCtheCjuxtacanalicularCtissueCinCnormalCandprimaryopen-angleglaucoma.InvestOphthalmolVisSciC37:2412-2425,C19968)JohnsonD,GottankaJ,Ho.mannFetal:Ultrastructuralchangesinthetrabecularmeshworkofhumaneyestreat-edCwithCcorticosteroids.CArchCOphthalmolC115:375-383,C19979)JacobiPC,KrieglsteinGK:TrabecularAspiration.Anewmodetotreatpseudoexfoliationglaucoma.InvestOphthal-molVisSciC36:2270-2276,C199510)LewisJM,ParkI,OhjiMetal:Diamond-dustedcannulaforCepiretinalCmembraneCseparationCduringCvitreousCsur-gery.AmJOphtalmolC124:552-554,C199711)SamuelsonCTW,CKatzCLJ,CWellsCJMCetal:RandomizedCevaluationCofCtheCtrabecularCmicro-bypassCstentCwithCphacoemulsi.cationCinCpatientsCwithCglaucomaCandCcata-ract.OphthalmologyC118:459-467,C2011***

緑内障手術既往眼に対するSuture Trabeculotomy眼内法の成績

2020年7月31日 金曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(7):865.868,2020c緑内障手術既往眼に対するSutureTrabeculotomy眼内法の成績小林聡*1稲村幹夫*1鍵谷雅彦*1田岡梨奈*2猪飼央子*1*1稲村眼科クリニック*2地域医療機能推進機構横浜保土ヶ谷中央病院眼科COutcomesofSutureTrabeculotomyAbInternoinEyeswithPriorIncisionalGlaucomaSurgerySatoshiKobayashi1),MikioInamura1),MasahikoKagiya1),RinaTaoka2)andNakakoIkai1)1)Inamuraeyeclinic,2)DepartmentofOphthalmology,YokohamaHodogayaCentralHospital,JapanCommunityHealthCareOrganizationC目的:緑内障手術既往眼に対するCsuturetrabeculotomy眼内法(s-lot)の成績について報告する.対象および方法:s-lotを施行し,3カ月以上経過観察が可能であった緑内障手術既往眼C19例C19眼を対象とした.既往術式の内訳は流出路再建術がC7眼,チューブシャントを含む濾過手術がC12眼であった.平均年齢はC75.7C±11.6歳,平均観察期間はC8.0C±3.7カ月であった.眼圧,生存率,薬剤スコア,合併症について後ろ向きに検討した.累積成功率は眼圧が5CmmHg以上C21・18・15CmmHg以下を成功基準と定義した.結果:平均眼圧は術前C23.3C±5.8CmmHg,術後C12カ月C13.5±1.4CmmHgと有意に下降した.術後C12カ月での累積生存率は基準眼圧がC21,18,15CmmHgでそれぞれC100%,89.4%,84.2%であった.平均薬剤スコアは術前C4.5C±0.86,術後C12カ月C3.2C±1.7と有意に減少した.術後に前房出血がC9眼,30CmmHg以上の眼圧上昇がC9眼にみられたが,いずれも自然経過または薬物治療で改善した.結論:s-lotは緑内障手術既往眼に対して有用な術式と考えられる.CPurpose:Toinvestigatethesurgicaloutcomesofsuturetrabeculotomy(S-LOT)abinternoineyeswithpriorincisionalglaucomasurgery.Methods:Thisretrospectivestudyinvolved19eyesof19caseswithpriorincisionalglaucomasurgerythatunderwenttheS-LOTprocedure.Ofthe19eyes,7hadpreviouslyundergonetrabeculoto-myand12hadpreviouslyundergone.ltrationsurgery.Inallcases,intraocularpressure(IOP)C,cumulativesurviv-alrate,numberofglaucomamedications,andsurgicalcomplicationswereexamined.Surgerywasjudgedasasuc-cessCwhenCIOPCwasCkeptCbetweenC5CandC21/18/15CmmHg.CResults:TheCmeanCIOPCsigni.cantlyCdecreasedCfromC23.3±5.8CmmHgCbeforeCsurgeryCtoC13.5±1.4CmmHgCatC12-monthsCpostoperative.CTheCmeanCnumberCofCglaucomaCmedicationswassigni.cantlyreducedfrom4.5±0.86beforesurgeryto3.2±1.7at12-monthspostoperative.ThecumulativeCsurvivalCratesCwereC100,C89.4,Cand84.2%CatCtheCIOPCofC21,C18,CandC15CmmHgCorCless,Crespectively,CatC12-monthspostoperative.Hyphemawasseenin9eyes,andanIOPelevationof30CmmHgormorewasseenin9eyes.Conclusion:S-LOTabinternoineyeswithpriorincisionalglaucomasurgerywasfoundtobeane.ectiveprocedure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(7):865.868,C2020〕Keywords:suturetrabeculotomy眼内法,s-lot,低侵襲緑内障手術,MIGS,緑内障手術既往眼.suturetrabecu-lotomyabinterno,s-lot,minimallyinvasiveglaucomasurgery,priorglaucomasurgery.CはじめにをCSchlemm管内に挿入することによって全周の線維柱帯をCSuturetrabeculotomy眼内法(s-lot)は緑内障に対する流切開しCSchlemm管を開放することができる.従来の線維柱出路再建術に用いられる新しい手法であり,5-0ナイロン糸帯切開術に比較して,広範囲に線維柱帯を切開することがで〔別刷請求先〕小林聡:〒231-0045横浜市中区伊勢佐木町C5-125稲村眼科クリニックReprintrequests:SatoshiKobayashi,M.D.,Inamuraeyeclinic,5-125Isezaki-cho,Naka-ku,Yokohama,Kanagawa231-0045,CJAPANCきる点で有用である可能性がある.本術式は角膜切開のみで施行することができ,いわゆるCminimallyCinvasiveCglauco-masurgery(MIGS)とよばれる低侵襲緑内障手術の一つである.2014年に初めて報告があり1),その後も多数の臨床成績の報告がなされており日本でも広く行われている2,3).緑内障手術既往眼に対する報告は海外から良好な結果が報告がされているが4),現在のところ日本での報告はない.そこで今回筆者らは緑内障手術既往眼に対するCs-lotの手術成績を報告し有効性,安全性を検討した.CI対象および方法対象はC2016年C11月.2019年C3月に地域医療機能推進機構・横浜保土ヶ谷中央病院および稲村眼科クリニックにおいてCs-lotを用いて緑内障流出路再建術を施行し,3カ月以上経過観察が可能であったC19例C19眼である.男性C8眼,女性C11眼,平均年齢はC74.2C±13.2歳(42.87歳),平均観察期間はC7.0C±3.8カ月(3.12カ月)であった.疾患の内訳は広義原発開放隅角緑内障C9眼(47.4%),落屑緑内障C7眼(36.8%),原発閉塞隅角緑内障C2眼(10.5%),外傷性緑内障1眼(5.3%)であった.既往術式の内訳は緑内障濾過手術に分類される手術が合計C15眼(78.9%)で,線維柱帯切除術C5眼(26.3%),エクスプレスC7眼(36.8%),濾過胞再建術(ニードリングを除く)2眼(10.5%),チューブシャント手術C1眼(5.3%)であった.緑内障流出路再建術に分類される手術が合計C8眼(42.1%)で,線維柱帯切開術(眼外法)2眼(10.5%),トラベクトームC3眼(15.8%),Kahookdualblade1眼(5.3%),隅角癒着解離術C2眼(10.5%)であった.複数回の既往がある症例がC4眼(21.1%)であった.手術による結膜瘢痕が残る症例はC15眼(78.9%)であった.手術はすべて同一術者により施行された.手術方法は耳側角膜切開を作製し,粘弾性物質にて前房形成したあとに頭部を患眼と対側へ傾斜する.隅角鏡を乗せ鼻側の線維柱帯を確認し,23ゲージ鋭針にて鼻側線維柱帯を一部切開し,そこからC5-0ナイロン糸をCSchlemm管内に挿入する.1周して対側から現れたナイロン糸の先端を把持して,対側の糸を引くことによって線維柱帯を全周切開する.挿入途中でナイロン糸が止まった場合はその範囲までの切開を行い,続いて対側から再度ナイロン糸を挿入して可能な限り広範囲を切開するように試みた.その後前房洗浄を行い,創口閉鎖を確認した.創口は全例無縫合で自己閉鎖とした.白内障同時手術を施行する場合は,そのあとに同一創口で施行した.白内障同時手術を行った症例はC5眼(26.3%)で,単独手術のうち眼内レンズ挿入眼がC13眼(68.4%),有水晶体眼がC1眼(5.3%)であった.眼圧,手術成功率,術後合併症,視力,点眼スコアについて後ろ向きに検討を行った.眼圧,視力,点眼スコアの推移についてはCDunnetttestを用いて評価した.手術成功率は,眼圧がC5CmmHg以上C21,18,15CmmHg以下,かつ眼圧下降率C20%以上を成功基準として,術後C1カ月以上経過してからC2回連続で基準を超えた場合,緑内障手術を追加した場合,光覚を喪失した場合を死亡と定義しCKaplan-Meierの生命曲線およびCLogranktestを用いて評価した.視力に関して指数弁はC0.005,眼前手動弁はC0.003,光覚弁はC0.001と換算し,小数視力をClogMAR視力へ変換したうえで解析を行った.点眼スコアは眼圧下降薬の点眼薬C1種類につきC1点,アセタゾラミド内服の併用はC1錠につきC1点,配合剤点眼薬はC1成分ごとにC1点とした.術後合併症としての角膜内皮細胞への影響は,術前,術後に角膜中央部で測定した角膜内皮細胞密度を用いて検討した.本研究はヘルシンキ宣言に則り,検査データを研究,教育目的のために利用する可能性について事前に文書にてインフォームド・コンセントを得ていた症例を対象とし,当施設の倫理委員会での承認のもとに行った.CII結果平均切開範囲はC325.3C±50.3°,360°切開することができた症例がC10眼(52.6%),180°以上C360°未満がC9眼(47.4%),180°未満の症例はいなかった.術前術後の眼圧の推移と生存曲線と薬剤スコアの推移について図1.3に示す.平均眼圧は術前C23.3C±5.8mmHg,術後C12カ月C13.5C±1.4CmmHgと有意な下降がみられた(p<0.05).累積生存率は術後C12カ月の時点での基準眼圧をC5CmmHg以上C21,18,15CmmHg以下としたときにそれぞれC100%,89.4%,84.2%であった.死亡原因はいずれも眼圧の成功基準の上限をC2回連続で超えたものであり,再手術を要した症例や光覚を消失した症例はいなかった.平均ClogMAR視力は術前C0.04C±0.22,術後C12カ月C0.0C±0.17と有意差はみられなかった.平均薬剤スコアは術前C4.5C±0.86,術後C12カ月C3.2C±1.7と有意な下降がみられた(p<0.01).既往術式により濾過手術と流出路再建術のC2群に分類して比較すると術前平均眼圧がそれぞれC22.3C±4.5CmmHg,23.2C±5.0mmHg,術後C12カ月の平均眼圧はそれぞれC12.7C±0.5CmmHg,14.5C±1.5mmHgで有意差はなかった.また,累積生存率は術後C12カ月の時点で基準をC5CmmHg以下C15mmHg以上としたときに,それぞれC91.7%,71.4%で有意差はなかった(図4).合併症については,前房出血がC9眼(47.4%),30CmmHgを超える一過性眼圧上昇がC9眼(47.4%)にみられたが,追加処置や手術を要する症例はなかった.周辺虹彩前癒着が術前よりC30°以上広がった症例が2眼(10.5%)であった.術前,術後C12カ月の平均角膜内皮細胞密度はそれぞれC2177.5C±463.7,2255.3C±563.5Ccells/mm2と有意差はなく,30%以1.003530**********0.80スコア眼圧(mmHg)累積生存率累積生存率0.600.401050.200術前1D1W2W1M2M3M6M12M0.00n=19n=19n=19n=19n=19n=19n=18n=13n=6観察期間図1眼圧の推移図2累積生存率Dunnetttest*:p<0.05,**:p<0.01.Kaplan-Meierの生存曲線.02468101214観察期間(M)1.000.804320.600.400.20図3薬剤スコアの推移Dunnetttest*:p<0.01.上の減少を認めた症例はなかった.CIII考按一般的に線維柱帯切除術やチューブシャント手術などの濾過手術や従来の線維柱帯切開術(眼外法)は結膜への侵襲を伴い術後に結膜瘢痕を残すことが多く,緑内障手術を追加する場合に術式の選択に苦慮することがある.MIGSは角膜切開のみで施行できるものがほとんどで,結膜や強膜の状態は手術適応に影響を及ぼさない.当術式もCMIGSの一種であり,結膜瘢痕を伴う症例に対する緑内障手術の術式選択に有利である.実際に本研究の対象で結膜瘢痕を伴う症例はC15眼(78.9%)であったが,問題なく施行することができた.追加手術の作用機序を既往術式別に考察すると,流出路再建術についてはCChinらによってCs-lot眼外法におけるCSch-lemm管開放の範囲と眼圧下降幅の相関が報告されており5),今回の流出路再建術既往眼に対する効果は切開範囲の拡大が寄与していると考えられる.切開範囲と眼圧下降効果の関係の有無についてはさまざまな報告があるが5,6),筆者らは広0.00図4術式別の累積生存率Kaplan-Meierの生存曲線,Logranktestp=0.28.範囲の切開が眼圧下降に寄与すると考えている.その理由として,短期的には広範囲の切開により多くの集合管が開放されること,長期的には術後に切開部への虹彩の陥頓により周辺虹彩前癒着を生じた場合に切開範囲が広ければ影響が限定されるためと考えている.濾過手術に関してはCJohnsonらにより濾過手術後には主流出路への房水流出が減少してCSchlemm管が縮小し集合管以降の機能が低下すると報告されており7),Schlemm管を介した房水流出の改善を機序とする流出路再建に分類される本術式は効果が低いと予想されたが,結果は逆であった.今回の濾過手術既往眼に対する効果は縮小したCSchlemm管や集合管以降の主流出路が再度機能しうることを示唆している.症例数が少ないために有意差は出なかったが,術式別の比較ではむしろ濾過手術既往眼のほうが成績の良い傾向があった.流出路再建術で効果が不十分であった症例の原因は集合管以降の主流出路の機能低下に起因している可能性があり,その場合にはCs-lotによる線維柱帯の切開は範囲の拡大によらず効果が期待できなかったとも考えられる.流出路再建術術前1M3M6M12Mn=19n=19n=18n=13n=6観察期間02468101214観察期間(月)の不成功例のなかには一定数そのような症例が存在すると考えられているが予測は困難である.既報では既往術式によらず有効であったと報告されているが4),本研究は症例数が少ないために十分な評価ができず,今後の課題としたい.以上,緑内障手術既往眼に対するCs-lotの手術成績について評価を行った.良好な成績と安全性を示すことができ,有効な治療法と考えることができる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GroverDS,GodfreyDG,SmithOetal:Gonioscopy-assist-edCtransluminalCtrabeculotomy,CabCinternoCtrabeculoto-my:techniqueCreportCandCpreliminaryCresults.COphthal-mologyC121:855-861,C20142)SatoT,KawajiT,HirataAetal:360-degreesuturetra-beculotomyCabCinternoCtoCtreatCopen-angleglaucoma:2-yearoutcomes.ClinOphthalmol17;C12:915-923,C20183)GroverDS,SmithO,FellmanRLetal:Gonioscopy-assist-edtransluminaltrabeculotomy:Anabinternocircumfer-entialtrabeculotomy:24CmonthsCfollow-up.CJCGlaucomaC27:393-401,C20184)GroverDS,GodfreyDG,SmithOetal:Outcomesofgoni-oscopy-assistedCtransluminaltrabeculotomy(GATT)inCeyesCwithCpriorCincisionalCglaucomaCsurgery.CJCGlaucomaC26:41-45,C20175)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodi.ed360-degreesuturetrabeculoto-mytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglau-coma:apilotstudy.JGlaucomaC21:401-407,C20126)ManabeCS,CSawaguchiCS,CHayashiCKCetal:TheCe.ectCofCtheCextentCofCtheCincisionCinCtheCSchlemmCcanalConCtheCsurgicaloutcomesofsuturetrabeculotomyforopen-angleglaucoma.JpnJOphthalmolC61:99-104,C20177)JohnsonCDH,CMatsumotoY:SchlemmC’sCcanalCbecomesCsmallerCafterCsuccessfulC.ltrationCsurgery.CArchCOphthal-molC118:1251-1256,C2000***